投資の世界における生成AI | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート 投資の世界における生成AI

レポートのダウンロード(2.1 MB)

今話題の生成AI

最近、生成AI(Generative Artificial Intelligence=生成的人工知能)が話題になっています。自然なチャット(文字での会話)を行うことができるChat GPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)*1、絵画やイラストなどの画像を生成するStable Diffusion*2などが有名となり、音楽や動画を生成するAIも登場しています。MicrosoftはChat GPTの技術をもとに、オンライン会議の議事録を自動生成したり、過去に作成した文章からプレゼン資料を自動で生成したりする、Copilotとよばれる機能をOffice(エクセルやパワーポイントなど)上で提供すると発表しています*3。ほとんどの人が生成AIを使って事務作業を行う時代はもう目の前まで来ていると言えるでしょう。事務作業を仕事としている多くの人たちの生産性向上が見込まれます。

資産運用業界、投資の世界でも補佐として活躍しそうな生成AI

資産運用業界は、事務作業の多い業界ですので、生成AIの恩恵を多く受ける業界だと言えます。さまざまな、文章の作成や調査などの効率化が起こると思います。投資家にとっても、生成AIが調査の強力な補佐をしてくれるようになることが見込まれます。一方、生成AIだけで素晴らしい投資が行えるかと言えば、それは非常に厳しいであろうと考えられます。生成AIが生み出すものは人間らしさがありますが、実はその仕組みは人間の脳とは全く異なります。仕組みが全く異なるからこそ、人間をはるかに凌駕する領域も出てくれば、人間には全く及ばない領域も出てくるでしょう。投資には不確実性があり、安定的に同じことが繰り返し起こるわけでもありません。このような領域は、生成AIは苦手なのです。そのため、生成AIだけで素晴らしい投資が行えるようになる可能性は低いでしょうし、投資の世界ならではの生成AIが生まれる可能性も低いと考えられます。

投資の世界においては、生成AIは懸念のほうがはるかに大きい

投資の世界においては、生成AIは期待よりも懸念のほうがはるかに大きいです。生成AIを使えば、偽ニュースやウソをSNSや掲示板へ、自動的に、しかも大量に書き込むことができてしまいます。実際に、米国国防総省近くで爆発が起きたとする偽ニュースがSNSなどで広がり、米国株式が一時下落する騒ぎがありました*4。また、現在の法律の不備を突いて、「生成AIが勝手に書き込んだもので自分はそんなつもりはなかった」とAIのせいにして責任逃れする場合も出てくるかもしれません。実際、AIトレーダーが勝手に相場操縦を行った場合の法律的な扱いは不明なままです*5。さらに言えば、最近、銀行口座の開設時などの本人確認をスマートフォンで完結させる、eKYC(electric Know Your Customer)という技術が出てきましたが、生成AIを使えば他人に成りすまして本人確認を突破されてしまう恐れがあるという研究報告もあります*6

本レポートでは生成AIの仕組みを解説し、それを理解したうえで今後の使われ方を議論

生成AIが投資の世界でどのように使われるかを予想するには、その仕組みを理解するのが早道です。仕組みが分かれば、どういうことができそうか、どういうことができなさそうか分かるからです。本レポートでは、生成AIの仕組みを簡単に説明しつつ、投資の世界においては、生成AIではない既存のAIのほうがかえって高い性能を示す分野が多いことを説明します。その中でも、生成AIによってできるようになりそうなことを紹介しつつ、一方で、悪用が懸念される分野も紹介します。

AIの仕組み:簡単な説明

2年ほど前に執筆したレポート「金融市場で使われている人工知能」*7においても、AIの仕組みを簡単に説明しました。ここでもう一度見ておきましょう。ここでは分かりやすい例として、囲碁を例に具体的にAIの仕組みを見ていきましょう。ここでは誤解を恐れず分かりやすさを重視して説明しますので、厳密には間違った部分もあるかと思いますがご了承下さい。今、図1のような局面だったとしましょう*8。ここで白が図のような場所に置くかどうかを検討しているとします。人間の場合ですと、定石や全体の状況、先を読んだりして考えることになります。しかしAIの場合は、とりあえずそこに置いたとして、その後の展開を自分同士の戦いをおびただしい回数やってみて、勝率を計算します。もし圧勝するようだったらそこに置き、圧勝でもなければ違う場所も検討します。これをもの凄い回数繰り返せば、今後の展開としてあり得る局面の多くを網羅でき、そこに置いたときの勝率が計算されるのです。

