スパークス・新・国際優良日本株ファンド | 投資信託 | スパークス・アセット・マネジメント

スパークス・新・国際優良日本株ファンド
(愛称:厳選投資)

  • NISA成長投資枠対象ファンド
日経新聞掲載名
厳選投資
分類
追加型投信/国内/株式
設定日
決算日
毎年3月27日

基準日:2026.03.31

基準価額
74,287
前日比
-431
-0.58%
純資産総額
2,692.5億円
分配金情報(税引前)
650
  • 当ファンドは、NISAの「成長投資枠(特定非課税管理勘定)」の対象ですが、販売会社により取扱いが異なる場合があります。詳しくは、販売会社にお問い合わせください。

基準価額推移

分配金実績

決算頻度:1回/年

設定来合計
6,850
直近12期計
6,350

分配金実績一覧

2026年03月27日
650
2025年03月27日
600
2024年03月27日
600
2023年03月27日
500
2022年03月28日
500
2021年03月29日
500
2020年03月27日
500
2019年03月27日
500
2018年03月27日
500
2017年03月27日
500
2016年03月28日
500
2015年03月27日
500
2014年03月27日
500
2013年03月27日
0
2012年03月27日
0
2011年03月28日
0
2010年03月29日
0
2009年03月27日
0

月次報告書

2026年

2025年

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

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2026年2月の運用コメント

株式市場の状況

2026年2月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比10.47%上昇し、日経平均株価は同10.37%の上昇となりました。

月前半は、8日投開票の衆議院選挙を前にボラティリティが高まる中、自民党が戦後最多となる316議席を獲得する歴史的圧勝が確定すると、高市首相の政治基盤強化と財政拡張策への期待から相場は急騰しました。東証プライム市場の売買代金が過去最大を更新する中、海外投資家による大幅な買い越しが推進力となり、日本株式市場は記録的な騰勢を見せ急速に水準を切り上げる展開となりました。

月半ばには急騰後の過熱感から利益確定売りが出やすい中、「AI(人工知能)による既存業務の代替懸念」が再燃し、ソフトウェア銘柄中心に幅広い銘柄が売られました。一方、第2次高市内閣の発足や対米投融資プロジェクトの具体化を背景に、AIインフラ関連株に買いが集中しました。中東の地政学的リスクの高まりが一時的に相場の重荷となったものの、セクター間での選別物色を伴いながら下値を固める動きとなりました。

月後半は、日銀の新審議委員にリフレ派の2名を充てる人事案が提示されると早期利上げ観測が後退し、市場は勢いを取り戻しました。月末にかけては半導体関連株が相場を主導し、月半ばに売られていたソフトウェア銘柄にも割安感から急反発が見られるなど、物色の裾野は幅広い銘柄へ拡大しました。結果として、TOPIXは最高値を更新して11か月連続の上昇を記録し、日経平均株価も連日で過去最高値を塗り替える強い足取りで当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

当月、当ファンドは前⽉末⽐7.23%上昇し、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同10.47%の上昇を3.24%下回りました。

パフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、オリックス、東京海上ホールディングス、三菱商事などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、リクルートホールディングス、日立製作所、ソフトバンクグループなどでした。

年初来、加速しているAI脅威論

2026年に入ってから生成AI(人工知能)の急速な技術進歩によって、いくつかの産業の存続が脅かされるという懸念が台頭しています。「SaaSの死」や「ソフトウェア不要論」、「AIコンテンツの氾濫」などがまことしやかに言われています。この影響で、当ファンドの組入銘柄ではソニーグループやリクルートホールディングスの株価が軟調に推移しています。

AIによって業績が劇的に悪化する企業は必ず出てくると予想されるものの、年初より加速している極端な悲観シナリオには違和感を覚えます。なぜなら、当ファンドの組入銘柄に限らず、株の大量売りが入っている企業の業績はいずれも足元で好調なだけでなく、来期も増益見通しに自信を示しているところがほとんどだからです。

この実態と株価動向の乖離はどこから来ているのでしょうか。理論上考えられるのは、長期展望に対する悲観論によって、企業の本源的価値のうち、いわゆる「ターミナルバリュー」が切り下がっているということです。

しかし、短期志向が強く、参加者の近視眼的な投資判断で動く昨今の株式市場において、AI脅威論に関してだけは、かなりの長期的視点で企業価値毀損を見通すようなったというのは、どこかおかしな話です。

恐らく、漠然とした不安によって急落した一部の銘柄が株式保有者の恐怖心を煽り、理由もはっきりしないまま、売りを急いだ人々が増えたと考えるのが自然です(「とりあえず今は売って、あとで考えよう」)。このような現象は、これまでもeコマース(電子商取引)が登場したインターネット普及期や、コロナ禍などでもみられました。

株式市場は集合知として多くの場合、将来を正しく予想できますが、時には大きく読み誤ることがあります。コロナ禍で起きた一部ハイテク企業の株価急騰とオールドエコノミー型の景気敏感企業の大幅下落が典型例です。今回も株式市場が間違っている可能性は十分ありえると考えます。

株が売られた企業のなかには、むしろAIを活用し事業拡大に結び付ける企業もあると考えられます。その筆頭はリクルートホールディングスです。同社は傘下の世界最大級のオンライン求人プラットフォーム「Indeed」において、求職者に関する独自データを大量に持っています。Indeedでは利用者の満足度を高めるべく、求人企業とのマッチング精度を向上させるだけでなく、求人・求職プロセスの自動化も着々と進められています。これらはいずれも生成AI技術が存分に活かされる分野です

また、AIによって人間労働者が不要になるという議論に関しても、出木場社長の取材インタビューをみる限り杞憂であるように思えます。同氏によると、米国ソフトウェアエンジニアの採用需要はコロナ禍前より4割減っているものの、そもそも同業界自体の社会全体に占める労働力の比率は小さく、「失業率10%(の時代が来る)と言っている方がいるが、(それは)絶対にない」と述べています。またレイオフ(再雇用を前提とした一時的な解雇)発表が相次いでいる米巨大テック企業についても、そもそもこれらの企業の「社員数は(社会)全体の2%未満である」と述べています。同氏は世界中の労働データをリアルタイムで見られる立場にあり、彼の見解が正しいとすれば、株式市場の描く悲観シナリオは非現実的であると言わざるを得ません。また、人類史上、生産性革命が起きるたびにより新しい仕事が作り出されてきたのも勇気づけられる事実です。
*ただし、株式報酬を多用しているリクルートホールディングスは、今回の株価下落に伴い、従来のような積極活用が難しくなり、人材獲得やリテンション面で若干の不都合が生じるリスクは生じるかもしれません。

ソニーグループについても、同社が保有する様々なコンテンツはAIによる代替は効かないはずです。生身の人間によって創られた音楽原盤は、AIコンテンツが増えるほどむしろ希少価値が高まると思われます。またゲームや映画などのコンテンツは、制作ノウハウを豊富に持つ企業こそがAIを活用することで、より良いものを、より低コストかつ短期間・短時間でつくれるようになると考えられます。

今回の株式市場の反応は、AI脅威に対する漠然とした不安から冷静さを欠いた条件反射的な売りである、というのが現在の当ファンドの見解です。AIの技術によって、既存のソフトウェア企業やインターネット企業全てが駆逐されるというのは明らか行き過ぎた議論でしょう。

AI脅威論による混乱で一緒くたに株が売られている中で、いずれ勝ち組と負け組の選別が進むはずです。その過程で、両社には見直し買いが入るだろうと考えています。

当ファンドの銘柄売買・銘柄入れ替えの考え方

さて前月に続き、今月も当ファンドのポートフォリオ運用の考え方について解説します。

当ファンドは、魅力的なビジネスと卓越した経営陣が併せ持つ企業を安く買い、できるだけ長く保有することで運用資産の拡大を目指しています。銘柄保有期間には10年を超えるものも珍しくありません。

しかし、長期投資を基本方針とする当ファンドでも一定の銘柄入れ替えは行っています。売却を検討する主な理由は以下のいずれかです。

  • 株価に大幅な割高感があると認められた場合
  • 組入企業の競争優位性に棄損が生じたと判断される、もしくは当ファンドが投資判断を誤ったとの結論に至った場合
  • 既存のファンド組入企業よりもさらに魅力的な投資対象が見つかった場合

また、投資信託として常に日本株の組入比率を高水準に維持する必要があるため、当ファンドでは銘柄売買を行う際、常に売りと買いが対になった「入れ替え」作業として位置付けています。

売買するということは、当然ながらひとつひとつのトレード(売買)について「このトレードはやらないより、やったほうがファンドの将来リターンにとっていいはず」と考えて実践しています。つまり、売買は常に付加価値を生み出すものという期待がなくてはいけないということです。

トレードする動機には「ファンドの期待リターンを引き上げる」ことを意図して行うものと、「期待リスクを引き下げる」ために行われる2種類があると考えます(もしくはその両方)。

期待リターン、期待リスクとも将来の見通しを前提としているので、具体的な数値を事前に計測することはできません。しかし、各組入企業の分析を通じて定性的でも判断していくことはポートフォリオ運用をしていくうえで重要な作業です。

ポートフォリオの期待リターンを引き上げるために行うトレード

ポートフォリオの期待リターンを引き上げるために行うトレードは、その効果を事後的に検証することが可能です。

分かりやすく説明すると、ある売買において「今買っている銘柄が今後上がって、今売っている銘柄が今後下がる」というケースが最も理想的なパターンです。逆に今買っている銘柄が今後下がって、売っている銘柄が上がってしまうパターンは付加価値がマイナスなトレードです。

しかし時には買っている銘柄、売っている銘柄両方とも株価が上がる(もしくは下がる)こともあります。この場合、買っている銘柄がより大きく株価上昇するか、もしくは買っている銘柄の下げ幅のほうが小さければ、付加価値を生んでいると考えます(つまり、やらないよりやったほうが良かった売買となる)。

このような視点で売買を振り返ることでどれだけの付加価値を生んだかを検証できます。当ファンドの場合、例えば2021年末のポートフォリオを20262月末まで維持したリターンよりも、実際のファンドリターンのほうが累計で2割程度良かったことが分かっています。言い換えると、2022年以降行った全てのトレード*を反映した実際のポートフォリオと、全く売買をしなかった場合とでは年率リターンで4%程度の差が生まれていることになります。
* 年間で行われるトレードのなかには売った銘柄を、時間が経過してから、再度買う場合なども含まれます。

ここで2021年末のポートフォリオを選んだのは、当ファンドが2022年に入って大幅な銘柄入れ替えを行った経緯があるためです。当時、本格的なインフレ到来とマイナス金利の終焉という時代転換への認識が遅れ、同年13月期に絶対リターンの大幅なマイナスを余儀なくされただけでなく、インデックス対比でも運用成績が大きく悪化しました。これを受け、急激かつ構造的な市場環境変化に対応すべくポートフォリオの銘柄入れ替えを積極的に行いました(内容については202311月運用コメントで解説)。それから3年ほど経過しましたが、これまでのところ2022年以降のトレードは総じて正しい判断であったと言えます。

具体的にどのような銘柄入れ替えが付加価値を生んだのかを見てみると、主な全売却銘柄としては2010年代を通じて長期保有していたニデック、テルモ、シマノ、ミスミグループ本社、花王などが挙げられます。代わりに損保グループ3社(東京海上ホールディングス・SOMPOホールディングス・MS&ADインシュアランスグループホールディングス)、オリックス、東京エレクトロン(いずれも2022年に投資開始)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(2023年初に投資開始)の新規組み入れなどがパフォーマンスの改善に大きく貢献しています。

このような検証作業で難しいのは、現在行っているトレードが付加価値を上げているかどうかは、短期では結論づけられないという点です。当ファンドでは、市場で認識されていない、もしくは過小評価されている企業の本源的価値を見極めて投資を行います。このため、当ファンドの考えが株価に適正に反映されるまでには、ある程度の時間を要します。

2022年以降の大幅なポートフォリオ入れ替えにより2023年、2024年と運用成績が大きく改善しました。昨年は参考指数(TOPIX(配当込み))を下回る結果となりましたが、当ファンドは現状の組入銘柄の中長期展望は明るいとみています。各企業の本源的価値は未だに株価に適正に反映されていないと考えており、引き続き今後のリターンに期待すべく保有継続する方針です。

ポートフォリオの期待リスクを引き下げるために行うトレード

トレードを行うもうひとつの動機は、期待リスク(ポートフォリオのリスクを軽減する)を下げるためです。

株式投資においては、リスクを取らないとリターンは得られません。重要なのは、自分たちの行っている投資についてリスクに見合う以上のリターンが得られているか、あるいは少なくともリスク相応のリターンなのかを見極めることです。

当ファンドでは株式投資リスクを一般的な「標準偏差」ではなく、個別企業のビジネスに起因する「回復困難な損失を被る可能性」として捉えています。このリスクの考え方は抽象的なものにならざるを得ません。というのも、懸念されたリスクが顕在化したら、それはもはやリスクではなく「投資損失」となるからです。

簡単な例で説明すると、AB2つのポートフォリオがあり、それぞれ10銘柄に投資し、30%のリターンを得たとします。しかし、A10銘柄とも株価は割高、企業の財務内容は悪い、手掛けるビジネスも魅力的ではない。一方、Bは投資対象が十分に分散されており、財務内容も安定していて、バリュエーションも安い。これほどポートフォリオの中身の質が違うのに、何も起こらなければ運用成績という表面上の数字は同じです。言うまでもなく同じ期待リターンを持つ2つのポートフォリオがあったとしたら、リスクの低い方を選ぶべきです。

期待リターンを引き上げるために行ったトレードの検証と異なり、期待リスクに関する検証は困難です。しかし、定性的に「ポートフォリオの質」の変化を説明することはできます。昨年、当ファンドは期待リターンを維持しつつ、期待リスクは下がったと分析しています。以下の理由が根拠となっています。

  • PER(株価収益率)の低下による割安性の向上

    当ファンドの当月末時点の予想PERは17.2倍と、参考指数の20.4倍を下回る水準まで低下しました。にもかかわらず、当ファンドのROE(株主資本利益率)は11.6%と、参考指数の9.6%を上回っているのは、理論上、当ファンドのほうがポートフォリオの割安感が強いことを表しています。

    もともと当ファンドは2010年代を通じてPERが市場平均よりも高い状態にありました。これは典型的な成長株(成長率も高く、PERも高い株)を中心に組み入れていたためです。当時の日本はゼロ金利環境下にあり、海外でも歴史的な低金利環境が続いていました。このため、高PER成長銘柄の益利回り(EPS1株当たり純利益)/株価で算出され、PERの逆数でもある)でも、リスクフリー金利を十分に上回っていました。株式が無リスク資産に対して十分に割安であったため、ポートフォリオが高PER成長株を中心に組み入れていたことは十分正当化でき、かつ正しい判断でした。換言すれば、当時の当ファンドPERは市場平均こそ上回っていましたが、組入企業が持つ本源的価値に対しては割安だったのです。しかし2022年以降のインフレに伴い金利上昇トレンドが始まり、この前提が変わりました。当ファンドが行ったポートフォリオの大幅な入れ替えはこれに対応したものです。

    さらに昨年は日本の長期金利(10年国債)、超長期金利(30年国債)が大きく上昇しました。理論上、リスクフリー金利が高くなれば、企業が生み出すキャッシュフローを現在価値に割り戻すための割引率も高くなります。これはすなわち、高PER銘柄にとって逆風となるリスクがあることを意味します。

    さらに過去15か月で達成された日本株の大幅上昇は、TOPIXの予想PERが15倍程度から20倍程度へと約3割切り上がったことが主因です。企業利益はそこまで進んでおらず、株価への貢献は微々たるものです。202511月運用コメントで述べたとおり、日本株式市場は二極化も進んでいるように見えます。このため銘柄によっては予想PER4050倍や3年後の予想EPSに対してPER30倍という例が散見されます。高PER株の相対的魅力は以前に比べれば低下してきていると言えます。

    当ファンドではこのようなリスクも勘案した結果、現在のポートフォリオはPERが低位にあります。とりわけ組入企業の長期的な利益成長見通しに対して割安であると判断しています。

  • ポートフォリオ組入企業の業種・事業領域の適切な分散

    当ファンドは、銘柄数が20銘柄程度という集中型ポートフォリオですが、組入企業の内容は十分に多岐にわたっています。具体的には、オリックス(金融サービス)、セブン&アイ・ホールディングス(小売)、損保グループ、銀行、半導体関連に加え、住宅メーカー、ソニーグループ(娯楽エンターテインメント)、ソフトバンクグループ(AI)、日立製作所(電力インフラ)、リクルートホールディングス(インターネット、オンライン求人プラットフォーム)、三菱商事(総合商社)、キーエンス(ファクトリーオートメーション)などがあります。

    このうち住宅メーカーは2025年に新規に加えた業種であり、長期的なリターンの魅力もさることながら、ポートフォリオ分散効果にもつながると期待しています。既存組入業種である銀行や損保などが金利上昇の恩恵を受けるのに対し、住宅メーカーは低金利がプラスに働きます。また事業のエクスポージャーとしては日米の戸建需要、および一部豪州需要なども含まれるため地理的な分散が得られ、バリュエーションも市場平均を下回るPERおよびPBR(株価純資産倍率)と、高PERがつけられている一部組入銘柄の対極にあります。

  • 個別銘柄におけるマージンオブセーフティ(安全余裕率)

    個別銘柄におけるマージンオブセーフティもポートフォリオ全体のリスクを軽減してくれるはずです。同概念はこれまでも運用コメントで度々強調してきた点であり、株価が本源的価値に対して十分に割安であるために、不測の事態が起きても株価の大幅な下落リスクを抑えてくれるクッションのようなものです。株価が市場平均よりも低いPERや実質的な純資産価値を下回るケース、長期持続可能な高い配当利回りといった定量指標が挙げられます。

    例えば、セブン&アイ・ホールディングスではのれん償却前でみたEPSを前提としたPERは東証平均を大きく下回っています。また、フリーキャッシュフロー利回りも日本の大型株のなかではかなり高い水準が見込まれます。一方、オリックスは投資資産の含み益を考慮したBPS1株当たり純資産)に比べて株価は未だに割安です。また将来PERで同社株が評価されると仮定すれば、PER10倍台前半です。

    マージンオブセーフティは定性的な議論も可能です。セブン&アイ・ホールディングスはAlimentation Couche-Tard社(カナダ)からの買収提案が破談になって以降、既存株主の不満が高まっていることから、株主還元を積極化させています。大規模な自社株買いが継続して行われており、需給面での株価下支えとして機能します。そして何といっても同社は世界的コンビニチェーンとして買収妙味も大きく、またいつ新たな買収者が現れないとも限りません。したがって、同社の株価は下がりにくいと判断します。

以上のことから、当ファンドでは2022年以降に行われた売買が一貫して期待リスクを引き下げる効果にも寄与していると考えます。

今後の運用方針

当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2026年1月の運用コメント

株式市場の状況

2026年1月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.62%上昇し、日経平均株価は同5.93%の上昇となりました。

月前半は、米国半導体関連株の大幅上昇を受けて日本の半導体・AI(人工知能)関連株が買われ、大発会から日経平均株価は大幅高でスタートしました。中国政府によるレアアース関連製品を含めた対日輸出規制が強化されるとの報道で、日本株式市場が一時急落する場面はあったものの、衆院解散・総選挙観測を受けて高市首相が掲げる成長戦略が進めやすくなるとの見方を背景に、月半ばにかけて主要指数の高値更新が続きました。

月後半は相場の様相が一変しました。選挙戦の本格化や野党の新党結成を受けて国内の政治情勢の不透明感が台頭したことに加え、米欧の貿易摩擦懸念など地政学的リスクも意識され、投資家心理が悪化しました。さらに、財政拡張による財政悪化懸念から国内長期金利が想定を上回るペースで上昇し、株式市場は調整色を強めました。月末にかけては、日米当局による「レートチェック」報道をきっかけに為替相場が急変し、円は一時対ドルで153円台まで上昇するなど不安定な動きとなり、輸出関連株を中心に株式市場は揺さぶられました。日本株式市場は月後半に伸び悩みましたが、前月末比で大幅高の水準を維持して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

当月、当ファンドは前⽉末⽐1.32%上昇し、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.62%の上昇を3.30%下回りました。パフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京エレクトロン、日立製作所などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、ソニーグループ、ソフトバンクグループ、リクルートホールディングスなどでした。

当ファンドでは、市場で認識されていない、もしくは過小評価されている企業の本源的価値を見極めて株式投資を行います。このため、当ファンドの考えが株価に適正に反映されるまでには、ある程度の時間が必要になります。当ファンドの運用報告書において、設定来「最低でも3~5年間の累積リターンをもって当ファンドの成績が評価されるべきであると考えます」と述べているのは、このためです。

一般的に株式市場は「長期では効率的である」と言われますが、株式投資を難しくしているのは、この「長期」という時間軸が、多くの市場参加者が許容できる時間軸を超えている点にあります。当ファンドは、あえて長期目線で銘柄選別を行うことで、市場平均を上回るリターンを達成できると考えています。

さて、当ファンドが新規銘柄をポートフォリオに組み入れる際には、主に以下の点を考慮します。

  • 現時点で想定される株価上昇余地はどれくらいか
    買付け時点において、株価の上昇余地がおおよそ45割程度見込める投資機会を探します。
  • 株価上昇余地に対する確信度はどれくらいか
    確信度の高さも考慮します。例えば、株価が2倍になる可能性があるものの確信度が高くない銘柄と、上昇余地は4割程度かもしれないが確信度が非常に高い銘柄があった場合、当ファンドは後者を選択します。
  • 株価上昇が実現するまでの時間軸はどれくらいか
    3~5年程度での達成が見込まれることを理想としています。

ファンド内での銘柄ごとの組入比率は、これら3点を総合的に勘案して優先順位を決定しています。

当ファンドから期待される年率リターンの基本的な考え方

個別銘柄へ新規投資を行い、上述のように45割程度の株価上昇が向こう3年間で実現した場合、年率換算でおおむね2桁台前半(1215%程度)のリターンとなります。また、同程度の株価上昇に5年を要した場合でも、年率では一桁台後半(7.0~8.5%程度)のリターンが見込まれます。これは、日本の大型株という資産クラスから期待される投資リターンとして、妥当な水準であると考えています。

一方、当ファンドでは3か月先といった短いスパンでの目標リターンは設定していません。四半期決算見通しを前提とした投資判断も行いません。これは、短期志向の強い市場参加者との競争を避けるためです。また、目標リターンの達成に10年以上を要しそうな投資対象についても、一般的な投資家にとってはやや長すぎる時間軸であるため積極的には対象としません。35年程度という時間軸が企業の将来を分析するうえで、最も取り組みやすい期間であると考えています
35年後に当初の期待リターンを達成してもすぐに売却をすることはあまりありません。引き続き保有を継続するケースが大半です。

このように、(ファンド受益者の方からみた)当ファンドが想定するリターンは、最低ラインとして年率平均で一桁後半から10%強程度を目指すものと説明することができます。

当ファンドの平均ROE(株主資本利益率)から見た期待リターン

ファンド全体のROEの観点から見ても、同程度の年率リターンが期待できることが説明可能です。

当ファンドのポートフォリオROE(=組入企業の平均ROE)は、これまで日本企業の平均を上回る1213%程度で推移してきました。平均以上のROEを維持できているということは、当ファンドが優良企業を中心に投資していることの裏付けとも言えます。この点は、当ファンドの投資戦略である「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を象徴している部分です。

理論的には、組入企業が毎年の利益をすべて内部留保し、かつROEが維持されると仮定すれば、利益および本源的価値が毎年1213%ずつ成長し、バリュエーションが一定であれば、株価も中長期的には同程度のペースで上昇していくことになります。

しかし、実際の当ファンド組入企業の平均利益成長率はこれをやや下回り、一桁後半から10%程度にとどまっています。それでも1213%程度のROEが維持されてきたのは、各企業が当期利益の一部を配当などの形で社外に流出させているためです。

毎年の利益をすべて社内に留保する場合、現状のROEを維持するためには、利益成長率もROEと同水準である必要があります(例えば、ROE10%の企業が同水準を維持するには、毎年利益を10%ずつ成長させる必要があります)。
ROEは期初時点の純資産を分母として算出

一方、内部留保率が100%を下回る場合には、現状のROEを維持するために必要な利益成長率はそれより低くなります。例えば、配当性向が23割程度(当期利益のうち23割を配当として支払い、残りを純資産に積み上げる)であるにもかかわらず、ROE1213%が維持されているとすれば、平均的な利益成長率は年率8~10%程度であることが逆算されます。

以上より、ファンド全体の観点から見ても、当ファンドの期待リターンは年率で一桁後半から10%強(利益成長率と配当利回りの合計)程度になると考えられます。

個別銘柄の積み上げによるアプローチと、ファンド全体のROEから見たアプローチの双方において、当ファンドが想定する期待リターンには概ね整合性がとれていることになります。

当ファンドのこれまでの年率リターン実績はこれを上回ることができている

当ファンドが最低ラインとして目指している年率リターンは一桁後半から10%程度ですが、過去の実績はこれを上回っています。

アベノミクス以降「失われた20年」を脱し、日本株全体が二桁成長を遂げた要因がまず考えられますが、それ以外の上振れ要因として、いくつかの組入銘柄において当ファンドが短期的な株価急落局面などで買い付けを実行できたことも挙げられます。予想しないタイミングで株価が下落した際に、機動的に、時には市場の流れに逆らって買い向かっていくのは容易ではありません。また、市場の関心が低い時期に十分な株を買い集められたことも寄与していると分析しています。このような投資機会に恵まれるかどうかは、ある程度「運」に左右されます。

株価が本源的価値から一時的に下方に大きく乖離することは往々にしてあるものです。最近では20248月の大規模な日本円の投機的ショートポジションの唐突な解消(円キャリートレードの巻き戻し)が引き起こした相場の混乱と、それに伴う株式市場の急落が記憶に新しいでしょう。このような要因で発生する株価下落は企業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に基づくものではないので*、株価のミスプライシング現象が起きます。また、個別企業においても、特定のニュースに市場が過剰反応してしまう場合等の際にこのような一時的な乖離は発生します。いずれのケースも当ファンドのような投資家にとっては優れた投資機会となり得ます。
*もちろん、金融市場の異変という経路を辿って企業のファンダメンタルズに悪影響(円高によって輸出競争力が削がれたり、株式市場暴落で消費者心理を冷やしてしまうなど)を及ぼすこともありますので慎重な見極めが必要です

ファンドのリターンを最大化していくには、今後も機会に恵まれ、魅力的なビジネスをもつ企業の株を如何に安く買うかにかかっていると言えるでしょう。

当ファンドの投資時間軸に対する考え方

誰にとっても右肩上がりに規則正しく投資のリターンが達成されるのが理想ですが、現実はうまくいきません。当ファンドにおいても新規銘柄に投資をして1年目から結果が出ることもあれば、最初の4年間は鳴かず飛ばずで5年目になって一気に結果が出ることもあります。

後者のようなケースでは、時間の無駄(=死に金)になり、期待される年率リターンを押し下げてしまいます。しかし当ファンドはこれまでも辛抱強く保有し続けて最終的に成功したケースが少なくないと考えています。

そして株価が大幅上昇したあとでも、1)株価に過度な割高感がなく、2)ビジネスの参入障壁が維持され、3)長期展望も明るいと判断できる場合は、保有を継続してきました。こうした姿勢が長期的な成果につながっている側面もあります。もちろん、時間の経過に伴い自分たちの投資判断が誤っていたと判断した場合、もしくはより魅力的な投資機会(想定される時間軸が短く、期待リターンがより魅力的、かつ確信度が高い新たな投資アイデア)が見つかった場合は投資成果を待たずに売却することもあります。

しかし傾向として、当ファンドは一般的な市場参加者よりも長い投資時間軸を前提としています。日々、運用技術の向上に努めつつ、これまでの運用スタイルを今後も踏襲していく方針です。

今後の運用方針

当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年12月の運用コメント

株式市場の状況

2025年12月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.03%上昇し、日経平均株価は同0.17%の上昇となりました。

月前半は、植田日銀総裁の発言を受けて12月会合での利上げ観測が高まり、長期金利が急上昇しました。この影響から銀行株を除く幅広い銘柄が売られ、主要指数は大きく下落しました。その後、米国の利下げ期待や、米政府がロボット産業を支援する方針を示したことを受け、FA(ファクトリーオートメーション)、ロボットなど「フィジカルAI(人工知能)」関連株が急伸し、相場全体をけん引し、TOPIXは史上最高値を更新しました。

月半ばには、米国の利下げ決定後に一時的な調整も見られましたが、米国株が堅調で主要指数が高値を更新するなか、日本市場でも買いが優勢となり、TOPIXは再び最高値を更新しました。しかしその後、米IT大手Oracle社のAIデータセンター完成の遅れや、半導体大手Broadcom社の決算が市場期待に届かなかったことなどから、AI投資の収益性に対する警戒感が高まり、半導体関連株を中心に売りが広がり、相場は調整色を強めました。

月後半は、日銀が利上げを決定したものの、総裁会見がハト派的と受け止められたことから円安が進行し、輸出関連株や半導体株を中心に買いが入りました。ただし、月末にかけては薄商いの影響もあり、相場は方向感を欠く展開となりました。結果として、TOPIXは相対的に底堅く上昇基調を維持し、日経平均株価も小幅ながら前月を上回って当月の取引を終えました。年間を通してみると、年前半に大きな下落に見舞われる場面があったものの、年後半には両指数とも高値更新を続け、高水準での推移となりました。

ファンドの運用状況

当月、当ファンドは前⽉末⽐2.56%上昇し、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.03%の上昇を1.53%上回りました。パフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、オリックス、セブン&アイ・ホールディングス、リクルートホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、ソニーグループ、日立製作所、三菱商事などでした。

2025年が終わりました。当年の日本株式市場は史上最高値を更新し、年末を迎えました。これにあわせて当ファンドの基準価額も過去最高値を更新しています。ファンドの年間騰落率は15.30%の上昇と、3年連続で2桁の上昇となりました。

一方、市場平均(東証株価指数(TOPIX(配当込み)、以下「TOPIX」))対比では2024年の好パフォーマンスの反動もあり、TOPIXを下回りました。

この結果、長期で見ればTOPIXに対して大幅なプラスを維持し、過去3年間のリターンでも上回っているものの、2020年末を起点とした場合は依然として劣後しています。

引き続き、多くの受益者のみなさまが市場平均を上回るパフォーマンスを享受できるよう努めてまいります。

一方、インフレの到来とマイナス金利の終焉という構造転換に乗り遅れ、運用成績が大きく低迷した2022年に比べると、当年の運用内容は悪くなかったと当ファンドでは分析しています。現在の当ファンド期待リターンは、目先の株式市場全体よりも魅力的であると判断しています。

2025年の運用成績がTOPIXを下回った理由

2025年の当ファンド運用成績は、ソフトバンクグループ、オリックス、ソニーグループなどの株価上昇の恩恵を受けました。一方で、当ファンドで中核に据えている他のグローバル企業は、米国の関税リスク(トランプ政権下での政策リスク)に晒されやすいとの見方が先行したためか、過度な売り圧力を受けたものと考えられます。

しかし202411月の運用コメントで解説したとおり、当ファンドはグローバル企業のなかでも関税の直接的な影響が極めて低いと考えられる非製造業(オリックス、損保グループ3社など)や、製造業においても関税リスクに対する業績感応度の高い企業ではなく、差別化された高付加価値製品を提供する企業(日立製作所など)で構成されていることから、過度な懸念は不要であると判断しています。

また米国経済への先行き不安や生成AI(人工知能)による浸食によって業績悪化が懸念された企業(リクルートホールディングスなど)についてもファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は概ね好調を維持しています。

当ファンドは成熟している日本市場を超えて、グローバルで事業展開する企業こそ長期投資の時間軸に耐えうると考え、引き続き投資アプローチを変えることなく運用にあたっていく方針です。

ファンド上位に組み入れられている個別企業概況

当ファンドでは日本を代表する大型株に投資しながらも、TOPIXとは差別化されたポートフォリオ構築を心がけているため、下記の企業概況は組入比率がTOPIXに対して大きい順(アクティブウェイトの大きい順)に解説することとします。

なお、損保グループ、住宅メーカー、半導体関連は同一業種内で複数銘柄に投資(バスケット買い)しているため、わかりやすさの観点からそれぞれ一銘柄としてまとめて解説します。

※ アクティブウェイトおよびファンド組入比率は202512月末現在

オリックス

  • アクティブウェイト 15.03%、ファンド組入比率 15.61
  • 2025年株価騰落率 +33.63
  • 2025年ファンド寄与度 +5.13

オリックスは過去数年でセブン&アイ・ホールディングスと並んで最も積極的に買い増しを行った銘柄です。当年のオリックス株価は年末にかけて好パフォーマンスとなり、一定の成功を見せ始めています。特筆すべきは当年になってようやく2006年以来の史上最高値を更新し始めた点です。未だバリュエーションは安く、これから高橋英丈新CEOの経営手腕に期待したいところです。

投資事業かつ総合的なノンバンク金融サービスを展開する同社は、6月に投資先であるGreenko Energy Holdings社(インド)の株式譲渡が決定し、今期業績の上振れと、それに伴う株主還元の拡充期待から株価が上昇しました。

同社は1964年設立時のリース事業を皮切りに「金融」と「モノ」の専門性を高めながら、船舶リース、レンタカー、融資、航空機リース、不動産開発、アセットマネジメント、プライベートエクイティ投資、事業再生、ベンチャーキャピタル、生命保険業、銀行業、再生可能エネルギー、空港運営など多角化を進めてきました。また同社は欧米やアジアでのビジネスも展開しています。

オリックスの魅力は、同社が訪日客恩恵銘柄であること、そして国内金利上昇の恩恵も受けるところです。前者については関西国際空港運営(地域寡占ビジネス)や、航空機リース事業(世界第三位)、国内ホテル旅館事業などがコロナ禍で受けた打撃を乗り越えて、順調に成長しています。後者については、子会社オリックス銀行、オリックス生命にとって追い風であり、リース事業の利ザヤ拡大にもいずれつながります。

さらに同社が中期的に目指している「アセマネシフト」は、外部資金を活用した投資ビジネスへの転換であり、株価バリュエーションの大きな拡大も期待されます(2025年11月の運用コメント参照)。

当ファンドでは9月に高橋新CEOと直接面談を行いました。2024年11月の井上前CEOとの面談同様、中長期的な成長戦略についてのディスカッションと、同社の株式市場に対するコミュニケーションの在り方に関する問題提起や、同氏および経営陣が自社の本源的価値をどのように考えているかなど、広範囲にわたって話し合いを行っています。

セブン&アイ・ホールディングス

  • アクティブウェイト 12.86%、ファンド組入比率 13.40
  • 2025年株価騰落率 -9.51
  • 2025年ファンド寄与度 -0.96%

残念ながら2025年はマイナス貢献銘柄となりましたが、引き続き限定的な株価下落リスク(割安な株価バリュエーション、積極的な株主還元、新たな買収者が現れる可能性などがマージンオブセーフティ(安全余裕率))と、魅力的な株価上昇余地(コンビニ王者としてのセブン-イレブンの復活とグローバル成長)という2つの条件が揃っているため、大きなポジションで投資を継続しています。

7月にAlimentation Couche-Tard社(カナダ)が同社に対する買収提案を取り下げたことにより、買収観測については一旦振り出しに戻りになりました。

株式市場では一時、失望売りに押されましたが、買収発表前の株価を上回る水準を維持し、下落幅は限られました。当ファンドのいうマージンオブセーフティが効いたと考えられます。

当ファンドでは当初より買収成立によって短期的なリターンを顕在化させてしまうより、今回を契機に同社が健全に経営されることで、長期的により大きなリターンを実現するほうが妥当であると判断しています。

(エンゲージメント)
当ファンドは20249月と20255月に新社長Stephen Hayes Dacus氏と直接面談を行っています。

一回目は同氏が買収提案の審査を行う特別委員会の委員長を務めていた時です。当時、社外取締役であった同氏に対し当方は大株主として、単独生き残り実現のためには経営陣の交代が必要であると伝えました。

二回目は同氏の社長就任予定が発表された後であり、新経営陣としての覚悟を問いました。

経営陣交代の要求は他の機関投資家株主からも出ていた可能性が十分に想定されますが、当ファンドの要望が今回の実現に一定の役割を果たしたことは、重要な成果であると評価しています。

会社側の危機感は相当なものであることは想像に難くありません。したがって、経営スピードは格段にあがると思われます。すでに国内既存店売上が10月ごろから改善の兆しが見え始めているのは朗報です。

さらに12月には米国コンビニ事業を展開する子会社7-Eleven, Inc.社(以下「SEI社」)において、CEOのJoseph Michael DePinto氏退任の発表がありました。2024年8月運用コメントではSEI社から同氏に対する過度な報酬支払いと、その開示姿勢について会社側に問題提起したことをご報告しました。

20年以上にわたるCEO職を降りることが最適な結果であるかはなお不透明ですが、当ファンドを始めとする機関投資家からの批判が一定の影響を及ぼした可能性があると判断しています。SEI社の新経営陣にも期待を寄せています。

(株主還元)
セブン&アイ・ホールディングス新経営陣の危機感は株主還元策にも表れています。同社は今期6,000億円相当の自社株買いを進めており、来期以降も1.4兆円相当を2030年度までに取得予定としています。

些細な点ですが、同社が202549日付プレスリリース「自己株式の取得枠設定に関するお知らせ」において「取得する全株式は消却を予定しております」と明示しているのは注目に値します。

近年、コーポレートガバナンス改革の一環として日本企業による自社株買いは一般的になりました。しかし多くの企業は自社株買いの目的として「株主還元」「資本効率の向上」「経営環境に応じた機動的な資本政策」といった曖昧な表現を用い、消却するか金庫株として保有するかは後で決定するのが大半です。

例えば20232024年に行われた大型の自社株買い事例(トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、リクルートホールディングスなど)をみても、取得後の扱いについて「全株消却」と明記しているケースは限定的です。今回の同社リリースのように最初から自己株消却の意志を明示しているのは珍しいといえます。

この点も、新経営陣がセブン&アイ・ホールディングス再生および株主価値向上に対して真摯に取り組んでいると当ファンドが考える理由のひとつです。

(IRディスクロージャー姿勢)
一方、中期業績見通しの開示内容および開示姿勢については未だ課題があると考えます。具体的には8月6日付「7-Elevenの変革」と題したプレゼンテーション資料に関してです。26ページ目で3年後に移行を予定しているIFRS(国際財務報告基準)と日本基準(JGAAP)におけるEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization/利払い前・税引き前・減価償却費前利益)の違いについて解説しています。

同資料によると前2024年度EBITDA実績は日本基準の0.9兆円に対しIFRS基準では1.3兆円になるとされています。これは店舗に関する地代家賃の取り扱いが異なるためです(日本基準では家賃が販管費として計上される一方、IFRSでは減価償却と支払利息として計上される)。

ところが、IFRS基準では有利子負債も大きく増加することには一切言及していません。これでは同社にとって都合の良い情報のみを開示していることになりミスリーディングであると言わざるを得ません。やや不誠実であるとも考えます。

良いニュースとしてはIFRSへ移行すれば米国の競合他社であるAlimentation Couche-Tard社、Casey's General社(米国)などとの国際比較が容易になります。もし当ファンドが想定するように同社のグローバル展開が成長軌道に乗れば、同社株の相対的な割安さが浮き彫りになるでしょう。

損保グループ3
(東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス)

  • アクティブウェイト 10.39%、ファンド組入比率 12.62%(3社合計)
  • 2025年株価騰落率 
    東京海上ホールディングス:+1.55%
    MS&ADインシュアランスグループホールディングス:+6.78%
    SOMPOホールディングス:+29.55%
  • 2025年ファンド寄与度 +2.23%(3社合計)

(現在は東京海上ホールディングスとSOMPOホールディングスを選好)
当ファンドでは2022年より上場損保グループ3社全てに投資していますが、各銘柄の組入比率の調整は機動的に行っています。

例えば、投資した当初は、3社のアクティブウェイトを均等としました。東京海上ホールディングスはトラックレコード、収益性、成長性の面で最も魅力がありますが、その分株価指標も割安ではなかったためです。その後、東京海上ホールディングスが米国における商業不動産市況に対する貸倒懸念が取り沙汰された局面では、同社の本源的価値に対して株が売られすぎと判断し買い増しを行いました。

また当年下半期は、SOMPOホールディングスがAspen Insurance Holdings社(米国)の買収を発表して以降、中長期的な海外事業比率の拡大を評価し買い増しました。総収入保険料に占める海外比率が約半分となり、成熟市場である国内市場への依存度が低下していくと考えられます。

さらに同社の政策保有株ではPalantir Technologies社(米国)の株式が重要な位置を占めています。近年大幅に値上がりした同新興ハイテク企業株を利益確定のうえ資金化し、本業である保険事業の海外部門強化のために資本リサイクリングすることは合理的な資本配分です。

今回の買収を機に、着実なROE(株主資本利益率)向上が見込めるようになったにもかかわらず、同社のPER(株価収益率)は3社のなかで最も割安でした。本買収に資金充当したこともあり、株主還元策に当面大きな期待をもてなくなったという市場評価でしたが、過去2年で株価が約10倍上昇という驚異的なPalantir Technologies社のパフォーマンスを勘案すれば、資金化を進めることで還元余力が再び増してくることも十分考えられます。

また東京海上ホールディングスのように日本発の損保として優良グローバルプレーヤーたる評価が定着すればPERの切り上がりも期待できる局面にあると判断します。

(持続可能な高配当、自社株買いは過小評価されがちな株式リターンの源泉)
損保株への投資では長期持続力のある増配や自社株買いが果たす役割を軽視すべきではありません。

例えば2015年末から2025年末までのSOMPOホールディングスと、日本の代表的なグロース株で、当ファンド組入銘柄でもあるファーストリテイリングの株価上昇率はともに約3倍とほぼ同じでした。

ところが配当込みトータルリターンでみるとSOMPOホールディングスは463%と、ファーストリテイリングの339%を大きく上回っているのです(同期間のSOMPOホールディングスの平均配当利回り3.97%、平均総還元利回り6.68%に対しファーストリテイリングはそれぞれ0.97%と0.97%)。したがって、株式投資でより高いリターンを得たのはSOMPOホールディングスの株主でした。

(隠れた成長株として低PER・低PBR(株価純資産倍率)銘柄のもうひとつの魅力)
株価のダウンサイドリスクを和らげてくれる安全余裕率を見出しやすいのも、損保のような低PER・低PBR銘柄の魅力だと考えます。

将来見込まれる高成長をあてにした高PER・高PBR銘柄は、いざ見通しが外れた時の株価下落が甚大になるケースが往々にしてあります。これは解散価値の目安といわれる純資産価値や、高い配当利回り、あるいは市場平均を大きく下回るPERといった定量的に割安な指標を見出しにくいためです。

とりわけ高い利益成長期待に基づいた高PERは、期待に反してわずかに利益が減るだけでPERも同時に大幅に切り下がり、結果として利益減少分以上の株価下落に見舞われることがあるため、よほど長期見通しに対する確信度が高くなければ投資の優先順位は低くあるべきです。これに対して、低PER・低PBR銘柄はもともとの期待値が低い分、業績に深刻な問題がなければ極端に市場平均に対してバリュエーションが切り下がるリスクは低いといえます。

ソフトバンクグループ

  • アクティブウェイト 6.15%、ファンド組入比率 7.90
  • 2025年株価騰落率 +91.61
  • 2025年ファンド寄与度 +4.53

同社株の概況については、当年8月および10月の運用コメントで解説済みであり、当月末現在の見方に変更はありません。2025年の株価上昇は、AI関連銘柄としてOpenAI社(米国)への投資価値が評価されたことが主因と考えられます。しかし、あまり語られませんが、実は過去5年で行われた大量の自社株買いによって発行済株数が大きく減少したことも株価を押し上げた要因です。

同社の本源的価値ともいえるNAV(Net Asset Value/時価純資産価値)と一株当たりNAVの関係をみると、2020年6月末時点で22.67兆円だったNAVは20259月末に33.31兆円(約47%増)まで増えています。一方、一株当たりNAVは11,647円から23,379円と倍増しています。これは、同期間中に大規模な自社株買いが行われ、それが速やかに消却されたため、発行済株式総数(自己株式を除く)が約3割減少し、結果として一株当たりの「分け前」が増えたのです。このような自社株買い効果も、当ファンドが同社株の積極的な買い増しを決めた理由のひとつでした。

住宅メーカー3
(積水ハウス、住友林業、大和ハウス工業)

  • アクティブウェイト 6.10%、ファンド組入比率 6.70%(3社合計)
  • 2025年株価騰落率
    積水ハウス:-7.51%
    住友林業:-9.08%
    大和ハウス工業:+7.00%
  • 2025年ファンド寄与度 +0.27%(3社合計)

住宅メーカー3社は2024年末から2025年上期にかけて購入した新規投資です。投資理由および当ファンドの最新見解については6月と9月の運用コメントで解説しており、現状の見方に変更はありません。

すでに日本勢3社のうち積水ハウスと住友林業は米国市場で上位10位以内、大和ハウス工業も上位20位以内にランクインする規模を有しています。彼らは米国においてほぼ唯一の主要外資系プレーヤーです。

本投資は単に巨大な米国戸建市場の長期成長を当てにしたものではありません。日本勢ならではのモノづくり優位性(工期短縮のためのプレファブ、プレカット工法や日本流木造軸組工法の長期的な普及ポテンシャルなど)と高品質住宅(優れた建付け、レイアウト提案、断熱性、耐震・耐火構造など)を武器にシェア拡大への期待によるものです。これは株式市場に未だ認知されていない、当ファンドが持つ投資仮説です。

一方、国内では成熟した住宅市場における大手寡占化の恩恵を受け続けると思われます。

今後の成長ドライバとなる米国戸建需要の回復は2026年以降に持ち越しですが、引き続き期待をしています。

日立製作所

  • アクティブウェイト 5.71%、ファンド組入比率 8.32
  • 2025年株価騰落率 +24.51
  • 2025年ファンド寄与度 +2.25

2021年7月の運用コメントにて新規組入銘柄として詳しくご紹介した日立製作所はその後の投資成果が極めて良好です。

同社の成長をけん引する「Lumada(ルマーダ)」事業は特定の技術やソフトウェアに依存したビジネスではありません。同社がハード(やシステム)の売り切り型ビジネスから決別し、コンサルから製品販売後のアフターサービスまで自社内のあらゆるリソースを駆使・動員してソリューション提案形式で収益を稼いでいくための「事業ブランド」です。このコンセプトを創り出したのは惜しくも2021年に急逝した中西元社長の功績であると言われています。

日立製作所は過去10年にわたるグループ再編に加え、GlobalLogic社(米国)、日立エナジー社(旧日立ABBパワーグリッド社)、Thales社(フランス)の鉄道信号事業といった新たな資産買収を通じ、活用可能な経営資源を大幅に拡充しました。同社は、需要が拡大しているDX(デジタルトランスフォーメーション)およびGX(グリーントランスフォーメーション)領域に照準を定めています。

(日本政府が発表した大規模な対米直接投資)
当ファンドが投資開始した当時、昨今のAIデータセンター建設ラッシュに伴う電力インフラ投資は、まだ本格化していませんでした。しかし現在では、これが日立製作所にとって数年にわたる強力な業績ドライバのひとつとなる公算です。

日米間の関税交渉を経て、日本による対米直接投資へのコミットメントの一環として、1028日に両国政府は「日米間の投資に関する共同ファクトシート」を発表しました。詳細の全容は未だ明らかにされていませんが、報道によれば、日本企業が多岐にわたる産業分野で広範かつ重要な役割を担うことが示唆されています。

日立製作所はこの取り組みにおける主要なプレーヤーの一社と目されており、特に長距離送電網の整備などへの貢献が期待されています。老朽化が進んだ送電網の更新投資に加え、巨大AIデータセンターを支えるための電力インフラ拡張を急ぐ米国にとって、この分野の重要性は高まる一方です。

当ファンドでは今回の発表を、日米間の経済・産業協力の深化における重要な一歩であると捉えています。米国は長年にわたって製造業の空洞化が進み、様々なインフラおよび防衛産業をテコ入れしたくても、自力で達成できないほど深刻な状況にあります。

こうした文脈において中心的な役割が期待されるのが日本です。日本の製造業インフラはバブル崩壊後のデフレ環境下でも多くの企業で温存されてきました。抜本的なリストラや完全撤退に踏み切れない日本の対応スピードの遅さが揶揄された時代もありました。

しかし、米国と中国による覇権国家争いという新たな地政学的環境下において、日本の「モノづくり」の強みは再び脚光を浴びる可能性があります。これは日立製作所を含む多くの日本企業にとって追い風となるはずです。

(潜在的リスク:GlobalLogic社)
2025年に当ファンドが特に注視したのが、デジタル製品エンジニアリングおよびソフトウェア開発を担う子会社、GlobalLogic社の動向です。同社の強みは歴史的に、優秀なエンジニアを大量に抱える労働集約型のビジネスモデルにありました。

しかし2025年に入り、生成AIの急速な普及とそのコーディング能力の向上によって、ソフトウェア業界では人間のエンジニアに対する需要が構造的に圧迫されるのではないかという懸念が浮上しています。

その流れの中で、「SaaS(Software as a Service、ソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス) is dead(SaaSの終焉)」といった悲観的な見方が株式市場の重しとなりました。日立製作所がGlobalLogicを買収したのは2021年、潤沢なマネーがM&Aブームを煽っていた時期であり、買収額は約1兆円に上ります。競合であるGlobant社(ルクセンブルク)など、世界のソフトウェア関連株が急落するのを目の当たりにし、高値掴みへの懸念と日立製作所への影響に対する不安が強まりました。

もっとも、AIの普及に伴うソフトウェア業界の長期的な行方は依然として不透明であり、結論を出すには時期尚早です。そして日立製作所の直近の決算発表は、当ファンドの懸念を少なからず払拭するものでした。業績のモメンタムは引き続き堅調であり、GlobalLogic社はデジタルソリューション基盤「Lumada」への統合が進んでいます。これにより、グループ全体の高付加価値サービスへの移行と、経常収益(リカーリング)機会の拡大が後押しされると期待されます。

今後も引き続き、価格動向、稼働率、顧客側の需要の変化、そしてAIがソフトウェア開発の採算構造をどのように変えるかといった点を中心に、継続して注視していきます。

ソニーグループ

  • アクティブウェイト 5.28%、ファンド組入比率 8.16
  • 2025年株価騰落率 +23.65
  • 2025年ファンド寄与度 +3.56

当年9月にソニーグループは金融部門を「ソニーフィナンシャルグループ(以下「SFGI」)」としてスピンオフ(非連結化)しました。その一環として当ファンドはSFGI株式を現物配当として受け取りました。

当ファンドでは、SFGIが独立上場企業として適正な市場評価を受けて株価上昇する可能性よりも、スピンオフ後にエンタテインメント企業としての色彩が一層濃くなるソニーグループの市場評価上昇の方がSFGIを上回ると考えています。この見通しに基づき、当ファンドは分配を受けたSFGI株式をすべて売却し、その売却資金の一部をソニーグループ株式の追加取得に充当しました。

(エンタテインメント企業として存在感を増すソニーグループ)
2010年代を通じてソニーグループはエレクトロニクス製品のハードウェアメーカーから、複合エンタテインメント企業として生まれ変わりました。特にゲーム機「プレイステーション」のプラットフォーム効果や、ゲーム、音楽、映画製作において保有するIP(知的財産や版権)が強みです。そして多様なエンタメ事業を手掛けているためにキャラクターフランチャイズを様々な事業で活用できる点も同社の競争優位性につながっています。

当期、同社は総合エンタテインメント企業としての地位をますます強固なものにしました。

家庭用ゲーム機「プレイステーション5」を展開するG&NS(ゲーム&ネットワークサービス)事業では、ネットワークサービスを通じてユーザエンゲージメントをデータ分析できるようになったため、直近の収益性は拡大傾向にあります。また向こう数年内には「プレイステーション6」も発表が見込まれています。

音楽事業は世界三大レコード会社の一角として、ストリーミングサービスの成長トレンドを追い風に順調に伸びており、音楽カタログの拡充も積極的に進めています。

音楽はエンタメビジネスにおいて長寿コンテンツになり得ます。映像コンテンツやビデオゲームと異なり、往年の名曲やクリスマスソングなどは何年も繰り返し聞かれるものが多いです。若い人にとっては古い音楽も新鮮な発見です。また、生成AIによる音楽制作が注目される一方で、生の人間が作った作品の価値はむしろ上がる可能性もあり、同社の音楽カタログにとってポジティブに働くのではと考えています。

映画事業はコロナ禍で停滞が続きましたが、自社ゲームタイトルの映画化や、「スパイダーマン」シリーズの新作リリースなど様々な取り組みが展開されています。

さらに近年はアニメ事業が第四のエンタメ事業として存在感を増してきていることにも注目です。同社は2021年にAmerican Telephone & Telegraph社(米国)から世界最大級のアニメ配信プラットフォーム「Crunchyroll」を買収し、グループ内でのアニメ関連ビジネスの基盤を強化してきました。加えて、傘下に日本最大級のアニメ制作・プロデュース会社であるアニプレックスを擁し、配信と制作の両面においてグループ内で相乗効果を働かせてきました。

ソニーグループの劇場版アニメ映画ヒット作としては「鬼滅の刃」が有名ですが、2025年は「鬼滅の刃」の続編や、K-POPを題材とした配信アニメーション映画「K-Pop Demon Hunters」が空前のヒットとなりました。

「K-Pop Demon Hunters」はソニーグループが作り出した新たなIPですが、残念ながら本作品はNetflix社(米国)に独占配信権を売却しており今期の売上貢献は限定的です。しかし、同作品はシリーズ化される予定であり、すでに続編の制作にとりかかっているようです。今回のヒットを踏まえて、今後の版権ビジネスについては同社により有利な契約で進められていくと思われます。

最近の快進撃をみているとソニーグループのコンテンツを作り出す総合力が底上げされているのがわかります。「鬼滅の刃」はアニプレックスが、「K-Pop Demon Hunters」は米国のSony Pictures Animation社が手掛けました。このように異なるグループ企業による作品が共に世界的にヒットしていることはポジティブです。同社からはほかにも「国宝」など日本ならではの映画作品も話題となりました。

娯楽映画・アニメの大御所といえばWalt Disney社(米国)が挙げられますが、近年は勢いがありません。流行り廃りの激しいコンテンツビジネスを安定的に拡大していくため、同社は米国のPixar Animation Studios社、Marvel Entertainment社、Lucasfilm社を買収し、実績のある既存作品をシリーズ化や、それらの続編・スピンオフ作品を制作する戦略を優先してきました。

しかし、この変化を敏感に感じ取った消費者は、Walt Disney社の新作が近年つまらなくなってきたと感じ、結果として、この戦略は同社の評判を落としているように思います*。
* 例えば、かつて世界的にヒットした「インディジョーンズ」の最新作が2023年に公開されましたが、過去のシリーズ作を大きく下回り、失敗に終わったという見方が一般的です。また、実写映画「The Little Mermaid(リトル・マーメイド)」「Snow White(白雪姫)」などはキャスティングを巡って社会論争を引き起こし、Walt Disney社の評判に傷をつける出来事もありました。

一方、ソニーグループはクリエイターに裁量を持たせ、リスクをとることを厭わないよう発破をかけ、本社は彼らが存分に創造性を発揮するためのバックアップに専念していると言われています。近年の躍進には、Walt Disney社に対する「挑戦者」としての姿勢がここに来て花開いていることが背景にあるのかもしれません。

(更なるグループの進化に期待)
ソニーグループ全体の事業ポートフォリオに関しては、経営陣はシナジーを生まないコングロマリット化から決別し、世界有数のエンタテインメント企業としてさらに磨きをかけるため、半導体事業についてもスピンオフするという憶測がでています。同社が手掛けるCMOSイメージセンサは世界で圧倒的シェアを誇りますが、中国企業による追い上げも顕著です。同社経営陣の今後のアクションに注目です。

半導体関連銘柄
(東京エレクトロン、信越化学工業、ルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト)

  • アクティブウェイト 4.96%、ファンド組入比率 7.83%(4社合計)
  • 2025年株価騰落率 
    東京エレクトロン:+41.91%
    信越化学工業:-7.99%
    ルネサスエレクトロニクス:+4.57%
    ソシオネクスト:-13.48%
  • 2025年ファンド寄与度 +1.21%(4社合計)

半導体関連企業については、2022年秋に米中の半導体貿易摩擦が勃発し、世界中の関連銘柄が急落したタイミングで逆張り投資を開始しました。これが翌2023年に奏功しました。

しかし中国を弱体化させるために導入した輸出規制は、皮肉にも同国の半導体産業の競争力を高め、いまや中国勢は世界の半導体関連企業にとっての脅威となりつつあります。この点については202412月運用コメントで懸念材料として取り上げて以降、当ファンドの見解に変更はありません。この見解に基づき、2024年終盤より組入比率を段階的に引き下げており、主にルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト、信越化学工業のポジションを調整しました。

このような中国による急激なキャッチアップがわずか2年程度で判明するとは、当ファンドが投資開始時には予想できませんでした。近年のEV(電気自動車)分野といい、2025年に話題となった最先端AI、人型ロボット技術での台頭も、中国産業政策の本気度と中国企業の底力を痛感させる出来事でした。これは、日本株の投資家が今後常に気を付けなくてはならない投資リスクといえるでしょう。

なお東京エレクトロンが手掛ける半導体製造装置は、アナログ半導体やシリコンウェハーと比べ、中国競合に対して依然として技術的優位性の差があると考えられます(とはいえ油断は禁物かもしれません)。

さらに、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company社(台湾)やSamsung Electronics社(韓国)といった世界大手半導体メーカーと長期的な技術ロードマップに基づく深い協業関係を築いていることも、同社にとって参入障壁となっていると評価しており、既存のウェイトを維持しています。

加えて、2025年後半以降に鮮明となった巨額のAIデータセンター投資に伴うメモリ半導体需要の急速な回復は、当面同社にとって追い風となりそうです。

三菱UFJフィナンシャル・グループ

  • アクティブウェイト 4.24%、ファンド組入比率 7.45
  • 2025年株価騰落率 +35.05
  • 2025年ファンド寄与度 +2.63

2023年10月運用コメントで新規組入銘柄として紹介したとおり金利上昇見通しを抜きに銀行業の魅力を語ることはできません。当ファンドでは三菱UFJフィナンシャル・グループを保有しており、金利上昇次第で利益水準が格段にあがるという当初の見方を継続しています。

日本経済にとってあるべき中立金利の水準を正確に言い当てるのは不可能ですが、確実に言えるのは日本の実質金利が依然極めて低いということです。今日現在、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利の大幅なマイナス状況が続いているのは先進国のなかで日本だけです。

一方、コアCPI(消費者物価指数)は3%前後が続いています。労働人口減少による人手不足がインフレ要因となっているのは明らかであり、デフレに逆戻りするのは考えにくい状況です。

たしかに10年国債金利は2025年末時点で2%を超えてきており、ゼロ金利環境だった頃と比べると隔世の感があります。金融市場ではさすがにこれ以上の上昇余地は限られてきているという声もあります。デフレ下でゼロ金利に慣れてしまった日本人にとって実質金利と名目金利に大きな乖離が生じていることを完全に理解できていないのかも知れません。

現状の実質金利水準を踏まえると2%という名目金利は決して高くないというのが当ファンドの見解です。日銀が緩やかながら利上げを継続していくというのは既定路線と考えます。

経済にとって重要なのは実質金利である一方、銀行の業績を左右するのはあくまで名目金利です。名目金利が上昇を続けつつ、実質金利は低い状態が続くのは金融産業全般、とりわけ預金という低コストの資金源がある銀行には引き続き大変ポジティブな環境といえます。

リクルートホールディングス

  • アクティブウェイト 3.62%、ファンド組入比率 5.01
  • 2025年株価騰落率 -20.62
  • 2025年ファンド寄与度 -0.41

リクルートホールディングスは世界最大のオンライン求人プラットフォームであるIndeed社(米国)を傘下に抱えています。当ファンドは2025年1月の運用コメントでも同社に対して強気の見方を提示し、4月に発表されたトランプ関税に伴う景気減速の警戒感は一時的なものとして少しずつ買い増しを行っていました。

しかしMicrosoft社(米国)による大規模な人員削減のニュースをきっかけに、当ファンドではAI普及に伴う長期的な求人需要減を新たなリスクとして意識するようになりました。経済全体における人員削減こそ本格化の兆しは今のところありませんが、企業採用担当者の立場を考えれば、現在の環境下で積極的な採用予算が付くのは考えにくいと思われます。このため当ファンドでは一転、慎重姿勢に転じ7月から9月にかけてはポジションを減らしています。

当年下期に入ってからも同社の株価は軟調に推移しました。より積極的に組入比率を落とすべきだったという反省もありますが、以下の理由により現在は組入比率を維持しています。

HRテクノロジー分野におけるIndeed社の市場シェア・競争力は最強と言われており、圧倒的な量を誇る求人企業と求職者データのマッチング精度を向上させることが可能です。プラットフォーム利用者の満足度が向上するにつれて期待されるのは同社が得る手数料率の上昇です。2024年3月に開催された同社Investor Dayによると、開催当時の採用一件あたりの企業クライアントからのテイクレートはわずか1%未満です。

経営陣によると、一般的な人材紹介サービスの紹介手数料は平均約20%(=テイクレート)、ヘッドハンターなどによる成功報酬では最高40%とされています。こうした実態を踏まえると、同社のテイクレートには現状の1%未満から大幅な引き上げ余地があることが分かります。そして、それでもなお相対的に低い採用単価であるという優位性を維持できるのです。
* テイクレートとは、採用者の初年度給与に占める採用単価の割合を示す指標。仮に1年10万ドル稼ぐ⼈を斡旋して1万ドルの手数料をもらえるとすれば、テイクレートは10%となります

このようなことから、厳しい事業環境においても同社は自力成長が可能と考えられます。実際、前月に発表された20263月期中間連結決算では底堅い業績が確認され、通期利益見通しも上方修正されています。

最後に当ファンドは同社経営陣による数々の迅速な意思決定も高く評価しています。コスト削減や、事業環境が悪化している時こそ、「攻めの投資」を行うことで需要回復時に競合他社をさらに引き離すことも見込まれます。引き続き同社株の保有を続ける方針です。

今後の運用方針

当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年11月の運用コメント

株式市場の状況

202511月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.42%上昇し、日経平均株価は同4.12%の下落となりました。

月前半は、AI(人工知能)関連銘柄の前月までの上昇に対する過熱感が意識され、米国株式市場にて関連銘柄が大幅に調整した影響が日本株式市場にも波及しました。一方でバリュー株や内需株等は底堅く推移し、これらのウェイトの差異が指数の変動に大きな影響を与えた結果、日経平均株価の下落が大きくなり、他方TOPIXは相対的に底堅さを維持しました。

月半ばには、日中関係の緊張を背景に中国政府が渡航自粛を要請したことが嫌気され、日経平均株価、TOPIXの両指数とも再び大きく下落し、日経平均株価は節目の5万円を割り込む場面も見られました。その後は、米国株式市場においてNVIDIA社が好決算を受け、時間外取引で同社株が上昇したことが追い風となり、日本株式市場でもアドバンテスト、東京エレクトロン、ソフトバンクグループの3銘柄が日経平均株価を約700円押し上げる場面も見られるなど株価は持ち直しましたが、AI投資の過熱感に対する警戒は根強く、上値の重い展開が続きました。

月後半にかけては、FRB(米連邦準備制度理事会)高官のハト派的発言を受けて12月利下げ観測が再び高まり、米国株の持ち直しとともに日本株式市場も反発しました。結果として、日経平均株価は8か月ぶりの下落となった一方、TOPIXは小幅ながらも上昇を確保し、両指数のパフォーマンスはまちまちとなり、当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.73%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.42%の上昇を3.15%下回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、オリックス、セブン&アイ・ホールディングス、ソニーグループなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、ソフトバンクグループ、日立製作所、東京エレクトロンなどでした。

今年も残すところあと一か月となりました。当月は、昨年同様に相場の振り返りと、来年以降の見通しについてお話しようと思います。

2025年これまでの日本株式相場振り返り)

当月末現在、米国経済減速や米中関係の緊張(そして最近では日中関係の緊張)がもたらすマイナス影響の懸念は残るものの、日本株式市場はそれを上回るAI(人工知能)ブームなどもあり年初来で好調です。
昨今の相場変動要因もAIブームに起因しています。前月お話したようにインフラ投資の過熱懸念もありますが、当ファンドはAIが労働生産性、経済成長にもたらすプラス面も過小評価すべきではないとのスタンスです。

さて2025年これまでの相場トレンドを総括すると、年初から当月末までの相場牽引役は以下のような銘柄群だったと考えます。

  • テーマ性の強い銘柄(AI関連、防衛関連、アクティビストの標的となった企業など)
  • 内需型の大型企業(金融、不動産、建設など)
  • 中小型全般

これらに共通しているのは、トランプ関税リスクの影響が軽微であるという点です。

東証株価指数(TOPIX(配当込み)、以下「TOPIX」)は当月末時点で年初来20%超上昇しています。2割を超える値上がり率となったのは3年連続です。一方で今年は市場の二極化も進んだようにみえます。世界経済の減速懸念やトランプ関税リスクとは無縁なAI関連銘柄、一部の小売銘柄、ゲーム関連銘柄などが関心を集め、TOPIXを大幅に上回るバリュエーション(PER:株価収益率)水準まで買われています。防衛テーマ関連として市場を賑わした重工業企業のなかには45年先の利益水準に対して高いPERがつけられ、他の防衛関連企業も今期予想PER30倍超など割高な株価指標の銘柄が散見されるようになりました。

対照的に、トランプ関税の影響が大きい輸出製造業、とりわけ米国との貿易黒字の大半を占める完成車メーカーや自動車部品メーカーは年初来で株価低迷を余儀なくされ、バリュエーションも市場平均を大きく下回るPERで推移している銘柄も少なくありません。他にも米国経済に対するエクスポージャーの高い企業の株価が打撃を受けました。

興味深いことに日本ではバリュー指数がグロース指数を大きく上回り、米国市場とは真逆の展開となっています。日本では米国の成長株の代名詞ともいえるマグニフィセント・セブン(NVIDIA社、Microsoft社、AlphabetGoogle)社、Apple社、Meta PlatformsMeta)社、Amazon社、Tesla社)に匹敵するような圧倒的高収益で高成長、高資本収益性のビジネスが存在しないためです。

2026年以降の見通し)

ちょうど1年前の202411月運用コメント(「2025年以降の見通し」)のなかで、日本株式投資に対する期待リターンを以下のように解説しました。

―以下、抜粋―

今後日本株投資から期待されるリターンの源泉として、

  • 本業利益(売上数量増、付加価値増などを通じて)の年率35%程度の実質成長
  • 持続的なインフレによって同2%程度が上乗せ
  • 株主還元の強化で同3%程度(配当利回りで2%、自社株買いで1%)が上乗せ
  • PERの切り上がりによって同46%程度が上乗せ

が想定され、合計すれば理論上は10%超の年率リターンが期待できると結論づけられます。

それから1年が経ち、TOPIX29.17%上昇しました。最大の牽引役は上記のうち「PERの切り上がり」です。このため、あくまで短期的な見通しですが、2026年は企業利益のよほど力強い成長が見込めない限り、日本株式全般の投資リターン期待値は過去数年ほど高くないと考えられます。これに対し、当ファンドは日本の代表的な大型株中心に20社強という限られた数の銘柄に投資しており、市場全体と異なる値動きをすることが珍しくありません。8月の運用コメントで述べた通り、当ファンドの期待リターンは市場全体の期待リターンよりも魅力的であると考えています。

一方、中長期の視点では、次に示す通りデフレ環境下にあったころと比べて日本株式全体の投資魅力は格段に上がっているとみています。

日本株式市場にとって最も重要なのはコーポレートガバナンス改革

高市新首相は積極的な財政や金融政策に対してハト派的な姿勢を見せていることから、短期的には株式市場に歓迎されましたが、日本経済にとって長期的なインフレ副作用や財政規律が緩むリスクは今後の懸念材料です。

一方、経済政策や政局に変化があったとしても、コーポレートガバナンス改革だけは変わることなく着実に進展していくと思われます。これが最も重要なポイントです。

日本のコーポレートガバナンス改革は、国際平均に見劣りする企業の資本収益性(=ROE)を底上げさせる取り組みであり、日本株式市場の魅力を引き上げる上で欠かせないものです。

同改革はアベノミクスの下、2014年の日本版スチュワードシップ・コード、2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入とともに始まりました。過去の慣習に囚われがちな日本企業は変化のスピードが遅いことを海外から懐疑的にみられがちですが、同質性の強い日本の国民性は、むしろトレンドが定着すれば力強い変化を見せ始めるはずです。政府主導の取り組みがスタートとしてすでに10年以上が経過し、今後は民間企業が主体的に資本収益性の改善を図っていくフェーズに移行したとみるべきです。

コーポレートガバナンス・コードの改訂

このような状況のなか、金融庁は5年ぶりのコーポレートガバナンス・コード改訂に着手しました。今回注目されるポイントは、必要以上に現預金を貯めすぎている上場企業に是正を求めることだと言われています。

報道されているとおり、日本におけるこれまでの取り組みは、低資本収益性に喘ぎ株価が万年低迷している企業を対象としたものでした。

その象徴が20233月に東証によって発表された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」です。この要請に基づき、企業の意識が向上し、株価PBR1倍割れとなっている上場企業数は減少傾向にあります。

これに対し、今回の改訂はPBR1倍以上の企業を念頭に置いていると言えそうです。PBR1倍を超える企業の多くはROEが資本コストを上回る優良企業です。しかしこれら優良企業でも、最適な資本配分を行っていない(=稼いだ利益を現金として溜め込んでいる)経営陣が散見されるのです。

前回の東証による要請が通称「PBR1倍割れ改革」と呼ばれていたため、該当しない企業では「ROEが資本コストを上回っているのだから、うちは関係ない」という雰囲気が支配的だったのは仕方がないのかもしれません。

当ファンドが考える日本株式市場の真の課題はPBR1倍割れの企業だけでなく、1倍超えの企業にも株式資本コストを意識した経営をどのように根付かせるべきか、という点です。今回のガバナンス改革内容の進展は、当ファンドが議論した20245月運用コメントに沿った動きと言えます。

来年予定されている新たな指針の発表によって上場企業の全てが資本コストに対する考え方を改め、再び日本株式市場の注目度が上がるきっかけになると期待されます。

日本株式をとりまくプラス要因・マイナス要因

世界の株式市場のなかで、日本株式独自の外部環境要因としては以下のようなものが考えられます。

  • 日本株式市場の魅力向上に向けたコーポレートガバナンス改革、株式市場改革の継続
  • インフレ定着、実質賃金成長率のプラス転換によって消費者行動が変化し、マネーが動き出す
  • 金利の正常化プロセスの継続
  • 訪日旅行客の増加継続による消費の後押し、外国人労働者の継続流入による人口自然減の緩和
  • 日本が地政学上中立的な立場を維持することで、米国との経済協業および中国とのビジネス機会模索の両立が可能
  • 日本による5,500億ドル規模の米国への直接投資実行が輸出企業に恩恵をもたらす
  • 引き続き外国から日本への直接投資も堅調

逆風としては

  • 企業による賃上げ努力も、実質賃金成長のマイナスが未だ継続
  • 新政権による財務規律のゆるみ、長期金利の上昇、為替の円安による輸入物価の上昇圧力

当月末現在の日本株式バリュエーションは予想PER18.67倍、PBR(株価純資産倍率)1.69倍です。ここから逆算されるROE9.1%となります。10年前に比べれば改善しましたが、国際的にみればROEはまだ低すぎる水準です。

幸運なことに、労働人口減少に見舞われている日本にとって生産性改善は待ったなしです。資本効率改善を求めるアクティビストからの圧力、AI活用チャンスの到来、そして何よりも日本の企業が能動的に企業風土を変えていく気運が高まることで、労働生産性が諸外国水準に近づいていくと思われます。これはROEの改善に直結します。日本株式ならではの注目ストーリーです。

次に現在のインフレは人々の行動様式を転換させるポテンシャルがあります。デフレ環境下では将来の値下げを期待し家計は消費を先延ばし(消費減少⇒企業利益減少⇒家計所得の減少⇒さらなる消費減退)するのに対し、インフレでは将来の値上がりを予想し、消費の前倒しが発生します。これによって経済の血液ともいえるマネーが動き出すと考えられます。

家計をインフレから守るため、銀行預金から株式投資へのシフトの加速も期待されます。日本の家計資産に占める現金・預金は1,000兆円以上です。これに対し日本株式市場の時価総額は1,100兆円超です。家計による株式投資が拡大すれば、市場へのインパクトは大きいはずです。

実質金利の大幅なマイナス状況が続いているのも、先進国のなかでは日本だけです。インフレを示す全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)が3%程度であるのに対し政策短期金利ともいえる無担保コール翌日物金利が0.5%と未だ低水準に留まります。日本の政策中立金利を明確に言い当てることはできませんが、現状の0.5%より高いことは確かそうです。日銀の利上げは引き続き既定路線と当ファンドでは考えます。

ただし、2000年、2006年の日銀によるゼロ金利政策解除が失敗に終わったことから利上げは慎重に進められるでしょう。名目金利は少しずつしか上がらないということは、全体的な金融政策自体は緩和的状況が続くという意味になります。これは株式のような金融資産にポジティブな環境です。

名目金利の上昇は金融産業の業績をさらに押し上げるだけでなく、巨額の金融資産が家計に大きな利息収入をもたらすと期待されます。現金・預金1,000兆円に対し預金金利が0.1%上がる毎に、家計の利息収入は1兆円増え(時差をともなって顕在化します)、消費余力が拡大します。これは、単純計算で日本のGDP約0.15%程度に匹敵する規模です。

金利上昇によって限界企業が倒産し、非効率なゾンビ企業の淘汰につながれば、日本が変わったことを印象付けるでしょう。ここでも、利下げが焦点になっている米国経済とはまったく異なるステージにいることが分かります。

なお、訪日客増加による日本経済へのプラス効果も健在です。また外国人労働者の着実な増加は日本人人口の自然減を緩和してくれるのではないでしょうか。「移民政策」という言葉が世界的には政治問題に絡んで微妙なニュアンスをもつこともあるため、あまり多用されませんが、日本は実質的に外国人労働者の流入が増える方向にあります。文化に魅力を感じて生活拠点を日本に移したいと考えている知識労働者も少なくありません。

地政学的リスクの低さも海外勢からみた日本株式の魅力です。米国と重要なパートナーとして経済協業を推進しつつ、中国とのビジネス機会模索を両立することが可能です。中国の消費者には日本製品、食文化、ゲーム、アニメなどの分野でファンが大勢います。外交レベルでの摩擦は時折ニュースとなりますが、現時点では景気の大きな足枷要因にはならないと判断します。

また日本政府による5,500億ドルにおよぶ米国への海外直接投資のコミットメントはトランプ大統領が退任する2029年までに実行されると思われます。このうち約4,000億ドルの「日米間の投資に関する共同ファクトシート」が発表されました。原子力発電などのエネルギー、人工知能(AI)向けの電源開発、AIインフラ強化、重要鉱物の4つの投資分野が対象です。詳細は明らかになっていませんが、日経記事によると同発表に関心を示す日本企業8社のうち、2社(ソフトバンクグループ、日立製作所)は当ファンドの組入銘柄です。

台湾のTaiwan Semiconductor Manufacturing CompanyTSMC)社による半導体工場の建設など海外から日本への直接投資も旺盛です。日本の地政学的リスクの低さや割安な円通貨で投資コストが安く抑えられること、加えて優秀で良質な日本人労働者を確保したいという思惑が背景にあると思われます。

また日本ではバリュー株指数がグロース株指数を大きく上回っているという米国と真逆の相場色であることからも分かるように、日本株式相場には他の先進国とは違ったダイナミズムがあります。海外投資家にとって分散投資の観点から日本株式に投資資金を振り向ける意義はそれなりに大きいと考えます。

一方、国内経済のリスク要因として、インフレの高止まりから実質賃金のマイナス成長が依然として続いており、家計の購買力に打撃を与えていることが挙げられます。引き続き賃上げトレンドを維持することが重要です。政権交代による財務規律の軟化もリスクなので、経過観察が必要です。

(現在の当ファンドポートフォリオの特徴)

PERが切り上がったTOPIXに対し、当ファンドのポートフォリオは割安であり、なおかつROEが高いことからも分かるように、より質のいい企業で占められているというのが当ファンドの見解です。

