ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.7「アニマルスピリット喚起のカギ・社外取締役」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.7「アニマルスピリット喚起のカギ・社外取締役」

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 前回まで、企業の情報開示であるIR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)の重要性についてお伝えしてきました。株主に対して、企業の経営状況や成長戦略について十分に説明・対話をすることで、機動的な企業経営が可能となり、更なる企業価値向上につながると考えています。今回は、株主と企業との対話のハブとなることが期待されている、株主の代理人としての社外取締役の役割について考えたいと思います。

 社外取締役とは、社外から選ばれた取締役のことで、社内での昇進によって就任した取締役とは異なり、社内のしがらみにとらわれず、経営陣や特定の事業部門への忖度(そんたく)なく発言・行動ができる立場です。また、株主からの付託を受けて、経営(経営陣による業務執行)を監督することが基本的な役割であると解されています。そのため、企業と株主との円滑な対話を遂行するために、社外取締役は重要な立場にいると考えられます。コーポレートガバナンス・コード【基本原則5】にも「経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力」を行うべきとあります。一方で、現実はどうなっているのでしょうか。ここで、社外取締役との面談を申し込んだ際の、先方企業からの返答を紹介します。

 「社外取締役との面談依頼をいただくことはありますが、株主の皆さんの平等性の観点と、お受けした場合に、後続的に続く依頼に対して対応しきれない可能性があるため、ご容赦願いたい」

 日本を代表する上場企業のIR担当部署からの回答です。また、社外取締役の7割以上が株主との対話に前向きな姿勢を示す一方で、約6割の企業が、上記のように社外取締役の負担を考慮して、株主と社外取締役との面談設定を躊躇(ちゅうちょ)しているというアンケート結果があります ※1 。確かに株主全員からの依頼を受けきれないという懸念はよく理解できます。一方で、個別対応が出来ないからと言って対話の機会を閉ざしてしまうことは、企業・株主双方にとって不利益ではないでしょうか。例えば、依頼をしてきた株主複数に対してまとめて議論を行うグループミーティングという形態での対話機会の提供も、選択肢としてあり得ると思いますし、実際そのような対応を行う企業も増えつつあると感じています。

 社外取締役の基本的な役割には、企業が適切なリスクテイクを行っているか、過度に保守的な経営になっていないかといった「攻めのガバナンス」も含まれます。そして、攻めのガバナンスについて、取締役会でどのような議論が行われたのかを株主に適切に共有し、最終的なリスクの担い手である株主の声を取締役会にフィードバックする、このループがしっかりと回ることが大切だと考えます。企業と株主が同じ船に乗った仲間であると認識し、適切にリスクテイクを行うことで、失われたと言われて久しい日本のアニマルスピリットが戻ってくると期待しています。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


※1:社外取締役向けアンケート調査(経済産業省2020)、企業向けアンケート調査(経済産業省2020)。


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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