スパークス・新・国際優良日本アジア株ファンド | 投資信託 | スパークス・アセット・マネジメント

スパークス・新・国際優良日本アジア株ファンド
(愛称:日本アジア厳選投資)

  • NISA成長投資枠対象ファンド
日経新聞掲載名
日本アジ厳選
分類
追加型投信/内外/株式
設定日
決算日
毎年9月12日

基準日:2024.06.24

基準価額
18,013
前日比
+21
+0.12%
純資産総額
17.1億円
分配金情報(税引前)
0
  • 当ファンドは、NISAの「成長投資枠(特定非課税管理勘定)」の対象ですが、販売会社により取扱いが異なる場合があります。詳しくは、販売会社にお問い合わせください。

基準価額推移

分配金実績

決算頻度:1回/年

設定来合計
0
直近12期計
0

分配金実績一覧

2023年09月12日
0
2022年09月12日
0
2021年09月13日
0
2020年09月14日
0
2019年09月12日
0

月次報告書

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

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2024年5月の運用コメント

株式市場の状況

<⽇本の株式市場>

 2024年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.16%上昇し、日経平均株価も前月末比で0.21%上昇しました。
 当月の日本株式市場は、月前半は4月の米国雇用者数が市場予想を下回り、米利下げ観測が強まったことから日米株式市場ともに上昇しましたが、日銀の金融政策正常化観測などから上値が抑えられました。月半ばには米消費者物価指数や米小売売上高など予想を下回る指標が発表され、金融引き締めの長期化への懸念が後退しました。その結果、米国の主要3株価指数が史上最高値を更新し、日経平均株価も一時39,000円を回復しました。さらに、NVIDIA社(米国)が市場予想を上回る好決算を発表し、半導体株が軒並み上昇して相場を支えました。月後半は、米景気の底堅さを背景とする利下げ動向への懸念や、日銀総裁の追加金融引き締めを示唆する講演が再び注目されて日米長期金利の上昇により株価が下落しましたが、最終的には金利上昇がひとまず一服したとの見方が買い戻しにつながり、前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、台湾、シンガポールなどに牽引される形で前月末比1.58%上昇しました。当⽉パフォーマンスが振るわなかった市場は、インドネシア、フィリピン、韓国などでした。中国市場と香港市場は前月以降の堅調な上昇基調を維持しました。中国政府は当月、不動産セクターに対する政策支援を発表し、地方政府の支援を通じて落ち込んだ不動産市場の安定化を図る意向を示しました。一部投資家の間に中国の不動産セクターは最悪期を脱した可能性があるという見方があることから、MSCI中国不動産指数は過去2か月でおよそ17%上昇しました。
 AI(人工知能)関連銘柄は前月に一時的な調整局面に入りましたが、当月は堅調な上昇基調を取り戻しました。NVIDIA社(米国)が好調な業績と見通しを発表したことは、アジアのAIサプライチェーン全体、とりわけ台湾と韓国のハイテク銘柄に恩恵をもたらしました。アジア地域でデータセンターの需要が旺盛であることから、Microsoft社(米国)、Alphabet社(米国)、Amazon.com社(米国)、NVIDIA社などはASEAN諸国に多額の投資を行い、域内の有能なエンジニアと低い運営コストを最大限に生かそうとしています。
 インド市場は小幅な値動きで推移しましたが、これは投資家が選挙の行方を見定めようとして待ちの姿勢をとったためだと考えられます。モディ首相が続投して3期目に突入し、現行政策を継続して経済成長を推進するというのが大方の予想となっています。
 インドネシア市場は企業業績やマクロデータの低迷や前月に発表された予想外の利上げの影響で軟調なパフォーマンスに終わりました。

ファンドの運⽤状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐4.66%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同1.35%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、Samyang Foods(韓国/食品・飲料・タバコ)、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、COSMAX(韓国/家庭用品・パーソナル用品)などでした。一方、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)、サンリオ(一般消費財・サービス流通・小売り)、Hanwha Aerospace(韓国/資本財)などがマイナスに影響しました。

 2024年3月の月次報告書で韓国の企業価値向上プログラムについて取り上げました。一方、2021年以降パフォーマンスが大幅に落ち込んでいる中国も、「企業価値向上」に取り組んでいます。

中国も企業価値向上に取り組み

 前月、中国国務院(中国の最高行政機関)は資本市場改革に関して「資本市場の監督強化、リスク防止、質の高い発展を促進する意見」、いわゆる新『国家九条』を発表しました。これは同政策としては3回目となり、1回目と2回目はそれぞれ2004年と2014年に発表されました。
「監督」という言葉がありますが、中国政府がこの言葉を発したからといって慌てる必要はありません。実際のところ、資本市場には監督を強化すべき側面がたくさんあるからです。中国のオンショア(上海と深センを含むA株)市場が長年にわたって市場の「資金調達機能」を重視してきたことは、企業が資金を調達し、中国の産業を発展させる上で欠かせない基盤となっています。市場のパフォーマンスは非常に軟調であるにもかかわらず、中国A株(上海証券取引所と深圳証券取引所に上場している⼈⺠元建ての中国株式)市場は2022年から2023年にかけて世界最大のIPO市場となり、資金調達額は米国を上回りました。しかし、市場の「投資機能」に十分な焦点が当てられず、市場関係者はコーポレートガバナンスの不備と投資家保護の手薄さに悩まされてきました。Goldman Sachs社(米国)のデータによると、中国A株市場に対する機関投資家の参加率はおよそ15%で、インドの約33%、韓国・台湾の約50%と比較すると著しく低水準にとどまっており、総体的にみると中国A株市場は個人投資家が主導する市場であり、また多くの人は単なるカジノと見ています。こうした状況を受けて、中国政府は市場を改革し金融機能と投資機能を両立させたいと考えています。このことは中国政府が投資主導型経済から消費主導型経済への変革を志向する一環と考えますが、こうした移行をうまく進めるには、個人投資家が資本市場で着実に利益を積み上げられるようにする必要があると考えます。

 新『国家九条』の要点をまとめると、以下のようになります。

  • 上場基準を引き上げ、出資者の責任を強化することでIPOの基準を厳格化する。
  • 上場企業に対する監督を強化することで、コーポレートガバナンスと情報開示を改善、大株主による株式売却を規制し、配当支払いを促進する。
  • 黒字でありながら低配当または無配当を続けている企業にはリスク警告を発する可能性がある。配当の予測可能性を高めるため、企業には年に複数回の配当を行うことを奨励する。
  • 上場廃止の監視を強化し、業績不振で財務的に不安定な企業を排除する。
  • A株市場に対する保険会社や年金といった中長期資金の流入を促進する。

 さらに当月には、本土投資家を対象として上海・香港ストックコネクト(上海証券取引所と香港証券取引所の相互間で行われる人民元建て上場株式の取引)を通じて購入した香港上場株式の配当金の20%課税免除を検討しているという報道が流れました。
 中国株の多くは割安なバリュエーションで取引されていますが、バリュエーションを高める上で障害となる要因には、主として規制や地政学的リスクや株主還元の少なさなどがあります。株主還元が最小限に留まっているなら、そうした企業は数年前の日本企業のような典型的なバリュートラップ(割安のわな)銘柄でしかありません。実際、中国の高配当銘柄は過去2年間でみてもパフォーマンスがきわめて好調です。また、すべての企業が規制や地政学的リスクにさらされているわけではなく、大半は重大な地政学的リスクはないというのが当ファンドの考えです。新たな施策によって企業の株主還元に対する意識を高めることができれば、バリュエーションが低い中国市場において、再び潤沢な投資機会が訪れると考えます。また、新『国家九条』はオンショア市場に関するものですが、オフショア市場(香港)もその恩恵を受けることができると考えます。ストックコネクトという制度があるため、香港株とA株は同じような投資資金の奪い合いが起こっています。よって、香港に上場する企業が株主還元を強化しなければ、投資家の関心はA株企業に奪われてしまうことでしょう。重要なのは、香港上場企業の多くは規制当局の後押しがなくても、すでに株主還元の強化を積極的に進めているということです。

誤った判断は景気上昇期に下され、正しい判断は景気下落期に下される

 ここで世界最大級のモバイルゲーム会社であり、中国のメッセンジャーアプリ「WeChat(微信)」を運営しているTencent Holdings(中国/メディア・娯楽)を取り上げたいと思います。当ファンドは20229月の月次報告書で同社について、「最悪期はまもなく過ぎ去る」と述べました。この予測通り、同社の株価は202210月に底を打ち、業績は2022年以降全事業部門において着実に回復しています。さらに注目すべきなのは、利益率の大幅な改善です。2024年第1四半期の売上高は前年同期比6%増でしたが、非IFRS営業利益(株式報酬と若干の調整を除いた営業利益)は前年同期比30%増の約580億人民元となりました。これは強力なコスト削減努力に加え、WeChat動画アカウント(視頻号)の広告、動画アカウントでのライブストリーミングを通じた電子商取引の手数料、企業向けSaaS(サービスとしてのソフトウェア)製品など、より高い収益を生み出す事業に注力したためと考えられます。同社は20243月に、2024年の配当目標を前年同月比42%増の320億香港ドルに設定し、自社株買いも1,000億香港ドルに倍増すると発表しました。3月末時点の同社の時価総額に基づくと、総株主還元利回りは約5%となり、日本企業の現状と比較してもまずまずの数字です。
 ではなぜ同社の収益性と株主還元はこれほど大幅に改善したのでしょうか。その答えはこの段落の表題の通り、誤った判断は景気上昇期に下され、正しい判断は景気下降期に下されるからです。あらゆるものが素晴らしく見える強気市場では、企業は貪欲になり、どんなコストをかけてでも成長のための投資を行います。そのため判断を誤り、資本配分が不適切になることもあります。しかし景気下落期に入ると、それまでの誤った資本配分が裏目に出てしまい、企業は過剰な従業員、採算性の低いプロジェクト、余剰在庫、低稼働の工場、さらに悪いことに、多額の負債を抱えてしまうことがあります。企業がこうした状況を乗り切るためには、解雇、不採算プロジェクトの削減、在庫の一掃、資産の売却、債務返済など、痛みを伴う対策を選択しなければなりません。そうすると一部の企業、特に債務比率の高い企業は生き残ることができません。このような局面では、企業は収益性とキャッシュフローによく注意を払うようになるため、生き残ることができた企業は、より収益性の高い体質とより優位な立場を手にすることになります。これがまさにTencent Holdingsに起きたことなのです。実は、当ファンドの保有銘柄であるMakeMyTripTrip.com Group(中国/消費者サービス)といった旅行関連企業もコロナ禍期間とその後に、すでにそうした停滞期を経ています。多くの中国企業は、これからがそうした期間を経験する番だと考えます。中国企業の多くは長年にわたって誤った資本配分を行っており、とりわけ不動産セクターはその傾向が著しいため、今こそ気を引き締めて軌道を修正し、効率性改善に注力する時だと考えます。 

 2月から当月にかけて、調査対象企業のファンダメンタルズが安定し、効率性と株主還元を重視する姿勢が強まったと判断したことから、当ファンドは香港・中国銘柄の組入比率を継続的に引き上げました。中国経済は減速していますが、企業の多くは引き続き一桁台後半以上の売上成長が可能だと考えています。過去の中国経済の成長率と比べるとかなり低いように思えますが、経済が一定程度成熟し、成長が鈍化しているので、ある程度の低下は避けられません。市場ではバリュエーションの大幅な見直しが進み、今では新たな現実を反映した状態となっています。企業の売上成長率がたとえ「わずか」10%でも、効率と利益率の一貫した改善、適正な自社株買いの効力を利用すれば、利益の成長率は10%より高く保つことが可能だと考えます。こうした取り組みの状況とバリュエーションの妥当性を組み合わせてみれば、長期的には非常に優れたリターンを生み出すことができます。
 年初来でみると、MSCI中国指数のリターンは日本円換算で18.6%の上昇となり、TOPIXを上回っています。当ファンドにとって、香港・中国銘柄の組み入れは、2023年はパフォーマンスに対してマイナス要因だったのが、2024年はプラス要因に変わっており、とりわけ日本市場が横ばい推移に移行し始めた前月以降はその傾向が顕著になっています。市場が異なれば時期によってパフォーマンスも異なるため、当ファンドは投資対象国を分散し、リレーのように順次入れ替えています。短期的にみると、こうした手法によって国ごとの弱みが相殺され、パフォーマンスが安定します。こうした手法を一貫して採用することで、当ファンドは長期的に平均以上のパフォーマンスを上げるよう努めています。

2024年4月の運用コメント

株式市場の状況

<⽇本の株式市場>

 2024年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.91%下落し、日経平均株価は前月末比4.86%の大幅下落となりました。
 月前半は利益確定売りや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)高官の年内利下げ先送り示唆に伴い米長期金利上昇が懸念され、米国株式市場の下落を招き、日本株式市場は上値を抑えられました。月半ばには米CPI(消費者物価指数)の市場予想を超える上昇や半導体関連企業の大幅下落、また中東情勢の悪化などから日経平均株価は一時37,000円を割り込みました。月後半には中東情勢の落ち着きから買い戻しの動きが見られ、日経平均株価は38,000円台を回復しました。26日まで開かれた日銀金融政策決定会合では緩和的な金融政策の維持が決定され、日本が祝日だった29日にドル円相場は一時160円台へ急伸し約34年ぶりの高値を更新しました。しかしながら、その後一転して154円台まで大きく円高に振れ、市場では政府による為替介入が行われたとの観測が広がりました。

<アジアの株式市場>

 当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、米ドル建て)指数は、中国、香港、シンガポールなどに牽引される形で前月末比1.26%上昇しました。当月パフォーマンスが振るわなかった市場は、インドネシア、韓国、フィリピンなどでした。米国のインフレ率が予想を上回ったことで、米国の金利に対する投資家の見方は「高金利の長期化」シナリオにシフトし、成長株を中心に下落しました。
 ナスダック総合指数は4.41%下落し、アジアのテクノロジーセクターにも大きな影響を与えました。韓国市場はテクノロジーセクターに対するエクスポージャーが高いことから、低調に推移しました。
 ASEAN市場はインドネシア、フィリピン、タイを中心に全般的に低迷しました。米ドル高の影響から、これらの市場で為替変動とインフレ圧力に対する懸念が高まりました。インドネシアは自国通貨の下支えを狙って唐突に政策金利を0.25%引き上げ、6.25%としました。
 一方、中国市場と香港市場は、政策支援、業績回復期待、割安なバリュエーションに後押しされ、堅調に推移しました。不動産セクターとインターネットセクターに投資家の関心が集まりました。
 インド市場は前月の調整後、中小型株の力強い反発に牽引され、上昇基調を取り戻しました。インドの国政選挙は当月半ばに始まり、6月前半の開票まで1か月半あまり続きます。

ファンドの運⽤状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐3.39%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同2.79%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Hanwha Aerospace(韓国/資本財)などでした。一方、サンリオ(一般消費財・サービス流通・小売り)、MediaTek(台湾/半導体・半導体製造装置)、アシックス(耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。

 当月に入って、マクロリスクが再び注目されるようになりました。米国経済の底堅さとインフレの常態化によってFRBが利下げに転じる可能性が低下する一方で、イランがイスラエルとの戦闘に直接関与するなど、中東の紛争がエスカレートしました。この状況を2022年の市場低迷期と似ていると見る向きもありますが、当ファンドの見方は少し違います。

  • 2022年のインフレ率が非常に高かったのは、コロナ禍でスタグフレーション(高インフレ下の景気低迷)を主因とするサプライチェーンの混乱や、またロシアが突如ウクライナに侵攻したことが原因であること。
    現在、インフレ率は米国経済の底堅さを背景に、FRBの目標値である2%を依然上回っているものの、沈静化してきているのが実情です。
  • 2022年は金利がほぼゼロの状態から急激に引き上げられたのに対し、現在は比較的高い水準で推移していること。
    2022年の金利ショックは現在よりはるかに甚大でした。
  • 2022年は多くの業界が在庫サイクルの底にありました。コロナ禍のサプライチェーンの混乱は、2022年に新型コロナウイルス感染症が収束の兆しを見せたことで、過剰発注を引き起こし、最終的には在庫積み上がりの要因となったこと。
    当時は多くの企業が業績の大幅悪化に苦しんでいましたが、現在は在庫がほぼ正常化し、企業の収益も改善しています。

 アジアに限って言えば、2022年には見られなかった好材料がいくつかみられます。

  • 日本がコーポレート・ガバナンス改革を加速させており、韓国や中国など他国も追随の姿勢を見せていること。

  • 半導体業界が2022年には景気循環の後退期にあったが、現在は回復初期にあること。
    AI(人工知能)投資がまだ初期段階にあるため、このアップサイクルは数年にわたって続くと考えます。

  • 総体的にみると環境は依然芳しくないものの、中国経済が継続的にロックダウンを実施していた2022年と違って経済活動を再開していること。

 現状で最大のテールリスク(まれにしか起こらないはずの想定外の暴騰・暴落が実際に発生するリスクのこと)は、中東の紛争が拡大し、世界の石油の約3割、世界の液化天然ガス(LNG)の約2割が通過するホルムズ海峡の交通が寸断されることです。
 しかし、イランも含む湾岸諸国はいずれも同海峡を通じて石油を輸出していることから、影響は甚大であるにしても発生確率はきわめて低いと考えられます。イランはホルムズ海峡経由で主要顧客である中国に石油を輸出しているので、単純にみて本格参戦のリスクは大き過ぎるでしょう。

 では現状のリスクにどう対処していけばよいのでしょうか。当ファンドの戦略は決して変わりません。強靭で耐久力に富み、経営者が効率的に資本配分を行っている企業を探し出し、バリュエーションが割安な機会を見計らって企業へ投資します。最高の銘柄を探して最も割安な価格で購入することが、日々の目標です。逆境に耐える力があり収益性の高い銘柄をバリュエーションの割安な時点で購入できれば、どんな外的ショックでも乗り切ることができると考えます。そのために何よりも大切なのは銘柄の選定であり、銘柄選びを誤れば、他の方法で埋め合わせることは不可能です。銘柄選定についてはこれまで幾度となく取り上げているので、今回はリスク管理の他の側面、ポートフォリオの構成とポートフォリオの組み換えの2点について触れたいと思います。

ポートフォリオの構成

 当ファンドは2540社という比較的少数の銘柄を厳選してポートフォリオを構築しています。日本とアジアへ投資する主な利点は、その投資対象の広さです。多くのアジア市場で事業を展開しているグローバル企業だけではなく現地企業も組み入れているため、2540銘柄程度でも十分に分散投資が可能であると考えます。さらに銘柄の選定にあたっては、互いの相関性が低く、他社の動向から影響を受けにくい投資先を選ぶようにしています。投資対象となる銘柄はきわめて幅広く、必要なのは2540銘柄と少ないため、選別は容易です。また、保有銘柄を増やしても、必ずしもリスクが減るわけではないと考えます。なぜなら、保有銘柄が増えれば増えるほど、それぞれの銘柄に関する調査の時間が少なくなりますし、ポートフォリオをシンプルに保ち、リスク要因や銘柄間の相関性を理解しやすくした方が良いと考えるためです。202312月の月次報告書で取り上げた通り、当ファンドの保有銘柄は大まかに以下のように分類できます。

  • 新興国銘柄インドとインドネシアは世界の新興国の中でも最も有望な市場であると考え、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)などを組み⼊れています。
  • テクノロジー関連銘柄世界の主要な製造拠点として、アジアにはテクノロジー関連銘柄について新たな投資機会があると考え、半導体銘柄だけでなく、富士フイルムホールディングス(テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、SK hynix(韓国/半導体・半導体製造装置)といったヘルスケア、ファクトリーオートメーション、再生可能エネルギー関連銘柄も組み入れています。
  • 消費者動向関連銘柄日本や韓国といった国々は数十年にわたって国際競争力のある消費財を作り続けてきたことから、今後はアジア諸国の文化発信力の拡大に伴って音楽やアニメキャラクターといった文化関連商品の輸出を拡大すると考え、アシックス(耐久消費財・アパレル)、サンリオ(一般消費財・サービス流通・小売り)といった銘柄を組み入れています。
  • インフレ受益銘柄日本ではインフレが進行しており、インフレと金利が引き続き世界的なリスクとなる見込みであることから、こうした動向から恩恵を受ける銘柄、例えば三菱商事(資本財)や三菱UFJフィナンシャル・グループ(銀行)などを組み入れています。

 現状の中東における地政学的リスクに関しては、202310月の月次報告書で取り上げた通り、⽯油開発・⽣産関連銘柄を組み⼊れ、さらに総合商社を通じて幅広いコモディティへの投資も⾏っています。金利の影響に関しては、銀行、保険会社など、日本の名目金利上昇の恩恵を受ける企業の組入比率を高めに設定しています。バランスの取れたポートフォリオを構成し、国内外の幅広い株価上昇要因を捉えることが、高いリスク調整後リターンを長期にわたって確保することに役立つというのが当ファンドの考えです。

 当ファンドが最優先で取り組んでいるのは資本の保全です。したがって、ポートフォリオを組む際に最も重視しているのは、リスクを低く保ったままでリターンを上げられる確度はどの程度かということです。アップサイドが大きいと予想されるもののリスクが高い銘柄の組入比率は低く設定しています。確実性を重視する姿勢は、当ファンドの銘柄選定の理念、すなわち競争に負けない強力な企業を選定するという考え方と軌を一にしています。そのため組入上位銘柄は、業界を代表する大企業が多いです。とはいえ、中小型株も組み入れていないわけではないので、それについては今後の月次報告書で取り上げる予定です。

