スパークス・新・国際優良アジア株ファンド
(愛称:アジア厳選投資)
- NISA成長投資枠対象ファンド
- 日経新聞掲載名
- アジア厳選
- 分類
- 追加型投信/海外/株式
- 設定日
- 決算日
- 毎年5月25日
基準日:2025.03.25
- 基準価額
- 13,755円
- 前日比
-
+170円
+1.25% - 純資産総額
- 4.1億円
- 分配金情報(税引前)
- 0円
- 交付目論見書(1.9 MB)
- 請求目論見書(2.8 MB)
- 月次報告書 (525.4 KB)
- 交付運用報告書(855.2 KB)
- 運用報告書(全体版)(742.8 KB)
- 当ファンドは、NISAの「成長投資枠(特定非課税管理勘定)」の対象ですが、販売会社により取扱いが異なる場合があります。詳しくは、販売会社にお問い合わせください。
基準価額推移
分配金実績
決算頻度:1回/年
- 設定来合計
- 0円
- 直近12期計
- 0円
分配金実績一覧
- 2024年05月27日
- 0円
- 2023年05月25日
- 0円
- 2022年05月25日
- 0円
- 2021年05月25日
- 0円
- 2020年05月25日
- 0円
- 2019年05月27日
- 0円
- 2018年05月25日
- 0円
- 上記以前の分配金については、「選択した期間のデータをダウンロード」ボタンからご確認いただけます。
月次報告書
2025年
2024年
- 12月(519.1 KB)
- 11月(522.9 KB)
- 10月(496.1 KB)
- 9月(574.1 KB)
- 8月(510.3 KB)
- 7月(509.7 KB)
- 6月(510.8 KB)
- 5月(511.9 KB)
- 4月(501.0 KB)
- 3月(508.5 KB)
- 2月(517.7 KB)
- 1月(522.2 KB)
2023年
- 12月(561.8 KB)
- 11月(533.0 KB)
- 10月(532.8 KB)
- 9月(504.8 KB)
- 8月(483.8 KB)
- 7月(502.2 KB)
- 6月(593.8 KB)
- 5月(579.8 KB)
- 4月(583.1 KB)
- 3月(612.7 KB)
- 2月(618.4 KB)
- 1月(587.0 KB)
2022年
- 12月(583.8 KB)
- 11月(611.2 KB)
- 10月(661.6 KB)
- 9月(641.8 KB)
- 8月(613.1 KB)
- 7月(608.4 KB)
- 6月(607.6 KB)
- 5月(604.9 KB)
- 4月(598.7 KB)
- 3月(638.9 KB)
- 2月(658.5 KB)
- 1月(716.7 KB)
2021年
- 12月(632.4 KB)
- 11月(622.9 KB)
- 10月(643.8 KB)
- 9月(645.4 KB)
- 8月(618.3 KB)
- 7月(618.8 KB)
- 6月(641.4 KB)
- 5月(662.0 KB)
- 4月(631.0 KB)
- 3月(705.9 KB)
- 2月(922.8 KB)
- 1月(716.8 KB)
2020年
- 12月(724.6 KB)
- 11月(913.7 KB)
- 10月(712.6 KB)
- 9月(920.1 KB)
- 8月(917.1 KB)
- 7月(901.4 KB)
- 6月(712.1 KB)
- 5月(704.3 KB)
- 4月(706.2 KB)
- 3月(711.9 KB)
- 2月(710.4 KB)
- 1月(884.3 KB)
2019年
- 12月(899.2 KB)
- 11月(690.1 KB)
- 10月(842.4 KB)
- 9月(829.6 KB)
- 8月(701.9 KB)
- 7月(613.1 KB)
- 6月(580.8 KB)
- 5月(653.3 KB)
- 4月(584.6 KB)
- 3月(818.7 KB)
- 2月(613.2 KB)
- 1月(610.1 KB)
2018年
- 12月(603.7 KB)
- 11月(601.9 KB)
- 10月(592.4 KB)
- 9月(604.5 KB)
- 8月(600.1 KB)
- 7月(607.4 KB)
- 6月(596.7 KB)
- 5月(620.9 KB)
- 4月(612.6 KB)
- 3月(579.4 KB)
- 2月(610.6 KB)
- 1月(613.0 KB)
2017年
- 発表年
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2025年2月の運用コメント
株式市場の状況
当月、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア指数(⽇本を除く、⽶ドル建て)は、前月末比1.05%上昇しました。パフォーマンスはアジア各国でまちまちで、中国、香港などの上昇幅が大きかった一方、インドネシア、タイ、インドなどは大きく下落しました。トランプ米大統領の関税政策を巡る不透明感の高まりが続いており、とりわけ新興国市場の先行きが不透明となっています。
米国が関税引き上げの姿勢をみせているにもかかわらず、中国市場と香港市場は当月に入って大幅に上昇しました。これは当月に習近平国家主席が民間企業のトップと会談したことを受け、今後を楽観する見方が改めて広がったことによるものです。中国政府は長年にわたって各業界の取り締まりを続けてきましたが、今回の会談によって、民間企業、とりわけテクノロジー企業の活動を明確に下支えする方針が打ち出されたという解釈が広がり、香港の代表的な株価指数であるハンセン指数は13.43%上昇して月を終えました。恩恵に浴したのは主に中国のテクノロジー関連銘柄で、Alibaba Group Holding社、Tencent Holdings社、Xiaomi Corporation社、BYD Company社などの株価が大きく上昇し、ハンセンテック指数は3年ぶりの高水準に達しました。
中国のAI(人工知能)開発企業DeepSeekが前月に話題をさらったことで、中国市場ではAI関連銘柄の上昇が続きました。大手テクノロジー企業であるAlibaba Group Holding社とTencent Holdings社はAI分野で大胆な動きを見せています。Alibaba Group Holding社はクラウドコンピューティングとAIインフラに3,800億元(約7兆8,400億円)を投資すると発表し、Tencent Holdings社は同社が運営するメッセージングアプリ「Weixin(微信)」に対するDeepSeekのAIモデルの試験導入を開始しました。
中国のテクノロジーセクターが好調だった一方で、台湾の半導体セクターは主にAIへの過剰投資に対する懸念から、米国市場に追随する形で下落しました。NVIDIA社(米国)の2025年1月期第4四半期決算発表後に発生した下落によって、とりわけその傾向が強まりました。
インド市場は海外投資家による売りが続いたこと、企業業績がふるわなかったこと、国内市場の成長に関する懸念が広がったことなどから大きく下落しました。政府が予算案に減税を盛り込み、インド準備銀行が利下げと流動資金の注入に踏み切るなど緩和的措置をとっているにもかかわらず、市場心理は全般的に弱含んだままでした。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.98%の下落となり、参考指数であるMSCI AC Asia ex Japan Index(円ベース・配当込み)の同1.66%の下落を0.68%上回りました。
セクター別では、コミュニケーション・サービスセクター、金融セクターなどがプラスに貢献した⼀⽅、情報技術セクター、一般消費財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Samyang Foods(韓国/食品・飲料・タバコ)、LIG Nex1(韓国/資本財)などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Trip.com Group(中国/消費者サービス)、Hyundai Marine Solution(韓国/資本財)などでした。
当月は前月取り上げたテーマの続編です。韓国の即席麺「ブルダック」を製造するSamyang Foods(韓国/食品・飲料・タバコ)が発表した2024年第4四半期決算はきわめて好調な内容でした。同四半期の売上高は前年同期比47%増、営業利益は同約142%増となりました。需要は非常に旺盛で、同社はその充足に必要な生産能力を何とか確保することができましたが、利益率の低い国内市場に対する供給を減らし、利益率の高い海外市場への供給に振り向ける必要がありました。そのため海外売上高は前年同期比78%増加しましたが、国内売上高は同18%減少しました。同社は2025年6月に韓国の密陽で新工場を立ち上げる予定のため、生産能力の逼迫は一時的に解消される見込みです。同社の業績が好調だったのと対照的に、日本の東洋水産と日清食品の業績はいずれも軟調でした。両社はともに北米市場で販売が低迷しています。日清食品の高価格帯商品は米国の主要小売店で韓国企業に棚スペースを奪われている模様です。日本株に投資する際、アジア市場に関して十分に理解しておかないと自らリスクを負うこととなります。その観点において、アジアだけではなく日本に関する深い知識を有することは、当ファンドの大きな強みだと考えます。
インドでは市場の下落が続きました。前月の運用コメントでインド銘柄の組入比率を19%程度に引き下げたとお伝えしましたが、当月前半にさらに引き下げ、約12%で月を終えました。当ファンドは過去2年間にわたってインドから高いリターンを得てきましたが、現状は成長局面の踊り場に相当すると考えています。過去2年間の大幅上昇の一部はバリュエーションの再評価によるもので、特に中型株でその傾向が顕著でした。MSCIインド中型株指数の予想PER(株価収益率)は2023年の約25倍から2024年下期には40倍に達して低下に転じ、足元の調整を経ても約33倍を維持しています。インド株の多くはバリュエーションが高く、とりわけインドがリスクフリーレート(リスクがほとんどない商品から得られる利回りのこと)の高い市場であることを踏まえると、なおさらそれが当てはまります。多数の銘柄がモメンタムを重視する買い手に支えられて上昇しましたが、上昇基調が反転したことで、モメンタム重視の買い手が売り手へと変わり、株価は自己破壊的な局面に陥る可能性があります。ここで重要なのは、インド経済が減速すると多数の企業で成長率が低下し、高い期待値に応えることがますます難しくなることです。当ファンドはインド銘柄の組入比率をこれ以上引き下げることは考えておらず、確信度の高い銘柄は保有を続ける方針です。しかし、アジアにはインド以外にも有望な投資先があるというのが現時点での所感です。
また、当月前半に、DeepSeekに関連するAI(人工知能)アプリケーション関連銘柄および中国銘柄の組み入れを決定しました。その資金を賄うため、台湾のハードウェア関連銘柄の一部について、組入比率を引き下げました。
ただし、これは当ファンドがハードウェアに対して全面的に弱気だということではありません。DeepSeekのような安価なAIモデルによってAIの普及が促進され、最終的にはAI半導体やハードウェアの需要が高まると考えています。しかし、AIハードウェア関連銘柄への投資の有望性は投資家の間で共通認識となっていることから、好材料の多くは既に株価に織り込まれていると考えます。株価は一次派生的な材料(既に変化しているもの)ではなく、二次派生的な材料(これから変化するもの)に反応する傾向があります。したがって、AIアプリケーション隆盛の恩恵を受ける企業に注目することで、より多くの投資機会を見出せると考えています。
AIアプリケーションに関しては、既保有銘柄であるTencent Holdings(中国/メディア・娯楽)の組入比率を引き上げるとともに、2024年第4四半期に開始した取り組みの一環として、中国銘柄の組入比率を大幅に引き上げました。当月は中国・香港株の組入比率はインデックスの構成比に近い約33%で月を終えました。
DeepSeekの事例から、中国が米国から半導体規制を課されても引き続きAI開発競争に参加していることがわかります。AI開発は中国における新たなイノベーションの原動力となるでしょう。Tencent HoldingsはDeepSeekをはじめとするAIモデルをWeChatサービスに組み込んでいます。そうしたモデルはこれから汎用商品化していくと考えます。その理由の1つは、Meta Platforms社(米国)の「Llama」や「DeepSeek」に代表される先進的モデルの多くがオープンソースであることです。本当の意味で勝者となるのは、複数のモデルをまとめ、消費者にとって有用なアプリケーションに作り替えることができる企業でしょう。Tencent Holdingsはチャットアプリ「WeChat」や「QQ」といったサービスを幅広く手がけ、中国の消費者との接点が他社とは比較にならないほど豊富であることから、それを活用する上で最適な立場にあると考えられます。消費者だけでなく、様々な企業がAIの導入に関心を示していることが、クラウドビジネスの成長を後押しするでしょう。足元の株価上昇は、2024年第4四半期にみられた短期的上昇局面とは明らかに異なると考えます。2024年の上昇は純粋に政府の景気刺激策への期待によるもので、最終的には期待外れに終わりました。しかし今回の上昇は、中国の民間企業が自前のイノベーション能力を生かした何らかの成果への熱い期待が原動力となっています。そうした期待感の方がはるかに持続可能性が高いと考えられるため、香港・中国市場は年間を通じて持続的な上昇を遂げる可能性があると判断しています。
過去4年間に中国市場の障害となってきたのは、主に国内の規制リスクでした。インターネット業界や教育業界も含む様々な業界が一連の規制強化によって深刻な打撃を被りましたが、ついに転換点が訪れたようです。当月には習近平主席がAlibaba Group Holding社(中国)の馬雲(ジャック・マー)氏ら民間企業のトップと異例の公開会談を行いました。ここで重要なのは、かつて提唱されていた「共同富裕」というイデオロギーに回帰する動きが見て取れることです。習主席は会談で民間企業に対し、「まず豊かになり、それから繁栄を分かち合う(先富促共富)」ように促しました。これは1980年代に進められた改革開放政策を彷彿とさせる動きです。当時中国の指導者であった鄧小平氏は、先に一部の人を豊かにし(讓一部份人先富來)、そうした人々の力で他の人々を牽引し、最終的に国民全員で豊かになるべきだと提唱しました。過去40年にわたって中国経済を奇跡的成長に導いたのが、こうした発想だったのです。今回の会談は、これまでの規制強化のサイクルに終止符を打つ大きな転換点になると考えます。少なくとも今後2~3年間については規制の見通しが明らかになり、企業はイノベーションと成長再開に向けて体制を整えたということができるでしょう。
ところで、中国について語るなら、地政学的リスクを無視することはできません。これまでのところ、トランプ米大統領の出方は中国にとってプラスに働いています。まず、トランプ氏は選挙期間中に提示した一律関税に加えて中国からの輸入品に60%の関税を課すという案に代えて、相互関税を提案しています。同氏は「きわめてシンプルだ。我々に関税を課す国には、我々も関税を課す」と述べていますが、アジアには相互関税によってより大きな打撃を被る国が複数あり、中国は両国間の関税差が少ない(中国が米国からの輸入品に課す関税は、米国が中国からの輸入品に課す関税と同程度)ため、比較的影響が軽微とされています。
次に、トランプ大統領はカナダやEUといった米国の古くからの同盟国と距離を置きつつあります。米国はカナダとメキシコに25%の関税を課すと発表しましたが、現時点では課税を延期しています。同氏はさらにグリーンランド、カナダ、パナマ運河を領有したいという意向も示しています。同氏の立場からすれば、この3か所の領有には重要な貿易的・軍事的合理性があるのでしょうが、そうした発言は他国をひどく不安にさせるものです。
最後にEUに関しては、トランプ氏はウクライナとの和平交渉について、EUを介さずにロシアと直接行いたい意向を示しています。同氏のこうした行動によって、他国は対米関係の今後についてますます疑心暗鬼になっており、その結果、各国は米国との関係に100%依存するのではなく、中国と米国の間でよりバランスの取れた関係を持とうとする可能性があります。市場は米中関係の改善について一切期待していない模様ですが、中国が様々な国と関係を改善する可能性についても、株価には十分に織り込まれていないというのが当ファンドの見方です。
当ファンドは中国が直面している多くの経済的課題を無視しようとしているわけではありません。しかし、そうした課題の多くはすでに広く知られているものです。投資おいて重要なのは、まだ株価に十分に織り込まれていない二次派生的な材料です。足元で最大のリスクは、政府が現状に満足し、さらなる景気刺激策の推進を怠ることだと考えます。中国は依然としてバランスシート不況に陥っており、沈静化の兆しはあるものの、全体的なマクロ環境は軟調なままで、財政刺激策が不可欠です。日本は失われた数十年の間に複数回にわたって財政刺激策を縮小させましたが、その結果、経済をデフレに逆戻りさせただけでした。こうした教訓を無視してよいはずはありません。
今後の運⽤⽅針
当ファンドは以下3つの基準に基づいて投資を行っています。
- 逆風に強い優良企業で、競争優位性に優れていること
- 経営陣が事業運営に長け、合理的な資本配分を行っていること
- バリュエーションが割安であること
また、一般に以下のような特徴を有する企業を逆風に強い優良企業とみなしています。
- 競争優位性が確立され、業界平均を上回る収益成長を実現していること
- 独自な製品やサービス、あるいは必要不可欠な製品やサービスを提供していて、価格決定力に優れていること
- 営業レバレッジが大きく、事業の成長に伴って利益が経時的に拡大すること
- 優れたコスト構造により、厳しい状況下にあってもフリーキャッシュフロー創出力を維持できること
こうした企業にはアジア経済の成長力を取り込む力がある、あるいはアジア諸国独自の強みを生かして事業を国際展開する力があると考えられます。
当ファンドは日本を除くアジア全域から上記基準に最も合致すると判断した企業を選定し、集中的にポートフォリオを構築します。したがって、国別配分比率はあらかじめ設定せず、各国固有のマクロリスクに注意を払いつつ、ボトムアップで銘柄選定を行ってまいります。
2025年1月の運用コメント
株式市場の状況
当月、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア指数(⽇本を除く、⽶ドル建て)は、前月末比0.76%上昇しました。パフォーマンスはアジア各国でまちまちで、韓国、シンガポールなどの上昇幅が大きかった一方、ASEAN諸国、インドなどは出遅れました。韓国のKOSPI(韓国総合株価指数)は、前月の政情不安によるパニック売りから、当月は反発に転じました。
中国と香港市場は国内経済の低迷やトランプ氏の米大統領就任後の関税政策の不透明感が、引き続き投資家の懸念材料となって市場心理が弱含んだ状態で年明けを迎えました。しかし意外にも、トランプ米大統領が対中関税の即時発動を見送ったため、米中間で何らかの交渉や合意の可能性への期待感が高まりました。これを受け、中国・香港市場は春節(旧正⽉)休暇を前にして反発に転じました。
当月後半は、世界各国でテクノロジー・セクターが急落しました。そのきっかけとなったのは、中国のAI(人工知能)開発企業DeepSeekが生成AIモデル「DeepSeek- R1」を発表したことでした。この中国製AIは他のAIモデルの大半と同等以上の性能をきわめて低コストで実現したとされており、今後のAI関連投資の先行きに対する懸念が高まっています。この主張が事実なら、AIに対する設備投資、とりわけデータセンターとAI用ハードウェアの需要に大きな影響が及ぶことになります。そのためAI技術における米国の優位が揺らぐのではないかという懸念が投資家の間に沸き起こり、米国S&P500種株価指数は急落しました。またASEAN市場、特にマレーシアのデータセンター関連銘柄が大幅な下落に見舞われました。インド市場は、国内経済の成長に関する懸念と海外資金の流出が主な原因で、引き続き軟調に推移しました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐5.17%の下落となり、参考指数であるMSCI AC Asia ex Japan Index(円ベース・配当込み)の同1.08%の下落を4.09%下回りました。
セクター別では、コミュニケーション・サービスセクター、情報技術セクターがプラスに貢献した⼀⽅、一般消費財・サービスセクター、生活必需品セクターなどがマイナスに影響しました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、Sea(シンガポール/メディア・娯楽)、Futu Holdings(香港/金融サービス)、LIG Nex1(韓国/資本財)などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、Indian Hotels(インド/消費者サービス)、Zomato(インド/消費者サービス)、Polycab India(インド/資本財)などでした。
当月の株式市場は不安定な値動きでした。2024年12月の「BofAグローバルファンドマネージャー調査」によると、ファンドマネージャー達は異例なほど株式に強気で、米国株式への投資比率が過去最高水準となり、ボラティリティの高い相場となる構図を作り出しています。当ファンドはトランプ米大統領の政策や米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ路線の不透明感から、このような相場が長期間にわたって続くと予想しています。これはあまりに慎重すぎる見方だと思われるかもしれませんが、決して市場が今後下落すると予想しているわけではありません。株式市場が一筋縄ではいかないものだからこそ、当ファンドは常々慎重姿勢を心がけています。当ファンドは基本姿勢が慎重なので、基礎体力があり、耐久力に富むと考えられる企業でポートフォリオを構成するように日頃から努めており、地域的にも株価上昇要因の面でもバランスを重視してポートフォリオを構築しています。当月は2024年に好調だった銘柄の多くが反落し、アンダーパフォームしました。そこでこれを機に、確信度の高い既存保有銘柄に加え、購入のタイミングを見計らっていた銘柄をいくつか新たに組み入れました。
インドは景気減速に直面していますが、当ファンドはこれを景気循環によるものだと考えています。インドの2024年度第2四半期のGDP成長率は前年同期比5.4%増と減速し、直近数四半期の中ではかなりの低水準となりました。同時に、生活必需品企業の多くで成長率が弱含んでいます。当ファンドが組入上位で保有するインド銘柄は、旅行関連企業のMakeMyTrip(インド/消費者サービス)、Indian Hotels(インド/消費者サービス)などですが、両社の業績は引き続き好調です。MakeMyTripの予約総額(米ドルベース)は、10月から12月までの3か月についてみると前年同期比約25%増、調整後営業利益は同約38%増となりました。Indian Hotels Companyは、RevPAR(利用可能な客室1室あたりの売上高、ホテル業界における既存店売上高に相当)が同15%と大幅に伸びたことで、10月から12月までの四半期売上高が前年同期比29%増、EBITDAは同32%増となりました。しかし、同社の株価は市場全体の急落による影響を免れることができませんでした。インド市場で問題なのは、バリュエーションが高いこと、そして当ファンドの感覚でいうと株価動向にモメンタム主導的な傾向が色濃くみられることだと考えます。インド株の多くが前回の上昇局面であまりにも上昇し過ぎたため、上昇基調が衰え、市場参加者が取引を手仕舞いしたことで、自己破壊的な局面に入ったというのが当ファンドの見立てです。これはバリュエーションが大幅に切り下がってファンダメンタルを重視する投資家がインド株へ投資するようになるまで、多くのインド株にとって苦境は解消されないということなのかもしれません。好材料とみなせるのは、モメンタム主導の下降局面に入れば、株価が最終的に本来の水準以上に下落し、割安な状態になる可能性があるという点です。それがいつになるかは不明ですが、バリュエーションはまだ心から安心できる範囲には入っていないというのが当ファンドの感覚です。当ファンドはインド銘柄の組入比率が約28%程度で当月を迎えましたが、月半ばから同比率の削減を始め、最終的に約19%程度で月を終えました。
テクノロジーに関しては、中国のAI研究所であるDeepSeek社が開発したオープンソース推論モデル「DeepSeek-R1」が当月後半に公開され、世界の半導体セクターに衝撃が走りました。DeepSeekはきわめて高性能で、しかもAIモデルの構築に要した費用は同社報告によるとわずか560万米ドルであるとされており、他のモデルが一般に数億ドル以上を費やしているのと比較すると格段の違いです。そのため、現状のようにデータ処理基盤に何十億ドルも投資しなくてもAIは開発でき、NVIDIA社(米国)のGPUのようなAI向け半導体の供給過剰が深刻化するのではないかという懸念が沸き起こりました。しかし、DeepSeekは現行の大規模言語モデルを基盤にして最適化されたもので、業界全体で行われた何十億ドルもの投資の恩恵を受けていることに留意すべきです。正直なところ、その衝撃の大きさを本当に理解している者はまだ誰もいません。ただし、AIモデルの構築や推論にかかるコストを大幅に引き下げることが可能なら、AIの技術革新や応用が促されることになるでしょう。それによって、最終的には計算能力、特にエッジコンピューティングの需要が高まるかもしれません。そのため、テクノロジー関連銘柄の組入比率に大幅な変更を加えることは見送りました。当ファンドは引き続き状況を注視し、先入観を持たずに対応していく意向です。
当ファンドは日本を除くアジア地域を対象としていますが、当社は日本およびアジア全域にわたるリサーチ能力を有する日本の資産運用会社です。日本とアジア各国は経済的な結びつきが強いことから、多くの日本企業とアジア企業は密接な協力関係にあったり、競合相手だったり、同一バリューチェーンの各部分を棲み分ける運命共同体のような関係だったりすることから、日本市場の調査を通じて得られた知見は銘柄を組み入れる際の投資判断に活かすことができます。当ファンドはアジア全域にわたる知見を活用し、アジアという範囲の中で最適な投資テーマを選定します。その最良の例が即席麺です。即席麵が最初に広まったのは日本ですが、今ではアジア各国に現地の即席麺メーカーがあります。当月はSamyang Foods(韓国/食品・飲料・タバコ)についてご紹介したいと思います。
台頭する新世代の主食
「いつもこの小さなソースを持ち歩いて、何か食べる時は必ず入れるようにしているんです」 - ロゼ(BLACKPINK)※
当ファンドでは、消費者の所得が増えるにつれて⽀出額が継続的に拡⼤していくことから、エンターテインメント、旅行、美容、利便性といった消費関連カテゴリーを選好しています。即席麺は「利便性」のカテゴリーに入りますが、消費者の所得が増えたからといって即席麺に対する支出額が増えるわけではありません。それどころか、おそらく所得が増えると即席麺の消費量は減るでしょう。しかし、当ファンドはSamyang Foodsにはまだまだ成長の余地があると考えています。
即席麺をカテゴリー全体でみると、足元の環境は確かに追い風となっています。安価な食品であることから、インフレ率の上昇が有利に働きます。例えば米国のような市場では、人件費の高騰やチップ文化(食事代金の20%程を上乗せする)によって、外食やデリバリーが非常に高額になってしまい、手が届きにくいものになっています。米国では日清食品の高価格帯の即席麺でも1.00~1.20米ドル程度で売られているので、カロリーの割には非常に手頃な値段です。そのため、米国の即席麺市場はコロナ禍以降、堅調に成長しました。このように即席麺は不況やインフレに強いため、当ファンドは選好しています。このカテゴリーに属する企業は幅広い環境下で耐久力を発揮できると考えます。
思わしくないのは、即席麺市場全般の成長速度が速くないことです。アジア諸国を中心とする主要市場の多くでは、1人当たり消費量が既に高水準に達しています。しかしそうした中で、Samyang Foodsは2021年から2024年にかけて売上高を150%以上伸ばしたと推定されます。同社の売上高の約80%は韓国以外の市場であげたものです。2024年上期は総売上に占める中国の比率が約17%、米国が約22%、アジア(中国と韓国を除く)が約17%、欧州が約15%に達しました。成長の主な原動力は、即席麺市場としては歴史が浅いため浸透率がまだ低水準に留まっている米国と欧州です。特に両地域はインフレ率と物価が高いため、同社は自社製品をより高い価格で販売し高い利益率を上げられるということです。成長率が高い上に不況とインフレに強いのですから、これほど心強いことはありません。
米国市場で優位に立っているのは日本の東洋水産で、市場シェアが40%台半ば(売上高ベース)に達しています。同社の主要ブランドである「マルちゃん」の定番の袋麺はおよそ0.4~0.5米ドルで販売されています。米国民が好んで食べるのは単に価格が安いからです。東洋水産の米国事業が成長しているのは、主として一般に低所得者層である移民が増加しているためだと考えます。韓国の即席麺はそうした状況下で市場に参入しました。韓流ブームのおかげで世界中の消費者が韓国食品に興味を持ち始め、Nongshim社の「辛ラーメン」は韓国食品を代表する商品となりました。人々が韓国の即席麺を食べるのは、単に安いからではなく、韓流ブームの影響でもあるのでしょう。米国におけるNongshim社の市場シェア(売上高ベース)は、推定で2017年の約20%から2023年には20%台半ばまで上昇したとされています。しかし辛ラーメンは古参ブランドです。一方Samyang Foodsの「ブルダック」は新しいブランドで、若年層の心を急速に掴みつつあり、新世代の主食として台頭してくる可能性があると考えられます。
ブルダックはまずアジア諸国で人気を勝ち得ました。その理由は以下のようにいくつかあります。
- 独特の味わい:ブルダックには独特の甘辛い味わいがあります。実は、同社はソース(冒頭のK-POPグループ、BLACKPINKメンバーのロゼの言葉にもある小さなソース)を別商品として販売しています。ソースを別売りにできるということからも、この味の人気の高さがわかります。他の即席麺ブランドで、調味料だけを別売りできるものは見たことがありません。
- 魅力的なパッケージ:ブルダックのパッケージには火を吹くニワトリが描かれており、他の即席麺多数と並べても一目で判別できます。Nongshim社の辛ラーメンのパッケージには「辛」という文字が書かれていますが、漢字が読めない人には意味がわからないでしょう。
- デジタル・マーケティング戦略:ブルダックはソーシャルメディアでブルダックのラーメンの完食に挑戦する様子を投稿する「ファイヤー・ヌードル・チャレンジ」が流行ったことで人気に火がつきました。サンリオを取り上げた際に知財ビジネスについてご紹介しましたが、それと同様、現在の消費財企業には効果的なデジタル戦略が必要だというのが当ファンドの考えです。その点、Samyang Foodsは他の即席麺メーカーよりデジタルの活用方法に長けていると考えます。
当ファンドはブルダックの人気が高まっていることを知り、長期にわたってSamyang Foodsを注視してきました。当ファンドはブルダックのオリジナル味(黒いパッケージのもの)はアジア以外の国の人にとっては辛すぎると考えています。アジア人であっても、あまりに辛いので高頻度で食べるのは不可能でしょう。当ファンドが同社の組み入れを開始したのは、新たに登場したカルボナーラ味(ピンク色のパッケージのもの)の人気が世界的に高まってきてからです。この味はネットユーザーがオリジナル味の麺にクリームとチーズを加えて辛さを和らげていたことに着想を得て誕生したものだと言われています。カルボナーラ味は世界的なヒット商品となり、TikTokには昨年、テキサス州の少女が誕生日プレゼントにピンク色をしたカルボナーラ味のブルダックをもらって嬉し涙を流している口コミ動画が投稿されました。Samyang Foodsはそれを知って少女にカルボナーラ味のブルダックを1年分プレゼントしたそうです。ここからも、同社がソーシャルメディアをマーケティングに活用する方法を熟知していることがわかります。カルボナーラ味ブルダックの売上高は2023年上期の約600億ウォンから2024年上期には約1,570億ウォンに急増し、売上貢献度はオリジナル味のブルダックに匹敵するほどでした。
カルボナーラ味のブルダックが世界的人気を博している理由は、前記した3点以外にもう一つあります。大多数の即席麺がスープ麺であるのに対し、カルボナーラ味のブルダックはスープのない炒麺であるということです。正確なデータはありませんが、米国や欧州のような先進国市場では、麺類はスープのないもの(パスタを含む)の方が一般的だと思われます。日本の即席麺メーカーも焼きそばのような炒麺商品を出していますが、味はきわめて日本的で、欧米市場には合いません。一方、「カルボナーラ」味は洋風そのものですが、Samyang Foodsはクリーミーな食感と韓国風のスパイシーな風味を組み合わせることで、独特の味に仕上げています。さらに、炒麺にはスープ麺にはない柔軟性があり、ネギやチーズ、卵などを自由にトッピングして混ぜ合わせることができます。スープ麺だとこれほど自由にアレンジするのは困難です。
ではSamyang Foodsは現状の優位性を維持できるのでしょうか。当ファンドはできると考えます。
まず、即席麺の競争環境が安定的で、競合他社がほんの一握りに限られていることです。模倣品もあることはあります。例えば日清食品もカルボナーラ味の韓国風炒麺を発売しました。しかし、まったく同じ味を作ることは不可能です。業界全体を見渡しても、人気の即席麺が模倣品に取って代わられたのを見たことはありません。また、違う味の商品であっても、根強い人気がある商品に取って代わるのは困難です。特定の市場で優位に立った味は、その後も優位に立ち続ける傾向があります。例えば、ブルダックが人気だとはいえ、韓国市場で辛ラーメンの人気を脅かすほど売れているわけではありません。香港では、日清食品の「出前一丁(ごまラー油味)」が今も即席麺の代表格で、高い人気を誇っています。消費者には味覚の一貫性とでも言うべきものがあり、一度「ハマる」とずっと同じ味を選ぶようになる傾向があると考えます。ブルダックのカルボナーラ味は、欧米先進国市場の新興消費者層の需要に応えていると考えられます。ブルダックはそうした新興消費者層の心をしっかりとつかむことができれば、長期的な優位性を確保できる可能性があります。
次に、Samyang Foodsは製品開発のペースが非常に速いということです。同社が2024年上期にブルダックの輸出であげた売上高のうち、ブルダックオリジナル味、カルボナーラ味、その他の味が占める割合はそれぞれ約3分の1ずつでした。ブルダックには他にもトマトパスタ、クアトロチーズ、カレー、ハバネロ&ライムなど様々な味があります。これほどまでの製品開発の速さは、他の即席麺メーカーではほとんど見られません。同社は海外市場の成長を取り込むため、2023年下期に即席パスタの新ブランド「tangle(テングル)」を立ち上げました。tangleは便利な即席麺ですが、パスタ麺は冷風乾燥したもので、油で揚げたものではありません。そのためカロリーが一般的な即席麺の1食あたり500kcal以上なのに比べ、400kcal未満と低いのが特徴です。これにより従来と全く異なる消費者層を惹きつけ、長期的にもう一つの成長の原動力になる可能性があるとみています。また同社はデジタルチャネルを通じて顧客と効果的にエンゲージメントを図る能力(ブルダックのInstagramのフォロワー数は24万人以上)とイノベーション能力を兼ね備えていることから、同社は世界の消費者を獲得する上で、他の即席麺メーカーよりはるかに有利な立場にあるというのが当ファンドの考えです。