当月末現在の当ファンドの予想PER15.71倍、市場平均が18.67倍、一方、当ファンドのROE11.4%、市場平均は9.1%です。とりわけ当ファンドのPERが相対的に低位なのは、新政権発足以降に日本のリスクフリー金利(国債利回り)がじわじわと上昇していることを鑑みれば重要であると考えます。リスクフリー金利が高ければ、企業が生み出すキャッシュフローを現在価値に割り戻すための割引率も高くなることを忘れてはいけません。これはすなわち、日本株式の高PER銘柄に対して下押し圧力がかかる可能性を意味します。

組入銘柄の業績見通しについては、今期は停滞気味だった企業も含めて来期以降、長期業績展望は明るいと考えます。これが先行きに対して当ファンドが楽観的な理由です。

ファンド構成に目を転じると、昨年半ばごろまではポートフォリオ全体の約3分の2について、オリックス、セブン&アイ・ホールディングス、また半導体関連銘柄、メガ損保グループ3社のざっくり4分野に対して均等なポジションをとっていました。

このうち当月末現在、まだ市場から評価されていないと考えるセブン&アイ・ホールディングスとオリックスは強気継続です。年初来セブン&アイ・ホールディングスは市場平均を下回り、オリックスは市場平均並みのリターンですが、長期的な株価成長を期待させる変化の兆しが確認されているからです。

セブン&アイ・ホールディングスではDacus CEO体制が本格始動しました。メディア報道にもある通り、日米既存店の回復が遅れていますが、同社組織全体は井阪前CEO時代よりも正しい方向に向かっており、危機感から経営スピードも格段に上がっていると判断します。コンビニは日本発の世界で通用する小売業態であり、今後グローバルでの出店加速も楽しみです。

オリックスは当月、カタール投資庁との共同投資ファンドの設立を発表しました。これは当ファンドが過去のコメントでも繰り返し強調してきた「アセットライト型の手数料収益モデル」への展開が、いよいよ具体的に始動したことを意味します。

セブン&アイ・ホールディングスとオリックスともあらゆる株価指標において東証平均に対して非常に割安です。セブン&アイ・ホールディングスは、本格的な業績改善を織り込まなくても、のれん償却前EPS(実質的にキャッシュベースのEPS、会社予想)に基づく予想PERが約14倍、フリーキャッシュフロー利回りは約8%(スパークス試算)、総還元利回りは約13%(配当利回り2.3%、自社株買い10.7%)となっています。Alimentation Couche-Tard社(カナダ)は撤退しましたが、新たな買収者がいつ現れてもおかしくありません。

オリックスは、60年以上の歴史を持つ優良なノンバンク金融サービス・投資会社であり、現在のPBRは辛うじて1倍程度です。さらに、保有投資資産の含み益を考慮すれば、実質的な評価はBPS1株当たり純資産)を大きく下回っており、予想PERもわずか10倍強に過ぎません。アセットライト型の手数料収益モデルが強化され、PBRという評価軸が外れれば、PERの再評価によって株価は大きく上昇する可能性があります。

両社ともに限定的な株価下落リスクと魅力的な上昇余地を備えており、この2つの条件が揃った場合、当ファンドの基本スタンスは「大きく投資して、じっくり待つ」です。より魅力的な投資機会が現れるか、投資仮説に誤りがなければ引き続き保有を続ける方針です。

損保ビジネスは日本の金融セクターのなかでは長期的に銀行や生保ビジネスなどよりも魅力と捉えています。日本の損保産業は3社寡占市場であることや、巨額の含み益を抱える政策保有株を武器に、潤沢な株主還元と積極的なM&Aを両立させた経営が可能であることから組入比率を維持しています。この2大特徴は世界の損保業界を見渡しても日本にしかありません。

米国では保険引受サイクルがピークアウトしており、保険料軟化の逆風もありますが、日本勢にとってはむしろ買収を仕掛けるチャンスです。歴史的に日系プレーヤーのほうが米系に比べてROEが低いため、新規買収に際しては日系傘下に入るほうがROE引き上げに直結しやすく買収交渉時に有利です。特に彼らは収益性の高いニッチな特殊保険分野で勢力を拡大しています。

今年はSOMPOホールディングスがAspen Insurance Holdings社(米国)の買収を発表し、東京海上ホールディングスに次ぐグローバルプレーヤーになりそうです。邦銀や日系生保による海外買収と異なり、日系損保による海外進出は規模の拡大だけでなく、地震・台風に偏りがちな国内保険引受リスクを分散する効果も期待できます。結果的に株式投資家の観点からすれば株式リスクプレミアムが下がるので一石二鳥です。

一方、半導体は昨年後半以降、組入比率を引き下げました(ルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト、信越化学工業)。2022年以降米国が中国を弱体化させるために導入した半導体輸出規制が皮肉にも現地の半導体産業の競争力を高めつつあります。いくつかの半導体関連企業にとっては脅威になるでしょう。このことに関しては202412月に懸念材料としてコメントして以降、見方に変更はありません。

かわりに住宅メーカー3社(積水ハウス、住友林業、大和ハウス工業)への投資を開始し、6月にはソフトバンクグループの組入比率を大幅引き上げました。

住宅メーカー3社は米国戸建市場の回復が来年以降に持ち越しですが、引き続き今後が楽しみです。単なる米国戸建市場の長期成長の恩恵にあずかるだけでなく、日本勢ならではのモノづくり優位性と高品質住宅を武器にシェア拡大するというストーリーを期待しているからです。

そのほかの主要組入銘柄であるソニーグループ、日立製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループなども保有継続中です。これらは来月の主要組入銘柄のパフォーマンス振り返りで改めて解説する予定です。

今後の運用方針

当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年10月の運用コメント

株式市場の状況

2025年10月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比6.20%上昇、日経平均株価は同16.64%上昇いたしました。
月前半は、米政府機関の一部閉鎖懸念を背景に軟調なスタートとなりましたが、高市早苗氏が自民党総裁に就任すると、市場では積極財政や成長戦略への期待が高まり、「高市トレード」と呼ばれる株高・円安の動きが急速に進行しました。月半ばにかけては、公明党の連立離脱報道が伝わり、政局不安が広がりました。さらに、米国による対中追加関税発表とそれに対する中国の報復措置が加わり、リスクオフムードが強まったことで、日経平均株価は一時急落しました。その後、一転して日本維新の会との連立協議入り報道を受けて政局の不透明感が後退し、米SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)の上昇も追い風となり、相場は反発に転じました。
月後半には、米中貿易摩擦の再燃や米地銀の信用不安が断続的な重荷となり、短期的な過熱感から一時的な調整局面もみられたものの、20日に自民党と日本維新の会が正式に連立合意に至り、高市新政権の誕生を受けて政策期待が一段と高まったことから市場は再び上昇基調となりました。
月末にかけては、FOMC(米連邦公開市場委員会)で予想通り0.25%の利下げを決定した一方、FRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言を受けて12月の追加利下げ観測は後退しました。また、日銀の金融政策決定会合では利上げが見送られ、追加利上げに慎重な姿勢が示されたことで円安基調が継続しました。さらに、米中協議の進展や中国によるレアアース輸出規制延期が好感され、リスク選好姿勢が一段と強まりました。こうした環境下で、アドバンテストの好決算やレーザーテックの大幅株高など、AI(人工知能)・半導体関連株が連日上昇し、日経平均株価も連日で史上最高値を更新しました。結果として、指数間の上昇率の差が広がりながらも、日本株式市場は前月末比で大幅高の水準で10月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐6.34%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同6.20%の上昇を0.14%上回りました。
当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、ソフトバンクグループ、日立製作所、東京エレクトロンなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、東京海上ホールディングス、オリックス、住友林業などでした。

(投資テーマとしてのAI(人工知能))

当ファンドではテーマ型投資は行いませんが、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」という投資戦略に基づく銘柄が、結果的に特定の投資テーマに合致することはよくあります。
昨今株式市場で話題のAI関連が良い例です。8月の運用コメントでも解説済みですが、当ファンドの組入銘柄ではソフトバンクグループが該当します。
2015年から当ファンドが一貫して説明している同社への投資事由は創業者である孫正義会長を起業家としての長期実績を高く評価していることや、同社が時価純資産に対して大幅に割安であったことです。
そんな同社は日本のAI関連筆頭銘柄とみられています。そこで今回は投資テーマとしてのAIについて解説します。

AIテーマの盛り上がりは過剰か否か)

AI関連企業の株価が大幅に上昇しているのは、連日報道されているようにAIインフラへの投資が爆発的に伸びているからです。前月、当月と関連ニュースが目白押しでした。
9月10日にOracle社(米国)はOpenAI社(米国)と3,000億ドルにおよぶ超大型AIデータセンター契約を結び、世間を驚かせました。また、922日には合計10ギガワット規模のAIデータセンターを展開するためNVIDIA社(米国)がOpenAI社への総額1,000億ドル出資することを決定しました。その後101日にはそのOpenAI社が韓国のSK hynix社およびSamsung Electronics社から数百億ドルにおよぶ月間90万枚相当のメモリ半導体供給を確保、106日に米国の半導体大手であるAdvanced Micro DevicesAMD)社と6ギガワット相当のGPUを調達する契約が報道されました。さらに1013日はOpenAI社とBroadcom社(米国)が10ギガワット相当のAIカスタム半導体の共同開発を発表しました。
OpenAI社以外ではMicrosoft社がネオクラウドとも言われる新興クラウド事業者のNebius Group社(オランダ)、CoreWeave社(米国)、NScale Global Holdings社(英国)、Lambda Labs社(米国)に対してGPUインフラを確保するため330億ドル以上を投資する契約を、米Meta PlatformsMeta)社もCoreWeave社と140億ドル相当の同様な契約を結びました。
これらはいずれも今後数年にわたって実行される契約であり、2030年には業界全体で投資額が年1兆ドル以上に達すると見られます。驚くことに、AI投資ブームの頂点に立つNVIDIA社のCEOであるJensen Huang氏は2030年までに業界全体でインフラ投資が累計34兆ドルにのぼると大胆な予想をしています。
このような空前の投資規模をみると、2000年頃のインターネットバブルを彷彿させ、懸念が増すばかりです。ところが、後述するように需要動向を最も知るAI最前線の業界関係者たちはバブルとは考えていません。
これらを踏まえて現時点における当ファンドの投資見解は「一部ではバブルの懸念があるかもしれないので注意が必要。しかしAIが労働生産性、ひいては経済成長にもたらすプラス面も過小評価すべきではない。今後何年も続くメガトレンドになる可能性を秘めている」です。引き続き要注目の「テーマ」と判断します。

AIインフラ投資に対する肯定的意見)

推論の立ち上がりで半導体が圧倒的に不足

業界関係者がAIインフラ投資に対して強気なのは、様々なデータを見ているからです。
大規模言語モデル(Large Language Model、以下「LLM」)を動かすために必要な計算リソースが圧倒的に不足しています。計算リソースとはNVIDIA社、Boradcom社、AMD社などが作っているGPUおよびカスタム半導体(ASIC)のことです。これら半導体はAIサービスを利用する際に、データセンターで行われるデータ処理に必要不可欠なものです。
深刻なGPUおよびカスタム半導体不足問題についてはJensen Huang氏や、元Googleの技術者であり米国の推論用半導体開発企業Groq社CEOのJonathan Ross氏、OpenAI社の共同創業者Greg Brockman氏などが言及しています。
どうしてこのような事態になったのでしょうか?
つい最近までAIインフラ投資にかかわる半導体需要は、LLMを強化するためのデータ学習用が中心でした。ところが最近は、完成度の高まったLLMを活用する、いわゆるインファレンス(推論)需要が立ち上がるフェーズに移っています。LLMは学習用だけでなく推論用にも膨大な量の半導体が欠かせません。社会全体でAIが活用されるようになると、ますます多くの計算リソースが必要となる見込みです。
インファレンス需要が爆発的に増えている理由としては、①AIを日常的に使う利用者数の増加、②利用者による利用時間の伸長、③半導体による行列演算を大量に必要とする複雑・高度な活用事例(タスク)の増加などが挙げられます。
特に③については、従来の単純なAI用途から、昨年頃からReasoning(推論)やAIエージェントといった、より複雑なタスクができるようになったことが関係しています。これらのタスクはより多くのデータ処理、つまり計算リソースを消費します。例えばReasoningは単なる即答でなく人間のような思考プロセスを踏んでいきます。仮説、検証、修正をLLM内部で繰り返して最終的に回答をだすため、ユーザーに見えないところで多くの計算リソースを使うのです。
一方AIエージェント機能は、ユーザーに代わってAIがエージェント(代理人)となってネット上で自律的に検索し、各サイトのページをくまなく読み込んでいき、人間がやるように画面をスクロールしながら連続画像を撮って画像解析・データ蓄積を行います。
計算リソースが十分確保できていないために新規サービスを満足に提供できないといった開発者の不満の声すら挙がっているようです。

過去に起きたインフラ投資との比較

マクロ的な視点で分析したThe Goldman Sachs Group社のレポート「The AI Spending Boom Is Not Too Big」(Joseph Briggs, Oct 15, 2025)によると、現在のAI関連投資規模は米国GDP1%以下の水準に過ぎず、これは過去に生産性革命をもたらしたインフラ投資と比べても低く留まっています(インフレ調整後)。例えば1880年代の米国における鉄道網整備に関するインフラ投資は対GDP比で約3%、1910年代の自動車産業の生産革命は同2%、1990年代のIT革命(オフィスにおけるIT機器導入やインターネット通信インフラ整備)なども同2%程度でした。このため、現在のAIインフラ投資は過大なものではないと結論づけています。

AI需要は短期も長期も猛烈な勢いで伸びる)

足元の伸び率は倍増ペース
CLSA証券が発行するレポート「Tokens tale」ではAI需要を予測する尺度としてトークン数に着目しています。トークンとはLLMがユーザーによる質問・指示などのテキストを理解する際に使う言葉や記号の最小単位です。私たちが普段ChatGPTなどを使って情報検索や画像生成やコーディングなどをする際には、すべてトークン形式で処理されています。長い文章や複雑な情報を扱うほど、LLMが処理するトークン数が増えます。つまりトークン数を見れば、世の中のAI利用量がおおよそ分かるのです。
Google社が毎年開催している開発者向けの大規模イベント「Google I/O」で発表された同社トークン処理数を見ると202412月単月で120兆トークン、20252月に160兆トークン、その後4月には480兆トークンに急増し、7月に980兆トークン、9月には1,300兆トークンまで増加しています。今年2月から増加率が一段と拡大しており凄まじい伸び率です。
中国ではAlibaba Group Holding社がAIインフラ業界をリードしています。9月下旬に開催された「Apsara Conference 2025」ではトークン消費が23か月毎に倍増ペースで伸びているとコメントしています。
これらトークン数のデータはAIインフラ投資が実需を伴ったものであることを裏付けています。

長期でも指数関数的な伸び率が見込まれる
CLSAレポートによると世界全体で処理されるトークン数が10年後に8京(80,000兆)に達すると予測しています。これは2024年末時点のおよそ80倍です。
ここで重要なのは予測の精度が高いかどうかではなく、何が長期的にトークン需要を押し上げていくのかを知ることです。
これまで最もAIが利用された場面は検索、情報収集、リサーチ、記事の要約、翻訳、コーディングなどでした。これにReasoningなども加えた現在の用途は全て文字データを中心とした処理です。しかし今後マルチモーダル(テキスト・画像・音声・動画などの様々な種類の情報を同時に扱えるAI技術)になると、音声、画像、動画データに範囲が広がります。
例えばここ数か月で、エンターテインメント用途として「Nano Banana」などのAI画像生成アプリや「Sora2」、「Veo3」、「Kling」など動画生成アプリのサービスが開始されています。近々AIを活用したゲームソフトなども普及するでしょう。文字情報だけでなく、画像や音声を処理することで計算リソースが一段とひっ迫する状況にあるのです。
エンターテインメントの次に普及するのは完全自動運転の機能をもった自動車や様々な作業をこなす人型ロボットなどいわゆるPhysical AIです。人型ロボットはAIの学習プロセスを使うことで、プログラミングせずに直接動作を学ばせる(トレーニング)ことが可能となりました。これは画期的なブレークスルーです。車もロボットも学習に必要となるのは、画像シミュレーション、音声データなどです。Physical AIの時代でも膨大なトークン需要が予想されます。
ロボット分野で最先端を走っているのはTesla社(米国)やUBTech Robotics社(中国)などです。これら海外企業は人体の複雑な動作をこなせるロボットを開発中です。Tesla社創業者Elon Musk氏によると最大の技術的関門は「人間の手の器用さ」を如何にロボットで再現するかです。同社は現在人型ロボット「Optimusバージョン3」の開発に取り組んでいます。
量産化に成功すれば高品質アクチュエータなどの部品が大量に必要となります。部品サプライチェーンの構築にもしばらく時間がかかりそうですが、日本が同業界をリードしていた頃に比べて人型ロボットの実用化は遥かに現実味を帯びているように思えます。向こう10年以内には製造業の工場や一般家庭にも少しずつ人型ロボットが見られるようになるかもしれません。Elon Musk氏や最前線で開発レースに参戦している中国企業は大真面目に商業化を視野に入れています。
前述したJensen Huang氏が予想する今後5年間のAIインフラ累計投資額34兆ドルはまさにこのPhysical AIの立ち上がりまでを見据えているのです。

AIインフラ投資はハイパースケーラーの潤沢なキャッシュフローで賄われている)

ハイパースケーラーによるAIインフラ投資は健全
現在の巨額AIインフラ投資は、ハイパースケーラー(主にMicrosoft社、Google社、Meta社、Amazonを指す)の本業から得られている営業キャッシュフロー範囲内に十分収まっている点も安心材料といえます。Microsoft社の法人ソフトウェア事業、Meta社のソーシャルメディア事業、Google社の検索広告事業など米国巨大ハイテク企業が展開する本業は今もって伸び盛りです。高水準のAIインフラ投資を継続していくだけの収益力・財務体力が充分にあります。
BofA証券のレポートによると、今2025年のMicrosoft社、Google社、Meta社、Amazon社の設備投資額見通しは合計3,800億ドル程度です。これに対し彼らの営業キャッシュフロー合計は5,300億ドルにも上ります。例えばMeta社は、今年度の設備投資計画を660720億ドルと前年に比べて大幅に増えていますが、営業キャッシュフローは1,000億ドル以上に達する見通しです。本業が絶好調であるため、巨額投資を賄ってなお、多くのフリーキャッシュフローが残り、自社株買いなどを通じて株主還元をしている余裕ぶりです。Microsoft社も1,000億ドル規模の投資全てを営業キャッシュフローで賄えています。
中国ではAlibaba Group Holding社がAIインフラに関する向こう3年間で予定していた設備投資計画を当初の3,800億元から上積みすることを発表しています。同社も投資余力十分です。
今後負債調達に依存したインフラ投資案件も増えることが予想されますが、少なくとも現時点では2000年頃のITバブル時に比べて危険な状況にはないと考えます。

台風の目となっているOpenAI
一方、OpenAI社は未だスタートアップの段階にあり、資金力はハイパースケーラーたちに到底及びません。しかし、同社はLLM開発で最先端を行く生成AI業界のキープレイヤーであるため、強力な外部資金調達力を発揮しています。
自社LLM開発はハイパースケーラーも手掛けていますが、Microsoft社、Google社、Meta社、Amazon社などはいずれもクラウドインフラ事業を掛け持ちしているうえ、それぞれが祖業である検索広告、SNS、企業向けソフトウェア、eコマースなどで圧倒的地位を築いています。これら企業のいずれかがLLM分野においても独占的ポジションを持つようになれば、恐ろしいほど脅威的な企業になってしまうという懸念があります。この動きを牽制する上でも、中立的立場にあるOpenAI社に力を貸そうという思惑が働くのは自然な流れかもしれません。
OpenAI社に対してはNVIDIA社による1,000億ドルの出資(*)をはじめ、ソフトバンクグループなど多くの巨大企業が資金面で強力なバックアップしようと動いています。特にGPUで独占的シェアを謳歌するNVIDIA社は前期実績ですでに640億ドルの営業キャッシュフローを稼ぐハイパースケーラーのような超優良巨大企業です(時価総額は現在世界最大)。OpenAI社のインフラ投資計画も今のところ盤石だと見受けられます。
*)本件に関しては、NVIDIA社がOpenAI社に出資、その資金をもってOracle社にAIデータセンター契約資金を支払い、Oracle社はその資金をNVIDIA社のGPU購入に充当するという資金の流れが循環取引になっているという批判があります。しかし、通常、循環取引は業績低迷に苦しむ企業が倒産を避けるために、顧客企業と共謀して手を染めるといった悪意が前提にあります。そのため、現在成長途上にあるAIインフラ業界は該当しないと考えます。循環取引が粉飾行為であるのに対し、本件は旺盛なAIインファレンス需要に対応するものであり、あくまでベンダーファイナンスと位置付けられます。ベンダーファイナンスは他の産業(一部の自動車ローンや、農業機械、航空機業界、医療機器、産業機械など)では普通のことです。Jensen Huang氏も積みあがるキャッシュの使い道として、「(AIは)自分たちが詳しい分野でもありますし、素晴らしいリターンをあげられる機会であるならば、それは投資すべきです」と説明しています。

AIインフラは投資した分のリターンが得られるのか?)

既存産業からの付加価値シフト
「これだけ投資しても果たして十分なリターンが得られるのか?」は大きく意見が分かれるところです。当然ながら100兆円を超えるインフラ投資に対して資本コストを上回るリターンを得るためには、直感的にも巨額の売上と利益を生み出す必要があることが分かります。
AIはこれまで存在しなかった新たなサービス(AIを活用したエンターテインメントや自動運転サービス、家事手伝いロボットなど)の売上・利益だけでなく、あらゆる既存産業において従来のやり方をAIに置き換えることでAI産業にシフトする付加価値も考慮すべきです。
また投資採算を考える際は、その全額をROI(投資利益率)の分母として見るのではなく、AI投資によって従来の投資が不要となるため、ネットでみた投資額を分母とし、分子にはAI活用によってどれくらい利益額が上乗せされるかを見るアプローチも重要です。
世界の名目GDP110120兆超ドル(約16,500兆〜18,000兆円)にものぼります。他の産業で生み出されている付加価値がAIによって代替されれば、新規需要とあわせて、100兆円程度の投下資本に対し相応のリターンを挙げることは極端に非現実的なシナリオではないかもしれません。
例えば、Meta社、Google社、Amazon社、Netflix社などは、2010年代から既にGPUを活用したAI技術で、ユーザーへの推奨を自動的に行う機能を高度化させてきました。これは広告業界における付加価値シフトです。近年の各社の力強い業績拡大には、こうしたAI投資の成果がすでに一因となっているのです。

消費者余剰
とはいえ、多くのAIビジネスは未だ収益化途上であるのも事実です。現在は一部の個人ユーザーによるサブスクリプションフィーや法人用途のAPIApplication Programming Interface)に対する利用料が対価として支払われているにすぎません。
しかし、AIの有用性は誰もが感じているところです。これは経済学用語でいう消費者余剰(Consumer Surplus)が生み出されている状態です。消費者余剰とは消費者がある財やサービスに対して支払ってもよいと考える最大金額と、実際に支払った市場価格との差額のことを指します。消費者が得た「お得感」や満足度を示す指標です(*)。
現在、足元で起きているAIの驚異的な性能向上を踏まえると、消費者余剰は今後ますます拡大していくでしょう。
消費者余剰が感じられるということは理論上、有料化されても消費者がサービスを使い続けるためにそれを受け入れることを意味しています。収益化する道筋を描きやすい状況です。有料化のアイデアは単なる月次課金だけではありません。先日OpenAI社が発表した「Instant Checkout」ではショッピング利用毎に手数料を得たり、広告モデルによる売上が考えられます。あるいはソフトウェアサービスによる成果型課金など様々な手法が今後検討されるでしょう。
*)例えばグーグルマップは、以前のように紙地図に出費したり、ルートをわざわざ調べたりするような手間がかかりません。インターネットさえあれば、無料で世界中の地図が手に入る上、使い勝手も行き先ルート案内、店舗情報など様々な現地情報が随時アップデートされます。有用性を考えると消費者余剰が極めて大きい必需品といえます。AIサービスの利便性もこれに近いものがあります。

(結論)

短期的な過熱感はあるかもしれませんが、当ファンドでは関連銘柄の保有を継続しています。その理由を以下のように考えます。

  • 当ファンドはAI関連銘柄について株価が十分に割安な水準で投資している
    ソフトバンクグループは時価純資産価値に対して平均40%以上安い水準で購入しました。また組入銘柄である東京エレクトロンもAIインフラ投資ブームでメモリ半導体の需要ひっ迫の恩恵を受けています。半導体製造装置を手掛ける同社には2022年の米中半導体貿易摩擦が勃発した際に、世界中の半導体関連銘柄が大幅下落したタイミングで投資をしています。また、AIデータセンターに不可欠な電力システムの提供を期待される日立製作所には、2021年に当時PER(株価収益率)10倍程度の水準で投資を行っています。こちらもAIテーマが顕在化する以前のことです。
  • AIは当ファンドのポートフォリオにおける投資テーマのひとつに過ぎない
    現在当ファンドが投資している分野には、AI以外にも損保、エンターテインメント、コンビニ、ハウスメーカー、インバウンド関連、総合商社など様々なものがあります。これらの投資先企業が事業展開している地域も、日本、米国、欧州、中国、インド、東南アジア、オセアニア、その他地域と多岐にわたっています。株価バリュエーションも様々です。高成長に伴い、高いPERがつけられているグロース株だけでなくPER10倍前後、総還元利回りが5%以上のバリュー株として放置されているような「隠れた成長銘柄」もあります。したがって、当ファンドは高度に分散されたポートフォリオになっていると考えます。
  • AIに関する投資機会は引き続き相対的に魅力である
    数多ある投資機会のなかでAI関連は相対的に有望です。例えば、時価総額上位の常連である自動車メーカーは厳しい米国関税に直面しているだけでなく中国EV(電気自動車)メーカーの脅威にも近年晒されています。外部環境が構造的に厳しくなっているにも関わらず、日系メーカーによる経営スピードの遅れが目立ちます。このような産業に比べてAIのトレンドは長期展望が明るく、よりエキサイティングであると考えます。

保有は継続していますが、夏場以降当ファンドではAIテーマに対し更なる買い増し、トレンドへの追随はしていません。またこのままAI関連銘柄の株価上昇が続くこともないと考えます。今年1月の「DeepSeekショック」のように、相場が動揺することもあるかもしれません。しかし、総合的に勘案すると現状の投資規模を維持していくことが最良の投資判断であると考えます。

(追録:高市新首相について)

新内閣でもコーポレートガバナンス改善は止まらない
最後に、当月は高市早苗氏が総理大臣として就任することがニュースとなりました。
アベノミクスの継承者とも言われている高市氏は、積極財政を掲げ、ハト派的な金融政策論者であるとされています。またAI、半導体、宇宙、防衛関連などで日本が独り立ちできるよう産業強化を後押しする構想も持っています。短期的には景気刺激型の政策運営が期待される一方、長期的にはインフレの副作用などがリスク視されるでしょう。
アベノミクス導入時と違い、今日の日本経済は需要不足というより供給不足の状態にあります。「サナエノミクス」が果たして今の日本経済にとって得策なのか、また財務規律の変化については経過観察が必要となりそうです。
政権交代が日本株式市場に長期的にもたらす影響は明確ではありません。しかし唯一確かなのは2014年頃から日本で着実に進展しているコーポレートガバナンスの改善についてはいかなる政局変化があったとしても継続するであろうという点です。
ガバナンス改革路線が変わらないことは一見当たり前に思えるかもしれませんが、お隣の韓国では政権が変わることによって、政府と(経済に大きな影響力を持つ)財閥グループとの距離が微妙に変化し、最近の政権交代劇の際には市場改革の進展が一時危ぶまれました。これに対し、日本はどの政党が政権を握っても、気運が後退するようなシナリオは考えづらいというのは安心材料です。
一国の顔である首相はその国の印象を決めますが、株式投資で大切なのはあくまで民間部門における個別企業の力です。トランプ米大統領の就任が米国のイメージを低下させた感はありますが、それでも米国株式市場が上昇を続けているのは良い例です。

日本の対米投資について
日米の関税交渉で合意した日本による米国への巨額直接投資の一環として当月28日、「日米間の投資に関する共同ファクトシート」が発表されました。詳細は明らかになっていませんが、広範囲にわたって日本企業の関与が決定しています。報道によると当ファンドの組入銘柄であるソフトバンクグループ(大規模電力インフラの構築と運用)と日立製作所(電力の長距離送電網関連)が主要協力企業として名前が挙がっています。
米国は長年にわたって製造業の空洞化が進み、様々な国内インフラおよび防衛産業をテコ入れしたくても、自力で達成できないほど深刻な状況にあります。そんななかで中心的な役割が期待されるのが日本です。日本の製造業インフラはバブル崩壊後のデフレ環境下でも多くの企業で温存されてきました。抜本的なリストラや完全撤退に踏み切れない日本の対応スピードの遅さが揶揄された時代もありました。しかし、米国と中国による覇権国家争いという新たなレジームにおいて、日本のモノづくり優位性が脚光を浴びる時代が来るのではないでしょうか。

今後の運用方針

当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年9月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年9月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.98%上昇、日経平均株価は同5.18%上昇いたしました。
 月前半は、Alibaba Group Holding社(中国)による新AI(人工知能)チップ発表をきっかけに米中の技術競争激化が意識され、米国のAI関連株が軟調となり、日本株式市場でもハイテク株中心に下落いたしました。その後、トランプ米大統領が日米間の自動車関税引き下げを盛り込んだ大統領令に署名したことが安心感につながり、相場は持ち直しました。
 月半ばにかけては、米国雇用統計が市場予想を下回り、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測が高まったことや、石破茂首相の辞任表明を受けて次期政権への政策期待から日本株式市場は上昇しました。米国株式市場では半導体やAI関連銘柄が市場を牽引し、日本株式市場でも関連株の物色が広がったほか、その他幅広い銘柄に買いが波及しました。日経平均株価やTOPIXは高値更新を続け、相場上昇のモメンタムが継続しました。
 月後半は、FOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げ再開の決定と年内の継続的な利下げ見通しが示されました。翌日の日銀金融政策決定会合では、政策金利は据え置かれたものの2名の審議委員が利上げを提案し10月の利上げ確率が上昇した他、保有するETF(上場投資信託)の売却を決定したことで指数が一時急落しましたが、売りが一服すると下げ幅を縮め、相場は底堅さを維持しました。
 月末にかけては、米国経済指標が堅調だったことから米国の積極的な利下げ期待が後退し、米国株が反落した流れが波及した他、自民党総裁選を控えていることなども重なって日本株式市場は軟調に推移しましたが、月全体としては前月末対比大幅高の水準で当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.99%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同2.98%の上昇を1.01%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、ソフトバンクグループ、東京エレクトロン、ソニーグループなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、リクルートホールディングス、日立製作所、ダイキン工業などでした。

 2025年6月の運用コメントでは新規投資銘柄として日本の住宅メーカー3社(積水ハウス、住友林業、大和ハウス工業)をご紹介しました。
 積水ハウス、住友林業、大和ハウス工業各社において米国事業が占める比率は1割~8割程度と幅があります。よって、3社に分散投資することで、バランスのとれたエクスポージャーがとれると考えます。
 昨年半ば頃より米国の新築戸建市場は調整局面入りしています。要因は、住宅ローン金利が高止まりしていること、そしてインフレにより建設コストが上昇しているために、新築住宅価格が高騰し、一般消費者の手が届く範囲を超えてしまっているためです。これは中古市場における成約件数が細っていることや、購入よりも賃貸需要のほうが高まっていることからも説明できます。
 当ファンドでは、事業環境が悪いときこそ割安な株価で投資できる絶好のタイミングと考え、買いを進めているのは2025年6月の運用コメントでご説明したとおりです。
 当月はこれら3社の投資魅力と財務課題、および今後とるべきと考える財務戦略についてご説明します。

各社の投資魅力

 これら住宅メーカー3社は投資魅力が少しずつ異なります。以下、簡潔に列挙します。

積水ハウス

    • 2024年に現地上場ホームビルダーM.D.C. Holdings社(米国)を買収し、事業規模が大きく拡大。全米シェア5位と3社中で最大手。
    • 買収は新株発行を伴わない現金で行ったため、一株当たりの利益希薄化は起きない。米国住宅市況が回復すれば現地グループ会社間のシナジーも見込まれる。
    • 連結消去前営業利益に占める海外比率は約21%(2025年1月期実績)。米国住宅市況が正常化すれば連結業績に対して3割強の貢献が予想され、3社のなかでは中位程度。
    • 中高価格帯物件に注力。日本発の自社製戸建の設計・製造ノウハウを移植することに意欲的。
    • 同社全体では日本国内の戸建、集合住宅の開発・販売、リフォームや賃貸管理、不動産仲介、国際事業など多岐にわたっており、リスク分散された事業ポートフォリオを持っている。
    • 日本国内でREIT(不動産投資信託)組成の実績がある。米国住宅事業では資本効率向上が求められるため将来のノウハウになる可能性がある。
    • 予想PER(株価収益率)9.6倍、PBR(株価純資産倍率)1.1倍、予想配当利回り4.3%、過去10年平均ROE(株主資本利益率)約11%、過去10年営業利益CAGR(年平均成長率)8%。(*)

(*)資料作成時点で取得可能な数値を記載しています。

住友林業

    • 近年の米国進出は3社の中で最も早く、事業歴が豊富。
    • 海外で豊富な買収実績を持つ。米国では非上場の現地オーナー系ホームビルダーの小規模買収を重ねて、グループ全体で全米トップ10に入る規模に成長。
    • 豪州においても2024年の買収(5割出資)でトップシェアになった。
    • グループ全体では日本で8,000戸、米国で10,000戸以上、豪州7,000戸という体制になり、米豪という有望成長市場のプレゼンスが高い。連結消去前営業利益に占める海外比率は76%(2024年12月期実績)。
    • 各買収先と調達、物流、生産分野で緩やかな連携を進めている。
    • 買収先は100%持分ではないため、当期利益の水準に比べて少数株主利益が大きい。将来の株主価値の改善余地として少数株主持分の取り込みによる完全子会社化が期待できる。
    • 予想PER11.3倍、PBR1.1倍、予想配当利回り2.8%、過去10年平均ROE約12%、過去10年営業利益CAGR19%。(*)

(*)資料作成時点で取得可能な数値を記載しています。

大和ハウス工業

    • 連結営業利益に占める海外比率は約13%(2026年3月期計画)。
    • グループ全体としては戸建て以外に、商業施設、物流施設、事業施設、賃貸住宅などを手掛けており、リスク分散されている。グローバルでみてもユニークな事業ポートフォリオを持っている。
    • 現状の米国戸建事業の売上構成比は3社のなかで最も小さいが、過去に買収した3社間での集中購買や工期短縮などのシナジー効果が順調に進んでいる。また買収以降のこれら現地企業の業績伸び率が顕著。
    • 現行の第7次中期経営計画では、米国を含む海外売上1兆円(全体の18%)、同営業利益1,000億円(全体の20%)を目指している。
    • 前四半期業績は競合2社の米国事業が市況悪化によって売上、利益、受注高など前年比減少を余儀なくされるなか、同社は底堅く推移。
    • 予想PER12.9倍、PBR1.3倍、予想配当利回り3.2%、過去10年平均ROE約13%、過去10年営業利益CAGR12%。(*)

(*)資料作成時点で取得可能な数値を記載しています。

財務戦略についての考え方

 各社に共通している戦略は、当面米国市場でプレゼンスを高めて成長を取り込むことです。しかし同時に、日系ハウスメーカーは資本効率を向上させるような財務戦略へシフトすることも必要だと当ファンドでは考えます。
 一般的に米国の戸建事業は、土地を手当てし、上物を建て、販売に至るまで自社のバランスシートで在庫を抱えます。特に将来の土地値上がりを前提に底地を仕入れ、値上がり益を享受できるタイミングまで抱え続けるビジネスモデルであるため、多額の運転資金を必要とします。日本の戸建事業は、建築請負型であるため財務負担が軽微であるのに対し、米国の戸建事業は資本集約的にならざるを得ないのです。
 このため米国のホームビルダーは、一般的にROEは高くてもキャッシュフローの創出力が弱く、当期利益に対するフリーキャッシュフローの水準も低く留まるという課題があります。すなわち、日系メーカーは米国売上比率が上がるほど成長加速と引き換えに財務負担が増し、資本効率の重しになることを意味するのです。これをどう考えるべきかがポイントとなります。
 参考事例として主要上場ホームビルダーの1社であるNVR社(米国)が挙げられます。同社は土地の手当てをする際に、デベロッパーに保有してもらい、同社が戸建を完工後に、同デベロッパーから市場価格よりもやや高い水準で在庫として買い取り、期間をかけずに最終購入者に売り渡すという独自のビジネスモデルを追求しています。同社の所要運転資金は同業他社に比べて少なく、資本効率性は業界内で随一です。結果、同社の株式市場における評価は予想PER約19倍と、同業他社を大きく上回る優等生です。
 近年はNVR社に見倣って、同業のDR Horton社、Lennar社もREITスキームや土地を保有する子会社のスピンオフを活用するなど、運転資金の効率化に取り組み始めています。
 当ファンドは、日系ハウスメーカーの米国事業比率が益々高まるなか、早い段階から資本効率の改善に取り組む必要があると考えます。NVR社のように運転資金の短期化を実現できれば、高ROE、フリーキャッシュフロー創出力の向上を両立でき、ひいてはPERの切り上がりにつながると考えられます。
 当ファンドでは各社経営陣に同課題についての問題意識を持ってもらうよう働きかけていく方針です。

「国策に売り無し」?

 2025年6月の運用コメントで解説したとおり、米国戸建市場は日本と異なり長期的に成長市場(*)であるうえに、慢性的な物件供給不足で住宅ストックが足りていないことがハウスメーカーにとって魅力的な市場になっています。
(*)反対派の意見としては、高齢化するベビーブーマー(出生率が上昇した1946年から1964年頃に生まれた世代)が今後自宅を手放すケースが増えるとの見方があります。相対的に裕福なベビーブーマー達は持ち家比率が特に高いうえ、別荘なども含め複数の物件を所有している人が少なくありません。これらの人々が亡くなっていったり、介護施設に移転することで、中古物件が市場に放出される可能性があります。これに対し、当ファンドでは、ベビーブーマーの自然減のトレンドは緩やかであること、また老朽化のために取り壊しを必要とする物件も多いと予想されるため、需給バランスは大きく崩れないとみています。核家族化、移民流入も継続するため世帯数の増加は続くでしょう。

(供給サイドで考えられる政策)
 その米国において729日、上院銀行・住宅・都市問題委員会が「ROAD to Housing Act」の法案修正審議を行い、全会一致で可決しました。住宅関連法案としては約17年ぶりのことであり、最終的に議会を通過すれば、具体的なアクションとしてゾーニング規制の緩和や連邦政府が所有する土地の売り出しなどの政策出動が考えられます。これは供給不足の解決に向けた重要な一歩です。
 また、ベッセント米財務長官は当月初旬、複数のメディアに対しトランプ大統領が今秋に「National Housing Emergency(国家住宅緊急事態)」を宣言する可能性があると述べました。
 同宣言は、「National Emergencies Act(国家緊急事態法)」に基づき、大統領に予算の再配分、規制の迅速な変更など追加の執行権限を与えるものです。これにより、議会の承認を待たずに迅速な行動が可能になります。住宅分野で同宣言が出されれば、こちらも2008年の金融危機以来17年ぶりのことになります。2026年の中間選挙を控えて、トランプ政権による同分野への積極的な政策対応に注目です。
 ROAD to Housing Actはいわば議会(超党派)による法案であるのに対し、ベッセント氏の発言はトランプ政権による法案の取り組みと言えます。法案を巡ってしばしば対立する双方(および共和党、民主党)にとって住宅問題がいかに切迫した課題であるかがみてとれます。

(需要サイドで考えられる政策)
 上記施策は住宅供給不足の解消を目指すものですが、需要側の施策も重要です。
 マイホーム購入を考えている人にとっての最大の関心事は金利動向です。市場金利は住宅ローン金利に直接影響しますが、現在の金利水準は高すぎる状態です。
 借入コストを下げるための手段はいくつか考えられます。例えば、FRB2022年から積極的な利上げを開始すると同時に、住宅ローン担保証券(MBS)の保有を縮小してきましたが、MBS保有残高の維持に方針転換すれば元本償還分をより多く再投資にまわすことができます。これによりFRBによるMBS需要が高まり、住宅ローン金利に下押し圧力がかかると予想されます。
 同様に、GSEGovernment-Sponsored Enterprise、政府援助法人)であるFannie MaeとFreddie Macも、2008年の金融危機以降、MBSの保有を減らしてきましたが、市場への再参入が可能です。
 さらに、FRBは短期金利の引き下げと同時に、長期債の購入を通じたイールドカーブ・コントロールを再開することも考えられます。住宅ローン金利を決める際のベースとなる10年金利を下げられれば住宅ローン需要の刺激につながります。
 業界アナリストによれば、住宅ローン金利が現在の6%以上から5%程度に低下すれば、住宅購入の負担が軽減し始めます。金利低下は、高金利による「ロックイン効果」(*)を緩和し、既存住宅市場の供給が増えることで、戸建価格上昇を抑制する効果も期待できます。
 これは、金利低下が住宅価格インフレを再燃させるという懸念に反するものですが、一定の説得力がある見方です。また、経済全体においてAIによる労働生産性向上がデフレ圧力として作用し、今後の持続的な金利低下の道を開く可能性がある点も注視すべきです。
(*)低金利時代に住宅ローンを組んだ購入者が多いため、現在の高金利環境下では、既存住宅を売却して高い金利で借り換えようとするインセンティブが少なく、中古住宅市場で構造的な供給不足が続いている。

(相場の格言)
 株式市場には古くから「国策に売り無し」という格言があります。これは、国の政策に沿った企業や業種の株は売るべきではない、むしろ買いのチャンスであるという考え方を表しています。つまり、政府が力を入れて推進する分野には資金や支援が集中しやすく、その関連企業は業績が伸びやすく、株価も上昇する可能性が高いということです。
 当ファンドが考える株式投資は、あくまで外部環境に左右されずに自力で成長を続けられるビジネスを理想としますが、「国策に売り無し」の格言が当てはまる投資テーマも十分に投資妙味に値すると考えます。

バスケット買いアプローチ

 今回のように当ファンドではひとつの投資仮説に基づいて、複数の銘柄にまとめて投資するというアプローチをとることが往々にしてあります。
 2010年代前半の総合商社4銘柄(現在では三菱商事1社のみ保有)への投資、2022年の損保グループ3銘柄(現在も全て保有)全ての買い付けなどが該当します。
 このように同一業種内で投資対象となりうる企業が複数存在する場合があります。企業調査・分析の結果、それぞれ事業内容は少しずつ違いつつも、

  • 業績ひいては株価を牽引する要因が共通していると考えられる
  • 株価リスクリターンの面で甲乙つけがたい

 というような時は、あえてひとつに絞り込むよりも、まとめて投資します。複数の銘柄を通じて大きなポジションをとれるのがメリットです。
 日系ハウスメーカーへの投資についても同様です。今後継続調査していく過程で銘柄数を絞り込んでいく可能性はありますが、現時点ではそれぞれに甲乙つけがたい投資魅力があると当ファンドでは考えます。

Berkshire Hathaway

 また今回の日系ハウスメーカーへの投資は、奇しくもウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社Berkshire Hathaway社(米国)が米国の大手ハウスメーカーのLennar社、DR Horton社へ新規投資した時期と重なりました。
 長期投資の象徴的存在とも言えるBerkshire Hathaway社と当ファンドの投資行動が一致していたのは今回だけではありません。2020年にバフェット氏が日本の総合商社株保有を開示した時も同様でした。長年日本株に対して消極的であった同氏が投資に踏み切った最初の銘柄が当時株式市場で注目されていなかった総合商社であったことに世界は驚きました。
 当ファンドでも三菱商事に投資して以来保有を続けており、バフェット氏の株式投資に対する考え方に通じるものがあると感じます。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年8月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年8月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比で4.52%上昇、日経平均株価も同4.01%の上昇となりました。
 月前半は、米国の雇用統計で非農業部門雇用者数が市場予想を下回り、労働市場の軟化が意識されたことで米国株が急落しました。その影響を受けて日経平均株価も急落し、一時4万円を割り込む場面もありましたが、雇用統計の弱さが米国利下げ期待を高め、世界的な株高を誘発しました。加えて、国内では主要企業の好決算により企業業績の底堅さが再認識され、日本株式市場は一段と騰勢を強める展開となりました。こうした強い上昇基調のなか、月半ばにはトランプ米大統領が対中相互関税の一部を再び90日間延期すると発表し、投資家心理に安心感を与えたことから株式市場は続伸し、日経平均株価は連日史上最高値を更新しました。
 その後、月後半にかけてはジャクソンホール会議を控え様子見ムードが広がり、利益確定売りも重なって調整色が優勢となりました。ジャクソンホール会議では、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演が9月の利下げ観測を一段と強めるものとなったほか、米国のNVIDIA社が中国向け輸出に関する不安を残しつつも堅調な決算を発表したことも市場を支え、米国株式市場は堅調に推移し、日本株式市場も底堅い動きを見せ、前月末比で大幅高となって当月を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐4.02%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.52%の上昇を0.50%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、ソフトバンクグループ、オリックス、ソニーグループなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、日立製作所、東京エレクトロン、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。

ソフトバンクグループ

2015年当初からの投資理由
 当月はソフトバンクグループの株価が大きく上昇しました。
 当ファンドが同社への投資を最初に開始したのは20158月に遡ります。2022年に完全売却した経緯(*)がありますが、2024年に投資を再開し、2025年の第2四半期(46月)期に積極的な買い増しを行いました。その後株価が急騰し、当月末現在で上位組入銘柄になっています。
*)当時売却の背景:2022年の世界的な金利上昇を受けて、ベンチャーキャピタル(VC)業界全体が苦境に陥ったことで投資理由を見直しました。同社のSoftBank Vision FundSVF)事業の回復には相当な期間を要する可能性や、また投資先企業が業界全体の回復を待たずに事業が行き詰まるリスクなどを考慮しました。また同社の主要投資先であったAlibaba Group Holding社(中国)も、中国のeコマース(電子商取引)業界でこれまで圧倒的なシェアを背景に急成長を遂げていましたが、当時の中国政府によるインターネット企業への厳しい監視・規制から、先行きの厳しさを懸念したためです。
 現在の同社に対する評価ポイントは2015年に初めて投資をした当時と大きく変わっていません。(20158月の運用コメント参照)すなわち、以下の2点です。

1.日本が誇る希代の起業家である孫正義社長に対する期待

2.保有している投資資産に比べて同社株価が大幅に割安であること

 目下、同社は戦略的投資持株会社として「情報革命で人々を幸せに」という経営理念のもと、AIArtificial Intelligence:人工知能)・ASIArtificial Super Intelligence:人工超知能)に関連する投資事業に邁進中です。
 今年1月、中国製AIDeepSeek」の登場により、世界的なAIインフラへの過剰投資が懸念されましたが、その後も米国の巨大ハイテク企業のAI関連設備投資に陰りは見られません。
 そもそもAI用途はテキストや画像の生成だけに留まらず、今後、人型ロボット(いわゆるPhysical AI)普及のためのトレーニングや、未だ人類が解決できていない難問(難病治療方法など)に取り組むには、膨大な数のGPU(画像処理半導体)やAIデータセンターの建設など、まだ多くの投資が必要になるというのがAI研究者達の共通見解のようです。
 このような環境下で、ソフトバンクグループは投資ポートフォリオの筆頭企業としてArm Holdings社(英国、以下「ARM社」)を保有しています。孫社長が惚れ込んで2016年に買収に踏み切った同社最大の投資先です。
 AIインフラ整備には膨大な半導体処理能力(計算資源)が欠かせません。ARM社は低消費電力でこれらを運用するために欠かせない半導体技術を提供しています。また推論で使われるAIエッジデバイスなどいずれ普及する時も重要なプレーヤーになることが予想されます。
 現在ARM社は次世代CPUCSSCompute Subsystem)の開発強化のため、エンジニアを毎年1,000人単位で拡充しています。2023年再上場時のエンジニア数が4,700人程度だったことを踏まえると、これは大幅な拡充です(*)。先行投資のため、短期的な利益の急伸は期待しにくいものの、長期的な成長は引き続き期待されます。ソフトバンクグループは米国上場しているARM社の約9割を保有しています。
*)この積極的な人材投資は、2016年にソフトバンクグループによってARM社が非公開化された際の戦略を彷彿とさせます。当時、孫社長は大胆にもARM社のエンジニアを大幅に増員する決断を下し、その結果、収益性は一時的にほぼ損益分岐点まで低下しました。しかしこの施策により、ARM社は製品ポートフォリオを携帯電話以外にも拡大し、サーバーや自動車向けアプリケーション、IoTデバイスなどの分野へと展開することが可能になりました。

OpenAI
 おそらくソフトバンクグループの投資ポートフォリオの中で最も大きな変化は、今年に入りOpenAI社(米国)が新たな主要投資先として存在を増したことでしょう。同社は今年4月までにOpenAI社に対して約100億米ドルの投資を完了させています。この時のPre-money valuation(資金調達前の企業価値)は2,600億米ドル(*)でした。さらに今年12月までには同条件で225億米ドルの追加投資が予定されています(**)。
*)当月中のメディア報道によると、現在5,000億米ドルという最新評価額でOpenAI社による売り出しが検討されている模様です。
**)現在、OpenAI社は最大出資者であるMicrosoft社(米国)と企業形態の転換可否について交渉しており、OpenAI社が営利企業化できなければ、追加投資額は100億米ドルに縮小される予定です。

 OpenAI社は「ChatGPT」というアプリ名で世界中の人々に瞬く間に認知されるようになりました。アプリのランキングをまとめているSensor TowerSimilarwebのデータによると、ChatGPTはすでに消費者向けAIアプリとして圧倒的市場シェアを誇っているのが確認できます。
 一般的に、消費者向けAIアプリはFacebookのようなSNSに比べればユーザーによる他社アプリへの乗り換えハードルは低いと言われています。しかし最近明らかになりつつあるのは、人々がAIアプリを単なるリサーチツール、生産性ツールやコンテンツ作成ツールとしてだけでなく、「話し相手」や「自分に親身になってくれる相手」としての価値を見出され始めている点です。またAIメモリ機能の拡張による、パーソナライズ化が一定の範囲で可能となれば(*)、利用者を自社アプリに留まらせる強力な誘因になると予想されます。
*)ただし、AIアプリの過度なパーソナライズ化は「AI依存」などの倫理上の問題が出てくるため、業界規制の動向を注視していく必要がありそうです。

 ChatGPTは登場してからわずか3年程度で、すでに1週間当たりの利用者(Weekly Active UsersWAU)7億人に達し(今年3月末の5億人から引き続き大幅増)、利用頻度、利用時間も高成長を続けています。ユーザーが同一のものを使い続けることで他社アプリへの切り替えが起きにくくなり、スイッチングコストが高い魅力的なビジネスになるポテンシャルを秘めています。
 さらに法人向けでも500万社が利用しており、Anthropic社(Claude)やGoogle社(Gemini)と並ぶトッププレーヤーです。法人用途では顧客企業の社内データを読み込ませることでAIシステムを作りこんでいく作業が発生する分、法人向けビジネスのほうが、スイッチングコストが高い(=参入障壁が高い)ビジネスに発展しやすいという考え方があります。
 OpenAI社はソフトバンクグループの投資ポートフォリオにとって、ARM社と同等もしくはそれ以上に重要な投資先になりうる可能性があります。

ベンチャーキャピタル業界
 AI関連投資にばかり注目が集まりがちですが、VC業界全般に明るさが少しずつ戻ってきたことも、当ファンドが同社に対してポジティブな見方を強めたもうひとつの理由です。これは同社のSVF事業にとっての転換点となるかもしれません。
 例えば今年7月に米国でFigma社というハイテク企業が華々しく新規上場しました。Figma社はSVF事業の投資先ではありませんが、AIをアプリケーションに取り入れたデザインソフトウェア企業で、創業時からVCから資金を受け入れることで成長を続け、今般上場に至りました。世界的な金利上昇を背景に近年VC業界は冬の時代を余儀なくされましたが、強力なスポンサーとしてVCがついている企業が大型上場にこぎつけたのは実に4年ぶりです。この一件は、シード投資からエグジットまでの投資サイクルがVC業界で再び回り始めたことを印象付けました。SVF事業が保有する多くの投資案件にとってエグジットしやすい環境がようやく整ってきているのかもしれません。資金回収が進めば、ソフトバンクグループにとって重要な投資資金の拡充につながります。

AI全般の見方
 これら基調トレンドから言えるのは、少なくともAIの実用性については「本物である」ということではないでしょうか。たしかにAIインフラ整備の面では過剰投資(バブル)の懸念が残ります。しかし例えばFacebookで有名なMeta Platforms社(米国)はAIを駆使することで、既存事業の成長を加速させています。主力のSNS事業において広告配信や広告作成(クリエーティブ分野)の自動化を進めていることが要因です。一方、ソフトウェア業界全体では、コーディング業務などがAIに代替されることによってプログラマー人員の適正化(=削減)が行われつつあるのも、AI投資が着実に経済的成果を生み始めている証左です。

株価バリュエーション
 ソフトバンクグループのバリュエーションに目を転じると、最新決算説明資料に掲載されている86日時点のNAV(時価純資産額)は29.6兆円でした(*)。これに対し時価総額は当月末時点で約23兆円です。
*)当月末時点のNAV29.8兆円、OpenAIの追加投資が最大額実行される前提では約33兆円(当ファンド推定)

 NAVは現在保有している投資資産とそのために必要な有利子負債額からある程度定量的に見積もることができます。なお同社の20263月期第1四半期決算発表時における同社投資ポートフォリオに占める主要資産の内訳はARMが約46%、SVF事業が約30%、その他(上場通信子会社ソフトバンク、OpenAIなど)が約24%です。OpenAIの構成比は現状1割以下ですが、予定されている追加投資や最新の評価額を考慮すれば、すでにARM社、SVF事業に次ぐ規模になっていると判断できます。
 当月の株価急騰によって、NAVに対する株価ディスカウントは2割程度まで縮小しました。今後は同社株に対する適正なディスカウント率をどう考えるべきかが焦点になりそうです
 同社は自らを「戦略的投資持株会社」と位置付けています。通常、上場株式投資のみを行う投資事業会社の場合、一般投資家から見れば各投資先の株を株式市場で直接買うことができてしまいます。それぞれの人が自前で最適ポートフォリオを組めるので、わざわざ当該投資事業会社を通じて投資する必要がありません。従って、このような投資事業会社の株価は保有している投資資産の合計よりも低く評価されてしまうのが一般的です。このような状況を「コングロマリットディスカウント」と呼んだりします。
 この点について、当ファンドは20248月の運用コメント「コングロマリット型投資事業会社への投資の考え方について」のなかで以下のような見解を述べました。

「同社のコングロマリットディスカウントはやや不当に大きいと考えられます。(中略)ソフトバンクグループはARM社の9割を保有し(連結対象)、経営にも関与できる立場にいます。すなわち、ソフトバンクグループへ投資することは実質的にARM社へ投資することと同等の意味を持つのです。」

 ARM社は浮動株が少ないため、機関投資家などが同株の間接保有を目的にソフトバンクグループに投資する可能性があります。またソフトバンクグループはARM社以外にも、自社でStargate事業、企業用最先端AI「クリスタル・インテリジェンス(Cristal intelligence)」、Ampere Computing Holdings社(米国)買収、Intel社(米国)への出資など様々なAI関連事業を手掛けようとしています。同社傘下企業・事業群を一つのグループとしてみなす事ができれば、ARM社単体よりもソフトバンクグループを通じてエクスポージャをとりたい投資家が増えても不思議ではありません。
 OpenAI社株の重要性も増しています。今のところ非上場のOpenAIに対し投資家がエクスポージャをとれる日本株はソフトバンクグループのみです。さらに約8兆円の公正価値があるSVF事業にもByteDance社(中国)、Klarna Group社(スウェーデン)、Revolut社(英国)、PayPay社などの未上場株があります。
 このように、外部投資家が同社株への投資を通じてしか保有出来ないような事業や投資資産が増えてきているのは確かです。これらの企業や事業のオーナーになりたければ、ソフトバンクグループの株主になるしかないのです。以上の理由から、同社を評価する際には以前のような45割ディスカウントが当たり前、という考えに縛られなくてもよいと当ファンドでは考えています。

ファンドの期待リターン>市場の期待リターン

 当月、東証株価指数(TOPIX)が前月に続いて最高値を更新しました。これに合わせて当ファンドの基準価額も約1年ぶりに設定来最高値を更新し、年初来騰落率もプラスに転じました。
 一方、当月のソフトバンクグループのような大きなプラス貢献があっても、当ファンドの年初来からのリターンは市場全体と比べるとそこまで力強くありません。いわゆる、「市場に対して負けている」ことになります。
 この点について当ファンドはあまり大きな懸念をしておりません。東証株価指数は堅調な値上がりにより今期予想PER(株価収益率)は一時17倍以上まで切り上がりました。今年前半に見られたPER1314倍と比べると、もはや以前ほど割安感は強くありません。これに対し、当ファンドのPERは当月末時点で15倍程度です。
 実際には、当ファンドのPERはさらに低いと思われます。例えば主要組入銘柄のひとつであるセブン&アイ・ホールディングスは、会計基準をIFRS(国際財務報告基準)前提にすると、今期予想PER19倍程度(日本会計基準)から13倍程度(IFRS基準)へ一気に下がります。同社はIFRSへの移行を数年後に控えていますので、これだけでも当ファンドの実質的なPERがより低い水準にあることが分かります。つまり、今後の期待リターンという意味では、株式市場全体よりも当ファンドのほうが魅力的であると考えているのです。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年7月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年7月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.17%上昇、日経平均株価も同1.44%の上昇となりました。
 月前半の日本株式市場は、前月末の急騰を受けた利益確定売りが優勢となるなか、米国による相互関税の動向や参議院議員選挙で与党が苦戦するとの見通しなど、先行きへの不透明感が強まり、株価の動きは限定的となりました。また、米NVIDIAによる中国向けAI半導体の輸出再開報道や、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長解任を巡る話題など、強弱入り混じる材料が相次いだこともあり、株式市場は方向感に乏しく、もみ合いが続く展開となりました。
 月後半に入ると、20日に実施された参議院議員選挙では、与党が非改選議席と合わせても過半数を獲得できなかったものの、市場では想定内の結果と受け止められたため、連休明けの22日の株式市場への影響は限定的に留まりました。翌23日には、日米通商交渉の合意が報じられたことで株価が一気に押し上げられ、24日のTOPIXは過去最高値を更新し、日経平均株価も急騰する展開となりました。その後は、急ピッチな株価上昇に対する過熱感から一時的な調整が入ったものの、月末には米ハイテク銘柄の好決算の影響などを受けて反発し、日本株式市場は前月末比で大幅高となって当月を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.90%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同3.17%の上昇を2.27%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、日立製作所、ソフトバンクグループ、オリックスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、信越化学工業、ソニーグループなどでした。

ポートフォリオの差別化

 2021年9月の運用コメントではポートフォリオが差別化されていることの重要性についてお話しました。
 当ファンドが考える理想的な「差別化されたポートフォリオ」は、株式市場全体(=インデックス(株価指数))と比べて自分たちのポートフォリオが異なっているだけでなく、他のアクティブ運用会社のポートフォリオと比べても違っているということを意味します。
 特にポートフォリオの中身が株式市場全体に対して異なっていることは、市場平均(=インデックスの成績)を上回るリターンを上げるための必要条件です。
 ポートフォリオの差別化は、例えば周りの人が持っていない銘柄に投資したり、多くの市場参加者が投資している銘柄でも皆に比べて非常に大きなポジションをとったりすることなどで達成されます。つまり、意図的に人と違うことをしなくてはなりません。
 しかし同運用コメントでは同時に、差別化されたポートフォリオをもってしてもインデックスに勝つことは必ずしも容易ではない、とも指摘しました。
 株式市場というのは「集合知」です。相場で見られる値動きは、将来に関する予想を反映したものであり、多くの場合、後に正しいと証明されることが多いのです。株式市場が景気回復を先取りして上昇したり、不景気に先行して下落したりすることはよく知られている現象です。
 このため、個別銘柄選択において一般の市場参加者と異なる目線で銘柄を選んでも、市場の意見のほうが正しく、自分の見通しが当たらないことは多々あります。
 銘柄選択を間違えると、周りから白い目で見られますし、間違いに至らなくとも人々が首をかしげたくなるような銘柄を保有すること自体、精神的に居心地が悪いものです。
 人と違うことをしないと勝てない(=インデックスに勝てない)、でも人と違うことをしていると自分だけが間違えるリスクもそれなりに高い。株式投資が簡単なようでいて、難しいと言える所以だと思います。

居心地の悪さを乗り越えて大胆なポジションをとるために

 少数派意見として勇気をもって個別銘柄に投資を行うのであれば、いざ自分の予想が間違っていたとしても大きな損失にならないような工夫が求められます。それが、当ファンドが重視している「Margin of safety(マージン・オブ・セーフティ、安全域)」の考え方です。
 本概念はバリュー投資の父とされるBenjamin Graham氏の著書「The Intelligent Investor(賢明なる投資家)」(1949年出版)のなかで触れられています。
 企業の本源的価値に対して、現在の株価が十分に割安な水準で投資する場合、その差が「マージン・オブ・セーフティ」となります。仮に市場が一時的に下落したり、評価が誤っていたりしたとしても、大きな損失を被る可能性が低くなるからです。
 例えば、企業の本質的価値が1株あたり1,000円と算出された場合、株価が600円であれば400円のマージン・オブ・セーフティがあることになります。この差が大きいほど、投資家は価格変動や予測の誤りに対するクッションを持つと考えることができます。そして1株あたりの本質的価値は1,000円から時間を掛けて増えていくことが理想です。
 Graham氏は企業のバランスシートから導き出される定量的な価値(正味流動資産価値)をもとに、株価がその3分の2以下である場合に限って投資すべきと説きました。
 当ファンドでは同概念をやや拡大解釈し、例えばPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)で見た株価バリュエーションが市場平均を大幅に下回るケースや、配当利回りや総還元利回りが高水準であること、時には定性的な要因もマージン・オブ・セーフティとして捉えています。そして新規銘柄を組み入れる際や、組入比率を大幅に引き上げるときは、自分が考えるマージン・オブ・セーフティが十分にあることを確認してから投資に踏み切るよう心がけています。当ファンドが一部の組入銘柄について(一見、リスキーにもみえる)非常に大きなポジションをとっているのは、まさにこれが背景にあります。
 市場は懐疑的だとしても、自分が信じる大きな期待リターンがある、そしていざという時に心強いマージン・オブ・セーフティがあるという二つの条件が揃って初めて大きなポジションをとれます。これまで当運用戦略の歴史上、最大保有銘柄が組入比率20%を超えた時期や、複数の銘柄に集中投資して組入銘柄数がわずか10銘柄強だった時期もありました。これが当ファンドの大きな差別化ポイントです。
 周りの人と違うことをすることで、時として当ファンドの運用成績が株式市場に対し劣後することは避けられませんが、中長期的に市場平均を上回っていくためには欠かせない心構えです。今後もポートフォリオの期待リターンを最大化できるよう運用にあたっていきます。

過去の投資事例から

キーエンス
 例えば15年以上前に組み入れたキーエンスは、大きな株価アップサイドを期待しながらも、いかに下値リスクが小さいかを当時コメントしています。同社は当時の時価総額約1.1兆円に対し、2008年世界金融危機前の当期純利益ピークが600億円程度という高い収益力を誇っていました。同社ビジネスモデルは強固であり、金融危機が過ぎ去れば、成長軌道に戻るというのが当ファンドの見立てでした。
 一方、同社が本業で稼いだ多額のフリーキャッシュフローが余剰資金(約5,000億円)として積み上がっていました。これだけの財務体力があれば、同社が倒産することはありえません。
 そしてマージン・オブ・セーフティの論点は、この余剰資金を差し引けば、実質的な時価総額は6,000億円に留まり、実質的なPER10倍過ぎない(過去最高益600億円まで戻るという前提)ということでした。世界景気の回復に時間が掛かったとしても大幅な株価下落リスクは小さいとの判断でした。
 「同社は長年本業で稼ぎ出した多大な現金その他流動性資産を保有しており、時価総額からこれら流動性資産を差し引いた実質的な市場価格を勘案すれば、同社の株価は非常に割安だと考えております」(2010年7月運用コメントより)
 キーエンスは当ファンドにおいて20092014年にかけて組入比率、約1224%を占める非常に大きな投資銘柄でした。

日立製作所
 2021年に投資を開始し、現在も主要銘柄である日立製作所も例として挙げられます。当時はまだLumada(ルマーダ)事業の本格的な業績貢献が始まる前でした。同年7月の運用コメントでフォーカスしたのは、財務体質も健全にも拘わらず株価指標はわずか「PER10.5倍」という点でした。当投資戦略の海外顧客向けレポートでは

If my investment view is correct, I expect both earnings growth and multiple expansion to drive up the share price.(中略)On the other hand, if I am proven wrong, Hitachi will just remain as a cheap manufacturing stock with not much downside risk.” と、マージン・オブ・セーフティが十分に確保されていることを当時強調しています。

現在のポートフォリオ

 現在、組入比率が大きいのはセブン&アイ・ホールディングスやオリックスです。これまでの運用コメントでご説明してきたとおり、両銘柄のマージン・オブ・セーフティは将来の成長を加味せずとも顕著に割安な株価バリュエーションにあります。

セブン&アイ・ホールディングス
 セブン&アイ・ホールディングスは20252月期決算短信上の今期利益予想でみたPERは19.4倍と東証平均(16.8倍)に対して割高ですが、当ファンドが重視するのれん償却前1株当たり利益(145.33円)では今期PERが13.7倍と大幅に水準が下がります。
 さらに主力コンビニエンスストア事業だけを取り出してフリーキャッシュフローに着目すれば、その水準は過去3年平均で4000億円程度、フリーキャッシュフロー利回り約8%と現在のリスクフリー金利と比べて大変魅力的です(フリーキャッシュフロー倍率も13倍と市場平均PERを大きく下回る)。
 目下、同社はコンビニ事業への選択と集中を進めており、セブン-イレブン店舗の世界展開をしていくほか、日米で停滞が続く既存店のテコ入れを行っています。しかし、これら取り組みの業績寄与を考慮しなくても、十分に株価が割安であることから、当ファンドの期待どおりに業績成長がみられなくても大きな投資損失を被るリスクは小さいと思われます。
 さらに株主還元の観点では今期実行中の6,000億円に及ぶ自社株買い(2030年度までに総額2兆円)も強力な株価下支えになると考えられます。これら自社株買いの規模は同社の時価総額に対して11%と巨額であり、買い入れ原資も豊富にあると判断されます。
 定性的なマージン・オブ・セーフティとしては潜在的な買収者からみた同社の魅力が挙げられます。当月、Alimentation Couche-Tard社(カナダ)は20248月に公表した買収提案を取り下げ、株式市場を失望させましたが、当ファンドの投資意見に変更はありません。20248月の運用コメントでは以下のように考え方を述べています。
 「仮にCouche-Tard社による買収が破談になったとしても、現状の株価水準で新たな買い手が現れる可能性が高く、株価下値リスクは大きく抑えられると期待しています。」
 買収観測については振り出しに戻りましたが、引き続き当ファンドが同社への投資から期待している将来の大きなリターンに変化はありません。今後、同社が単独で事業継続するなら、経営陣はかつてのような緩慢な経営努力では既存株主は許さないでしょう。会社側の危機感は相当なものであることは想像に難くありません。経営スピードは格段に上がると思います。
 逆説的ですが、当ファンドではAlimentation Couche-Tard社による買収成立によって短期的な投資リターンを顕在化させてしまうよりも、むしろ今回をきっかけに同社が「まともに」経営されることで長期でより大きなリターンを実現するほうが賢明であるとも考えています。理由はやはりコンビニビジネス自体が小売業として資本収益性が高く、キャッシュフローを潤沢に生む「魅力的なビジネス」であることに尽きます。Alimentation Couche-Tard社や米国競合のCasey's General Stores社、Murphy USA社などの長期業績推移、ひいては株価成長率がそれを裏付けています。そして同社の潜在市場は未だ寡占化余地が膨大な米国市場だけでなく、欧州、中東、アジア、オセアニアなど空白地域が多く残されているからです。言うまでもなく、これらのポテンシャルはAlimentation Couche Tard社や伊藤創業家による買収価格の提案では一切考慮されていませんでした。

オリックス
 オリックスは現時点ではプリンシパルインベストメンツ型(自社のバランスシートで投資資産を抱える)中心のビジネスモデルですが、今後の「アセマネシフト」によってフィー収入の比重が増えることが予想されます。同社の理論上の株価評価は、これまでのバランスシート上の保有資産価値をベース(PBR)としたものから、将来利益をベースとしたPERでの評価に切り替わっていくことで、当ファンドでは大きな上昇余地を見込んでいます。
 しかし、この見通しが実現しなかったとしても、PERはおよそ10倍程度、PBR1倍を長らく下回っています。もっと言うとバランスシート上に反映されていない投資資産の含み益を勘案した時価ベースの純資産でみればPBR1倍を大きく下回る(=含み益を考慮したPBR)状況です。
 株主還元も積極化しており、配当利回りと総還元利回りはいずれも市場平均を上回っています。累進配当を掲げており、こちらも株価のダウンサイドリスクを抑える役割を果たしてくれると考えます。

最後に

 このように、当ファンドで大きく組み入れている銘柄は、少数派意見でありながらも自分たちの見通し通りになれば大幅な株価上昇が期待できる一方、予想が当たらなくても大きな株価下落にはならないであろうという考えに基づいています。
 株式市場に参加する際には、「正しい少数意見」をもって投資に望むことが重要です。多数派の意見は、すでに株価に織り込まれたものであり、そこで大きな利益を得るのは難しいことを理解しなくてはなりません。真に大きなリターンは、投資した段階で少数派であった自分たちの意見が、時間を経て多数派意見になる過程で初めて生み出されるものです。つまり、株式市場がまだ注目していないような有望企業を発掘したり、市場参加者が懐疑的なうちに未来を信じて大きく投資を行ったりすることです。それらが将来、誰もが認める優良企業に変貌していくことで、株価上昇を通じて当ファンドの意見が「正しい」と証明されるのです。すなわち、投資で真に成功したいのであれば、人と違うことをしなくてはなりません。これが差別化ポートフォリオにつながります。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年6月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年6月、日本株式市場の代表的な指数であるTOPIX(配当込み)が前月末比1.96%上昇、日経平均株価も同6.64%の上昇となりました。
 全体としては、米国の関税政策や地政学的リスクの動向に市場が影響を受ける場面も見られたものの、外部環境の改善や米国金融緩和への期待を背景に、リスク選好姿勢が強まった月となりました。
 月前半から月半ばにかけての日本株式市場は、米国の関税政策や景気減速への懸念から軟調に推移しましたが、堅調な米雇用統計や米半導体関連株の上昇を受け、市場は持ち直しました。しかし、イスラエルがイランを攻撃したとの報道によって中東情勢への懸念が高まり、一時的にリスク回避の動きが市場を下押ししました。一方で、日銀が政策金利据え置きと国債買い入れ減額ペースの緩和を示し、米連邦公開市場委員会(FOMC)でも政策金利が据え置かれたことが投資家心理を下支えし、外部要因に振らされながらも市場はもみ合いを続けつつ、徐々にレンジを切り上げる展開となりました。
 月後半にかけては、中東情勢の激化や米国によるイラン核施設への空爆報道により、一時的にリスク回避ムードが広がりましたが、その後は地政学的な懸念が早期に沈静化したことや米国株式市場の反発を受けて、日本株式市場も上昇基調に転じました。さらに、トランプ米大統領の停戦に関する発言や米連邦準備制度理事会(FRB)高官による利下げ示唆が投資家心理を押し上げ、リスクオンムードが広がりました。値がさ半導体関連株が相場をけん引し、配当権利落ちに伴う再投資の需要も追い風となり、日経平均株価は年初来高値を更新しました。株式市場全体も前月末比で大幅に上昇して当月を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.12%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.96%の上昇を1.16%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、ソフトバンクグループ、セブン&アイ・ホールディングス、オリックスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、MSADインシュアランスグループホールディングス、ソニーグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループなどでした。

 当ファンドでは日本の住宅メーカー3社(積水ハウス、住友林業、大和ハウス工業)へ投資しています。それは、各社が米国新築戸建市場に進出し、成長ドライバにできる可能性があると考えるからです。
 米国の戸建住宅市場は巨大かつプレーヤ数が非常に多く、上位企業でも市場シェアは10%強に留まります。現地企業がひしめいており、ひと昔前まで日本勢は全くプレゼンスがありませんでした。しかし近年の積極買収・投資の結果、2024年販売棟数ベースで積水ハウス(米国子会社4社合計)は全米5位、住友林業(同5社合計)がトップ10入りしています。また、大和ハウス工業(同3社合計)も上位20位以内です。海外ハウスメーカーとして米国に参入しているのは日本勢のみといっても過言ではなく、彼らの攻めの動きは際立っています。
 各社とも祖業の国内事業は成熟していますが、毎年少しずつ進む大手企業の市場シェア上昇を背景に底堅い利益を生み続ける見込みです。一方、成長が期待されるのは海外です。各社連結消去前営業利益に占める海外比率は住友林業が約76%202412月期実績)、積水ハウスが約30%20261月期計画)、大和ハウス工業が約10%20253月期実績)となっています。
 人口減少によって市場規模の縮小が懸念される日本に比べ、米国戸建市場は成長産業です。市場規模を示す世帯数は約130百万戸と大きく、かつ年間約1.2百万戸ずつ増える状況が長年続いています。このトレンドを牽引しているのは、言うまでもなく人口の自然増と移民流入です。加えて核家族化や高齢者の長寿化による世帯数増も寄与しています。近年ではコロナ禍で躊躇していた若者世代がマイホーム購入に踏み切るケースも数字を押し上げています。
 市場拡大傾向にも拘わらず米国では新築物件の供給が足りていません。2000年頃までの米国住宅市場は需要と供給がほぼ見合っていましたが、その後サブプライムローンの登場や投機的な買いによって、住宅バブルが発生しました。住宅価格が高騰し、それにあわせて新築戸建着工は20022006年にかけて年1.41.7百万戸まで増加しました。これは毎年の平均世帯数増加ペースである1.2百万戸を大幅に上回る水準です。このため住宅ストック(住宅の総量)も増えすぎてしまいました。そして2008年頃に住宅バブルが崩壊し、住宅業界は在庫積み上がりと戸建価格の大幅下落に見舞われたのです。
 この危機を境に、世帯数は増え続けているにも関わらず新築戸建は著しい供給不足に転じます。20082020年の新築戸建着工は年平均70万戸へと大きく落ち込みました。結果、バブル崩壊後の戸建市場は需給バランスの回復を通り越して、今日では累計で3.7百万戸相当の新築戸建が不足している状況にあります。背景としては、金融危機で痛手を被ったホームビルダーが慎重スタンスを継続し供給を絞っていることに加え、土地ゾーニング規制が厳しくなっていること、建設労働者の不足、建築コストの上昇などが挙げられます。
 需給ギャップを解消するために少なくとも年間1.2百万戸程度の新築戸建供給が必要と言われています(米国人の約7割は戸建志向)。これは世帯数の自然増と、19501970年代に建てられて老朽化した戸建物件が年平均20万戸程度取り壊されることを考慮したものです。したがって、新築戸建市場の展望は明るいと言えます。
 また、業界淘汰も進んでいます。1990年代の米国戸建市場には非常に多くのプレーヤがいました。しかし2008年サブプライムローン危機で多くの業者が倒産し、合従連衡の動きがみられます。2002年には全米で2.6万あった事業所数は2017年には1.7万と3割減になっています。M&Aで大きくなったプレーヤは原材料調達面、資本調達力、土地の仕入れ力、建築許可獲得などの行政手続き面において競争優位性があります。市場占有度もじわじわと上がっており、1990年代初めの米国ホームビルダー上位10社による市場シェア合計は1割以下でしたが、2023年では42%(上位20社で69%)まで寡占化が進んでいます。事実、上場している米ホームビルダー各社は高利益率、高ROE(株主資本利益率)を誇っています。米国の戸建市場は徐々に魅力的な市場になってきているのです。

投資仮説

 当ファンドが考える投資仮説は「日系メーカーが長期にわたって米国市場でプレゼンスを高める」です。これが正しいと証明されるには以下の2点が確認される必要があると考えます。