ポートフォリオの組み換え

 当ファンドの日々の目標は、最高の銘柄を探して最も割安な価格で購入することです。そのため保有銘柄と組入候補銘柄の比較を定期的に行い、ポートフォリオの組み換えを行っています。ポートフォリオを随時更新することで、深刻なリスクを回避することができると考えます。当ファンドは20231月の月次報告書で、中国のエクスポージャーを抑えているとお伝えしました。経済再開に対する期待が現実化したあと、保有する中国銘柄の魅力が相対的に低下すると考えたからです。それは結果的に正しい判断でした。当ファンドはマーケット・タイミングではなく、最良の銘柄を割安な価格で投資することを重視しています。さらに先日は他社に先駆けて株価が上昇し、これ以上は上昇が望めなくなった銘柄を数社売却し、利益を確定しました。その1社がアドバンテストです。株価が大幅に上昇していましたが、他の保有銘柄と比較すると投資魅力が低下したと判断し、2月後半に売却に踏み切りました。一方、日本の不動産セクターに対するエクスポージャーを増やしましたが、これは日本の実質金利が引き続きマイナスで推移するため、同業界にとって有利であると考えたためです。同業界はますます不安定化する国際情勢の中にあって、しっかりと対応できるだけの耐久性を備えていると考えます。当月の半導体関連銘柄のように株価の上昇余地が減ると下振れリスクに目が向きやすくなるのは当然と考えます。ポートフォリオを随時更新することで、割安なバリュエーションで投資し続け、底堅いパフォーマンスを維持したいというのが当ファンドの意向です。
 割高な水準まで上昇した銘柄の売却による利益確定は別として、時には見込み違いで失敗することもないわけではありません。もちろん間違いに気づいた場合、その時点で売却します。不安を感じたために売却して他の銘柄に切り替えることもよくあり、その一例が20235月に売却したオリンパスです。当ファンドは同社が内視鏡分野で主導的地位につけていることを好感していましたが、同社は米食品医薬品局(FDA)から複数回にわたって警告を受け、2023年には想定外のFDA関連対応費用が発生すると発表しました。同社の強みが消えたわけではないというのが当ファンドの見方でしたが、問題の深さや解決に要する期間について確信が持てないと感じました。一般に、保有銘柄が短期的に下落することは避けられないことなので、それほど心配はしていません。しかし、下落度合いとその期間については見通しを立てたいと思っています。投資先は無数にあり、ファンドの保有銘柄数も限られているため、どの銘柄を保有するにしても、機会費用は相当なものになります。オリンパスについては十分な見通しが立たなかったため、売却して他の銘柄と入れ替えました。

 総括すると、当ファンドは以下の方法でリスクを管理しています。

  • 適正な銘柄選定
  • 相関性の低い銘柄の選定による少数精鋭型のポートフォリオ構成と、それを通じたリスク要因の明確化
  • 銘柄の随時入れ替えることにより魅力的なバリュエーションの銘柄によるポートフォリオ構成

 当ファンドは⽇本・アジアの株式と投資対象が広く、前述のリスク管理措置を効果的に実行することができると考えます。

2024年3月の運用コメント

株式市場の状況

<⽇本の株式市場>

 2024年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.44%上昇し、日経平均株価は前月末比3.07%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半は前月から引き続き半導体関連銘柄の上昇などが相場をけん引し、日経平均は史上初となる4万円台に到達するなど堅調な推移となりましたが、月半ばにかけては米国半導体関連銘柄が下落した影響や、日銀のマイナス金利政策解除を示唆する報道、春季労使交渉(春闘)での高い賃上げ実現への期待の高まりなどから日銀の金融政策正常化への思惑が広がって円高が進行したことなどが重しとなり、下落しました。月後半にかけては、日銀が金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除や長短金利操作の撤廃、上場投資信託(ETF)の買い入れ終了などを決定したものの、当面は緩和的な金融環境が継続するとの見通しが示されたことなどを受けて円安進行とともに上昇し、最終的に前月末を上回る水準で取引を終えました。

<アジアの株式市場>

 当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、台湾、韓国、シンガポールなどに牽引される形で前月末比2.58%上昇しました。テクノロジーセクターは引き続き堅調な値動きを見せ、代表的な銘柄であるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)の株価は過去最高水準に達しました。AI(人工知能)に対する投資家の期待感は、NVIDIA社(米国)がGPUGraphics Processing Unit、画像処理装置)技術に関するカンファレンス「GPU Technology Conference 2024」で最新GPUBlackwell GPU」を発表したことでさらに高まり、AI関連事業を展開するアジアのテクノロジー企業、特に台湾銘柄と韓国銘柄の株価を押し上げました。
 韓国市場ではテクノロジーやAIに対する期待感に加え、政府の「企業価値向上プログラム」が投資家の関心を集めたことも追い風となりました。同プログラムには企業経営陣にコーポレートガバナンス、ROE(株主資本利益率)、株主還元の改善を促すことで、最終的に韓国企業の評価を向上させる効力があるというのが一部投資家の見方です。
 中国政府が発表したマクロデータは予想を上回る内容でしたが、市場が景気回復の持続性に対して慎重姿勢をとったことから、当月中の株式の上昇は小幅に留まりました。香港市場の当月のパフォーマンスはアジア市場の中で最低水準でしたが、これは不動産セクターとヘルスケアセクターの低迷が原因と考えます。
 インドでは、規制当局が中小型銘柄の流動性とバリュエーションに懸念を示したことを受け、当該銘柄の株価が調整しました。しかし同国の大型銘柄はアウトパフォームし、中小型銘柄の低迷を相殺する形となりました。

ファンドの運⽤状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐5.80%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同3.96%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company、三菱商事(資本財)などでした。一方、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)、KB Financial Group(韓国/銀行)、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)などがマイナスに影響しました。

 当ファンドは日本とアジア各国の株式を投資対象としているため、世界屈指の急成長を遂げているアジアという地域ならではの多様な投資機会を柔軟に捉えられるという強みがあります。いくつか例を挙げるだけでも、AI需要拡大の恩恵を受ける半導体企業から、日本独自の総合商社、世界的な人気を誇るエンターテインメント関連企業、インドでの旅行需要拡大の恩恵を受ける予約プラットフォームやホテル、資金調達コストがきわめて低いインドネシアの大手銀行まで多岐にわたります。また、投資対象が広いため、見込みの少ないと考えられる市場から撤退し、有望と考えられる投資対象に集中できるという利点もあります。当ファンドは新規銘柄の組み入れにあたり、1) ポートフォリオの潜在リターンを拡大する、2) 全体的なリターン特性を著しく悪化させることなくポートフォリオのリスク全般を分散するという目標のうち、最低でもどちらか、できれば両方を達成したいと考えています。互いの相関性が低く、他社の動向から影響を受けにくい投資先を選定し、ファンドのパフォーマンスを着実に向上させたいというのが当ファンドの意向です。さて、韓国は2023年、当ファンドのパフォーマンスに大きく貢献した市場であることから、運用担当者数名が当月に同国へ出張し企業調査を行いました。韓国は半導体の製造拠点として重要ですが、当ファンドでは半導体関連銘柄の投資機会は日本や台湾の方が潤沢であるという考えから、韓国の半導体銘柄にそれほど重点を置いていません。それよりはむしろ、半導体市場との相関性が少ない他の投資対象に注目しています。しかしこのところ、韓国ではこれまで調査してきたテーマとまったく異なる投資機会をもたらす可能性のある事態が起きています。

韓国の企業価値向上プログラム

 韓国の尹錫悦大統領は20241月、韓国取引所の開場式に出席し、韓国株式市場はきわめて過小評価されていると述べました。また2月には韓国金融委員会(FSC)が日本の東京証券取引所の改革と同様に、上場企業のバリュエーション向上を目的とした「企業価値向上プログラム」の概要を公表しました。
 ここ数年、韓国の個人投資家による株式市場への参加が大幅に増加しています。個人投資家の数は2019年の約600万人から2022年には約1,400万人に増加しており、これは韓国の有権者数のおよそ3分の1に相当します。一方、2021年には家計資産全体に占める不動産など非金融資産の比率が60%を上回りました。ちなみに、この比率は日本ではわずか39%、米国では29%に過ぎません。資産が非金融資産に集中すると、家計は物件価格の変動といったシステミック・リスクにさらされます。そのため、韓国政府には韓国市場のパフォーマンスを改善し、家計資産をより多く金融資産に振り向けたいという意向もあると考えます。
 韓国市場のパフォーマンス低迷は、「コリアディスカウント」と呼ばれる慢性的なバリュエーションの低さに起因しています。Goldman Sachs社(米国)によると、20242月上旬の時点で韓国株の70%近くがPBR(株価純資産倍率)1倍を下回る水準で取引されています。当ファンドは、1) 韓国企業の多くが景気循環の影響を受けやすい業界に属していて、特に中国との熾烈な競争に直面していること、2) 地政学的リスクにさらされていること、3) コーポレートガバナンスが全般的に好ましくなく、株主還元率が低いことが、こうしたバリュエーションの低さの要因となっていると考えます。政府が取り組もうとしているのは、このうち3番目の問題です。企業価値向上プログラムが発表される前も、アクティビストが経営陣に積極的に提言を行う事例は増加していました。そうした提言が通る場合もあり、例えばSM Entertainment社(韓国)では創業者の李秀満氏が退任を余儀なくされるなど、市場ではコーポレートガバナンスの改善に向けた機運が高まっています。
 しかし、「コリアディスカウント」の根幹に横たわっている問題はきわめて複雑なものです。例えば、韓国は相続税率が非常に高く、最も高い場合は60%に上ります。Samsung Electronics社(韓国)の李健煕元会長が亡くなったあと、相続人が総額12兆ウォン以上の相続税を支払うことになったという報道が2021年に流れました。課税額が多額に上るため、支配株主には株価を低水準に保ち、相続税評価額を下げることで納税額をできるだけ抑えたいという気持ちが働きます。多くの場合、支配株主は配当を通じて現金を受け取る代わりに、別の方法で上場企業から現金を持ち出し、他の株主の利益を著しく損なっています。例えば「サービス」を提供する別会社を設立し、上場会社に料金を請求することもあり、その一例がSM Entertainment社です。このように、問題は証券取引所の改革だけで解決するほど単純なものではなく、政府が様々な側面から首尾一貫した取り組みを行わなければ決して解決できないものと考えます。実は、相続税改革は尹大統領の選挙公約の一つです。そして相続税以外にも、改革を通じて根本的に解決しなければならない問題が別にあると考えます。
 企業価値向上プログラムが発表されたあと、自動車メーカー、銀行、コングロマリットといったPBRの低い銘柄の多くで、株主還元改善に対する期待感から株価が上昇しましたが、この試みはすぐに頓挫しました。Samsung Electronics社とSamsung Biologics社(韓国)の株式を保有し、Samsungグループの事実上の持ち株会社であるSamsung C&T社(韓国)は、3月に開催された株主総会でアクティビストから出された株主還元の大幅拡大要求を拒否しました。Samsung C&T社も韓国の他のコングロマリットも、保有株式の税引き後市場価値に大幅なディスカウントを適用した水準で取引されています。これは「コリアディスカウント」の典型例です。アクティビストはSamsung C&T社に株主還元率の引き上げを求めましたが、この要求は行き過ぎとみなされ、国民年金機構を含む株主の大多数が反対票を投じました。これは企業価値向上プログラムにとっては残念な出来事だというしかありません。当ファンドは韓国コングロマリットのバリュエーションの低さに注目していましたが、問題の複雑さを認識していたため、組み入れを行っていませんでした。そうした企業の持株会社は後継問題や財閥の利害と直結しており、政府の改革だけですぐに状況が変わると期待するのは非現実的です。日本の株式市場は現在大きく改善していますが、その発端は10年以上前のアベノミクスにあると考えられ、そこから上昇基調に乗るまでにはかなりの時間を要しました。当ファンドは韓国市場で有望なのはK-POPや美容製品といった革新的な製品やサービスを提供する高成長企業であると考えていたため、PBRの低い銘柄にはあまり目を向けてきませんでした。企業価値向上プログラムが進展すれば、PBRの低い銘柄の一部に投資機会が広がるでしょう。重要なのは、当ファンドの現在の保有銘柄と相関性が低いところに機会が生まれるということです。当ファンドは今後も調査を続け、状況を注視しながら投資を行っていく所存です。

日本では日銀が方向転換

 日本銀行は大方の予想通り、当月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除しましたが、緩和的な金融環境を維持すると表明しました。当ファンドはこれを日本経済の正常化の始まりと捉えています。名目金利はここから上昇に転じるかもしれませんが、日本が最終的にインフレ局面に入れば、実質金利はマイナスに留まります。したがって当ファンドでは、日本市場に対する楽観的な見方を維持しています。

2024年2月の運用コメント

株式市場の状況

<⽇本の株式市場>

 2024年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.93%上昇し、日経平均株価は前月末比7.94%の大幅上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)の内容を受け早期の米利下げ期待が後退し一進一退の動きで推移しましたが、月半ばから後半にかけては内田日銀副総裁がマイナス金利解除後も日銀は緩和的な金融環境を維持するとの認識を示したことや、生成AI(人工知能)向け半導体需要の増加が期待される米国で半導体関連企業の株価上昇が続き、日本の半導体関連企業にも資金が集中したことから、続伸しました。22日には日経平均株価は39,098.68円で終え、約34年ぶりに最高値を更新しました。その後の日本株式市場の推移は緩やかだったものの、月末まで日経平均株価は3万9,000円台を維持したまま当月の取引を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は力強く反発しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、中国、韓国、台湾などに牽引される形で前⽉末⽐5.62%上昇しました。中国市場が堅調に推移したのは、マクロデータが市場予想を上回ったことや、旧正月の国内観光収入がコロナ禍前の水準を上回ったことなどによるものでした。バリュエーションの割安感と政府系ファンドによる買い支えも、中国株式市場の底打ちに対する信頼感の増大要因となりました。
 韓国では、政府が「企業価値向上プログラム」を導入し、PBR(株価純資産倍率)の低い企業に対策を講じるよう促したことを受けて、株式市場が上昇しました。同プログラムは日本で東京証券取引所などが進める市場改革と同様、企業経営陣にコーポレートガバナンス、ROE(株主資本利益率)、株主還元の改善を促すことで、企業のバリュエーション向上を狙ったものです。 
 また、当月はインドネシアで大統領選挙が行われました。過半数の票を獲得する候補がなく、6月に2回目の投票が実施されると予想されていましたが、世論調査機関4社の集計によると、プラボウォ・スビアント氏が初回投票で約58%の票を獲得し、過半数に到達して当選を確実にしました。新政権の正式発足は10月ですが、短期的には現行の政策方針に大きな変更はないというのが大半の投資家の見方です。

ファンドの運⽤状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐9.74%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同7.08%の上昇となりました。 
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、Hanwha Aerospace(韓国/資本財)、三菱商事(資本財)、サンリオ(一般消費財・サービス流通・小売り)などでした。一方、ソニーグループ(耐久消費財・アパレル)、丸紅(資本財)、Control Print(インド/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)などがマイナスに影響しました。

 2023年12月、山本由伸投手のロサンゼルス・ドジャースへの移籍が発表されました。オリックスへの譲渡金は5,0625千ドル(約72億円=為替レートは入団合意時)になる見通しです。12年で総額32,500万ドル(約465億円)という契約金は、おそらく投手としての最高額でしょう。スポーツビジネスは基本的にセレブリティ、すなわち有名人の人気にあやかったビジネスです。ファンたちは競い合ってチケットやグッズなどを購入し、売り上げに大きく貢献します。20239月の月次報告書でお話しした通り、インターネットでコンテンツを配信できるようになったことで、世界中の人に情報を届けることがこれまでよりはるかに容易になりました。よって、こうしたビジネスの収益力は大幅に拡大していると考えます。有名になることはいつの時代でも素晴らしいことですが、今はこれまでにない最高なタイミングと言えるでしょう。
 ではどうすればセレブリティに投資できるのでしょうか。さらに言えば、有名人の収益力を生かせる優良企業はどうすれば見つかるのでしょうか。当ファンドは防弾少年団(BTS)、SEVENTEENLE SSERAFIMNewJeansといったK-POPグループが所属し、さらに2021年にはジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデが所属しているIthaca Holdings社(米国)の買収した、HYBE(韓国/メディア・娯楽)に投資してきました。しかしセレブリティたちは有名になると交渉力を得て、より高い給与を要求したり、また仕事を選り好みしたり、働く意欲が低下する可能性があります。そしてやがては年を取り、引退していきます。したがって、そうした心配のない有名人を抱えるほうがはるかに良いということになります。その最たる例が202310月に組み入れを開始したサンリオで、同社は「ハローキティ」、「シナモロール」、「クロミ」、「ポムポムプリン」、その他知財を多数所有しています。

理想的なセレブリティ
 ハローキティは素晴らしいセレブリティです。いつまでも老いることがなく、誕生から50年にわたって世界中の幅広い年齢層の消費者から愛され続けています。また、「ハローキティは仕事を選ばない」ことでも有名です。アルコールやタバコのような不健康なイメージがある商品を除けば、ほとんどどんな商品ともコラボレーションできます。ティッシュペーパーやビスケット、機動戦士ガンダム、米国のプロ野球チームとのコラボ、さらにTVアニメ「クレヨンしんちゃん」への出演など、その守備範囲の広さは驚くばかりです。もちろん、ハローキティが賃上げを要求することもありません。

理想的なビジネス
 サンリオのビジネスモデルはきわめてシンプルです。玩具など一部商品を直接販売し、さらに他社からキャラクターの知財を自社製品に使用したいという要請を受けた場合はライセンスを供与し、当該商品の売上の一部から使用料を徴収しています。例えばティッシュペーパーの場合、箱にハローキティが描かれていても、ティッシュペーパーの品質とは全く関係がありません。しかし消費者はハローキティがついているからその商品を購入するので、メーカーは自ら進んでサンリオにキャラクター使用料を支払い、箱にハローキティを印刷するのです。同社は以下の点で当ファンドが考える優れたビジネスモデルの基準を満たしています。

  • 多額の資本を必要とせず、労働力もそれほど必要ではないこと。
  • 最小限の投資で事業を拡大できること。ほぼハローキティや他のキャラクターのデザインをライセンス商品に合わせてデザインし直すだけでよい。
  • 消費者のハローキティやその他キャラクターに対する思い入れが、きわめてユニークな資産であること。サンリオの二次元キャラクターほど描きやすいものはおそらく他になく、誰もが同じような二次元のキャラクターを描けそうな気がする。人々はそれでもサンリオのキャラクターを愛しているのであって、そうした意味から考えると、サンリオが保有している無数の資産は決してまねのできないものである。

 とはいえ、サンリオの歴史に苦難がなかったわけではありません。欧米では2000年代後半にハローキティブームが巻き起こり、同社の営業利益は20143月期に過去最高を記録しました。ところがThe Walt Disney社(米国)が2013年に『アナと雪の女王』を発表して大成功を収めると、米国の小売店ではハローキティの棚の大半がアナと雪の女王に取って代わられました。また当時はサンリオの他のキャラクターの知名度が低く、同社の米国事業はハローキティが大黒柱でした。さらに折悪しく、創業者である辻信太郎氏の息子で当時最高執行責任者を務めていた辻邦彦氏が、会社が逆境の只中にあった201311月に死去されたのです。競争と非効率な経営によって、同社の営業利益は20213月期まで連続で減少しました。そのような中、2020年夏に辻信太郎氏の孫で当時31歳だった辻朋邦氏が社長兼CEOに就任し、「組織⾵⼟改⾰」、「構造改革の完遂」、「再成長の種まき」を3本柱として、経営の⼤転換に着手しました。例えば、若くとも幅広い経験を持つ上級管理職を外部から採用し、業績をより重視する企業文化を醸成したのです。事業面では商品の品目数を削減し、世界共通商品の数を増やしたことで、商品販売の収益性が大幅に改善しました。方向転換はいつでも難しいものですが、企業文化や構造改革の方向転換にはとりわけ困難が伴います。ですが、同社はそれをうまくやり遂げ、再建に成功しました。では、このような稀代の再建を成し遂げることができたのは何故なのでしょうか。それは、再建された事業が根本的に優れたものだったのか、それとも凡庸なものだったのかという点にあると考えます。過去10年にわたって事業が低迷していたとはいえ、サンリオのキャラクターは世界中の人々に愛されていました。そうした根本的な強みがあったからこそ、問題解決に伴う痛みは凡庸な事業を立て直すより場合よりはるかに少なくて済んだのです。同社の事業には現在、力強い勢いがあり、今後の成長が期待できると考えます。20234月から12月までの9ヵ月間において、売上高は前年同期比40.3%増加、営業利益率は29.5%に達しています。ここで重要なのは、成長率が世界のどの地域でみても堅調であることです。景気低迷中の中国でさえ、同社は同時期に前年同期比53%の増収を達成しています。

 ハローキティは今年、誕生から50年を迎えます。世界中のファンが祝福するので、収益は堅調に拡大する見通しです。2010年代初頭のブームが一時的なものに終わってしまったことを忘れてはなりませんが、これからは好不況の波は小さくなっていくと当ファンドは考えています。これは20239月の月次報告書でお話した点にも通じますが、エンターテインメント知財ビジネスのあり方がインターネットの普及によって大きく変わったからです。インターネット登場以前の世界では、消費者に知財を届ける手段は、主に新聞、雑誌、小売店、テレビ、ラジオくらいしかありませんでした。一日の新聞の掲載スペースに限りがあるように、これらの媒体はすべて枠に限りがあります。そのため媒体側の交渉力が強大になり、掲載や放送を断られれば、企業は消費者との接点が完全に失われてしまいます。ハローキティは小売店でアナと雪の女王に取って代わられたことで、消費者との接点を失いました。しかし、世界は変わりました。現在では、YouTubeInstagramX(旧Twitter)、TikTokNetflix等を通じて知財が消費者に届けられ、eコマース(電⼦商取引)で商品が販売されます。こうしたチャネルは事実上、キャパシティに制限がありません。企業はSNS上で新しいコンテンツを発表し続けることができ、消費者はいつでも好きな時にそのコンテンツを消費することができます。したがって、知財は物理的な商品から、常に消費者と関わりあうことができるコンテンツへと変化したのです。多くの場合、他の有名人もサンリオのキャラクターを無償で宣伝しています。例えば、韓国のガールズグループBLACKPINKのジスはハローキティのファンとして有名で、自身のSNSアカウントにハローキティの商品とともに映っている写真を投稿しています。言い換えると、SNS上でファン層を開拓し、維持することがはるかに容易になったのです。当ファンドはインターネットがサンリオの世界的なファン層の拡大に大きく貢献したと考えています。同社は毎年「サンリオキャラクター大賞」というキャラクターの人気投票を行っていますが、以下はその過去6年間の総得票数の推移です。

総得票数
(単位:万票)
2018 484
2019 1,383
2020 1,456
2021 2,135
2022 2,647
2023 4,449

サンリオはハローキティだけでは終わらない

 サンリオの今後の成長は、世界的なファン層の拡大もさることながら、ハローキティ以外のキャラクターにも懸かっています。10年前と比較すると大幅に減少しているとはいえ、同社の収益面でのハローキティに対する依存度は未だに高いと考えます。しかし同社の収益基盤は他のキャラクターによって多様化できる可能性が高いというのが当ファンドの見方です。実際、ここ数年のサンリオキャラクター大賞の結果を見ると、シナモロール、クロミ、ポムポムプリンといったキャラクターが、ハローキティに勝るとも劣らない人気を誇っています。街を歩けば、シナモロールやクロミが特に若年層に人気であることは一目瞭然です。重要なのは、これらのキャラクターはハローキティと全く異なる特徴を持っているため、ハローキティとは別のファン層を獲得できるということです。サンリオは他キャラクターのプロモーションにも積極的に取り組んでおり、現在はハローキティを中心として他キャラクターのプロモーションする「ハローキティとなかまたち」というコンセプトを展開しています。当ファンドはこうした他キャラクターには未開拓の需要が大いにあり、同社はこのチャンスを逃さないだろうと考えています。同社のビジネスモデルは本性的に質が高く、収益源が多様化してきていることを踏まえると、同社は今後さらなる進化を遂げ、安定的に利益を生み出せる企業へと進化していくと考えています。

