スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンド
(愛称:対話の力)
- NISA成長投資枠対象ファンド
- 日経新聞掲載名
- スチュワード
- 分類
- 追加型投信/国内/株式
- 設定日
- 決算日
- 毎年10月15日
基準日:2024.10.10
- 基準価額
- 21,468円
- 前日比
-
-103円
-0.48% - 純資産総額
- 20.6億円
- 分配金情報(税引前)
- 0円
- 交付目論見書(2.0 MB)
- 請求目論見書(2.4 MB)
- 月次報告書 (431.9 KB)
- 交付運用報告書(604.4 KB)
- 運用報告書(全体版)(542.4 KB)
- 当ファンドは、NISAの「成長投資枠(特定非課税管理勘定)」の対象ですが、販売会社により取扱いが異なる場合があります。詳しくは、販売会社にお問い合わせください。
基準価額推移
分配金実績
決算頻度:1回/年
- 設定来合計
- 404円
- 直近12期計
- 404円
分配金実績一覧
- 2023年10月16日
- 0円
- 2022年10月17日
- 0円
- 2021年10月15日
- 0円
- 2020年10月15日
- 133円
- 2019年10月15日
- 19円
- 2018年10月15日
- 45円
- 2017年10月16日
- 127円
- 2016年10月17日
- 50円
- 2015年10月15日
- 30円
- 上記以前の分配金については、「選択した期間のデータをダウンロード」ボタンからご確認いただけます。
月次報告書
2024年
- 9月(431.9 KB)
- 8月(434.8 KB)
- 7月(438.6 KB)
- 6月(428.0 KB)
- 5月(426.0 KB)
- 4月(421.8 KB)
- 3月(426.5 KB)
- 2月(422.1 KB)
- 1月(443.2 KB)
2023年
- 12月(447.4 KB)
- 11月(444.1 KB)
- 10月(435.9 KB)
- 9月(473.7 KB)
- 8月(602.3 KB)
- 7月(453.7 KB)
- 6月(607.9 KB)
- 5月(596.3 KB)
- 4月(607.9 KB)
- 3月(610.8 KB)
- 2月(641.7 KB)
- 1月(633.6 KB)
2022年
- 12月(616.6 KB)
- 11月(641.5 KB)
- 10月(652.8 KB)
- 9月(650.9 KB)
- 8月(659.6 KB)
- 7月(706.1 KB)
- 6月(651.0 KB)
- 5月(632.4 KB)
- 4月(631.8 KB)
- 3月(574.2 KB)
- 2月(582.7 KB)
- 1月(1.5 MB)
2021年
- 12月(636.3 KB)
- 11月(839.4 KB)
- 10月(653.5 KB)
- 9月(852.1 KB)
- 8月(649.6 KB)
- 7月(635.9 KB)
- 6月(593.0 KB)
- 5月(727.4 KB)
- 4月(509.2 KB)
- 3月(897.6 KB)
- 2月(906.6 KB)
- 1月(1.0 MB)
2020年
- 12月(708.8 KB)
- 11月(897.3 KB)
- 10月(870.7 KB)
- 9月(661.7 KB)
- 8月(971.3 KB)
- 7月(653.1 KB)
- 6月(756.7 KB)
- 5月(796.8 KB)
- 4月(790.2 KB)
- 3月(733.3 KB)
- 2月(797.4 KB)
- 1月(744.5 KB)
2019年
- 12月(742.3 KB)
- 11月(731.2 KB)
- 10月(789.9 KB)
- 9月(806.7 KB)
- 8月(714.0 KB)
- 7月(615.2 KB)
- 6月(637.0 KB)
- 5月(670.1 KB)
- 4月(576.4 KB)
- 3月(560.6 KB)
- 2月(538.3 KB)
- 1月(535.3 KB)
2018年
- 12月(547.1 KB)
- 11月(514.5 KB)
- 10月(523.0 KB)
- 9月(553.3 KB)
- 8月(517.1 KB)
- 7月(505.7 KB)
- 6月(518.5 KB)
- 5月(534.8 KB)
- 4月(503.4 KB)
- 3月(490.7 KB)
- 2月(522.0 KB)
- 1月(533.8 KB)
2017年
- 12月(529.1 KB)
- 11月(518.8 KB)
- 10月(516.8 KB)
- 9月(512.9 KB)
- 8月(517.9 KB)
- 7月(516.6 KB)
- 6月(517.7 KB)
- 5月(546.7 KB)
- 4月(549.0 KB)
- 3月(519.2 KB)
- 2月(544.4 KB)
- 1月(533.0 KB)
2016年
- 発表年
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2024年9月の運用コメント
株式市場の状況
2024年9月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.53%の下落、日経平均株価は同1.88%の下落となりました。
月前半は米国のISM製造業景況感指数や雇用統計が予想を下回ったことで、米国経済の減速懸念が高まり市場心理に影響を与えました。さらに米連邦公開市場委員会(FOMC)による利下げ期待と日銀の利上げ期待の高まりにより、月半ばにかけて円高が進行しました。このような状況の中、株式市場は一時的に下落した後、反発が見られたものの上値は重く、投資家は慎重な姿勢を維持しました。
月後半はFOMCが0.5%の利下げを決定した後、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が緩和を急がない姿勢を示したことや、日銀が金融政策を現状維持したことから円高が一服し、輸出関連株や半導体関連株の買い戻しが進みました。また、自民党総裁選挙で高市早苗氏が当選し、金融緩和が再開されるとの見通しが高まったことで日経平均株価は26日から27日にかけて大きく上昇しました。しかし、最終的には石破茂氏が勝利し、経済政策への警戒感が高まったことなどから30日の日本株式市場は全面安の展開となり、前月末比で下落して当月の取引を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.89%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.53%の下落を0.64%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、三菱重工業、MARUWA、ホシザキなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、ルネサスエレクトロニクス、全国保証、京成電鉄などでした。
当月は、当ファンドの投資先である「京成電鉄」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
京成電鉄は、東京都東部・千葉県を中心に営業路線を有する私鉄です。中でも京成上野駅と成田空港駅間を結ぶ京成本線、成田スカイアクセス線が収益の柱となっています。また、東京ディズニーリゾートの運営会社である㈱オリエンタルランドの創業時からの株主であり、現在もオリエンタルランドの21.15%を有する筆頭株主でもあります。
当ファンドでは、訪日旅行者の拡大に伴う空港輸送需要の増加と、同社が保有するオリエンタルランドの株式価値が適正に評価される可能性に注目し、投資しています。
同社は短期的には訪日旅行者の回復による業績改善が期待できるとともに、日本が観光立国を目指す中で中長期的な業績拡大が期待できると考えます。日本政府は現在、2030年に年間6,000万人の訪日旅行者を目指すビジョンを掲げています。その過程で、成田空港では現在3本目のC滑走路を新設するとともにB滑走路を延伸する計画が進んでおり、将来的な空港利用客は大幅に増加すると考えられます。同社は成田空港機能強化に伴う中長期的な輸送需要増への対応として、組織体制を強化しており、長期にわたって同社収益にプラスが続くと当ファンドでは期待しています。
更に当ファンドでは、同社が保有するオリエンタルランドの株式価値が今後適正に評価される可能性にも注目しています。同社はオリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾートの創業に携わった会社の一つとして知られています。長年保有しているオリエンタルランドの株式を時価評価すれば実質的なPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る状況であり、株価は同社の企業価値に対して割安と考えます。一方同社が保有するオリエンタルランドの株式は、有効活用される可能性が低い、言わば「開かない貯金箱」であり、株式市場から適切に評価されていない可能性があります。当ファンドでは、今後の成長戦略について議論を進める中で、保有するオリエンタルランドの株式の価値が顕在化されるよう、対話を進めてまいりました。
2023年10月、同社に対し英ファンドから、オリエンタルランド株が時価評価されるべく、当時の保有比率22.15%から、持分法が適用外となる15%未満になるまで売却することを主旨とする提案が公表されました。この提案に対し、同社としては、保有の1%分を売却し、成長投資、株主還元に活用するにとどまっております。さらに、2024年4月には同ファンドから同様の内容の株主提案が再提出されました。同社は持分法適応対象以上の保有比率を維持する方針を示し、同提案は6月の株主総会で否決されております。
一方で、同社マネジメント層と当ファンドとの対話では、中長期の成長投資に資金調達が必要になれば、オリエンタルランド株の売却も検討すると考えていることを確認いたしました。当ファンドとしては同社の大きな長期成長ビジョンを描くべく、ひいては同社の資産を含めた価値が顕在化されるべく、引き続き対話を継続していく方針です。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年8月の運用コメント
株式市場の状況
2024年8月、日本株式市場の代表指標であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.90%下落し、日経平均株価は前月末比1.16%下落しました。
当月の日本株式市場は歴史的な乱高下を演じ、日経平均株価の月間値幅(高値と安値の差、終値ベース)がバブル経済崩壊時期を超えて過去最大となりました。
7月31日の日銀金融政策決定会合での追加利上げが円高を呼び、さらに市場予想を下回った7月の米ISM製造業景気指数で米国景気減速懸念が台頭し円高が一層進行したことで、月前半の日本株式市場はリスク回避の流れが強まり暴落しました。5日には米国経済や雇用の減速への警戒などから円高が大幅に進み、午後には日経平均先物でサーキットブレーカーが13年ぶりに1日に2回発動され、日経平均株価は前日比4,451円の下落と過去最大の値下がりを記録しました。しかしながら翌6日には為替市場がいったん落ち着いたことで日本株式市場も落ち着きを取り戻し、TOPIXおよび日経平均株価は史上最大の上げ幅となりました。加えて、翌7日の内田日銀副総裁のハト派発言も投資家の安心感につながり、月半ばにかけて日本株式市場は急反発しました。
月後半は米国経済への先行きに対する警戒感がひとまず和らぎ、日本株式市場は緩やかなペースで回復し、月前半の急落分の大半を取り戻して当月の取引を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.21%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同2.90%の下落を0.69%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、SHOEI、三菱重工業、京成電鉄などでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、マックス、EIZO、三井住友フィナンシャルグループなどでした。
当月は、当ファンドの投資先である「横浜ゴム」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
横浜ゴムは1917年に横浜で創業したタイヤメーカーです。横濱電線製造(現古河電気工業㈱)と米国のBFグッドリッチ社の合弁会社として設立され、戦前のコードタイヤ開発に始まり、戦後にはスノータイヤやスポーツラジアルタイヤなど数々の日本初となる画期的な製品を発売し、グローバルに成長を続けてきました。
乗用車向けのタイヤ消費財市場では2010年以降、低コスト・低価格を武器とした新興国のタイヤメーカーが生産能力を拡大しており、競争は年々激しくなっています。特に、中国タイヤメーカーの拡大は著しく、上位10社の増産投資計画を合算すると、10年以内に中国メーカーの生産比率は全世界の乗用車タイヤの50%を占めることが予想されています。このようにタイヤメーカーを取り巻く急速な環境変化に対して、同社を含むメジャータイヤメーカーはブランド力や技術投資を強化し、本数成長以上に価格の引き上げを優先するプレミアムカー戦略で対抗してきました。
当ファンドが注目しているのは、厳しい環境下でも徹底的に成長を追求する同社の経営姿勢です。消費財ブランドの“深化”と並行して“探索”と銘打ち、農機・建機などいわゆる「はたらくくるま」に搭載されるタイヤ生産財の強化に向けたM&Aを継続しています。2016年のオランダの農機・建機用タイヤメーカーAlliance Tire Group社(ATG)買収を皮切りに、2023年には農機・産業車両タイヤのトップブランドを有するスウェーデンのTrelleborg Wheel Systems Holding社(TWS)を買収することで、農機向けタイヤでは世界トップメーカーに昇り詰めました。農機や建機は舗装されていない道で稼働しており、これらの機械に搭載されるタイヤは「Off-Highway Tire(OHT)」と呼ばれます。OHTは消費財と比較して高い市場成長性が期待され、多品種少量生産かつ製造の複雑さを背景に高い参入障壁を誇ります。
2024年7月には、新たに米国のタイヤメーカーであるThe Goodyear Tire & Rubber社から鉱山・建機向けタイヤ事業を買収する契約の締結を発表し、OHT業界での市場シェアをより一層盤石なものとする戦略を強化している点も高く評価しています。
一方で、乗用車タイヤ主要市場での販売減速が観測される中、メキシコと中国で立て続けに大規模な成長投資の計画を発表した同社の株価は7月以降下落基調にあり、PBR(株価純資産倍率)は一時0.5倍程度の水準となりました。当月前半に開示された2024年度第2四半期決算では、株式市場でのタイヤ市場減速懸念をよそに、通期計画の上方修正を発表する好調な業績を示しました。同時に、現行の中期経営計画最終年度である2026年度の事業利益目標も上方修正しており、力強いメッセージを受け、株価指標は回復に転じています。
当ファンドでは、中期経営計画の中の柱の一つである、抜本的な製造コストダウンを目指す「1年工場」というコンセプトに注目しています。成長投資による規模の拡大だけでなく、投資リターンの刈取り時期や蓋然性といった“質”を並行して高めるべく、ものづくりのあり方を根本から見直すという挑戦的な取り組みとして大いに期待しています。同社はタイヤ業界随一の成長志向企業であり、戦略的投資へのキャピタルアロケーションを重視していることから、同業他社と比較して、株主還元の比重は決して高くありません。裏を返せば、競争が激化する市場の中で、それだけ有望な投資案件を豊富に抱えている稀な企業であるとも言えます。当ファンドは、従前から対話を通じ、同社の経営陣の資本収益性に対する強いコミットメントを確認しており、成長戦略の追及こそが企業価値向上への最短ルートであると強く共感しています。
同社のPBRは現在も1倍を下回る状態が続いており、市場からは株主資本コストを上回るROE(株主資本利益率)を持続的に達成することが難しいとの評価を受けていることが推察されます。厳しいタイヤ市場の中でも際立った成果を実現すべく、投資リターンの刈取りを着実に積み重ねようとする同社の経営姿勢は、山石CEO就任の2017年以降の実績からして、信頼できるものだと考えています。当ファンドはパートナー株主として、同社の持続可能な成長力についての市場からの理解浸透、具体的には期待ROEとPER(株価収益率)の向上をサポートするため、腰を据えて対話を続けていきたいと思います。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE⽔準や安定性などの財務指標や、PBR、PER、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年7月の運用コメント
株式市場の状況
2024年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.54%下落し、日経平均株価は前月末比1.22%下落しました。
当月の日本株式市場はボラティリティの大きい相場展開となりました。月前半は、前月からの好調な流れを引き継ぎ堅調に推移しました。米国の雇用統計で労働需給の逼迫が緩和される兆しが見られ、FRB(米連邦準備制度理事会)の年内利下げ観測が高まったことで、長期金利が低下し、米国のハイテク株が上昇しました。日本でも半導体関連銘柄が相場を支え、日経平均株価は連日で史上最高値を更新し、11日には4万2,000円台に到達しました。しかしながら米国消費者物価指数が想定以上に軟化し、米国ハイテク株に利益確定売りが入ったことやドル円が円高方向に振れたことなどから、日本株式市場は下落に転じました。そして月後半に入ると下げが一層加速しました。トランプ氏が大統領選で優勢と伝わると、米中対立の深刻化やドル高是正などの自国優位政策が懸念され、半導体関連株に売りが膨らみ、日本株にも影響が及びました。さらに日銀の追加利上げやFRBの利下げ観測から「円キャリー取引」の巻き戻しが発生し、ドル円は一時151円台を付け、日本株式市場も幅広く売りが広がり、日経平均株価は3万8,000円を割り込む水準まで大幅に下落しました。
31日に日銀は金融政策決定会合で政策金利を0.25%程度に引き上げることを決定し、国債買い入れの減額計画も明らかにしました。また、米国政府が対中国の半導体輸出規制で日本などを除外すると報じられると、半導体関連株が反発し日本株式市場は下げ幅を縮小して当月の取引を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.11%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.54%の下落を0.65%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、森永製菓、三菱重工業、全国保証などでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、ルネサスエレクトロニクス、京成電鉄、ホシザキなどでした。
当月は、当ファンドの投資先である「全国保証」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
