スパークス・新・国際優良アジア株ファンド | 投資信託 | スパークス・アセット・マネジメント

スパークス・新・国際優良アジア株ファンド
(愛称:アジア厳選投資)

  • NISA成長投資枠対象ファンド
日経新聞掲載名
アジア厳選
分類
追加型投信/海外/株式
設定日
決算日
毎年5月25日

基準日:2024.03.29

基準価額
13,530
前日比
+106
+0.79%
純資産総額
4.5億円
分配金情報(税引前)
0
  • 当ファンドは、NISAの「成長投資枠(特定非課税管理勘定)」の対象ですが、販売会社により取扱いが異なる場合があります。詳しくは、販売会社にお問い合わせください。

基準価額推移

分配金実績

決算頻度:1回/年

設定来合計
0
直近12期計
0

分配金実績一覧

2023年05月25日
0
2022年05月25日
0
2021年05月25日
0
2020年05月25日
0
2019年05月27日
0
2018年05月25日
0

月次報告書

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

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2024年2月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は力強く反発しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、中国、韓国、台湾などに牽引される形で前⽉末⽐5.62%上昇しました。中国市場が堅調に推移したのは、マクロデータが市場予想を上回ったことや、旧正月の国内観光収入がコロナ禍前の水準を上回ったことなどによるものでした。バリュエーションの割安感と政府系ファンドによる買い支えも、中国株式市場の底打ちに対する信頼感の増大要因となりました。
 韓国では、政府が「企業価値向上プログラム」を導入し、PBR(株価純資産倍率)の低い企業に対策を講じるよう促したことを受けて、株式市場が上昇しました。同プログラムは日本で東京証券取引所などが進める市場改革と同様、企業経営陣にコーポレートガバナンス、ROE(株主資本利益率)、株主還元の改善を促すことで、企業のバリュエーション向上を狙ったものです。
 また、当月はインドネシアで大統領選挙が行われました。過半数の票を獲得する候補がなく、6月に2回目の投票が実施されると予想されていましたが、世論調査機関4社の集計によると、プラボウォ・スビアント氏が初回投票で約58%の票を獲得し、過半数に到達して当選を確実にしました。新政権の正式発足は10月ですが、短期的には現行の政策方針に大きな変更はないというのが大半の投資家の見方です。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、金融セクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、素材セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、ICICI Lombard General Insurance(インド/保険)、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。一方で、China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)、SATS(シンガポール/運輸)、Aptus Value Housing Finance India(インド/金融サービス)などがマイナスに影響しました。

 前述の通り、当月はインドネシアで大統領選挙が行われ、現国防相のプラボウォ氏が勝利宣言を行いました。プラボウォ新政権では現大統領ジョコ・ウィドド氏の長男、ギブラン・ラカブミン氏が副大統領に就任し、現行の政策路線が継続する見通しです。選挙期間中、プラボウォ氏はジョコ政権の川下移行政策を継続するという公約を掲げましたが、この政策には輸出禁止措置と税制優遇措置を駆使して外資を誘致し、インドネシアを工業大国とEV(電気自動車)大国に変貌させるという狙いがあります。選挙結果が速やかに出たことは表面的にみるとインドネシアにとっては好ましい兆候なのでしょうが、プラボウォ氏がインドネシアの独裁主義的な過去と関わりをもっていることから、同氏の政権下で民主主義が損なわれるのではないかという疑問も完全に拭い去ることはできません。

 また、当月はKOSPI(韓国総合株価指数)が5.82%上昇しましたが、そのきっかけとなったのはFSC(韓国金融委員会)が226日に発表した「企業価値向上プログラム」でした。FSCは日本のコーポレートガバナンス改革が成功したことから、コリアディスカウントの縮小と企業価値の向上を包括的目的として、(1) 市場の透明性、(2) 市場へのアクセス性、(3) 株主保護の改善を目指した基本ガイドラインを発表しました。KOSPI構成企業の約3分の2PBR(株価純資産倍率)1倍を下回っていることを考えると、改善余地はかなり大きいと言えるでしょう。ガイドラインは2024年上半期に確定され、配当の増額、株式持合の解消、自己株式の消却など、企業価値向上のインセンティブとなる具体的施策が盛り込まれる予定です。

Hyundai Motor Company(韓国/自動車・自動車部品)

 前述のFSCによる改革の恩恵を受ける可能性が高いとされているのが、世界的に過小評価されていると考えられる大手自動車メーカーのひとつ、Hyundai Motor Companyです。同社のPBRは当月末時点で0.6倍、PER(株価収益率)は同5.1倍で、バリュエーション面で米国やEUの同業他社を一貫して下回っています。
 企業価値向上の取り組みを抜きにしても、同社のファンダメンタルズが改善していることを踏まえると、株価には上昇余地があると考えます。同社は過去5年間で売上と利益を伸ばしており、主として米国におけるxEV(電動車)とSUV(スポーツ用多目的車)の納車増加からくる平均販売価格(ASP)の上昇により、当年度の増収が見込めるとしています。また、2023年に開催された「CEOインベスター・デイ」で、同社はEVの世界生産台数を2023年の8%から2030年に34%まで増やすことを明らかにしました。
 同社は従前より株主還元方針の強化に乗り出していました。2023年は配当方針を大幅に変更し、これまで準拠してきた財務活動以外によるフリーキャッシュフローの3050%ではなく、配当性向25%という方針を打ち出しました。余剰資金のうちどの程度を設備投資に回すかは自由裁量で決められることから、フリーキャッシュフローは一般的に変動幅が大きいため、この配当方針の変更によって、インカムゲインを求める投資家にとっては今後の分配に対する信頼感が増したと考えます。
経営陣が取り組んだもうひとつの問題は、自己株式の消却でした。過去に買い戻された株式は消却されず、株主にとって何のメリットもありませんでした。そこで同社は今後3年間、既存の自己株式を毎年1%ずつ消却し、EPS1株当たり純利益)の即時拡大を実現するという計画を発表しました。
 しかし同社が企業価値向上のためにできることは、これ以外にもまだあると考えます。延世大学の李南雨教授が代表を務める非営利団体、韓国コーポレートガバナンスフォーラムは、20242月にFSC会長に宛てた公開書簡の中で、同社、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、LG Chem社(韓国)、KB Financial社(韓国)を引き合いに出し、価値向上が可能な事例数件について概要を述べました。同社については、(1) 優先株の全数消却、(2) 三成洞の新社屋用地売却、(3) Hyundai Engineering and Construction社の株式のうち21%KT Corporation社の株式のうち5%の売却、(4) 配当の引き上げ(配当性向25%から3050%へ)という4つの対策が考えられるとしました。韓国の優先株は流動性が低く、議決権を伴わないため、普通株よりかなり割安で取引されることがよくありますが、配当額は同じであることから、配当利回りはかなり高くなります。この優先株の買戻しと消却という一連の対策で、年間配当は7,000億ウォン節約され、BPS1株あたり純資産)は30%上昇することになります。 
 最後に、同社のインド子会社が202411月に上場し、評価額最大300億米ドルで少なくとも30億米ドルの調達する予定だという報道がこのところ話題になっています。同社自体の時価総額が約400億米ドルに過ぎないことを考えれば、この上場は株主にとって大きな意味を持つことになります。Hyundai Motors India社は販売台数でMaruti Suzuki社(インド、スズキの子会社)に次ぐ国内第2位の乗用車メーカーです。
 ファンダメンタルズが改善していること、価値向上を掲げた改革が進んでいること、インド子会社にIPO(株式公開)の可能性があること、バリュエーションが世界の同業他社と比べて低いことを踏まえ、当ファンドは当月、同社の組み入れを開始しました。

2024年1月の運用コメント

株式市場の状況

 アジア株式市場は軟調な値動きで年明けを迎えました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐5.44%下落しました。中国政府が⾦融緩和や景気刺激策などで政策的⽀援を⾏ったにもかかわらず、中国市場と⾹港市場に対する投資家⼼理は冷え込んだままでした。国内要因(不動産危機、消費低迷、⼀貫性のない規制)と国外要因(中国に対する⽶国の規制強化、紅海の海運混乱など)が、中国に対する投資意欲をさらに減退させました。
 ⼀⽅、台湾では、AI(⼈⼯知能)投資の加速とスマートフォン回復への期待から、テクノロジーセクターが好調な勢いを維持しました。台湾総選挙は想定内の結果で決着し、現政権を担う⺠主進歩党(⺠進党)が総統選を制した⼀⽅で、野党の台湾国⺠党(国⺠党)が議席を伸ばしました。また、第三党の台湾⺠衆党(⺠衆党)は獲得議席数こそ少ないものの、今後数年間の政策の⽅向性を左右しうる新たな政治勢⼒として台頭しました。
 インドは強⼒な政府、若年層⼈⼝の多さ、⻑期的成⻑⼒といった⽀援材料に恵まれ、引き続き投資対象として投資家の注⽬を集めています。インドネシア市場では消費⽀出に若⼲陰りが⾒られ、とりわけ低価格帯商品にその傾向が⾊濃く表れました。同国では間もなく⼤統領選挙が⾏われる予定で、次期政権発⾜まで⼀時的に投資家の関⼼が向かなくなる可能性があると考えます。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、⾦融セクター、⽣活必需品セクターなどがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、ヘルスケアセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Mitra Adiperkasa(インドネシア/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)、Bank Mandiri(インドネシア/⾦融)、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、Polycab India(インド/資本財)、China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。

E Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)

 E Ink Holdings(以下E Ink)は、電気泳動式技術(ePaper based on Electrophoretic technology)の開発、及び電⼦ペーパーパネルを供給するメーカーです。新型コロナウイルスの⼤流⾏による労働⼒不⾜を背景に根強い需要が⽣まれた2022年を経て、2023年はE Inkにとって正常化に向かう年となりました。同社の株価はSES-Imagotag社(フランス、E Inkの⼤⼝顧客)を標的とした空売りの影響で振れ幅が拡⼤し、電⼦棚札(ESL︓Electronic Shelf Label)の在庫増加も短期的に投資家⼼理の⾜枷となりました。様々な情報が⾶び交っていますが、ESLの普及はまだ初期段階であり、今後、⻑期的なトレンドになるのは間違いないと当ファンドでは考えます。
 SES-Imagotag社は2023年6⽉、同社のVUSIONプラットフォーム(電⼦棚札やIoTデバイスを追跡、監視、管理できるリテールIoT管理ソリューション)を今後12〜18ヵ⽉間で500店舗に導⼊することでWalmart社(⽶国)と合意したと発表しました。Walmart社はプレスリリースの中で、「店内で棚札の価格表⽰を変更する作業には⼤変時間が掛かり、店員の苦労は計り知れません。そこで当社はこの作業を電⼦的に⾏えるデジタルソリューションを探していました。」と述べています。
 ESLの普及が⻑期的に続くと考えられるのは、①コストが節減でき、②O2O(Online to Offline、オンラインからオフラインへ購買⾏動を促すマーケティングの⼿法)が⾏うことができ、③ESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組めるという3つの点からです。欧州のスーパーマーケットでは、労働⽣産性の観点からESLへの移⾏を推進してきました。スーパーマーケットが率先してESLに移⾏したのは、⾼頻度で値札を変更する必要があるためです。スーパーマーケットの多くは未だに紙の値札を使⽤し、週に数回⼿作業で交換を⾏っています。仮に値札を変えるのに20秒かかるとして、従来型のスーパーマーケットの商品点数を約30,000点と想定した場合、週に⼀度全ての値札を変えるだけで約165時間かかります。これを1年間に換算すると、値札の変更に費やす時間は8,500時間以上になります。⽶国Walmart社の最低賃⾦は、店舗によって異なりますが、時給14⽶ドルから19⽶ドルです。つまり、値札の変更にかかる年間⽀出は⼈件費だけでも119,000⽶ドル以上になります。⼀⽅、⼀般的なESLの費⽤は、サイズや表⽰能⼒にもよりますが、5〜15⽶ドルです。スーパーマーケットの平均商品点数を30,000点とすると、紙の値札をすべてESLに置き換えるのにかかる費⽤は150,000〜450,000⽶ドル、ESLのバッテリー寿命は⼀般に3年以上なので、スーパーマーケットはESLへの移⾏によって相応のメリットを享受できることになります。さらには、ESLは店内の価格表⽰をリアルタイムで変えられるので、スーパーマーケットはタイムセールを⾏って在庫の回転を促し、⽣鮮⾷品を売り切ることができます。また、ESLに移⾏することで、価格表⽰の誤りや値札紛失のリスクも軽減します。また広告を表⽰することもできるので、スーパーマーケットにとっては新たな収⼊源になり得ます。今後、ESLのコストが低下し、賃⾦が上昇すれば、ESLの普及が数年内に加速するのは間違いないと考えます。
 コストの削減だけではスーパーマーケットを説得できなくても、O2Oという機能が加わることで、ESLの受注はかなり容易になるはずです。現⾏のESLソリューションには、⼀般的にワイヤレスでクラウドに接続できるソフトウェアがインストールされています。そのため、オンラインを含む店舗ネットワーク全体で価格と在庫を⼀元管理することができます。ESLに組み込まれたセンサーとLEDライトには、商品の補充が必要になったことを従業員に知らせる機能があり、さらにオンラインで受注された商品を棚から取り出す作業の所要時間を短縮する効果もあります。将来的には消費者が店頭で商品を探し出すのが今よりずっと簡単になるでしょう。
 最後に、世界では「ESG」と「サステナビリティ(持続可能性)」が注⽬のキーワードとなっており、上場企業の多くがエネルギーの節約、再⽣可能エネルギーへのシフト、廃棄物の削減など、積極的なESG⽬標を掲げています。例えばWalmart社は、2040年までに世界全体で温室効果ガス排出量ネットゼロを達成すること、2035年までに再⽣可能エネルギーで電⼒を100%賄うことを必達⽬標として掲げています。ESLへの移⾏は、Walmart社がこうした⽬標を達成する上で⼤きな⼒となるでしょう。E Inkのサステナビリティレポートによると、過去7年間に全世界で設置された3インチ型ESLは6億個に上ります。価格変更を1⽇4回⾏うと想定すると、⼆酸化炭素排出量を紙の値札の32,000分の1に削減することができます。このような必達⽬標を掲げているのはWalmart社だけではありません。Kroger社(⽶国)やAlbertsons社(⽶国)といった他の⼤⼿スーパーマーケットも同様の⽬標を掲げています。紙の使⽤量を減らすことで節約できる⽊の数は⾔うまでもありませんが、消費電⼒が少ないというESLの特性も考えれば、ESLは今後を占うパズルの重要なピースになると当ファンドは考えています。

2023年12月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は中国を除いて概ね堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐3.55%上昇しました。中国市場のリターンはマイナスとなりましたが、これは中国経済の成⻑に関する懸念が拭えないためと考えます。⽉後半に中国でオンラインゲームに関する包括的な規制案が公表されたことを受け、今後こうした規制が消費者の⾏動全体に及ぶのではないかという懸念が投資家の間に広がり、その影響はオンラインゲーム関連のセクターに留まらず幅広い分野に及びました。
 中国以外のアジア株式市場は、インフレと⾦利の圧⼒が緩和したことで、前⽉以上に好調に推移しました。インド市場は当⽉、企業のファンダメンタルズの底堅さ、安定政権、⻑期的な構造的成⻑のポテンシャルが好材料とみなされて市場への資⾦流⼊が続き、史上最⾼値を更新しました。
 台湾市場は⽣成AI(⼈⼯知能)に対する期待感の⾼まり、スマートフォンの需要回復、データセンターの成⻑によって半導体セクターが堅調に推移したことで、2023年通年ではまずまずのパフォーマンスをみせました。
 ASEAN各国市場は、国内経済の成⻑と「チャイナ・プラス・ワン(中国のみに⼯場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠点を展開すること)」関連の投資に⽀えられ、底堅く推移しました。インドネシアでは2023年、海外直接投資(FDI)が増加、とりわけ鉱物セクターの川下にあたる製造業でその傾向が顕著にみられました。またマレーシアでも⽶国企業や中国企業を含む⼤⼿グローバル企業から半導体産業に対するFDI増加の動きが継続しました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、不動産セクター、情報技術セクターがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、⼀般消費財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Swire Pacific(⾹港/不動産管理・開発)、E Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、APL Apollo Tubes(インド/素材)などがマイナスに影響しました。
 中国では不動産市場の縮⼩、規制⾯の制約、政策の不透明性、⽶中間の緊張の継続によって景気が冷え込み、当⽉中にロングオンリーのアクティブ運⽤会社から38億⽶ドルもの資⾦が流出しました。これは1ヵ⽉としては過去3番⽬に⼤きい流出額です。消費者物価指数(CPI)は2023年10⽉から低下に転じ、デフレの脅威が現実のものとなりつつあります。2023年第4四半期の中国主要38都市の平均給与は前年同期⽐1.3%減と、3四半期連続の減少となり、2016年以来最⼤の減少となりました。賃⾦の低下と景気の先⾏き不透明感から、消費者はさらに⽀出を控えるようになり、需要減退と物価下落の悪循環に陥る可能性があります。⼀⽅、インドでは当⽉中に約80億⽶ドルのFPI(外国証券投資)が流⼊し、Nifty50指数が前⽉末⽐約7%上昇しました。