 日本には人気キャラクターを生み出してきた長い歴史があります。スーパーマリオからハローキティ、さらに最近のすみっコぐらしやちいかわに至るまで、数えれば切りがありません。キャラクタービジネスには日本独自の文化があり、アジアの他の国々が同じような商品を作るのはきわめて困難だというのが当ファンドの見方です。またこれはK-POPにも同じことが言えると考えています。当ファンドは⽇本とアジアの株式を扱っているため、ハローキティとBTSに同時に投資できる柔軟性を備えています。当ファンドは今後も引き続き、日本と他のアジア諸国に固有の投資機会を発掘し、投資ポートフォリオに組み入れてまいります。

2024年1月の運用コメント

株式市場の状況

<⽇本の株式市場>

 2024年1⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐7.81%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、能登半島地震の影響精査のため⽇銀が利上げを⾒送るとの⾒⽅が⾼まったことや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)⾼官のタカ派な発⾔を受けた⽶⻑期⾦利の上昇を背景に円安が進み、⽉前半は⼤きく上昇しました。また、新NISA制度の開始による個⼈投資家の買い需要や、東京証券取引所の市場改⾰への期待感から海外投資家の資⾦も多く流⼊しました。⽉半ばから後半にかけては、利益確定の売り圧⼒や、⽶国半導体⼤⼿の業績⾒通しが市場予想を下回ったことから半導体関連銘柄を中⼼に⼀時下落基調に転じる場⾯もあったものの、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

<アジアの株式市場>

 アジア株式市場は軟調な値動きで年明けを迎えました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐5.44%下落しました。中国政府が⾦融緩和や景気刺激策などで政策的⽀援を⾏ったにもかかわらず、中国市場と⾹港市場に対する投資家⼼理は冷え込んだままでした。国内要因(不動産危機、消費低迷、⼀貫性のない規制)と国外要因(中国に対する⽶国の規制強化、紅海の海運混乱など)が、中国に対する投資意欲をさらに減退させました。
 ⼀⽅、台湾では、AI(⼈⼯知能)投資の加速とスマートフォン回復への期待から、テクノロジーセクターが好調な勢いを維持しました。台湾総選挙は想定内の結果で決着し、現政権を担う⺠主進歩党(⺠進党)が総統選を制した⼀⽅で、野党の台湾国⺠党(国⺠党)が議席を伸ばしました。また、第三党の台湾⺠衆党(⺠衆党)は獲得議席数こそ少ないものの、今後数年間の政策の⽅向性を左右しうる新たな政治勢⼒として台頭しました。
 インドは強⼒な政府、若年層⼈⼝の多さ、⻑期的成⻑⼒といった⽀援材料に恵まれ、引き続き投資対象として投資家の注⽬を集めています。インドネシア市場では消費⽀出に若⼲陰りが⾒られ、とりわけ低価格帯商品にその傾向が⾊濃く表れました。同国では間もなく⼤統領選挙が⾏われる予定で、次期政権発⾜まで⼀時的に投資家の関⼼が向かなくなる可能性があると考えます。

ファンドの運⽤状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐5.63%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同1.95%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)、アドバンテスト(半導体・半導体製造装置)などでした。⼀⽅、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがマイナスに影響しました。
 2024年は史上まれに⾒る選挙の多い年で、50か国・地域で20億⼈以上の有権者が投票所に⾜を運ぶとされています。アジアでは1⽉の台湾から選挙が始まり、⼤⽅の予想通り頼清徳⽒率いる⺠進党が史上初めて3期連続で政権を担うことになりましたが、同党の獲得議席は過半数に達しませんでした。今回の台湾総統選挙は従来と様相が異なり、⺠進党と国⺠党という⼆⼤政党の争いではなくなりました。⺠衆党の柯⽂哲⽒が約360万票という無視できない数の票を獲得したのです(⺠進党の頼清徳⽒は約550万票、国⺠党の侯友宜⽒は約460万票)。単純化しすぎだと⾮難されるのを承知の上で⾔えば、中国本⼟との関係で正反対の⽴場をとる⺠進党と国⺠党と異なり、⺠衆党はより中⽴的な⽴場をとっています。この⼤きな変化は、台湾の⼈々、特に若年層が、選挙期間になるといつも話題を独占してしまう中台関係に関する論争に飽き飽きしていることを⽰しているのかもしれません。台湾の⼈々はむしろ、地域経済の改善と価格⾼騰に起因する住宅難の解消を望んでいるものと思われます。国会がねじれ状態となっていることを踏まえると、⺠衆党の姿勢は来期の政策決定に⼤きな影響を与える可能性があります。とはいえ、当ファンドの台湾における投資先は主にテクノロジー企業で、地域経済や政治は通常、そうした事業の将来を⾒通す上でそれほど⼤きな役割を果たしません。⼀⽅で、地政学は台湾では常に重要なトピックです。頼清徳⽒はかつて⾃らを「台湾独⽴のための現実的な働き⼿(務實的台獨⼯作者)」と表現しており、中国本⼟と距離を置くことに積極的であると受け取られています。しかし台湾が中国本⼟の怒りを呼び覚ますようなことをする動機はあまりなく、現状が維持されるだろうというのが当ファンドの考えです。
 アジア株式市場は、⽇本市場の⼤幅な上昇と中国市場の急落で新年の幕を開けました。当ファンドは中国へのエクスポージャーをわずか5%程度に抑えて新年を迎えたため、中国市場急落の影響をほぼ回避することができました。当ファンドは⽇本を含むアジア株式に投資するファンドで、単⼀国に投資するファンドと異なり、国別配分は避けて通れない課題です。
 スパークスの投資哲学は、「マクロはミクロの集積である。」というものです。当ファンドはボトムアップ・リサーチで企業調査を⾏っており、その過程でマクロデータを読むだけでは得られない広範な経済に関する貴重な知⾒を得ることができます。当ファンドではGDP成⻑率や輸出データなどを予測してどの国の組み⼊れを拡⼤するかを決めることはせず、主として個別の銘柄選定の結果として国の⽐率が決まります。
 しかし、マクロデータに全く注⽬していないわけではありません。マクロデータは当ファンドにとってサーキットブレーカーの役割を果たしています。特定の国で重⼤かつネガティブなマクロイベントや政治的事件が発⽣すれば、投資縮⼩の理由となり得ます。ここで⾔うネガティブなマクロイベントとは、1〜2四半期程度の短期的な経済の低迷ではなく、危機的な出来事、とりわけ多額の負債を伴い、下落スパイラルの原因となるような出来事のことです。こうした危機の後には投資機会が多数到来することがよくありますが、経済の低迷と資産価格の下落は通貨安をもたらす可能性が⾼く、外国⼈投資家にとって、下落スパイラルは⾮常に⼿痛いものになりがちです。1997年のアジア通貨危機がその典型例です。
 政治的事件が投資縮⼩の理由になることもあります。政治リスクはどの国にも存在しており、投資家はそれを乗り切らなければなりません。投資とは資本家と市場で構成されたシステムに基盤を置く活動なので、法の⽀配、政治的安定による投資の保護、事業環境の整備がいずれも重要になります。さらに、これらがどの程度満たされているかという点ばかりでなく、その⽅向性も同じように重要になります。当ファンドは、こうした点が改善している国、あるいは少なくとも悪化していない国に投資したいと考えています。その観点ではシンガポールという⾮常に⼩規模な市場を除いた場合、アジアで最⾼の法の⽀配と政治的安定性を備えているのは⽇本だと考えているため、当ファンドの第⼀の選択肢は⽇本です。また、⽇本にはグローバル企業が多数存在し、世界各地で事業を⼿がけているため、当然ながら特定の国の政治リスクが軽減されます。アジアの他の国々では政治リスクやマクロ⾯のリスクが各国各様で、それぞれが独⾃の問題を抱えています。しかし多く場合、当ファンドが選好するアジア企業の有望性は、マクロ⾯のリスクや政治リスクを上回る場合が多いというのが当ファンドの判断です。当ファンドはバランスの取れた柔軟なアプローチを採し、先進国市場と新興国市場の両⽅に投資しています。
 台湾に話を戻すと、当ファンドの組⼊銘柄であるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)が2023年の決算を発表し、堅調なAI(⼈⼯知能)需要を受けて2024年の売上⾼は最⼤25%増を⾒込んでいるとしました。また、AI関連の収益は2027年までに収益の10%台後半を占めるところまで拡⼤し、年平均成⻑率は50%に達するという予想も発表されました。当ファンドは少し前から半導体銘柄を積極的に組み⼊れてきましたが、この発表を受けて同セクターは⼤幅に上昇しました。また、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)は、最上級のAIを内蔵した新型スマートフォン「ギャラクシーS24」シリーズを発表しました。その機能の⼀例を挙げると、同機種は端末に内蔵されたAIを利⽤して⾳声通話の内容を即時翻訳し、テキストとして表⽰することができます。現状AI普及の恩恵を受けているのは主に半導体企業ですが、これはインターネット黎明期ように、当該技術に不可⽋な物理的インフラの構築を担っている存在だからです。インフラ以外にも、AIは既に⼀部企業のソフトウェアや⼤テクノロジープラットフォームのバックエンドに組み込まれています。誰もが所有し、⻑時間使⽤しているスマートフォンに端末内蔵型AIが浸透し始めると、産業界に⼤変⾰が訪れ、アプリケーションやコンテンツの分野で新たな恩恵を⽣み出すかもしれません。当ファンドの組⼊柄の⼀つにMediaTek(台湾/半導体・半導体製造装置)がありますが、同社の主⼒事業はスマートフォン向けアプリケーションプロセッサの製造で、これはスマートフォンの端末内蔵型AIを動作させる上で⽋かせない部品です。Apple社(⽶国)以外のスマートフォン向けアプリケーションプロセッサ市場はMediaTekとQualcomm社(⽶国)による寡占状態にあります。またMediaTekは近年、ハイエンドスマートフォン向けのアプリケーションプロセッサ市場への参⼊を続けています。当ファンドは、同社が端末内蔵型AI普及の恩恵を初期に受ける企業の⼀⾓を占めると考えています。同社はスマートフォン以外にも幅広い製品群を⼿がけており、Wi-Fi 7や⽶国のクラウドコンピューティング企業から引き合いがきているデータセンター⽤ASICチップ設計事業などを通じて製品アップグレードの恩恵に浴することができる⽴場にあります。同社については、今後の⽉次報告書で詳しく取り上げたいと考えています。全般的に、AIは未だ普及の初期段階にある技術であることから、半導体セクターの有望性が失われることは当⾯ないと考えます。したがって問題となるのは、アジアには多種多様な半導体サプライチェーン企業が存在しており、最も恩恵を受けるのはどのサブセグメントなのかという点です。当ファンドは今後も引き続き、⽇本とアジア各国でAI普及の恩恵を受ける銘柄を発掘してまいります。

2023年12月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年12⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.23%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は⽇銀の植⽥総裁と氷⾒野副総裁両名の発⾔を受けて⾦融政策修正の思惑が⾼まったことや、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)のハト派の内容を受けて⽶⻑期⾦利が低下したことで、円⾼が進み下落しました。⽉後半は、⽇銀⾦融政策決定会合における⾦融緩和維持の決定が好感される場⾯もありましたが、年末の閑散相場もあって円⾼基調が継続する展開が重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は中国を除いて概ね堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐3.55%上昇しました。中国市場のリターンはマイナスとなりましたが、これは中国経済の成⻑に関する懸念が拭えないためと考えます。⽉後半に中国でオンラインゲームに関する包括的な規制案が公表されたことを受け、今後こうした規制が消費者の⾏動全体に及ぶのではないかという懸念が投資家の間に広がり、その影響はオンラインゲーム関連のセクターに留まらず幅広い分野に及びました。
 中国以外のアジア株式市場は、インフレと⾦利の圧⼒が緩和したことで、前⽉以上に好調に推移しました。インド市場は当⽉、企業のファンダメンタルズの底堅さ、安定政権、⻑期的な構造的成⻑のポテンシャルが好材料とみなされて市場への資⾦流⼊が続き、史上最⾼値を更新しました。
 台湾市場は⽣成AI(⼈⼯知能)に対する期待感の⾼まり、スマートフォンの需要回復、データセンターの成⻑によって半導体セクターが堅調に推移したことで、2023年通年ではまずまずのパフォーマンスをみせました。
 ASEAN各国市場は、国内経済の成⻑と「チャイナ・プラス・ワン(中国のみに⼯場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠点を展開すること)」関連の投資に⽀えられ、底堅く推移しました。インドネシアでは2023年、海外直接投資(FDI)が増加、とりわけ鉱物セクターの川下にあたる製造業でその傾向が顕著にみられました。またマレーシアでも⽶国企業や中国企業を含む⼤⼿グローバル企業から半導体産業に対するFDI増加の動きが継続しました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐1.96%の下落、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同0.96%の下落となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、Varun Beverages(インド/⾷品・飲料・タバコ)、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、MediaTek(台湾/半導体・半導体製造装置)などでした。⼀⽅、NetEase(中国/メディア・娯楽)、アシックス(耐久消費財・アパレル)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)などがマイナスに影響しました。2023年のアジア株式市場は、市場によってパフォーマンスが⼆極化したことが特徴的な⼀年でした。⽶ドルベースでパフォーマンスが⾼かった市場の⼀つは台湾で、MSCI台湾指数は前年⽐31.33%上昇しました。⼀⽅、パフォーマンスが低かった市場の⼀つは中国で、MSCI中国指数は同11.20%下落しました。このように市場によって⼤きな差があったため、国別組⼊⽐率がパフォーマンスに多⼤な影響を及ぼしました。
 当ファンドの2023年のパフォーマンスを決定づけたのは主に以下の要因です。

  • 台湾銘柄の組⼊⽐率はそれほど⾼くありませんでしたが、同市場の主な上昇要因が半導体銘柄にあり、当ファンドが市場を問わず半導体関連銘柄の組⼊⽐率を⾼めに設定していたことがプラスに貢献しました。当ファンド組⼊銘柄のSamsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)については2022年10⽉の⽉次報告書、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)については2023年6⽉の⽉次報告書をご参照ください。
  • インド銘柄の組⼊⽐率は2023年上半期を通してほぼ変わりませんでしたが、下半期から銘柄構成をパフォーマンスが相対的に低下した⾦融セクターから消費関連セクターに⼤幅変更したことがプラスに貢献しました。当ファンドの組⼊銘柄のMakeMyTripについては2023年8⽉の⽉次報告書をご参照ください。
  • ⽇本市場(総合商社、メガバンク)と韓国市場(K-POP、メディカル・ビューティー)で個別テーマの関連銘柄がプラスに貢献しました。
  • 中国銘柄が全般的にマイナスに影響しました。当ファンドは2023年1⽉時点で中国銘柄の組⼊⽐率は18.6%でしたが、同年6⽉には9.2%に縮⼩し、当⽉は5.8%となっています。

今後の運用方針

「投資の成否を左右するのは、ある業界が社会にどれほど影響を与えるか、あるいはどれほど成⻑するかを⾒極める⼒ではなく、ある企業の競争優位性、そして何よりもその優位性の持続性がどの程度かを⾒極める⼒である。」- ウォーレン・バフェット

 当ファンドは強固な事業基盤を有していて、かつ経営者が効率的に資本配分を⾏っている企業を探し出し、バリュエーションが割安な時機を⾒計らい投資しています。前述のバフェット⽒の⾔葉にあるように、当ファンドは成⻑性よりも企業としての耐久⼒や競争優位性を重視しています。耐久⼒に富んだ企業であれば、たとえ企業成⻑の⾒込みが低くても、経営陣がそれを認識し、適切な資本分配を⾏っている限り、問題は無いと考えます。そうした企業は優れた買収先を探したり、割安な価格で⾃社株を買い戻すことができます。こうした点を重視することで、バリュー株やグロース株といった⾒⽅にとらわれた他の市場関係者とは⼀線を画することができるというのが当ファンドの考えです。

新興国市場

 過去10年間(2014年〜2023年)を振り返ると、アジア各国市場のパフォーマンスには⼤きなばらつきがみられます。

市場
(MSCI指数)
2014年~2023年の
トータルリターン(米ドル建て)
台湾 217%
インド 161%
日本 68%
インドネシア 59%
韓国 44%
タイ 41%
香港 22%
フィリピン 12%
シンガポール 11%
中国 8%
マレーシア -30%
日本を除くアジア 50%
新興国市場 35%
中国を除く新興国市場 46%

 中国は2021年まで好調でしたが、この2年でこれまでのリターンは無に帰しました。インドネシアとフィリピンはいずれも⼈⼝に占める若年層の割合が⾼く、様々な商品やサービスの普及率が低いため、リターンがいまひとつでした。しかしながら、当ファンドは新興国市場に対して慎重ながらも楽観的なスタンスを保持しています。楽観的に⾒ているのは、新興国市場が発展の初期段階にあるからで、慎重なのは中国のように事態が急変する可能性があり、さらにはGDP成⻑率の⾼さが必ずしもROE(株主資本利益率)の⾼さに結びつかないからです。株主リターンの⼤きさは、GDPや売上の伸び以外にも、収益性、コーポレートガバナンス、政治的ガバナンスといった様々な要因によって決まります。また経済成⻑の初期段階にあるからといって、その後の成⻑が⾃動的に進むわけではありません。当ファンドは新興国市場が投資家に⼤きなリターンをもたらすのはかなり稀であって、⼀般的ではないと考えています。それどころか、中国を別にしても、過去10年間で投資家に⼤きなリターンをもたらした新興国はありません。
 とはいえ、アジア新興国は今後その稀有な例になり得ると当ファンドは考えています。株式投資を⾏う際に重要なのは株価上昇の起爆剤で、それは新興国市場の場合でも同様です。中国とインドの国⺠⼀⼈当たりGDPは1960年から1990年まで同程度でしたが、今では中国の⼀⼈当たりGDPはインドの数倍に成⻑しています。中国は2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟し、世界の製造業の⼀⼤拠点へと成⻑しました。⼀⼈当たりGDPはその後10倍以上に増え、MSCI中国指数の2001年末から2021年末までのトータルリターンは約740%に達しています。株価上昇の起爆剤は起動⼨前で、特にインドにそれが当てはまるというのが当ファンドの⾒⽅です。⻑年にわたって経済改⾰を進めてきたこと、中国から他国へサプライチェーンを移⾏する必要性が⾼まっていることから、インドは中国から世界の製造業の拠点としての地位を引き継ぐ国にふさわしい⼒を持っていると考えます。ここで重要なのは、市場で資本を⼗分に調達できないため、企業経営陣の多くが資本をどう配分すれば合理的かという点を強く意識していることです。インドはこの機会を⽣かすことができれば、今後数⼗年にわたって⼒強い経済成⻑を成し遂げ、投資家にも⼤きなリターンをもたらすことでしょう。
 サプライチェーンの移⾏はインドばかりでなく、インドネシアやマレーシアといった他のアジア新興国にとっても株価上昇の起爆剤になると考えます。アジア新興国市場における投資機会については今後の報告書で改めて取り上げる予定です。

当ファンドのポートフォリオ

 アジアには有望な新興国市場に投資する機会がありますが、それだけではありません。先程の表からもわかるように、台湾はテクノロジーへの投資が急拡⼤したことで、過去10年のトータルリターンがすばらしい数字になりました。このことから、アジアには多種多様なテクノロジー、消費者サービス、ヘルスケア関連企業が存在し、優れた製品やサービスを世界中に販売しているということが改めて確認できます。当ファンドは⽇本を含むアジアの株式に例外なく投資できるという優位な⽴場にあり、より広い投資先候補の中から最も優れたグローバル企業を選定することができます。当ファンドが現在組み⼊れている銘柄は以下のように⼤別できます。

  • 新興国銘柄- インドとインドネシアは世界の新興国の中でも最も有望な市場であると考え、MakeMyTrip、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)などを組み⼊れています。
  • テクノロジー関連銘柄– 世界の主要な製造拠点として、アジアにはテクノロジー関連銘柄について新たな投資機会があると考え、半導体銘柄だけでなく、MediaTek、アドバンテスト(半導体・半導体製造装置)といったヘルスケア、ファクトリーオートメーション、再⽣可能エネルギー関連銘柄も組み⼊れています。
  • 消費者動向関連銘柄- ⽇本や韓国といった国々は数⼗年にわたって国際競争⼒のある消費財を作り続けてきたことから、今後はアジア諸国の⽂化発信⼒の拡⼤に伴って⾳楽やアニメキャラクターといった⽂化関連商品の輸出を拡⼤すると考え、アシックス、HYBE(韓国/メディア・娯楽)といった銘柄を組み⼊れています。
  • インフレ受益銘柄- ⽇本ではインフレが進⾏しており、インフレと⾦利が引き続き世界的なリスクとなる⾒込みであることから、こうした動向から恩恵を受ける銘柄、例えば三菱商事(資本財)や三菱UFJフィナンシャル・グループ(銀⾏)などを組み⼊れています。

 バランスの取れたポートフォリオを構成し、国内外の幅広い株価上昇要因を捉えることが、⾼いリスク調整後リターンを⻑期にわたって確保することに役⽴つというのが当ファンドの考えです。