全国保証は、国内唯一の独立系住宅ローン保証会社です。住宅ローン保証事業とは、住宅ローンの借入人から保証料等をもらう代わりに、連帯保証人となる事業を言います。住宅ローンの借入人が返済を出来なくなった場合、保証会社である同社が金融機関に住宅ローンを弁済し、金融機関に代わって借入人から住宅ローンを回収する、もしくは住宅ローンの担保物件(住宅・土地等)を売却して弁済資金を回収する事業モデルです。住宅ローン保証は金融機関の子会社保証会社が提供するのが一般的ですが、同社は金融機関に属さない国内唯一の独立系企業であり、全国のどの金融機関の住宅ローン保証でも引き受けが可能です。また、40年以上のローン審査のデータの蓄積から、延滞リスクの低い顧客に保証を行うため、代位弁済に関わるコストは限定的であり、営業利益率が約8割に上る非常に収益性の高いビジネスとなっています。
同社は1981年に厚生年金転貸住宅融資の保証業務を担う目的で設立されましたが、業容転換のために1997年から民間金融機関向け住宅ローンの保証業務に参入します。当時、大手金融機関は子会社の保証会社を使っていたため、全国保証は、信金・信組など、中堅・中小金融機関への保証業務に注力し成長してきました。中堅・中小金融機関への保証業務の提供を通じて、同社は与信能力や審査時間の短縮化などサービス品質を磨き上げてきました。今日では、同社はその強みを活かし、メガバンクを含む多数の金融機関に住宅ローン保証を提供しています。
同社の保証残高は1998年の1兆円から2024年3月末には17.6兆円まで増加しています。特にリーマンショック以降大きく増大し、民間住宅ローン残高に占める同社シェアも2024年3月末で8.9%まで上昇してきました。その背景には、同社のサービス品質の高さに加えて、銀行に対するリスク規制強化に伴い、住宅ローン保証リスクを銀行グループから隔離したいニーズの高まりがあります。
当ファンドでは、同社の業績拡大が持続すると考えています。上記理由から、銀行子会社によるローン保証から、独立系の同社へのシフトが続くことが想定されます。同社は現在、金融機関に対し、保証子会社の買収など、多様なスキームによる保証債務の引き受けを提案しており、今後も継続的に残高シェアを上げていくことができると思われます。
また、同社の株価は、企業の実態価値を反映できていないと思われます。課題は主に2点あり、①事業の安全性に対する理解を株式市場から十分に得られていないこと、②成長投資や株主還元といった資本政策に大きな改善余地があること、であると当ファンドでは考えています。これらの課題について当ファンドはこれまで青木社長と何度も面談を実施し、議論を重ねてきました。2023年3月に発表された新中期経営計画では、「住宅ローンプラットフォーマー」としてリスクを抑えながら更なる事業成長が可能なことや、成長投資・株主還元などに余剰資本を積極活用していく方針が示されました。2024年3月期の通期決算説明では、配当性向の引き上げに加え、同社初となる自社株買いの発表をし、株主還元への積極的な姿勢も見られました。
当ファンドでは引き続き、同社の企業価値が株式市場で顕在化する一助となれるよう、経営陣との対話を継続していく方針です。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年6月の運用コメント
株式市場の状況
2024年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.45%上昇し、日経平均株価も前月末比2.85%上昇しました。
当月の日本株式市場は、日米の金融政策の動向に注目が集まるなかレンジ内でもみ合いの推移となった後、円安の進行とともに月末にかけて上昇しました。月前半は、米国金融政策の動向を巡り米国マクロ経済指標に注目が集まるなか、雇用・物価関連指標等の結果を受けインフレ鈍化の見方が支持され、目先のFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測の高まりから米国長期金利が大幅に低下し、米国株式市場は半導体・ハイテク株中心に上昇しました。この流れを受けて、日本株式市場も上昇しました。月半ばには、日銀金融政策決定会合で、日銀が国債買い入れ減額の方針を固めたものの、具体策については公表が見送られ、円安の進行とともに日本株式市場は上昇しました。その後は、会合後の記者会見にて日銀総裁より買い入れ減額規模について「相応の規模になる」との発言があったことや、7月の会合で利上げを行う可能性も否定しない主旨の発言があったこと、また、フランス政治不安が改めて意識され下落した欧州市場の影響などいくつかの材料が出るなか、日本株式市場は下落する場面がありましたが、月後半にかけて株価は持ち直しました。月後半は、ドル円レートが一時161円台まで下落し、1986年12月以来およそ37年ぶりの安値を更新しました。円安が支えとなったほか、日本長期金利の上昇を受けた銀行株などの上昇も相場をけん引し、月末にかけては配当金の再投資の観測もあるなかで日本株式市場は前月末対比で上昇し、当月の取引を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.85%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.45%の上昇を0.40%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、三菱重工業、MARUWA、全国保証などでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、横浜ゴム、京成電鉄、ホシザキなどでした。
当月は、当ファンドの投資先である「森永製菓」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
森永製菓は1899年創業の大手菓子メーカーです。米国で菓子製造技術を学んだ創業者森永太一郎氏が、「日本の人々にもおいしく栄養価の高い西洋菓子を食べてもらいたい」という想いをもって日本の菓子産業の礎を築いたのが同社の始まりです。今では菓子だけでなく、アイス、「inゼリー」に代表されるゼリー飲料、通販など、製品・事業の幅を広げ、日本だけでなく海外に積極的に展開しています。
当ファンドが注目しているのは、MORINAGAブランドの海外での成長です。特に米国では「HI-CHEW(ハイチュウ)」の売上が著しい成長をみせています。メジャーリーガーの間でHI-CHEWブームが起こったことをきっかけに、ソフトな食感とフルーツのおいしさを合わせた商品特性が評判となり、米国小売大手ウォールマート等も取り扱うようになりました。2024年3月期の米国売上高はHI-CHEW以外の商品も含め191億円に達し、足元も順調に成長が続いています。先日発表された新中期経営計画の中で、HI-CHEWの更なる拡大とともに米国版inゼリーである「Chargel(チャージェル)」の導入促進が打ち出されました。そして2030年に向けては、米国だけでなく欧州・アジア等にも事業拡大し、海外売上高750億円を目標とする計画も同時に発表されています。同社は、生産体制の拡充など積極的な海外投資を行う姿勢を示しており、当ファンドは引き続き海外での事業成長を期待しています。
一方で、本業ともいえる国内菓子事業は、低い収益性が課題となっています。原材料価格高騰の影響を価格改定・コスト改善で跳ね返そうと努力しているものの、2024年3月期の営業利益率は5.1%に留まりました。当ファンドでは、この国内菓子事業の在り方について同社と何度も議論してきました。議論の中で同社の太田社長は、「総合菓子屋」としての看板を下ろすことなく、老朽化した製造ラインの廃止を通じた商品の選択と集中により、事業の生産性向上に努める意思を示していました。実際に新中期経営計画では、商品価値強化を図りつつも「段階的なアセットライト」を進め、同社の基盤事業として持続的成長および投下資本利益率(ROIC)向上を目指すことが謳われました。当ファンドでは、対話の成果が徐々に顕在化し始めていると評価しています。売上高の大きい国内菓子事業の収益性改善は同社の企業価値向上に不可欠となるため、構造改革の進捗を見守りながら今後も対話を続けてまいります。
最後に、同社が合理的な資本政策の実行に舵を切り始めていることにも当ファンドは注目しております。当ファンドでは従来から、ROE(株主資本利益率)の改善についても同社と議論を重ねてきました。同社はROE目標を、2026年に12%以上、2030年に15%以上と明示しましたが、事業成長と収益性改善を追求しながら資本を適切な水準に保ち続ける必要があります。先日開催された株主総会の場で、株主還元の強化を太田社長が力を込めて説明していましたが、当ファンドはパートナー株主として、対話を通じて同社のROE改善の取り組みをサポートしてまいります。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年5月の運用コメント
株式市場の状況
2024年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.16%上昇し、日経平均株価も前月末比で0.21%上昇しました。
当月の日本株式市場は、月前半は4月の米国雇用者数が市場予想を下回り、米利下げ観測が強まったことから日米株式市場ともに上昇しましたが、日銀の金融政策正常化観測などから上値が抑えられました。月半ばには米消費者物価指数や米小売売上高など予想を下回る指標が発表され、金融引き締めの長期化への懸念が後退しました。その結果、米国の主要3株価指数が史上最高値を更新し、日経平均株価も一時39,000円を回復しました。さらに、NVIDIA社(米国)が市場予想を上回る好決算を発表し、半導体株が軒並み上昇して相場を支えました。月後半は、米景気の底堅さを背景とする利下げ動向への懸念や、日銀総裁の追加金融引き締めを示唆する講演が再び注目されて日米長期金利の上昇により株価が下落しましたが、最終的には金利上昇がひとまず一服したとの見方が買い戻しにつながり、前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.61%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.16%の上昇を0.45%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、ルネサスエレクトロニクス、ワコム、マックスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、横浜ゴム、ナカニシ、三菱重工業などでした。
当月は、当ファンドの投資先である「三菱重工業」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
当ファンドは同社が掲げているエネルギーの供給と需要の両面のグリーン転換「エナジートランジション戦略」に注目し、投資を行っています。同社は「リアリティのあるエナジートランジション」を重視し、エネルギーの供給と消費の両面のグリーン転換を成長の柱に掲げています。当月は、2024年度から2026年度までの3か年を対象期間とする同社の2024事業計画(24事計)について、ご説明させていただきます。
2021年度から2023年度を対象期間とした2021事業計画(21事計)は、新型コロナウイルスの影響に伴う民間航空機需要の急減や、脱化石燃料のトレンドによる新設石炭火力の大幅な縮小という逆風の中、危機対応のために半年前倒しで策定されました。21事計は次期事計期間での飛躍に向けて、収益力の回復・強化に主眼が置かれた内容でした。拠点再編や事業譲渡による固定費抑制や、経済再開による中量産品の需要回復を捉えることで、一過性費用を除くと、2023年度には2020年10月発表の当初計画2,800億円を大きく上回る事業利益を達成しました。また、外部環境が不透明な中でも、水素・アンモニア、CO2回収やデータセンターといった新規領域への成長投資を継続した経営姿勢を当ファンドは高く評価しております。
24事計のテーマは“事業成長と収益力の更なる強化の両立”であり、成長性の側面がより強調された計画となっております。この3か年で成長を牽引するのは、ガスタービンと原子力のエネルギー関連製品と防衛事業です。ロシアとウクライナの紛争勃発によるエネルギー資源価格の高騰を経験して以降、国家安全保障と気候変動対応の両立のためにも、信頼性が高く、CO2排出量の低いベースロード電源の需要が世界的に高まっています。
また、最近では電力を大量に使用するデータセンターや半導体工場の新規建設計画が、世界各地で進んでおり、電力需要の見通しは上向き傾向にあることも、ガスタービンや原子力等の安定電源への追い風となっています。世界トップシェアを誇る同社のガスタービンは、高性能・高信頼性・将来的な水素混焼への転換のオプションを武器に更なるシェア拡大が期待されます。既に21事計の最終年度である2023年度には、当該3事業の合計で3兆円を超える受注高が計上されております。
事業化を推進する成長領域では、発電・インフラ関連と親和性の高いCO2回収や水素・アンモニアバリューチェーンの構築に向けて、大きく先行投資を行います。グループ総合力を活かした事業開発体制の強化のために、2024年4月1日付で組織再編を行い、「GXセグメント」という事業部門を設立しています。また、先述のデータセンター領域においても、蓄電システムやターボ冷凍機などデータセンターの安定運用に必要な製品群をワンストップで供給することで、独自の事業機会の獲得を目指します。
当ファンドでは、三菱重工業は、今後ますます増える世界のエネルギー需要とネットゼロ目標の両立という「理想」と「現実」のギャップを満たす解決策を提供し、長期にわたって中心的な役割を担う企業であると考えています。しかし、当月前半の2023年度通期決算発表と当月末の事業計画発表の翌日には、株価は両日とも下落しました。成長投資の積極化による費用増や事業ポートフォリオ改革による収益性の底上げについて、具体的な言及がなされなかったことが市場の期待を下回ったものと思われます。一方、当ファンドでは、CO2回収や水素バリューチェーンへの投資は24事計期間以降の持続的な成長のために必須のものと考えており、費用が先行する中でも事業利益率を8%以上の水準に改善させるという経営目標をポジティブに捉えております。成長を担う重点領域以外の事業群については、生産拠点・販売網の最適化による事業構成の最適化との説明があることから、具体的な改善施策の検討が進んでいると当ファンドでは推察しております。
当ファンドは長期的なパートナー株主として、株式市場から見過ごされている同社の企業価値拡大のドライバーや、事業計画の理解促進を意識したコミュニケーション方法について、根気強く対話を継続していきます。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年4月の運用コメント
株式市場の状況
2024年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.91%下落し、日経平均株価は前月末比4.86%の大幅下落となりました。
月前半は利益確定売りや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)高官の年内利下げ先送り示唆に伴い米長期金利上昇が懸念され、米国株式市場の下落を招き、日本株式市場は上値を抑えられました。月半ばには米CPI(消費者物価指数)の市場予想を超える上昇や半導体関連企業の大幅下落、また中東情勢の悪化などから日経平均株価は一時37,000円を割り込みました。月後半には中東情勢の落ち着きから買い戻しの動きが見られ、日経平均株価は38,000円台を回復しました。26日まで開かれた日銀金融政策決定会合では緩和的な金融政策の維持が決定され、日本が祝日だった29日にドル円相場は一時160円台へ急伸し約34年ぶりの高値を更新しました。しかしながら、その後一転して154円台まで大きく円高に振れ、市場では政府による為替介入が行われたとの観測が広がりました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.12%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.91%の下落を0.79%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、マックス、パイロットコーポレーション、横浜ゴムなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、SHOEI、ワコム、三菱重工業などでした。
当月は、当ファンドの投資先である「パイロットコーポレーション」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
パイロットコーポレーションは、日本で高い知名度を持ちますが、世界的にも有名な大手筆記具メーカーです。筆記具メーカーのシェアとしては、Newell Brands社(米国)が世界首位ですが、パイロットコーポレーションは傘下に「PARKER」や「WATERMAN」といった複数のブランドを持っており、単⼀ブランドでは「パイロット」が世界トップクラスのシェアを誇ります。同社は⽇本初の純国産万年筆の製造を⽬指して、1918年に創業しました。その後万年筆の開発に成功すると、1920年代には海外への輸出を開始し、着実に売上を伸ばし続けてきました。その結果、世界190か国以上の国と地域で同社の筆記具が展開され、同社のヒット商品である消えるボールペン「フリクションシリーズ」は日本だけでなく、欧州を中心として海外でも愛用されるなど、現在は海外売上比率が7割を超えています。
当ファンドは、同社が長年培ってきた技術力とブランド力に加え、各地域に根差したマーケティング力と商品開発力、安定供給を可能にする製造・販売体制といった強みが、今後も同社の収益性と市場シェアを高めていくと考えています。とりわけ新興国では、中長期的には中間層の増加・進学率の上昇に伴い、同社の高品質な筆記具の浸透が進んでいくことに期待しています。
一方、当ファンドは同社のIR体制や資本政策に課題があると考え、これまで経営陣と対話をしてまいりました。同社は過去、株式市場に対する情報開示を最低限に絞っていたため、投資家からの注目度が低く、本来の企業価値が株価に反映されていなかったと当ファンドでは考えておりました。そのような中、同社にとって初めてとなる決算説明会が2024年2月に開催されました。多くの機関投資家が出席し、事業成長性や財務戦略に関する活発な質疑応答が交わされました。今回の決算説明会開催をきっかけに、同社と株式市場との対話が活性化され、同社の魅力が市場に広がっていくと考えております。
また、決算説明会の質疑で一部の投資家から資本効率に関する指摘を受けておりますが、同社はバランスシートに現預金を約400億円抱えております。この現預金を有効活用することでROE(株主資本利益率)の改善が期待でき、同社は2024年度の成長戦略として海外拠点開設を含む130億円規模の設備投資を計画しております。しかしながら同社の収益構造を鑑みると、中期的には現預金の比率は高まっていくため、さらなる資本効率改善のためには、株主還元の強化も含めたキャッシュアロケーションの検討が必要であると当ファンドは考えており、引き続き対話を通じて積極的に働きかけていく方針です。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2024年3月の運用コメント
