ニッポン解剖〜⽇本再興へのメカニズム〜Vol.13 「⽇本の根雪が変わるとき」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖〜⽇本再興へのメカニズム〜Vol.13 「⽇本の根雪が変わるとき」

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 2024年2月22日に日経平均株価が終値で初めて3万9,000円台を記録し、1989年12月29日の過去最高値を34年2カ月ぶりに更新しました。この上昇のけん引役を確認すると、大幅な上昇が始まった2024年来では、半導体や⾃動⾞などの⼀部の大型株の寄与が大きいことが分かります。こういった⼀部の銘柄が日経平均株価の上昇に大きく寄与していますが、東京証券取引所(以下、「東証」)による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請」をきっかけとした、日本企業のROE(株主資本利益率)※1 やPBR(株価純資産倍率)※2 への意識の高まりを期待した海外投資家からの評価の変化も株価上昇に寄与していると思います。本稿では、日本企業の資本コストに対する意識改⾰について繰り返し述べてきましたが、昨今、急速に、そして目に⾒える形で変⾰が起きつつあると感じています。今回は、その⼀部についてご紹介します。

 具体的な変化としては、①保有する⾦融資産の有効活⽤、②資⾦調達時の負債の活⽤、③IR(Investor Relations︓インベスター・リレーションズ)の改善があげられます。保有する⾦融資産の活⽤では、持ち合い株式など政策保有株の売却とそれを原資とした成⻑投資・設備投資や株主還元の強化などが⾒られます。特に⾦融機関は政策保有株をゼロにする目標を公表する事例も出てくるなど、持ち合い株式の保有の多い⾦融機関において売却の動きが加速しているとみられます。株式持ち合いの多い企業は、経営者が平穏な生活("Quiet Life")を求めて必要なリスクを取っていない可能性があるという指摘もあります。持ち合い株式など政策保有株の縮減によって、財務体質の変化に加えて、事業戦略の変化も期待できると思われます。また、鉄道会社が、⻁の⼦としていたレジャー関連株の⼀部を売却して、株主還元や成⻑投資、有利⼦負債の返済に充てる計画を公表するといった事例も出てくるなど、保有する⾦融資産の有効活⽤は、様々な業界で広がりつつあります。

 資⾦調達時の負債の活⽤も検討が広がりつつあるように思います。無借⾦経営を理想として、資⾦調達における負債の活⽤は選択肢に入らないという企業が少なくありません。⼀方で、ファイナンス理論では、株主資本と負債の最適な組み合わせが企業価値を最大化させると考え、「最適資本構成」と呼んでいます。負債の活⽤による企業価値向上には批判もありますが、⼀律に負債の活⽤を排除するのではなく、業界の特性や企業の成⻑局面等に応じて、最適な資本構成を模索・実現することが大切だと考えます。昨今、負債の活⽤を選択肢に入れる企業も出てきています。これまで⾃⼰資本⽐率の高さを重視していた企業が、決算説明会などで「財務レバレッジの活⽤」という⾔葉を使い始めました。財務レバレッジとは、企業の総資産が⾃⼰資本の何倍になるかを表した数値であり、負債の活⽤状況を示す指標です。最適資本構成の実現に向けた取り組みであるといえます。

 IRの改善も大きく進みつつあります。IRとは、企業が投資家に対して、財務状況や業績、今後の⾒通しなどの投資判断に必要な情報を提供する活動全般を指します。IRは企業価値が適切に株価に反映されるために必要な活動です。これまで、社内の体制が整っていないという理由や、競合企業への情報流出を避けたいという考えから、IR活動を最低限にとどめている企業も散⾒されました。しかし、この状況も変わりつつあります。決算発表時に公開される決算短信と変わりない内容しか開示していなかった企業が詳細な決算説明資料の開示を開始したほか、社内体制を理由に決算説明会の開催がなかった企業が初めて開催を決定するなど、株式市場との対話に前向きな⾏動をとる企業が増えているように感じます。

 日経平均株価を押し上げている⼀部の大企業に注目が集まっていますが、根雪ともいえる多くの日本企業が、今変⾰の時を迎えています。局所的な変化で終わることなく、多くの企業で資本コストや株式市場との対話を意識した企業運営が⾏われることを願っています。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

※1 : 株主資本に対して企業がどれだけ効率的に利益を稼いだかを表す指標。
※2 : 株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示す指標。


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。



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