⾃分の得意な⼿法からの脱却

 2023年は中国経済の冷え込みが予想以上に早く進んだため、中国銘柄を⼤量に⼊れ替えました。その⼀⽅で、これまで⾼く評価して組み⼊れていた銘柄を売却しました。その⼀例が、ある⼤⼿K-POP企業で、創業者が⾳楽に情熱を傾けていて、当ファンドはそれを⾼く評価していました。同社はコロナ禍後の経済再開のおかげでアルバムでもコンサートでも売上を順調に伸ばし、パフォーマンスは年間を通じて堅調でした。しかし、ある問題に気づいたことで、当ファンドは不安を感じるようになりました。同社はK-POPの成⻑の恩恵を受けていましたが、新たに結成したガールズグループのパフォーマンスが期待したほどでなく、特に同業他社と⽐較すると⾒劣りするのです。同社がコンテンツ制作や傘下グループのコンセプト作りに⼗分な投資をしていないのではないかというのが当ファンドの感触です。今⽇では、アーティストに必要なのは才能だけではありません。所属会社がコンセプト、コンテンツ制作、マーケティングなどに関してアーティストをどうサポートするかという点も同様に重要なのです。
 同社はきわめて⾼い収益を上げており、市場関係者はそれを評価して競うように株式を購⼊しました。⼀⽅、当ファンドはある企業に投資する場合、その企業がどのような問題に直⾯する可能性があるかという点をしっかり意識するよう努めており、そうした問題が発⽣する兆しが現れ、解決が困難であると判断した場合には株式を売却する意向です。今回の場合、投資額を抑えて直ちに⾼収益を上げようという⼿法は⾮効率な資本配分以外の何物でもなく、事業の持続可能性が損なわれます。市場は経常利益の⾼さを評価していますが、それは同社に誤ったシグナルを送ることになります。当ファンドは同社が戦略を変えることはないと感じたため、⼀旦全売却いたしました。
 さて、本報告書の締めくくりにあたって、当ファンドの偉⼤な先達で、11⽉に亡くなったチャーリー・マンガー⽒の⾔葉をご紹介しておきたいと思います。

「バークシャー・ハサウェイがささやかな前進を遂げたとすれば、その推進⼒の⼤部分は、ウォーレン・バフェットと私が⾃分たちの最も得意なやり⽅をきれいさっぱり捨て去ってきたことにある。⾃分の得意なやり⽅を何から何まで踏襲したとしたら、その年はおそらく無駄な1年になるだろう。」- チャーリー・マンガー

 2024年はおそらく当ファンドの得意な投資⼿法を⼀部捨て去ることになるでしょうが、それと置き換わる投資⼿法がすばらしい効⼒を発揮してくれることを願ってやみません。

2023年11月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年11⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐5.42%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)での政策⾦利の据え置きや、市場予想を下回る⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の低下を背景に上昇しました。⽉半ばは、⽇本企業の良好な決算や、市場予想を下回る⽶国のCPI(消費者物価指数)を受けた⽶追加利上げ観測の後退などから、⽉中⾼値をつけました。⽉後半に⼊ると、中東情勢の地政学リスクの後退や⽶⻑期⾦利低下等を好材料に上昇した後、⼀時1ドル=146円台後半まで進⾏した円⾼が重しとなって下落基調に転じましたが、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は反発しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、韓国と台湾に牽引される形で前⽉末⽐6.96%上昇しました。⽶国の労働市場とインフレに関するデータが軟化したことで、市場関係者の⾒⽅は2024年に利下げが⾏われ、低いとはいえ妥当な⽔準の経済成⻑が続くという⽅向に変化しました。これは⽶国市場のソフトランディングシナリオと⾔ってよいでしょう。こうした変化を受けて、テクノロジー関連やインターネット関連セクターなどの成⻑株、とりわけ韓国と台湾の銘柄が底堅く推移しました。
 ⼀⽅、中国市場は当⽉も引き続き低迷しました。政府の緩和政策にもかかわらず、不動産セクターの状況にはほとんど改善が⾒られませんでした。経済成⻑率の低迷も消費⽀出の抑制要因となり、消費者の間に低価格志向が広がっています。
 インドは引き続きアジア諸国の中で⾼い成⻑率を保っている数少ない市場の⼀つで、2023年第3四半期GDP成⻑率は前年同期⽐7.6%上昇しました。構造的な⻑期成⻑が⾒込める市場は、新事業に果敢に取り組もうという気概のある企業に時流に乗じる機会を与えます。政府の⽀援策も効⼒を発揮しており、特に様々な優遇措置を通じて国内の製造業を下⽀えし、海外直接投資を誘致することで、成⻑に寄与していると考えます。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐2.74%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同4.99%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、ルネサスエレクトロニクス(半導体・半導体製造装置)、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)などでした。⼀⽅、ANTA Sports Products(中国/耐久消費財・アパレル)、SamsoniteInternational(⾹港/耐久消費財・アパレル)、ヨネックス(耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
 7⽉の⽉次報告書で、中国が「バランスシート不況」に追い込まれる可能性について取り上げました。中国のCPI(消費者物価指数)は7⽉にマイナス圏に落ち込み、その後持ち直しましたが、10⽉には再びマイナス圏に戻りました。⼀⽅、PPI(⽣産者物価指数)は年間を通じてマイナス圏にあり、中国が過酷なデフレ圧⼒に直⾯していることは明らかです。当ファンドは中国の不動産や⾦融などの⼤きな問題を抱えているセクターには投資していませんが、⼤⼿消費者ブランドやプラットフォームには引き続き関⼼を持っています。消費関連セクターが直⾯している最⼤の課題は、消費者の多くが低価格商品を志向する傾向が⾼まっていることです。そこで今回はマクロ的なデータを提⽰する代わりに、個別銘柄の状況を取り上げます。
 当ファンドの過去の組⼊銘柄のうち、Li Ning Company社(中国)とYum China Holdings社(中国)の2銘柄は2023年第3四半期決算発表をうけて株価がいずれも⼤きく下落しました。Li Ning Company社を組み⼊れたのは2020年8⽉で、2020年8⽉と2022年8⽉の⽉次報告書で同社について取り上げています。当ファンドは2023年初頭、中国市場で株価が急騰したことから、割安感のなくなったと判断し同社を売却しました。とはいえ、これほど状況が悪化するとは想定していませんでした。同社は前⽉後半に通年の売上成⻑率予想を10%台半ばから1桁台に引き下げました。同社は中国を代表するブランドという強⼒なイメージを通じて、過去数年間で確かにブランド⼒を⾼めてきました。そうしたブランド⼒の向上と製品の品質改善により、同社はNIKEやadidasに⽐肩する価格設定の⾼価格帯商品を積極的に発売し、市場シェアを⼤幅に落としたadidasを尻⽬に、この2年間はかなりの好業績を残してきました。しかし消費者の多くが低価格商品を志向している中で中⾼価格帯商品への移⾏戦略を採⽤したことが、最終的に裏⽬に出たことになります。
 さて、次にYum China Holdings社に話題を移しますが、同社は当ファンドが2022年組み⼊れを開始した銘柄で、当時は中国のロックダウンに対する懸念が市場で⾼まっていた時期でした。同社は中国でケンタッキーフライドチキン(KFC)とPizza Hutのフランチャイズ店を展開しています。KFCは中国最⼤級の外⾷チェーンで、中国内の店舗数はマクドナルドのおよそ2倍に達しています。先進国ではファストフードは安い⾷べ物だと思われていますが、中国ではKFCの商品が必ずしも低価格だとはいえず、⼀線都市(北京、上海、広州、深セン)ではバーガーコンボ(ハンバーガー+フライドポテト+ドリンク)が30〜40⼈⺠元(約630円〜840円)で販売されています。当ファンドは低価格レストランとの競争が熾烈化する可能性を考慮し、前⽉に同銘柄を売却しましたが、残念ながらその懸念は現実のものとなりました。同社の2023年第3四半期決算ではレストランの利益率が前年同期⽐で減少していますが、同社はその要因を、来店客数を伸ばすために値引きを増やしたためであるとしています。当ファンドの⾒⽅では、KFCは規模が⼤きく、サプライチェーンと運営能⼒が優れていて、価格に⾒合った価値を提供してはいますが、必ずしも消費者に最安値で商品を販売しているわけではありません。低価格レストランは以前から存在していましたが、これまでは消費者がより⾼価格な商品を志向していたために、同社は低価格レストランとの競争を回避できると当ファンドは考えていました。しかし消費者の志向が低価格帯商品に移ってきたことで、低価格レストランが次第に優位に⽴ちつつあります。例えば、サイゼリヤは料⾦の割に質のよい料理が楽しめることで知られる⽇本のレストランチェーンですが、中国で順調に業績を伸ばしています。⽐較のために述べておくと、サイゼリヤの⼀線都市における販売価格はパスタが9⼈⺠元(約190円)、8インチピザが22⼈⺠元(約460円)からラインナップされています。
 当⽉は⼤規模セールで有名な「独⾝の⽇」がある⽉でもありました。今年の全eコマース(電⼦商取引)プラットフォームのキーワードは「ネット最安値」です。セール期間中、プラットフォームが加盟店に最安値を提⽰するよう圧⼒をかけているというニュースが絶えず流れていました。これはまさに、恐るべき「底辺への競争」です。
 こうした低価格帯商品志向が構造的なトレンドなのかどうかはまだわかりません。しかしデフレサイクルのリスクが⾼まっているのは間違いないと考えています。中国の⼀般家庭は貯蓄率が⾼く、資⾦的に潤っているのは確かです。政府は景気刺激策によってデフレの連鎖を⽌める必要があり、⻑期的には社会的セーフティネットを改善し、⼀般家庭が貯蓄を減らして⽀出を増やせるようにしなければなりません。不本意ではありますが、これが構造的な傾向だとしたら、投資家としては何ができるでしょうか。当ファンドは⽇本を含むアジアを投資対象とするファンドであり、投資対象となる銘柄はきわめて幅広い範囲に広がっています。投資機会は⼗分にあるので、好ましくない状況に陥った市場からは躊躇なく⼿を引くことができます。アジアには当ファンドが現在投資していない市場が複数あります。しかし中国は巨⼤市場で、多種多様な事業が展開されているので、投資機会が尽きることはないと考えます。
 スポーツウェアに話を移すと、前述の話には別の側⾯があります。アシックスやDESCENTE(中国のDESCENTEはANTASports Productsが運営)といった⾼級専⾨ブランドの業績が好調なのです。2023年第3四半期にアシックスは中華圏の売上が前年同期⽐11%増(為替の影響を除く)、DESCENTEは同40〜45%増を記録しました。また⾼級品と考えられているヨガ・アパレル・ブランドのLululemonは、独⾝の⽇のセール期間中に⼤幅に売上を伸ばしました。
 総括すると、低価格商品志向があるのは確かですが、⾼級品志向もなくなったわけではないと考えられます。消費者はどのような商品で⾼価格帯のものを購⼊するかという点で、より慎重かつ選別的になっており、不要と思われる商品では低価格帯へと移⾏しているのです。KFCが35⼈⺠元で販売している⾷事に価格に⾒合った価値がなければ、消費者はより安いレストランに移るでしょう。アシックスの製品が優れていて⼗分差別化されているなら、消費者は対価を惜しまないはずです。消費者の財布の中⾝が⾏き着く場所は、これから⼤きく変わることでしょう。マクロデータからは消費者の動向は今⼀つ掴めないため、ボトムアップ⽅式で⾒ていく必要があると考えています。
 投資に関して現状で抑えておきたいのは以下のような点です。

  • 熾烈な価格競争のあるセグメント、特に中国企業との価格競争が激しいセグメントは投資を回避します。これは当ファンドが⽇頃から注意している点です。中国企業は世界的に⾒てコスト⾯で強い優位性を持っており、その多くが成⻑のために収益性を犠牲にする傾向があります。アジアの別の国の企業に投資する場合でも、コストが最⼤の差別化要因となっている製品で中国企業と真っ向勝負している企業への投資は避けたいと考えています。
  • 前項と関連して、価格競争が問題にならないセグメントを探したいと思います。その⼀例がオンラインゲームです。モバイルゲームはそもそも無料なので、ゲーム内アイテムの価格を下げたところで、プレイヤーの消費需要を刺激することはできても、他のゲームから乗り換える魅⼒にはなりえないと考えます。差別化要因は主として優れたゲームを作ることであり、値下げではありません。
  • 低価格志向がトレンドなら、低価格商品を販売する企業に投資するのは素晴らしいことではないか、という考え⽅もあるかもしれません。そうした企業が⼀時的に有望かもしれません。しかし、コスト⾯の優位性だけでは持続可能な優位性とは⾔い難く、とりわけ中国ではその傾向が顕著です。当ファンドは常に低コストの企業を選好していますが、低コスト以外の強みも持っている企業を探したいと考えています。
  • 製品の差別化要因については、さらなる分析が必要です。消費者があらゆる分野で⾼級品を求める時代は過ぎ去りました。企業にとって必要なのは、消費者に消費を惜しませない強⼒な価値提案を⾏うことです。乳製品、スナック菓⼦、⽇⽤⾐料品といった基礎的品⽬は⼗分な差別化が難しいため、これから逆⾵に直⾯すると考えます。
  • 複数のブランドや製品を持っていて、低価格志向と⾼級志向の両⽅に対応できる企業を探します。その⼀例が、NetEase(中国/メディア・娯楽、当ファンド保有銘柄)をはじめとする⼤⼿モバイルゲーム会社です。ゲームの中には、MMORPG(⼤規模多⼈数同時参加型オンラインRPG)のように消費者が⽐較的価格に無頓着で、時間とお⾦を⼤量に費やすものがあります。また⼀⽅で、ユーザー数が多く、ユーザー1⼈あたり⽀出額がきわめて少ないジャンルもあります。ANTA Sports Products もそうした企業の⼀例で、同社の⼤衆ブランド「ANTA」は、低価格トレンドに強いと考えます。⼀⽅、FILA、DESCENTE、ARCʼTERYX(ANTA Sports Products が2019年に買収したAmer Sports Corporation社(フィンランド)傘下のブランド)といった⾼級ブランドは、消費者の⾼価格帯商品需要を取り込めるだけの、きわめて強⼒な価値提案を⾏っています。

 短期的な⾒通しは依然厳しいですが、当ファンドは構造改⾰の兆しを探りたいと考えています。政府が構造改⾰について正しい決断を下し、⼈々に消費拡⼤の⾃信を与え、中国経済を投資主導型経済から消費主導型経済へと移⾏してくれれば、中国には投資機会の新しい波が到来するというのが当ファンドの⾒⽅です。

2023年10月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年10⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐2.99%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は堅調な⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の変動や、中東情勢の緊迫化などを受け乱⾼下の展開となりました。⽉後半に⼊ると、中国の景気刺激策が好感される場⾯があったものの、⽇銀の政策再修正への思惑や⽶テクノロジー企業の低調な決算への失望が株式市場の重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は前⽉に引き続き軟調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐3.86%下落し、3か⽉連続の下落となりました。世界的な景気減速が進⾏していること、FRB(⽶国連邦準備制度理事会)が「より⾼く、より⻑期に」という偏った政策を続けていることが世界の株式市場の下落につながりました。また、イスラエルとハマスの紛争が地政学的リスクの新たな震源となりました。
 中国政府は1兆⼈⺠元の特別国債発⾏を決議し、各種インフラプロジェクトに資⾦を充当するなどの複数の景気⽀援策を発表しましたが、消費者⼼理は依然弱含みで、市場は引き続き下⽅圧⼒にさらされています。また、⽶国はAI(⼈⼯知能)半導体の対中国への輸出規制をさらに強化し、中国におけるAI能⼒の急速な発展を抑制しようとしています。
 韓国市場もEV(電気⾃動⾞)⽤電池とEV⽤素材セクターが調整したことで、アンダーパフォームしました。EV需要の鈍化に対する懸念、Tesla社(⽶国)をはじめとするEVメーカーの値下げが投資家⼼理の重荷となったと考えます。⼀⽅、台湾市場では、5G(第5世代移動通信システム)に対する楽観的⾒⽅とスマートフォン需要の底打ちが要因で、MediaTek(台湾/情報技術、当ファンド組⼊銘柄)などのハイテク部品銘柄の株価が上昇しました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐4.07%の下落、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同2.67%の下落となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、NetEase(中国/メディア・娯楽)、ANTA Sports Products(中国/耐久消費財・アパレル)、ソニーグループ(耐久消費財・アパレル)などでした。⼀⽅、ルネサスエレクトロニクス(半導体・半導体製造装置)、BFI Finance Indonesia(インドネシア/⾦融サービス)、アシックス(耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
 10⽉に⼊ってイスラエルとパレスチナの間で痛ましい軍事衝突が起こり、本報告書執筆時点でも停戦のめどは⽴っていません。株式市場はこの事態にあまり反応を⽰さず、むしろ⽶国のインフレと雇⽤統計の⽅に注⽬が集まりました。⼀⽅、原油価格は10⽉前半に急落しましたが、その後は急反発しました。原油はおそらく最も地政学的な影響を受けやすいコモディティ(エネルギー類(原油・天然ガス等)、貴⾦属類(⾦、プラチナ等)、農産物類(トウモロコシ・⼤⾖等)等の「商品」のこと)であり、⼤局的にみて世界情勢の形成要因となっています。中東が地政学的に危険なのは、狭い範囲の中で資源を巡る利権と様々なイデオロギーが複雑に絡み合い、典型的な軍事衝突の背景となっているためです。こうした軍事衝突は、時に当事国以外の国々にも多⼤な影響を及ぼします。原油の純輸⼊⼤国であるアジア諸国は、とりわけそうした危険にさらされています。アジアの原油純輸⼊量は2021年に⽇量2,200万バレルを上回りました。原油価格の⾼騰はインフレ圧⼒と消費者の負担を増⼤させるため、経済にとってマイナスに作⽤します。政府から燃料補助⾦が⽀給されている国では、原油価格の⾼騰によって政府の財政状態が悪化します。企業にとっては、原油価格の⾼騰はコストの押し上げ要因であり、とりわけ世界的な製造拠点となっているアジア諸国ではその傾向が顕著です。原油価格の⾼騰にドル⾼が重なって、現地通貨建ての原油価格はさらに⾼騰しているため、このところ負担がより⼤きくなっています。⽇本は国家安全保障の観点から原油の⼤部分を中東諸国から輸⼊しており、中東地域で紛争が発⽣すれば、どのようなものであれ、国家にとってエネルギー安全保障上の重⼤な脅威となります。
 1970年代に⽶国で発⽣したハイパーインフレの⼀因は⽯油危機にあり、当時もイスラエルは紛争の当事国でした。1973年にエジプトやシリアとイスラエルの間で戦争が勃発しました。現在ではヨム・キプール戦争(第四次中東戦争)と呼ばれている戦争です。当時、⽶国のイスラエル⽀援に対抗するため、アラブ⽯油輸出国機構(OAPEC)は⽶国に対する⽯油の禁輸措置を発動しました。そのため原油価格は措置発動前の1バレル3ドル前後から1974年1⽉には1バレル10ドル前後に上昇し、その後禁輸措置が解除されてからも⾼⽌まりしました。原油価格はその後、1980年代から1990年代にかけて低落傾向に転じました。そして2000年代に⼊って中国が世界貿易機構(WTO)に加盟し、新興国市場が成⻑したことで、2008年には1バレル140ドル近い最⾼値を記録しました。
 2010年代に⼊ると⽶国でシェールブームが起きて原油情勢が⼤きく変化し、⽯油輸出国機構(OPEC)の価格決定⼒は⼤幅に低下しました。⽔圧破砕と⽔平掘削技術の進歩により、堅い岩⽯に閉じ込められていて従来は取り出せなかった原油を採算ライン以下のコストで⼤量に取り出すことが可能になったのです。⽶国の原油⽣産量は、2011年の⽇量約790万バレルから、2021年には⽇量1,700万バレル以上に増加しました。2011年から2021年までの⽶国における原油⽣産量の増加幅は、同時期の世界全体における⽣産量増加分の総計を上回っています。原油市場は2014年から⼤幅に落ち込み、原油価格は2021年まで⻑期にわたり低迷しました。
 原油市場は転換期を迎えたようです。数年にわたるダウンサイクルとESG投資の台頭によって⽯油会社は資本不⾜に陥り、設備投資はここ数年で急減しています。The Goldman Sachs Group社(⽶国)の試算によると、⽶国の原油⽣産会社による設備投資の⽐率は営業キャッシュフローの35%未満に過ぎません。2014年から2015年ごろにかけて100%以上だったことを踏まえると⼤幅な下落です。投資不⾜のため、原油供給の途絶対策としての供給バッファが世界的に不⾜しています。ロシアとウクライナの戦争が続いていることも、状況をより複雑にしています。例えば、OPECはこのところ価格決定⼒を取り戻しつつあり、原油価格が⾼いという認識が広がっているにもかかわらず、減産体制を維持しています。また、先⽇⼤⼿⽯油会社による⼤規模なM&Aが発表され、同セクターの資本規律がさらに強化される可能性が出てきました。

 「市場が堅調で、原油価格が⾼く、ガソリン価格が⾼ければ、我が社は⽂字通り現⾦⾃動預払機となる」
  - BP社(英国)前CEO、バーナード・ルーニー

 当ファンドは以前から⽯油開発・⽣産関連銘柄を直接組み⼊れ、さらに総合商社を通じて幅広いコモディティへの投資も⾏っています。地政学的情勢がきわめて複雑化している状況下において、アジアは⾔うまでもなく原油の純輸⼊国なので、こうしたコモディティ関連企業の⼀部に割安なバリュエーションで投資することは、当ファンドにとってきわめて魅⼒的なヘッジ⼿法になると考えます。
 ところでコモディティ銘柄への投資全般について、いくつか取り上げたい問題があります。

  • 当ファンドは⽯油銘柄を組み⼊れていませんが、これは原油価格が短期的に上昇すると予測しているからです。OPECが価格決定⼒を取り戻したことで、原油価格が⾼⽌まりする可能性は⼗分にあると考えます。当ファンドの⾒⽅では、コモディティのスポット価格の変動を予測して株式投資を⾏うのは好ましくない⽅法と考えています。株価というのは企業が将来的に⼿にするフリーキャッシュフローの総額を現在価値まで割り引いたものであるため、⻑期平均コモディティ価格の⽅がスポット価格よりはるかに重要です。短期的なコモディティ価格の変動に賭けるなら、短期先物取引の⽅がはるかに優れた投資⼿段です。先物取引と株式投資の違いは、先物の買い⼿はスポット価格が動かなければ儲からないということです。ただしバックワーデーション(先物価格がスポット価格より低い状態)の場合は例外で、買い⼿はロールイールドを得ることができます。⼀⽅、株式投資の場合、スポット価格が動かなくてもそれほど問題はありません。バリュエーションが⼗分に割安な状態で株式を購⼊し、原油価格が⼗分に⾼く、企業が⼗分なキャッシュフローを⽣み出す限り、株式所有者は配当と⾃社株買いによってリターンを得ることができます。株式への投資は短期的なコモディティ価格に賭けることとは全く異なる⾏為だと考えます。
  • 不況に⾒舞われると、需要が減退するため原油価格は下落します。循環性が⾼く、コモディティ化した産業にあっては、⻑期投資家にとって最も重要なのは供給と資本規律であり、それらは景気循環によって浮き沈みする需要よりはるかに⻑期的な効果をもたらすと考えます。2022年10⽉の⽉次報告書でSamsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)への投資について取り上げて説明したような、供給規律が⽯油業界にも備わっているというのが当ファンドの考えです。
  • コモディティ化した製品を販売する企業は質の低い企業だと⾒なされていますが、当ファンドは概してこの⾒⽅に賛成で、前⽉取り上げたエンターテインメント企業のように、独⾃性があり簡単に複製できない資産の保有企業の⽅が断然投資にふさわしいと考えます。しかし商品価格が⾼く、企業のコストが低ければ、それも事業として成⽴すると考えます。重要なのは品質と将来性に適切な価格を⽀払うということです。コモディティ銘柄の中には、バリュエーションが割安で、その将来性にふさわしい取引ができる銘柄があると考えます。
  • いずれ、エネルギー転換によって⽯油は時代遅れとなることでしょう。それは間違いありません。しかし、こういった考えはESG投資の推進とともに近年エネルギー企業が資本不⾜に陥っている原因の⼀つとなっています。⽯油がやがて使われなくなるという考えが、いま、⽣産能⼒への投資にブレーキをかけているのです。しかし、数年でエネルギー転換を完了させることは不可能であり、世界で今後数年間にわたってこれまでと同様に⼤量の⽯油が必要とされるのは間違いありません。エネルギー転換にはきわめて多額の資本が必要で、現在の⾦利環境とインフレはエネルギー転換の進展にとって⼤きな障害です。この問題については、今後の報告書で再度取り上げるかもしれません。