株式市場の状況
2024年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.44%上昇し、日経平均株価は前月末比3.07%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、月前半は前月から引き続き半導体関連銘柄の上昇などが相場をけん引し、日経平均は史上初となる4万円台に到達するなど堅調な推移となりましたが、月半ばにかけては米国半導体関連銘柄が下落した影響や、日銀のマイナス金利政策解除を示唆する報道、春季労使交渉(春闘)での高い賃上げ実現への期待の高まりなどから日銀の金融政策正常化への思惑が広がって円高が進行したことなどが重しとなり、下落しました。月後半にかけては、日銀が金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除や長短金利操作の撤廃、上場投資信託(ETF)の買い入れ終了などを決定したものの、当面は緩和的な金融環境が継続するとの見通しが示されたことなどを受けて円安進行とともに上昇し、最終的に前月末を上回る水準で取引を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.06%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.44%の上昇を1.38%下回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、三菱重工業、SHOEI、ルネサスエレクトロニクスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、MARUWA、京成電鉄、ナカニシなどでした。
当月は、当ファンドの投資先である「マックス」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
ホッチキス等のオフィス機器および建築工具等の産業機器メーカーであるマックスは、1942年に群馬県高崎市で航空機部品メーカーとして設立しました。航空機部品の製造で培われたプレス技術を活かし、戦後、国産初となるホッチキスの量産を実現しています。1985年には複写機に内蔵される電動ホッチキス「オートステープラ」を発売しました。オートステープラは、圧倒的な品質・精度の高さから、世界中の複写機メーカーに採用されております。
同社はまた、国産初の手動式釘打機を発売して以来、建築工具の製品を拡充してきました。2017年には充電式鉄筋結束機「ツインタイア」を発売しました。鉄筋結束機は、コンクリート建造物の鉄筋をワイヤで結束する工具で、従来作業員が行っていた手作業での鉄筋結束を機械化することで、作業時間および作業者負担を低減するツールです。同社はツインタイア発売以降も結束時間の短縮や結束強度改善を目指した研究開発を継続しており、2023年12月に発売した新モデルの製品は従来の製品に比べて結束スピードが1.4倍になっており、ワイヤ交換を補助する機能等が追加されています。実際に取材訪問した際に製品を扱いましたが、建築現場で働いたことがなくても簡単に扱える事を確認できたため、手作業と比較した場合の鉄筋結束機の効率性はさらに増したと感じています。新モデル発売をきっかけに同社のツインタイアシリーズが広くグローバルに認知されることで、人手不足ならびに労務費高騰といった社会課題を省人化により解決することに期待をしています。
マックスは、徹底した現場主義・顧客主義により顧客ニーズに応えることで新たな市場を産み出し、複数の分野でグローバルに「ナンバーワン・オンリーワン」のポジションを確立してきました。高い技術力に裏付けられた同社の独創性と潜在成長力は、株式市場から十分に評価されていないと当ファンドでは見ています。
同社の株価評価を下げている要因の一つに、低い資本収益性が挙げられます。同社の総資産は2023年12月末時点でおおよそ半分を金融資産が占めており、より積極的に事業投資や株主還元に活用し、資本効率を高めるべきと当ファンドは考えます。従来の対話の甲斐もあってか、2023年3月期より、配当性向目標を50%へと引き上げましたが、それでも金融資産の適正水準とは言えず、まだ資本配分に改善の余地があると考えております。また健全な株価形成を妨げるもう一つの要因として、複数の政策保有株主が同社株式を保有することによる低い流動性が挙げられます。政策保有株主から株式を売却してもらい、一部を自社株買いで吸収することが、流動性と資本効率を改善する一策として有効であると考えております。
2023年10月に発行された統合報告書では、政策保有株式の縮減について言及しており、同社役員が当ファンドと同様の課題認識をもっていることを確認できた点はポジティブに捉えています。当ファンドでは、引き続きバランスシートの見直しやそれに伴うROE(株主資本利益率)の改善に向けた対話を継続していく方針です。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年2月の運用コメント
株式市場の状況
2024年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.93%上昇し、日経平均株価は前月末比7.94%の大幅上昇となりました。
当月の日本株式市場は、月前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)の内容を受け早期の米利下げ期待が後退し一進一退の動きで推移しましたが、月半ばから後半にかけては内田日銀副総裁がマイナス金利解除後も日銀は緩和的な金融環境を維持するとの認識を示したことや、生成AI(人工知能)向け半導体需要の増加が期待される米国で半導体関連企業の株価上昇が続き、日本の半導体関連企業にも資金が集中したことから、続伸しました。22日には日経平均株価は39,098.68円で終え、約34年ぶりに最高値を更新しました。その後の日本株式市場の推移は緩やかだったものの、月末まで日経平均株価は3万9,000円台を維持したまま当月の取引を終えました。
ファンドの運⽤状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.18%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.93%の上昇を2.75%下回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、三菱重工業、MARUWA、SHOEIなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、ワコム、マックス、森永製菓などでした。
当月は、当ファンドの投資先である「ルネサスエレクトロニクス」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
ルネサスエレクトロニクスは、半導体を製造・販売する企業です。同社は、㈱日立製作所・三菱電機㈱の半導体事業とNECエレクトロニクス㈱の統合により、2010年に設立されました。世界トップシェアを有するマイコンを基軸として、2017年以降は海外の同業他社を買収することにより、成長市場であるデータセンターやスマートデバイス向けの製品・顧客ラインナップを拡大し、成長してきました。
同社は、2023年5月に開催されたアナリストやメディア向け戦略説明会「Capital Market Day」において、2030年までに時価総額を当時の6倍まで成長させるとのビジョンを示しました。業績を2倍に、株価バリュエーションを3倍に拡大することが、目標への道筋となっています。特にバリュエーション拡大の文脈で強調されたのは、業績のダウンサイクル局面でもしっかりとマージンを確保することでした。同社は2018年から2019年にかけての半導体市場の下降局面において、大きく収益性を低下させました。この期間においてマージン低下を最小限に抑えられた競合他社とバリュエーションで差がついておりました。当ファンドでは、業績への信頼感がバリュエーションのギャップに繋がったと考えています。2019年以降、同社は製造の外注比率を高めることで、固定費水準を引き下げてきました。2023年12月期決算は、前年比2.1%の減収となったものの、売上総利益率は前年比0.1pt減と、2019年の逆風下と比較して、高いレジリエンスを示す結果となりました。
また同社は、2024年2月には米国のプリント基板(PCB)の設計ソフトウェア企業であるAltium社を約8,879億円で買収することを発表しました。同社はバリュエーションのもう一段の拡大に向けたキャピタルアロケーション方針の中で、M&Aによる製品ポートフォリオの充実を掲げています。アナログ半導体の同業他社を対象とした過去の大型M&Aでは、上手くシナジーを発現し、素晴らしい実績を残した同社ですが、ソフトウェア企業の買収は初の試みとなります。
なお同社は、2023年6月に社内のPCB設計開発ツールをAltium社のものに統一し、自社エンジニアが検証済みの基板デザインをAltium社のプラットフォーム上で公開するというパートナーシップを結んでいます。
同社の顧客は、電子機器のデザインが益々複雑化する中でも、迅速に市場への製品投入をする必要があり、リソースのひっ迫に直面しています。そのため、設計から、デバイス選択、動作のシミュレーションまで、クラウド上で効率的なデザインを可能にするAltium社のプラットフォームは、同社との協業を一層深めることで、より大きな付加価値をもたらすサービスとなることが期待されます。
一方、同社は買収が完了した後も、Altium社は独立での事業運営を継続すると説明しています。そのため、短期的な財務シナジーもAltium社の最終利益が加わることによるEPS(1株当たり利益)の増加に限られる見込みです。過去のDialog Semiconductor社(英国)やIntegrated Device Technology社(米国)のM&Aプロセスでは、買収後の経営統合プロセスによる定量的なシナジーが語られましたが、今回は定性的な説明に留まりました。これまでと異なる成長戦略の不透明感から、発表当日に株価は約2.5%下落しました。当ファンドでは、“To Make Our Lives Easier”というパーパスに基づき、電子機器設計への参画の容易にし、イノベーションを促進するという同社の壮大なビジョンを高く評価しています。ただし、Altium社は同社によって子会社化された後も、オープンなプラットフォームとして顧客から受け入れられるのかなど、いくつか課題が散見されると当ファンドでは認識しており、資本市場の不安を払しょくすべく、継続的なフォローアップを求めております。当ファンドはパートナー株主として、引き続き同社の企業価値向上に向けた対話を粘り強く続けてまいります。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に資する関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2024年1月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉の⽇本株式市場は、能登半島地震の影響精査のため⽇銀が利上げを⾒送るとの⾒⽅が⾼まったことや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)⾼官のタカ派な発⾔を受けた⽶⻑期⾦利の上昇を背景に円安が進み、⽉前半は⼤きく上昇しました。また、新NISA制度の開始による個⼈投資家の買い需要や、東京証券取引所の市場改⾰への期待感から海外投資家の資⾦も多く流⼊しました。⽉半ばから後半にかけては、利益確定の売り圧⼒や、⽶国半導体⼤⼿の業績⾒通しが市場予想を下回ったことから半導体関連銘柄を中⼼に⼀時下落基調に転じる場⾯もあったものの、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。
ファンドの運⽤状況
2024年1⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐3.48%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同7.81%の上昇を4.33%下回りました。
当⽉、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、三菱重⼯業などでした。重⼯業メーカーの三菱重⼯業は、当⽉後半に決算発表を⾏った競合の⽶国重⼯業メーカーが2024年の発電機器事業に対して安定成⻑の⾒通しを⽰し、同社の先⾏きにも安⼼感が⾼まったことから株価が上昇したものと思われます。
⼀⽅、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、ルネサスエレクトロニクス、パイロットコーポレーションなどでした。半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスは、当⽉後半に決算発表を⾏った競合の⽶国半導体メーカーが2024年1-3⽉期の減収⾒通しを⽰し、同社の先⾏きにも懸念が広まったことから株価は調整したものと思われます。筆記具メーカーのパイロットコーポレーションは、主要市場である欧州における低迷の続く消費環境を背景に、業績の不透明感が⾼まったことが嫌気され、株価が下落したものと思われます。
当⽉は、当ファンドの投資先である「SHOEI」に対する投資⾒解、対話内容をご説明します。
SHOEIは、バイク⽤の⾼級ヘルメットを製造・販売している企業です。同社は1959年に設⽴され、その卓越した製品デザインや機能性、品質の⾼さからグローバルに多くのファンを抱えています。販売網は⽇本、欧⽶、中国など世界60か国以上を網羅し、ほとんど全ての国と地域でシェアNo.1を獲得し、世界のプレミアムヘルメット(⾼い安全性・機能性・デザイン性を兼ね揃えたヘルメット)市場で約60%のトップシェアを誇ります。
同社は設計、開発、製造を⼀貫して⽇本国内で展開しており、製造プロセスのほとんどは⾃動化されていますが、機械では代替できない⾮常に精巧な作業は現在でも⼈の⼿で⾏われています。そして同社は「カイゼン企業」を標榜しており、⽣産効率の向上を常に推進しています。同社の競争⼒の源泉はまさにこの「現場⼒」にあると当ファンドでは考えています。⻑年にわたって蓄積されたノウハウと⼈材を育成する企業⾵⼟が、今後もSHOEIブランドへの信頼性を⾼めていくことを期待しています。
こうした⾼いブランド⼒と商品開発⼒を武器にグローバルに販売数量を伸ばしながら、デザイン性・機能性に優れた新製品の投⼊を戦略的に⾏うことで、価格を引き上げることに成功しています。価格が上がったとしても、SHOEIのヘルメットを欲しいと考える消費者が増えていることに他なりません。このブランド価値とカイゼン⽂化を背景として、同社の事業は⾮常に⾼い収益性を誇っており、2023年9⽉期には営業利益率29.2%に到達しました。
⼀⽅、⾜元は欧州・中国を中⼼とした景況悪化等により、同社公表の2024年9⽉期の営業利益は減益予想となっています。1⽉後半に発表された2024年9⽉期第1四半期決算では、前年同期⽐で増収・増益を確保したものの、同社は先⾏きに対して慎重な⾒⽅を崩していません。しかし同社も⼿をこまねている訳ではなく、海外現地での需要動向調査・マーケティングの拡充や、⽣産能⼒拡⼤に向けた⼯場⽤地の確保など、積極的かつ着実に対応を進めています。当ファンドでは同社の中⻑期的な事業成⻑に対する⾒⽅に変更はありませんが、個別⾯談を通じて注意深くフォローアップして参ります。
また、当ファンドは同社の資本政策に改善の余地があると考えています。同社は直近数年の⼤幅な事業成⻑により多くのキャッシュを稼ぎ、2023年9⽉末時点で総資産の約45%を現預⾦が占める状況となっています。同社は配当性向50%を基本とした株主還元を⾏っていますが、資本の蓄積スピードが早く、ROE(株主資本利益率)には下押し要因となっています。設備や⼈への投資を実施した後の余剰資⾦を今後どのように活⽤していくか、同社からは発信がありません。この点について当ファンドはCEO・CFOとの個別⾯談を通じて対話を継続しています。経営陣は⻑期的な事業継続のために財務健全性を確保したいと主張していますが、保守的すぎる財務運営によって株主の利益であるROEが低下していく可能性があり、当ファンドは懸念を伝えています。また、同社の株主総会に出席した際には、複数の個⼈株主からも同様の懸念が表明されていることを確認しました。同社の資本政策に対する株式市場の⽬が厳しくなっていると考えられることから、当ファンドは⻑期的なパートナー株主として、引き続き同社の企業価値向上に向けた対話を粘り強く続けて参ります。
今後の運⽤⽅針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2023年12月の運用コメント
株式市場の状況
2023年12⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.23%の下落となりました。
当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は⽇銀の植⽥総裁と氷⾒野副総裁両名の発⾔を受けて⾦融政策修正の思惑が⾼まったことや、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)のハト派の内容を受けて⽶⻑期⾦利が低下したことで、円⾼が進み下落しました。⽉後半は、⽇銀⾦融政策決定会合における⾦融緩和維持の決定が好感される場⾯もありましたが、年末の閑散相場もあって円⾼基調が継続する展開が重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。
ファンドの運用状況
2023年12⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐0.47%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.23%の下落を0.70%上回りました。
当⽉、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、マックス、全国保証などでした。機械メーカーのマックスは、2024年3⽉期第2四半期決算において、営業利益と配当予想の上⽅修正を発表したことが好感され、株価の上昇が継続しているものと思われます。住宅ローン保証会社の全国保証は2024年3⽉期第2四半期決算を発表し、新規保証実⾏が件数・⾦額ともに堅調に推移していることが好感され、株価上昇が継続しているものと思われます。⼀⽅、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、SHOEI、パイロットコーポレーションなどでした。プレミアムヘルメットメーカーのSHOEIは、2023年9⽉期通期決算で、営業利益が会社計画未達となったことや、2024年9⽉期の営業減益予想が嫌気され、株価の下落が継続しているものと思われます。筆記具メーカーのパイロットコーポレーションは、主要市場である欧州と中国の消費動向の不透明性が嫌気され、株価下落が継続したものと考えます。
当⽉は、当ファンドの投資先である「森永製菓」に対する投資⾒解、対話内容をご紹介します。
