ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.2「海外投資家が期待する日本の変化」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.2「海外投資家が期待する日本の変化」

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 前回、日本株が世界中の投資家から関心を集めているということについてお伝えしました。先日、シンガポールで、グローバルな機関投資家・ファミリーオフィス(※超富裕層の家族の資産を運用する投資会社)に対して、日本株投資の魅力をお伝えする機会を得ましたので、今回はその生の声をご紹介します。

"Japanese equity valuation is very attractive. But..." (「日本株のバリュエーションはとても魅力的だが・・・」)

 複数の投資家がほぼ同様の発言をしていました。まず、日本株のバリュエーションはどのように魅力的なのかを考えてみたいと思います。「失われた30年」とも言われた1989年末からの日経平均株価を見てみると、2023年6月末時点でようやく0.9倍程度まで回復してきました。一方で同期間において、米国(S&P500)は13倍、ドイツ(DAX)は9倍、中国(ハンセン指数)は7倍に株価は上昇しており、株価水準において日本株の大幅な出遅れが見られます。また、PBR(株価純資産倍率:株価が1株あたり純資産の何倍まで買われているか)についても、日本が1.4倍なのに対して、米国は4.0倍、欧州は1.8倍、アジアは1.5倍と、やはり日本の割安感が目立ちます。一方で、日本企業の経常利益率でみた収益性は大幅に改善してきており、業績と株価に乖離が生じています。その意味で、日本株のバリュエーションは魅力的であるといえます。しかし、前回お伝えしたように、日本企業は、高い収益性により稼いだ資金を投資に十分に振り分けてきませんでした。そのため、海外投資家からは、資本収益性の改善に懸念がありました。ここが上記でご紹介した発言の"But..."の部分です。

 経常利益率でみた事業収益性と資本収益性の違いについてご説明します。経常利益率とは、通常の企業活動における利益率のことで、企業活動の総合的な収益力を表します。資本収益性(ROE:株主資本利益率)とは、投資家が出資した資本に対して企業がどれだけの利益を上げているかを表す指標で、経営効率の高さを表します。計算の分母が、経常利益率が売上高なのに対して、ROEは自己資本になります。そのため、高収益企業が、その稼いだ資金を十分に投資に振り向けないと、自己資本(内部留保)が積み上がり、分母が大きくなることによってROEは低下します。資本収益性の悪化です。

 これまで日本においては、事業収益性のみが重視され、資本収益性については、二次的なものとして捉えられる傾向がありました。前回お伝えした、東京証券取引所(以下、「東証」)による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請」により、日本企業に変化が見え始めています。ここで、PBRが1倍を下回っている企業の経営者の言葉をご紹介します。従前は、ROEやPBRへの関心が低かった経営者です。

「PBR1倍割れはプライドが許さないと思うようになった」

 これは、機関投資家向け決算説明会での社長の発言です。PBRはROE×PER(株価収益率:株価が1株あたり利益の何倍まで買われているか)で計算できるため、PBR1倍割れを改善するには、ROEを上昇させる必要があります。そのROEについて、同社は数値目標の設定を行いました。これまでROEへの関心が低かった企業ですので、大きな進展だと思います。日々の企業経営者との対話の中で、東証による要請をきっかけに、ROEやPBRを意識し始めた上場企業が徐々に増えてきていることを実感しています。ROEを中長期にわたって改善させるためには、積極的な成長投資を継続させることが重要です。日本において、資本コストを意識した成長投資への流れが少しずつ生まれつつあり、日本が成熟国から再度成長軌道に乗っていく未来が見え始めていると思います。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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