 ESG投資を考えるなら、コモディティ銘柄の組み⼊れは避けるべきなのでしょうか。しかし世界中の投資家がコモディティ銘柄への投資を⽌めたとしても、コモディティ企業は存続し、⼈々はそのコモディティを毎⽇消費するのです。コモディティ銘柄を避けることや、無視することが正しい解決策だとは思えません。⽯油会社はもれなくポートフォリオの変⾰に取り組んでおり、世界の⼤⼿⽯油会社は数千億ドルもの資産をバランスシート上に計上し、エネルギー転換に重要な役割を果たすリソースを莫⼤に保有しています。将来的に⽯油資産を⼿放し、事業転換を図る場合、その資本をより持続可能な事業に再投資するか、株主還元を通じて分配すると考えます。いずれにせよ、数千億ドルもの資本を再配分する必要があるので、資本市場はそれを無視するのではなく、そのプロセスに積極的に参加し、関与していくべきでしょう。

2023年9月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年9⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.51%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の改善により中国の景気後退不安が⼀時的に後退したほか、国内では早期衆院解散・総選挙への期待感が⾼まったことを受け、上昇基調となりました。⼀⽅⽉後半は、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)で⾦融引き締めの⻑期化が⽰唆されたことや、⽶議会の予算協議が難航し政府機関閉鎖への警戒感が⾼まったことから、市場⼼理が悪化し値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を若⼲上回る⽔準で⽉を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は前⽉に引き続き軟調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐2.65%下落し、フィリピンとインドを除くアジア市場全体が軒並み下落して⽉を終えました。
 原油価格の上昇、景気の減速、各国中央銀⾏が「より⾼く、より⻑期に」という偏った政策を続けていることなどから、世界各国の株式市場と債券市場が下落しました。
 中国の不動産セクターは当⽉も中国と⾹港の株式市場の重しとなりました。過剰債務をかかえる不動産開発業者は依然として流動性問題の解決を迫られており、政府が住宅ローンの融資条件緩和という⽀援策に踏み切ったにもかかわらず、不動産販売件数に⼤幅な改善は⾒られませんでした。⼀⽅、鉱⼯業⽣産や⼩売売上⾼など、中国の8⽉の経済指標が⼀部プラス成⻑を⽰す数値となったことは好材料と考えます。
 インドのNifty50指数は当⽉に最⾼値を更新しました。その要因としては、⽣産年齢⼈⼝の割合増加に由来する経済成⻑、都市化、インフラ投資、「チャイナ・プラス・ワン(中国のみに⼯場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠点を展開すること)」の動きが同国経済の⻑期的成⻑を後押しするという⾒⽅が投資家の間に根づいてきたことがあげられます。また、タイの株式市場は観光客数の多さと新政権による景気刺激策にもかかわらず、下落幅がASEAN諸国中で最⼤となりました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐1.06%の下落、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同0.05%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(銀⾏)、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)などでした。⼀⽅、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)、ルネサスエレクトロニクス(半導体・半導体製造装置)、Mitra Adiperkasa(インドネシア/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)などがマイナスに影響しました。
 当ファンドは当⽉、世界的に有名なアニメキャラクターを制作する⽇本企業や、韓国のK-POP企業など、複数のエンターテインメント企業の経営陣と⾯談を⾏いました。エンターテインメント事業とは、端的に⾔えば、知的財産(知財)の販売に他なりません。知財には様々な種類がありますが、例えば、あるテクノロジーを他社にライセンス供与して使⽤を認める場合も知財に含まれます。ソフトバンクグループ㈱が株式の過半数を保有し、先⽇⽶国で上場したArm Holdings社(英国)は、プロセッサアーキテクチャ(コンピュータの中央処理装置(CPU)の設計と構造)を知財として半導体チップ設計事業者に販売しています。⼈々が毎⽇使っているスマートフォンのプロセッサは、同社のアーキテクチャの⼒で動いているのです。⼀⽅、当ファンドの⾯談先企業が販売しているのは、⾳楽やアニメキャラクターといったエンターテインメント関連の知財です。当ファンドはこれまで数社のエンターテインメント企業に投資を⾏ってきましたが、その理由は1) 知財はコモディティや⼯業製品と違って模倣が困難であるという点、2) 当該企業が最⼩限の資産で事業を運営できるという点、3) 知財を⼤量に複製することで、多額の利益が得られる可能性があるという点にあります。エンターテインメント知財を売るということは、いわば「幸福感」を売るということです。ハローキティが描かれたカップがよく売れるのは、何も描かれていない真っ⽩なカップよりハッピーな気分になれるからです。⼈々は幸福感を感じられるもの、持っているだけで嬉しい気持ちになれるものにはためらわずにお⾦を払います。そのため⼈気キャラクターの知財を保有する企業は、強⼒な価格決定⼒を⼿にすることになります。
 アジアでエンターテインメント知財関連の投資機会が⾒られるのは主に⽇本と韓国ですが、中国にも⼀部存在していると考えます。⽇本はアニメ、ゲーム、マンガの制作能⼒の⾼さが群を抜いており、ポケモン、スーパーマリオ、ガンダム、ハローキティといったキャラクターが世界的に⼈気を博しています。過去10年間でそれに迫ってきたのが韓国だと当ファンドは考えており、K-POP、韓国ドラマ、ウェブトゥーン(縦スクロールのフルカラーマンガ)は世界中で⼈気を集めています。
 テクノロジーの進歩はエンターテインメント知財事業に多⼤な恩恵をもたらしています。ゲームの世界において、テクノロジーがグラフィックとユーザー体験を向上させたのは誰の⽬にも明らかでしょう。テクノロジーは流通の⾯でも⼤いに役⽴っています。例えば、ガンダムシリーズの最新作「機動戦⼠ガンダム⽔星の魔⼥」は、アジアの様々な国において、Netflixで視聴可能です。これが20年前なら、知財所有者は各国の地上波テレビ局と交渉し、さらに⾔語をローカライズする必要がありました。Netflixに代表されるグローバル・プラットフォームのおかげで、グローバル展開にかかる労⼒は⼤幅に軽減されました。⼀⽅、⾳楽の世界では、Spotifyのような⾳楽ストリーミング・プラットフォームによって業界全体が活⼒を取り戻し、K-POPはYouTubeをうまく活⽤することで、⼈気を⾼めることができました。K-POPは視覚と同時に楽しむことでその良さが伝わると⾔われており、動画での再⽣に適しています。K-POPアーティストの最新動向を追いかける場合、Spotifyのような⾳声のみのプラットフォームより、YouTubeを使うことが多いのが⼀般的です。YouTubeの台頭には、モバイルデータ通信の向上によって、携帯機器で気兼ねなく動画を楽しめるようになったという背景があるのです。
 さて、ユーザーへのリーチが格段に容易になった⼀⽅で、様々なメディアが台頭してきたことで、企業はいかにしてユーザーの定着を図るかという問題に頭を悩ませるようになりました。⼈々の時間の使い⽅が断⽚的になり、関⼼が⻑く続かないのです。複数のメディアがひしめきあって⼈々の関⼼を得ようと躍起になっており、⼈々はすぐに気をそらされてしまいます。つまりどれほど⼈気のある知財でも、翌年には他の知財に取って代わられる可能性があります。そのため、複数の「接点」を設けて⼈々とのつながりを保つことが重要になってきます。当ファンドは数年前、韓国のドラマ制作会社と⾯談しました。ところが韓国ドラマの⼈気は確かでも、その会社の創作物である知財には魅⼒が感じられませんでした。ハローキティはいつまでも⾊あせない知財で、何千種類もの商品にプリントすることができますが、ドラマの知財は他ではほとんど使えないからです。全16話のドラマは放映が終わればそれだけで終わりです。関連商品を作って継続的に販売するのは困難で、早晩忘れ去られてしまいます。⾳楽業界も同様で、Spotifyのおかげで独⽴系アーティストの楽曲発表は容易になりましたが、サポートやリソースがなければ、Spotify上の楽曲以外にユーザーと触れ合う接点を作ることはできません。それどころか、ユーザーは楽曲を聴いていてもアーティストが誰なのかさえ知らないことが多いのが実情です。
 当ファンドが関⼼を持っているのは、⾃社の知財をさまざまな形態に変換し、顧客との接点を複数作り出すことができると考えられる企業だけです。例えばソニーグループ(耐久消費財・アパレル、当ファンド組⼊銘柄)は⾳楽、映像、ゲームなどの各部⾨間の連携を強化し、より優れた知財を創造、活⽤することを⽬指しています。その好例が、⼈気ゲーム「The Last of Us」のテレビドラマ化です。⾳楽業界では、K-POP企業がこうした⾯で⼀歩先を⾛っています。欧⽶ではアーティストの収⼊の⼤部分をアルバムやコンサートから得るのが⼀般的ですが、K-POP企業は関連グッズの制作やブランドとのコラボレーションなど、派⽣商品を通じた収益確保に積極的です。またYouTubeやTikTokといったソーシャルメディア、あるいはHYBE(韓国/メディア・娯楽)の「Weverse」のようにファンとの交流⽤の独⾃プラットフォームを通じて、より積極的にユーザーと関わっています。その⼀例が、2022年にHYBEからデビューしたガールズグループ、NewJeansです。その成功要因は、メンバーが⾳楽だけでなく、あらゆるところで終始⼈々と関わっていることにあります。具体的に⾔うと、複数のメンバーがGUCCI、CHANEL、Dior、Louis Vuitton、BURBERRY、McDonald's、Coca-Colaといったブランドのアンバサダーになっています。また、NewJeansは⼈気アニメ「パワーパフガールズ」とコラボしたことで、グループの知財をバーチャルな形態にまで拡張しました。つまり同グループは⾳楽だけでなく、もっと深いところでファンとつながっているのです。HYBEが2022年に⼿にした売上⾼のおよそ半分はアルバムとコンサート以外から得たものです。
 K-POP関連企業がコロナ禍の恩恵を受けた⼀⽅で、ゲーム会社は全般的に社会活動の再開によって困難に直⾯しました。この明暗を分ける要因となったのが、顧客と複数の接点を確保できたか否かという点でした。コロナ禍の間、⼈々は家に引きこもり、YouTubeを⾒てK-POPファンになりました。そして社会活動が再開すると、コンサートがファンとのつながりを保つための、もう⼀つの重要かつ収益性の⾼い接点となったのです。社会活動の再開によって、YouTubeを視聴する機会は減ったかもしれませんが、⼈々はアーティストを⾒ようとコンサートに⾜を運ぶようになりました。コンサートを観たファンはアーティストにより親近感を抱くようになり、複数のチャンネルを通じてより多くの情報を得ようと努めるようになります。⼀⽅、ゲーム会社には⼀般に⼈々が外出を再開した時にユーザーとの関わりを保つ⽅法が他にありません。
 アジアのエンターテインメント知財には投資機会が豊富に⾒いだせますが、その基盤となっているのはアジア各国の⽂化発信⼒の⾼まりと世界的なコンテンツ流通難易度の低下です。適正に⾏いさえすれば、知財の世界的流通は以前よりはるかに容易にできるようになりました。当ファンドはアジアの知財の⼈気がこれから世界的に⾼まると予想し、その好機を⽣かしたいと考えています。当ファンドの優位性は⽇本と他のアジア市場に資本を柔軟に配分できるという点にあり、前述の投資機会を活⽤する上で有利な⽴場にあると考えています。

2023年8月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年8月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.43%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、大手格付け会社フィッチ・レーティングス社(米国)による米国債の格下げを背景とした米国株安の流れを受け、下落から始まりました。月半ばは、中国の軟調な経済指標(消費者物価指数など)や、中国不動産開発大手の米国破産法の申請が嫌気され、下げ幅を広げました。月後半は、中国の追加利下げが好感されたほか、ジャクソンホール会議においてさらなる利上げへの懸念が後退したことで値を戻す展開となり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は急落しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末比6.39%下落しました。米国の経済指標とインフレ率が予想を上回ったため、FRB(⽶連邦準備制度理事会)がさらなる金融引き締めに踏み切るのではないかという懸念が広がり、株式と債券がいずれも下落しました。
 また、中国の輸出と住宅セクターの低迷が続いたことで、投資家心理はさらに冷え込みました。中国の前月の輸出(米ドル建て)は前年同月比14.5%減となりましたが、これは世界経済が低迷していることや、米中対立のために市場シェアの継続的な低下が影響していると考えます。中国の不動産開発大手のCountry Garden Holdings社は手元資金が不足し債務返済が滞る可能性があると発表し、それを受けて他の不動産開発業者の株価が下落しました。中国政府は住宅ローンの融資条件を緩和する旨を発表し、不動産セクターへのてこ入れを図りましたが、信頼回復には時間がかかる模様です。
 インド市場では大型株が低調な一方、小型株は好調とパフォーマンスに差が生じました。ただし、ここ数年の政府による持続的なインフラ支出と中国からのシェア奪取による輸出増加の効果もあって、経済成長全般は依然堅調です。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐0.29%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同2.58%の下落となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)、アシックス(耐久消費財・アパレル)などでした。一方、ルネサスエレクトロニクス(半導体・半導体製造装置)、JYP Entertainment(韓国/メディア・娯楽)、BOE Varitronix(香港/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)などがマイナスに影響しました。
 アジアの大部分は北半球に属しており、8月は旅行のピークシーズンにあたります。当ファンドは消費関連銘柄への投資に際し、消費者の支出額が継続的に拡大すると考えられるカテゴリーに重点をおいていますが、その中心をなしているのは旅行と美容だと考えています。例えば即席麺などの場合、どれほど優れた商品が揃っていても、ある一定の水準を超えた時点で消費額の拡大が止まる可能性がありますが、旅行の場合は収入の増加に伴って支出も増え続ける傾向があります。世界は広く、常に新しい発見があることを考えると、これは当然のことかもしれません。また消費財の多くは、例えば紅茶とコーヒーのようにどちらかの消費が増えればもう一方の消費が減る関係にありますが、旅行にはそれに代わる商品がありません。VR(仮想現実)技術は急速に進歩していますが、旅行本来の楽しさを部屋で椅子に座ったまま体験することはできません。したがって、旅行はアジア各国における所得拡大の恩恵を受ける、理想的なセグメントだというのが当ファンドの見方です。
 当ファンドが組み入れている旅行関連銘柄は、世界最大のスーツケースメーカーのSamsonite International(香港/耐久消費財・アパレル)、インド最大のオンライン旅行代理店のMakeMyTrip、インド最大のミドルクラスホテルチェーンのLemon Tree Hotelsの3つです。当ファンドがインドの旅行業界に注目する理由は、インドは巨大な人口を抱えているものの、旅行業界はまだ揺籃期にあり、今後数十年間にわたって成長が見込めると考えているためです。そこで当月は「MakeMyTrip」について取り上げます。
 インドの旅行市場は2013年から2019年にかけて年平均10%成長しましたが、これは同期間における中国の成長率14%を下回っています。同期間のインドの名目GDP成長率は中国を上回っているにもかかわらず、旅行市場は後れを取ったことになります。2019年のインドの国内延べ旅行者数は23億人で、1人当たりの国内旅行回数は約1.7回と、2010年当時の中国とほぼ同水準でした。インドでは海外旅行が始まったばかりで、2018年の海外旅行者数は推定2,100万人と、中国の同1億5,000万人以上と比べて格段の開きがあります。これは中国では過去10年の間に空港が整備され、高速鉄道網が高度に発達するなど、インフラ整備が進んだためであると考えられます。また中国人消費者の所得水準が高まり、嗜好品への支出を増やせるようになったためであることも、同時期に中国で高級品の売上が大きく伸びたことから明らかです。インドも今後インフラ整備が進み、国民の所得が増加することで、国内旅行と海外旅行がいずれも長期成長局面を迎えることになると考えています。
 オンライン旅行代理店(OTA)は、こうした旅行需要増加の恩恵を最も受けることができると当ファンドは考えています。インドの旅行市場におけるオンライン普及率は、2019年のホテル予約のオンライン利用率が推定18%という数字からみられるように、依然低水準ですが、今後オンライン旅行予約へのシフトが進めば、OTAにとって有利に働くと考えています。
 MakeMyTripはインドの大手OTAであり、オンライン旅行予約における国内市場シェアは推定40%強、旅行アプリの月間アクティブユーザー数におけるシェアは同70%強です。同社は2000年に現グループ会長のDeep Kalra氏によって設立された会社で、現在は中国最大のOTAであるTrip.com Group社(中国)が株式の約32%を所有しています。同社は「MakeMyTrip」と「Goibibo」という2種類のOTAブランドを運営しています。同社はこれまで扱ってきた航空券やホテルの予約に加え、バスチケット販売プラットフォーム「redBus」を運営しており、既にインドだけでなく、インドネシア、ペルー、コロンビアなどでも事業を展開しています。
 同社が成長余地の大きい市場で事業を運営していることは前述のとおりですが、最終的な「勝ち組」になることはできるのでしょうか。インターネット業界についてみると、インドは競合先となる外国企業に対して中国より開放的です。中国には欧米のインターネット事業者が事実上存在しませんが、インドではAmazon.com社(米国)、Alphabet社(米国)、Meta社(米国)など、様々な事業者が存在感を示しています。旅行業界では、Booking Holdings社(米国)、Airbnb社(米国)、Expedia Group社(米国)がいずれもインドに進出しています。そうしたなか、MakeMyTripは強力なブランド名とネットワーク効果を生かして競合を回避し、支配的な地位を維持しています。ネットワーク効果はしばしばインターネット・プラットフォームの大きな強みとなりますが、さらに強力なネットワークを持つ新規参入企業が、競合するサービスのクロスセルを行うことによって、ネットワーク効果が損なわれることもあります。基本的に、インターネットを活用するビジネスモデルの多くはトラフィック(一定時間内におけるインターネット通信量)を売りにしており、ByteDance社(中国、「TikTok」の運営会社)やAmazon.com社のような巨大なトラフィックを持つ事業者の参入は危険です。しかし当ファンドでは、旅行関連サイトは他のインターネット分野とは事情が異なるとみています。旅行は取り扱い金額が大きく、事前の計画が必要で、多くの場合、旅行中の顧客へのカスタマーサービスが高い重要性をもっているため、消費者は自身が最も信頼しているOTAブランドで予約を行うのが一般的です。Amazon.com社はインド旅行市場への直接参入を試みましたが、最終的にはMakeMyTripとの提携を選択しました。MakeMyTripは今後も現状の優位性を維持・拡大することが可能で、インド旅行市場の成長から継続的に恩恵を受けるというのが当ファンドの見方です。
 MakeMyTripは長い歴史をもっており、上場を果たしたのは2010年です。売上高は2011年3月期の約1億2,500万米ドルから4倍近く伸び、2023年3月期には約5億9,300万米ドルに達しましたが、株価は低迷していました。同社は市場の創出とユーザー獲得に向けて投資を継続していたため、2011年3月期から2023年3月期までの間に累計12億米ドルの純損失を計上しました。当ファンドが同社の調査を開始した2019年、同社はまだ巨額の赤字を計上していました。業績は芳しくない模様でしたが、1)市場に十分な成長余地があったこと、2)同社が競合他社を圧倒していて勝ち組に見えたこと、3)同社はリーダーの地位を安定的に維持できれば高収益企業になると考えられたことから、調査を継続しました。新型コロナウイルス感染症の流行というきわめて困難な3年間を乗り越え、取扱高が一定規模に達し、業界内の熾烈な競争が多少沈静化した2023年3月期第3四半期(2022年12月に終了する四半期)になって、同社はようやく損益分岐点に達しました。同社はさらに、コロナ禍で業務を合理化したことで、構造的に利益を生み出せる体質に生まれ変わりました。OTAはいったん主導的地位を確立すればきわめて収益性の高い事業であることから、同社収益は過去6ヵ月間継続的に改善しています。
 MakeMyTripはNASDAQ市場(米国)に上場していますが、インドの国内投資家の多くは特定の委託業務や市場アクセスに関して制約があり、同社に投資できません。2022年に入ってからは、同社がインドに上場し、同社をよく知るインドの投資家が投資できるようになることで、株価が大幅に上昇するのではないかという期待感が広がりました。しかし、その期待は2023年に同社が「資金調達の必要性を感じておらず、当面は二重上場を検討していない」と発表したことで、見事に打ち砕かれました。この発表を受けて、2023年はファンダメンタルズが引き続き改善したにもかかわらず、株価が急落しました。しかし資金調達が不要だということは、言い換えれば経営陣が自社のキャッシュ生成能力に自信を持っているということなので、悪材料ではなく、むしろ好材料だというのが当ファンドの見方です。当ファンドはようやく好機が到来したと考え、4月に同社に新規投資を開始しました。
 インドはきわめて将来有望な市場ですが、その最大の課題は、著名な大型株が非常に高いバリュエーションで取引されているという点にあります。当ファンドは時価総額の大きさに関わりなく、どんな企業にも市場の状況次第で好機があると考えています。インドでは現在、知名度が比較的低く、より割安なバリュエーションで取引されている中型株に、より多くの投資機会があると思われます。当月に当ファンドの調査担当者がインドに出張し、企業の調査を実施しましたので、今後も引き続きインド銘柄について月次報告書にてご報告していく予定です。