森永製菓は1899年創業の⼤⼿菓⼦メーカーです。アメリカで菓⼦製造技術を学んだ創業者森永太⼀郎⽒が、「⽇本の⼈々においしく栄養価の⾼い⻄洋菓⼦を届けたい」という想いをもって⽇本の菓⼦産業の礎を築いたのが同社の始まりです。今では菓⼦だけでなく、アイス、「inゼリー」に代表されるゼリー飲料、通販など、製品・事業の幅を広げ、⽇本だけでなく海外にも積極的に展開しています。
当ファンドが注⽬しているのは、⽶国における「HI-CHEW(ハイチュウ)」の成⻑です。⽶国では、2008年に現地⼦会社を設⽴し本格的な販売を開始しました。メジャーリーガーの間でHI-CHEWブームが起こったことをきっかけに、ソフトな⾷感とフルーツのおいしさを合わせた商品特性が評判となり、⽶国⼩売⼤⼿ウォールマート等も取り扱うようになりました。2023年3⽉期の⽶国売上⾼はHI-CHEW以外の商品も含め146億円に達し、⾜元も順調に成⻑が続いています。先⽇⾏われたIR Dayの⽶国事業説明会では、2030年300億円の売上⾼⽬標を発表しました。同社は、⽣産体制の拡充やプロモーション強化など積極的な事業投資を⾏う姿勢を⽰しており、当ファンドは⽶国での更なる成⻑に期待しています。
⼀⽅で、本業ともいえる国内菓⼦事業は、低い収益性が課題だと当ファンドでは考えています。特に直近は、原材料価格⾼騰の影響等を受け、2023年3⽉期のセグメント利益率は2.0%程度に留まりました。当ファンドでは、この国内菓⼦事業の在り⽅について同社と何度も議論してきました。議論の中で同社の太⽥社⻑は、「総合菓⼦屋」としての看板を下ろすことなく、⽼朽化した製造ラインの廃⽌を通じた商品の選択と集中も選択肢に、事業の⽣産性向上に努める意思を⽰しています。2024年3⽉期は2度の価格改定や商品構成改善によりセグメント利益率が3.8%まで改善する会社計画となっており、順調に進捗しています。当ファンドでは、売上⾼の⼤きい国内菓⼦事業の収益性改善が同社の成⻑にとって不可⽋であると考え、構造改⾰の進捗を⾒守るとともに、対話を続けております。
加えて、同社が⾷品企業「MORINAGA」としてグローバルにブランド⼒・存在感を⾼め、新たな成⻑ステージへの移⾏を加速するためには、森永乳業㈱との経営統合がカギになると当ファンドは考えております。森永製菓・森永乳業㈱の両社の持つ⾼い技術⼒・品質に、資本や⼈材などの限られた経営資源をより効率的に活⽤することで、強固な⼀枚岩のブランドが⽣まれると当ファンドは考えます。このような考えから、当ファンドは両社の経営統合への期待も⾯談で伝えています。
最後に、同社が合理的な資本政策の実⾏に舵を切り始めていることにも当ファンドは注⽬しております。当ファンドでは従来から、株主還元の拡充についても議論を重ねてきました。同社は2023年3⽉期の通期決算で、⾃⼰株式の取得などによるネットキャッシュの⼤幅な圧縮を発表しました。更に2024年3⽉期第2四半期決算では、「資本コストを意識した経営の実践」を謳って、追加の⾃⼰株式取得や株式分割などの株主還元強化を発表しています。今後も持続的な事業成⻑に加え、資本政策の改善を通じて、同社の企業価値向上・顕在化が進むことを期待し、対話を続けていきます。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2023年11月の運用コメント
株式市場の状況
2023年11⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐5.42%の上昇となりました。
当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)での政策⾦利の据え置きや、市場予想を下回る⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の低下を背景に上昇しました。⽉半ばは、⽇本企業の良好な決算や、市場予想を下回る⽶国のCPI(消費者物価指数)を受けた⽶追加利上げ観測の後退などから、⽉中⾼値をつけました。⽉後半に⼊ると、中東情勢の地政学リスクの後退や⽶⻑期⾦利低下等を好材料に上昇した後、⼀時1ドル=146円台後半まで進⾏した円⾼が重しとなって下落基調に転じましたが、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。
ファンドの運用状況
2023年11⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐3.38%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同5.42%の上昇を2.04%下回りました。
当⽉、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、ワコム、ルネサスエレクトロニクスなどでした。デジタルペンタブレットメーカーのワコムは、前⽉末に発表した⾃社株買いが好感され、株価が上昇したものと思われます。半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスは、⼤株主である㈱INCJ(旧産業⾰新機構)の株式売却が完了したことにより、短期的な需給不安が解消されたことが好感されたと考えます。⼀⽅、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、ナカニシ、パイロットコーポレーションなどでした。⻭科医療⽤機器メーカーのナカニシは、買収した⽶国デンタルチェアメーカーの業績悪化で通期計画の下⽅修正を発表し、株価は調整したものと思われます。筆記具メーカーのパイロットコーポレーションは、2023年12⽉期第3四半期の決算発表にて、⽶州事業のコスト増と欧州および中国の低調な市場環境を背景に減益となったことが嫌気され、株価が下落したと考えます。
当⽉は、当ファンドの投資先である「ナカニシ」に対する投資⾒解、対話内容をご紹介します。
ナカニシは、⻭科治療⽤ハンドピース(ドリル)などを⼿掛ける⻭科医療⽤機器メーカーです。現社⻑の祖⽗が1930年に創業し、第⼆次世界⼤戦下の混乱を経て、1951年に現本社がある栃⽊県⿅沼市で再興しました。独⾃技術を活⽤し、現在は⻭科向けのみならず、外科医療や機械⼯業向けに⾼品質で利便性の⾼い製品を提供しています。また、同社は早い時期から海外市場の開拓に取り組み、今⽇では世界135ヵ国以上で同社製品が販売され、約8割の海外売上⾼⽐率(2023年12⽉期第3四半期時点)を誇ります。
同社の強みは、1分間で45万回転を実現する「超⾼速回転技術」、1秒間に3万往復振動する「超⾳波技術」、超低速域から⾼速域まで安定したトルク(回転⼒)と滑らかさを実現する「マイクロモータ技術」の3つのコア技術に集約された「削るテクノロジー」にあります。これらの独⾃技術をもとに、約85%の部品を内製化していることが差別化となり、⾼い収益性を実現しています。
同社の⼿掛ける⻭科・外科向け医療機器に対する需要は、健康寿命に対する世界的な意識の⾼まりを背景に、安定的に伸びることが期待されます。当ファンドでは、特に北⽶市場でのシェア拡⼤が同社の成⻑を牽引すると考えます。⾜元では、買収した⽶国デンタルチェア企業の業績悪化に伴う通期予想下⽅修正が発表され株価は下落しましたが、本業の⻭科機器については、北⽶の⻭科医の間でNSKブランド(同社の⾃社ブランド名)が本格的に認知され始めており、中⻑期的な成⻑期待は引き続き⾼いと考えられます。
⼀⽅、同社は過去から内部留保を積み上げた結果、株主資本⽐率は8割を超過し、約30%という⾼い営業利益率に⽐して、ROE(株主資本利益率)は14.4%に留まっています(2022年度通期業績)。そうした中で、同社経営陣がROE改善へ向けた取り組みに着⼿し始めたことに当ファンドは期待しています。2022年8⽉に発表した新たな中期経営計画の中で、「PL経営から資本効率も重視した経営へ進化」することが謳われ、総還元性向50%を中期的な基準とすることなどが発表されました。ROE⽬標は2025年12⽉期で11%と保守的な印象を受けるものの、同社が資本効率指標を定量的に明⽰したことは評価できます。今後、過度な内部留保によりROEが劣化することを回避すべく、当ファンドも対話を通じて資本効率の改善を積極的に後押ししていく⽅針です。
また、当ファンドは同社が企業価値向上のためにプライム市場へ移⾏することを期待しています。同社が属するスタンダード市場が上場企業としての最低限のガバナンス⽔準を求めているのに対して、プライム市場は企業がより⾼いガバナンスの質を備え、投資家と建設的に対話し、共に企業価値向上を追求する場として期待されています。プライム市場ではなくスタンダード市場を選ぶという判断が取られたことは株主として残念ですが、当ファンドは引き続きプライム市場への移⾏についても同社と粘り強く対話を続けていきます。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2023年10月の運用コメント
株式市場の状況
2023年10⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐2.99%の下落となりました。
当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は堅調な⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の変動や、中東情勢の緊迫化などを受け乱⾼下の展開となりました。⽉後半に⼊ると、中国の景気刺激策が好感される場⾯があったものの、⽇銀の政策再修正への思惑や⽶テクノロジー企業の低調な決算への失望が株式市場の重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。
ファンドの運用状況
2023年10⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐4.10%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同2.99%の下落を1.11%下回りました。
当⽉、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、MARUWAなどでした。セラミック部品メーカーのMARUWAは、当⽉後半に発表された2024年3⽉期第2四半期決算で、前年同期⽐減収減益の着地となったものの、先⾏きに対して楽観的な⾒通しが⽰されたことが好感され、株価が上昇したものと思われます。⼀⽅、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、SHOEIなどでした。ヘルメットメーカーのSHOEIは、中国における需要⾒通しの不透明感が嫌気されたことから、株価が下落しているものと思われます。
当⽉は、当ファンドの投資先である「EIZO」に対する投資⾒解、対話内容をご紹介します。
EIZOは1967年に⽯川県七尾市で七尾電機株式会社として設⽴されたコンピューター⽤の⾼機能モニターメーカーです。当ファンドは、同社の⼀貫した⾃社開発・⾃社⽣産による徹底した品質への拘りと、クラフトマンシップに⽀えられた医療・映像制作・航空管制・船舶・鉄道などの特定⽤途における⾼いシェアを評価し、投資を⾏いました。特に、内視鏡検査や放射線検査といった⾮侵襲医療の浸透に伴って重要度が増す、同社の主⼒製品の⼀つである医療向けモニターの成⻑に注⽬しています。
⼀⽅で、EIZOは⼿元現預⾦や投資有価証券などの⾦融資産を約700億円保有しており、総資産の約43%を占めています(2023年9⽉末時点)。このような余剰な⾮事業⽤資産を抱えていることが重⽯となり、過去最⾼益を記録した2022年3⽉期においても、同社のROE(株主資本利益率)は6.7%に留まっています。当ファンドは、同社はバランスシートマネジメントによる資本収益性に改善余地があると考え、2022年初頭の投資開始と同時にROE向上に関して、経営陣と対話を続けてきました。
その後、同社は2022年5⽉に⾃社株買い(上限40億円)および、買収防衛策の廃⽌を発表するなど、資本市場への向き合い⽅に少しずつ変化が⾒られておりました。より明確な変化として、2023年3⽉期決算説明会の場にて、ROE8%以上を資本収益性の⽬標として、総還元性向の⽬標⽔準を70%に設定し、株主還元を強化する⽅針を掲げました。2023年3⽉期は為替変動による材料・物流コスト増に苦しみ、最⾼益を記録した前年から減益となりました。こうした厳しい事業環境でも資本コストを意識した経営へと舵を切った同社を、当ファンドは⾼く評価します。
当ファンドでは、引き続き同社の中⻑期的な成⻑を実現する上で、対処が求められる様々な経営課題について経営陣との対話を続け、同社の企業価値向上を積極的に後押ししていく⽅針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリューギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2023年9月の運用コメント
株式市場の状況
2023年9⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.51%の上昇となりました。
当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の改善により中国の景気後退不安が⼀時的に後退したほか、国内では早期衆院解散・総選挙への期待感が⾼まったことを受け、上昇基調となりました。⼀⽅⽉後半は、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)で⾦融引き締めの⻑期化が⽰唆されたことや、⽶議会の予算協議が難航し政府機関閉鎖への警戒感が⾼まったことから、市場⼼理が悪化し値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を若⼲上回る⽔準で⽉を終えました。
ファンドの運用状況
2023年9⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐2.01%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.51%の上昇を2.52%下回りました。
当⽉、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、パイロットコーポレーション、三井住友フィナンシャルグループなどでした。
筆記具メーカーのパイロットコーポレーションは、外部環境の不透明感が続く中でも、主要市場である⽇本と⽶州では底堅い業績を⽰しており、堅調な需要継続が期待されたものと思われます。三井住友フィナンシャルグループは、⾦融政策の正常化への期待が⾼まり、株価が上昇しているものと思われます。
⼀⽅、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、MARUWA、SHOEIなどでした。
セラミック部品メーカーのMARUWAは、半導体やEV(電気⾃動⾞)などテクノロジー関連の需要回復に時間を要するとの懸念が市場全体に広がり、株価の調整に繋がったと思われます。バイク⽤ヘルメットメーカーのSHOEIは、主要な成⻑市場である中国での景況⾒通しの不透明感から、株価が下落したものと思われます。
当⽉は、当ファンドの投資先である「三菱重⼯業」に対する投資⾒解、対話内容をご紹介します。
三菱重⼯業は1884年創業の重⼯業メーカーです。海運業で財を成した三菱グループ創設者の岩崎彌太郎⽒が、⻑崎にて興した造船事業が起源となっています。祖業である造船事業を営む三菱造船は、1934年には、重機・航空機・鉄道⾞両を事業に加え、現在の社名である三菱重⼯業となり、発電設備、船舶、航空機等の社会インフラ供給を通じて、戦後⽇本の復興と⾼度経済成⻑期を⽀えてきました。
当ファンドが注⽬しているのは、脱炭素投資の恩恵を⼤きく受ける同社の事業ポートフォリオです。同社は「リアリティのあるエナジートランジション」を重視し、エネルギーの供給と消費の両⾯のグリーン転換を成⻑の柱に掲げています。
エネルギーの供給側である、同社のエナジー事業は、主にガス⽕⼒発電⽤ガスタービン、⽯炭⽕⼒発電⽤スチームタービン、原⼦⼒発電事業から構成されています。
2008年の世界⾦融危機以降、再⽣可能エネルギーへの移⾏の流れが強まり、化⽯燃料に対する開発投資が抑制されたことで、ガスタービンの市場は縮⼩の⼀途を辿ることとなりました。2011年の東⽇本⼤震災を経て、原⼦⼒発電についても、世界的に新設プロジェクトが減少し、同社のエナジー事業は低迷期を迎えました。その後2022年にロシアとウクライナの紛争が勃発し、世界的にエネルギー供給が不安定化したことで、天然ガスの市況価格が⾼騰しました。この混乱は、特定のエネルギー源や輸出国に依存しないエネルギーセキュリティの重要性が再認識されるきっかけとなりました。優れた発電効率から、ガス⽕⼒発電の低炭素化に貢献する同社の⼤型ガスタービンは、世界シェア1位を誇ります。加えて、同社のガスタービンは、アンモニアや⽔素といった次世代エネルギーとの混焼に対応しており、将来的には更なるCO2排出量削減を実現する可能性を秘めています。
しかし、追い⾵が吹いている事業環境に反して、エナジー事業は過去3期連続で前年同期⽐減益を記録しています。その主因として、稼働済み⽯炭⽕⼒発電プラントでの度重なる不具合対策費⽤の発⽣が挙げられます。当ファンドでは、リスクマネジメント体制の強化に加えて、今後新設の可能性が低い⽯炭⽕⼒関連製品に対する中⻑期的な向き合い⽅ついて、資本コストの抑制に繋がるよう、様々な観点から議論を進めています。
⼀⽅、エネルギーの消費側である、物流・冷熱・ドライブシステム事業は、主にフォークリフトなどの物流機器、エンジン・ターボチャージャ、冷熱製品から構成されています。
フォークリフト事業は、eコマース(電⼦商取引)市場拡⼤による物流機器の需要増⼤の恩恵を受けて成⻑してきました。エンジン・ターボチャージャは⾮常⽤発電装置とガソリン⾞向けの⾞両⽤過給機が、冷熱機器は冷凍冷蔵倉庫や⼤型空調機器などの業務⽤冷熱機器が、それぞれ主⼒製品になっています。エンジン・ターボチャージャは⾃動⾞の電動化による市場縮⼩が予想されますが、冷熱機器はデータセンター向けという新市場を冷熱機器と共に開拓することで、成⻑機会を捉えることが出来ています。eコマース物流、コールドチェーン(⽣産・輸送・消費の過程で途切れることなく低温に保つ物流⽅式)、データセンターなど、同社の中量産品の対⾯市場は現代の社会インフラであり、消費電⼒が⼤きく、安定的な運⽤が求められる点が共通しています。
当ファンドは、カーボンニュートラルの達成のためには、エネルギーの供給側にある発電インフラの脱炭素化に加えて、消費側の製品群で効率的な電⼒利⽤を⾏うことは必須であると認識しており、多⾓的な事業ポートフォリオを保有する三菱重⼯業は、脱炭素に向けた広範な設備投資の恩恵を受けることの出来る貴重な企業であると考えています。
⼀⽅で、事業ポートフォリオが多⾓化しており、株式市場において企業価値が低く評価されるコングロマリットディスカウントが懸念されます。当ファンドは、エネルギーの供給と消費の両側⾯を持つ同社ならば、独⾃の事業間シナジーを創出できると考えています。当ファンドは、同社の価値創造の基盤である技術資産・顧客資産・⼈的資本などの無形資産が、今後どのようにして持続的な価値を⽣むのか、適切にコミュニケーションするための対話を⾏っています。将来的には、コングロマリット“ディスカウント”から“プレミアム”への転換を⽬指して、今後もエンゲージメントを継続していきます。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2023年8月の運用コメント