  • 日系メーカーによるもの作り競争優位性にフォーカスした戦略がシェア獲得に果たして有効なのか?
     一点目は、日系各社が米国戸建市場について、生産面での非効率さを指摘しているのは興味深い点です。つまり、建築工程が長く、施工品質も悪いこと、設計が画一的過ぎること、人手がかかりすぎていること、などです。住宅性能面については、間取りの自由が利かない、防災面での機能が弱いといった声が聞かれます。
     当ファンドでは、日系メーカーが優れた生産効率と住宅品質で差別化しシェアを奪っていけるのか、という疑問を解くために投資先企業だけでなく、米国ホームビルダーへの取材や、現地業界関係者へのヒヤリングなどを継続して行っています。
     具体的に日系メーカーが取り組める分野は以下の点に集約されそうです。


    生産面での効率化

    • 日系メーカーはプレハブ工法、プレカット工法などといった戸建住宅建築の工業化技術に長けており、工期短縮とコスト削減が得意と言われています。一方、米国では戸建大工の人材不足や建築コスト上昇が課題となっています。また、全工程に占める施工現場での作業比率も高く、人手依存度も高いので品質にばらつきがでてしまうという問題もあります。よって、建築作業の合理化、物流の効率化、共同購買を推進する取り組みがコスト競争力強化となり、シェア拡大につながる可能性があります。
    • 具体的には、住友林業は「FITP事業」を通じて、構造用パネル製造からフレーミング工事までを一貫して効率化する仕組みを拡大させています。現地生産拠点を増やし、輸送コストを抑えつつ迅速な供給体制を構築中です。同社の米国製造拠点数は2024年の9工場から2027年には15工場以上に拡張される見通しです。
    • 大和ハウス工業はサプライヤからの共同購買を通じてコスト削減や、工業化推進による工期短縮に取り組んでいます。同社の米国主要子会社Stanley Martin Holdings社(2024年時点で全米22位の規模)は2017年に大和ハウス工業の傘下入りしてから売上が3倍以上に増え、4年前に比べて工期を約3割短縮させています。
    • 積水ハウスは2024年買収したD.C. Holdings社(米国)を中心に既存の現地ホームビルダー子会社3社との重複市場における材料費・施工費を見直し、シナジー効果の取り組みを開始しています。


    高品質・高性能な住宅の提供

    • 高品質の日本製戸建住宅を武器にプレゼンスを拡大しようとする動きもあります。米国では人口と世帯数が右肩上がりなので、戸建住宅を「作れば売れる」市場という認識があり、日本に比べて製品性を工夫しなくても容易に売ることが可能と言われています。このため現地ホームビルダーの経営では値上がり益の見込める土地をいかに仕込むかが主眼とされています(米国ではビルダーが土地を仕入れ、上物を建ててから販売する建売型ビジネスが主流)。これに対し、人口減少に見舞われてきた日系メーカーはもの作りの工夫・差別化された高品質住宅なくしては売れない市場で切磋琢磨してきました。そのため、住宅の品質やデザイン、機能面での差別化に熱心と言われています。
    • 日系メーカーは、気密性・断熱性などに優れた住宅建築のノウハウを持っています。小型の戸建住宅では収納面など機能性に優れた物件を作るノウハウもあります。また、耐久性、耐火性がある日本製戸建はハリケーンや竜巻、山火事などの自然災害が多い地域で需要が見込めることに加え、日本の住宅技術は省エネ性能の面でも強みを持っています。
    • 日本式の木造軸組工法(在来工法)が普及するポテンシャルがあるかもしれません。米国の戸建は古くから2x4工法(ツーバイフォー、枠組壁工法)が主流です。壁材4枚と天井、床材2枚をくっつける同工法は建築部材を標準化しやすく、日本でも戦後の高度成長期の大量生産にメリットがありました。一方、標準化の結果、画一的な戸建住宅が多くなりました。また同工法は、壁材で躯体を支えるため、大きな窓枠が設置しづらかったり、間取りの自由度が限られたりしてしまうといった欠点があります。これに対し、日本の在来工法は柱と梁で躯体を支える工法です。このためレイアウトの工夫がしやすく、窓など大きな開口部を確保しやすいメリットがあります。
    • 工程上、2x4工法では天井・屋根材が後回しとなるため、施工期間中に雨天などに晒されやすくなってしまいます。一方、在来工法では天井・屋根材が先に据え付けられるため、工期中の天候リスクが軽減されます。
    • 例えば積水ハウスの「SHAWOOD」ブランドは日本で培った独自工法を高級住宅市場に投入し、耐久性や快適性を求める富裕層をターゲットにしようとしています。さらに、エネルギー効率の高い住宅としても同ブランドを打ち出し、光熱費削減をアピールすることで消費者に訴求するといった販売戦略もとっています。


    アフターサービスと長期保証の強化

    • 米国市場では中古住宅取引が主流ですが、新築住宅の信頼性やアフターサービスが弱い現地ホームビルダーが多く存在します。日系メーカーのきめ細かな顧客対応は差別化要因となり得ます。
    • 日本で培ったアフターケアや長期保証制度を導入し、購入後の安心感を提供することでブランドイメージを高められるかもしれません。リフォームやメンテナンスまで含めたトータルサービスの提供などが考えられます。


  • 米国消費者の住宅購入に対する価値観が今後どう変わっていくか。彼らは日本製の高品質住宅を好むのか?
     二点目は、消費者側に期待される変化です。
     過去に日本の製造業が米国市場に挑んで躍進した事例に1970~1980年代にかけての自動車業界が挙げられます。当時、オイルショックや排ガス規制の影響で、燃費の良い小型車が求められるようになりました。日本車が注目され、ビッグスリー(General Motors, Ford, Chrysler)からシェアを奪い始めました。また米国消費者は自動車を単なる移動手段としてではなく、居住性や走行性なども重視するようになり、日本車の品質優位性が高評価を受けるようになりました。
     日系ハウスメーカーはまだ米国におけるブランドイメージが定着していませんが、自動車産業の歴史のように、日本製戸建の品質に米国消費者の目が向けば面白い展開になる可能性があります。ただ、「米国消費者の見方が変わる」という視点がまだ仮説の域を出ないのは、以下のように米国と日本で住宅市場の特徴が大きく異なるためです。
     まず日本では「マイホームは一生に一回の買い物」と捉える人が大半です。それは先祖代々から受け継いだ土地に対する愛着といった価値観なども影響していると考えられます。そのせいか日本では注文住宅の比率が建売中心の米国に比べて高く、結果として各物件の個別性が強いのが特徴です。
     一方、米国ではマイホームを「ライフステージに応じて買い替えるもの」という考え方が主流です。子供の誕生時、転職に伴う引っ越し、子供が成人するタイミングなどです。国土が広いことと生涯転職回数も日本人に比べて多いため、米国人のライフスタイル変化は住環境の変化を伴うものが多くなります。結果、住居の買い替えの頻度は日本に比べて高くなる傾向があります。
     両国の違いは、中古住宅市場の発展度合にも影響しています。米国では日本に比べて巨大な中古物件市場が発達しており(全米戸建市場の8割は中古市場)、マイホーム購入者も将来の売却可能性を考慮し、資産価値の維持・向上に努めます。中古市場の存在もあるためか、戸建住宅のデザインも売買が成立しやすそうな画一的なものが多くなります。
    *日本で中古物件市場が発展しなかった理由としては、新築好きな日本人の国民性、中古市場にそぐわない個別性の強い注文住宅が多いこと、マイホームは生涯住み続ける前提であることが多いため中古市場での物件価値引き上げを念頭においた価値保全・向上に取り組む意識が海外よりも低いといった様々な因果関係が絡み合っていると考えられます。

     このような住宅文化を背景に、米国人消費者による新築戸建へのこだわりや、品質、仕様面などのこだわりは日本人に比べて相対的に低いと言われています。別の言い方をすると、マイホームに対するブランド意識はあまり強くないということです。住宅の買い替えには新天地への引っ越しを伴うので、購買の判断基準は立地優先になりがちなのです。また2x4工法が広く普及したことにより消費者にとってホームビルダー毎の大きな違いは感じられないのかもしれません。ブランド意識が希薄ということは、日本製戸建も十分に認知されていないことを意味します。
     一方で、米国人も戸建に対する価値観が少しずつ変わってきているという意見もあります。晩婚化にともない初回住宅取得時の年齢が30歳代以上に上昇してきており、物件の質をより重視するようになってきています。また現在60~70歳代のベービーブーマー達も長年の株式資産効果によって、家計が裕福な所帯が多く、高品質住宅を求める傾向にあるようです。
     さらには山火事、ハリケーン、竜巻などの心配から、防災性に優れた日本製戸建が人気を集める可能性もあります。英国の経済紙The Financial Timesによると、2014年時点で新築戸建住宅の49%は「深刻」または「極端」な気候災害リスクがある地域に建てられました(マイホーム購入者に人気がありながらも山火事が頻発するカリフォルニア州、ハリケーンが多いフロリダ州など)。その割合は年々増加し、2023年には57%に達しています。これはすなわち、今後防災性能に優れた戸建が選好される可能性を意味しており、日本勢にとっては有利なトレンドと言えるかもしれません。

マージンオブセーフティ

 日系メーカーが米国において順調にシェアを獲得できるかは未知数ですが、当ファンドでは投資を開始しました。
 これはバリュエーションが低く(各社今期予想ベースでPER(株価収益率)810倍、PBR(株価純資産倍率)1倍程度、過去5年平均ROE1116%、配当利回り35%)、株式市場の注目度も低いためです。こういう時だからこそ割安な株価で投資が可能であり、また仮に当ファンドの仮説が間違っていたとしても、株価の大幅な下落リスクを抑えてくれるマージンオブセーフティ(安全余裕率)があると考えます。
 現状の株価バリュエーションは、米国住宅業界に短期的な不透明感があるため、各社ともPERは市場平均を大きく下回っています。新築物件の供給が低位に留まるなか、昨今の戸建需要が停滞しているのは、住宅ローン金利と建築コストが上昇したことが要因となっています。しかし米国全体として戸建住宅の総量(住宅ストック)が構造的に足りていない点は変わっていません。したがって、サブプライムローン危機当時と比べて大きな住宅価格の下落は起きないだろうというのが当ファンドの見方です。もしくは住宅価格の調整が起これば潜在需要が顕在化すると考えられます。住宅ローン金利の低下や実質賃金の伸びによってHousing Affordability IndexHAI、住宅取得能力指数*)がいつ上向くかを注視したいと思います。
 もちろん短期的に業績が下振れれば、PERが安いとは言えなくなるリスクもあります。しかし、長期で見れば米国市場が成長する確度は高いのではないでしょうか。
 いずれ起きるであろう循環的な住宅市況の回復だけでも日系メーカーは恩恵を受けるはずです。
 さらに今の日系メーカーには業績の下支えをしてくれる安定した国内収益基盤があります(ただし長期的には成熟市場であるためバリュエーションのディスカウント要因になる可能性あり)。配当利回りが総じて高いことも株価の下値リスクを抑える効果があるでしょう。
 これらが今回の新規投資に関するマージンオブセーフティであると考えます。
*HAIは、典型的な家庭が平均的な価格の住宅を購入するための住宅ローンを組むのに十分な収入を得ているかどうかを測定する指標です。例えば、HAIの値が100の場合、中央値の収入を持つ家庭が中央値の価格の住宅を購入するための住宅ローンを組むのにちょうど十分な収入を持っていることを意味します。100を超える値は、中央値の収入を持つ家庭が住宅ローンを組むのに十分以上の収入を持っていることを示します。現在は100近辺で推移しています。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年5月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)が前月末比5.10%の上昇、日経平均株価も同5.33%の上昇となりました。当月の日本株式市場は、月前半に大幅上昇した後、月半ばに調整を挟みつつも月後半にかけて持ち直し、レンジ内での回復基調を維持したまま当月を終えました。
 月前半は、前月末から続く米国の関税交渉進展への期待が支援材料となったことや、日銀が展望リポートで実質GDP成長率と物価上昇率の見通しを下方修正し追加利上げに慎重な姿勢を示したことや進行した円安も相まって、株式市場は堅調に推移しました。こうした中、米英貿易協定の合意や米中双方による市場の想定以上の関税率の引き下げを受け、指数は大幅に上昇しました。月半ばには好材料が一巡したことに加え、円高・ドル安の進行や、米国債格下げをきっかけに米国の財政悪化懸念が高まったことも相場の重荷となりました。月後半にかけては、米国による対EU追加関税の延期や、日本国内での超長期国債発行計画の見直し観測による円安の進行等により主力株を中心に買いが入り、日本株式市場は再び上昇に転じました。さらに、28日に米国際貿易裁判所がトランプ政権の関税政策を違法と判断し関税の差し止めを命じたことを受けて円安が加速し、株式市場も大幅高となりました。しかしその後、米連邦巡回区控訴裁判所が関税差し止めの執行を一時的に停止する判断を下したことでドル円相場とともに株式市場は反落しました。
 結果として、米国の関税政策をめぐる不透明感に振り回されながらも、日本株式市場は前月末比で上昇して取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐5.96%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同5.10%の上昇を0.86%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、オリックス、日立製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、SOMPOホールディングス、大和ハウス工業、ロート製薬でした。

 当月は組入銘柄の通期決算説明会が相次ぎました。そのなかで年初来の株価が軟調なリクルートホールディングスも発表しています。当ファンドは引き続き保有を継続しているため、その見解をご説明します。
 同社の20253月期連結業績は売上高3.56兆円(前年同期比4.1%増)、営業利益4,905億円(同21.9%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益4,085億円(同15.5%増)と過去最高でした。また、経営陣のKPIKey Performance Indicator、重要業績評価指標)である調整後EBITDA6,789億円(同13.5%増)でした。
 主力のHRテクノロジー事業について同社経営陣は今年2月くらいから米国求人需要が減退し始めているとしています。トランプ米大統領の就任後、米国経済の(少なくとも一時的な)不透明感が大きく影響しているようです。
 当ファンドでは同事業が雇用市場変調の影響を受けやすいことを認識しながらも、長期的に高成長が続くと考えております。よって、業績サイクルの下降局面で株価が大きく下落する際には買い増しのチャンスを窺っています。逆に好況時に株価が過熱気味になれば一部利益確定売りも行います。
 外部環境が悪い時ほど、同社が先行投資を積極化させて参入障壁を高めているのは称賛すべきところです。当ファンドでは参入障壁を「動的」なものとして捉えています。すなわち、参入障壁がどんなに高くても、競合の追い上げによって、その障壁が少しずつ弱まっている場合は、投資対象として好ましくないと考えます。また参入障壁が維持されていても、それが硬直的で改善が見られないビジネスより、既存の参入障壁をより強固なものに進化させているビジネスのほうが望ましいといえます。現在の同社はまさにこの局面にあると考えられます。
 求人プラットフォーム事業を手掛ける「Indeed」では近年様々な新サービス、新システムを矢継ぎ早に投入し、求人企業、求職者の利便性、マッチング精度の向上を進めています。独自のサービスを他社が追いつけないスピードで投入していくことで参入障壁がさらに積み上がっていると見ることが可能です。
 当月の決算説明会では新たに「Indeed Career Scout」、「Indeed Talent Scout」、「ガクチカAIアシスタント」というサービスを新たに発表しています。いずれもAI(人工知能)を活用した機能であり、現在それぞれ米国と日本においてテスト中とのことです。

同社株のバリュエーションの考え方

 同社株価が割安かどうかを考えるにあたって、いくつか留意すべき点があります。

(留意点1)
 まず同社は当期利益よりもフリーキャッシュフロー額が上回ることが多いという点です。
 通常、製造業であれば毎期減価償却に見合った有形固定資産(既存工場設備など)の「更新投資」が行われますが、それに加えて中長期で売上を伸ばすため新規工場などに対する「成長投資」も行われます。この結果、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローが当期利益よりも低く留まる傾向があります。
 これに対し、インターネット企業であるリクルートホールディングスのビジネスは元来、事業継続をしていくうえで有形固定資産に対して多額の追加投資を必要とするものではありません。同社はHRテクノロジー事業の中核となるIndeed社(米国)を2012年に、Glassdoor社(米国)を2018年に買収しています。それ以降、買収に伴う(のれんを除く)無形固定資産の償却を毎期計上していますが、同事業を継続成長させるための投資はそれを下回る水準で推移しています。故に、フリーキャッシュフローが潤沢に生み出されているのです。
 このため、製造業の場合はFCF倍率(*)がPER**)よりも割高になるケースが多い一方、同社の場合はFCF倍率のほうが割安と判断されます。もともと当戦略が2016年に同社に最初に投資したのも見た目の当期利益よりフリーキャッシュフローでみたほうが安いということが決定的な理由の一つでした。
*)FCF(free cashflow)倍率=株価/一株当たりフリーキャッシュフロー
**)PER(株価収益率)=株価/一株当たり当期利益

(留意点2)
 同社は20222023年ごろより株式報酬を大々的に使用しています。ストックオプションによる取締役等への報酬支払は現金流出を伴わない人件費項目です。従って、同報酬が急拡大した3年ほど前から営業キャッシュフローは実態以上に押し上げられ、結果的にフリーキャッシュフローも多めに計上されています。20233月期実績を例にとると、当期利益は2,716億円でしたが、フリーキャッシュフローは4,055億円にものぼっています。つまりPERは約24倍なのに、フリーキャッシュフロー倍率はわずか16倍ほどだったのです(2022年末株価ベース)。しかし、これは過大評価といえます。なぜなら株式報酬は非現金費用項目ではありますが、株価分析をするうえでは実質的な経済コストとしてフリーキャッシュフローから控除するべきだからです。上記の例では同決算期中727億円もの株式報酬が計上され、営業キャッシュフローの約17%に相当する規模でした。これを調整した実質的なフリーキャッシュフローは3,328億円、同FCF倍率は約20倍となります。

(留意点3)
 同社は、自社株買いにも積極的です。20233月期、20243月期、20253月期とそれぞれ約1,525億円、約2,189億円、約8,245億円実施されています。いずれも当時の時価総額に対して25%に相当します。しかし、このうち一部の金額は営業キャッシュフローで足し戻された株式報酬分が振り替わったものと見るべきです。すなわち、20233月期に営業キャッシュフローで計上された(現金流出を伴わない)株式報酬費用727億円は、同期中に実施された自社株買い1,525億円の一部として財務キャッシュフローにおいて流出しているのです。よって20233月期の実質的な自社株買いによる株主還元は約半分強の798億円だったと分析できます。

 誰もが市場参加できる株式投資では、当ファンドが解説するような細かい分析をする人は少数派であり、大半の人々は表面上の会計数値をみるだけでしょう。他の大勢の人が注目しなければ株価は評価されないので、それ以上の分析は無意味と捉えられるかもしれません。しかし、当ファンドが理論的に正しいと主張する「本当の」価値は、巡り巡って顕在化するものだと考えます。例えば、人件費の大部分をストックオプションに頼っている企業は、現金流出を抑えられるためキャッシュフローが潤沢に見えるかもしれませんが、発行済株数は増えてしまうため、確実に株主利益の希薄化が起きているのです。また別の事例として、のれん償却などの理由で会計上の利益が実際のキャッシュフローを大幅に下回る企業でも、キャッシュ創出力が強いことから思った以上に速いスピードで現預金が積み上がるはずです。ひいては株主還元強化につながりやすく、株主は増配などの恩恵を受けられますし、成長投資も積極化できるため、事業競争力が向上します。
 当ファンドは、このような視点で企業分析を行い、今後も適宜投資判断に反映させていく方針です。

現在の投資スタンス

 会社予想の今期調整EBITDA6,970億円(*)をもとに計算される予想フリーキャッシュフローは5,000億円程度(**)と推定されます。よって現在の株価に対してFCF倍率は26倍(これに対し、予想当期利益4,280億円から計算されるPER30倍)です。
*)調整後EBITDA=営業利益+減価償却費及び償却費(使用権資産の減価償却費を除く)+株式報酬費用±その他の営業収益・費用
**)調整EBITDA6,970億円-法人税1,200億円-株式報酬800億円+純金融収支350億円-投資キャッシュフロー650億円+使用権資産の減価償却350億円(当ファンド推定)

 現在の株価水準は積極的に買い増すには、やや魅力に欠けていると考えます。今後、足元の雇用市場悪化の影響が同社の自助努力を上回り、業績が会社予想を下回ることもあるかもしれません。当ファンドでは株価が下がれば買い増し妙味がでてくるとのスタンスです。
 一方、限界利益率の高いことが特徴であるインターネット企業が株式市場の予想を大きく超える業績発表をすることは往々にしてあります。このため、当ファンドでは市場平均バリュエーションを上回る同社株価もある程度は許容できるものと判断しております。
 同社が積極的に行っている株主還元も投資判断に影響します。20253月期に実行された自社株買い8,245億円はフリーキャッシュフローを上回る規模であり持続可能ではないと考えます。現在同社はバランスシート最適化のためにネットキャッシュを6,000億円程度まで縮小させる方針です(20253月末現在8,227億円)。20263月期までは高水準の株主還元が続きそうですが、それ以降は総還元性向が100%以下に下がるでしょう。インターネット企業である同社は潤沢なキャッシュフローを創出しますが、前期と今期にみられた総還元利回りについては少し割り引いて考える必要がありそうです。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年4月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.33%の上昇、日経平均株価は同1.20%の上昇となりました。当月の日本株式市場は、米国の通商・金融政策を巡る不透明感に大きく揺さぶられる展開となりました。
 月前半には、米国においてスタグフレーション(景気の後退と物価の上昇が同時進行する経済状況)の懸念が強まる中、トランプ政権が全世界を対象とした最大50%の「相互関税」を発表し、中国やEUが即座に報復措置を講じたことで、世界的にリスク回避の動きが広がりました。これを受けて、日本株式市場は大幅な下落となり、先物市場では「サーキットブレーカー」が発動されるなど、市場の混乱が際立ちました。その後、9日に米政府が一部関税の90日間一時停止を発表すると、過度な悲観ムードが和らぎ、市場は急反発しました。ただし、翌10日には米国が対中関税を累計145%まで引き上げる方針を明らかにしたことで、市場は再び警戒感を強めました。加えて、トランプ米大統領が米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを要求し、パウエル議長の解任懸念が浮上したことにより、FRBの独立性に対する不信感が高まりました。この影響で、米国市場では株式・債券・ドルがそろって下落する「トリプル安」となり、日本株式市場でも上値の重い展開が続きました。
 一方、22日にはベッセント米財務長官が「関税は持続不可能」との見解を示したほか、23日にはトランプ米大統領がパウエル議長の解任を否定したとの報道が伝わったことで、市場には安堵感が広がり、日本株式市場も上昇に転じました。さらに、対中国の関税率を見直す旨の報道も好感され、米中対立の緩和への期待からリスクオン姿勢が続き、日本株式市場は前月末比で上昇して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.01%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.33%の上昇を2.34%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、リクルートホールディングス、東京エレクトロン、日立製作所などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、オリックス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ルネサスエレクトロニクスなどでした。

セブン&アイ・ホールディングス

 当月、セブン&アイ・ホールディングスは20252月通期決算を発表しました。営業収益は前年同期比4.4%増、営業利益は同21.2%減と増収減益でしたが、利益は同社計画対比では約4%上回って着地しました。今後の方針を発表したのは、新社長の就任が見込まれるStephen Hayes Dacus氏です。「当社は歴史的にやや保守的でした。そのため、本来のスピードよりも遅く、機会を逃すことにもつながりました。これは、当社の実行能力に影響を与えています。これは私が変えたいと思う点です。」という同氏の発言が印象的でした。
 2024年9月に当ファンドが直接面談を行った際も、同氏は社外取締役の立場から経営のスピード不足を同社の課題として強調していました。これはDacus氏がファーストリテイリング社の海外ユニクロ部門で働いた経験からきています。競争の激しい小売業において迅速な意思決定を行い、それを実行することの重要性をファーストリテイリング創業者兼社長である柳井氏から学んだと語っていました。今回、公の席でスピード経営にコミットすると発言したのは一貫性があります。同氏の手腕は未知数ですが、株式市場が懐疑的な分、むしろ彼のポテンシャルに着目して継続調査していきたいと思います。これまでの運用コメントで度々解説してきた同社株のバリュエーションの割安さと株価ダウンサイドリスクの小ささを鑑みれば、逆張りで臨むべき局面と考えます。
 今回、同社は6,000億円(取得株数上限4億株)におよぶ大規模な株主還元策も発表しています。取得期間は今年410日から来年228日までで、発行済株式総数(保有している自己株除いたベース)およそ15%に相当します。仮に取得枠全額を、期間(218日間)を通じて実行するのであれば1日当たり買い入れ額は27.5億円、1.83百万株になります。過去3か月の1日当たり平均出来高11.19百万株、約237億円に対して12%~16%相当に匹敵するので株価に与えるインパクトは大きいです。同還元は、既存株主をなだめるための施策であることは否めません。既存店売上の低迷が続いているなか、昨年来でている同社買収観測の実現性もやや遠のいているためです。
 一部では業績立て直しを優先すべきところ株主還元に資本配分することに疑問を呈する声もありますが、当ファンドは大きな問題とはとらえていません。その理由は、同社が引き続き豊富な営業キャッシュフローを創出しているからです。20236月と20242月の運用コメントで解説したとおり同社の実力はグループ会社セブン銀行に起因するキャッシュフロー増減要因を取り除いて分析する必要(*)があります。20252月期のキャッシュフロー計算書をみると、運転資金の削減による一部かさ上げはあるものの、日米の既存店成長がマイナスに転じる前の直近ピークであった20232月期と比べてさほど悪化していません。20232月期~20252月期までの過去3期の実績から当ファンドが分析するに年間8,000億円前後の営業キャッシュフローを稼ぐ実力があることがわかります。裏を返せば、コンビニ事業がいかに潤沢にキャッシュを生むビジネスであるかを物語っているのです。既存店のテコ入れをするための投資と時間を必要としている同社にとっては頼りになる武器です。
*)同社は主力コンビニ事業以外にも銀行業を営んでいることから、預金増減やコールローン関連のキャッシュフロー項目も「営業活動によるキャッシュフロー」に含まれており、コンビニ事業の実態を見えにくくしています。これは同社が日本の会計基準を採用しているためです。同基準ではメガバンクなど純粋な銀行業も貸出金や預金の増減を営業キャッシュフローに分類しています。一方、一般的な米国銀行業のキャッシュフロー計算書では貸出金や預金の増減はそれぞれ「投資活動によるキャッシュフロー」と「財務活動によるキャッシュフロー」に分類されます。なお、20262月期以降、セブン銀行は非連結化になる予定です。
 これに対し、近年同社が投資キャッシュフローとして投下しているのは年4,000億円程度です(20252月期中に行われた豪州セブンイレブン事業の完全子会社化などの毎期発生するものではない項目は除外)。従って、平常時のフリーキャッシュフローは差し引き4,000億円程度と計算されます。これを株主還元に全額充当するのであれば、約8%の利回りに相当する規模です。加えてすでに発表済みであるように、20262月期はヨークホールディングス(グループの非中核事業を束ねる中間持株会社)のプライベートエクイティへの株式売却(売却額8,147億円)によってまとまったキャッシュインも見込まれます。
 そして近い将来、米子会社7-Eleven,Inc.社(以下、SEI社)を上場(エクイティカーブアウト、事業部門を子会社として独立させた上で子会社上場を行い、一部の株式の売却により資金調達を行うこと)させる準備もしています。SEI社上場の狙いは、同子会社の価値顕在化と更なる株主還元原資の確保です。SEI社の今期営業利益計画2,300百万ドル(前期比5.8%増)とPER(株価収益率)20倍を前提に想定時価総額を計算すると32,00035,000百万ドル(約5兆円程度)になります。このうち10%~20%程度の株式を売却すれば税後ベースで4,0008,000億円程度の現金化が可能であるとシミュレーションできます。
 これらの資金収支を反映した同社の20252月期決算説明資料の中で示した「キャピタルアロケーションの方針」によると、今20262月期~20312月期までの6年間で見込まれる7.5兆円(年平均12,500億円)のキャッシュインフローを、成長投資に3.2兆円(同5,300億円)、株主還元2.8兆円(同4,700億円)、負債返済1.4兆円(同2,300億円)に振り向けるとしています。
 上述のとおり、キャッシュインフローの大半を占める営業キャッシュフローは実力ベースで年間8,000億円程度なので、残り年間4,500億円、つまり6年間で合計27,000億円がヨークホールディングス株式売却やSEI社上場資金で賄われる計算になります。不足する分は本業で稼ぐキャッシュフローを同社が決算説明会の中で言うように「スピードと規律」でしっかりと増やしていくことが不可欠となりますが、株主還元の規模が調整可能であることを考えれば、無理な計画ではないと判断されます。
 以上から、同社が成長投資枠をしっかりと確保しながら、高水準の株主還元を両立させることは可能といえます。2020年のSpeedway社(米国)買収時に膨れ上がった有利子負債の削減ペースは落ちますが、むしろ借金の存在によって経営陣が緊張感をもって経営に取り組むという副次的な効果を見込めるという好意的な見方もできます。
 またAlimentation Couche-Tard社(カナダ)からの買収提案についても引き続き俎上に載ったままです。現在の株価はAlimentation Couche-Tard社が提案する買付け価格を大幅に下回っていますが、買収実現に向けて話が前進する可能性もゼロではありません。

トランプ関税に関して

 前月の運用コメントで述べたとおり、当ファンドではトランプ政権の目指す方向性(関税だけでなく全体の政策フレームワーク)には一定の合理性があるとの立場です。しかし、42日に発表された日本向け関税率24%の案は、想定を大きく上回る規模でした。これを受けて、当月の株式市場は大荒れの展開となり、その後90日間の猶予が発表されたあとも市場参加者が右往左往する状況が続いています。これは政策自体が間違っているというより、トランプ政権による執行の問題と考えます。株式投資家も企業経営者も一番嫌うのは外部環境の不確実性です。
 米国が世界に求めているのは第二次世界大戦以降続いている不公平な関税率、それ以外の非関税障壁(外国政府が自国企業に対して行う補助金援助や、中国が行っている元安への為替誘導など)、安保条約上求められている防衛費負担の米国への過度な偏りなどの是正です。よって、必ずしも保護主義や孤立主義への傾倒ではないと考えます。
 世界貿易の理想はお互いが関税や非関税障壁を一切設けない(level playing field(平等な条件)にする)ことです。また結果として貿易不均衡が発生した場合は、それを是正する自律的な調整メカニズムとして為替介入を排除した変動相場制に各国がコミットすることです。それに米国および世界各国(とりわけ中国)がどこまで理解を示せるかが注目です。今は米国と諸外国が落としどころを探っている局面でしょう。防衛費問題も含め、それぞれの国と二国間で建設的な会談を行い、新たな世界秩序を形成するための「ゲームのルール」が早期に明らかになるのを期待したいところです。

米国の貿易赤字問題

 前月の運用コメントでお話したとおり、米国が直面する根本的な問題は、金利上昇、財政赤字、そして膨張を続ける政府債務がもたらす潜在的なデットスパイラルです。しかし、財政赤字とあわせて「双子の赤字」と形容される、慢性的な貿易赤字(経常収支の赤字)も深刻な状況と言われています。
 興味深いことに、経常収支の赤字は専門家の間で長年意見が割れています。同赤字を問題なしとするのは主に経済学者(Milton Friedman氏、Ben Bernanke氏、Paul Krugman氏、MMT(現代貨幣理論)派経済学者たち)のようです。彼らは米国の経常赤字は同国の経済力の強さの表れであるとしています。そして貿易不均衡は、交易条件上もっとも安い生産地でつくられたものを輸入した結果に過ぎず、それ自体問題視すべきものではないとしています。
 一方、金融市場で活躍する著名投資家のなかには同問題について懸念を表明したことがある人たちが少なくない印象です(Warren Buffett氏、George Soros氏、Stanley Druckenmiller氏、Ray Dalio氏など)。彼らの主張は、長年の経常赤字積み重ねによって多くの米国債が諸外国によって保有されるようになり、米国金融市場の不安定要因になりかねないという点です。
 当ファンドも、アカデミックな世界の人たちより投資ビジネスの実務家たちの意見のほうが正しいのではないかとの立場です。すなわち、過剰な政府債務によって米国経済・ドル通貨に対する信認が揺らげば、米国債離れ、ドル離れが起きうるということです。そうなれば、ドルの価値は下がり、海外投資を引き留めるために米国債金利は上がらざるを得ません。インフレ率は上昇し、米国経済は大変な痛手を被る可能性があります。前月の運用コメントで触れたとおり、トランプ政権にとっての喫緊の課題は覇権国家として中国が台頭するリスクをいかに抑えるかにもあります。しかし中国が世界第二位の規模の米国債を保有していることは、地政学上もリスク要因になりえます。関税への取り組みはここでも重要な意味を持っているのです。

当ファンド組入銘柄への関税の影響

 不透明感が漂うなか、当ファンド組入銘柄の大半は米国関税が及ぼす直接的影響は限定的であると判断しています。まず組入銘柄のなかで米国にて大規模に事業展開している企業はいずれも関税対象とならない非製造業が中心です。東京海上ホールディングスなどの損保保険会社、インターネット会社であるリクルートホールディングス、小売業であるセブン&アイ・ホールディングス、エンターテインメント事業が主力のソニーグループ(プレイステーションゲームソフトや音楽・映画事業)、金融サービスのオリックスなどが挙げられます。
 組入銘柄中の製造業については圧倒的に差別化された、高利益率の製品を手掛けている企業であれば関税インパクトの吸収は十分可能です。これは日立製作所の大型電力変圧器事業や、キーエンスのFAセンサなどが該当します。米国に大量に輸出される中国産の安価な低付加価値品と大きく異なります。
 製造業のなかには米国内ですでに強固なバリューチェーンを築いている信越化学工業のような企業もあります。同社は主力の塩化ビニル事業において米ルイジアナ州、テキサス州を中心に塩化ビニルモノマー(塩化ビニルの中間原料)の原料となるエチレンから最終製品である塩化ビニルまでの一貫生産体制を有しています。
 また中国での低コスト生産を主力のビジネスモデルとしている組入銘柄は僅かに留まります(ソニープレイステーション事業におけるハードウェア事業など)。さらに言えば、低賃金国を組み入れた複雑なグローバルサプライチェーンに依存したビジネスモデルを持つ企業もありません。仮に高関税が恒久化した場合には、これらの企業は複雑なサプライチェーン再構築が必要となるので要注意です。
 一方、「関税騒動」に端を発する経済への間接影響は予測が難しいです。例えば、世界景気の減速が引き起こされることによる業績悪化、米国金利上昇や円高による影響などです。引き続き組入銘柄のビジネスモデルにネガティブな構造的変化が起きていないかを確認しながら運用していきます。

ファンドパフォーマンスとバリュエーション

 年初来、一部組入銘柄の株価下落率は大きいものの、ファンダメンタルズの急激な変化というよりは、市場乱高下によって短期売買型の市場プレーヤー(ヘッジファンドなど)が損失回避のために高流動性の大型株を強制売却している可能性のほうが高いと考えられます。これは45日にFinancial Timesが報じた、ヘッジファンドが2020年新型コロナ危機以来の大規模な追証に見舞われたという記事でも確認できます。当ファンドが急激な株式需給悪化を短期的に受けてしまうことは避けられませんが、このような局面こそ絶好の買い時としてとらえていく方針は前月ご説明したとおりです。

グッドニュースとしては、当ファンドの組入銘柄の割安感が増してきたことです。現在のポートフォリオ全体の予想ROE11.0%とTOPIXを上回る一方、予想PER14.1倍とTOPIXを下回る水準です。とりわけいくつかの主要組入銘柄では現行の会計基準では実態を正しく反映していないことから実際のバリュエーションは更に低くなっています。例えばセブン&アイ・ホールディングスは会計上の20262月期予想1株あたり当期純利益EPS101.96円)ではPER20倍程度ですが、当ファンドがより実態に近いと考える20262月期予想のれん償却前EPS143.96円)だとPER15倍程度と非常に割安です。またオリックスの20253月期第3四半期時点のPBRも、会計上の一株当たり純資産(3,596.6円)でみるとPBR0.8倍程度ですが、投資会社の評価としてより適切な一株当たり時価純資産でみれば実質的には0.5倍程度になると推察され、こちらも割安感が際立ってきています。
 当ファンドは「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」という投資戦略のもと、日本発のグローバル企業に投資しています。日本という狭い市場よりも潜在市場がグローバルに広がっているビジネスのほうが「魅力的」であるからです。日本発のグローバル企業に投資することによって、息の長い株価成長が期待できると考えます。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年3月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.22%の上昇、日経平均株価は同4.14%の下落となりました。当月の日本株式市場は、米国の関税政策に対する不安や地政学的リスクの影響を受けて投資家心理が動揺し、荒い値動きが続きました。
 月前半にはトランプ米大統領の相次ぐ関税発動によって世界的な景気減速懸念が台頭し、景気敏感株を中心に日本株式市場は大きく下落しました。
 月半ばには植田日銀総裁の利上げ継続を示唆する発言、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の大幅上昇、ウクライナ情勢を巡る地政学的リスクの後退などに加え、ウォーレン・バフェット氏が率いる米国Berkshire Hathaway社による日本の商社株の保有増が好感されてバリュー株を中心に買いが集まり、日経平均株価が弱含むのに対してTOPIXは底堅く推移し、日経平均株価をTOPIXで除したNT倍率は5年ぶりの低水準となりました。
 月後半に入ると、トランプ米大統領が輸入車に対して一律25%の関税を課すと発表したことで自動車株や半導体株が大きく売られ、リスク回避ムードが強まりました。さらに、米国で物価上昇と景気停滞が同時に起きる「スタグフレーション」への懸念が一層強まり主要株価指数が大きく下落したことを受け、日本株式市場もほぼ全面安となり、日経平均株価は約7か月半ぶりの安値で当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.15%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.22%の上昇を1.37%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、東京海上ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱商事などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、リクルートホールディングス、ルネサスエレクトロニクス、日立製作所などでした。

 当月はオリックスの井上会長(CEO)と髙橋新社長(COO)による証券会社アナリスト限定のスモールミーティング(機関投資家・アナリストなどが、会社の経営陣に対して質疑応答を行う打ち合わせ会の通称)が開催されました。
 出席した各証券会社のアナリストレポートによると、会社側発言の主なポイントは以下のとおりです。

  • 次の3年間でROE11%達成をコミットメントとし、さらに5年後には12%をターゲットとしたい。同時に一株当たり利益は10%以上の成長を目指す。そのために事業利益の成長だけでなく、自社株買いも必要に応じて行っていく。
  • ビジネス戦略面では「ビジネスソリューション」と「オルタナティブ投資・運営」に注力していく。前者は既存の法人顧客基盤を活かして事業承継や不動産関連の課題解決を通じ手数料収入を増やしていく。後者は、投資領域としてサスティナブル(脱炭素や循環型経済)、グローイングエコノミー(ウェルスマネジメント、ヘルスケア、新興国、エンターテインメントなど)、デジタル・インフラ(AI(人工知能)インフラ関連など)をターゲットとする。当社は投資先を発掘するオリジネーション力は過去の実績が示す通り充実しているが、投資家にいかに幅広く投資商品として提供していくかというディストリビューション力がまだ弱く、今後の課題である。
  • 投資案件の管理については、投資実行から売却までの判断をより的確に行うため、事業ポートフォリオ管理やリスク管理の仕組みを高度化させていく。

 このなかでオルタナティブ資産に注力する方向性は当ファンドが202411月に単独で行った井上氏との議論通りの内容です。当ファンドが指摘した「いかに解約リスクの低いpermanent capital(永久資本)、あるいは長期性(場合によっては超長期性)預かり資産を拡充していくか」が引き続き焦点であり、同社も課題意識を持っているようです。

オリックスのバリュエーション面での魅力

 今回のスモールミーティングに先立って、前月には日本経済新聞で井上氏によるインタビュー記事が掲載されていました。そこで同氏は、今後は「資産は増やさず回転させて稼ぐ」と述べています。この戦略の転換は、株主にとって同社株の評価軸が少しずつ変わっていくことを意味します。理論上はこれまでの「含み益を考慮したPBR(株価純資産倍率)」(*)から「将来利益をベースとしたPER(株価収益率)」での評価になるはずです。
*)いわゆるNAVベース(時価純資産)の概念に近い評価

 その理由は、現在のプリンシパルインベストメンツ型(自社のバランスシートで投資資産を抱える)中心のビジネスモデルから、自社で全ては保有せず外部投資家の資金も活用することでフィー収入を得る構造が増えていくためです。PERに切り替わると予想されるのは、この「アセマネ・シフト(アセットマネジメント事業へのシフト)」を通じて利益の質が変わっていくためです。解約リスクの低いpermanent capital、あるいは超長期性の預かり資産を拡充し、安定性の高いかつ高収益なFRE(fee-related earnings)を確保できれば、株式市場が同社に対して安定した利益見通しを立てやすくなります。これは同社のリスクプレミアムの低下につながるのでポジティブです。
 フィービジネスの割合が増えてくれば、同社をPERで評価する意味合いが増し、その水準も現在の10倍以下から20倍以上になっても不思議ではないと考えます。実際、世界のオルタナティブ投資上場会社(KKR社(米国)、Apollo Global Management社(米国)、Brookfield Corporation社(カナダ)、The Blackstone Group社(米国)など)の多くはそのような評価になっています。
 当ファンドは現在の同社は非常に割安な水準に放置されているとみています。井上氏が度々発言したコメントである「PBR1.5倍が、含み益を考慮した場合のPBR1.0倍に相当するだろう」が正しいのであれば、今後の成長性を考慮しなくても同社の価値は現在の株価を5割以上、上回っているのです。
 一方、「アセマネ・シフト」には数年かかるため、今日現在のオリックスはプリンシパルインベストメンツを主体とした投資会社として「含み益も考慮した純資産を毎期どれくらい増やしているか」を株式市場に対してしっかりと伝えるべきです。202412月運用コメントで解説したとおり、間違ったROEを使った説明では誤解を招くので、当ファンドは引き続き改善すべきであるとのスタンスです。
 そして中長期的にPERで評価できるようになれば、同社の株はさらに上昇するポテンシャルがあります。これをどのように株式市場に理解してもらうかも今後の課題と言えるでしょう。
 加えて、現在およそ3%になっている配当利回りも魅力です。同社は配当方針として「前年度実績または当期利益に対する配当性向39%のいずれか高い方」と定めています。つまり累進配当(毎年継続的に増配を行い、最低でも前年比横ばいで減配をしない方針)を導入しているのです。そして配当とは別に近年は自社株買いも毎年実施しています。20253月期は、「設定枠上限である500億円まで取得のうえ、発行済株式総数の2%を超える分を消却」するとしており、2月末現在すでに同社は発行済株式総数の2%を超える分を保有済みです。したがって、両者を合計した総還元利回りは5%弱にもなります。
 株価が割安な状況下で行われる持続的な自社株買いや増配は株主にとって大変重要です。自社株買いでは株価が割安であるほどより多くの株を買い入れることができ、結果として株主に帰属する一株当たり利益が増えていきます。とりわけ同社の場合は、株価が純資産価値1倍を割れている(いわゆるPBR1倍割れ銘柄)ので、自社株買いをすればするほど一株当たり純資産額も増えていくことになります。つまり株価水準が変わらなければ、割安感がどんどん強まっていくのです。
 このような長期にわたって割安な株価で行われる持続可能な株主還元(配当利回りや自社株買いによる一株当たり利益の増加)は、株式市場に見過ごされやすい株式リターンの源泉のため、知らずのうちにリターンの底上げ要因となるでしょう。あまり注目されず過小評価されやすいからこそ、当ファンドは投資妙味が大きいと考えています。
なお、前月発表された20253月期第3四半期決算においてセグメント利益合計4,275億円(前年同期比約16%増)、当期純利益2,718億円(同約24%増)と過去最高を更新しており、業績も好調です。これらの利益は同社が保有する数多くの同社ならではのユニークな事業資産や投資資産(*)によってもたらされています。
*)関西エアポート社(関西国際空港、伊丹空港、神戸空港を所有)、世界有数の大規模航空機フリート(ORIX Aviation Systems社(アイルランド)、Avolon Holdings社(アイルランド))、ホテル・旅館(「佳ら久」、「クロスホテル」など)、再エネ事業(Elawan Energy社(スペイン)、Greenko Energy Holdings社(インド)、Ormat Technologies社(米国)など)、オリックス生命保険、オリックス銀行、リース資産、アセットマネジメント事業(Robeco Groep社(オランダ)、Boston Partners Global Investors社(米国)、他)、プライベートクレジット(NXT Capital Group社(米国))、プライベートエクイティ投資(東芝、DHC、三徳船舶など)

 まとめると、当ファンドが考えるオリックスのバリュエーション面での魅力は以下の3点になります。

  • 見た目上のPBRは0.9倍と割安。しかし投資資産の豊富な含み益を考慮すればPBRはさらに低く、株価は実質的な純資産価値を大幅に下回っている。よって理論上は今後の成長性を考慮しなくても5割以上の株価上昇余地があると考える。また包括損益を分子とした実質的なROE20243月期実績で14.6%、20233月期は12.4%(*)と、実は高水準でありPBRの切り上がりは期待可能。
    *202412月運用コメントを参照
  • フィービジネス主体の収益構造にうまく転換できれば、株式市場はPERベースでみるようになり、現状よりも遥かに高い評価が可能となる。現状はわずかPER9倍程度だが、大幅な切り上がりも十分考えられる。
  • 高水準の配当利回りと割安な水準で行われる自社株買いが株価の下支えとなる。

 最後に、井上氏が目指す「資産は増やさず回転させて稼ぐ」ようになれば、必要な自己資本も少なくなります。自社で保有する投資資産の損失に備えた財務的なバッファーがいらなくなるためです。そのため自社株買いもしやすくなるでしょう。ここで初めてROEを上げやすくなると考えます。

米トランプ政権の政策について

 米トランプ政権による関税政策などが株式市場を動揺させています。メディアや経済専門家からは、米国による一方的で身勝手な横暴との批判が絶えません。
 しかし当ファンドは必ずしも否定的に捉えていません。トランプ政権が描いている政策フレームワークには一定の合理性があるからです。米国の目指している方向性は当ファンドが投資している日本発のグローバル企業にとって長期的に望ましいことだと考えます。
 今の米国はバイデン政権以降に急拡大した巨額の財政赤字を一刻も早く削減し、政府債務の増加ペースを抑える必要があります。2022年以降、市場金利は大きく上昇しています。つまり、債務問題を放置しておけば金利負担の増加分だけで借金が雪だるま式に増えてしまう「デットスパイラル」が現実味を帯びているのです。
 米国の財政赤字と債務問題の元凶は歳入不足ではなく、歳出過剰にあります。トランプ政権は、この問題に正面から取り組むために1)公的セクターのスリム化・効率化、2)国民の減税、3)規制緩和による民間セクターの活性化、4)エネルギーコストの引き下げ、5)関税の引き上げ、などを掲げています。
 このうち1)公的セクターのスリム化・効率化については目下、テスラ社の創業者イーロン・マスク氏が率いる政府効率省(DOGE)が高コスト体質にメスを入れています。長年使用されている政府ITシステムの老朽化などを原因とする年金の不正請求や使途不明資金の存在などが次々に明らかになっており、1兆ドルのコストカット(=歳出削減)は実現可能との見通しです。
 DOGEが不要な歳出を一気にカットする一方、歳入サイドでは2)国民の減税を打ち出しているので税収減のリスクがあります。しかしトランプ政権は3)規制緩和による民間セクターの活性化と、4)エネルギーコストの引き下げによって米国経済の潜在成長率を引き上げ、ひいては歳入強化を狙っています。「大きな政府」を縮小させ、民間主導の経済成長を理想としているのです。今後具体的な施策が発表されるでしょう。
 5)関税の引き上げは、最終的には米国消費者に価格転嫁されるので外国製品に課せられる消費税と捉えることができます。「外国に税負担を押し付けるのはフェアではない」という声がありますが、むしろ米国へ流入する海外製品に課せられる関税率は、これら輸出国が米国製品に課している関税率よりも遥かに低い状況が何十年も続いてきたのです。これは第二次世界大戦で疲弊した諸外国の経済復興を促進するために、米国が自国市場を進んで開放したのが始まりと言われています。以来、あえて輸出国に有利な不平等関税を維持し今日に至っています。
 関税強化によって米国内で製造業を優先・復権させようとする理由は軍事面にもあります。冷戦時代の米国はソ連に対して軍事力で対抗できていました。現代では中国が覇権国家として最大ライバルとなっており、軍事力でも急速に追い上げています。これに対抗するための備えが求められます。軍備は自給自足できる体制が望ましいはずですが、現在の米国では例えば造船産業(軍艦製造などに重要)は中国と比べ物にならないほど規模が縮小してしまっているのです。国家安全保障上、外せない視点です。
 また関税であれば、米国への製造業回帰が促進されると同時に、歳入も拡大できます。バイデン政権のCHIPS法やIRA法といった補助金政策と大きく違うところです。外国企業が高い関税に不満であれば、米国内の生産拠点に投資するので雇用が生みだされます。そうでなければ関税を通じて税収が潤います。バイデン政権下では「諸外国に対しておカネを払って米国に進出してもらっていた」のに対し、関税の引き上げによってこの問題を解決できるのです。
 重要なのは、米国が推し進めようとしているのはあくまで平等な関税(reciprocal tariffs)ということです。すなわち、相手国が関税を下げれば米国も下げる用意があり、一方的な関税引き上げという横暴な行為ではなさそうです。
 関税は小国が導入するのと、米国のような経済大国が導入するのでは、自国経済へのインパクトは大きく異なるでしょう。事実、トランプ大統領が一期目に導入した関税は、その後為替レートの調整(ドル高が進展した)によって米国民にとっての負担増はほとんどなかったという調査結果がでています。米国経済が大打撃を受ける可能性は低いのではないでしょうか。
 このようにトランプ政権は財政赤字を削減し、デットスパイラル懸念を収束させ、長期金利を引き下げ、インフレを鎮静化させ、民間主導の経済成長率を引き上げることを目指しています。
 そして同政権は米国のもうひとつの根深い問題である社会の不平等問題についても、これらの施策を通じて解決しようとしています。米国は過去2030年にわたって製造業ではグローバリゼーションを謳い、人材面ではDEIDiversity(多様性)、Equity(公正性)、Inclusion(包括性))運動を推し進めてきました。コスト最適化のためにサプライチェーンをグローバル化し、人材も多様化を推進することが国の成長につながり、最終的には全ての人々に経済的恩恵がもたらされると信じられてきました。
 しかし上記の不平等関税などもあり、米国社会で進んだのは製造業で働く労働者へのしわ寄せでした。とりわけ中国が2000年代始め世界貿易機構(WTO)に加盟し、同国製の輸入品が増えて以降は顕著になりました。さらにDEIを過剰に意識した結果、本当に能力のある人材が登用されないという本末転倒な事例も散見されます。社会の分断がかえって進んでしまった側面もあります。
 米国民は疑いを持たずに「グローバリゼーションやDEIは推し進めるべきもの」という近代の新しい価値観を受け入れてきたものの、労働者階級・低所得者層は生活が一向に豊かにならないという問題が浮き彫りになりました。これらの恩恵を受けたのは一部の階層の人々に留まり、多くの人たちは「置いてけぼり」をくらったとみられています。挙句の果てには、中国からカナダやメキシコを経由して米国に流入してくる安価なドラッグであるフェンタニル(Fentanyl)がこれらの人々の一部を蝕み、大きな社会問題にも発展しました(米国が隣国に対して強硬な関税策をちらつかせている理由でもあります)。社会の大半を占める一般庶民に怒りのマグマが溜まり、現状の打破を求めていた、それがトランプ氏の当選だったと言えます。同氏の狙い通りにいけば、社会の分断も収まり、名実ともに強い米国が財・サービスの買い手として世界経済を牽引していくのではないでしょうか。

 当ファンドは「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」という投資戦略のもと、日本発のグローバル企業に投資しています。日本という狭い市場よりも潜在市場がグローバルに広がっているビジネスのほうが「魅力的」と考えるからです。当ファンドは、トランプ政権の各種政策が成功を収めるころには、米国経済は今より一層強靭になり、日本企業にとって魅力的な市場になるとみています。ただその過程で一時的な痛みは避けられないかもしれません。これまで本運用コメントで度々お話してきたとおり、このような局面こそ絶好の買い時として引き続き運用にあたっていく方針です。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年2月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.79%の下落、日経平均株価は同6.11%の下落となりました。当月の日本株式市場は、トランプ米大統領の関税政策に関する言動に振り回され、月後半にかけて大幅な下落となりました。
 月前半にトランプ米大統領がメキシコ、カナダ、中国に対する追加関税の検討を表明したことを受けて日本株式市場は急落しましたが、その後メキシコとカナダの関税発効が延期され株式市場は一時的に回復しました。しかし、複数の米国経済指標の結果からスタグフレーション(景気の後退と物価の上昇が同時進行する経済状況)懸念が再浮上する中で投資家は慎重な姿勢を保ち、日本株式市場も方向感のない、上値の重い相場が続きました。
 月後半には、日銀の追加利上げ観測が高まり国内長期金利は一時約15年ぶりの高水準まで上昇しました。また、米国の消費者信頼感指数や購買担当者景気指数(PMI)が予想を下回る結果となり、米国経済の先行きに対する懸念が強まりました。これを受けて、為替市場では円高ドル安が進行し、日本株式市場の重石となりました。さらに、トランプ米政権による対中半導体規制強化の観測や、米国ハイテク株の下落、米国の関税政策を巡る不透明感などが影響し、日本株式市場は大幅に下落し当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐6.06%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同3.79%の下落を2.27%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、ソニーグループ、ルネサスエレクトロニクス、東京海上ホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、リクルートホールディングス、オリックスなどでした。

セブン&アイ・ホールディングスの株価急落について

 2月27日、セブン&アイ・ホールディングスは創業家によるMBO非上場化スキームの検討が打ち切りになったと発表しました。理由は「当社買収に関する正式提案に必要となる資金調達の目途が立たなくなった」というものです。
 このニュースを受けて同社株価は急落しました。しかし、当ファンドでは従来と変わらず同社株に対してポジティブな見方を継続しています。

Alimentation Couche-Tard社による買収成立の可能性がある

 一つ目の理由としては、Alimentation Couche-Tard社(カナダ)からの買収提案は引き続き検討中であることです。Alimentation Couche-Tard社によって提案されている買収価格は1$18.19(前月末時点の為替レート換算で約2,700円)であり、現在の同社株価はこれを大きく下回っています。
 買収の実現には、仮に同社が提案を受け入れたとしても、独占禁止法上や経済安全保障・外国為替及び外国貿易法(外為法)上のいくつかの障害あるとされています。しかし、買収スキームの調整次第では、これら問題点をクリアできる可能性は十分あると考えられます。また独占禁止法に関しては、米国における両社の市場シェア合計は10%台前半に過ぎません。米国のWalmart社やAmazon社などを含めた広義の小売業界でみればシェアはさらに小さく、同規制が問題になるリスクは小さいように思えます。
 そもそもAlimentation Couche-Tard社による買収が本当の脅威でなければ、創業家によるMBO提案は起きえなかった話です。もし規制上の理由(外為法に関する懸念は20248月ごろよりすでに取り沙汰されていました)などで海外企業による買収実現が到底ありえないのなら、202411月(Alimentation Couche-Tard社による最初の提案から3か月後)の時点で、わざわざ非上場化計画を企てる必要もなかったでしょう。もし創業家が「このままだと外国企業に飲み込まれてしまうので、より高い価格を提示して救済をしないと」と考えたのだとしたら、MBO計画が頓挫した現在、特別委員会の立場としてはAlimentation Couch-Tard社への買収提案に合意することが最も矛盾のない結論になるはずです。

万が一、買収不成立だとしても投資妙味は変わらない

 とはいえ、何らかの理由で買収案が成立することなく、同社が単独で事業を継続していく可能性も十分あります。この場合、目先は短期筋による失望売りから株価はさらに下落する可能性も否定できません。しかし当ファンドでは、買収観測が報道された当初から20248月運用コメントで述べたように「仮にAlimentation Couche-Tard社による買収が破談になったとしても、現状の株価水準で新たな買い手が現れる可能性が高く、株価下値リスクは大きく抑えられると期待している」との考えを一貫して持っています。また、今回の件によって同社に買収妙味があることは明確となりました。
 今後新たな買い手が現れた場合も、社内取締役から独立している特別委員会が中立的な視点に立って、株主利益のために動くことが期待されます。これは同社の歴史上、画期的な出来事です。同社は本買収提案以前もAlimentation Couche-Tard社から2回ほど同様の提案を受けているようです。近年では2020年に接触されていますが、残念ながら同事実は当時対外的に発表されることなく提案は却下されました。既存株主が知らされることなく、当時の株価よりも高い買収金額で売却する機会を与えられなかったのは由々しき問題でした。
 しかし、日本におけるコーポレート・ガバナンス改革や米国のアクティビストValueAct社からのプレッシャーなどもあり、同社は20225月にようやく独立社外取締役が過半数を占める体制へ移行しました。翌20233月には独立社外取締役のみで構成される戦略委員会が設置され、資本収益性面で非効率なグループ体制を見直す動きもでてきました。同年8月には経済産業省が「企業買収における行動指針」を発表しました。これらの「外的圧力」があったからこそ、会社側には劇的な変化が起きているのです。
 また同社が単独で事業継続するなら、経営陣はかつてのような緩慢な経営努力では既存株主は許さないでしょう。会社側の危機感は相当なものであることは想像に難くありません。経営スピードは格段に上がると思います。
 逆説的ですが、当ファンドでは買収成立によって短期的な投資リターンを顕在化させてしまうよりも、むしろ今回をきっかけに同社が「まともに」経営されることで長期でより大きなリターンを実現するほうが賢明であるとも考えています。それはやはりコンビニビジネス自体が小売業として資本収益性が高く、キャッシュフローを潤沢に生む「魅力的なビジネス」であることに尽きます。Alimentation Couche-Tard社や米国の競合企業であるCasey's General Stores社やMurphy USA社などの長期業績推移、ひいては株価成長率がそれを裏付けています。そして同社の潜在市場は未だ寡占化余地が膨大な米国市場だけでなく、ヨーロッパ、中東、アジア、オセアニアなど空白地域が多く残されているからです。言うまでもなく、これらのポテンシャルは一連の買収価格の提案では考慮されていないのです。

既存店のテコ入れは進んでいる

 一方、苦戦が続いている日米の既存店動向については、正しい施策がすでに打たれていると考えられます。
 まず米国のコンビニエンスストアはガソリンスタンド併設型が多く、来店客の多くは給油ついでに買い物するだけのケースが多いと言われています。店舗の清潔感に欠け、治安面でも不安があるため、好んでコンビニで買い物をしようというインセンティブに欠けるのが実態です。このような問題点を認識し、同社は既存店の改装(看板の刷新、綺麗なトイレの設置、駐車場の線引きのやり直しなどを含む)を大々的に進めています。品揃えもフレッシュフードを中心に拡充を進めています。
 日本と米国のコンビニ店舗は似て非なるものですが、米国からの訪日客が日本のコンビニを訪れて清潔感や品揃えの豊富さに感銘を受けているのを目の当たりにすると、日本型コンビニ店舗モデルの移植に成功すれば、同社の米国における成長の道が大きく開けると考えます。同社はまた日本では当たり前のPOS(販売時点情報管理)システム導入による単品管理や、同日複数回配送の仕組みなども着々とノウハウを移植しており、今後が楽しみです。米国事業の既存店売上成長率は、たばこ販売の減少による押し下げ要因はあるものの20247月の前年同月比4.4%減(商品売上)を底にマイナス幅の縮小傾向がみられるのは明るい材料です。
 国内コンビニ事業も問題点ははっきりしています。もともと同社はプライベートブランド(自社企画商品)「セブンプレミアム」などを通じて値段に対して「価値」のある品揃えを特徴としてきました。このため、「価格訴求」の観点からは競合他社に劣後している状況です。デフレからインフレへの構造転換によって、競争環境が変わったためでしょう。同社はこの点を認識しており、対応を急いでいます。2024年からは「うれしい値!宣言」キャンペーンを行い、同年10月頃より既存店売上成長率はプラスに転じ始め、少しずつですがトレンド変化がみられます。
 同社は、1970年代からコンビニ業界のパイオニアとして、これまで店舗オペレーション面、商品開発、サービス面で数多くの革新を進めてきました。国内市場は大手3社がシェアの9割を占めている寡占市場です。セブンイレブンが競合に対して復活を遂げるのは、それほど難しいことではないように思われます。

エンゲージメント

 当ファンドでは20249月に同社特別委員会の委員長であるStephen Hayes Dacus氏との直接面談を行っています。その際、もし買収提案を受け入れず単独で事業継続する場合には、「経営陣を刷新することも一考に値する」と株主として伝えていることも併せて御報告させていただきます。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2025年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2025年1月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.14%の上昇、日経平均株価は同0.81%の下落となりました。
 月前半は、米国の堅調な景況感指数や雇用統計の結果を受け、米国の利下げ期待の後退から日米長期金利が上昇したことや、米バイデン政権がAI(人工知能)向け半導体の輸出規制を強化する計画であると報じられたこと、その後当規制案が発表されたこと等を受け、株式市場は下落しました。
 月半ばには、日銀総裁および副総裁から当月の金融政策決定会合で「利上げを行うかどうか議論して判断する」と、利上げを行う可能性が示唆されたことで円高が進行し株式市場の重しとなりました。しかし、昨秋からのレンジ下限として意識されている水準に近づくと下げ止まりの動きを見せ、株式市場は一転して上昇いたしました。
 月後半は、トランプ米大統領が公約に掲げてきた対中関税の即時発動を見送ったことや、ソフトバンクグループ、OpenAI(米国)、Oracle社(米国)等が今後4年間で米国のAI開発事業に最大5,000億米ドルを投資すると発表し、AI・半導体関連銘柄が上昇をけん引したことなどにより、株式市場は堅調に推移しました。
 一方、月の終盤にかけては、中国のAI開発企業DeepSeekが、米国製競合モデルを上回る性能を持った大規模言語モデルを低コストで開発したと公表したことで、米半導体企業の独占的地位が揺らぐとの警戒感から日米のAI・半導体関連銘柄が大幅に下落し、株式市場全体を下押しする局面がありました。しかし、月末にかけては揺り戻しの動きが見られ、前月末と概ね同水準で当月の取引を終えました。
 当月もしばらく続くレンジ内での推移に終始した格好となりました。また、月中に日銀は政策金利の0.25%の引き上げを実施いたしましたが、事前の日銀総裁および副総裁の発言や、利上げ観測報道で市場への織り込みが進んでいたことから、影響は限定的なものとなりました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.88%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.14%の上昇を1.02%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京エレクトロン、SOMPOホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、東京海上ホールディングス、オリックス、信越化学工業などでした。

 当戦略で2016年から保有しているリクルートホールディングス(以下、リクルート)の株価は2024年に大幅な上昇となり、上場来高値を更新しました。2022年に行った大規模な銘柄入れ替え時も売却せず、ポートフォリオでの保有を継続した「グロース株」のひとつです。
 同社は求人プラットフォーム事業を手掛ける「Indeed」を筆頭に、数々のオンラインメディアを展開するプラットフォーマーです。特にIndeedでは、求人企業による人材採用活動の効率化・自動化を進めるべく、近年矢継ぎ早に新サービスを投入しています。同社のビジネスはこれら施策によって参入障壁が更に強化される局面にあると考えます。

リクルートの強み、特徴

 リクルートは垂直統合型ビジネスモデル(製品の開発から生産、販売に至るまでのプロセスをすべて一社で統合したビジネスモデル)を持つ複合メディア企業です。自社媒体だけを手掛け、広告代理店を使わずにクライアント(広告主)を自前で集め、媒体を利用する消費者・ネットユーザーも自社で惹きつけている点が特徴です。結果として収益性が非常に高くなります。
 出版社としてみると、掲載コンテンツ全てが広告情報のみという媒体を手掛けています(*)。自社媒体を通じて同社は「事業者と個人のマッチングビジネス」に徹しているとも説明できます。
*媒体コンテンツとして特定分野に特化した広告のみを掲載しているのが特徴。リクナビ(就職情報)、ゼクシィ(結婚式場)、SUUMO(不動産)、カーセンサー(中古車)などが挙げられます。

 リクルートは創業時から新規市場に進出する際にいくつかの考え方を持っています。例えば、市場についてはそれまで相対取引が中心で、売り手と買い手の間に情報の非対称性が存在する業界をターゲットとしています。身近なところでは住宅、中古車業界などが挙げられます。商材としてはマンションなど大型商品で売り手側の供給調整がしにくいもの、なおかつ買い手側に経済的能力の制約が強いものとしています。
 収益源としては広告を出稿する側(事業者)のみに課金し、情報利用者である一般個人からは費用を取らないことも一貫しています。また近年のIndeedにおける取り組みで確認されるように、事業者から徴収する費用も、あくまで広告効果があったときのみ料金が発生するという「成果報酬型」の料金体系にこだわっています。広告出稿側が満足を得られたことに対する対価なのでフェアなビジネスモデルとして好感が持てます。

あまり知られていないIndeed創業当初の成功経緯

 メディアコングロマリットとも言えるリクルートですが、なかでも最も重要なセグメントはHRテクノロジー事業だと考えます。ここにはIndeed社(米国、2012年に買収)やGlassdoor社(米国、2018年に買収)が含まれます。
 Indeed社の競争優位性は、媒体ビジネス特有のネットワーク効果にあると考えられます。すなわち、情報量が一番多いところに求職者が集まり、利用している求職者が一番多いところに求人情報が集まるので、強者がさらに強者になるという好循環が生まれるのです。こういった優位性は高い参入障壁になりうるというのが当ファンドの見方です。
 Indeed社が米国で2004年に創業される以前、オンライン上の求人広告は主にHTML形式で作成されていました。HTMLはウェブページに特化しており、求人情報を視覚的に表示するために使用されました。企業は自社ホームページにのみ求人案件を掲載していたため、求職者は様々なサイトにアクセスする手間がありました。
 同社が創業初期に躍進を遂げたのは、当時このオンライン求人広告のデータフォーマットがHTML形式からXML形式へと移行・統一されていったのがきっかけと言われています。同社が開発した求人検索エンジンがXML形式の求人データをクローリング(ターゲットとなっている全てのウェブサイトをインデックス化する作業)することで(*)Indeedサイト上に直接出稿される案件に留まらず、世の中の個別サイト上の案件からオンラインジョブボード上に掲載されているものまで幅広く捕捉できるようになりました。クローリングによってロングテールの求人案件も掲載できるようになり、カバー率が一気に拡大したのです。この情報の網羅性はプラットフォームビジネスにとって欠かせない強みです。求職者はIndeedにさえアクセスすれば、世界中のありとあらゆる求人案件を検索できるようになったのです。同様に、圧倒的な数の求職者が利用するメディアとなったため、企業はIndeedにさえ出稿すれば、ありとあらゆる求職者にアプローチできるようになりました。
*XMLはデータの構造化と交換を目的としており、求人広告においても使用することで、求人情報データを標準化し、異なるシステム間でのデータ交換が容易になりました

 今日現在Indeedは世界最大のオンライン求人プラットフォームであり、圧倒的な規模を誇っています。

  • 登録されている求職者プロフィール:5.8億件
  • 登録されている履歴書:2.95億件
  • 評価とクチコミ総数:10億件
  • 利用求人企業:3.5百万社以上
  • 事業展開国:60か国以上(28言語)

インターネットビジネスは魅力的なビジネスの3条件が揃っている

 当ファンドがリクルートのようなインターネット上でプラットフォームを展開する企業に注目するのは、ビジネスモデルとして以下の特徴が魅力的と考えるからです。

  • アセットライトであるため資本収益性が高い
  • 変動費が少ないため限界利益率が高い
  • 潜在市場規模は膨大かつ成長性が高い

 圧倒的な参入障壁を持ち、かつ、これら3拍子が揃ったビジネスはインターネットビジネスを除いてそれほど多くはありません。例えば、この3つの基準で世の中の様々なビジネスをみていくと、高い資本収益性を持っていても、限界利益率が低いビジネスは沢山ありますし、高い資本収益性・限界利益率を持っていても成長性が低いビジネスもあり得ます。前者は小売・流通業や卸売業のように変動費比率の高いビジネス(例としてCostco社(米国))、後者でいえば2000年代のMicrosoft社(米国)のような成熟化したソフトウェアビジネスに起きうる状況です。

参入障壁の高いビジネスは魅力的だが、高め続けているビジネスはさらに魅力的

 ROE(株主資本利益率)が高い(=資本収益性が高い)ビジネスは、投下資本に対するリターンが資本コストを上回っているという意味で超過リターンを得ているビジネスといえます。このような状況は新規参入者にとって魅力的なので、市場参入を試みようとします。その脅威から当該ビジネスを守ってくれるのが「参入障壁」という概念です。
 当ファンドではこの参入障壁を「動的」なものとして捉えています。すなわち、参入障壁がどんなに高くても、競合の追い上げによって、その障壁が少しずつ弱まっている場合は、投資対象として好ましくありません。また参入障壁が維持されていても、それが硬直的で改善が見られないビジネスより、既存の参入障壁をより強固なものに進化させているビジネスのほうが望ましいといえます。現在のリクルートはまさにこの局面にあると考えられます。
 Indeed社では近年様々な新サービス、新システムを矢継ぎ早に投入し、求人企業、求職者の利便性、マッチング精度の向上を進めています。独自のサービスを他社が追いつけないスピードで投入していくことで参入障壁がさらに積みあがっていると見ることが可能です。

最近の新サービス、新システムの例:

  • Indeed Hiring Platform:
    2021年3月導入。求人企業がIndeedサイト上で候補者の検索から、バーチャル面接のスケジューリング、連絡、面接実施まで完結できるサービス。
  • Indeed Apply(Indeed エントリー):
    2021年6月導入。求職者がIndeedのサイト上で直接求人案件に応募できる機能。従来は、Indeedで求人案件を検索したあとは、当該企業のサイトに移動して応募する手間があった。求職者はIndeed上に履歴書を登録しておくことで応募プロセスの簡素化が可能となる。
  • PPSA(Pay-Per-Started-Application)
    2023年4月に導入した新たな課金システム。従来のクリック課金型(PPC)モデルから、求職者による応募開始があった時のみの課金(PPSA)に移行(成果報酬型課金)。求人企業にとって費用対効果が高くなる。
  • Indeed PLUS:
    2024年1月導入。求人内容に応じて各案件を最も相応しい連携ジョブボード先(アルバイト、パート採用、転職、新卒など)に自動で掲載する配信サービス。求人企業はこれまで自分で判断して各求人案件の掲載先を決めなければならなかったが、その手間が省ける。
  • Indeed Smart Sourcing:
    2024年4月にサービス開始。求人企業が候補者に対してメールでコンタクトできるサービス。従来は求人企業がIndeedに登録された膨大な履歴書から手作業で求職候補者を検索していたが、新サービスではIndeedのAI機能を通じた推薦も受けられ、より効率的になった。

 同社が掲げている経営ミッションのひとつとして「Simplify Hiring- 人材マッチング市場における採用プロセスの効率化」というものがありますが、これは、人々の職探しを手助けする便利なサービスをAIや機械学習を使って極めていくことを目指すものです。経営陣は自社が持つ膨大な求職者・求人企業のデータを武器に「仕事に就きたい人が1秒で転職できる」または「1回ボタンを押すだけで、新しい仕事に就ける」という姿を究極的に描いています。

テイクレート上昇のポテンシャル

 プラットフォーム利用者の満足度が向上するにつれて期待できるのは同社が得る手数料率の上昇です。20243月に開催された同社オンラインイベント「Investor Day」によると、現在(開催当時)の採用一件あたりの企業クライアントからの平均テイクレート(*)はわずか1%未満です。
 経営陣によると、一般的な人材紹介サービスを使った時の紹介手数料(テイクレート)は平均約20%、ヘッドハンターなどによる成功報酬では最高40%です。こうした実態を踏まえると、同社のテイクレートには現状の1%未満から大幅な引き上げ余地があることが分かります。そして、それでもなお相対的に低い採用単価であるという価格優位性を維持できるのです。
*テイクレートとは、採用者の初年度給与に占める採用単価の割合を示す指標。仮に110万ドル稼ぐ⼈を斡旋して1万ドルの手数料をもらえるとすれば、テイクレートは10%となります

バリュエーションの考察

 一般的に高成長が見込まれるインターネット関連銘柄は、ダウンサイドリスクを定量的にイメージしたうえで投資を行うのは非常に難しいものです。これは解散価値の目安といわれる純資産価値や高い配当利回り、あるいは市場平均を大きく下回るPER(株価収益率)といった定量的に割安な指標を見出すことが期待にしくいためです。
 多くの場合、PERPBR(株価純資産倍率)でみると他業種に比べ割高にみえるため、どんなに本源的価値が現状の時価総額を上回っていたとしても、株式市場は一時的なネガティブ材料に敏感に反応し、株価変動が激しくなる傾向があります。リクルートも例外ではありません。
 しかし限界利益率の高いことが特徴であるインターネット企業が株式市場の予想を大きく超える業績発表をすることは往々にしてあります。このため、一見割高と思われる株価もある程度は許容できるものと判断しております。このような銘柄がファンド内に一定割合で存在することは中長期的なファンドリターンにとって有益なことだと当ファンドは考えます。
 そしてポートフォリオ全体としてみれば、保有銘柄ごとにダウンサイドリスク、アップサイドリスクのバランスが異なり、高度に分散された集中型ポートフォリオが引き続き維持できているというのが当ファンドの見解です。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年12月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.02%の上昇、日経平均株価は同4.41%の上昇となりました。年間では両指数とも2年連続で上昇し、年末終値としては日経平均株価が最高値を更新しました。
 月前半には、厚生労働省が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を通じて運用する資産の利回り目標を引き上げる方針を明らかにしたことで、日本株式の資産配分比率が高まるとの思惑が高まったことや、好調なハイテク株に支えられた堅調な米国株式市場、さらには米国の利下げ鈍化懸念からの円安進行等が日本株式市場の上昇につながりました。
 月後半には、18日に米連邦準備制度理事会(FRB)は米連邦公開市場委員会(FOMC)において予想通り政策金利の引き下げを決定し、2025年については2回の利下げに留まることを示唆しました。これを受けて米国長期債利回りは上昇し、米国株式市場は調整に転じ、その影響で日本株式市場も軟調に推移しました。しかしながら19日には日銀は金融政策決定会合にて金利を据え置くことを決定し、その後の記者会見で植田日銀総裁がハト派的な発言を行ったことで為替市場では円安ドル高が進みました。その後は好調な米国の半導体株及びさらなる円安に支えられ、日本株式市場は再び上昇に転じ、27日には日経平均株価は4万円の大台を回復しました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.12%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.02%の上昇を1.90%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、ソニーグループ、リクルートホールディングス、日立製作所などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、信越化学工業、ロート製薬などでした。

 当月は、2024年暦年の組入銘柄のパフォーマンスについて、振り返りを行います。

プラス貢献銘柄

日立製作所
 2021年7月運用コメントで新規投資銘柄として詳細にご紹介した日立製作所は、その後概ね当ファンドの見解通りに状況が進展しています。投資を開始してから速やかにファンドの主要組入銘柄に引き上げた同社の株価は2021年末以降216%上昇し、これまでのところ順調と言えます。
 2016年に始動したLumada事業は当初から社外だけでなく社内でも実態の分かりにくいビジネスというイメージが強かったようです。Lumada事業は特定の技術やソフトウェアに依存したビジネスではありません。当ファンドでは、同社がハード(やシステム)の売り切り型ビジネスから決別し、コンサルから製品販売後のアフターサービスまで自社内のあらゆるリソースを駆使・動員してソリューション提案形式で収益を稼いでいくための「事業ブランド」と捉えています。別の言い方をすれば「日立がもつ色々なプロダクトやサービスを、日立がもつデジタル技術で横串を通すもの」(同社役員のコメント)とも言えるようです。このコンセプトを創り出したのは惜しくも2021年に急逝した中西元社長の功績です。
 同社は事業ポートフォリオが広範囲に及びますが、圧倒的なシェアを持つ製品分野はあまり持ち合わせていません。しかしコングロマリット(分野の異なるさまざまな業種や事業展開を行う企業)だからこそ、ITシステム、社会インフラの制御、モノづくりなど多岐にわたる知見が、Lumada事業を可能にしています。また社内リソースは、過去10年のグループ再編を通じてGlobalLogic社(米国)や、日立エナジー社(旧ABB社)、Thales社(フランス)の鉄道信号関連事業など新たなアセットを獲得したことで、さらに範囲が広がっています。そして今後需要が伸びるであろうDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)分野をターゲットにしている点もポイントです。
 財務戦略面でも、経営陣のKPIは10年前に比べて明らかに変わってきています。「ROIC(投下資本利益率)」、「EPS(一株当たり純利益)成長率」、「フリーキャッシュフローのコンバージョンレート」など成長・資本効率性・キャッシュフローの3つに力点をおいた経営管理がなされているのは正しい方向と考えます。特にROICはここ数年、日本企業がこぞって経営指標として採用しています。ROE(株主資本利益率)の場合はどうしてもビジネス自身がもつ資本収益性だけでなく、当該企業の財務レバレッジ方針や、所在国における法人税率にも左右されてしまいます。当ファンドもROICやROCE(使用資本利益率)のほうが企業ビジネスを評価する上でより適切だという見解です。
 2025年3月期第2四半期(中間期)業績に目を転じると、調整後EBITA(*)約4,671億円(前年同期比16.5%増)、調整後EBITAマージン10.3%(同2.2ポイント増)と堅調です。売上先行指標となる受注残高もデジタルシステム&サービスセグメントで約1.6兆円、グリーンエナジー&モビリティセグメントで約12兆円(うち日立エナジー5.3兆円、鉄道5.9兆円)と大変豊富であり、Lumada事業も2025年3月期通期見通しで売上全体の3割、調整後EBITAの4割超を占めるところまで拡大しています。
*調整後EBITAは同社が重視する利益指標で、調整後営業利益に、企業結合により認識した無形資産等の償却費を足し戻した上で、持分法による投資損益を加算して算出。調整後営業利益は、売上収益から、売上原価ならびに販売費及び一般管理費の額を減算して算出。