2023年の振り返り

 当ファンドの2023年のリターンは前年⽐17.23%の上昇となり、ベンチマークの同13.62%の上昇を上回りました。国別では、中華圏(当ファンドにおける2023年12⽉現在の国別構成⽐率約33%)、インド(同約27%)、インドネシア(同約21%)、韓国(同約5%)が⼤幅にアウトパフォームしました。これらの国は当ファンドの保有銘柄の80%強を占めるまでになっています。
 HSCEI(ハンセン中国企業株指数、⾹港ドルベース)は世界的に最もパフォーマンスがふるわなかった市場の⼀つで、2023年には約14%下落となりました。こうした状況にもかかわらず、当ファンドはChina State Construction Development、NWSHoldings(⾹港/資本財)などの銘柄の⼒強いリターンにより中華圏でプラスのリターンを上げることができました。インドは中国からの資⾦流出の受け⽫となったことで、Nifty50指数が通年で⼤きく上昇しました。また、TWSE(台湾加権指数)とKOSPI(韓国総合株価指数)は、AI(⼈⼯知能)関連と半導体関連銘柄の急騰が追い⾵となり、⼤きく上昇しました。
 当ファンドのパフォーマンスが⽐較的堅調だったのは、「バーベル式投資⼿法」にその⼀因があります。この⼿法は、投資先候補を成⻑⼒の順に並べ、最も成⻑⼒の低い側で⾼利回り銘柄を、最も成⻑⼒の⾼い側で優良GARP銘柄(成⻑性と割安性を兼備すると考えられる銘柄)を選定して組み⼊れるというものです。こうした企業群は成⻑プロファイルがそれぞれ異なるかもしれませんが、両側で対象銘柄を選定する⽬的は、15%以上の株主総利回りを創出できる投資対象を探し出すことにあります。この⼿法を採⽤した理由は⼆つあり、⼀つ⽬は安定した配当収⼊源を確保し、時間の経過とともに新たな⾮対称の機会が⽣じたときに再投資できるようにすること、⼆つ⽬は低成⻑の⾼利回り銘柄はデュレーションが短いのが⼀般的なので、ポートフォリオ全体のボラティリティを軽減できると考えられることです。

価値実現を⽬指すオポチュニティ銘柄群

 2023年に当ファンドのパフォーマンスに貢献した銘柄に、NWS HoldingsとSwire Pacificがあります。両銘柄については2022年10⽉と2023年7⽉の⽉次報告書でそれぞれ取り上げました。いずれも低成⻑で⾼利回りの銘柄ですが、⼤きくマイナスとなった中国の指数を尻⽬に、プラスのリターンを⽣み出しました。
 NWS Holdingsは⾹港を拠点とする総合インフラ企業で、道路、建設、⽣命保険、施設管理、物流、ヘルスケアなどの事業を展開しています。当ファンドが同社を組み⼊れた時点では、同社の配当利回りは約9%で、主要事業部⾨はすべて回復基調にありました。有料道路と建設事業の回復はコロナ対策が緩和されたこと、施設管理、病院、物流事業の回復は、中国本⼟から⾹港への移動や国際的移動が復活したことによるものでした。成⻑率が正常な状態に戻ると5〜10%になり、持続可能な配当利回りを約10%と仮定すれば、15%以上の株主総利回りを実現することは可能であると当ファンドは考えました。しかし残念なことに、組み⼊れから8ヵ⽉後の6⽉に、NWS Holdingsの親会社であるChow Tai Fook Enterprises社(⾹港)が同社株を1株当たり9.15⾹港ドルで公開買い付けすると発表し、11⽉に買い付けが完了しました。当ファンドは同社の組み⼊れによって相応の利益を得ることができましたが、⾼利回りを持続できる銘柄はそうそうあるものではないことから、今回のような⾮上場化は当ファンドが定期的に新たな再投資先を探し出さなければならないことを意味します。幸いなことに、当ファンドは興味深い投資先候補を数銘柄把握しており、同社と同等かそれ以上のリターンを⽣み出せるのではないかと考えています。
 Swire Pacificは当ファンドが2022年10⽉から組み⼊れている銘柄で、やはり⾹港のコングロマリットです。同社は不動産(Swire Properties)、ボトリング(Swire Coca-Cola)、航空(Cathay Pacific、HAECO)、貿易(SwireResources、Taikoo Motors、Swire Foods、Swire Environment Services)といった事業を展開しており、株式は組み⼊れ時点で純資産価値(NAV)に対して約45%の⼤幅ディスカウントで取引されていました(10年間の平均ディスカウントは25%)。⾹港と中国本⼟の住宅・商⽤不動産市場の低迷により、同社の株価は2023年上半期も引き続き圧⼒にさらされました。しかし⾹港発の国際線が徐々に再開され、Cathay Pacificの搭乗率も順次改善していることから、当ファンドは2023年下期には同社が⿊字に転換し、親会社の収益を⼤幅に押し上げると予想しました。
 同社経営陣はディスカウント幅が拡⼤したことから、株主価値を⾼めるための対策を複数発表しました。⼀つ⽬はSwire PacificがSwire Coca-Cola USA(⽶国飲料事業)の持分すべてを39億⽶ドルで親会社のSwire & Sonsに売却するというもので、2023年6⽉に発表されました。株価は当初好転しましたが、その後まもなく再び下落基調に陥り、12⽉前半にはディスカウント幅が純資産価値から⼤幅に拡⼤しました。これを好機と⾒た同社の経営陣は2023年12⽉に60億⾹港ドル(時価総額の9%程度)の⾃社株買い計画を発表しました。同計画は2023年12⽉から2025年5⽉にかけて実施される予定です。⾃社株買いはバリュエーションの基本的な⽀えにはなりますが、当ファンドは同社収益が順次改善し、2024年はディスカウント幅が縮⼩していくのではないかと考えています。

優良GARP銘柄群

 成⻑⼒の⾼い優良銘柄群の中で当ファンドのリターンに貢献したのは、China State Construction DevelopmentHoldings、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Polycab India(インド/資本財)などで、引き続きファンドの主要組⼊銘柄となっています。当ファンドがこの銘柄群の中で探しているのは、ビジネスモデルと訴求価値がわかりやすく、⻑期的成⻑の原動⼒を持ち、環境が正常な状態であれば投下資本利益率が⾼いと考えられる企業です。そのような企業を選定する上で重要なのは、事業の経緯、創業者や会社のミッション、ビジョン、さらに訴求価値やビジネスモデルが経時的にどう進化してきたかを理解することです。
 投資プロセスにおいて振り返りは重要であり、失敗例から学ぶこともそうしたプロセスの⼀部です。そうした⾯で、2023年最⼤のマイナス要因となったのはBOE Varitronix(⾹港/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)で、コストが主な要因となって株価は⼤きく下落しました。同社は世界最⼤級の⾞載ディスプレイメーカーで、BOE Technology Group社(中国、世界最⼤級のTFT液晶(ガラス基板上に薄い膜状の微細なトランジスタを規則正しく並べたもの)パネルメーカー)の強⼒な⽀援を受けていることから、同社は⾞載ディスプレイパネルの⻑期的成⻑の波に乗るというのが当ファンドの考えでした。
 ⾃動⾞の台数は世界的にみると飽和状態に達していますが、⾃動⾞の電動化とデジタル化が進むと、ディスプレイの⼤型化とマルチディスプレイの採⽤が促進されることになります。それが事実であることはデータからも明らかで、乗⽤⾞1台当たりのディスプレイ数は2015年の1.5台から2020年には2.1台に増加しており、2025年には2.8台に達すると予想されています。これはディスプレイの種類の多様化によるもので、ディスプレイの平均サイズも拡⼤しています。同社の技術とスケールメリットに由来するコストの優位性を踏まえると、市場統合の主体的存在になるというのが当ファンドの考えでした。
 想定外だったのは2023年に売上⾼が急減し、成⻑率が約8%にまで落ち込んだことです。さらに意外だったのは、⾃動⾞OEM(他社ブランドの製品を製造する企業)からの値下げ圧⼒によって営業利益率が4.6%に低下し、純利益が同期間に⼤きく減少したことです。ディスプレイ業界は毎年価格低下に直⾯するのが⼀般的ですが、⼤型ディスプレイや⾼精細ディスプレイといった新製品の発売によって相殺され、利益率にそれほど影響は及ばないというのが当ファンドの想定でした。2023年末までにフル稼働すると予想されていた新設備の⽴ち上げが遅れていることから株価はPER(株価収益率)9倍程度の⽔準にまで低下していますが、当ファンドは利益率圧縮の兆しが⾒えた時点で同銘柄を売却しました。
 当ファンドが利益率に関する想定を誤ったのは確かですが、市場の反応は過剰で、同社の⻑期的な収益ポテンシャルについてはまだ議論の余地があると考えます。2023年8⽉に⾏われた最新の業績発表で、同社経営陣は2025年度の⽬標売上⾼200億⾹港ドルという計画を据え置きました。これは売上⾼の50%を海外から上げることで、3年間で年平均23%伸⻑することを⽰唆しており、市場シェア拡⼤の重要性を改めて浮き彫りにするものです。同社は巨⼤な市場規模を誇る国内⾞載ディスプレイシステム市場への参⼊も⽬指しています。次回の決算で注⽬すべき点は、競争の激しさと利益率の⽔準でしょう。事態が正常化すれば営業利益率は回復する可能性があり、そうなれば株価が⼤きく上昇することも考えられます。当ファンドは今後も同社を注視していきます。

2023年11月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は反発しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、韓国と台湾に牽引される形で前⽉末⽐6.96%上昇しました。⽶国の労働市場とインフレに関するデータが軟化したことで、市場関係者の⾒⽅は2024年に利下げが⾏われ、低いとはいえ妥当な⽔準の経済成⻑が続くという⽅向に変化しました。これは⽶国市場のソフトランディングシナリオと⾔ってよいでしょう。こうした変化を受けて、テクノロジー関連やインターネット関連セクターなどの成⻑株、とりわけ韓国と台湾の銘柄が底堅く推移しました。
 ⼀⽅、中国市場は当⽉も引き続き低迷しました。政府の緩和政策にもかかわらず、不動産セクターの状況にはほとんど改善が⾒られませんでした。経済成⻑率の低迷も消費⽀出の抑制要因となり、消費者の間に低価格志向が広がっています。
 インドは引き続きアジア諸国の中で⾼い成⻑率を保っている数少ない市場の⼀つで、2023年第3四半期GDP成⻑率は前年同期⽐7.6%上昇しました。構造的な⻑期成⻑が⾒込める市場は、新事業に果敢に取り組もうという気概のある企業に時流に乗じる機会を与えます。政府の⽀援策も効⼒を発揮しており、特に様々な優遇措置を通じて国内の製造業を下⽀えし、海外直接投資を誘致することで、成⻑に寄与していると考えます。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、資本財・サービスセクター、情報技術セクターがプラスに貢献し、⼀般消費財・サービスセクター、エネルギーセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Dharma Polimetal(インドネシア/⾃動⾞・⾃動⾞部品)、Voltronic Power Technology(台湾/資本財)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、ANTASports Products(中国/耐久消費財・アパレル)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)、ProdiaWidyahusada(インドネシア/ヘルスケア機器・サービス)などがマイナスに影響しました。
 当⽉、⽶国の利上げが終わりに近づいたとの⾒⽅から、株式市場は軒並み上昇しました。中でも⼤幅な上昇を⾒せたのが韓国株式市場で、規制当局が2024年6⽉末まで国内上場株の空売りを禁⽌すると発表したことから、KOSPI(韓国総合株価指数)が前⽉末⽐11.30%上昇しました。⽶ドルの下落もインドネシアやインドなど新興国市場の追い⾵となり、ジャカルタ総合指数、SENSEX指数ともに前⽉⽐4.87%上昇しました。当⽉のパフォーマンスに貢献したClassysとDharma Polimetalはいずれも年初来パフォーマンスが上位に⼊りました。

Dharma Polimetal

 Dharma Polimetalはインドネシア国内最⼤級の⾃動⾞部品メーカーで、インドネシアのコングロマリットであるTriputra Group社の⼦会社です。関連会社を複数社保有し、⻄ジャワ州各地に製造施設を多数構え、スタンピング、冷間鍛造、機械加⼯、ロボット溶接、めっき、スプレー塗装、カチオン電着塗装(CED)などの加⼯を⾏っています。同社を具体的に説明する前に、まずインドネシアの⾃動⾞産業に吹いている追い⾵について取り上げておきます。

インドネシアの自動車産業は揺籃期

 中国の過去20年にわたる発展の様相から得られた教訓は、⾃動⾞の普及率は1⼈当たりGDPの伸びと⾼い相関関係にあるということです。過去の⽉次報告書でも触れたように、インドネシアは鉱業から川下産業へと軸⾜を移していること、国家全体がアジア地域の⾃動⾞産業の中⼼地へと進化してきていることを背景に、GDPが今後10年で2倍以上になる可能性があると考えています。
 インドネシアでは過去20年間、⼆輪⾞と四輪⾞の普及率がいずれも驚異的なペースで伸びています。普及率を⾒る際、ジャカルタとジャカルタ以外ではどう異なるのかという点に注⽬することが重要です。ジャカルタの⼆輪⾞普及率は過去20年間で40%から150%以上に伸びていますが、ジャカルタ以外の普及率は8%から40%への伸びに留まっています。四輪⾞の場合、ジャカルタの普及率は18%から33%に伸びていますが、ジャカルタ以外では1%から5%に伸びたに過ぎません。ジャカルタの普及率は既にかなりの⾼⽔準ですが、⼈⼝の95%以上が居住するインドネシアのその他地域には、まだまだ成⻑の余地があると考えます。政府は既に道路インフラの整備を進め、都市間の相互接続をさらに促進しようとしています。インドネシアの有料道路網の総延⻑はジョコ政権下の10年間でほぼ4倍となり、約2,800キロメートルに達しています。
 国別でみると、インドネシアの四輪⾞普及率は7.8%(⼈⼝1,000⼈当たり78台)で、中国(同210台)、タイ(同281台)、マレーシア(同433台)、⽇本(同649台)を下回っています。

ICEとEVの両⽅で通⽤

 ⾃動⾞部品業界について投資家なら誰しも抱く懸念は、ICE(内燃機関⾞)からEV(電気⾃動⾞)への移⾏に関するものです。Dharma Polimetalはこうした移⾏が⾃社に不利に働かないように製品ポートフォリオを戦略的に配置しています。同社の主要製品は⾦属部品(ファスナー、サスペンション・メンバー、フレーム・ボディ)、電気部品(ワイヤーハーネス、バッテリー・ハーネス、センサー、インフォテインメント・システム)、プラスチック部品(ボディ・カバー、バンパー、オートバイ・シート)、精密部品などです。
 同社部品の⼤半はICEでもEVでも使⽤できますが、同社はEVへの移⾏が完了しても問題がないように⾃社の位置取りを調整しています。同社の関連会社であるDharma Controlcable Indonesia社とDharma Precision Parts社は、それぞれ⼆輪⾞⽤のバッテリーパックと四輪⾞⽤の充電ステーションを製造しています。同社はまた、バッテリーパックと充電ステーションの開発を加速するため、2023年初めに「PowerAce」ブランドで独⾃の電動三輪⾞を発売しました。三輪⾞への参⼊を選択したのは、同社が厳格な社内規定を設けて⼆輪⾞と四輪⾞の顧客との競合を回避しているためです。当ファンドでは、同社が三輪⾞の発売によって既存顧客と競合するリスクはほぼ無いと考えています。せいぜいバッテリー技術の研究開発で競合する可能性があるという程度でしょう。しかし、もし電動三輪⾞が普及すれば、業績の上振れ余地はきわめて⼤きくなると考えます。