当ファンドがよく受ける質問に、どこから投資アイデアを得るのかというものがありますが、最も一般的な方法は「市場を知る」ことです。市場や業界をよく知っていれば、どこに投資機会があるのかは自ずと見えてきます。当ファンドは業界に関する予備知識と背景情報を既に保持しているので、それが投資アイデアを生み出す最も安全な方法だと考えます。エンターテインメントに詳しい人なら、ハローキティやK-POPの人気の高さは当然知っていることでしょう。即席麺を食べる人々は、ブルダックの人気が高まってきたのを無視することはできません。当ファンドは今後もボトムアップ・リサーチと市場に関する広範な知識を生かして、知見とアイデアを生み出してまいります。
※ 出典:VOGUE Taiwan.“[KOR SUB]打開BlackPink Rosé(로제)超大Saint Laurent隨身包包:痘痘貼也要很可愛、只用蘋果有線耳機|In The Bag|Vogue Taiwan“. Youtube, 2023/05/25,https://www.youtube.com/watch?v=LCmYJR5mnXg&t=335s(参照:2025/01/31)
今後の運⽤⽅針
当ファンドは以下3つの基準に基づいて投資を行っています。
- 逆風に強い優良企業で、競争優位性に優れていること
- 経営陣が事業運営に長け、合理的な資本配分を行っていること
- バリュエーションが割安であること
また、一般に以下のような特徴を有する企業を逆風に強い優良企業とみなしています。
- 競争優位性が確立され、業界平均を上回る収益成長を実現していること
- 独自な製品やサービス、あるいは必要不可欠な製品やサービスを提供していて、価格決定力に優れていること
- 営業レバレッジが大きく、事業の成長に伴って利益が経時的に拡大すること
- 優れたコスト構造により、厳しい状況下にあってもフリーキャッシュフロー創出力を維持できること
こうした企業にはアジア経済の成長力を取り込む力がある、あるいはアジア諸国独自の強みを生かして事業を国際展開する力があると考えられます。
当ファンドは日本を除くアジア全域から上記基準に最も合致すると判断した企業を選定し、集中的にポートフォリオを構築します。したがって、国別配分比率はあらかじめ設定せず、各国固有のマクロリスクに注意を払いつつ、ボトムアップで銘柄選定を行ってまいります。
2024年12月の運用コメント
株式市場の状況
当月、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア指数(⽇本を除く、⽶ドル建て)は、前月末比0.19%上昇しました。パフォーマンスはアジア各国でまちまちで、韓国、オーストラリア、インドなどの下落幅が大きかった一方、台湾、香港、中国などは上昇しました。通年でみると、MSCIアジア指数(⽇本を除く、⽶ドル建て)は前年末比12.51%上昇しました。
当月はKOSPI(韓国総合株価指数)が前月末比2.30%下落しました。韓国大統領が戒厳令を発令したことで、市場ではパニック売りが発生しました。政情不安と統治問題に対する懸念は、もともと軟調だった韓国経済に追い打ちをかける形となっています。KOSPIは通年で前年末比9.63%下落し、2024年のパフォーマンスはアジア市場の中で最低となりました。
中国市場は景気低迷と対米貿易摩擦の激化に対する懸念が拭えない中で、2024年通年のリターンがプラスとなりました。これは中国政府が景気刺激策の発動を示唆したことを受け、9月に入って株価が急騰したことによるものです。しかし、より具体的な対策が打ち出されなければ消費需要の低迷や不動産市場の苦境からの立ち直りはおぼつかないことから、投資家は慎重姿勢を崩しませんでした。
台湾のテクノロジーセクターは年間を通じて堅調なパフォーマンスを見せました。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company社(台湾)やMediaTek社(台湾)といった企業が、半導体やAI(人工知能)技術に対する世界的な需要拡大の恩恵に浴しました。
当月、ASEAN市場のパフォーマンスはまちまちでした。インドネシア市場は通貨安と消費支出低迷の影響で、とりわけ軟調に推移しました。一方、マレーシアの株式市場は、半導体やデータセンターを中心に海外投資の流入が続いたことが支援材料となり、堅調に推移しました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐5.22%の上昇となり、参考指数であるMSCI AC Asia ex Japan Index(円ベース・配当込み)の同5.23%の上昇を0.01%下回りました。
セクター別では、情報技術セクター、一般消費財・サービスセクターなどがプラスに貢献しました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Hyundai Marine Solution(韓国/資本財)、Indian Hotels(インド/消費者サービス)などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、Financial Group(韓国/銀行)、Hanwha Aerospace(韓国/資本財)、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)などでした。
2024年はアジア各国にとって驚きと動揺に満ちた一年となりました。当ファンドは2023年に堅調なリターンだったものの、2024年は期待を下回る結果に終わりました。通年でみると、当ファンドが前年比12.95%上昇したのに対し、参考指数であるMSCI AC Asia ex Japan Index(円ベース・配当込み)は同25.88%上昇しました。この不振の要因は、主に以下のような材料の見誤りによるものです。
- AI(人工知能)関連銘柄の上昇を過小評価し、台湾銘柄、とりわけTaiwan Semiconductor Manufacturing Companyへの投資比率が低かったこと
- 組入比率を下げていた中国銘柄が2024年はアウトパフォームしたこと
また、個別銘柄ではAIA Group(香港/保険)やSamsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)など、香港や中国の一部保有銘柄が期待を下回るパフォーマンスとなりました。なお、Samsonite Internationalについては既に全売却をいたしました。さらに、中国以外では韓国市場での保有銘柄も低調な結果に終わりました。
当ファンドの目標は、参考指数を上回るパフォーマンスを記録したうえで、長期的に安定した絶対リターンを生み出すことにあります。したがって、中国が長期的な課題とリスクに直面していることを踏まえると、中国銘柄の組入比率を参考指数における中国市場の比率(約30%)より低く抑えておくことが賢明であると考えます。
2024年8月に実施した方針転換について
2024年11月の月次報告書で述べた通り、アジアには投資機会が潤沢に存在していると考えています。ボトムアップ型の投資家である当ファンドにとって重要なのは、指数の動向ではありません。市場の動向に関わりなく、パフォーマンスが堅調な銘柄を探し出して投資できるか否かという点です。
しかし、アジアは課題の多い市場でもあり、インデックスに追従するパッシブ運用では高いリターンを得るのは難しいと考えます。アジアは情勢変化の激しい市場でもあり、アジアで高い利益を上げるには積極的な投資姿勢が必要となります。加えて地政学的リスクが大幅に拡大したことも、アジア域内に勝ち組と負け組が生まれる要因となっています。
当ファンドはアジア域内各国の浮沈の激しさと情勢の変化を踏まえ、2024年8月に環境適応力を高めるための方針転換を行うことにしました。以下は当ファンドが行った方針転換の概要をまとめたもので、こうした変更がポジティブな効果をもたらすと考えています。
- テクノロジー分野への注力
- 小型株から大型株への移行
テクノロジー分野への注力
テクノロジーを重視するといっても、今すぐ半導体銘柄へ投資すべきだと考えているわけではありませんが、当ファンドはこの分野の調査に投入するリソースを拡大しています。
当ファンドは、アジア市場の魅力は主にインドや東南アジアにおける人口動態や経済成長と考えており、AI関連銘柄が参考指数と比較してこれほど上昇するとはあまり予想していませんでした。しかし、機械の重要性がますます高まり、人間の重要性が相対的に小さくなるシナリオもあり得るとも考えます。いずれにせよ、テクノロジーの重要性は世界全体でさらに高まっていくでしょう。
さらに、テクノロジーセクターには当ファンドの品質基準に適合する企業が多数存在しています。(例えば2024年9月の月次報告書Gudeng Precision Industrial(台湾/半導体・半導体製造装置)の項を参照。)
小型株から大型株への移行
これまで当ファンドは小型株に重点を置いてきましたが、2024年8月以降はより大型株を重視する姿勢に転じました。その主な理由は、小型株は多くの場合、大型株ほど強靭性や安定性を持たない点にあります。その一方で、小型株は規模が小さい分、株価の上昇余地が大きいと言えるかもしれません。利幅が大企業よりはるかに大きいのです。
しかしながら、事業環境がますます複雑化していることから、多数の銘柄でリターンの振れ幅は広がる一方だと考えられます。「アジア厳選投資」という愛称が示すように、当ファンドは集中的にポートフォリオを構成し、組入銘柄の数をおよそ20~30銘柄に抑えています。このような集中型のポートフォリオでは、利幅の大きい銘柄を多数組み入れることはリスク管理上困難であると判断しました。小型株中心の戦略は、例えば組入銘柄数が60以上の分散型ファンドであれば有効性をもつと考えます。
下表は時価総額別のポートフォリオ構成の推移です。
これはもちろん、当ファンドが今後小型株に投資しないという意味ではありません。依然として、魅力的な小型株は存在すると考えています。しかし当ファンドはリスク管理の観点から、銘柄構成をコントロールし、より規模が大きく、強靭性や安定性を持つ企業に軸足を移しています。
大型株はアナリストによるカバレッジが充実しているため、それほどバリュー・ギャップが発生するものなのかという疑問が生じるかもしれません。しかし、当ファンドはTaiwan Semiconductor Manufacturing Company、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、DBS Group Holdings(シンガポール/銀行)、ICICI Bank(インド/銀行)といったアジアの大企業の業績を見ると、依然としてアウトパフォームの余地があると考えます。その理由として、いくつか要因があります。
ファンダメンタルズ面
- 大企業や体力のある企業には苦境を乗り越え、景気低迷期に投資を行ってシェアを拡大する力があること
- 大企業は財務体質さえ健全なら草創期のベンチャーやM&Aに投資する力があり、様々な手立ての中から自社にあったものを選択できること
1つ目は前述の利幅に関連した部分なので、説明の必要はないでしょう。2つ目は投資のリソースに関するもので、投資先を選択できるという点を期待している投資家は少数派ではないでしょうか。そうした企業とは、例えばSea(シンガポール/メディア・娯楽)です(2024年10月の月次報告書参照)。同社は東南アジアのeコマース(電子商取引)で成功を収めた後、その資金力を生かしてブラジル市場で同事業に進出しました。このような事業拡大には大きな資金力が必要で、中小企業にとっては一般にリスクが大きすぎます。
テクニカル面
- 足元の投資環境はパッシブファンドやETFの影響を大きく受けており、これらは主に大型株にも影響を与え、投資機会を生み出している傾向があること
- マーケット・ニュートラル戦略をとるヘッジファンドの台頭で、大型株の取引を中心とするきわめて短期的な投資環境が形成されていること
市場には様々なタイプの参加者がいるため、誰もがファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の観点から投資先を検討しているわけではありません。クオンツ運用(市場データを数理分析的に扱い運用すること)派、マクロ運用派、ETF(上場投資信託)など、参加者のタイプは数え上げればきりがありません。そうした投資家は多くの場合、ファンダメンタルズの観点から割安・割高を考えるというより、特定のセグメントに投資したいという理由で株式を売買します。例えば誰かが半導体ETFを購⼊したとしても、それは単に半導体セクターに投資したいだけで、必ずしも時間をかけて組⼊銘柄のバリュエーションを検討するとは限りません。
またファンダメンタルに基づく投資家であっても、マーケット・ニュートラル戦略を採用し、厳格なリスク制限の下で運用を行うヘッジファンドが増えています。リスク制限が厳しいため、こうした投資家は否が応でも短期的利益を志向するようになり、市場の変動幅が拡⼤すると既存のポジションを解消してしまう傾向があります。このように当ファンドとまったく異なる方法で運用を行う市場参加者が多いため、そうした状況下では優良銘柄を割安な価格で購入する機会が生まれます。
中小型株については、流動性の制約から、クオンツ運用、マクロ運用、パッシブ運用、マーケット・ニュートラル運用の投資家が参加する可能性は低いと考えます。したがって中小型株に投資を行うのはファンダメンタル投資家である可能性が高く、よって、当ファンドはより優れた判断力を持っていなければリターンを上げることができないと考えます。そうしたことから、中⼩型株に投資することで必ずしも優位性を得られるというわけではないと考えます。最終的には大型株、中小型株ともに投資機会があると考えており、常に個別企業ごとに慎重に投資先を検討しています。
結論として当ファンドは2024年半ばに重要な方針転換をいくつか行いました。アジアの投資機会は依然きわめて妙味に富み、新方針に沿って運用を行えば、その機会を十分に捉えることができると考えています。
今後の運⽤⽅針
当ファンドは以下3つの基準に基づいて投資を行っています。
- 逆風に強い優良企業で、競争優位性に優れていること
- 経営陣が事業運営に長け、合理的な資本配分を行っていること
- バリュエーションが割安であること
また、一般に以下のような特徴を有する企業を逆風に強い優良企業とみなしています。
- 競争優位性が確立され、業界平均を上回る収益成長を実現していること
- 独自な製品やサービス、あるいは必要不可欠な製品やサービスを提供していて、価格決定力に優れていること
- 営業レバレッジが大きく、事業の成長に伴って利益が経時的に拡大すること
- 優れたコスト構造により、厳しい状況下にあってもフリーキャッシュフロー創出力を維持できること
こうした企業にはアジア経済の成長力を取り込む力がある、あるいはアジア諸国独自の強みを生かして事業を国際展開する力があると考えられます。
当ファンドは日本を除くアジア全域から上記基準に最も合致すると判断した企業を選定し、集中的にポートフォリオを構築します。したがって、国別配分比率はあらかじめ設定せず、各国固有のマクロリスクに注意を払いつつ、ボトムアップで銘柄選定を行ってまいります。
2024年11月の運用コメント
株式市場の状況
当月、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア指数(⽇本を除く、⽶ドル建て)は、米国大統領選挙でトランプ氏が勝利し、アジア株式市場が軒並み軟調に推移したことから、前⽉末⽐3.28%下落しました。トランプ氏が勝利したことで、関税の引き上げや中国への技術移転防止策の強化に対する懸念が高まり、投資家の間で今後の混乱に対する警戒感が広がりました。
MSCI中国指数(⽶ドル建て)は4.43%の大幅下落となり、MSCI香港指数(⽶ドル建て)も3.61%下落しました。その主な要因は、トランプ氏が中国からの輸入品に60%の関税を課すという公約を掲げたことで、貿易摩擦の激化を懸念する声が高まったことにあります。さらに中国のテクノロジーセクターに対する規制の強化が予想されることも、市場の変動幅が高まる要因となっています。予期していたこととはいえ、貿易摩擦激化の公算が高まったことで、アジア各国でリスク選好度が低下しました。
世界貿易量の減少や市場のボラティリティ上昇を予想する向きが増えてきたことで、FRB(⽶国連邦準備制度理事会)が来年の利下げ幅を縮小するのではないかという憶測が広がっています。アジア諸国、特にASEAN諸国をはじめとする新興国の経済は資本流出やバリュエーションリスクの影響を受けやすいため、そうした国々ではこの事態が否定的に受け止められています。
台湾と韓国のテクノロジーセクターも、人工知能(AI)サーバーの需要が2025年下期から先細りになるとの懸念が浮上したことから、当月は重い値動きとなりました。特にSamsung Electronics社(韓国)はファウンドリー事業とメモリー事業の両方で大きな競争圧力にさらされており、両国市場が全般的に低迷する要因となっています。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.67%の下落となり、参考指数であるMSCI AC Asia ex Japan Index(円ベース・配当込み)の同4.64%の下落を0.97%上回りました。
セクター別では、ヘルスケアセクター、コミュニケーション・サービスセクターなどがプラスに貢献し、⼀⽅、情報技術セクター、金融セクターなどがマイナスに影響しました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、Vimta Labs(インド/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)、Sea(シンガポール/メディア・娯楽)、BizLink Holding(台湾/資本財)などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、LIG Nex1(韓国/資本財)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、GDS Holdings(中国/ソフトウェア・サービス)などでした。
当月前半、米国のトランプ前大統領のホワイトハウス復帰が決定しました。さらに議会でも共和党が上下両院で過半数の議席を獲得したことを受けて市場は乱高下しました。トランプ氏は政策について明確な方向性を打ち出しており、再任後に貿易と移民の制限強化、新たな減税策の導入、規制緩和が行われることは間違いないでしょう。そうした政策の中には経済に対して相反的な影響を与えるものもあるため、今後の見通しがまったく立ちません。例えば関税の引き上げはトランプ氏が望む米ドル安とは逆の効果をもたらします。同時に予期せぬ結果を招くことも少なからずあるでしょう。トランプ氏がパリ協定からの再離脱をちらつかせ、化石燃料の利用を後押しする姿勢をみせていることは、足元の事業環境への影響だけでなく、長期的に重大な気候変動リスクをもたらします。
アジア諸国おいて、トランプ氏の言葉通りに中国製品に最大60%の関税が課されれば、最も直接的な影響を受けるのは中国と考えられます。すべての商品に一律に関税が課される可能性は低いものの、中国に対する依存度に応じて様々な税率が課されるでしょう。一方、中国経済の成長鈍化は短期的にアジア全域に影を落としかねません。また、人民元の下落が予想されることから、その連鎖反応でアジア全域に通貨安が広がる可能性があります。ただし、中国の政策対応、特に国内経済を刺激するための政策次第で状況は変わるでしょう。短期的な地域経済への影響を乗り越えた先には、米中貿易戦争の再燃が「チャイナ・プラスワン」(海外拠点を中国へ集中させることによるリスクを回避し、中国以外の国・地域へも分散して投資する経営戦略)を加速させ、長期的には他のアジア諸国に恩恵をもたらすと考えられます。実際、2018年に発生した前回の米中貿易摩擦以降、ASEAN諸国は外国直接投資(FDI)の流入において明確な恩恵を受けており、この流れがさらに加速する可能性があります。
しかしながら、最終的には各国の政策対応に大きく依存するため、予測は困難です。明確な見通しが得られるまで、景況感は弱含むと見られますが、不透明感がなくなれば力強い回復が期待できると考えます。当ファンドはマクロ経済の問題を乗り越えられる強固な事業基盤を持つ銘柄へ投資するという戦略にしたがって、アジア全域に分散投資を行っています。同時に状況を慎重に注視し、可能な限り機動的に対応しています。現時点では慎重な姿勢を維持し、国内事業に軸足を置いた企業を優先的に組み入れています。
アジアにおける一連の機会
アジアにはどんな時でも投資機会が潤沢に存在していると考えています。当ファンドは株式への投資にあたり、米ドルベースで年率15%以上のリターンを目指しています(保有期間3年、5年、10年でほぼ50%、100%、300%のリターンに相当)。そこで以下の分析を実施し、各市場に5年間で100%以上のリターン(米ドルベース)を上げた銘柄がどれだけあるか確認しました。さらにもう一つ、時価総額5億米ドル以上という基準も追加しました。これはその規模以下の銘柄に投資する可能性が低いためです。
出所:各種資料を基にスパークス・アセット・マネジメント作成
*1 2024年は11月末日現在、その他の年は原則1月1日から12月31日まで
*2 アジアはパキスタンなど現時点で組み入れていない小規模市場を除外
*3 ASEAN諸国はインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムに限定
例えば2019年から2023年までの期間で、時価総額が5億米ドル以上、米ドルベースで100%以上のリターンを記録した銘柄は世界全体で2,186銘柄です。このうち、642銘柄は米国、313銘柄は西ヨーロッパ、868銘柄はアジアの企業でした。上表が示すとおり、少なくとも過去7年間の統計を見る限り、アジアには当ファンドが求めるリターンを生み出せる投資先が潤沢に存在していることが分かります。ボトムアップ型の投資家である当ファンドにとって重要なのは、指数の動向ではなく、上表にある銘柄を探し出して投資できるかどうかという点です。
しかし、アジアは課題の多い市場でもあり、インデックスに追従するパッシブ運用では高いリターンを得るのは難しいと考えます。また、上表からわかるように、アジアは情勢変化の激しい市場でもあります。時期によって勝ち組となる市場が異なるのです。アジアで高い利益を上げるには積極的な投資姿勢が必要となります。加えて地政学的リスクが大幅に拡大したことも、域内に勝ち組と負け組が生まれる要因となっていると考えます。
防衛産業
日本ではこのところ防衛産業に注目が集まっており、三菱重工㈱や㈱IHIといった主要防衛銘柄はそれぞれ年初来167%、180%上昇しています。ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の悪化などの地政学的リスクが顕在化する中で、防衛関連支出が世界中で増加するのはほぼ確実だと考えます。仮に、ロシアによるウクライナ侵攻が2025年に終結する可能性があるとしても(トランプ次期大統領はすぐに終わらせると発言)、欧州諸国の兵器在庫は数年にわたって枯渇しており補充の必要があることから、状況が変わることはないでしょう。また、トランプ氏が欧州のNATO(北大西洋条約機構)加盟国で国防費が目標に達していない国は防衛しないという脅しを口にしていることから、欧州諸国は自国の防衛費を増額する必要に迫られています。こうした中で、当ファンドは韓国の防衛関連銘柄に好機があるのではないかと考えています。
韓国は比較的小さな国であるにも関わらず、米国、ロシア、中国といった超大国以外では軍事力が突出している国であるという認識が広がっています。恒常的に北朝鮮の脅威にさらされているため、GDPの約3%を防衛費に充てており(日本は約1%)、数十年にわたって投資を行った結果、韓国の兵器は世界的にみてきわめて高い競争力を保持しています。そこで今回は8月後半に組み入れを開始した「LIG Nex1」について取り上げたいと思います。
LIG Nex1は戦車の戦闘システムや戦闘機の航空電子機器など、精密誘導兵器(PGM)や防衛電子機器を製造する韓国の大手企業です。誘導ミサイルや電子機器は、戦車をはじめとする従来型の兵器を尻目にその重要性をますます高めているため、同社は今後の武力衝突に備えるための製品を供給する上で有利な立場にあると考えます。同社は2024年、米国に拠点を置く四足歩行犬型ロボットの主要メーカーGhost Robotics社の株式を60%取得しました。同社の成長の原動力となり得るのは、欧州諸国の兵器在庫補充に向けた動きより、将来的な兵器システムの進歩であると考えられます。
韓国防衛産業のビジネスモデル
韓国の新兵器開発プロジェクトは以下のような流れで進行します。
1.韓国軍がプロジェクト遂行を決定し、国内の防衛関連企業を選定する。
2.LIG Nex1をはじめとする防衛関連企業は営業利益率をきわめて抑えた状態で研究開発を行う。この研究開発は5年から10年続く場合があるが、基本的に韓国軍から資金提供を受けるため、自己負担はない。
3.研究開発が終わると防衛関連企業は大量生産を開始し、兵器を韓国軍に売却するが、営業利益率は一般に10%以下に抑える。
4.海外から引き合いがあれば、防衛関連企業は兵器システムを海外に販売できる(もちろん韓国政府の承認が必要)。製品によるが、輸出する場合の営業利益率は一般に10%を上回る。さらにMRO(整備、修理、オーバーホール)需要が繰り返し発生することもある。
こうしたビジネスモデルにはいくつか利点があります。
1.研究開発費の負担が実質的にないこと。
2.韓国軍からいつどのような要請があるか読みやすく、かつ需要が安定的であること(韓国の戦力増強計画に基づく支出は2024年から2028年にかけて年平均約12%成長するという試算がある)。
3.最重要要素として、韓国の防衛関連企業は日本のそれと異なり、兵器を積極的に輸出し、より高い利益率を得ることが可能だということ。
4.韓国の防衛関連企業は兵器の種類ごとに専門化が進んでおり、国内プロジェクトに関しては競争がそれほど熾烈でないこと。
LIG Nex1は研究開発要員の人数が韓国の防衛関連企業の中で最大級です。2024年第3四半期時点で全従業員の58%以上にあたる約2,700人が研究開発に従事しており、韓国軍から研究開発プロジェクトを獲得する上で有利な立場にあります。同社の研究開発サービス収益は2021年の3,780億ウォンから2023年にはおよそ65%増加して6,260億ウォンとなっており、開発中の製品は多岐にわたっています。
輸出の可能性
韓国の兵器は世界的に普及しつつあり、代表的なものとしてはHanwha Aerospace(韓国/資本財)のK9自走砲やHyundai Rotem社(韓国)のK-2戦車などが挙げられます。LIG Nex1の主力製品はM-SAM II(中距離地対空ミサイル)で、すでにアラブ首長国連邦とサウジアラビアから発注されています。これはその名の通り、ミサイルや航空機、ドローンのような飛行物体を攻撃する兵器です。主な競合製品は米国製のPAC-3、別称パトリオット3ですが、M-SAM IIはパトリオット3に匹敵する性能を持ちながら、コストはおよそ半分で済むと言われています。
近年の武力紛争において、部隊を前線に送らずとも高精度での攻撃を可能にするミサイルの重要性が高まっています。一方でミサイルやドローンの使用増加に伴い、地対空防衛システムの需要も増しています。当ファンドはLIG Nex1が世界的な市場シェアを獲得できると考えており、9月にイラクから28億米ドル相当のM-SAM IIを受注したのはその裏付けだと言えるでしょう。
同社の受注残高は2024年第3四半期現在19.6兆ウォンで、これは2023年の売上高の約8.5倍に相当します。受注残の50%以上は輸出品で、これには前述したイラクからの受注分はまだ含まれていません。同社にはアジアや北アフリカなど、中東以外の国からも引き合いが多数きていることから、同社が今後も継続的に海外からの受注を獲得すると当ファンドでは見込んでいます。
長期的には、同社は無人兵器システムの台頭から恩恵を受ける上で優位な立場にあります。同社は韓国軍向けの偵察用無人水上艇体系開発事業において、9月に優先交渉権を獲得しました。同社の電子機器開発能力は、無人システムの受注案件拡大に向けて有利に働くと考えます。Ghost Robotics社は同社の業績にまだあまり貢献していませんが、犬型ロボットの利用が進めば、新たな成長の推進力となる見込みです。
同社は2030年の売上目標を10兆ウォン(2023年から2030年までの年平均成長率にしておよそ23%に相当)に設定しています。重要なのは、輸出の売上構成比が上昇し続ければ、利益率も拡大し続けるということです。受注残の多さを踏まえると、海外から継続的に受注を獲得できれば、同社は目標を達成できるというのが当ファンドの見方です。
今後の運⽤⽅針
当ファンドは以下3つの基準に基づいて投資を行っています。
- 逆風に強い優良企業で、競争優位性に優れていること
- 経営陣が事業運営に長け、合理的な資本配分を行っていること
- バリュエーションが割安であること
また、一般に以下のような特徴を有する企業を逆風に強い優良企業とみなしています。
- 競争優位性が確立され、業界平均を上回る収益成長を実現していること
- 独自な製品やサービス、あるいは必要不可欠な製品やサービスを提供していて、価格決定力に優れていること
- 営業レバレッジが大きく、事業の成長に伴って利益が経時的に拡大すること
- 優れたコスト構造により、厳しい状況下にあってもフリーキャッシュフロー創出力を維持できること
こうした企業にはアジア経済の成長力を取り込む力がある、あるいはアジア諸国独自の強みを生かして事業を国際展開する力があると考えられます。
当ファンドは日本を除くアジア全域から上記基準に最も合致すると判断した企業を選定し、集中的にポートフォリオを構築します。したがって、国別配分比率はあらかじめ設定せず、各国固有のマクロリスクに注意を払いつつ、ボトムアップで銘柄選定を行ってまいります。
2024年10月の運用コメント
株式市場の状況
当月、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比4.46%下落しました。台湾市場はAI(人工知能)需要が予想を上回り、台湾半導体企業の株価が上昇したことから堅調に推移しました。しかし、米国経済が好調であることや、米国大統領選挙の先行きが見通せないことなどから投資家は新興国市場への投資を控え、アジア株式市場の多くで海外資金が流出しました。
中国政府は追加刺激策を示唆して景気の下支えを図りましたが、具体的な内容が明らかにされなかったため、前月の急騰から当月は下落基調に転じました。大統領選挙後に米国の対中輸出(特にバイオテクノロジーやハイテク分野)規制が強化されるのではないかという懸念も投資家のリスク選好度の低下要因となり、選挙が終わるまで様子見の姿勢が広がりました。
インド市場のパフォーマンスは年初から好調を維持してきましたが、当月は一服感をみせました。その一因は、都市部における消費低迷のあおりで消費関連企業の業績が予想を下回ったことにあります。ASEAN市場も投資家の利益確定によって資本が流出し、総じて軟調に推移しました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.45%の上昇となり、参考指数であるMSCI AC Asia ex Japan Index(円ベース・配当込み)の同1.74%の上昇を1.71%上回りました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、金融セクター、生活必需品セクターがマイナスに影響しました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、LIG Nex1(韓国/資本財)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、MakeMyTrip(インド/消費者サービス)などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、AIA Group(香港/保険)、SBI Life Insurance(インド/保険)、ICICI Lombard General Insurance(インド/保険)などでした。
前月の月次報告書で当月は香港の状況について取り上げる可能性をお伝えしましたが、状況が流動的であることから、香港と中国に関する報告は延期させていただきます。中国に対するネガティブな見方は総体的にみると多少後退しましたが、経済面に関しても地政学的リスクと同様に大きな課題が残されているという見方に変わりはありません。当ファンドの目標は適正な絶対リターンを長期的に上げることにあり、中国の組入比率を相対的に低く保つことが妥当であると考えます。香港・中国銘柄の組入比率は現在18%程度で、当ファンドの参考指数より低く抑えています。
ASEAN諸国
中国と比較すると、当ファンドのASEAN諸国に関する長期見通しはよりポジティブです。国によって差はありますが、ASEAN諸国は総体的に若年層が多く、中間所得層が拡大しており、そして現状では何よりも重要な点ですが、地政学的に中立な立場にあります。マレーシア、ベトナム、インドネシアのような国々では、外国直接投資がかつてなく増加しています。当ファンドのASEAN市場全体における組入比率は15%程度と、参考指数を大幅に上回っており、その資金は主に中国銘柄の組入比率を下げることで賄っています。
ASEAN市場における主な課題は、当ファンドの投資基準に合致する企業をいかにして探すかということです。端的に言えば、当ファンドが何よりも求めているのは「優良銘柄」であって、「成長銘柄」ではありません。これが「成長銘柄」を最優先する多くの市場参加者と異なる点です。当ファンドの言う「優良銘柄」とは、高いROC(資本利益率:投下した資本をどの程度効率的に利益に結び付けているかを評価する指標)を維持できる企業を指します。企業がそれを実現するには、何か独自の強みを備えることで、競争を生き抜いていくしかありません。例えば2023年4月の月次報告書で取り上げた当ファンド組入銘柄のIndofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)には、他社が決して追随できない即席麺ブランド「Indomie」という独自商品があります。またBank Mandiri(インドネシア/銀行)をはじめとするインドネシアの大手銀行は、預金コストが国債利回りを大幅に下回るという独自の市場構造を生かし、多大なリスクを負わずに高いROA(総資産利益率)を実現することができます。2024年5月の月次報告書で取り上げたSATS(シンガポール/運輸)は、グランドハンドリング(航空輸送における空港地上⽀援業務の総称)とケータリング事業における世界的リーダーです。
しかし当ファンドがASEAN諸国で調査した企業の多くには、こうした独自性が欠けています。さらに、ASEAN諸国の消費行動は急速に変化しているように見受けられます。そのため、数年間は好調を維持しても、やがて競争や消費者の嗜好の変化によって成長が停滞し始める企業が大半を占めていると考えます(とはいえ、業績が上向く数年間のうちに盤石な地盤を築くことができれば高利益の確保が可能です)。当ファンドは今後も高い投資基準を保ち、ASEAN市場における投資機会を模索して参ります。
Sea(シンガポール/メディア・娯楽)–2度目の好機
ASEAN諸国における最大の投資機会の一つに、消費者のデジタル化があります。2021年8月の月次報告書でSeaを紹介しました。同社はかつて当ファンドに大きなリターンをもたらしてくれましたが、2022年頃からの調整局面により十分なリターンを確保できないまま、2022年後半に同社の組み入れを解消しました。その後、状況は再び好転し始めたと考えられることから、同社の組み入れを再開しました。
同社はGarena(デジタルゲーム)、Shopee(eコマース(電子商取引))、Sea Money(デジタル金融サービス)という3つの事業部門を有しています。
- Garenaは東南アジア最大級のゲームソフト販売事業者で、世界的に人気のある多人数参加型シューティングモバイルゲーム「Free Fire」を運営しています。同ゲームは先進国で人気のシューティングゲーム「PUBG」などとのゲームと比較するとスマートフォンのハードウェアに対する要件が低いため、特に低スペック端末ユーザーの多い東南アジア、中南米をはじめとする新興国市場で人気があります。
- Shopeeは東南アジアと台湾で最大規模の月間アクティブユーザー数を誇るeコマースプラットフォームです。数年前にブラジルに進出し、現在ではトラフィック(アクセス数、実店舗でいう来客数のこと)の面で最大手となっていますが、流通取引総額(GMV)の面ではまだアルゼンチンのMercado Libre社に後れを取っています。