(最近の見方)
 同社の株価は大きく上昇しました。株価バリュエーションに関しては、当ファンドの投資開始当初の予想PER(株価収益率)が10.5倍であったことを考えると、過去3年で市場の評価は大幅に上昇しました。当時は、同社の成長が当ファンド予想どおりに実現しなかったとしても、株価は製造業中心のコングロマリットとして十分割安なPERであり、ROEも10%超、健全な財務体質(自己資本比率29.7%、DEレシオ(負債資本倍率)0.54倍)であったため、安全余裕率(企業経営の安定度合いを示す財務指標。数値が高いほど経営に余裕があるとされる)の高い投資対象でした。
 翻って今日では株式市場で優良企業として幅広く認知されるようになりました。同社にとって成長に必要な「駒」は全て揃っていますので、今後は事業環境の追い風をうけて受注をどこまで積み上げていけるか、そして受注残をうまく売上・利益につなげられるかが現経営陣の執行力にかかっています。しかしながら、ここ数年の大幅なバリュエーションの切り上がりを勘案すると、今後の株価推移についてはやや注意する必要が出てきていると思われます。

メガ損保グループ3社(東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス

 当ファンドでは2022年5月より日本のメガ損保グループ3社に投資を開始しています。ともすると日本における保険事業は、成熟しており退屈な産業と捉えられがちです。しかし当ファンドでは以下に述べるとおり、魅力的なビジネスとして捉えています。

(投資対象としての損保ビジネスの魅力①:銀行業、資産運用会社との比較)
 損保事業の本質はリスクの引き受けです。保険会社は保険料を受け取る対価として、自動車事故や火災が起きたときに修理代などの損害費用を保険契約者に代わって負担します。契約時に保険料を受け取ってから、保険金を支払うまでの間、保険会社は保険料を運用することで収益を獲得します。また損害が発生しなかったり、実際に支払われる保険金が受け取った保険料を下回ったりすれば、差額は(事業経費を控除したうえで)保険会社の利益となります。このように保険業の収益源は主に運用収益と引受収益から成り立っています。
 広義の金融業には保険以外に銀行業や資産運用業がありますが、いずれも外部資金を活用して収益をあげるビジネスモデルです。しかし、それぞれは異なる特徴をもっています。
 例えば銀行は預金を集め、それを貸し出すことで利ざやを得ています。預金元本は預金者に帰属するため、銀行からみると預金を「借りている」ことになります。預金者に支払う利息は銀行業の「資金調達コスト」です。一方、保険会社は払い出す保険金が受け取った保険料よりも多ければ、その差額が「資金調達コスト」に相当します。保険引受事業が黒字なら、それは資金調達コストがかかっていないどころか、「お金をもらって」保険契約者から資金調達していることになります。したがって、銀行業との比較では黒字の引受事業を持つ保険会社のほうが魅力的だと考えます。
 また、資産運用会社は顧客から資金を預かり、運用サービスの対価として手数料をもらうという意味で黒字の保険引受事業と似ています。しかし、運用会社が生み出す資産運用益は顧客に帰属するので、運用で獲得したリターンが保険会社のものになるのと大きく異なります。この点も、保険会社のほうが魅力的と考えます。すなわち、保険引受において黒字計上をし、運用面で高いリターンを獲得できる保険会社は「いいビジネス」なのです。

(投資対象としての損保ビジネスの魅力②:生保ビジネスとの比較)
 損保ビジネスと生保ビジネスの違いについてはどうでしょうか。生保ビジネスの魅力としては、引受事業から生み出される利益が損保ビジネスに比べて安定している点が挙げられます。この利益の源泉は、生命保険料を算出する際に使用される想定死亡率と実際の死亡率の差分から発生するもので、損保ビジネスの損害発生率に比べて変動が小さいことが挙げられます。また一般的に生保は契約期間が数十年に及び、想定される保険金額は契約当初に固定されているため、インフレが進んだ場合でも保険会社の負担が増すことはありません。これに対して、損害保険はインフレによる自動車修理コストの上昇などが支払保険金を押し上げてしまいます。
 一方、生保ビジネスの難点としては長期金利が低迷している事業環境では高い資本収益性を享受しにくい点が挙げられます。その点、損保会社は保険契約期間が短期であるため、金利上昇局面では早いタイミングで運用収益の改善を見込めます。また後述するように、損保は海外展開によって事業リスクの低減が図れるため、ひいては株式リスクプレミアムの低下が見込まれるというのも、当ファンドが生保ビジネスよりも損保ビジネスを選好する理由です。

(投資対象としての損保ビジネスの魅力③:銀行、生保よりも海外展開するメリットが大きい)
 日本では人口減少が続いていることから、銀行、損保会社、生保会社各社とも海外進出に積極的です。なかでも損保会社はビジネスの特性上、海外展開が非常に理に適っていると考えます。
 日本の損保会社の国内引受事業は自動車保険と火災保険が大半を占めており、自然災害リスクは台風や地震に集中しています。ところが、海外は必ずしもこのような国ばかりではありません。特に世界最大市場の米国は保険分野も多岐にわたっており、自然災害向け保険だけでなく、D&O保険(役員等賠償責任保険)、労働者災害補償保険、団体医療保険、サイバー保険などの特殊保険市場も大きく、日本の損保会社が現地進出や現地企業を買収することで引受リスクの分散が可能となります。株式投資の観点から言うと、ビジネスリスク分散・低減によって、株式リスクプレミアムの縮小が見込めるので、理論上は株価上昇要因になるのです。
 これに対して、日本のメガバンクも米国やアジアなどに注力していますが、貸出業務に大きな影響を与える金利動向はグローバルで連動する傾向があります。例えば、米国でインフレの高まりによって金利が上昇すると、ドル高をもたらします。これが他国において輸入物価の高騰を通じたインフレを引き起こすので、現地の金利にも上昇圧力がかかります。つまり海外展開をしても金利リスクの分散にはあまり寄与しないということです。
 また生保ビジネスの場合は、最初から不特定多数の個人との契約が多いので、自国市場だけで十分なリスク分散が図れます。海外進出しても想定死亡率は日本とあまり変わらないのでリスク分散にはなりません。
 このように銀行も生保会社も、規模拡大を目的とした海外展開には意味がありますが、事業リスクの分散には損保ほどのメリットは享受できないと考えます。

(投資対象としての損保ビジネスの魅力④:世界的にみても珍しい競争優位性がある)
 次になぜ日本の損保会社がグローバルのなかで稀有なポジションにあるのかについて説明します。2022年6月の月次報告書でご説明したように、日本の損保業界がもつ競争優位性として、1)寡占状態にある国内市場で生み出される高い収益性と潤沢な利益、2)未だ多額な含み益を持つ政策保有株の存在の2点が挙げられます。
 前者については、1990年代の金融ビッグバン以降の保険自由化によって再編が進み、今日の国内損保業界は東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングスの3グループにほぼ集約され、この3社の市場シェアは合計で9割ほどを占めています。世界の主要地域において、これほど寡占化が進んでいる損保業界はありません。例えば米国では2020年時点で自動車保険だけで50社以上存在し、最大手のState Farm社でも16%の市場シェアしかありません。このため競合環境も激しいと言われています。
 後者については、1960年代に企業向け保険ビジネスにおける顧客関係構築・維持を目的に購入された政策保有株は、2024年3月末時点で、3社合計の時価ベースで6兆円を超えています。今日において、政策保有株は非効率な金融資産としてみなされていることから、各社において売却資金化されており、それが戦略的に活用されています。海外損保業界ではこのような豊富な含み資産を持つ事例はみられませんので、日本のメガ損保グループ3社は非常にユニークなポジションにいると考えます。

(投資対象としての損保ビジネスの魅力⑤:模範的なキャピタルアロケーションを実践している)
 当ファンドではメガ損保グループ3社とも、お手本となるようなキャピタルアロケーションを実践しているという意味で、経営陣は優れていると考えます。すなわち、各社とも国内の潤沢な利益と政策保有株の売却資金を、株主価値の増大のため様々な方法で活用しているということです。
 その一つが海外M&Aです。例えば東京海上ホールディングスは過去20年近くにわたって、海外保険事業を拡大してきたという経緯があります。特に2008年以降、企業買収を積極化しており、2024年3月期実績では連結正味保険料収入、保険引受利益ともに4~5割強が海外事業によってもたらされています。
 良いM&A候補が見つからない場合、株主還元を積極的に行っています。株価が割安な状況下で行われる持続的な増配や自社株買いは株主にとって魅力的なリターンを生み出します。配当額(分子)に対して株価水準(分母)が低いほど配当利回りは高くなりますし、自社株買いでは株価が割安であるほどより多くの株数を買い入れることができ、結果として株主に帰属する一株当たり利益の額が大きくなります。また別の観点からみると、経営陣は株主還元を通じて不要な株主資本の増加を抑え、ROEを高めることができる立場にあるとも言えます。

(最近の見方)
 金融庁は損保各社が2024年2月末を期限とする業務改善計画を提出する際、政策保有株の売却加速を求めました。これに呼応するかたちで、各社とも向こう6~7年程度で政策保有株の全額売却にコミットしたことが好感され、株価は大きく上昇しました。今日現在、当ファンドが投資を開始した当初のような株価の大きな割安感は解消されていると考えます。
 一方、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に目を転じると、国内と海外における保険引受サイクルの違いと、金融政策の方向性の違いから日本の損保グループ各社の業績は世界的にみて底堅く推移しそうです。
 保険引受サイクルというのは以下のとおりです。まず保険引受の事業環境が好調な時は、業界全体として価格競争が落ち着いていて、損害率も低く各社とも収益が良好です。しかし、この状態が続くと、損保企業同士の競争が次第に激化し、保険料水準が徐々に下がっていきます。やがて業界全体の損害率が悪化し始め、収益性は下降サイクルに入ります。下位プレーヤーを中心に引受収益が赤字に陥るところまで保険料が下がる(コンバインドレシオが100%超えとなる)と、価格競争は沈静化し始めます。引受サイクルがボトムを打つと、やがて業界の収益性は上向きに転じます(これをハードニングと言います)。損保業界は数年単位でこのサイクルを繰り返します。
 現在世界最大の保険市場である米国はアップサイクルの終盤にあると言われています。2018年頃から始まった上昇サイクルから既に6年経過しており、過去に比べても長く安定した高水準が続いている状態が続いています。よってサイクルは近い将来、下降局面に入るというのがコンセンサスです。これに対し、日本では自動車保険や火災保険を中心に「ハードニング」が来年以降も続くと考えられます。異常気象による自然災害の頻度が増加しているため火災保険は慢性的な赤字体質であるうえ、コロナ禍からの経済リオープニング以降、インフレによって自動車保険の損害率が悪化しています。これを受けて、各社とも継続的な値上げを発表しており、2025年度以降も収益は改善基調が続く見通しです。
 さらに日銀による利上げも見込まれています。これは、受取保険料を短期金利物中心に運用する損保会社にとっては投資収益の改善に繋がります。米国では中央銀行の金融政策がインフレ鎮静化と景気減速に対応するため利下げ局面にあるのと対照的な動きです。このように金利サイクル、保険引受サイクルが全く異なるので、株式市場では日本の損保各社が選好される可能性があります。

リクルートホールディングス
 2016年から保有しているリクルートホールディングスの株価は大幅な上昇となり、前月に上場来高値を更新しました。2022年に当ファンドが行った大規模な銘柄入れ替え時も、当銘柄は売却せず、ポートフォリオでの継続保有することにした成長株のひとつです。
 同社は求人プラットフォーム事業を手掛けるIndeed社(米国)を筆頭に、オンラインメディアを展開するプラットフォーマーです。特にIndeed社では、求人企業による採用活動の効率化・自動化を進めるべく、近年矢継ぎ早に新サービスを投入しています。これにより、同社のビジネスは参入障壁が更に強化される局面にあると考えます。
 インターネットプラットフォーム型のビジネスは、高い資本収益性、高い限界利益率、高い成長性の3拍子が揃った稀有なビジネスモデルです。好調なインターネット企業が市場予想を大きく超える業績発表することは往々にしてあります。このため、一見割高と思われる株価もある程度は許容できるものと判断しております。詳細については、近々再び運用コメントで取り上げる予定です。

マイナス影響銘柄

ルネサスエレクトロニクス
 ルネサスエレクトロニクスはMCUmicro controller unit)やアナログ半導体を中心とする半導体メーカーです。以下の理由で、広義の製造業のなかで半導体関連は魅力的な産業であると当ファンドでは考えます。

  • AI(人工知能)、自動運転、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、エッジコンピューティング、5G、その他のアプリケーションなど、半導体は幅広い用途拡大、数量拡大がほぼ確実視されている成長産業である
  • 性能や生産技術の進歩も目覚ましく、半導体の集積度向上、効率化、高速化、省エネ化などの様々なブレークスルーが頻繁に起きる。新たな技術が商業化される度に、半導体製品および関連製造装置などの販売単価も上昇し、収益性がよくなっている

 同社は、当ファンドが保有している半導体関連株4銘柄(ルネサスエレクトロニクス、信越化学工業、東京エレクトロン、ソシオネクスト)のうちの1社です。2022年後半、米中の半導体貿易戦争が勃発し、世界的に半導体関連銘柄が大幅下落しました。当ファンドはそのタイミングでまず東京エレクトロンに投資を始め、以降は他の銘柄を順次買い入れました。
 寡占プレーヤーに近い信越化学工業(シリコンウェハー)や東京エレクトロン(半導体製造装置)と異なり、ルネサスエレクトロニクスは群雄割拠の半導体メーカーの1社です。当ファンドは投資戦略として「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を掲げていますが、全ての組入銘柄が必ずしも「魅力的なビジネス」と「卓越した経営陣」を同時に満たしているわけではありません。その場合にまず優先するのは「魅力的なビジネス」です。しかし「卓越した経営陣」に重きを置いた投資も少なからずあります。すなわちビジネスの参入障壁がやや見劣りしたとしても、有能な経営者がいれば魅力的な投資対象になりうるのです。同社の投資魅力は、柴田英利社長の経営手腕と割安なバリュエーションにあると考えます。
 ㈱産業革新機構(現㈱INCJ)出身の柴田氏は2013年にルネサスエレクトロニクスに入社しました。CFOを経て2019年に代表取締役社長 兼 CEOに就任しています。同社は半導体市況に左右されやすく、かつて不況時には大赤字を余儀なくされることが繰り返されていました。同氏はこの弱点にメスを入れました。
 具体的には代理店の再編を行ったことで流通在庫を含めた在庫コントロールがしやすくなりました。また業界として製品値上げが通りにくい慣行を打破し、正当性のある価格アップを実現させました。さらに自社製品比率の引き下げによるファブレス化(自社製品の製造を他社に委託するビジネスモデル)も挙げられます。ファウンドリ活用(外注生産)による固定費削減が可能になり、機動的な生産調整もできるようになりました。
 また柴田氏は、2017年にIntersil社(米国)、2019年にIDT社(米国)、2021年にDialog社(英国)といったアナログ半導体企業を買収し、統合を友好的に成功させています。これによって、顧客ニーズに応じた半導体ソリューション(同社では「ウィニング・コンビネーション(ウィニングコンボ)」と呼称)を提供できるようになりました。
 このようにしがらみに囚われずに合理化を行いつつ、攻めの投資も実行するという経営手腕を発揮できたのは、柴田氏が過去の経歴でPE(プライベートエクイティ)投資や投資銀行業務に携わったのが大きいと思われます。
 同社は2022年9月に開催された投資家向けプレゼンテーションにおいて「2030 ASPIRATION」を発表し、そのなかで2030年の時価総額を2022年比で6倍に引き上げるという野心的な目標を示しました。経営陣はビジネス規模を2倍、PERを3倍にすることでこれを達成しようとしています。このうちPERの業界平均までの引き上げについて、業績の振れ幅を抑え不況時でも赤字転落とならない収益体質の構築し、ある程度達成しています。
 そして同社は競合ひしめく半導体業界のなかで主要プレーヤー1社としての台頭を狙っています。売上拡大策として競合他社から差別化されたビジネスモデルの構築に取り組んでいます。MCUとアナログを組み合わせた「ウィニングコンボ」の推進や、PCB(プリント基板)設計のソフトウェア会社の雄であったAltium社(オーストラリア)買収による今後のシナジー実現などが重要なカギを握っていると考えます。

(最近の見方)
 2024年に株価が下落したのは半導体業界の回復遅れが主な要因だと考えます。車載向けや産業向けなど、コロナ禍以降の業績急回復が剥落し、昨今は在庫の積み上がり問題に業績の足が引っ張られている状況です。当ファンドも先行きについてやや慎重な見方をしています。EV(電気自動車)販売動向が世界的に失速しているだけでなく、同社の得意先である日系自動車メーカーも中国競合他社に対し劣勢に立たされています。車載向け半導体の低迷が一過性なのか、構造的なのか見極めが必要となりそうです。
 中国の脅威は様々な産業で顕在化しています。現地企業の大規模な能力増強によって、中国国内で供給過剰が発生しており、鉄鋼、自動車、太陽電池業界などでは、余剰在庫が安値製品として輸出されることで、日本を含む海外メーカーが苦戦を強いられる状態が続いています。中国におけるこのような状況は、重要産業の国産化を進めようとする中国政府の強力な補助金政策が根源にあると推察されます。例えば半導体分野ではパワーデバイス(IGBTInsulated Gate Bipolar Transistor)およびシリコンカーバイド)において中国現地メーカーの影響力が急速に高まっています。中長期的に車載用MCUやアナログ半導体においても競争激化するリスクは否定できません。これらの懸念が同社株価の重しになるリスクがあると考えます。なお現在の同社株バリュエーションは202512月期予想利益に対しPER10倍と市場平均を大きく下回り、EVEBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)も10倍弱に留まっていて、極端な割高感はないと判断しています。

主な買い増し銘柄

セブン&アイ・ホールディングス
 2022年7月に投資を開始して以来、当ファンドでは株式市場に逆行するかたちで継続的な買い増しを続けてきました。目の付け所としては、日本が誇るコンビニ事業としての魅力(資本収益性が高く、キャッシュフローが潤沢、かつ生活必需品を多く手掛けているため景気抵抗力もある)があり、米国を始め海外展開の余地が膨大であるにもかかわらず、既存店売上が短期的に低迷していることや経営陣が最適な資本配分を行えていないことなどから株価が非常に割安に放置されていた点です。しかし同社は2024年後半に大きな転機を迎えました。
 去る8月19日、同社は同業のAlimentation Couche-Tard社(カナダ)から買収提案を受けていることを公表し、株価が急騰しました。続く11月には創業家の資産管理会社である伊藤興業㈱からMBO提案を受けました。現在、同社の特別委員会が各提案を審査中です。
 社内取締役から独立している本特別委員会が中立的な視点に立って株主利益のために動いていることは同社の歴史上、画期的な出来事です。同社は本買収提案以前もAlimentation Couche-Tard社から2回ほど同様の提案を受けています。近年では2020年に接触されていますが、残念ながら同事実は当時対外的に発表されることなく提案は却下されました。既存株主が知らされることなく、当時の株価よりも高い買収金額で売却する機会を与えられなかったのは由々しき問題です。
 日本におけるコーポレート・ガバナンス改革や米国のアクティビストValueAct社からのプレッシャーなどもあり、同社は2022年5月にようやく独立社外取締役が過半数を占める体制へ移行しました。翌2023年3月には独立社外取締役のみで構成される戦略委員会が設置され、資本収益性面で非効率なグループ体制を見直す動きもでてきました。同年8月には経済産業省が「企業買収における行動指針」を発表しました。
 これらの「外的圧力」があったからこそ、今般同社は新たな買収提案を受けて速やかな公表に踏み切り、上記特別委員会を立ち上げて「潜在的な株主価値の実現のための全ての選択肢を客観的に検討中」であるとしています。このような会社側の劇的な変化においてValueAct社の果たした役割は大きかったのではないでしょうか。
 当ファンドでは9月に同社特別委員会の委員長であるStephen Hayes Dacus氏との直接面談を行いました。当方からはこれら提案に対してどのように対応していくのが望ましいかを具体的に伝えております。
 現時点において、どちらの提案が実現するかは全く未知数です。しかし、当ファンドでは今回の件によって同社に買収妙味があることが明確なったと考えており、これは大変ポジティブです。仮に全ての買収交渉が破談になったとしても、また新たな買い手が現れる可能性が高く、ゆえに株価下値リスクは大きく抑えられると期待しています。一方、当ファンドが同社株への投資から期待している将来の大きなリターンに変化はありません。

オリックス
 2022年半ばより投資を開始したオリックスは、当年も積極的に買い増しを行いました。同社については、2024年7月の運用コメントで「隠れインバウンドの恩恵」と「国内金利正常化の恩恵も受ける」銘柄として魅力を解説しています。
 当ファンドは前月、代表取締役社長(当時)の井上亮氏と直接面談を行いました。目的は1)中長期的な成長戦略についての議論と、2)同社の株式市場に対するコミュニケーションの在り方に関する問題提起です。
 1点目は、同社が目指しているアセットマネジメントビジネス強化(同社は「アセマネ・シフト」と説明)について、決算説明会や年次報告書からは読み取れない部分を重点的に伺いました。
 当方から提示した議論へ内容は以下のとおりです。

a.いかに解約リスクの低いpermanent capital(永久資本)、あるいは長期性(場合によっては超長期性)預かり資産を拡充していくか
b.いかに安定性の高いかつ高収益なFRE(fee-related earnings)を確保していくか
c.どのようなアセットクラスに注力していくか

 aとbは当ファンドが考える理想的なアセットマネジメント事業にとって欠かせない戦略であり、それを実現するためにcが重要になってきます。
 井上氏からの詳細な回答については割愛しますが、当ファンドが結論として得たものは、同社は預かり資産の拡大戦略としてリミテッドパートナーシップの仕組みをメインに考えていることです。一方で、海外のBrookfield Corporation社(カナダ)やPershing Square社(米国)が手掛けているような投資ファンドの上場スキームや、Apollo Global Management社(米国)やKKR社(米国)が近年強化しているような年金保険事業、あるいはBerkshire Hathaway社(米国)のビジネスモデルとして有名な自動車保険や再保険事業のフロートを活用した投資資金の拡大といった手法に関する言及はありませんでした。このうちの一部は海外と国内における保険業法の違いなどが実現の妨げになっているようです。また経営陣は、投資案件の数量を増やすよりも、厳選した個別案件から獲得できる収益額を最大化するために、可能な限り自己資金で賄うこと(Principal Investment)をあくまで優先したいようです。
 したがって、安定的なFREを強化していくよりも、投資案件をエグジット(売却)するときに計上される売却益が当面は同社の重要な収益ドライバであると考えられます。
 アセットクラスについてはオルタナティブ資産に注力していくと推察されます。しかし、今後プライベートエクイティ、プライベートクレジット、インフラ投資などのアセットクラスで大きな伸びが期待されるなか、どの地域のどの分野を優先していくかが気になるところです。
 2008年の世界金融危機以降、Basel III(バーゼル規制)などの規制強化によって欧米銀行はリスクアセットを縮小する動きが続いており、このため資金供給者としてのポジションが弱体化しつつあります。これはプライベートクレジットのプレーヤーにとって構造的な追い風です。一方、資金需要サイドとしては、これから数十年にわたって進むであろう脱炭素化の達成に数十兆円から数百兆円規模の、いわゆる「トランジション・ファイナンス」が必要とされます。またEVやAIデーターセンターの普及により膨大な電力キャパシティの追加が待たれます。さらに米国などにおける製造業の国内回帰は新たなインフラ投資や物流網の再構築、工場の立ち上がりなどに繋がります。いずれも巨額の超長期性資金を必要とするプロジェクトであり、短期性の預金を主な資金源とする伝統的な銀行では対応が難しくなってきています。このような大きな社会変化のなかでオリックスのような会社が自己投資よりも規模拡大が可能なアセットマネジメント事業を通じてビジネスチャンスとして取り込めるものは小さくないと考えます。
 同社はすでに関西国際空港などの空港施設や国内外での再エネ発電所の運営、船舶や航空機リース資産への投資、不動産案件やプライベートエクイティ案件のノウハウが豊富です。また規模は小さいですが、海外においてプライベートクレジットなどの戦略も展開しています。
 なお、傘下のRobeco社(オランダ)を筆頭に同社のアセットマネジメント事業の預かり資産は2024年3月末現在で69兆円にも上っています。日本国内で有数の規模を誇る運用会社としての横顔も持っているのです。これを100兆円にまで拡大するのが当面の経営陣の目標です。引き続き同社経営陣との対話を通じて中長期成長戦略の方向性を明らかにしていきたいと当ファンドでは考えています。
 今回面談を行った理由はもうひとつあります。同社株価に対する経営陣自身の評価と、それを株式市場へ伝える自らのメッセージに乖離があり、時として一貫性が感じられないことです。
 同社は決算説明会席上では株価向上策としてROE目標を掲げています。しかし、残念ながら現段階では、これは正しいアプローチではないと考えます。理由は2つです。
 一つ目は、ROEの計算式における分子(利益)と分母(純資産)の不整合です。
 ROEの計算式が「その他包括損益」を含まない当期純利益を分子とする一方、同項目を含む純資産を分母としています。すなわち、分子と分母が見合っていないのです。このため「その他包括損益」が好調な年度は分母が肥大し、結果ROEが低く見えてしまいます。同社のような投資会社にとっては、「未実現有価証券損益」や「為替換算調整勘定」といったその他包括損益項目は、経営成績をみるうえで当期純利益と同様に重要であると考えられます。ちなみに包括損益を分子とした場合、2024年3月期の同社ROEは14.6%、2023年3月期は12.4%でした(*)。同社が目標としている10%はすでに超えているのです。
*当社株主に帰属する包括利益/期中平均株主資本

 二つ目は、現行の会計ルールでは、同社の保有資産の価値上昇が十分に反映されないことです。
 同社の事業利益には以下の3つがあります。

a.毎期損益計算書上の当期純利益に反映されるもの
b.未実現有価証券評価損益や為替換算調整勘定のようにその他包括損益に反映されるもの
c.含み益が増えてもバランスシート上に反映されないもの

 現行会計ルールでは、売却に至るまでの保有資産の価値上昇は必ずしも全てが当期純利益に認識されない場合があり、一部の保有資産の含み益はバランスシートへの反映すらされないのです。このため、一般的なROEでは同社の実態を正確に捉えるのが難しいのです。
 以上の理由から、「ROEが10%を下回っているので、同社株価に対し高評価は与えられない」という一部の市場関係者の議論は的が外れていると言えます。
 2024年7月の運用コメントで解説したとおり、現在の同社ビジネスモデルは自らのバランスシートを使う「Asset Heavy」なビジネスが中心です。様々な事業資産や金融資産に投資を行い、そこから得られる収益や資産価値を引き上げて本源的価値を拡大させ、将来どこかの時点で利益を顕在化させることを本業としています。このため将来のフロー利益を前提としたディスカウントキャッシュフローモデルよりも、エグジットを控えた保有資産価値の重要性を鑑みてバランスシート上の資産時価から負債を差し引いた純資産価値の増減を本源的価値変化の近似値として注目すべきです(*)。
*これに対し、自動車メーカーなどの製造業は保有資産(主に工場資産や生産設備)の入れ替えに伴う株主価値の向上は本業ではありません。よって保有資産価値の増加をベースとしたバリュエーションはふさわしくないと考えます

 すなわち、当ファンドでは現時点での同社株評価は時価ベースの(すなわち含み益資産を考慮した)一株当たり純資産価値に対して株価が何倍であるか?がひとつの分かりやすい尺度であると考えております。いわゆる、時価ベースPBR(株価純資産倍率)です。毎期の時価ベース純資産価値伸び率が、本源的価値成長率の近似値になります。同社含み益には、不動産、再エネ、PE投資、航空機(発注済みでデリバリー待ち分を含む)などが含まれます。
 興味深いことに井上氏自身も同様の考え方をしています。すなわち、含み益を含めた純資産価値を毎年どれくらい増加させているかが経営者としての成績評価であると認識しているのです。これは同氏が過去に機関投資家向けIRグループミーティングで「PBR1.5倍が、含み益を考慮した場合のPBR1倍に相当するだろう」と発言していることからも明らかです。しかし、決算説明会ではしばしばROEの引き上げが株価上昇に不可欠であるかのような発言をしていますので一貫性がないと言わざるを得ません。
 井上氏の説明によると、東証によるPBR1倍割れ是正改革などの昨今の風潮もあり、ROEに基づいた経営成績の評価が最も市場に受け入れられやすいとのことです。これに対して当ファンドは、株主市場との対話でROEを用いた説明は見直した方がいいのではないかと提言を行っています。
 また、市場参加者も企業が発信する数値や指標を鵜呑みにせず、自ら正当な評価を行う努力も必要でしょう。そうすることで、過小評価されている同社株の改善余地は大きいと考えます。
 長期的には、一点目で述べたとおり「アセマネ・シフト」を進めることで、アセットをあまり使わないビジネスの比率が上がってくれば、財務上求められる適正な自己資本水準も少なくて済むようになるはずです。自社株買いをして自己資本を減らしても財務安定性を損ねることなく、ROEを上げやすくなるでしょう。将来の見通しが立ちやすいフィービジネスの成長によってROEが向上していけば、これまで6~10倍程度に留まっていたPERもより高い倍率が許容されると考えます。結果としてPBRが1倍を優に超える状況も考えられるかもしれません。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年11月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年11月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.51%の下落、日経平均株価は同2.23%の下落となりました。
 月前半は一進一退の展開となりました。5日に実施された米大統領選挙で共和党のトランプ前大統領が優勢と伝わったことから日経平均株価は大幅に上昇し、7日には40,000円に迫る場面もありました。しかしその後、トランプ次期米大統領が政権人事で対中強硬派の人物を起用する方針が報じられ、次期政権が掲げる関税強化策への警戒感が強まったことで半導体関連株に売り圧力がかかり、株式市場は下落に転じました。一方、14日には米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が「利下げを急ぐ必要はない」旨の発言をしたことで円安が進行し輸出関連株が買われ、半導体関連株の反発もあって株式市場の連日の下落が一服しました。
 月後半は狭いレンジで推移し、米国の金融政策の先行き不透明感や米国半導体株の動向に一喜一憂する動きが続きました。また、トランプ次期米大統領が中国、メキシコ、カナダに対する関税措置を発表したことを受け、相場は軟調な動きが続き、前月末比で下落して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.20%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.51%の下落を3.71%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、ソニーグループ、SOMPOホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、三菱商事、日立製作所、ルネサスエレクトロニクスなどでした。
 2024年も残すところあと1か月となりました。当月は相場の振り返りと、来年以降の見通しについてお話しようと思います。

日本株相場の転換点は今年8

 2024年の日本株相場の転換点は8月だったと考えています。それまではコーポレート・ガバナンス改革の進展を材料に海外勢主導による日本株買いが進み、日経平均株価は史上最高値を更新していました。しかし、8月の運用コメントでご説明したとおり、円キャリートレードの巻き戻しに伴う8月5日の日本株暴落が冷や水を浴びせる形となりました。日本株の激しい値動きを嫌気して外国人投資家の勢いもややトーンダウンしたようです。先進国である日本は成熟しているものの経済基盤の非常に厚い国です。にもかかわらず、今回のような日本株相場の乱高下は発展途上国のそれを上回り、翻弄された一部の投資家は損失を被ったのかもしれません。
 9月に入ると中国において大規模な景気対策が発表され、弱気一辺倒だった中国本土の株式市場が急速に盛り返しました。これを受けて、グローバルでそれまで好調だったインド株や日本株の利益確定を行い、中国株へ資金をまわすという動きも見られました。また中国をはじめとする世界景気の減速により日本企業の業績にも陰りが見え、素材、自動車、半導体などの景気敏感株の下落も目立ち始めました。
 さらに9月から10月にかけての国内政局変化も相場の熱量が下がった要因でしょう。自民党総裁選で勝利した石破茂氏が金融所得税の引き上げをほのめかしたり、金融政策に対するタカ派的な発言をしたことで相場は一時的に動揺しました。その後の衆議院選挙では自民・公明両党が過半数割れとなりました。これによって当面は政党間の意見調整に時間が費やされ、本来優先されるべき構造改革の推進や、資産運用立国の取り組み、次期米国大統領との外交関係構築などが後ろ倒しとなる懸念が台頭しました。また各党による景気対策の公約が財政赤字の更なる悪化につながり、基礎収支改善見通しの延期を想起させたことも悪いイメージにつながりました。
 しかし企業のファンダメンタルズに起因したものではない株式相場の極端な下落局面では、株価が本源的価値から下方に大きく乖離するミスプライシング現象が起こります。従って、長期投資家にとっては急落銘柄の買い時になります。実際、当ファンドでは今回の相場変動をチャンスと捉えて急落銘柄の買い付けを積極化させたこともあり、2024年初から急落前の7月末までのTOPIX(配当込み)に対する超過リターンは9.20%が当月末現在では16.03%に拡大させることができました。

当ファンドの政治リスクに対する考え方

 当投資戦略のお客様には、国内の個人・金融機関・年金基金だけでなく、海外では欧州、北米、中東、南米、アジアと幅広い投資家が含まれます。このため昨今は、日本の政局に関して頻繁に質問を受けています。
 当ファンドの回答としてまず一義的には、ファンド設定来、国内外政治イベントなどに本源的価値が左右されず、長期投資に耐えうる企業へ投資するよう心がけているため、投資方針に変更はないとしています。これは日本経済が長年、デフレ・内需低迷に苦しみ、政治面でも2000年代後半のような混迷時期が続いたため、必然的に「外部環境に左右されず個別の競争力で成長していける企業」を発掘することが身についた結果です。
 しかし日本の大型株に投資する以上、マクロ環境に対して何らかの見解を持って運用にあたることは大切です。とりわけ日本株市場は海外投資家の参加比率が非常に高いので、必ずしも日本の内情に精通していない彼らに対して、丁寧かつシンプルな説明が求められます。
 昨今の政局に関しては、与党・野党とも経済成長を公約として掲げているという意味で、概ね利害が一致しているというのが当ファンドの見方です。すなわち、どの政党が政権を握っても日本経済の進む方向、ひいては日本株投資の魅力は変わらないというのがメッセージです。
 今の日本経済にとって避けたいのは、経済成長を犠牲にして財政再建を優先するようなシナリオです。もちろん、公的債務や財政赤字問題を軽視すべきではありません。しかしデフレを脱却した現在、日本はインフレを通じて消費者心理を好転させないことには財政改善もままならないのが現状です。
 今回の選挙戦で各党は家計支援のための様々な公約をうちだしました。消費税引き下げや補助金のばらまきなどは財政収支が悪化し、国債増発による長期金利上昇などにつながるリスクがあるので要注意です。しかし、現在の日本は数々の構造問題を抱えたまま長い年月が経ってしまった状況にあります。成長を通じて最終的に財政再建に取り組むのが日本経済に残されている最も現実的な路線であると当ファンドは考えます。
 海外投資家にとって日本政府と中央銀行の動向は目が離せません。残念ながら2008年頃のサブプライムローン危機時には、海外の中央銀行が迅速な量的緩和を通じて景気下支えに徹するなか、当時の日銀はスピード感に欠けていました。結果的に円の相対価値を高止まりさせ円高不況となったことは、中央銀行の施策としては決してビジネスフレンドリー(事業支援的)、ひいては急速に縮小する経済に対して有効であったとは言えません。また政治面では2006年以降5年間で首相が6人も交代するという時期でもありました。翻って今の日本には、2012年来のアベノミクスを引き継いで構造改革の必要性を理解した政府と、ビジネスフレンドリーかつ持続的インフレを肯定的にとらえている日銀という強力な「タッグ」があり、2000年代とは大きく違う点です。
 また、日本はようやくデフレを抜け出した感がありますが、諸外国では敬遠されるインフレが日本では「デフレからの脱却」としてポジティブに捉えられています。海外ではインフレを抑えるための利上げが経済へのマイナス材料と見なされますが、日本では金利の「正常化」として捉えられ、202311月の運用コメントで触れたとおり、長年低収益環境に喘いできた金融業などにポジティブだと考えます。これらは日本株独自の市場押し上げ要因といえます。

トランプ新政権の影響について

 当月の米大統領選挙の結果を受けて、来年1月にトランプ政権が発足します。米国経済への依存度が高い日本企業への影響はどのようなものが考えられるでしょうか?これも国内外投資家からよく受ける質問です。
 結論からいうと、当ファンドへの影響はプラスマイナス要因が混在しますが、トータルでみれば中立もしくはプラスの恩恵を受けるのではないかと分析しています。
 まずトランプ政権は法人税の引き下げを目指しています。当ファンドの組入銘柄には米国で事業展開している企業も多いため素直にポジティブです。具体的には、セブン&アイ・ホールディングス、オリックス、日立製作所、リクルートホールディングス、ソニーグループ、信越化学工業、東京海上ホールディングスなどが挙げられます。これらはいずれも当ファンドの上位保有銘柄です。
次に関税の引き上げです。当ファンドへの影響としては以下のような点を考慮する必要があります。

 1.差別化された製品であれば関税による価格上昇があっても需要は減らない
  例えば2000年代から当ファンドで保有しているキーエンスは製造業向けにファクトリーオートメーションセンサを通じて圧倒的な付加価値を提供しています。省力化・省人化による合理化効果・生産性改善がはるかに売価を上回るため、関税による価格上昇は大きな問題にならないと考えます。
 2.米国での現地生産体制が充実している企業も影響小さい
  例えば信越化学工業の塩ビ事業はルイジアナ州、テキサス州を中心に原料調達から生産までの一貫生産体制を築いており懸念は小さいと思われます。
 3.日本企業が展開する非製造業は関税の対象にはならない
  米国で事業を行っている日本企業は必ずしも製造業だけではありません。リクルートホールディングス傘下のIndeed社(米国)が展開するオンライン求人プラットフォームサービスや東京海上ホールディングスの保険事業のような金融サービスもありますが、これらは関税の対象外です。

 一方、トランプ政権が掲げる財政拡張的な経済政策は更なる財政赤字の拡大につながり、将来の長期金利上昇リスクとなるでしょう。金利上昇は実態経済における需要減少と金利負担増、株式バリュエーションの切り下がりという経路を辿って悪影響を及ぼします。これをAI(人工知能)革命による生産性向上や、新しい産業の誕生などによって相殺できるのか、そして新たに任命された閣僚メンバー(財務長官や新たに設置される政府効率化省など)の手腕が中長期的に問われることになるでしょう。
 その他の分野についても新政権の出方によっては未知数な部分があります。例えば中長期的な脱炭素政策、半導体産業政策、防衛政策などはいまだ不透明です。当ファンドの保有銘柄についてもプラスとマイナス影響が混在すると考えられます。

2025年以降の見通し

 今後の日本株市場の原動力について考えてみます。
 株価は「一株当たり純利益(EPS)」と「株価収益率(PER)」の掛け算で計算されるとおり、株価ドライバで重要なのは、まずは企業利益の持続的成長です。なかでも株主にとって重要なのはインフレ要因を含む名目利益の成長です。短期的には足元の世界景気の減速が重しとなるかもしれませんが、超長期的には経済とともに企業利益も拡大していくというのは株式投資家なら誰もが置く大前提です。当ファンドでも同様の見方をしています。
 企業利益の名目成長率は、売上数量増や付加価値増からもたらされる「実質成長分」と、「インフレ上乗せ分(インフレ対応に伴う値上げ分)」に分解できます。デフレ下にあった日本企業はこれまで後者のインフレによる押し上げ要因が不足していました。しかし景気が腰折れすることなく、年率2%程度のインフレが常態化すれば、企業はインフレによる値上げ分を加味した長期的な利益成長を今後は享受できます。平均的な企業が名目ベースで一桁台半ば~後半%程度の成長率を続けられると仮定すれば、それだけでも銀行の預金利回りを上回る株式投資リターンは期待できそうです。
 市場参加者が注目しやすい利益成長に比べて、配当や自社株買いがもたらす株式リターンは過小評価されがちです。しかし、持続的な株主還元も今後の日本株上昇ドライバとして大変重要です。㈱アイ・エヌ情報センターの調べによると、2023年度の日本企業の配当金総額は約20兆円でした。これに対し2023年4月~2024年3月までの日本株式市場の平均時価総額は約871兆円でした。すなわち、配当利回りは約2.3%だったことになります。足元の企業業績は底堅く推移しているうえ、昨今は資本コストを意識した経営が定着してきています。これらを背景に継続的な増配が行われれば、日本株相場が上昇しても現在の配当利回りは維持できそうです。
 自社株買いについても同じことが言えます。2023年度の上場企業による自社株買い実施金額は9.4兆円、時価総額に対し1.1%程度でした。買い入れた株すべてが消却されたわけではありませんが、消却を実施している企業の数が近年着実に増加しているのはポジティブです。また、2024年3月末の上場企業の手元資金は114兆円、自己資本比率も42.4%といずれも過去最高を更新しています。日本にはまだまだ余剰資金と余剰資本を抱える企業が多く、豊富な増配・自社株買い余力を持つ先が少なくありません。株主還元は株式リターンの源泉として注目すべきです。
 日本株のPER切り上がりも期待できるかもしれません。コーポレート・ガバナンス改革を通じて資本収益性が向上していますが、日本株全体のPERは今年8月の相場急落直前で17倍程度、現在は15倍程度です。これはアベノミクス下で企業の資本収益性改善への取り組みが始まる前の、2011年末とほぼ同じ水準です。日本企業のクオリティは大きく改善している一方、市場の評価であるPERがそれをまだ反映していません。仮に現在のPER15倍が20倍へ5年かけて切り上がるとすれば、年率5.9%の株価押し上げ要因、18倍なら年率3.7%の押し上げ要因となります。
 なおPER15倍という水準はグローバルでみれば突出して割安な水準とはいえないかも知れません。しかし、日本の実質金利のマイナス状況が当面続くことを考えれば、諸外国に比べて魅力的な株式投資環境といえます。さらに地政学的リスクが低いことから世界的に日本株が選好されやすいこと、余剰資金が豊富なためネットキャッシュでみたPERに割安感のある企業が多く、今年8月の相場急落時のように自社株買いも機動的に発動できること、などを鑑みれば日本株が割安で魅力があるという議論はそれなりに説得力があるはずです。
 以上をまとめると、今後日本株投資から期待されるリターンの源泉として、

  • 本業利益(売上数量増、付加価値増などを通じて)の年率3~5%程度の実質成長
  • 持続的なインフレによって同2%程度が上乗せ
  • 株主還元の強化で同3%程度(配当利回りで2、自社株買いで1%)が上乗せ
  • PERの切り上がりによって同46%程度が上乗せ

 が想定され、合計すれば理論上は10%超の年率リターンが期待できると結論づけられます。
*株主への配当は当期純利益から支払われますが、当期純利益の伸び率はビジネスの本源的価値(将来ビジネスから生み出されるキャッシュフローの総合計を現在価値に割り戻したもの)の伸び率として捉えられます。

 いうまでもなく、これほどの楽観的なシナリオを描けるようになったのは、日本のコーポレート・ガバナンス改革の進展です。当ファンドが海外投資家へ伝えているメッセージは、「円キャリートレードの一環としてリスクオン、リスクオフに応じて売買をするのではなく、あくまで資本収益性を重視した経営への取り組みこそが、日本株投資の要諦である」としています。どの政党が政権を握ったとしてもコーポレート・ガバナンス改革は止まらないでしょう。
 加えて株式需給面でいえば、日本の家計金融資産2,200兆円のうち未だ半分が銀行預金に留まっているのを忘れてはなりません。これまで米国株式などに向かっていた家計による株式投資の一部が日本株に振り向けられるシナリオが考えられます。日本株式市場全体の時価総額がおよそ1,000兆円であることを考えれば、銀行預金からの資金シフトは大きなインパクトになるはずです。
 振り返ると2000年代、2010年代の日本株市場はほんの一握りの成長企業・超優良企業が奮闘した時代でした。デフレ下にも拘わらず株価が何倍にもなったファーストリテイリング、キーエンスなどは象徴的です。一方、当時は市場の半分程度を占めていたPBR1倍割れ企業は蚊帳の外でした。しかし今後はこのような市場全体の「下半分」に位置する企業群が大きな塊として相場を押し上げる構図が想定されます。

最後に

 当ファンドでは2022年に銘柄の大幅入れ替えを行って以降は、ポートフォリオに大きな変更は行っておりません。
 現在の組入銘柄群は当ファンドの投資戦略である「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」の条件を高い水準で満たしていると考えます。従ってこれらの企業の参入障壁が維持され、株価バリュエーションが妥当であれば、2025年も保有を続ける方針です。
 一方、外部環境が大きく変化し、組入銘柄のビジネス参入障壁にほころびが見られる場合、株価に極端な過熱感がみられる場合、あるいは新たな投資機会が発掘された際には、躊躇せずに銘柄入れ替えを行うかもしれません。
 来月は2024年暦年の組入銘柄のパフォーマンス振り返りを行う予定です。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年10月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年10月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.88%の上昇、日経平均株価は同3.06%の上昇となりました。
 月前半は、全米企業エコノミスト協会の年次総会に登壇したパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が今後の利下げについて「急ぐ必要はない」と強調したことや、米国雇用統計が市場予想を大幅に上回ったこと等から利下げ観測が後退したこと、石破茂首相から日銀の早期の追加利上げに否定的な見解が示されたこと等からドル高円安が進行しました。また、中東情勢の悪化により株価が一時的に下落する局面もありましたが、前述のように円安の進行や米国経済の底堅さ、石破政権が岸田前政権の経済政策を継承するとの方針が確認されたこと等から株式市場は上昇いたしました。
 月半ばから後半にかけては、オランダの半導体製造装置大手ASML Holding社の決算発表で202512月期の業績見通しが引き下げられたことで半導体関連株に売りが広がったことや、日米長期金利の上昇基調の継続が意識されたこと、27日投開票の衆議院選挙で与党自民・公明両党が過半数議席の確保が微妙な状況と報じられたこと等から株式市場は軟調な推移となりました。
 衆議院選挙では連立与党が2009年以来15年ぶりに過半数を割り込む結果となり、今後の政権の枠組みは少数与党が政策や法案ごとに野党に協力を求める「パーシャル(部分)連合」になるのではないかという見方が強まりました。財政拡張的な政策を掲げる野党との協力により景気刺激的な政策が実行される可能性が意識されたことや、リスクイベント通過に伴う先物の買戻し等から株式市場は衆議院選挙を境に一転し、前月末比で上昇して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.63%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.88%の上昇を0.25%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、リクルートホールディングス、日立製作所などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、東京エレクトロン、三菱商事、信越化学工業などでした。

当ファンドのリサーチ手法について

 株式投資で成功するには不確実な未来を予想することが求められます。投資対象となる企業の利益が将来どれくらい伸びるか、ひいては本源的価値がどれくらい期待できるのかを考えます。そして、現在の株価がそれよりも割安であると判断されるときに投資を行うのが重要です。しかし、将来の予想は簡単には当たりません。これは誰もが経験していることです。
 株式投資において不可避なこの問題をクリアするためには以下の2通りの投資アプローチがあると当ファンドは考えます。いずれも大前提として、「将来のことはわからない」という立場をとっています。

  • 将来のことはわからない。だから過去の実績がしっかりしている企業の株式を妥当と考えられる株価で買う
  • 将来のことはわからない。だから過去の業績がどうであれ、今後大きく化けるかもしれない企業の株式を非常に割安と考えられる株価で買う

 前者は連続性のある成長を期待しているのに対し、後者は非連続的な成長を期待していることになります。当然、過去の実績が安定している企業のほうが、市場参加者も将来予想をしやすく、株価にも反映されやすいという特徴があります。このため通常の相場環境下では株価が極端な割安水準にはなりません。よって、「妥当な株価で買う」ことを目指します。
 一方、過去の実績が安定していない、もしくは社歴が浅い企業は、良くも悪くも将来の予測がつきにくい特徴を持ちます。当然、予想が外れて業績が悪化すれば、株価は急落するリスクを孕んでいます。そこで、過去の延長で将来を予想することが難しい企業の場合は、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が出来るだけ低い水準で買うことで同リスクを軽減しようと考えます。
 どちらも将来の不確実性に備えた賢明なアプローチですが、当ファンドはどちらかというと前者のスタイルです。
 過去の実績を調べることで、長年にわたって競争優位性を維持しながら成長を続けているか?そして今日においても同様に強固なポジションを維持し、当該企業にとってネガティブとなる業界構造変化が近い将来予想されるのか?そして将来にむけて、ある程度予測可能な業界の成長性があるか否か?これが、当ファンドの企業調査における典型的な着眼点です。

 例えば当ファンドの同戦略ファンドで、2007年に投資を開始した高級スポーツ自転車向け部品メーカー世界最大手のシマノは良い例です。当時、まず初めに同社の創業来の自転車部品業界における競争力を調べました。そして同社は、数十年にわたって業界ダントツのシェアを誇り、一度も競合他社にシェアを脅かされたことがないという事実や、それを可能にしている競争優位性として1960年代から培ってきた精密冷間鍛造技術(モノづくりの優位性)が根底にあることを確認しました(*1)。
 また世界最高峰の自転車ロードレースである「Tour de France」で多くのトップ選手に最先端モデルを供給することで、レース後に彼らが感じた改善点を次のモデルに反映させることができます。それが選手によるシマノブランドに対する更なる信頼度向上につながるというポジティブフィードバックループが存在することを知り、ひいては一般消費者におけるブランドイメージ向上に貢献していると判断したのです。
 シマノが自転車組立メーカーに納入する「部品屋」であるにも関わらず、消費者にブランドとして直接認知されているのは珍しいことです。また、同社は製造業としてスケールメリットの強み(市場シェア7~8割ともいわれている)と消費者ブランド力を兼ねそろえた日本企業としては稀有な存在です。その結果として、強い価格決定権を武器に高い利益率を実現しており、潤沢なキャッシュフローを生み出し、財務内容も非常に強固です。
(*1)冷間鍛造は常温のまま金属加工を行うため、材料を高温で加熱して加工する熱間鍛造に比べて、工程が少なくまた加工精度も高いのがメリット。安く大量生産できるためコスト競争力が高くなる

 「過去」を調べたあと、次に検討したのは「現在」です。2007年当時の業界環境としても、同社は引き続き高級スポーツ自転車分野で圧倒的な世界シェアを握り、一朝一夕には業界ポジションが入れ替わる可能性は低そうでした。また自転車という製品自体が大きくかわる兆しも特段みられませんでした(*2)。自転車は発明以来、大きな構造設計の変化はありません。また世界中どこにでも需要がある普遍的なレジャー製品であるという事実は長期的な視点で投資判断をする上で重要でした。過去ずっと変わらず、今後も変わらなさそうな製品やサービスというのは、将来を予想するうえでは取り組みやすい調査対象といえます。
(*2)近年、駆動力にモーターを使ったeバイクの普及が進んでいますが、機械式自転車も電動自転車もシマノのギア製品やブレーキ製品が使用されることに変わりはありません。また同社はeバイク向け製品ラインナップの拡充にも注力中です。

 最後に「未来」を検討しました。将来的には、ほぼ確実視される世界人口の増加トレンド、先進国における健康志向・環境志向の高まり、途上国でも生活水準の向上に伴い余暇活動が増える方向にあることなどから、自転車需要が増え続けることはほぼ間違いないと判断いたしました。

 当ファンドは、世の中の経済統計をもとに投資判断を下すマクロファンドと異なり、個別企業を深く調べるという意味でボトムアップ・リサーチを信条としています。すなわち、上記のような調査プロセスを通じて、当該企業に関する様々な情報を収集するのです。
 当ファンドが求めるリサーチ情報は、言うまでもなく一般的な公開情報です。企業への直接取材や聞き取り情報よりも、決算書類、投資家向け開示資料、業界記事、社長インタビュー記事、書籍などありとあらゆる活字情報が中心です。勿論、必要があると判断されれば、企業経営者やIR広報担当者と面談を行うこともありますが、当ファンドに限って言うと、企業との直接的な対話の頻度は相対的に少ないと思われます。これは、経営者や広報担当者が投資家に対してどうしても自社にとって好都合なことだけをアピールする傾向があるためです。投資判断にバイアスがかかることを避けるのも時には重要です。当ファンドが主に投資している日本を代表する大企業の場合、世の中に豊富な活字情報が存在しているため、調査材料に事欠くことはありません。
 当ファンドが活字情報の種類として重要視するものの特徴には、以下のようなものが挙げられます。

1)時間が経過しても内容が陳腐化しない情報
 例えば月次売上データや四半期決算内容などは数か月先には陳腐化してしまう情報の部類に入りますので、さほど重要視はしていません。一方、企業の長期財務データや事業戦略、過去の経営判断、企業文化に関することなどを陳腐化しない・陳腐化しにくい情報として重要視します。企業に関する陳腐化しない情報は、調べれば調べるほど知識の蓄積につながり、投資判断に有益となります。一方、すぐ陳腐化してしまうデータは対象企業を知る上で知識の蓄積につながりません。

2)過去の実績や事実に関する情報
 外部の人々による意見や将来に関する業績予想・見通しは出来るだけ排除することで、吟味する情報量を軽減します。他者の主観的意見によって、自分たちの判断が左右されるのを極力避け、事実や実績に基づいた分析によって当ファンド独自の意見や、ビジネスの質に関する評価、将来の見通しをたてることを意識的に行うようにしています。こうすることで、コンセンサスからは差別化された投資判断が可能となります。株式投資で市場平均を上回るリターンのためには、自らのポートフォリオが差別化されていることが重要なのは2021年9月の月次報告書で述べたとおりです。

3)ノイズではなくシグナルとなりうる情報
 株式市場では様々な情報が飛び交い、それによって個別企業の株価が動きます。しかし多くの場合は、当該企業の本源的価値に影響を与えるような重大な情報ではありません。このような、とるに足らない情報をノイズとみなします。逆に、本源的価値にインパクトを及ぼすような情報はシグナルです。例えば小売企業の月次売上が天候要因によって不振だった場合と消費者の好みの変化によって不振だった場合では意味が大きく異なります。この場合、前者がノイズであり、後者はシグナルです。当ファンドはシグナルになりうるような情報に目を光らせます。逆に、ノイズであれば、例えファンド組入銘柄の短期的な株価下落要因になったとしても注意を払いません。

4)定量的な情報よりも定性的な情報
 当ファンドは、定量的情報だけに依存せず、定性的情報も十分に加味します。もしくは定性的情報をより重視したうえで投資判断するように心がけています。財務データのような定量的情報は、市場参加者の誰もが同じデータを入手できます。一方、定性的な分析は、解釈が分かれやすく、情報として他人への伝達がされにくいという特徴があります。このため市場参加者は定量的情報をもとに投資行動をとる傾向が強く、定性的情報をもとに投資行動に移そうとする人は少ないように見受けられます。定量的情報の例としては「この会社のROE(株主資本利益率)は20%を維持し続けている」や「この会社は売上成長率10%を過去10年続けている」などが挙げられます。一方、「この会社の経営陣は質が高い」や「この会社の企業カルチャーは強い」などは定性的情報の典型です。当ファンドでは「この会社は、今は業績が悪いが、社長のリーダーシップ能力が高いので、将来は高成長が見込める」という理由で投資に踏み切ることも珍しくありません。これも差別化されたポートフォリオを構築するため必要不可欠なアプローチだと考えます。

様々な活字情報を読む

 活字情報を主体としたリサーチ活動は、当ファンドの組入銘柄に関するものだけでなく、ありとあらゆるものに及びます。その範囲は、組入銘柄や国内外の競合他社に関するものだけでなく、一見直接関係ないような企業やビジネスについての活字情報も読むように心がけています。海外で注目されているビジネスモデルや、過去に大きな成功を収めた企業の栄枯盛衰にまつわるもの、時には企業の不祥事や粉飾決算に関するものも含まれます。
 この根底にあるのは、多くの歴史上の事象は普遍的であると考えるためです。例えば新たに発生する粉飾決算事例なども過去に起きた手口と共通点が多く、従って歴史を理解することは今後の事故を未然に防ぐためにも役立つと考えられます。
 また世界で活躍する様々な投資家(株式投資だけに限らず債券、プライベートエクイティ、オルタナティブなど幅広く)の動きなどもフォローすることで学びになることもあります。
 考え方としては、日々の情報収集は「点を集める」ことだと考えます。そして一見すぐには役に立たないような集められた多くの「点」が、そのうちどこかの時点で「線」となり、それが「面」となり、日本株の投資アイデアに結びついたり、ポートフォリオ上の重要な投資判断の変更につながったりするのです。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年9月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年9月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.53%の下落、日経平均株価は同1.88%の下落となりました。
 月前半は米国のISM製造業景況感指数や雇用統計が予想を下回ったことで、米国経済の減速懸念が高まり市場心理に影響を与えました。さらに米連邦公開市場委員会(FOMC)による利下げ期待と日銀の利上げ期待の高まりにより、月半ばにかけて円高が進行しました。このような状況の中、株式市場は一時的に下落した後、反発が見られたものの上値は重く、投資家は慎重な姿勢を維持しました。
 月後半はFOMC0.5%の利下げを決定した後、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が緩和を急がない姿勢を示したことや、日銀が金融政策を現状維持したことから円高が一服し、輸出関連株や半導体関連株の買い戻しが進みました。また、自民党総裁選挙で高市早苗氏が当選し、金融緩和が再開されるとの見通しが高まったことで日経平均株価は26日から27日にかけて大きく上昇しました。しかし、最終的には石破茂氏が勝利し、経済政策への警戒感が高まったことなどから30日の日本株式市場は全面安の展開となり、前月末比で下落して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.14%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.53%の下落を0.61%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、日立製作所、セブン&アイ・ホールディングス、ダイキン工業などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、オリックス、ルネサスエレクトロニクス、信越化学工業などでした。

 当ファンドのようなアクティブ型ファンドにとってポートフォリオが差別化されていることは大変重要です。なぜなら、当ファンドが競合するのは他のアクティブ型ファンドだけでなく、株価指数(インデックス)に連動する運用を目指すパッシブ型ファンドも含まれるからです。ここで言う「差別化されている」とは、インデックスに比べて内容が異なっていることを意味します。
 当ファンドの特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 限られた数の銘柄にだけ投資する「集中型」ポートフォリオである
  • 一般的なファンドに比べて同一銘柄を長期間にわたって保有を続ける「長期投資」スタイルである
  • あくまで成長企業に投資しているという意味で「グロース株」ファンドであるが、その考え方は一般的な定義とやや異なる
  • 内需型企業ではなく日本のグローバル企業、とりわけ国際優良企業を中心に投資している

1.限られた数の銘柄にだけ投資する「集中型」ポートフォリオである

 一般的に、差別化されたポートフォリオ(アクティブ型ファンド)に求められるのは組入銘柄がユニークであることです。例えばインデックスに含まれていないような、世間にあまり知られていない小型株を組み入れたりすることが考えられます。別の方法としては、インデックスを代表するような大型株でもマーケットウエイトを大幅に上回る組入比率であれば差別化できます。当ファンドはこちらのタイプです。
 よって、ポートフォリオの差別化に組入銘柄数の多寡は直接的には関係ありません。つまり銘柄数が多い=差別化されていないポートフォリオであるとは必ずしも言えないということです。重要なのはインデックスと比較した組入銘柄と組入比率の差異です。仮に100200銘柄保有しているファンドでも上位10銘柄だけで運用資産額の9割を占めていればインデックスと全く異なるポートフォリオになるでしょう。
 当ファンドの場合は、日本人であれば誰でも知っているような銘柄のうち、ほんの一握りを対象に大きなウエイトで投資するというアプローチを行っています。銘柄を厳選し、ひとつひとつの組入比率をインデックスよりも大きくしているため、おのずと合計銘柄数は限られてきます。結果、これまでの当ファンドの組入銘柄数は20銘柄程度で推移してきました。
 当ファンドが限られた数の確信度の高い銘柄に集中投資する最大の理由は、それがリスクを抑えつつリターンを最大化する最も有効なアプローチだと考えているためです。一般の株式投資講座で習うような多くの銘柄に分散投資することの有効性はあまり重視していません。
 なぜなら、株式ポートフォリオは均等な組入比率で幅広い銘柄に投資をすればするほど、下げ相場時に株式市場全体につられて下がってしまう可能性が高まるからです。多くの銘柄を保有すれば、銘柄によって異なる株価下落率を市場平均並みに平準化させることはできますが、下落リスクそのものは払拭できません。一方、ほんの一握りの銘柄への集中投資で成功すれば、市場全体の下げに反して自分のポートフォリオだけ上昇するということが起こりうるのです。
 また証券ポートフォリオ理論上、投資している銘柄群が高度に分散されていれば、たった10銘柄程度でも分散効果は十分発揮されることが学術的に証明されています。そこから更に銘柄を増やしても、追加的に得られる分散効果は限られるだけでなく、ファンドリターンは市場平均に収斂していってしまうのです。とりわけ時価総額の大きい大型株中心のポートフォリオでは、組入銘柄数が多すぎると運用成績が市場平均リターンに収斂し、運用手数料控除後のリターンでみるとパッシブ型ファンドに対して劣後してしまいます。これが昨今言われているアクティブ型ファンドの構造的な問題です。
 当ファンドは、たくさんの銘柄を持たなくても、それぞれ性格が異なるビジネスの株式を保有することで(*)、結果的に銘柄間の相関係数も低く抑えられる(すなわち一般的な株式投資のリスク概念であるリターン標準偏差を低くする)と考えています。設定来でみれば当ファンドの標準偏差は市場平均よりも低位となっています。
*)特定の市場環境で、意図的に特定業種の組入比率を増やすことはあります。

 少数銘柄にしか投資しない理由は他にもあります。それは当ファンドが超長期でみた日本経済を取り巻く環境を決して楽観視していないこと、そしてそれが理由で当ファンドが投資基準を満たすと考える投資対象の数が限られているためです。米国市場と異なり日本の株式市場は上場企業の新陳代謝が遅く、旧態依然とした企業が相対的に多く、(少なくとも最近まで)成長意欲にも乏しい企業が多いことが一因です。
 このような理由で当ファンドが運用戦略の中心に据えている集中型ポートフォリオは、確信度の高い投資対象があって初めて実現するものです。確信度の高い銘柄がない中で、無理に集中型ポートフォリオを維持することはしません。明るい展望が描けない個別株をポートフォリオ分散効果のみを目的に組み入れて運用成績がかえって悪化してしまえば本末転倒なためです。確信度の高い銘柄が不足しているときは、一時的に組入銘柄数を増やす方策をとる可能性は今後もあると考えられます。
 インデックスに対するポートフォリオの乖離度合いをみる指標として「アクティブシェア」という数値がありますが、当ファンドは現在70%台半ばです。高い数値ほどインデックスに対して差別化されていると言えます。2010年代の当ファンドの同数値は90%前後で推移していたので、近年低下していることになりますが、基準価額は株式市場全体から有意に異なる動きになっており、引き続き十分に差別化されたポートフォリオになっているとの認識です。一般的には同数値が60%を下回るとそのアクティブ型ファンドはインデックスと代わり映えしないという意味で「closet indexing」と呼ばれ、真のアクティブ型ファンドとはみなされない傾向があります。
 一方、アクティブシェアがどんなに高くても常に差別化されたリターン(インデックスと異なるリターン)になるとは限らないことを理解するのも重要です。インデックスから大きく乖離した独自性のあるポートフォリオでも、組入銘柄群がインデックスと全く同じ株価変動となれば、運用成績は市場平均リターンと同じになってしまいます。言い換えると、高いアクティブシェアは差別化されたリターンの「必要条件」ですが、「十分条件」ではないのです(*)。言うまでもなく、どんなにポートフォリオを差別化させても超過リターンに結びつかなければ意味がありません。誤った銘柄選択をしてしまえば、パッシブ型ファンドに負けてしまうため気を付けなくてはなりません。

*)理論上、アクティブシェアが低く、インデックスと似たようなポートフォリオを持つアクティブ型ファンドでも、頻繁な売買を行うことでインデックスよりも高いリターンを実現することは可能です。

2.一般的なファンドに比べて同一銘柄を長期間にわたって保有を続ける「長期投資」スタイルである

 当ファンドは頻繁に組入銘柄を入れ替えたり、高売買回転率を通じてインデックスに対する超過リターンを目指す戦略ではありません。あくまで企業のビジネスが持つ「本源的価値(将来ビジネスから生み出されるキャッシュフローの総合計を現在価値に割り戻したもの)」の長期的な成長に着目しています。このため当ファンドが期待する投資リターンを実現するためには必然的に長期保有が求められます。これが当ファンドをできるだけ長く保有していただきたい理由です。
 株式市場は、株価が長期的な企業業績(本源的価値)を反映するという意味で効率的な市場であるといえます。企業を分析して投資を行い、年を追うごとに成長する利益が、本源的価値の増大として株価に織り込まれていくのを享受していきます。時には企業の本源的価値に対する株式市場での過小評価が、株価上昇という形で修正されていくのを辛抱強く待つこともあります。
 一方、短期的には株価は予想もつかない動きをするものです。株式の激しい値動きが往々にしてあるのは、人間が金銭ごとに関して経済合理的な判断をするのが苦手であるのと関係しています。例えば人間は不確実な利益よりも確実な利益を好みます。このため長期保有に至る前に利益確定売りをしてしまう傾向があるのです。また株価が大きく下がると不安を感じ、慌てて売ってしまうこともあります。さらに、今買わないと明日はもうチャンスがないかもしれないという心配から高値掴みしてしまう、ことなども挙げられます。つまり、長期投資は「言うは易く行うは難し」なのです。
 株をじっくり保有し続けるのがもっとも有効な投資戦略であることが多くの調査で明らかになっています。例えばJP Morgan Asset Management社(米国)の調べによると、20245月末までの20年間(約4,400日間)ずっと米インデックスファンド(S&P500株価指数)を保有し続けた場合の投資成績は年率10.2%でした。しかしこのうち最も値上がり幅の大きかった上位10日間を逃してしまうと年率6.0%と運用成績は半減近くになり、上位30日間を逃すと年率1.2%まで悪化してしまいます。すなわち、株というのは毎日規則正しく上昇するのでも下落するものでもないということです。全くランダムに存在する特定の日に長期のパフォーマンスの大部分が決まってしまうだけの値動きが発生するのです。それを予めピンポイントで予測し、そこに前もって資金を振り向けるのは経験則上、非常に難しいと考えます。こうしたことから、常に腰を据えて株式市場に資金を投じているのが成功への近道であり、公募投信に投資する一般投資家の方々にも当てはまる心構えだと考えます。

3.あくまで成長企業に投資しているという意味で「グロース株」ファンドであるが、その考え方は一般的な定義とやや異なる

 日本株アクティブ型ファンドには様々なカテゴリーがありますが、そのなかでも当ファンドは「グロース株」ファンドとして分類されているようです。一般的にグロース株の定義は高い利益成長率への期待からPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が市場平均を上回っている銘柄です。逆に「バリュー株」は利益成長性や保有資産に比べて株価が割安でPERPBRが市場平均よりも低い銘柄とされています。前者はハイテクやインターネット企業のように革新的な製品サービスを手掛けて利益が二桁成長率でグングン伸びていくイメージ、後者はオールドエコノミー型の成熟企業が多く利益成長イメージが乏しい企業が中心です。
 一方、当ファンドではグロース株についてやや異なる定義をしており、利益成長率が世界の名目GDP成長率を上回っていればグロース株と位置付けています。つまり二桁利益成長率の企業がグロース株であるのは勿論のこと、一桁台半ばの成長率でも立派なグロース株としてみなします。市場平均と比べたPERPBRの水準は重要視しません。もっと言うと、PERPBRが市場平均より低いという理由で株式市場からはバリュー株としてレッテルを貼られている企業も当ファンドではグロース株として評価します。2000年代より当ファンドが保有を続けている三菱商事はその典型例ですし、近年の組入銘柄では損保グループ3社(東京海上ホールディングス、MSADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス)、オリックス、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが該当します。これら企業の過去利益成長率は一桁%台半ばが多く、代表的なグロース株とされるキーエンスやファーストリテイリングの年率10%を超える成長実績に対してこそ見劣りしますが、名目GDP成長率は立派に上回っています。
 このような「隠れたグロース株」は、キーエンスやファーストリテイリングなどにはない高水準かつ持続的な株主還元が大きな魅力です。増配によってもたらされる高配当利回りは株主に帰属する重要なリターンです。自社株買いも(消却すれば)一株当たり利益は発行済株数が減少した分だけ増えるため、株式リターンの源泉になります。たとえ事業利益成長率が一桁台半ばだとしても、高水準の配当利回り(4.05.0%程度)、自社株買いによってもたらされる追加的な一株当たり利益成長(1.02.0%程度の上乗せ)を全て合計すれば期待リターンは年率10%を超える計算になるのです(*)。これは自社株買いや配当利回りのインパクトが限られており株価リターンが利益成長率に大きく依存した一般的なグロース株と遜色ありません。
*)株主への配当は当期純利益から支払われますが、当期純利益の伸び率はビジネスの本源的価値の伸び率として捉えられます。

 株主投資において長期持続性のある増配や自社株買いが果たす役割を軽視すべきではありません。例えば2015年末から20247月末までの東京海上ホールディングスの株価上昇率は283%でしたが、配当込みトータルリターンでみると428%でした。株価上昇率だけでみると代表的なグロース株であるキーエンスのほうが同期間293%と上回っていますが、じつはトータルリターンではキーエンスが306%に対し東京海上ホールディングスが428%と上回っているのです(同期間の東京海上の平均配当利回り約4.1%、平均総還元利回り約6.0%だったのに対し、キーエンスは平均配当利回り、平均総還元利回りともに約0.39%)。株式投資でより高いリターンを得たのは東京海上ホールディングスの株主でした。
 また株価のダウンサイドリスクを和らげてくれる安全余裕率(margin of safety)を見出しやすいのも、これら低PER・低PBR銘柄の魅力だと考えます。将来見込まれる高成長をあてにした高PER・高PBR銘柄は、いざ見通しが外れた時の株価下落リスクを定量的に判断するのは難しいものです。これは解散価値の目安といわれる純資産価値や、高い配当利回り、あるいは市場平均を大きく下回るPERといった割安な指標を見出しにくいためです。とりわけ高い利益成長期待に基づいた高PER銘柄は、期待に反してわずかに利益が減るだけでPERも同時に大幅に切り下がり、結果として利益減少分以上の株価下落に見舞われることがあるため、よほど長期見通しに対する確信度が高くなければ投資の優先順位は低くあるべきです。これに対して、低PER・低PBR銘柄はもともとの期待値が低い分、業績に深刻な問題がなければ極端に市場平均に対してバリュエーションが切り下がるリスクは低いといえます。
 さらに低PER・低PBR銘柄は相対的に株価水準が低いため、一般的なグロース株と同じ配当性向でも配当利回りは高くなりやすく、自社株買いを行った際の効果もより大きくなります。特に純資産価値1倍割れの状況で自社株買いを行えば、一株当たり純資産額は増加するので、他の条件が変わらなければ株価の割安感が増していくのです。
 当ファンドが考える高い安全余裕率を伴う投資事例としては三菱UFJフィナンシャル・グループが挙げられます。202310月の運用コメントで解説したとおり同社への投資は個別企業としてのビジネスの魅力を評価してのものですが、同時に今後の金利見通しに依存した投資ケースでもあります。しかし仮に金利が見通し通りに上昇しなかったとしても同社がコミットしている配当性向40%と機動的な自社株買い、そして長年の超低金利環境下で鍛えられた収益力を鑑みれば、株価が低迷しようとも高い総還元利回りがある程度穴埋めをしてくれることになります。これが安全余裕率です。このような「隠れたグロース株」は当ファンドにとって魅力的と考えます。

4.内需型企業ではなく、グローバル企業、とりわけ国際優良企業にフォーカスしている

 当ファンドが設定来、投資対象として選好しているのは日本の国内需要のみに依存した企業ではなく、日本を含むグローバルで事業展開をしている企業です。これも当ファンドの特色です。内需型企業に投資をしないのは、当ファンドが日本経済の超長期的な見通しに対して楽観視していないことを表しています。少子高齢化による構造的な人口減少が大きな理由のひとつです。
 一方で短期・中期的な日本経済の先行きについての当ファンドの見方は以前よりもだいぶポジティブに転じています。その理由は2014年頃より始まった政府主導のコーポレートガバナンス改革です。資本収益性をようやく意識するようになった日本企業全般の経営姿勢の変化は大変重要と考えます。
 残念ながら人口動態に関する逆風は変わりませんが、日本経済および国内株式にまつわる投資環境は確実に改善しているため、当ファンドでは既存組入の国際優良企業を通じてその恩恵を取り込んでいけることを期待しています。これらの企業は今日でこそグローバルで事業展開していますが、もともとは自国市場である日本において競争力を磨き、実績を積んだうえで海外進出しています。多くは国内市場シェアが引き続きナンバーワンであることから、外部環境好転のプラス影響は下位プレーヤーに比べて大きくなると思われます。

運用者が考える当ファンドのリスク

 最後に当ファンドに投資することのリスクを運用者の視点から改めてご説明しようと思います。まず集中型ポートフォリオのリスクにおいてはどんなに慎重かつ正しい銘柄選択を行ったとしても、不測の事態に見舞われる可能性は常に残されているということです。具体的にいうと、企業不祥事などの突発的スキャンダルや、経営トップの不慮の事故、予測不能な天変地異などが考えられます。
 当ファンドでは、こういった確率の低いイベントリスクも考慮に入れながら投資判断を行っています。例えば、不祥事や天変地異が起きても経営危機に陥らないくらい強い財務基盤を持っているか、仮に社長の身に何かが起こっても成長路線を継続できる後継者が準備できているか、などです。
 しかしここまで様々なリスクを想定しても、全てを未然に防ぐことは不可能です。これまでも様々な組入銘柄で株価が急落する局面を経験してきました。こういったイベントに見舞われた場合、集中型ポートフォリオである以上、少なくとも一時的には大きなマイナスリターンを余儀なくされることが想定されます。
 また、銘柄数が少なくアクティブシェアも高いために、一定期間ファンドの運用成績が市場全体のトレンドから乖離するのはよくあることです。ファンド基準価額が下落する局面や、上昇相場でも市場全体に対して下回る局面が続く場合は、忍耐力が試されます。株式市場というのは長期的には効率的であると言われますが、難しいのはこの「長期」という時間軸が一般の市場参加者が許容できる時間軸を超えてしまっているところにあります。当ファンドでは、投資している銘柄が数か月間、或いは数年にわたって株価下落を続けたとしても市場の評価が間違っており、長期的展望が明るいと判断すれば、我慢強く保有を続けるか、場合によっては短期リターンを犠牲にしてでも買い増しを行います。このため当ファンドが短期的(23年程度)に運用成績が低迷することは今後も十分考えられます。しかしそれでもなお、当ファンドが集中ポートフォリオにこだわり続けているのは、運用期間を長期で捉えた場合、最終的にはこのアプローチが株式運用で一定の成功を収めていると考えているためです。そのため投資の時間軸をファンド保有者の方々にしっかりと理解していただく事は大変重要と考えています。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年8月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年8月、日本株式市場の代表指標であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.90%下落し、日経平均株価は前月末比1.16%下落しました。
 当月の日本株式市場は歴史的な乱高下を演じ、日経平均株価の月間値幅(高値と安値の差、終値ベース)がバブル経済崩壊時期を超えて過去最大となりました。
 7月31日の日銀金融政策決定会合での追加利上げが円高を呼び、さらに市場予想を下回った7月の米ISM製造業景気指数で米国景気減速懸念が台頭し円高が一層進行したことで、月前半の日本株式市場はリスク回避の流れが強まり暴落しました。5日には米国経済や雇用の減速への警戒などから円高が大幅に進み、午後には日経平均先物でサーキットブレーカーが13年ぶりに1日に2回発動され、日経平均株価は前日比4,451円の下落と過去最大の値下がりを記録しました。しかしながら翌6日には為替市場がいったん落ち着いたことで日本株式市場も落ち着きを取り戻し、TOPIXおよび日経平均株価は史上最大の上げ幅となりました。加えて、翌7日の内田日銀副総裁のハト派発言も投資家の安心感につながり、月半ばにかけて日本株式市場は急反発しました。
 月後半は米国経済への先行きに対する警戒感がひとまず和らぎ、日本株式市場は緩やかなペースで回復し、月前半の急落分の大半を取り戻して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.19%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同2.90%の下落を2.71%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、日立製作所、ファーストリテイリングなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京エレクトロン、東京海上ホールディングスなどでした。