国内調達要件が追い⾵

 インドネシアには特定製品について原材料や労働⼒その他を⼀定割合以上、国内で調達しなければならないというTKDN(国産化率評価⼿順)制度があり、EVの国産化率は40%以上となっています。注⽬すべきはDharma Polimetalがこの制度の恩恵を受ける⽴場であるということです。現在は検討中の段階ですが、この⽐率は2027年までにさらに増加して60%になる⾒込みです。したがって、EVへの移⾏が加速すれば、OEM(他社ブランドの製品を製造する企業)は⾃動⾞部品の調達先として強⼒な現地パートナーを探す必要があります。

優位性は特殊精密機器の⾃社⽣産

 Dharma Polimetalの関連会社Dharma Precision Tools社は、精密切削⼯具、治具、特殊⽤途機械(ドリル、リーマ、ボーリング、ダイヤモンド切削⼯具、⾦型など)を製造しています。同部⾨の収益は僅かですが、グループ内の他部⾨向けに特殊⽤途の⼯具や機械を製造しており、⾃動化と業務効率の向上に役⽴っています。同社は品質、コスト、納期の基準を厳格に維持することで、新規顧客の獲得と既存顧客のウォレットシェア拡⼤に成功しています。

主要仕⼊先や顧客との⻑期的な関係

 Dharma PolimetalはAstra Honda Motor社(以下、AHM社)、Astra Daihatsu Motor社(以下、ADM社)、トヨタ⾃動⾞㈱と⻑年にわたって取引関係にあります。ここで注⽬したいのは、⼆輪⾞市場はホンダとヤマハの独占状態にあり、両社で販売量の98%近くを占めているという点です。四輪⾞市場では、ホンダ、ダイハツ、トヨタがあわせて約65%のシェアを握っています。

顧客基盤の多様化

 Dharma Polimetalにとって最⼤の顧客はAHM社で、⼆輪⾞売上⾼の⼤半を占めています。同社は2023年にヤマハ発動機㈱の主要仕⼊先であるTrimitra Chitrahasta社の株式を約73%取得し、⼆輪⾞の顧客基盤多様化に着⼿しました。⼀⽅、四輪⾞ではADM社が最⼤顧客で、四輪⾞売上⾼の半数近くを占めています。
 また、同社はHyundai Motor Manufacturing Indonesia社(以下、HMMI社)から受注を開始しています。3⽉にHMMI社の新⼯場を訪問する機会を得ましたが、担当者は⽇本のOEMから市場シェアを獲得したASEAN専⽤モデルであるセダンと多⽬的スポーツ⾞(SUV)を継続的に増産すると明⾔していました。⾮⽇系⾃動⾞のOEMがインドネシアでのシェアを拡⼤するにつれ、⽇本のOEMは⾃社の「系列」サプライチェーンを利⽤する傾向があるため、サードパーティのサプライヤーは恩恵を受けることになります。

バリュエーションは割安

 Dharma Polimetalはインドネシア最⼤級の⾃動⾞部品メーカーですが、時価総額は4億5,000万⽶ドルにすぎません。当ファンドが3⽉に同社への投資を開始してから、予想PER(株価収益率)は⼤きく上昇していますが、世界的な同業他社に⽐べるとまだ若⼲割安な⽔準で取引されていると考えます。再評価はほぼ終わった模様ですが、今後3年間の収益の伸びは10%台前半から半ばという堅調な⽔準で推移する⾒通しです。

2023年10月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は前⽉に引き続き軟調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐3.86%下落し、3か⽉連続の下落となりました。世界的な景気減速が進⾏していること、FRB(⽶国連邦準備制度理事会)が「より⾼く、より⻑期に」という偏った政策を続けていることが世界の株式市場の下落につながりました。また、イスラエルとハマスの紛争が地政学的リスクの新たな震源となりました。
 中国政府は1兆⼈⺠元の特別国債発⾏を決議し、各種インフラプロジェクトに資⾦を充当するなどの複数の景気⽀援策を発表しましたが、消費者⼼理は依然弱含みで、市場は引き続き下⽅圧⼒にさらされています。また、⽶国はAI(⼈⼯知能)半導体の対中国への輸出規制をさらに強化し、中国におけるAI能⼒の急速な発展を抑制しようとしています。
 韓国市場もEV(電気⾃動⾞)⽤電池とEV⽤素材セクターが調整したことで、アンダーパフォームしました。EV需要の鈍化に対する懸念、Tesla社(⽶国)をはじめとするEVメーカーの値下げが投資家⼼理の重荷となったと考えます。⼀⽅、台湾市場では、5G(第5世代移動通信システム)に対する楽観的⾒⽅とスマートフォン需要の底打ちが要因で、MediaTek(台湾/情報技術、当ファンド組⼊銘柄)などのハイテク部品銘柄の株価が上昇しました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、⼀般消費財・サービス、⾦融セクターがプラスに貢献し、ヘルスケアセクター、資本財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)、ICICILombard General Insurance(インド/保険)、ANTA Sports Products(中国/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがマイナスに影響しました。
 アジア株式市場は軒並み急落し、特にHSCEI(ハンセン中国企業株指数、⾹港ドルベース)は前⽉末⽐4.66%、KOSPI(韓国総合株価指数、韓国ウォンベース)は同7.59%の下落となりました。当⽉の中国製造業購買担当者指数(PMI)が、景況拡⼤・悪化の分かれ⽬となる50を下回ったことで、中国経済の回復を⽰す兆しは消え去りました。中国最⼤の⺠間不動産開発業者であるCountry Garden Holdings社は、新築住宅の販売不振が続いたことで、海外債務の⽀払い義務を履⾏できない状態に陥りました。中国の不動産投資額は2023年1⽉から9⽉にかけての減少が影響して、前年同期⽐約9%減少し、9⽉には新築住宅価格が3か⽉連続の下落となりました。不動産は中国経済の3分の1近くを占めていることから、持続的な景気回復のためにはまず不動産市場の安定が必要だと考えます。中国の景気低迷は韓国をはじめとする周辺国の経済に⼤きく波及しており、特にバッテリーや鉄鋼関連産業ではその傾向が顕著です。こうした市場の下落局⾯は⻑期的な「勝ち組」を選定する好機となるため、当ファンドはこの事態を前向きに捉えています。直近では、2021年12⽉に上場したインド企業のC.E. Info Systems(インド/ソフトウェア・サービス)がその例です。同社の株価は⼒強い上昇を⾒せましたが、その後⼤きく値を下げ、今年4⽉に底値をつけました。この急落によって割安な買い場が訪れたと考え、当ファンドは6⽉に同社への新規投資を開始しました。
 C.E. Info SystemsはRakesh Varma⽒とRashmi Varma⽒が1995年に設⽴後、インド最⼤⼿のB2B(企業間取引)デジタル地図情報会社へと成⻑しました。Varma夫妻は1990年代後半、⼤⼿多国籍企業がインドに正確な地図がないために経営上の問題に直⾯していることに気づき、企業向けのデジタル地図を作成する事業を開始しました。同社は苦⼼の末、知的財産権の確保に成功し、蓄積した地図情報をより幅広い顧客層にライセンス供与するようになりました。さらに将来的に全データの80%に位置情報を紐づけるというビジョンを掲げ、インド全⼟の包括的な地図作成を⽬指して奮闘しています。
 同社は現在、インド最⼤⼿のB2Bデジタル地図情報会社で、インドの道路網の99%以上を地図化しています。インドの道路網の総延⻑は⽶国に次ぐ世界第2位であり、その規模は引き続き急速に拡⼤しています。同社のシステムやサービスは、Apple社(⽶国)、Meta社(⽶国)、Uber Technologies社(⽶国)、McDonaldʼs(⽶国)といった⼤⼿多国籍企業や、HDFCBank(インド/銀⾏、当ファンド組⼊銘柄)、Bajaj Finance社(インド)、Maruti Suzuki India(インド)といったインド国内⼤⼿企業が利⽤しています。同社はさらに、様々な政府機関にシステムやサービスを提供しており、その⽤途は税務、安全保障から地域開発、都市開発に⾄るまで多種多様です。

様々なアプリケーションで利用されて市場規模が急拡大
 ⽶国のコンサルティング会社Frost&Sullivan社によると、インドにおけるデジタル地図と位置情報サービスの最⼤市場規模は、2025年までに約77億⽶ドル(年平均成⻑率約16%)に成⻑する⾒通しです。また世界全体でみると、市場規模は2025年までに1,740億⽶ドルに達する⾒込みです(年平均成⻑率約13%)。こうした成⻑の主な原動⼒は、消費者向け、企業向け、政府機関向けアプリケーションにおけるデジタル地図の使⽤の増加です。
 現在の消費者向けアプリケーションの多くには既に位置情報を表⽰する機能が組み込まれており、例えばナビゲーション、オンライン配⾞、フードデリバリー、eコマース(電⼦商取引)、旅⾏、フィットネスなどのアプリケーションがそれを利⽤しています。消費者は注⽂した商品の追跡や注⽂履歴の確認をすることができ、また将来の購⼊計画を⽴てやすくなります。
 企業側からみると、地図データを利⽤すると業務の効率全般を⼤幅に改善できるため、効⼒はさらに⾼くなります。消費者や⾞両の移動情報を分析できるだけでなく、消費者の⾏動パターンや地域ごとの競合の激しさを把握することもでき、サイトの選択、ターゲットを絞った製品の発売、広告活動に役⽴ちます。従業員の監視も強化できるため、安全性と⽣産性の向上につながります。
 地図プロバイダーの成⻑にとって最⼤の原動⼒となっているのは、近年では⾃動⾞産業です。同社はカーナビゲーション市場で⾸位に⽴っており、市場シェアは80%近くに達しています。ナビゲーション⽤のデータは世界のOEM(他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業)にとって利益の原資となりつつあり、また、カーナビがなければドライバーは渋滞だらけの都市の中を効率的に移動することができません。⾃動⾞のコネクティビティが向上したことで、センサーと地図データを組み合わせて陸上交通の安全性を向上させる⾰新的な先進運転⽀援システム(ADAS)ソリューションのような新しい⽤途が出現してきており、⾔うまでもなく、地図は将来的に⾃動運転やシェアードモビリティに⽋かせないものになります。
 同社経営陣は2023年6⽉に開催された投資家説明会で、今後5年間の年平均成⻑率の⽬標を35〜40%とし、ナビゲーション、ADAS、コネクテッドカー・ソリューション、電動モビリティなどを増強して収益構成を多様化する意向を⽰しました。

優れたビジネスモデルで資本利益率が⾼⽔準
 市場規模が⼤きいということは、成⻑が保証されているということではなく、むしろ競争熾烈化の要因になります。企業が⽣き残るためには、⾃社の優位性を⽣かして強固なビジネスモデルを構築する必要があります。
 C.E. Info Systemsは⾃社のソフトウェアと知財を活⽤したソリューションを通じ、アセットライトなビジネスモデルを構築しています。同社収益の⼤半はサブスクリプション料⾦、ロイヤルティ、会員費という形で定期的に発⽣するもので、その顧客定着率は⾮常に⾼い⽔準です。また同社が保有する地図データは複数の情報源(⽩地図、現地調査、地理空間データ、クラウドソースデータ、衛星)を通じて30年近くにわたって蓄積、改良、最適化されてきたもので、新規参⼊企業が競合することはきわめて困難と考えます。そして正確な地図データを保有していることは、同社の優位性の⼀⾯にすぎません。もう⼀⾯は、このデータをいかに効果的に企業ソリューションと統合しているかという点にあります。顧客は同社のアプリケーションプログラミングインタフェース(API)を利⽤することで、最新版の地図データを⾃社のソフトウェアアプリケーションとシームレスに統合することができます。
 競争に関して特筆すべき点は、インド科学技術省が2021年2⽉に地理空間データの利⽤に関する規制を撤廃すると発表したことです。ここで注意すべきなのは、この「規制撤廃」がインド国内でインド⼈が所有経営する企業だけに適⽤されるということです。Alphabet社(⽶国)やmapbox社(⽶国)など外国企業による詳細地図の利⽤は制限されます。したがって、外国企業がナビゲーションに必要な正確な地図を作成することは実質的に不可能です。
 以上の点を踏まえ、C.E. Info Systemsは収益性の⾼いビジネスモデルと多様な⽤途を有する有望な投資先であると考えます。位置データの重要性は、世界各国のサプライチェーンが拡⼤するにつれ、ますます⾼まっていくことでしょう。バリュエーションは新規投資後数か⽉で上昇しましたが、同社が今後数年間で⾼いリターンを⽣み出してくれるという楽観的な⾒⽅に変わりはありません。

2023年9月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は前⽉に引き続き軟調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐2.65%下落し、フィリピンとインドを除くアジア市場全体が軒並み下落して⽉を終えました。
 原油価格の上昇、景気の減速、各国中央銀⾏が「より⾼く、より⻑期に」という偏った政策を続けていることなどから、世界各国の株式市場と債券市場が下落しました。
 中国の不動産セクターは当⽉も中国と⾹港の株式市場の重しとなりました。過剰債務をかかえる不動産開発業者は依然として流動性問題の解決を迫られており、政府が住宅ローンの融資条件緩和という⽀援策に踏み切ったにもかかわらず、不動産販売件数に⼤幅な改善は⾒られませんでした。⼀⽅、鉱⼯業⽣産や⼩売売上⾼など、中国の8⽉の経済指標が⼀部プラス成⻑を⽰す数値となったことは好材料と考えます。
 インドのNifty50指数は当⽉に最⾼値を更新しました。その要因としては、⽣産年齢⼈⼝の割合増加に由来する経済成⻑、都市化、インフラ投資、「チャイナ・プラス・ワン(中国のみに⼯場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠点を展開すること)」の動きが同国経済の⻑期的成⻑を後押しするという⾒⽅が投資家の間に根づいてきたことがあげられます。また、タイの株式市場は観光客数の多さと新政権による景気刺激策にもかかわらず、下落幅がASEAN諸国中で最⼤となりました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、情報技術セクター、資本財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、⼀般消費財・サービスセクター、コミュニケーション・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、C.E. Info Systems(インド/ソフトウェア・サービス)、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Polycab India(インド/資本財)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、Mitra Adiperkasa(インド/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)、Jeisys Medical(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Dharma Polimetal(インド/⾃動⾞・⾃動⾞部品)などがマイナスに影響しました。
 当⽉、当ファンドは「Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)」の組み⼊れを開始しました。
 同社は主にNIKE、adidas、PUMA、ユニクロといったグローバルブランドにサービスを提供する世界最⼤級の垂直統合型(製品の開発から⽣産、販売にいたるまで上流から下流のプロセスをすべて⼀社で統合したビジネスモデル)アパレルメーカーで、世界のアパレルサプライチェーンにおいて同社の重要性は際⽴っています。同社は投資家からも⾼い注⽬を集めており、売上⾼と純利益は過去10年間で⼤きく増加し、ROE(株主資本利益率)も⾼い⽔準を維持しています。
 しかし新型コロナウイルスの⼤流⾏によって、そうした安定的な成⻑軌道にいくつかの点で乱れが⽣じました。第⼀に、政府の景気刺激策が⽶国とEUの消費を押し上げたことで売上⾼は2021年初頭の新型コロナウイルス流⾏初期に⼤幅に増加しましたが、各国中央銀⾏がインフレ抑制を狙って引き締めサイクルに移⾏したため、需要はすぐに軟化し、在庫が増加しました。⽶国とEUの景気減速と時を同じくして、2022年には中国の景気が悪化しました。第⼆に、粗利益率が2021年末には⼤きく低下しました。これは、1) 2021年7⽉から9⽉にかけてコロナ禍のロックダウンによってベトナム⼯場の稼働率が低下したこと、2) エネルギーコストと物流コストの上昇がサプライチェーンに波及し、原材料価格、特に綿花価格が上昇したことによるものです。

信頼性の⾼いビジネスモデル- 粗利益率は平均回帰
 同社のビジネスモデルはコストプラス⽅式(実際にかかったコストに、利益を上乗せして価格を算出する⽅法)の価格設定に基づいており、⾐料品1着あたりの粗利益はほぼ固定されています。粗利益率が低下したのは、1) 原材料費と⼈件費が変動したこと(ただし、これは⼀般的に若⼲の時間差で顧客に転嫁されます)、2) スポーツウェアや機能性ウェアなどの複雑性の⾼い製品の⽅が粗利益率が⾼いという製品構成⾯の特性があることによって説明できます。同社の財務記録をみると、粗利益率は10年以上にわたって⾼い⽔準で安定的に推移していることがわかります。
 したがって、稼働率と原材料価格が正常化すれば粗利益率は⾼⽔準に戻るというのが当ファンドの⾒⽅です。同社が中国、ベトナム、カンボジアで運営している⽣産施設の稼働率は順次改善しており、当⽉以降は多くの労働者が残業を始めたことからも、回復の兆しが現れていると考えます。原材料価格も2022年にピークへ達し、2023年に⼊ってからは安定化してきています。同社は新たな⽣地⽣産技術への投資を続けており、今後は粗利益率がさらに拡⼤する可能性があります。同社は現在、lululemonやFILAと緊密に協⼒し、伸縮性を有する⾰新的な⽣地の開発に取り組んでいます。