2023年7月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.49%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨にて年内2回以上の利上げが示唆されたことや、米国の雇用統計の結果を受け、利上げ継続への懸念が強まり下落して始まりました。一方で月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、利上げ停止が近いとの期待から堅調に推移しました。月後半は、日銀によるYCC(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化が発表され、一時的に値動きの激しい展開となりましたが、現行の緩和姿勢を維持するとの受け止めから市場に安心感が広がり、最終的に期初を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は前月に引き続き堅調に推移しました。⽇本を除くアジア太平洋市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア太平洋(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、中国、マレーシア、シンガポールなどが主にプラスに寄与し、前⽉末⽐5.82%上昇しました。中国政府は消費や、住宅セクター、資本市場向けの刺激策を発表しました。民間企業の支援を目的とする31項目ものガイドラインが発表されたことを受け、中国市場に対する投資家心理は改善しました。
 AI(⼈⼯知能)の将来性に対する楽観論が、引き続き情報技術関連銘柄の上昇要因となりました。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)は、AI関連の需要拡大が予想されることから、同分野への設備投資を拡大すると発表しました。しかしスマートフォンやPCは在庫調整がほぼ終了した模様であるにもかかわらず、半導体の需要が引き続き低迷しており、マクロ経済に対する信頼感の低さがうかがわれます。台湾や韓国に拠点を置く他のIT企業も、直近の決算説明会で同様の見解を示しました。
 インドとインドネシアは引き続き投資家の注目を集めています。両国は製造業への投資と製造能力の向上を目的に、積極的に外資を呼び込んでいます。インフラ整備はこれまでと同様、今も経済成長の原動力であると当ファンドは考えています。両国では国内消費主導型セクターも好調なパフォーマンスを記録しています。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐0.89%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同3.22%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、Mitra Adiperkasa(インドネシア/一般消費財・サービス流通・小売り)、JYP Entertainment(韓国/メディア・娯楽)、SM ENTERTAINMENT(韓国/メディア・娯楽)などでした。一方、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)、HDFC Bank(インド/銀行)などがマイナスに影響しました。
 中国市場が当ファンドの注視対象に再浮上してきました。中国株式市場は年初に経済再開を巡る期待感から、数ヵ月来の高値を記録しました。しかし2023年1月の月次報告書で述べた通り、当ファンドは景気敏感株が主導する形での株価上昇に疑問を感じ、年初に中国関連銘柄の組入比率を引き下げました。中国株式市場はその後、経済全般、とりわけ不動産市場が予想以上に低迷していることが明らかになったことで、再び下落基調に陥りました。さらに地政学的リスクを巡る報道が相次いだことで、外国人投資家の投資意欲が減退しました。このように中国株式市場は好材料が出て急上昇した後、ゆるやかに下落するというパターンを幾度となく繰り返してきました。
 こうした相場変動は短期的利益を追うトレーダーにとっては悪夢でしょうが、幸いなことに当ファンドはそうではありません。当ファンドは中国関連銘柄の組入比率を低めに保ち、好機を待ちました。
 中国でいま最も注目されているのは、中国経済が不動産バブルの崩壊によって「バランスシート不況」に追い込まれるのか否かということです。「バランスシート不況」というのは野村総合研究所のチーフエコノミストを務めるリチャード・クー氏が提唱する用語で、ちょうどバブル崩壊後の日本のように、金利がどれほど下がっても民間企業が資金を借り入れようとしない状態を指します。そうなると、金融緩和をどれほど積極的に行おうとまったく機能しません。日本経済はバブル崩壊後、資産価格の急落によって、多額の負債を抱える企業が破綻寸前の状態に陥りました。そうした企業はあらゆる支出を絞ってキャッシュフローを確保することで債務を返済するしかありませんでした。そうして日本の企業は債務超過による苦境とその時に負ったトラウマのために、金利がゼロ近くまで低下しても資金の借り入れを再開しようとしませんでした。バブル崩壊の影響があまりにも広範囲に広がったため、どの企業もバランスシートを修復しようと躍起になった結果、日本経済は深刻なデフレに追いやられたのです。民間企業は借入金の返済ばかりに気を取られ、設備投資や研究開発に資金を投じて競争力を保つことができず、結果として世界の様々な業界で日本企業の存在感が薄れていきました。その後20年以上の年月をかけてバランスシートを修復し、日本の民間企業はどん底から抜け出そうとしています。日本はようやく新たなスタートを切った、それが当ファンドの見方です。
 中国に話を戻すと、不動産セクターに対する投資意欲がかなり減退しており、民間不動産開発会社の多くが事実上破綻しています。また、地方政府は多額の負債を抱えています。中国政府は経済が厳しい状況にあることを認識し、各種政策を矢継ぎ早に発表して事態の鎮静化に努めています。政府の経済計画を司る国家発展改革委員会は月半ばに、民間企業の支援を目的とする31項目ものガイドラインを発表しました。またTencent Holdings(中国/メディア・娯楽)会長の馬化騰氏は、国営メディア向けに執筆した記事で、民間企業に対する支援が急務であることを示唆しました。月後半には、共産党の最高意思決定機関である政治局が中央政治局会議を開催し、経済情勢に関する表現が多数変更、不動産政策と地方政府への規制に対するスタンスがより緩和されました。また、中国政府はさらに、地方政府の債務問題への直接的な取り組みを強化することも明言しました。
 では中国はバランスシート不況に突入するのでしょうか。当ファンドはエコノミストではないので、この質問に答えられる立場にはありません。しかし、当ファンドの投資候補銘柄を調査した結果、バブル崩壊後の日本の民間企業の状況とは大きく異なると考えています。第一に、大企業や有力企業の多くは財務状態が健全で、バランスシートを修復する必要はないと考えます。第二に、そうした企業の事業拡大や投資に対する意欲に衰えの気配はなく、様々な業界の企業が、外国企業からの市場シェア奪取や海外進出に引き続き意欲的に取り組んでいるようにみえます。例えばBYD Auto社(中国)が既に日本市場に進出し、きわめて競争力の高いEV(電気自動車)を販売していることをご存知でしょうか。月後半にはVolkswagen Group社(ドイツ)が約7億米ドルを投じてXPeng社(中国)の株式を約5%取得し、Volkswagen Group社の一部EVモデルを共同開発すると発表しました。中国はEVをはじめとする一部セクターにおいて世界を大きくリードしていると考えられ、こうした業界において企業に投資に対する意欲や能力がないと捉えるのは不合理だといえます。当ファンドの経験を踏まえると、中国の起業家は成長への意欲を決して失わない不屈の人々の集まりです。衰退したと考えられていた学習塾セクターでさえ、かつて業界首位の座にあったNew Oriental Education & Technology Group社(中国)は、成人向けの再教育ビジネスやeコマース(電子商取引)のライブ配信プラットフォームを経由した商品販売を通じて生き残る方法を新たに見出しています。
 以下は同社の決算です。

    会計年度      売上高(百万米ドル)   純利益(百万米ドル) 
2019年5月期 3,097 328
2020年5月期 3,579 432
2021年5月期 4,277 344
2022年5月期 3,105 -716
2023年5月期 2,998 178


 純利益はまだ2020年5月期の半分以下ですが、同社は学習塾事業が中国政府による規制によって実質的に消滅したあとの巨額損失をようやく取り戻し、生き残りを果たしました。こうした中国企業を見ていると、30年前の日本企業の姿には重ならないと考えます。結局のところ、中国がバランスシート不況に突入するか否かは、当ファンドにとってそれほど重要ではありません。当社は日本企業への投資を30年以上にわたって続け、良好なパフォーマンスを残してまいりましたが、日本はその間、バランスシート不況に陥っていたのです。つまりどれほど厳しい環境下であっても、「勝ち組」は存在します。当ファンドの務めは、過去30年間にわたって日本でしてきたように、勝ち組になる企業を発掘し、投資することです。
 当ファンドは当月に入ってから、一部企業が発表した決算や共産党中央政治局会議のトーンの変化を受けて、強気姿勢に転じ、中国関連銘柄の組入比率を徐々に拡大しています。冒頭で述べたように、中国市場は急上昇の後、徐々に下落するパターンを繰り返してきました。市場の慎重姿勢は行き過ぎで、規制や政策、多数の企業による自助努力といった好材料を完全に無視しているというのが当ファンドの見方です。大手消費財企業の株価は、軒並みこれ以上下落しようがない水準まで落ち込んでいると考えます。加えて、グローバル市場全体で投資家心理に一貫性がみられず、Apple社(米国)、LVMH Moet Hennessy Louis Vuitton社(フランス)、Hermes International社(フランス)、Tesla社(米国)といった中国へのエクスポージャーが大きいグローバル企業が高いバリュエーションで取引されています。当ファンドの見方では、バリュエーションと企業価値の乖離があまりに大きくなっているため、低いリスクで大きな利益を上げる好機が到来するのではと考えています。8月は各社が中間決算の発表を控えているため、当ファンドはその内容を慎重に検証していく予定です。中国株式市場が8月に反発するかは不明ですが、当ファンドの組入銘柄は保有期間内に必ずやリターンをもたらしてくれると考えています。

2023年6月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比7.55%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半は米連邦債務の上限停止による米国株高の流れを受け、大幅に上昇いたしました。月半ばには、FRB(連邦準備制度理事会)による追加利上げの示唆を受けた軟調な米国株の影響や、衆院解散への期待剥落が嫌気された一方、日銀の金融緩和の維持、米著名投資家の日本株追加投資の発表が好感され、一進一退の動きで推移しました。月後半は、株価上昇の反発と見られる下落の局面もありましたが、米景気悪化懸念の後退と円安進行が下支えをし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場は堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比2.81%上昇しました。米国の経済指標が堅調だったことで、投資家心理が世界的に好転し、情報技術セクターを中心に米国の株価指数が軒並み上昇しました。AI(人工知能)の将来性に対する楽観論の広がりによって、アジアの情報技術関連銘柄が引き続き上昇し、中国が大規模な景気対策を打ち出すという観測も市場の下支え要因となりました。
 当月は米国のブリンケン国務長官が中国を訪れ、習近平国家主席と会談しました。結果次第では米中関係が改善に向かうのではないかという期待感が広がりましたが、大きな進展はありませんでした。それどころか、米国は半導体製造装置と製品の対中輸出制限を強化する計画を発表し、中国も半導体製造、EV(電気自動車)、通信機器に不可欠な2種類の金属(ガリウムとゲルマニウム)の輸出を制限してこれに応じました。
 一方、インドのモディ首相は米国を訪れ、温かい歓迎を受けました。同首相はApple社のティム・クックCEO(最高経営責任者)やTesla社のイーロン・マスクCEOら、米国を代表する企業のリーダーと会談し、今後の投資先としてインドを検討するよう促しました。インドの長期的成長見通しを肯定的に捉える見方が裏付けを得たことで、インドの主要な株価指数のNifty50指数とSENSEX指数が、当月ともに史上最高値を更新しました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐7.38%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同6.86%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、三菱商事(資本財)などでした。一方、Indian Energy Exchange(インド/金融サービス)、FOOD & LIFE COMPANIES(消費者サービス)、H World Group(中国/消費者サービス)などがマイナスに影響しました。
 当ファンドは当月、インドネシア企業の調査を目的にジャカルタを訪問し、銀行、生活必需品、鉱業、通信、自動車部品など、様々な業界の企業と面談を行いました。インドネシアの状況は、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、大きく変化しています。中でも顕著なのは、同国が製造業の川下への移行を進めていることです。同国はかつて、天然資源の一大輸出国でした。しかし、資源の輸出によって経済は天然資源価格の変動に晒され、付加価値もあまり生まれませんでした。そこでインドネシア政府は川下製造業の発展に力を入れるようになりました。その中できわめて有望な分野がEV(電気自動車)です。同国は一部のEVバッテリーの製造に不可欠な金属であるニッケルの埋蔵量が豊富です。同国は電池素材の製造インフラを構築中で、さらに川下産業であるEV用電池の製造を目指しています。それを裏付けるかのように、Contemporary Amperex Technology社(中国)やLG Energy Solution社(韓国)といった世界的なEV用バッテリー企業がインドネシアへの投資を進めています。同国が川下産業への移行に成功すればアジア地域のEV製造の架け橋になる可能性があり、それは同国に大幅な経済成長をもたらすと当ファンドは考えております。
 企業調査の中でもうひとつ目についたのは、インドネシアにおける韓国製品の人気です。ジャカルタのレストランやショッピングモールに入ると、BGMがたいていK-POPであることに気づきます。消費財には韓国アイドルの顔が印刷され、韓国の即席麺や化粧品も人気です。また、インドネシアの企業が韓国製に似せた製品を販売しているものもありました。SM Entertainment(韓国/メディア・娯楽)所属の人気ガールズグループである「aespa」は、当月ジャカルタでのライブツアーを終えたところです。当ファンドはK-POPや韓国食品をはじめとする韓国製品の海外輸出動向をきわめてポジティブに捉えています。
 当ファンドが面談した大手消費財企業の一部は、従来と同様の戦略を貫き、利益を上げながら着実に成長しています。インドネシアの消費者の志向に一貫性があり、変化が起きにくいことは、きわめて魅力的な特性です。インドネシア国内に大きな可能性がある一方で、一部のインドネシア企業は既に海外に目を向け、国外で成功を収めているものもあります。例えば、国内最大級の即席麺メーカーであるIndofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/食品・飲料・タバコ)は、アフリカ地域や中東地域で好業績を上げ、ナイジェリア、エジプト、トルコなどで圧倒的な市場シェアを持っています。これらの国は人口が多く、即席麺の消費量がまだまだ低水準です。同社がこうした市場で継続的に地位を高め、アフリカ地域以外の国に進出することができれば、市場規模はインドネシアよりさらに大きくなる可能性があります。同社の海外事業は2022年に前年比約19%成長し、売上寄与度はおよそ30%近くに達しています。
 ところで、新型コロナウイルス感染症の大流行によって様々な変化が起きたのは確かですが、変化していないこともあります。例えば、医療サービスの需給ギャップは依然大きく、拡大を続ける同国中間層の需要を満たすには供給がまだまだ不足しています。したがって、医療セクターには大いに投資機会があるとみてよいでしょう。
 全般的にみて、当ファンドが話を聞いた現地の人々は比較的将来を楽観視していると感じられました。これはデータでも裏付けられており、インドネシア中央銀行の消費者信頼感指数(IKK)は過去最高値圏で推移しています。こうした楽観主義は今後数十年にわたって同国の成長の原動力になる、というのが当ファンドの見方です。インドネシアの未来を楽観視しているのは当ファンドも同様で、当ファンドは参考指数であるMSCI AC Asia Indexを上回る比率で同国銘柄を組み入れています。
 なお、当ファンドは当月、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)の組入比率を大幅に引き下げました。当ファンドは前年末より同社に投資を開始し、保有比率を引き上げていました。同社は自動車、5G(第5世代移動通信)ネットワーク、家電製品など、幅広い用途の顧客向けにカスタマイズされた半導体を設計する半導体設計サービスプロバイダーです。半導体は新しい石油のような存在で、その重要性はかつてないほどに高まっており、多くの企業が自力で半導体を設計することで、自社製品の性能を最適化しようと取り組んでいます。しかし、企業の多くはApple社(米国)やTesla社(米国)のようなリソースや能力を持ち合わせておらず、半導体を自社で全面開発することはできないため、ソシオネクストのような設計サービス企業と契約することで、カスタム半導体の設計と開発を行う必要があります。したがって、同社のような設計サービス企業は半導体市場全体を上回るスピードで成長する可能性があると考えられます。当ファンドは同社が自動車向けの半導体を多数手がけていることを高く評価しており、自動車向け半導体は製品サイクルが長期化する傾向にあり、さらに車載コンピュータの要件が厳格化してきていることで需要拡大が見込めると考えております。同社の株価は当月半ば、生成型AI(人工知能)の登場によってカスタマイズ型半導体需要が拡大するという期待感から、大幅に上昇しました。当ファンドでは、同社の高性能AI関連コンピューティングにおける立場はGlobal Unichip社(台湾)やAlchip Technologies社(台湾)といった競合他社ほど強くないと考えています。したがって、今回の株価上昇要因には何らかの読み違いがあり、短期的にみて過度な上昇であると考えています。そこで当月の上昇局面では組入比率を継続的に引き下げ、当月後半の株価調整直前に保有株式の半数以上を売却しました。長期的な見通しは依然良好であること、株価調整後のバリュエーションは適正に近いと考えられることから、引き続き少額のポジションを保有し、株価が大幅な割安水準に低下した時点で再び買い増す予定です。
 一方、今年5月に組み入れたばかりのJSR(素材)は、日本の政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC)からの9,040億円の買収提案を受け入れると発表しました。同社は半導体製造に不可欠な化学薬品であるフォトレジストの製造で世界をリードする企業です。同社がJICに買収されて最終的に上場廃止になれば、それは日本の半導体材料セクター再編の足掛かりとなるでしょう。半導体の重要性が世界的な高まりを見せるなかで、日本政府は自国半導体産業の競争力強化に向けた措置を講じています。日本の株式市場は、株主還元が改善することへの期待感から好調に推移しています。しかし、自社株買いや配当だけでは市場の持続的な上昇を促すには不十分であると当ファンドは考えます。政府が業界再編を主導するのもひとつの方法かもしれませんが、結局のところ企業は構造的に強くなり、いかに利益を上げるかを考える必要があります。当ファンドは同社の株価が買収報道を受けて上昇したあと、同社株式を売却しました。
 2023年はここまでソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)、ルネサスエレクトロニクス(半導体・半導体製造装置)、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)といった半導体関連の組入銘柄が大きくリターンに貢献したため、同セクターで引き続き新銘柄を発掘していく予定です。半導体のサプライチェーンは非常に長くて専門性が高く、国によって強みが異なります。例えば、台湾にはTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)があり、その周辺で多数の設計会社がエコシステム(企業同士が協業・連携することで共存していく仕組み)を形成しています。一方、日本には世界有数の半導体材料や機器を取り扱う企業があり、異なる特徴を持つ企業がサイクルの様々な部分に棲み分けています。当ファンドの優位性は⽇本と他のアジア地域に資本を柔軟に配分できるという点にあり、当ファンドはアジアの半導体に対する投資機会を活用する上で有利な立場にあると考えています。

2023年5月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.62%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に開催された米国FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受け、一時円高ドル安が進んだことで一進一退の動きで推移しました。月半ばには海外投資家による資金流入が続き、TOPIXと日経平均株価ともに約33年ぶりの高値を更新しました。東京証券取引所の市場改革への期待や、日銀の金融緩和継続姿勢もサポート材料となりました。一方で、月後半には中国の低調なPMI(製造業購買担当者景気指数)や、市場予想を下回る国内の4月の鉱工業生産指数の結果が懸念され、弱含みで推移しましたが、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。日本を除くアジア市場に使用される⼀般的な指数であるMSCIアジア(日本を除く、米ドル建て)指数は、前月末比0.46%下落しました。世界経済の減速、米国の債務上限問題、中国における製造活動の鈍化などが懸念され、投資家の間に不安が広がりました。米中関係には未だに緊張緩和の兆しが見られません。中国は「ネットワークセキュリティ上の深刻なリスク」を理由に、主要インフラプロジェクトで大手半導体メーカーであるMicron Technology社(米国)の製品の使用を禁止すると発表しました。米国政府が中国向け半導体製品の輸出を規制したことから、中国当局が対抗措置に踏み切ったという見方が広がっています。
 中国では国営企業の改革が引き続き注目の的となっていますが、これは中国政府が国営企業のガバナンスと収益性の改善に向けた取り組みを強化しているためです。ある規制当局の高官は、投資家は中国国営企業の評価にあたって「中国らしい特色をもった企業価値評価システム」を模索すべきだと述べています。こうした要因から、当月は一部国営企業の株価が上昇しました。
 当月の好材料としては、テクノロジー関連銘柄の上昇があげられます。半導体設計会社であるNVIDIA社(米国)が好決算と良好な業績見通しを発表したことを受けて、アジアの半導体関連銘柄に対する投資家心理が改善しました。同社の半導体は生成型AI(人工知能)「ChatGPT」などのアプリケーションに幅広く使用されており、過去数ヵ月にわたってそうしたアプリケーションの伸びが加速しています。台湾と韓国の株式市場では、テクノロジーセクターの好調な業績が最大の上昇要因となりました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐6.99%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同2.13%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)、JYP Entertainment(韓国/メディア・娯楽)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)などでした。一方、Samsonite International(香港/耐久消費財・アパレル)、Zijin Mining Group(中国/素材)、オリンパス(ヘルスケア機器・サービス)などがマイナスに影響しました。
 前述の通り当月の日本の株式市場は好調に推移し、TOPIX、日経平均株価ともに約33年ぶりの高値を更新しましたが、外国人投資家の日本に対する関心はますます高まっていると思われます。東京証券取引所は2023年3月、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている上場企業に対し、株主価値の改善に向けた具体的計画を打ち出すよう要請しました。日本株式市場の低迷があまりにも長期にわたっていたことから、東証が市場改革に乗り出した形です。コーポレート・ガバナンスと株主還元の改善は、日本の株式市場において今後も根深い課題であり続ける、というのが当ファンドの見方です。
 中国でも同様の事態が起こっており、このところバリュエーションの低い国営企業の株価が上昇しています。中国証券監督管理委員会(中国の証券市場監督機関)の易会満主席は2022年11月に行った講演で、「中国らしい特色をもった企業価値評価システムの模索に努めるべき」と述べました。この発言は同氏が国営企業のバリュエーションは低すぎると考えているという意味に解釈され、国営企業の改革というテーマが再び脚光を浴びることになりました。2023年1月には、国務院国有資産監督管理委員会(主要国営企業の管理監督機関)が新たに国営企業のKPI(重要業績評価指標)を発表し、ROE(株主資本利益率)と営業キャッシュフローを重視すると明らかにしました。日中両国はほぼ同時期に、自国株式のバリュエーションの押し上げに取り組んでいることになります。
 中国の国営企業改革が成功すれば国営企業は収益を拡大し、評価を上げることができますが、それは簡単なことではないと考えます。2015年に公表された政府指針によると、国営企業は、(1)国家資本の保全と成長を目的とし、市場原理に則って営利を追求する国営企業、(2)国家の使命を担う必要性から戦略的産業で営利を追求する国営企業、(3)公共の福祉に資する国営企業の3グループに分類されていて(以下グループ1、2、3と略称)、上場国営企業の大半はグループ1と2に属しています。このところ脚光を浴びているのはグループ2の国営企業で、通信、銀行、保険、貿易といった戦略的産業に属し、バリュエーションがきわめて低い状態にあります。先行き不透明な足元の環境下では、こうした企業の配当利回りの高さは好材料とみなされる可能性があります。しかし株価が低いのは、それらの企業が国家の重い使命を背負わざるを得ず、本質的に変革しにくい側面があるためだと考えます。足元では株主還元を重視していても国家の使命を優先する姿勢が変わることはないため、今後政府の意向を最優先とする状態に戻ることも起こり得ます。当ファンドのような長期投資家としては、そうした企業に大きな期待をかけることはできません。
 グループ2と3に属する国営企業は国益を担わざるを得ませんが、国営企業がすべて国家の使命を優先しているわけではありません。経営判断に国の意向がどの程度反映されるかは、当該国営企業の規模、政権中枢との組織的な緊密度、業種など、様々な要因によって異なりますが、グループ1に属する国営企業の多くはグループ2、3に属する企業と異なり、経営判断に国の意向を反映する必要がほとんどありません。そうした企業は既に市場原理に則った形で営利を追求しているのに、なぜ経営がうまくいっていないのでしょうか。当ファンドでは、その多くに事業の質の低さと経営陣の能力の欠如という制約があるためだと考えています。国営企業の多くは、素材や汎用品の製造といったオールドエコノミーの業種に属しています。また特定の業種に規制がかけられていることも、一部国営企業が柔軟性を損なう要因となっています。そうした企業が当ファンドの投資基準を満たすことはほぼないでしょう。米国の著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏の名言に、「手腕がすばらしいと評判の経営者でも、着任先が利益の出ないことで有名な企業なら、その企業の評価は変わらない」というものがあります。しかし、国営企業はMSCI中国指数組入企業の時価総額の30%超、中国の時価総額全体の50%を占める巨大な企業群です。政府の業界再編によって企業間の競争が緩和する可能性のある分野には選別的な投資機会があると考えられます。
 当ファンドの主な投資対象は、グループ1に属し、既に経営が順調で、それほど改革を必要としないと考えられる国営企業です。国営企業はすべて経営状態が芳しくない準政府機関であると考えられていますが、それは必ずしも正しくないと当ファンドでは考えています。国営企業が多額の利益を上げれば、その最大の受益者は国家です。非効率な国営企業は、非効率な従業員、さらに酷い場合は腐敗した経営者にしか利益をもたらしません。したがって、企業から経営陣への利益の移転を防ぐことは、国営企業改革の重要なポイントです。国営企業の中には、長期にわたって市場原理に則った経営を行い、厳しい競争環境の中で生き残ってきた企業もあります。1872年に設立されたChina Merchants Group社(香港)と1938年に設立されたChina Resources Group社(香港)はその好例です。両社はいずれも香港に本社を置き、日本の総合商社のような貿易会社として出発しました。China Merchant Bank社(香港)、China Resources Beer(香港/食品・飲料・タバコ、当ファンド組入銘柄)、China Resources Land社(香港)といったいくつかの子会社は、優良企業へと発展し、過去数年で多大な株主価値を生み出しました。当ファンドはこうした企業群に属すると考えられる国営企業のうち、事業の質が高く、経営者が優秀であると判断した企業へ投資を行っています。国営企業改革による直接的な業績改善はそれほど期待できませんが、少しでも国営企業が改善されれば好材料となるためです。中国の株式市場は当月、パフォーマンスがきわめて低調でした。当月発表された各種指標の結果は芳しくなく、景気が力強く回復するという期待は打ち砕かれました。当ファンドは1月の月次報告書で、中国市場に関して慎重姿勢を強めており、中国銘柄の組入比率を控えめにしたとお伝えしました。現在もその姿勢に大きな変化はありませんが、強力な経済基盤を有し、地政学的リスクが低く、中国における消費拡大の恩恵を長期的に受ける立場にあり、組織や収益構造がシンプルな企業の組入比率を選別的に引き上げています。当ファンドの優位性は⽇本と他のアジア地域に資金を柔軟に配分できるという点にあり、ベンチマークにとらわれず、最も有望な投資先を見定めて組み入れるという手法をとっています。足元は日本の銘柄に注目が集まり、中国の銘柄は見過ごされがちですが、中国の銘柄の魅力が再び高まった時には、躊躇なく組み入れを進める予定です。