 当月は、当ファンドにご投資していただいている国内外の個人投資家、機関投資家などから最近よく受ける質問と、それに対する運用者の見解についてご紹介します。

1)当月の日本株市場の動揺について

 当月は、1987年のブラックマンデーを超える株価下落という衝撃的な相場展開でスタートしました。きっかけとなったのは、円安要因にもなっていた日本円の(レバレッジを使った)投機的ショートポジションがグローバルで突如解消の動きとなり、円高と日本株下落を誘発したためです。
 金利コストの安い日本円で資金調達し、より利回りの高い米ドル資産などに投資する「キャリートレード(*)」という投機にもなりうる金融取引があります。ポジションを積み上げる過程で円を売る動きが発生するため、円安トレンドが生まれやすく、ひいては円安が業績にプラスとなる日本の輸出企業株が中心に買われます。これら一連の金融取引を行う短期筋は、潮目が変わると損失を回避するため一気に逆方向に雪崩打つため今回のような前例のないマーケットイベントとなりました(**)。今回のタイミングは71112日と推測される日銀による為替介入、731日の日銀の利上げ決定、そして当月前半の米国の景気弱含みを示唆する経済指標(雇用統計、失業率など)の発表などが重なったためと推察されます。

(*)ドル円のキャリートレードは意図的な為替ヘッジ無しの通貨取引であるため、為替レートが大きく円高に振れることなく安定した市場環境が続く限りは「儲かる」取引になりますが、今回のように急変動が起きると、一気に損失が膨らむというリスクを孕んでいます。これがキャリートレードのリターン分布が正規分布から逸脱した偏りのある形状になっている所以です。

(**)市場参加者のリスク許容度が高まる「リスクオン相場」では円ショートによる円安、株買いによる日本株上昇となり、逆にリスク回避的になる「リスクオフ相場」では円買い戻しによる円高、株売りによる日本株下落となります。

 このような要因で発生する株価下落は企業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に起因したものではないので、銘柄によっては株価が本源的価値から下方に大きく乖離するミスプライシング現象が起きます。よって、当ファンドのような投資家にとっては急落銘柄の買い時になります。もちろん、金融市場の異変という経路を辿って企業のファンダメンタルズに悪影響(円高によって輸出競争力が削がれたり、株式市場暴落で消費者心理を冷やしてしまうなど)を及ぼすこともありますので慎重な見極めは必要です。プラス面としては、株価が急落したことで再度純資産1倍割れとなった企業は、自社株買いを積極化させるなどして株主還元策を加速させると予想されます。これは昨年の東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ解消改革の発表以前は期待しにくかった相場の好材料です。
 キャリートレード解消がすでに落ち着いたのか(*)、それとも今後相場の二番底が待っているのかはわかりません。しかし円が引き続き先進国通貨として唯一実質金利がマイナスである事、そして結果として他通貨との金利差が存在し続けていることを鑑みれば、相対的な円の弱さは継続すると当ファンドではみています。為替レートが直近のピークを超える円安にはならないかもしれませんが、キャリートレードのファンディング通貨としての位置付けは当面不変でしょう。ドル円為替レートが1995年や2011年~2012年の80円割れのような極端な円高シナリオは今のところ可能性は低いと考えられます。

(*)米CFTCCommitments of Traders reportによるとすでに円の投機的ショートポジションが総建玉に占める割合は前月初めの52.6%から当月上旬時点で3.8%まで急低下しており、解消の動きはほぼ一巡したと考えられています(当月下旬現在は若干の買い越し)

2)今後の相場リスクについて

 年初から続いた堅調な日本株市場に冷や水を浴びせた8月でしたが、日本企業によるコーポレートガバナンス改革の進展や、国内インフレの定着、金利の正常化、訪日客の増加、半導体産業などの海外から日本への直接投資の拡大、実質賃金伸び率のプラス転換への見通しなどが極端に腰折れしなければ、いずれは過去最高値更新を伺う展開になると思われます(しばらく時間は要するかもしれません)。
 日本株全体のPER(株価収益率)は当月の相場急落直前で17倍程度、現在は16倍程度です。これはアベノミクス下で企業の資本収益性改善への取り組みが始まる前の水準を下回っています。日本企業のクオリティは大きく改善している一方、市場の評価でもあるPERがそれをまだ反映していません。日本株のPER切り上がりは今後も期待できる市場押し上げ要因です。
 一方、今後株式相場リスクとして考えられるのは以下の通りです。

① インフレ環境下、賃上げ運動の甲斐なく実質賃金成長率がマイナスのまま日本経済がスタグフレーション(景気の後退と物価の上昇が同時進行する経済状況)に沈んでしまう
② 国内長期金利の上昇に歯止めがかからず日銀収益が逆ザヤに転じる、バランスシートが債務超過に陥る
③ 日本の財政収支(プライマリーバランス)の改善が見込まれない中、経済が失速し国債が格下げになる
④ 米国経済がリセッション入りし世界需要の鈍化、矢継ぎ早の利下げで円高に拍車がかかる
⑤ 米国の放漫財政で長期金利上昇に歯止めがかからなくなる
⑥ 地政学的理由、甚大な自然災害などにより日本経済・世界経済が大きなダメージを受ける

などが考えられます。
 このうち②については単なるヘッドラインリスクであると考えます。日本円に対する信頼が低下し、円安が加速することは考えられますが、日本銀行は自国通貨である円を発行することができる中央銀行です。2010年頃のギリシャ財政危機時のような事態にはならないでしょう。マスコミなどでは投資家の不安心理を煽るような報道が予想されますが、日本経済が機能停止になるような事態は想定されません。
 一方、③は現在A+(S&P Global Ratings社(米国)による格付け)である日本国債が投資不適格水準(BB格以下)まで格下げされた場合は、ソブリンシーリング(企業の信用格付けはその国・政府の格付けを上回ることができないという信用格付けに関する考え方のこと)の面などで様々な悪影響が日本企業のビジネスに及ぶと考えられます。これは気にしておくべきリスクです。ドルの資金調達コストの大幅上昇やドル資金そのものが調達困難に陥れば事業に大きな支障をきたすことになりかねません。S&P Global Ratings社やFitch Ratings社(米国)の担当者コメントなどを見る限り、現時点では確率は低そうですが、インターバンク市場でドル調達している日本の金融機関や、邦銀から外貨を借りているグローバル企業などへのリスクについては頭の片隅に入れおくべきと考えます。
 それ以外のリスクについては、日ごろからメディアでよく取り上げられる潜在リスクでもあるため本稿では割愛いたします。

3)組入上位銘柄セブン&アイ・ホールディングスの近況について

 同社株は2022年に投資開始してから一貫して買いを続けています。同社の業績は日米ともに既存店売上が低迷を続けており芳しくありません。インフレによって低所得者層の購買力が落ちていることが背景にあると思われます。このような環境における当ファンドの買いは株式市場では少数派の動きかもしれません。
 2021年9月のマンスリーレポートで解説したように、大半の人がいまだ懐疑的・否定的な見方をしているなか株式投資・保有をするという決断は、心理的な居心地が非常に悪いものです。多くの場合において株式市場が暗示する将来予想(コンセンサス)は正しいことが多いので尚更です。しかし居心地の悪いことは投資で成功するための必要条件だと考えます。多数派の意見は、すでに株価に織り込まれたものであり、そこで大きな利益を得るのは難しいからです。
 さて、同社株は現在組入上位ではありますが経営実績に対して全面的に当ファンドが高い評価をしているわけでは決してありません。過去の運用コメントで述べたとおり、同社の2005年の持株会社発足以降の業績、アジア出店戦略や、2021年のSpeedway社(米国)買収にまつわる経営陣の説明など観察を続けていますが、当ファンドの期待値を大きく下回っているのが現状です。
 また最近では同社取締役専務執行役員及び傘下の7-Eeven社(米国)CEOであるJoseph DePinto氏の報酬開示の在り方についても当ファンドは問題視しました。今年528日の株主総会にあわせて送付された第19回定時株主総会招集通知では役員報酬方針として報酬上限は役員全体で総額10億円(このほか1事業年度当たり4億円以内の株式報酬)と記載されていたにも関わらず、株主総会翌日529日に発行された有価証券報告書では同氏の報酬が77億円にものぼることが判明しました。このように乖離があるのは招集通知では単体の役員報酬のみが開示対象であるのに対し、有価証券報告書では子会社を含めた開示がされるためです。Joseph DePinto氏の場合、ほぼすべてが米国子会社からの報酬であったため、招集通知にはほとんど反映されませんでした。開示ルール上の違反はないものの、情報開示姿勢やタイミングに関して不快感を覚えたのは否めません。
 同社報酬方針については以前から当ファンドが指摘してきたとおり、Joseph DePinto氏の報酬が業績貢献度に対して不釣り合いなほど金額が大きく感じられ、また同氏と他の役員の報酬水準の乖離幅があまりにも大きく不公平感(同氏が過大評価、他の役員が過小評価されている)があるのもぬぐえません。当ファンドはこれらの点について、大株主の一角として引き続き同社との面談を通じて問題提起しています。
 このように株式市場から幅広く評価される「優良企業」では決してありませんが、同社に変化と今後業績の飛躍を期待していることから当ファンドでは買い増しを続けています。
 具体的には現在苦戦している米国での既存店売上について、経営陣は正しい施策を打っていると考えられます。米国のコンビニエンスストアはガソリンスタンド併設型が多く、来店客の多くは給油ついでに買い物するだけのケースが多いと言われています。店舗の清潔感に欠け、治安面でも不安があるため、好んでコンビニで買い物をしようというインセンティブに欠けるのが実態です。このような問題点を認識し、同社は既存店の改装(看板の刷新、綺麗なトイレの設置、駐車場の線引きのやり直しなどを含む)を大々的に進めています。品揃えもフレッシュフードを中心に拡充を進めています。
 日本と米国のコンビニ店舗は似て非なるものですが、米国からの訪日客が日本のコンビニを訪れて清潔感や品揃えの豊富さに感銘を受けているのを目の当たりにすると、日本型コンビニ店舗モデルの移植に成功すれば、同社の米国における成長の道が大きく開けると考えます。同社は日本では当たり前のPOS(販売時点情報管理)システム導入による単品管理や、同日複数回配送の仕組みなども着々とノウハウを移植しており、今後が楽しみです。また日本国内についても、同社の長年のコンビニ業界のリーダーとしての実績を鑑みれば、既存店売上の立て直しは十分可能だと思われます。
 買い増しを続けているもう一つの理由は、現在の株価水準であれば下値不安が小さいと判断されるためです。即ち、安全余裕率(マージンオブセーフティ)の高い投資であるということです。コンビニビジネスは元来、小売業としては高い資本収益性、キャッシュフローを生みやすく、生活必需品を売っている業態であるため経営危機に陥るような可能性はかなり低そうです。パイオニアとして長年の実績があることにも安心感があります。
 同社株のバリュエーションの割安さはPEREVEBITDA(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)、フリーキャッシュフロー利回りで説明できます。2023年6月のマンスリーレポートで解説したように、同社は日本の会計基準を採用しているため、Speedway社買収に関連するのれん償却費が年間10億ドル程度計上されます。このため、損益計算書上では、通常のEPS(一株当たり利益)(同社20252月期予想112.8円)とのれん償却前EPS(同163.62円)とでは4割以上の開きがあります。後者のEPSを前提とすれば現在の株価では実質的にPER12倍台と、東証株価指数の平均PERや当ファンドの平均PER水準も下回っています。のれん償却費とは現金の流出を伴わない費用項目であることから、当ファンドでは減損リスクがない限りにおいて、のれん償却前EPSを使用すべきと考えます。
 現在のEVEBITDA7倍程度であり、同業で米国2番手プレーヤであるAlimentation Couche-Tard社(カナダ)の11倍強と比べて割安です。
 フリーキャッシュフロー利回りでみるとどうでしょう。少し前の20232月期実績の営業キャッシュフローは9,285億円、投資活動に伴う支出は4,132億円、よってフリーキャッシュフローは5,153億円でした。同社の中期的な成長ビジョンは少なくともEBITDA(税引前利益に特別損益、⽀払利息、減価償却費を加えて算出される利益)1兆円以上の安定計上を見込んでいること、予想される年間設備投資4,500億円程度と法人税を差し引くと5,000億円近いフリーキャッシュフローをだし続ける実力はあると分析します。これを前提とするとフリーキャッシュフロー利回りは10%近く(フリーキャッシュフロー/時価総額)になり非常に割安です。仮に業績の下振れがあったとしてもバリュエーションの割安感は変わりません。将来に起こる出来事を完全に見通すことが不可能なように、当ファンドはセブン&アイ・ホールディングスへの投資が絶対に成功するとまでは考えていませんが、魅力的な投資機会だと考えます。

(追記)
 去る819日、同社はAlimentation Couche-Tard社から買収提案を受けていることを公表し、これに伴って株価の急変動が起こりました。現時点において同買収が実現するかどうかは全く未知数です。しかし、当ファンドでは本件によって同社に買収妙味があることが明確になったと考えています。仮にAlimentation Couche-Tard社による買収が破談になったとしても、現状の株価水準で新たな買い手が現れる可能性が高く、株価下値リスクは大きく抑えられると期待しています。一方、当ファンドが同社株への投資から期待しているリターンの大きさに変化はありません。

4)セブン&アイ・ホールディングスとオリックスへの組入比率が突出して高いが?

 当ファンドは現在、上記で説明したセブン&アイ・ホールディングスと前月解説したオリックスの2銘柄の組入比率が高くなっています。当ファンドは「特化型ファンド(個別銘柄への投資において、純資産総額に対して10%を超えて投資することが想定されるファンド)」であるため過去にも高い確信度を持つに至れば組入比率が10%を超えた銘柄はしばしばありました。例えば2010年代前半のキーエンス、良品計画、近年の日立製作所などは当ファンドに大きなリターンをもたらしてくれました。運用者にとって確信度の高い投資対象に大きく投資できるのは特化型ファンドならではの魅力です。
 セブン&アイ・ホールディングスとオリックスは現在の相場環境で最も投資魅力があると考えています。ポートフォリオ内における個別株の優先順位は株価が上昇する場合の「期待リターンの大きさ」と、下落する場合の「下値リスクの大きさ」のバランスで決めています。
 当ファンドが考える株式の期待リターンとは、現在考えうる株価上昇余地と、それに対する確信度の掛け算で求められると捉えられます。考えうる上昇余地がどんなに大きくても、その確率が低いと考えれば選好順位は高くなりません。この確率の考え方は投資家によって異なります。投資家それぞれの主観を含むので「確信度」と呼ぶわけです。
 下値リスクの多寡についても同じことが言えます。理論上考えうる株価の下値は対象企業が倒産し株価がゼロになることです。しかし株が紙切れになるリスクはビジネスよって確率が大きく異なります。また株価が現在値から下振れるリスクも業績見通しなどによって異なります。
 期待リターンがいくら大きいと感じても、下値リスクが同じように大きければポートフォリオ内での選好順位は高くなりません。運用者が各銘柄に対して考えるリスク・リターン特性をもとに組入比率の優先順位が決まってきます。今日現在は全組入銘柄のうちリスクとリターン面を総合的に勘案するとこれら2銘柄が最も魅力があると当ファンドは考えています。
 しかし、ポートフォリオ全体のバランスについてはマンスリーレポートの開示内容が示唆するほどこれら2銘柄に偏ったポートフォリオではないというのが当ファンドの見解です。「半導体」(信越化学工業など関連4銘柄)および「損保」(東京海上ホールディングス、MSADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス)といった銘柄群をそれぞれ一括りとすれば、上位2銘柄と同程度の組入比率(アクティブウェイトベース)になっており均等分散が図られているからです。これらでポートフォリオの半分くらいを占めており、残りは10銘柄強で構成されています(全保有銘柄数21銘柄)。このようなポートフォリオ全体像の捉え方がリスク管理上、完全に適切とは言い切れませんが、ひとつの考え方として参考になると思います。

5)損保セクターにおける日本の南海トラフ地震リスクについて

 当ファンドでは国内損保グループ3社を2022年春ごろより投資しています。こちらの投資理由については過去の運用コメントで取り上げています。

2023年8月マンスリーレポート

 損保株に関して投資家の皆様が最も気になる点は、地震大国である日本において巨大地震が起きた場合の損保会社への業績影響でしょう。
 結論からいうと、単年度業績としては大幅な減益を余儀なくされますが、現在懸念される南海トラフ大地震が発生したとしても、連結修正純利益が赤字に転落するリスクは極めて低いと考えられます。株主資本が大幅に棄損するリスクも極めて低いでしょう。
 元来、国内損保企業は民間個人の地震保険リスクは引き受けておらず、全てを日本政府が負っています。従って家屋倒壊などの損害は業績上発生しません。一方、地震リスクにまつわる企業向け保険は損保各社が引き受けています(大抵は一部再保険を利用しリスクをコントロール)。
 地震大国である日本で保険業を営んでいる各社はしっかりと保守的な経営をしています。例えば東京海上ホールディングスで国内損保事業を手掛ける東京海上日動火災保険㈱は関東大震災や伊勢湾台風クラスの壊滅的な大災害がおきても、予想される正味保険金は約1,664億円とシミュレーションされており今期予想修正純利益で十分吸収できる規模です。
 同社はさらに同じ決算期中に南海トラフ大地震だけでなく、巨大台風、そして金融恐慌に同時に見舞われた場合でも、保険会社に求められる最低限の財務基盤には一切傷つかないように事業運営するといった徹底ぶりです。
 勿論これらのイベントが起きれば支払保険金が一時的に急増するだけでなく、政策保有株が多額に残っている現状では投資先からの配当収入減少や、保有株式の株価大幅下落、また有事(リスクオフ相場)に起こる円買いによる為替相場の急変なども予想されます。損保企業の経営健全性を示すESR(Economic Solvency Ratio)が大きく下がるのは不可避でしょう。しかし日本の損保会社は財務内容を棄損しないような経営体力と収益力を有しています。災害が発生した年度を終えれば、業績は順調に回復していくでしょう。
 短期的には損保各社の株価は、株式市場の反応として条件反射的な売りも含めて大幅下落するかもしれません。しかし、これまで阪神大震災、東日本大震災など数々の地震災害を乗り越え、上場来高値を更新しているとおり、損保各社は日本が地震大国であるからこそ十分な備えができていますので、過度な心配は必要ないと考えます。

6)なぜ含み資産株として不動産株に投資しないか?

 当ファンドでは2022年以降の市場環境認識として、日本の「インフレ常態化」と「金利の正常化」をキーワードとしてご説明してきました。かねてからインフレ抵抗力があることが魅力的なビジネスには求められ、最近では金利上昇の恩恵を受けるビジネスが好ましいともコメントしてきました。
 インフレ抵抗力という意味では、コモディティ化していない(差別化された)製品やサービスを手掛けたり、圧倒的なシェアを持つことで強い価格決定権を持つ企業への投資が望ましいと考えます。一方でインフレが追い風となる投資対象として、資産価値上昇の恩恵を受ける含み資産株も想起されます。具体的には不動産事業会社のように土地保有関連の企業が挙げられますが、当ファンドでは大手デベロッパーには投資を行っておりません。その理由としては以下のようなものが挙げられます。

  • 不動産ビジネスは資本集約的かつ地理的優位性以外に差別化を図りにくい。
  • 資産価値に着目する場合は、所有不動産の立地が重要となるが、将来にわたって「一等地」であり続けるような場所を見極めるのは容易ではない。例えばコロナ禍でオフィス物件の本質的な価値があやうくなったり、住宅地も周辺の再開発動向や自然環境の変化で将来も価値ある物件であり続けるか判断が難しいうえ、日本に限って言うと人口減少国であること自体が不動産市場にとっては長期的な逆風になる。
  • 含み益が豊富だとしても、どこかの時点ではそれをマネタイズして、株主に還元されることが理想であるが、賃貸事業が主体の企業には現実的ではない。国内大手デベロッパーが含み益を顕在化させるために都心一等地のオフィスビルを全て売却するのは想定しづらい。
  • 国内大手デベロッパーは全般的にROE(株主資本利益率)が低く、配当利回り・総還元利回り面でも当ファンドで組み入れている損保・メガバンク・総合商社に比べて見劣りする。
  • 国内大手デベロッパー各社は成長のために国内物件や海外不動産など固定資産取得に資金を投じており、フリーキャッシュフローの水準が低く、国内損保などに比べて積極的な増配や自社株買い余力が乏しい。一方、国内損保、銀行などは大規模な追加資本(銀行借入や社債などの他人資本)を必要とせずに本業を伸ばし、なおかつ潤沢な株主還元が実行可能。
  • インフレによる賃料引き上げで不動産価値があがったとしても、実質金利が上昇すれば、逆に価値棄損がおきうる(不動産賃料がインフレと同じペースで上昇すると仮定した場合、実質金利の上昇はキャップレートの上昇になる)

 なお当ファンドが含み資産という切り口でオリックスに投資をしているのは、投資案件の発掘から、投資実行、最終的なエグジットによる含み益実現までの一連の流れが同社のビジネスモデルそのものになっているからです。本業以外の保有資産(ノンコアアセット)の含み益や、将来の売却可能性が低い資産の含み益(株主に対して配当などのキャッシュフローのかたちで還元される見込みがない)を根拠とした資産株への投資よりも、キャピタルリサイクリングを通じて保有資産の含み益が定期的に顕在化されるオリックスのようなビジネスのほうに当ファンドは投資妙味を感じます。

7)コングロマリット型投資事業会社への投資の考え方について

 最後にコングロマリット(分野の異なるさまざまな業種や事業展開を行う企業)型投資事業会社株への投資についての考え方をご説明します。広義では日本を代表する投資事業会社には総合商社、ソフトバンクグループ、オリックスなどがあてはまると考えられます。
 これら企業の投資対象は、事業買収だけでなく、再生可能エネルギー・不動産など実物資産への投資、上場企業株や未上場株投資、そのほか金融資産への投資など多岐にわたります。
 このなかで上場株への投資を中心に行う投資事業会社がもっともコングロマリットディスカウント(*)の対象になりやすいと考えます。なぜなら一般投資家は当該投資事業会社を経由することなく自前で各投資先の株を株式市場で買うことができるからです(**)。

*)株式市場において、事業が多角化されている企業の株価は、それぞれの事業が単体で運営された場合の合計と比べると低く評価されてしまうこと

**)商社やオリックスなどは上場会社株への投資も行いますが、ポートフォリオの大半は一般の投資家にはアクセスし難いユニークな資産で構成されていると考えます

 投資事業会社を経由して投資する場合、当該会社が投資先企業の株式売却を行うと、売却益課税が発生するだけでなく、当該会社自身が支払う法人税も一般株主が負担することになるという二重課税問題が不利になります。また投資を実行する投資事業会社の人材のためのコストなど間接費用もかかります。一般株主にしてみれば、自分にとって最適な投資ポートフォリオを直接組めるほうがメリットは大きいといえます。
 これらの理由から投資事業会社株は投資先持分の時価評価合計を下回るケースが大半です。上場株に幅広く浅く投資しているような投資事業会社の株を買うことが望ましいのは、当該会社の銘柄選択眼が自分よりも優れていると判断される場合などに限られるでしょう。
 上述したような例ではソフトバンクグループが最も大きなコングロマリットディスカウントの対象になっています。同社は昨年再上場を果たした半導体デザイン・知財保有会社のArm HoldingsARM)社(英国)の株式を筆頭に、国内通信大手のソフトバンク社、米通信大手のT-Mobile社などの上場株を多く保有しているためです。同社の開示によると今年6月末時点で保有株式資産に占める上場株比率は82%(VC投資を行うSoftBank Vision Fundの保有銘柄も含む)にのぼっています。
 しかし同社のコングロマリットディスカウントはやや不当に大きいと考えられます。現在の同社時価総額は約12兆円です。これに対し、保有する株式資産を時価評価した場合の同社純資産価値は202486日時点で24.9兆円あり、この半分以上はARM社(同社保有分の株式価値は約14兆円と同社自身の時価総額より大きい)です。ソフトバンクグループはARM社の9割を保有し(連結対象)、経営にも関与できる立場にいます。すなわち、ソフトバンクグループ株へ投資することは実質的にARM株へ投資することと同等の意味を持つのです。さらにARM株だけを直接買い付けようと考えている一般投資家では享受できないメリットとして、上場株以外に2024年6月末時点で8兆円以上の価値があるとされるSoftBank Vision FundSVF1、SVF2、LatAm Fundの合計)が実質的にほぼタダで手に入れられるという点が挙げられます。

 以上のことから、当ファンドでは前月よりソフトバンクグループに小規模な投資を再開しています。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年7月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.54%下落し、日経平均株価は前月末比1.22%下落しました。
 当月の日本株式市場はボラティリティの大きい相場展開となりました。月前半は、前月からの好調な流れを引き継ぎ堅調に推移しました。米国の雇用統計で労働需給の逼迫が緩和される兆しが見られ、FRB(米連邦準備制度理事会)の年内利下げ観測が高まったことで、長期金利が低下し、米国のハイテク株が上昇しました。日本でも半導体関連銘柄が相場を支え、日経平均株価は連日で史上最高値を更新し、11日には42,000円台に到達しました。しかしながら米国消費者物価指数が想定以上に軟化し、米国ハイテク株に利益確定売りが入ったことやドル円が円高方向に振れたことなどから、日本株式市場は下落に転じました。そして月後半に入ると下げが一層加速しました。トランプ氏が大統領選で優勢と伝わると、米中対立の深刻化やドル高是正などの自国優位政策が懸念され、半導体関連株に売りが膨らみ、日本株にも影響が及びました。さらに日銀の追加利上げやFRBの利下げ観測から「円キャリー取引」の巻き戻しが発生し、ドル円は一時151円台を付け、日本株式市場も幅広く売りが広がり、日経平均株価は38,000円を割り込む水準まで大幅に下落しました。
 31日に日銀は金融政策決定会合で政策金利を0.25%程度に引き上げることを決定し、国債買い入れの減額計画も明らかにしました。また、米国政府が対中国の半導体輸出規制で日本などを除外すると報じられると、半導体関連株が反発し日本株式市場は下げ幅を縮小して当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.61%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.54%の下落を2.07%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、信越化学工業、オリックス、ロート製薬などでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、日立製作所、ルネサスエレクトロニクスなどでした。

 当月のレポートでは主要組入銘柄であるオリックスを久しぶりに取り上げます。2022年に投資を開始してからの同社に関する当ファンドの見解は以下をご参照ください。

 オリックスは国内最大級のノンバンク・金融サービス会社です。1964年設立時のリース事業を皮切りに「金融」と「モノ」の専門性を高めながら、船舶リース、レンタカー、融資、航空機リース、不動産開発、アセットマネジメント、プライベートエクイティ(PE)投資、事業再生、ベンチャーキャピタル、生命保険業、銀行業、再生可能エネルギー(再エネ)、空港運営など多角化を進めてきました。また同社は欧米やアジアでのビジネスも展開しています。
 オリックスのような企業が魅力的かどうかはどのように判断すべきでしょうか。金融・投資事業会社は、製造業などのようにダントツの市場シェアや特定の技術あるいはブランド力をもとに競争優位性を見極めることはなかなかできません。金融業は通常、バランスシートにレバレッジをかけて事業を行います。このためソルベンシー(支払い能力)リスク、流動性リスクなどに対する感応度が高く、経営次第では本源的価値が大きく傷つく可能性をはらんでいます。
 そこで当ファンドでは過去の経営実績(トラックレコード)とリスク管理面や資本規律といった企業文化を調査して判断するようにしています。組織カルチャーは長年にわたって受け継がれ、それが競争優位性になるという前提に立っているからです。勝ち組と負け組を分けるのは企業文化といっても過言ではありません。日本ではバブル崩壊以降、日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)がずさんな経営による不良債権問題で力尽き、海外では2008年世界金融危機でLehman Brothers Holdings社(米国)やBear Sterns社(米国)が倒産しました。反対に三菱UFJフィナンシャル・グループやJP Morgan社(米国)が今日トップの銀行として君臨しているのは、まさにトレンドに流されずに堅実な経営が受け継がれ、かつリスクをとるべき時に攻めの経営を行ってきた結果だと考えます。
 オリックスは設立から約60年間、バブル崩壊(19933月期)、アジア通貨危機(19983月期)、ITバブル崩壊(20023月期)、リーマン・ショック(20093月期)、コロナショック(20213月期)など様々な逆風がありましたが、毎期黒字の計上を続けています。20103月期に世界金融危機の余波で公募増資を余儀なくされたというネガティブなイベントはありましたが、トラックレコードとしては合格と言えます。当ファンドが本源的価値増減の近似値としてみている一株当たり純資産伸び率は過去10年でみて年率平均8.9%を達成しています。
 現在のオリックスの魅力は、同社が隠れた訪日客恩恵銘柄であること、そして国内金利上昇の恩恵銘柄であることです。コーポレートガバナンスも素晴らしく、株価も割安と考えます。

隠れインバウンド恩恵銘柄

 当ファンドではかねてから日本の訪日客需要を強気にみています。外国人にとって円安による旅行費用の安さと、北海道から沖縄まで南北に広がる豊富な観光資源(その間には東京、大阪、京都、福岡などの魅力的な大都市が点在)、治安の良さ、充実した公共交通機関、食事や買い物面での魅力、サービスレベルの高さなどが大きな魅力であるのは疑いありません。特に円安は大きなインセンティブです。一人当たり消費額も増えやすく、平均滞在期間もより長くなると期待されます。
 2024年の年間訪日客数は2019年の約3,200万人を超えると予想されますが、これは単なる通過点でしょう。他国の事例では、世界中の観光客を惹きつけるスペインやフランスは年間8,000万人以上を記録していますし、アジア地域でもタイにおいてコロナ禍前には約4,000万人もの外国人観光客が訪れていたことを勘案すると、日本でも観光客受け入れ能力も工夫次第で拡大余地は大きいはずです。
 オリックスを「隠れインバウンド恩恵銘柄」とあえて呼んでいるのは、代表的なオリエンタルランド(訪日客に人気のある東京ディズニーランドを運営)や百貨店、ドラッグストアなどと異なり、もともとインバウンド関連として大きく注目されていないためです。しかし同社には空港コンセッション事業、国内旅館ホテル運営事業、航空機リース事業など、関連性の高い事業がいくつもあります。これらはコロナ禍で大打撃を被り、20223月期は3事業合計で200億円以上の赤字を余儀なくされましたが、当ファンドでは経済リオープニングによってコロナ禍前のピーク利益(20203月期の3事業合計利益実績701億円)までは早期に回復すると当初から予想しました。つまり控え目にみても900億円以上の利益改善(200億円以上の赤字→701億円の黒字)が見込まれ、そこから更に利益拡大すれば全社に与えるインパクトは大きくなると考えました。これら3事業以外のセグメントの利益成長も加味すれば、投資開始した当時のPER(株価収益率)10倍以下、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ、配当利回りと自社株買いを加えた総還元利回り5%超は非常に魅力的であると結論に至ったわけです。

 以下、同3事業の近況について解説します。
空港コンセッション
 まずは「事業投資・コンセッション」セグメントに含まれる空港運営事業です。オリックスは持分法適用会社である関西エアポート社(出資比率4割)を通じて関西国際空港(関空、年間旅客数約2,500万人)、大阪国際空港(伊丹空港、同約1,500万人)および神戸空港(同約340万人)を運営しています。
空港運営ビジネスは典型的な参入障壁の高いビジネスです。通常、空港は一地域に一つしかありませんので独占的なビジネスとなります。一等地にビルを所有する不動産デベロッパと同じように地理的な競争優位性では、一旦立地を抑えてしまえば資金力だけでは新規参入者は対抗できません。
 特に関空は、日本国内で羽田、成田に次いで3番目に多い旅客数を誇ります。完全24時間運用可能であり、関西地方では唯一の国際ゲートウェイです。コロナ禍で大幅な業績悪化に見舞われ、関西エアポート社の当期純利益は20203月期の過去最高335億円(うちオリックス帰属分は4割)から翌年には345億円の赤字に陥りましたが、20245月の旅客数は2019年同月比で約9割まで回復しています。利用者回復の最大ドライバは言うまでもなく訪日客であり、海外旅客数だけをみると5月時点で同106%とコロナ禍前の水準をすでに超えています。大阪、京都は日本全国のなかでも東京、福岡などと並んで特にインバウンド比率が高いため、観光需要増の恩恵をストレートに受けています。
関西エアポート社の収益源はターミナル内の免税、物販、飲食の直営店舗売上、テナントからの賃料収入および航空会社から受け取る航空機の離発着料などです。ターミナル内での利用者一人当たり売上が多いのは国内旅客よりも海外旅客であり、関空は引き続き堅調な伸びが予想されます。リオープニング以降回復が鈍い中国人観光客が戻ってくればさらによくなるでしょうし、直営店の値上げやテナント料の引き上げができれば更なるアップサイドにつながります。2025年には同空港の収容能力は4,000万人まで拡張されることが決まっているのもプラスに働くと考えます。
 また他の2つの空港(伊丹空港と神戸空港)も関西エアポート社傘下にあるため、3空港で今後の旅客需要に見合った最適な運営が可能です。例えば神戸空港は小規模な空港ですが、全国でも有数のシティ型空港で、都市部に近いというメリットがあります。同空港は現在国内線のみですが、2030年頃には国際定期便の就航が予定されており、関空を補完する役割が期待されます。関空だけでは海外旅客を受け入れきれない場合は同空港が受け皿となるでしょう。

国内旅館・ホテル運営
 国内旅館・ホテル運営は「不動産」セグメントに含まれています。「佳ら久」、「はなをり」といったブランドの旅館リゾートやホテルリゾート「CROSS HOTEL」、およびシティホテルなどを全国で合計25か所、約5,500室を展開しています。コロナ禍で90億円程度の赤字に転落したものの、現在は回復しています。
 ホテルや旅館のオペレーションで重要な指標となるRevPARRevenue per Available Room)(*)は、同社決算説明資料によるとホテル事業で2019年同月比147%、旅館事業で同120%になっておりコロナ禍前のピークを大幅に上回っています。同社は人手不足のため稼働率回復が80%程度で既に頭打ちとなっていること、競争激化により新規ホテル建設や取得は手控えていること(同社の規律のきいた投資方針が表れています)から今後は大幅な業績改善が続くとは予想していません。しかし当ファンドでは、客室平均単価(ADRAverage Daily Rate)の更なる上昇余地があると考え、引き続き成長が期待できるとの見方です。
*RevPARは販売された全客室の平均単価を示したもので、ADRと稼働率(OCCOccupancy Ratio)の掛け算で算出されます。

 ADRが上ぶれの可能性があると考えるのは、円安の影響によって日本国内の宿泊料金が国際的にみて未だ割安なためです。現在の日本の物価は他の先進国水準よりもまだ大きく下回っています。当ファンドでは、ドル円為替レート上の過度な円安が購買力平価メカニズムを通じて是正(円高へ修正)されるよりも、現在の為替レートに見合う水準まで国内価格が上昇していくことで不均衡が是正していく可能性のほうが高いとみています。このため、国内の宿泊料金も同社が想定する以上に上昇すると考えています。

航空機リース
 航空機リース事業は、100%子会社であるORIX Aviation Systems社(アイルランド)と持分法適用会社のAvolon Holdings社(アイルランド)を通じて展開しており、「輸送機器」セグメントに計上されています。前者は中古機体を中心に取り扱っており、後者はAirbus社(フランス)、Boeing社(米国)などの航空機メーカーから新型航空機を直接購入し、世界中の航空会社にリースしています。Avolon Holdings社を含めたオリックスの航空機リース事業はAerCap社(オランダ)、SMBC Aviation Capital社(アイルランド)に次ぐ世界第3位の規模を誇ります。
 世界の航空機リース市場は2023年の1,541億ドルから2033年まで年率7.3%で成長し3,159億ドルの規模になると言われている成長産業です。航空会社は資金負担の重い高額な機体を直接保有せず、需要増減に対応しやすいリースを活用するケースが増えています。コロナ禍後のリオープニングで旅客需要が以前の成長軌道に戻っている上、格安航空会社(LCC)の勢力拡大も受けて、リース会社は航空機を大量発注しています。現在、世界の航空機の47%がリース会社の保有とされています。
 新造機の需要は高まる一方ですが、供給側は制約に直面しています。背景にあるのは、航空機関連メーカーがコロナ禍当時の需要急減に伴って人員削減に踏み切ったことがあります。足元では再度人員を増やそうとしていますが、米国などでは賃金上昇や人手不足が目立ち、十分に作業者を集められていないのが実態です。2018年と2019年に起きたBoeing社製航空機の墜落事故や2023年に発生したPrattWhitney社(米国)の航空機エンジン不具合問題などで業界全体の機体生産スピードの大幅な鈍化につながっています。Aribus社もサプライチェーン問題から新造機の納入が当初スケジュールより遅れていることを先日発表しました。
 加えて、現役航空機の生命線ともいえるエンジンメンテナンスでも問題が深刻化しています。コロナ禍で引退した熟練エンジニアが多かったこと、一連の事故・不具合を受けて安全基準の厳格化が起きており、エンジンメンテナンス周期が短期化していることも世界で稼働中の航空機需給のタイト化に拍車をかけているようです。
 これらの理由から、航空会社が支払うリース料はコロナ禍前の水準をすでに超えています。現在の業界環境は貸し手である航空機リース事業者にとって大変有利なのです。 
 同ビジネスはリース料が収入源となりますが、近年値上がり傾向にある保有機体の資産価値も同じく重要です。需給が非常にタイトなため現役航空機の価格が上昇基調にあります。リース契約が終了し、十分な残価があれば、リース会社が当該機体を最終的に売却する時点で売却益を計上することができます。20243月末現在のオリックス航空機リース事業は52機保有、Avolon社は534機保有、456機を発注済みです。両社のフリート(企業が所有する航空機群)とも民間航空会社の間で現在主流であるナローボディ機種(旅客機のうち内部の通路が1つしかないもの、A320Neoなど)が8割程度を占めており、機体年齢も56年程度と若く、リース先地域も分散されているのが魅力です。

大阪IRについて

 オリックスには他にも中期的に訪日客の恩恵を受けるビジネスが立ち上がる計画があります。いわゆる大阪IR(Integrated Resort/統合型リゾート)の開発です。日本では初となる本格的なカジノ施設を目玉とし、高級ホテル、娯楽施設、国際会議場、ショッピングモールを網羅した一大リゾートプロジェクトとして2030年頃の大阪夢洲において開業を目指しています。オリックスは開発主体である大阪IR社に約43%出資しています。シンガポールのMarina Bay Sands、マカオのCotai Stripや米ラスベガスの成功にみられたように、外国人客を惹きつける観光資源として注目されています。同社とMGM Resorts International社(米国)が中心になり、プロジェクト全体で計画されている1兆円クラスの投資は海外に匹敵するスケールです。まだ最終的な投資金額や建設スケジュールなど流動的なところが多いですが、リスク・リターンをしっかり考えて立ち上げに成功すれば同社株の魅力はさらに増すと思われます。

国内金利正常化の恩恵も受ける

 オリックスはリースを祖業とし、今日では銀行融資や生保なども手掛けています。このため、銀行や保険業界と同様に国内金利上昇によって、これまで低収益性に喘いでいた業況の改善が見込まれます。具体的には、短期プライムレート連動の投資用不動産ローンが多いオリックス銀行にとって追い風ですし、オリックス生命にとっては運用環境の改善によって資産利回り向上が期待できます。
 またリース事業も市場金利が上昇し始める段階こそ、資金調達のコスト上昇が先行するため一時的に利ザヤが圧迫されますが、通常はリース料へ価格転嫁されます。むしろ金利の絶対水準が底上げされることでリース会社にとってはスプレッドを取りやすくなるのでポジティブです。長年、収益が苦しかったメガバンクや地銀はボリュームで利益成長を確保するためリースを多用する中小企業に対して貸出攻勢をかけていました。しかし金利が正常化すれば、貸出案件の選別が行われるようになりリース会社にとっては競争条件が緩和されるはずです。
 同社統合報告書2023では、国内金利上昇が如何にオリックスの金融事業にとって浮上するチャンスになるかが井上CEOによって語られています。
「現在の金融環境で0.20.3%程度の利ザヤでは、1件の事故でも致命傷になりますので、リースやファイナンスで失敗から学んで跳ね返すようなリスクテイクは許容できない状況が続いていました。(中略)この間、日本円でも金利が上昇すればリースやローンでもスプレッドを確保できる機会は増すだろうと考えていたので、法人営業の人材と全国ネットワークの維持に努めてきたのです。法人営業はほかの事業と協働し、クロスセルにも注力することで、金利収益のみに依存することなくROA(総資産利益率)3%を達成してきました。ここに金利スプレッド収益が回復してくる余地が出てくると、ファイナンス会社で今でも全国ネットワークを持っているのは当社だけですから、金融でも再びお客さまに貢献でき、ネットワークに非常に価値が出てくると確信しています。」
 さらに想像を働かせれば、オリックス経営陣が金利正常化を好機にオリックス銀行やオリックス生命の売却など大規模な事業ポートフォリオ入れ替え(キャピタルリサイクリング)を行うかもしれません。両事業とも多額の資本を使うビジネスであることから、同社ROE(株主資本利益率)の引き下げ要因になっていました。しかし昨年来、楽天銀行、住信SBIネット銀行といった新興系銀行の新規上場もあり、オリックス銀行に客観的な価値をつけやすくなったことで、親会社オリックスにとっては売却や上場などの選択肢が増えていると考えます(*)。国内生保業界では既存の保険契約をバルク(包括方式)で海外PEなどに売却するクローズドブック取引が活発化してきているので、オリックス生命にも何かしらの動きが今後出てくるかもしれません。オリックスがキャピタルリサイクリングを上手く行い、資本収益性を高めることができれば同社株に対する株式市場の評価が上がると考えます。
*)ただし、現在は両社合わせて1,000億円程度の税前利益を稼いでいます。売却する際には、一過性の多額の売却益を計上できる一方、オリックスの経常的な「ベース利益」は今後減少することになります。経営陣は全社利益を大幅に減らさないよう、売却資金をより資本収益性の高い事業への再投資することを考えなくてはなりません。

 一方、金利上昇は資産価値評価の際の割引率が上昇するため、オリックスが保有する投資資産の価値目減りにつながる可能性があります。しかし、投資エグジット先となる海外投資家からみれば円安が進んだことで投資余力が増しているので、同リスクは吸収できると考えます。また保有資産のなかには、航空機のように金利上昇による資産価値の下落要因よりも、需給バランスのタイト化による価格上昇要因のほうが上回っているものもあります。
 オリックス海外事業はどうでしょう。現時点ではユーロ金利・ドル金利下落のほうがポジティブに働く構造になっています。例えば同社傘下の資産運用会社Robeco Groep社(オランダ、2013年)や再エネ関連のElawan Energy社(スペイン、2022年)を買収した際に調達したユーロ建て借入の金利負担が重いため、ユーロ金利は下落が望ましい状況です。ドル金利については、資産負債がマッチングしているため金利感応度は中立的ポジションになっていますが、同社が展開しているMBS(モーゲージ債券)組成ビジネスは住宅ローン金利の高止まりが逆風となっています。また国内同様、米国PE投資案件に関しても、高金利環境が続くとエグジットしにくくなりますので、インフレの落ち着きに伴うドル金利引き下げは同社の米国事業全般にとってはポジティブとなる状況です。

株価のバリュエーション

 オリックスのビジネスモデルは投資会社であるため、PBRで評価することが適切だと考えます。同社は様々な事業資産や金融資産に投資を行い、そこから得られる収益や資産価値を引き上げて本源的価値を拡大させ、将来どこかの時点で利益を顕在化させることを本業としています。エグジットに備えた保有資産の価値が重要なので、将来のフロー利益を前提としたディスカウントキャッシュフローモデルよりも、バランスシート上の資産から負債を差し引いた純資産価値の増減を本源的価値変化の近似値として注目します(*)。
*)逆に自動車メーカーなどの製造業は保有資産(主に工場資産や生産設備)の入れ替えに伴う株主価値の向上は本業ではありません。よって保有資産価値の増加をベースとしたバリュエーションはふさわしくないと考えます。

 あくまで「近似値」とするのは、同社がPE投資案件、不動産、再エネ資産など含み益が反映されていないアセットを多く保有していると当ファンドでは分析しているからです。さらに航空機リース事業では、上述のとおり将来納入予定の発注済み機体が数多くあります。1機当たり価格が数十~数百億円となるこれら最新機種の資産価値は足元増加基調にあり、納入時には含み益が生じることが予想されます。これらは将来バランスシートに計上される予定の含み益資産です。これらを全て総合すると恐らく5,000億円から1兆円近い未だ顕在化していない含み益になると想定されます。同社の決算短信上に記載されている純資産が4兆円程度ですので、小さくない金額です。
 同社株価は財務諸表上の純資産に対してPBR1倍程度まで上昇しましたが、これら含み益を考慮した実質的な純資産価値では未だに1倍を下回っていると考えられます。同社の井上CEOによる「PBR1.5倍が、含み益を考慮した場合のPBR1倍に相当するだろう」というコメントは当ファンドの見方を裏付けるものです。

 また同社株はフローの収益で評価するPERでみても割安感があります。決算説明資料において経営陣は「ベース利益」と「売却益(キャピタルゲイン)」にわけて解説しています。ベース利益とは保有している資産から毎期生み出される収入をもとにした利益、「売却益」は事業ポートフォリオ入れ替えを目的とした事業売却・資産売却をした際に不定期に発生する利益を指します。後者は毎期安定して見込めないことから、株式市場では一過性利益として過少評価されがちです。しかし当ファンドはオリックスが投資事業会社である以上、年度によって上下動は大きいものの、長期では恒常的な貢献が期待できる利益項目としてバリュエーション上は重視すべきとの見解です。過去5年平均で1,140億円を計上しており、同社経営陣は今後も年平均1,000億円程度の売却益は計上できる自信をみせています。

 最近も様々な事業会社へ大規模な金額を投じており、PEポートフォリオは引き続き充実しているようです。

  • DHCを買収(株式出資1,000億円、ノンリコースローン(買収先の事業収入を返済原資とする融資)1,000億円、キャッシュ1,000億円)
  • 東芝への出資(LP投資(ファンドへの出資を通じたベンチャー投資活動)1,000億円、メザニンローン(通常のローンよりもリスクが高い資金供給)1,000億円)
  • 三徳船舶を買収(企業価値ベースで約3,000億円も詳細は非開示)

 これら投資の多くはキャピタルリサイクリングで得られた売却資金が充当されているとみることができます。例えば、オリックスは2014年に会計ソフト大手の弥生を約800億円で買収し、2021年に米PE投資会社KKR社に約2,400億円で売却を行っています。その後、同売却資金でDHCを買収しています。事業規模の拡大に伴ってオリックスの投資案件が大型化していけば、将来の売却益も今より大きくなる可能性があるでしょう。

PBRか、それともPERか/ROEについて

 当ファンドでは、現時点では含み益を考慮したPBRによる株価評価が妥当だと考えます。一方、経営陣は中長期的にアセットをあまり使わないフィービジネスに注力していく方針です。例えば20243月期決算説明資料には「投資案件が大型化する中、『アセマネ・シフト』を進め、AUM100兆円を目指す(20243月期末時点:69兆円)」と記載されています。同戦略が狙いどおりに進めば、同社の株価評価軸はPBRからPERへよりシフトしていくと予想します。
 同社は総資産約16兆円に対して自己資本約4兆円(自己資本比率約24%)です。経営陣は34兆円程度の自己資本は必要との認識ですが、アセットをあまり使わないビジネスの比率が上がってくれば、自社株買いをして自己資本を減らしても財務安定性を損ねることなく、ROEを上げやすくなるはずです。将来の見通しが立ちやすいフィービジネスの成長によってROEが向上していけば、これまで10倍前後に留まっていたPERもより高い倍率が許容されると考えます。結果としてPBRが1倍を優に超える状況も考えられるかもしれません。

 一方、ROEを収益性指標として現時点で使用することはあまり適切ではないと考えます。オリックスの収益構造上、保有している投資資産が売却に至る前までの価値上昇は必ずしも当期純利益に認識されないこと、一部の保有資産の含み益はバランスシートに表れないものも多いためです。

 なお余談ですが、最新の20243月期の決算説明資料では、同社の現状ROE9.2%を補足するものとしてROTE(Return on Tangible Equity、有形自己資本利益率)ベースでは13.2%とより高い数値を開示していますが、この数値をもって同社の資本収益性が高いと主張するのはミスリーディングであると当ファンドは考えます。
 ROTEでは株主資本から買収で取得した無形固定資産を除いたものを分母として使用しています。この指標は取得したビジネスが買収前にいかに高い資本収益性であったかを示しています。一方、オリックス株主からみた買収案件の資本収益性を計算する際にはあくまで実際に投下した投資金額(のれんなど無形固定資産を含んだもの)が分母となります。どんなに資本収益性の高いビジネスを手中におさめても、高い買収資金を払ったのであれば、途端に低ROEビジネスとなってしまいます。オリックス経営陣による買収判断の巧拙がはっきりと表れる通常のROEこそがオリックス株主が着目すべき指標だと考えます。

フィナンシャルバイヤーとしてのオリックス、ストラテジックバイヤーとしての総合商社

 当ファンドではオリックス、総合商社とも投資事業会社として捉えています。両者には重複する部分がある一方、違いもあります。商社の投資事業では、ストラテジックバイヤー(戦略的買収者)として商流を抑えることで、バリューチェーンのなかで投資資産の価値引き上げを目指すことに主眼が置かれています。これに対しオリックスはあくまでフィナンシャルバイヤー(金融的買収者)として投資価値をあげて、売却を目指すというビジネスモデルです。資産回転型の色彩がやや強いほうがオリックスだと思います。井上CEOは過去のインタビュー記事でこちらは投資そのものが目的で、3年での回収を目指す。商社は20~30年で、周辺事業を含めて利益を上げることを考える」、「商社から共同事業を持ちかけられることもあるが、ほとんど実現しない。彼らが目標とするROAは当社よりかなり低いからだ。商社は投資先との関係を作って商売をしたいという発想が強いためか、われわれから見ると割高な値段をつけることが多いと投資目的、投資期間、目標リターンなどの違いを説明しています。

 また統合報告書2023で同氏はオリックス流投資においてキャピタルリサイクリングの重要性を以下のように述べています。
「船舶リースは通常、期間が10年以上の長期であるため、必ずと言っていいほどリース期間中に何かが起こります。当時は中途解約不能のリース契約が多く、万一解約をすると借り手であるお客さまが負担する多額のペナルティーが契約に定められていました。そのためお客さまは何らかの理由で船舶が事業で不要になった場合でも、解約して多額のペナルティーを払うよりそのまま放置せざるを得なくなってしまい、結局は担保の資産価値を毀損して与信に問題が生じることがあったのです。私はお客さまが返したいものを、契約の定めで返せないというほうがビジネスとして合理性がないと思いましたので、引き揚げてまたほかのリース先を見つければよい、すなわち、船舶という営業資産を金融ビジネスの考え方で回転させる仕組みがあればよいと考えた訳です。これがキャピタルリサイクリングの考えにつながっています。資産であれ資金であれ、それを回転させるというのは労力がかかりますので、本当は置いたままで収益を生んでくれればこんなに楽なことはありません。しかし市場の変化はいつどの程度起こるか誰にもわからないので、日頃から常に資産・資金の回転、リサイクリングを想定した準備が不可欠だと考えます。」
 オリックスの場合、投資案件にゴーサインを出すか否かは概ねIRRInternal Rate of Return、内部収益率)15%を基準に判断を行っているそうです。商社のように業界毎にバリューチェーンは組みませんが、求めるIRRが相対的に高いため、エントリープライスにこだわるのが特徴的といえそうです。そして新規案件に投資を行った瞬間からエグジットのことを意識する考え方が定着しています。事業環境変化に柔軟に対応し、注力する投資分野を切り替えていけるのも「オリックスらしさ」と考えます。

 一方で、オリックスが最近になって総合商社業界の動向を意識している様子も伺えます。20243月期通期決算発表では、新たな株主還元策として「当期純利益の39%を配当、自社株買い500億円」を発表しています。配当性向は33%から引き上げられ、原則前年度の配当実績との比較でいずれか高いほうとするという累進配当的な方針になっています。また自社株買いについては投資案件のエグジットによって売却益を計上できる年度には積極的に行うことも検討しているようです。
 昨年の東証による所謂PBR1倍割れ是正取り組み発表以降、国内上場企業による余剰資本の積極活用策として株主還元が加速したのは記憶に新しいところです。特に総合商社、銀行などの業種は長年PBR1割れ銘柄の常連だったため、いち早く対外的に還元内容の拡充を打ち出しました。結果として、両セクターが株式市場で人気化し、割安であった株価水準が大きく改善したのは、よく知られている通りです。このような動きに触発されてか、当ファンドでは昨年来四半期決算発表のたびに井上CEOの発言の端々から還元方針拡充に向けた意欲を感じていました。同銘柄の組入比率を引き上げた理由のひとつです。

コーポレートガバナンス

 コーポレートガバナンスの観点からみた同社は優等生です。同社は2015年より「指名委員会等設置会社」の形態を採用しています(実質的には2000年代より導入)。有価証券報告書をみると指名委員会、監査委員会、報酬委員会とも全て社外取締役のみで構成されており、監督と執行の分離が徹底されています。当ファンドが把握している限り、現在日本に存在する指名委員会等設置会社のうち、委員会全てが社外取締役のみになっているのは同社とHOYAなど僅かです。
 同社の統合報告書も読みごたえがあります。特にCEOメッセージでは、井上氏によって経営者としての考え方や気持ちを自分の言葉で率直に書かれています。他社では形骸化している統合報告書も散見されるなか、同氏の内容は経営者として自己採点などが印象的です。
 「就任5年目の2019年の統合報告書で率直な評価を50点位と申し上げましたが、さらに4年が経った現時点では60点位と考えています。2019年にも課題の一つに挙げたミドル・バックオフィスのコーポレート機能強化は、例えばダッシュボード化などリスク管理体制の高度化が進んでいるものの、まだ満足できるレベルではありません。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進では、ビジネス現場のノウハウとテクノロジー専門家の知識が適切に融合するよう、経営情報化委員会の委員長として自ら時間を費やしていますが、さらにスピードアップすべきであるため、現状の評価は辛めの点数となります。事業については、変化を先読みした機動性の点では、弥生売却や社船売却などをタイムリーに実行できましたが、課題なしという訳ではありません。例えば米国で進めるアセットマネジメント事業強化などのビジネスモデルの転換と、金融政策変更による米ドル金利上昇については、マーケットのタイミングに即応してさらに迅速に対応すべきと考えます。こうしたことから現在の評価を60点位とした訳です。
 統合報告書2024CEOメッセージにはどのようなことが書かれているのか楽しみです。

 なお井上CEOは現在71歳なので、決して「若いCEO」とは言えません。同氏のコメントからは当面続投するエネルギーが十分みなぎっているようにみえますが、一方で後継者へのバトンタッチの時期が近付いていると示唆する発言も目立ちます。
 「CEO就任から9年が経ちましたが、次世代へのバトンタッチは以前から意識しています。後継者は現在の方針を踏襲する人を選ぶべきという意見もあるようですが、私は違うと思っています。次世代のCEOは、むしろ私のやり方を否定するくらい明確な自己を持った人が務めるべきでしょう。」
 当ファンドでは、同氏の経営手腕を高く評価しており、セルサイドのアナリストの間でも同氏を支持する声は多いように感じます。具体的な後継者がみえていないことを不安視する向きもありますが、当ファンドでは性善説の立場で、同社の指名委員会がしっかりとした人選を行ってくれると考えています。現在の市場による株価評価には少なくとも「井上プレミアム」なるものは認められません。一部の上場企業のようにカリスマ経営者を理由に株価が高く評価されているケースに比べるとCEO交代が大きくネガティブ視されるリスクは低いと考えます。

最後に

 オリックスには様々な事業部門(10事業セグメント)があるため、総合商社同様、複雑な印象があり敬遠されがちです。しかしシンプルに考えれば「他人資本を活用して投資リターンを得る」事業です。同社はこれを創業来うまくやっています。ファンドマネジャーやアナリストは投資先企業を詳細に分析する能力が求められるのは勿論ですが、一方で物事を単純モデル化(しかし過度に単純化し過ぎない)してビジネス評価できることも大変重要です。オリックスは当ファンド7つの投資基準のひとつである「ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい」の条件についても十分に満たしていると考えます。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年6月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.45%上昇し、日経平均株価も前月末比2.85%上昇しました。
 当月の日本株式市場は、日米の金融政策の動向に注目が集まるなかレンジ内でもみ合いの推移となった後、円安の進行とともに月末にかけて上昇しました。月前半は、米国金融政策の動向を巡り米国マクロ経済指標に注目が集まるなか、雇用・物価関連指標等の結果を受けインフレ鈍化の見方が支持され、目先のFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測の高まりから米国長期金利が大幅に低下し、米国株式市場は半導体・ハイテク株中心に上昇しました。この流れを受けて、日本株式市場も上昇しました。月半ばには、日銀金融政策決定会合で、日銀が国債買い入れ減額の方針を固めたものの、具体策については公表が見送られ、円安の進行とともに日本株式市場は上昇しました。その後は、会合後の記者会見にて日銀総裁より買い入れ減額規模について「相応の規模になる」との発言があったことや、7月の会合で利上げを行う可能性も否定しない主旨の発言があったこと、また、フランス政治不安が改めて意識され下落した欧州市場の影響などいくつかの材料が出るなか、日本株式市場は下落する場面がありましたが、月後半にかけて株価は持ち直しました。月後半は、ドル円レートが一時161円台まで下落し、198612月以来およそ37年ぶりの安値を更新しました。円安が支えとなったほか、日本長期金利の上昇を受けた銀行株などの上昇も相場をけん引し、月末にかけては配当金の再投資の観測もあるなかで日本株式市場は前月末対比で上昇し、当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.67%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.45%の上昇を2.22%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、日立製作所、東京海上ホールディングス、リクルートホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、ソシオネクスト、セブン&アイ・ホールディングス、三菱商事などでした。

 当ファンドの投資戦略である「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」は、企業が生み出す利益(キャッシュフロー)をビジネスに再投資することで更なる価値を生むという本源的価値の増大プロセスに着目します。そのため当ファンドでは参入障壁が高く資本収益性に優れたビジネスを展開し、平均を上回る成長性を持つと考えられる企業を選好します。株式投資の王道ともいえるこのアプローチは、米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏の投資方法にも共通するものです。しかし、バフェット氏が投資するような業種やビジネスモデルに似た日本企業に投資しても成功するとは限りません。日本で同アプローチを実践するには、日本特有の国民性、企業文化の理解が必要であるためです。そこで当月は株式投資の視点から気づく「ここが違うよ日本」、「ここが変だよ日本」、や「ここが凄いよ日本」などについてお話しようと思います。

横並び意識の強い日本人の良いところ・悪いところ

日本人に特徴的な同質性と社会平等性について
 第一に、日本人の同質性について考えてみます。日本人は単一民族であり物事に対する考え方が似通っているため、「あうんの呼吸」と表現されるように、言われなくても相手の意を汲んで動くことが求められます。したがって企業の現場では明言された画一的な作業オペレーションはあまり導入されていないケースが多いようです。これは外国人労働力などを採用するときにしばしば問題となります。
 給与制度面では横並び意識の強さが弊害となり、実力主義の導入がなかなか進んでいません。いわゆる「ジョブ型雇用」を通じて変わりつつあるとはいえ、未だに多くの会社が終身雇用・年功序列賃金制を前提としています。一口に「賃上げ」と言っても、日本特有の「ベースアップ」は一律全員に適用しなくてはならず、会社全体の大幅な人件費増となってしまいます。ゆえに賃上げには一大決心が求められてしまうのです。当ファンドではこれら制度の良い面を認めつつも、今後の日本経済にとっては同慣習を見直す余地が大きいとの立場です。資本主義経済の歴史をみる限り、実力主義の給与文化が根付いた国のほうがより繁栄したのは明らかです。
 一方で良いニュースとしては、日本でも欧米的な経営を実践する企業が現れ始めていることです。当ファンドの組入銘柄であるルネサスエレクトロニクスは最近、従業員の定期昇給(*)を延期したというニュースが話題となりました。同社社長の柴田英利氏は日本経済新聞の取材に対して「(そもそも)ベースアップなど日本以外ではほぼ聞かない。海外では事業環境が軟調な中で賃上げを実施することは考えられない」と述べています。当ファンドでは同社の半導体ビジネスが持つ魅力や株価の割安さに加え、柴田氏の経営者としての手腕を高く評価しています。同様に組入銘柄であるソニーグループは、20242月に傘下ゲーム事業会社のグローバル社員数8%相当を削減すると発表しています。また前月には組入銘柄リクルートホールディングスの傘下にあるIndeed社(米国)が約1,000人のレイオフ(再雇用を前提にした一時的解雇)を発表(2023年にも2,200人の削減を実施)しています。直近は3社とも過去最高益を記録しているにも関わらずコストコントロール強化しているのは注目に値します。ひと昔前であれば終身雇用・年功序列制度の呪縛から柔軟な給与制度を運用できず、収益悪化が深刻になって初めて人員削減を行う企業が大半でした。一方、欧米では業績悪化の兆しが見えた時点で先回りして余剰人員の整理を行うのが通例です。また全社業績動向に関係なく、資本コストに見合わないと判断されれば部門単位の人員削減もします。今回3社が行ったような先手を打った人件費コントロールは日本企業では過去にあまり見たことがありません。これは日本企業の変化を感じられる良い兆しだと考えます。さらには実力主義賃金制度の導入も広がっていくことを期待したいところです。

*ベースアップは全社員に対して一律の基本給の引き上げ、定期昇給は年功序列に基づいて昇給する仕組み

社会平等性の意識がもたらす弊害は多い
 一方、全般的には横並びの意識が強すぎる国民性は変化を妨げ、至るところで日本経済の足かせ要因になっています。以下に列挙します。

  • 日本企業の人材育成でみられるジェネラリスト(幅広い知識や技能、経験などを備えた人材)志向は社員全員が平等な扱い受けることを企図していると考えられます。一般的にジェネラリスト制度では社員が同一部署・同一業務に長期にわたって配属されるケースは少なく、数年ごとに定期人事異動が行われます。大抵35年程度で辞令が出るため、例えば海外取引先企業からは日本人との長期的な信頼関係が築きにくいなどの意見が散見されます。現地顧客からすれば、すぐ帰国してしまう日本人と真剣にビジネス関係を構築しようという気持ちにならないのでしょう。
    ジェネラリスト制度ではまた、様々な部署を経験することになるため、特定の領域における知識の蓄積が進まず、専門家としてスキルのある人材が育ちにくいというデメリットもあります。特に資産運用業界では、昔は親会社である銀行や証券会社から傘下の運用子会社にアナリストやファンドマネジャーとして配属されたとしても、数年後には親会社に戻ったり、全く異なる部署に人事異動となったりしたため、「真のプロ」は育ちにくい環境だったようです。
  • 日本企業が社内会議を開く際にみられる「根回し文化」も弊害があります。「根回し」は事前に関係者全員の意思統一をしたうえで会議に臨むことを企図しています。これも「横並び意識」の文化です。幹部メンバーに対し事前説明を個別に行いコンセンサスをまとめるため、時間とコストがかかり、どうしても意思決定が遅くなってしまいます。202414日の日本経済新聞によるインタビューでタイ財閥サハグループ会長は日本企業について「従来のステップ・バイ・ステップを踏襲しており判断が遅い。(革新の)スピードが速い今の世界には合わない」と厳しい意見を述べています。
  • ライドシェアサービス(一般ドライバーが運転する自家用車に利用者が相乗りするサービスのこと)については紆余曲折を経てようやく日本国内で解禁されました。本サービスを導入するか否かの議論では当初から諸外国に比べて異常なほどの慎重論が続出し、解禁に反対する人が一人もいなくなるまで実現が許されない様相でした。規制緩和することで社会的に不利益を被る人を一切出してはならないという考えが根強いためでしょう。これも横並び意識のひとつだと思います。日本人には一般論として弊害や不都合を徹底排除してからしか先に進めないという国民性があります。今後国民の間で議論になるかもしれない移民政策の導入可否についても、似たような困難が予想されます。人口減少を解決する切り札として移民を受け入れるとしても道のりは相当長いでしょう。
  • 2024年327日付日本経済新聞では小野薬品工業㈱の相良暁社長が日本の薬価について、「自らの販売拡大で薬価が下がるのは仕方ない面もあるが、関係のない他の薬のために下げられるのはいかがなものか。日本の制度は理不尽だ」と発言しています。元々は国民皆保険制度とは医療制度面で社会的弱者を出さないように生まれた制度だと考えられますが、これが行き過ぎてしまい、逆に国民全体が「ドラッグ・ラグ」(海外製薬メーカーが日本の厳しい薬価制度では十分な利益を生み出せないと判断し、すでに承認済みの画期的新薬の日本投入の見合わせや上市しないこと)による不利益を被るようになっているのは本末転倒と言えます。

 今後当ファンドが注視したいのは、日本の「ゾンビ企業」についてです。国内金利が上昇すれば非効率な経営を続ける零細企業、いわゆる「ゾンビ企業」の経営は厳しくなるかもしれませんが、これらの企業を延命することは望ましくないと考えます。超低金利環境下のみで生存できる低収益企業の存在は長年のデフレ要因でしたが、2024414日付け日本経済新聞に掲載されたインタビューで経済産業相の斎藤健氏は「これまでの中小企業政策は力の強い大企業に対し、弱い中小を支えるという発想に立ってきた。同じ中小規模でもスタートアップのように、どんどん成長していこうという企業は中小政策の主眼ではなかった」と語っています。護送船団方式で産業政策を進めるのは時代にそぐわなくなっていると認めているようです。斎藤氏は体力のない企業の退場を後押しこそしていませんが、当ファンドは「ゾンビ企業」が淘汰されることはデフレ脱却を確実なものにするために必要不可欠との見解です。社会の一部の方々にとっては痛みを伴うかもしれませんが、政策を動員することで日本が乗り越えなくてはいけないハードルだと考えます。

「出る杭は打たれる」文化でもある
 日本人の横並び主義では社会的弱者を一人も残してはいけない側面がある一方、一人だけ抜け駆けして「勝ち組」になったり、「得する人」が出たりすることも良しとはしません。日本には「出る杭は打たれる」という諺もありますが、これは革新を妨げる要因だと考えます。例えば、国内外から資産運用会社を呼び込むための「金融・資産運用特区」構想があります。これは国内の巨大な家計金融資産を貯蓄から投資へ促す施策の一環でもありますが、資産運用業にとって日本の魅力を高めるには、運用会社で働く外国人のために生活インフラを整備するだけでは不十分でしょう。日本は国際的にみても所得税、配当課税、譲渡益課税、そして相続税などの税率が非常に高い国であるため、シンガポール・香港・ドバイといった金融センターと伍していくためには低い税率を打ち出すことも必要と思われます。しかし、税負担の重い一般的な日本人からしてみれば特区に導入される可能性のある税率優遇は納得しがたい雰囲気になりかねません(逆に税率面でのメリットがなければ人材はなかなか集まらないでしょう)。以上を踏まえると、国際的に競争力のある金融センターを日本で育成するのは様々なハードルがあるような気がします。

しかし横並び精神のいい面もある
 さて、ここまで日本人の同質性や社会平等意識の強さがもたらす弊害を中心に見てきましたが、逆に強みが発揮される局面もあります。

  • 最近の日本株上昇の原動力にもなっているコーポレートガバナンス改革の進展はその一例です。「よそがやっているから、うちもやらないとまずい。」、「よその会社が皆PBR1倍に改善するなか、うちの会社だけ1倍割れはみっともなくて恥ずかしい」といった空気が醸成されていると感じられるのは、日本人の横並び意識の強さがプラスに作用している例です。日本人の同質性は昨今の東証によるPBR1倍割れ解消の取り組みにおいてプラス効果を発揮しているような印象を受けます。
  • 2023年春闘から顕著な賃上げトレンドも「よそが賃上げしているから当社もやらなくては」という消極的な理由で行われているイメージがありますが、デフレを克服するきっかけ作りとしては評価すべき動きです。20239月の運用コメントで議論したように、本来賃金の伸びは労働生産性の伸びによってもたらされるべきものです。労働分配率を上げることによる賃上げは、企業の収益性を低下させてしまい持続的ではありません。今の日本はホワイトカラー労働生産性の改善がみられないなかでの賃上げ運動なので最良シナリオではないものの、当ファンドでは逆説的に賃上げによって従業員の士気をあげ、生産性改善の流れが強まることを期待しています。
  • 年初の新NISA導入をきっかけとして家計金融資産の「貯蓄」から「投資」へのシフトが活発であるのも横並び意識が後押ししているとみることができます。2,000兆円を超える個人金融資産を一気に投資に向かわせることができれば日本経済を動かす大きな力になりえると考えます。

 日本はようやくデフレを抜け出した感があります。諸外国では敬遠されるインフレが日本では「デフレからの脱却」としてポジティブに捉えられています。海外ではインフレを抑えるための利上げが経済へのマイナス材料と見なされますが、日本では金利の「正常化」として捉えられ、むしろ低収益環境に喘いできた金融業などにはポジティブに働くでしょう。202311月の運用コメントで触れたとおり、これらは日本株独自の市場押し上げ要因です。
 今後は日本でインフレが常態化し、消費意欲が刺激されるかに注目です。2024年の春闘で2年連続大幅な賃金増となったのは実質賃金成長がプラスに転じるための明るい材料です。次に注視しなくてはいけないのは家計のマインドセットが変わるかどうかです。多くの日本人にとって人生初めてのインフレ環境下、人々が合理的に行動するのか、すなわち物価が上昇する世界では、積極的に消費のためにお金を使うようにならなくてはいけません。なぜなら、デフレ時代のように消費を先延ばししても値下がりは期待できないからです。
 さらにインフレは通貨価値を目減りさせるので、銀行預金より金融資産に投資して価値保全を考えるようになります。つまり「おカネが動き出す」のです。日本人が少子高齢化、人口減少など将来を悲観して、引き続きお金を使うのをためらうようであれば、景気には寄与しません。先行きを楽観できるような将来像が描けるかが正念場です。日本国民の大多数が自分を中流階級だという考えを意味する「一億総中流」という言葉や、岸田首相による「分厚い中間層の形成」などにも表れている通り、日本人の横並び意識の強さが日本を変化させる原動力として試されます。

日本人によるモノづくり文化の良いところ・悪いところ

愚直なモノづくり姿勢と職人気質
 第二に、日本人の特徴はモノづくりに長けていることだと思います。この背景にあるのは、日本人の勤勉さ、手先が器用であることなどがよく言われています。また日本の製造業の強みとしては、マニュアル化できない(=他人に真似のできない)属人的なモノづくり技術を指す「匠の技」や「暗黙知」、取引先同士がきめ細かに連携していく「擦り合わせ」型モノづくりなど多くの表現で説明されています。
 当ファンドでは度々、これら日本のモノづくり優位性に着目した銘柄選択を行ってきました。例えば半導体製造では、様々な化学材料の配合や温度コントロール、状態変化の管理といったアナログ的な要素を精密に制御し、試行錯誤を繰り返すという作業が求められます。忍耐を要する作業を愚直に取り組むのは、日本人の強みが生かされやすい分野です。ノーベル化学賞で日本人による受賞が多いことも偶然ではないと思います。短期実績重視の欧米企業や中国企業に比べ、赤字続きで短期的に芽が出なくても事業継続を許容する日本企業は株式市場には受けがよくありません。しかし忍耐強く続け事業化に成功した暁には他社が追いつくのはもはや不可能なほど製造ノウハウが蓄積され、それが参入障壁となることが往々にしてあります。当ファンド組入銘柄では東京エレクトロンの半導体製造装置、信越化学工業の半導体シリコンウェハー、ソニーグループのCMOSセンサー事業などでモノづくり競争優位性が生きていると考えます。

つくるのは上手いけど、儲けるのはあまり得意ではない
 しかし、品質細部にまでこだわる日本人の美徳が不利に働くこともあるように思います。それは顧客が求める以上の過剰な品質にしてしまうきらいがあることです。「ガラパゴス現象」という日本企業のモノづくり戦略を揶揄する言葉があるのは皆さんもご存じのとおりです。加えて、せっかく良いものを作ってもそれに見合った対価を得ていない(適正な価格設定ができていない)という問題もあります。平たくいうと「つくるのは上手いけど、儲けるのが不得手」ということです。不十分な価格設定が日本企業の資本収益性の低さに繋がっているのです。20239月の運用コメントで取り上げたとおり、自動車メーカーを筆頭とした日本企業は物量ベースでみた労働生産性は高い水準(単位労働当たり多くの生産量を生み出せる)にありますが、金額ベースでみた労働生産性は国際的にみて低位に留まっています(*)。海外に比べて日本のモノやサービス価格が非常に安い(過去のデフレおよび昨今の円安も要因)ことからも分かるように、製品に対して適正な値付けがされていないため十分な利幅を確保できていません。日本企業はより能動的に価格戦略を見直し、価値に見合った値上げをする必要があります。それによって資本収益性が改善し、東証が主導しているPBR1倍割れ解消も進むと思われます。言い換えると、もっと「儲けよう」という気持ちを持つことが大切です。

*2021年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国中27位、とりわけ主要先進7か国(G7)では最下位という結果に終わっています。

頻発している品質検査不正スキャンダルの背景にあるのは規範に対する日本人の過剰なこだわり
 昨今の日本製造業(トヨタ自動車㈱、本田技研㈱、日産自動車㈱、スズキ㈱、マツダ㈱、ヤマハ発動機㈱、日野自動車㈱、ダイハツ工業㈱、㈱豊田自動織機、三菱電機㈱他)では品質検査不正が相次いでいます。当ファンドではこの問題の根底には日本製品の過剰品質があるのではと考えています。すなわち、日本の安全・品質基準は国際的にみて過剰に高いレベルで定められており、それを維持するために生産現場が疲弊して不正に繋がったのではないでしょうか。法令違反自体は許されるものではありませんが、不正問題の対象となった製品モデルにおいて欠陥による深刻な消費者被害は起きていないことからも、日本のモノづくりの信頼性の高さは揺らいでいないと考えます。日本人は品質へのこだわりが行き過ぎているがために、自らを苦しめているのではないでしょうか。
 日本企業の従業員にしわ寄せがいっているのは、会社側が常に高い規範をクリアすることを求めているからです。実行の持続性に関わらず正確性や体裁を重んじるのは、日本人の道徳観が根底にあると思われます。このような日本人のこだわりの強さは例えば店舗における勘定締めの際、1銭でも合わなければ最後まで店を閉められないといったエピソードにも表れています。また海外と異なり日本の公共交通機関が時刻表に従って寸分の狂いもない運営に力点を置いていることも該当します。当ファンドが理解している限り、海外文化では1銭の行方を最後まで突き止めることや1秒単位で運行管理することの費用対効果を冷静に考え、より合理的な考え方をする傾向があるように思います。日本人が「筋論」を優先し、間違ったことやルール逸脱があれば多寡に関係なく事態を重んじるのは良い面であり、非効率な面ではないでしょうか。
 また日本人の語学力に関しては学校での英語授業が文法ばかりに力点をおいているため、完璧な文法にこだわりすぎてしまい、英会話に自信を持てる人が少ないと言われています。こうしたこだわりが、日本人の英語力が世界的に劣っているという評価の要因にもなっているのは残念なことです。

日本人のド根性精神の良いところ・悪いところ

 第三に、日本人の特徴として合理主義をあまり美徳としないところが挙げられます。「苦労して得たものこそ価値がある」という考え方や、痛み・苦しみに耐えることを美学とする根性論も根強く残っているように感じます。例えば、