もう少し詳しい説明:AIの基盤技術であるニューラルネットワーク

生成AIでない既存のAIも生成AIも、ニューラルネットワークという技術を基盤に使っています。この技術の簡単な解説も以前のレポート*7で行いましたが、もう一度見てみましょう。図2をご覧ください*9。一番左の列は入力データで囲碁の石の場所を示しているとしましょう。囲碁の碁盤は19×19=361なので、この列に361個の0または1のデータがあれば、碁盤に石があるかないかを表現できます。囲碁の石には白と黒があるので361×2=722個の0または1があれば盤面が完全に表現できますね。さて左上に1のデータが入力されていますが、これに重み0.8を掛けて2番目の列の1番上の隠れ層に進みます。その下の入力データも1で、重みは0.2なので、これをかけて隠れ層に進みます。これらを足したものは1×0.8+1×0.2=1なのですが、この数字をシグモイド関数というものを用いて加工する作業を行い、0.73となります。入力層は本来なら722個あるハズなので、722個の入力データと重みを掛け合わせて足して、ようやく隠れ層の1番上の数値が出てきます。隠れ層が仮に100個あったとするとこの作業を100回繰り返してようやく隠れ層がそろうわけです。一番右の列は出力層ですが1つだけとします。100個の隠れ層の結果を同じように重みを付けて足し合わせて集計し丸めます。これが出力値です。

この出力値の答え合わせをします。答えとは、入力した碁盤の状況でその後白が勝っていれば1、負けていれば0とします。この答えは実際の対局結果でなくても、AIの自分同士の戦いの結果でも良いです。今回の答えは0、出力値は0.77なので、出力値を減らすと答えに近づきます。図3をご覧ください。出力値が小さくなるように重みを調整します。ここで完全に0になるように調整するのではなく、少し小さくなるように調整することに注意してください。というのも、先ほど白が負けたというデータは絶対ではなく、そういうケースもあったというだけだからです。同じ局面でも勝つことがあるわけで、このような対局データがたくさん集まって少しずつ正しい方向に調整されていくのです。この調整のことを"学習"とよびます。学習と聞くと主体的に何か知識や経験を獲得していくイメージがあると思います。しかし、AIの分野で"学習"といえば、このような答えに近づく数値の調整のことです。人間の学習とAIの学習とではやっていることがまるで違うのです。また、AIでの学習では多くのデータが必要です。人間は1つの経験から関連することを思考したうえで学習できるのですが、AIではそれができません。

既存のAIもすでに投資の世界で活躍している

既存のAIもすでに投資の世界で活躍していることは以前のレポート*7でもご紹介しました。決算書類の要約や決算後最初のニュース速報の生成、銘柄の分類、アルゴリズム取引の高度化、不公正取引の取り締まりなどです。例えば図4は、すでに実用化されている、決算のニュース速報の作り方をごく簡単に示しています。ここでは詳細は省き、誤解を恐れずあくまで分かりやすさを重視して説明します。まず、決算短信の文章を数値に置き換えます。そして、ニューラルネットワークを複雑に組み合わせた仕組み(ディープラーニングとよばれることもある)に文章を入力し、業績にどれくらい関係ある文章かの得点を出力します。そしてこれを決算短信のすべての文章に対して行い、得点の高い文章だけを集めてくれば、決算速報の文章が出来上がるのです(詳しくは以前のレポート*7参照)。つまり、決算短信の文章が正しいとして、業績に関係している文章を推定し、それらを切り貼りして文章を作っているのです。生成AIの登場により、より精度の高い決算速報が作れるかと言われると、それは微妙であると言わざるを得ません。後ほど生成AIの仕組みを述べますが、生成AIの場合、正しい文章を切り貼りしているのではなく、それまでの文章から次に来る単語を推定し、単語を次々に生成しているからです。生成AIの場合、確率的に次に来る可能性が高い単語を高精度に推定しているため、より自然な文章が生成される一方、正しい文章の切り貼りである既存のAIに比べ、全体の正確性は低下してしまうことがあります。このように、投資の世界においては、自然な文章を作成するよりも多少の不自然があっても全体としての正しい文章のほうが良いことが多くあります。そのため、投資の世界においては、生成AIよりも既存のAIのほうが良い場合も多くありそうです。投資以外の世界においても、ニュースの自動生成の分野においては、生成AIを使うと間違いが多くて問題が発生した事例もあります*10。生成AIにも得意分野、苦手分野があるのです。しかしこれは逆に言えば、偽のニュースを作る場合には生成AIは非常に優れていると言えます。これについても後ほど詳しく述べます。