- Sea Moneyは主にモバイルウォレット「ShopeePay」とデジタルバンク「SeaBank」で構成されており、前者は主としてShopeeのユーザーに向けた貸付業務を手がけています。
こうした事業を3つも傘下にもち、ネットワークの効果とスケールメリットを大々的に活用している企業は、当ファンドの知る限りASEAN諸国以外にはありません。
2020年から2021年にかけて、コロナ禍の影響であらゆる人がデジタルを志向するようになったため、エンターテインメントとショッピングの両面で同社は強力な追い風を受けました。その結果、同社の株価は2021年に大きく上昇しましたが、2022年から2023年にかけて、風向きが追い風から向かい風に変わり始めました。
- 経済活動の再開に伴い、モバイルゲームをやめる人が続出しました。Garenaの四半期アクティブユーザー数(QAU)は、2021年第3四半期の7億2,900万人をピークに、2022年第4四半期には4億8,500万人まで減少しました。
- 経済活動の再開はShopeeにとっても逆風となり、eコマースの成長は2022年から2023年にかけて大幅に鈍化しました。
- さらに状況を悪化させたのは、動画投稿アプリ「TikTok」に設けられたEC機能「TikTok Shop」の東南アジア進出でした。TikTokは中国では「抖音(ドウイン)」と呼ばれ、ライブストリーミングとeコマースを融合させたアプリとして成功を収めており、東南アジアでも同じ戦略を展開しようとしました。当初、東南アジアでShopeeと競合していたのは、ほぼAlibaba Group Holding社傘下のLazadaとインドネシアのTokopediaだけでした。そこへTikTokのように資金力のある企業が参入したことで、市場環境は著しく悪化しました。Shopeeは2023年上期の時点で黒字化に成功していましたが、TikTokに対抗しようとライブストリーミングコマースの開発に投資したこと、割引を行ったことで、再び赤字に転落しました。
しかし最悪期は既に過ぎており、同社には再び成長軌道に乗って、東南アジアと中南米における長期的な成長機会を捉える力があるというのが当ファンドの考えです。
Garena
- 「Free Fire」はモバイルゲームの多くが現れては消えていく中にあって、世界的な人気を保つモバイルゲームとしての地位を固めることに成功しました。GarenaのQAUは2024年第2四半期に6億4,800万人まで回復しています。
- 東南アジア最大手としてのGarenaの競争的地位は変わっておらず、「Free Fire」の周囲には既に他社を阻む参入障壁が築かれています。
- 当ファンドはGarenaの成長率を1桁台半ばと控えめに予想しています。同事業部門は急成長しているわけではありませんが、キャッシュフローが潤沢なので会社の財務基盤を強化して他分野に投資することができます。
- Garenaが再び新たな大ヒット作に恵まれれば、成長は確実に加速すると考えます。
Shopee
- TikTokや他の事業者が利益を重視し始め、加盟店に請求する手数料を引き上げたため、域内における競争は沈静化してきています。Shopeeは年内にも再び黒字転換する可能性があると考えます。
- TikTokの参入で当初こそ市場が混乱しましたが、その後はほぼ2社による寡占市場に戻っています。Lazadaは東南アジアで市場シェアを落とし、立場が揺らいでいることから、TikTokやShopeeとの競争はますます困難になっています。現在はShopeeと、Tokopediaと統合したTikTokの競争が中心となり、市場の混乱は収束に向かいつつあります。
- TikTokが中国で多くのeコマース市場シェアを獲得することに成功した要因の一つは、トラフィックの面で既存eコマース企業のAlibaba Group Holdingやcom社(中国)を圧倒したという点にあります。しかし東南アジアにおいては、トラフィック面の優位性はそれほど明確ではありません。それどころか、インドネシアではShopeeの月次アクティブユーザー数がTikTokを上回っています。また、ShopeeはTikTokに匹敵するライブストリーミングショッピング機能「Shopee LIVE」の開発に成功しています。総体的にみると、ShopeeはTikTokの参入による最大の難局を乗り越え、参入障壁を固めたというのが当ファンドの見方です。
- 市場は当初、Shopeeの中南米進出には懐疑的でした。しかしShopeeは市場でうまく立ち回って主要企業としての地位を固め、収益性を継続的に改善しています。
Sea Money
- Sea Moneyはかつて赤字部門でしたが、今では会社の収益源の一画を担う存在へと変貌を遂げ、2024年第2四半期は同社の調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の3分の1以上に貢献しました。
- 同部門の利益の源泉は、主にShopeeユーザーへの貸付です。貸付事業で最も重要なのは成長ではなく、貸付の質です。返済のことなど気にせずにローンを組もうとする信用度の低い相手に資金を貸し付ければ貸し手はいつでも高成長を実現することができますが、貸し手は後から痛い目を見ることになるからです。
- Shopeeはユーザーの支出状況を把握しているため、どのユーザーなら信用度が高く、きちんと返済してくれそうかということを把握しています。またオンライン上で、一部のユーザー層を対象に小規模なテストを行い、その質を見極めるという手法をとることができます。さらに、Shopeeは貸付期間を全般的にきわめて短期間に抑えており、借り手の延滞リスクを見極める時間が長期ローンを組む場合と比較してわずかで済みます。その結果、同社は現状、不良債権比率を低く保ち、貸付事業を機動的に拡大することができています。
- 現在、貸付金の大半は同社の自己資本で運営されていますが、同社は今後、貸付残高のリスク管理で実績を積むことによって、外部の資金を活用してビジネスを行うことが増えると予想されます。そうすることで、事業をよりアセットライトで拡張性の高いものにすることができるでしょう。
- 長期的に考えると、デジタル金融サービス事業はeコマースより大きな可能性を秘めているかもしれません。なぜならば、東南アジア、特にインドネシアでは一般に銀行口座を持たない人が多数存在します。この地域には金融サービスの恩恵を十分に受けていない消費者が多く、デジタル事業者のサービス利用層になり得ます。同社は既に先行者利益を得ており、こうした好材料を生かす上で有利な立場にあると考えられます。
以上の通り、3つの事業のすべてが好調に進んでいることからSeaはASEAN市場の潜在性を生かす上で独自の強みを有する企業であると考えます。
今後の運⽤⽅針
当ファンドは以下3つの基準に基づいて投資を行っています。
- 逆風に強い優良企業で、競争優位性に優れていること
- 経営陣が事業運営に長け、合理的な資本配分を行っていること
- バリュエーションが割安であること
また、一般に以下のような特徴を有する企業を逆風に強い優良企業とみなしています。
- 競争優位性が確立され、業界平均を上回る収益成長を実現していること
- 独自な製品やサービス、あるいは必要不可欠な製品やサービスを提供していて、価格決定力に優れていること
- 営業レバレッジが大きく、事業の成長に伴って利益が経時的に拡大すること
- 優れたコスト構造により、厳しい状況下にあってもフリーキャッシュフロー創出力を維持できること
こうした企業にはアジア経済の成長力を取り込む力がある、あるいはアジア諸国独自の強みを生かして事業を国際展開する力があると考えられます。
当ファンドは日本を除くアジア全域から上記基準に最も合致すると判断した企業を選定し、集中的にポートフォリオを構築します。したがって、国別配分比率はあらかじめ設定せず、各国固有のマクロリスクに注意を払いつつ、ボトムアップで銘柄選定を行ってまいります。
2024年9月の運用コメント
株式市場の状況
当月、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、米国が利下げに踏み切ったことや、中国政府が不動産市場の下支えと国内消費の活性化を狙って景気刺激策を導入したことを受け、前月末比8.47%上昇しました。米中両国の施策が好感されてMSCI中国指数(⽶ドル建て)は前⽉末⽐23.90%、MSCI香港指数(⽶ドル建て)は同17.08%上昇し、前月までの軟調なパフォーマンスが一転しました。
中国では、預金準備率(RRR)と金利の引き下げ、住宅ローンの頭金比率の引き下げ、銀行に対する流動性供給による企業向け貸し出しの促進などの追加刺激策が発表されました。また、今後は低所得者層の支援を図るため、さらなる財政刺激策が導入される見込みです。
台湾市場と韓国市場では、このところテクノロジーセクターが堅調に推移していましたが、その後上昇が一服しました。一方、ASEAN市場はタイ、シンガポール、フィリピンを中心に、堅調に推移しました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、コミュニケーション・サービスセクター、生活必需品セクターなどがプラスに貢献し、エネルギーセクター、素材セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄ではTrip.com Group(中国/消費者サービス)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)などがプラスに貢献しました。一方で、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Vimta Labs(インド/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)、Lemon Tree Hotels(インド/消費者サービス)などがマイナスに影響しました。
台湾訪問
今回の月次報告書では、前月の台湾出張について取り上げたいと思います。
台湾の輸出において、半導体関連が全体の30%以上を占めています。つまり半導体が好調であれば、台湾経済は総じて堅調であると言えます。台湾の2024年第2四半期の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比5.06%増となりました。株式市場も堅調に推移しており、当月末時点のMSCI台湾指数(米ドル換算)は年初来で約31%の上昇と、2023年と同程度の上昇となっています。このように経済全般と株式市場が堅調であることを受け、住宅市場もきわめて好調に推移しています。
当ファンドは半導体に対する楽観的な見方を多少改めましたが、それでも長期的には依然として重要なセクターであると考え、引き続き投資を続けています。今回の出張ではデータセンター用チップの設計を手がけるチップ設計会社、データセンターの液冷ソリューション事業者、半導体製造時に使用する消耗品の製造会社、スマートフォン部品メーカー、PCメーカーなど、複数のテクノロジー企業を訪問しました。全体的に、データセンター関連企業はきわめて好調ですが、スマートフォンやPCなど他のセグメントは依然低調です。世界経済の減速が鮮明になってきていることから、ますます高価になりつつあるスマートフォンやPCを消費者に購入してもらう上で、エッジAI(ネットワークの端末機器(エッジデバイス)上でAI(人工知能)処理を実⾏するシステムの総称)の搭載だけでは訴求力が不十分です。したがって、エッジAIのトレンド化はまだ先になるかもしれません。
小規模でも将来性の高い企業を探索
今回の出張で、今後も調査価値があると判断した企業が多数見つかりました。当ファンドが組み入れているのは一般に中型株と大型株です。なぜなら、当ファンドが最も重要視しているのが事業の健全性であり、企業規模が大きいほど事業の健全性が高い傾向にあるからです。しかし、規模が小さくても健全性が高く、将来性が期待できる企業がないわけではありません。そうした企業に出会った場合、当ファンドはもちろん躊躇なく投資対象に加えます。例えばGudeng Precision Industrial(台湾/半導体・半導体製造装置)というかなり小規模(時価総額20億米ドル未満)な企業を、当ファンドは以前から調査対象としていましたが、今回の経営陣と面談を通じ新規投資を決定いたしました。
当ファンドと他のテクノロジーセクターを扱う投資家との大きな違いは、特定製品の景気サイクルではなく、事業の質を重視している点だと考えています(ただし前者でもうまくいけば高収益の確保が可能です)。昨今マーケット・ニュートラル戦略をとるヘッジファンドで半導体セクターに投資するものが増えているため、この違いがますます際立っていくと考えます。ビジネスモデルが弱ければ、たとえ取り扱い製品の景気サイクルが上昇期にあっても、当ファンドは殆どの場合、その銘柄を組み入れません。その好例がiPhoneの部品サプライヤーです。Apple社(米国)は強大な交渉力を持ち、これまで容赦なくサプライヤーに圧力を加えてきました。そのため、Apple社の部品サプライヤーはたいてい事業の質がかなり劣っています。成長率の高い企業は多くありますが、競合他社の攻勢を防ぐ手立てのないままで成長を続けることはできないと当ファンドは考えます。そうした企業は、いずれ他社が参入すると収益性が低下する可能性があるためです。したがって当ファンドが魅力を感じるのは、強力な参入障壁を備えていて、かつ成長力の高い企業です。
Gudeng Precision Industrial社はフォトマスク(電子部品の製造工程で使用されるパターン原版をガラスや石英等に形成した透明な板。電子部品の回路パターン等を被転写対象に転写する際の原版となるもの)やシリコンウエハーの搬送に使用する専用キャリアを専門的に手がけています。先端半導体ではトランジスタ1個の大きさが数ナノメートル(nm)しかなく、インフルエンザウイルスの約100nmよりさらに微小です。先端半導体は人類がこれまで作り上げた製品の中でも複雑性の高さが突出していて、あらゆる事象をナノメートル単位で測定するため、この上なく繊細で、欠陥が発生しやすいという特徴があります。フォトマスクを搬送する容器でさえ、環境中の微粒子によるフォトマスクの損傷の防止やフォトマスクへの電荷蓄積による静電気放電障害を防止といった対策が必要で、専門化が進んでいます。これらの要件を満たすことがあまりに困難なため、同社はEUV(極端紫外線)フォトマスク搬送用EUVポッドで市場シェアの約85%を占めています。同社はさらに独自の精密加工技術を活用し、航空宇宙用材料分野やデータセンター冷却ソリューション分野にも進出しています。以下の点を鑑みれば、同社は強い参入障壁と成長力を兼備するという当ファンドの投資基準に合致した企業だと言えるでしょう。
- 同社はフォトマスクとウェハーキャリア分野で競争力に優れ、高い市場シェアを確保している。主な競争先は米国企業だが、同社は台湾企業なので、世界最大のEUVリソグラフィ装置ユーザーであるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company社と距離的に近い。
- 同社は優位性を生かし高い利益率を得ている(粗利益率は約46%と、製造業としてはかなりの高水準)。
- 先端半導体製造においてEUVプロセスの採用が拡大しているため、同社は成長力が強い。
- 同社は新たな成長の原動力を確立しつつある。同社の航空宇宙用部品は既に世界的な大手航空宇宙用材料メーカー数社の審査を通過し、急成長を遂げている。同セグメントは参入障壁が高い。
- 同社は台湾の半導体サプライチェーンにおいて、ニッチだが有望な投資先を探している。そうした投資先企業の製品は同社製品と組み合わせる形で顧客に販売されているため、シナジー効果が発生する。投資先企業が単独販売に成功したとしても、同社は投資自体から十分なリターンを得ることができる。
当ファンドは以前から同社が主力事業のフォトマスクとウェハーキャリアで優位性があることを認識しておりましたが、今回経営陣と面談を通じて、歴史の浅い航空宇宙事業の現状と今後の資本配分計画について知り、同社への確信度が得られたため、新規投資を決定しました。
投資先の企業調査以外の成果
台湾は半導体製造の最前線に位置していることから、バリューチェーンに対してどのような影響力を有しているのか見ておきたいと思います。例えば、今回の出張ではCPO(Co-Packaged Optics、光学部品と半導体チップを同じパッケージ内に組み込み、電子に変わって光をデータ送受信に使うことで、データセンターや高性能コンピューティング環境などでのデータ転送速度の向上と、電力消費の削減に対応する技術)に関する知識を深めることができました。データセンターでは、着脱可能な光トランシーバーをサーバーに接続してデータを出し入れします。信号は光ファイバーを通して外部から光トランシーバーに送られ、光トランシーバーは光信号を電気信号に変換します。その後、電気信号は銅線を通してチップに伝送されます。銅線は信号の伝送効率があまり高くなく、特に光ファイバーと比較するとその差が歴然としています。CPOというのは、光学部品をスイッチチップ上に直接組み込むことで、チップと光学部品の物理的な距離を短縮する手法です。そうすることで、銅線を短縮し、帯域幅を高め、消費電力を抑えて性能を大幅に向上できるようになります。この手法は考え方としては新しいものではありませんが、克服すべき課題がまだまだ残されています。しかし当ファンドは今回の企業調査を通じて、2025年末から2026年にかけてCPOの供給量が拡大する可能性のあることが確認できました。CPOの採用が進むことによって、着脱可能な光トランシーバーモジュールが不要になっていくと考えられます。当ファンドが調査を続けている企業の中には光トランシーバーの部品を製造しているものがあることから、CPOの実用化が実現した場合の影響を今後検討する必要があると考えています。
今回はハイテク企業以外にも、スキンケア製品メーカー、製薬CDMO(医薬品の開発・製造受託機関)、自転車メーカーなど、他セクターの企業を多数訪問しました。その結果、台湾市場で有望なのはハイテク企業だけではないという考えがますます強くなりました。ただし、その多くはニッチ銘柄で、台湾への投資を検討していてもほぼ検討対象に入ってこないような企業です。だからこそ、現地を訪問してそうした企業を探し出す必要があるのです。
いい思い出、ただし過去の話
テクノロジー銘柄でもうひとつ触れておきたいのは、当ファンドが保有していたメモリー企業のSamsung Electronics社(韓国)とSK hynix社(韓国)です。両銘柄のウエイトを下げた理由はいくつかありますが、具体的には以下のようなものです。
- メモリーは全般的にコモディティ化した製品で、メーカーは資本集約度が高いという特徴があることや、大手3社(Samsung Electronics社、SK hynix社、Micron Technology社(米国))間の差は極めて狭く、競争が熾烈であること等の特徴があることから、メモリー事業のビジネスモデルはそれほど優れているとは言えません。前回の下落サイクル時は、奇しくも投資家心理が異例の落ち込みをみせていたことから、メモリー企業を組み入れるには絶好の機会だと判断しました。当ファンドはよほどの理由がなければ、優れたビジネスモデルと競争上の優位性を備えた企業を重点的に組み込みたいと考えています。メモリー企業を完全に排除するわけではありませんが、事業の質という観点から見ると、優先度はかなり低い位置に置かざるを得ません。半導体業界にはより優れたビジネスモデルと競争力を備えた企業が他にも多数存在していると考えます。したがって、景気回復局面が完全に過ぎ去ったことから、メモリー企業に対する関心が薄れたというのが実情です。
- SK hynix社はAIデータセンターに不可欠な高帯域幅メモリー(HBM)の圧倒的なリーダーとしてかなりの好業績を上げてきたものの、NVIDIA社(米国)との間にHBM3Eの認証で一時的な問題が発生してから、Samsung Electronics社の追い上げに直面しています。Samsung Electronics社は高い生産能力を備えていますが、NVIDIA社から認証を得られておらず、また歩留まりの低さに苦しんでいます。Samsung Electronics社がNVIDIA社の認証を取得し、業界全体の歩留まりの低さが改善されれば、HBMの生産量が大幅に改善し、供給過剰が発生するリスクは低くありません。しかしながら、HBMがやがてコモディティ化し、SK hynix社のSamsung Electronics社に対する優位性が実質的に失われれば、現状のバリュエーションに付加されているプレミアムは持続できなくなる可能性があります。皮肉なことに、Samsung Electronics社が増産に成功してHBMがコモディティ化した場合、HBMの収益性が低下する可能性があるため、Samsung Electronics社もそれほど利益を上げられないでしょう(それでも低価格製品よりははるかに高水準)。これは「同じ場所に留まるために必死に走っている」状況の典型で、競合他社に対して実質的な優位に立っていない場合に発生する問題です。
- 以前、米国が先端半導体技術に対する規制を強化して中国のメモリー企業の締め出しを図ったことが韓国企業にとって優位に働くと当ファンドでは考えていましたが、これが正反対の方向に進み始めたようです。中国企業がEUVリソグラフィ装置を導入できなければ、先進的なDRAM製品を製造できないのは確かです。しかし米国が規制を強化したことで、中国の半導体企業は規制対象がいずれ成熟技術にまで広がることを見越して、成熟ノード用の半導体装置を可能な限り早期に購入するようになりました。中国の大手DRAM企業であるChangXin Memory Technologies社はウェハー生産能力が2025年末までに月産30万枚に達する見込みで、これはMicron Technology社の生産能力に比肩する量です。HBMやDDR5メモリーのようなハイエンド市場は依然として世界3大メーカーの手にしっかりと握られていますが、中国企業はローエンドからミドルエンドのメモリー市場に革新的な変化をもたらし始めています。成熟ノード技術における中国企業の急成長は、メモリーにとどまらず、広範囲に影響を及ぼしています。成熟ノード・ロジックとアナログ半導体を手がける企業には危機が迫っています。
当ファンドの投資プロセスの中心にあるのは各企業の競争優位性と業界における競争の動向です。メモリーについては動向が好ましくないため、両銘柄のウエイトを引き下げました。
中国市場について - あらゆる手立てを尽くすなら
当月末にかけて、香港・中国市場で株式が急騰しました。これはひとえに中国の政策支援に関して楽観的な見方が出てきたことが要因と考えます。以下は中国人民銀行が主導する主な金融政策ですが、政府も財政政策を通じて景気支援を行うという主旨の声明を出しています。
- 銀行の預金準備率(RRR)引き下げ
- 政策金利、預金金利、住宅ローン金利など複数金利の引き下げ
- 2軒目の住宅購入時における最低頭金比率の引き下げ
- 市場関係者を驚かせたのは、中国人民銀行が株式市場に対する直接的な流動性支援に乗り出し、証券会社、ファンド、保険会社を対象に5,000億元の融資枠を設定するなどして株式購入資金の提供に取り組み始め、さらに銀行にも3,000億元の再貸出枠を設定し、上場企業や主要株主による自社株式の購入の支援に乗り出したこと
もし中国がすでに「バランスシート不況」に突入したと考えるなら、経済にこれ以上流動性を注入してもほとんど効果はありません。なぜなら、企業も家計も疲弊し過ぎていて、再び借り入れを増やす余裕がないからです。将来的な収入に不安があることや住宅投資で損失を出したことで、消費者心理はきわめて弱含んでいます。過去数年の間に、比較的高収入の従業員を多く雇用していた業界、例えばインターネット、金融サービス、教育といった業界はいずれも規制措置によって勢いを削がれました。そうした業界で働く人々は、売れ筋商品の高価格化に中心的な役割を担っていました。しかし今ではその多くが職を失い、不動産投資で損失を被って、生活を維持することさえままならない状況に陥っています。中国には「寝そべり族」(躺平族)という流行語がありますが、これは頑張って成功しようという意欲(さらに働こうという意欲)を喪失した人々を指します。そして「バランスシート不況」という用語を提唱した野村総合研究所のリチャード・クー氏によれば、その解決策は財政政策にあるようです。
本報告書執筆時点では、どのような財政政策が発表されるのかはまだ不明です。Reuters社(英国)の報道によると、中央政府は特別債を2兆元分発行し、消費の刺激と投資の促進、子どもが複数いる家庭への手当支給、地方政府の負債対応に充当する予定だということです。これまでのところ、政府は問題解決にあたって自らがもつリソースを十分に活用していないと批判されています。もしも中央政府がそうしたリソースをうまく活用できるなら、中国はあらゆる手立てを尽くして経済の停滞を食い止めようとしていると言ってよいでしょう。
当ファンドは中国銘柄の組み入れを低めに抑えており、そのために当月末にかけて相対的にパフォーマンスが低下しました。その後中国銘柄の組入比率を引き上げましたが、それほど大幅なものではありません。
当ファンドが目指しているのは、損失を出すリスクを極力抑えながら、適正な長期的絶対リターンを上げることです。したがって、中国株が急騰したからといって、過剰なリスクを冒してまでその動きに追随しようとは思いません。そうしたなか、Tencent Holdings社については、消費者心理が弱含んでいるものの、同社のファンダメンタルズが強固であることを踏まえ、組入比率を引き上げました。
中国市場に関する主な問題点は、経済が長期的なデフレに陥るリスクがあることです。デフレ環境下にあっては、企業の名目成長率が恒常的に逆風にさらされるため、中国株式のファンダメンタルズをインフレ率が低い状態にある域内の他市場と比較するのが困難になります。しかし中国政府があらゆる手立てを尽くしてデフレ圧力を抑制しようという姿勢を見せてくれるなら、中国株の有望性を見極めやすくなります。例えば主要インターネットプラットフォームの多くは、株価急騰後も引き続きPER(株価収益率)が10倍台前半、フリーキャッシュフロー利回りが1桁台後半の状態で取引されていて、全力で株主還元に取り組む姿勢を保っています。こうした企業はいずれもキャッシュフロー生成能力が高く、過去4~5年間で中国の景気が減速するまでは世界屈指の優良企業でした。そうした観点に立って、改めてこう考えてみたいと思います。こうした銘柄の中には東南アジアや韓国のような他の市場の「割安」銘柄より有望なものが多いのではないか、と。
香港について
当月は香港に出張しました。香港は大きな課題に直面していることを受けて、当ファンドは関連銘柄の組み入れをごく低水準に抑えています。しかしFRBが利下げサイクルに入れば、状況はわずかに改善する可能性があると考えています。来月は香港の状況について取り上げるかもしれません。
2024年8月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は様々な値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比1.98%上昇しました。月前半は円キャリー取引の巻き戻しと米国の景気後退に対する懸念を受けて株価が急落しましたが、その後は反動で回復に向かいました。FRB(⽶国連邦準備制度理事会)のパウエル議長がジャクソンホール会議で近い将来に利下げに踏み切るという主旨の発言をしたことから、市場心理が改善しました。
フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどアジア新興諸国の当月のパフォーマンスは北アジア諸国やインドを上回り、中でもMSCIフィリピン指数(⽶ドル建て)は前月末比10.37%と高い上昇を示しました。インドネシア市場も同国政府が規律ある次期予算を示したことから、堅調に推移しました。プラボウォ次期大統領が公約に掲げた「学校給食無料提供」制度の予算はGDP比0.3%程度と、当初懸念されていた同2%程度よりはるかに低水準でした。その他補助金やインフラ支出もほぼ横ばいに据え置かれました。
香港の前月の小売売上は数量ベースで前年同月比13.3%減と予想を下回り、13か月にわたって下降傾向が続いています。小売売上の低迷は広範囲にわたり、大半の消費カテゴリーに及んでいます。住宅価格も引き続き低迷し、オフィスの空室率は未だに高水準に留まっています。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、金融セクター、ヘルスケアセクターなどがプラスに貢献し、一般消費財・サービスセクター、資本財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、E Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、SATS(シンガポール/運輸)、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)などがプラスに貢献しました。一方で、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、SK hynix(韓国/半導体・半導体製造装置)、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)などがマイナスに影響しました。
日本銀行は前月末日、市場の予想に反して政策金利をおよそ15年ぶりに0.25%へ引き上げました。これを受けていわゆるキャリー取引(低金利の通貨で調達した資金を高金利の通貨に換えて資産運用し、金利の利鞘を稼ぐ取引)の巻き戻しが発生し、世界の株式市場が軒並み下落しました。しかし日銀幹部が後日、市場が不安定な状況で利上げをすることはないと発言をしたことで、アジア市場の多くは回復に向かいました。
米国の利下げは早ければ9月にも実施される可能性があることから、アジア新興国市場では通貨が月間を通じて上昇し、海外からの資金流入が見られました。
中国市場では、Tencent Holdings社(中国)が2024年第2四半期決算において、純利益が同年同期比82%の大幅増となりました。Alibaba Group Holding社(中国)は新経営陣が資本効率を重視する姿勢を見せ、主力事業に関して説得力ある戦略を提示し、自社株買いを継続したことを受け、株価が上昇しました。さらに中国の国家市場監督管理総局は、2021年に同社を独占禁止法違反で摘発してから過去3年間にわたって続けてきた同社の独占的慣行に関する調査が終了したと発表しました。また、NVIDIA社(米国)の2024年第2四半期決算が投資家の高い期待に応えられなかったことでAI(人工知能)関連銘柄やファウンドリー銘柄が下落しました。当ファンドはこれを機に、電化とデジタル化という構造的トレンドの恩恵を受ける台湾の企業「BizLink Holding社(台湾)」への新規投資を開始しました。
<BizLink Holding(台湾/資本財)>
BizLink Holdingは1996年にシリコンバレーで設立されたインターコネクトソリューションの世界的大手企業で、16か国以上にオフィスと30か所以上の製造拠点を構えています。Dell Technoligies社(米国)、Intel社(米国)、HP社(米国)など家電メーカー向けのケーブルおよびコネクタメーカーとして創業し、その後、自動車、産業機器、電化製品分野へと多角化していきました。インターコネクトソリューションは現代のデジタルインフラの基盤であり、今後電化とデータ消費量の増加に伴って構造的成長を遂げる見通しです。
同社は2023年に「4x4戦略」を発表し、4大地域(北米、欧州、東アジア、東南アジア)で4大戦略産業(電気自動車、データセンター/IT、産業機器、高価値電化製品)に関わる事業の比重を増やすことを目標としています。2024年第2四半期決算時点における部門別売上高は、産業機器が40%、IT/データ通信が23%、自動車が18%、電化製品が18%となっています。地域別では、売上の35~40%が欧州、20~25%が中国、20~25%が米国、15~20%が中国を除くアジアで、各地域で多品種大量生産に対応しています。同社の多角化への取り組みは10年以上にわたって続けられており、国際医療機器市場に参入する一方で、2016年にはJo Yeh社(香港)を買収して自動車市場へ進出、さらに2017年にはLEONI社(ドイツ)のワイヤーハーネス部門を買収し、欧州電化製品市場への進出を果たしています。こうした取り組みを受けて収益基盤が強化され、景気循環に左右されにくくなりました。
事業基盤の強化を通じ、同社は少量多品種を中心とした戦略から、半導体機器、医療機器、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)アプリケーションなど、より専門的で付加価値の高い分野へとシフトしています。新規顧客の獲得と米国の「ハイパースケーラー」とも呼ばれる巨大なインフラ設備を運営するクラウド企業からの根強い需要により、2024年第2四半期の利益率は過去最高の28.1%となりました。米国ハイパースケーラーの設備投資はAI需要を背景に拡大の一途を辿っており、今後大きな成長余地が残されていると考えます。同社の製造基盤は多様かつ柔軟で、東南アジアと欧州におけるデータセンター急増の恩恵に浴する上で有利な位置づけにあります。
同社は最高執行責任者(COO)を務めるFlorian Hettich氏のもとで利益率の低い事業のテコ入れを図り、資金管理の強化を続けた結果、業務運営効率が改善しました。キャッシュフローが改善されたことから、前月発表されたEasys社(スロバキア)の買収資金を最小限の外部資金で賄いつつ、今後さらなる債務削減にも期待できると考えます。
2024年7月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は様々な値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比0.06%下落しました。パフォーマンスで上位につけたのはタイ、シンガポール、フィリピン、インドなどで、株価が堅調に推移しました。台湾と中国は遅れをとり、全般的にみて株価指数の低迷要因となりました。
米国では、カマラ・ハリス副大統領がバイデン大統領に代わって民主党候補に指名され、秋の大統領選挙でトランプ前大統領と対決することになりそうです。一方、FRB(⽶国連邦準備制度理事会)が9月に利下げに踏み切るという観測が広がっています。米国株式市場、特にマグニフィセント・セブン(米国株式市場を牽引する超大手テクノロジー企業7社)の株価の振れ幅が拡大したことも、アジア市場の投資家心理が弱含む原因となりました。AI(人工知能)と米国テクノロジーセクターの低迷は、テクノロジーセクターへの依存度が高い台湾株式市場にとって大打撃となっています。
中国では三中全会(中国共産党の「中央委員会第3回全体会議」の略称)が開催され、政策がいくつか発表されたものの、市場に大きな反応を引き起こすと考えられるものではなく、市場関係者からはあまり材料視されませんでした。一方、香港は依然経済面の課題を抱えており、不動産価格が下落し、小売売上高が低迷しています。6月の小売売上高は、本土に出かけてグレーターベイエリア(大湾区)で買い物をする住民が増えたことで、前年同月比9.7%減少し、4か月連続の減少となりました。
インド市場は幅広い構造改革と良好な事業環境が好材料となって当月も好調を維持し、経済は力強い成長軌道を保ちました。ASEAN諸国は総じて好調で、マレーシアのデータセンター、半導体、観光セクターに引き続き大きな関心が集まっています。インドネシアも景気底打ちの兆しを見せており、投資家は10月に就任する新大統領が政策を明確に打ち出してくれることを期待しています。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、金融セクター、ヘルスケアセクターがプラスに貢献し、情報技術セクター、一般消費財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、SBI Life Insurance(インド/保険)、SATS(シンガポール/運輸)、Vimta Labs(インド/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)などがプラスに貢献しました。一方で、SK hynix(韓国/半導体・半導体製造装置)、Hyundai Motor(韓国/自動車・自動車部品)、Samsonite International(香港/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