株式市場の状況
2023年8⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.43%の上昇となりました。
当⽉の⽇本株式市場は、⼤⼿格付け会社フィッチ・レーティングス社(⽶国)による⽶国債の格下げを背景とした⽶国株安の流れを受け、下落から始まりました。⽉半ばは、中国の軟調な経済指標(消費者物価指数など)や、中国不動産開発⼤⼿の⽶国破産法の申請が嫌気され、下げ幅を広げました。⽉後半は、中国の追加利下げが好感されたほか、ジャクソンホール会議においてさらなる利上げへの懸念が後退したことで値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。
ファンドの運用状況
2023年8⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐1.11%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.43%の上昇を0.68%上回りました。
当⽉、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、MARUWA、ナカニシなどでした。
セラミック部品メーカーのMARUWAは、2024年3⽉期第1四半期の決算説明会の中で、下期にかけて業績が再び成⻑軌道に戻る⾒通しが⽰されたことなどにより、株価が上昇したものと思われます。
⻭科機器メーカーのナカニシは、8⽉前半に2023年12⽉期第2四半期決算を発表しました。経常利益が前年同期⽐18.5%増の112億円となり、円安を追い⾵に堅調な利益成⻑が確認されました。加えて、通期業績予想の上⽅修正と増配も発表され、総じて株式市場に好感されたものと思われます。
⼀⽅、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、オイシックス・ラ・⼤地などでした。
有機野菜など安全に配慮した⾷品宅配サービスを展開するオイシックス・ラ・⼤地は、2024年3⽉期第1四半期の決算で開⽰された宅配事業の新規会員増加数が株式市場の期待を下回り、成⻑鈍化が懸念されたことなどから、株価は下落しているものと思われます。
当⽉は、当ファンドの投資先である「パイロットコーポレーション」に対する投資⾒解、対話内容をご説明します。
同社は、⽇本で⾼い知名度を持ちますが、世界的にも有名な⼤⼿筆記具メーカーです。筆記具メーカーとしては、Newell Brands社(⽶国)が世界トップ級ですが、同社は傘下に「PARKER」や「WATERMAN」といった複数のブランドを持っており、筆記具の単⼀ブランドでは「パイロット」が世界最⼤の規模を誇っています。同社は⽇本初の純国産万年筆の製造を⽬指して、1918年に創業しました。そして万年筆の開発に成功すると、1920年代には海外への輸出を開始し、着実に売上を伸ばし続けてきました。その結果、世界190か国以上の国と地域で同社の筆記具が展開され、同社のヒット商品である消えるボールペン「フリクションシリーズ」は⽇本だけでなく、欧州を中⼼として海外でも愛⽤されるなど、2020年度以降は海外売上⽐率が7割を超えています。
当ファンドでは、こうした各地域に根差したマーケティングと商品開発、それを安定的に供給できる事業基盤こそが同社の強みであり、⻑年培ってきた技術⼒とブランド⼒で今後も⾼い収益性と市場シェアを維持向上できると考えています。そして中⻑期的な投資視点から、新興国での中間層の増加に伴い、同社の⾼品質な筆記具への需要が更に拡⼤していくことを期待しています。
⼀⽅、当ファンドは同社のIR体制や資本政策に課題があると考えています。同社は以前より株式市場に対する情報開⽰を最低限に絞っているため、投資家からの注⽬度が低く、本来の企業価値が株価に反映されていないと当ファンドでは考えています。また、ROE(株主資本利益率)は15%程度(2022年度)と相対的には⾼い資本収益性であるものの、バランスシートに潤沢なキャッシュを抱えており、有効活⽤することで更なるROE改善が期待できます。当ファンドは同社と前述の課題認識を共有し、対話を続けてきました。
そうしたなかで決算説明資料や⻑期ビジョンが同社のHPで開⽰されるなど、少しずつではありますがIR体制の改善がみられています。加えて、中期経営計画の中で2024年までの成⻑投資として300億円規模の新規事業投資、⼈的投資などが発表され、キャッシュの有効活⽤の姿勢が明確になってきました。決算説明会の未開催など、まだ改善余地は⼤きいため、当ファンドでは引き続き対話を通じて積極的に働きかけていく⽅針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE⽔準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多⾯的に⾒ることで抽出精度を⾼めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると⾒込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中⻑期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多⾯的に対話を⾏います。⽇本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の⼀部に合理性を⽋くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として⾒解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを⽬指してまいります。
2023年7月の運用コメント
株式市場の状況
2023年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.49%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨にて年内2回以上の利上げが示唆されたことや、米国の雇用統計の結果を受け、利上げ継続への懸念が強まり下落して始まりました。一方で月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、利上げ停止が近いとの期待から堅調に推移しました。月後半は、日銀によるYCC(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化が発表され、一時的に値動きの激しい展開となりましたが、現行の緩和姿勢を維持するとの受け止めから市場に安心感が広がり、最終的に期初を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年7月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比3.13%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.49%の上昇を1.64%上回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、ディスコ、EIZOなどでした。
半導体製造装置メーカーであるディスコは、パワー半導体向け製造装置の堅調な需要が評価され、株価が上昇したものと思われます。ディスプレイメーカーであるEIZOは、2024年3月期第1四半期の決算発表にて、懸案だった粗利率が改善したことや医療用ディスプレイの販売が堅調だったことが評価されたものと思われます。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、オイシックス・ラ・大地、SHOEIなどでした。
宅配ミールキットを展開するオイシックス・ラ・大地は、2023年度にプロモーションを強化したことによる会員数急増の反動が懸念され、株価が下落したものと思われます。
バイク用ヘルメットメーカーであるSHOEIは、成長が期待されていた中国の景況見通しの不透明感から、株価が下落したものと思われます。
当月は、当ファンドの投資先である「マックス」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
ホッチキス等のオフィス機器および建築工具等の産業機器メーカーであるマックスは、1942年に群馬県高崎市で航空機部品メーカーとして設立しました。航空機部品の製造で培われたプレス技術を活かし、戦後、国産初となるホッチキスの量産を実現しています。1985年には複写機に内蔵される電動ホッチキス「オートステープラ」を発売しました。オートステープラは、圧倒的な品質・精度の高さから、世界中の複写機メーカーに採用されています。
同社はまた、国産初の手動式釘打機を発売して以来、建築工具の製品ラインアップを拡充し、2017年には充電式鉄筋結束機「ツインタイア」を発売しました。鉄筋結束機は、コンクリート建造物の鉄筋をワイヤーで結束する工具で、従来作業員が行っていた手作業での鉄筋結束を機械化することで、作業時間および作業員の負担を低減するツールです。当ファンドはツインタイアが中期的に同社の成長ドライバーになると見ています。
世界各国でインフラ投資や住宅・都市開発が活発化する中、人手不足ならびに労務費高騰は先進国中心に深刻な問題となっており、省人化・効率化に寄与する同社の鉄筋結束機は需要拡大が期待されます。
同社は、徹底した現場主義・顧客主義により顧客ニーズに応えることで新たな市場を産み出し、複数の分野でグローバルに「ナンバーワン・オンリーワン」のポジションを確立してきました。高い技術力に裏付けられた同社の独創性と潜在成長力は、未だに株式市場から十分に評価されていないと当ファンドでは見ています。
同社の株価評価を下げている要因の一つに、低い資本収益性が挙げられます。同社の総資産は2023年3月末時点でおおよそ半分を金融資産が占めていますが、より積極的に事業投資や株主還元に活用し、資本効率を高めるべきと当ファンドは考えます。従来の対話の甲斐もあってか、2023年3月期より、配当性向目標を50%へと引き上げましたが、それでも金融資産の適正水準とは言えず、まだ資本配分の改善の余地があると考えております。また健全な株価形成を妨げるもう一つの要因として、複数の政策保有株主が同社株式を保有することによる低い流動性が挙げられます。政策保有株主から株式を売却してもらい、一部を自社株買いで吸収することが、流動性と資本効率を改善する一策として有効であると考えております。当ファンドでは、引き続き前述の課題について同社の経営陣と対話を継続していく方針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2023年6月の運用コメント
株式市場の状況
2023年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比7.55%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、月前半は米連邦債務の上限停止による米国株高の流れを受け、大幅に上昇いたしました。月半ばには、FRB(連邦準備制度理事会)による追加利上げの示唆を受けた軟調な米国株の影響や、衆院解散への期待剥落が嫌気された一方、日銀の金融緩和の維持、米著名投資家の日本株追加投資の発表が好感され、一進一退の動きで推移しました。月後半は、株価上昇の反発と見られる下落の局面もありましたが、米景気悪化懸念の後退と円安進行が下支えをし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年6月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比3.77%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同7.55%の上昇を3.78%下回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、マックス、MARUWAなどでした。
建設用工具メーカーであるマックスは、国内外における鉄筋結束機の販売拡大への期待や、5月15日に決議された買収防衛策の廃止などが好感され、株価は上昇しております。セラミック部品メーカーのMARUWAは、株式市場における半導体業界の底打ち期待に伴って株価が上昇したものと思われます。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、ワコム、森永乳業などでした。
デジタルペンタブレットメーカーのワコムと乳業メーカーである森永乳業は、ともに5月に発表された2024年3月期の通期業績予想が株式市場の期待を下回り、事業環境の好転に時間がかかるとの思惑から、株価が下落していると思われます。
当月は、当ファンドの投資先である「MARUWA」に対する投資見解、対話内容をご紹介します。
MARUWAはセラミック部品の世界的大手メーカーです。陶芸家の一族である神戸家が江戸時代から陶磁器の製造販売を営み、焼き物の技術を継承してきました。高度成長期の1960年、急速にニーズが拡大しつつあった電子部品(通信機器向け特殊磁器、固定抵抗器用セラミック)の分野へ進出し、現在のMARUWAに至ります。
セラミックは一般家庭の皿にも使われるなど、身近な素材であり、窯があれば作ることが出来ますが、同社が得意としている高付加価値セラミックの分野では高度な製造ノウハウが必要となります。セラミックは焼成前後でサイズが大きく変化するため、均質なセラミック製品を量産するのは簡単ではありません。この製造工程の秘匿化が参入障壁となり、同社は様々なセラミック製品で世界トップシェアを獲得していると当ファンドでは推定しています。そして、今後最も需要が伸びると期待されているのはEV(電気自動車)向けのセラミック製品です。EVでは、高い電圧を使う電子部品が使われており、発熱によって電子部品が膨張し部品寿命が悪化する可能性が高いため、発熱対策が課題となっています。同社のセラミック部品はそれを防ぐ放熱基板として使われています。自動車のように耐用年数が長期かつ発熱温度が高い分野では、セラミックは高価ではあるものの最も信頼できる素材とされています。
前述のようにMARUWAのセラミック部品が使われる市場は拡大する見通しであり、同社は参入障壁によって高い収益性と世界シェアを維持できる可能性が高い企業であると考えられますが、株式市場で評価される余地はまだ大きいと当ファンドでは考えています。
過去、MARUWAは長期にわたって決算説明資料を作っておらず、決算説明会も開催しておりませんでした。その点が株式市場で同社の知名度が上がらなかった要因と考え、IR体制の改善を期待して同社との対話を継続してきました。そうした粘り強いエンゲージメントの甲斐もあり、同社は2021年から決算説明会資料を作成し決算説明会をオンラインで開催しております。さらに2023年5月の通期決算説明会では、あまり公の場で発言することのなかった神戸誠会長が登壇し、自ら投資家からの質疑に回答しました。こうした点からも、当ファンドでは同社の株式市場との対話姿勢に大きな改善が見られていると考えています。
また、同社は高い収益性を誇る一方、余剰資金の蓄積スピードが早く同社のROE(株主資本利益率)が低下する可能性が高いことも、株式市場からの評価を押し下げている要因と思われます。当ファンドでは引き続き、同社の実態価値が株式市場で顕在化する一助となれるよう、IR体制とROEの改善を主題に、経営陣との対話を継続していく方針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2023年5月の運用コメント
株式市場の状況
2023年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.62%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、月前半に開催された米国FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受け、一時円高ドル安が進んだことで一進一退の動きで推移しました。月半ばには海外投資家による資金流入が続き、TOPIXと日経平均株価ともに約33年ぶりの高値を更新しました。東京証券取引所の市場改革への期待や、日銀の金融緩和継続姿勢もサポート材料となりました。一方で、月後半には中国の低調なPMI(製造業購買担当者景気指数)や、市場予想を下回る国内の4月の鉱工業生産指数の結果が懸念され、弱含みで推移しましたが、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年5月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比4.19%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同3.62%の上昇を0.57%上回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、ディスコ、ナカニシなどでした。
半導体製造装置メーカーであるディスコは、4月20日に2023年3月期通期決算を発表し、増収増益となりました。これは主に、パワー半導体関連の需要が依然として好調であることによるもので、株価は決算発表以降上昇しております。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、オイシックス・ラ・大地、パイロットコーポレーションなどでした。食材宅配サービスを展開しているオイシックス・ラ・大地は、5月11日に発表された2023年3月期通期決算において、会員数の順調な増加が確認されましたが、短期的な出尽くし感が優勢となり、株価が調整したものと思われます。なお、同社の中長期的な成長力に対する当ファンドの見方に変更はありません。
当月の投資活動として、帝国繊維を全売却しました。
当月は、当ファンドの投資先である「京成電鉄」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
京成電鉄は、東京都東部・千葉県を中心に営業路線を有する私鉄です。中でも京成上野駅と成田空港駅間を結ぶ京成本線、成田スカイアクセス線が収益の柱となっています。また、東京ディズニーリゾートの運営会社である㈱オリエンタルランドの創業時からの株主であり、現在も㈱オリエンタルランドの22.15%を有する筆頭株主でもあります。
当ファンドでは、訪日旅行者の拡大に伴う空港輸送需要の増加と、同社が保有する㈱オリエンタルランドの株式価値が適正に評価される可能性に注目し、投資しています。
同社は短期的には訪日旅行者の回復による業績改善が期待できるとともに、日本が観光立国を目指す中で中長期的な業績拡大が期待できると考えます。日本政府は現在、2030年に年間6,000万人の訪日旅行者を目指すビジョンを掲げています。その過程で、成田空港では現在3本目のC滑走路を新設するとともにB滑走路を延伸する計画が進んでおり、将来的な空港利用客は大幅に増加すると考えられます。同社は成田空港機能強化に伴う中長期的な輸送需要増への対応として、プロジェクト推進部を設置するなど組織体制を強化しており、長期にわたって同社収益にプラスが続くと当ファンドでは期待しています。