  • 昨今話題の糖尿病治療薬オゼンピック、マンジャロについて、海外では肥満症にも適応が広げられダイエット用途にも処方が速やかに認められた一方、日本では医師会、糖尿病学会より同様の処方は認められませんでした。当ファンドが行った日本人医師からのヒアリングによると「楽して痩せる」ことを良しとしない風潮がこの判断の背景にあったとのことです。
  • 日本人の出産では自然分娩が主流で、無痛分娩の割合は全体の約9%と圧倒的に少数です。一方、米国では約7割、フランスでは約8割が無痛分娩を選んでいます。先進国として医療水準が高いにも関わらず、日本で無痛分娩が少ないのは、痛みに耐えて出産することが立派とされる社会通念上の考えがあるようです。
  • 人間ドックにおける胃カメラ検査も海外(欧米諸国)では麻酔を使用して患者の苦痛を軽減するのに対し、日本では患者が痛みや不快感を我慢して検査を受けることが一般的です。
  • 米国ではコロナ禍で人々のワークスタイルが変化しリオープニング後も多くの企業で在宅勤務が続けられています。通勤時間の無駄を省き、生産性を高めるという合理的な考えから定着したと思われます。このため米国ではオフィスビル市況の低迷が続いています。一方、日本ではリオープニングに伴い従業員はほぼ例外なく出社を求められるようになりました。日本のほうが「在宅勤務で楽をするのはけしからん」という空気が強いためでしょう。労働生産性を高めるという視点はあまりないようです。米国と異なり、日本ではオフィス市況の持ち直しが顕著です。両国の文化や国民性の違いから生じている興味深い現象です。
  • アジア諸国、中東地域などではメイド(住み込み外国人家政婦)が中流階級家庭にもいることが一般的です。例えば香港などではメイドを雇うことで夫婦による共働きが容易になっています。結果、家庭における女性が人的資源として最大限に社会で活用されています。翻って日本では同様の制度は検討されたことは殆どなく、結婚退職が一般化し、共働き世帯にとっては家事が重い負担となっています。家事・子育ては自分で行うべきものという社会通念があると思われます。

 このように枚挙に暇はありませんが、日本人の「楽をしてはいけない」というメンタリティはホワイトカラーの業務効率化の遅れにも影響していると考えられます。日本の文化や価値観は長い歴史と伝統の中で形成され、高度経済成長期のように強みを発揮した時代もありましたが、今日の低いホワイトカラー生産性の改善のためにはあらゆる観点で発想を変える必要があるのではないでしょうか。

日本は特異だからこそアクティブ運用が向いている

 以上のように日本人は欧米からみて良くも悪くも文化や国民性がかなり特異です。加えて言葉の壁もあります。だからこそ日本株への投資で成功する際には、日本人の特徴をしっかりと理解したアプローチが必要です。とくに外国人投資家の参加率が高い日本株式市場では、こういった日本ならでは特異性を知りつつ、欧米資本主義的な視点で企業分析できるアクティブ運用者は銘柄選択において大きな競争優位性になると考えます。
 アクティブ運用対パッシブ運用の対決では世界的にアクティブ運用の存在価値の低下が言われて久しいです。しかし日本に限って言うと、まだまだ当ファンドのようなアクティブ運用が活躍できる余地が多分にあると考えます。その理由は、まさに日本の特異性にあるのではないでしょうか。日本の株式市場では株価のミスプライシングが発生しやすく、統計上の「市場の効率性」が低くなっています。モーニングスター・ジャパン㈱が20241月末時点で集計した内容によると、10年間の運用成績がTOPIX(配当込み)を上回ったアクティブ型大型株投信の割合は約32%、期間が3年間と5年間の場合はそれぞれ約32%、約40%でした。これは同割合が1割を大きく下回る米国に比べて格段に高い数値です(つまり日本株市場はアクティブ運用が市場平均を上回れる余地が大きい)。日本株に投資するのであれば、パッシブ(ETF)ではなくアクティブ運用を通じて行うほうが有効であると当ファンドが考える理由はまさにここにあります。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年5月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.16%上昇し、日経平均株価も前月末比で0.21%上昇しました。
 当月の日本株式市場は、月前半は4月の米国雇用者数が市場予想を下回り、米利下げ観測が強まったことから日米株式市場ともに上昇しましたが、日銀の金融政策正常化観測などから上値が抑えられました。月半ばには米消費者物価指数や米小売売上高など予想を下回る指標が発表され、金融引き締めの長期化への懸念が後退しました。その結果、米国の主要3株価指数が史上最高値を更新し、日経平均株価も一時39,000円を回復しました。さらに、NVIDIA社(米国)が市場予想を上回る好決算を発表し、半導体株が軒並み上昇して相場を支えました。月後半は、米景気の底堅さを背景とする利下げ動向への懸念や、日銀総裁の追加金融引き締めを示唆する講演が再び注目されて日米長期金利の上昇により株価が下落しましたが、最終的には金利上昇がひとまず一服したとの見方が買い戻しにつながり、前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.93%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同1.16%の上昇を1.77%上回りました。当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、日立製作所、リクルートホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、三菱商事、信越化学工業、ロート製薬などでした。

 2023年3月に東証より「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が発表され、株価が純資産価値1倍を下回っている企業の是正に関する取り組みが話題になってから1年以上が経ちました。この発表には、上場企業に企業価値を高める努力をしてもらうことで株価を持続的に上昇させ、日本株式市場の魅力を向上させていくという狙いがあります。特に東証は企業が株主資本コストをしっかりと意識した経営をすればこれらを達成できると訴えています。
 もともと本取り組みは、株価が純資産価値を割れている(PBR(株価純資産倍率)1倍を下回っている)上場企業の割合がおよそ5割にものぼっていたことを問題視し、改善策を開示・実行するよう要請したのが始まりでした。そのため、あたかも株価が長期低迷している企業だけが対象のようにみえますが、実際は東証の意図は違うところにあります。当ファンドでは、昨年11月に当ファンド組入銘柄でもある東証運営企業の日本取引所グループにお話しを伺いました。そこで議論となったのは「PBR1倍割れの企業だけでなく、1倍超えの企業にも株式資本コストを意識した経営を根付かせるためにどうするかが今後の課題である」というものでした。これはまさに当ファンドも問題視している点です。PBR1倍を超える企業の多くは資本収益性(=ROE(株主資本利益率))が資本コストを上回る優良企業です。しかし日本企業のなかにはいわゆる優良企業でありながら、最適な資本配分ができていない企業が散見されます。現状のままでも「資本コストを上回っているのだから、それでいいじゃないか」という反論がありそうですが、実はこのような日本企業には悩ましい問題が潜んでいるのです。
 当ファンド組入銘柄のキーエンスを例に見てみましょう。同社は営業利益率、過去成長率、資本収益性、財務内容のどれをとっても超がつくほどの優良企業です。20243月期時点で総資産2.96兆円に対し、純資産は2.80兆円も積み上がっているのは株主還元に積極的ではないためです。しかし肥大した純資産にも関わらずROEが約14%と平均的な日本企業を大きく上回っていることや、過去15年間の時価総額増分も同社が同期間に内部留保した合計額を大幅に上回っていることなどから、なかなか株主として文句をつけがたい状況にあります。
 企業の資本収益性を表す指標としてROCEReturn on Capital Employed:使用資本利益率)がありますが、同社の余剰資金を除いた実質的なROCE(*1)の値は110%以上と驚異的なレベルです。これはすなわち、財務の安定性を損なわない範囲で自社株買いを行って自己資本を縮小(適正化)させれば、同社のROEは飛躍的に上昇することを意味します。例えば、20243月期時点で2.8兆円ある純資産を1兆円まで縮小させればROEは約36%まで上昇、同5,000億円なら約73%、同2,500億円なら約145%という計算になります。自社株買い後の財務健全性についても、仮に使用資本(有形固定資産、無形固定資産、運転資金)に月商3か月分の現預金を加えたものを事業継続上必要な総資産(約7,000億円弱)とすれば、純資産5,000億円あれば自己資本比率は73%、同2,500億円だとしても36%と好財務を維持できることがわかります(*2)。つまり大量の自社株買いを行ってROEを高めても同社の健全な財務は犠牲にならないということです。
(*1)営業利益/(有形固定資産+無形固定資産+運転資金)
(*2)当ファンドが同社資本収益性の改善余地としてもうひとつ注目しているのは運転資金です。同社は売上原価と棚卸資産から計算される在庫回転期間が6か月と総資産規模に比べて金額は僅少ながらも回転期間は一般的な製造業としてかなり長めです。売掛債権回転期間もやや長い一方、買掛金回転期間は1か月と短めであるため、運転資本の改善余地は小さくありません。

 同社がROEを高められない要因として、長年、本業であるファクトリーオートメーション用センサー事業を通じて稼いだ巨額の利益を余剰資金(現預金、有価証券、投資有価証券他)としてバランスシート上に抱えたままでいることが挙げられます。これは日本の経済システム全体でみると決して好ましくありません。資金を必要とする分野に必ずしも資金供給がされていないという意味では、経済資源の最適配分になっていないからです(*3)。しかしキーエンスのような個別企業には、一国の経済全体のことを考えて行動するインセンティブはあまりありません。
 外部からの買収や乗っ取りの脅威にさらされるとしても、優良成長企業である同社株は常に割高なことでも知られており、常識的に考えれば買収ターゲットとなるリスクは極めて低いでしょう。また日本の会社法上、株式を1%以上保有すれば株主総会で株主還元や経営陣の入れ替えなどに関する株主議案を提起できますが、アクティビストが標的にするにしても同社は超大型株であるため資金面でハードルが高いのが現状です。仮に複数の株主が協力して同社に物言いをつけるべく集団で圧力をかけようと目論んでも、長期にわたる良好な株価パフォーマンスを鑑みれば、総意として同社に異を唱えるのも実現が難しそうです。そもそも、株価上昇を通じて長年株式市場に貢献しているため、東証の目的である「市場の魅力を高める」役割自体をすでに果たしているとも言えるのです。
(*3)同社の余剰資金が日本国債などの投資有価証券に振り向けられることで政府部門に「必要資金が回されている」という議論も成り立ちますが、ここでは異なった視点での議論を展開することとします。すなわち、キーエンスが本業の成長資金として手元資金を使い切れない以上は、資金を還元することで、株主により魅力的な投資機会を別途見出しもらうことを最適な資源配分とみなします

 また、同社がコーポレートガバナンス強化に有効とされている「指名委員会等設置会社」ではなく、「監査役会設置会社」形態を採用しているのはやや残念だと考えます。社外取締役の顔ぶれは、監査法人の公認会計士、法律事務所の弁護士、大学教授の3名のみです。株主視点に立って、現行路線を変えようとする活発な議論はなかなか聞こえてきません。現経営陣の報酬の決定方法は営業利益額のみに連動するようになっており、当ファンドの組入銘柄である日立製作所などのように資本収益性や株価条件が評価項目として入っているわけでもありません。言い換えれば、同社が自主的にあるいは株主の意向をうけて株主還元を拡充したり、その結果として資本収益性を向上させたりというインセンティブは乏しいのです。
 このような企業に対して「ROEの重要性を理解しろ」「そのために株主還元を強化しろ」と注文をつけても効果は見込みにくいのが現状です。個別企業は経済にとっての全体最適を考えた行動はとらず、所詮部分最適でしか物事を考えられません。よって、キーエンスのような企業に外圧をかけて変化を期待するのは極めて難しいというのが当ファンドの見方です。
 一方、欧米企業社会では日本とは対照的に資本主義の考え方が幅広く根付いています。たとえ明文化されていなくとも、個人個人の価値観のなかに美徳として資本収益性を高める意識が醸成されており、報酬制度にも同様の考え方が組み込まれているように思います。従って、余剰資金があれば積極的に株主への還元を行い、それが資本収益性の向上につながることで、経営陣の報酬にもダイレクトに恩恵をもたらします。欧米には証券取引所が主導する「資本収益性改善運動」のようなものは存在しません。つまり本来であれば、政府や証券取引所が関与するようなことではないのです。半面、欧米と異なり企業文化が支配的な国では、キーエンスのような「優等生組」の資本配分行動を変えていくために、やはり政策による後押しがある程度必要なのかもしれません。例えば現状水準よりもROEが改善すれば税制を優遇するなどのアイデアがあれば面白いかもしれません。
 同時に、企業経営者は報酬インセンティブを通じて資本収益性の向上に自発的に取り組むようになるべきです。昨年9月のマンスリーレポートでお話したように、日本企業は海外に比べて大幅に報酬水準が見劣りしています。日本経済新聞によると、2022年の日本の大企業の経営トップの報酬水準は英国の約4分の1、米国の13分の1以下に留まりますが、このような格差には合理的な理由が見当たりません。残念ながら経営陣の意欲を削ぐような構造のままです。さらに憂慮されるのは、同一の日系企業内でも、外国籍の取締役と日本国籍の取締役との間でも報酬に大きな差がつけられているケースが散見されることです(*4)。当ファンドは、日本がこれら格差を是正し、公平かつ透明性の高い報酬文化を確立することで企業経営者が自発的に資本収益性向上に取り組むような国になるべきだと考えます。
(*4)当ファンドの組入銘柄のなかでは、セブン&アイ・ホールディングスなどにこの傾向が認められます

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年4月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.91%下落し、日経平均株価は前月末比4.86%の大幅下落となりました。
 月前半は利益確定売りや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)高官の年内利下げ先送り示唆に伴い米長期金利上昇が懸念され、米国株式市場の下落を招き、日本株式市場は上値を抑えられました。月半ばには米CPI(消費者物価指数)の市場予想を超える上昇や半導体関連企業の大幅下落、また中東情勢の悪化などから日経平均株価は一時37,000円を割り込みました。月後半には中東情勢の落ち着きから買い戻しの動きが見られ、日経平均株価は38,000円台を回復しました。26日まで開かれた日銀金融政策決定会合では緩和的な金融政策の維持が決定され、日本が祝日だった29日にドル円相場は一時160円台へ急伸し約34年ぶりの高値を更新しました。しかしながら、その後一転して154円台まで大きく円高に振れ、市場では政府による為替介入が行われたとの観測が広がりました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.66%の下落となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同0.91%の下落を0.25%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、日立製作所、東京海上ホールディングス、ソシオネクストなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、東京エレクトロン、ファーストリテイリングなどでした。

2022年以降のキーワードは、「インフレの常態化」と「金利の正常化」

 当ファンドではマクロ経済のデータや見通しのみを投資判断の材料とはしません。あくまで個別企業のビジネスが株主にとって魅力的であるかを見極めて投資をします。しかし日本の大型株を中心に投資する以上、経済の見通しに対して何らかの見解を持って運用にあたることは大切だと考えます。202311月の運用コメントで触れたとおり、当ファンドが考えている日本株市場における今後の重要な時代認識は「インフレの常態化」と「金利の正常化」です。短期的にはインフレや金利の落ち着きが見られたとしても、長期的には株式市場が想定しているよりも国内インフレが上振れる可能性が十分あるという前提に立っています。そうなれば長期金利にも上昇圧力がかかるでしょう。このような環境下では、当ファンドではグローバルでビジネスを展開する国際優良銘柄、およびグローバル企業でありながらも国内金利上昇(金利正常化)の恩恵を受けるような銘柄が投資対象として魅力的であると考えています。

日銀の今年3月の利上げにもかかわらず円安に拍車がかかった

 2024年3月に日銀はおよそ17年ぶりの利上げに踏み切りました。昨年来、一般的に金利が上がる国の通貨は海外通貨に対して上昇するため、巷では「日銀が利上げをすれば円高になる」と言われていましたが、実際はそうなりませんでした。むしろ、当月末時点では円安になっています。
 為替レートというのは、円の価値が「1ドルあたり何円」、「1ユーロあたり何円」と表示されるように、一国の通貨の価値は他国通貨との相対で表示されます。このため、日本円も国内外様々な要因を反映して外国為替市場で取引されています。そのなかでも現在重要なファクターは日本の「実質金利」と「国際収支」ではないでしょうか。
 すなわち、1)日本の円金利は利上げによって名目上プラスに転じたとはいえ実質的には未だマイナスであるため、より高金利の海外通貨が選好されやすいこと、2)過去2030年で日本の輸出産業構造が変わったことで、貿易面における円買い需要が縮小していることが挙げられます。
 要因1)の実質金利とは、名目金利から期待インフレ率を差し引いた金利と定義されます。
 例えば、現在の日本の物価連動国債(10年債)から計算されるインフレ予想は約1.42%、10年国債の利回りは約0.87%なので、実質金利はおよそマイナス0.55%です。また、より短期の金利と足元のインフレ率を比べると実質金利のマイナス幅はさらに大きくなります。一般消費者の生活や企業の事業投資の意思決定にとって重要なのは名目金利ではなく実質金利です。名目金利がプラスでも実質金利がマイナスであるということは、銀行預金で利息がもらえたとしても、インフレでモノの値段が上がっているため購買力は下がっています。あるいは実質金利マイナスの状況で借入をすれば、そうでない場合よりも借り手にとって有利となります。
 日本の実質金利は、3月の利上げが極めて小幅であったため、マイナス状態のまま変わっていません。これに対して、米ドルの実質金利(10年米国債約4.7%、物価連動債約2.3%)はプラス2%強です。米ドルと日本円の金利差は開いたままであり、円を売ってドルを買う、あるいは円を調達してドル資産に投資をするインセンティブが働きやすい環境が続いています。2022年頃から世界各国の中央銀行がインフレを抑えるべく利上げを開始してから、多くの通貨の実質金利がプラスに転じるなか、日本は数少ない実質金利がマイナスの国です。これをグローバルの視点でみると、日本円は敬遠するべき通貨となります。もしくは日本円で借入をして、より金利の高い通貨の資産に投資したほうがよいということなります。
 要因2)は貿易面における日本円需給の変化です。輸出大国であった日本は国際収支統計上の「経常収支」のなかの「貿易収支」が大幅な黒字だったため、長らく経常黒字国でした。そのため、昔は国内輸出企業が輸出対価として受けとったドルを円へ交換することが恒常的な円買い需要となっていました。他国通貨との金利差いかんに関わらず輸出で稼いだ外貨を円に交換したい企業がたくさんいたことになります。
 ところが、2023年も日本の経常収支は21.4兆円の黒字であったものの、その内訳は過去20年で大きく変化しました。日本企業が国内からの輸出でなく、海外に工場を持つようになり、直接現地で生産・販売をするようになりました。いわゆる「製造業の空洞化」現象です。こうなると海外で稼いだ利益は日本に送金されることなく現地で再投資されるケースが多くなり、昔のような円への交換ニーズは発生しません。この海外から得られる「儲け」は配当などのかたちで経常収支上は「第一次所得収支」(同年34.9兆円の黒字)に計上されますが、おカネの流れとしては日本に還流されないケースが多いのです。また残念なことに電機産業などでは韓国や中国企業に市場シェアを奪われたことで輸出が伸び悩み、獲得外貨が減ったことも貿易黒字の縮小要因でしょう(同6.5兆円の赤字)。
 一方で、日本では「サービス収支(経常収支項目)」が赤字基調(同年2.9兆円の赤字)にあります。これは産業構造のソフト化が進み、知的財産権等使用料などの重要性が増していることと関係しています。日本は国際的にモノづくりに長けている企業は多い反面、ソフトウェアや知的財産など無形固定資産をグローバル展開して外貨を稼ぐ企業は少ないので、海外企業にお金を払って利用しているのが実態です。つまり円を売って外貨を買っているのです。
 もうひとつ無視できない円売り要因は2024年1月より非課税投資枠が大幅に拡大された少額投資非課税制度(新NISA)です。新制度のもとで個人投資家による海外株式、海外債券(投信を含む)などの投資額が無視できない規模になりつつあります。いわゆるオルカン投信などを中心に202413月累計で2兆円以上の買い付けが行われているため、勢いが落ちなければ年換算で10兆円近い円が海外に流出する可能性があります。これは国際収支統計上の「金融収支」に計上されています。日本の家計金融資産は2,000兆円を超えていますが、大半が利息は無いに等しい国内銀行預金です。ほんの僅か海外投資に回るだけでも円の需給に与えるインパクトは大きくなると考えます。Stealth capital flightcapital flight:資本がある国から別の国に逃避すること)とも言えるかもしれません。
 逆に今の日本で円を買いたい人がいるとすれば、それは訪日外国人です。訪日外国人が増え、一人当たりの消費金額が増えると円買い要因が増えることになります(「サービス収支」に計上)。日本は観光資源が豊富であるうえに、円安も手伝ってドルベースでみた(=外国人からみた)ホテル宿泊料、サービス価格、飲食代、お土産代などが非常に割安です。また同じような理由で海外半導体メーカーが昨今日本で進めている工場建設(TSMC社(台湾)の熊本工場など)も、日本の地政学的リスクが低く、優秀な人材が豊富であることに加え、円安によって彼らからみた投資コストが明らかに割安になっていることが背景にあります。

当ファンドでは円安が続く可能性があると考えている

 日本の国際収支の状況は以下のように要約できます。

  • 日本の輸出企業が稼ぐ外貨が減ったので円に交換する需要が減った(経常収支のなかの貿易収支に反映)
  • 米国ハイテク企業などのデジタルサービスを利用する日本国民が増えているので円を売って外貨の支払いが増えた(経常収支のなかのサービス収支に反映)
  • 海外旅行でやってくる訪日客が使うための円買い需要は増加傾向にあるものの規模は小さい(経常収支のなかのサービス収支に反映)
  • 日本企業の海外工場・子会社が稼いだ利益は日本に還流せずに外貨のまま現地で再投資されることから、円買い需要があまり生まれない(経常収支のなかの第一次所得収支に反映)
  • 円安により海外企業にとって日本で事業投資する魅力が増しているものの、日本から海外へ向けた対外直接投資額に比べて規模は小さい(金融収支に反映)
  • NISA制度のもとで国内一般個人は主な投資先として外国株、外国株投信を選んでおり、円売り・外貨買いにつながっている(金融収支に反映)

 これらを総合した現在の為替水準の落ち着きどころが150円超近辺ということであり、日本円を大きく押し上げる要因が不足している状況です。当ファンドでは今後も現状の為替水準が続く可能性が高いとみています。そして、これは海外で稼いでいる日本のグローバル企業にとってはポジティブなことであり、当ファンドが「国際優良企業」を選好している大きな理由のひとつです。仮に1ドル150円からさらに円安が進行した場合は、これらの企業にとって円換算した収益は増えることを意味します(円はドルだけでなく、ほぼすべて主要通貨に対して円安となっています)。
 短期的に気になるのは政府・日銀が為替介入(外国為替平衡操作)を行う時に、為替市場が果たしてどのように受け止めるかです。1997~1998年に行われた円買いの為替介入効果が限定的だったように、今後も市場に対するインパクトについては懐疑的にならざるを得ません。円買い為替介入は、外貨準備が原資となります。2024年3月末の外貨準備高は1.29兆ドル(約200兆円)です。このうち大半に及ぶ1兆ドル程度が米国債などの証券、残りは海外中央銀行での外貨預金などで保有されていると思われます。これに対し最近では2022年に実施された為替介入規模が9.2兆円でした。外貨準備全てを使用することや介入資金を捻出すべく保有債券を大規模に売却するのは非現実的です。政府・日銀の介入能力に限界がある(回数に限りがある)と為替市場に見透かされれば、かえって円安に拍車がかかってしまうかもしれません。

為替が円高に振れたら?それでも為替リスクは恐れるに足らない

 とは言え、金融市場というのは時として予想もしないような動きをします。突然、投機的な動きで円高に大きく振れれば(*)株式市場はほぼ条件反射的にこれら銘柄の売りで反応するでしょう。

(*)現時点で急激な円高が進むきっかけとして考えられるのは、米国経済が不況に陥り、急激なドル金利の引き下げが行われる場合などが考えられます。

 しかし当ファンドでは円高になったとしても過度な心配をしていません。それは国際優良企業のほうが平均的な輸出企業よりも収益悪化に対する抵抗力があると考えられるからです。例えば利益率が圧倒的に高いビジネスであれば、為替のマイナス影響を最小限に留めることが可能です。
 簡単な例として、ともに海外売上比率100%、国内生産比率100%のメーカーA社とB社があったとします。(図1)
 今年の海外売上は両社とも1億ドル、現在の為替レートは1ドル=150円、利益率はA社が10%、B社が50%と仮定します。円換算後の損益はA社が売上150億円、原価135億円、利益15億円、B社は売上150億円、原価75億円、利益75億円となります。ところが翌年、円高が進み1ドル=135円になったらどうなるでしょうか。海外における販売価格と販売数量が前年と同じとすると、A社売上は135億円に目減りし、原価135億円のままなので利益は0円、一方B社は売上135億円に減りますが、原価75億円と低いので、利益は60億円となります。つまりA社の利益は前年比100%減となるのに対しB社の利益は同27%減に留まるのです。

 これが、当ファンドが高い利益率のビジネスを選好する理由です。当ファンドの組入銘柄でいえば、キーエンスが営業利益率50%を越える超高収益企業です。仮に円がドルに対して15円高くなったとしても営業利益に対する減益インパクトは限定的というのが当ファンドの分析です。一方で、利益率が10%に満たない一般的な外需企業の場合、先程の例のように多額の利益が吹き飛んでしまう計算になります。
 さらに賢い経営陣であれば、国内からの輸出に依存するのではなく海外への生産拠点の分散や、売上とコストを同一通貨でマッチングさせて為替リスクを抑えることなどを考えます。生産拠点の違いについて考えてみましょう。
 海外売上比率100%・国内生産比率100%のC社と、海外売上比率・海外生産比率が100%のD社があったとします。(図2)
 D社は販売と生産が同一地域で行われており、生産コストはドル建てとします。上記の例同様、今年のC社、D社の海外売上はともに1億ドル、為替レートは1ドル=150円とし、またこのレート水準では国内、海外どちらで生産した場合でも原価率90%(=利益率10%)で同じだとすると、円換算後の損益はC社が売上150億円、原価135億円、利益15億円となり、一方D社も売上150億円、原価135億円、利益15億円です。これが1ドル=135円になると両社の収益性に違いが生じてきます。C社は売上135億円へと目減りしますが、原価は全て国内生産なので135億円のまま変わらず、結果として利益は0円に。一方D社は海外での売上1億ドル、原価率90%(=利益率10%)とすると現地で生み出される利益は0.1億ドルとなり、円換算後の利益は13.5億円となります。すなわちC社の利益は前年比100%減に対し、D社の利益は同10%減に留まることになります。

 もちろん、海外生産が進んでいるとはいえ、資材調達が第三国から行われていたり、海外生産拠点から他の海外市場に輸出が行われていたりすると、思いがけない為替リスクを被ることがあります。しかし原則的には、高い利益率と、販売国での現地生産が為替感応度を最小限に抑えるひとつの方法となります。当ファンドでは、こういったビジネスの運営体制を細かく見ていくことで優良企業かどうかを見極めるように努めています。
 また為替動向というのは、長期で見れば見るほど小さなリスク要因となることも重要です。トヨタ自動車㈱は1980年代に今よりも遥かに円安だった事業環境(1984年末当時250円/ドル)で当時7,0008,000億円程度の税引前利益しか稼いでいませんでしたが、今日においては4兆円以上の利益をあげているのです。これは、長期的には企業は自らの成長力で為替の逆風を克服することが可能であると示しています。日本株ではグローバル市場を舞台にしているビジネスが投資対象として魅力的であることは明らかです。

日本の金利とインフレは今後どうなる?

 次に日本の金利見通しを考えてみます。当ファンドでは当面は日本の実質金利マイナスの状況が続くのではないかとみています。その理由としては、デフレを克服したばかりの日本経済にはまだ少子高齢化、高水準の公的債務残高、財政赤字といった当分解決しそうにない構造問題が数多く残っており、景気に過熱感がでてくるとは想定し辛いためです(潜在成長率も0%台に低迷)。加えて今の日銀には、2000年の速水総裁時、20062007年の福井総裁時にゼロ金利解除(利上げ)を断行した矢先に日本経済が冷え込んでしまったという苦い経験があります。よって今後の更なる利上げタイミングについては、欧米のようにインフレの芽を事前に摘むというより、インフレが定着したことを見定めてから恐る恐る行うことになると考えます。利上げ後も緩和的な金融環境は変わらない(実質金利がマイナスか、非常に低い状況が続く)のではないでしょうか。別の見方をすれば仮にインフレが上振れたとしても、日本経済が極端に腰折れしなければ、実質金利がマイナスのまま「金利の正常化」に伴って名目金利が上昇するというシナリオが描けます。一般消費者の生活にとって重要なのは実質金利ですが、企業業績にとって(すなわち株式投資を行う当ファンドにとって)重要なのはあくまで名目金利です。このようなゴルディロックス的(過熱もせず冷え込みもしない、適度な状況にあること)なシナリオが正しければ、金利上昇の恩恵を受ける金融関連銘柄にポジティブでしょう。三菱UFJフィナンシャル・グループのような銀行株(貸出利回りの拡大)はもちろんのこと、損保(保険料運用益の拡大)、オリックス(オリックス銀行、オリックス生命、リース事業の利ざや拡大)などにとっても健全な国内金利上昇は業績改善に寄与します。本格的な金利上昇は長年見られなかった現象なので、まだ株式市場でも十分に織り込まれていない材料だと考えます。
 国内インフレについては過去2年間、2%を超えて推移しており、日銀のインフレ目標は現在も「2%を安定的超えるまで」のオーバーシュート型コミットメントになっています。いわゆる「第一の力」から「第二の力」にインフレ牽引役がバトンタッチされ、サービス価格や帰属家賃の上昇、労働需給の構造的なタイト化による賃金インフレ拡大が起きれば、インフレの高止まり(場合によっては再加速)は十分あり得ると考えます。期待インフレが2%超まで高まれば(名目金利は0.5%~1%というレベルではなく)中立金利として2%超というのもあり得ない話ではないでしょう。そうなると当ファンド組入銘柄である三菱UFJフィナンシャル・グループの利益は20243月期第3四半期決算時点のおよそ1.3兆円から、控え目にみても2倍になったとしても不思議ではありません。
 そして仮に当ファンドの金利見通しが正しくなかったとしても、これらの銘柄には潤沢な余剰資金(銀行や損保が保有する巨額の政策保有株)を活用した増配と自社株買いによって一桁半ば程度の総還元利回りが今後も見込めるので株価のダウンサイドリスクは限定的だと判断します。継続的な株主還元の強化は、資本収益性を意識した経営を求める昨今のコーポレートガバナンス改革の流れが強力なサポート要因となるでしょう。

日銀の財務内容悪化に過度な懸念は必要ない

 日銀は前例のない量的緩和を長年続けてきた結果、国債の保有残高が600兆円弱と日本のGDPに匹敵する規模です。このため、もし市場金利の上昇が続けば日銀当預に対する利息支払い(付利)額が、保有国債からの利息収入および株式ETFからの配当収入を上回り「逆ざや」状態になることや、保有国債の含み損が拡大し債務超過(*)になる可能性が現実味を帯びてきます。このことがセンセーショナルにメディアで取り上げられると、場合によっては漠然とした不安感から日本株売り、国債売りや円売りに発展するかもしれません。しかし、現実問題としては大きな問題は起きないと考えられます。その理由は日本の中央銀行である日銀は自国通貨の円で通貨発行を自由にできるためです。インフレ加速などの副作用はあるかもしれませんが、企業活動も人々の生活も従来通り続きます。もちろん、野放図な財政ファイナンスは問題ですし、国の借金である国債や円の信用が弱まれば何かしら不都合な事態は起きるかもしれません。しかし、これまで度々話題になっている投機的な国債空売りによって債券価格に下落圧力がかかったとしても、日銀当預に積み上がった500兆円以上の「待機資金」が国債市場に戻ってくることで長期金利上昇を抑制する効果も期待できます。このあたりについて具体的に金融市場にどのような影響を及ぼすのかは分からない面もありますが、どのようなシナリオにおいても当ファンドが実践している財務内容が健全な国際優良企業と、国内金利上昇の恩恵を受ける企業へ投資をする(もしくは過剰債務企業のように金利上昇がデメリットになる企業を避ける)ことによってこれらのテールリスク(まれにしか起こらないはずの想定外の暴騰・暴落が実際に発生するリスクのこと)には対応できると当ファンドでは考えます。

(*)2023年9月末現在の日銀の自己資本は12兆円程度(純資産と債券取引損失引当金の合計)です。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年3月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.44%上昇し、日経平均株価は前月末比3.07%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半は前月から引き続き半導体関連銘柄の上昇などが相場をけん引し、日経平均は史上初となる4万円台に到達するなど堅調な推移となりましたが、月半ばにかけては米国半導体関連銘柄が下落した影響や、日銀のマイナス金利政策解除を示唆する報道、春季労使交渉(春闘)での高い賃上げ実現への期待の高まりなどから日銀の金融政策正常化への思惑が広がって円高が進行したことなどが重しとなり、下落しました。月後半にかけては、日銀が金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除や長短金利操作の撤廃、上場投資信託(ETF)の買い入れ終了などを決定したものの、当面は緩和的な金融環境が継続するとの見通しが示されたことなどを受けて円安進行とともに上昇し、最終的に前月末を上回る水準で取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐5.52%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.44%の上昇を1.08%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、日立製作所、三菱商事、リクルートホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、ロート製薬、ダイキン工業などでした。

 最近の月次運用コメントで何度か触れていますが、当ファンドでは半導体製造装置メーカーの東京エレクトロンを組み入れています。202210月、米国による中国を標的とした最先端半導体技術の禁輸措置が発動されたことをきっかけに、世界中の半導体関連銘柄が急落しました。当ファンドでは、それまで半導体関連銘柄の組入はほとんどありませんでしたが、これを千載一遇のチャンスととらえ積極的な買い付けを行いました。 
 半導体産業はシリコンサイクルと呼ばれる好不況の波が激しいのが特徴です。下位メーカーの場合、需要低迷期では赤字を余儀なくされることが多く、財務内容が著しく悪化することもしばしばです。一方で日本の製造業のなかには半導体産業においてグローバルで圧倒的なシェアを持つ装置メーカーや材料メーカーが数多く存在します。これまで当ファンドでは度々、匠の技術といった日本のモノづくりの競争優位性に着目した銘柄選択を行ってきました。半導体製造では、様々な化学材料の配合や温度コントロール、状態変化の管理といったアナログ的な要素を精密に制御し、試行錯誤を何度も繰り返すという作業が求められます。忍耐を要する作業を愚直に取り組むのは、日本人の強みが生かされやすいと言えます。これらの日本企業には長期のトラックレコードがあり、利益率・資本収益性・キャッシュフロー創出力の面で当ファンドの投資基準に合致している企業が少なくありません。
 景気変動によって需要の振れ幅は大きくても、半導体ほど技術革新が進むことによって金額と数量の大幅な伸びが確実視される産業はあまりないと考えます。半導体はスマートフォン、PC、自動運転、IoTInternet of Things、モノのインターネット)、生成AI(人工知能)などありとあらゆるデジタル機器に搭載され、今後も繁栄していくでしょう。とりわけ近年、主要各国は半導体産業の戦略的かつ大規模な支援策を打ち出しています。「政策に売りなし」という相場の格言もあるとおり、成長株投資にとって半導体は無視できない分野です。
 このような業界において、東京エレクトロンはApplied Materials社(AMAT、米国)、Lam Research社(米国)、ASML Holding社(ASML、オランダ)などと並ぶ半導体製造装置メーカー最大手の1社です。お互い重複する部分はあるものの、各社とも特定の製品において圧倒的なプレゼンスを有しているのが特徴です。言い換えれば、どの1社が欠けても今日のデジタル社会を可能としている最先端半導体は存在しえません。社会になくてはならない企業は、株主にとって魅力的なビジネスであることが多いのです。東京エレクトロンの場合は、半導体製造プロセスに欠かせない4つの連続工程で装置を持っており、半導体製造装置のデパートともいえる企業です。多くの装置分野で世界シェア1位か2位のポジションにあります。同社は現在進行中の中期計画で20273月期に営業利益率35%以上、ROE30%以上を目指していることから、非常に高収益なビジネスであることがうかがえます。30%を上回るROEを狙える日本の大型企業はなかなかありません。

(参入障壁)

 「産業のコメ」とも例えられる半導体は、製造工程が非常に多く極めて複雑であることから、当ファンドの投資基準である「ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい」には一見該当しません。にもかかわらず当ファンドが魅力的なビジネスと判断するのは以下の理由によります。
 まず半導体装置メーカーのビジネスには参入障壁が非常に高いという側面があります。半導体技術が年々高度化していることを背景に、顧客半導体メーカー(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company社(TSMC、台湾)、Samsung Electronics社(韓国)、Intel社(米国)など)は、同社のような装置メーカーと長期的な技術ロードマップに従って、実用化の何年も前から二人三脚で研究開発に取り組んでいます。いち早く顧客から研究開発内容や投資動向の情報が入手できるので、装置メーカーは技術面で常に先行できます。そしてこれは半導体メーカーが途中で他の装置メーカーに流れるリスクが非常低いことも意味します。つまりスイッチングコスト(現在利用している製品やサービスから、別の製品やサービスに乗り換える際に負担するコストのこと)が高いビジネス(=魅力的なビジネス)なのです。結果として価格競争に巻き込まれることがあまりなく、利益率の高いビジネスが可能となります。
 また半導体製造工程では、ひとつの不具合によって膨大な修正コストと時間ロスが発生します。半導体メーカーが共同開発経験の全くない新興企業から製造装置を仮に導入したとしても、うまく動作しなかった場合はメーカー購買担当者の責任問題に発展してしまいます。実績豊富な既存取引メーカーを選好するというのは想像に難くありません。
 実は2000年代までの東京エレクトロンは製造装置メーカーとしては技術力がグローバルで劣るという評価でした。それが、過去15年で見違えるほど競争力を持つ会社になったのは特筆に値します。元社員の方などからのヒアリングによると、昔の同社は営業力にものを言わせるような企業文化であり、経営トップが顧客と共同開発を交渉する能力に欠けていました。同社は2013年にAMAT社との統合計画を電撃発表しましたが、2015年には交渉が頓挫しています。その背景にはAMAT社が調査を進める過程で東京エレクトロンの技術力が大きく劣っていることがわかり、統合する気をなくしたという話さえあります。
 しかし、同社には2008年のリーマン・ショック前後から変化の芽が少しずつ出ていました。2005年~2007年の好景気時に想定外の好業績に恵まれ、成果連動の賞与制度に則り、日本企業としては破格の報酬を振る舞うようになったところ、その後の金融危機のあおりを受けて事業撤退などにより失職した優秀な半導体技術者たちが同社に参画し、抜本的な技術力向上が始まったという経緯があります。同社の目覚ましい進歩は2015年以降、売上・利益の拡大だけでなく利益率、ROEの大幅な改善にも表れています(営業利益率20153月期14.4% → 20233月期28.0%、ROE11.8% → 32.3%)。

(製品内容)

 さて、東京エレクトロンは日本の半導体関連企業のなかでも代表的な大型銘柄であることから、しばしば半導体市況の変動だけを理由に売買されることが多い銘柄です。短期的にはDRAM価格の底入れに伴う設備投資の回復期待や生成AI普及に伴うAIサーバー向け半導体投資の恩恵の思惑が先行していますが、当ファンドではむしろ製品ポートフォリオ拡充という同社固有の要因によって中長期の成長期待が高まっていることに注目しています。半導体製造には熱処理装置、CVD装置、スパッタリング装置、コータ/デベロッパ、露光装置、エッチング装置、洗浄装置、CMP装置、マスク検査装置、検査用装置(テスタ)、ウェーハプローバ、ダイサ、グラインダなど様々な装置が必要とされます。このなかで東京エレクトロンはウェーハに回路を形成するのに欠かせない成膜、リソグラフィー(レジスト塗布)、エッチング、洗浄という4つの連続工程で装置群を持っています。各装置分野の概況は以下のとおりです。

コータ/デベロッパ:
 まず同社が圧倒的な世界シェア(約9割)を持っている装置にコータ/デベロッパがあります(同社20233月期の装置売上のうち26%)。コータは露光装置(ASML社が独占的シェアを持つ)で回路を焼き付ける前段階として、ウェーハの高速回転による遠心力を利用して表面上に感光剤(フォトレジスト)を均一塗布するために使われます。一方、デベロッパは露光装置によってレジスト塗布されたウェーハが露光されたあとの現像工程で使用されます。両工程は同一装置で行われるためコータ/デベロッパと呼ばれています(ASML社の露光装置が買われると必ず必要となる)。東京エレクトロンは最先端の回路形成に不可欠なEUV(極端紫外線)プロセス向けでは同装置シェアがなんと100%です。

エッチング装置(エッチャー):
 目下同社が最も期待・注力しているのがエッチャーです(同社20233月期の装置売上のうち34%)。同装置は露光後に形成された回路パターンに従ってウェーハ上の薄い膜を化学腐食によって削るためのものです。同社のエッチャー新製品にクライオエッチャー(極低温エッチャー)と呼ばれているものがあります。同社発表によると3D-NAND(3次元NAND)向けにガスで垂直に穴を掘るエッチングが可能であり、400層構造でもこれまでの2.5倍のスピードで掘れる独自技術としています。地球温暖化係数(各ガスの温室効果の程度を数値化したもの)84%減と、環境性能も高いのが特徴です。
 当ファンドが最初にこの新製品に関心を持ったのは、20237月のSEMICON West(米国で年一回開催される半導体業界の見本市)会場において同新製品がかなり話題に上っていたという情報を聞いたことがきっかけです。エッチャーは半導体製造装置別でみると市場規模が最大であることに加え、過去2回(2015年~2018年と2019年~2022年)の半導体投資サイクルの中で他の装置市場比で高い成長を達成しています。半導体微細化の継続や構造の複雑化などでより高度な技術が必要とされる傾向にあり、今後も半導体装置市全体を上回る成長が予想されています。
 同新製品が注目されているのは、メモリ半導体の一種であるNANDフラッシュにおいて集積度をあげるための3次元化(構造の多層化)が進んでいることと関係しています。現行のエッチング技術(低温エッチャー)で強いLam Research社の装置では400層の3D-NANDに対しては3回エッチングが必要なりますが、東京エレクトロンのクライオエッチャーを使用すれば2回で済むため、顧客メーカーのコスト削減に大きく貢献できます。顧客となるメモリ半導体メーカー間では、多層化競争が続いており、Samsung Electronics社、SK Hynix社(韓国)はすでに300層を超える製品の製造計画を発表済みで、Micron Technology社(米国)、Western Digital社(米国)なども競争力を維持するためにこの流れに追随せざるを得ないとみられます。これは東京エレクトロンにとって全社と取引を拡大するチャンスです。さらにもうひとつのメモリ半導体であるDRAMでも2028年頃に微細化が限界に達する見通しのために、集積度を上げていくための多層化が見込まれています。実用化されれば、エッチャー市場の規模が飛躍的に拡大すると言われています。
 現在のところLam Research社がトップシェア(約5割)を持っていますが、クライオエッチャーを武器に現在シェア2位である東京エレクトロンがシェアを上げることができれば、売上寄与も大きくなるはずです。早ければ同新製品は2025年から2026年にかけて売上貢献を始める見通しです。

洗浄装置:
 同社は洗浄装置でもシェアを上げています(同社20233月期の装置売上のうち12%)。洗浄とは半導体を製造するにあたり、ウェーハ上のあらゆる汚染を薬液を使い除去する工程です。半導体は少しでも汚れがあると、回路に欠陥が生じてしまうため重要な工程です。東京エレクトロンは世界最大手の㈱SCREENホールディングスを追い上げています。同装置には複数のウェーハを一度に処理するバッチ式装置と、一枚毎に処理する枚葉式装置とがありますが、どちらも東京エレクトロンがシェアの差を縮めています。特に市場規模が大きい枚葉式装置での追い上げが顕著であり、両社のシェアは急速に接近中です。半導体の微細化と共に、パーティクルや汚染除去に対する要求水準が高くなり、枚葉式装置の市場が拡大しているので、東京エレクトロンにとって追い風です。

成膜装置:
 成膜装置とは、ウェーハ上に回路パターンの素材となる材料で薄膜を形成する装置です(同社20233月期の装置売上のうち21%)。半導体タイプによってそれぞれ異なる種類の膜を、異なる方法で塗る必要があるため、露光やエッチングに比べて装置の種類が多く、同社の場合は薄い酸化膜、窒化膜の形成で使われる熱処理装置、CVD装置などを手掛けています。競合は㈱Kokusai ElectricAMAT社などです。今後はバッチALD(Atomic Layer Deposition)というウェーハ上の深い穴でも均一な成膜が可能な装置が伸びると言われています。これは近い将来、回路幅2nmで採用されるGAAトランジスタ構造や2030年代に同1nm世代で採用される予定のCFETトランジスタ構造に欠かせない技術です。当ファンドは、同社がバッチALDでトップシェアを持つ㈱Kokusai Electricを追い上げることができるかに注目していきたいと思います。

後工程装置:
 半導体製造装置メーカー達はおおまかに、製造工程の前半部分(ウェーハに回路をつくる工程)で使われる装置を手掛けている前工程メーカー(AMAT社、Lam Research社、ASML社、㈱SCREENホールディングス、㈱Kokusai Electricなど)と後半部分(回路のできあがったウェーハを切り分けてパッケージングする工程)を手掛ける後工程メーカー(㈱アドバンテスト、Teradyne社(米国)、㈱ディスコなど)に棲み分けがされています。東京エレクトロンは前工程装置メーカーといえますが、近年は後工程分野でも着実に存在感を高めています。例えば2010年代初頭には、横河電機㈱がテスタ事業から撤退した際に多数のエンジニアを受け入れ、フラッシュメモリ用BISTテスタ事業を立ち上げました。現在では同テスタと一体化したウェーハプローバの拡販で㈱東京精密からトップの地位を奪っています。
 他にも最近ではAIサーバーに使われるメモリ半導体であるHBM(High Bandwidth Memory)向けにウェーハ積層工程で必要となる貼り合わせ装置や、ウェーハを薄く加工する際に物理的ダメージを回避しながら極薄化できるレーザートリミング装置などの新製品投入を進めています。過去数十年続いた「ムーアの法則(半導体集積回路の集積率は18ヵ月から24ヵ月で倍増するというもの)」に基づく微細化トレンド(前工程分野の技術進展)が限界に近付いていると言われるなか、今後半導体の更なる進化には、デザイン設計段階での工夫(*)や、後工程に相当する積層化やパッケージ工程で集積度を上げていくことが重要になってきています。このようにモノづくりの付加価値が前工程から他分野に移っていく事業環境に対して東京エレクトロンはしっかり対応できていると考えます。

*当ファンド組入銘柄の半導体デザイン設計を手掛けるソシオネクストはこの恩恵を受けると考えられます

(リスク)

 日進月歩で技術革新が進む半導体業界では、製造プロセスや技術が変わると需要が減り、特定の製造装置が不要になることがあります。例えば露光装置業界では、最先端の半導体がEUV方式へ移行したことで、それまで主流だったキヤノン㈱や㈱ニコン社製のArFKrF露光装置がASML社による最先端品に取って代わりました。また異なる工程で使われる装置間でのシェア変動もあります。2010年代半ばに3D NANDが実用化したタイミングではエッチング装置の需要が伸びたため同装置に強いLam Research社が躍進しましたが、2018年以降のEUV実用化以降は露光装置への設備投資が膨れ上がり、同分野で独占的プレーヤーであるASML社の株価が好調です。
 東京エレクトロンの死角については、少なくとも現時点での技術動向からリスクが懸念されるのはコータ/デベロッパ分野です。将来の微細化を実現するための周辺技術のひとつとして、ウェーハに塗布されるレジストが現行の化学増幅型レジスト(液状)から感度・解像度により優れたドライレジスト(非液状)へ移行すると、同社のコータ/デベロッパが不要となる可能性が考えられます。ただし現時点では、ドライレジストを成膜するためには特殊なCVD装置(Lam Research社、ASML社とimecInteruniversity Microelectronics Centre、ベルギーの国際研究機関)が共同開発)が必要となることから半導体メーカーにとって投資負担が大きくなるうえ、工程数も増えてしまうこと、かつ未だ歩留まり水準が不十分であることが懸念されており本格的な普及には至らないとの見方が大勢です。この他にも技術トレンドの変化によって思わぬリスクが浮上する可能性は今後も残るでしょう。
 しかしそれでも当ファンドが東京エレクトロンを魅力的と考える理由は、大手プレーヤーへの市場シェア集約化が進んだことで、業界全体の参入障壁が年々高まってきていること、大手プレーヤー同士はそれぞれ強みが異なり直接的な競合が起こりにくいこと、そのため競争環境は比較的穏やかであることが挙げられます。とりわけ東京エレクトロンは製品ポートフォリオが多岐にわたるので、ビジネスとしての安定度が高いと判断されます。同社が総合メーカーであることはグローバル主要各社と比較した従業員規模からもみてとれます。東京エレクトロン、AMAT社、Lam Research社など業界最大手は17,00034,000人の人員を擁しているのに対し、特定の装置のみを手掛ける㈱アドバンテスト(テスタ)、㈱KOKUSAI ELECTRIC社(成膜装置)、レーザーテック㈱(マスク検査装置)、ASM International(オランダ、成膜装置)などは1,0007,000人程度の規模に留まります。総合メーカーである東京エレクトロンは、ビジネスリスクが相対的に低いため、株式評価の観点からもより低いリスクプレミアムが許容される可能性があり、ひいてはPER(株価収益率)などのバリュエーションが他社に比べて高くなる余地もあると思われます。
 最後に半導体業界全体にとっての潜在リスクを考えます。一つ目は回路線幅の微細化の限界、つまり「ムーアの法則」が終わりに近づきつつあると言われている点です。現在量産化が見込まれている最先端半導体は2025年にTSMC社が計画している線幅2nmですが、imecによると、その先には1.8nm1.4nm1.0nmまでのロードマップが敷かれています。究極的に原子1個単位まで微細化を極める余地があると仮定すると、この世の物質を形作っている原子の大きさは約0.10.5nmであることを鑑みて、少なくともあと35世代くらい先までは見通せると考えられます(*)。そして各世代に移行するたびに製造技術の難易度が増し、立ち上げには数年から場合によって十数年かかることが予想されるため、最低でもあと20年程度は半導体産業の微細化にまつわる成長トレンドは続くのではないでしょうか。

*2.0nmから1.0nmへの移行は絶対値としてはたったの1nmの線幅縮小ですが、縮小率としては半減となりますので、2000年代初頭から半ばに数世代かけて130nmから65nmへ微細化(縮小幅65nm、縮小率は半減)したのと同程度の進展といえます。ただし、TSMC社によると現在開発が進んでいる2nmは実用化されている最先端の3nmと比べて同じ消費電力で10~15%のパフォーマンス改善、25~30%の消費電力削減になるとのことなので、過去に比べれば今後の改善幅は相対的に小さなものに留まりそうです

 二つ目は中国需要の反動減リスクです。2022年の米国による中国をターゲットとした最先端半導体技術の輸出規制強化以降、中国は国産化を急ぐべく、規制対象外の製造装置を大量購入しています。実際、20243月期は東京エレクトロンにとって中国需要の盛り上がりは大きな業績押し上げ要因となっています。今のところ株式市場はこれをポジティブに受け止め株価は堅調に推移していますが、中国による過剰投資の懸念についてはやや注意を払う必要があると考えます。

 そして三つ目に既存の半導体産業を根底から覆すようなパラダイムシフトです。向こう数十年で光電融合、超電導などの産業革命的なブレークスルーが現実のものになれば、半導体の製造方法そのものが変わるかもしれません(*)。東京エレクトロンはおろか、半導体業界の多くの既存プレーヤーの活躍の場が大きく狭まる事態が起こるかもしれません。

 以上、様々なことを念頭に今後も調査を続けていく方針です。

*とはいえ量子コンピュータ向け半導体チップの製造方法は概ねシリコンウェーハにレジスト塗布し、露光、エッチングを繰り返して回路を作っていくところは共通しているようです

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利子負債が少ない強固なバランスシート
  • 高い参入障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年2月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.93%上昇し、日経平均株価は前月末比7.94%の大幅上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)の内容を受け早期の米利下げ期待が後退し一進一退の動きで推移しましたが、月半ばから後半にかけては内田日銀副総裁がマイナス金利解除後も日銀は緩和的な金融環境を維持するとの認識を示したことや、生成AI(人工知能)向け半導体需要の増加が期待される米国で半導体関連企業の株価上昇が続き、日本の半導体関連企業にも資金が集中したことから、続伸しました。22日には日経平均株価は39,098.68円で終え、約34年ぶりに最高値を更新しました。その後の日本株式市場の推移は緩やかだったものの、月末まで日経平均株価は39,000円台を維持したまま当月の取引を終えました。

ファンドの運用状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐8.84%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.93%の上昇を3.91%上回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した銘柄は、東京エレクトロン、三菱商事、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した銘柄は、ソニーグループ、ダイキン工業、オリンパスなどでした。

 前月の月次報告書からの続きです。魅力的な企業を「安く買う」ためにもうひとつ重要なのは、一見株価が割高に見えても時には株式市場がまだ注目していないところに目をつけて割安感を見出すことです。株式市場の参加者の多くは、決算短信などで開示されている、会計基準に基づいた利益数値を参考にしています。しかし会計上の利益が企業の本源的価値を必ずしも反映しているわけではありません。財務諸表から得られる情報を自分なりに解釈することで、真の価値を見定められると考えます。
 例として企業買収後に発生する会計上ののれん償却費が挙げられます。日本の会計基準では、財務健全性の観点から20年を上限として損益計算書上でのれん償却費を計上することが求められています。このため、海外で主流のIFRSInternational Financial Reporting Standards、国際財務報告基準)に比べると決算短信に記載される当期純利益額が過小となりますが、この費用は現金流出を伴いません。当ファンドでは、買収先の減損リスクがなければ、企業の真の「現金を稼ぐ力」を知るためにのれん償却費は足し戻すべきだと考えます。もっと言うとのれんがバランスシートに計上されている金額以上の価値を持っていると推定できるケースさえあります。例えば、純資産10億円の会社に対して110億円払って買収した場合、のれんは100億円になり、20年間の定期償却を仮定すると、年間5億円の償却費用が発生します。しかし買収先企業が数年後に多大な利益貢献をもたらしたらどうでしょうか。買収時に1億円の利益しか生み出していなかったのが、翌年に10億円、数年後には50億円の利益を稼ぐようになったとします。年間50億円以上の利益をもたらす企業をわずか110億円で買収できたわけですから、非常に割安な案件であったと結論づけられます。すなわち、計上されているのれんには100億円以上の価値があるとみなせるのです。定期償却を求めないIFRS(代わりに年一回の減損テストが課せられます)に比べて、日本の会計ルールは経済合理性に欠く側面があると考えます。
 別のケースとして、キャッシュフロー計算書上の営業キャッシュフローに対してストックオプションによる従業員報酬額が大きい企業を分析する時には、保守的な理由から会計ルールと異なる見方をします。通常の給与支払いと違い、ストックオプションは企業による現金支出を伴いませんので、会計ルール上は損益計算書で費用を認識しますが、キャッシュフロー計算書では同費用が足し戻されます。しかし当ファンドでは、あえて営業キャッシュフローから差し引くことを実践しています。もし株価が低迷すれば、人件費の支払いをストックオプション発行で賄うことができなくなるためです。またストックオプションによる報酬は、企業による現金支給を株式市場が肩代わりしているとみることができます。オプション行使されれば発行済株数が増えるので、既存株主にとっては一株当たり利益の希薄化要因になることを理解すべきです。
 これらは当ファンドが財務分析する際の代表的な考え方を示すものです。以下では、株式市場と異なった見方をしていた当ファンドの投資事例をご紹介します(いずれも過去15年間に発行した月次報告書で言及したことがあり、すでに完全売却した銘柄も含みます)。

キーエンス

 2000年代後半から組入れているキーエンスは、キャッシュリッチ企業として有名です。長年、優良成長企業であることから、常に株価が割高なことでも知られています。201010月月次報告書では、当時の株価を評価するにあたって、「時価総額から同社がバランスシートで抱えている5,000億円弱相当の余剰キャッシュを差し引いたものを「実質時価総額」として捉え、同社の基礎的な収益力に対して割安であると考えております」とお話しました。具体的には、20109月末金融資産が4,876億円(現預金324億円、有価証券2,571億円、投資有価証券1,980億円)と、時価総額1.04兆円に対しおよそ半分を占めていました。これら金融資産は同社が利益成長を通じて積み上げたものであり、公募増資や有利子負債の調達によって得たものではありません。同社のFAセンサ事業は現金を潤沢に生むビジネスであり、成長を持続するためにこれらを資金化して投資にまわす必要もないことから、当ファンドでは金融資産分(=ネットキャッシュ)を除いた時価総額が株価評価には適切であると考えました。2008年サブプライムローン危機から世界経済がやがて立ち直り、同社が再び最高益を更新するという前提にたてば、ネットキャッシュ控除後時価総額(約5,000億円)を当時の過去最高益632億円(20083月期実績)で割った実質PER(株価収益率)10倍以下という株価バリュエーションは驚くほど割安でした。将来に対する確信度が高かったため、かなり大きなポジションをとったという経緯があります。
 なお同社はキャッシュリッチであるにも関わらず、配当や自社株買いに非常に消極的なことがしばしば槍玉に上がります。本来は株主からすると、企業が利益を内部留保する以上、それを事業に再投資して本源的価値を増やしてくれることを期待します。キーエンスの場合は、内部留保しても事業投資ではなく安全資産(特に利回りの低い日本国債が中心と思われます)に投資していることが問題視されているのです。株主としては「自分で次の投資先を見つけるから、配当で払いだしてほしい」と要求したいところです。しかし同社の株主は過去15年間同社株を保有することで大きく報われたのも事実です。同社は20083月期から20239月までに利益剰余金を2兆円増やしましたが(同期間に金融資産は1.9兆円増加)、時価総額の増加額はそれを大きく上回る13兆円(1兆円→14兆円)でした。このように内部留保した金額をはるかに上回る時価総額を生み出していることから、なかなか「物言う株主」が影響力を行使できていないのが現状です。コーポレートガバナンスの視点から、当ファンドがキーエンスをどうみるかについては、また別の機会に取り上げようと思います。

テルモ、リクルートホールディングス、セブン&アイ・ホールディングス

 この3社は投資した時期がそれぞれ異なりますが、いずれものれんやその他無形固定資産の償却前利益をもとに株価が割安であると議論しました。現金流出を伴わない償却費が利益に占める割合が大きいため、会計上の利益とキャッシュ利益を生みだす実力との間に大きな乖離がありました。決算短信に記載の当期純利益だけをみてしまうと株価が割高だったのです。
 テルモ(※)2011年のCaridianBCT Holding社(米国)の買収で発生したのれんやその他無形固定資産(顧客関連資産など)の償却が会計上利益を押し下げていました。当ファンドの20165月月次報告書では、同社20163月期決算短信の注記にある「のれん等償却除く営業利益」1,018億円から、損金算入項目であるのれん以外の無形固定資産償却額だけを差し引き、実態に近い税前利益を算出したうえで当期純利益を見積もりました。この結果、「決算短信には、会計基準上の当期純利益506億円が記載されていますが、私どもは同社の実態的な当期純利益はそれ以上の金額と考えております。」と述べています。
※現在、テルモはIFRS採用企業です

 非上場企業としての歴史が長かったリクルートホールディングス(※)は、2014年上場時にグローバル化を推し進めるべく、上場で得た資金を海外買収に積極的に充当する方針を掲げました。当ファンドが投資した2016年時点では今日稼ぎ頭の米子会社Indeed社を含めて多くの企業買収を行っていたので、毎年多額の償却費用が発生していました。このため決算短信上の当期純利益をベースにすると、当時のPER30倍以上、ROE(株主資本利益率)は10%未満と決して割安にはみえなかったのです。しかしながら、20172月の月次報告書では「今回の投資で最も重要だったのは、同社のバリュエーションが割安であったことです」とコメントしました。これは、日本の会計基準で算出されたのれん償却後の利益と、それを除いた利益とでは倍近い開きがあったためです。買収先の減損リスクに注意を払う必要はありましたが、今日までそのような兆候はありません。また買収に伴う無形固定資産は1件の大型案件によって生じたものではなく、多くの案件に分散していたために一斉に減損リスクが顕在化するリスクも低いと考えました。
※現在、リクルートホールディングスはIFRS採用企業です  

 リクルートホールディングスの株価評価で、もうひとつ重要な指標がフリーキャッシュフロー利回りでした。当時のキャッシュフロー計算書をみると、海外買収に伴い多額の投資キャッシュフロー支出が計上されていたため、フリーキャッシュフローが低水準に留まっていました。しかし同社のビジネスは、生産設備の定期的なメンテナンス投資が必要な製造業と違い、事業継続をしていく上で多額の固定資産投資を必要としません。従って、本来はフリーキャッシュフローが潤沢に生み出されます。実際、当ファンドが計算した3年先の予想フリーキャッシュフロー利回りは、当ファンドの他の組入銘柄と比較してもかなり高めでした。同月次報告書では「海外展開に必要な体制が整えば、投資ペースは落ち着き、いずれは営業キャッシュフローの多くがフリーキャッシュフローとして残ることが想定され、今期予想される営業キャッシュフローをベースとすると、フリーキャッシュフロー利回りは魅力的な水準になると考えております」と締めくくっています。

 セブン&アイ・ホールディングスは2022年に新規投資した銘柄です。2021年に買収した米Speedway社ののれん償却が重く、決算短信上の一株当たり利益と、償却前一株当たり利益の乖離は約4割にも達します。20241月に発表された20232月期 第3四半期決算説明資料にある「のれん償却前EPS」の今期予想470.64円(20242月予想ベース。一過性である、㈱そごう・西武株式譲渡影響を除いた数値)を前提とすると、2023年末の同社株価はPER11.9倍であり東証株価指数の平均を大きく下回っています。
 またフリーキャッシュフロー利回りでみても、当ファンドが買い付けを行っていた株価水準では10%近い水準にあると考えられ、現在の国内大型株のなかでは最も割安に放置されている銘柄のひとつだと考えます。フリーキャッシュフロー利回りの計算は、やや工夫が必要です。同社は主力コンビニ事業以外にも銀行業(セブン銀行)を営んでいることから、預金増減やコールローン関連のキャッシュフロー項目も「営業活動によるキャッシュフロー」に含まれており(※)、コンビニ事業の実態を見えにくくしているためです。営業キャッシュフローから銀行業関連のものを取り除き、流通事業(低採算のイトーヨーカ堂事業も含まれる)のみを取り出してみると9,000億円前後と予想されます。コンビニ事業拡大に伴う設備投資が年間4,000億円程度と見積もると、差し引き5,000億円近いフリーキャッシュフローが創出される計算になり、時価総額に対してフリーキャッシュフロー利回りがかなり魅力的であることがわかります。
※日本の会計基準ではメガバンクなど純粋な銀行業も貸出金や預金の増減を営業キャッシュフローに分類しています。一方、一般的な米国銀行業のキャッシュフロー計算書では貸出金や預金の増減はそれぞれ「投資活動によるキャッシュフロー」と「財務活動によるキャッシュフロー」に分類されます。

 なお2023年繰り広げられた米アクティビストファンドValueAct社とのプロキシーファイト(委任状争奪戦)のなかで、セブン&アイ・ホールディングス経営陣はSpeedway社買収以降に同社株のEVEBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)が上がったことを引き合いに出し、「株式市場からの評価があがっている」と発表していますが、これは誤った主張だと考えます。EVEnterprise Value)は企業価値と呼ばれ、株式時価総額とネット有利子負債の合計であり、EBITDAは税前・利払い前・償却前利益を表します。当ファンドの見解では、同倍率の上昇は同社がSpeedway社買収のために多額の有利子負債を調達し、分子であるEVが大きく増えたことで倍率が押し上げられたのが主な要因と考えます。上述のように実質的なPERでみた評価は12倍弱に過ぎず、むしろ2005年の同社持株会社発足当時から一貫して評価が切り下がっているのです。当ファンドでは、この事実をセブン&アイ・ホールディングス社との面談時に株主の1社として伝えています。

三菱商事、オリックス

 当ファンドでは、総合商社である三菱商事と、総合金融サービス会社のオリックスをともに投資事業会社であると捉えています。資本を使わないフィービジネスもありますが、大部分は金融資産・事業資産に投資を行い、そこから得られる収益、および資産価値を引き上げることで本源的価値を増大させるビジネスモデルです。従って、株価の評価もディスカウントキャッシュフローモデルではなく、純資産価値の増減に注目します。
 2023年12月月次報告書で解説したとおり、三菱商事をはじめとする総合商社は当期純利益でなく、包括利益を経営成績としてみるべきです。各社経営陣は、投資有価証券の含み益増減や外貨建て海外資産の為替含み益増減が計上される「その他包括損益」を単年度業績として考慮していないように見受けられますが、投資事業を生業としている以上、当ファンドでは含めるべきだと考えます。そして、包括損益の結果を反映しているのが純資産価値です。また各社が経営指標としているROEについても包括利益合計を分子、資本合計を分母としたものがより適切だと考えます。
 オリックスは「ベース利益」と「売却益(キャピタルゲイン)」に分けて投資家向け決算説明資料に開示しています。「ベース利益」とは保有している資産から毎期生み出される利益、「売却益」は事業ポートフォリオ入れ替えを目的とした事業売却・資産売却をする際に不定期に発生する利益を指します。後者は毎期安定して見込める利益ではないことから、株式市場では一過性要因として過少評価されがちです。この点について、統合報告書2023CEOメッセージで井上社長の下記コメントが印象的です。

「キャピタルリサイクリングの結果、当社は年間約1,000億円の売却益を実現しています。過去の実績と将来の投資パイプラインは決算報告で皆さまにお示しする工夫をしていますが、再現性や持続性を十分に理解いただけないことが課題です。当社を担当いただいている株式アナリストは金融セクターの専門家が多くいらっしゃいますが、金融セクターでは安定的な収益を高く評価する傾向が見られます。ポートフォリオの入れ替えがもたらす売却益は、一過性ではなく再現性がありますので、こうした当社の特長をより理解していただけるよう、事業や業績の開示を一層工夫していきます。」

 当ファンドも井上社長と同意見です。当ファンドの同社株に対する評価では、不定期の売却益も含めて一株当たり純資産価値が年率平均で一桁半ば~後半で拡大を続けていくとみています。高水準の配当利回りと自社株買いによる追加的な一株当たり利益成長率も無視できないリターンの源泉です。

東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス

 日本のメガ損保グループ3社の決算開示も日本の会計基準に基づいていますが、ここでも海外損保企業が適用しているIFRSと大きなルールの違いがあります。日本の会計基準では純利益を算出するにあたり、保険業特有の異常危険準備金、危険準備金、価格変動準備金など各種引当を繰り入れることが決められているため、海外競合に比べて利益水準が低く見えてしまいます(※)。そこでグローバル比較をしやすくするために、各社ともこれらの繰入項目(いずれも準備金なので非現金支出項目)を毎期足し戻して、IFRS採用企業の純利益に相当する「修正純利益」を公表しています。同様に純資産についても、これら準備金残高を足し戻したものを「修正純資産」としています。
※日本の会計基準では、損保はこれら準備金などの引当金を計上することがルール上求められている一方、欧米の損保企業が適用しているIFRSでは、同様の引き当ては必要ありません

 これら修正数値で2023年末株価を評価すると、東京海上ホールディングスの今期予想PER10.6倍となり、決算短信に掲載されている予想利益をベースとしたPER12.1倍よりも割安です。またPBRでは東京海上ホールディングスこそ1倍を上回っていますが、MS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスに至っては0.60.7倍台と純資産価値を大きく下回っています(※1)。決算短信記載の一株当たり純資産をもとに計算すると、これら2社のPBR1倍前後です。別の言い方をすれば、各社ともIFRSへ移行した途端(※2)、株式市場の参加者にみえるバリュエーションが一気に割安になるのです。
※1 修正純資産は、1)新株予約権と非支配株主持分を除いた純資産、2)税後ベースの異常危険準備金、3)同危険準備金、4)同価格変動準備金、5)生保事業の保有契約価値を足し、のれんとその他無形固定資産を引いたもの。損保各社の定義を参考にスパークスの定義を使用。
※2 日本でIFRSを適用済みの企業は219社と全体の1割以下です。

 当ファンドではIFRSをもとにした株価バリュエーションのほうが、日本基準に比べて実態をより正確に反映していると考えており、とりわけMS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスの実質的なPBRが1倍を大幅に下回っているのは割安であるとの意見です。会計基準が異なるだけで株式の評価が変わるというのはおかしなことでもあり、株式市場の非効率性を物語っています。

(最後に)

 差別化されたポートフォリオには組入銘柄に対して市場と異なった視点・考え方を持つことが重要です。しかし最終的には株式市場の参加者全般がそれに気づき、注目し、なおかつ賛同しなくては当ファンドが意図する株価のパフォーマンスにはつながりません。
 今回取り上げたような財務数値は当ファンド独自の見解に基づくもの以外に、セブン&アイ・ホールディングスののれん償却前利益やメガ損保グループの修正純利益など、決算説明資料で開示されているものも少なくありません。従って、世の中の株式アナリストはすでに知っている内容も多くあります。広く認知されているにも関わらず、株価が割安に放置されているのは何故なのでしょうか。推測の域は出ませんが、(当ファンドの分析・予想が間違っている以外に)いくつか理由があると考えられます。
 まず注目度が常に高いハイテク業界銘柄に比べて、損保、小売などはイメージが地味であり注目を浴びにくいことや、成熟産業であるという先入観があることなどが影響しているかもしれません(※)。損保業界は、世界中に上場プレーヤーが数多く存在しており、いずれも保険引受業務と資産運用業務という事業内容自体に大きな違いはありません。このことから、日本の損保3社全てについて細かいところまで注目している株式市場参加者はあまり多くない可能性があります。これはすなわち、海外と日本の会計基準の違いもしっかりと理解されていないことを意味します。
※実際は東京海上ホールディングスの過去10年の修正純利益年間平均成長率は12%と高成長です。20238月の月次報告書で述べた通り、損保市場が3社で9割シェアという寡占状態にあるのは主要先進国のなかでは日本のみです。また時価総額38割にも匹敵する巨額の含み益を持つ金融資産(政策保有株)を抱えているのも日本のメガ損保グループ以外に世界中にありません。これらの理由から、当ファンドは日本の損保業界は大変魅力的と考えます。

 もちろん、機関投資家の世界では詳細にフォローしている業種担当アナリストが在籍し、当然各担当業種に精通しているでしょう。しかし実際に運用会社で最終的に売買判断を行っているのはアナリストではなくファンドマネジャー達です。限られた数の銘柄だけを分析するセクターアナリストと異なり、オールアラウンドに様々な銘柄をフォローしなくてはならないファンドマネジャー達は、世界中の数多くの損保株をひとくくりにしてみているとしても想像に難くありません。
 誰もが市場参加できる株式投資において、表面上の会計数値をみるだけで、当ファンドが解説するように細かく分析する人は少数派かもしれません。そして他の大勢の人が注目しなければ、決して株価は評価されないので無意味と考えるかもしれません。しかし、当ファンドが理論的に正しいと主張する「本当の」価値は、巡り巡って顕在化するものだと思います。例えば、のれん償却などの理由で会計上の利益が実際のキャッシュベース利益を大幅に下回る企業でも、キャッシュフロー創出力が強いことから思った以上に速いスピードで現預金が積み上がるはずです。ひいては株主還元強化につながりやすく、株主は増配などの恩恵を受けられますし、成長投資も積極化できるため、事業競争力が向上します。一方、人件費の大部分をストックオプションに頼っている企業は、現金流出を抑えられるためキャッシュフローが潤沢にみえるかもしれませんが、発行済株数は増えてしまうため、確実に株主利益の希薄化が起きているのです。
 当ファンドが投資をする際、銘柄に関する投資意見が株式市場とは違うほうがむしろ好都合です。多数派の意見は、すでに株価に織り込まれたものであり、そこから大きな利益を得るのは難しいことを理解しなくてはなりません。自分なりの分析で辿り着いた視点について人々が懐疑的だとしても、あとから企業の真の価値を誰もが認めるようになればその株を買うようになり、株価上昇を通じて当ファンドの意見が「正しい」と証明されるのです。これが少数派意見のときに投資することで、市場平均を上回るリターンを達成できるメカニズムです。すなわち、投資で成功したいのであれば、人と違うことをしなくてはなりません。これが差別化されたポートフォリオにつながります。
 ただし、これは「言うは易し行うは難し」です。株式市場における多数派の意見や将来に関する見通しは正しいことが殆どです。大半の人が未だ懐疑的・否定的な見方をしているなか株式投資するという決断は、心理的な居心地が非常に悪いことを理解する必要があります。株式市場に対峙する時には、「少数意見」かつ「正しい意見」をもって投資に望むことが大切です。

今後の運用方針

 当ファンドでは設定来、「魅力的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」を投資戦略としており、今後グローバルで飛躍が見込まれる日本企業を厳選しポートフォリオを構築いたします。引き続き、以下の投資基準に合致すると考えられる企業を少なくとも3~5年程度の時間軸で評価し、長期的な観点で投資を行ってまいります。

  •  ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  •  本質的に安全なビジネス
  •  有利子負債が少ない強固なバランスシート
  •  高い参入障壁に守られたビジネス
  •  持続可能な高ROE(株主資本利益率)とそれに見合う利益成長
  •  景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを生み出している
  •  資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

2024年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年1⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐7.81%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、能登半島地震の影響精査のため⽇銀が利上げを⾒送るとの⾒⽅が⾼まったことや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)⾼官のタカ派な発⾔を受けた⽶⻑期⾦利の上昇を背景に円安が進み、⽉前半は⼤きく上昇しました。また、新NISA制度の開始による個⼈投資家の買い需要や、東京証券取引所の市場改⾰への期待感から海外投資家の資⾦も多く流⼊しました。⽉半ばから後半にかけては、利益確定の売り圧⼒や、⽶国半導体⼤⼿の業績⾒通しが市場予想を下回ったことから半導体関連銘柄を中⼼に⼀時下落基調に転じる場⾯もあったものの、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運⽤状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐8.53%の上昇となり、参考指数の同7.81%の上昇を0.72%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は⽇⽴製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ルネサスエレクトロニクス、信越化学⼯業などでした。
 当ファンドの投資戦略である「魅⼒的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」のうち、「安く買う」というのは当ファンドが投資を⾏う際の株価バリュエーションに関する規律やこだわりを表しています。新規銘柄に関して割安な⽔準をしっかりと⾒極めて投資をすること、株式市場がまだ気づいていないところに⽬をつけ、割安感を⾒出すことなどの意味が込められています。
 そのため新規組⼊銘柄の紹介を⾏う際には、なぜ当ファンドが割安であると考えるのかをできるだけ説明するように⼼がけています。どんなに素晴らしい企業も、割⾼な⽔準で投資をしてしまうと市場平均を上回るリターンを得ることが難しいからです。⼤切なのは、割安な価格で投資できる千載⼀遇のチャンスが来るまで⾟抱強く待ち続けることです。例えば短期的な業績の弱含みなど⼀過性の要因で株価が急落したときや、事業の本質に対する影響が⼩さいと考えられる企業スキャンダルで株式市場が過剰反応したとき、⾦融市場の混乱で相場全体がパニック売りになった時などに魅⼒的な投資機会が訪れると考えます。
 当ファンドでは、原則として組⼊銘柄の短期的な売買は⾏わず、⻑期保有することを基本としています。企業の本源的価値に対して株価が割安と確信が持てれば投資を⾏い、その後順調に株価が上昇して割安⽔準が訂正されたあとも、当該企業の⻑期成⻑性が平均を上回ると判断される限りは保有継続する傾向が多いです。ここでいう「平均」は世界の名⽬GDPの⻑期予想成⻑率を指しています。
 当ファンドの組⼊銘柄の⼤半について⾔えることですが、本源的価値とはビジネスが将来にわたって株主のために⽣み出すであろうキャッシュフローを総合計し、それを⼀定の割引率(投資家の要求利回り)で現在価値に割り戻したものと定義されます。つまり、債券や不動産の価値計算と同じ考え⽅です。
 このため当ファンドが企業の本源的価値を算出し株価が割⾼か割安かを判断する際に使⽤するのは「ディスカウントキャッシュフローモデル(DCFモデル)」を基本としています。株主にとってクーポンともいえる⼀株当たりキャッシュフローを⾒通すのが⼀般的な債券より難しい点はありますが、この⽅法であれば、株式以外の異なるアセットクラスとの⽐較も可能となります。
 将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻すという概念は株式の価値を調べるうえで最も論理的です。他に⼀般的に使われる⽅法として⼀株当たり利益に株価収益率(PER)を掛けて⽬標株価を算定するやり⽅がありますが、概念的には経済的根拠に⽋けていると考えます。
 とはいえ、ある⼀定の条件を与えれば、PERを簡便なDCFモデルとして捉えることは可能です。PERの逆数である1/PERは「株式益利回り」(例えばPER20倍であれば株式益利回り5%、PER15倍なら同6.67%)なので、⼀株当たり利益(円)× PER(倍)=株価(円)という式は、⼀株当たり利益/株式益利回り(%)=株価、と書き換えられます。分⼦は債券でいうクーポン、分⺟は投資家の要求利回り(期待リターン、割引率とも呼ぶ)と⾒なせるので、この数式は永久債価値のDCF計算式である、債券クーポン/要求利回り=永久債の価値、と同じなのです。
 株式益利回りはさらに、(割引率-永久成⻑率)と置き換えることが可能です(※)。⼀株当たり利益/(割引率-永久成⻑率)=株価、は今ある⼀株当たり利益が永久成⻑率でずっと伸びていき、それを現在価値に割り戻していることを意味します。⼀株当たり利益が株主に帰属するキャッシュフローと同程度であるという条件を満たせば、PERを使った⽬標株価(=⾃分が考える企業の本源的価値)の計算が、簡易的なDCFモデルと同じであるという説明が成り⽴つのです。
※定率成⻑配当割引モデル(ゴードンモデル)や不動産価値を算定する際に使うキャップレートでも同様の概念が使われています。