当月、インド株式市場は引き続き好調で、Nifty50指数は前月末比3.9%の上昇、年初来の上昇率は14.8%となりました。一方、TWSE(台湾加権指数)は前月末比3.6%、HSCEI(ハンセン中国企業指数)は同3.5%とそれぞれ下落しました。
当月、主なマイナス要因となった銘柄のSamsonite Internationalは、年初から模索していた株式買い取りが実現しなかったこと、さらに米国経済の低迷、高級品需要の減少とそれによる「TUMI」ブランドの売上減少、競争激化によるインドでの成長鈍化などといった懸念を受けてバリュエーションが大きく低下しました。同社は現在、予想PER(株価収益率)10倍程度のバリュエーションで取引されています。ただし短期的に下落したとしても、旅行需要は今後もアジアと中南米の新興国市場において構造的成長の原動力になるというのが当ファンドの見方です。
Samsonite Internationalはスーツケース業界のグローバルリーダーで、世界No.1のシェアを誇っています。同社は海外旅行需要の構造的成長の恩恵を受けており、特に売上の約40%を占めるアジアではその傾向が顕著です。2024年第1四半期はアジア売上が為替の影響を除いて前年同期比7.5%増加し、中国、日本、韓国ではそれぞれ23.0%、26.4%、13.3%の増加となりました。中国の航空旅客数はまだコロナ禍前の水準まで回復していませんが、訪中ビザの免除国を拡大するという政策が発表されたことから、2025年にかけてさらなる回復が見込まれます。すでに中国は2024年初めから、欧州諸国やマレーシア、シンガポール、タイなどからのビザなし渡航を許可すると発表しており、他の国についても申請手続きを簡素化しました。
同社の売上は2023年度にコロナ禍前の水準まで回復し、2024年第1四半期も回復基調が続いて過去最高となりました。ここで注目すべきは、(1)2020年から2021年にかけて包括的なコスト削減プログラムを実施したこと、(2)eコマース(電子商取引)を通じた消費者への直接販売の貢献が拡大したことで、収益性がコロナ禍前より大幅に改善し、2024年第1四半期の粗利益率が60.4%に達したことです。
コスト削減に関しては、販売管理費の売上に占める割合が減少しています。これは複数地域にわたるSKU(Stock keeping Unit、受発注・在庫管理を行うときの最小の管理単位)の合理化、2019年から2023年にかけて直営小売店の約24%削減、人員削減によるものです。 また財務体質に関しては、債務削減の観点から様々な取り組みを行ってきました。純債務残高は2024年3月31日時点で約10億8,000万米ドルと前年同期比で減少し、純債務比率は2016年のTUMI買収以来の最低水準となりました。同社はフリーキャッシュフローの回復によってさらに債務削減を進め、金利負担を軽減することができると考えます。
明らかに言えるのは、同社の事業効率がコロナ禍前より向上しているということです。同社は一流ブランドでポートフォリオを構築し、優れた流通網を持ち、アセットライトなビジネスモデルを採用していることから、アジアと中南米の新興国市場でさらなる躍進を遂げ、今後数年で売上高が10%近く拡大、ROE(株主資本利益率)も20%強に達するというのが当ファンドの見方です。
最後に、同社は6月に2億米ドル規模、発行済み株式の4.3%に相当する上場以来初となる自社株買いプログラムを開始しましたが、これは現在のバリュエーションが本質的価値を大幅に下回っているという当ファンドの見解を裏付ける動きととらえています。
2024年6月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、台湾、韓国、インドなどを中心に株価が上昇し、前月末比4.32%上昇しました。台湾市場と韓国市場は、テクノロジーセクターの上昇基調が引き続き追い風となりました。台湾で毎年開催されるCOMPUTEX TAIPEI(台北国際コンピュータ見本市)では、AI(人工知能)の能力が急速に向上し、速いペースで導入が進んでいることが明らかになりました。両国の企業はAIサプライチェーンの中で戦略的な立ち位置をとり、今後数年にわたって続くAIの進化の流れに乗ろうとしていると考えられます。
インド市場では総選挙後しばらくの間、変動幅の大きい状態が続きました。モディ首相率いる国民民主同盟(NDA)は下院で293議席を獲得し、予想より少ないながらも、過半数を確保しました。株価はモディ政権発足直後こそ下落したものの、現行政策が継続されるという見方が投資家の間に広がったことで、力強く反発しました。
中国市場と香港市場は4月と5月には好調なパフォーマンスを記録しましたが、当月は上昇基調が一服しました。これは中国政府が7月に開催される長期的な経済政策運営の方針を決める重要会議「三中全会」の後に大規模景気刺激策を打ち出すという見方が薄れ、景気回復のペースをより慎重に見定めようという姿勢が強まったためと考えられます。一方、香港の不動産セクターは引き続き業績が低迷しており、中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)は2016年以来の低水準に達しました。オフィス市場も苦戦しており、英不動産コンサルティング会社Knight Frank社は香港の空室率は過去最高の12.2%に上ると発表しました。また、ハンセン不動産指数の年初来の下落幅は約19%に達しました。
ASEAN諸国は内需と外需がいずれも低迷したことで、経済成長が総体的に鈍化しました。米ドル高によって新興国通貨にさらなる下落圧力がかかり、新興国経済の直面する課題がまた一つ増えた形となりました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、情報技術セクター、金融セクターなどがプラスに貢献し、素材セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、SK hynix(韓国/半導体・半導体製造装置)、E Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Hyundai Motor Company(韓国/自動車・自動車部品)などがプラスに貢献しました。一方で、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、SOLUM(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Alibaba Group Holding(中国/一般消費財・サービス流通・小売り)などがマイナスに影響しました。
当月、台湾市場及び韓国市場、インド市場はそれぞれ上昇しましたが、これはNVIDIA社(米国)のCEOを務めるジェンスン・フアン⽒が台湾の半導体大手Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置、以下「TSMC」)社製品の値上げを支持すると述べたことを受け、TSMCとSamsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)の株価が大幅に上昇したためです。米国の大手テクノロジー企業はAIを事業に組み込もうと、営業キャッシュフローの大部分を設備投資や研究開発に再投資しています。当ファンドはアジア新興国の中で注目度の低い銘柄を優先的に組み入れ、超大型株の組入比率を低い状態に保っていましたが、2023年頃からSK hynixの組入比率を大幅に引き上げたことで、同銘柄は当月、当ファンドのパフォーマンスに大きく貢献しました。
当月は、当ファンド組入銘柄の「SK hynix」についてご紹介します。
人工知能の時代に入るとデータは「新たな黄金」とも称されるほどの価値を持つようになりました。ChatGPTのようなOpenAI(米国)が作成した大規模言語モデルの最新動向に関心のある方ならば、GPT-4でマルチモダリティ(言語のみならず、画像、ジェスチャー、姿勢、目線、色などにも着目した概念)が導入され、文字情報だけでなく画像入力にも対応できるようになったことをご存知かもしれません。前月にリリースされたChatGPTシリーズの最新AIモデル「GPT-4o」には、リアルタイムで音声を処理、理解、生成する機能が追加されました。こうしたマルチモーダル大規模言語モデル(LLM)の学習に使用されるデータ量に関する開示は限られているものの、画像や音声等による入力を処理するには、これまでになかったデータ要件が必要になるであろうことは想像に難くありません。AIモデルの学習にはメモリ半導体に多額の投資を行う必要がありますが、その恩恵に浴する立場にあるのが、SK hynixだと考えています。
メモリ半導体は、スマートフォン、コンピュータ、自動車、データセンターなど、現代のあらゆるコンピュータ機器に欠かせない部品です。SK hynixの半導体業界におけるメモリのシェアは、2001年から2021年かけて約30%を超えるまでに成長しました。メモリ市場は現在、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technology社(米国)の3社の市場シェアが合計で80%を上回り、ほぼ寡占状態となっています。過去20年間で業界の収益性は改善し、景気循環に伴う変動が少なくなりましたが、これは市場の再編が進み、設備投資の合理性が高まったことによるものと考えられます。当ファンドは景気低迷期後の上昇サイクルのたびに収益が増加していることから、同社を景気循環の影響を受けやすいものの、優良銘柄と判断しています。AIコンピューティングの出現によって半導体メモリ需要が急増し、高帯域幅メモリ(HBM)DRAMやエンタープライズグレードのソリッドステートドライブ(SSD)の需要も急拡大しています。
HBMは、AIや機械学習のような膨大な計算能力と高速データアクセスを必要とするアプリケーションに不可欠です。HBMは主要アプリケーションのメモリ帯域幅を高める手法として開発されたもので、メモリチップの組み合わせや積層方法を工夫することで、CPUやGPUへのアクセスを高速化しています。同社はこの技術の開発にいち早く着手し、HBM3(現行バージョン)では市場シェアの90%以上を握っている業界最大手です。HBMはどのバージョンもフォームファクタが小さく、帯域幅、メモリ容量、電力効率が高いのが特徴で、同社は2026年までに第6世代と第7世代のHBMとHBM4Eを発売する予定としています。
メモリ大手3社が設備投資と研究開発の大部分をHBMに振り向ける中(SK hynixの場合、2028年までに投資を計画している750億米ドルのうち80%)、従来型のDRAMとNANDの供給量は依然として伸びていないため、業界内では価格のさらなる上昇と収益拡大が見込まれています。メモリがコモディティ製品であったことは、同業界が景気循環の影響を受けやすいという点からも明らかですが、目下同社がHBMの技術で優位に立っていることは明確で、Samsung ElectronicsやMicron Technology社といった競合先がこれに追随するのはかなり困難であるように思われます。HBMの技術的手法の再現は困難であるという点が明らかになれば、SK hynixの株価は資産価値にプレミアムを付加した水準まで上昇するのが当然と考えますが、現行の株価は出遅れ組であるMicron Technology社より割安な水準にあります。
2024年5月の運用コメント
株式市場の状況
当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、台湾、シンガポールなどに牽引される形で前月末比1.58%上昇しました。当⽉パフォーマンスが振るわなかった市場は、インドネシア、フィリピン、韓国などでした。中国市場と香港市場は前月以降の堅調な上昇基調を維持しました。中国政府は当月、不動産セクターに対する政策支援を発表し、地方政府の支援を通じて落ち込んだ不動産市場の安定化を図る意向を示しました。一部投資家の間に中国の不動産セクターは最悪期を脱した可能性があるという見方があることから、MSCI中国不動産指数は過去2か月でおよそ17%上昇しました。
AI(人工知能)関連銘柄は前月に一時的な調整局面に入りましたが、当月は堅調な上昇基調を取り戻しました。NVIDIA社(米国)が好調な業績と見通しを発表したことは、アジアのAIサプライチェーン全体、とりわけ台湾と韓国のハイテク銘柄に恩恵をもたらしました。アジア地域でデータセンターの需要が旺盛であることから、Microsoft社(米国)、Alphabet社(米国)、Amazon.com社(米国)、NVIDIA社などはASEAN諸国に多額の投資を行い、域内の有能なエンジニアと低い運営コストを最大限に生かそうとしています。
インド市場は小幅な値動きで推移しましたが、これは投資家が選挙の行方を見定めようとして待ちの姿勢をとったためだと考えられます。モディ首相が続投して3期目に突入し、現行政策を継続して経済成長を推進するというのが大方の予想となっています。
インドネシア市場は企業業績やマクロデータの低迷や前月に発表された予想外の利上げの影響で軟調なパフォーマンスに終わりました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、エネルギーセクターなどがプラスに貢献し、一般消費財・サービスセクター、金融セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、SK hynix(韓国/半導体・半導体製造装置)、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Polycab India(インド/資本財)などがプラスに貢献しました。一方で、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)、Mitra Adiperkasa(インドネシア/一般消費財・サービス流通・小売り)、Vimta Labs(インド/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)などがマイナスに影響しました。
当月の主な下落要因は、インド市場とインドネシア市場の下落によるもので、インドのNifty総合指数は前月比0.33%下落し、インドネシアのジャカルタ総合指数は同3.64%下落しました。
インドでは6月前半に行われる総選挙の結果を見定めようという流れから、株価の上昇に歯止めがかかりました。また、インドネシアでは前月に中央銀行が通貨の下支えを狙って想定外の利上げを行ったにも関わらず、インドネシアルピアは対米ドルで約4年ぶりの安値圏となり、これを受けてジャカルタ総合指数は年初来最低水準に落ち込みました。
当月のパフォーマンスにマイナスに影響したBank Mandiriは、流動性の低下、債券再評価の遅れ、優良融資先獲得競争の激化によって銀行セクター全般が低迷したため下落したものと考えます。ただし短期的な上昇要因が限定的であるとはいえ、同行は自己資本比率、信用力、流動性の面で強固なバランスシートを有し、バリュエーションもBank Central Asia社(インドネシア)と比べると妥当な水準にあることから、今後の構造的な銀行業浸透の高まりにより恩恵を受ける立場にあると考えます。
一方、当月のパフォーマンスにプラスに貢献したSATS(シンガポール/運輸)は2023年第4四半期決算が好調だったため上昇したと考えます。
当月は、当ファンドの投資先である「SATS」について、ご説明します。
SATSはグランドハンドリング(航空輸送における空港地上支援業務の総称)とケータリング事業で高い世界市場シェアを有する大手企業の一つで、近年は旅客数増加の恩恵を受けています。同社は高成長銘柄ではありませんが、コロナ禍の影響とフランスのグランドハンドリング事業者Worldwide Flight Services社(以下WFS社)の買収により、バリュエーションは割安であると考えます。一方、黒字転換を果たしたばかりであることから、今後は債務比率の低下が見込めると考えます。同社の経営陣は配当を再開するという計画を2024年度に実現させましたが、成長に向けて再投資を行う必要があることから、配当性向はコロナ禍前の70~80%までには達しないと述べました。
同社の業績は過去4四半期連続で改善し、取扱便数、航空貨物、機内食取扱件数はそれぞれコロナ禍前の82%、93%、101%まで回復しています。地政学的リスクの継続で世界的な貨物取扱量の伸びは滞る可能性がありますが、同グループはEtihad Airways社(アラブ首長国連邦)、Air China社(中国)、Air Canada社(カナダ)から新たな長期契約を獲得しています。
さらに注目すべきは、税引後および少数株主持分調整後純利益(PATMI)が2023年度の2,700万シンガポールドルの赤字だったものが2024年度にプラスに転じたことです。シンガポール事業(売上の約34%、WFS社買収前は約80%)の認知度は高く(チャンギ空港でシェア約80%)、経営陣は稼働率約80%で損益分岐点を達成できると述べています。第1四半期の稼働率は84%で、第2四半期にはさらに90%まで改善しました。長期的には、チャンギ空港第5ターミナルの稼働能力は2030年代半ばに60〜70%拡大する見込みです。
2023年4月に同社がWFS社の全株式を約18億シンガポールドルで買収し子会社化してから、1年が経過しました。SATSはアジア中心、WFS社は欧州・米国中心と、両者の貨物取り扱いの重複が少なく、顧客のクロスセルが可能であることから、収益面での相乗効果が期待できます。経営陣によると2023年は年換算で4,000万シンガポールドルの相乗効果があり、3~5年後に統合が完了すれば、年換算で1億シンガポールドルの相乗効果が見込まれるとのことです。SATSはこの買収によって市場規模80億シンガポールドルの貨物取扱市場で約20%の市場シェアを獲得し、地理的基盤もアジア約40%、米国約40%、欧州・中東・アフリカ約20%と大幅に多様化して、業界世界最大手の座に躍り出ました。
また、同社は市場規模が巨大なアジアの航空機内食市場でも最大のシェアを誇ります。バンコク、天津、ベンガルールの集中調理施設で構成される第3層生産網を通じて市場に革新的変化をもたらしており、2025年までに機内食の生産能力のさらなる拡大を目指しています。さらに主要市場で即席食品を発売し、機内食以外の食品事業に参入するという目標も掲げています。機内食以外の食品事業は事業許可の取得が容易なため、比較的参入障壁も低く、競争が激しいものですが、同社はアジア地域での事業拡大を続けています。
さらに、同社のバランスシートはWFS社の負債とリース負債を連結した結果、同社の自己資本に対する純負債の比率は1.3倍となりました。経営陣は改めてフリーキャッシュフローの創出による収益性の回復と債務比率の適正化に注力すると述べています。2024年度のリース料支払後フリーキャッシュフローは約4,800万シンガポールドルの減少となりましたが、マイナス幅は2023年度の約1億シンガポールドルから縮小し、リース料支払前フリーキャッシュフローは約3億2,700万シンガポールドルの増加と、2023年度約4,000万シンガポールドルの減少から大幅に改善しました。同社の魅力は、圧倒的な競争上の優位だけではなく、100~140日というマイナスのキャッシュ・コンバージョン・サイクル(現金循環期間)でプラスのフリーキャッシュフローを生み出してきた点にあります。
経営陣は2024年度決算で、2028年までにグループ売上高を80億シンガポールドル以上に伸ばし、ROE(株主資本利益率)を約15%に改善するという目標を発表しました。なお、WFS社は貨物の構成比率が高く、長期的にはマージン拡大が見込まれますが、債務の負担に加え、労働面で問題(特に米国とEUにおける組合運動やストライキ)を抱えていることには注意が必要です。
2024年4月の運用コメント
株式市場の状況
当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、米ドル建て)指数は、中国、香港、シンガポールなどに牽引される形で前月末比1.26%上昇しました。当月パフォーマンスが振るわなかった市場は、インドネシア、韓国、フィリピンなどでした。米国のインフレ率が予想を上回ったことで、米国の金利に対する投資家の見方は「高金利の長期化」シナリオにシフトし、成長株を中心に下落しました。
ナスダック総合指数は4.41%下落し、アジアのテクノロジーセクターにも大きな影響を与えました。韓国市場はテクノロジーセクターに対するエクスポージャーが高いことから、低調に推移しました。
ASEAN市場はインドネシア、フィリピン、タイを中心に全般的に低迷しました。米ドル高の影響から、これらの市場で為替変動とインフレ圧力に対する懸念が高まりました。インドネシアは自国通貨の下支えを狙って唐突に政策金利を0.25%引き上げ、6.25%としました。
一方、中国市場と香港市場は、政策支援、業績回復期待、割安なバリュエーションに後押しされ、堅調に推移しました。不動産セクターとインターネットセクターに投資家の関心が集まりました。AIA Group(香港/保険)は好調な決算と追加の自社株買いを発表し、株価は大きく反発しました。
インド市場は前月の調整後、中小型株の力強い反発に牽引され、上昇基調を取り戻しました。インドの国政選挙は当月半ばに始まり、6月前半の開票まで1か月半あまり続きます。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、一般消費財・サービスセクター、ヘルスケアセクターなどがプラスに貢献し、生活必需品セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Vimta Labs(インド/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)などがプラスに貢献しました。一方で、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)などがマイナスに影響しました。
当月、中国市場は複数要因が重なったことで上昇しました。第一に、中国共産党が中央政治局会議で「不動産の在庫を消化し、新規供給を最適化すること」、さらに「地方政府、不動産開発業者、金融機関に責任をもって住宅の秩序ある供給を行わせること」を目的とした対策を模索すると表明したことです。その手段として、政策銀行が地方政府に資金を提供して開発業者の在庫消化を促し、流動性を向上させるというものが考えられます。第二に、中国の政府系ファンドであるCentral Huijin Investmentが、2024年第1四半期に約460億米ドルを投じてA株市場(上海証券取引所、深セン証券取引所に上場されている中国企業の株式のうち、人民元建てで取引をされているもの)の株式を購入し、主にETFを通じて資本市場のさらなる下支えを行ったことです。第三に、中国国務院(政府)が株式上場基準を厳格化し、コーポレートガバナンスの改善を企業に求める指針を発表したことです。既存上場企業の質の向上や、証券発行の手段や監督の厳格化に力点が置かれたことは、投資評価と投資家保護に重点があることを示していると考えます。その一環として、国営企業の経営上の業績評価指標(KPI)が時価総額と直接的に結びつくことになります。さらに、配当方針を策定していない企業や配当性向が低い企業は、リスク警告を受ける可能性があります。A株上場企業の多くが2023年に配当率を引き上げていることから、中国の継続的な国営企業改革は実を結んでいる可能性が高いと考えています。当ファンドの組入銘柄である「PetroChina Company」は、こうした継続的改革を背景に、ここ数か月で評価の見直しが始まっている銘柄だと考えています。
< PetroChina Company >
PetroChina Companyは中国最大の石油・ガス総合メーカーで、石油・ガス生産量ともに同国全体の過半数を占めています。同社の株価は、(1) 過去の超過利得税引き上げ、(2) 国内ガス価格の上限設定によるガスの輸入減少 (3) オールインコストの高騰により、過去10年単位でみると下落傾向にありました。石油・ガス消費量の持続的拡大とエネルギー価格の上昇により、過去5年間で売上高と純利益ともに年平均で成長しているにも関わらず、この傾向に歯止めはかかりませんでした。
2016年以降、国内のガス生産コストが安定している一方、同社の国内ガス平均販売価格は上昇傾向にあります。これは同時期にガスの平均輸入価格が上昇したため、徐々に市場志向の価格設定にシフトしているためであると考えます。実際に海洋ガスの直接販売、非在来型ガス、液化天然ガスの直接販売については、一部の省で価格設定が全面自由化されています。過去2年の間に天然ガスの非民生用シティゲート価格と民生用シティゲート価格が統一されたことも、市場価格改革が順調に進んでいることを裏付ける材料と考えます。
株式市場のパフォーマンスというKPIの追加が先日発表されたことは、経営陣がROE(株主資本利益率)の改善に加え、増配や自社株買いといった対策に取り組む動機になると考えます。2024年第1四半期にネットキャッシュがプラスに転じたこと、2024年の設備投資予算が減少したこと、フリーキャッシュフロー利回りが大手の中でも最高水準に達していることから、同社の配当性向には上振れ余地があると考えます。2024年に入って上昇したとはいえ、同社の予想PER(株価収益率)約7倍、配当利回り6%台というバリュエーションは依然割安であると考えます。
2024年3月の運用コメント
株式市場の状況
当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、台湾、韓国、シンガポールなどに牽引される形で前月末比2.58%上昇しました。
テクノロジーセクターは引き続き堅調な値動きを見せ、代表的な銘柄であるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)の株価は過去最高水準に達しました。AI(人工知能)に対する投資家の期待感は、NVIDIA社(米国)がGPU(Graphics Processing Unit、画像処理装置)技術に関するカンファレンス「GPU Technology Conference 2024」で最新GPU「Blackwell GPU」を発表したことでさらに高まり、AI関連事業を展開するアジアのテクノロジー企業、特に台湾銘柄と韓国銘柄の株価を押し上げました。
韓国市場ではテクノロジーやAIに対する期待感に加え、政府の「企業価値向上プログラム」が投資家の関心を集めたことも追い風となりました。同プログラムには企業経営陣にコーポレートガバナンス、ROE(株主資本利益率)、株主還元の改善を促すことで、最終的に韓国企業の評価を向上させる効力があるというのが一部投資家の見方です。
中国政府が発表したマクロデータは予想を上回る内容でしたが、市場が景気回復の持続性に対して慎重姿勢をとったことから、当月中の株式の上昇は小幅に留まりました。香港市場の当月のパフォーマンスはアジア市場の中で最低水準でしたが、これは不動産セクターとヘルスケアセクターの低迷が原因と考えます。
インドでは、規制当局が中小型銘柄の流動性とバリュエーションに懸念を示したことを受け、当該銘柄の株価が調整しました。しかし同国の大型銘柄はアウトパフォームし、中小型銘柄の低迷を相殺する形となりました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、金融セクター、ヘルスケアセクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)、PetroChina Company(中国/エネルギー)などがプラスに貢献しました。一方で、AIA Group(香港/保険)、Vimta Labs(インド/医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス)、Dharma Polimetal(インドネシア/自動車・自動車部品)などがマイナスに影響しました。
当月のパフォーマンスに貢献したChina State Construction Development HoldingsとShenzhou International Group Holdingsは、いずれも明るい見通しを示しました。Shenzhou International Group Holdingsは、スポーツウェア需要の低迷と主要顧客の米国とEUでの在庫調整により、2023年は売上高が前年比約10%減、利益はほぼ横ばいとなりましたが、下期は上期と比べて増収増益に転じています。当ファンドは、新規顧客の拡大により、2024年には10%台半ばから後半の収益成長が達成可能であると考えています。海外生産能力の増強によって稼働率が改善していることから、粗利益率は過去3年間の20%台前半から半ばから、今年は30%を上回り、過去最高水準となる見通しです。
China State Construction Development Holdingsは当月、通期決算を発表し、2023年の売上高は前年同期比13.0%増、純利益は同37.6%増、ROE(株主利益資本率)は25.8%に改善しました。下期は成長率がやや減速しましたが、新規受注は前年同期比から大きく増加し、受注残は約160億香港ドルとなりました(2023年売上高の約2倍)。「高価格帯市場における質の高いプロジェクト」が引き続き中期的なファンダメンタルズの下支え要因となるという当ファンドの見方に変更はありません。
香港では、香港・深センイノベーション&テクノロジーパーク周辺の大型文化施設を同社が落札し、北部都会区の建設に着手しました。香港特別行政区政府の財務長官は、グレーターベイエリア(大湾区)のエコシステムを統合する手段として北部都会区を開発することの重要性を改めて強調しました。巨大プロジェクトの段階的拡大用資金として、今後5年間にわたって毎年多額の債券が発行される見通しです。
同社の戦略は明らかに国の枠を越え、自社の技術的知識を活用した質の高いプロジェクトに狙いを定めています。その一つに数えられるのが、同社が手がけるOPPO深セン本社のファサード・プロジェクトで、建設費は5億6,000万香港ドルに上り、中国本土で過去最大のプロジェクトとなる予定です。同施設は完成すれば同社が手がけたMurray Roadを上回って世界で最も複雑なファサード・プロジェクトとなり、冷間成形ガラスの使用枚数、精錬鋼フレームシステム、ステンレス鋼で形成された平皿状の天蓋システム、曲面面積などでいずれも世界最大になります。
また同社は近年、シンガポールや中東などの高価格帯市場には大きな可能性を見出しています。サウジアラビアの主要インフラや超大型ビルには、超大型ファサードを手がけた実績のある国際的企業の専門知識が必要になる見通しであることから、多くの実績を誇る同社に白羽の矢が立つ可能性は大いにあるでしょう。
最後になりますが、同社経営陣は建材一体型太陽光発電(BIPV)の事業機会について詳細に語りました。具体的には、中国の総建築面積は都市部と農村部をあわせて600億平方メートルを超え、さらに年間約40億平方メートルずつ増加しているそうです。中国が2030年までに25%という再生可能エネルギーの使用割合に関する目標を達成するためには、建物の改築や新築時にBIPVを採用する必要があると考えます。
同社は決算説明会で第15次5か年計画を発表し、2030年までに (1) 新規契約額350億人民元 (2) 売上高250億人民元 (3) 純利益30億人民元を達成するという目標を掲げました。これを年平均成長率に換算すると、それぞれ15%、17%、24%になります。PER(株価収益率)約7倍という足元のバリュエーションを考慮すると、リスクリワード特性は依然きわめて魅力的であると考えます。
2024年2月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は力強く反発しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、中国、韓国、台湾などに牽引される形で前⽉末⽐5.62%上昇しました。中国市場が堅調に推移したのは、マクロデータが市場予想を上回ったことや、旧正月の国内観光収入がコロナ禍前の水準を上回ったことなどによるものでした。バリュエーションの割安感と政府系ファンドによる買い支えも、中国株式市場の底打ちに対する信頼感の増大要因となりました。
韓国では、政府が「企業価値向上プログラム」を導入し、PBR(株価純資産倍率)の低い企業に対策を講じるよう促したことを受けて、株式市場が上昇しました。同プログラムは日本で東京証券取引所などが進める市場改革と同様、企業経営陣にコーポレートガバナンス、ROE(株主資本利益率)、株主還元の改善を促すことで、企業のバリュエーション向上を狙ったものです。
また、当月はインドネシアで大統領選挙が行われました。過半数の票を獲得する候補がなく、6月に2回目の投票が実施されると予想されていましたが、世論調査機関4社の集計によると、プラボウォ・スビアント氏が初回投票で約58%の票を獲得し、過半数に到達して当選を確実にしました。新政権の正式発足は10月ですが、短期的には現行の政策方針に大きな変更はないというのが大半の投資家の見方です。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、金融セクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、素材セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、ICICI Lombard General Insurance(インド/保険)、Bank Mandiri(インドネシア/銀行)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。一方で、China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)、SATS(シンガポール/運輸)、Aptus Value Housing Finance India(インド/金融サービス)などがマイナスに影響しました。
前述の通り、当月はインドネシアで大統領選挙が行われ、現国防相のプラボウォ氏が勝利宣言を行いました。プラボウォ新政権では現大統領ジョコ・ウィドド氏の長男、ギブラン・ラカブミン氏が副大統領に就任し、現行の政策路線が継続する見通しです。選挙期間中、プラボウォ氏はジョコ政権の川下移行政策を継続するという公約を掲げましたが、この政策には輸出禁止措置と税制優遇措置を駆使して外資を誘致し、インドネシアを工業大国とEV(電気自動車)大国に変貌させるという狙いがあります。選挙結果が速やかに出たことは表面的にみるとインドネシアにとっては好ましい兆候なのでしょうが、プラボウォ氏がインドネシアの独裁主義的な過去と関わりをもっていることから、同氏の政権下で民主主義が損なわれるのではないかという疑問も完全に拭い去ることはできません。
また、当月はKOSPI(韓国総合株価指数)が5.82%上昇しましたが、そのきっかけとなったのはFSC(韓国金融委員会)が2月26日に発表した「企業価値向上プログラム」でした。FSCは日本のコーポレートガバナンス改革が成功したことから、コリアディスカウントの縮小と企業価値の向上を包括的目的として、(1) 市場の透明性、(2) 市場へのアクセス性、(3) 株主保護の改善を目指した基本ガイドラインを発表しました。KOSPI構成企業の約3分の2がPBR(株価純資産倍率)1倍を下回っていることを考えると、改善余地はかなり大きいと言えるでしょう。ガイドラインは2024年上半期に確定され、配当の増額、株式持合の解消、自己株式の消却など、企業価値向上のインセンティブとなる具体的施策が盛り込まれる予定です。
Hyundai Motor Company(韓国/自動車・自動車部品)
前述のFSCによる改革の恩恵を受ける可能性が高いとされているのが、世界的に過小評価されていると考えられる大手自動車メーカーのひとつ、Hyundai Motor Companyです。同社のPBRは当月末時点で0.6倍、PER(株価収益率)は同5.1倍で、バリュエーション面で米国やEUの同業他社を一貫して下回っています。
企業価値向上の取り組みを抜きにしても、同社のファンダメンタルズが改善していることを踏まえると、株価には上昇余地があると考えます。同社は過去5年間で売上と利益を伸ばしており、主として米国におけるxEV(電動車)とSUV(スポーツ用多目的車)の納車増加からくる平均販売価格(ASP)の上昇により、当年度の増収が見込めるとしています。また、2023年に開催された「CEOインベスター・デイ」で、同社はEVの世界生産台数を2023年の8%から2030年に34%まで増やすことを明らかにしました。