⻑期的な業界再編トレンドは不変
 アパレル⼩売業界と異なり、アパレル製造業界では⻑年にわたって再編の動きが進められてきました。品質、環境基準、スケールメリットの向上により、追随できない中⼩企業は淘汰されたり、⼤⼿企業に買収されたりしています。この傾向は今後も続く⾒込みで、当⾯は加速する可能性さえあると考えられます。⼈権、安全性、環境負荷といった点は、いずれもこの数年、世間の注⽬を集めている問題です。環境⾯では、同社は再⽣可能エネルギーに多額の投資を⾏っています。同社は2025年までに、⾐料品⼯場の50%、⽣地⼯場の20%で再⽣可能エネルギーを使⽤することを⽬指しています。⽔の使⽤については、節⽔と再⽣技術を通じて2025年までに⽔の利⽤効率を20%改善し、廃⽔を減らすことを⽬指しています。
 当ファンドが先⽇業界関係者と⾏った会議では、ブランドにとって重要な意味を持ちつつあるキーワードとして「事業の継続性」と「⽣産体制の柔軟性」という⾔葉が挙げられました。⽣産体制の柔軟性が重要性を増してきたのは、主に2つの要因が考えられます。第⼀に、⽶中間の緊張によっていわゆる「チャイナ・プラス・ワン」の動きが発⽣し、多数の企業が中国以外の地域、特に東南アジア(インドネシア、ベトナム、カンボジアなど)やインドに⽣産拠点を設⽴していることです。こうした動きは、中国の⼈件費⾼騰を受け、コロナ禍以前からありましたが、両国の緊張関係が近年より⾼まったために、⽶国やEUの顧客とビジネスを⾏う上で避けて通れない課題となっています。ここで指摘しておきたいのは、⽶国とEUのブランドが関⼼を持っているのは主として⽣産施設の所在地であって、⽣産施設の所有者ではないということです。同社は「地産地消」戦略を採⽤し、中国の⼯場では中国国内の需要に応え、ASEAN諸国の⼯場では中国国外からの受注案件に対応しています。今後インドネシアなどで⽣産能⼒を増強することで、今後ASEAN諸国の⽣産量の割合が更に⾼まる⾒通しです。
 第⼆に、⽣産体制の柔軟性には短納期案件に対応する⼒も含まれていることです。短納期案件とは、⼀般に受注から出荷までの期間が3ヵ⽉未満の受注案件を指します。マクロ経済の先⾏きがますます⾒通せない中、在庫の積み増しを回避したいというのがブランドの基本姿勢であることから、こうした案件の割合が近年増加してきています。短納期案件の増加は、⾃動化が進むことで強⼒なサプライチェーンを持つ⼤規模事業者に有利に働くと考えます。先⽇発表されたNIKE社(⽶国)の決算をみると、来期の⾒通しが依然不透明であることから、来年は短納期案件がさらに増えることになるでしょう。先⽇、ある業界の専⾨家と話したところ、同社の総売上に占めるNIKEの割合は今後更に拡⼤する可能性があるということです。
 興味深い点は、同社の成⻑が需要⾯よりもむしろ供給⾯(すなわち「⽣産能⼒の拡⼤」)の要因の⽅が⼤きいということです。コロナ禍以前は、⼤⼿アパレルメーカーはほぼフル稼働していました。同社の売上⾼が増加しているのは、主に⽣産能⼒の拡⼤によるもので、その幅は年間10%程度に制御されています。世界のスポーツウェア産業は今後5年間で年平均6%成⻑すると予想されており、⼤⼿サプライヤーが業界再編によって成⻑を加速していることを考えると、これは合理的な想定であると考えます。
 結論を述べると、同社は有望な投資先でありながら、コロナ禍による混乱、さらに中国、⽶国とEUの市況悪化によって⼤幅に評価を下げてしまいました。しかし、粗利益の圧縮と売上の鈍化は本性的に⼀時的なものであり、⽶国で重⼤な対外紛争やハードランディングシナリオが発⽣しなければ、来年には正常化すると考えられます。そうなれば業界再編は加速し、最終的には最⼤⼿のアパレルメーカーがその恩恵を受けるだろうというのが当ファンドの⾒⽅です。
 当ファンドでは引き続き同社を注視し、今後その動向をお伝えしていく予定です。

2023年8月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は急落しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比6.39%下落しました。米国の経済指標とインフレ率が予想を上回ったため、FRB(⽶連邦準備制度理事会)がさらなる金融引き締めに踏み切るのではないかという懸念が広がり、株式と債券がいずれも下落しました。
 また、中国の輸出と住宅セクターの低迷が続いたことで、投資家心理はさらに冷え込みました。中国の前月の輸出(米ドル建て)は前年同月比14.5%減となりましたが、これは世界経済が低迷していることや、米中対立のために市場シェアの継続的な低下が影響していると考えます。中国の不動産開発大手のCountry Garden Holdings社は手元資金が不足し債務返済が滞る可能性があると発表し、それを受けて他の不動産開発業者の株価が下落しました。中国政府は住宅ローンの融資条件を緩和する旨を発表し、不動産セクターへのてこ入れを図りましたが、信頼回復には時間がかかる模様です。
 インド市場では大型株が低調な一方、小型株は好調とパフォーマンスに差が生じました。ただし、ここ数年の政府による持続的なインフラ支出と中国からのシェア奪取による輸出増加の効果もあって、経済成長全般は依然堅調です。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、ヘルスケアセクター、一般消費財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、情報技術セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Jeisys Medical(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。両社は非外科的美容医療に対する関心の高まりから引き続き恩恵を受けているものと考えます。一方で、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Dreamfolks Services(インド/運輸)などがマイナスに影響しました。

Jeisys Medical(韓国/ヘルスケア機器・サービス)

 この数年にわたって持続的に成長を遂げているテーマのひとつに、エネルギーを利用した医療用美容機器(Energy Based Devices、EBD)があります。2023年5月の月次報告書で、当ファンドの組入銘柄であるClassys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)について取り上げましたが、当月は、「Jeisys Medical」について、なぜClassysとともに魅力的な企業と考えられるのかという点についてご説明します。
 美容医療は外科的処置と非外科的処置に大別されます。非外科的処置とは、注入剤(ボトックス、フィラーなど)やEBD(レーザー、高周波(RF)、超音波)を利用して行う処置を指します。美容医療における非外科的処置の普及率は近年上昇しており、EBDの中ではRF(高周波)とHIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、⾼密度焦点式超⾳波)の人気が高まっています。これは表在性筋膜(SMAS)のような真皮のより深い層をターゲットにすることができ、最小限のダウンタイムで外科的なフェイスリフトと同等以上の効果が得られ、費用対効果が高いためです。RFやHIFUは通常3~6ヵ月ごとに治療を必要とすることから、1回で終わる通常の外科手術と異なり、クリニックや施術者にとって持続的な収入源となります。
 ClassysとJeisys Medicalの業績は目覚ましく、2022年までの直近5年間の売上高はそれぞれ年平均約31.4%と42.2%拡大しています。両社とも低価格戦略を採用しており、RF分野ではSolta Medical社(米国)の「Thermage」、HIFU分野ではMerz Pharma社(ドイツ)の「Ultherapy」など、知名度の高い同業他社の製品より大幅に割安な価格でRFおよびHIFU機器を販売しています。RFやHIFUのメリットは以前から市場で知られていましたが、後発組であるClassysとJeisys Medicalの製品価格が著しく低かったことから、エンドユーザーの間に広く浸透することになりました。
 両社はともに「替え刃」ビジネスモデル(商品の本体を安く売って顧客を囲い込み、その後の消耗品やサービスで儲けるビジネスモデル)の事業を展開していますが、両社の戦略には僅かに違いがあります。Jeisys Medicalは成長加速をねらって海外事業に力を入れています。同社はCynosure社(米国)との提携によって米国、中国、欧州市場への進出を果たし、ODMモデル(他社ブランドの製品を設計・製造すること)に基づいて製品の設計と製造を担当しており、Cynosure社がブランディングと販売を管理しています。
 両社は海外展開によって成長を加速させる模様ですが、ターゲットとなる市場をみると、日本を除いてほぼ重複はありません。Classysの主な成長市場はブラジル、日本、オーストラリア、タイなどで、Jeisys Medicalは日本、米国、中国に力を入れています。
 2022年時点の米国市場の規模は約50億米ドル、その内訳はレーザーが約70%、RFが同20%、HIFUが同10%と言われています。現在米国では、Merz Pharma社のUltherapyがアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けた唯一のHIFU機器であり、このカテゴリーで圧倒的なシェアを誇っています。ただ、Merz Pharma社のHIFU特許は近々失効する予定で、今後競合他社の参入が相次ぐ見込みです。Jeisys MedicalのHIFU機器「ULTRAcel Q+」は現在臨床試験中で、来年早々にも承認される見込みです。Classysの「Untraformer MPT」は米国で発売されるのは2026年以降の見込みです。RF分野では、Jeisys Medicalの「Density」が当月に入ってFDAの認可を取得し、同社はこの装置に関して新たな販売代理店とパートナーシップを締結しました。
 Jeisys MedicalはODM戦略の効果によって、パートナーの既存流通網とブランド力を活用し、大規模市場に迅速に参入できるでしょうが、市場への浸透が早まり、総資産回転率が上がった代償として、利幅が低下すると考えます。Jeisys Medicalの2022年の営業利益率は、Classysの約49%に対し、約29%に留まりました。ただ一方で、Jeisys Medicalは在庫回転率が高いため、直近のROE(株主資本利益率)でみるとClassysは約38%である一方、Jeisys Medicalは約43%と上回っています。両社はいずれも利益率の高い消耗品の売上に支えられた非常に魅力的なビジネスモデルを有しており、非外科的美容医療の世界的成長から恩恵を受ける立場にあるというのが当ファンドの考えです。

2023年7月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は前月に引き続き堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比6.20%上昇しました。
 中国政府は消費や、住宅セクター、資本市場向けの刺激策を発表しました。民間企業の支援を目的とする31項目ものガイドラインが発表されたことを受け、中国市場に対する投資家心理は改善しました。AI(⼈⼯知能)の将来性に対する楽観論が、引き続き情報技術関連銘柄の上昇要因となりました。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)は、AI関連の需要拡大が予想されることから、同分野への設備投資を拡大すると発表しました。しかしスマートフォンやPCは在庫調整がほぼ終了した模様であるにもかかわらず、半導体の需要が引き続き低迷しており、マクロ経済に対する信頼感の低さがうかがわれます。台湾や韓国に拠点を置く他のIT企業も、直近の決算説明会で同様の見解を示しました。
 インドとインドネシアは引き続き投資家の注目を集めています。両国は製造業への投資と製造能力の向上を目的に、積極的に外資を呼び込んでいます。インフラ整備はこれまでと同様、今も経済成長の原動力であると当ファンドは考えています。両国では国内消費主導型セクターも好調なパフォーマンスを記録しています。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、資本財・サービスセクター、一般消費財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、生活必需品セクター、情報技術セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Polycab India(インド/資本財)、Mitra Adiperkasa(インドネシア/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)などがプラスに貢献しました。一方で、SINBON Electronics(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Voltronic Power Technology(台湾/資本財)などがマイナスに影響しました。
 当月のパフォーマンスが好調だったことで、当ファンドの年初来パフォーマンスは23.2%の上昇となりました。当ファンドが組み入れているグレーターチャイナ(中華圏)、インド、インドネシア、韓国などの主要な国は概ね年初来で上昇しました。

Swire Pacific(香港/不動産管理・開発)

 当ファンドの組入銘柄である「Swire Pacific」は、香港を拠点とするコングロマリット(業種が異なる企業同士の合併・買収によって、発達した企業)です。同社は6月28日、Swire Coca-Cola USA(同社の米国飲料事業)の全株式を現金約39億米ドルでJohn Swire & Sons社(英国、Swire Pacificの株式を60.3%所有)に売却すると発表しました。これはSwire Pacificの時価総額の約35%に相当する大型取引でした。ただし、注意すべきは今回の取引は米国西部の13州で展開する同社の米国ボトリング事業(Swire Pacificの飲料部門の2022年のEBITDAの約46%)のみが対象であり、同社の子会社であるSwire Coca-Colaは香港や、上海、中国11省、台湾、カンボジア、ベトナムにおけるコカ・コーラ製品の製造、販売、流通の独占権を有する世界最大規模のコカ・コーラ・ボトリング事業として存続します。また、Swire Coca-ColaはJohn Swire & Sons社、Swire Coca-Cola USAと運営管理サービス契約を締結し、当初13年間の条件で運営管理サポートサービスの提供を受ける予定です。
 同契約によると、Swire Pacific社は(i)1億1,700万香港ドル+マージン5%(年次インフレ調整条項付き)、または(ii)Swire Coca-Cola USA社の経常利益の6%のうち、いずれか大きい方の額に相当する年間サービス料を受け取ることになっています。
 売却価格はSwire Coca-Cola USAの簿価の4倍、EV/調整後EBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)のおよそ12倍に相当します。この取引は妥当であり、Swire Pacificが香港と中国においてますます質の高い商業用・住宅用不動産事業に注力できるようになることから、同社のバランスシート強化に寄与するものと考えられます。今後、負債比率は18%から11.6%に低下し、現金払い利息の比率は6倍から7.3倍に上昇することが予想されています(2022年12月現在)。また、今回の売却によってSwire Pacificの不動産事業が来年度の営業利益に占める割合は70%以上に上昇する見込みです。借入コストが上昇していることや、Swire Pacificの有利子負債の15%が2023年に満期を迎えることを踏まえると、今回の取引の主な動機は負債の削減にあると当ファンドは見ています。
 株主総会で承認されれば売却益29億米ドルの半額が特別配当として支払われることになりますが(1株当たり8.12香港ドル)、これは特別配当利回り約14%に相当します。これにより、今後1年間の配当利回りは20%近くになります。Swire Pacificの株式は依然として純資産価値を45%近く下回る水準で取引されています(ディスカウント幅は歴史的に見ても非常に大きく、10年間の平均ディスカウントは約25%)。同社の経営陣は資本を巧みに配分し、非中核事業の資産を魅力的な価格で売却する一方、大幅なディスカウント価格で大規模な自社株買いを実施するなどして、株主価値の向上に努めてきました。
 一方、Swire Pacificの45%出資子会社であるCathay Pacific Airwaysは2023年6月も回復基調を維持し、月間総乗客数は前年同月比931.9%増の約155万人となりました。搭乗率は20.7%ポイント上昇し、87.7%に達しました。また、1日の乗客数が6万人を超え、コロナ禍後の最高を記録しました。貨物に関しては先月の輸送量が約11万トンと、前年同月比6.4%の増加となりました。Cathay Pacificは過去3年にわたって大幅な損失を計上し、Swire Pacificの収益の大きな足枷となっていましたが、2023年に入って業績が回復しました。2023年上半期決算は8月第2週に発表される予定ですが、損益分岐点に到達するだけでもSwire Pacificの最終利益は大幅に改善することになります。同社については今後の月次報告書で再度ご報告する予定です。

Polycab India(インド/資本財)