 即ち、PER15倍は「割引率8%、永久成⻑率約1.33%」あるいは「割引率10%、永久成⻑率約3.33%」といった解釈ができますし、PER20倍であれば「割引率8%、永久成⻑率が3%」、12.5倍なら「割引率8%、永久成⻑率0%」あるいは「割引率10%、永久成⻑率2%」と同じこと、といった具合です。あとは割引率と永久成⻑率の前提がそれぞれ妥当かどうかを検証します。
 例えば、割引率8%は現状の⽇本の10年国債利回り、あるいは⽇銀のインフレ⽬標達成後に予想される利回りと⽐べても株式に対する要求利回りとしては適切と思われます。また今の⽶国10年債利回りと⽐べても過度に楽観的な前提ではないと⾔えるでしょう。但し、2023年11⽉の⽉次報告書で⾔及したように、要求利回りはリスクフリーレート(国債⾦利)に左右されるので、今後のインフレ環境、⾦利環境の変化には留意が必要です。⼀⽅、永久成⻑率は⻑期的に予想される名⽬GDP成⻑率を上限として、個別企業に応じて適正な成⻑率を適⽤すべきです。但し名⽬GDP成⻑率を超える前提を置いてしまうと、個別企業のビジネスの将来規模が世の中の経済規模全体を超えてしまうという論理⽭盾が発⽣してしまうので注意が必要です。当ファンドでもPERを使⽤して企業の株価について解説しているのは、前述の理由が背景にあります。
 また⼀般的に⾔われている「現在の株価であれば⼀株当たり利益の〇〇年分で回収できる」というPERの概念は、割安さを直感的に理解するにはむしろ分かりやすいかもしれません。
 2023年12⽉末現在の当ファンド組⼊銘柄の平均PERは約16倍(今期予想、組⼊⽐率を考慮した加重平均ベース)です。東証株価指数(TOPIX)の平均である15.1倍よりわずかに⾼い程度であり、当ファンドの組⼊銘柄が優良企業で占められていることを踏まえると、⾮常に割安であると考えられます。もっと⾔うと、組⼊銘柄の中には、これまでご説明したことがある「実質的な」株価バリュエーションが、財務諸表上から得られる会計上の数値に基づいたバリュエーションに⽐べて⼤幅に割安な企業がいくつか含まれています。組⼊上位ではセブン&アイ・ホールディングス、メガ損保グループなどが挙げられます。
 これらを考慮すると、当ファンドの実態的な平均PERは15倍程度まで下がると考えられ、TOPIXの平均とほぼ同じになります。⾔い換えれば、当ファンドは資本収益性や成⻑性が平均的な⽇本企業を⼤きく上回るにも関わらず、株価⽔準はTOPIXとさほど変わらないということです。⽇本株式市場は好調が続いていますが、当ファンド組⼊銘柄の株価に過熱感はないというのが⾒解です。
 来⽉の⽉次報告書では、当ファンドがいかに株式市場がまだ気づいていないところに⽬をつけ、割安感を⾒出すようにしているかについて説明させていただく予定です。

2023年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年12⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.23%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は⽇銀の植⽥総裁と氷⾒野副総裁両名の発⾔を受けて⾦融政策修正の思惑が⾼まったことや、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)のハト派の内容を受けて⽶⻑期⾦利が低下したことで、円⾼が進み下落しました。⽉後半は、⽇銀⾦融政策決定会合における⾦融緩和維持の決定が好感される場⾯もありましたが、年末の閑散相場もあって円⾼基調が継続する展開が重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.52%の上昇となり、参考指数の同0.23%の下落を0.75%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は信越化学⼯業、リクルートホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、ファーストリテイリングなどでした。
 2023年の運⽤成績を銘柄別寄与度でみると上位銘柄は三菱商事、⽇⽴製作所、ソニーグループ、東京エレクトロン、信越化学⼯業などでした。⼀⽅、下位銘柄はソシオネクスト、オリンパス、花王、メルカリなどでした。当⽉はこれらの銘柄のうち、⽇⽴製作所と三菱商事についてと、マイナス影響度の⼤きかったソシオネクストについてご説明をさせて頂きます。

日立製作所

 2021年7⽉⽉次報告書で新規投資銘柄としてご紹介した⽇⽴製作所は、その後概ね当ファンドの⾒解通りに状況が進展しています。投資を開始してから速やかにファンドの主要組⼊銘柄に引き上げた同社の株価は2021年末以降63.24%上昇し、これまでのところ順調と⾔えます。
 2016年に始動したLumada事業は当初から社外だけでなく社内でも実態の分かりにくいビジネスというイメージが強かったようです。Lumada事業は特定の技術やソフトウェアに依存したビジネスではありません。当ファンドでは、同社がハード(やシステム)の売り切り型ビジネスから決別し、コンサルから製品販売後のアフターサービスまで⾃社内のあらゆるリソースを駆使・動員してソリューション提案形式で収益を稼いでいくための「事業ブランド」と捉えています。別の⾔い⽅をすれば「⽇⽴がもつ⾊々なプロダクトやサービスを、⽇⽴がもつデジタル技術で横串を通すもの」(同社役員のコメント)とも⾔えるようです。このコンセプトを創り出したのは、惜しくも2021年に急逝した中⻄元社⻑の功績です。
 同社は事業ポートフォリオが広範囲に及びますが、圧倒的なシェアを持つ製品分野は殆ど持ち合わせていません。しかしコングロマリットだからこそ、ITシステムのノウハウや、社会インフラの制御ノウハウ、モノづくりノウハウなど多岐にわたっていることが、Lumada事業を可能にしています。また社内リソースは、過去10年のグループ再編を通じてGlobal Logic社(⽶国)や、⽇⽴エナジー㈱(旧ABB社)など新たなアセットを獲得したことで範囲が広がっていること、そして今後需要が伸びるであろうDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)分野をターゲットにしていることがポイントです。
 最近の総合電機業界では三菱電機㈱も、⾃社コンポーネントを顧客が利⽤することで⽣まれるデータを集め・分析して、製造業などに対して課題解決のためのソリューション提供する事業モデルを謳っています。富⼠通㈱もFujitsu Uvance事業で社会課題を明らかにすることで市場発掘し、⼩売、ヘルスケア、製造業界などを対象にSX(サステナビリティトランスフォーメーション)ソリューションを提供していくなど、似通った戦略が聞かれるようになりました。しかし⽇⽴製作所は電⼒インフラまわり(送電網)や鉄道システム関連など、他社とは差別化された注⼒領域を10年以上前に⾒いだし、すでに重点投資も進めてきたので、⼀⽇の⻑があると考えます。
 財務戦略⾯でも、経営陣のKPIは10年前に⽐べて明らかに変わってきています。「ROIC(投下資本利益率)」、「EPS(⼀株当たり純利益)成⻑率」、「フリーキャッシュフローのコンバージョンレート」など成⻑・資本効率性・キャッシュフローの3つに⼒点をおいた経営管理がなされているのは正しい⽅向と考えます。特にROICはここ数年、⽇本企業がこぞって経営指標として採⽤しています。ROE(株主資本利益率)の場合はどうしてもビジネス⾃⾝がもつ資本収益性だけでなく、当該企業の財務レバレッジ⽅針や、所在国における法⼈税率にも左右されてしまいます。当ファンドもROICやROCE(使⽤資本利益率)のほうが企業ビジネスを評価する上でより適切だという⾒解です。
 2024年3⽉期上期業績に⽬を転じると、売上39,248億円(前年同期⽐12%増)、調整後EBITA(※1)3,596億円(同492億円増)、調整後EBITAマージン9.2%(同0.3ポイント増)と堅調です。売上先⾏指標となる受注残⾼もデジタルシステム&サービスセグメントで約1.5兆円、⽇⽴エナジーセグメントで約3.9兆円と⼤変豊富であり、Lumada事業も2024年3⽉期通期⾒通しで売上全体の約3割、調整後EBITAの約4割を占めるところまで拡⼤しています。

※1:調整後EBITAは同社が重視する利益指標で、調整後営業利益から無形固定資産の償却費を⾜し戻し、持分法損益を加算したもの。調整後営業利益=売上-原価-販売管理費

 同社にとって成⻑に必要な駒は全て揃っていますので、今後は事業環境の追い⾵をうけて受注をどこまで積み上げていけるか、そして受注残をうまく売上・利益につなげられるか、現経営陣の執⾏⼒にかかっています。うまくいけば引き続き利益拡⼤だけでなく株価バリュエーションの切り上がりもありえると考えます。

三菱商事

 当ファンドは総合商社を、世界中に⼈的ネットワークを持つ投資事業会社であると考えています。豪州の資源権益や、東南アジアにおける⾃動⾞製造販売事業、北⽶での再⽣可能エネルギー事業、⽇本でのコンビニエンスストア事業など、今⽇の彼らのバランスシートは⼀般の投資家には⼿の届きにくい、世界的にも珍しい事業資産ポートフォリオを有しており、貴重な投資機会を提供してくれています。
 総合商社の収益源泉は1)⾃らの事業オペレーションによる利益のほか、2)投資先からの配当収⼊、3)関連会社からの持分法損益、4)資産売却や株式売却によるキャピタルゲイン、5)投資有価証券の未実現利益、および6)外貨建て資産の為替含み益など多岐にわたります。このうち、1)〜4)は損益計算書の当期純利益より上の項⽬に記載され、5)と6)はそれより下の包括利益計算書に記載されます。よって当ファンドは総合商社の業績を評価するには「当期純利益」ではなく、「包括利益」をみることが重要であるとの⽴場をとっています。
 また本源的価値の増減を評価する際には、⾃社株買いが積極的に⾏われるようになる以前は、包括利益が反映されている⼀株当たり純資産価値の増減を近似値として(配当などの社外流出を考慮した上で)判断していました。この視点でみると、当ファンドで⻑期保有している三菱商事は⼀貫して年率⼀桁後半〜10%程度のペースで成⻑を続けていたことがわかります。⾔い換えれば、同社は成⻑性の乏しいバリュー株ではなく、割安に放置されたグロース株(「隠れた成⻑銘柄」)であったということです。
 同社の業績は現⾏の「中期経営戦略2024」に対して順調に進捗しており、2023年度第2四半期時点では株主還元(配当と⾃社株買い)後でみたフリーキャッシュフローでも約6,400億円の余剰キャッシュ(累積ベース)が創出されています。近年の資源市況の活況によってもたらされていることに留意する必要はありますが、余剰キャッシュを更なる事業投資や株主還元にまわせるという意味で余裕含みの経営状況にあります。
 同中期経営戦略上の投資計画では再⽣可能エネルギーなどに約1.2兆円、DX・成⻑投資関連で約0.8兆円の資⾦投下を掲げています。これらの事業は垂直に⽴ち上がるものではなく、収益が通年でフル寄与するには時間がかかるでしょう。同社全体でみると、既存事業である資源事業の市況次第ではありますが、新規分野の投下資本に対する期待リターンを10%とすると、巡航速度としての利益成⻑率は⼀桁半ば程度ではないでしょうか。
 ⼀⽅、同社資源事業の中核である原料炭事業の中⻑期⾒通しは良好です。原料炭は鉄鋼原料であり、最も鉄鋼需要が伸びると期待されるインドに注⽬しています。現在の世界の粗鋼⽣産量ランキングで⾸位の中国は約10億トンと世界のおよそ54%を占めていますが、今後は経済発展が⽬覚ましいインドで、2030年までに粗鋼⽣産能⼒が約3億トンへ引き上げられる⾒通しです(2022年の粗鋼⽣産量は約1.25億トン)。とりわけ三菱商事がBHP Group社(豪州)との豪合弁会社BMA社を通じて⼿掛ける⾼品質原料炭(強粘結炭)は、鉄鋼産業による環境負荷を減らすためにますます重要になります。⾼品質原料炭が産出されるのは豪州や北⽶に限られており、BMA社は強粘結炭の海上貿易量の約3割のシェアと世界最⼤です。脱炭素化を考えると新規の鉱区開発は進みづらく、供給タイトな状況が続きそうです。資源事業の割合が⾼い三井物産㈱が⼿掛ける鉄鉱⽯も鉄鋼⽣産には⽋かせませんが、両者の違いは、鉄鉱⽯はインドでの⾃給率が⾼く中国は輸⼊に依存、逆に原料炭は中国での⾃給率が⾼くインドは輸⼊に依存しているところです。⻑期の景気低迷局⾯にある中国に⽐べ、より展望の明るいインドの恩恵を受けやすい原料炭のほうが魅⼒的と考えます。
 総合商社全般に⾔えることですが、各社ともROEを経営指標に掲げています。しかし事業の特性上、これはあまり適切でないと考えます。ROEは財務諸表上の「当期純利益」を「資本合計」で割ることで求められます。株主に帰属する資本に対して、どれくらい⾼い利益を上げているかを測る尺度ですが、問題なのは前述したように当期純利益には投資有価証券の含み益増減(FVTOCI(Financial assets at fair value through other comprehensive income)に指定したその他の投資による損益)や外貨建て海外資産の為替含み益(在外営業活動体の換算差額)増減が含まれていません。⼀⽅で、資本合計にはこれらの損益項⽬を含んでいる包括利益(配当などの社外流出分を差し引いたもの)が反映されているのです。つまり⼀般的なROE計算式では分⼦と分⺟に整合性がなく、当期純利益と包括利益の乖離が⼤きくなりやすい総合商社の場合はあまり有⽤でありません。具体的には、海外通貨⾼によって国外に保有する外貨建て資産の為替含み益が拡⼤した時や、投資有価証券の含み益が値上がりによって増加した時は、⾒た⽬のROEが下がってしまうことになります。しかしこれらは投資エグジット時には実現益になるものです。従って投資事業を⽣業としている総合商社であれば、単年度の経営成績に含めるべきだと考えます(※2)。

※2:⼀⽅、⾃動⾞メーカーのような製造業が保有する海外⼯場の外貨建て資産含み益が増えたとしても、投資エグジットするという経営選択肢は通常ないため、「その他の包括利益」を経営成績の⼀部としてみなすべきでないと考えます。

 なお5⼤総合商社各社のROEを当期純利益/資本合計と当期包括利益合計/資本合計の2通りで計算すると2023年3⽉期の各社ROEは以下の通りでした。

ROE
(当期純利益/資本合計)
ROE
(当期包括利益合計/資本合計)
伊藤忠商事 17.8% 19.4%
丸紅 21.2% 32.3%
三井物産 18.9% 20.5%
住友商事 16.2% 22.2%
三菱商事 15.8% 22.1%

 これをみると、三菱商事の「実質的な」ROEは22.1%とかなり⾼⽔準だったことが分かります。余談ですが、前期、前々期と当期包括利益合計/資本合計で計算したROEが最も⾼かったのは丸紅㈱でした。数年前まで丸紅㈱は総合商社のなかでは財務体⼒⾯(⾃⼰資本⽐率)で競合他社に劣後していると⾔われていましたが、実質的ROE30%超えが続いたので、他社よりも資本が速く積みあがりました。いつのまにか丸紅㈱の⾃⼰資本⽐率は競合他社並みに充実するようになったのは、これで説明できます。
 株主還元強化は2023年に堅調だった総合商社株のドライバのひとつです。累進配当の導⼊だけでなく、積極的な⾃社株買いを⾏ったことは、株価が⼀株当たり純資産価値を下回っていた三菱商事には特にプラスでした。PBR(株価純資産倍率)1倍割れで⾃社株買いすると⼀株当たり純資産が増えるため、結果としてPBRは⾃社株買い以前より下がります。割安感がさらに際⽴つため、投資家の注⽬を集めたという意味で株価に対する好影響は⼤きかったと評価できます。この議論は、当ファンドの損保株への投資と同様です。

ソシオネクスト

 2023年にマイナス影響度がもっとも⼤きかったのはソシオネクストでした。前期、今期と続いた⼤幅な増収増益が来期は踊り場になるという会社側の⾒通しが嫌気されたのが要因です。当ファンドが株価急落後に投資してからも下落基調が続きました。
 ソシオネクストは2022年に上場した半導体デザイン企業です。2014年にパナソニックホールディングス㈱と富⼠通㈱のSoC(System on Chip)事業が統合されて誕⽣し、2022年上場当初から、当ファンドが注⽬していた企業です。
 2023年7⽉に⼤株主であった⽇本政策投資銀⾏、パナソニックホールディングス㈱、富⼠通㈱の3社が持株売却を発表し、⽬先の需給悪化懸念から株価急落したタイミングで新規投資を⾏っています。
 ⾃社⽤半導体のデザイン設計を内製化しているApple社(⽶国)などを除けば、同社は業界最⼤⼿の1社です。ロジック半導体市場の中で、顧客メーカーの最終製品に組み込まれるカスタムSoCと呼ばれる半導体を開発・提供しています。
 同社売上には製品量産化前の開発段階において顧客から受け取るNRE売上(Non-Recurring Engineering売上)と、量産過程に⼊ったあとに計上される製品売上の2種類があります。NRE売上はデザイン設計部隊の規模(と⽣産性)に左右されますが、製品売上に移⾏すれば売上増に伴う費⽤増は殆どなく、限界利益率が⾼いのが特徴です。
 同社は2018年頃から組織改⾰と事業のグローバル化に舵を切って以降、顧客構成・獲得商談内容が急速に変化しました。製品売上の先⾏指標ともいえるNRE売上は、海外構成⽐が5年前の約3割から2023年上期は8割程度まで拡⼤しています。ノード別売上構成も最先端である5-7nm向けがほぼゼロでしたが現在は約6割まで上昇していることが確認できます。当ファンドはこれをポジティブとして捉えました。
 現在半導体産業では、半導体製造プロセスの技術⾰新のうち、前⼯程分野で所謂「ムーアの法則」(半導体集積回路の集積率は18ヶ⽉(または24ヶ⽉)で2倍になるという半導体進化の指針を与えた経験則)が限界を迎えつつあり、微細化ペースが緩慢になってきていることです。半導体性能を向上させ続けるにはパッケージ技術などの後⼯程分野や半導体デザイン設計の重要性が増しています。同社はデザイン設計を通じて半導体のPPA(※3)を向上させることができるのです。

※3:Power, Performance, Areaの略で半導体の性能向上にとって⽋かせない、より少ない消費電⼒(power)、より速い演算処理能⼒(performance)、より狭い⾯積への集積(area)を指します。

 最先端半導体を取り扱うカスタムSoCの成⻑性は特に期待されます。これまで携帯電話などアプリケーションに限定して機能を特化させたASSP(Application Specific Standard Product)と呼ばれる半導体が⼤きく伸びてきました。例えば私たちが使っているスマートフォンは多くのメーカーがQualcomm社(⽶国)の通信⽤半導体(モデムチップ)を使っています。しかし消費者の嗜好が多様化していくなかで、差別化されたエレクトロニクス製品を世に出したいハードウェアメーカーはカスタムSoCを選好するようになってきています。これらハードウェアメーカーにはニッチプレーヤーも多く、⾃社で半導体をゼロからデザイン設計するノウハウを持っていないため、ソシオネクストのようなプレーヤーのビジネス機会となっています。
 最先端半導体の採⽤が増えるなか、同社の受注案件が⼤型傾向にあるのもポジティブです。2023年度第2四半期決算説明資料によると、年間商談獲得⾦額が2018年3⽉期頃の約1,000億円から前期は約2,500億円程度と倍以上になっているのは、1件あたり300億円以上の案件が増えているためです。半導体の⾼度化・複雑化で開発費⽤が増えるため、搭載される最終製品の販売計画も⼤型化しているのです。⼀般財団法⼈計量計画研究所の調査によると、ノード別にかかる半導体開発平均コストは7nmでは249百万⽶ドルでしたが、5nmで449百万⽶ドル、3nmで581百万⽶ドル、2nmになると725百万⽶ドルまで増えていることから、業界統計との整合性もとれていることが分かります。このようなトレンドは固定費中⼼の同社ビジネスにとっては収益性の⾯でポジティブです。
 競合他社としては、台湾にGlobal Unichip社、Alchip Technologies社、Faraday Technology社などの上場企業が数社存在します。そのなかでもソシオネクストの差別化ポイントは、デザイン設計の川上から川下(アーキテクチャ設計、論理設計・回路設計、物理設計)まで全てをカバーできることです。このため、後⼯程(主に物理設計、そして論理設計の⼀部)のサービスしか提供できない競合に⽐べて潜在顧客は多いと思われます。また⽇本が地政学的に中⽴であることも優位に働くかもしれません。
 同社の強みは⼈材にあると思われます。⽇本の半導体産業が国際的に強かった時代に活躍していたベテラン半導体技術者などが約2,000名おり、⻑年の実績があります。⽇進⽉歩で⾼度化・複雑化している最先端半導体では、開発途中で⽋陥が⾒つかってしまうと、修正作業が⾮常に⼤変且つコストが⾼くつきます。同社は上場以前、安全⾯・品質⾯で最も厳しい⽔準が求められる⾃動⾞向け半導体で、⽇系メーカーから多くの商談を獲得していました。この分野で実績が豊富であることは競争優位性であると考えられます(※4)。

※4:この点は当ファンドが考える半導体製造装置メーカー(東京エレクトロンなど)の参⼊障壁に似ています。即ち、複雑な⽣産⼯程をもつ半導体産業は、不具合が発⽣したときの機会損失が⾮常に⼤きいため、製造装置の購買・発注担当者は業者選定の際、実績の乏しい新規メーカーへの発注を避け、経験豊富で⻑年取引関係にあるメーカーを優先する傾向があります。

 事実、今期も⽶国や中国EV(電気⾃動⾞)メーカーから⾃動運転機能や⾞内エンターテインメント機能に関するデザイン設計案件が増えています。最近の中国⼈消費者の嗜好性を⾒る限り、EVの選択基準はガソリン⾞と異なりソフトウェアまわりが中⼼です。つまり搭載される半導体(カスタムSoC)が重要な製品差別化ポイントになっているのです。中国景気は低迷していますが、現地EVメーカーは欧州、ASEANへの輸出にも積極的であるため、同社はその恩恵を受けるかもしれません。
 同社の商談獲得残⾼には、他にも通信機器、データセンター、スマートデバイス、産業機器向けがありいずれも成⻑分野です。また現時点では同社に⽬⽴った商談獲得実績はなさそうですが、昨今の⽣成AIブームが⽕付け役となり、AIサーバー向け半導体が脚光を浴びています。いずれ⽣成AIがデータセンター内のサーバーから末端デバイスのエッジコンピューティング⽤にAI専⽤半導体が幅広く採⽤されるようになれば、同社にとって追い⾵となるかもしれません。
 今期は踊り場ですが、同社業績は組織改⾰を経て中⻑期的に利益成⻑率が⾼まる局⾯にあると考えられます。半導体技術者数が台湾競合の倍以上を誇りながらも、⼀⼈当たり売上・利益では未だ低⽔準です。しかし、獲得商談のグローバル化で仕事量の増加と案件⼤型化に加え、技術者の⽣産性向上の取り組みなどにより、営業利益率は15~20%程度を⽬指せるのではないでしょうか。30%を超えるROEも可能かもしれません。
 さらに同社は研究開発型企業ということもあり、「⼀般試験研究費の額に係る税額控除制度」(各事業年度において、試験研究費の額がある場合に、その試験研究費の額に⼀定割合を乗じて計算した⾦額を、その事業年度の法⼈税額から控除することを認める制度)の恩恵を存分に享受しています(2022年3⽉期売上1,928億円に対し研究開発費493億円)。このため2023年3⽉期の実際の法⼈税率(「税効果会計適⽤後の法⼈税等の負担率」)は僅か15.5%でした。これは法⼈実効税率30.6%よりもかなり低いので同社が将来⽣み出すキャッシュフローを考えるうえで無視できないポイントです。
 フリーキャッシュフローについては、前期は案件が急激に増えてマスクブランクス(半導体デバイスを製造する元となるガラス基板)調達などコストが嵩んだこともあり、当期利益に対して低⽔準でしたが、本来はキャッシュを潤沢に⽣むビジネスです。経営陣の株主還元⽅針である連結配当性向40%程度、総還元性向50%程度を前提としてもキャッシュが積みあがっていくことが予想されます。
 当ファンドが投資リスクとして念頭に置いているのは、⼤⼿ハイテク企業(⽶国のApple社、Microsoft社、Alphabet社など)による半導体デザイン設計のさらなる内製化、⽶国のBroadcom社、Marvell Technology Group社(両社ともASSPメーカーであり、部分的にソシオネクストと競合)や台湾勢(前述した企業やMediatek社など)との競争激化、および同社が獲得した案件にキャンセルが発⽣することなどです。また獲得した案件で不具合が⾒つかり、同社のレピュテーションに傷がつくケースなども、評判が広がりやすい狭い業界ということもあり注意が必要と考えます。

2023年11月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年11⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐5.42%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)での政策⾦利の据え置きや、市場予想を下回る⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の低下を背景に上昇しました。⽉半ばは、⽇本企業の良好な決算や、市場予想を下回る⽶国のCPI(消費者物価指数)を受けた⽶追加利上げ観測の後退などから、⽉中⾼値をつけました。⽉後半に⼊ると、中東情勢の地政学リスクの後退や⽶⻑期⾦利低下等を好材料に上昇した後、⼀時1ドル=146円台後半まで進⾏した円⾼が重しとなって下落基調に転じましたが、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐5.63%の上昇となり、参考指数の同5.42%の上昇を0.21%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄はリクルートホールディングス、東京エレクトロンなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、ソシオネクストなどでした。
 2023年も残すところあと⼀か⽉となりました。当⽉は少し気が早いですが2024年を⾒据えて、近年⾏った銘柄⼊れ替えの振り返りと、今後の運⽤⽅針についてお話しようと思います。
 当ファンドにおける株式投資の考え⽅は「魅⼒的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」という⾮常にシンプルなものです。企業は株主から預かった資本でビジネスを運営しています。逆に株主は預けた資本を増やしてもらうことを期待していることになります。企業は利益を通じて富を⽣み出し、株主はその果実を株価上昇や配当として得ているのです。
 この⼤原則のもとに、当ファンドでは株主として⻑期保有していたいと思えるような企業を厳選し、その実態価値を計算します。そして市場で付けられている株価がその実態価値を下回っているときに投資し、出来るだけ⻑く保有することで資産を増やすことを⽬指しています。現在のポートフォリオには運⽤開始当初から保有を続けている銘柄も少なくありません。
 株式を⾦融資産としてみると、「クーポンが不規則に変動する永久債」であると当ファンドでは考えています。よって実態価値は多くの場合、債券や不動産の価値を計算するのと同じように、ビジネスが将来にわたって株主のために⽣み出すであろうキャッシュフロー(=クーポン)を予想し、その総合計を現在の価値に割り戻すことで求められます。
 このため当ファンドが考える「魅⼒的なビジネス」とは必然的にROE(株主資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)、ROCE(使⽤資本利益率)などの資本収益性が⾼く、平均(世界の名⽬GDP成⻑率)を上回る持続的な利益成⻑性を持ち、キャッシュフローをしっかりと⽣み出しているビジネスが中⼼となります。このような企業を当ファンドでは「魅⼒的な企業」、「強い企業」などと呼んでいます。
 投資対象を発掘する際には以下の7つの項⽬を重視します。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利⼦負債が少ない強固なバランス・シート
  • ⾼い参⼊障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な⾼ROEとそれに⾒合う利益成⻑
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを⽣み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

これまでのポートフォリオの変遷

 ⻑期投資を基本とする当ファンドですが、過去15年を振り返ると組⼊銘柄は少しずつ変化してきました。主に3つのフェーズに分けて説明できます。
 第1フェーズ:2000年代後半から2010年代半ば
 第2フェーズ:2010年代半ばから2021年
 第3フェーズ:2022年以降

 第1フェーズ(2000年代後半から2010年代半ば)におけるポートフォリオの特徴は「⽇本のモノづくり優位性」であったと思います。巨⼤ハイテク企業が君臨する⽶国と異なり、⽇本には世界に通⽤するソフトウェアや消費者ブランドはなかなかありません。しかし「匠の技」、「暗黙知」、「擦り合わせ技術」などの⾔葉に代表されるように愚直なモノづくりで、世界を圧倒する⾼品質製品を輸出することには⻑けています。⽇本企業の競争優位性であり、「⾼い参⼊障壁」にもなりうると考えます。
 当ファンドではこれまでキーエンス(ファクトリーオートメーションセンサ)、シマノ(⾼級⾃転⾞⽤部品)、アシックス(スポーツ⽤品)、ユニ・チャーム(紙おむつ、⽣理⽤品)、花王(⽇⽤品)、良品計画(⾐料雑貨)、ロート製薬(スキンケア化粧品、⽬薬)、ニデック(精密⼩型モーター)、テルモ(医療機器)、ミスミグループ本社(⾦型・機械部品)などへの投資を⾏いました。モノづくりというと、⾃動⾞など耐久消費財や資本財がクローズアップされますが、当ファンドでは消費財、医療機器、アパレルなどにも業種を広げてこの概念を捉えています。例えば、⽇本製の紙おむつ、ランニングシューズ、⾎管カテーテルなども品質の⾼さが武器となって、ブランドイメージに貢献し、グローバルで活躍できるビジネス群になっていると解釈できます。
 これらの銘柄のなかには、全て売却済みのものもあれば、かつての組⼊⽐率より引き下げて継続保有しているものもあります。また第1フェーズ以降でも、同じような視点に着⽬してファーストリテイリング(機能性ベーシック⾐料品)やダイキン⼯業(省エネエアコン)などに投資を⾏っています(※1)。
※1:もちろん、このフレームワークに当てはまらない組⼊銘柄もあります。例えば、三菱商事などが該当します。当ファンドが三菱商事を⻑期保有続けている理由は過去の⽉次報告書で述べたとおりです。

 第2フェーズ(2010年代半ばから2021年)では、無形資産に強みを持つビジネスへの投資を増やしました。
 ⽶GAFAM(Google,Apple,Facebook,Amazon,Microsoft)のようなハイテクプラットフォーマー達が持つ無形資産が、企業の優劣を決定するようになってきているという産業構造変化を受けてのことです。これらの企業にとって最も重要な資産は⼯場や店舗ではなく、⾃社開発したソフトウェア、アルゴリズム、コンテンツ、知的財産、顧客データ、オンラインプラットフォーム上に築き上げたネットワーク効果などです。個⼈や法⼈ユーザーにとってスイッチングコストが⾼く、⻑く使われ続けるサービスを提供しているこれらの企業は、資本収益性と限界利益率の両⽅が⾮常に⾼く、且つ市場規模が膨⼤であるのが特徴です。このように3拍⼦揃ったビジネスはあまり存在しません。またプラットフォーム型のビジネスは、ネットワーク効果によってユーザーにとっての有⽤性が指数関数的に⾼まるため、売上規模が増えても収益逓減の法則が働きにくいのも魅⼒です。
 当ファンド組⼊銘柄では、リクルートホールディングスがインターネットを活⽤した多岐にわたる広告媒体を展開し、ソニーグループはネットワーク効果が発揮されるプレイステーション事業や豊富なコンテンツを武器に⾳楽、映画事業を推進しています。⽇⽴製作所は単なるハードウェア売切型ビジネスからLumada事業において顧客データを収集・分析し、ソリューションを提供する事業モデルに転換中です。
 第3フェーズは2022年からでした。もともと当ファンドでは数年前から始まった世界的なインフレとそれに伴う⾦利上昇は⼀時的なものと考え、既存組⼊銘柄を継続保有していく⽅針でした。これらの銘柄は所謂「グロース株」と呼ばれ、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの尺度でみた株価バリュエーションが市場平均よりも⾼い銘柄が中⼼でしたが、資本収益性、利益成⻑率とも⼀般的な⽇本企業を⼤きく上回り、財務内容も強固であることから、超低⾦利環境が続く⽇本では株価は理論上、正当化されるとの⾒解でした。
 しかし時間が経つにつれ、インフレ現象や⾦利上昇が⼀時的ではないことがはっきりしてきました。とりわけ、海外投資家の参加⽐率が⾼い⽇本株式市場では、国内⾦利だけでなく、海外⾦利(特に⽶国⾦利)上昇の影響が⼤きいことを重要視しました。現在⽶国のリスクフリー⾦利(⽶国債)は短期、⻑期とも5%弱程度で推移しています。海外勢にしてみれば、将来の不確実性が伴う株式に投資するよりも無リスク債券である⽶国債利回りに魅⼒を感じる投資家は多いはずです(※2)。当ファンドでは、「⽇本株の投資環境は過去15年間と今後15年間では⼤きく異なってくる可能性がある」と考えを改めました。判断が遅れたため、2022年の運⽤成績が振るわなかったのは反省材料ですが、これがポートフォリオの変更を⾏うきっかけとなりました(※3)。
※2:理論上は⽶ドルベースの投資家が⽇本株への投資する際は、⾦利パリティのメカニズムが働くため、イールドスプレッドは円ベース投資家と同じになるはずですが、現実の世界ではそのようになりません。同じ理由でドル円キャリートレードが盛んに⾏われています。
※3:ポートフォリオ変更を始めたころの⽶国債の⾦利は2年債約2.6%、10年債約2.8%、30年債約3.0%でした。

 2022年以降のポートフォリオ変更としては、まず既存銘柄であった三菱商事の組⼊⽐率を⼤幅に引き上げたことに始まり、その後新規銘柄として東京海上ホールディングスを筆頭とするメガ損保グループ3社、オリックス、三菱UFJフィナンシャル・グループなどを組み⼊れました。これらの銘柄は⼀般的に「バリュー株」と⾔われますが、当ファンドでは株式市場で広く理解されていないという意味を込めて「隠れた成⻑銘柄」と呼んでいます。
 第1、2フェーズでポートフォリオ⼤半を占めた「純粋な成⻑銘柄」と異なり、これら「隠れた成⻑銘柄」が持つ魅⼒は、

  • 「純粋な成⻑銘柄」に⾒劣りするものの、世界の名⽬GDP成⻑率を上回る事業利益成⻑
  • ⻑期持続可能な⾃社株買い・消却によって上乗せされる⼀株当たり利益成⻑
  • 相対的に⾼い配当利回り

 という3つの株式リターンの源泉を⾜し合わせると年率期待リターンが10%強になるところです。これは当ファンドが持つ「純粋な成⻑銘柄」の期待リターンに匹敵するレベルです。「純粋な成⻑銘柄」の場合、事業成⻑性は⾼くても、株価⽔準そのものが⾼いうえ、成⻑資⾦が必要なことも多く、⾃社株買いをする余裕がないか、もしくはしたとしてもインパクトは限定的です。また同じ理由で、配当利回りも市場平均を下回るケースがほとんどです。よって、株式リターンの源泉はほぼ全てが事業利益成⻑のみに依存していることになります。加えて、2010年代の⾦利低下局⾯でみられた継続的なバリュエーション切り上がり(PERの拡⼤)についても、もはや期待しにくい状況です。株式益利回りと無リスク債券利回りとのイールドスプレッドが縮⼩している環境下では、株価バリュエーションが市場平均並みかそれを下回るような投資対象を選好しなくてはなりません。これが「隠れた成⻑銘柄」へシフトした理由です。
 もちろん、この期間に「純粋な成⻑銘柄」に対する投資を全て避けていたわけではありません。例えば、東京エレクトロンは世界を代表する半導体製造装置メーカーです。当ファンドは、2022年秋の⽶中半導体貿易摩擦が勃発し、世界的に半導体関連株が⼤幅下落した局⾯で投資しました。同社は、⾃社株買いも少なく、配当利回りは市場平均に及びませんが、実績をもとにした⻑期利益成⻑⾒通しは⽇本の⼤企業のなかではトップレベルだと考えます。
 この第3フェーズにおける重要な時代認識は「インフレの常態化」と「⾦利の正常化」です。当ファンドは、向こう12か⽉程度は⼀旦インフレ減速、⾦利の落ち着きがみられたとしても、⻑期的には株式市場および⽇銀が想定しているよりも国内インフレが⾼⽌まり、もしくは上振れする可能性があると考えています。すでに前⽉、前々⽉の⽉次報告書では⾼齢化、⼈⼝減少による労働⼒不⾜を構造的インフレ要因として説明しましたが、他にも将来のインフレを彷彿させる⽇本固有の事象はここかしこに⾒られます。
 例えば、昨今の輸⼊物価⾼がインフレ圧⼒となっていますが、円安が他の経路を通じてインフレを引き起こすこともありそうです。世界最⼤級の半導体受託製造メーカーであるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company社(台湾、以下「TSMC社」)が熊本⼯場建設、メモリ半導体メーカーであるMicron Technology社(⽶国)が広島⼯場の拡張を⾏っていますが、これらは海外から⽇本への対内直接投資における⼤きな潮⽬の変化だと考えます(※4)。
※4:⽇本はGDPに占める対内直接投資残⾼(約40兆円)の⽐率が⼀桁台に留まっており、国際的にかなり低い⽔準です(2021年時点で201か国・地域中198位(出所:国連貿易開発会議(UNCTAD)))。伸びしろは⼤きく、⽇本の輸⼊ペネトレーション(国内総供給に占める輸⼊の割合)を改善するためにも、もっと増えることが望ましいと考えています。

 海外メーカーにとっては、⽇本が地政学的に安全であることに加え、円安によって外貨ベースでみた設備投資負担が軽くなり、優秀な⽇本⼈技術者を低コストで採⽤できるなどが背景にあるのは容易に想像できます。とりわけTSMC社は⽶国アリゾナ州でも⼯場を完⼯させようとしていますが、⼯事現場での⼈材問題などを理由に⼤幅遅延となっているのに対し、⽇本では建設業者による綿密な⼯程管理のもと、進捗状況が際⽴って良好と⾔われています。このため、第1⼯場完⼯が間近ななか、すでに⽇本で第3⼯場まで建設する⻘写真を描いているようです。TSMC社の台湾本社社員にとっても⽇本のほうが⽶国よりも距離が近いことから、⽇本への誘致は様々な⾯で引き続き有利に働きそうです。さらに北海道では最先端の国産半導体を⽬指すRapidus㈱による新⼯場建設も進んでいるのは周知のとおりです。
 これら半導体新⼯場の周辺には通常、部材メーカーや製造装置メーカーなども集積してきます。すでに多くの関連メーカーが新たな進出・拡張を決めており、半導体産業全体の投資規模は10兆円近く(⽇本の名⽬GDPの2%弱)に及ぶのではないかと推察されます。TSMC社が進出した熊本県菊陽町では交通渋滞が⽇常化し、地価の⼤幅な上昇もみられ、インフレ要因になっているのは明らかです。⼯場投資は雇⽤を⽣み出し、地元経済に波及効果をもたらすので、実質賃⾦の上昇を伴った「良いインフレ」となるモデルケースになるかもしれません。
 また以前にも触れたとおり、東証による上場企業のPBR1倍割れ解消の取り組みに関しては、労働⽣産性の改善が、ROE改善につながり、それが株価上昇につながると指摘しました。そして労働⽣産性の改善には、⽇本企業の場合は、国際的にみて低位に留まる国内のモノやサービスの値段について本来の価値に⾒合った値上げをし、適正な利幅を確保することが重要と述べました(※5)。つまり今回の株式市場改⾰は副次的にインフレをもたらすものであると⾔えるでしょう。これらは数年前までは誰も想定していなかったインフレ要因です。
※5:⽇本製鉄㈱、JFEホールディングス㈱など⽇本の鉄鋼メーカーは2020年代にはいって業績が⼤幅に改善しましたが、最⼤の要因は圧倒的な⾼品質にも関わらず、国際的にみて割安であった⾃動⾞⽤鋼板などの国内価格(所謂、ひも付き価格)を「不退転の決意」で底上げしたことでした。

2024年に向けた投資戦略

 以上のような時代認識を踏まえた、現在のポートフォリオの特徴は次のとおりです。
 まず2022年以降に進めた銘柄⼊れ替えの結果、業種としては⾦融業関連の組み⼊れが増えています。これらの銘柄は事業内容がそれぞれ異なり、幅広く分散されていると考えます。具体的には、

  • メガ損保グループ3社:景気動向よりも⾃然災害などに業績の相関性が⾼く、ポートフォリオ分散効果ももたらしてくれる
  • オリックス:関⻄国際空港運営や国内ホテル旅館事業を通じて訪⽇観光客増の恩恵を受け、不動産や再⽣可能エネルギー事業での含み益も併せ持つ
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ:国内⾦利正常化の恩恵を受ける
  • ⽇本取引所グループ:東京証券取引所、⼤阪取引所、東京商品取引所の運営を独占的に⼿掛ける

 などが含まれます。
 アクティブウェイト(東証株価指数(TOPIX)における時価総額ウェイトと⽐較した相対的な組⼊⽐率)に⽬を転じると、現在の最⼤組⼊銘柄はメガ損保グループ3社(合算ベース)となっており、次いで個別銘柄として⽇⽴製作所、セブン&アイホールディングス、三菱商事、ソニーグループ、オリックスなどとなっています。また東京エレクトロン、信越化学⼯業、ルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト、HOYAなどを⼀括りでみれば、半導体関連がアクティブウェイトで最⼤になっているという⾒⽅もできます。今後も差別化されたポートフォリオを意識し、運⽤を継続していく⽅針です。
 当ファンドはこれら全ての企業が魅⼒的なビジネスを有していると考えます。したがって、参⼊障壁が維持され、株価バリュエーションが妥当であれば、2024年も保有を続ける⽅針です。⼀⽅、外部環境が⼤きく変化し、組⼊銘柄のビジネス参⼊障壁にほころびがみられる場合や株価バリュエーションに極端な過熱感がみられる場合、或いは新たな投資機会が発掘された際には、躊躇せずに銘柄⼊れ替えを⾏う可能性もあります。
 2024年の⽇本株を取り巻く外部環境は海外と⽐較して良好な⾒通しであると考えます。例えば、

  • 2019年のピーク時にGDPの約1%を占めていたインバウンド関連業界の復活、そして成⻑軌道へ回帰
  • コーポレートガバナンス改⾰を通じた資本収益性の向上によって⽇本企業が再評価(⽇本株全体のPER切り上がり)される可能性
  • 諸外国では敬遠されるインフレ深刻化が⽇本ではデフレからの脱却としてポジティブに捉えられること

 などはいずれも⽇本株だけにしかない独⾃の追い⾵です。
 これらに加えて、来年も企業による積極的な賃上げが⾏われれば実質賃⾦成⻑率がプラスに転じ、ゾンビ企業淘汰という痛みを伴う可能性がある「⾦融政策の正常化」に⽇銀が踏み切ることができれば、かなりポジティブだと考えます。

最後に

 当⽉は⽇本株が再び1989年バブル崩壊前の史上最⾼値に近づいていることが話題になりました。現在の⽇本株市場は、1989年12⽉に記録したTOPIXの史上最⾼値より17%ほど低い⽔準にあります。これをみて、⽇本株がいまだにバブル崩壊前を超えられていないというのは若⼲正しくありません。実は配当込み指数でみれば、史上最⾼値をすでに3割ほど上回っているのです。
 またバブル崩壊前との⽐較の際には、新聞などの報道で⼤抵、⽇経平均株価が使⽤されますが、当ファンドではTOPIXが参考指標として相応しいとの⽴場です。前者は定期的な採⽤銘柄⼊れ替えがあり連続性にやや⽋けることや、225銘柄のみしか反映しておらず、且つ株価単純平均型の指数であるからです。TOPIXはより網羅性が⾼く、時価総額加重平均型の指数となっています。
 実質的に史上最⾼値にある⽇本株といえども、欧⽶との株価パフォーマンス格差が歴然であるのは変わりません。1989年末から当⽉末にかけて欧州の株価指数(FTSE All Shares Index)は約3倍、⽶国(S&P500)にいたっては約13倍にもなっています。海外との⽐較では、⽇本株の潜在的な⻑期上昇余地はまだまだ⼤きいと⾔えるかもしれません。
 ⽇本株市場の中味も、1989年当時に⽐べると⼤分様相は異なります。かつては時価総額上位20社のうち半分以上が都銀や⻑信銀でしたが、今ではトヨタ⾃動⾞㈱、ソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、東京エレクトロンなどの国際優良株が中⼼です。万が⼀、⽇本経済が衰退傾向に陥ったとしても過度な⼼配は不要と考えています。
 さらに当時は、「バブル」と⾔われていたことからも分かるように、株価の裏付けとなる企業利益が乏しく、PERが今よりかなり割⾼でした。⼀⽅、今⽇はPER15倍程度と「より地に⾜の着いた」バリュエーションであると⾔えます。これも2024年以降の⽇本株に対して当ファンドが「慎重ながらも楽観的(cautiously optimistic)」な⾒⽅をしている理由となります。

 来⽉は2023年暦年の組⼊銘柄のパフォーマンス振り返りを⾏う予定です。

2023年10月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年10⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐2.99%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は堅調な⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の変動や、中東情勢の緊迫化などを受け乱⾼下の展開となりました。⽉後半に⼊ると、中国の景気刺激策が好感される場⾯があったものの、⽇銀の政策再修正への思惑や⽶テクノロジー企業の低調な決算への失望が株式市場の重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.09%の下落となり、参考指数の同2.99%の下落を0.90%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は信越化学⼯業、⽇⽴製作所などでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。
 当ファンドでは2022年末ごろからメガバンク株への投資を開始しました。2021年6⽉の⽉次報告書では、⽇本の銀⾏株について投資魅⼒に⽋けると述べたことがありますが、それ以降、株式市場と⽇本の銀⾏業をとりまく環境が⼤きく変わりました。およそ40年ぶりの世界的な⾼インフレとそれに伴う⾦利上昇によって、ゼロ⾦利政策が続く⽇本にも「⾦利がある世界」がやって来るというシナリオの現実味が増してきたのです。過去数年、超低⾦利が続く中でも最⾼益を達成できるほど筋⾁質になった邦銀は、今後の⾦利上昇次第で、利益⽔準が格段にあがる可能性が出てきたと考えます。
 どれくらいの利益拡⼤を期待し得るのか議論する前に、そもそも当ファンドが銀⾏業をビジネスとしてどのように⾒ているかをお話します。
 銀⾏が基幹業務として⼿掛ける預⾦・貸出・決済業務などは、⼀般消費者の⽇常⽣活、企業の⽇常業務にとってなくてはならないものです。先進国であれば、顧客の裾野はほぼ例外なく全ての消費者、企業に広がっており、市場規模が膨⼤です。
 これらの事業を円滑に運営するために、銀⾏は⾮常に多くの⼈的資源、⽀店網などの有形固定資産、ITシステムなどの無形資産を必要とするため、銀⾏ビジネスは装置産業ともいえます。また⼀国の経済中枢にかかわる役割を担っているため、銀⾏を営むには免許制などで認可されなくてはなりません。このことから、新規参⼊者が銀⾏業をいきなり始めるのは難しく、業種としての参⼊障壁は⾮常に⾼いと⾔えます。
 ⼀⽅、既存銀⾏同⼠においては競争が激しいという負の側⾯があります。なぜなら預⾦や貸出サービスは他⾏との差別化が難しいからです。従って、⼀般的に投下資本から得られる銀⾏業の収益性は他の産業に⽐べて低くなります。このような事業で⾼いROE(株主資本利益率)を実現するためには、レバレッジをかけることが求められます。これが、銀⾏業の⾃⼰資本⽐率が他の産業よりも低く、ひとたび経営判断を誤ると、利益へのマイナスインパクトが増⼤化されてしまう理由です。
 当ファンドが考える、株主として魅⼒的な銀⾏を選ぶ基準は次のとおりです。
 ⼈々が安⼼して預⾦を預けられるブランド⼒があるか
 安全性、利便性に裏打ちされたブランド⼒があれば、銀⾏は低コストで資⾦調達することができます。
 健全な貸出業務を⾏っているか
 貸出実⾏後すぐに貸出⾦が不良債権化することはまずありません。⼀⽅で、利息収⼊は貸出実⾏後に直ちに発⽣します。このため融資担当者は⽬先の利益を増やす誘惑にかられて、リスクを度外視した貸出に⾛ってしまうことが多々あります。規律のきいた貸出を⾏っているか、与信先の信⽤リスクに⾒合った⾦利を適⽤しているかを重要視します。
 コスト管理能⼒に優れているか
 既存プレーヤー同⼠の激しい競争によって収益性が必ずしも⾼くない銀⾏業では、低コスト経営を徹底することが求められます。

 前述の基準に合致する銀⾏として、当ファンドでは三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)を組み⼊れています。同⾏は、国内最⼤規模を誇る3⼤メガバンクのひとつです。2022年度末時点で預⾦量約214兆円、貸出資産約110兆円、従業員約12万⼈、個⼈顧客約3,400万⼈、法⼈顧客約110万社、国内拠点436か所、海外拠点約1,600か所を誇ります。
 過去の⽉次報告書では、銀⾏はローカル⾊が強いビジネスであり、グローバルで活躍できる企業とは⾔いにくいと述べました。しかし、地銀に⽐べてMUFGは海外のプレゼンスが⾼いのが特徴です。歴史上、外資系銀⾏のグローバル展開は苦戦が⽬⽴ちますが、MUFGは海外利益がすでに全体の半分弱を占めていること、⽶国の名⾨投資銀⾏であるMorgan Stanley社を持分法適⽤会社として傘下に抱えていることなどは特筆すべき点です。
 Morgan Stanley社については、2007年頃にサブプライムローン危機で⽶⼤⼿⾦融機関が軒並み経営危機に⽴たされたとき、MUFGが⽣き⾺の⽬を抜くように出資に踏み切ったという経緯があります。邦銀のM&A史上最も成功した取引とも評価されており、2022年度も持分(簿価)に対して12%相当の持分法利益を計上し、MUFG全社平均ROEを上回る収益性を誇っています。本案件は、MUFG経営陣の先⾒性および執⾏⼒の⾼さが表れているとも⾔え、当ファンドが重視する「卓越した経営陣」の条件を満たしていると考えます。

国内⾦利の正常化

 当ファンドにとって理想の投資対象は、あくまでマクロ経済に左右されないビジネスですが、今回の銀⾏株投資では、⾦利⾒通しを前提に、利益成⻑性を議論することが避けて通れません。なぜなら、現状の低⾦利環境のままでは、邦銀の収益⼒は低すぎると考えるからです。
 MUFGの資産規模は⽇本の銀⾏として最⼤です。2023年3⽉末時点の総資産は約387兆円あり、グローバル銀⾏として有名なHSBC Holdings社(英国)に匹敵、時価総額が世界最⼤の銀⾏であるJPMorgan Chase & Co.社(⽶国)のおよそ8割程度と世界的にみても有数のスケールを持ちます。⼀⽅、資本収益性の⾯では、HSBC Holdings社とJPMorgan Chase & Co.社は総資産に対して約1%程度に相当する純利益をあげているのに対し、MUFGのそれは約0.3%しかありません。
 邦銀のROA(総資産利益率)が低い理由のひとつは、⽇銀への預け⾦(⽇銀当座預⾦)が巨額に上っているためです。これらにはほとんど利息が付かないため(⼀部は付利がマイナス)、邦銀バランスシート上の資産としては「死⾦」といえます。MUFGの場合、総資産に占める⽇銀当預(⽇本銀⾏が取引先の⾦融機関等から受け⼊れている当座預⾦)は約75兆円、総資産の約2割を占めています。
 しかし、およそ20年ぶりともいえる国内の物価⾼現象をきっかけに、ようやく⾦利上昇の兆しがみえてきました。マイナス⾦利が続いてきた⽇本ではむしろ⾦利環境が「正常化に向かう」というのが正しいかもしれません。今までが「異常」であって、「正常」な状況に戻ることは妥当なことと⾔えます。これは今後の銀⾏ビジネスにとってポジティブと考えます。ROAでみたMUFGとHSBC Holdings社の違いはわずかにみえますが、巨⼤な総資産(うち9割程度は⾦利上昇の恩恵を受ける資産と想定)の規模を考えると、わずかな⾦利上昇でも⼤きな利益を⽣み出せることを忘れてはなりません。
 例えばMUFGの⽇銀当預が収益を⽣む「働くお⾦」として、仮に40兆円(⽇銀当預の約半分)が国債への投資あるいは貸出にまわり、保守的に0.5%の利ザヤが得られるという前提を置けば、同⾏の税引後連結純利益に対する増益効果は1,400億円(40兆円x0.5% x70%)となります。また⽇銀当預全額が1%程度の利ザヤを得るとすれば、5,000~6,000億円程度の利益上乗せとなります。これは2023年3⽉期の連結純利益からから5割前後の増益を意味します。
 また「⾦利がある世界」では、既存の貸出資産の利ザヤ改善も⾒込まれます。例えば、同⾏の国内貸出⾦残⾼約67兆円に対して、利ザヤが0.5%改善すれば約2,300億円の増益、1.0%程度の改善なら5,000億円近い増益となります。⽇銀当預のシフト効果とあわせて最⼤1兆円超、連結純利益が増える計算になります。即ち、現在の利益⽔準がほぼ倍になるということです。
 なお⾦利には、名⽬⾦利と実質⾦利がありますが、銀⾏業績を予測するうえで重要なのはあくまで名⽬⾦利です。名⽬⾦利は実質⾦利にインフレ率を加えたものなので、インフレ率が想定以上に⾼くなれば、実質⾦利が低下することで国内の緩和的⾦融環境は維持され、名⽬上の⾦利は引き上げられる余地がでてきます。⽇本が不況に陥ることなく⾼い名⽬⾦利が許容されれば、銀⾏業績は1%の利ザヤ改善を⼤幅に上振れるシナリオも考えられます。
 「⾦利がある世界」では銀⾏の⾮⾦利収⼊にも副次的な恩恵をもたらすでしょう。例えば、⾦利の先⾼観からデリバティブビジネスでは⾦利スワップによる借⼊⾦利の固定化ニーズの増加が考えられます。証券⼦会社では企業の起債ニーズが増えるかもしれません。⾦利が正常化することで事業環境が変化し、M&Aなどの動きが活発になれば投資銀⾏関連の⼿数料増加も期待できます。
 以上を総合的にみれば、MUFGを始めとする国内メガバンクの収益改善は⾮常に⼤きなものになる可能性があります。

⽇本経済の中⽴⾦利

 前述の⾦利上昇(利ザヤ改善)前提は妥当でしょうか。
 近年の⽇本経済のトレンドにおいて

  • 実績インフレ率(コアCPI)が3%超で推移していること
  • ⽇銀のインフレ⽬標が2%であること
  • ⽇本経済の需給ギャップがゼロ近辺にまで改善していること
  • 物価連動10年国債からみる⽇本の期待インフレ率が1.2%を超えてきており、2014年以来の⾼⽔準にあること
  • 前⽉の⽉次報告書で述べたように⼈件費などの国内インフレ要因は⼀過性でなく構造的であること
  • ⽇本経済の潜在成⻑率が最低でも0.5%程度と推定されること

 などを勘案すると、⽇本の中⽴⾦利(理論上、経済を過度に冷やさず且つ過熱させない均衡のとれた⾦利⽔準)が2%程度に上昇しても不思議ではないと考えます。よって、前述の1%利ザヤ改善シナリオはさほど⾮現実的とは⾔えないのではないでしょうか。
 とりわけ国内インフレに関して確実に⾔えることは、⽇本が⼈⼿不⾜の時代に突⼊したということです。2011年ごろから総⼈⼝の減少が始まったことで、働き⼿の減少が危惧されましたが、過去10年は⾼齢者の雇⽤期間延⻑※や⼥性の労働参加率上昇が⽳を埋めたため、労働⼈⼝全体として横這いを維持できました。しかし、この効果もいよいよ限界に達しつつあります。抜本的な海外移⺠受け⼊れ政策が議論されていない以上、恒常的な労働⼒不⾜になるのはほぼ間違いないでしょう。これからは⼈⼿を確保するために企業は賃⾦を上げていかざるを得ません。また⼈間の働き⼿が⾜りない以上、⾃動化などを通じた⽣産性改善も不可⽋です。これは⽇本国内における設備投資動向の底上げを意味し、資⾦需要の増加につながると思われます。これらの理由から、⾦利が上昇する蓋然性はかつてないほど⾼まっています。

※当ファンドでは、⽇本の労働⼒不⾜問題を解決するために、定年退職という慣⾏は廃⽌すべきであるとの⽴場です。英国では労働⼈⼝の下⽀えやGDP成⻑率への寄与を⽬的に、2011年から定年退職制度は廃⽌されています。

リスク

 ⾦利上昇による⽇本経済への弊害、あるいは⾦利上昇を押さえつける潜在的要因については何が考えられるでしょうか。
 まず企業部⾨の⽀払利息への影響からみていきます。⽇本において資本⾦10億円以上の⼤企業では、2022年度営業利益合計約37.7兆円に対し⽀払利息は3.7兆円(推定借⼊⾦利約1%)ですので、⾦利上昇による借⼊コスト増の吸収は⼗分可能と思われます。しかし、資本⾦50百万円未満の零細企業は営業利益合計7.7兆円に対し、⽀払利息は2.3兆円にも上ります。よって、⾦利が上昇すれば⾮効率な経営を続ける零細企業の経営は厳しくなるかもしれません。経済にとって少なくとも短期的にはマイナス要因になり得ます。当ファンドはいわゆる「ゾンビ企業」が淘汰されることはデフレ脱却を確実なものにするために必要不可⽋との⾒解です。痛みを伴うかもしれませんが、政策対応と企業の⾃助努⼒によって⽇本が乗り越えなくてはいけないハードルでしょう。なお、2023年3⽉期末のMUFGの与信関係費⽤⽐率(与信関係費⽤総額/期末貸出⾦残⾼)は0.62%、不良債権⽐率1.26%と極めて健全です。
 家計部⾨では住宅ローンが懸念材料です。⽇本は⽶国などに⽐べて変動⾦利型の割合が7割以上と⾼いので、⾦利が本格的に上昇し始めれば、家計は苦しくなる恐れがあります。しかし、⽇本の新規住宅ローンの平均⾦額は30百万円前後ですので、現在返済が進んでいる⼀般的な住宅ローンの平均残⾼は20百万円以下と推察されます。仮に1%⾦利が上昇した場合、毎⽉の利払い増加額は15,000円程度です。継続的な企業による賃上げが実現できれば、家計にとって吸収可能なレベルです。加えて⽇本では、変動⾦利型住宅ローンの⾦利が上昇しても、5年間は毎⽉返済額が変わらないというルールがあります(毎⽉の返済額トータルは⼀定なまま、利息部分が増加・元本部分が減少。減額調整された元本はローン期限までには完済される)。さらに、6年⽬からの返済額はそれまでの返済額に対して125%が上限になるというルールもあります。以上のことから、家計が急激に悪化することはなく、こうした時間の猶予のなかで、家計は新たな⾦利環境に適応していけると考えます。
 国債市場にもリスクがあります。⺠間銀⾏からの⽇銀当座預⾦は総額500兆円を超えるので、需要サイドとして国債を買う待機資⾦は巨額です。⼀⽅供給サイドは、財政⾚字に伴う新規国債発⾏額が年35兆円程度、さらに⽇銀が保有国債のうち、満期到来分を再購⼊しないと仮定すれば年65兆円程度、合計で100兆円程度が⺠間銀⾏が1年間で買える⾦額となります。即ち、国債需給の観点からすると、買い需要が供給を⼤きく上回る状況が想定され、⻑期⾦利の頭を抑える要因になるかもしれません。そうなると銀⾏の収益は期待したより改善しないことも考えられます。
 ⺠間銀⾏にとっては、購⼊した国債が⾦利の更なる上昇で含み損を抱えることを懸念する向きもあります。しかし、MUFGの国債残⾼(総額37兆円、うち満期保有区分は13.5兆円)のデュレーションは2023年3⽉末で1.5年とかなり短期化しているので、デュレーションをやや⻑めにし、満期保有⽬的の残⾼を増やすことも含めて少しずつ国債の買いを積極化させる動きがあってもいいと当ファンドでは考えます。満期保有⽬的債券の含み損拡⼤懸念というと、今年3⽉に発⽣したSilicon Valley Bank社(⽶国)での取り付け騒ぎが想起されますが、邦銀の預⾦属性(⼩⼝預⾦を幅広く集めており、⽇常的に必要な⽣活必需品的な側⾯が強い)や、現時点の保有債券デュレーションの短さを考えると、取り付け騒ぎによる流動性危機や、過⼩資本に陥るリスクは低いと考えられます。
 銀⾏の預⾦調達サイドのリスクとしては、世の中の⾦利が上昇すれば、預⾦⾦利引き上げを余儀なくされることが挙げられます。最近ではネット銀⾏のように低コストを武器に⾼利率の預⾦商品を掲げる新興勢⼒の台頭もあります。しかし、邦銀では貸出需要を遥かに上回る預⾦量があるので、メガバンクが資⾦を確保するために、預⾦⾦利を⼤幅に引き上げるリスクは⼩さいと考えます。とりわけ⼤半の⼈々にとって銀⾏⼝座は⽇々の⽀払いや、給与受け取りをするための⽣活必需サービスであることから、預⾦⾦利の違いで他⾏に移すことは起こりにくいでしょう。当ファンドではこのような「スイッチングコスト」が⾼い点も銀⾏業の魅⼒として評価しています。
 この他にも、⽇銀当預に対する付利引き上げによる収⽀悪化や、⻑期⾦利上昇によって⽇銀が保有する国債が含み損を抱えることで、中央銀⾏としての財務内容が債務超過になるなどの副作⽤も考えられます。極端なシナリオとしては、円通貨の暴落や、ハイパーインフレ、国⺠負担の増加などが想定されますが、⽇本は⾃国通貨で通貨を発⾏できることや、国全体としては純債権国であること、⽇銀の信認が即座に失われる可能性は低いことから、⼤きな問題に発展する確率は極めて⼩さいと考えられます。

株価バリュエーション

 年初から株価が上昇しているMUFGを含む邦銀株ですが、世界的にみて株価は未だに割安と⾔えます。このことを総資産に対する時価総額の⽐率を使って説明すると、前述の銀⾏ではJPMorgan Chase & Co.社で約10%、HSBC Holdings社で約5%に対して、MUFGは3%しかありません。つまり、MUFGは、HSBC Holdings社並みに評価されるだけで時価総額は5割以上のアップサイドがあります。⾔うまでもなく、⾦利上昇による業績拡⼤も株価上昇要因になります。
 MUFGを始めとする邦銀の利ザヤおよびROAは今後、低い⽔準から改善する⽅向にあります。⼀⽅、JPMorgan Chase & Co.社などの⽶銀はすでに利ザヤが⾼い⽔準にあることから、伸びしろは限定的と判断されます。むしろ、⽶景気が減速傾向にあることを考えると、ROAには下⽅圧⼒がかかっていると当ファンドでは考えます。
 MUFGと同等か若しくはより割安な海外銀⾏株としては、中国のIndustrial and Commercial Bank of China社(時価総額/総資産=約4%)や韓国のKB Financial Group社(同約3%)が挙げられます。しかし、中国では⺠間銀⾏が政府コントロール下にあるという⾊彩が強く、経済も構造的に悪化傾向にあること、すでにROAがMUFGよりだいぶ⾼い⽔準(Industrialand Commercial Bank of China社0.9%、China Construction Bank社1.0%)にあり、改善期待が乏しいことを考えるとMUFGのほうが魅⼒的に映ります。
 韓国は⽇本と同様に銀⾏は成熟産業であり、株価は割安に放置されていますが、コロナ禍以降、家計部⾨に対する貸出が増えており、とりわけ過熱している不動産市況がピークアウトすることで、不良債権が急増する懸念があります。MUFGに⽐べてROAは⾼い(KB Financial Group社0.6%、Shinhan Financial Group社(韓国)0.7%)ですが、今後下押し圧⼒がかかるかもしれません。逆に⽇本では家計部⾨の負債⽐率は⾼くなく、企業部⾨も健全です。向こう数年は訪⽇客の回復効果(当ファンドでは訪⽇客関連の中⻑期的な経済効果について⾮常にポジティブにみています)もあり景気が底堅く推移することが予想されます。

株価のダウンサイドリスク

 最後に、⾦利上昇の前提が外れたとしてもMUFG株主は⾼い配当性向と継続的な⾃社株買いによって、相応の総還元利回りが期待できるため、ダウンサイドリスクは⼩さいと判断します。
 かねてからMUFGは、安定的に1兆円以上の親会社株主純利益を稼げる⾦融グループになることを⽬指していました。過去2期の業績でこれを超えるようになり、⻲澤社⻑はその体制がほぼ整ってきたとコメントしています。配当性向については、4割へ向けて累進的に引き上げることを⽅針(2023年3⽉期実績35.3%、2024年3⽉期計画37.9%)としています。つまり配当総額は最低でも4,000億円は⾒えていることになります。加えて、MUFGはCET1⽐率(銀⾏会計上の⾃⼰資本⽐率)が9.5%から10.0%のターゲットレンジ内(2023年3⽉期末実績10.3%)であれば、⾃社株買いも機動的に⾏い、発⾏済株数5%を上限とした株式消却を⾏うとしています。同⾏はすでに、競合メガバンクである㈱三井住友フィナンシャルグループや㈱みずほフィナンシャルグループと⽐べても海外拠点を⼗分に確保しており、⼤規模な資⾦ニーズを伴う買収をする可能性が低いことを考えると、実現可能な還元⽅針であり、資産規模(リスクアセット)と⾃⼰資本の⽔準を⼀定に保てれば、年間5,000億円前後の⾃社株買いは可能と推定できます。以上のことから、MUFG株主は毎年の株主還元額として合計1兆円近くを期待できます。現在の時価総額に対して約6%という総還元利回りが株価の下値を⽀えてくれると考えます。
 政策保有株が多いのも強⼒な「武器」となります。この点は、当ファンドで組み⼊れているメガ損保グループと同じです。例えばMUFGは、2023年3⽉期末時点で時価2.5兆円相当の株式を保有しており、株式市場での売却を通じて資⾦化することで、⾃社株買いや増配に使うことができます。メガ損保に⽐べるとメガバンクの政策保有株含み益は少ないと⾔われていますが、削減に本格着⼿したのはここ最近なので、これからどのように有効活⽤されるか楽しみです。とりわけ銀⾏の会計ルール上(バーゼルIII)、保有株式のリスクウェイトが250%まで引き上げられることになっており、政策保有株を削減するのはもはや待ったなしと⾔えます。
 MUFGを含む3メガバンクは全て「PBR(純資産価値)1倍割れ」銘柄です。今年8⽉の⽉次報告書でもコメントしたとおり、株価が割安な状況下で⾏われる持続的な増配や⾃社株買いは株主にとって⼤変有利です。⼀株当たり配当⾦が同じでも、株価⽔準が低ければ、そうでない場合に⽐べて、配当利回りは⾼くなりますし、増配したときのインパクトも⼤きくなるからです。⾃社株買いであれば、株価が割安であるほどより多くの株を買い⼊れることができ、結果として株主に帰属する⼀株当たり利益が多くなります。特にPBR1倍を割れている時に、⾃社株買いをすれば⼀株当たり純資産額が増えていくことになります。つまり株価⽔準が変わらなければ、割安感が益々際⽴っていくのです。

2023年9月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年9⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.51%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の改善により中国の景気後退不安が⼀時的に後退したほか、国内では早期衆院解散・総選挙への期待感が⾼まったことを受け、上昇基調となりました。⼀⽅⽉後半は、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)で⾦融引き締めの⻑期化が⽰唆されたことや、⽶議会の予算協議が難航し政府機関閉鎖への警戒感が⾼まったことから、市場⼼理が悪化し値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を若⼲上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.05%の下落となり、参考指数の同0.51%の上昇を1.56%下回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京海上ホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、リクルートホールディングス、ソシオネクストなどでした。
 当⽉は、当ファンドが現在の⽇本経済の状況についてどのように考えているかをご説明します。
 1989年のバブル崩壊以降、⽇本は⻑い間デフレに苦しみました。これまでの経験から、デフレやそれに伴う超低⾦利・マイナス⾦利環境は様々な弊害を⽣み出すことがわかっています。まず、モノやサービスの価格が下がり続けると、消費者は更なる価格下落を期待して購⼊を控えてしまいます。消費者が購⼊を控えれば企業収益は悪化しますので、労働者の賃⾦は上がらず、それが消費⾏動のさらなる抑制につながり、悪循環となります。
 また超低⾦利環境では、消費者による住宅や⾞の購⼊といった⾼額品消費が後押しされるものの、企業において採算性の乏しい投資計画が実⾏されたり、競争⼒のない企業(いわゆるゾンビ企業)が存続することで、経済システムにおける資本の最適配分がうまく機能しなくなります。企業淘汰が進まなければ、不⽑な価格競争がいつまでも終わらず、デフレの⻑期化につながってしまいます。
 これらを考えると、近年国内でインフレの兆候や⾦利上昇観測が出てきたことは、⽇本経済にとってプラス条件が揃ってきたと⾔えます。
 ここではっきりと「プラスである」とまだ⾔い切れないのは、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるからです。良いインフレとは、適度なインフレが定着し、⺠間消費が刺激されることで好循環が⽣まれることです。これに対し、悪いインフレとは、物価⾼が⼈々の⽣活を苦しめてしまう、いわゆるスタグフレーションです。最近の状況を⾒る限り、今の⽇本はこのどちらになるかの岐路に⽴たされていると考えます。
 物価⾼で景気が悪くなれば、デフレに逆戻りするという意⾒もありますが、当ファンドでは⽇本でも想定外にインフレが⾼⽌まりする可能性があると考えています。⽇本の消費がいくら弱くなっても、海外のインフレ要因が、⽇本に波及することが明らかになっているためです。例えば、⽶国でインフレの⾼まりによって⾦利が上昇すると、ドル⾼をもたらします。これが⽇本において輸⼊物価の⾼騰を通じたインフレを引き起こしているのは昨年来、周知の事実です。
 以下に挙げるように、昨今の世界的なインフレには構造的要因が多くあります。

  • 半導体産業に象徴されるように⽶中の貿易摩擦によって、過去20年以上続いたグローバリゼーション(技術の⾰新によって物事が地球規模で進⾏すること)が転換期を迎えました。経済規模で世界1位の⽶国と同2位の中国の分断が進むことで、企業は世界的なサプライチェーンを分散して構築することを余儀なくされています。また、ウクライナ紛争をきっかけとした脱ロシアの動きもこれに拍⾞をかけています。これらは企業にとってビジネスを展開するコストが嵩むことを意味します。
  • 2008年の世界⾦融危機以降、天然資源開発が低⽔準に留まっていることで、資源価格が⾼⽌まりし、原材料コストやエネルギーコストが増加しています。かつては燃料価格が⾼騰すれば、油⽥の新規開発が進み、供給増・価格下落が誘発されました。しかし世界的な脱炭素化によって、従来のように価格上昇がストレートに供給増に結び付かず、当⾯は⾼価格が常態化する可能性(※1)があります。
  • ⼈⼿不⾜が深刻になっています(※2)。⽶国では、労働⼈⼝の⾼齢化により働き⼿がピークアウトしていること、移⺠政策が厳しくなったため、新たな労働⼒の流⼊が細っていること、⼈々のライフスタイルの変化に伴い、早期退職を選ぶ労働者が増えたことなどがみられます。⽇本では過去10年、⼈⼝減少による労働⼒縮⼩を⼥性の就業率増加や⾼齢者の再雇⽤が補ってきましたが、これが近年頭打ちになってきていること、また外国⼈労働者の流⼊も⽇本の労働⼈⼝全体に⽐べると⼩規模に留まっていることなどが労働⼒供給の減少・⼈件費上昇の原因になっています。
  • ESG投資はもはや世界的なトレンドです。企業が環境⾯で⾃社が与えるインパクトをモニタリングし、規制対応するための⼈件費や設備投資額などが増加しています。これも企業がビジネスを営むために必要な経費の増加と⾔えます。

※1,2:当ファンドでは三菱商事やリクルートホールディングスなどが恩恵を受ける企業と考えます

 これらはいずれも、最終的に消費者に価格転嫁されることで消費者物価の上昇をもたらすものです。
 さて、⽇本がスタグフレーションに陥らず、「良いインフレ」を実現するには何が必要でしょうか。まず、インフレ圧⼒があるなか、過去2年で⽇本⼈がモノやサービスの値上げを受け⼊れ始めているというのは朗報です。東京⼤学の渡辺努教授が⾏っているアンケート調査によると、2021年8⽉実施時には⽇本の消費者6割近くが値上げされた商品の購⼊を避け、4割の⼈たちが値上げを受け⼊れる傾向がありました。2022年5⽉になるとこの⽐率が逆転し、6割近い消費者が値上げを受け⼊れる傾向にあることが明らかになっています。これはインフレ環境が⻑年⽇常となっている⽶国、英国やドイツとほぼ同じ⽔準です。
 ⼈々が物価上昇を予想し始めるなか、賃⾦伸び率がインフレ率を下回ってしまうと、所得が増えたという実感が湧きません。よって次に待ち望まれるのは、⻑年横ばいで推移してきた⽇本の実質賃⾦伸び率が、企業による持続的な賃上げを通じてプラスに転じることです。なぜなら、将来の所得の伸びがインフレ率を上回っていくという⾃信を⼈々が持てれば、消費意欲が刺激されるからです。
 本来賃⾦の伸びは、労働⽣産性の伸びによってもたらされるべきものです。別の⽅法として最も⼿っ取り早いのは、労働分配率を上げることですが、それでは企業の収益性は低下してしまいますし、ローンを組んでモノを買う⼈が借⾦を永遠に増やし続けられないように、家計債務の増加を伴う消費拡⼤にも危うさが伴います。⽇本のバブル崩壊時や、2008年⾦融危機時の世界経済にみられたように、過剰債務が⼤きな反動リスクにつながることは歴史が⽰している通りです。
 ⼀⽅、2021年の⽇本の労働⽣産性は経済協⼒開発機構(OECD)加盟国の中でも下位グループ(38か国中27位)、とりわけ主要先進7か国(G7)では最下位という結果に終わっています。
 ⽣産性が万年低迷しているということは改善余地も⼤きいということです。具体的に⽇本企業が取り組めることとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)の積極推進(※3)や、売上収益に必ずしも結びつかない過剰な顧客サービスや、不⽑なサービス残業などから決別すること、徹底した能⼒・成果主義の給与制度を導⼊することなどが挙げられます。
※3:当ファンドでは⽇⽴製作所が関連銘柄といえます

 これらのうち、能⼒・成果主義型の給与制度の拡充は、従業員や経営陣のモチベーション向上を通じて労働⽣産性改善に貢献します。残念ながら、この⾯において⽇本企業は海外に⽐べて⼤幅に遅れていると⾔わざるを得ません。例えば、⼤企業の役員報酬のあり⽅は、経営陣の意欲を削ぐような構造のままです。⽇本経済新聞によると、2022年の⽇本の⼤企業の経営トップの報酬⽔準は英国の約4分の1、⽶国の13分の1以下に留まります。
 このような格差には合理的な理由が⾒当たりません。さらに憂慮されるのは、同⼀の⽇系企業内でも、外国籍の取締役と⽇本国籍の取締役との間で報酬に⼤きな差がつけられているケースが散⾒されることです(※4)。当ファンドは、格差を是正しより公平な報酬制度が確⽴されるべきとの⽴場です。
※4:当ファンドの組⼊銘柄のなかでは、セブン&アイ・ホールディングスなどにこの傾向が認められます