2023年4月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に軟調な米国経済指標(ADP雇用統計、ISM非製造業景況感指数)が相次ぎ、景気後退懸念が高まったことから下落して始まりました。しかし月半ばには植田日銀総裁の金融緩和維持を支持する発言や、米著名投資家の日本株追加投資を巡る思惑から上昇に転じました。月後半は米地方銀行の巨額預金流出による警戒感から下落する局面もありましたが、日銀が金融緩和維持を決定したことで株式市場に安心感が広がり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 当⽉、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。日本を除くアジア市場に使用される⼀般的な指数であるMSCIアジア(日本を除く、米ドル建て)指数は、前月末比2.07%下落しました。世界経済の低迷、米国の銀行危機の波及、中国の製造活動の鈍化に対する懸念が広がり、慎重姿勢をとる投資家が増加しました。米バイデン政権が最先端技術や機器の中国への輸出規制を厳格化する意向を示したことから、米中間の緊張はますます高まりました。
 また、スマートフォンやPCの需要低迷が、引き続きテクノロジー銘柄の重石となっています。Samsung Electronics(韓国/情報技術)は、主力の半導体メモリーの需要低迷が原因で、2023年1月~3月期決算が低調でした。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/情報技術)も、半導体業界の成長が短期的に弱含むという予想を明らかにしました。ただし両社はいずれも、将来的に成長が見込める技術の研究開発と投資を続け、半導体関連製品、とりわけ自動車、AI(人工知能)、データセンター、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)の構造的な需要増加に対応していく意向を示しました。
 一方、コロナ禍後の回復が続いたことが、アジア全域のサービスセクターの追い風となりました。海外へ出かける人も多く、とりわけ復活祭期間中の旅客数が堅調でした。中国人旅行者の姿が香港に戻り、ショッピングモール等の小売売上高が好調に推移しています。
 インドネシアとインドは、外国企業の生産拠点移転先としての人気がますます高まっています。インドネシアに対するルピア建て海外直接投資(FDI)は2023年第1四半期だけで前年同期比20.2%増加し、この勢いは今後も続くと当ファンドは考えています。Apple社(米国)のティム・クック最高経営責任者(CEO)はインドを訪問し、同国への投資をさらに拡大し、同社輸出製品の生産拠点としての役割を漸次拡大していくと発表しました。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐0.71%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同1.09%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)、ソシオネクスト(半導体・半導体製造装置)、JYP Entertainment Corp(韓国/メディア・娯楽)などでした。一方、Taiwan Semiconductor Manufacturing(台湾/半導体・半導体製造装置)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、i-Tail Corporation(タイ/食品・飲料・タバコ)などがマイナスに影響しました。
 2023年2月の月次報告書で、当ファンドがどのような観点から日本の総合商社を組み入れているのかという点ついて説明しました。当月にはウォーレン・バフェット氏が東京を訪れ、同氏率いるバークシャー・ハサウェイ社(米国)が日本の5大総合商社の組入比率を7.4%に引き上げたことを明らかにしました。同社の非保険部門担当副会長を務めるグレッグ・アベル氏はCNBC社のインタビューに応え、今後も商社が推進するプロジェクトへの共同投資を考えていると述べました。総合商社のグローバルネットワークと信用、バークシャー・ハサウェイ社が持つ資金力を組み合わせれば、好ましい取引を将来にわたって続けていくことができるというのが当ファンドの見方です。バフェット氏の訪日による投資家心理の好転も一因となって、総合商社の株価は当月、堅調に推移しました。資本循環が活発化し、株主還元が拡大していることなどから、当ファンドは引き続き総合商社をポジティブに見ています。一方、それとは別に、バークシャー・ハサウェイ社が当月、約1,600億円相当の円建て債券を発行しました。市場にはバフェット氏が日本で新たな投資先を探しているという見方が広がっています。日本経済はアジアの途上国と比べると成長が緩やかですが、世界的企業を多数擁していることから、当ファンドは引き続き投資機会を探っていく予定です。
 一方で、韓国も有望市場として見逃せないと当ファンドは考えております。韓国も日本と同様、アジアの途上国と比較すると経済成長が比較的緩やかで、高齢化も進行しています。しかし、同国にはアジアや世界で成長する力を持った世界的企業が多数存在していると当ファンドは考えております。韓国は世界のEV(電気自動車)バッテリーや半導体のサプライチェーンにおいて重要な役割を担っています。またテクノロジー関連製品以外にも、Kカルチャー人気の世界的な高まりを背景に、K-POPやドラマといったコンテンツから即席麺、菓子類、美容関連製品にいたるまで、様々な消費財を輸出しています。
 当ファンドが組み入れている韓国の銘柄の1つにCLASSYS(韓国/ヘルスケア機器・サービス )があります。同社はHIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、高密度焦点式超音波)療法用機器の売上高で世界第2位のメーカーで、2020年には世界HIFU機器市場におけるシェアの約18%を占めています。HIFUは皮膚を傷つけずに行える美容治療法で、皮膚の基本構成要素であるコラーゲンの生成を促します。同社はHIFUで築いた確固たる地位を活用してRF(高周波)美顔器の製造にも参入していますが、これにも肌を引き締める効果があります。同社の追い風となっているのは、1) 従来のスキンケア製品ではもはや細かい点にこだわる消費者の需要が満たされないため、より高度な効果を求めて美容クリニックに通う消費者が増えていること、2) HIFUやRFのような皮膚を傷つけない美容治療法(非侵襲性美容治療法)は整形手術のような痛みを感じずに高い効果を得られるため、世界的に人気が高まっていることなどが考えられます。同社は非侵襲性美容治療法のトレンドに乗る上で有利な立場にあるというのが当ファンドの考えです。
 同社は、いわゆる「替え刃モデル(商品の本体を安く売って顧客を囲い込み、その後の消耗品やサービスで儲けるビジネスモデル)」を採用し、HIFU機器やRF美顔器を美容クリニックに販売し、消耗品であるカートリッジの販売を通じて経常的に収益を生成しています。同社は2017年から2022年にかけて、売上高の年平均成長率が約32%に達しました。2022年の売上高の63%は輸出によるもので、ROE(株主資本利益率)は約38%と驚異的な高水準でした。同社は世界中に製品を輸出しており、日本、タイ、ブラジルといった他の大規模美容市場にも積極的に進出する計画です。
 同社はHIFU機器市場でいかにして成功したのでしょうか。それはつまるところ、アジア製品の典型的成功例、すなわち高性能な製品を競合より低価格で販売したことによるものだと当ファンドは考えています。HIFU療法用機器に最初に参入したのは欧米企業でしたが、同社は性能が同等で価格が大幅に安い製品で市場に参入しました。コストパフォーマンスの高さが評価された上にマーケティング面での成功も加わって、同社は欧米企業を追い越し、韓国のHIFU機器市場で支配的な地位を確立しました。高性能な製品を低価格で販売するというビジネスモデルはアジアで幾度となく成功を収めてきた手法であることから、当ファンドは今後もこのテーマに沿って投資機会を発掘していく所存です。
 当ファンドは2019年にソウルを訪れて同社経営陣と面談し、その経営手法に強い感銘を受けましたが、資本配分には改善の余地があると感じました。当時は同社株の組み入れは行いませんでしたが、モニタリングは継続していました。2022年4月にBain Capital社(米国)がCLASSYS創業者から持株の約61%を取得し、取締役の顔ぶれを一新しました。当ファンドが再検証したところ、コーポレートガバナンスと資本配分が改善する可能性が高いという点が好材料として浮上しました。さらに、Bain Capital社のグローバルネットワークを活用すれば、同社は中国や米国も含めた世界各国への進出も夢ではないと考えられます。そこで当ファンドは従来の見解を変更し、2022年10月に同社に投資を開始しました。
 当ファンドの優位性は日本と他のアジア地域に資本を柔軟に配分できるという点にあり、ベンチマークにとらわれず、最も有望な投資先を見定めて組み入れるという手法をとっています。当ファンドは2022年10~12月以降、バリュエーションが割安な韓国銘柄の組入比率を大幅に引き上げました。現在、韓国の組入比率は、参考指数(MSCI AC Asia Index )を上回っています。韓国の組入銘柄の多くは2022年10月以降、市場平均を大幅にアウトパフォームしており、当ファンドのパフォーマンスにプラスに貢献しています。当月、韓国のEVバッテリー企業に対する投資家心理があまりにも強気すぎると考え、同セクターの組入比率を引き下げました。また、大規模な再編を進めている韓国のエンターテインメント関連銘柄を新たに組み入れました。こちらについては今後の月次報告書で取り上げる予定です。

2023年3月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の利上げ再加速の思惑を受けて米国株式市場が軟調に推移する中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した欧米金融不安の急拡大を受け、リスク回避姿勢が強まったことから大幅な下落に転じました。しかし月後半になると、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループ買収や米当局による預金保護などの対応で金融システムへの不安が和らぎ、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 3月は何かと出来事の多い月でした。中国では年に1度の全国人民代表大会が開催され、首相や中国人民銀行総裁といった今後5年間の主要人事が正式決定されました。さらに2023年の中国経済や政策課題の方向性も示され、実質GDP成長率目標は5%、財政赤字目標(GDP比)は2022年の2.8%から3%へとわずかに引き上げられた数字が設定されました。これにより、大規模な景気刺激策に対する期待は打ち砕かれ、株式市場の重しとなりました。
 その一方で、様々な分野における「自立自強」推進の必要性が訴えかけられ、その一環として科学技術部の再編が発表されました。この再編に関して注目すべき点は、習近平国家主席に直属する形で中央科学技術委員会が設立されることです。同委員会設置の狙いは、全国的なイノベーションシステムの構築、中国の科学技術発展に向けた大型計画や政策の推進、テクノロジーセクターにおける主要な問題の解決に向けた協調などを通じ、科学技術に関する一元的指導力を強化することにあります。このことから、国家戦略の中で科学技術の占める位置が向上しつつあり、その過程で魅力的な投資機会が訪れることになると当ファンドでは考えております。
 世界の銀行業界では危機が発生しました。米シリコンバレー銀行が破産を申請し、その余波に対する懸念から地方銀行の株価が全般的に下落しました。幸いなことに、FRB(⽶国連邦準備制度理事会)が迅速に介入したため、足元では危機は収束しています。英国では金融大手のHSBCが米シリコンバレー銀行の英国事業を買収しました。利上げペースの鈍化を予測する声が出てきたことから、ドルと米国債の利回りは下落しました。欧州では、長期にわたって低迷状態にあったクレディ・スイス・グループがスイスの⾦融⼤⼿UBSに買収されたことを発端に、英国のHSBCやStandard Chartered Bank、米国のPrudential Financialなどの国際的大手銀行や保険会社の株価が下落しました。なお、当ファンドは金融セクターの組入比率が比較的低く、またインドやインドネシアをはじめとするアジア新興国の金融銘柄を主力銘柄として組み入れているため、世界の銀行業界で起きた事態の影響はそれほど受けませんでした。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐1.07%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同1.36%の上昇となりました。
 当⽉パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄は、CLASSYS(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Samsonite International(香港/耐久消費財・アパレル)などでした。⼀⽅、i-Tail Corporation(タイ/食品・飲料・タバコ)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)、Shenzhou International(中国/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。

「銀行というものは、愚かな過ちさえ犯さなければすばらしいビジネスである」 – ウォーレン・バフェット

 当ファンドでは先進国の金融銘柄は組み入れておりません。多くはROEが低く、構造が複雑で、さらに全般的にみて成長性も限られていると考えられるためです。今後の見通しがそれほど良好なわけでもなく、銀行というものは短期間に少しでも多くのリターンを絞り出そうとして、時折「愚かな過ち」を犯し、危険な橋を渡ろうとする傾向があります。米シリコンバレー銀行の場合、コロナ禍後の超低金利期に多額の資産を長期の政府債と住宅ローン担保証券に投じました。金利が上昇し始めると、同行の保有銘柄は資金の回収期間が長いので、時価評価で多額の損失を出しました。一方、同行の預金はスタートアップ企業やベンチャーキャピタルファンドといった特定の大口預金者に集中していたため、預金流出が発生しやすい状態にありました。そこで同行は損失を出してでも回収期間の長い保有債券を売却し、流出に備えざるを得なくなったのです。そして資本調達の必要があることを公表したことで、預金の流出は加速し、破綻に追い込まれました。つまり流動性と資産負債管理の両面で「愚かな過ち」を犯したことが、同行の破綻の原因と考えます。
 一方、アジアの新興国はまるで状況が異なります。例えばインドネシアの大手銀行を見れば、それほど高いリスクを取らなくても十分なリターンをあげられることは明らかであると考えます。当ファンドの保有銘柄であるBank Mandiri(インドネシア/銀行)を例に、それを説明しましょう。インドネシアの銀行セクターは寡占市場です。4大銀行のBank Mandiri、Bank Central Asia、Bank Rakyat Indonesia、Bank Negara Indonesiaは小規模銀行を尻目に市場シェアを拡大し、盤石な収益性と健全な財務基盤を維持しています。市場が寡占状態にあることとは別に、インドネシアは銀行の活用率が依然きわめて低く、成人人口の70%以上がいまだに銀行を利用していないか、あるいは十分なサービスを受けていません。加えてインドネシアではEV(電気自動車)バッテリーの主要素材であるニッケルが豊富に産出されるため、同国は資源輸出国からEVバッテリーなどの製造拠点へと転じつつあります。こうした背景から、インドネシアの大手銀行には多大な成長余地があると当ファンドでは考えています。
 商業銀行の主力事業は融資で、概ね汎用商品化しています。この事業の成否の鍵を握っているのはコスト面の優位性です。4大銀行の預金額のシェアを合計すると、同国全体の約50%以上に達しています。さらにCASA(当座預金と普通預金の合計額)比率でみると、4大銀行の市場シェアは更に高くなり、10年前との比較でも大きく上昇しています。インドネシアでは給与振込先の多くが大企業との関係が深い大手銀行の口座です。大手銀行は利便性にも優れており、支店網が充実していて、オンラインバンキングアプリも高機能です。こうした要因から、顧客は利息の高い中小銀行をよそ目に、大手銀行への預金を続けるのです。大手銀行は給与の受け取りや公共料金の支払いといった現金取引額で圧倒的なシェアを占めていますが、こうした資金は移動しにくく、コストが低額です。Bank MandiriはCASA比率が約73%程度の水準にあり、は国内第2位です。同行のような大手銀行は質の高い預金を高い割合で獲得していることから、預金コストがきわめて低くなります。こうした大手銀行は、低リスク負債のスプレッドを利用して多額の利益を上げることができます。また規模の経済が機能するため、費用収益比率も低水準に留まっています。また同行は巨額投資によってデジタル化を進めていますが、それでも費用収益比率は業界最低水準にあります。また同行のバンキングアプリ「Livin’」の配信開始以来のダウンロード数は、既に業界最高の2,000万件以上に達しています。同行の2022年の預金増加額の30%は、Livin’を通じて獲得した新規顧客によるものでした。アプリの機能は預金取引以外にも拡大し、航空券の予約といったサービスも始まっています。
 一方、成長と利益率は別にして、銀行というものは慎重に融資を行って、損失を回避する必要があります。ウォーレン・バフェット氏の言う「愚かな過ち」とは、多くの場合、資産側で危ない橋を渡ることです。大手銀行はコストの面で優位に立っているので、質の低い借り手に融資するという形で危険を冒さなくても十分なリターンを上げることができます。Bank Mandiriの不良債権比率は低水準にあるため、同業他行より低リスクで高いリターンを上げることができます。大手銀行の利益は業界全体の多くを占めています。Bank Mandiriは上記の優位性を兼ね備えているため、ROA(総資産利益率)が約3.4%、ROE(株主資本利益率)は約23%に達しています。ここで重要なのは、インドネシアの主要銀行はこれほどのリターンを上げながらも、財務内容が先進国の銀行と比べて比較的堅実であることです。例えば、Bank of America社(米国)のCET1比率(普通株式等Tier1比率、普通株式等Tier1をリスクアセットで除した比率)は約11%、ROEは約10%です。一方Bank MandiriのROEは約23%、CET1比率は約18%です。この点が、当ファンドがインドネシアの大手銀行に有望性を感じる所以です。
 世界の銀行セクターを取り巻く不確実性は長期化する可能性がありますが、当ファンドは引き続き、本質的に安全性が高く、財務内容が良好で、収益が底堅い銘柄を選好しています。

※Bank Mandiriの数字は銀行本体のみ表示しており、同行傘下関連会社の数字は除外しています。

2023年2月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.95%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、米長期金利上昇などを受け米国株式市場が軟調となる中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、市場予想を上回る米国のCPI(消費者物価指数)やPMI(総合購買担当者景気指数)を受けて利上げの長期化懸念が再燃し、日本株も下落に転じましたが、月後半にかけては、植田次期日銀総裁候補が所信聴取で金融緩和継続を明言したことや円安の進行が日本株相場を下支えし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 アジア株式市場の大半は、1月に堅調に推移した後、当月は下落しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、6.81%下落して⽉を終えました。
 これは主に、MSCI中国(米ドル建て)指数の同10.37%下落が影響しました。中国の経済活動再開を受けた消費回復に関する好調なデータにもかかわらず、米国領空内の中国の偵察気球疑惑を巡って米中間の緊張が再燃し、人民軍と関係する中国企業に対する制裁が強化されたことで、投資家心理は冷え込みました。また11月以降に大きく上昇していた中国のインターネット関連銘柄も、高まる規制懸念やJD.com社(中国)による積極的な補助金キャンペーンを契機とした価格競争の可能性を受けて、下落に転じました。
 米国の力強いインフレおよび労働市場データも、米国利上げのペース加速と長期化に対する懸念を引き起こし、新興市場の株価に下押し圧力を加えました。インドの指数は当月もAdani危機が重石となり、Adani group社(インド)関連銘柄は大幅にアンダーパフォームしました。台湾のテクノロジー企業は、2022年第4四半期決算説明会で2023年第1四半期の低調な収益見通しを発表しましたが、一部の投資家はそれをサイクルの「底」と解釈し、一部企業の株価の下支え要因となりました。また、最近のChatGPT(AIチャットプログラム)の急速な普及が、半導体やメモリの需要増につながる可能性を指摘する声もあります。