更に当ファンドでは、同社が保有する㈱オリエンタルランドの株式価値が今後適正に評価される可能性にも注目しています。同社は㈱オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾートの創業に携わった会社の一つとして知られています。長年保有している㈱オリエンタルランドの株式を時価評価すれば実質的なPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る状況であり、株価は同社の企業価値に対して割安と考えます。一方、同社が保有する㈱オリエンタルランドの株式は有効活用される可能性が低い、言わば「開かない貯金箱」であり、株式市場から適切に評価されてこなかった可能性があると当ファンドは考えています。今後の成長戦略や株主還元強化について議論を進める中で、保有する㈱オリエンタルランドの株式の価値が顕在化されるよう、今後も対話を進めてまいります。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる銘柄を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)水準や安定性などの財務指標や、PBR、PER(株価収益率)、EV/EBITDA、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2023年4月の運用コメント
株式市場の状況
2023年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.70%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、月前半に軟調な米国経済指標(ADP雇用統計、ISM非製造業景況感指数)が相次ぎ、景気後退懸念が高まったことから下落して始まりました。しかし月半ばには植田日銀総裁の金融緩和維持を支持する発言や、米著名投資家の日本株追加投資を巡る思惑から上昇に転じました。月後半は米地方銀行の巨額預金流出による警戒感から下落する局面もありましたが、日銀が金融緩和維持を決定したことで株式市場に安心感が広がり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年4月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比0.59%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同2.70%の上昇を2.11%下回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、EIZO、オイシックス・ラ・大地などでした。
コンピューターモニターなどの映像関連機器メーカーであるEIZOは、特に会社からの大きなニュースはありませんでしたが、1月末に発表した2023年3月期第3四半期決算以降、業績悪化底打ちへの期待感などから株価は上昇を継続しているものと思われます。
オンライン食品販売会社のオイシックス・ラ・大地も特に会社からのニュースはありませんでした。2月に発表した2023年3月期第3四半期決算において、プロモーション強化で、Oisix事業を中心に会員数の増加傾向が続いていることなどが確認されたことから、株価が堅調に推移しているものと思われます。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業はSHOEI、MARUWAなどでした。
ヘルメットメーカーのSHOEIは当月26日に2023年9月期第2四半期決算を発表しました。上半期の営業利益は前年同期比で24.8%増となり、好調を維持しています。一方株式市場では、足元の中国の消費関連統計の減速感を受けて同社のヘルメット需要に対する先行き不透明感が嫌気され、株価が調整しているものと思われます。
当月の投資活動として、新規で京成電鉄、しずおかフィナンシャルグループを組み入れました。
当月は、当ファンドの投資先である「ナカニシ」に対する投資見解、対話内容をご説明します。
ナカニシは、歯科治療用ハンドピース(ドリル)などを手掛ける歯科医療用機器メーカーです。現社長の中西英一氏の祖父である中西敬一氏が1930年に創業し、第二次世界大戦の混乱の中で一時事業を中断していた時期を経て、1951年に現在本社がある栃木県鹿沼市で再興しました。独自技術を活用し、現在は歯科向けのみならず、外科医療や機械工業向けにも利便性の高い製品を提供しています。同社は1979年に歯科機器の海外輸出を開始して以来、世界各国に販売拠点を設立し、早い時期から海外市場の開拓に取り組んできました。今日では世界135ヵ国以上で同社製品が販売され、海外売上高比率は81.7%(2022年12月期)に達します。特に歯科用回転機器のカテゴリーで世界トップシェアを誇ります。
同社の強みは、1分間に40万回転という速い回転速度を実現する「超高速回転技術」、ものを削る力として応用される「超音波技術」、超低速域から高速域まで幅広い回転領域で安定的なトルク(回転力)と滑らかさを実現する「マイクロモータ技術」の3つのコア技術に集約された革新的な「削るテクノロジー」にあります。これらの独自技術を追求してきた結果、9割の部品を内製化していることが差別化要因となり、高い収益性を可能にしています。
同社の手掛ける歯科・外科向け医療機器に対する需要は、健康寿命に対する世界的な意識の高まりを背景に、安定的に伸びることが期待されます。当ファンドでは、特に北米市場でのシェア拡大が同社の成長を牽引すると考えます。北米の歯科医の間でNSKブランド(同社の自社ブランド名)が本格的に認知され、一定の実績を獲得し始めています。直近の2022年12月期決算では北米事業が前年比28.2%増と、大幅増収となりました。競合他社がコロナ禍の中で営業人員を削減する中、同社はむしろ営業人員を強化し、従来主なターゲットとしていた一般開業医に加え、大学病院などの新規チャネルへの販売を強化しています。今後は更に、同社が出資している歯科治療台メーカーDCI International社(米国)の販売網を使った事業展開も見込まれ、継続的なシェア拡大による成長を当ファンドは期待しています。
一方、同社は過去から内部留保を積み上げた結果、株主資本比率は約88%に達し、30%超という高い営業利益率に比してROE(株主資本利益率)は14.4%に留まっています(2022年12月期)。そうした中で同社経営陣がROE改善へ向けた取り組みに着手し始めていることに当ファンドは期待しています。2022年8月に発表した新たな中期経営計画の中で、「PL経営から資本効率も重視した経営へ進化」することが謳われ、安定的な増配と機動的な自社株買いを組み合わせて総還元性向50%を中期的な基準とすることなどが発表されました。ROE目標は2025年12月期で11%と保守的な印象を受けるものの、同社が資本効率指標を定量的に明示したことは評価できます。今後、過度な内部留保によりROEが劣化することを回避すべく、当ファンドも対話を通じて資本効率の改善を積極的に後押ししていく方針です。
また、当ファンドは同社が企業価値向上のためにスタンダード市場からプライム市場へ移行することを期待しています。同社はプライム市場の上場基準を満たしているにもかかわらず、あえてスタンダード市場に上場しています。スタンダード市場が上場企業として最低限のガバナンス水準を求めているのに対して、プライム市場は企業がより高いガバナンスの質を備え、投資家と建設的に対話し、共に企業価値向上を追求する場として期待されています。プライム市場ではなくあえてスタンダード市場を選ぶという消極的な判断が取られたことは、株主にとって残念です。当ファンドは引き続きプライム市場への移行についても同社と粘り強く対話を続けていきます。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで企業を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる企業を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2023年3月の運用コメント
株式市場の状況
2023年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.70%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の利上げ再加速の思惑を受けて米国株式市場が軟調に推移する中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した欧米金融不安の急拡大を受け、リスク回避姿勢が強まったことから大幅な下落に転じました。しかし月後半になると、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループ買収や米当局による預金保護などの対応で金融システムへの不安が和らぎ、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年3月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比2.48%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.70%の上昇を0.78%上回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、EIZO、ワコムなどでした。
コンピューターモニターなどの映像関連機器メーカーであるEIZOは、1月31日に2023年3月期第3四半期決算を発表し、減収減益となりました。これは主に、パチンコ遊技機に搭載される液晶モニターの売上の大幅な減少によるものですが、業績悪化底打ちへの期待などから、株価は決算発表以降、堅調に推移しております。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業はナカニシ、オイシックス・ラ・大地などでした。歯科医療用ハンドピースメーカーのナカニシは、製品力・販売力を武器に世界シェアの拡大を続けており、2月に発表された2022年12月期通期決算では過去最高業績を更新しております。同社の中長期的な成長力に対する当ファンドの見方に変更はありませんが、短期的な出尽くし感が優勢となり、株価が調整したものと思われます。
当月の投資活動として、FOOD & LIFE COMPANIESを全売却しました。
当⽉は、当ファンドの投資先である「EIZO」に対する投資⾒解、対話内容をご説明します。
EIZOは、1967年に⽯川県七尾市で七尾電機株式会社として設⽴されたコンピューター⽤の⾼機能モニターメーカーです。三菱電機と村⽥製作所のオーナーが共同出資で設⽴し、三菱電機の⽩⿊テレビをOEM⽣産(Original Equipment Manufacturing︓他社ブランドの製造を⾏うこと)したことが事業の始まりです。1985年に⾃社ブランドにてコンピューター⽤CRTモニター(ブラウン管)を開発・⽣産し、欧州や北⽶市場向けに販売を開始しました。当時は⽇本国内での同社ブランドに対する認知度が⾼くない中、品質の良いものを認める⽂化が根付く欧州を⾃社ブランド製品の販売先として選択したとのことです。現在ではEIZOブランドを展開する国・地域は100を超え、遊技機向け液晶モニターを除くと、海外売上⾼⽐率は6割を超えており、グローバルカンパニーとして成⻑を続けています。
当ファンドは、EIZOの強みはクラフトマンシップによる妥協なきモノづくりにあると考えています。OEMなどを活⽤して⼤量⽣産⽅式で展開する他の⼤⼿モニターメーカーとは異なり、EIZOは100%⾃社開発・⾃社⽣産による⼀貫した品質管理を⾏っています。「世界で⼀番良いものを創る」ことを⽬指して映像に関するあらゆるノウハウをグループ内に蓄積し、開発・調達・⽣産の各プロセスにおいて、独⾃の競争⼒を発揮しています。特に最終検査においては、⼀台⼀台、⼈による⽬視検査を⾏っています。モニターは常に⼈が⾒て使⽤する製品であるため、検査の⾃動化が進んでも、「⼈の⽬」による検査が重要であるとのことです。このようなクラフトマンシップによるモノづくりは、⼤量⽣産⽅式では実現が難しく、EIZOの強固な競争優位性につながっていると考えます。
EIZOが展開する事業領域は、⼀般オフィス向けにとどまらず、医療、映像制作、航空管制、船舶など⾼い製品品質が求められる多様な領域に広がっています。過去の業績推移を振り返ると、2007年3⽉期にはパチンコ・パチスロ遊技機に搭載される液晶モニターの売上⾼が全社業績の過半を占めていましたが、遊技機市場は中期的な縮⼩が懸念されていたことから、同社は積極的にビジネスモデルの転換を推進してきました。2023年3⽉期会社計画では、遊技機向けの売上⾼は、全売上⾼の1割程度にまで低下することが予想されています。遊技機向けビジネスの縮⼩を埋め合わせ、全社業績の拡⼤をけん引しているのが特定⽤途向けモニターです。当ファンドでは、特に医療向けモニターの成⻑に期待しています。CTやMRIなど、微細な陰影やわずかな濃淡差を忠実に再現することが不可⽋な診断・検査領域において、EIZOは⾼精度のモニターを提供し、グローバルに⾼いシェアを誇ります。医療のデジタル化を背景に、医療⽤モニターへの需要は中⻑期的な拡⼤が⾒込まれます同社の株価は従来、パチンコ関連事業と言う評価から、株価バリュエーションにディスカウントがあるものと考えております。ESG投資が拡大する中、ギャンブルに分類されるパチンコ関連ビジネスの関与が、同社の株価をマイナスに評価している恐れがあります。しかし、娯楽の多様化を背景としたパチンコ人口の減少により、国内における遊技機設置台数は減少傾向にあり、EIZOは先述のように、全社売上高に占める遊技機向け比率を大幅に縮小しながら業績を拡大しております。結果として同社の事業ポートフォリオ変革が更に進展することでバリューギャップが解消することを期待しております。
当ファンドは、EIZOの資本収益性には改善余地があると考えます。現状、同社のROE(株主資本利益率)は6%台にとどまっています。10%以上の営業利益率を獲得する力があることを鑑みると、ROEも現状より高い水準を実現してしかるべきと当ファンドは考えます。ROEを低減させる要因として、同社の手元現預金や投資有価証券などの金融資産が約557億円あり、総資産の約3分の1を占めていることが挙げられます(2022年12月末時点)。同社の12月末時点の時価総額は約753億円ですので、言い換えれば、株式市場は同社ビジネスの価値は約196億円しかないと評価していることになります。EIZOの持つ圧倒的な技術力や品質に基づく競争優位性があるにもかかわらず、保有する金融資産が有効活用されないことによって、資本コストを十分に上回るROEが実現されず、株主価値を毀損する恐れがあると考える投資家が多いためであると当ファンドは考えます。
当ファンドは、2022年初から同社経営陣と対話を開始し、資本収益性の低さが同社株式に対する評価を阻害している懸念を伝えました。その後、同社は2022年5月に自社株買い(上限40億円)および、買収防衛策の廃止を発表しております。また同年12月の対話では、経営陣から「それまで投資家と会社側では資本収益性に対する立場が異なると認識していたが、(当ファンドとの対話を通じて)その考え方が変わりつつある」とのもコメントいただいております。
当ファンドでは、EIZOの中長期的な成長を実現する上で、対処が求められるさまざまな経営課題について経営陣との対話を続け、同社の企業価値向上を積極的に後押ししていく方針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成⻑性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる企業を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるきっかけ(カタリスト)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2023年2月の運用コメント
株式市場の状況
2023年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.95%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は、米長期金利上昇などを受け米国株式市場が軟調となる中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、市場予想を上回る米国のCPI(消費者物価指数)やPMI(総合購買担当者景気指数)を受けて利上げの長期化懸念が再燃し、日本株も下落に転じましたが、月後半にかけては、植田次期日銀総裁候補が所信聴取で金融緩和継続を明言したことや円安の進行が日本株相場を下支えし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年2月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比3.84%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.95%の上昇を2.89%上回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、SHOEI、マックスなどでした。
ヘルメットメーカーのSHOEIは、当月22日に1:2の株式分割を発表したことなどが好感され、株価が上昇しました。1単元当たりの投資金額が小さくなることで投資家層の拡大が期待されるほか、株式数が増えることで株式流動性が向上するなどのメリットが期待されているものと思われます。
オフィス機器および建築工具等の産業機器メーカーであるマックスは、1月31日に好調な2023年3月期第3四半期決算を発表し、同時に通期業績予想の上方修正も発表したことが好感され、株価が上昇しました。引き続き同社の主力製品である鉄筋結束機の国内・海外市場での拡販が順調に進み、鉄筋結束機を中心としたコンクリート構造物向け工具については、2024年3月期売上高目標に対して予想以上のスピードで進捗しているとのことです。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、筆記具メーカーのパイロットコーポレーションなどでした。
同社は当月13日に2022年12月期通期業績を発表しました。海外市場での売上拡大と円安の恩恵により、営業利益は過去最高水準に達しています。しかし、昨年後半から海外事業の伸びが鈍化し始めており、2023年12月期業績はほぼ横ばいになることが予想されています。世界的な景気の動向次第では業績予想が下振れる可能性もあることが懸念され、株価が軟調に推移しているものと思われます。当ファンドは同社の中長期的な成長に対する見方を変えていませんが、今後の業績動向を注視していく考えです。
当月の投資活動として、全売却及び新規投資はありませんでした。
当月は、当ファンドの投資先企業である「SHOEI」について、当ファンドの見解と対話内容をご説明させて頂きます。
