ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.14「株主総会:個人投資家の復権」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.14「株主総会:個人投資家の復権」

レポートのダウンロード(217.6 KB)

 3月は12月決算企業の株主総会が多く行われる月です。私も投資家として株主総会に出席していますが、今年の株主総会は、従前の総会とは一味違った印象を受けました。今回は、この株主総会について考えたいと思います。

 株主総会とは、株式会社における最高意思決定機関であり、会社の重要な事項はこの株主総会で決議されます。一方で、「しゃんしゃん総会」とも揶揄(やゆ)されるように、適切な議論などもなく形式的なセレモニーとして取り扱われている株主総会も散見されます。この株主総会に変化が起こりつつあるように感じます。「物言う"個人"株主」の存在です。

「バランスシートの現預金の使い道は?このままでは資本の積み上がりによってROEの悪化が懸念される」

(※筆者注:ROE(株主資本利益率)とは、投資家が出資した資本に対して企業がどれだけの利益を上げているかを表す指標のことで、経営効率の高さを表します。分子を利益、分母を自己資本として算出されます。高収益企業が、稼いだ資金を十分に活用しないと自己資本(内部留保)が積み上がり、分母が大きくなることによってROEは低下します。)

 私が出席したある企業の株主総会での個人株主の発言です。従前までの同社の株主総会は、同社製品の愛好家と思われる個人株主から、製品への要望やエールが飛ぶような"優しい"株主総会でしたが、2024年の株主総会は様相が大きく変わりました。発言した株主の多くが初参加であることを表明し、同社の現預金の活用方法やROEの改善施策などについて具体的な提言をしたり、業績の不透明感に対して懸念を表明したりするなど、経営陣に対して物言うために総会に出席した株主が多かった印象を受けました。

 物言う株主とは、アクティビストとも呼ばれ、株主としての権利を積極的に行使することで、経営改善など企業活動に対して株主の考えを反映させようとする投資家のことです。物言う株主やアクティビストに対しては、短期的に過度な株主利益のみを追求するといったようなネガティブなイメージを持つ人も多いかと思います。一方で、コーポレートガバナンス・コードにおいて、「上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し」「上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである」とあります。また、昨今のアクティビストについても、短期的な株主利益のみを追求するのではなく、投資先企業の持続的な企業価値向上を目的として対話を行うケースが主流になりつつあります。上述でご紹介した個人株主の発言も、稼いだ利益の有効活用(投資強化や株主還元強化など)によるROEの持続的な改善について企業に疑問符を投げかけているのだと思います。株主総会が、セレモニーではなく、持続的な企業価値向上に向けた対話の場になりつつあるように感じました。一方で、この動きはまだ大勢を占めているという状況ではないと思います。株主総会が、企業経営者と株主との真剣勝負の対話が行われる場になれば、企業価値の向上にもつながるはずです。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

レポートのダウンロード(217.6 KB)