 話題をインドに転じると、同国経済は非常に好調で、Nifty指数は当月に史上最高値を更新しました。当ファンドの組入銘柄である「Polycab India」は1983年、Jaisinghani家の四兄弟によって、西部のグジャラート州を拠点とする電線・ケーブルメーカーとして設立されました。電気製品の販売は家業とも言えるもので、四兄弟の父親が1960年代半ばに「Sind Electric Stores」を設立し、四兄弟はその経営を手伝っていました。現在、Polycab Indiaは電線・ケーブル市場で国内最大級の規模を誇っており、市場シェアはおよそ22~24%、4,000社以上の流通事業者を抱え、インド全土で20万以上の店舗を展開しています。
 同社の事業は主に(1)電力、石油・ガス、建設、電気通信、鉄道、工業など幅広い産業向けに「Polycab」ブランドで各種ケーブルを販売する電線・ケーブル部門、(2)ファン、FMEG(照明器具、スイッチ・配電盤、ポンプなどを扱う商品回転率の高い電気製品)部門、(3)EPC(配電や農村部の電化などの一括受注契約事業向けの製品供給に重点を置くエンジニアリング・調達・建設)部門の3つに分かれています。
 電線・ケーブル部門は同社の主力事業で、不動産需要の拡大、政府のインフラ・プロジェクト投資、民間企業の設備投資の恩恵を受けています。同社のような大規模事業者は業界売上の過半数以上を占めており、今後も競争力の劣る小規模事業者からシェアを奪っていく見通しです。その結果、同社は過去5年間に売上高、営業利益ともに大きく拡大し、ROCE(使用資本利益率)も高い水準に達しています。同社は「Project Leap」という事業戦略計画の下、2026年度までに売上高を2,000億インドルピーに伸ばすことを目標としており、電線・ケーブル部門とFMEG部門はそれぞれ市場成長率を上回る水準で成長しています。
 当ファンドが同社を評価する主な理由は以下の通りです。
 (1)セグメントと顧客の多様化
 同社は2014年まで主に電線・ケーブルのサプライヤーで、Reliance Industries社(インド)、Tata Steel社(インド)、Adani Wilmar社(インド)、ACC社(インド)といった大企業向けのB2B(企業間取引)モデルを展開していましたが、その後FMEG事業に参入することで、B2C(企業と消費者間の取引)への多角化を実現しました。B2Cセグメントをさらに浸透させるため、同社は広告宣伝費をB2C売上高のおよそ2~3%まで漸次増額しました。
 (2)強力な自社製造能力と後方統合
 同社は長年にわたって戦略的見地から自社製造能力の構築に努めており、製造拠点は3州(グジュラート州、マハラストラ州、ウッタラーカンド州)、25ヵ所に広がっています。加えて、同社はサプライチェーン全体、特に原材料に関する後方統合(企業が自社の供給元や原材料生産者を買収・統合すること)に注力しています。またアルミ棒材、各種グレードのPVC、GIワイヤー、ストリップ、XLPE化合物などを自社生産しています。同社は2016年に世界的な商品取引会社Trafigura Group社(シンガポール)と合弁会社を設立し、社内の銅棒材需要を賄おうとしましたが、稼働率が今一つだったことから、この合弁会社をHindalco Industries社(インド)に売却しました。その後、Polycab Indiaは、Hindalco Industries社と長期契約を締結し、銅材の安定供給を確保しています。自社製造と後方統合を実現することによって品質管理とコスト管理の改善が可能になりますが、とりわけ現在のようにコモディティ価格の変動が激しい環境にあっては、その傾向が顕著に現れると考えます。
 (3)マルチブランドFMEGのプレミアム化戦略
 同社はFMEG部門において、「Hohm」(プレミアムIoT(Internet of Things、モノのインターネット)製品)、「Levana」(スイッチ)、「Polyshield」(開閉装置)といったプレミアムブランドを新たに立ち上げています。強力なブランドを持つ企業は、わずかなコスト増で高い利益を得ることができると考えられます。しかしこの分野は競争が激しく、固定費と広告費が高いため、同部門は過去2四半期にわたって赤字でした。しかしその一方で、同部門は立ち上げ以来高い成長をみせており、新ブランドの一部が今後も成長を続ければ、収益の上昇余地は大きいと見ています。

 同社は国内において高い影響力を有していますが、北米、アジア、中国を中心とする国際(輸出)事業も急成長しています。2024年度第1四半期時点で売上高に占める割合は約8.9%と、同社製品の訴求価値の高さを物語っています。
 同社は、インドにおけるインフラ設備投資拡大の恩恵を受けると考えられる優良企業であり、サプライチェーンを中国以外に移行する動きからも恩恵を受けられる立場にあります。2023年に入ってから大幅なバリュエーション見直しがありましたが、成長見通しは比較的良好で、長期的な成長余地があると当ファンドは考えています。同社については今後の月次報告書で改めて今後の状況を報告いたします。

2023年6月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場は堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比2.81%上昇しました。
 米国の経済指標が堅調だったことで、投資家心理が世界的に好転し、情報技術セクターを中心に米国の株価指数が軒並み上昇しました。AI(人工知能)の将来性に対する楽観論の広がりによって、アジアの情報技術関連銘柄が引き続き上昇し、中国が大規模な景気対策を打ち出すという観測も市場の下支え要因となりました。
 当月は米国のブリンケン国務長官が中国を訪れ、習近平国家主席と会談しました。結果次第では米中関係が改善に向かうのではないかという期待感が広がりましたが、大きな進展はありませんでした。それどころか、米国は半導体製造装置と製品の対中輸出制限を強化する計画を発表し、中国も半導体製造、EV(電気自動車)、通信機器に不可欠な2種類の金属(ガリウムとゲルマニウム)の輸出を制限してこれに応じました。
 一方、インドのモディ首相は米国を訪れ、温かい歓迎を受けました。同首相はApple社のティム・クックCEO(最高経営責任者)やTesla社のイーロン・マスクCEOら、米国を代表する企業のリーダーと会談し、今後の投資先としてインドを検討するよう促しました。インドの長期的成長見通しを肯定的に捉える見方が裏付けを得たことで、インドの主要な株価指数のNifty50指数とSENSEX指数が、当月ともに史上最高値を更新しました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、資本財・サービスセクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、不動産セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、NWS Holdings(香港/資本財)、China State Construction Development(香港/資本財)、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。一方で、Indian Energy Exchange(インド/金融サービス)などがマイナスに影響しました。なお、当ファンドは当月、同銘柄を全売却いたしました。

NWS Holdings(香港/資本財)

 当月、当ファンドの上位保有銘柄である「NWS Holdings(以下(NWS))」は、Chow Tai Fook Enterprises社(香港、以下「CTFE」)から最大約355億香港ドル(約45億米ドル、1株当たり9.15香港ドル)の株式公開買い付け提案を受けました。これは6月21日の終値に22.2%のプレミアムを上乗せした価格です。
 CTFEの筆頭株主は鄭一族で、CTFEはNew World Development社(香港、以下「NWD」、)の株式を約45.2%所有し、NWDはNWSの株式を60.9%所有しています。したがって、NWS売却にはNWDの独立株主の承認が前提条件となります。もう一つの前提条件は、NWSが保険会社(FTLife Insurance Company社(香港))の支配株主であることから、香港保険監督局とバミューダ通貨監督局などの規制当局からの承認を得る必要があるということです。
 今回の提案は当事者全員にとって公平であるように見受けられることから、承認される可能性が高いと当ファンドは見ています。NWSにとって、提示価格は同社の直近5年平均株価に約30%のプレミアムを上乗せした水準です。NWDは取引によって約218億香港ドル(特別配当を支払う場合はその分を差し引いて約178億香港ドル)を受け取ることになり、純負債倍率は47%から42%程度に低下します。これにより、長引く高金利環境の中でNWDの金利負担が軽減され、借り換えの柔軟性が増すと同時に、持株会社のディスカウント幅のうちNWSに帰属する分が縮小します。
 NWSの株価は年初来で大きく上昇し、当ファンドのパフォーマンスにも大きく貢献しています。2023年6月期の最終配当が発表されたとしても、提示価格は下がらないでしょう。参考までに、過去2年間の最終配当はそれぞれ0.30香港ドル、0.31香港ドルでした。ロング・ストップ・デイト条項(クロージングが一定の期限までに実施されない場合、当該契約を解除できる旨を規定する条項)によって、当月の発表から6ヶ月後に期限が設定されており、それまでに承認を取得する必要があります。

DreamFolks Services(インド/運輸)

 インドは世界最大の人口大国で、就労人口の増加による生産力が高まっていることに加え、様々な面で開発途上にあること、市場構造が寡占的であることなど、他国と一線を画していると考えています。
 当ファンドの組入銘柄である「DreamFolks Services」は、いまだ揺籃期(ようらんき、物事の発展する初期の段階)にあるインド航空輸送業界の成長が追い風となり得る興味深い銘柄です。同国の航空旅客数は2030年には5億7,000万人に達すると見込まれています。こうした成長の原動力となっているのが、政府の空港数と関連インフラの改善に向けた取り組みです。同国の空港数は2014年から倍増し、当年4月時点で148カ所となり、2030年には235カ所に達する見込みです。さらに航空機数も大きく増加し、2038年までに約2,500機になると予想されています。
 このように、インドの航空輸送量が今後数年で大幅に伸びる可能性は高いですが、同社はそこからどのような利益を得るのでしょうか。同社は主に空港のラウンジ利用の橋渡し役として、独自の技術プラットフォームを通じて航空旅客とラウンジ運営会社、クレジットカード会社をつないでいます。いわば有料道路の運営会社のようなもので、航空旅客がクレジットカードを使用してラウンジを利用するたびにラウンジ使用料が収入として入ります。同社の事業範囲はインド国内の空港すべてのラウンジに及んでおり、うちいくつかの空港とは独占契約を結んでいます。同社のインドにおける市場シェアはラウンジ総利用量の約68%、クレジットカードによるラウンジ利用量の約95%に達しています。
 航空旅行の増加とともに、クレジットカードの普及率とラウンジ利用頻度の上昇も、同社の成長の原動力となるでしょう。大型空港にはラウンジが複数設置されるため、インドにおける空港ラウンジの数は空港数より早いペースで拡大する見込みで、同社はラウンジ数が2030年までに150に達すると予想しています。クレジットカードの普及に関しては、2023年4月現在のインドにおけるクレジットカード発行枚数は8,500万枚に過ぎませんが、この数は毎月数百万枚のペースで増加しており、同社は2030年までにその数が約4倍になると予想しています。カード決済でのラウンジ利用における圧倒的シェアを考えると、これは同社にとって好材料です。
 同社はアセットライトなビジネスモデルを採用し、高い利益を安定的に確保しているため、ラウンジの利用が増加すれば利益も増加します。同社はさらに、空港における周辺サービスへと事業の多様化を進めているほか、鉄道のラウンジサービスにも進出しています。
 同社にとっての主要なリスクは同業他社との競争であると当ファンドは考えています。同社は現状でこそ圧倒的な存在感を示していますが、競合サービスであるPriority Pass(英国を拠点とするグローバルなラウンジ利用プログラム)はインドの大手銀行と提携することで次第に存在感を高めています。Priority Passは注視すべき競合先ではありますが、DreamFolks設立以前から市場に参入していたことから、過去10年間、DreamFolksに主導権を譲ってきたことになります。ですので競争という点では、当ファンドは既存の事業者より、テクノロジーを通じて業界の情勢を根底から覆す新規企業の参入を懸念しています。
 以上を総括すると、同社は技術的な混乱や新規企業の参入がない限り、売上を高水準で伸ばし続けることが可能で、そのビジネスモデルに内在する高い営業レバレッジを考慮すれば、利益も大きく成長すると予想されます。株価は年初来大幅に上昇していますが、バリュエーションはいまだ魅力的な水準にあると考えています。

韓国の市場改革

 最後に、MSCI先進国指数への組み入れに向けた政府の大規模な取り組みとして、韓国でこの数ヵ月間に発表された市場改革について触れておきます。これまで、外国人投資家からみた韓国市場参入の主な障害は、外国為替市場の閉鎖性と不自由さ、英語による企業情報開示の不十分さ、配当方針の不透明性、登録要件の煩雑さなどでした。
 そうした問題を受けて、韓国市場のアクセシビリティ(組み入れの主要基準)改善を目指した取り組みがいくつか発表されたにもかかわらず、韓国株式市場はMSCI先進国指数の観察対象国から外れ、24ヵ国で構成されるMSCI新興国指数にとどまることになりました。他の主要指標のいくつかは既に韓国を先進国として扱っていますが、最大級のサービスプロバイダーはMSCIであることから、同社の指数に組み入れられれば大いにメリットが得られるでしょう。
 以下は年初以降に発表された改革施策の概要です。まず2月に外国為替市場の改革が発表されました。この改革には、取引終了時間の延長、国内の外為および為替スワップ市場の対外開放が含まれています。さらに当月には、資産規模や外国人持株比率が一定基準を超えるKOSPI上場企業に対し、2024年から英語による重要情報の開示を義務付けるという発表が政府からありました。また、外国人が上場株式や債券に投資する際の事前登録を不要にするという発表が韓国金融委員会(FSC)から出されました。この規制は30年以上にわたって続けられてきましたが、登録義務の撤廃により、外国人投資家は現地での証券口座開設や株式市場への投資がしやすくなります。
 韓国がこのまま市場改革を続けていけば、MSCI先進国指数に組み入れられるのは時間の問題だと思われます。これは市場構成銘柄のファンダメンタルズに直接的な影響をおよぼすものではないかもしれませんが、こうした改革とその結果としてのMSCI先進国指数への組み入れによって、いわゆる「コリアディスカウント」は次第に解消に向かうと当ファンドは考えています。こうした背景から、韓国は引き続き長期投資家にとって割安銘柄発掘の場となることでしょう。

2023年5月の運用コメント

株式市場の状況

 当⽉、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比0.46%下落して⽉を終えました。
 世界経済の減速、米国の債務上限問題、中国における製造活動の鈍化などが懸念され、投資家の間に不安が広がりました。米中関係には未だに緊張緩和の兆しが見られません。中国は「ネットワークセキュリティ上の深刻なリスク」を理由に、主要インフラプロジェクトで大手半導体メーカーであるMicron Technology社(米国)の製品の使用を禁止すると発表しました。米国政府が中国向け半導体製品の輸出を規制したことから、中国当局が対抗措置に踏み切ったという見方が広がっています。
 中国では国営企業の改革が引き続き注目の的となっていますが、これは中国政府が国営企業のガバナンスと収益性の改善に向けた取り組みを強化しているためです。ある規制当局の高官は、投資家は中国国営企業の評価にあたって「中国らしい特色をもった企業価値評価システム」を模索すべきだと述べています。こうした要因から、当月は一部国営企業の株価が上昇しました。
 当月の好材料としては、テクノロジー関連銘柄の上昇があげられます。半導体設計会社であるNVIDIA社(米国)が好決算と良好な業績見通しを発表したことを受けて、アジアの半導体関連銘柄に対する投資家心理が改善しました。同社の半導体は生成型AI(人工知能)「ChatGPT」などのアプリケーションに幅広く使用されており、過去数ヵ月にわたってそうしたアプリケーションの伸びが加速しています。台湾と韓国の株式市場では、テクノロジーセクターの好調な業績が最大の上昇要因となりました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、情報技術セクター、金融セクターなどがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、素材セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Mitra Adiperkasa(インドネシア/一般消費財・サービス流通・小売り)、CLASSYS(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。一方で、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Samsonite International(香港/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
 当⽉は、年初来当ファンドのパフォーマンスにプラスに貢献している「CLASSYS」をご紹介します。
 同社は2007年に設立された韓国の医療用美容機器メーカーで、収益が過去5年間、年平均30%以上伸びており、ROE(株主資本利益率)も30%を超えています。同社の目覚ましい成長の背景には、HIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、⾼密度焦点式超⾳波)療法⽤機器やRF(Radio Frequency、高周波)美顔器のようなエネルギー活用型医療美容機器(Energy Based Device、以下「EBD」)の普及があります。同社経営陣によると、2022年のEBDの世界市場は推定約56億米ドルで、今後3年にわたって年平均12%以上の成長を遂げる見込みです。EBDによる治療は、レーザー、超音波、高周波を用いた非侵襲性美容治療法で、しわ、肌のたるみ、色素沈着、傷跡、堆積脂肪、体や顔のムダ毛など、様々な美容上の要望を満たすものです。

CLASSYSの「Shurink」の台頭

 CLASSYSの美容医療機器「Shurink」は、様々なカートリッジ(1.5mm~13.0mm)を通して特定の皮膚層に超音波エネルギーを送り届けます。焦点を絞り込んだ超音波エネルギーが皮膚の様々な深度で組織に熱を加えて刺激し、顔や体の脂肪部分を標的として、輪郭を描くような動きでコラーゲンとエラスチンの分泌を促します。顧客から見ると、「Shurink」による施術を受けることで、国内外の同業他社より少ない費用で同様の効果(施術時間やダウンタイムが短いこと、痛みが少ないこと)を得ることができます。
 「Shurink」の機器本体とカートリッジは、同社の2022年売上高の約85%、総利益率の約75%、営業利益率の約50%を占めています。これらの指標は業界トップクラスで、製品ポートフォリオを絞った結果、生産と研究にスケールメリットが生まれたことに由来しています。