1959年に設立された同社は、その卓越したデザインや機能性、品質の高さからグローバルに多くのファンをもち、世界のプレミアムヘルメット(高い安全性・機能性・デザイン性を兼ね揃えたヘルメット)市場で約60%のトップシェアを誇る企業です。同社のヘルメット販売個数は2017年9期の50.6万個から2022年9期の76.7万個へ、生産個数は52.5万個から80万個へと1.5倍以上に拡大しています。事業規模の拡大に合わせ人員数も同じように増えていますが、1人当たり年間生産個数(当期の生産個数÷過去2期平均の人員数(連結ベース、嘱託・パートタイムを含む))は、5年前の1,033個から、1,100個へ増えています。同社のヘルメットは完全に機械化されたラインで製造される工業製品とは異なり、作業員の手による工程が多くあります。同じデザインでも人種ごとに微妙に異なる骨格に対応する形状やサイズを揃え、かつ地域ごとに異なる安全規格に対応するために異なる素材を使用するなどしているため、多品種生産が基本です。上記の人員数は工場の作業員以外の人も含まれており、生産個数は様々な要因によって左右されるため、単純に生産性が上がっているとは言い切れない可能性があるものの、生産数量が急拡大する中でも効率を落とすことなく高い生産性を維持できていることは評価できると考えます。
同時期に同社の連結売上高は約1.85倍、営業利益は約2.42倍になっています。この背景には、同社が高いブランド力と商品開発力を武器にグローバルで販売数量を伸ばしながら、デザイン性・機能性に優れた新製品を発売するごとに価格を引き上げることに成功していることがあります。要するに、価格を上げても、同社のヘルメットを欲しがる人が増え続けているのです。同社の営業利益率は過去5年間で改善を続け29%に達しています。この収益力の高さに同社のブランド価値が凝縮されていると考えます。
当ファンドは当月、茨城県稲敷市にある同社の茨城工場を見学する機会を得ました。同社は設計・開発・生産のすべてを日本国内で完結する体制を構築しており、茨城工場と岩手工場の2拠点で生産しています。敷地面積や生産規模は1989年に設立された岩手工場の方が大きいものの、1967年に設立された茨城工場は技術・製品開発の要所となるマザー工場として機能しています。茨城工場は現在、嘱託・パートタイムを含む約300名の作業員を抱え、1日当たり1,350個ほど生産しています。春になって気温が上がるとバイクに乗る人が増えるため、かつてはその時期に向けて生産数量を増やす12~4月頃が繁忙期だったものの、近年は繁閑の差がなくなり、一年を通してフル稼働の状態が続いているそうです。
製造工程は大きく分けて、①成形部(帽体成形とカット)、②品質管理部(全数検査)、③塗装部(下塗り)、④塗装部(上塗りとフィルム転写)、⑤内装組立て、の5つに分けられます。工程によっては機械化が進んでいますが、機械では代替できない細かい作業が必要な箇所については、人の手による作業やチェック工程が多く残されています。実際の様子については同社ホームページに写真や動画も公開されているので、ぜひご覧下さい(https://www.shoei.com/quality/manufacturing_technology.html)。
現地で見学しながらあらためて感じたのは、同社が長年にわたり蓄積してきた開発・製造ノウハウと、それを支える同社の企業文化や人材育成の仕組みが一体となってはじめて独自の価値が生み出されているということです。他社が全く同じ機械を揃えても、SHOEIと同じヘルメットを作ることはできないであろうことが、現場の様子を見て想像できました。生産性を上げるために多くの機械が導入されているものの、要所で職人技とも言える人の手で加えられた微調整がなければ、SHOEIのヘルメットは完成しません。これこそが価値を生み続ける源泉となるものであり、他社が容易に真似できない競争優位性を支えるものです。同社によれば、毎月カイゼン(作業効率や安全性の確保などをより良いものにするよう見直す活動)のための勉強会を開催し、全作業員が絶え間なく改善案を出す仕組みが出来ているとのことです。このような企業文化が根付いているのは、同社が1993年に会社更生法が適用された歴史をもつことにも起因しています。同社は倒産を契機に、トヨタ自動車㈱が開発した生産管理システム「ジャストインタイム」(生産工程において、必要なものを、必要なときに、必要な量だけ供給することで、在庫を徹底的に減らした効率的な生産体制)を導入しました。放漫経営により過剰在庫が工場の外まで溢れ、無駄な資材が放置されて散らかっていた生産現場を整理整頓するところから会社の立て直しを始めたのです。以来、同社は過剰在庫を生まないために、生産数量を厳格に管理し、製品を作りすぎない方針を徹底しています。近年の世界的なSHOEI人気による需要の高まりに製品の供給が追い付いていない状況があるのは、このような堅実な経営方針によるところも一因です。
現地を見学して印象的だったのは、同社の生産現場の作業員の平均年齢が、一般的な企業と比べて低いように見受けられたことです。日本の多くの生産現場で、定年退職を迎えるベテランのノウハウをいかに次世代に継承するかが課題になっていますが、茨城工場では50代以上と思われる人を探すのが難しいくらい、20~40代の若い作業員が中心の職場になっていました。同社によれば、バイク用ヘルメットという製品の特性のためか新卒・中途いずれも若い人の応募が多いとのことです。現場の皆さんが、ものすごい集中力で黙々と作業に没頭しスピーディに作業を進めていく姿は圧巻の光景でした。全体的な男女比も大きな差はありませんでした。グラフィック転写フィルムを手作業で貼り付ける工程は1個あたり20~30分の時間がかかるそうですが、上手な人を配置すると、意図せず女性ばかりになってしまうそうです。見学当日も約20人の作業員の方全員が女性でした。性差の区別なく人材を育てるため、男性の転写チームを養成しようとしているとのエピソードは、同社らしいカルチャーだと思いました。
今回の工場見学を通じ、SHOEIのヘルメットがいかにこだわりぬいて作られたものか、生産現場がいかに自社製品の品質にプライドをもっているかを実感し、同社のヘルメットが「プレミアム」と呼ばれる所以、多少価格が高くとも熱烈なファンに愛されて飛ぶように売れる理由が分かったように思います。一方、生産現場を目の当たりにして再認識したことは、生産現場にかかわる作業の身体的負担の大きさです。これは同社に限ったことではありませんが、基本的に生産現場で作業員は長時間にわたって立ちっぱなしになったり、一定の姿勢を強いられたりすることが多々あり、目を酷使したり、長時間水に手を晒したり、工場内の独特の化学物質の臭いにも晒されるなど、その負担は決して小さくないと考えます。慣れてしまえば大きな負担ではないのかもしれませんが、若い人なら苦ではない作業も、長年続けられるのかどうかという疑問もあります(注記:当然ながら多くの化学物質を扱う作業においては防護服やマスクが使用されます。また、工場内の作業環境が健康に害を及ぼすような問題がないかは定期的にしっかりチェックされています。)。
同社は昨年、現在の茨城工場に隣接する土地を購入しました。具体的な計画は未定ですが、すでに限界に近づいた生産キャパシティの拡充を図るため、新工場や倉庫を建設することが予定されています。同社は2022年9期末時点で約139億円の手元現預金を抱え、有利子負債もゼロのキャッシュリッチ企業です。資本効率を高めるためにも、手元現預金を成長の期待できる事業への投資に投じることは投資家として歓迎したいと思います。同社にとって3つ目となる工場を一から立ち上げるに際してぜひ経営陣に検討していただきたいのは、最新技術を活用し、さらなる生産工程の省人化・機械化を図った生産性の高いシステムと作業員の負担をより軽減できるような環境を追求することです。日々進歩する技術を駆使し、製品の品質が変わらない部分はさらなる省人化・機械化を通じて生産性を上げれば、同じ人員数でより多くのヘルメットを生産することができるようになるだけでなく、作業員の負担の軽減にもつながるものと考えます。当初はコストがかかっても、今の生産現場を担う若い社員が10~20年後も安心して働くことのできる環境をつくることは、中長期的に見れば同社の企業価値向上に資すると考えます。同社はこれまで、契約社員にも賞与を支給し、3年以上勤務した非正規雇用者は正社員として登用するなど、元来、従業員の待遇に配慮する企業文化があります。2021年には一定以上の勤務年数の正社員に一律100株の自社株を配布し、従業員株式報酬制度を導入するなどの先進的な取り組みも行っています。将来に建設される新工場が、さらなる生産性向上を追求した作業員にとっても快適な先進的な工場になることを期待したいと思います。当ファンドは対話を通じて同社の企業価値向上を積極的に後押しする方針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる企業を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価格(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるカタリスト(きっかけ)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2023年1月の運用コメント
株式市場の状況
2023年1月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.42%の上昇となりました。
当月の日本株式市場は下落から始まりました。月前半に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した2022年12月の米製造業景況感指数が2年7カ月ぶりの低水準だったことや、中国製造業購買担当者景気指数(PMI)も低迷が続いたことから、景気後退への懸念が高まったのが主な要因と見られます。月半ばには、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持すると発表したことを受け、株式市場は上昇に転じました。月後半には、米国連邦準備制度理事会(FRB)の理事が利上げ幅緩和の支持を表明したことや、米有力紙による早期利上げ停止の観測報道を受け、日本でも成長株を中心に株価が堅調に推移した結果、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。
ファンドの運用状況
2023年1月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比2.45%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.42%の上昇を1.97%下回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、ナカニシ、ワコムなどでした。
歯科医療用機器メーカーのナカニシは、特に会社からの大きなニュースはありませんでしたが、歯科医療用機器は景気動向に左右されにくいビジネスであることから、経済の先行きに対して不透明感が高まる中、相対的に見た業績の底堅さが投資家に選好されたものと思われます。歯科用回転機器で世界的にトップシェアを誇る同社がその高い製品力を武器に世界の歯科機器市場でシェア拡大を続けると当ファンドは期待しています。
デジタルペンタブレットメーカーのワコムは、昨年10月に2023年3月期通期業績予想の下方修正を発表した後、株価が下落を続けていました。その反動から当月は株価が反発したものと思われます。同社は当月31日の引け後に2023年3月期第3四半期決算を発表し、同時に通期業績予想のさらなる下方修正を発表したものの、悪材料出尽くしとの見方や、自社株買いの増額を同時に発表したことにより、翌日の株価は大きく上昇しています。同社の業績悪化の背景には、過去2年間で広がったリモートワークやオンライン授業に関連する特需が一巡したこと、世界的な景気減速を受けた消費者心理の悪化による売上減少に加え、円安により部材コストが上昇し、自社ブランド製品を販売するブランド製品事業セグメントの収益が悪化していること等があります。同社は独自ソフトウェアやサービスを軸とした新たな課金型ビジネスの確立により収益基盤を強化する取り組みを進めていますが、新ビジネスの本格的な立ち上がりには時間を要する見込みです。長期的に見た同社の潜在成長力に対する当ファンドの期待は不変ですが、引き続き業績動向を注視しつつ、経営陣との対話を通じて積極的に企業価値向上を後押しする方針です。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、筆記具メーカーのパイロットコーポレーションなどでした。同社は昨年11月に2022年12月期第3四半期決算を発表した後、株価が軟調に推移しています。決算自体にサプライズはありませんでしたが、海外事業の拡大ペースが鈍化しはじめており、世界的な景気減速が懸念される中、今後の業績伸長が停滞する可能性があると見られ株価が下落したものと思われます。
当月の投資活動として、全売却及び新規投資はありませんでした。
当月は、当ファンドの投資先企業であるマックス、森永製菓、帝国繊維との対話についてご報告させて頂きます。
マックス
同社は2022年10月に初の統合報告書を発行しました。同報告書では、同社の経営課題に対する経営陣の問題意識、それらに対する現在進行形の取り組みや社内での議論の状況が丁寧に説明されています。「人が尊重され、人が成長することにより、会社も成長する」という考えに基づいた同社基本ポリシーである「人を信じ、活かす経営」の通り、人を活かす同社の企業文化の一端を感じることができる良い報告書だと思います。
当ファンドでは、①低収益事業・製品を見直し、事業ポートフォリオの選択と集中を進めることで収益基盤をさらに強化すること、②総資産のおおよそ半分を占める金融資産を、より積極的に事業投資や株主還元に活用し適正水準へ削減することを、同社の対処すべき課題として認識しています。①②を両立することで、長年にわたり6~7%台で推移する市場平均と比較しても低いROE(株主資本利益率)を早期に改善できると考え、この必要性を指摘し、経営陣との対話を継続しています。また、健全な株価形成を妨げている要因として、同社株式の低流動性の問題があることから、大株主である複数の政策保有株主に働きかけて保有株式を売却してもらい、一部を自社株買いで吸収することが望ましいとの考えも伝えています。
統合報告書では、財務担当役員や独立社外取締役から、「(将来的に)ROE10%を目指すことになるだろう」「企業価値を高めるためROE10%の目標実現に向けた具体的な取り組みを検討すべき」「取締役会がマックスの企業価値をどのように高めようとしているかについての発信が不足している」といった言及があり、同社役員が当ファンドと同様の課題認識をもっていることが確認できたことは大変心強いと考えます。
今後、世界的な金利上昇と景気減速に伴い建設関連投資が縮小すれば、マックスの主力事業である鉄筋結束機も影響を受ける可能性があります。しかし、同業他社において同水準の性能をもつ機器が存在せず、同社の鉄筋結束機「ツインタイア」は実質的に世界で唯一無二の製品であること、省人化による建築現場の効率向上や労務費削減に通じる製品であることから、同製品は他の建設関連企業と比較して相対的に景気の影響を受けづらい事業であると当ファンドは見ています。鉄筋結束機事業を中心とした同社の中長期的な成長余地に対する当ファンドの期待は不変であり、同社が事業ポートフォリオならびにバランスシートの見直しにかかる取り組みをよりスピード感をもって進めることで、10%以上のROEを恒常的に実現できる経営基盤をなるべく早期に構築することを期待しています。
森永製菓
同社は2022年12月、機関投資家向けにIR Dayを開催しました。当日は、横浜市にある同社の鶴見工場敷地内に新設したミュージアム「MORIUM」ならびに新研究所棟の見学会のほか、研究所長である森取締役上席執行役員によるR&D戦略説明会も開催され、多様な食感を生み出す加工技術など、同社が蓄積してきた独自技術の発展やその他新技術の可能性について学ぶ大変有益な機会となりました。約48億円を投じて建設された地上4階建の新研究所は、大小さまざまなミーティングルームやラウンジ、複数のキッチン、試作品製造用ラインをそろえ、同施設で働く研究員が研究に没頭できる環境に配慮しただけでなく、同社が戦略上重視する他企業との共創を促すための環境が整備されています。この研究所ができたことで、以前と比べ格段に他企業からの来訪数が増えているとのことです。この新研究所でさまざまな人と企業の共創を通じた化学反応が生まれ、同社がウェルネスカンパニーへと進化するための基盤づくりに貢献することを当ファンドは期待しています。
当ファンドは、同社がより資本コストを意識した経営方針を明確にしたことに大きな期待を寄せています。IR Day当日は、同社の太田社長も参加する中、2021年に外部から経営に参画し2022年に最高財務責任者に就任した髙木取締役上席執行役員による方針説明も行われました。髙木氏からは、現状の手元現預金水準はやや過剰であり、来期までに月商の約2か月分程度の水準へ削減する考えがあること、加えて事業ごとのROIC(投下資本利益率)管理を導入することを検討していることなどが言及されました。同社は2022年、保有していた森永乳業株式を売却し保有資産を削減すると共に、その売却代金を活用して100億円の自社株買いを行っていますが、引き続き余剰資本を活用し、機動的に自社株買いを行うことを検討していくとのことです。また同社はゴルフ場も保有しており、資本効率のさらなる改善へ向け、本業とは関係のない資産の売却も早急に実行することを当ファンドは期待しています。
同社の過去5年の資本使途(2023年3月期まで、一部推定)は、キャッシュイン(営業キャッシュフロー+投資有価証券売却損益)に対して平均して約6割が設備投資、3割が株主還元に充当されています。同社は近年、老朽化した生産設備や前述の研究施設の刷新などを進めるべく、設備投資を大きく増やしています。2020年3月期から2022年3月期の3年間の設備投資金額は、約500億円に急増しています。さらに同社は、2022年6月に芝浦ビルの建替えと同ビルへの本社機能の移転を発表しており、この投資は約90億円の社債を調達して実行される予定ですが、これにより設備投資比率はさらに高くなることが見込まれます。一方、キャッシュフロー創出力を表すEBITDA(利払い前税引き前減価償却前利益)は2022年3月期までの数年間ほぼ横ばいで推移しており、今2023年3月期は原材料高の影響等から減益となる見込みです。ここ数年の同社株価は低迷しており、これら積極投資がいつ収益化できるかを経営陣は問われていると言えます。近年、同社が北米市場でハイチュウの拡販に成功していることは好材料の1つですが、北米事業の規模はまだ小さく、全社業績に大きく貢献するほどの成果が出るまでには時間を要する見通しです。当ファンドは同社経営陣との対話を通じ、あらためて資本収益性を意識した経営を徹底し、改善の取り組みを加速することを働きかける方針です。
帝国繊維
当ファンドは2022年12月、同社の桝谷社長と面談の機会をもちました。引き続き、同社の資本収益性の低さ、それが改善される見込みがないことに対する懸念を伝え、対話を継続しています。同社株価は数年来、下落傾向にあり、足元でPBR(株価純資産倍率)は0.7倍前後で推移しています。同社の2021年度末時点の純金融資産約400億円ですが、2023年1月末時点の時価総額が約426億円であることを踏まえれば、正味事業価値は実質的に26億円と評価されているに等しいと言えます。当ファンドは、同社がより規律ある資本管理を行うため、本年2月に発表予定の新たな中期経営計画『テイセン2025』において、6~7%台で推移するROEを最低でも8%以上へ引き上げることを中期目標として掲げ、そのための具体的な施策について説明することを面談でも働きかけています。また、同社の中期目標指標や経営管理のためのKPI(重要業績評価指標)として、現状は「経常利益」が使用されていますが、これを政策保有株式の配当収入を含まない、本業の稼ぐ力を示す「営業利益」にすることが適切である旨も伝え、変更を促しています。例えば2021年度は、経常利益57億円のうち、約7億円が受取配当金収入です。同社役員の業績連動報酬も経常利益を基準に算定されており、これも配当収入を含まない営業利益を基準にするべきであると考えます。