同社は従前より株主還元方針の強化に乗り出していました。2023年は配当方針を大幅に変更し、これまで準拠してきた財務活動以外によるフリーキャッシュフローの30~50%ではなく、配当性向25%という方針を打ち出しました。余剰資金のうちどの程度を設備投資に回すかは自由裁量で決められることから、フリーキャッシュフローは一般的に変動幅が大きいため、この配当方針の変更によって、インカムゲインを求める投資家にとっては今後の分配に対する信頼感が増したと考えます。
経営陣が取り組んだもうひとつの問題は、自己株式の消却でした。過去に買い戻された株式は消却されず、株主にとって何のメリットもありませんでした。そこで同社は今後3年間、既存の自己株式を毎年1%ずつ消却し、EPS(1株当たり純利益)の即時拡大を実現するという計画を発表しました。
しかし同社が企業価値向上のためにできることは、これ以外にもまだあると考えます。延世大学の李南雨教授が代表を務める非営利団体、韓国コーポレートガバナンスフォーラムは、2024年2月にFSC会長に宛てた公開書簡の中で、同社、Samsung Electronics(韓国/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、LG Chem社(韓国)、KB Financial社(韓国)を引き合いに出し、価値向上が可能な事例数件について概要を述べました。同社については、(1) 優先株の全数消却、(2) 三成洞の新社屋用地売却、(3) Hyundai Engineering and Construction社の株式のうち21%とKT Corporation社の株式のうち5%の売却、(4) 配当の引き上げ(配当性向25%から30~50%へ)という4つの対策が考えられるとしました。韓国の優先株は流動性が低く、議決権を伴わないため、普通株よりかなり割安で取引されることがよくありますが、配当額は同じであることから、配当利回りはかなり高くなります。この優先株の買戻しと消却という一連の対策で、年間配当は7,000億ウォン節約され、BPS(1株あたり純資産)は30%上昇することになります。
最後に、同社のインド子会社が2024年11月に上場し、評価額最大300億米ドルで少なくとも30億米ドルの調達する予定だという報道がこのところ話題になっています。同社自体の時価総額が約400億米ドルに過ぎないことを考えれば、この上場は株主にとって大きな意味を持つことになります。Hyundai Motors India社は販売台数でMaruti Suzuki社(インド、スズキの子会社)に次ぐ国内第2位の乗用車メーカーです。
ファンダメンタルズが改善していること、価値向上を掲げた改革が進んでいること、インド子会社にIPO(株式公開)の可能性があること、バリュエーションが世界の同業他社と比べて低いことを踏まえ、当ファンドは当月、同社の組み入れを開始しました。
2024年1月の運用コメント
株式市場の状況
アジア株式市場は軟調な値動きで年明けを迎えました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐5.44%下落しました。中国政府が⾦融緩和や景気刺激策などで政策的⽀援を⾏ったにもかかわらず、中国市場と⾹港市場に対する投資家⼼理は冷え込んだままでした。国内要因(不動産危機、消費低迷、⼀貫性のない規制)と国外要因(中国に対する⽶国の規制強化、紅海の海運混乱など)が、中国に対する投資意欲をさらに減退させました。
⼀⽅、台湾では、AI(⼈⼯知能)投資の加速とスマートフォン回復への期待から、テクノロジーセクターが好調な勢いを維持しました。台湾総選挙は想定内の結果で決着し、現政権を担う⺠主進歩党(⺠進党)が総統選を制した⼀⽅で、野党の台湾国⺠党(国⺠党)が議席を伸ばしました。また、第三党の台湾⺠衆党(⺠衆党)は獲得議席数こそ少ないものの、今後数年間の政策の⽅向性を左右しうる新たな政治勢⼒として台頭しました。
インドは強⼒な政府、若年層⼈⼝の多さ、⻑期的成⻑⼒といった⽀援材料に恵まれ、引き続き投資対象として投資家の注⽬を集めています。インドネシア市場では消費⽀出に若⼲陰りが⾒られ、とりわけ低価格帯商品にその傾向が⾊濃く表れました。同国では間もなく⼤統領選挙が⾏われる予定で、次期政権発⾜まで⼀時的に投資家の関⼼が向かなくなる可能性があると考えます。
ファンドの運用状況
当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、⾦融セクター、⽣活必需品セクターなどがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、ヘルスケアセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Mitra Adiperkasa(インドネシア/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)、Bank Mandiri(インドネシア/⾦融)、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、Polycab India(インド/資本財)、China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
E Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)
E Ink Holdings(以下E Ink)は、電気泳動式技術(ePaper based on Electrophoretic technology)の開発、及び電⼦ペーパーパネルを供給するメーカーです。新型コロナウイルスの⼤流⾏による労働⼒不⾜を背景に根強い需要が⽣まれた2022年を経て、2023年はE Inkにとって正常化に向かう年となりました。同社の株価はSES-Imagotag社(フランス、E Inkの⼤⼝顧客)を標的とした空売りの影響で振れ幅が拡⼤し、電⼦棚札(ESL︓Electronic Shelf Label)の在庫増加も短期的に投資家⼼理の⾜枷となりました。様々な情報が⾶び交っていますが、ESLの普及はまだ初期段階であり、今後、⻑期的なトレンドになるのは間違いないと当ファンドでは考えます。
SES-Imagotag社は2023年6⽉、同社のVUSIONプラットフォーム(電⼦棚札やIoTデバイスを追跡、監視、管理できるリテールIoT管理ソリューション)を今後12〜18ヵ⽉間で500店舗に導⼊することでWalmart社(⽶国)と合意したと発表しました。Walmart社はプレスリリースの中で、「店内で棚札の価格表⽰を変更する作業には⼤変時間が掛かり、店員の苦労は計り知れません。そこで当社はこの作業を電⼦的に⾏えるデジタルソリューションを探していました。」と述べています。
ESLの普及が⻑期的に続くと考えられるのは、①コストが節減でき、②O2O(Online to Offline、オンラインからオフラインへ購買⾏動を促すマーケティングの⼿法)が⾏うことができ、③ESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組めるという3つの点からです。欧州のスーパーマーケットでは、労働⽣産性の観点からESLへの移⾏を推進してきました。スーパーマーケットが率先してESLに移⾏したのは、⾼頻度で値札を変更する必要があるためです。スーパーマーケットの多くは未だに紙の値札を使⽤し、週に数回⼿作業で交換を⾏っています。仮に値札を変えるのに20秒かかるとして、従来型のスーパーマーケットの商品点数を約30,000点と想定した場合、週に⼀度全ての値札を変えるだけで約165時間かかります。これを1年間に換算すると、値札の変更に費やす時間は8,500時間以上になります。⽶国Walmart社の最低賃⾦は、店舗によって異なりますが、時給14⽶ドルから19⽶ドルです。つまり、値札の変更にかかる年間⽀出は⼈件費だけでも119,000⽶ドル以上になります。⼀⽅、⼀般的なESLの費⽤は、サイズや表⽰能⼒にもよりますが、5〜15⽶ドルです。スーパーマーケットの平均商品点数を30,000点とすると、紙の値札をすべてESLに置き換えるのにかかる費⽤は150,000〜450,000⽶ドル、ESLのバッテリー寿命は⼀般に3年以上なので、スーパーマーケットはESLへの移⾏によって相応のメリットを享受できることになります。さらには、ESLは店内の価格表⽰をリアルタイムで変えられるので、スーパーマーケットはタイムセールを⾏って在庫の回転を促し、⽣鮮⾷品を売り切ることができます。また、ESLに移⾏することで、価格表⽰の誤りや値札紛失のリスクも軽減します。また広告を表⽰することもできるので、スーパーマーケットにとっては新たな収⼊源になり得ます。今後、ESLのコストが低下し、賃⾦が上昇すれば、ESLの普及が数年内に加速するのは間違いないと考えます。
コストの削減だけではスーパーマーケットを説得できなくても、O2Oという機能が加わることで、ESLの受注はかなり容易になるはずです。現⾏のESLソリューションには、⼀般的にワイヤレスでクラウドに接続できるソフトウェアがインストールされています。そのため、オンラインを含む店舗ネットワーク全体で価格と在庫を⼀元管理することができます。ESLに組み込まれたセンサーとLEDライトには、商品の補充が必要になったことを従業員に知らせる機能があり、さらにオンラインで受注された商品を棚から取り出す作業の所要時間を短縮する効果もあります。将来的には消費者が店頭で商品を探し出すのが今よりずっと簡単になるでしょう。
最後に、世界では「ESG」と「サステナビリティ(持続可能性)」が注⽬のキーワードとなっており、上場企業の多くがエネルギーの節約、再⽣可能エネルギーへのシフト、廃棄物の削減など、積極的なESG⽬標を掲げています。例えばWalmart社は、2040年までに世界全体で温室効果ガス排出量ネットゼロを達成すること、2035年までに再⽣可能エネルギーで電⼒を100%賄うことを必達⽬標として掲げています。ESLへの移⾏は、Walmart社がこうした⽬標を達成する上で⼤きな⼒となるでしょう。E Inkのサステナビリティレポートによると、過去7年間に全世界で設置された3インチ型ESLは6億個に上ります。価格変更を1⽇4回⾏うと想定すると、⼆酸化炭素排出量を紙の値札の32,000分の1に削減することができます。このような必達⽬標を掲げているのはWalmart社だけではありません。Kroger社(⽶国)やAlbertsons社(⽶国)といった他の⼤⼿スーパーマーケットも同様の⽬標を掲げています。紙の使⽤量を減らすことで節約できる⽊の数は⾔うまでもありませんが、消費電⼒が少ないというESLの特性も考えれば、ESLは今後を占うパズルの重要なピースになると当ファンドは考えています。
2023年12月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は中国を除いて概ね堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐3.55%上昇しました。中国市場のリターンはマイナスとなりましたが、これは中国経済の成⻑に関する懸念が拭えないためと考えます。⽉後半に中国でオンラインゲームに関する包括的な規制案が公表されたことを受け、今後こうした規制が消費者の⾏動全体に及ぶのではないかという懸念が投資家の間に広がり、その影響はオンラインゲーム関連のセクターに留まらず幅広い分野に及びました。
中国以外のアジア株式市場は、インフレと⾦利の圧⼒が緩和したことで、前⽉以上に好調に推移しました。インド市場は当⽉、企業のファンダメンタルズの底堅さ、安定政権、⻑期的な構造的成⻑のポテンシャルが好材料とみなされて市場への資⾦流⼊が続き、史上最⾼値を更新しました。
台湾市場は⽣成AI(⼈⼯知能)に対する期待感の⾼まり、スマートフォンの需要回復、データセンターの成⻑によって半導体セクターが堅調に推移したことで、2023年通年ではまずまずのパフォーマンスをみせました。
ASEAN各国市場は、国内経済の成⻑と「チャイナ・プラス・ワン(中国のみに⼯場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠点を展開すること)」関連の投資に⽀えられ、底堅く推移しました。インドネシアでは2023年、海外直接投資(FDI)が増加、とりわけ鉱物セクターの川下にあたる製造業でその傾向が顕著にみられました。またマレーシアでも⽶国企業や中国企業を含む⼤⼿グローバル企業から半導体産業に対するFDI増加の動きが継続しました。
ファンドの運用状況
当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、不動産セクター、情報技術セクターがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、⼀般消費財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Swire Pacific(⾹港/不動産管理・開発)、E Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、APL Apollo Tubes(インド/素材)などがマイナスに影響しました。
中国では不動産市場の縮⼩、規制⾯の制約、政策の不透明性、⽶中間の緊張の継続によって景気が冷え込み、当⽉中にロングオンリーのアクティブ運⽤会社から38億⽶ドルもの資⾦が流出しました。これは1ヵ⽉としては過去3番⽬に⼤きい流出額です。消費者物価指数(CPI)は2023年10⽉から低下に転じ、デフレの脅威が現実のものとなりつつあります。2023年第4四半期の中国主要38都市の平均給与は前年同期⽐1.3%減と、3四半期連続の減少となり、2016年以来最⼤の減少となりました。賃⾦の低下と景気の先⾏き不透明感から、消費者はさらに⽀出を控えるようになり、需要減退と物価下落の悪循環に陥る可能性があります。⼀⽅、インドでは当⽉中に約80億⽶ドルのFPI(外国証券投資)が流⼊し、Nifty50指数が前⽉末⽐約7%上昇しました。
2023年の振り返り
当ファンドの2023年のリターンは前年⽐17.23%の上昇となり、ベンチマークの同13.62%の上昇を上回りました。国別では、中華圏(当ファンドにおける2023年12⽉現在の国別構成⽐率約33%)、インド(同約27%)、インドネシア(同約21%)、韓国(同約5%)が⼤幅にアウトパフォームしました。これらの国は当ファンドの保有銘柄の80%強を占めるまでになっています。
HSCEI(ハンセン中国企業株指数、⾹港ドルベース)は世界的に最もパフォーマンスがふるわなかった市場の⼀つで、2023年には約14%下落となりました。こうした状況にもかかわらず、当ファンドはChina State Construction Development、NWSHoldings(⾹港/資本財)などの銘柄の⼒強いリターンにより中華圏でプラスのリターンを上げることができました。インドは中国からの資⾦流出の受け⽫となったことで、Nifty50指数が通年で⼤きく上昇しました。また、TWSE(台湾加権指数)とKOSPI(韓国総合株価指数)は、AI(⼈⼯知能)関連と半導体関連銘柄の急騰が追い⾵となり、⼤きく上昇しました。
当ファンドのパフォーマンスが⽐較的堅調だったのは、「バーベル式投資⼿法」にその⼀因があります。この⼿法は、投資先候補を成⻑⼒の順に並べ、最も成⻑⼒の低い側で⾼利回り銘柄を、最も成⻑⼒の⾼い側で優良GARP銘柄(成⻑性と割安性を兼備すると考えられる銘柄)を選定して組み⼊れるというものです。こうした企業群は成⻑プロファイルがそれぞれ異なるかもしれませんが、両側で対象銘柄を選定する⽬的は、15%以上の株主総利回りを創出できる投資対象を探し出すことにあります。この⼿法を採⽤した理由は⼆つあり、⼀つ⽬は安定した配当収⼊源を確保し、時間の経過とともに新たな⾮対称の機会が⽣じたときに再投資できるようにすること、⼆つ⽬は低成⻑の⾼利回り銘柄はデュレーションが短いのが⼀般的なので、ポートフォリオ全体のボラティリティを軽減できると考えられることです。
価値実現を⽬指すオポチュニティ銘柄群
2023年に当ファンドのパフォーマンスに貢献した銘柄に、NWS HoldingsとSwire Pacificがあります。両銘柄については2022年10⽉と2023年7⽉の⽉次報告書でそれぞれ取り上げました。いずれも低成⻑で⾼利回りの銘柄ですが、⼤きくマイナスとなった中国の指数を尻⽬に、プラスのリターンを⽣み出しました。
NWS Holdingsは⾹港を拠点とする総合インフラ企業で、道路、建設、⽣命保険、施設管理、物流、ヘルスケアなどの事業を展開しています。当ファンドが同社を組み⼊れた時点では、同社の配当利回りは約9%で、主要事業部⾨はすべて回復基調にありました。有料道路と建設事業の回復はコロナ対策が緩和されたこと、施設管理、病院、物流事業の回復は、中国本⼟から⾹港への移動や国際的移動が復活したことによるものでした。成⻑率が正常な状態に戻ると5〜10%になり、持続可能な配当利回りを約10%と仮定すれば、15%以上の株主総利回りを実現することは可能であると当ファンドは考えました。しかし残念なことに、組み⼊れから8ヵ⽉後の6⽉に、NWS Holdingsの親会社であるChow Tai Fook Enterprises社(⾹港)が同社株を1株当たり9.15⾹港ドルで公開買い付けすると発表し、11⽉に買い付けが完了しました。当ファンドは同社の組み⼊れによって相応の利益を得ることができましたが、⾼利回りを持続できる銘柄はそうそうあるものではないことから、今回のような⾮上場化は当ファンドが定期的に新たな再投資先を探し出さなければならないことを意味します。幸いなことに、当ファンドは興味深い投資先候補を数銘柄把握しており、同社と同等かそれ以上のリターンを⽣み出せるのではないかと考えています。
Swire Pacificは当ファンドが2022年10⽉から組み⼊れている銘柄で、やはり⾹港のコングロマリットです。同社は不動産(Swire Properties)、ボトリング(Swire Coca-Cola)、航空(Cathay Pacific、HAECO)、貿易(SwireResources、Taikoo Motors、Swire Foods、Swire Environment Services)といった事業を展開しており、株式は組み⼊れ時点で純資産価値(NAV)に対して約45%の⼤幅ディスカウントで取引されていました(10年間の平均ディスカウントは25%)。⾹港と中国本⼟の住宅・商⽤不動産市場の低迷により、同社の株価は2023年上半期も引き続き圧⼒にさらされました。しかし⾹港発の国際線が徐々に再開され、Cathay Pacificの搭乗率も順次改善していることから、当ファンドは2023年下期には同社が⿊字に転換し、親会社の収益を⼤幅に押し上げると予想しました。
同社経営陣はディスカウント幅が拡⼤したことから、株主価値を⾼めるための対策を複数発表しました。⼀つ⽬はSwire PacificがSwire Coca-Cola USA(⽶国飲料事業)の持分すべてを39億⽶ドルで親会社のSwire & Sonsに売却するというもので、2023年6⽉に発表されました。株価は当初好転しましたが、その後まもなく再び下落基調に陥り、12⽉前半にはディスカウント幅が純資産価値から⼤幅に拡⼤しました。これを好機と⾒た同社の経営陣は2023年12⽉に60億⾹港ドル(時価総額の9%程度)の⾃社株買い計画を発表しました。同計画は2023年12⽉から2025年5⽉にかけて実施される予定です。⾃社株買いはバリュエーションの基本的な⽀えにはなりますが、当ファンドは同社収益が順次改善し、2024年はディスカウント幅が縮⼩していくのではないかと考えています。
優良GARP銘柄群
成⻑⼒の⾼い優良銘柄群の中で当ファンドのリターンに貢献したのは、China State Construction DevelopmentHoldings、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Polycab India(インド/資本財)などで、引き続きファンドの主要組⼊銘柄となっています。当ファンドがこの銘柄群の中で探しているのは、ビジネスモデルと訴求価値がわかりやすく、⻑期的成⻑の原動⼒を持ち、環境が正常な状態であれば投下資本利益率が⾼いと考えられる企業です。そのような企業を選定する上で重要なのは、事業の経緯、創業者や会社のミッション、ビジョン、さらに訴求価値やビジネスモデルが経時的にどう進化してきたかを理解することです。
投資プロセスにおいて振り返りは重要であり、失敗例から学ぶこともそうしたプロセスの⼀部です。そうした⾯で、2023年最⼤のマイナス要因となったのはBOE Varitronix(⾹港/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)で、コストが主な要因となって株価は⼤きく下落しました。同社は世界最⼤級の⾞載ディスプレイメーカーで、BOE Technology Group社(中国、世界最⼤級のTFT液晶(ガラス基板上に薄い膜状の微細なトランジスタを規則正しく並べたもの)パネルメーカー)の強⼒な⽀援を受けていることから、同社は⾞載ディスプレイパネルの⻑期的成⻑の波に乗るというのが当ファンドの考えでした。
⾃動⾞の台数は世界的にみると飽和状態に達していますが、⾃動⾞の電動化とデジタル化が進むと、ディスプレイの⼤型化とマルチディスプレイの採⽤が促進されることになります。それが事実であることはデータからも明らかで、乗⽤⾞1台当たりのディスプレイ数は2015年の1.5台から2020年には2.1台に増加しており、2025年には2.8台に達すると予想されています。これはディスプレイの種類の多様化によるもので、ディスプレイの平均サイズも拡⼤しています。同社の技術とスケールメリットに由来するコストの優位性を踏まえると、市場統合の主体的存在になるというのが当ファンドの考えでした。
想定外だったのは2023年に売上⾼が急減し、成⻑率が約8%にまで落ち込んだことです。さらに意外だったのは、⾃動⾞OEM(他社ブランドの製品を製造する企業)からの値下げ圧⼒によって営業利益率が4.6%に低下し、純利益が同期間に⼤きく減少したことです。ディスプレイ業界は毎年価格低下に直⾯するのが⼀般的ですが、⼤型ディスプレイや⾼精細ディスプレイといった新製品の発売によって相殺され、利益率にそれほど影響は及ばないというのが当ファンドの想定でした。2023年末までにフル稼働すると予想されていた新設備の⽴ち上げが遅れていることから株価はPER(株価収益率)9倍程度の⽔準にまで低下していますが、当ファンドは利益率圧縮の兆しが⾒えた時点で同銘柄を売却しました。
当ファンドが利益率に関する想定を誤ったのは確かですが、市場の反応は過剰で、同社の⻑期的な収益ポテンシャルについてはまだ議論の余地があると考えます。2023年8⽉に⾏われた最新の業績発表で、同社経営陣は2025年度の⽬標売上⾼200億⾹港ドルという計画を据え置きました。これは売上⾼の50%を海外から上げることで、3年間で年平均23%伸⻑することを⽰唆しており、市場シェア拡⼤の重要性を改めて浮き彫りにするものです。同社は巨⼤な市場規模を誇る国内⾞載ディスプレイシステム市場への参⼊も⽬指しています。次回の決算で注⽬すべき点は、競争の激しさと利益率の⽔準でしょう。事態が正常化すれば営業利益率は回復する可能性があり、そうなれば株価が⼤きく上昇することも考えられます。当ファンドは今後も同社を注視していきます。
2023年11月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は反発しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、韓国と台湾に牽引される形で前⽉末⽐6.96%上昇しました。⽶国の労働市場とインフレに関するデータが軟化したことで、市場関係者の⾒⽅は2024年に利下げが⾏われ、低いとはいえ妥当な⽔準の経済成⻑が続くという⽅向に変化しました。これは⽶国市場のソフトランディングシナリオと⾔ってよいでしょう。こうした変化を受けて、テクノロジー関連やインターネット関連セクターなどの成⻑株、とりわけ韓国と台湾の銘柄が底堅く推移しました。
⼀⽅、中国市場は当⽉も引き続き低迷しました。政府の緩和政策にもかかわらず、不動産セクターの状況にはほとんど改善が⾒られませんでした。経済成⻑率の低迷も消費⽀出の抑制要因となり、消費者の間に低価格志向が広がっています。
インドは引き続きアジア諸国の中で⾼い成⻑率を保っている数少ない市場の⼀つで、2023年第3四半期GDP成⻑率は前年同期⽐7.6%上昇しました。構造的な⻑期成⻑が⾒込める市場は、新事業に果敢に取り組もうという気概のある企業に時流に乗じる機会を与えます。政府の⽀援策も効⼒を発揮しており、特に様々な優遇措置を通じて国内の製造業を下⽀えし、海外直接投資を誘致することで、成⻑に寄与していると考えます。
ファンドの運用状況
当⽉、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、情報技術セクターがプラスに貢献し、⼀般消費財・サービスセクター、エネルギーセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Dharma Polimetal(インドネシア/⾃動⾞・⾃動⾞部品)、Voltronic Power Technology(台湾/資本財)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、ANTASports Products(中国/耐久消費財・アパレル)、Samsonite International(⾹港/耐久消費財・アパレル)、ProdiaWidyahusada(インドネシア/ヘルスケア機器・サービス)などがマイナスに影響しました。
当⽉、⽶国の利上げが終わりに近づいたとの⾒⽅から、株式市場は軒並み上昇しました。中でも⼤幅な上昇を⾒せたのが韓国株式市場で、規制当局が2024年6⽉末まで国内上場株の空売りを禁⽌すると発表したことから、KOSPI(韓国総合株価指数)が前⽉末⽐11.30%上昇しました。⽶ドルの下落もインドネシアやインドなど新興国市場の追い⾵となり、ジャカルタ総合指数、SENSEX指数ともに前⽉⽐4.87%上昇しました。当⽉のパフォーマンスに貢献したClassysとDharma Polimetalはいずれも年初来パフォーマンスが上位に⼊りました。
Dharma Polimetal
Dharma Polimetalはインドネシア国内最⼤級の⾃動⾞部品メーカーで、インドネシアのコングロマリットであるTriputra Group社の⼦会社です。関連会社を複数社保有し、⻄ジャワ州各地に製造施設を多数構え、スタンピング、冷間鍛造、機械加⼯、ロボット溶接、めっき、スプレー塗装、カチオン電着塗装(CED)などの加⼯を⾏っています。同社を具体的に説明する前に、まずインドネシアの⾃動⾞産業に吹いている追い⾵について取り上げておきます。
インドネシアの自動車産業は揺籃期
中国の過去20年にわたる発展の様相から得られた教訓は、⾃動⾞の普及率は1⼈当たりGDPの伸びと⾼い相関関係にあるということです。過去の⽉次報告書でも触れたように、インドネシアは鉱業から川下産業へと軸⾜を移していること、国家全体がアジア地域の⾃動⾞産業の中⼼地へと進化してきていることを背景に、GDPが今後10年で2倍以上になる可能性があると考えています。
インドネシアでは過去20年間、⼆輪⾞と四輪⾞の普及率がいずれも驚異的なペースで伸びています。普及率を⾒る際、ジャカルタとジャカルタ以外ではどう異なるのかという点に注⽬することが重要です。ジャカルタの⼆輪⾞普及率は過去20年間で40%から150%以上に伸びていますが、ジャカルタ以外の普及率は8%から40%への伸びに留まっています。四輪⾞の場合、ジャカルタの普及率は18%から33%に伸びていますが、ジャカルタ以外では1%から5%に伸びたに過ぎません。ジャカルタの普及率は既にかなりの⾼⽔準ですが、⼈⼝の95%以上が居住するインドネシアのその他地域には、まだまだ成⻑の余地があると考えます。政府は既に道路インフラの整備を進め、都市間の相互接続をさらに促進しようとしています。インドネシアの有料道路網の総延⻑はジョコ政権下の10年間でほぼ4倍となり、約2,800キロメートルに達しています。
国別でみると、インドネシアの四輪⾞普及率は7.8%(⼈⼝1,000⼈当たり78台)で、中国(同210台)、タイ(同281台)、マレーシア(同433台)、⽇本(同649台)を下回っています。
ICEとEVの両⽅で通⽤
⾃動⾞部品業界について投資家なら誰しも抱く懸念は、ICE(内燃機関⾞)からEV(電気⾃動⾞)への移⾏に関するものです。Dharma Polimetalはこうした移⾏が⾃社に不利に働かないように製品ポートフォリオを戦略的に配置しています。同社の主要製品は⾦属部品(ファスナー、サスペンション・メンバー、フレーム・ボディ)、電気部品(ワイヤーハーネス、バッテリー・ハーネス、センサー、インフォテインメント・システム)、プラスチック部品(ボディ・カバー、バンパー、オートバイ・シート)、精密部品などです。
同社部品の⼤半はICEでもEVでも使⽤できますが、同社はEVへの移⾏が完了しても問題がないように⾃社の位置取りを調整しています。同社の関連会社であるDharma Controlcable Indonesia社とDharma Precision Parts社は、それぞれ⼆輪⾞⽤のバッテリーパックと四輪⾞⽤の充電ステーションを製造しています。同社はまた、バッテリーパックと充電ステーションの開発を加速するため、2023年初めに「PowerAce」ブランドで独⾃の電動三輪⾞を発売しました。三輪⾞への参⼊を選択したのは、同社が厳格な社内規定を設けて⼆輪⾞と四輪⾞の顧客との競合を回避しているためです。当ファンドでは、同社が三輪⾞の発売によって既存顧客と競合するリスクはほぼ無いと考えています。せいぜいバッテリー技術の研究開発で競合する可能性があるという程度でしょう。しかし、もし電動三輪⾞が普及すれば、業績の上振れ余地はきわめて⼤きくなると考えます。
国内調達要件が追い⾵
インドネシアには特定製品について原材料や労働⼒その他を⼀定割合以上、国内で調達しなければならないというTKDN(国産化率評価⼿順)制度があり、EVの国産化率は40%以上となっています。注⽬すべきはDharma Polimetalがこの制度の恩恵を受ける⽴場であるということです。現在は検討中の段階ですが、この⽐率は2027年までにさらに増加して60%になる⾒込みです。したがって、EVへの移⾏が加速すれば、OEM(他社ブランドの製品を製造する企業)は⾃動⾞部品の調達先として強⼒な現地パートナーを探す必要があります。
優位性は特殊精密機器の⾃社⽣産
Dharma Polimetalの関連会社Dharma Precision Tools社は、精密切削⼯具、治具、特殊⽤途機械(ドリル、リーマ、ボーリング、ダイヤモンド切削⼯具、⾦型など)を製造しています。同部⾨の収益は僅かですが、グループ内の他部⾨向けに特殊⽤途の⼯具や機械を製造しており、⾃動化と業務効率の向上に役⽴っています。同社は品質、コスト、納期の基準を厳格に維持することで、新規顧客の獲得と既存顧客のウォレットシェア拡⼤に成功しています。
主要仕⼊先や顧客との⻑期的な関係
Dharma PolimetalはAstra Honda Motor社(以下、AHM社)、Astra Daihatsu Motor社(以下、ADM社)、トヨタ⾃動⾞㈱と⻑年にわたって取引関係にあります。ここで注⽬したいのは、⼆輪⾞市場はホンダとヤマハの独占状態にあり、両社で販売量の98%近くを占めているという点です。四輪⾞市場では、ホンダ、ダイハツ、トヨタがあわせて約65%のシェアを握っています。
顧客基盤の多様化
Dharma Polimetalにとって最⼤の顧客はAHM社で、⼆輪⾞売上⾼の⼤半を占めています。同社は2023年にヤマハ発動機㈱の主要仕⼊先であるTrimitra Chitrahasta社の株式を約73%取得し、⼆輪⾞の顧客基盤多様化に着⼿しました。⼀⽅、四輪⾞ではADM社が最⼤顧客で、四輪⾞売上⾼の半数近くを占めています。
また、同社はHyundai Motor Manufacturing Indonesia社(以下、HMMI社)から受注を開始しています。3⽉にHMMI社の新⼯場を訪問する機会を得ましたが、担当者は⽇本のOEMから市場シェアを獲得したASEAN専⽤モデルであるセダンと多⽬的スポーツ⾞(SUV)を継続的に増産すると明⾔していました。⾮⽇系⾃動⾞のOEMがインドネシアでのシェアを拡⼤するにつれ、⽇本のOEMは⾃社の「系列」サプライチェーンを利⽤する傾向があるため、サードパーティのサプライヤーは恩恵を受けることになります。
バリュエーションは割安
Dharma Polimetalはインドネシア最⼤級の⾃動⾞部品メーカーですが、時価総額は4億5,000万⽶ドルにすぎません。当ファンドが3⽉に同社への投資を開始してから、予想PER(株価収益率)は⼤きく上昇していますが、世界的な同業他社に⽐べるとまだ若⼲割安な⽔準で取引されていると考えます。再評価はほぼ終わった模様ですが、今後3年間の収益の伸びは10%台前半から半ばという堅調な⽔準で推移する⾒通しです。
2023年10月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は前⽉に引き続き軟調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐3.86%下落し、3か⽉連続の下落となりました。世界的な景気減速が進⾏していること、FRB(⽶国連邦準備制度理事会)が「より⾼く、より⻑期に」という偏った政策を続けていることが世界の株式市場の下落につながりました。また、イスラエルとハマスの紛争が地政学的リスクの新たな震源となりました。
中国政府は1兆⼈⺠元の特別国債発⾏を決議し、各種インフラプロジェクトに資⾦を充当するなどの複数の景気⽀援策を発表しましたが、消費者⼼理は依然弱含みで、市場は引き続き下⽅圧⼒にさらされています。また、⽶国はAI(⼈⼯知能)半導体の対中国への輸出規制をさらに強化し、中国におけるAI能⼒の急速な発展を抑制しようとしています。
韓国市場もEV(電気⾃動⾞)⽤電池とEV⽤素材セクターが調整したことで、アンダーパフォームしました。EV需要の鈍化に対する懸念、Tesla社(⽶国)をはじめとするEVメーカーの値下げが投資家⼼理の重荷となったと考えます。⼀⽅、台湾市場では、5G(第5世代移動通信システム)に対する楽観的⾒⽅とスマートフォン需要の底打ちが要因で、MediaTek(台湾/情報技術、当ファンド組⼊銘柄)などのハイテク部品銘柄の株価が上昇しました。
ファンドの運用状況
当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、⼀般消費財・サービス、⾦融セクターがプラスに貢献し、ヘルスケアセクター、資本財・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)、ICICILombard General Insurance(インド/保険)、ANTA Sports Products(中国/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/⾷品・飲料・タバコ)、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがマイナスに影響しました。
アジア株式市場は軒並み急落し、特にHSCEI(ハンセン中国企業株指数、⾹港ドルベース)は前⽉末⽐4.66%、KOSPI(韓国総合株価指数、韓国ウォンベース)は同7.59%の下落となりました。当⽉の中国製造業購買担当者指数(PMI)が、景況拡⼤・悪化の分かれ⽬となる50を下回ったことで、中国経済の回復を⽰す兆しは消え去りました。中国最⼤の⺠間不動産開発業者であるCountry Garden Holdings社は、新築住宅の販売不振が続いたことで、海外債務の⽀払い義務を履⾏できない状態に陥りました。中国の不動産投資額は2023年1⽉から9⽉にかけての減少が影響して、前年同期⽐約9%減少し、9⽉には新築住宅価格が3か⽉連続の下落となりました。不動産は中国経済の3分の1近くを占めていることから、持続的な景気回復のためにはまず不動産市場の安定が必要だと考えます。中国の景気低迷は韓国をはじめとする周辺国の経済に⼤きく波及しており、特にバッテリーや鉄鋼関連産業ではその傾向が顕著です。こうした市場の下落局⾯は⻑期的な「勝ち組」を選定する好機となるため、当ファンドはこの事態を前向きに捉えています。直近では、2021年12⽉に上場したインド企業のC.E. Info Systems(インド/ソフトウェア・サービス)がその例です。同社の株価は⼒強い上昇を⾒せましたが、その後⼤きく値を下げ、今年4⽉に底値をつけました。この急落によって割安な買い場が訪れたと考え、当ファンドは6⽉に同社への新規投資を開始しました。