同社を評価する理由

(1)「替え刃」ビジネスモデル(商品の本体を安く売って顧客を囲い込み、その後の消耗品やサービスで儲けるビジネスモデル)
 前述の通り、「Shurink」には使い捨てカートリッジが付属しており、一般に2~3ヵ月ごとに交換する必要があります。したがって、同社は「Shurink」の耐用年数が過ぎるまで経常的に収益を生成することができます。消耗品の売上比率は機器の累積台数の増加とともに上昇し、利益率も拡大していきます。資本利益率の改善は当ファンドが求める投資の重要な基準の一つであり、消耗品の売上比率の上昇によって、同社収益は今後数年間にわたって拡大を続けると考えられます。
 さらに、このような資本利益率の高い状態が長期的に持続可能かどうかも、調査すべき重要な点です。同社は同業他社数社との製品の差別化を図るため、常に売上高の一部を研究開発費に配分しています。「Shurink」は顔の中でも特にデリケートな部分の施術にあたって施術者のコントロールと安定性を高める円形回転ハンドピース「Booster Cartridge」の特許を取得しました。小さな前進ですが、同社が競合先に先行するためには重要な一歩だと考えます。
(2)海外での成長性
 同社の製品は世界60ヵ国で販売されています。韓国は依然として売上高の約37%を占める最大の市場ですが、ブラジル、日本、タイ、オーストラリアといった主要輸出先は最大市場規模が大きく、急速に成長しています。経営陣は輸出が今後数年間で年平均20~30%成長するという見通しを示しています。
(3)新型RFデバイス「Volnewmer」の動向
 人気の「Shurink」とは別に、同社は2022年10月、同社初のRF機器となる「Volnewmer」を発売しました。初期の販売状況、消費者や医師からのフィードバックは良好ですが、発売から間がないことから、同製品の長期的動向はまだ判断できません。同社は「Volnewmer」を高級機器として位置づけ、価格よりも技術的優位性を売りにしています。同業他社製品との主な違いは、①水冷技術による施術時間の短縮と優れた効果、②ティルティング機能(座面を傾斜させる機能)と操作性の改善、などが挙げられます。

 最後に同社のバリュエーションについてですが、当月末時点でPERは約20倍となっています。バリュエーションは現行水準でも妥当と考えられることから、今後も同社を主要銘柄として保有していく予定です。

2023年4月の運用コメント

株式市場の状況

 当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。日本を除くアジア市場に使用される⼀般的な指数であるMSCIアジア(日本を除く、米ドル建て)指数は、前月末比2.07%下落しました。世界経済の低迷、米国の銀行危機の波及、中国の製造活動の鈍化に対する懸念が広がり、慎重姿勢をとる投資家が増加しました。米バイデン政権が最先端技術や機器の中国への輸出規制を厳格化する意向を示したことから、米中間の緊張はますます高まりました。
 また、スマートフォンやPCの需要低迷が、引き続きテクノロジー銘柄の重石となっています。Samsung Electronics(韓国/情報技術)は、主力の半導体メモリーの需要低迷が原因で、2023年1月~3月期決算が低調でした。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/情報技術)も、半導体業界の成長が短期的に弱含むという予想を明らかにしました。ただし両社はいずれも、将来的に成長が見込める技術の研究開発と投資を続け、半導体関連製品、とりわけ自動車、AI(人工知能)、データセンター、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)の構造的な需要増加に対応していく意向を示しました。
 一方、コロナ禍後の回復が続いたことが、アジア全域のサービスセクターの追い風となりました。海外へ出かける人も多く、とりわけ復活祭期間中の旅客数が堅調でした。中国人旅行者の姿が香港に戻り、ショッピングモール等の小売売上高が好調に推移しています。
 インドネシアとインドは、外国企業の生産拠点移転先としての人気がますます高まっています。インドネシアに対するルピア建て海外直接投資(FDI)は2023年第1四半期だけで前年同期比20.2%増加し、この勢いは今後も続くと当ファンドは考えています。Apple社(米国)のティム・クック最高経営責任者(CEO)はインドを訪問し、同国への投資をさらに拡大し、同社輸出製品の生産拠点としての役割を漸次拡大していくと発表しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比2.07%下落して⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、資本財・サービスセクター、金融セクターなどがプラスに貢献し、情報技術セクター、コミュニケーション・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)などがプラスに貢献しました。一方で、China MeiDong Auto Holdings(中国/小売)、Binjiang Service Group(中国/商業・専門サービス)などがマイナスに影響しました。
 当月は当ファンドの組入銘柄の多くが堅調な株価推移となりました。一方、中国の自動車関連銘柄は2022年末にEV(電気自動車)の補助金が終了したことで消費需要が引き続き低迷し、業界内の競争が熾烈化しました。
 以前の月次レポートで取り上げたように、当ファンドはインドネシア銘柄の組入比率を高めに設定しています。インドネシアはタイとともに東南アジアにおけるEVの主要ハブとなることを目指しており、ステンレス鋼の生産に使用されるニッケル銑鉄やバッテリーの陰極に使用される混合水酸化物析出物といった、より付加価値の高い製品の輸出を拡大させています。経常黒字の安定化は通貨の安定につながり、インドネシアルピアはアジア地域でも堅調な値動きをみせる通貨の1つとなっています。当月のコアインフレ率は前年同月比約2.8%上昇となりました。

Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/食品・飲料・タバコ)

 同社は1982年に設立されたインドネシア最大級の加工食品メーカーです。軽食類、調味料、乳製品など様々な食品を製造、販売しており、中でも即席麺が売上高と営業利益において高い割合を占めています。
 同社は世界で最も売れている即席麺の1つである「Indomie」のブランドを保有しており、インドネシア、エジプト、ケニア、ナイジェリア、サウジアラビア、トルコで市場シェアの上位につけています。現地で「ミーゴレン」と呼ばれる焼きそばはインドネシアで定番の屋台料理で、一般にインドネシア各地のミニマートや屋台で販売され、家庭でも食されています。
 インドネシアでは人口と労働者階級の増加に支えられ、即席麺の消費が安定的に増加傾向にあります。また、既存製品の値上げなどもあり、同社の国内即席麺事業は今後も成長を維持できると当ファンドは考えています。
 同社の過去10年間の粗利益率は、2011年から2020年にかけて大幅に上昇しています。2022年にはロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルス感染症の流行に起因する供給不足によって小麦やパーム油(CPO)といった主要原材料価格が急騰したため、利益率は低下しましたが、小麦とパーム油の価格は2022年の半ばに上げ止まり、今年に入ってからは正常化しています。同社は国内で製品の値上げを実施し、投入コストが正常化したことで、粗利益率は2022年下期には回復しました。一般的に値上げを行うと価格弾力性が働き、需要が減少します。しかし、同社の即席麺「Indomie」はブランド力と販売力に強みがあり、国民の多くに愛されていることから、1桁台の値上げなら容易に価格転嫁でき、販売数量への影響はそれほどないと当ファンドは考えます。「Indomie」の独特の味は複数世代にわたってインドネシア国民に親しまれており、国内で最も近い競合製品である「Mie Sedaap」(Wings Group社(インドネシア)製)を購入するより、少し高い料金を払っても「Indomie」を購入した方がよいと考える現地の人が多いようです。同社はインドネシアの即席麺市場で第2位のWings Group社と大差をつけて高いシェアを占めています。
 日本や韓国、中国といった先進国では市場が成熟しているため、時間の経過とともに製品が高級品化する傾向がありますが、インドネシアは人口1人あたり所得曲線が未だ低い位置にあることから、まだそうした段階には達していないと当ファンドは考えます。日清食品ホールディングス㈱、NONGSHIM社(韓国)、Ottogi社(韓国)といった他メーカーもインドネシアで製品を販売していますが、価格帯は「Indomie」より数倍高くなっています。この3社は高級志向の消費者のシェアを奪っている可能性がありますが、「Indomie」の味は外国製品にはない現地独自のものとなっているためすぐに大きな脅威とはならないと当ファンドは考えます。
 同社は2020年5月にPinehill Group社(香港)を約30億ドルで買収しました。Pinehill Group社は中東、アフリカ、東南ヨーロッパの8ヵ国で最大の「Indomie」ブランド製品の製造、販売事業者です。Pinehill Group社の商圏人口は8億8,500万人を超えており(輸出市場を含む)、各国の人口1人あたり即席麺消費量は年間20食未満ですが、一人当たりの消費量が増加傾向にあるため、今後販売量の拡大が見込まれています。
 ただし、Pinehill Group社がIndofood CBP Sukses Makmurの代表取締役社長兼オーナーであるAnthony Salim氏の傘下に収まったことから、両社の合併は市場に好感されませんでした。Salim氏は当時Pinehill Group社の株式の約半数を保有しており、そうした関係からPinehill Group社の買収に支払う金額が高すぎるという疑念が生じたのです。こうしたガバナンス面での不安や、買収資金が主に債務で賄われたことが問題視されて、Indofood CBP Sukses Makmurの株価は大幅に切り下がり、PER(株価収益率)は2020年の年初の約25倍から、買収が行われた2022年5月末には約15倍まで低下しました。当ファンドではバリュエーションに割安感が出てきたことから、2023年第1四半期に同社を組み入れました。同社はPinehill Group社の買収によって成長余地が大幅に拡大し、今後5年間は2桁の利益成長、ROEは20%程度を維持できると当ファンドは考えています。同社の今後の動向は、今後の月次レポートでお伝えしていく予定です。

2023年3月の運用コメント

株式市場の状況

 アジア株式市場は当月、軟調な値動きで幕を開けましたが、その後反発して月を終えました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、3.51%上昇しました。世界経済の悪化に対する懸念、米シリコンバレー銀行の破綻、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの買収提案などが相次いだことで、投資家の信頼感は揺らぎ、金融システムにその余波が及ぶのではないかという懸念が広がりました。FRB(米国連邦準備制度理事会)とスイス当局の迅速な対応によってリスクは回避され、市場は足元では落ち着いていますが、世界の銀行セクターに長期にみてどのような影響を及ぼすのかは未だ不透明です。
 当月、中国では年に1度の全国人民代表大会が開催されました。予想通り習近平氏が過去に例のない3期目の国家主席に選出され、新首相には李強氏が選出されました。GDP成長率は5%程度と控えめな数値に設定され、内需拡大策、企業の信頼感向上策、ならびにEV(電気自動車)、グリーンエネルギー、人工知能(AI)、先進的製造業、半導体といった主要産業のテコ入れ策などに注力することが発表されました。また、不動産セクターとインターネットセクターの規制緩和を示唆する発言もありました。これを受けて投資家心理が好転し、中国市場と香港市場は堅調なパフォーマンスを記録しました。
 ASEAN諸国では外国企業による生産拠点設置の動きが続いています。インドネシアはニッケル鉱石の埋蔵量が豊富であることから、EVとそのサプライチェーンに関わる企業に対する海外からの投資が拡大しています。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、ヘルスケアセクター、資本財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、一般消費財・サービスセクター、生活必需品セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、NWS Holdings(香港/資本財)、CLASSYS(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。一方で、BOE Varitronix(香港/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Alibaba Group Holding(中国/小売)などがマイナスに影響しました。
 2023年第1四半期の当ファンドのパフォーマンスは1.86%の上昇となりました。一方、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、円建て)指数は、前四半期⽐5.29%上昇しました。
 市場は本質的に変動するものだという事実を踏まえると、短期的なアンダーパフォームが時折発生することは想定の範囲内です。当ファンドでは中長期的に高いリターンを生み出すことを目指しているため、月次のパフォーマンス動向に一喜一憂することなく、投資先のファンダメンタルズと今後の見通しをより重視しています。今回のレポートでは、当ファンドの主要組入銘柄であるNWS Holdings(⾹港/資本財)とChina State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)について、最新の見通しを記載いたします。両銘柄は様々な理由から本来の価値より大幅に割安な価格で取引されていると考えられます。

NWS Holdings(⾹港/資本財)

 同社は香港を拠点とするインフラ関連のコングロマリットで、株式の61%をNew World Development社(香港)が保有しています。2020年以降、コロナ禍によって甚大な打撃を被りましたが、キャッシュフローの安定性に支えられ、配当を持続的に増額するという方針を遵守しています。主力事業は道路、建設、生命保険で、グレーターベイエリア(⼤湾区)を中⼼とする成⻑戦略を⽴てています。2月下旬に発表された2023年度上半期(2022年12月までの6ヵ月間)決算をみると、AOP(調整後営業利益)は21億香港ドル(前年比11%減)、純利益は11億香港ドル(同27%減)でした。利益低迷の主な原因は、トラックの通行料金が10%値下げされたこと、一部高速道路に金銭的なインセンティブがなかったために道路セグメントに悪影響が及んだこと、2022年5月に売却したGoshawk Aviation Limited社(アイルランド)(GAL、同社の商業用航空機リース事業)の寄与がなかったことです。通行料金の値下げは中国政府がゼロコロナ政策を転換したことで撤回されましたが、GALの売却は翌四半期にも影響を及ぼすことになると当ファンドは考えております。2023年度上半期の好材料としては、成都と武漢で買収した物流施設5件の寄与、施設管理事業のAOL(同社に帰属する営業損失)の縮小、戦略的投資事業の回復などが挙げられます。
 同社は継続的に配当利回りが高いことから、当ファンドは上位での保有を継続しています。2023年上半期には中間配当0.30香港ドルの支払いを発表しており、道路事業、建設事業、生命保険事業の利益はゼロコロナ政策の転換を受けて大幅に改善するというのが当ファンドの見方です。同社の建設事業はHK Convention and Exhibition Center(HKCEC、香港にある会議施設や展示施設、ホテル、住宅等を併せた複合施設)と免税店、Gleneagles Hong Kong(香港島南部を拠点とする民間の高級病院)の業務で構成されています。香港では海外旅行が再開しているため、こうした施設の収益性は著しく改善する見込みです。HKCECは2023年にイベントや見本市の開催件数を既に大幅に増やしており、前月末にも大型のイベントが開催されるなどコロナ禍以降で初めてとも言えるフル稼働状態にあります。免税店事業については、香港と中国本土の間の往来が再開し、同社の免税店の一部も営業を再開しました。Gleneagles Hong Kongの収益性はコロナ禍期間中の2021年5月から現在に至るまで好調です。2022年12月の病床平均使用率は66%で、EBITDAマージン(売上⾼に占める償却前営業利益の割合)は順次改善しています。生命保険事業については、コロナ危機前の年間保険料換算は中国本土からの来訪者によるものも多かったことから、本土との往来の再開によって今後1年で需要が著しく増加すると当ファンドは考えております。
 資本配分の観点からみると、同社は事業ポートフォリオの最適化を継続しており、成熟した事業を売却し、道路や物流など付加価値の高いプロジェクトへの再投資を続けています。実際、2018年下半期から2023年上半期にかけての事業売却の対価は総額300億香港ドル近くに達しており、その資金の大半が道路、建設、生命保険の各事業に再投資されています。この1年間だけで、商用航空機リース事業の売却に続き、Guigang-Wuzhou Expressway株式の40%、Sui-Yue Expressway株式の残り持分60%、蘇州の物流施設の買収を実施しています。借入資金の面では、経営陣が金利上昇の影響軽減に取り組んだことで、純負債残高は57億香港ドル減少し、正味借入比率は11%に低下しました。
 以上より、同社の主力事業は2023年に回復を続け、累進配当方針が遵守されるため、今後は配当利回りが8.7%を下回ることはないというのが当ファンドの見方です。正常化ベースでは、今後3年間の総株主還元率は15%を超えると当ファンドは予想しています。成長率とROE(株主資本利益率)がそれほど高くないことを踏まえると、同社は質の高さを重視する投資家の投資対象ではありません。しかし成長の質が高いということは、裏を返せばバリュエーションが高いということでもあります。同社はバリュエーションが低いため、投資の好機だと当ファンドは考えています。足元の同社株式は純資産価値(NAV)を約60%ディスカウントした価格で取引されており、長期平均の約40%を大きく下回っています。バリュエーションと配当利回りは逆相関の関係にあります。高配当利回り、1桁台半ばの正常化ベースの成長率に加え、収益見通しが改善するにつれて、NAVのディスカウントが縮小し、株価も切り上がると考えられます。

China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)

 同社は、China State Construction International Holdings(香港/資本財、以下CSCI)のファサード(カーテンウォール)請負部門で、2022年の売上高は約77億香港ドルで前年比21.8%増、純利益は約4億2,200万香港ドルで、同44.5%増という好調な決算を前月発表しました。同社は海外の不採算事業から撤退する一方で、親会社のCSCIと連携し、そのリソースを活用して中国本土で事業を成長させています。2022年末時点で新規受注額、受注残とも前年比で大幅増となっており、今後数年間の見通しは良好です。
 同社の過去5年間(2017年から2022年)の売上高と純利益の年平均成長率(CAGR)はそれぞれ20%、29%で、10%台半ばだったROE(株主資本利益率)は2022年には20%を超えるまでに改善しています。同社は2025年までに純利益10億香港ドル(同期間のCAGR39%)の達成を目指す計画を据え置きました。しかし、堅調な会社計画と優れた実績にもかかわらず、同社の予想PER(株価収益率)は7倍台です。同社がいまだに過小評価されている主な要因は以下の通りです。

