ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.1「資本コストへの意識改革で、日本は再度成長軌道へ」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.1「資本コストへの意識改革で、日本は再度成長軌道へ」

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 皆さま、はじめまして。スパークス・アセット・マネジメントの川部でございます。アナリストという仕事を通じて、日々多くの企業経営者の方と対話をさせていただいておりますので、その生の声をお届けしてまいります。

 昨今、日本株が世界中の投資家から関心を集めています。投資家は日本企業の何に期待をしているのか、期待に応えるために何が必要なのか、鳥の目・虫の目・魚の目で、このニッポンを解剖していきます。

 日経平均株価がバブル崩壊後の高値を更新していますが、その裏には、日本の変化を機敏に感じ取る海外投資家の存在があります。では、海外投資家は日本企業の何に期待をしているのか。それは、日本企業の「資本コストや株価を意識した経営」への転換です。まず、資本コストについて考えてみましょう。

 資本コストとは何ぞやに入る前に、私が日々の企業経営者との対話の中で耳にしたある言葉をご紹介します。自社のバランスシートに多くの金融資産を抱えている上場企業経営者の言葉です。

「先代達が一生懸命積み上げてきた資金を私の代で使うわけにはいかない」

 いかがでしょうか。心情としては理解できないことはないのですが、この寝かせている資金にもコスト(資本コスト)が発生しているという事実に、しっかりと向き合う必要があるように感じます。少し別の視点ですが、「古人の跡を求めず、古人の求めしところを求めよ」という言葉があります。先人たちがやってきたことではなく、先人たちが理想としてきたことを求めなさいという意味だと解釈していますが、まさにこれが当てはまる状況だと思います。先人たちは、お金を一生懸命貯めるために事業を展開してきたのでしょうか。きっと大きな夢・野望を持って事業を興したはずです。この先人たちの思いを尊重し、先人たちの資金もしっかりと投資に振り分けていくことが、大切であると思います。

 話を資本コストに戻します。資本コストとは、資金を調達するときに必要な費用のことです。借金でいえば利子にあたります。株式会社であれば、資金を拠出した投資家に配当金や株式売却益などで報いる必要があるということです。一見、当たり前のことのように思えますが、それが十分にできてこなかったというのが海外投資家からの認識です。その最たる例が、日本企業が抱える現預金の多さです。2022年12月末日現在、民間非金融法人企業は320兆円もの現預金を有しています(出所:日本銀行)。現預金も、融資や投資を受けたものであれば、コストがかかります。しかし、多くの企業は、それを活用せず、単に寝かせているという事実があります。そのため、投資家に対して十分にコストを払ってきませんでした。その結果、海外投資家から敬遠され、東証プライム市場の約半数、東証スタンダード市場の約6割の企業が、解散価値であるPBR1倍割れとなっています。投資家からは、事業を継続するよりも会社をたたんで資産を売却した方が良いと認識されているということです。この状況にメスを入れようとしているのが、東京証券取引所(以下、「東証」)による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請」です。ここでは、単に損益計算書上の売上や利益だけではなく、バランスシートをベースとした資本コストと資本収益性(ROE:株主資本利益率)を意識した経営への転換を要請しています。現預金を単に寝かせておくのではなく、しっかりと活用してくださいという要請です。

 日本企業の持つ現預金がしっかりと投資に回れば、日本は再度成長軌道に戻ることができます。その変化にいち早く気付き、日本企業への投資を開始したのが、昨今の海外投資家の動きであると考えています。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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