スペシャルレポート ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.4「ファンドマネジャーは株主総会に出席できるのか?」
前回、ROE(株主資本利益率)の重要性への認知が広がる中で、「所有と経営の分離」に特徴づけられる株主資本主義の考え方が、企業に正しく理解される必要があるとお伝えしました。今回は、企業への資金の出し手である株主(企業が発行する株式の所有者)の権利について考えたいと思います。少し専門的な内容になりますが、どうぞ最後までお付き合いください。
投資信託のファンドマネージャーは株主総会に出席できるのか?
株主が株主総会へ出席して意見を述べることは、株主の権利であると同時に、企業との関係性を構築する貴重な機会の一つであると思います。そうであれば、様々な投資家の皆さまから資金をお預かりして企業へ投資しているファンドマネージャーも、株主総会に出席して意見を述べていると考える方もいらっしゃるでしょう。しかし日本では、投資信託を運用しているファンドマネージャーが株主総会に出席することに大きなハードルがあります。
会社法第124条には、株主総会で権利を行使することができるのは、「基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主」であると定められています。株主名簿に記載されている株主を、一般に「名義株主」といいます。投資信託の場合、ファンド財産の保管を行っている信託銀行が名義株主になります。一方で、実際に投資判断を行っている運用会社は「実質株主」と呼ばれています。
株主総会に参加して権利を行使できるのは「名義株主」であると解釈されている一方で、「実質株主」が株主総会に出席できるか否かは、明確にされておらず、その判断は企業に委ねられているのが現状です。しかし、公募投資信託の保有株に係る議決権行使は、実質株主である運用会社が個別議案に対する賛否を判断し、議決権を行使することが実務として定着しています。それにも関わらず、株主総会に出席することだけが明確な権利として認められていないのはおかしいことだと感じます。また、企業にとっても、自社の株主として信託銀行などが名義株主になっていることから、誰が意思決定権のある実質株主なのかを把握しにくい点も課題になっています。ファンドマネージャーと企業との対話の現場において、ROEの改善について議論しているファンドマネージャーが、その企業に投資を行っているのかが不明瞭のままで対話が進む、という不思議な状況になっている場合があるのです。
株主総会とは、株式会社における最高意思決定機関であり、会社の行く末を決定する重要な場です。一方で、「しゃんしゃん総会」とも揶揄(やゆ)されるように、適切な議論などもなく形式的なセレモニーとして取り扱われている株主総会も多くあります。元来、株主総会とは、株主と企業経営者とが適切に議論を行い、一緒になって企業価値の向上に努めていく場であるはずです。株主総会が、株主と企業経営者との真剣勝負の議論が行われる場になれば、日本企業ひいては日本社会がより良いものになっていくのではないでしょうか。近い将来、ファンドマネージャーも株主総会に参加し、積極的に議論ができるようになることを願っています。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
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