生成AIの仕組み:Chat GPTを例に

ここではChat GPTを例に生成AIの仕組みを説明します。*11を参考に説明しますが、誤解を恐れずに、より簡略化した説明をしますので、正確に知りたい方は*11も見てください。まず、言語モデルとは何かを説明します。図5をご覧ください。言語モデルとは次に来る単語が何かを統計的に予想するものです。例えば今、「私はりんごを」に続く単語が何かを予想するとします。言語モデルではインターネットなどにある膨大な文章の中から「私はりんごを」が含まれる文章を探し出し、それに続く単語のうち、最も多かったものを次に来る単語として予想します。

この次の単語を予測するという作業を、先ほど説明したニューラルネットワークを用いて行えるようにするため、単語の数値化を行います。正確にはベクトル化です。図6をご覧ください。ベクトル化というのは、1つの単語に数百の数字を割り当てることです。単に1つの数値を割り当て、番号を付けるだけではなく、数百の数値を割り当てていることが重要です。単語間のいろんな関係性のなかで、こういう意味で近い、ということが表現できるようになります。例えば、"りんご""みかん"は食べ物という意味で近い単語です。赤いという意味では"りんご""レンガ"は近いかもしれませんが、"みかん"とは違う意味で近いということになります。番号を1つしか振っていない場合、近いか遠いかしか表現できませんが、数百の数値を割り振ることにより、どういう意味で近い単語なのかを表現することができます。このため、食べ物という意味で近い単語なら「私はみかんを」と「私はりんごを」の後に出てきやすい単語は似ているということが表現できたり、赤いという意味で近くても「私はレンガを」の後に出てきやすい単語は「私はりんごを」の場合とは異なるということを表現できたりします。

さて、単語をベクトル化すれば、先ほど説明したニューラルネットワークを使用することができます。図7をご覧ください。左から始まります。まず""をベクトル化し、おびただしい数の非常にうまく結合されたニューラルネットワーク群に入力します。そして、""のベクトルが出力されたとします。これが予想された次の単語です。ここで、これを予想した結果を再び入力し再学習して、ニューラルネットワークの重みを更新します。この更新した重みを次に使います。これが右向きの点線の矢印です。さて、今度は予想した""を入力します。その結果、"りんご"が出てきました。このように出力された単語をまた入力し、次から次へと行えば、次から次へと単語が生成されます。これが、ニューラルネットワーク言語モデルです。

そして、Chat GPTはこれに加えて、インターネット上などにある文章の一部を空欄にして、その空欄を当てさせて学習させたり、人間が正しい文章を作りそれを学習させたりと、かなりの手作業で学習させています。これにより、より自然な文章を出力し、不適切な発言をなるべく出力しないようにしています。このように、非常にさまざまな工夫がされているとはいえ、単語を数値化し、ニューラルネットワークを用いて、次の単語の数値(ベクトル)を予想している、というのがChat GPTの大枠の仕組みです。このような単純な仕組みにも関わらず、多くの文章を学習させることにより、飛躍的に精度が向上し、研究者たちを驚かせました*12。人間の脳の仕組みからますます離れているにも関わらず*13、学習させる文章の量が多くなることで、これほど自然な文章が出力されるようになることを、予想できていた研究者は多くないでしょう。また、現在の機械翻訳もほとんど同じような仕組みでできています*14。機械翻訳はニューラルネットワーク言語モデルをいち早く取り入れた分野であり、高精度な翻訳精度を達成しています。翻訳元の文章を入力し、最後に、ここから翻訳後の言語ですよという記号を入力すると、翻訳後の文章が一単語ずつ、次から次へと生成されます。