同社は防災関連製品の総合企業として、長年の供給実績から強固な顧客基盤をもち、その優位性は15%前後という高い営業利益率にも表れています。国内防災関連市場は成熟市場ですが、同社は自治体の水害対策向け大量送排水ポンプやセキュリティ関連ビジネスなど新規事業の拡大に積極的に取り組むことにより、年率5%以上の売上・利益成長を実現しています。新規事業の規模はまだ限定的ですが、当ファンドは桝谷社長との面談を通じ、「もっと会社を成長させたい」という同氏の強い意欲を感じ、その姿勢を評価しています。面談で桝谷社長からは、同社が株式市場で低評価に甘んじている背景に、同社の社員自身が社会における自社の価値を十分に認識していないことにも起因しているのではないかという趣旨のコメントがありました。核心をついた言葉だと思います。投資家が同社に対する評価を見直すことと、同社の経営陣や社員自身が、「もっと社会から評価されたい。帝国繊維はもっと高く評価されてしかるべきだ」と考え、そのための取り組みに力を入れることは表裏一体だと思うからです。社会、株式市場から適切に評価される企業になるため、稼いだ資本や保有資産をどのように活用して企業価値向上を実現するかということを経営陣や社員の皆さんがより一層真剣に考え始めた時、外部からの評価が変わりはじめるのではないかと思います。当ファンドの働きかけを受け、同社は2022年から投資家向け決算説明会や工場見学を開催し、投資家とのコミュニケーションを改善しつつあります。当ファンドは同社経営陣との対話を継続し、企業価値顕在化を後押しする方針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる企業を抽出します。その際ROE水準や安定性などの財務指標や、PBR、PER(株価収益率)、EV/EBITDA、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価値(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるカタリスト(きっかけ)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
2022年12月の運用コメント
株式市場の状況
2022年12月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.57%の下落となりました。
当月の日本株式市場は、11月30日にFRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル議長が12月のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げ減速を示唆したことを受け、上昇して始まりましたが、その後は米国景気悪化懸念の高まりなどから下落基調をたどりました。月半ばには、欧米中銀の金融引き締め継続による景気悪化懸念や、日銀が長期金利の許容変動幅を修正したことなどを受け、金融政策の転換懸念から株式市場は大幅に下落しました。月後半にかけては、中国が事実上「ゼロコロナ政策」を終了したことでインバウンドや中国経済再開期待が生じる一方、米国の半導体株安や円高の進行を受けて、一進一退で推移しました。
ファンドの運用状況
2022年12月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比5.39%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.57%の下落を0.82%下回りました。
当月、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、オイシックス・ラ・大地、森永乳業などでした。
オンライン食品販売会社のオイシックス・ラ・大地は、2022年前半に株価が大きく下落した後、軟調な株価推移が続いていましたが、11月に発表された2023年3月期第2四半期決算において、第2四半期(7~9月)は季節性から新規獲得会員数が少なくなる時期にもかかわらず、主要3ブランド全てで会員数が純増したこと等が好感され、株価が上昇したものと思われます。
乳製品メーカーの森永乳業は、急速な円安進行による原材料・エネルギー価格の急騰を受け、業績が大幅に悪化していましたが、11月半ば以降、為替が円高傾向に転じ、業績への悪影響が和らぐとの見方から、株価が上昇したものと思われます。
一方、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに影響した企業は、MARUWA、太陽ホールディングスなどでした。
セラミック部品メーカーのMARUWAは、特に会社からのニュースはありませんでしたが、11月に株価が大きく上昇した反動に加え、12月に入り、同社製品に対する需要増を牽引してきた電気自動車関連市場の減速が報じられたことを受け、株価が下落したものと思われます。
電子基板材料メーカーの太陽ホールディングスは、世界的な景気減速の影響等により、同社の主力製品であるソルダーレジストに対する需要が低調に推移していることから、株価が軟調に推移しているものと思われます。
当月の投資活動として、全売却及び新規投資はありませんでした。
当月は、当ファンドの投資先である「オイシックス・ラ・大地」について、当ファンドの投資見解をご説明します。
オイシックス・ラ・大地は、同社の代表取締役社長である高島宏平氏が2000年に創業したオイシックス㈱を中核とするオンライン食品販売会社です。2017~2018年に、同業の㈱大地を守る会、らでぃっしゅぼーや㈱と経営統合し、現在の社名になりました。同社は、Oisix、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやの基幹3ブランドの下、ウェブサイトやカタログを通じて顧客から注文を受け、独自の栽培・生産基準に基づいて生産された環境負荷の少ない生鮮食品・加工品などを宅配する国内B2C(Business to Customerの略、企業と一般消費者の取引のこと)サブスク(定期購入、継続購入を意味するサブスクリプションの略)事業のほか、食品EC(電子商取引)ビジネスのノウハウを他社に提供する他社EC支援事業、保育園給食向けに食材や食育支援を行う国内B2B(Business to Businessの略、企業間取引のこと)サブスク事業等も手掛けています。
共働き世帯の増加による時短ニーズの高まりや、より安心安全なものを食べたいという健康志向の高まりを追い風に、同社は飛躍的に事業を拡大してきました。総会員数は、過去10年間で約75,800人から45.7万人へと6倍以上に増加しています。同社の強みは、全国約4,000軒の青果生産者とつながる調達網、ならびに45.7万人の会員への定期宅配を支える国内最大級の物流センターとミールキット製造工場をもち、独自の販売・在庫管理システムを構築していることに加え、顧客のニーズを取り入れた付加価値の高い独自製品を開発するノウハウをもつことです。同社は青果生産者と直接取引することで、質の高い青果を安定した価格で仕入れることができ、また長年にわたり取引することで、高い栽培技術をもつ優良生産者を囲い込むことができるメリットもあります。生産者側も、同社との取引に応じて契約栽培(品目・時期・量・価格を決めてから作付け)することで、収入の見通しが明確になるというメリットがあります。これまで廃棄していたふぞろいな野菜もミールキットに加工する同社が買い取ることで収益化できるなど、生産者との間でWin-Winの関係を構築できることが、同社の成長を支える原動力になっています。
同社株価は、2021年9月に上場来最高値を更新した後、大幅に下落し、足元では最高値の半値以下の2,000円前後で推移する状況が続いています。この背景には、コロナ禍を受けた特需により業績が大きく拡大した2020~2021年から一転、その後はコロナ特需が一服したことや、新たに建設した物流センターの立ち上げトラブルにより想定外にコストが増え、業績が落ち込んだことがあります。
しかし、「より手軽においしく栄養バランスの良い食事を摂りたい」「安全性や環境社会に配慮した食材を買いたい」という消費者のニーズは今後も増え続けると当ファンドは見ており、同社の提供する商品・サービスの価値はますます高まっていくと考えます。同社の潜在成長力や、同社が社会に対して提供し得るユニークな付加価値を考慮すれば、同社の実態価値と現在の株価(市場価値)には、バリュー・ギャップがあると当ファンドは考えます。懸案であった新物流センターのトラブルも2023年3月期上期までに解消し、同センターが正常に稼働し始めたことで、本来の目的であったローコストオペレーションによる物流コスト低減が期待できるフェーズに入ることから、収益性改善が進むことも期待されます。
同社の成長戦略は、大きく3つの領域に分けられます。一つ目は、売上高の約8割を占める国内B2Cサブスク事業のさらなる成長です。国内食品宅配市場は2020年時点で約2.5兆円規模と推計され、今後も年率3%程度で安定的に成長することが見込まれています。同市場には、従来からのプレーヤーであるCO・OP(日本生活協同組合連合会)による宅配サービスや、近年サービスを拡大するネットスーパーなどが含まれますが、その中でもオイシックス・ラ・大地は、おいしく利便性の高い独自のミールキットを開発することで業界内でも差別化しています。Oisixブランド単体で見た過去5年の売上高年平均成長率が20%を超えていることを踏まえれば、同社が「ミールキット市場」という新たな市場を創出してきたとも言えます。同社はコロナ特需一巡後も引き続き会員数を伸ばしています。今後も多様なニーズに応える独自の製品・サービスを開発し、提供価値を磨き上げることで、国内B2Cサブスク事業の成長が継続することが期待されます。
二つ目は、法人・事業者向けビジネスの拡大です。同社は、B2Cサブスク事業のインフラを活用し、事業者向けB2Bサブスク事業の拡大に取り組んでいます。2015年にサービスを開始した保育園向けの給食ミールキット事業は、2022年3月期時点で12億円の売上に留まりますが、同社は5年以内に100億円に拡大する計画を掲げています。さらに、2022年10月に同社が約28%の株式取得を完了して大株主となったシダックスとの協業により、シダックスの手掛ける病院や介護施設向けの給食事業向けに、同社の安心安全な食材や健康に配慮した付加価値の高いミールキットを提供することにより、事業拡大を図ることが期待されます。
三つ目は、海外事業の拡大です。同社は国内B2Cサブスク事業で培ったノウハウを活用し、海外でも同事業を展開することを目指しています。同社は2019年に米国でヴィーガン(肉や魚など動物性の食品を一切食べない生活スタイルのこと)向けのミールキットブランドPurple Carrotを手掛ける運営会社を買収したほか、数年前から香港や上海でもOisixブランドの食材宅配サービスを開始しています。現時点では、これら海外事業の成否は未知数です。同社が海外市場を本格的に拡大する上では、人材の確保など課題も多いと当ファンドは見ていますが、世界的な成長市場であるミールキット市場のシェアを海外でも積極的に取りに行こうとする同社経営陣の成長への意欲を支持したいと考えます。コロナ禍を経て、世界的により健康に配慮した食事に対する意識が高まっている中、日本発のミールキットを手掛ける同社が海外でも認知度を高め、グローバル企業へと飛躍する可能性に期待しています。
同社が、「サステナブルリテール戦略(ビジネスモデルとテクノロジーの力で地球にも人にもよい食を提供する)」を掲げ、事業の発展を通じてフードロスや温暖化ガス削減に貢献することを明確に意識していること、それを収益拡大の機会と見ていることにも当ファンドは注目しています。同社は独自の在庫管理システムにより、もともとスーパーなどの実店舗型小売業と比較して低いフードロス率を実現していますが、新たにフードレスキューセンターを立ち上げ、従来は産地や工場で捨てられていた食材を活用した商品を開発する取り組みを本格化しています。これにより、より積極的にフードロス削減を図りつつ、製造工程の効率化も進めることで原価率の低減を実現しようとしています。また、同社の売上あたりCO2排出量は、実店舗型小売業平均の約半分と推計されていますが、これに加え、同社が推進する有機・低農薬農法は、CO2をためられるバイオ炭の活用により、一般的な慣行農法と比べ大幅なCO2削減が可能であることが実証されたとのことです。このような取り組みは、同社製品・サービスを差別化し、ブランド価値を高めることにもつながると考えます。
当ファンドは、上場企業である同社が積極的に事業拡大を進める上で、株主資本に対する収益性に適切に配慮した経営を行うことも重要と考えます。同社の2022年3月期までの5期平均ROE(株主資本収益率)は14.7%であり、同社の本業の稼ぐ力を表す営業利益率の5期平均が4.1%であることを踏まえても、相応に高い水準にあると評価できます。一方、同社が対外的に言及しているROE目標にかかるコメントが、「10%超の継続的な達成」のみであることは、同社経営陣の資本収益性に向き合う姿勢として、やや消極的な印象を受け、残念に思われます。企業としての成長を追求する上で、株主が提供するリスクマネーに対して適切なリターンを上げること、そのためにどのような資本政策を掲げるのかについて、より明確なメッセ―ジが発信されることを期待したいと考えます。当ファンドは、対話を通じて同社の中長期的な企業価値向上を支え、さらなる成長を後押ししていく方針です。
今後の運用方針
当ファンドでは以下のようなプロセスで銘柄を絞り込み、ポートフォリオを構築しています。まず三つの着眼点(経営者の質・企業収益の質・市場の成長性)に照らした投資仮説を軸に、ファンダメンタルズの改善や株価上昇の余地があると思われる企業を抽出します。その際ROE(株主資本利益率)水準や安定性などの財務指標や、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)、EV/EBITDA、配当利回りなどの各種株価指標を多面的に見ることで抽出精度を高めます。また株主構成や取締役構成などを分析することで、当ファンドが当該企業の価値向上に貢献できる関係を構築できる可能性を考慮します。その上で企業の実態価値を推定し、実態価値と市場価値(株価)の差であるバリュー・ギャップを計測します。そして投資先企業との対話が、そのギャップを埋めるカタリスト(きっかけ)になると見込まれる企業を選別して投資します。
企業とのミーティングにおいては、中長期の企業価値向上へ向けた経営戦略について多面的に対話を行います。日本には強固な事業基盤を有していながら、経営戦略の一部に合理性を欠くことから株価が実態価値よりも低く評価されている企業が数多く存在します。これらの企業と資本市場の橋渡しとなるべく、投資家として見解を伝達し、潜在的な企業価値の顕在化に貢献していくことを目指してまいります。
交付運用報告書
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交付運用報告書(第9期 2023年10月16日決算) (604.4 KB)
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交付運用報告書(第8期 2022年10月17日決算) (624.0 KB)
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交付運用報告書(第7期 2021年10月15日決算) (598.6 KB)
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交付運用報告書(第6期 2020年10月15日決算) (564.6 KB)
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交付運用報告書(第5期 2019年10月15日決算) (578.3 KB)
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交付運用報告書(第4期 2018年10月15日決算) (930.6 KB)
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交付運用報告書(第3期 2017年10月16日決算) (836.1 KB)
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交付運用報告書(第2期 2016年10月17日決算) (920.9 KB)
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交付運用報告書(第1期 2015年10月15日決算) (465.3 KB)
運用報告書(全体版)
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運用報告書(全体版)(第9期 2023年10月16日決算) (542.4 KB)
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運用報告書(全体版)(第8期 2022年10月17日決算) (576.3 KB)
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運用報告書(全体版)(第7期 2021年10月15日決算) (534.5 KB)
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運用報告書(全体版)(第6期 2020年10月15日決算) (525.7 KB)
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運用報告書(全体版)(第5期 2019年10月15日決算) (540.8 KB)
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運用報告書(全体版)(第4期 2018年10月15日決算) (763.1 KB)
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運用報告書(全体版)(第3期 2017年10月16日決算) (784.6 KB)
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運用報告書(全体版)(第2期 2016年10月17日決算) (728.3 KB)
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運用報告書(全体版)(第1期 2015年10月15日決算) (493.9 KB)
主な投資リスク、費用等
- 当ファンドの投資リスクについては、交付目論見書(投資信託説明書)記載の「投資リスク」をご覧ください。 (2.0 MB)
- 当ファンドに係る費用等については、交付目論見書(投資信託説明書)記載の「ファンドの費用、税金」をご覧ください。 (2.0 MB)
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