ニッポン解剖〜⽇本再興へのメカニズム〜Vol.11「This time is different」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖〜⽇本再興へのメカニズム〜Vol.11「This time is different」

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 東京証券取引所(以下、「東証」)は、2023年3月にプライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。そして、東証は今年1月15日に、要請への対応策を開示している企業の一覧表を公表しました。国内外の投資家から日本企業の変革への関心が高まる中で、対応を進めている企業の状況を投資家に周知することで、企業の取り組みを後押ししていくことが目的です。今回のニッポン解剖では、この東証要請についておさらいしたいと思います。少し専門的な内容になりますが、日本企業が、⻑期にわたって、世界中の投資家から関心を集め続けられるようになるために重要なテーマとなりますので、どうぞ最後までお付き合いください。

 東証には従前、市場一部・市場二部・マザーズ・JASDAQの4つの市場区分があり、市場区分のコンセプトの曖昧さや、企業価値向上に向けた動機付けに乏しいという課題が指摘されていました。この課題に向き合う形で、2022年4月に東証は、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの新しい市場区分へ⾒直しを⾏いました。その後、課題であった企業価値向上に向けた動機付けへの施策の一環として、今般の東証要請が⾏われたと考えられます。

 「市場区分の⾒直しに関するフォローアップ会議」で、PBR(株価純資産倍率)※1 1倍割れ企業が多いことにメスを⼊れる必要性について議論が⾏われ、メディアにおいて「PBR1倍割れ」がパワーワードとして使われるようになりましたが、市場区分の⾒直しおよび今般の要請の趣旨は、「上場会社の中⻑期的な企業価値向上」と「国内外の多様な投資者から高い⽀持を得られる魅⼒的な現物市場の提供」にあります。つまり、PBR1倍割れ企業に限定した要請ではなく、プライム市場とスタンダード市場の全ての上場企業に対して、中⻑期的な企業価値向上を実現するため、単に損益計算書上の売上や利益だけではなく、バランスシートをベースとした資本コストと資本収益性(ROE:株主資本利益率※2 )を意識した経営への転換を要請しています。

 東証は、上述のように2024年1月から、要請に基づいた開示を実施している企業の一覧表の公表を開始しました。海外のメディアでは"Name and shame regime"(「名指しと恥さらし制度」)と表現されていますが、この一覧表に載っていない企業に対して、要請対応の開示を促すことになります。今回の要請を通じて、海外投資家からは、「本当に"This time is different"なのか︖」と問われることが増えています。株式市場では、その時々で様々な投資テーマがあり、そのテーマが⻑続きすると予想されると、"This time is different"(「今回は違う」)と言われるようになります。そしてそのテーマが単なる短期的なブームに過ぎなかったとき、株式市場はこれまでの上昇を吐き出し、元の姿(場合によってはそれ以下)に戻っていきます。今回の一覧表に、日本を代表する企業が載っていない、載っていたとしても開示内容に乏しい企業が散⾒されるなど、日本企業の要請への対応状況としては十分なものとは言えないと感じています。今般の要請による日本企業の変化が本物であり、本当に、"This time IS different"となることを願ってやみません。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


※1:株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示す指標。
※2:株主資本に対して企業がどれだけ効率的に利益を稼いだかを表す指標。


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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