生成AIが得意なこと・苦手なこと

画像生成や作曲なども基本的にはChat GPTと同じような仕組みです。何かを理解して生成している訳ではなく、ニューラルネットワークを駆使して統計的に一番ありそうなものを大量のデータの中から探し出して組み合わせているだけなのです。誤解を恐れずに言えば、人類が築き上げてきた膨大なデータの中から、非常にうまく切り貼りをしてデータを作っているに過ぎないともいえるでしょう。そのため、人間ができなかったことができるようになったわけではありませんし、まだ存在しないものを新たに生み出したりすることもできないでしょう。しかし、人間が過去やったことをもう一度繰り返すことができ、しかも人間にはまねできないほどの速さでできるのです。繰り返し行わなければならい面倒な作業などが生成AIの得意分野と言えるかもしれません。とはいえ、過去のものをうまく組み合わせるという作業は意外にも多いものです。例えば、Chat GPTは、アプリの開発などのプログラミングが得意です。実は、プログラミングはほとんどの場合、過去に作られたものをうまく組み合わせたものです。"◯◯というプログラミング言語で、◯◯を行うプログラムを作りたいので、サンプルを提示してください"Chat GPTに入力すれば、ほぼ完成したものが出力されます。まったく修正が必要ない場合も珍しくありません。冒頭で述べたように、MicrosoftChat GPTの技術をもとに、オンライン会議の議事録を自動生成したり、過去に作成した文章からプレゼン資料を自動で生成したりする、Copilotとよばれる機能をOffice(エクセルやパワーポイントなど)上で提供すると発表しています*3Copilotという名前の通り、指示を与えれば非常に優れた補佐を行うことができます。逆に言えば、生成AIは指示を出す側、つまりPilotにはなれないということも、このCopilotという名前が暗示しているのではないかと思います。このように生成AIは、これまでに起きたことがないこと、データ上に存在しないことを扱うことはできません。これまでにないものを作っている訳ではないのです。

投資とは相性が悪い

投資には不確実性があり、安定的に同じことが繰り返し起こるわけでもありません。これまでのデータをみてそのまま答えが出るわけではありませんので、生成AIには苦手な領域です。そのため、生成AIだけで素晴らしい投資が行えるようになる可能性は低いでしょうし、投資の世界ならではの生成AIが生まれる可能性も低いと考えられます。また、投資に関する情報を自動生成するにしても、例えば決算速報の文章を作るにしても、先に述べたように、生成AIの場合、正しい文章を切り貼りしているのではなく、それまでの文章なら次の単語はこれであろうという推定をして単語を次々に生成しているので、正確性に問題が生じます。正しい文章の切り貼りである既存のAIのほうが得意分野でしょう。

補助的な使い方では研究が始まっている

とはいえ、投資の補助的な使い方であれば研究が始まっています。20237月に開催された金融分野のAI応用をテーマにした国際学会*15においても、監査報告書の記載事項を自動的に分類する研究や、決算発表会での経営者の発言が客観的事実なのか発言者の意見なのかを分類するといった研究が発表されました。また、ロボアドバイザーにChat GPTのようなチャット型生成AIを搭載する研究・開発もおこなわれています*16

人工市場内で使う注文生成AIも登場

コンピュータ上で株式市場をシミュレーションする人工市場という手法があります。株式市場の基本的な性質の分析*17やさまざまな規制やルールの検証に使われています*18。一方で最近は、数秒以下といった短時間に出される注文を再現し、人工市場内で高速取引やアルゴリズム取引*19の実験場として使おうという研究が出てきました*20。これはまさに注文生成AIとよべるもので、現実にありそうな次の注文を予想するというものです。予想される次の注文が次々と出される中で、今試したい高速取引の戦略やアルゴリズム取引を試してみるという使い方が考えられます。とはいえ、数分以上の価格変動を予測できるものではありません。あくまでも、短期間の、よくありがちな注文状況を再現するにとどまります。注文生成AIは、高速取引の開発時の実験などに有用になる可能性があるのですが、そのような特殊な投資家以外が使うようなものではないでしょう。