C.E. Info SystemsはRakesh Varma⽒とRashmi Varma⽒が1995年に設⽴後、インド最⼤⼿のB2B(企業間取引)デジタル地図情報会社へと成⻑しました。Varma夫妻は1990年代後半、⼤⼿多国籍企業がインドに正確な地図がないために経営上の問題に直⾯していることに気づき、企業向けのデジタル地図を作成する事業を開始しました。同社は苦⼼の末、知的財産権の確保に成功し、蓄積した地図情報をより幅広い顧客層にライセンス供与するようになりました。さらに将来的に全データの80%に位置情報を紐づけるというビジョンを掲げ、インド全⼟の包括的な地図作成を⽬指して奮闘しています。
同社は現在、インド最⼤⼿のB2Bデジタル地図情報会社で、インドの道路網の99%以上を地図化しています。インドの道路網の総延⻑は⽶国に次ぐ世界第2位であり、その規模は引き続き急速に拡⼤しています。同社のシステムやサービスは、Apple社(⽶国)、Meta社(⽶国)、Uber Technologies社(⽶国)、McDonaldʼs(⽶国)といった⼤⼿多国籍企業や、HDFCBank(インド/銀⾏、当ファンド組⼊銘柄)、Bajaj Finance社(インド)、Maruti Suzuki India(インド)といったインド国内⼤⼿企業が利⽤しています。同社はさらに、様々な政府機関にシステムやサービスを提供しており、その⽤途は税務、安全保障から地域開発、都市開発に⾄るまで多種多様です。
様々なアプリケーションで利用されて市場規模が急拡大
⽶国のコンサルティング会社Frost&Sullivan社によると、インドにおけるデジタル地図と位置情報サービスの最⼤市場規模は、2025年までに約77億⽶ドル(年平均成⻑率約16%)に成⻑する⾒通しです。また世界全体でみると、市場規模は2025年までに1,740億⽶ドルに達する⾒込みです(年平均成⻑率約13%)。こうした成⻑の主な原動⼒は、消費者向け、企業向け、政府機関向けアプリケーションにおけるデジタル地図の使⽤の増加です。
現在の消費者向けアプリケーションの多くには既に位置情報を表⽰する機能が組み込まれており、例えばナビゲーション、オンライン配⾞、フードデリバリー、eコマース(電⼦商取引)、旅⾏、フィットネスなどのアプリケーションがそれを利⽤しています。消費者は注⽂した商品の追跡や注⽂履歴の確認をすることができ、また将来の購⼊計画を⽴てやすくなります。
企業側からみると、地図データを利⽤すると業務の効率全般を⼤幅に改善できるため、効⼒はさらに⾼くなります。消費者や⾞両の移動情報を分析できるだけでなく、消費者の⾏動パターンや地域ごとの競合の激しさを把握することもでき、サイトの選択、ターゲットを絞った製品の発売、広告活動に役⽴ちます。従業員の監視も強化できるため、安全性と⽣産性の向上につながります。
地図プロバイダーの成⻑にとって最⼤の原動⼒となっているのは、近年では⾃動⾞産業です。同社はカーナビゲーション市場で⾸位に⽴っており、市場シェアは80%近くに達しています。ナビゲーション⽤のデータは世界のOEM(他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業)にとって利益の原資となりつつあり、また、カーナビがなければドライバーは渋滞だらけの都市の中を効率的に移動することができません。⾃動⾞のコネクティビティが向上したことで、センサーと地図データを組み合わせて陸上交通の安全性を向上させる⾰新的な先進運転⽀援システム(ADAS)ソリューションのような新しい⽤途が出現してきており、⾔うまでもなく、地図は将来的に⾃動運転やシェアードモビリティに⽋かせないものになります。
同社経営陣は2023年6⽉に開催された投資家説明会で、今後5年間の年平均成⻑率の⽬標を35〜40%とし、ナビゲーション、ADAS、コネクテッドカー・ソリューション、電動モビリティなどを増強して収益構成を多様化する意向を⽰しました。
優れたビジネスモデルで資本利益率が⾼⽔準
市場規模が⼤きいということは、成⻑が保証されているということではなく、むしろ競争熾烈化の要因になります。企業が⽣き残るためには、⾃社の優位性を⽣かして強固なビジネスモデルを構築する必要があります。
C.E. Info Systemsは⾃社のソフトウェアと知財を活⽤したソリューションを通じ、アセットライトなビジネスモデルを構築しています。同社収益の⼤半はサブスクリプション料⾦、ロイヤルティ、会員費という形で定期的に発⽣するもので、その顧客定着率は⾮常に⾼い⽔準です。また同社が保有する地図データは複数の情報源(⽩地図、現地調査、地理空間データ、クラウドソースデータ、衛星)を通じて30年近くにわたって蓄積、改良、最適化されてきたもので、新規参⼊企業が競合することはきわめて困難と考えます。そして正確な地図データを保有していることは、同社の優位性の⼀⾯にすぎません。もう⼀⾯は、このデータをいかに効果的に企業ソリューションと統合しているかという点にあります。顧客は同社のアプリケーションプログラミングインタフェース(API)を利⽤することで、最新版の地図データを⾃社のソフトウェアアプリケーションとシームレスに統合することができます。
競争に関して特筆すべき点は、インド科学技術省が2021年2⽉に地理空間データの利⽤に関する規制を撤廃すると発表したことです。ここで注意すべきなのは、この「規制撤廃」がインド国内でインド⼈が所有経営する企業だけに適⽤されるということです。Alphabet社(⽶国)やmapbox社(⽶国)など外国企業による詳細地図の利⽤は制限されます。したがって、外国企業がナビゲーションに必要な正確な地図を作成することは実質的に不可能です。
以上の点を踏まえ、C.E. Info Systemsは収益性の⾼いビジネスモデルと多様な⽤途を有する有望な投資先であると考えます。位置データの重要性は、世界各国のサプライチェーンが拡⼤するにつれ、ますます⾼まっていくことでしょう。バリュエーションは新規投資後数か⽉で上昇しましたが、同社が今後数年間で⾼いリターンを⽣み出してくれるという楽観的な⾒⽅に変わりはありません。
2023年9月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は前⽉に引き続き軟調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前⽉末⽐2.65%下落し、フィリピンとインドを除くアジア市場全体が軒並み下落して⽉を終えました。
原油価格の上昇、景気の減速、各国中央銀⾏が「より⾼く、より⻑期に」という偏った政策を続けていることなどから、世界各国の株式市場と債券市場が下落しました。
中国の不動産セクターは当⽉も中国と⾹港の株式市場の重しとなりました。過剰債務をかかえる不動産開発業者は依然として流動性問題の解決を迫られており、政府が住宅ローンの融資条件緩和という⽀援策に踏み切ったにもかかわらず、不動産販売件数に⼤幅な改善は⾒られませんでした。⼀⽅、鉱⼯業⽣産や⼩売売上⾼など、中国の8⽉の経済指標が⼀部プラス成⻑を⽰す数値となったことは好材料と考えます。
インドのNifty50指数は当⽉に最⾼値を更新しました。その要因としては、⽣産年齢⼈⼝の割合増加に由来する経済成⻑、都市化、インフラ投資、「チャイナ・プラス・ワン(中国のみに⼯場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠点を展開すること)」の動きが同国経済の⻑期的成⻑を後押しするという⾒⽅が投資家の間に根づいてきたことがあげられます。また、タイの株式市場は観光客数の多さと新政権による景気刺激策にもかかわらず、下落幅がASEAN諸国中で最⼤となりました。
ファンドの運用状況
当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、情報技術セクター、資本財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、⼀般消費財・サービスセクター、コミュニケーション・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、C.E. Info Systems(インド/ソフトウェア・サービス)、PetroChina Company(中国/エネルギー)、Polycab India(インド/資本財)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、Mitra Adiperkasa(インド/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)、Jeisys Medical(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Dharma Polimetal(インド/⾃動⾞・⾃動⾞部品)などがマイナスに影響しました。
当⽉、当ファンドは「Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)」の組み⼊れを開始しました。
同社は主にNIKE、adidas、PUMA、ユニクロといったグローバルブランドにサービスを提供する世界最⼤級の垂直統合型(製品の開発から⽣産、販売にいたるまで上流から下流のプロセスをすべて⼀社で統合したビジネスモデル)アパレルメーカーで、世界のアパレルサプライチェーンにおいて同社の重要性は際⽴っています。同社は投資家からも⾼い注⽬を集めており、売上⾼と純利益は過去10年間で⼤きく増加し、ROE(株主資本利益率)も⾼い⽔準を維持しています。
しかし新型コロナウイルスの⼤流⾏によって、そうした安定的な成⻑軌道にいくつかの点で乱れが⽣じました。第⼀に、政府の景気刺激策が⽶国とEUの消費を押し上げたことで売上⾼は2021年初頭の新型コロナウイルス流⾏初期に⼤幅に増加しましたが、各国中央銀⾏がインフレ抑制を狙って引き締めサイクルに移⾏したため、需要はすぐに軟化し、在庫が増加しました。⽶国とEUの景気減速と時を同じくして、2022年には中国の景気が悪化しました。第⼆に、粗利益率が2021年末には⼤きく低下しました。これは、1) 2021年7⽉から9⽉にかけてコロナ禍のロックダウンによってベトナム⼯場の稼働率が低下したこと、2) エネルギーコストと物流コストの上昇がサプライチェーンに波及し、原材料価格、特に綿花価格が上昇したことによるものです。
信頼性の⾼いビジネスモデル- 粗利益率は平均回帰
同社のビジネスモデルはコストプラス⽅式(実際にかかったコストに、利益を上乗せして価格を算出する⽅法)の価格設定に基づいており、⾐料品1着あたりの粗利益はほぼ固定されています。粗利益率が低下したのは、1) 原材料費と⼈件費が変動したこと(ただし、これは⼀般的に若⼲の時間差で顧客に転嫁されます)、2) スポーツウェアや機能性ウェアなどの複雑性の⾼い製品の⽅が粗利益率が⾼いという製品構成⾯の特性があることによって説明できます。同社の財務記録をみると、粗利益率は10年以上にわたって⾼い⽔準で安定的に推移していることがわかります。
したがって、稼働率と原材料価格が正常化すれば粗利益率は⾼⽔準に戻るというのが当ファンドの⾒⽅です。同社が中国、ベトナム、カンボジアで運営している⽣産施設の稼働率は順次改善しており、当⽉以降は多くの労働者が残業を始めたことからも、回復の兆しが現れていると考えます。原材料価格も2022年にピークへ達し、2023年に⼊ってからは安定化してきています。同社は新たな⽣地⽣産技術への投資を続けており、今後は粗利益率がさらに拡⼤する可能性があります。同社は現在、lululemonやFILAと緊密に協⼒し、伸縮性を有する⾰新的な⽣地の開発に取り組んでいます。
⻑期的な業界再編トレンドは不変
アパレル⼩売業界と異なり、アパレル製造業界では⻑年にわたって再編の動きが進められてきました。品質、環境基準、スケールメリットの向上により、追随できない中⼩企業は淘汰されたり、⼤⼿企業に買収されたりしています。この傾向は今後も続く⾒込みで、当⾯は加速する可能性さえあると考えられます。⼈権、安全性、環境負荷といった点は、いずれもこの数年、世間の注⽬を集めている問題です。環境⾯では、同社は再⽣可能エネルギーに多額の投資を⾏っています。同社は2025年までに、⾐料品⼯場の50%、⽣地⼯場の20%で再⽣可能エネルギーを使⽤することを⽬指しています。⽔の使⽤については、節⽔と再⽣技術を通じて2025年までに⽔の利⽤効率を20%改善し、廃⽔を減らすことを⽬指しています。
当ファンドが先⽇業界関係者と⾏った会議では、ブランドにとって重要な意味を持ちつつあるキーワードとして「事業の継続性」と「⽣産体制の柔軟性」という⾔葉が挙げられました。⽣産体制の柔軟性が重要性を増してきたのは、主に2つの要因が考えられます。第⼀に、⽶中間の緊張によっていわゆる「チャイナ・プラス・ワン」の動きが発⽣し、多数の企業が中国以外の地域、特に東南アジア(インドネシア、ベトナム、カンボジアなど)やインドに⽣産拠点を設⽴していることです。こうした動きは、中国の⼈件費⾼騰を受け、コロナ禍以前からありましたが、両国の緊張関係が近年より⾼まったために、⽶国やEUの顧客とビジネスを⾏う上で避けて通れない課題となっています。ここで指摘しておきたいのは、⽶国とEUのブランドが関⼼を持っているのは主として⽣産施設の所在地であって、⽣産施設の所有者ではないということです。同社は「地産地消」戦略を採⽤し、中国の⼯場では中国国内の需要に応え、ASEAN諸国の⼯場では中国国外からの受注案件に対応しています。今後インドネシアなどで⽣産能⼒を増強することで、今後ASEAN諸国の⽣産量の割合が更に⾼まる⾒通しです。
第⼆に、⽣産体制の柔軟性には短納期案件に対応する⼒も含まれていることです。短納期案件とは、⼀般に受注から出荷までの期間が3ヵ⽉未満の受注案件を指します。マクロ経済の先⾏きがますます⾒通せない中、在庫の積み増しを回避したいというのがブランドの基本姿勢であることから、こうした案件の割合が近年増加してきています。短納期案件の増加は、⾃動化が進むことで強⼒なサプライチェーンを持つ⼤規模事業者に有利に働くと考えます。先⽇発表されたNIKE社(⽶国)の決算をみると、来期の⾒通しが依然不透明であることから、来年は短納期案件がさらに増えることになるでしょう。先⽇、ある業界の専⾨家と話したところ、同社の総売上に占めるNIKEの割合は今後更に拡⼤する可能性があるということです。
興味深い点は、同社の成⻑が需要⾯よりもむしろ供給⾯(すなわち「⽣産能⼒の拡⼤」)の要因の⽅が⼤きいということです。コロナ禍以前は、⼤⼿アパレルメーカーはほぼフル稼働していました。同社の売上⾼が増加しているのは、主に⽣産能⼒の拡⼤によるもので、その幅は年間10%程度に制御されています。世界のスポーツウェア産業は今後5年間で年平均6%成⻑すると予想されており、⼤⼿サプライヤーが業界再編によって成⻑を加速していることを考えると、これは合理的な想定であると考えます。
結論を述べると、同社は有望な投資先でありながら、コロナ禍による混乱、さらに中国、⽶国とEUの市況悪化によって⼤幅に評価を下げてしまいました。しかし、粗利益の圧縮と売上の鈍化は本性的に⼀時的なものであり、⽶国で重⼤な対外紛争やハードランディングシナリオが発⽣しなければ、来年には正常化すると考えられます。そうなれば業界再編は加速し、最終的には最⼤⼿のアパレルメーカーがその恩恵を受けるだろうというのが当ファンドの⾒⽅です。
当ファンドでは引き続き同社を注視し、今後その動向をお伝えしていく予定です。
2023年8月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は急落しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比6.39%下落しました。米国の経済指標とインフレ率が予想を上回ったため、FRB(⽶連邦準備制度理事会)がさらなる金融引き締めに踏み切るのではないかという懸念が広がり、株式と債券がいずれも下落しました。
また、中国の輸出と住宅セクターの低迷が続いたことで、投資家心理はさらに冷え込みました。中国の前月の輸出(米ドル建て)は前年同月比14.5%減となりましたが、これは世界経済が低迷していることや、米中対立のために市場シェアの継続的な低下が影響していると考えます。中国の不動産開発大手のCountry Garden Holdings社は手元資金が不足し債務返済が滞る可能性があると発表し、それを受けて他の不動産開発業者の株価が下落しました。中国政府は住宅ローンの融資条件を緩和する旨を発表し、不動産セクターへのてこ入れを図りましたが、信頼回復には時間がかかる模様です。
インド市場では大型株が低調な一方、小型株は好調とパフォーマンスに差が生じました。ただし、ここ数年の政府による持続的なインフラ支出と中国からのシェア奪取による輸出増加の効果もあって、経済成長全般は依然堅調です。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、ヘルスケアセクター、一般消費財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、情報技術セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)、Jeisys Medical(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。両社は非外科的美容医療に対する関心の高まりから引き続き恩恵を受けているものと考えます。一方で、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Dreamfolks Services(インド/運輸)などがマイナスに影響しました。
Jeisys Medical(韓国/ヘルスケア機器・サービス)
この数年にわたって持続的に成長を遂げているテーマのひとつに、エネルギーを利用した医療用美容機器(Energy Based Devices、EBD)があります。2023年5月の月次報告書で、当ファンドの組入銘柄であるClassys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)について取り上げましたが、当月は、「Jeisys Medical」について、なぜClassysとともに魅力的な企業と考えられるのかという点についてご説明します。
美容医療は外科的処置と非外科的処置に大別されます。非外科的処置とは、注入剤(ボトックス、フィラーなど)やEBD(レーザー、高周波(RF)、超音波)を利用して行う処置を指します。美容医療における非外科的処置の普及率は近年上昇しており、EBDの中ではRF(高周波)とHIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、⾼密度焦点式超⾳波)の人気が高まっています。これは表在性筋膜(SMAS)のような真皮のより深い層をターゲットにすることができ、最小限のダウンタイムで外科的なフェイスリフトと同等以上の効果が得られ、費用対効果が高いためです。RFやHIFUは通常3~6ヵ月ごとに治療を必要とすることから、1回で終わる通常の外科手術と異なり、クリニックや施術者にとって持続的な収入源となります。
ClassysとJeisys Medicalの業績は目覚ましく、2022年までの直近5年間の売上高はそれぞれ年平均約31.4%と42.2%拡大しています。両社とも低価格戦略を採用しており、RF分野ではSolta Medical社(米国)の「Thermage」、HIFU分野ではMerz Pharma社(ドイツ)の「Ultherapy」など、知名度の高い同業他社の製品より大幅に割安な価格でRFおよびHIFU機器を販売しています。RFやHIFUのメリットは以前から市場で知られていましたが、後発組であるClassysとJeisys Medicalの製品価格が著しく低かったことから、エンドユーザーの間に広く浸透することになりました。
両社はともに「替え刃」ビジネスモデル(商品の本体を安く売って顧客を囲い込み、その後の消耗品やサービスで儲けるビジネスモデル)の事業を展開していますが、両社の戦略には僅かに違いがあります。Jeisys Medicalは成長加速をねらって海外事業に力を入れています。同社はCynosure社(米国)との提携によって米国、中国、欧州市場への進出を果たし、ODMモデル(他社ブランドの製品を設計・製造すること)に基づいて製品の設計と製造を担当しており、Cynosure社がブランディングと販売を管理しています。
両社は海外展開によって成長を加速させる模様ですが、ターゲットとなる市場をみると、日本を除いてほぼ重複はありません。Classysの主な成長市場はブラジル、日本、オーストラリア、タイなどで、Jeisys Medicalは日本、米国、中国に力を入れています。
2022年時点の米国市場の規模は約50億米ドル、その内訳はレーザーが約70%、RFが同20%、HIFUが同10%と言われています。現在米国では、Merz Pharma社のUltherapyがアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けた唯一のHIFU機器であり、このカテゴリーで圧倒的なシェアを誇っています。ただ、Merz Pharma社のHIFU特許は近々失効する予定で、今後競合他社の参入が相次ぐ見込みです。Jeisys MedicalのHIFU機器「ULTRAcel Q+」は現在臨床試験中で、来年早々にも承認される見込みです。Classysの「Untraformer MPT」は米国で発売されるのは2026年以降の見込みです。RF分野では、Jeisys Medicalの「Density」が当月に入ってFDAの認可を取得し、同社はこの装置に関して新たな販売代理店とパートナーシップを締結しました。
Jeisys MedicalはODM戦略の効果によって、パートナーの既存流通網とブランド力を活用し、大規模市場に迅速に参入できるでしょうが、市場への浸透が早まり、総資産回転率が上がった代償として、利幅が低下すると考えます。Jeisys Medicalの2022年の営業利益率は、Classysの約49%に対し、約29%に留まりました。ただ一方で、Jeisys Medicalは在庫回転率が高いため、直近のROE(株主資本利益率)でみるとClassysは約38%である一方、Jeisys Medicalは約43%と上回っています。両社はいずれも利益率の高い消耗品の売上に支えられた非常に魅力的なビジネスモデルを有しており、非外科的美容医療の世界的成長から恩恵を受ける立場にあるというのが当ファンドの考えです。
2023年7月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は前月に引き続き堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比6.20%上昇しました。
中国政府は消費や、住宅セクター、資本市場向けの刺激策を発表しました。民間企業の支援を目的とする31項目ものガイドラインが発表されたことを受け、中国市場に対する投資家心理は改善しました。AI(⼈⼯知能)の将来性に対する楽観論が、引き続き情報技術関連銘柄の上昇要因となりました。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)は、AI関連の需要拡大が予想されることから、同分野への設備投資を拡大すると発表しました。しかしスマートフォンやPCは在庫調整がほぼ終了した模様であるにもかかわらず、半導体の需要が引き続き低迷しており、マクロ経済に対する信頼感の低さがうかがわれます。台湾や韓国に拠点を置く他のIT企業も、直近の決算説明会で同様の見解を示しました。
インドとインドネシアは引き続き投資家の注目を集めています。両国は製造業への投資と製造能力の向上を目的に、積極的に外資を呼び込んでいます。インフラ整備はこれまでと同様、今も経済成長の原動力であると当ファンドは考えています。両国では国内消費主導型セクターも好調なパフォーマンスを記録しています。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、一般消費財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、生活必需品セクター、情報技術セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Polycab India(インド/資本財)、Mitra Adiperkasa(インドネシア/⼀般消費財・サービス流通・⼩売り)、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)などがプラスに貢献しました。一方で、SINBON Electronics(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Voltronic Power Technology(台湾/資本財)などがマイナスに影響しました。
当月のパフォーマンスが好調だったことで、当ファンドの年初来パフォーマンスは23.2%の上昇となりました。当ファンドが組み入れているグレーターチャイナ(中華圏)、インド、インドネシア、韓国などの主要な国は概ね年初来で上昇しました。
Swire Pacific(香港/不動産管理・開発)
当ファンドの組入銘柄である「Swire Pacific」は、香港を拠点とするコングロマリット(業種が異なる企業同士の合併・買収によって、発達した企業)です。同社は6月28日、Swire Coca-Cola USA(同社の米国飲料事業)の全株式を現金約39億米ドルでJohn Swire & Sons社(英国、Swire Pacificの株式を60.3%所有)に売却すると発表しました。これはSwire Pacificの時価総額の約35%に相当する大型取引でした。ただし、注意すべきは今回の取引は米国西部の13州で展開する同社の米国ボトリング事業(Swire Pacificの飲料部門の2022年のEBITDAの約46%)のみが対象であり、同社の子会社であるSwire Coca-Colaは香港や、上海、中国11省、台湾、カンボジア、ベトナムにおけるコカ・コーラ製品の製造、販売、流通の独占権を有する世界最大規模のコカ・コーラ・ボトリング事業として存続します。また、Swire Coca-ColaはJohn Swire & Sons社、Swire Coca-Cola USAと運営管理サービス契約を締結し、当初13年間の条件で運営管理サポートサービスの提供を受ける予定です。
同契約によると、Swire Pacific社は(i)1億1,700万香港ドル+マージン5%(年次インフレ調整条項付き)、または(ii)Swire Coca-Cola USA社の経常利益の6%のうち、いずれか大きい方の額に相当する年間サービス料を受け取ることになっています。
売却価格はSwire Coca-Cola USAの簿価の4倍、EV/調整後EBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)のおよそ12倍に相当します。この取引は妥当であり、Swire Pacificが香港と中国においてますます質の高い商業用・住宅用不動産事業に注力できるようになることから、同社のバランスシート強化に寄与するものと考えられます。今後、負債比率は18%から11.6%に低下し、現金払い利息の比率は6倍から7.3倍に上昇することが予想されています(2022年12月現在)。また、今回の売却によってSwire Pacificの不動産事業が来年度の営業利益に占める割合は70%以上に上昇する見込みです。借入コストが上昇していることや、Swire Pacificの有利子負債の15%が2023年に満期を迎えることを踏まえると、今回の取引の主な動機は負債の削減にあると当ファンドは見ています。
株主総会で承認されれば売却益29億米ドルの半額が特別配当として支払われることになりますが(1株当たり8.12香港ドル)、これは特別配当利回り約14%に相当します。これにより、今後1年間の配当利回りは20%近くになります。Swire Pacificの株式は依然として純資産価値を45%近く下回る水準で取引されています(ディスカウント幅は歴史的に見ても非常に大きく、10年間の平均ディスカウントは約25%)。同社の経営陣は資本を巧みに配分し、非中核事業の資産を魅力的な価格で売却する一方、大幅なディスカウント価格で大規模な自社株買いを実施するなどして、株主価値の向上に努めてきました。
一方、Swire Pacificの45%出資子会社であるCathay Pacific Airwaysは2023年6月も回復基調を維持し、月間総乗客数は前年同月比931.9%増の約155万人となりました。搭乗率は20.7%ポイント上昇し、87.7%に達しました。また、1日の乗客数が6万人を超え、コロナ禍後の最高を記録しました。貨物に関しては先月の輸送量が約11万トンと、前年同月比6.4%の増加となりました。Cathay Pacificは過去3年にわたって大幅な損失を計上し、Swire Pacificの収益の大きな足枷となっていましたが、2023年に入って業績が回復しました。2023年上半期決算は8月第2週に発表される予定ですが、損益分岐点に到達するだけでもSwire Pacificの最終利益は大幅に改善することになります。同社については今後の月次報告書で再度ご報告する予定です。
Polycab India(インド/資本財)
話題をインドに転じると、同国経済は非常に好調で、Nifty指数は当月に史上最高値を更新しました。当ファンドの組入銘柄である「Polycab India」は1983年、Jaisinghani家の四兄弟によって、西部のグジャラート州を拠点とする電線・ケーブルメーカーとして設立されました。電気製品の販売は家業とも言えるもので、四兄弟の父親が1960年代半ばに「Sind Electric Stores」を設立し、四兄弟はその経営を手伝っていました。現在、Polycab Indiaは電線・ケーブル市場で国内最大級の規模を誇っており、市場シェアはおよそ22~24%、4,000社以上の流通事業者を抱え、インド全土で20万以上の店舗を展開しています。
同社の事業は主に(1)電力、石油・ガス、建設、電気通信、鉄道、工業など幅広い産業向けに「Polycab」ブランドで各種ケーブルを販売する電線・ケーブル部門、(2)ファン、FMEG(照明器具、スイッチ・配電盤、ポンプなどを扱う商品回転率の高い電気製品)部門、(3)EPC(配電や農村部の電化などの一括受注契約事業向けの製品供給に重点を置くエンジニアリング・調達・建設)部門の3つに分かれています。
電線・ケーブル部門は同社の主力事業で、不動産需要の拡大、政府のインフラ・プロジェクト投資、民間企業の設備投資の恩恵を受けています。同社のような大規模事業者は業界売上の過半数以上を占めており、今後も競争力の劣る小規模事業者からシェアを奪っていく見通しです。その結果、同社は過去5年間に売上高、営業利益ともに大きく拡大し、ROCE(使用資本利益率)も高い水準に達しています。同社は「Project Leap」という事業戦略計画の下、2026年度までに売上高を2,000億インドルピーに伸ばすことを目標としており、電線・ケーブル部門とFMEG部門はそれぞれ市場成長率を上回る水準で成長しています。
当ファンドが同社を評価する主な理由は以下の通りです。
(1)セグメントと顧客の多様化
同社は2014年まで主に電線・ケーブルのサプライヤーで、Reliance Industries社(インド)、Tata Steel社(インド)、Adani Wilmar社(インド)、ACC社(インド)といった大企業向けのB2B(企業間取引)モデルを展開していましたが、その後FMEG事業に参入することで、B2C(企業と消費者間の取引)への多角化を実現しました。B2Cセグメントをさらに浸透させるため、同社は広告宣伝費をB2C売上高のおよそ2~3%まで漸次増額しました。
(2)強力な自社製造能力と後方統合
同社は長年にわたって戦略的見地から自社製造能力の構築に努めており、製造拠点は3州(グジュラート州、マハラストラ州、ウッタラーカンド州)、25ヵ所に広がっています。加えて、同社はサプライチェーン全体、特に原材料に関する後方統合(企業が自社の供給元や原材料生産者を買収・統合すること)に注力しています。またアルミ棒材、各種グレードのPVC、GIワイヤー、ストリップ、XLPE化合物などを自社生産しています。同社は2016年に世界的な商品取引会社Trafigura Group社(シンガポール)と合弁会社を設立し、社内の銅棒材需要を賄おうとしましたが、稼働率が今一つだったことから、この合弁会社をHindalco Industries社(インド)に売却しました。その後、Polycab Indiaは、Hindalco Industries社と長期契約を締結し、銅材の安定供給を確保しています。自社製造と後方統合を実現することによって品質管理とコスト管理の改善が可能になりますが、とりわけ現在のようにコモディティ価格の変動が激しい環境にあっては、その傾向が顕著に現れると考えます。
(3)マルチブランドFMEGのプレミアム化戦略
同社はFMEG部門において、「Hohm」(プレミアムIoT(Internet of Things、モノのインターネット)製品)、「Levana」(スイッチ)、「Polyshield」(開閉装置)といったプレミアムブランドを新たに立ち上げています。強力なブランドを持つ企業は、わずかなコスト増で高い利益を得ることができると考えられます。しかしこの分野は競争が激しく、固定費と広告費が高いため、同部門は過去2四半期にわたって赤字でした。しかしその一方で、同部門は立ち上げ以来高い成長をみせており、新ブランドの一部が今後も成長を続ければ、収益の上昇余地は大きいと見ています。
同社は国内において高い影響力を有していますが、北米、アジア、中国を中心とする国際(輸出)事業も急成長しています。2024年度第1四半期時点で売上高に占める割合は約8.9%と、同社製品の訴求価値の高さを物語っています。
同社は、インドにおけるインフラ設備投資拡大の恩恵を受けると考えられる優良企業であり、サプライチェーンを中国以外に移行する動きからも恩恵を受けられる立場にあります。2023年に入ってから大幅なバリュエーション見直しがありましたが、成長見通しは比較的良好で、長期的な成長余地があると当ファンドは考えています。同社については今後の月次報告書で改めて今後の状況を報告いたします。
2023年6月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場は堅調に推移しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比2.81%上昇しました。
米国の経済指標が堅調だったことで、投資家心理が世界的に好転し、情報技術セクターを中心に米国の株価指数が軒並み上昇しました。AI(人工知能)の将来性に対する楽観論の広がりによって、アジアの情報技術関連銘柄が引き続き上昇し、中国が大規模な景気対策を打ち出すという観測も市場の下支え要因となりました。
当月は米国のブリンケン国務長官が中国を訪れ、習近平国家主席と会談しました。結果次第では米中関係が改善に向かうのではないかという期待感が広がりましたが、大きな進展はありませんでした。それどころか、米国は半導体製造装置と製品の対中輸出制限を強化する計画を発表し、中国も半導体製造、EV(電気自動車)、通信機器に不可欠な2種類の金属(ガリウムとゲルマニウム)の輸出を制限してこれに応じました。