香港とマカオ市場の成長性の限界に対する懸念があること。

  • 香港とマカオはいずれもコロナ禍で大打撃を被りましたが、地方政府はそれぞれ今後10年間の主要インフラプロジェクトの予定を既に発表しているため、カーテンウォールの需要は旺盛な状態が続くと考えられます。
  • 香港では2022年10月の政策対応で、今後10年間の病院、芸術文化施設、スポーツ施設、レクリエーション施設の開発計画が発表されました。政府は香港と中国本土の統合を強化する目的で、1,000億香港ドルを支出し、香港と深圳の境界で300平方キロにおよぶ北部都会区に250万人を居住させる予定です。香港政府はさらに、50万人を超える市民に手頃な価格の住宅を供給する目的で、Lantau Tomorrow Vision(香港の開発プロジェクト)に6億2,400万香港ドルの予算を割り当てるという発表を行いました。香港政府の年間インフラ予算は昨年の800億香港ドルから今後5年間で倍増すると当ファンドは予想しています。
  • マカオでは、数か月間にわたってさまざまな推測がされる中で、カジノの主要運営事業者6社すべてが2023年1月から10年間のライセンスを更新しました。カジノ運営事業者は代わりに1,190億マカオ・パタカ(約148億米ドル)をギャンブル以外の事業に投資します。これはマカオがギャンブル事業への依存度を軽減し、家族向けの観光地へと脱皮することを目指しているためです。

中国本土の不動産市場の見通しが低調であること。

 同社は居住用物件も手掛けていますが、物件の大多数は基本的に商用不動産です。同社はいくつかの大手企業との契約を締結していますが、これは研究開発センターや企業の本社建設需要が旺盛であることを示しています。同社はブティック型の小売スペースでも存在感を高めており、Apple社(米国)、NIKE社(米国)などの店舗も建設しており、更に本土進出を模索している香港の開発事業者との強固な関係も活用しています。同社の選別的注力分野は、競争が比較的少なく、需要が一層底堅く、同社の6つの主力技術(超高層ビル用ガラスのカーテンウォール、複雑な商業施設のカーテンウォール、2層の通気性カーテンウォール、防爆カーテンウォール、防火カーテンウォール、パッシブカーテンウォール)や組込式太陽光発電システム(BIPV)、プレファブ建設(MiC)といった比較的新しい技術によって差別化できる高額プロジェクトです。

国営企業と連携していること。

 投資家の多くは国営企業のリターンは低く、コーポレートガバナンスが不十分であると考えていますが、同社は例外であると考えられます。同社はCSCIの支援によって、中国本土から多くの顧客を獲得しています。さらに、国営企業の多くはファンダメンタルズが強固であるにもかかわらず、大幅なディスカウントつきで株式が取引されてきたことから、政府はその改革を推進してきました。

流動性が低いこと。

 同社の過去1年間の日次平均出来高は比較的小さいことから、大手機関投資家の多くは投資対象から同社を除外していると考えられます。2022年6月に同社は1株あたり2.20香港ドルで1億株を新規発行する形で資金調達を行いました。一部投資家は株式の希薄化と必要な運転資本の増加を懸念していましたが、これは近視眼的な見方に過ぎず、実際には過去5年間のうち4年間でキャッシュフローがプラスであることから、MiCのような新しい技術を背景に、キャッシュコンバージョンサイクル(仕入債務から売上債権回収までの日数のこと)はさらに改善する見込みです。

 ファンダメンタルズを重視する投資家として、当ファンドは収益とキャッシュフローの成長が長期的なバリュエーションの牽引役となると考えています。同社経営陣は、今後3年間の利益の年平均成長率は39%、ROEは20%を超えると当ファンドでは予想しています。予想PERは7倍台で、リスクリワード(取引において取るリスクに対する利益の比率)は上振れする可能性があります。

2023年2月の運用コメント

株式市場の状況

 アジア株式市場の大半は、1月に堅調に推移した後、当月は下落しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、6.81%下落して⽉を終えました。
 これは主に、MSCI中国(米ドル建て)指数の同10.37%下落が影響しました。中国の経済活動再開を受けた消費回復に関する好調なデータにもかかわらず、米国領空内の中国の偵察気球疑惑を巡って米中間の緊張が再燃し、人民軍と関係する中国企業に対する制裁が強化されたことで、投資家心理は冷え込みました。また11月以降に大きく上昇していた中国のインターネット関連銘柄も、高まる規制懸念やJD.com社(中国)による積極的な補助金キャンペーンを契機とした価格競争の可能性を受けて、下落に転じました。
 米国の力強いインフレおよび労働市場データも、米国利上げのペース加速と長期化に対する懸念を引き起こし、新興市場の株価に下押し圧力を加えました。インドの指数は当月もAdani危機が重石となり、Adani group社(インド)関連銘柄は大幅にアンダーパフォームしました。台湾のテクノロジー企業は、2022年第4四半期決算説明会で2023年第1四半期の低調な収益見通しを発表しましたが、一部の投資家はそれをサイクルの「底」と解釈し、一部企業の株価の下支え要因となりました。また、最近のChatGPT(AIチャットプログラム)の急速な普及が、半導体やメモリの需要増につながる可能性を指摘する声もあります。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、金融セクターがプラスに貢献し、一般消費財・サービスセクター、情報技術セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Mitra Adiperkas(インドネシア/小売)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)などがプラスに貢献しました。一方で、Alibaba Group Holding(中国/小売)、Shenzhou International Group Holding(中国/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。

中国

 株価は下落したものの、中国経済はコロナ規制の緩和後、引き続き急ペースで正常化に向かっています。
 一方、米国領空内の中国の偵察気球疑惑を巡って米中間の緊張が再燃しました。この事件を受けて、米国は人民軍と関係する中国企業に対する制裁を強化しました。もう1つの注目すべき記事として、中国の国有企業は世界4大会計事務所(PwC社、EY社、KPMG社、Deloitte Tohmatsu Consulting社)との取引を段階的にやめ、国内会計事務所と契約するよう当局から求められていると報じられました。緊張関係が続くなかで、Apple社(米国)の主要サプライヤーの多くは、中国からベトナムやインドなどの国に大規模な移転を計画していると報道されています。
 国内では、規制面の逆風が緩和される最中に、JD.com社による100億元の補助金拠出計画が発表されました。これは、eコマース(電子商取引)の既存企業がPinduoduo(PDD、中国のeコマースプラットフォームのひとつ)やTikTokなどのショートビデオプラットフォームの追い上げをかわそうとする中で、セクター内の競争が再燃していることを裏付けるものです。外部環境と競争の強度が大きく変化したことを受け、当ファンドは保有していた同社の株式を売却しました。JD.com社の主要カテゴリである日用消費財(FMCG)とコンシューマーエレクトロニクスは、実店舗販売が再開されたことで正常化の兆しを示しています。それよりも懸念されるのが、大都市で加速するPDDの普及です。PDDで旗艦店を開設するブランドが増えており、Alibaba Group Holding(中国/小売)やJD.com社はいずれもシェアを失っています。JD.com社の競争優位性は、より迅速で信頼性の高い配送時間を可能にする、社内物流ネットワークにあります。家電など大型製品のカテゴリにおける同社の物流面の優位性は変わらないとみられますが、FMCGやコンシューマーエレクトロニクスについては、全国規模の食品配達ネットワークを活用して食品以外の商品も配達しているMeituan Instashopping(Meituan(中国/小売)が提供する即時配達サービス)などにシェアをさらに奪われるリスクがあります。中国のeコマース業界は、過去の主な成長ドライバだったユーザー数の伸びという点で、成熟段階に到達しています。JD.com社の年間のアクティブ顧客基盤はコロナ禍の後押しがあったにもかかわらず、ここ数年間はほとんど増加していません。同セクターは依然としてダイナミックですが、ショートビデオプラットフォームはユーザーの利用時間で勝っており、広告とGMV(流通取引総額)の両方でシェアを伸ばしていることから、既存企業の優位性を少しずつ低下させています。

実店舗のデジタル化

 先進国市場でオンライン店舗への移行が続く中、最近見られる1つのトレンドが、O2O(オンライン・ツー・オフライン、オンラインで情報発信をして集めた顧客を実店舗へ誘導して購買を促すこと)の導入です。これは、オンライン小売業者が商品の集荷および配送や、顧客獲得(体験、ブランディング)の拠点として、実店舗の重要性を認識したことによります。Amazon社(米国)は2017年8月に、Whole Foods社(米国)を137億米ドルで買収して話題になりましたが、それ以降の売上高成長率は10%程度に留まっています。Amazon社のAndy Jassy最高経営責任者(CEO)は、こうした現状に気落ちすることなく、実店舗を「大規模に展開」し、「選別、精算方式、品ぞろえ、プライスポイント(お店の商品の中で最も売れている売れ筋商品の価格)」について実験を続ける準備ができていると述べました。これは、実店舗が今後も重要な形態であることに変わりなく、オンライン店舗と共存していくことを意味します。同時に、実店舗(特にスーパーマーケット)では、コロナ禍を原因とする人手不足やインフレによってデジタル化が進行しています。実店舗はすでに薄利であったため、従業員の生産性向上とコスト構造の最適化を実現する方法を見つけ出す必要に迫られていました。コンサルタント企業のMcKinsey&Company社(米国)によると、ESL(電子棚札)ソリューションは実店舗のデジタル化を促進しており、小売業の利益率を3~5%高めると予想されています。こうした動きから主に恩恵を受けると考えているのがE-Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)です。

E-Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)

 E-Ink Holdings(以下、E-Ink)は電子ペーパー技術の草分けかつ商業リーダーであり、高い世界市場シェアを有しています。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが発明したE-Inkは、2009年に台湾の液晶ディスプレイメーカーであるPrime View International社によって買収されました。その後、同社は液晶ディスプレイ事業から撤退し、社名をE-Ink Holdingsに変更する傍ら、電子ペーパー市場の発展と成長に尽力しました。
 2007年11月に電子書籍リーダー(Amazon Kindle)が発売されて以降、電子ペーパーは次第に知られるようになりました。電子書籍リーダーにより、読書はより便利になりました。電子書籍リーダーはソフトカバーの本よりもコンパクトかつ軽量で、フォント、フォントサイズ、明るさを調整できます。より重要なのは、印刷版よりも安く購入可能な、Amazon社の膨大な電子書籍ライブラリにユーザーがアクセスできるようになったことです。ノートパソコン、タブレットなどの標準的な液晶ディスプレイと比較した際の電子ペーパーの主な優位性としては、電力消費が大幅に少ないこと、バックライトのない反射ディスプレイ、軽量で柔軟性がある、粉砕防止などの特性が挙げられます。紙のようなディスプレイを実現しているのが、インク粒子でできた白黒のマイクロカプセルに逆電圧をかけることで画像を作り出す電気泳動技術です。その結果、画像は反射特性を持つため、環境光は紙と同様にディスプレイの表面で反射されます。光沢がなく、ブルーライトを発しないため、特にまぶしい場所での読書が容易になります。さらに、180度近くの視野角が可能なのも、標準的な液晶モニターよりも優れた点です。Amazon Kindleの成功は、ソニー㈱、富士通㈱、Barnes and Noble社(米国)、Kobo社(カナダ、2012年に楽天グループ㈱により買収)などさまざまな競合企業の参入を招きました。
 電子書籍リーダー市場は2010年初め以降、成熟してきましたが、最近のイノベーションによって、この分野への関心が再び高まっています。それは、タッチペンによるサポート(書き込みやすさ)と、画期的なカラー電子ペーパーです。カラー電子ペーパーは2013年に初めて開発されましたが、商業化までに数世代を要し、2019年には、Onyx Boox Nova ColorやPocketBook Inkなど、いくつかのカラー電子書籍リーダーが発売されました。これらは従来の白黒のE-inkディスプレイにカラーフィルターを適用する、E-InkのKaleido技術を活用したものでしたが、Kaleidoディスプレイは4,096色と100ppi(1インチ当たりピクセル)に限定されており、色の彩度が低くあまり人気が出ませんでした。2022年初めに発表された最新の第3世代E-Ink Gallery 3は、表示カラー50,000色以上(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4つの色域によるCMYWカラーモデルに基づく)、解像度は300 ppi、前世代よりもはるかに使い勝手の良いリフレッシュ速度という性能を備えています。E-Ink Gallery 3はPocketBook Vivaを皮切りに、今年から出荷を開始します。プライスポイントが妥当であれば、既存の多くのKindleユーザーがカラーバージョンにアップグレードするのは自然だと当ファンドでは考えます。また、カラー電子書籍リーダーにより、デジタルライブラリは漫画、グラフィックノベル、子ども向け童話集、教科書などへと大きく拡大するとみられます。一般に普及するためには、コストとリフレッシュ速度が依然として障害になる可能性があることを当ファンドは考えていますが、この問題は今後数年以内に解決されると引き続き楽観しています。
 2020年以前のE-Inkの中核事業はコンシューマーエレクトロニクス、具体的には電子書籍リーダー装置向けの電子ペーパー材料およびモジュールの販売でしたが、過去3年間の同社の成長のほぼすべてはESL(電子棚札)によるものでした。ESLソリューションの大手システムインテグレーターによると、2022年のESLの普及率は1桁台半ばから後半になると推定されます。今後5年間の年平均成長率(CAGR)を25~30%と予想しています。
 当ファンドは、コロナ禍収束後の世界でESLシステムへの移行が続くと確信しています。その理由は、人件費の削減に尽きます。ESLシステムにより、値札は手作業ではなくリモートで更新されます。簡単な例を挙げると、あるスーパーマーケットに3万品目あり、1つの値札の変更に20秒かかるとすると、実際の作業に約165時間かかります。一部の品目、特に営業終了間際に値引きされる生鮮食品などは、1日に何度も値札を変更する必要があります。業界関係者によると、ESLシステムの採用にかかる費用の回収には6~24ヵ月ほどかかりますが、一度採用されれば、永久にコストを削減できます。現在、多くのESLにはセンサーや照明も付いており、より迅速な在庫補充が可能になるとともに、集荷スタッフや顧客のナビゲーションツールとして機能しています。値引きは直ちに適用されるため、在庫の回転が早まり、廃棄の削減が見込まれます。
 ESLを最初に採用したのはスーパーマーケットですが、他の分野も電子ペーパーの使用による恩恵を受ける可能性があります。最初に思い浮かぶのが、アパレルや家電量販店など多くの品目を扱う分野で、人件費削減による恩恵をすぐに実感できるでしょう。公共交通機関や病院は人件費削減よりも、電子ペーパーによる電力使用量削減や双安定性といった特性から恩恵を享受すると考えられます。電子ペーパーは世界の多くの都市の交通システムにおいて実証実験が行われています。まず、双安定性によりディスプレイは静的となり、電源が切られても最後の画像が残るため、公共および緊急時の標識として役立ちます。また、電力使用量が少ないため、バスの時刻表や地図情報の表示に必要な電力はソーラーパネルおよび電池システムによって自給できます。これにより、液晶ディスプレイに電力を供給するための電気ケーブルの地下敷設に必要な土木作業が不要になります。PER(株価収益率)18.5倍(2022年12月)というE-Inkのバリュエーションは、上述の長期的な成長見通しを十分に織り込んでいないと当ファンドは考えており、当月保有ウエイトを引き上げています。

2023年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年はアジア株式市場の大半が好調な滑り出しを見せました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、8.22%上昇して⽉を終えました。台湾、韓国、中国、香港が好調だった一方、インド、インドネシアがマイナスとなりました。
 中国では経済再開の動きが継続しました。春節(旧正月)期間中の旅行や支出額に関する統計指標は堅調で、新型コロナウイルスの感染者数にも増加の兆しが見られないため、今後も経済再開の動きは継続するものと思われます。これを受けて中国のインターネット関連銘柄、EV(電気自動車)関連銘柄がアウトパフォームしました。
 台湾と韓国の堅調なパフォーマンスを牽引したのはテクノロジー関連セクターでした。半導体セクターについては、2023年上半期業績に関する不安感は拭えていないものの、投資家が短期的な株価動向以外にも目を向け、データサーバやAIアプリケーション、自動車、IoT(モノのインターネット)などによってセクター全体が再び構造的成長軌道に乗ることへの期待が高まったため、株価が反発しました。一方、インド株式市場では資金の流出が続きました。その一因は投資家が再び資金を中国、台湾、韓国に配分していることにあります。加えてAdani Group社(インド)の危機で時価総額が約1,080億米ドル(約13兆9,000億円)消失したことによって、国有銀行のコーポレートガバナンスや潜在的損失に関する懸念が生じ、投資家心理が悪化したことも要因の一つです。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
 セクター別では、一般消費財・サービスセクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、金融セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Taiwan Semiconductor Manufucturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Alibaba Group Holding(中国/小売)、Tencent Holding(中国/メディア・娯楽)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、ICICI Lombard General Insurance(インド/保険)、Meituan(中国/小売)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)などがマイナスに影響しました。