投資の世界においての生成AIは恩恵より懸念のほうがはるかに大きい

これまで投資の世界における生成AIによる恩恵について述べてきました。しかし現実には、期待よりも懸念のほうがはるかに大きいです。生成AIを使えば、偽ニュースやウソをSNSや掲示板へ、自動的に、しかも大量に書き込むことができてしまいます。しかも、全体の正確性は劣るにしても、文章自体は非常に自然であり、偽ニュース作りにはこれ以上にない技術と言えるでしょう。実際に、米国国防総省近くで爆発が起きたとする偽ニュースが、爆発の偽画像とともにSNSなどで広がり、米国株式が一時下落する騒ぎがありました*4。生成AIを使えば、偽の動画も作成可能ですので、将来的には、一見有名経営者に見える人が記者会見を行っている偽の動画なども現れるかもしれません。相場操縦を行う強力な道具となってしまいそうです。相場操縦を許さないことは、株式市場が公正であることの必須の要素です。株式市場が公正であることは、経済の発展に重要であり、ひいては人類の進歩そのものに必要であると言っても言い過ぎではないでしょう*21。そのため株式市場の歴史の中で常に、相場操縦は重要な議論となってきました*21*22。生成AIによる相場操縦はあまりにも強力で、かつ、誰にでもできてしまうという、株式市場の歴史の中でもかつてない脅威となっています。また、現在の法律の不備を突いて、「生成AIが勝手に書き込んだもので自分はそんなつもりはなかった」とAIのせいにして責任逃れする場合も出てくるかもしれません。刑事事件として立件するにはそれを行う意図があったことが立証される必要がある場合が多く、意思や意図がないAIが勝手にやったと主張して、罪を逃れようとする人たちが現れる恐れがあるのです。実際、AIトレーダーが勝手に相場操縦を行った場合の法律的な扱いは不明なままです*5。実際には相場操縦をしようと思ってAIを用いていたとしても、自分は相場操縦をするつもりはなかった、AIが勝手にやったと主張されると、現在の法律では取り締まりが難しくなる可能性が指摘されているのです。さらに言えば、最近、銀行口座の開設時などの本人確認をスマートフォンで完結させる、eKYC(electric Know Your Customer)という技術が出てきましたが、生成AIを使えば他人に成りすまして本人確認を突破されてしまう恐れがあるという研究報告もあります*6。暗号を解いたりサイバー攻撃を仕掛けたりするコンピュータプログラムも、生成AIは作成できると言われています*23。金融機関の重要なシステムが、生成AIが作成したプログラムから攻撃を受ける日も近いかもしれません。

まとめ

技術の進歩によりAIの仕組みはむしろ人間から離れていっており、すべてにおいて人間に追いついたり追い越したりすることはなさそうです。しかし、仕組みが違うからこそ、分野によってはAIが人間を凌駕し、逆にAIが人間に全く追いつけない分野もあるだろうと思います。投資の世界では、投資そのものは生成AIが苦手な分野であったとしても、投資家を補助する道具として活躍する場面があるでしょう。生成AIは人間とは全く異なった長所短所をもった「道具」なのです。人類は、鳥の真似をして羽ばたいても飛べませんでしたが、プロペラという生き物にはないものを使って飛べるようになりました。今でも人類は鳥のようには飛べませんが、鳥より速く飛べます。AIも、人間と同じことができるようにはならないかもしれませんが、人間を超える分野は多く出てくるでしょう。確かに、生成AIには多くの懸念があります。そのため、規制に関しての議論がすでに始まっています。2023年に広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)でも生成AIの国際的な規制に関して議論が行われました*24。黎明期である生成AIの規制の議論は、自動車が発明されたころの議論に似ているかもしれません。もう馬車の時代に戻ることはなく、自動車を使わないという世界もあり得ないと考え、人類は、自動車が走ってはいけない場所を決め、信号機を設置し、ルールを作って、自動車を安全なものにしました。そして、人類にとって、自動車はなくてはならないものになりました。しかし今でも、日本だけでも年間2千人以上の方が自動車事故で亡くなっており*25、負の側面を減らす努力は現在でも続けられています。生成AIも今後、このような経緯をたどるのではないかと考えられます。


*1 https://chat.openai.com

*2 https://ja.stability.ai/stable-diffusion 

*3 It Media News, " ワードやエクセルと「GPT-4」が合体 「Microsoft 365 Copilot」発表 日本のDXも爆速化?", "Microsoft 365 Copilotでできること-プロンプト例で紹介", 2023317

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/17/news097.html

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/17/news102.html

*4 NHK, "米国防総省近くで爆発"偽画像拡散 株価一時下落する騒動に"2023523

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230523/k10014075821000.html

*5 水田孝信、"人工知能が不公正取引を行ったら誰の責任か?" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 202084

https://www.sparx.co.jp/report/detail/499.html

*6 川名のん、他、 "Deepfakeを用いたe-KYCに対するなりすまし攻撃と対策の検討"、 人工知能学会全国大会、20216

https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2021.0_1F2GS10a02

*7 水田孝信、"金融市場で使われている人工知能" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 202198

https://www.sparx.co.jp/report/detail/306.html

  

*8 著者は囲碁が分からないので現実的な局面かどうかは分かりません。

*9 Steven Miller, "Mind: How to Build a Neural Network (Part One)", 2015

http://web.archive.org/web/20170824142808/http://stevenmiller888.github.io/mind-how-to-build-a-neural-network/