一方、インドのモディ首相は米国を訪れ、温かい歓迎を受けました。同首相はApple社のティム・クックCEO(最高経営責任者)やTesla社のイーロン・マスクCEOら、米国を代表する企業のリーダーと会談し、今後の投資先としてインドを検討するよう促しました。インドの長期的成長見通しを肯定的に捉える見方が裏付けを得たことで、インドの主要な株価指数のNifty50指数とSENSEX指数が、当月ともに史上最高値を更新しました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、不動産セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、NWS Holdings(香港/資本財)、China State Construction Development(香港/資本財)、Classys(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。一方で、Indian Energy Exchange(インド/金融サービス)などがマイナスに影響しました。なお、当ファンドは当月、同銘柄を全売却いたしました。
NWS Holdings(香港/資本財)
当月、当ファンドの上位保有銘柄である「NWS Holdings(以下(NWS))」は、Chow Tai Fook Enterprises社(香港、以下「CTFE」)から最大約355億香港ドル(約45億米ドル、1株当たり9.15香港ドル)の株式公開買い付け提案を受けました。これは6月21日の終値に22.2%のプレミアムを上乗せした価格です。
CTFEの筆頭株主は鄭一族で、CTFEはNew World Development社(香港、以下「NWD」、)の株式を約45.2%所有し、NWDはNWSの株式を60.9%所有しています。したがって、NWS売却にはNWDの独立株主の承認が前提条件となります。もう一つの前提条件は、NWSが保険会社(FTLife Insurance Company社(香港))の支配株主であることから、香港保険監督局とバミューダ通貨監督局などの規制当局からの承認を得る必要があるということです。
今回の提案は当事者全員にとって公平であるように見受けられることから、承認される可能性が高いと当ファンドは見ています。NWSにとって、提示価格は同社の直近5年平均株価に約30%のプレミアムを上乗せした水準です。NWDは取引によって約218億香港ドル(特別配当を支払う場合はその分を差し引いて約178億香港ドル)を受け取ることになり、純負債倍率は47%から42%程度に低下します。これにより、長引く高金利環境の中でNWDの金利負担が軽減され、借り換えの柔軟性が増すと同時に、持株会社のディスカウント幅のうちNWSに帰属する分が縮小します。
NWSの株価は年初来で大きく上昇し、当ファンドのパフォーマンスにも大きく貢献しています。2023年6月期の最終配当が発表されたとしても、提示価格は下がらないでしょう。参考までに、過去2年間の最終配当はそれぞれ0.30香港ドル、0.31香港ドルでした。ロング・ストップ・デイト条項(クロージングが一定の期限までに実施されない場合、当該契約を解除できる旨を規定する条項)によって、当月の発表から6ヶ月後に期限が設定されており、それまでに承認を取得する必要があります。
DreamFolks Services(インド/運輸)
インドは世界最大の人口大国で、就労人口の増加による生産力が高まっていることに加え、様々な面で開発途上にあること、市場構造が寡占的であることなど、他国と一線を画していると考えています。
当ファンドの組入銘柄である「DreamFolks Services」は、いまだ揺籃期(ようらんき、物事の発展する初期の段階)にあるインド航空輸送業界の成長が追い風となり得る興味深い銘柄です。同国の航空旅客数は2030年には5億7,000万人に達すると見込まれています。こうした成長の原動力となっているのが、政府の空港数と関連インフラの改善に向けた取り組みです。同国の空港数は2014年から倍増し、当年4月時点で148カ所となり、2030年には235カ所に達する見込みです。さらに航空機数も大きく増加し、2038年までに約2,500機になると予想されています。
このように、インドの航空輸送量が今後数年で大幅に伸びる可能性は高いですが、同社はそこからどのような利益を得るのでしょうか。同社は主に空港のラウンジ利用の橋渡し役として、独自の技術プラットフォームを通じて航空旅客とラウンジ運営会社、クレジットカード会社をつないでいます。いわば有料道路の運営会社のようなもので、航空旅客がクレジットカードを使用してラウンジを利用するたびにラウンジ使用料が収入として入ります。同社の事業範囲はインド国内の空港すべてのラウンジに及んでおり、うちいくつかの空港とは独占契約を結んでいます。同社のインドにおける市場シェアはラウンジ総利用量の約68%、クレジットカードによるラウンジ利用量の約95%に達しています。
航空旅行の増加とともに、クレジットカードの普及率とラウンジ利用頻度の上昇も、同社の成長の原動力となるでしょう。大型空港にはラウンジが複数設置されるため、インドにおける空港ラウンジの数は空港数より早いペースで拡大する見込みで、同社はラウンジ数が2030年までに150に達すると予想しています。クレジットカードの普及に関しては、2023年4月現在のインドにおけるクレジットカード発行枚数は8,500万枚に過ぎませんが、この数は毎月数百万枚のペースで増加しており、同社は2030年までにその数が約4倍になると予想しています。カード決済でのラウンジ利用における圧倒的シェアを考えると、これは同社にとって好材料です。
同社はアセットライトなビジネスモデルを採用し、高い利益を安定的に確保しているため、ラウンジの利用が増加すれば利益も増加します。同社はさらに、空港における周辺サービスへと事業の多様化を進めているほか、鉄道のラウンジサービスにも進出しています。
同社にとっての主要なリスクは同業他社との競争であると当ファンドは考えています。同社は現状でこそ圧倒的な存在感を示していますが、競合サービスであるPriority Pass(英国を拠点とするグローバルなラウンジ利用プログラム)はインドの大手銀行と提携することで次第に存在感を高めています。Priority Passは注視すべき競合先ではありますが、DreamFolks設立以前から市場に参入していたことから、過去10年間、DreamFolksに主導権を譲ってきたことになります。ですので競争という点では、当ファンドは既存の事業者より、テクノロジーを通じて業界の情勢を根底から覆す新規企業の参入を懸念しています。
以上を総括すると、同社は技術的な混乱や新規企業の参入がない限り、売上を高水準で伸ばし続けることが可能で、そのビジネスモデルに内在する高い営業レバレッジを考慮すれば、利益も大きく成長すると予想されます。株価は年初来大幅に上昇していますが、バリュエーションはいまだ魅力的な水準にあると考えています。
韓国の市場改革
最後に、MSCI先進国指数への組み入れに向けた政府の大規模な取り組みとして、韓国でこの数ヵ月間に発表された市場改革について触れておきます。これまで、外国人投資家からみた韓国市場参入の主な障害は、外国為替市場の閉鎖性と不自由さ、英語による企業情報開示の不十分さ、配当方針の不透明性、登録要件の煩雑さなどでした。
そうした問題を受けて、韓国市場のアクセシビリティ(組み入れの主要基準)改善を目指した取り組みがいくつか発表されたにもかかわらず、韓国株式市場はMSCI先進国指数の観察対象国から外れ、24ヵ国で構成されるMSCI新興国指数にとどまることになりました。他の主要指標のいくつかは既に韓国を先進国として扱っていますが、最大級のサービスプロバイダーはMSCIであることから、同社の指数に組み入れられれば大いにメリットが得られるでしょう。
以下は年初以降に発表された改革施策の概要です。まず2月に外国為替市場の改革が発表されました。この改革には、取引終了時間の延長、国内の外為および為替スワップ市場の対外開放が含まれています。さらに当月には、資産規模や外国人持株比率が一定基準を超えるKOSPI上場企業に対し、2024年から英語による重要情報の開示を義務付けるという発表が政府からありました。また、外国人が上場株式や債券に投資する際の事前登録を不要にするという発表が韓国金融委員会(FSC)から出されました。この規制は30年以上にわたって続けられてきましたが、登録義務の撤廃により、外国人投資家は現地での証券口座開設や株式市場への投資がしやすくなります。
韓国がこのまま市場改革を続けていけば、MSCI先進国指数に組み入れられるのは時間の問題だと思われます。これは市場構成銘柄のファンダメンタルズに直接的な影響をおよぼすものではないかもしれませんが、こうした改革とその結果としてのMSCI先進国指数への組み入れによって、いわゆる「コリアディスカウント」は次第に解消に向かうと当ファンドは考えています。こうした背景から、韓国は引き続き長期投資家にとって割安銘柄発掘の場となることでしょう。
2023年5月の運用コメント
株式市場の状況
当⽉、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比0.46%下落して⽉を終えました。
世界経済の減速、米国の債務上限問題、中国における製造活動の鈍化などが懸念され、投資家の間に不安が広がりました。米中関係には未だに緊張緩和の兆しが見られません。中国は「ネットワークセキュリティ上の深刻なリスク」を理由に、主要インフラプロジェクトで大手半導体メーカーであるMicron Technology社(米国)の製品の使用を禁止すると発表しました。米国政府が中国向け半導体製品の輸出を規制したことから、中国当局が対抗措置に踏み切ったという見方が広がっています。
中国では国営企業の改革が引き続き注目の的となっていますが、これは中国政府が国営企業のガバナンスと収益性の改善に向けた取り組みを強化しているためです。ある規制当局の高官は、投資家は中国国営企業の評価にあたって「中国らしい特色をもった企業価値評価システム」を模索すべきだと述べています。こうした要因から、当月は一部国営企業の株価が上昇しました。
当月の好材料としては、テクノロジー関連銘柄の上昇があげられます。半導体設計会社であるNVIDIA社(米国)が好決算と良好な業績見通しを発表したことを受けて、アジアの半導体関連銘柄に対する投資家心理が改善しました。同社の半導体は生成型AI(人工知能)「ChatGPT」などのアプリケーションに幅広く使用されており、過去数ヵ月にわたってそうしたアプリケーションの伸びが加速しています。台湾と韓国の株式市場では、テクノロジーセクターの好調な業績が最大の上昇要因となりました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、情報技術セクター、金融セクターなどがプラスに貢献し、資本財・サービスセクター、素材セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Mitra Adiperkasa(インドネシア/一般消費財・サービス流通・小売り)、CLASSYS(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。一方で、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Samsonite International(香港/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
当⽉は、年初来当ファンドのパフォーマンスにプラスに貢献している「CLASSYS」をご紹介します。
同社は2007年に設立された韓国の医療用美容機器メーカーで、収益が過去5年間、年平均30%以上伸びており、ROE(株主資本利益率)も30%を超えています。同社の目覚ましい成長の背景には、HIFU(High-Intensity Focused Ultrasound、⾼密度焦点式超⾳波)療法⽤機器やRF(Radio Frequency、高周波)美顔器のようなエネルギー活用型医療美容機器(Energy Based Device、以下「EBD」)の普及があります。同社経営陣によると、2022年のEBDの世界市場は推定約56億米ドルで、今後3年にわたって年平均12%以上の成長を遂げる見込みです。EBDによる治療は、レーザー、超音波、高周波を用いた非侵襲性美容治療法で、しわ、肌のたるみ、色素沈着、傷跡、堆積脂肪、体や顔のムダ毛など、様々な美容上の要望を満たすものです。
CLASSYSの「Shurink」の台頭
CLASSYSの美容医療機器「Shurink」は、様々なカートリッジ(1.5mm~13.0mm)を通して特定の皮膚層に超音波エネルギーを送り届けます。焦点を絞り込んだ超音波エネルギーが皮膚の様々な深度で組織に熱を加えて刺激し、顔や体の脂肪部分を標的として、輪郭を描くような動きでコラーゲンとエラスチンの分泌を促します。顧客から見ると、「Shurink」による施術を受けることで、国内外の同業他社より少ない費用で同様の効果(施術時間やダウンタイムが短いこと、痛みが少ないこと)を得ることができます。
「Shurink」の機器本体とカートリッジは、同社の2022年売上高の約85%、総利益率の約75%、営業利益率の約50%を占めています。これらの指標は業界トップクラスで、製品ポートフォリオを絞った結果、生産と研究にスケールメリットが生まれたことに由来しています。
同社を評価する理由
(1)「替え刃」ビジネスモデル(商品の本体を安く売って顧客を囲い込み、その後の消耗品やサービスで儲けるビジネスモデル)
前述の通り、「Shurink」には使い捨てカートリッジが付属しており、一般に2~3ヵ月ごとに交換する必要があります。したがって、同社は「Shurink」の耐用年数が過ぎるまで経常的に収益を生成することができます。消耗品の売上比率は機器の累積台数の増加とともに上昇し、利益率も拡大していきます。資本利益率の改善は当ファンドが求める投資の重要な基準の一つであり、消耗品の売上比率の上昇によって、同社収益は今後数年間にわたって拡大を続けると考えられます。
さらに、このような資本利益率の高い状態が長期的に持続可能かどうかも、調査すべき重要な点です。同社は同業他社数社との製品の差別化を図るため、常に売上高の一部を研究開発費に配分しています。「Shurink」は顔の中でも特にデリケートな部分の施術にあたって施術者のコントロールと安定性を高める円形回転ハンドピース「Booster Cartridge」の特許を取得しました。小さな前進ですが、同社が競合先に先行するためには重要な一歩だと考えます。
(2)海外での成長性
同社の製品は世界60ヵ国で販売されています。韓国は依然として売上高の約37%を占める最大の市場ですが、ブラジル、日本、タイ、オーストラリアといった主要輸出先は最大市場規模が大きく、急速に成長しています。経営陣は輸出が今後数年間で年平均20~30%成長するという見通しを示しています。
(3)新型RFデバイス「Volnewmer」の動向
人気の「Shurink」とは別に、同社は2022年10月、同社初のRF機器となる「Volnewmer」を発売しました。初期の販売状況、消費者や医師からのフィードバックは良好ですが、発売から間がないことから、同製品の長期的動向はまだ判断できません。同社は「Volnewmer」を高級機器として位置づけ、価格よりも技術的優位性を売りにしています。同業他社製品との主な違いは、①水冷技術による施術時間の短縮と優れた効果、②ティルティング機能(座面を傾斜させる機能)と操作性の改善、などが挙げられます。
最後に同社のバリュエーションについてですが、当月末時点でPERは約20倍となっています。バリュエーションは現行水準でも妥当と考えられることから、今後も同社を主要銘柄として保有していく予定です。
2023年4月の運用コメント
株式市場の状況
当月、アジア株式市場はまちまちの値動きとなりました。日本を除くアジア市場に使用される⼀般的な指数であるMSCIアジア(日本を除く、米ドル建て)指数は、前月末比2.07%下落しました。世界経済の低迷、米国の銀行危機の波及、中国の製造活動の鈍化に対する懸念が広がり、慎重姿勢をとる投資家が増加しました。米バイデン政権が最先端技術や機器の中国への輸出規制を厳格化する意向を示したことから、米中間の緊張はますます高まりました。
また、スマートフォンやPCの需要低迷が、引き続きテクノロジー銘柄の重石となっています。Samsung Electronics(韓国/情報技術)は、主力の半導体メモリーの需要低迷が原因で、2023年1月~3月期決算が低調でした。Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾/情報技術)も、半導体業界の成長が短期的に弱含むという予想を明らかにしました。ただし両社はいずれも、将来的に成長が見込める技術の研究開発と投資を続け、半導体関連製品、とりわけ自動車、AI(人工知能)、データセンター、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)の構造的な需要増加に対応していく意向を示しました。
一方、コロナ禍後の回復が続いたことが、アジア全域のサービスセクターの追い風となりました。海外へ出かける人も多く、とりわけ復活祭期間中の旅客数が堅調でした。中国人旅行者の姿が香港に戻り、ショッピングモール等の小売売上高が好調に推移しています。
インドネシアとインドは、外国企業の生産拠点移転先としての人気がますます高まっています。インドネシアに対するルピア建て海外直接投資(FDI)は2023年第1四半期だけで前年同期比20.2%増加し、この勢いは今後も続くと当ファンドは考えています。Apple社(米国)のティム・クック最高経営責任者(CEO)はインドを訪問し、同国への投資をさらに拡大し、同社輸出製品の生産拠点としての役割を漸次拡大していくと発表しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比2.07%下落して⽉を終えました。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、資本財・サービスセクター、金融セクターなどがプラスに貢献し、情報技術セクター、コミュニケーション・サービスセクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)などがプラスに貢献しました。一方で、China MeiDong Auto Holdings(中国/小売)、Binjiang Service Group(中国/商業・専門サービス)などがマイナスに影響しました。
当月は当ファンドの組入銘柄の多くが堅調な株価推移となりました。一方、中国の自動車関連銘柄は2022年末にEV(電気自動車)の補助金が終了したことで消費需要が引き続き低迷し、業界内の競争が熾烈化しました。
以前の月次レポートで取り上げたように、当ファンドはインドネシア銘柄の組入比率を高めに設定しています。インドネシアはタイとともに東南アジアにおけるEVの主要ハブとなることを目指しており、ステンレス鋼の生産に使用されるニッケル銑鉄やバッテリーの陰極に使用される混合水酸化物析出物といった、より付加価値の高い製品の輸出を拡大させています。経常黒字の安定化は通貨の安定につながり、インドネシアルピアはアジア地域でも堅調な値動きをみせる通貨の1つとなっています。当月のコアインフレ率は前年同月比約2.8%上昇となりました。
Indofood CBP Sukses Makmur(インドネシア/食品・飲料・タバコ)
同社は1982年に設立されたインドネシア最大級の加工食品メーカーです。軽食類、調味料、乳製品など様々な食品を製造、販売しており、中でも即席麺が売上高と営業利益において高い割合を占めています。
同社は世界で最も売れている即席麺の1つである「Indomie」のブランドを保有しており、インドネシア、エジプト、ケニア、ナイジェリア、サウジアラビア、トルコで市場シェアの上位につけています。現地で「ミーゴレン」と呼ばれる焼きそばはインドネシアで定番の屋台料理で、一般にインドネシア各地のミニマートや屋台で販売され、家庭でも食されています。
インドネシアでは人口と労働者階級の増加に支えられ、即席麺の消費が安定的に増加傾向にあります。また、既存製品の値上げなどもあり、同社の国内即席麺事業は今後も成長を維持できると当ファンドは考えています。
同社の過去10年間の粗利益率は、2011年から2020年にかけて大幅に上昇しています。2022年にはロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルス感染症の流行に起因する供給不足によって小麦やパーム油(CPO)といった主要原材料価格が急騰したため、利益率は低下しましたが、小麦とパーム油の価格は2022年の半ばに上げ止まり、今年に入ってからは正常化しています。同社は国内で製品の値上げを実施し、投入コストが正常化したことで、粗利益率は2022年下期には回復しました。一般的に値上げを行うと価格弾力性が働き、需要が減少します。しかし、同社の即席麺「Indomie」はブランド力と販売力に強みがあり、国民の多くに愛されていることから、1桁台の値上げなら容易に価格転嫁でき、販売数量への影響はそれほどないと当ファンドは考えます。「Indomie」の独特の味は複数世代にわたってインドネシア国民に親しまれており、国内で最も近い競合製品である「Mie Sedaap」(Wings Group社(インドネシア)製)を購入するより、少し高い料金を払っても「Indomie」を購入した方がよいと考える現地の人が多いようです。同社はインドネシアの即席麺市場で第2位のWings Group社と大差をつけて高いシェアを占めています。
日本や韓国、中国といった先進国では市場が成熟しているため、時間の経過とともに製品が高級品化する傾向がありますが、インドネシアは人口1人あたり所得曲線が未だ低い位置にあることから、まだそうした段階には達していないと当ファンドは考えます。日清食品ホールディングス㈱、NONGSHIM社(韓国)、Ottogi社(韓国)といった他メーカーもインドネシアで製品を販売していますが、価格帯は「Indomie」より数倍高くなっています。この3社は高級志向の消費者のシェアを奪っている可能性がありますが、「Indomie」の味は外国製品にはない現地独自のものとなっているためすぐに大きな脅威とはならないと当ファンドは考えます。
同社は2020年5月にPinehill Group社(香港)を約30億ドルで買収しました。Pinehill Group社は中東、アフリカ、東南ヨーロッパの8ヵ国で最大の「Indomie」ブランド製品の製造、販売事業者です。Pinehill Group社の商圏人口は8億8,500万人を超えており(輸出市場を含む)、各国の人口1人あたり即席麺消費量は年間20食未満ですが、一人当たりの消費量が増加傾向にあるため、今後販売量の拡大が見込まれています。
ただし、Pinehill Group社がIndofood CBP Sukses Makmurの代表取締役社長兼オーナーであるAnthony Salim氏の傘下に収まったことから、両社の合併は市場に好感されませんでした。Salim氏は当時Pinehill Group社の株式の約半数を保有しており、そうした関係からPinehill Group社の買収に支払う金額が高すぎるという疑念が生じたのです。こうしたガバナンス面での不安や、買収資金が主に債務で賄われたことが問題視されて、Indofood CBP Sukses Makmurの株価は大幅に切り下がり、PER(株価収益率)は2020年の年初の約25倍から、買収が行われた2022年5月末には約15倍まで低下しました。当ファンドではバリュエーションに割安感が出てきたことから、2023年第1四半期に同社を組み入れました。同社はPinehill Group社の買収によって成長余地が大幅に拡大し、今後5年間は2桁の利益成長、ROEは20%程度を維持できると当ファンドは考えています。同社の今後の動向は、今後の月次レポートでお伝えしていく予定です。
2023年3月の運用コメント
株式市場の状況
アジア株式市場は当月、軟調な値動きで幕を開けましたが、その後反発して月を終えました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、3.51%上昇しました。世界経済の悪化に対する懸念、米シリコンバレー銀行の破綻、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの買収提案などが相次いだことで、投資家の信頼感は揺らぎ、金融システムにその余波が及ぶのではないかという懸念が広がりました。FRB(米国連邦準備制度理事会)とスイス当局の迅速な対応によってリスクは回避され、市場は足元では落ち着いていますが、世界の銀行セクターに長期にみてどのような影響を及ぼすのかは未だ不透明です。
当月、中国では年に1度の全国人民代表大会が開催されました。予想通り習近平氏が過去に例のない3期目の国家主席に選出され、新首相には李強氏が選出されました。GDP成長率は5%程度と控えめな数値に設定され、内需拡大策、企業の信頼感向上策、ならびにEV(電気自動車)、グリーンエネルギー、人工知能(AI)、先進的製造業、半導体といった主要産業のテコ入れ策などに注力することが発表されました。また、不動産セクターとインターネットセクターの規制緩和を示唆する発言もありました。これを受けて投資家心理が好転し、中国市場と香港市場は堅調なパフォーマンスを記録しました。
ASEAN諸国では外国企業による生産拠点設置の動きが続いています。インドネシアはニッケル鉱石の埋蔵量が豊富であることから、EVとそのサプライチェーンに関わる企業に対する海外からの投資が拡大しています。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、ヘルスケアセクター、資本財・サービスセクターなどがプラスに貢献し、一般消費財・サービスセクター、生活必需品セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、NWS Holdings(香港/資本財)、CLASSYS(韓国/ヘルスケア機器・サービス)などがプラスに貢献しました。一方で、BOE Varitronix(香港/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)、Alibaba Group Holding(中国/小売)などがマイナスに影響しました。
2023年第1四半期の当ファンドのパフォーマンスは1.86%の上昇となりました。一方、⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、円建て)指数は、前四半期⽐5.29%上昇しました。
市場は本質的に変動するものだという事実を踏まえると、短期的なアンダーパフォームが時折発生することは想定の範囲内です。当ファンドでは中長期的に高いリターンを生み出すことを目指しているため、月次のパフォーマンス動向に一喜一憂することなく、投資先のファンダメンタルズと今後の見通しをより重視しています。今回のレポートでは、当ファンドの主要組入銘柄であるNWS Holdings(⾹港/資本財)とChina State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)について、最新の見通しを記載いたします。両銘柄は様々な理由から本来の価値より大幅に割安な価格で取引されていると考えられます。
NWS Holdings(⾹港/資本財)
同社は香港を拠点とするインフラ関連のコングロマリットで、株式の61%をNew World Development社(香港)が保有しています。2020年以降、コロナ禍によって甚大な打撃を被りましたが、キャッシュフローの安定性に支えられ、配当を持続的に増額するという方針を遵守しています。主力事業は道路、建設、生命保険で、グレーターベイエリア(⼤湾区)を中⼼とする成⻑戦略を⽴てています。2月下旬に発表された2023年度上半期(2022年12月までの6ヵ月間)決算をみると、AOP(調整後営業利益)は21億香港ドル(前年比11%減)、純利益は11億香港ドル(同27%減)でした。利益低迷の主な原因は、トラックの通行料金が10%値下げされたこと、一部高速道路に金銭的なインセンティブがなかったために道路セグメントに悪影響が及んだこと、2022年5月に売却したGoshawk Aviation Limited社(アイルランド)(GAL、同社の商業用航空機リース事業)の寄与がなかったことです。通行料金の値下げは中国政府がゼロコロナ政策を転換したことで撤回されましたが、GALの売却は翌四半期にも影響を及ぼすことになると当ファンドは考えております。2023年度上半期の好材料としては、成都と武漢で買収した物流施設5件の寄与、施設管理事業のAOL(同社に帰属する営業損失)の縮小、戦略的投資事業の回復などが挙げられます。
同社は継続的に配当利回りが高いことから、当ファンドは上位での保有を継続しています。2023年上半期には中間配当0.30香港ドルの支払いを発表しており、道路事業、建設事業、生命保険事業の利益はゼロコロナ政策の転換を受けて大幅に改善するというのが当ファンドの見方です。同社の建設事業はHK Convention and Exhibition Center(HKCEC、香港にある会議施設や展示施設、ホテル、住宅等を併せた複合施設)と免税店、Gleneagles Hong Kong(香港島南部を拠点とする民間の高級病院)の業務で構成されています。香港では海外旅行が再開しているため、こうした施設の収益性は著しく改善する見込みです。HKCECは2023年にイベントや見本市の開催件数を既に大幅に増やしており、前月末にも大型のイベントが開催されるなどコロナ禍以降で初めてとも言えるフル稼働状態にあります。免税店事業については、香港と中国本土の間の往来が再開し、同社の免税店の一部も営業を再開しました。Gleneagles Hong Kongの収益性はコロナ禍期間中の2021年5月から現在に至るまで好調です。2022年12月の病床平均使用率は66%で、EBITDAマージン(売上⾼に占める償却前営業利益の割合)は順次改善しています。生命保険事業については、コロナ危機前の年間保険料換算は中国本土からの来訪者によるものも多かったことから、本土との往来の再開によって今後1年で需要が著しく増加すると当ファンドは考えております。
資本配分の観点からみると、同社は事業ポートフォリオの最適化を継続しており、成熟した事業を売却し、道路や物流など付加価値の高いプロジェクトへの再投資を続けています。実際、2018年下半期から2023年上半期にかけての事業売却の対価は総額300億香港ドル近くに達しており、その資金の大半が道路、建設、生命保険の各事業に再投資されています。この1年間だけで、商用航空機リース事業の売却に続き、Guigang-Wuzhou Expressway株式の40%、Sui-Yue Expressway株式の残り持分60%、蘇州の物流施設の買収を実施しています。借入資金の面では、経営陣が金利上昇の影響軽減に取り組んだことで、純負債残高は57億香港ドル減少し、正味借入比率は11%に低下しました。
以上より、同社の主力事業は2023年に回復を続け、累進配当方針が遵守されるため、今後は配当利回りが8.7%を下回ることはないというのが当ファンドの見方です。正常化ベースでは、今後3年間の総株主還元率は15%を超えると当ファンドは予想しています。成長率とROE(株主資本利益率)がそれほど高くないことを踏まえると、同社は質の高さを重視する投資家の投資対象ではありません。しかし成長の質が高いということは、裏を返せばバリュエーションが高いということでもあります。同社はバリュエーションが低いため、投資の好機だと当ファンドは考えています。足元の同社株式は純資産価値(NAV)を約60%ディスカウントした価格で取引されており、長期平均の約40%を大きく下回っています。バリュエーションと配当利回りは逆相関の関係にあります。高配当利回り、1桁台半ばの正常化ベースの成長率に加え、収益見通しが改善するにつれて、NAVのディスカウントが縮小し、株価も切り上がると考えられます。
China State Construction Development Holdings(⾹港/資本財)
同社は、China State Construction International Holdings(香港/資本財、以下CSCI)のファサード(カーテンウォール)請負部門で、2022年の売上高は約77億香港ドルで前年比21.8%増、純利益は約4億2,200万香港ドルで、同44.5%増という好調な決算を前月発表しました。同社は海外の不採算事業から撤退する一方で、親会社のCSCIと連携し、そのリソースを活用して中国本土で事業を成長させています。2022年末時点で新規受注額、受注残とも前年比で大幅増となっており、今後数年間の見通しは良好です。
同社の過去5年間(2017年から2022年)の売上高と純利益の年平均成長率(CAGR)はそれぞれ20%、29%で、10%台半ばだったROE(株主資本利益率)は2022年には20%を超えるまでに改善しています。同社は2025年までに純利益10億香港ドル(同期間のCAGR39%)の達成を目指す計画を据え置きました。しかし、堅調な会社計画と優れた実績にもかかわらず、同社の予想PER(株価収益率)は7倍台です。同社がいまだに過小評価されている主な要因は以下の通りです。
香港とマカオ市場の成長性の限界に対する懸念があること。
- 香港とマカオはいずれもコロナ禍で大打撃を被りましたが、地方政府はそれぞれ今後10年間の主要インフラプロジェクトの予定を既に発表しているため、カーテンウォールの需要は旺盛な状態が続くと考えられます。
- 香港では2022年10月の政策対応で、今後10年間の病院、芸術文化施設、スポーツ施設、レクリエーション施設の開発計画が発表されました。政府は香港と中国本土の統合を強化する目的で、1,000億香港ドルを支出し、香港と深圳の境界で300平方キロにおよぶ北部都会区に250万人を居住させる予定です。香港政府はさらに、50万人を超える市民に手頃な価格の住宅を供給する目的で、Lantau Tomorrow Vision(香港の開発プロジェクト)に6億2,400万香港ドルの予算を割り当てるという発表を行いました。香港政府の年間インフラ予算は昨年の800億香港ドルから今後5年間で倍増すると当ファンドは予想しています。
- マカオでは、数か月間にわたってさまざまな推測がされる中で、カジノの主要運営事業者6社すべてが2023年1月から10年間のライセンスを更新しました。カジノ運営事業者は代わりに1,190億マカオ・パタカ(約148億米ドル)をギャンブル以外の事業に投資します。これはマカオがギャンブル事業への依存度を軽減し、家族向けの観光地へと脱皮することを目指しているためです。
中国本土の不動産市場の見通しが低調であること。
同社は居住用物件も手掛けていますが、物件の大多数は基本的に商用不動産です。同社はいくつかの大手企業との契約を締結していますが、これは研究開発センターや企業の本社建設需要が旺盛であることを示しています。同社はブティック型の小売スペースでも存在感を高めており、Apple社(米国)、NIKE社(米国)などの店舗も建設しており、更に本土進出を模索している香港の開発事業者との強固な関係も活用しています。同社の選別的注力分野は、競争が比較的少なく、需要が一層底堅く、同社の6つの主力技術(超高層ビル用ガラスのカーテンウォール、複雑な商業施設のカーテンウォール、2層の通気性カーテンウォール、防爆カーテンウォール、防火カーテンウォール、パッシブカーテンウォール)や組込式太陽光発電システム(BIPV)、プレファブ建設(MiC)といった比較的新しい技術によって差別化できる高額プロジェクトです。
国営企業と連携していること。
投資家の多くは国営企業のリターンは低く、コーポレートガバナンスが不十分であると考えていますが、同社は例外であると考えられます。同社はCSCIの支援によって、中国本土から多くの顧客を獲得しています。さらに、国営企業の多くはファンダメンタルズが強固であるにもかかわらず、大幅なディスカウントつきで株式が取引されてきたことから、政府はその改革を推進してきました。
流動性が低いこと。
同社の過去1年間の日次平均出来高は比較的小さいことから、大手機関投資家の多くは投資対象から同社を除外していると考えられます。2022年6月に同社は1株あたり2.20香港ドルで1億株を新規発行する形で資金調達を行いました。一部投資家は株式の希薄化と必要な運転資本の増加を懸念していましたが、これは近視眼的な見方に過ぎず、実際には過去5年間のうち4年間でキャッシュフローがプラスであることから、MiCのような新しい技術を背景に、キャッシュコンバージョンサイクル(仕入債務から売上債権回収までの日数のこと)はさらに改善する見込みです。