中国

 中国は3年ぶりにコロナ関連の行動規制のない春節を迎えました。旅行とホスピタリティの繰越需要が盛り上がり、サービスセクターは活況を呈しています。中国交通運輸部のデータに基づくと、1月7日から1月28日までの公共交通機関による推計旅行者数は前年比約56%増となったものの、いまだに2019年と比較すると約53%に留まっています。春節期間中の総旅客数は3億800万人(2019年の約89%)となり、旅行代理店と関連サービスの売上高は3,750億元(約7兆2,260億円、同約73%)に達しました。
 当ファンドは2022年10月からインターネット、消費、インフラ関連銘柄を中心に香港と中国の組入比率を高めており、当月はそうした銘柄がアウトパフォームしました。インターネット大手のAlibaba Group HoldingやTencent Holding、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)NWS Holdings(香港/資本財)、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)やLi Ning Company(中国/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。昨年後半にインターネットセクターの規制が緩和され、Ant Group社(中国)のコーポレートガバナンスが最適化され、自社株買いが増額されたことを受けて、当ファンドは Alibaba Group Holdingの株式を買い増しました。同社は2020年11月にAnt Financial社(中国)の新規株式公開(IPO)が延期され、規制が厳格化されてから株価が下落した一方で、Pinduoduo社(中国)をはじめとするeコマース(電子商取引)新規参入企業に市場シェアを奪われたこと、DouyinやKuaishouといったショートビデオプラットフォームの脅威が迫ってきたことで、市場の懸念が高まっていました。顧客管理事業の売上(広告費、手数料)や利益率はさらに圧縮される可能性があるため、こうした懸念が生じるのも理解できますが、バリュエーションの低下は行き過ぎていたと考えます。同社は世界最大の販売業者網、強力な物流ネットワーク、決済基盤に支えられていて、10億人近いオンライン顧客が真っ先に利用するショッピング手段であることに変わりはなく、程なく市場動向の鍵を握る存在になると考えています。当ファンドはこの分野における消費動向の進展を引き続き注視していきますが、現状では投資家の期待が低いため、少しでも成長に加速の兆しが現れれば、バリュエーションの見直しが進むきっかけになると思われます。

インドネシア

 ジャカルタ総合指数は、前月末比0.16%下落して月を終えました。テクノロジーセクター、運輸セクターなどがパフォーマンスにプラスに貢献した一方で、消費財やエネルギー関連銘柄は指数を下回りました。中でもエネルギーセクターが大幅にアンダーパフォームしました。コモディティの価格変動によってリターンは短期的に大きく変動する可能性がありますが、インドネシアは低価値鉱石輸出国からステンレス鋼やEV(電気自動車)電池業界の川下原材料の主要生産国へと脱皮する構造的な変革の最中にあると当ファンドはみています。輸出の付加価値が高くなれば、貿易黒字を持続できるようになり、通貨の安定性も高まります。
 2022年に株価が上昇した市場は世界を見回してもほとんどありませんが、インドネシアはその1つです。それを可能にしたのは、通貨ルピアの安定、インフレ率の低さ、コモディティ市場の底堅さといった要因でした。コモディティの輸出は間違いなくインドネシア経済にとって重要な役割を果たしていますが、同国は原油とガスの純輸入国で、2021年までの20年間の多くで経常収支が赤字でした。新興国の多くはコモディティ輸入に対する依存度が高く、米ドルの資金調達が必要で、自国通貨が外部要因による価格変動の影響を受けやすいという弱みを抱えています。しかしインドネシアは鉄鉱石と鉄鋼の輸出拡大によって、2021年下期に経常黒字を記録しました。この流れは2022年も続きました。市場を細かく観察していれば、こうした輸出の増加は同国産業の川下部分が成長したことの直接的効果であることに気づくでしょう。この効果は政権幹部の政策措置によって現在進行形で現れています。
 インドネシアは近年、ジョコ大統領の指揮下で国内における鉱物精製の推進と加工業界の強化に国を挙げて取り組んでいます。2014年のニッケルを含む未加工鉱石の輸出を禁止するなど鉱物輸出にはこれまで様々な規制がありましたが、ニッケルの輸出は2020年1月に全面禁止となりました。直近では2023年6月からボーキサイト(アルミニウム鉱石)を禁輸すると発表し、錫と銅についても禁輸の可能性があることを示唆しています。ジョコ大統領は、関税の賦課は「付加価値をできるだけ高める」ためであると強調しています。同大統領の政権下にあって、同国のニッケル関連輸出高は2014年の11億米ドルから2022年の209億米ドルに急増しました。
 インドネシア投資庁のルフット大臣は当月、インドネシアは「2027年までに、リチウムイオン電池の世界3大生産国の1つになる」ことを目指すと述べました。生産は早ければ2024年にも開始される可能性があります。同国は主要EV電池メーカーであるCATL社(中国)やLG Energy Solution社(韓国)などの大規模な投資を誘致しているため、これは単なる机上の理論ではありません。CATL社は2022年4月、インドネシアの国有企業Aneka Tambang社、Indonesia Battery Corporation社と約60億米ドル規模の共同投資を行い、掘削から電池生産までを一貫で行う複合施設を開発すると発表しました。またLG Energy Solution社を中心とするコンソーシアムは同月、「EV電池の包括的バリューチェーン」構築に向け、上記国有企業と約98億ドルの投資契約を締結しました。
 こうした構造的シフトによって経済の持続的発展が実現し、国民1人当たりの所得が増大することで、インドネシアは今後数年以内に多数の有望銘柄を発掘できる国になると当ファンドは考えています。そうした有望銘柄の1社が、大手ファッションおよびスポーツウェアブランドの小売企業であるMitra Adiperkasa(インドネシア/小売、以下「MAPI」)です。当ファンドは2022年10月に同社に新規投資しました。同社は2022年に株価が大きく上昇し、ジャカルタ総合指数において高いパフォーマンスをあげた銘柄の1つとなりましたが、2023年1月は大きく調整しました。同社はNew Balance社(米国)、Sketchers社(米国)、ZARA社(スペイン)、Starbucks社(米国)などの国際企業との提携を含め、スポーツウェア、ファッション、食品・飲料カテゴリーで150を超えるブランドを展開する一大流通業者です。これらブランドとの提携関係の多くは長期にわたるもので、MAPIの優れた執行能力(店舗の開業と在庫管理)を示しています。これらブランドの一部は、フィリピンにおけるNew Balance、ベトナムにおけるZARAなど、近隣諸国に事業を拡大する独占権をMAPIに付与しています。同社は近年、MAPClubというアプリケーションを中心に、デジタルエコシステムの開発に取り組んでいます。MAPClubは、店舗、オンライン、ソーシャルネットワークのタッチポイントなどMAPIの販売や顧客とのコラボレーションをすべて集約したアプリケーションです。顧客にとってはロイヤルティプログラムとして機能し、平均購入金額や購入頻度、顧客定着率の拡大に寄与します。MAPIにとっては、顧客のデータと行動をより詳細に追跡できるようになるため、将来的な事業拡大計画の指針としての役割を担っています。PER(株価収益率)が12倍に満たず、成長率予想が10%台半ば、ROE(株主資本利益率)が20%以上であることを踏まえると、同社は依然として過小評価されていると考えられます。

2022年12月の運用コメント

株式市場の状況

 当月の⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比0.14%下落して⽉を終えました。
 月前半、中国で抗議活動と社会不安が中国全土に広がったことを受け、中国国務院はゼロコロナ政策の緩和を発表しました。月後半には国家衛生健康委員会が入国者の隔離規則を撤廃し、2023年1月8日以降、香港と中国本土の往来を再開すると発表しました。突然の政策変更によって北京と上海では感染者数が激増しており、地方都市では春節にかけて感染者の大幅増加が予想されています。ゼロコロナ政策によって死者数が抑制された一方で、厳格な規制によって中国の成長は著しく阻害されました。経済再開当初は感染者数が急増して大きな混乱をもたらすため、経済再開は難航すると当ファンドは予想しています。
 一方で、中国は2023年の経済運営方針を定める中央経済工作会議を12月15日~16日に開催しました。中国政府は同会議でインターネットプラットフォーム、不動産開発事業者、民間セクターに政策支援を行うことを再確認し、経済の安定を2023年の最重要事項として掲げました。こうした背景と、バリュエーションが過去最低水準にあることから、当ファンドは2023年の中国について慎重姿勢ながらも楽観視しており、消費者の消費意欲が回復するにつれて内需関連銘柄やサービスセクターなどが恩恵を受けると考えています。当ファンドは2022年10月~12月にかけて、中国と香港の組入比率を大幅に高め、一般消費財セクター、生活必需品セクター、インターネットプラットフォーム関連銘柄を中心に買い増しを進めてきました。業界を失速させてきた厳格な規制の緩和が示唆されたため、インターネットセクター関連銘柄の株価が切りあがる可能性があると、当ファンドは考えています。
 その他のアジア諸国では、既に経済は再開しており、経済指標が順次改善してきています。今後は中国人観光客のインバウンド需要がアジア諸国の景気を下支えすることが期待されます。インフレ率と金利はいまだ上昇傾向にありますが、欧米諸国と比較すると環境は比較的良好です。インドとインドネシアの中央銀行は、インフレ率が2022年10月以降下落に転じ、世界のコモディティ価格や輸送費がピーク時より低下したことを受けて、12月に政策金利を引き上げました。
 日本を除くアジアには、インド、インドネシア、ベトナムなど成長率が世界最高水準の国があり、構造的トレンドは継続すると考えます。米中間の貿易摩擦やコロナ禍による混乱を経て、当ファンドがいまアジア地域内で注視している主要テーマは「サプライチェーンの分散」です。このトレンドは数年にわたって継続しており、高度な技術を必要としないアパレル業界の製造拠点はこの10年の間に中国からベトナム、インドネシア、カンボジアなどへと移転しています。電子機器のサプライチェーンでも同様のシフトがみられ、Apple社(米国)の最大の請負業者であるFoxconn Technology Group社(台湾)は生産施設をインドとベトナムに移転しています。東南アジア地域の平均年齢は比較的若く労働力が増大しているため、今後数年間、同地域は製造業のシェアを中国から奪い続けると考えられます。製造業以外のセクターに目を向けると、金融セクターやブランド小売業などは先進国では成熟産業ですが、アジアの新興国市場ではいまだに大幅な成長余地があると考えます。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
 セクター別では、コミュニケーション・サービスセクター、不動産セクターなどがプラスに貢献し、情報技術セクター、金融セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、AIA Group(香港/保険)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Li Ning Company(中国/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。一方で、Taiwan Semiconductor Manufucturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)、China State Construction(香港/資本財)などがマイナスに影響しました。
 当⽉は、「Swire Pacific(香港/不動産)」をご紹介します。
 同社は当ファンドが考える投資基準に当てはまると考えられる企業で、2022年10月末に新規投資を開始した銘柄の1つです。同社は香港に本社を置き、中華圏(中国本⼟、⾹港、台湾)と東南アジアを中心に事業を手がけるコングロマリット(直接的な関連性を持たない複数の事業が集まって成り立つ企業)で、主力事業は不動産(Swire Properties社(中国)、純資産価値の約45%)、航空(Cathay Pacific社(香港)、同約20%)、飲料(Swire Coca Cola社(香港)、同約35%)です。これまで1桁台後半で安定成長していましたが、過去2年間は香港と中国で新型コロナウイルス関連の混乱の影響を受け、2019年のピーク時からバリュエーションが50%近く下落しました。時価総額は約110億米ドル(約1兆4,400億円)で、純資産価値に対して45~50%程度のディスカウント(10年平均ディスカウントは25%)と、大幅に割安な状態になっています。
 2017年から2019年までは毎年約10億米ドル(約1,300億円)の基礎利益を計上したあと、2020年は6億9,000万米ドル(約900億円)の損失と、過去10年間で初めての赤字となりましたが、2021年は6億2,000万米ドルの基礎利益をあげました。2023年には新型コロナウイルス関連の混乱が解消して収益が回復し、純資産価値に対するディスカウントは過去の平均的水準に向けて縮小していくと当ファンドは予想しています。同社は2022年8月初旬に時価総額の約5%に相当する40億香港ドル(約670億円)の大規模な自社株買い計画を発表しました。これはバリュエーションがどれほど低下したかを如実に示しています。純資産価値に対するディスカウントの縮小に加えて、2019年以降、収益の大きな足かせとなっているCathay Pacific社(香港)の航空事業が好転すれば、大幅な上昇余地があると考えられます。以下に主力事業についてそれぞれ説明します。
 売上高と利益への寄与度が最も大きいのは不動産部門のSwire Properties社(中国)です。Swire PacificはSwire Properties社の株式を82%所有しており、Swire Properties社の時価総額だけでSwire Pacificの時価総額を40%強上回っています。Swire Properties社は香港において商業用不動産大手の1つで、ショッピングモールやホテルも運営しており、中国本土の主要都市を中心に業績を拡大しています。近年の香港の不動産不況にもかかわらず、Swire Properties社の基礎利益は底堅く推移しています。Swire Properties社は今後10年間、香港と中国本土のオフィスおよび商業施設の開発に取り組み、約1,000億香港ドル(約1兆6800億円。中国本土に約500億香港ドル、香港に約300香港ドル、東南アジアに約200億香港ドル)の開発・投資物件を保有する予定です。
 飲料部門のSwire Coca Cola社(香港)は、世界最大級のコカ・コーラ・ボトラーズであり、上海を含む中国本土の11省、台湾、米国西部の一部において製品を製造、宣伝、販売する権利を独占的に有しています。同部門は昨年、ベトナムとカンボジアでもこの権利を取得し、東南アジアに進出を果たしています。2022年上期は香港と中国本土が低迷したため、同部門の基礎的収益は前年同期比22%減少して12億香港ドル(約200億円)となりましたが、米国では経済の正常化が始まったため、同34%増となりました。同部門は中国本土と米国で新たなフランチャイズ地域と資産を取得し、2016年から2021年の間に基礎利益が3倍になるなど、同社の成長の原動力となっています。
 最後に、航空部門はCathay Pacific社(香港、Swire Pacificが株式を45%保有)と完全子会社のHong Kong Aircraft Engineering社(香港)(HAECO)で構成されています。ご存じの通り、Cathay Pacific社は香港を代表する航空会社です。2019年夏の大規模デモや2020年以降の新型コロナウイルス関連の規制によって旅客数が大打撃を受け、これまで300万人超だったCathay Pacific社の月間搭乗者数は10万人未満に落ち込んでいます。2020年は過去最低の年となり、約217億香港ドル(約3,600億円)の赤字を計上しました(Swire Pacificの損失負担は約97億香港ドル(約1,600億円))。しかし、12月に香港で隔離規制が完全に解除され、中国が2023年1月から境界の規制を緩和するため、交通量が通常に戻るにつれてCathay Pacific社の収益も回復すると、当ファンドは予想しています。Cathay Pacific社は2021年下期以降、キャッシュバーン(現金の減少)に歯止めがかかり、キャッシュフローはほぼ損益分岐点になっていますが、2022年上期時点ではまだ損失を計上していました。次のステップは利益を損益分岐点に乗せることですが、それには利益が5億米ドル(約650億円)近く改善し、基礎利益がコロナ禍前の水準に回復しなければなりません。現時点のバリュエーションでは、こうしたカタリスト(きっかけ)が現実となる前でも、配当利回りは4%を超えています。
 アジア地域には、引き続き⻑期的な投資機会が潤沢にあります。アジア経済の興隆とアジア企業の地位向上という⻑期的な投資テーマは健在で、今後も続くと考えられます。当ファンドは、「信頼できる企業」への投資を継続しつつ、当ファンドが選好する「次の優良成⻑企業になる潜在性を⽰しているアジア地域の新興企業」の発掘に努めます。

主な投資リスク、費用等

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