ファンドの運用状況

 当⽉、当ファンドのパフォーマンスは前月末比1.22%の下落、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同1.29%の下落となりました。
 当月パフォーマンスにプラスに貢献した銘柄はMitra Adiperkasa(インドネシア/小売)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)、JYP Entertainment(韓国/メディア・娯楽)、三菱商事(資本財)など、アジアの各地域に分散していました。一方で、Meituan(中国/小売)やAlibaba Group Holding(中国/小売)、リクルートホールディングス(商業・専門サービス)などがマイナスに影響しました。リクルートホールディングスの2023年3月期第3四半期業績が期待外れに終わったことから、当ファンドは同社株を売却しました。米国の求人市場の低迷が長期化し、同社の主力事業であるHRテクノロジー事業の足枷になり続けるとみられるためです。
 三菱商事は、2023年3月期通期の純利益予想を1兆300億円から1兆1,500億円に、一株あたり配当(DPS)を155円から180円にそれぞれ引き上げました。また、1,700億円の自社株買いを加えることで、総還元額は純利益の約38%に相当する4,320億円になると予想しています。同社は累進配当を採用しているため、2024年3月期のDPSは、少なくとも180円(2月末時点の配当利回り4%で算出)になると予想されます。
 丸紅は、新たな株主還元方針を発表しました。同社は2022年度純利益を、過去最高の5,300億円と予想しています。また、DPSは78円を基点とし、中長期的な利益成長に合わせて増配するという累進配当方針も発表しました。さらに、総還元性向30~35%を目標とした、機動的な自社株買い方針を発表しました。
 このような両社の株主還元拡大を、株式市場は好調な増益トレンドとともに好感しています。
 日本の総合商社は多くの産業に関与しています。日本は天然資源に乏しい国であり、これらの総合商社は戦後の経済成長期に日本の産業界の輸出入を支える重要な役割を果たしました。1980年代には、貿易を通じて製造業の海外進出を支援しました。総合商社は仲介業者として、商品の輸出入から手数料収入を得ていました。
 しかし、過去20年の間にグローバルなサプライチェーンが構築される中で、仲介業者や貿易会社としての役割は大きく低下しました。そのため、総合商社は強力な資本力や幅広い専門知識を活用して、より投資を中心としたビジネスモデルへと進化しています。開発途上国での長年の事業経験を持つことから、総合商社は現地政府へのアクセスを獲得しており、また現地の需要を見極め、さまざまなインフラプロジェクトを調整する能力を有しています。今日の商社は、上流のコモディティから下流の小売事業まで広範な業界を網羅する、事実上のコングロマリットです。例えば、三菱商事は㈱ローソンおよび日本KFCホールディングス㈱の主要株主です。伊藤忠商事㈱は㈱ファミリーマートのオーナー企業であり、㈱デサントの主要株主です。三井物産㈱は、IHH Healthcare社(マレーシア、東南アジア最大級の病院グループの1つ)の主要株主です。
 アジアの他の地域では、コングロマリットが現地経済に深く関与しているのが一般的です。

  • 貿易会社がコングロマリットになった例:Swire Pacific Offshore Holdings社(シンガポール)、Jardine Matheson Holdings社(香港)
  • アジアの富豪が経営する多角化したコングロマリット:香港のCK Assets Holdings社、CK Hutchison Holdings社、インドのReliance Industries社
  • 韓国財閥:Samsung Group社、LG社、Hyundai Group社など。Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器、当ファンド保有銘柄)、SK Hynix社、LG Energy Solution社など、これらの財閥に属する最も価値の高い子会社はいずれも上場しています。そのため、持株会社は株式市場で特に注目されていません。

 総合商社は日本固有のもので、海外の同業他社との対等な比較はできません。しかし投資については、他のコングロマリットと比較することが可能です。過去10年間、日本の総合商社の株価リターンは、アジアの主要上場コングロマリットの大半を大きく上回ってきました。CK Hutchison Holdings社、Swire Pacific社(香港)、Jardine Matheson Holdings社の過去10年間のトータルリターンはマイナスからゼロ近辺でしたが、日本の5大総合商社(三菱商事、丸紅、伊藤忠商事㈱、三井物産㈱、住友商事㈱)は米ドルベースで約116%~267%上昇しました。その結果や以下の理由などから、世界のコングロマリットよりも日本のコングロマリットである総合商社が引き続き注目を集めています。

  • コングロマリットは、幅広い業界に資本を配分する事業です。総合商社の実質的な価値は、さまざまな業界に跨がる、世界中の専門家で構成される広範なネットワークにあります。商社はこれにより、多様な機会を獲得することができます。アジアのコングロマリットは一般的に、より少数のセクターに集中する傾向があります。例えば、Swire Pacific社は、香港の不動産、飲料、航空事業に注力し、CK Hutchison Holdings社は港湾と通信事業を中心に、欧州に大きな強みを持っています。総合商社は、セクターと地理の面ではるかに多様化しているだけでなく、貿易会社としての経歴を生かし、上流業界と下流業界とのシナジーも創出します。
  • 総合商社は、天然ガス、銅、農産品などのコモディティ事業から利益を創出します。供給成長の鈍化、エネルギー転換、世界的な地政学的リスクの高まりを背景に、コモディティ価格が長期的に上昇するリスクが存在しますが、総合商社はこのリスクを低減する幅広い事業を展開しています。
  • 多くのアジアのコングロマリットは家族経営で、トップダウン型の意思決定プロセスを採用しているため、経営者の利益が株主の利益と整合するとは限りません。総合商社はプロの経営陣によって運営されています。かつての総合商社は株主還元をほとんど重視してきませんでしたが、丸紅や三菱商事の新たな株主還元方針に見られるように、状況は変化しています。新しい成長分野への資本配分拡大に向けた総合商社の取り組みは改善しており、株主還元も改善しています。

 当ファンドは、総合商社のバリュエーションは魅力的だと考えています。当ファンドは、三菱商事と丸紅の2銘柄に投資しています。三菱商事のPBR(株価純資産倍率)は0.9倍を下回っており、2022年度の総還元額は4,320億円になると予想されています。足元の株主総利回りは約6%です。丸紅のPBRは1.2倍を下回っており、78円の予想DPSと、300億円程度の自社株買いを行うと当ファンドでは予想しています。現在の株主総利回りは約5%です。当ファンドはまた、両銘柄が自己資本を1桁台後半ペースで拡大するとみています。
 当ファンドは、1)割安なバリュエーション、2)インフレヘッジ、3)将来の成長を牽引する資本配分改善の可能性を備えた銘柄に投資しています。この組み合わせはアジア全域を見渡しても稀だと思われます。当ファンドの戦略の強みは、日本とアジアから最良銘柄の選択が可能でることです。
 当月は、当ファンドの組入銘柄にいくつかの変更を加えました。全体としては中国株の保有比率を引き下げ、台湾や東南アジアなどの他地域の保有比率を拡大しました。株式市場の注目は米国のインフレと、今後の⽶国連邦準備制度理事会(FRB)の政策決定に再び集まっています。当ファンドは引き続き、収益フローとキャッシュフロー創出が底堅い銘柄を選好し、収益の裏付けが少ない高成長銘柄を回避していく方針です。

2023年1月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2023年1月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.42%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は下落から始まりました。月前半に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した2022年12月の米製造業景況感指数が2年7カ月ぶりの低水準だったことや、中国製造業購買担当者景気指数(PMI)も低迷が続いたことから、景気後退への懸念が高まったのが主な要因と見られます。月半ばには、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持すると発表したことを受け、株式市場は上昇に転じました。月後半には、米国連邦準備制度理事会(FRB)の理事が利上げ幅緩和の支持を表明したことや、米有力紙による早期利上げ停止の観測報道を受け、日本でも成長株を中心に株価が堅調に推移した結果、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

<アジアの株式市場>

 2023年はアジア株式市場の大半が好調な滑り出しを見せました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、8.22%上昇して⽉を終えました。台湾、韓国、中国、香港が好調だった一方、インド、インドネシアがマイナスとなりました。
 中国では経済再開の動きが継続しました。春節(旧正月)期間中の旅行や支出額に関する統計指標は堅調で、新型コロナウイルスの感染者数にも増加の兆しが見られないため、今後も経済再開の動きは継続するものと思われます。これを受けて中国のインターネット関連銘柄、EV(電気自動車)関連銘柄がアウトパフォームしました。
 台湾と韓国の堅調なパフォーマンスを牽引したのはテクノロジー関連セクターでした。半導体セクターについては、2023年上半期業績に関する不安感は拭えていないものの、投資家が短期的な株価動向以外にも目を向け、データサーバやAIアプリケーション、自動車、IoT(モノのインターネット)などによってセクター全体が再び構造的成長軌道に乗ることへの期待が高まったため、株価が反発しました。一方、インド株式市場では資金の流出が続きました。その一因は投資家が再び資金を中国、台湾、韓国に配分していることにあります。加えてAdani Group社(インド)の危機で時価総額が約1,080億米ドル(約13兆9,000億円)消失したことによって、国有銀行のコーポレートガバナンスや潜在的損失に関する懸念が生じ、投資家心理が悪化したことも要因の一つです。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは前月末比7.64%の上昇、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同5.95%の上昇となりました。中国市場では、経済再開と経済の早期回復に対する期待感から株価が大幅に上昇しました。前年好調だったインドとインドネシアは、中国への資金回帰の影響もあり、いずれも低調なパフォーマンスとなりました。
 当月は、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Alibaba Group Holding(中国/小売)、WuXi AppTec(中国/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)などがプラスに貢献しました。前月述べたように、当ファンドは直近半導体関連銘柄を積極的に組み入れており、上記以外にTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、ソシオネクストなどもパフォーマンスに貢献しました。一方、ICICI Bank(インド/銀行)、ICICI Lombard General Insurance(インド/保険)などがマイナスに影響しました。
 中国では3年ぶりにコロナ関連の行動規制がない春節が終わったところで、今後の経済回復ペースが注目されます。速報データの内容は以下の通り良好ですが、経済回復の強さが持続的なものになるのか否かを判断するには時期尚早だと考えます。

  • 1月7日から1月28日までの公共交通機関による推計旅行者数は前年比約56%増となったが、いまだに2019年と比較すると約53%に留まっている
  • 同期間の航空旅客数は2019年と比較すると約70%まで回復した
  • 春節期間中の総旅行者数は前年比約23%増の3億800万人に到達、2019年と比較すると約89%にまで回復し、旅行代理店と関連サービスの売上高は約3,750億元(約7兆2,260億円)となり、2019年との比較でも73%に達した
  • 春節期間中の劇場興行収入は67億6,000万元(約1,300億円、前年比約12%増)、総入場者数も1億2,900万人(前年比約13%増)となった
  • 中国国家統計局が発表した1月のPMIは54.4と大幅に上昇し、7ヵ月ぶりの高水準となった

 注目すべきは、中国では春節期間中に国民の大移動が復活したにもかかわらず、新型コロナウイルス感染拡大のピークが過ぎて中国社会の不安感が薄れ、国民の間で生活の正常化に対する期待感が高まっていることです。
 春節についてもう一つ例年と異なるのは、中国の国営テレビ、中央電視台(CCTV)が放送する毎年恒例の旧正月年越し歌番組「春節連歓晚会」(春晩)で、紅包(お年玉)のスポンサーにインターネットプラットフォーム企業の名前がなかったことです。インターネットプラットフォーム企業にとって、春晩の紅包配布は貴重な知名度獲得の手段でした。Tencent Holdingsが提供するWeChatが、2015年に春晩の中でWeChat Payを通じて紅包を配布したのが始まりで、翌年以降も続けられて慣例となったものです。WeChat Payはこのイベントによって一夜にして莫大な数のユーザーを獲得し、2日後には2億枚の銀行カードがWeChat Payに紐づけられました。この出来事によって電子決済が急速に普及したことが、その後数年間で他のモバイルインターネットサービスが大きく発展するきっかけとなり、インターネット業界の黄金期が始まりました。それから毎年、インターネットプラットフォーム企業はユーザー獲得手段として紅包のスポンサーを務めてきましたが、今回スポンサー企業が現れなかったことは、インターネット業界が成熟段階に入ったことを示していると考えられます。インターネットプラットフォーム企業はユーザー獲得からコスト管理に注力し始めており、こうした転換はインターネット業界の持続性を高め、健全な成長を促すため、株主にとっても有益であると当ファンドは考えています。
 半導体セクターに目を向けると、1) 中国の経済再開によって需要が刺激されて需要の回復が早まる可能性があり、特にスマートフォンでその傾向が強いこと、2) FRBの利上げペースが今後は鈍るという楽観的な見方があること、3) 一部セグメントで在庫のピーク到達が視野に入っていることなどが、株価の下支え要因となりました。当ファンドの組入銘柄では、Samsung Electronicsが半導体メモリ関連の設備投資削減に関する市場の期待を裏切りました。半導体メモリは現在下降サイクルにあり、主要企業が設備投資と生産量を削減することで需給バランスの回復が早まることが期待されるため、同社の動向に注目が集まっていました。同社は2022年第4四半期の決算発表で、2023年のメモリ関連設備投資は2022年並みになる(設備投資を削減しない)と述べました。これを受けて半導体メモリの下降サイクルが長期化する懸念が高まりましたが、同社は設備投資の中でも新規製造設備、研究開発、極端紫外線(EUV)のインフラの割合を増やすとも述べています。これは生産関連の設備投資が減少する可能性があることを意味しており、技術面の競争力を長期的に高めるため、製造設備の最適化や生産ラインのアップグレードもより活発に行われるものと思われます。同社は減産について明言しませんでしたが、こうした製造設備を一時的に最適化すると、その過程が大幅な減産に繋がることがあります。したがって全体でみると、同社の今年の生産量はほとんど伸びないというのが当ファンドの見方です。ここで重要なのは、この厳しい下降サイクルの中で同社の競争力がますます強まっていくと考えられることです。主な競合先であるSK hynix社(韓国)は2022年第4四半期に多額の営業損失を計上し、2023年の設備投資を前年比50%以上減額すると発表しました。半導体業界を取り巻く環境悪化の影響で、競合先の投資余力は低下していますが、Samsung Electronicsは収益源の分散と健全な財務体質に支えられて投資余力を残しており、競合先との差がますます拡大しています。今回の下降サイクルを抜ければ、同社の体力はさらに強くなっていると当ファンドは考えています。
 当月は、当ファンドの組入銘柄に大きな変更はありませんでした。中国経済の再開は好材料ですが、経済回復が市場の予想ほど堅調に進むかという点が主要なリスクになると考えます。加えておよそ3年にわたるコロナ禍と不動産市場の低迷によって、中国の消費者心理が冷え込む可能性もあります。当ファンドでは、中国に関して慎重姿勢を強めており、生活必需品のような安定的な収益源を持ち、生活に欠かせないサービスや製品を提供する企業の組入比率を徐々に引き上げています。したがって、中国の回復が期待外れに終わっても、当ファンドは比較的安定したパフォーマンスを維持できると考えています。

2022年12月の運用コメント

株式市場の状況

<日本の株式市場>

 2022年12月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.57%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は、11月30日にFRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル議長が12月のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げ減速を示唆したことを受け、上昇して始まりましたが、その後は米国景気悪化懸念の高まりなどから下落基調をたどりました。月半ばには、欧米中銀の金融引き締め継続による景気悪化懸念や、日銀が長期金利の許容変動幅を修正したことなどを受け、金融政策の転換懸念から株式市場は大幅に下落しました。月後半にかけては、中国が事実上「ゼロコロナ政策」を終了したことでインバウンドや中国経済再開期待が生じる一方、米国の半導体株安や円高の進行を受けて、一進一退で推移しました。

<アジアの株式市場>

 アジア株式市場は11月には堅調なパフォーマンスを記録しましたが、当月はまちまちの値動きとなりました。香港市場などは堅調でしたが、韓国、台湾、インドなどのパフォーマンスが振るいませんでした。⽇本を除くアジア太平洋市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア太平洋(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比0.44%下落して⽉を終えました。中国のゼロコロナ政策が予想以上に早期に緩和されたことで、中国と香港の株式市場の地合いが改善しました。新型コロナウイルスの感染者数は今後数週間でいったん急増するものの、その後は中国のビジネスと経済は他国同様に正常化するというのが投資家の見方である模様で、航空、旅行、レストランをはじめとする経済再開の恩恵を受けると期待される銘柄が堅調に推移しました。また、中国政府が不動産セクターなどに対する規制を緩和したことも好材料と見なされたようです。
 中国と香港以外では、FRBがさらなる利上げを行ったこと、2023年に世界経済の成長が鈍化するという懸念が広まったことなどから、投資意欲が低調気味でした。韓国と台湾は世界経済への依存度が高いことから、パフォーマンスが振るいませんでした。半導体関連銘柄は、2023年の短期需要見通しが下方修正されたため、株価が下落基調となりました。インドとインドネシアは2022年のパフォーマンスが他市場を上回ったために好材料に乏しく、投資家の関心は中国と香港株式の買い増しに向かいました。また、日銀が長期金利の誘導目標を修正したことも、円高の要因となりました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの2022年のリターンは前年末比21.99%の下落、参考指数のMSCI AC Asia Index(円ベース・配当込み)は同5.85%の下落となり、 当ファンドにとっては2022年も試練の年となりました。スタグフレーション(景気が低迷する中で物価が上がり続ける状態のこと)に対する懸念から、多くの当ファンド組入銘柄の株価が下落しました。一方、FRBは大規模な金融引き締めによってインフレの抑制に努めました。バリュエーション算出時のリスクフリーレート(リスクがほとんどない商品から得られる利回りのこと)として一般に使用される米国10年債利回りは、2021年末の約1.5%から2022年末には約3.8%まで上昇しました。これは株式、特に当ファンドが選好する成長株のバリュエーションにとって大きな重しとなりました。
 その一方で、FRBの金融引き締めで景気後退が発生するのではないかという懸念が生まれ、多数のセクターで成長見通しが下方修正されました。当ファンドが高い比率で組み入れているグローバル成長株は、世界的な景気循環の影響を受けやすい銘柄です。例えばキーエンス、リクルートホールディングス、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)などがこれにあたります。さらに、コロナ禍中に巣ごもり消費の恩恵を受けた銘柄は、反対に経済再開が逆風となりました。例えばソニーグループ、メルカリなどがこうした銘柄にあたります。魅力的な価値と利便性を提供するオンラインサービスが引き続き成長するという当ファンドの見方に変わりはありませんが、コロナ禍によって世界中でライフスタイルの見直しが起こったことは、短期的に見ると前述の銘柄群にとって不利に働く可能性があると考えます。
 中国では2022年に多くの変化がありました。政府が複数回にわたってロックダウン(都市封鎖)を行ったことで、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)やLi Ning Company(中国/耐久消費財・アパレル)といった当ファンドの組入銘柄は大打撃を被りました。中国国内では年初から新型コロナウイルス感染者数が増加したことで、深センや上海といった主要都市が大規模なロックダウンを実施し、市場関係者に衝撃を与えました。2月にはロシア軍がウクライナに侵攻しました。この不幸な出来事によって、世界の地政学的情勢は大きく変化し、米中関係はこの数年間で最悪の状態にまで悪化し、中国の台湾侵攻に対する懸念が高まりました。10月には中国全国人民代表大会で習近平氏の3期目の主席就任が承認され、権力の集中がさらに進んだことで、市場にまたもや混乱が生じました。中国政府による不動産市場の取り締まりとゼロコロナ政策も経済成長の足かせとなりました。従業員の多くが高所得者層である大手インターネット企業では大規模な人員削減を開始し、消費の低迷に追い打ちをかける形となりました。MSCI中国指数(米ドル建て)は10月に2016年以来の安値まで下落しました。しかし、12月に入るとゼロコロナ政策に対する一連の抗議活動を受けて、中国政府がゼロコロナ政策を緩和し始めました。さらに2023年の1月8日から新型コロナウイルス関連規制の大幅緩和が発表されると、MSCI中国指数(米ドル建て)は経済再開に対する期待を受けて10月の底値から約36%の大幅上昇をみせました。同指数は第4四半期(10月~12月)には約13%の上昇、2022年通年でみると約22%の下落でした。
 ゼロコロナ政策の突然の転換は大きなサプライズとなり、中国における政策予測の困難さが浮き彫りになりました。中国共産党上層部の動きを予測することは不可能であると考えます。目に見える動きから今後の動向を予測することしかできず、その変化が大きい場合は迅速な対応が求められます。新型コロナウイルス関連の政策における変化は大きな転換点であり、波乱含みとなる可能性はあるものの、この政策転換によって世界の投資家の関心が再び中国市場に向く可能性があると、当ファンドでは考えています。こうした環境下で、当ファンドでは香港と中国関連銘柄の組入比率を引き上げています。
 2023年に入っても先行きの見通せない状況が続いております。インフレ率はピークを付けたという見方もありますが、FRBによる2%のインフレ目標が早期で達成されることは考えにくく、金利は当面高止まりすると思われます。ただし、市場の関心は金利から世界の経済成長見通しの減速に移る可能性があります。中国は世界の経済成長の原動力となる可能性があるため、2023年の世界経済にとって中国の経済再開は重要なポイントであると考えます。中国の動向はアジア各国に大きな影響を与えるため、その経済回復が他のアジア諸国にとっては好機であると考えます。一方、世界第2位の経済大国である中国の経済が再開すれば、商品価格やインフレ率の押し上げ要因となる可能性もあります。中国がこの初期段階をうまく乗り切れば、他国と同様に経済は回復軌道に乗ると思われます。新型コロナウイルスの感染者数がピークを越えたと思われる北京などの都市では、移動や外食などに関わる経済活動が活発になりつつあります。さらに、インターネットなど一部セクターでは規制による逆風が和らいでいます。中国は12月に新規ゲームの承認を再開しました。注目すべきは今回44本もの輸入ゲームが承認されたことです。輸入ゲームが承認されたのは2021年の取り締まり開始以降で初めてで、これは中国政府が健全なゲーム業界を育てたいと考えていることを端的に示しており、規制リスクに関しては最悪の時期を脱したというのが当ファンドの見方です。
 当ファンドは2022年に、日本電産など成長見通しが不確実でバリュエーションが割高な組入銘柄を売却しました。2022年末時点では、中国の消費関連銘柄やインターネット関連銘柄、半導体関連銘柄の組入比率が大幅に増加しています。当ファンドは中国に投資するリスクを認識しているため、外食産業、スポーツウェアなどの規制リスクが低い企業やインターネット関連など規制面の逆風が弱まっているセクターを慎重に選別しています。スポーツウェア、フードデリバリープラットフォーム、外食産業などの組入銘柄の一部は経済再開の恩恵を受けることが期待されます。また、繊維製品や医療機器などの製造業や化学関連銘柄がサプライチェーンの混乱緩和や需要回復の恩恵を受けることも期待されます。半導体の一部セグメントも底打ちが近く、バリュエーションにはすでに悪材料が織り込まれていると考えられます。中国経済の回復が世界経済の底上げに寄与できれば、半導体の需要サイクルの底打ちはさらに早まる可能性もあります。当ファンドではこれまで半導体関連銘柄の組み入れにあまり積極的ではありませんでしたが、組み入れを拡大する好機であると考えています。

主な投資リスク、費用等

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