ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.9「大きな変化の始まり」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖 ~日本再興へのメカニズム~ Vol.9「大きな変化の始まり」

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 旧年を振り返りますと、コロナ禍から経済活動正常化が進んだ1年であり、資本市場においては、3月の東京証券取引所(以下、「東証」)による、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象にした、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を皮切りに、日本企業のコーポレートガバナンスは改善への道を大きく歩み始めました。年末には、アジアのコーポレートガバナンス・ランキングで日本がアジア首位になったとの報道※1もありました。東証は、単に損益計算書上の売上高や利益だけではなく、バランスシートをベースとした資本コストと資本収益性(ROE:株主資本利益率)を意識した経営への転換を要請しました。それに呼応する形で、企業から資本収益性や市場評価の改善に向けた取組みの検討・開示が進みつつあり、日本企業のガバナンスの外部からの評価の改善につながっています。

 これまで本稿では一貫してROEの重要性について述べてきました。ROEとは、投資家が出資した資本に対して企業がどれだけの利益を上げているかを表す指標であり、会社が投資家の資本を効率的に活用できているかを評価することができます。ROEは、「売上高純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つの要素に分解することができます。いわゆるデュポンモデルです。日本企業全体のROEも長期の時間軸で改善傾向にあり、その背景には利益率の改善がドライバーの一つになっています。一方で、利益率改善の要因を分解してみると、日本企業は売上高が伸びない中で、人件費や研究開発費、設備投資に十分に資金を回さずに利益を捻出してきたことが分かります。長期の成長性を犠牲にした利益率の改善とも言えると思います。また、日本企業の中でも民間非金融法人に関しては、320兆円もの現預金をため込んでいる(2022年12月末時点。出所:日本銀行)という事実があります。長期投資家は、必要な投資を抑制してまで、持続的でないROEの改善を企業側に求めていない場合が多いように思います。ぜひバランスシートにため込んだ資産を活用し、積極的な成長投資を継続させることで、「長期的な」ROEの改善を目指していただきたいと考えています。短期的には投資強化による費用増加で利益率が低下する場合がありますが、適切な投資であれば長期的にはより高い利益率を実現できると思います。先ほどのデュポンモデルに照らし合わせると、長期の売上高純利益率の改善につながります。また、適切にバランスシートを活用することで、総資産回転率が上昇します。結果として、長期的なROEの改善につながると思います。これが、長期投資家の求める持続的なROEの改善であると考えます。

 2024年1月には、東証から企業の取り組み状況が一覧表として公表される予定となっています。2024年の干支は、辰の中でも甲辰(きのえたつ)に当たり、「物事のはじまり」と「大きな成長」を表し、今まで準備してきたことが形になるといった縁起の良い年になると考えられています。2024年は変化への下準備を整えた日本企業が大きく花開く年になることを願ってやみません。

 この新しい年が皆さまにとって幸多きものになりますよう、お祈り申し上げます。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


※1:2023年12月17日付 日本経済新聞電子版「日本の企業統治「アジア首位」に市場発で質的進化を」


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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