ファンダメンタルズを重視する投資家として、当ファンドは収益とキャッシュフローの成長が長期的なバリュエーションの牽引役となると考えています。同社経営陣は、今後3年間の利益の年平均成長率は39%、ROEは20%を超えると当ファンドでは予想しています。予想PERは7倍台で、リスクリワード(取引において取るリスクに対する利益の比率)は上振れする可能性があります。
2023年2月の運用コメント
株式市場の状況
アジア株式市場の大半は、1月に堅調に推移した後、当月は下落しました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、6.81%下落して⽉を終えました。
これは主に、MSCI中国(米ドル建て)指数の同10.37%下落が影響しました。中国の経済活動再開を受けた消費回復に関する好調なデータにもかかわらず、米国領空内の中国の偵察気球疑惑を巡って米中間の緊張が再燃し、人民軍と関係する中国企業に対する制裁が強化されたことで、投資家心理は冷え込みました。また11月以降に大きく上昇していた中国のインターネット関連銘柄も、高まる規制懸念やJD.com社(中国)による積極的な補助金キャンペーンを契機とした価格競争の可能性を受けて、下落に転じました。
米国の力強いインフレおよび労働市場データも、米国利上げのペース加速と長期化に対する懸念を引き起こし、新興市場の株価に下押し圧力を加えました。インドの指数は当月もAdani危機が重石となり、Adani group社(インド)関連銘柄は大幅にアンダーパフォームしました。台湾のテクノロジー企業は、2022年第4四半期決算説明会で2023年第1四半期の低調な収益見通しを発表しましたが、一部の投資家はそれをサイクルの「底」と解釈し、一部企業の株価の下支え要因となりました。また、最近のChatGPT(AIチャットプログラム)の急速な普及が、半導体やメモリの需要増につながる可能性を指摘する声もあります。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、金融セクターがプラスに貢献し、一般消費財・サービスセクター、情報技術セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Mitra Adiperkas(インドネシア/小売)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)などがプラスに貢献しました。一方で、Alibaba Group Holding(中国/小売)、Shenzhou International Group Holding(中国/耐久消費財・アパレル)などがマイナスに影響しました。
中国
株価は下落したものの、中国経済はコロナ規制の緩和後、引き続き急ペースで正常化に向かっています。
一方、米国領空内の中国の偵察気球疑惑を巡って米中間の緊張が再燃しました。この事件を受けて、米国は人民軍と関係する中国企業に対する制裁を強化しました。もう1つの注目すべき記事として、中国の国有企業は世界4大会計事務所(PwC社、EY社、KPMG社、Deloitte Tohmatsu Consulting社)との取引を段階的にやめ、国内会計事務所と契約するよう当局から求められていると報じられました。緊張関係が続くなかで、Apple社(米国)の主要サプライヤーの多くは、中国からベトナムやインドなどの国に大規模な移転を計画していると報道されています。
国内では、規制面の逆風が緩和される最中に、JD.com社による100億元の補助金拠出計画が発表されました。これは、eコマース(電子商取引)の既存企業がPinduoduo(PDD、中国のeコマースプラットフォームのひとつ)やTikTokなどのショートビデオプラットフォームの追い上げをかわそうとする中で、セクター内の競争が再燃していることを裏付けるものです。外部環境と競争の強度が大きく変化したことを受け、当ファンドは保有していた同社の株式を売却しました。JD.com社の主要カテゴリである日用消費財(FMCG)とコンシューマーエレクトロニクスは、実店舗販売が再開されたことで正常化の兆しを示しています。それよりも懸念されるのが、大都市で加速するPDDの普及です。PDDで旗艦店を開設するブランドが増えており、Alibaba Group Holding(中国/小売)やJD.com社はいずれもシェアを失っています。JD.com社の競争優位性は、より迅速で信頼性の高い配送時間を可能にする、社内物流ネットワークにあります。家電など大型製品のカテゴリにおける同社の物流面の優位性は変わらないとみられますが、FMCGやコンシューマーエレクトロニクスについては、全国規模の食品配達ネットワークを活用して食品以外の商品も配達しているMeituan Instashopping(Meituan(中国/小売)が提供する即時配達サービス)などにシェアをさらに奪われるリスクがあります。中国のeコマース業界は、過去の主な成長ドライバだったユーザー数の伸びという点で、成熟段階に到達しています。JD.com社の年間のアクティブ顧客基盤はコロナ禍の後押しがあったにもかかわらず、ここ数年間はほとんど増加していません。同セクターは依然としてダイナミックですが、ショートビデオプラットフォームはユーザーの利用時間で勝っており、広告とGMV(流通取引総額)の両方でシェアを伸ばしていることから、既存企業の優位性を少しずつ低下させています。
実店舗のデジタル化
先進国市場でオンライン店舗への移行が続く中、最近見られる1つのトレンドが、O2O(オンライン・ツー・オフライン、オンラインで情報発信をして集めた顧客を実店舗へ誘導して購買を促すこと)の導入です。これは、オンライン小売業者が商品の集荷および配送や、顧客獲得(体験、ブランディング)の拠点として、実店舗の重要性を認識したことによります。Amazon社(米国)は2017年8月に、Whole Foods社(米国)を137億米ドルで買収して話題になりましたが、それ以降の売上高成長率は10%程度に留まっています。Amazon社のAndy Jassy最高経営責任者(CEO)は、こうした現状に気落ちすることなく、実店舗を「大規模に展開」し、「選別、精算方式、品ぞろえ、プライスポイント(お店の商品の中で最も売れている売れ筋商品の価格)」について実験を続ける準備ができていると述べました。これは、実店舗が今後も重要な形態であることに変わりなく、オンライン店舗と共存していくことを意味します。同時に、実店舗(特にスーパーマーケット)では、コロナ禍を原因とする人手不足やインフレによってデジタル化が進行しています。実店舗はすでに薄利であったため、従業員の生産性向上とコスト構造の最適化を実現する方法を見つけ出す必要に迫られていました。コンサルタント企業のMcKinsey&Company社(米国)によると、ESL(電子棚札)ソリューションは実店舗のデジタル化を促進しており、小売業の利益率を3~5%高めると予想されています。こうした動きから主に恩恵を受けると考えているのがE-Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)です。
E-Ink Holdings(台湾/テクノロジー・ハードウェアおよび機器)
E-Ink Holdings(以下、E-Ink)は電子ペーパー技術の草分けかつ商業リーダーであり、高い世界市場シェアを有しています。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが発明したE-Inkは、2009年に台湾の液晶ディスプレイメーカーであるPrime View International社によって買収されました。その後、同社は液晶ディスプレイ事業から撤退し、社名をE-Ink Holdingsに変更する傍ら、電子ペーパー市場の発展と成長に尽力しました。
2007年11月に電子書籍リーダー(Amazon Kindle)が発売されて以降、電子ペーパーは次第に知られるようになりました。電子書籍リーダーにより、読書はより便利になりました。電子書籍リーダーはソフトカバーの本よりもコンパクトかつ軽量で、フォント、フォントサイズ、明るさを調整できます。より重要なのは、印刷版よりも安く購入可能な、Amazon社の膨大な電子書籍ライブラリにユーザーがアクセスできるようになったことです。ノートパソコン、タブレットなどの標準的な液晶ディスプレイと比較した際の電子ペーパーの主な優位性としては、電力消費が大幅に少ないこと、バックライトのない反射ディスプレイ、軽量で柔軟性がある、粉砕防止などの特性が挙げられます。紙のようなディスプレイを実現しているのが、インク粒子でできた白黒のマイクロカプセルに逆電圧をかけることで画像を作り出す電気泳動技術です。その結果、画像は反射特性を持つため、環境光は紙と同様にディスプレイの表面で反射されます。光沢がなく、ブルーライトを発しないため、特にまぶしい場所での読書が容易になります。さらに、180度近くの視野角が可能なのも、標準的な液晶モニターよりも優れた点です。Amazon Kindleの成功は、ソニー㈱、富士通㈱、Barnes and Noble社(米国)、Kobo社(カナダ、2012年に楽天グループ㈱により買収)などさまざまな競合企業の参入を招きました。
電子書籍リーダー市場は2010年初め以降、成熟してきましたが、最近のイノベーションによって、この分野への関心が再び高まっています。それは、タッチペンによるサポート(書き込みやすさ)と、画期的なカラー電子ペーパーです。カラー電子ペーパーは2013年に初めて開発されましたが、商業化までに数世代を要し、2019年には、Onyx Boox Nova ColorやPocketBook Inkなど、いくつかのカラー電子書籍リーダーが発売されました。これらは従来の白黒のE-inkディスプレイにカラーフィルターを適用する、E-InkのKaleido技術を活用したものでしたが、Kaleidoディスプレイは4,096色と100ppi(1インチ当たりピクセル)に限定されており、色の彩度が低くあまり人気が出ませんでした。2022年初めに発表された最新の第3世代E-Ink Gallery 3は、表示カラー50,000色以上(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4つの色域によるCMYWカラーモデルに基づく)、解像度は300 ppi、前世代よりもはるかに使い勝手の良いリフレッシュ速度という性能を備えています。E-Ink Gallery 3はPocketBook Vivaを皮切りに、今年から出荷を開始します。プライスポイントが妥当であれば、既存の多くのKindleユーザーがカラーバージョンにアップグレードするのは自然だと当ファンドでは考えます。また、カラー電子書籍リーダーにより、デジタルライブラリは漫画、グラフィックノベル、子ども向け童話集、教科書などへと大きく拡大するとみられます。一般に普及するためには、コストとリフレッシュ速度が依然として障害になる可能性があることを当ファンドは考えていますが、この問題は今後数年以内に解決されると引き続き楽観しています。
2020年以前のE-Inkの中核事業はコンシューマーエレクトロニクス、具体的には電子書籍リーダー装置向けの電子ペーパー材料およびモジュールの販売でしたが、過去3年間の同社の成長のほぼすべてはESL(電子棚札)によるものでした。ESLソリューションの大手システムインテグレーターによると、2022年のESLの普及率は1桁台半ばから後半になると推定されます。今後5年間の年平均成長率(CAGR)を25~30%と予想しています。
当ファンドは、コロナ禍収束後の世界でESLシステムへの移行が続くと確信しています。その理由は、人件費の削減に尽きます。ESLシステムにより、値札は手作業ではなくリモートで更新されます。簡単な例を挙げると、あるスーパーマーケットに3万品目あり、1つの値札の変更に20秒かかるとすると、実際の作業に約165時間かかります。一部の品目、特に営業終了間際に値引きされる生鮮食品などは、1日に何度も値札を変更する必要があります。業界関係者によると、ESLシステムの採用にかかる費用の回収には6~24ヵ月ほどかかりますが、一度採用されれば、永久にコストを削減できます。現在、多くのESLにはセンサーや照明も付いており、より迅速な在庫補充が可能になるとともに、集荷スタッフや顧客のナビゲーションツールとして機能しています。値引きは直ちに適用されるため、在庫の回転が早まり、廃棄の削減が見込まれます。
ESLを最初に採用したのはスーパーマーケットですが、他の分野も電子ペーパーの使用による恩恵を受ける可能性があります。最初に思い浮かぶのが、アパレルや家電量販店など多くの品目を扱う分野で、人件費削減による恩恵をすぐに実感できるでしょう。公共交通機関や病院は人件費削減よりも、電子ペーパーによる電力使用量削減や双安定性といった特性から恩恵を享受すると考えられます。電子ペーパーは世界の多くの都市の交通システムにおいて実証実験が行われています。まず、双安定性によりディスプレイは静的となり、電源が切られても最後の画像が残るため、公共および緊急時の標識として役立ちます。また、電力使用量が少ないため、バスの時刻表や地図情報の表示に必要な電力はソーラーパネルおよび電池システムによって自給できます。これにより、液晶ディスプレイに電力を供給するための電気ケーブルの地下敷設に必要な土木作業が不要になります。PER(株価収益率)18.5倍(2022年12月)というE-Inkのバリュエーションは、上述の長期的な成長見通しを十分に織り込んでいないと当ファンドは考えており、当月保有ウエイトを引き上げています。
2023年1月の運用コメント
株式市場の状況
2023年はアジア株式市場の大半が好調な滑り出しを見せました。⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、8.22%上昇して⽉を終えました。台湾、韓国、中国、香港が好調だった一方、インド、インドネシアがマイナスとなりました。
中国では経済再開の動きが継続しました。春節(旧正月)期間中の旅行や支出額に関する統計指標は堅調で、新型コロナウイルスの感染者数にも増加の兆しが見られないため、今後も経済再開の動きは継続するものと思われます。これを受けて中国のインターネット関連銘柄、EV(電気自動車)関連銘柄がアウトパフォームしました。
台湾と韓国の堅調なパフォーマンスを牽引したのはテクノロジー関連セクターでした。半導体セクターについては、2023年上半期業績に関する不安感は拭えていないものの、投資家が短期的な株価動向以外にも目を向け、データサーバやAIアプリケーション、自動車、IoT(モノのインターネット)などによってセクター全体が再び構造的成長軌道に乗ることへの期待が高まったため、株価が反発しました。一方、インド株式市場では資金の流出が続きました。その一因は投資家が再び資金を中国、台湾、韓国に配分していることにあります。加えてAdani Group社(インド)の危機で時価総額が約1,080億米ドル(約13兆9,000億円)消失したことによって、国有銀行のコーポレートガバナンスや潜在的損失に関する懸念が生じ、投資家心理が悪化したことも要因の一つです。
ファンドの運用状況
当月、当ファンドのパフォーマンスはプラスとなりました。
セクター別では、一般消費財・サービスセクター、情報技術セクターなどがプラスに貢献し、金融セクターがマイナスに影響しました。個別銘柄では、Taiwan Semiconductor Manufucturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Alibaba Group Holding(中国/小売)、Tencent Holding(中国/メディア・娯楽)などがプラスに貢献しました。⼀⽅で、ICICI Lombard General Insurance(インド/保険)、Meituan(中国/小売)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)などがマイナスに影響しました。
中国
中国は3年ぶりにコロナ関連の行動規制のない春節を迎えました。旅行とホスピタリティの繰越需要が盛り上がり、サービスセクターは活況を呈しています。中国交通運輸部のデータに基づくと、1月7日から1月28日までの公共交通機関による推計旅行者数は前年比約56%増となったものの、いまだに2019年と比較すると約53%に留まっています。春節期間中の総旅客数は3億800万人(2019年の約89%)となり、旅行代理店と関連サービスの売上高は3,750億元(約7兆2,260億円、同約73%)に達しました。
当ファンドは2022年10月からインターネット、消費、インフラ関連銘柄を中心に香港と中国の組入比率を高めており、当月はそうした銘柄がアウトパフォームしました。インターネット大手のAlibaba Group HoldingやTencent Holding、China State Construction Development Holdings(香港/資本財)NWS Holdings(香港/資本財)、Shenzhou International Group Holdings(中国/耐久消費財・アパレル)やLi Ning Company(中国/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。昨年後半にインターネットセクターの規制が緩和され、Ant Group社(中国)のコーポレートガバナンスが最適化され、自社株買いが増額されたことを受けて、当ファンドは Alibaba Group Holdingの株式を買い増しました。同社は2020年11月にAnt Financial社(中国)の新規株式公開(IPO)が延期され、規制が厳格化されてから株価が下落した一方で、Pinduoduo社(中国)をはじめとするeコマース(電子商取引)新規参入企業に市場シェアを奪われたこと、DouyinやKuaishouといったショートビデオプラットフォームの脅威が迫ってきたことで、市場の懸念が高まっていました。顧客管理事業の売上(広告費、手数料)や利益率はさらに圧縮される可能性があるため、こうした懸念が生じるのも理解できますが、バリュエーションの低下は行き過ぎていたと考えます。同社は世界最大の販売業者網、強力な物流ネットワーク、決済基盤に支えられていて、10億人近いオンライン顧客が真っ先に利用するショッピング手段であることに変わりはなく、程なく市場動向の鍵を握る存在になると考えています。当ファンドはこの分野における消費動向の進展を引き続き注視していきますが、現状では投資家の期待が低いため、少しでも成長に加速の兆しが現れれば、バリュエーションの見直しが進むきっかけになると思われます。
インドネシア
ジャカルタ総合指数は、前月末比0.16%下落して月を終えました。テクノロジーセクター、運輸セクターなどがパフォーマンスにプラスに貢献した一方で、消費財やエネルギー関連銘柄は指数を下回りました。中でもエネルギーセクターが大幅にアンダーパフォームしました。コモディティの価格変動によってリターンは短期的に大きく変動する可能性がありますが、インドネシアは低価値鉱石輸出国からステンレス鋼やEV(電気自動車)電池業界の川下原材料の主要生産国へと脱皮する構造的な変革の最中にあると当ファンドはみています。輸出の付加価値が高くなれば、貿易黒字を持続できるようになり、通貨の安定性も高まります。
2022年に株価が上昇した市場は世界を見回してもほとんどありませんが、インドネシアはその1つです。それを可能にしたのは、通貨ルピアの安定、インフレ率の低さ、コモディティ市場の底堅さといった要因でした。コモディティの輸出は間違いなくインドネシア経済にとって重要な役割を果たしていますが、同国は原油とガスの純輸入国で、2021年までの20年間の多くで経常収支が赤字でした。新興国の多くはコモディティ輸入に対する依存度が高く、米ドルの資金調達が必要で、自国通貨が外部要因による価格変動の影響を受けやすいという弱みを抱えています。しかしインドネシアは鉄鉱石と鉄鋼の輸出拡大によって、2021年下期に経常黒字を記録しました。この流れは2022年も続きました。市場を細かく観察していれば、こうした輸出の増加は同国産業の川下部分が成長したことの直接的効果であることに気づくでしょう。この効果は政権幹部の政策措置によって現在進行形で現れています。
インドネシアは近年、ジョコ大統領の指揮下で国内における鉱物精製の推進と加工業界の強化に国を挙げて取り組んでいます。2014年のニッケルを含む未加工鉱石の輸出を禁止するなど鉱物輸出にはこれまで様々な規制がありましたが、ニッケルの輸出は2020年1月に全面禁止となりました。直近では2023年6月からボーキサイト(アルミニウム鉱石)を禁輸すると発表し、錫と銅についても禁輸の可能性があることを示唆しています。ジョコ大統領は、関税の賦課は「付加価値をできるだけ高める」ためであると強調しています。同大統領の政権下にあって、同国のニッケル関連輸出高は2014年の11億米ドルから2022年の209億米ドルに急増しました。
インドネシア投資庁のルフット大臣は当月、インドネシアは「2027年までに、リチウムイオン電池の世界3大生産国の1つになる」ことを目指すと述べました。生産は早ければ2024年にも開始される可能性があります。同国は主要EV電池メーカーであるCATL社(中国)やLG Energy Solution社(韓国)などの大規模な投資を誘致しているため、これは単なる机上の理論ではありません。CATL社は2022年4月、インドネシアの国有企業Aneka Tambang社、Indonesia Battery Corporation社と約60億米ドル規模の共同投資を行い、掘削から電池生産までを一貫で行う複合施設を開発すると発表しました。またLG Energy Solution社を中心とするコンソーシアムは同月、「EV電池の包括的バリューチェーン」構築に向け、上記国有企業と約98億ドルの投資契約を締結しました。
こうした構造的シフトによって経済の持続的発展が実現し、国民1人当たりの所得が増大することで、インドネシアは今後数年以内に多数の有望銘柄を発掘できる国になると当ファンドは考えています。そうした有望銘柄の1社が、大手ファッションおよびスポーツウェアブランドの小売企業であるMitra Adiperkasa(インドネシア/小売、以下「MAPI」)です。当ファンドは2022年10月に同社に新規投資しました。同社は2022年に株価が大きく上昇し、ジャカルタ総合指数において高いパフォーマンスをあげた銘柄の1つとなりましたが、2023年1月は大きく調整しました。同社はNew Balance社(米国)、Sketchers社(米国)、ZARA社(スペイン)、Starbucks社(米国)などの国際企業との提携を含め、スポーツウェア、ファッション、食品・飲料カテゴリーで150を超えるブランドを展開する一大流通業者です。これらブランドとの提携関係の多くは長期にわたるもので、MAPIの優れた執行能力(店舗の開業と在庫管理)を示しています。これらブランドの一部は、フィリピンにおけるNew Balance、ベトナムにおけるZARAなど、近隣諸国に事業を拡大する独占権をMAPIに付与しています。同社は近年、MAPClubというアプリケーションを中心に、デジタルエコシステムの開発に取り組んでいます。MAPClubは、店舗、オンライン、ソーシャルネットワークのタッチポイントなどMAPIの販売や顧客とのコラボレーションをすべて集約したアプリケーションです。顧客にとってはロイヤルティプログラムとして機能し、平均購入金額や購入頻度、顧客定着率の拡大に寄与します。MAPIにとっては、顧客のデータと行動をより詳細に追跡できるようになるため、将来的な事業拡大計画の指針としての役割を担っています。PER(株価収益率)が12倍に満たず、成長率予想が10%台半ば、ROE(株主資本利益率)が20%以上であることを踏まえると、同社は依然として過小評価されていると考えられます。
2022年12月の運用コメント
株式市場の状況
当月の⽇本を除くアジア市場に使⽤される⼀般的な指数であるMSCIアジア(⽇本を除く、⽶ドル建て)指数は、前月末比0.14%下落して⽉を終えました。
月前半、中国で抗議活動と社会不安が中国全土に広がったことを受け、中国国務院はゼロコロナ政策の緩和を発表しました。月後半には国家衛生健康委員会が入国者の隔離規則を撤廃し、2023年1月8日以降、香港と中国本土の往来を再開すると発表しました。突然の政策変更によって北京と上海では感染者数が激増しており、地方都市では春節にかけて感染者の大幅増加が予想されています。ゼロコロナ政策によって死者数が抑制された一方で、厳格な規制によって中国の成長は著しく阻害されました。経済再開当初は感染者数が急増して大きな混乱をもたらすため、経済再開は難航すると当ファンドは予想しています。
一方で、中国は2023年の経済運営方針を定める中央経済工作会議を12月15日~16日に開催しました。中国政府は同会議でインターネットプラットフォーム、不動産開発事業者、民間セクターに政策支援を行うことを再確認し、経済の安定を2023年の最重要事項として掲げました。こうした背景と、バリュエーションが過去最低水準にあることから、当ファンドは2023年の中国について慎重姿勢ながらも楽観視しており、消費者の消費意欲が回復するにつれて内需関連銘柄やサービスセクターなどが恩恵を受けると考えています。当ファンドは2022年10月~12月にかけて、中国と香港の組入比率を大幅に高め、一般消費財セクター、生活必需品セクター、インターネットプラットフォーム関連銘柄を中心に買い増しを進めてきました。業界を失速させてきた厳格な規制の緩和が示唆されたため、インターネットセクター関連銘柄の株価が切りあがる可能性があると、当ファンドは考えています。
その他のアジア諸国では、既に経済は再開しており、経済指標が順次改善してきています。今後は中国人観光客のインバウンド需要がアジア諸国の景気を下支えすることが期待されます。インフレ率と金利はいまだ上昇傾向にありますが、欧米諸国と比較すると環境は比較的良好です。インドとインドネシアの中央銀行は、インフレ率が2022年10月以降下落に転じ、世界のコモディティ価格や輸送費がピーク時より低下したことを受けて、12月に政策金利を引き上げました。
日本を除くアジアには、インド、インドネシア、ベトナムなど成長率が世界最高水準の国があり、構造的トレンドは継続すると考えます。米中間の貿易摩擦やコロナ禍による混乱を経て、当ファンドがいまアジア地域内で注視している主要テーマは「サプライチェーンの分散」です。このトレンドは数年にわたって継続しており、高度な技術を必要としないアパレル業界の製造拠点はこの10年の間に中国からベトナム、インドネシア、カンボジアなどへと移転しています。電子機器のサプライチェーンでも同様のシフトがみられ、Apple社(米国)の最大の請負業者であるFoxconn Technology Group社(台湾)は生産施設をインドとベトナムに移転しています。東南アジア地域の平均年齢は比較的若く労働力が増大しているため、今後数年間、同地域は製造業のシェアを中国から奪い続けると考えられます。製造業以外のセクターに目を向けると、金融セクターやブランド小売業などは先進国では成熟産業ですが、アジアの新興国市場ではいまだに大幅な成長余地があると考えます。
ファンドの運用状況
当⽉、当ファンドのパフォーマンスはマイナスとなりました。
セクター別では、コミュニケーション・サービスセクター、不動産セクターなどがプラスに貢献し、情報技術セクター、金融セクターなどがマイナスに影響しました。個別銘柄では、AIA Group(香港/保険)、Tencent Holdings(中国/メディア・娯楽)、Li Ning Company(中国/耐久消費財・アパレル)などがプラスに貢献しました。一方で、Taiwan Semiconductor Manufucturing Company(台湾/半導体・半導体製造装置)、Indian Energy Exchange(インド/各種金融)、China State Construction(香港/資本財)などがマイナスに影響しました。
当⽉は、「Swire Pacific(香港/不動産)」をご紹介します。
同社は当ファンドが考える投資基準に当てはまると考えられる企業で、2022年10月末に新規投資を開始した銘柄の1つです。同社は香港に本社を置き、中華圏(中国本⼟、⾹港、台湾)と東南アジアを中心に事業を手がけるコングロマリット(直接的な関連性を持たない複数の事業が集まって成り立つ企業)で、主力事業は不動産(Swire Properties社(中国)、純資産価値の約45%)、航空(Cathay Pacific社(香港)、同約20%)、飲料(Swire Coca Cola社(香港)、同約35%)です。これまで1桁台後半で安定成長していましたが、過去2年間は香港と中国で新型コロナウイルス関連の混乱の影響を受け、2019年のピーク時からバリュエーションが50%近く下落しました。時価総額は約110億米ドル(約1兆4,400億円)で、純資産価値に対して45~50%程度のディスカウント(10年平均ディスカウントは25%)と、大幅に割安な状態になっています。
2017年から2019年までは毎年約10億米ドル(約1,300億円)の基礎利益を計上したあと、2020年は6億9,000万米ドル(約900億円)の損失と、過去10年間で初めての赤字となりましたが、2021年は6億2,000万米ドルの基礎利益をあげました。2023年には新型コロナウイルス関連の混乱が解消して収益が回復し、純資産価値に対するディスカウントは過去の平均的水準に向けて縮小していくと当ファンドは予想しています。同社は2022年8月初旬に時価総額の約5%に相当する40億香港ドル(約670億円)の大規模な自社株買い計画を発表しました。これはバリュエーションがどれほど低下したかを如実に示しています。純資産価値に対するディスカウントの縮小に加えて、2019年以降、収益の大きな足かせとなっているCathay Pacific社(香港)の航空事業が好転すれば、大幅な上昇余地があると考えられます。以下に主力事業についてそれぞれ説明します。
売上高と利益への寄与度が最も大きいのは不動産部門のSwire Properties社(中国)です。Swire PacificはSwire Properties社の株式を82%所有しており、Swire Properties社の時価総額だけでSwire Pacificの時価総額を40%強上回っています。Swire Properties社は香港において商業用不動産大手の1つで、ショッピングモールやホテルも運営しており、中国本土の主要都市を中心に業績を拡大しています。近年の香港の不動産不況にもかかわらず、Swire Properties社の基礎利益は底堅く推移しています。Swire Properties社は今後10年間、香港と中国本土のオフィスおよび商業施設の開発に取り組み、約1,000億香港ドル(約1兆6800億円。中国本土に約500億香港ドル、香港に約300香港ドル、東南アジアに約200億香港ドル)の開発・投資物件を保有する予定です。
飲料部門のSwire Coca Cola社(香港)は、世界最大級のコカ・コーラ・ボトラーズであり、上海を含む中国本土の11省、台湾、米国西部の一部において製品を製造、宣伝、販売する権利を独占的に有しています。同部門は昨年、ベトナムとカンボジアでもこの権利を取得し、東南アジアに進出を果たしています。2022年上期は香港と中国本土が低迷したため、同部門の基礎的収益は前年同期比22%減少して12億香港ドル(約200億円)となりましたが、米国では経済の正常化が始まったため、同34%増となりました。同部門は中国本土と米国で新たなフランチャイズ地域と資産を取得し、2016年から2021年の間に基礎利益が3倍になるなど、同社の成長の原動力となっています。
最後に、航空部門はCathay Pacific社(香港、Swire Pacificが株式を45%保有)と完全子会社のHong Kong Aircraft Engineering社(香港)(HAECO)で構成されています。ご存じの通り、Cathay Pacific社は香港を代表する航空会社です。2019年夏の大規模デモや2020年以降の新型コロナウイルス関連の規制によって旅客数が大打撃を受け、これまで300万人超だったCathay Pacific社の月間搭乗者数は10万人未満に落ち込んでいます。2020年は過去最低の年となり、約217億香港ドル(約3,600億円)の赤字を計上しました(Swire Pacificの損失負担は約97億香港ドル(約1,600億円))。しかし、12月に香港で隔離規制が完全に解除され、中国が2023年1月から境界の規制を緩和するため、交通量が通常に戻るにつれてCathay Pacific社の収益も回復すると、当ファンドは予想しています。Cathay Pacific社は2021年下期以降、キャッシュバーン(現金の減少)に歯止めがかかり、キャッシュフローはほぼ損益分岐点になっていますが、2022年上期時点ではまだ損失を計上していました。次のステップは利益を損益分岐点に乗せることですが、それには利益が5億米ドル(約650億円)近く改善し、基礎利益がコロナ禍前の水準に回復しなければなりません。現時点のバリュエーションでは、こうしたカタリスト(きっかけ)が現実となる前でも、配当利回りは4%を超えています。
アジア地域には、引き続き⻑期的な投資機会が潤沢にあります。アジア経済の興隆とアジア企業の地位向上という⻑期的な投資テーマは健在で、今後も続くと考えられます。当ファンドは、「信頼できる企業」への投資を継続しつつ、当ファンドが選好する「次の優良成⻑企業になる潜在性を⽰しているアジア地域の新興企業」の発掘に努めます。
交付運用報告書
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交付運用報告書 (第7期 2024年5月27日決算) (855.2 KB)
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交付運用報告書 (第6期 2023年5月25日決算) (827.9 KB)
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交付運用報告書 (第5期 2022年5月25日決算) (611.9 KB)
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交付運用報告書 (第4期 2021年5月25日決算) (744.0 KB)
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交付運用報告書 (第3期 2020年5月25日決算) (765.2 KB)
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交付運用報告書 (第2期 2019年5月27日決算) (534.8 KB)
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交付運用報告書 (第1期 2018年5月25日決算) (522.4 KB)
運用報告書(全体版)
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運用報告書 (全体版) (第7期 2024年5月27日決算) (742.8 KB)
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運用報告書 (全体版) (第6期 2023年5月25日決算) (731.8 KB)
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運用報告書 (全体版) (第5期 2022年5月25日決算) (909.3 KB)
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運用報告書 (全体版) (第4期 2021年5月25日決算) (815.2 KB)
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運用報告書 (全体版) (第3期 2020年5月25日決算) (786.1 KB)
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運用報告書 (全体版) (第2期 2019年5月27日決算) (852.6 KB)
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運用報告書 (全体版) (第1期 2018年5月25日決算) (924.6 KB)
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