*10 GIZMODO、 "CNETAIにひっそり書かせた記事が間違いだらけだった"2023123

https://www.gizmodo.jp/2023/01/cnet-ai-chatgpt-news-robot.html 

*11 黒橋禎夫、 " ChatGPTの仕組みと社会へのインパクト"、 国立情報学研究所 第62回 大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム、 202333

https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04

*12 Jason Wei, et al., "Emergent Abilities of Large Language Models", arxiv, 2022

https://doi.org/10.48550/arXiv.2206.07682

*13 AIは人間の脳のどこが再現でき、どこが再現できてないのかを解説した講演

津本周作、"機械に知能を与えるということはどういうことなのか?"2023年度 人工知能学会全国大会 会長講演、20236月6日

https://www.youtube.com/live/jtzKQ7aOMJ4 

(1時間10分くらいから講演が始まります)

言語学から見た、人間とAIの言語獲得プロセスの違い

折田奈甫、"私のブックマーク「第一言語獲得から考える人工知能」"、人工知能(人工知能学会学会誌) 20197月号

https://www.ai-gakkai.or.jp/resource/my-bookmark/my-bookmark_vol38-no2/

*14 須藤克仁、 "ニューラル機械翻訳の進展 -系列変換モデルの進化とその応用-"、 人工知能(人工知能学会学会誌) 20197月号

https://doi.org/10.11517/jjsai.34.4_437

*15 14th IIAI International Congress on Advanced Applied Informatics (AAI), Applied Informatics in Finance and Economics (AIFE 2023)

https://aife.mhirano.jp/program

*16 Hugh Son, "JPMorgan is developing a ChatGPT-like A.I. service that gives investment advice", CNBC, 2023/5/25

https://www.cnbc.com/2023/05/25/jpmorgan-develops-ai-investment-advisor.html

*17 水田孝信、"続・市場は効率的なのか?実験市場や人工市場での検討" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 2021816

https://www.sparx.co.jp/report/detail/307.html

*18 水田孝信、"金融市場の制度設計に使われ始めた人工市場" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 20211115

http://stg.sparx.co.jp/report/detail/305.html

*19 自動取引の目的はさまざまあり、単純な利益追求だけではありません。また、高速取引に用いられる投資戦略は独特なものがあります。以下参照。

水田孝信、"高頻度取引(3回シリーズ第1回):高頻度取引とは何か?" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 201943

https://www.sparx.co.jp/report/detail/314.html

水田孝信、"高頻度取引(3回シリーズ第3回):高頻度取引ではないアルゴリズム取引と不公正取引の取り締まり高度化" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 2019613

https://www.sparx.co.jp/report/detail/316.html

*20 例えば以下のような研究があります。

Andrea Coletta, et al., "Learning to simulate realistic limit order book markets from data as a World Agent", the Third ACM International Conference on AI in Finance, 2022

https://doi.org/10.1145/3533271.3561753

Masanori Hirano, et al., "Policy Gradient Stock GAN for Realistic Discrete Order Data Generation in Financial Markets", 14th IIAI International Congress on Advanced Applied Informatics (AAI), Applied Informatics in Finance and Economics (AIFE 2023), 2023

https://doi.org/10.48550/arXiv.2204.13338

https://aife.mhirano.jp/program 

成富佑輔、足立高徳、 "Micro-Macro GANによる株式市場シミュレーション"2023年度人工知能学会全国大会、2023

https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2023.0_2P5GS1103

*21水田孝信、"なぜそれらは不公正取引として禁止されたのか?" 、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 2020915

https://www.sparx.co.jp/report/detail/500.html

*22 水田孝信、""フラッシュ・クラッシュ・トレーダー"と呼ばれた男はフラッシュ・クラッシュとはあまり関係なかった:高頻度取引との知られざる戦い"、 スパークス・アセット・マネジメント スペシャルレポート、 2021412

https://www.sparx.co.jp/report/detail/302.html

*23 福田陽平、"AIが"脱獄"したら..."NHK2023519

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2023/05/special/20230519/

*24 日本経済新聞、"生成AIのルール、年内に見解 G7閣僚級「広島プロセス」"2023519

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19A0F0Z10C23A5000000/ 

*25 日本経済新聞、" 2022年の交通事故死者2610人、6年連続最少 警察庁"202314

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE0419E0U3A100C2000000/

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

レポートのダウンロード(2.1 MB)