 労働⽣産性改善に寄与するのは、少ない労⼒でどれだけの⽣産量を⽣み出せるかという物的労働⽣産性(⽣産量/単位当たり労働)が重要視されがちですが、付加価値額をベースとした労働⽣産性の改善も重要です(付加価値額/単位当たり労働)。
 この指標は、物量ではなく⾦額に着⽬したもので、適正な値付けによる利幅を確保することで改善されます。⽇本のモノやサービスの値段は国際的にみて、かなりの低⽔準にあります。つまり⽇本企業はより能動的に価格戦略を⾒直し、商品価値に⾒合った値上げを進める必要があるのです。これが実現できれば、企業の賃上げ余地が⽣まれ新たな消費需要を⽣みだすという好循環が出来上がるはずです。これが「良いインフレ」です。
 加えて、良いインフレを⽣み出すための労働⽣産性改善や能⼒・成果主義型の給与制度導⼊などは東証が要請している「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正」の⾯でも効果を発揮すると考えます。労働⽣産性の改善と資本収益性の向上は表裏⼀体の関係にあるからです。
 PBR1倍割れの最⼤の問題は株価が企業の理論上の解散価値を下回っているということです。多くの場合、株主から預かっている資本に対して経営者が株式資本コストを上回る⼗分なリターンを⽣み出せていない、即ちROE(株主資本利益率)を代表とする資本収益性が低すぎるということを意味します。PBRはPER(株価収益率)とROEの掛け算で求められるので、上場企業である以上、経営陣がROEを⾼める努⼒をするのは責務であると考えます(※5)。
※5:当ファンドのなかでは三菱UFGフィナンシャル・グループ、東京海上ホールディングスなどの損保会社が⾼い⽬的意識をもって取り組んでいます

 ⽇本ではつい最近まで資本収益性の意識が希薄でした。これは⽇本株が⻑年低迷した要因でもあります。しかしここに来て、2015年頃からアベノミクス下で始まったコーポレートガバナンス改⾰をきっかけに、ようやく企業の意識変化が芽⽣えてきたように思います。具体的には、経営層レベルにおいて、利益の絶対額を増やすだけでなく資本効率性を上げることの重要性がようやく認識されるようになってきました。これは近年、企業のIR資料やアニュアルレポートなどで、ROEやROIC(投下資本利益率)などの経営指標が頻繁に登場するようになった(※6)ことからもみてとれます。2023年3⽉の東証による要請以降は、⾃社の株価がPBR1倍割れであることが、経営者にとって「恥ずかしい」という雰囲気すらでてきているように感じます。
※6:⽇⽴製作所やソニーグループなどが挙げられます

 PBR1倍割れを脱するために、企業経営者は資本収益性の概念を従業員にも浸透させなくてはなりません。組織の全員がしっかりと理解することで初めて成果がでるためです。当ファンドの企業調査でも、全社で資本収益性を重視している企業ほど、ROEが⾼く、且つ株式市場において⾼く評価されていることが分かっています(※7)。そのためにも、売上や利益⽬標だけでなく、ROICなどの指標も⼈事評価体系に連動させ、定量的成果に応じて従業員に報いていく必要があると考えます。
※7:キーエンスが良い例です

 当ファンドは⽇本企業の能動的な変化が良いインフレをもたらし、株式市場を活性化させるとのスタンスです。そのため、引き続き株主として魅⼒的と考えられるビジネスへの投資を継続してまいります。

2023年8月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年8⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.43%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⼤⼿格付け会社フィッチ・レーティングス社(⽶国)による⽶国債の格下げを背景とした⽶国株安の流れを受け、下落から始まりました。⽉半ばは、中国の軟調な経済指標(消費者物価指数など)や、中国不動産開発⼤⼿の⽶国破産法の申請が嫌気され、下げ幅を広げました。⽉後半は、中国の追加利下げが好感されたほか、ジャクソンホール会議においてさらなる利上げへの懸念が後退したことで値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.14%の下落となり、参考指数の同0.43%の上昇を0.57%下回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄はロート製薬、⽇⽴製作所などでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ソニーグループ、オリンパスなどでした。
 当ファンドでは、⽇本のメガ損保グループ3社全てに投資をしています。そこで、投資理由を改めて説明する前に、最近マスコミを賑わせている1)企業向け⽕災保険(共同保険(複数の損害保険会社が共同して1つの保険契約を引き受ける⽅式))の価格調整疑惑と、2)㈱ビッグモーターの保険不正請求問題について当ファンドの考えを簡単に述べようと思います。
 1)については、そもそも企業向け⽕災保険は業界全体で⾚字が続いており、近年は保険料値上げで採算改善に努めているという事実があります。談合によって共同保険の価格を吊り上げ、⼤きな利益を⽣み出していれば話は別ですが、⾚字解消という経営課題を踏まえると、本件によって収益改善努⼒がストップすることはないと考えます。保険ビジネスは、加⼊者が単独では負担しきれない損害リスクを、保険事業者が不特定多数の顧客の保険料を貯めておくことで、いざというときに経済的な補償をする役割を担っています。もし会社が⿊字体質へ転換できなければ、損保業界全体のリスク引き受け能⼒の低下につながり、保険ビジネスがもつ社会的な存在意義が損なわれてしまいます。当ファンドでは⽕災保険料値上げの流れは⼤きく崩れないと考えています。
 2)については、損保会社が㈱ビッグモーターと共謀して組織的な悪事を働いていたという可能性は低いと思われます。また、この問題が間接的に⾃動⾞保険全体の保険料を不当に吊り上げていたという疑念については、不正対象となった⾞両数が僅少であると考えられることから杞憂に終わるとみています。
 前述の件を受けて、損保会社の代理店に対するガバナンスや、疑惑発覚後の対応ぶり、および社内ガバナンス体制全般の不備を問う声が多いのは事実です。しかし、今後はより⼀層のガバナンス強化を進めるきっかけになればポジティブに捉えることができます。⼀時的な損保会社のイメージ低下はあるかも知れませんが、業績が⼤きく揺らぐことはないと考えます。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒①:銀⾏業、資産運⽤会社との⽐較

 当ファンドでは保険業を魅⼒的なビジネスとして捉えています。損保事業の本質はリスクの引き受けです。保険会社は保険料を受け取る対価として、⾃動⾞事故や⽕災が起きたときに修理代などの損害費⽤を保険契約者に代わって負担します。契約時に保険料を受け取ってから、保険⾦を⽀払うまでの間、保険会社は保険料を運⽤することで収益を獲得します。また損害が発⽣しなかった場合や、実際に⽀払われる保険⾦が受け取った保険料を下回った場合、その差額は(事業経費を控除したうえで)保険会社の利益となります。このように保険業の収益源は主に運⽤収益と引受収益から成っています。
 広義の⾦融業には保険業の以外に、銀⾏業、資産運⽤業がありますが、いずれも外部資⾦を活⽤して収益をあげるビジネスモデルです。しかし、それぞれは異なる特徴をもっています。例えば銀⾏は、預⾦を集め、それを貸し出しにまわすことで利ざやを得ています。預⾦元本は預⾦者に帰属するので、銀⾏からみると預⾦を「借りている」ことになります。預⾦者に⽀払う利息は銀⾏業の「資⾦調達コスト」です。⼀⽅、保険会社は払い出す保険⾦が、受け取った保険料よりも多ければ、その差額が「資⾦調達コスト」に相当します。保険引受事業が⿊字なら、それは資⾦調達コストがかかっていないどころか、「お⾦をもらって」保険契約者から資⾦調達していることになります。つまり銀⾏業と⽐較すると、⿊字の引受事業を持つ保険会社のほうが魅⼒的だと考えます。
 資産運⽤会社は顧客から資⾦を預かり、運⽤サービスの対価として⼿数料をもらうという意味では⿊字の保険引受事業と似ています。しかし、資産運⽤会社が⽣み出す運⽤益は顧客に帰属するので、運⽤で獲得したリターンが保険会社のものになるのと⼤きく異なります。この点も、保険会社のほうが魅⼒的と考えます。即ち、保険引受において⿊字計上をし、運⽤⾯で⾼いリターンを獲得できる保険会社は「いいビジネス」なのです。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒②:⽣保ビジネスとの⽐較

 損保ビジネスと⽣保ビジネスの違いについてはどうでしょうか。⽣保ビジネスの魅⼒としては、引受事業から⽣み出される利益が損保に⽐べて安定している点が挙げられます。この利益の源泉は、⽣命保険料を算出する際に使⽤される想定死亡率と実際の死亡率の差分から発⽣するもので、損保ビジネスの損害発⽣率に⽐べて変動は⼩さく、また⼀般的に⽣命保険は契約期間が数⼗年に及び、想定される保険⾦額は契約当初に固定されているため、インフレが進んだ場合でも保険会社の負担が増すことはありません。これに対して、損害保険はインフレによる⾃動⾞修理コストの上昇などが⽀払保険⾦を押し上げてしまいます。
 ⼀⽅、⽣保ビジネスの難点としては⻑期⾦利が低迷している事業環境では⾼い資本収益性を享受しにくい点が挙げられます。この点、損害保険は保険契約期間が短期であるため、⾦利上昇局⾯では早いタイミングで運⽤収益の改善を⾒込めます。また後述するように、損保ビジネスは海外展開によって事業リスクの低減が図れるため、ひいては株式リスクプレミアムの低下が⾒込まれるというのも、当ファンドが⽣保ビジネスよりも損保ビジネスを選好する理由です。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒③:銀⾏、⽣保会社よりも海外展開するメリットが⼤きい

 ⽇本では⼈⼝減少が続いていることから、銀⾏、損保会社、⽣保会社各社とも海外進出に積極的です。なかでも損保会社はビジネスの特性上、海外展開が⾮常に理にかなっていると考えます。
 ⽇本の損保会社の国内引受事業は⾃動⾞保険と⽕災保険が⼤半を占めており、⾃然災害リスクは台⾵や地震に集中しています。ところが、海外は必ずしもこのような国ばかりではありません。特に世界最⼤市場の⽶国は保険分野も多岐にわたっており、⾃然災害向け保険だけでなく、D&O保険(役員等賠償責任保険)や、労働者災害補償保険、団体医療保険、サイバー保険などの特殊保険市場も⼤きく、⽇本の損保会社が現地進出や現地企業を買収することで引受リスクの分散が可能となります。株式投資の観点からいうと、ビジネスリスク分散・低減によって、株式リスクプレミアムの縮⼩が⾒込めるので、理論上は株価上昇要因になるのです。
 これに対して、⽇本のメガバンクも⽶国やアジアなどに注⼒していますが、貸出業務に⼤きな影響を与える⾦利動向はグローバルで連動する傾向があります。例えば、⽶国でインフレの⾼まりによって⾦利が上昇すると、ドル⾼をもたらします。これが他国において輸⼊物価の⾼騰を通じたインフレを引き起こすので、現地の⾦利にも上昇圧⼒がかかります。つまり海外展開をしても⾦利リスクの分散にはあまり寄与しないということです。
 また⽣保ビジネスの場合は、最初から不特定多数の個⼈との契約が多いので、⾃国市場だけで⼗分なリスク分散が図れます。海外進出しても、想定死亡率は⽇本とあまり変わらないのでリスク分散にはなりません。
 このように銀⾏も⽣保会社も、規模拡⼤を⽬的とした海外展開には意味がありますが、事業リスクの分散には損保ほどのメリットは享受できないと考えます。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒④:世界的にみても珍しい競争優位性がある

 次に、なぜ⽇本の損保会社がグローバルのなかで稀有なポジションにあるのかについて説明します。2022年6⽉の⽉次報告書でご説明したように、⽇本の損保業界がもつ競争優位性として、
1)寡占状態にある国内市場で⽣み出される⾼い収益性と潤沢な利益
2)未だ多額な含み益を持つ政策保有株の存在
の2点が挙げられます。
 前者については、1990年代の⾦融ビッグバン以降の保険⾃由化によって再編が進み、今⽇の国内損保業界は東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングスの3グループにほぼ集約され、この3社の市場シェアは合計で9割ほどを占めています。世界の主要地域において、これほど寡占化が進んでいる損保業界はありません。例えば⽶国では2020年時点で⾃動⾞保険だけで50社以上存在し、最⼤⼿のState Farm社でも16%の市場シェアしかありません。このため競合環境も激しいと⾔われています。
 後者については、1960年代に企業向け保険ビジネスにおける顧客関係構築・維持を⽬的に購⼊された政策保有株は、2023年3⽉末時点で各社とも時価ベースでおよそ1.2〜2.4兆円程あります。今⽇において、政策保有株は⾮効率な⾦融資産としてみなされていることから、各社において毎年数百〜数千億円程度売却され資⾦化しており、それが戦略的に活⽤されています。海外損保業界ではこのような豊富な含み資産を持つ事例はみられません。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒⑤:模範的なキャピタルアロケーションを実践している

 当ファンドではメガ損保グループ3社とも、お⼿本となるようなキャピタルアロケーションを実践しているという意味で、経営陣は優れていると考えます。即ち、各社とも国内の潤沢な利益と政策保有株の売却資⾦を、株主価値の増⼤のため様々な⽅法で活⽤しているということです。
 その⼀つが海外M&Aです。例えば東京海上ホールディングスは過去20年近くにわたって、海外保険事業を拡⼤してきたという経緯があります。特に2008年以降、企業買収を積極化しており、2023年3⽉期実績では利益構成割合の42%が海外事業によってもたらされています。
 良いM&A候補が⾒つからない場合、株主還元を積極的に⾏っています。株価が割安な状況下で⾏われる持続的な⾃社株買いや増配は株主にとって重要と考えます。⾃社株買いでは株価が割安であるほどより多くの株を買い⼊れることができ、結果として株主に帰属する⼀株当たり利益が多くなります。とりわけMS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスの場合は、株価が純資産価値1倍を割れている、いわゆる「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄」なので、⾃社株買いをすればするほど⼀株当たり純資産額が増えていきます。つまり、株価⽔準が変わらなければ、割安感がどんどん強まっていくことを意味します。また別の観点からみると、経営陣は株主還元を通じて不要な株主資本の増加を抑え、ROE(株主資本利益率)を⾼めることができる⽴場にあるとも⾔えます。

株価のバリュエーション

 最後に損保各社の株価バリュエーションについてコメントします。
 東京海上ホールディングスの2023年度通期予想は修正純利益6,700億円、修正純資産は同39,260億円となっており、⽬下計画通りに進捗しています。⽇本の損保会社が使っている修正純利益とは、異常危険準備⾦、価格変動準備⾦などを⾜し戻した利益数値であり、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、IFRS)採⽤の海外損保会社と⽐較するうえで妥当な利益概念です。これを前提とすると、現在の株価バリュエーションは今期予想PER約12倍、PBR約1.6倍、予想配当利回り約3.7%です。同社は過去10年でChubb社(スイス)、Allianz社(ドイツ)、AXA社(フランス)などを凌ぐ成⻑を遂げており、修正ROEは17%に近づこうとしています。利益規模と収益性でグローバルトップクラスの損害保険会社になる可能性を秘めていることを鑑みれば、魅⼒的といえるのではないでしょうか。
 MS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスはともに「PBR1倍割れ」銘柄ですが、両社とも過去7年の株価の伸びが、⼀株当たり修正純利益の伸びを下回っており、⼗分に評価されているとは⾔えないと考えています。例えば、MS&ADインシュアランスグループホールディングスの2017年3⽉期実績から2024年3⽉期会社計画までの⼀株当たり修正純利益の累計成⻑率は約82%増加していますが、株価は同期間で約44%しか上昇していません。SOMPOホールディングスは、同期間の⼀株当たり修正純利益が81%増加しているのに対して同株価は約52%の上昇に留まっています※。予想PERはMS&ADインシュアランスホールディングスで9.5倍、SOMPOホールディングスで9.2倍と東証平均を⼤きく下回り、かつ予想配当利回りは両社とも4〜5%程度と同平均を⼤幅に上回っており、割安感が際⽴っていると当ファンドでは考えます。
 3社とも業績拡⼤に伴う株価上昇(持続可能な年平均利益成⻑率5〜7%)に加え、⾃社株買いによる⼀株当たり利益増効果(年平均1〜2%)と、配当利回り(年平均4〜5%)を合計すれば、株主の期待リターンが10%以上となる計算になると当ファンドでは考えており、投資対象として魅⼒的です。
 また割安なPER⽔準の切り上がりにも期待が持てます。とりわけ今年4⽉にウォーレン・バフェット⽒が来⽇し、彼の投資先である総合商社株に対してポジティブな⾒⽅を披露したことをきっかけに同セクターのバリュエーションが軒並み上昇したことは記憶に新しいです。このようなPER拡⼤の可能性があることも損保会社に投資する楽しみのひとつであると当ファンドでは考えます。

※MS&ADインシュアランスホールディングス、SOMPOホールディングスともに2017年3⽉期決算説明資料もしくは統合レポート掲載の修正純利益と発⾏済株数を使⽤。2024年3⽉期修正純利益は会社予想、発⾏済株数は2023年3⽉末現在で⾃⼰株を除いたものを使⽤。株価は2017年3⽉末の株価と2023年8⽉末現在の株価を使用

2023年7月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.49%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨にて年内2回以上の利上げが示唆されたことや、米国の雇用統計の結果を受け、利上げ継続への懸念が強まり下落して始まりました。一方で月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、利上げ停止が近いとの期待から堅調に推移しました。月後半は、日銀によるYCC(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化が発表され、一時的に値動きの激しい展開となりましたが、現行の緩和姿勢を維持するとの受け止めから市場に安心感が広がり、最終的に期初を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比0.54%の上昇となり、参考指数の同1.49%の上昇を0.95%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は日立製作所、三菱商事などでした。一方、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。
 当ファンドの組入銘柄であるファーストリテイリングが当月2023年8月期第3四半期決算を発表しました。同決算によると、9か月累計の売上は前年同期比約21%増、営業利益は同約22%増と好調が続いています。
 同社は、ユニクロブランドを展開し、ベーシックアイテム中心に手ごろな価格で高品質な衣料を製造販売するだけでなく、「ヒートテック」や「エアリズム」といった機能性を前面に出した商品戦略も特徴のひとつです。前月の月次報告書ではセブン&アイ・ホールディングスの株価バリュエーションの割安さについてコメントをしましたが、ファーストリテイリングの株価は同社に比べるとPER(株価収益率)の面などでは割高です。
 セブン&アイ・ホールディングスに比べてファーストリテイリングの株価が市場で高く評価されているのは、経営陣による実行力の違いにあると思われます。両社とも日本発のグローバル小売業ですが、ファーストリテイリングのほうが売上および利益成長率やROE(株主資本利益率)などの資本収益性の面で大きく上回っているからです。
 ただ、目先のバリュエーションが高くても、長期的な成長ポテンシャルを勘案すれば投資魅力があると言えます。例えば、グローバル優良成長株への長期投資を得意とする運用会社Fundsmith社(英国)が行った分析によると、グローバル化粧品メーカーL'Oreal社(フランス)の株式に、1973年1月に当時の一株当たり利益の281倍に相当する株価で投資したとしても、2019年9月30日までの長期リターンは年率7%と同期間のMSCIワールド・インデックス指数をアウトパフォームしたことが検証されています。つまり、長期展望の明るいビジネスであれば短期的に割高にみえる株式でも魅力的な投資対象になりえると考えます。
 ファーストリテイリングの業績を着実に拡大させているのは海外ユニクロ事業です。わずか15年ほど前には国内事業の10分の1程度の規模しかありませんでしたが、2023年8月期第3四半期では9か月累計海外ユニクロ事業売上が同国内売上を50%以上上回っており、営業利益では海外が国内の2倍弱の規模に成長しています。
 同社は2027年8月期までに欧州事業で売上5,000億円、北米事業で売上3,000億円を目標値として掲げています。これまでの10年間は主に中国の売上成長が海外の牽引役でしたが、近年は同社が打ち出している「LifeWear(究極の普段着)」コンセプトが欧米において浸透していることに経営陣が手ごたえを感じているためです。全世界においてプレゼンスを築きつつある同社は衣料品ブランドのグローバル企業として評価が益々相応しいと考えます。
 同社の潜在的なグローバル売上拡大余地はどれくらいあるのでしょうか。よくあるアプローチとして、対象市場の何%シェアをとれるかという考え方があります。しかし、顧客ニーズが細分化され、嗜好も多岐にわたる業界は妥当な市場シェアを仮定するのが難しいと思われます。例えば、ハンバーガーチェーン店は外食産業に属していますが、人々が1日3食、365日ハンバーガーを食べ続けることはありえないため、業界全体が潜在市場になることはまずありえません。よって「市場シェアが僅か数%だから膨大なシェア拡大余地がある」という議論には説得力に欠けてしまいます。衣料品も同じだと考えられます。例えば、世界中の消費者が冬物衣料を1年中着ることはありませんので、衣料品市場全体に対する市場シェアの多寡を議論するのはあまり意味をなさないでしょう。
 当ファンドでは、海外で先行している同業他社の売上を参考にしており、具体的にはNIKE社(米国)やZARA(ザラ)ブランドを展開しているInditex社(スペイン)などとの比較を行っています。理由は、近年athleisure(athletic(アスレチック)+leisure(レジャー)からの造語、普段着として着る運動着、またはそのスタイルのこと)トレンドによってスポーツアパレルを普段着として着る人が増えているため、ユニクロブランドとNIKEブランドの対象市場が重なってきていること、またベーシックデザインが中心であるユニクロはファッション性を取り入れた製品にも注力しているため、ZARAブランドとターゲット層が被っていると考えられるためです。
 NIKE社、Inditex社、ファーストリテイリング各社の自国・自地域市場における売上規模と人口から当ファンドが算出した一消費者当たりの売上高は各社とも同水準になることから、自国・自地域市場における各社の浸透度合いはほぼ同程度であると考えています。
 一方、アウェイともいえる海外市場はどうでしょう。例えばNIKE社の直近の地域別売上高は、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)は約134億米ドル、グレーターチャイナ(大中華圏)が約72億米ドル、アジア太平洋・ラテンアメリカが約64億米ドルです。Inditex社の直近の地域別売上高は南北アメリカが約71億米ドル、アジアおよびその他地域が約64億米ドルです。また規模がやや劣るAdidas社(ドイツ)の北米セグメント売上高は約70億米ドル、H&MブランドのHennes&Mauritz社(スウェーデン)の南北アメリカセグメント売上高は約47億米ドルとなっています。地域別売上高を比較してみると、各社とも主要欧米地域で1兆円程度、まだ購買力の低いアジアや南米などのその他地域でも5,000億円を超える売上規模を誇っていることがわかります。つまりファーストリテイリングが目指している欧州5,000億円、北米3,000億円という売上目標はさほど高いハードルではないように感じられるのです。
 ファーストリテイリングの過去5年平均ROEは約17%と、NIKE社の同約41%やInditex社の同約21%に対して見劣りしますが、日本企業の平均は大幅に上回っているという意味で優良企業であると言えます。また、過去5年平均粗利率は約50%と、NIKE社の約44%やInditex社の約56%の中間に位置しており、Adidas社やHennes&Mauritz社などと比べても同水準であることから、今後グローバル勢に対して資本収益性の面で劣らないポテンシャルは十分にあると考えます。また、同社の売上、利益規模はNIKE社やInditex社に比べてまだ半分以下であり、伸びしろは大きく、時価総額の拡大にも期待したいところです。

2023年6月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比7.55%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半は米連邦債務の上限停止による米国株高の流れを受け、大幅に上昇いたしました。月半ばには、FRB(連邦準備制度理事会)による追加利上げの示唆を受けた軟調な米国株の影響や、衆院解散への期待剥落が嫌気された一方、日銀の金融緩和の維持、米著名投資家の日本株追加投資の発表が好感され、一進一退の動きで推移しました。月後半は、株価上昇の反発と見られる下落の局面もありましたが、米景気悪化懸念の後退と円安進行が下支えをし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比7.97%の上昇となり、参考指数の同7.55%の上昇を0.42%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は三菱商事、日立製作所などでした。一方、マイナス影響銘柄は、ソニーグループ、ミスミグループ本社などでした。

 5月下旬に当ファンドの組入銘柄の1社において、経営陣と米国アクティビストファンドによるプロキシーファイト(委任状争奪戦)が繰り広げられました。同アクティビストファンドは経営陣と友好的な関係を築くことで有名ですが、会社側の理解が得られず株主総会で票を争うことになり、株式市場でも注目を集めました。
 標的となったのは「セブン&アイ・ホールディングス」です。アクティビストの中でも穏健派であるValueAct Capital社(米国、以下「ValueAct社」)は今回、グループ全体の収益性改善が遅々として進んでいないとして、現社長を含む取締役4名の入れ替えを求めました。ValueAct社はセブン&アイ・ホールディングスの発行済株式数2%近くを保有する大株主の1社です。
 当ファンドでは、日本人なら誰もが知るコンビニエンスストアである「セブン-イレブン」を成長させてきた同社経営陣を高く評価しています。この点において、当ファンド投資戦略のひとつである「卓越した経営陣」に合致していますが、一方で改善余地が大きいのも事実だと考えています。以下、当ファンドが考える経営陣の改善余地を挙げてみます。

1)2005年に持株会社制に移行して以降、長らくスーパーストア事業が足を引っ張っており、リストラが遅いのは周知のとおりです。百貨店事業の売却も、当初予定から遅れが生じており、先行きの不透明感が漂っています。持株会社を発足した当初に謳われていたグループのシナジー効果ははっきりと認められないまま20年近くが過ぎようとしており、より迅速な取り組みが必要だと考えられます。

2)ValueAct社が4月2日にリリースした「Shareholder Questions for Seven & I Board of Directors」のなかには、全部で9つの株主質問が記載されています。しかし、同社はいまだ具体的な説明をしていません。なかでも同社が2020年に海外の小売企業から買収提案を受けたという話は当ファンドにとっても関心の高い出来事です。本件は報道記事がインターネット上から削除されているため真相ははっきりしていませんが、もし事実であるなら、当時の株主は高い株価で同社が買収されるチャンスについて賛否を表明する機会が与えられなかったことになります。経営陣は受託者責任(Fiduciary Duty)を怠った可能性があり、真偽について説明を行う必要があると考えます。

3)経営陣はイトーヨーカ堂のノウハウがコンビニエンスストア事業のフレッシュフード開発に欠かせないと強調しています。しかし、それだけの為に果たして多額の資本を投下して低採算の店舗資産(セグメント収益約14,000億円に対して約100億円の利益しか生み出していません)を維持する必要があるのか、システム投資や仕入をグループ共同で行うスケールメリットが重要であるなら、株主が納得する定量的な説明が求められます。

4)経営陣は4月18日にリリースしたValueAct社に反論するプレゼンテーション資料のなかで、Speedway社(米国)を買収したことによって、同社株のEV/EBITDAマルチプル(簡易買収倍率、買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)が4.3倍から7.5倍に拡大したと主張し、あたかも株式市場からの評価が上がったかのような主張をしています。EV(Enterprise Value)は企業価値と呼ばれ、株式時価総額とネット有利子負債の合計であり、EBITDAは税引前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を加えて算出される利益を表します。当ファンドの見解では、マルチプル拡大は同社がSpeedway社の買収のために多額の借入金を調達したことで、分子であるEVが大きく増えたことに起因しています。つまり買収によってEBITDAは増えたものの、EV増加率が上回ったためにマルチプルが押し上げられたに過ぎないと考えます。むしろ同社に対する株式市場の評価を株価収益率(PER)でみると、2005~2019年度の平均20倍以上から、現在は実質13.8倍程度(のれん償却前当期利益を前提としたPER)へと切り下がっていると考えられます。

5)同社はこれまで発展途上国の経済成長に伴うコンビニ普及の恩恵を受けていません。現在、米国と日本を除くセブン-イレブンはアジアを中心に4万店舗以上ありますが、利益貢献はわずかしかないのです。これはアジアでの店舗運営の大半がマスターフランチャイズモデルではなく、ライセンス契約によって成り立っているためです。ライセンス契約では本社(フランチャイズオーナー)が店舗ブランドの利用権を付与しますが、店内レイアウトや運営面の詳細は現地エリアフランチャイジーの裁量に委ねられています。セブン&アイ・ホールディングスはフランチャイズオーナーとして限定的な関与しかしないため、わずかな収益しか得ていないのです。台湾(President Chain Store社)やタイ(CP All社)に上場しているエリアフランチャイジー企業がそれぞれ1.3兆円、2.3兆円程度の時価総額に育っていることを考えると、この機会損失は大変残念です。

6)このことを反省してか、同社は今般、米国・日本以外の地域における店舗網拡大に意欲を示しています。しかし2022年度決算説明資料では、手始めにベトナム市場でエリアフランチャイジーへの経営関与を深めることで、2028年度までに500店舗体制(2022年度実績79店舗)を築くという目標しか言及しておらず、やや迫力不足なのは否めません。元来、フランチャイズ型ビジネスモデルのメリットは、完成された店舗オペレーションと豊富な販売実績を持つ商品群、そして高い消費者認知度を武器に、少額投資で迅速に出店することを可能にするものです。米国のマクドナルド、バーガーキング、ケンタッキーフライドチキンなどはこの方式を駆使して、多数の国で同時並行してスピード感ある出店を行っています。ValueAct社のノウハウなどを活用して米国チェーン店に負けないような業容拡大を期待したいところです。

 以上のように課題・問題点はありますが、今後が期待できる部分も数多くあります。
 まず注目すべきは米国コンビニ事業です。同社開示資料によると、米国でのコンビニ総店舗数は2020年12月末時点で15万店程度ですが、Speedway社の買収によって同社は合計約1.3万店を抱える圧倒的なプレーヤー(市場シェア約10%)になりました。日本のコンビニ業界はセブン-イレブン、㈱ファミリーマート、㈱ローソンの3社で既に寡占状態にありますが、米国では上位10社でも占有率はまだ2割程度しかありません。米国コンビニ市場の潜在規模は非常に大きいと考えられるため、同社が市場シェアを引き上げることで多くの利益をもたらすことが考えられます。長期的にはEV(電気自動車)の普及に伴いコンビニに併設されているガソリンスタンド事業の先行きが懸念されますが、店舗におけるオリジナルのフレッシュフード商品やプライベートブランド商品の売上拡充により十分カバーできると考えられます。また米国における2022年のEVの新車販売割合は6.7%に留まり、ガソリン需要は当分の間なくならないでしょう。需要が構造的な減少トレンドに入ったとしても、新たなガソリン事業者の参入やガソリンスタンドの新規設置もみられないことから、同社のような業界大手は残存者メリットを享受することも見込まれます。そして、ガソリン事業が業界全体として衰退傾向になれば、ガソリンスタンド併設型コンビニエンスストア事業者の6割強を占める零細プレーヤーが立ち行かなくなり、身売りするオーナーが続出することが想定されます。同社にとってはそのような事業者を買収し、業界再編・コンビニ事業拡大を加速させる絶好のチャンスとなるでしょう。
 一方、国内コンビニ事業は成長の頭打ちが心配材料ですが、同社は絶え間ない既存店のレイアウト改善や、ネットコンビニ分野でのデリバリーサービスの拡充などに取り組んでいます。海外からの訪日客が回復すれば、同社売上にも寄与するでしょう。足元の円安は米国事業の拡大をもたらすだけでなく、訪日客増加を誘引するきっかけにもなると考えられます。さらに上述のように海外コンビニ事業拡大のアクセルを踏むことで、国内利益は相対的に小さくなっていくことが予想されるため、懸念も少しずつ和らぐと考えます。だからこそ、コンビニ事業に経営資源を集中し、今以上に海外出店ペースをあげていくことが望まれます。
 同社株価バリュエーションに話を移すと、現在の株価は割安な水準にあると考えます。例えば日本の会計基準を採用している同社では、Speedway社買収に伴うのれん償却費が年間1,000億円以上に上るため、通常EPS(1株当たり純利益)(同社2023年度予想322.68円)とのれん償却前EPS(同450.06円)の間には4割程度の開きがあります。のれん償却は現金支出を伴わない費用項目であることから当ファンドでは後者のEPSを使用すべきと考えており、実質的なPERは13.8倍程度と東証株価指数の平均を下回っています。
 EV/EBITDAでみるとどうでしょう。前述のとおり、買収による借入金が増えたことで、現在のEV/EBITDAは約8倍弱になりましたが、それでも同業他社で米国2番手プレーヤであるAlimentation Couche-Tard社(カナダ)と比較すると割安な水準にあります。なおセブン&アイ・ホールディングスは2023年2月期より在外子会社の会計基準を変更しており、オペレーティングリース債務はバランスシート上に負債計上されるようになりました。これに伴い、全額費用計上されていたオペレーティングリース料が、支払利息と減価償却にわけて損益計算書上に反映されることになり、2023年2月期実績EBITDAは新たに追加された減価償却費分の推定800億円程度が前年度に比べて「かさ上げ」されていると考えられます。しかし、このような会計要因を排除しても、同社が同業他社よりディスカウントされているのは変わらないと考えられます。
 フリーキャッシュフローでみた場合は、2022年度の営業キャッシュフローは9,284億円、投資活動に伴う支出は4,132億円、よってフリーキャッシュフローは5,152億円となり、フリーキャッシュフロー利回りは9.4%程度(フリーキャッシュフロー/時価総額)です。これは国内リスクフリーレートを大幅に上回る水準です。また仮に、営業キャッシュフローから㈱セブン銀行に関わる預金やコールマネーなどの資金流入を営業キャッシュフローから差し引いたとしても、フリーキャッシュフローは4,000億円を優に超えており、控えめにみても同社株価に割高感は認められないと考えます。なお、同社が開示している2025年度のフリーキャッシュフロー目標(除く金融)は5,000億円以上であり、十分に達成可能な水準と考えます。
 最後に、冒頭のプロキシーファイトは会社側の勝利で終わりましたが、取締役の再任議案に関しては昨年までの90%以上の賛成比率が今回は約65%~約76%まで低下しました。現経営陣は今回の件をきっかけに、株式市場から従来にも増して厳しい目で業績が評価されることになるでしょう。ValueAct社にしてみれば、プロキシーファイトで敗れはしたものの、一定の成果は残したと言えそうです。

2023年5月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.62%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に開催された米国FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受け、一時円高ドル安が進んだことで一進一退の動きで推移しました。月半ばには海外投資家による資金流入が続き、TOPIXと日経平均株価ともに約33年ぶりの高値を更新しました。東京証券取引所の市場改革への期待や、日銀の金融緩和継続姿勢もサポート材料となりました。一方で、月後半には中国の低調なPMI(製造業購買担当者景気指数)や、市場予想を下回る国内の4月の鉱工業生産指数の結果が懸念され、弱含みで推移しましたが、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比5.96%の上昇となり、参考指数の同3.62%の上昇を2.34%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は三菱商事、東京エレクトロンなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、オリンパス、ミスミグループ本社などでした。
 当月は東証株価指数(TOPIX)が約33年振りの高値となりました。世界景気の減速が懸念されるなか、日本株式が選好されている理由について考えてみたいと思います。

継続的なコーポレートガバナンス改革と株式市場改革:

 今年3月、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る上場企業に対し、東証が具体的な改善策を提示するように求めました。日本で前例のない今回の発表は、2014年から政府主導で進められている一連のコーポレートガバナンス改革、および東証が近年取り組んでいる株式市場の構造改革の流れを受け継ぐものと考えられます。ROE(株主資本利益率)は株主の持ち分である企業の純資産価値の増加スピードを示す重要な指標です。過少資本や一時的な要因によってROEが改善した場合を除けば、高いROEを持つ企業は株主にとって魅力的な投資先だと考えられることから、一般的にPBRとROEには正の相関関係があります。これまで日本の上場企業の多くは株主価値を積極的に創造するという視点に乏しく、ROEの低い企業は特に海外投資家から長年敬遠されてきました。アベノミクスの一環であるコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードの導入に伴い、日本の上場企業のROEは一定の改善を見せましたが、それでもなお上場企業全体の半分以上はROEが低位に留まり、PBRが1倍を下回っている状態が続いています。理論上の解散価値を下回っているのは、当該企業によって株主資本から生み出される利益水準が、投資家が求めるリターン(資本コスト)を満たしていないことの表れです。今回の東証の狙いは、PBRが1倍を下回っている上場企業の株価をROEの改善を通じて底上げすることにあると考えます。

継続的な日銀の金融緩和:

 日本の景気は欧米や中国に比べて底堅く推移すると当ファンドは見ています。要因のひとつとして挙げられるのは、日銀による量的緩和の継続です。これは前年来インフレを抑えるために利上げを行っている海外の中央銀行とは正反対の動きです。低金利の環境が続くことは景気にとってプラスであり、とりわけデフレに苦しんできた日本にとっては持続的なインフレ2%が達成されるまでは現状の金融政策を維持する必要があることを日銀は強調しています。

春闘における賃上げ:

 今年の春闘で大幅な賃上げが達成されたことも今後の日本の景気にポジティブです。デフレ環境下の消費者は、将来の値下がりを予想して消費を控えてしまう傾向があるため、企業収益の拡大に結び付きません。今回、賃上げ率が物価上昇率を上回ったことにより、実質賃金成長率がプラスに転じることが予想されます。物価上昇が生活を圧迫してしまう「悪いインフレ」とは異なり、財・サービスへの需要増加が引き起こす「良いインフレ」は、消費意欲をさらに刺激し、民間消費を盛り上げます。GDPの半分以上を占める民間消費が増えることは企業収益の拡大を意味し、さらなる賃上げが実施され、それが新たな消費に回るという好循環を生み出します。また、高齢者層は賃上げの恩恵こそ受けられませんが、日本株式を保有している個人投資家の約4割は70歳以上の高齢者層であり、昨今の株式市場上昇による資産効果が彼らの消費意欲を刺激することが期待されます。

訪日客需要:

 2022年10月に新型コロナウイルスの水際対策が緩和されたことによって、訪日客数が回復傾向にあることも好材料です。年間訪日客がおよそ3,000万人を超えた2019年の訪日客一人当たりの平均支出額は約16万円程度でした。当時のインバウンド関連経済効果が日本のGDP全体の1%弱に相当したことを考えると、今後の観光業および関連業界の復活が景気に与えるプラス影響は小さくないと考えます。さらに、過去3年で円安が進んだことにより日本の物価が海外に比べて相対的に安くなったことを受けて、訪日客がこれまで以上に支出を増やせば日本の経済成長にとってさらにプラスになると考えます。

緩やかな円安:

 インフレに対応すべく米国では利上げが続いていることで日米の金利差が拡大しています。これは米ドルに対する円安要因です。輸出企業が多い日本では円安は企業収益を増加させます。2022年のように急激に円安が進行すれば輸入物価の高騰など副作用が生じますが、緩やかな通貨の切り下がりであれば、むしろプラス要因が上回ると思われます。また輸出企業が潤えば、来年以降更なるベースアップが行いやすくなり、インフレ好循環の牽引役にもなると考えます。

バフェット氏の来日と日本の地政学的リスク:

 米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏が4月に日本を訪問したことで、海外投資家の日本株式を見る目が変わったことも追い風です。同氏はこれまで日本企業の資本収益性の低さを理由に投資をしてこなかったと推察されます。今回、バフェット氏は投資先である総合商社の魅力として世界で事業展開していること、株価が際立って割安であり、加えて自社株買いや増配などの株主還元が充実していることを指摘しました。世界中の投資家が尊敬する投資の賢者の見る目は確かだといっても差し支えないでしょう。また同氏は当月のBerkshire Hathaway社(米国)の株主総会で、株式投資の観点から日本が地政学的リスク面において安全であることを述べています。日本が国際関係上、西側諸国や中国などからみて中立的な立場にあることは日本企業が海外展開を進めるうえで有利となります。反対に、海外企業が日本を有望な事業投資先として位置付けていることも昨今のニュースから読み取れます。半導体メーカーであるMicron Technology社(米国)が広島県の工場などで最大5,000億円におよぶ生産拡張計画を発表したことや、Taiwan Semiconductor Manufacturing社(台湾)が日本国内で新たな半導体工場を建設していることなどが象徴的です。

考えられるリスク要因:

 日本株式の上昇相場が腰折れするリスクには何が考えられるでしょうか。
 日銀による拙速な利上げ判断は、日本経済の回復基調を弱めてしまい、デフレへ逆戻りさせてしまう可能性があります。また、より現実的なリスクシナリオとして、日銀が満を持して利上げ(金融政策の正常化)を行うタイミングと、米国が景気テコ入れのために利下げに転じるタイミングが重なった場合は、少なくとも短期的には急激に円高になることが考えられます。これは、国内輸出企業にとってはネガティブであり、ひいては国内景気に波及するかもしれません。春闘における持続的な賃上げの勢いもストップしてしまうことが懸念されます。さらには、金融史上前例のない量的緩和の出口政策についても、実行手順を誤れば日本経済に思わぬ弊害が生じるかもしれません。緩やかな円安は輸出企業の収益を拡大させるため、今の日本経済にとってはプラスですが、急激な円安進行は輸入物価高騰を通じた「悪いインフレ」を加速させます。2022年頃の1ドル150円の為替水準に再び戻れば、低所得者層を中心に生活が苦しくなることが予想され、インフレの好循環などとは言っていられないでしょう。
 今年の春闘に限らず、継続的な賃上げは日本がデフレを完全脱却するために欠かせませんが、これは容易なことではありません。終身雇用という考え方が過去のものに成りつつあるとはいえ、企業の報酬体系はまだ米国のような完全実力主義からは程遠い状況です。このため、一旦ベースアップを決断すれば、企業にとっては全従業員に対する人件費が一律で増加することを意味し、その負担は小さくありません。来年以降も賃上げを継続するには企業収益が持続的に成長していくことが必要不可欠と考えます。

現在の当ファンドのポジショニング:

 日本では株主にとって重要な指標であるROEの高い企業が少なく、ROEの低い上場企業は長らく市場から割安に放置されてきました。一方、当ファンドではROEの高い希少な成長企業としてソニーグループやファーストリテイリング、東京エレクトロン、キーエンス、ダイキン工業などの少数銘柄に投資をしています。また前年は「隠れた成長銘柄」として事業成長力だけでなく、株主還元についても非常に大きな余力を持つ企業への投資も増やしました。
 過小評価されがちですが、自社株買いや配当などの株主還元は重要な株式リターンの源泉です。例えば自社株買いによって毎年2%ずつ発行済株数を減らしている企業は、一株当たり利益の成長率がそれだけ上乗せになり、複利効果を考えれば10年後には自社株買いをしていないケースに比べて大きな差がつきます。また配当利回り4%の企業は、利益成長がみられない年においても4%のリターンが享受できます。そして重要なのは、これらの株主還元策は企業のROEを高めるうえで大切な働きをするということです。
 過去数年、日本企業に対してROEなどの資本収益性に関する意識改革を迫る動きが続いています。政府によるコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入に始まり、東証による市場改革、アクティビスト投資家や一般株主による株主価値向上の要求など日に日に高まっています。日本の株式市場の半分以上に及ぶROEの低い「劣等生」銘柄が上述のような株主還元や収益性改善を通じたROE向上に一斉に取り組めば、裾野の広い株式買いにつながるかもしれません。日本株式全体の評価が上がり、米国より大幅に低いPER(株価収益率)が改善され、ひいてはPBRが1倍以上となれば、日本株式市場全体の底上げとなるでしょう。一部の成長株が突出して評価されていたこれまでの日本株式相場に比べてスケールの大きいトレンドになると期待したいところです。
 当ファンドで考える「隠れた成長銘柄」とは、事業の成長性だけでなく、株価に対してインパクトの大きい自社株買いや増配を持続的に行うことが可能な銘柄群です。その一例として東京海上ホールディングスを筆頭とする損保会社を以前の月次報告書で紹介いたしました。事業利益の成長率、自社株買いによってもたらされる追加的な一株当たり利益成長、3%後半台の高水準の配当利回りを合計すれば10%を超える期待リターンとなり、当ファンドの他の成長銘柄と遜色ありません。そして日本の損保会社は寡占市場による潤沢な利益創出力と、多額の含み益を抱える政策保有株が長期的な株主価値創造を可能にするという意味で世界的にも稀有なポジションにあり、「魅力的なビジネス」といえます。また当ファンドの上位組入銘柄である三菱商事も世界展開余地が大きく、株主還元余力も豊富、かつバリュエーションが低水準に留まる魅力的な企業の代表格だと考えます。

2023年4月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に軟調な米国経済指標(ADP雇用統計、ISM非製造業景況感指数)が相次ぎ、景気後退懸念が高まったことから下落して始まりました。しかし月半ばには植田日銀総裁の金融緩和維持を支持する発言や、米著名投資家の日本株追加投資を巡る思惑から上昇に転じました。月後半は米地方銀行の巨額預金流出による警戒感から下落する局面もありましたが、日銀が金融緩和維持を決定したことで株式市場に安心感が広がり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比3.00%の上昇となり、参考指数の同2.70%の上昇を0.30%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄はソニーグループ、三菱商事などでした。一方、マイナス影響銘柄は、信越化学工業、キーエンスなどでした。

 当月は著名な投資家として知られる米国のウォーレン・バフェット氏が来日を果たし、日本株を有望な投資先として考えているということがニュースとなりました。
 2020年にバフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社が日本の5大総合商社の株に純投資目的で投資し、大株主となったことは周知の通りです。今回の来日でバフェット氏は、㈱日本経済新聞社や米CNBCの取材に対し、総合商社のビジネスがバークシャー・ハサウェイ社の投資事業に非常に似ているため理解しやすいと説明。「日本や世界で展開している」との評価も示しました。(2023年4月11日 日経新聞記事より)また彼の目には投資開始時の総合商社各社の株価が信じられないほど割安に映ったとも言っています。具体的には株式益利回りが14%(2023年4月12日 米CNBC取材記事より)もあり、且つ配当も大幅に増加したことが、総合商社株を購入する重要な決め手であったとのことです。
 当ファンドでは5大総合商社の1社である三菱商事を組み入れていますが、その理由として、しっかりとした利益の成長実績があり、今後の展望も明るく、なおかつバリュエーションが非常に割安であることを過去の月次報告書で説明してまいりました。
 さて、日本のメディアは次なる「バフェット銘柄」探しに躍起になっています。勿論、当の本人はどの株を買おうと考えているのかを明かすはずがありませんが、「商社以外の投資先、考えている会社は常に数社ある」と日本株の更なる投資を真剣に検討していることをほのめかしています。
 株式益利回りが高く、増配が続き、理解しやすく且つ世界で展開しているビジネスとしては、当ファンドで組み入れている日本のメガ損保グループが挙げられます。2022年6月の月次報告書でご説明したとおり、日本の損保ビジネスは魅力的なビジネスです。まず、国内の損保市場はメガ損保3社でシェア約9割という寡占市場だということです。これは長年の業界再編によってもたらされたものであり、損保各社は国内で潤沢な利益を上げています。値上げ力もあることから、昨今のインフレに対する抵抗力も備えていると考えます。また世界的にもユニークなのは、各社が豊富な含み益を持つ多額の政策保有株を有している点です。1960年代に保険事業における顧客関係の維持を目的に購入されたこれらの株は現在では非効率な金融資産としてみなされており、現在は毎年500億円から1,000億円強の規模で売却が行われ資金を手に入れています。これも日本のメガ損保独自の競争優位性と当ファンドでは考えています。
 国内の潤沢な利益と政策保有株の売却資金は株主価値の増大のために活用されています。その一つが海外M&Aです。例えば、東京海上ホールディングスは過去20年近くにわたって、海外保険事業を拡大してきたという経緯があります。特に2008年以降、企業買収を積極化しており、2022年度第3四半期実績では連結正味保険料収入の半分近くが海外事業によってもたらされています。これは事業規模の拡大だけでなく、日本特有の自然災害リスクと相関の低い海外保険事業を獲得することで保険引受リスクをグローバルで分散することも目的となっています。このような事業戦略は、ビジネスに安定をもたらし、ひいては株式リスクプレミアムの縮小につながるため株価にとってもポジティブです。
 魅力的なM&A候補が見つからない場合、損保各社は株主還元を積極的に行います。バフェット氏が「配当や自社株買いのために多くの資金を生み出している」と言っているように、当ファンドでも持続的な自社株買いや増配は株主にとって重要なポイントだと考えます。そして、株価が割安であることは、これら株主還元策にとって重要な意味を持ちます。自社株買いでは株価が割安であるほどより多くの株を買い入れることができ、結果として株主に帰属する一株当たり利益が多くなります。一株当たり配当金は、株価が安ければ安いほど、配当利回りが高くなります。
 バフェット氏が総合商社株を割安であったとして指摘した株式益利回りというのは、PER(株価収益率)の逆数のことです。現在の損保各社の株価は一桁台PER(2022年3月期修正純利益実績※ベース)です。即ち、株式益利回りは総合商社並みの10%越えの水準であることを意味し、割安と判断が可能です。配当利回りも3%台後半~4%台と、こちらも総合商社並みの数値となります。

※ 当期純利益に、保険ビジネス特有の異常危険準備金、危険準備金、価格変動準備金などの年度繰入額を足し戻した上、企業買収に伴って発生する無形固定資産の定期償却額やその他評価性引当金を足し戻すことで計算されるキャッシュフロー利益に近い概念。

2023年3月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の利上げ再加速の思惑を受けて米国株式市場が軟調に推移する中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した欧米金融不安の急拡大を受け、リスク回避姿勢が強まったことから大幅な下落に転じました。しかし月後半になると、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループ買収や米当局による預金保護などの対応で金融システムへの不安が和らぎ、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比2.10%の上昇となり、参考指数の同1.70%の上昇を0.40%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ロート製薬、信越化学工業などでした。一方、マイナス影響銘柄は、東京海上ホールディングス、オリックスなどでした。
 2022年12月の月次報告書でご説明したとおり、当ファンドでは昨年半ばごろから組入銘柄数が一時的に増加しましたが、2023年に入ってからは少しずつ絞り込みを進めています。その過程でいくつかの銘柄は短期的な保有に留まった一方、当ファンドの主要組入銘柄に至ったものもあります。例えば、東京海上ホールディングスやセブン&アイ・ホールディングスなどは上位保有になっています。当月末現在の保有銘柄数は25銘柄です。
 引き続き長期投資に耐えうるビジネスを展開すると判断した企業のなかで、以下の事由に合致するものが見出されれば、銘柄の入れ替えを行い、当ファンドの特徴である集中型ポートフォリオとして運用していく方針です。
 1.ポートフォリオの期待リターンを上回ると思われるビジネス
 2.ポートフォリオのリスク分散に寄与すると思われるビジネス

 さて、当ファンドでは銘柄数は少数ながら、「魅力的なビジネス」と考えられる資本財、日用品関連など様々な企業に投資を行っています。そのなかで、昨年来投資を開始した新たな業種として「半導体(東京エレクトロン、信越化学工業など)」と「金融(オリックス、東京海上ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループなど)」が挙げられます。これらの業種は以前の月次報告において過去に組み入れてこなかった理由を解説しましたが、昨今の外部環境の劇的な変化によって、明るい業績展望が描けるようになってきました。またバリュエーション面からみても魅力的であると判断しました。
 まず半導体については、シリコンサイクルと言われる需要増減が激しい業界であることに変わりはありませんが、昨今の米国と中国の同業界を巡る対立・競争激化に象徴されるように、多額の投資が政府主導で中長期的に行われるようになったことはポジティブといえます。例えば、半導体受託製造で世界最大手のTaiwan Semiconductor Manufacturing社(台湾)が、米国や熊本県において新たな工場を建設しているのは周知のとおりです。日本の半導体関連企業にはモノづくりの競争優位性をいかんなく発揮して業界をリードしているプレーヤーが多く、注目に値します。
 半導体産業が国際関係を左右するほどの影響力を持つのは何故でしょうか?一言でいうと半導体が一国の経済発展にとって過去も未来もとてつもなく重要なものだと考えられるためです。これまで私どもの生活を劇的に便利にしたパソコンや携帯電話だけでなく、自動車や家電製品などの高度化や、今後はデーターセンターやAIなどの分野で膨大な半導体が必要とされます。例えば、自動車一台当たりの半導体平均収益を見ると、電気自動車はガソリン車に比べて2倍以上と言われています。また携帯電話も通信システムが4Gから5G、そして6Gに切り替わっていくことでも、一台当たりの半導体搭載金額が増えていきます。景気変動によって需要の振れ幅は大きくても、これほど数量が大幅に伸びることが確実視される業界は他にあまりなく成長株投資にとっては無視できない分野と考えます。とりわけ日本には世界有数の業界リーダーが存在します。半導体産業の技術発展とともに成長してきたこれらの企業には長期のトラックレコードがあり、利益率・資本収益性・キャッシュフロー創出力の面で当ファンドの投資基準に合致している企業が少なくありません。そして何よりも、昨年の半導体関連銘柄の株価下落によって、当ファンドの既保有銘柄に比べて投資妙味が増してきたと判断したことも投資を開始した大きな理由です。
 金融分野についても、当ファンドでは日本の金融業は成長性が低いと判断しこれまで投資を見送ってきましたが、40年振りともいえる国内の物価高現象をきっかけに、本格的な金利上昇の兆しがみえてきたことは大きな変化だと考えます。マイナス金利が続いてきた日本ではむしろ金利環境が「正常化に向かう」というほうが正しいかもしれません。即ち今までが「異常」であって、「正常」な状況に戻ることを前提として組入銘柄を選択することは妥当なことと言えます。金利が正常化することでビジネスが魅力的なものとなりうる業種としては銀行、ノンバンク、保険などが挙げられます。銀行やノンバンクは本業の貸出業務やリース事業で本来あるべき利ザヤを確保できるようになり、保険は保険料の運用面においてプラス効果があります。これらの国内企業は歴史も古く、しっかりとした長期のトラックレコードがあります。また、株価バリュエーションが比較的低い水準にあること、新規参入が少ないことも魅力です。また国内損保大手は、寡占化による潤沢な利益と、多額にある政策保有株の資金化によって海外への成長投資を積極的に行えるポジションにあると考えます。
 当月は昨年来の世界的な金利の大幅上昇で突如、海外の金融システム不安が顕在化しました。これによって国内マイナス金利の撤廃はなくなった(或いは遠のいた)という見方もありますが、当ファンドでは構造的なインフレが続く可能性を注視しています。景気減速が起きたとしても、1)労働人口の高齢化、2)移民流入の制約、3)労働よりも余暇を優先する人々のライフスタイルの変化などによる構造的な労働力の供給不足は変わらないと考えます。労働者はインフレによって実質賃金が目減りすると、継続して賃金引上げを求めます。これが企業による価格転嫁を引き起こし、ひいては物価高につながり、それが再び実質賃金の目減りを引き起こし、更なる賃金上昇圧力を生み出すという悪循環を生み出します。さらに近年の世界的なESG投資(環境:Environment、社会:Social、コーポレートガバナンス:Governanceなどを考慮した投資)のトレンドや環境関連の取り組みも、長期的には企業のビジネスコストを押し上げるため、潜在的なインフレ要因になりうるとみています。
 現在の経済環境は金利上昇が続くと、一部の海外金融機関が経営危機に陥ってしまう、かといって金利引き上げを止めればインフレが加速してしまうという微妙な時期にあると言えます。翻って日本では今回の春闘でこれまでにない賃金引き上げが実現し始めており、インフレ経済復活の可能性はゼロではないと考えられます。当ファンドではインフレに関する詳細な予想は行っておりません。しかし、インフレ環境下でいざ国内金利が正常化(上昇)した場合に、ビジネスが大きく改善することで株価に割安感が出てくる魅力的な企業があると考えられます。当ファンドでは日本国内における構造変化を視野に入れつつ、引き続きグローバルな視点で魅力的な企業への投資を行っていく方針です。

2023年2月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.95%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、米長期金利上昇などを受け米国株式市場が軟調となる中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、市場予想を上回る米国のCPI(消費者物価指数)やPMI(総合購買担当者景気指数)を受けて利上げの長期化懸念が再燃し、日本株も下落に転じましたが、月後半にかけては、植田次期日銀総裁候補が所信聴取で金融緩和継続を明言したことや円安の進行が日本株相場を下支えし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比0.81%の上昇となり、参考指数の同0.95%の上昇を0.14%下回りました 。
 当月のプラス貢献銘柄は、三菱商事、オリックスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、リクルートホールディングス、オリンパスなどでした。
 当月は決算シーズンでしたが、当ファンド投資銘柄のなかで好決算を発表した企業としてオリックスが挙げられます。同社は2023年3月期連結中間業績で、新型コロナウイルスに伴う病院給付金の急増や米国事業の成長鈍化によって前年同期比で大幅な減益決算を余儀なくされましたが、当第3四半期では前年同四半期比および前四半期比で増益に転じており、業績の改善の兆しが見え始めています。
 オリックスは国内最大のノンバンク・金融サービス会社です。1964年設立時のリース事業を皮切りに「金融」と「モノ」の専門性を高めながら、船舶リース、レンタカー、航空機リース、融資、不動産開発、アセットマネジメント、銀行業、生命保険業、プライベートエクイティ投資、事業再生、ベンチャーキャピタル、再生可能エネルギー、空港運営など多角化を進めてきました。また同社は欧米やアジアでのビジネスも展開しています。2022年3月期ではこれらの海外事業がベース利益全体の半分程度を占めており、グローバル企業と言えます。設立から58年間、バブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、サブプライムローン危機、コロナショックなど様々な逆風がありましたが、毎期黒字の計上を続けています。2010年3月期にサブプライムローン危機の余波で公募増資を余儀なくされたというややネガティブなイベントはありましたが、業績のトラックレコードとしては問題ないと当ファンドは考えます。
 当ファンドが、同社の本源的価値増加率の近似値としてみている一株当たり純資産伸び率は過去5年、10年でみて年率7%から10%成長が続いていることに加え、経営陣は配当方針としては配当性向33%若しくは前年配当実績のどちらか高いほうを還元することを掲げており、現在の株価水準では配当利回りが3%台半ばになります。加えて、同社は優良な投資案件が見つからない場合、自社株買いを通じて余剰株主資本を株主に還元することを標榜しており、近年これが実行に移されています。自己株消却により、過去3年で年率2%から3%程度のペースで発行済株数が減少する傾向にあり、結果として一株当たり利益及び純資産が引き上げられています。利益成長率、自社株買い、配当利回りを合計すれば同社株への投資で得られる予想リターンは年率10%程度が見込まれ、当ファンドで組み入れている高成長銘柄群の期待リターンと同等レベルです。またPBR(株価純資産倍率、0.8倍)、PER(株価収益率、8倍)などでみた株価指標も現在の日本の株式市場平均に比べ安く、バリュエーションの切り下がりリスクも小さいと判断されます。
 同社はノンバンク・金融サービス会社ではありますが、じつは「リオープニング・インバウンド関連銘柄」でもあります。これは、同社のホテル・旅館運営、航空機リース、空港コンセッションの3事業がコロナ禍で大打撃を受けたものの、足元では急速に回復傾向にあることと関連しています。まずホテル・旅館運営事業は不動産セグメントに含まれており、「クロスホテル」や「佳ら久」などのブランドで全国各地に展開しています。コロナ禍だった2022年3月期にはおよそ90億円の赤字を計上していますが、足元では稼働率が回復しつつあります。コロナ禍前の利益水準は60億円程度です。また今後は高級価格帯を中心に新規ホテル・旅館を開業していく計画であり、継続的な成長が見込まれます。
 空港コンセッション事業は事業投資・コンセッションセグメントに含まれます。同社は関西国際空港、大阪国際(伊丹)空港、神戸空港を運営している関西エアポート㈱を持分法適用会社として所有しており、売上収益の4割を得ています。具体的には飛行機の離発着料とターミナル内の店舗売上が主な収益源です。特に国際空港は、関西地域において関西国際空港以外の競合先が存在しませんので、独占的であり魅力的なビジネスといえます。コロナ禍において同事業は2022年3月期に約100億円程度の赤字を余儀なくされましたが、昨年10月の訪日客の入国規制緩和により2022年12月現在はすでに2019年同月の4割程度まで国際線旅客数が回復しているのは朗報です。2020年3月期には200億円近い利益を稼いでおり、同水準に近い利益額は2025年3月期までに達成可能だと考えられます。なお同空港は今後の拡張工事により収容能力が3,000万人から4,000万人とへと約3割拡大することが決まっていますので、利益が中長期的に200億円を大きく上回ることも期待できるでしょう。
 最後に航空機リース事業は輸送機器セグメントに含まれており、グループ会社のOrix Aviation Systems社(アイルランド)と持分法適用会社であるAvolon Holdings社(アイルランド、同社3割所有)が担っています。コロナ禍前の同事業からもたらされる利益規模は450億円でした。国内ホテル・旅館運営事業および空港コンセッション事業が国内依存のビジネスに対して、航空機リース事業はグローバルに展開されています。海外では旅客需要の回復が日本よりも早く始まったことから、すでに黒字基調で推移しています。懸念されていたロシア向けに貸し出されている航空機が回収不能になったケースもほとんどなく、減損損失も限定的でした。なお同事業は短期的には金利上昇による資金調達コストの増加が懸念材料となりますが、長期的にはリース料への価格転嫁が可能であるというのが当ファンドの見方です。
 以上、3事業は2022年3月期において合計赤字額が約220億円に上りましたが、経営陣は2025年3月期までにコロナ禍前の利益水準をやや下回る600億円までの回復を見込んでおります。即ち、利益改善額は800億円強となり、同社の2022年3月期当期純利益実績3,121億円から2025年3月期にかけての利益増加見込み額1,279億円(同期末の当期純利益計画4,400億円)のうち6割程度がこれら3事業の回復によって達成されることを意味します。さらに同期間中に、他の事業分野における業容拡大、あるいは良質な投資案件を積み上げることができれば、超過達成も十分に考えられます。一方、新規案件がそれほど見つからない場合は、自社株買いが行われるでしょう。
 最後に金利上昇の影響についてですが、同社の場合は事業が多岐にわたっているため、金利上昇がプラスに働く事業と、マイナスに影響する事業があると推察されます。例えば、リース事業にとっては資金調達コストが上昇するため金利上昇直後は利幅が縮小しますが、長期的にみれば低金利環境時よりも利ザヤを得やすくなりますのでプラスといえます。また保険事業では国内長期金利の上昇によって運用損益の改善が見込まれるほか、保険債務のデュレーション(投資の平均回収期間を表す指標)が資産サイドに比べて長いことから純資産価値(エンべディットバリュー)の拡大につながります。他方、不動産事業では金利上昇を通じて割引率が上昇するため、物件価値の下落につながるかもしれません。以上のことから、金利上昇インパクトを推計するのは容易ではありませんが、同社の分析によると海外金利の上昇は同社業績全体にとって若干のプラス、国内金利の上昇はほぼニュートラルとしています。同社のROE(株主資本利益率)は2022年3月期実績の9.9%から2025年3月期には11.7%への改善が計画されており、現在低位に留まる株価のバリュエーション(PBR0.8倍、今期予想PER8倍)の拡大余地もありそうです。即ち、向こう3年で当期純利益が今から4割程度増え、ROEの改善を反映してPBRが上昇すれば、現状の株価水準から市場平均を上回るリターンが期待できると考えられます。

2023年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年1月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.42%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は下落から始まりました。月前半に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した2022年12月の米製造業景況感指数が2年7カ月ぶりの低水準だったことや、中国製造業購買担当者景気指数(PMI)も低迷が続いたことから、景気後退への懸念が高まったのが主な要因と見られます。月半ばには、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持すると発表したことを受け、株式市場は上昇に転じました。月後半には、米国連邦準備制度理事会(FRB)の理事が利上げ幅緩和の支持を表明したことや、米有力紙による早期利上げ停止の観測報道を受け、日本でも成長株を中心に株価が堅調に推移した結果、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは 、前月末比4.19%の上昇となり、参考指数の同4.42%の上昇を0.23%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ソニーグループ、キーエンスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、東京海上ホールディングス、ユニ・チャームなどでした。
 当月は、昨年新規投資を行ったセブン&アイ・ホールディングスが2023年2月期第3四半期決算を発表しました。営業収益は8.82兆円(前年同期比43.5%増)、営業利益3,948億円(同30.4%増)と買収したSpeedway社(米国)が加わった米国事業を中心に大幅増益となりました。
 同社は日本人なら誰もが知るコンビニエンスストアであるセブンイレブンを筆頭に、百貨店やGMS(General Merchandise Store、総合スーパー等を指す)を展開する日本最大の小売企業グループです。しかし、利益構成比でみると米国のセブンイレブン事業が半分以上を占めており、実はグローバルな企業でもあります。興味深いことに、日本発の小売業態であるコンビニは、もともとは米国において誕生したSouthland Ice Company社に起源があり、1970年代に㈱イトーヨーカ堂(現在は同社の傘下)と国内ライセンス契約を結んだことから、主に日本においてビジネスモデルが発展しました。同社の米国事業は2006年以降になって、主にM&Aによって業容を少しずつ拡大してきました。そして今般、買収によって連結化されたSpeedway社が加わったことで、店舗数が現地で圧倒的最大手となったのです。本案件は実質的な取得価額が133億ドルであり、EV/EBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)13.7倍で買収したことに相当しますが、同社が統合効果として6億ドル程度のシナジーによる増益効果を見込んでいるため、実際には6~7倍のEV/EBITDA倍率となります。日本で長年培われてきたセブンイレブン事業の様々なノウハウ(商品ラインアップ、店舗運営ノウハウおよび物流効率化など)を移植していくことで実現可能と思われることから、妥当な買収案件であると当ファンドは考えます。
 同社は日本の会計基準を採用しているため、本件買収に伴いのれんの償却費が年間10億ドル程度計上されます。このため、損益計算書上では、通常のEPS(一株当たり利益)(同社今期予想317.03円)とのれん償却前EPS(同444.07円)とでは4割程度の開きがあります。後者のEPSを前提とすれば現在の株価は13倍台とTOPIXの平均PER(株価収益率)とほぼ同水準であり、割高感はないと判断されます(また当ファンドの平均PER水準も下回っています)。のれん償却費とは現金の流出を伴わない費用項目であることから、当ファンドでは減損リスクがない限りにおいて、のれん償却前EPSを使用すべきと考えます。
 株価のバリュエーションについてもうひとつ言えることは、同社株は2010年前後と比べてPERが切り下がっており、割安感が強まっていると考えられます。2006年2月期~2015年2月期の同社の平均PERは約25倍でした。バリュエーション切り下がりの要因として考えられるのは、国内で小売業界自体が成熟化しているため今後の成長性が乏しいと思われていること、同社はGMS事業などの低採算事業を抱えており、グループ全体の価値を毀損していること、また株式市場が同社の米国コンビニエンスストア事業の成長性にいまだ確信を持てないことなどが考えられます。当ファンドでは、後述するようにこれらの点については、過度な懸念は必要ないとの見解を持っています。
 資本収益性についてはどうでしょう。同社は長年、連結ベースのROE(株主資本利益率)が10%に届かない状況が続いており、経営陣も問題意識として持っていることが決算説明会などにおいて確認されています。しかし2023年2月期以降はSpeedway社の連結が利益押し上げ要因となるため、のれん償却前ベースで10%を超えてくることが予想されます。加えて、1)国内コンビニ事業が低位ながらも成長が続くこと、2)米国での上述シナジー効果の発現と更なる業容拡大、そして3)同社が抱えるいくつかの低採算事業の撤退の可能性などを考慮すれば、更なるROEの改善も十分にありえると考えられます。
 一点目の国内コンビニ事業では、絶え間ない既存店のレイアウト改善や、ネットコンビニ分野でのデリバリーサービスの拡充などに取り組んでいます。2023年2月期は既存店売上伸び率が第3四半期時点で4.9%増と好調であり、コロナ禍前の2019年比でみてもプラスに転じています。成熟化が言われて久しい日本のコンビニ業界ですが、工夫次第でまだ伸びる余地は残されていると考えます。例えば、同社のプライベートブランド(自社企画商品)である「セブンプレミアム」には現在追い風が吹いていると考えます。国内における物価高によってナショナルブランド(製造メーカーブランドの商品)が値上げを余儀なくされていますが、この結果として品質が同等で価格が相対的に割安な同社プライベートブランドの優位性が増しているためです。同社決算資料によると、2021年11月月間のカップラーメンカテゴリーにおける単品売上ベスト10には、セブンプレミアム製品が3品のみのランクインでしたが、2022年の同時期比較では上位8品を独占しています。
 二点目の米国コンビニ事業で注目すべき点は、まだまだ伸びしろが大きいと考えられることです。同社の開示資料によると、米国でのコンビニ総店舗数は2020年12月末時点で150,274店ですが、このうち買収前の同社が9,519店(市場シェア6.3%で1位)、今回買収したSpeedway社が同シェア2.6%で3位に位置しており、店舗数は3,854店です。即ち、今回の買収によって同社は合計約13,000店を抱える圧倒的なプレーヤーになったのです。また、日本のコンビニ業界はセブンイレブン、㈱ファミリーマート、㈱ローソンの3社で既に寡占化状態にありますが、米国では上位10社でも占有率はまだ2割程度しかありません。追加的な買収による業容拡大余地が多く残されているのが魅力です。
 なお、米国コンビニ事業はガソリン併設店が多いことから、今期の売上と利益は年初からのガソリン市況高騰の恩恵を受けていますが、株式市場では来期以降の持続性が懸念されているようです。当ファンドは、ガソリン価格が下落すれば、むしろ人々が車で外出する機会が増え、コンビニでの物販消費にまわるおカネも増えるため、一概にマイナス要因とは言えないとの立場です。一方、ガソリン価格が高止まりすることも考えられます。かつてはエネルギー価格が高騰すれば、油田などの新規開発が進み、供給増・価格下落が誘発されました。しかし世界的な脱炭素化によって、従来のように価格上昇が供給増になかなか結び付かず、高価格が常態化する可能性があります(同社はガソリン価格高騰によってEV(電気自動車)普及が加速することを見据えてEV充電設備の設置拡大も進めています)。
 米国におけるコンビニエンスストアのガソリンスタンドビジネスは、ガソリン販売量にCPG(セントパーガロン:1ガロンあたりの荒利額)を掛けあわせたものが売上となります。このCPGはガソリンスタンド業界によって決定され、その水準は常時変動しますが、近年は継続的な上昇傾向にあります。これはガソリンスタンド店舗内のコンビニ部分の物品販売が、インフレによるコスト高や売上の伸び悩みによって厳しい環境となるなか、零細店舗オーナーがガソリンスタンド業において収益を確保しようとしているため、業界全体としてマージンを高く維持するインセンティブが働いていると考えられます。このため仮にガソリン販売数量の減少やガソリン単価の下落があったとしても、CPGの引き上げによって収益を補うことがある程度可能となっており、同社など大手資本はこの流れに追随しているとみることができます。過去に石油会社がガソリンスタンドを経営していた頃は、CPGの引き下げによるシェア争いが散見されましたが、近年では事業の取捨選択によって石油会社はコンビニ・ガソリンスタンド事業から撤退しているケースが多く、競争環境が非常に緩やかであるのが特徴です。またガソリンスタンド事業に新規参入しようと考えるプレーヤーもまず考えられませんので、同社を含む既存事業者にとって魅力的なビジネスとして位置づけられるのではないでしょうか。以上の理由から、同社のガソリンスタンド事業は来期以降も底堅く推移するものと思われます。
 そして三点目の低採算事業については、百貨店事業とGMS事業の存在が挙げられます。既に報道されているとおり、同社が運営するそごう・西武百貨店については、海外投資ファンドへ売却することが決定しています。今後も同社の資本収益性や株主還元策の改善に向けた取り組みが注目されます。同社は2022年4月7日に経営メッセージを公表後、新たな取締役会の下、事業ごとの効率性・成長性を踏まえ新しい成長戦略を現在策定中です。「キャピタル・リアロケーションプラン」と呼ばれる同プランは、その名の通り今後の資本配分方針の枠組み決定する重要なものとなりそうです。最適な資本配分は株主価値の増加には欠かせない点で、企業経営者は毎年創出する利益をどのように活用するかを考えるのが唯一の仕事といっても過言ではないと当ファンドは考えています。例えば、いくらを設備投資にまわすのか、あるいは買収戦略に充てるのか、はたまた借入金の返済に充当するのかなどが考えられます。また株主還元の視点も重要です。いくらを配当として払うのか、そして自社株買いをするのか、などといった点です。基本的には資本コストを上回る再投資機会が本業に存在するのなら、経営陣は積極的に内部留保を行うべきです。一方、再投資機会が乏しいなら株主に配当や自社株を通じて還元するのが正しいアプローチといえるでしょう。なお自社株買いを行う場合、自社が考える適正な株価よりも市場で取引されている株価が割安な時のみ行うべきであるのは言うまでもありません。なお、定量面を含む具体的なプランの概要は改めて情報公開予定となっており、引き続き注目です。
 最後に、当月は米国の著名な友好的アクティビストファンドとして知られるValue Act社(米国)が、同社経営陣に対し書簡を送り、改めて同社のコンビニエンスストア事業の株主価値を最大化するためのスピンオフなどを求めたとロイターが報じました。Value Act社は2021年より同社の株主となっており、これまで幾度となく、同社の株主価値を最大化するための抜本的なグループ再編を求めてきました。具体的には、成長性の高いコンビニエンスストア事業を他の不採算事業であるGMS事業から切り離すことなどを提案しているようです。これまでのところ同社経営陣は、本提案に対し難色を示していると推測されますが、これまで多くの投資成功事例を持つValue Act社の友好的かつ粘り強いアプローチが実を結べば、当ファンドも株主として大きな恩恵を受ける可能性があります。また当ファンドとしても、同社とのIRミーティングの際に同様の提案を働きかけていくことも視野にいれて今後の調査を継続していく方針です。

2022年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年12月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.57%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は、11月30日にFRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル議長が12月のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げ減速を示唆したことを受け、上昇して始まりましたが、その後は米国景気悪化懸念の高まりなどから下落基調をたどりました。月半ばには、欧米中銀の金融引き締め継続による景気悪化懸念や、日銀が長期金利の許容変動幅を修正したことなどを受け、金融政策の転換懸念から株式市場は大幅に下落しました。月後半にかけては、中国が事実上「ゼロコロナ政策」を終了したことでインバウンドや中国経済再開期待が生じる一方、米国の半導体株安や円高の進行を受けて、一進一退で推移しました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンス は、前月末比5.96%の下落となり、参考指数の同4.57%の下落を1.39%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、ソニーグループ、日立製作所などでした。
 2022年の当ファンドの運用成績は、絶対リターンはマイナス、また相対リターンも参考指数であるTOPIX(配当込み)に大きく劣後するという大変不本意な1年となりました。運用成績が低迷した理由については後述しますが、2022年初の外部環境とその後の現状認識の最大の違いは世界的なリセッションおよびスタグフレーションの現実味が増したことです。2022年初時点ではあくまでコロナ禍の収束によって経済が成長軌道に戻り、それに伴う健全なインフレと正常な金利上昇を前提としていましたが、その後の想定を大幅に越えるインフレ率の悪化と金利の大幅上昇により、経済・金利環境が急速に悪化しました。一方、日本ではようやくデフレ環境から脱却する兆しがみえてきました。
 約40年ぶりの本格的なインフレと、それに伴う世界的な金利の高止まりが1970年代のように長期間継続する可能性を鑑み、既存組入銘柄の保有を続ける一方、2022年央頃より新規銘柄を従来より多く組み入れました。なお当ファンドのアクティブシェアは80%程度で推移しており、引き続き差別化されたポートフォリオである点に変わりないと考えています。

運用成績が低迷した要因1

 運用成績が振るわなかった要因はいくつかありますが、最大の理由は当ファンドで組み入れているグロース株が、金利上昇により株価バリュエーションの切り下がりに見舞われたことです。この点については、2022年2月の月次報告書でキーエンスなどの事例をあげてご説明しました。
 グロース株の場合、長期金利の上昇局面では将来見込まれるキャッシュフローの現在価値が目減りするため、株価の下押し要因となります。しかし、当ファンドではグローバルで成長が期待できる企業に投資し続けることが、人口減少が続く日本で最も有効なアプローチだと考えています。世界を舞台に成長できる企業であれば内需型企業に比べて潜在市場規模が遥かに大きいため、息の長い業績拡大が期待できます。キーエンスの現在の株価は2021年の過去最高値から3割程度調整した水準にありますが、同社の中長期的な成長見通しは大きく変わっていないと考えられます。これまでの年率10%超の利益成長が継続すれば、3~4年程度で下落分を取り戻せる計算になりますが、それまでは辛抱が求められると考えます。
 一方でPER(株価収益率)切り下がりリスクがあまりなく、ファンドの絶対リターンを牽引してくれるであろう銘柄も存在します。今後バリュー株からグロース株への変貌を遂げると期待される日立製作所などです。当ファンドでは2021年に会社業績予想を前提にPER10倍程度の局面で同社に新規投資を行い、現在でも割安であると考えています。未だ製造業主体の企業として、原材料コスト上昇、半導体不足、中国におけるロックダウンなどの影響で短期業績の大きな成長は期待しにくい状況ですが、ルマーダ事業を通じてビジネスモデルの構造変化が進むことで、中長期で利益の継続成長とバリュエーションの切り上がりの可能性があると当ファンドでは予想しています。
 三菱商事も、2022年末時点のPERは一桁台、PBR(株価純資産倍率)は1倍割れと長らくバリュー株としてレッテルを貼られていますが、当ファンドでは総合商社を世界中に人的ネットワークを持つ投資事業会社であると考えております。今日の彼らのバランスシートは世界的にも珍しい事業資産ポートフォリオを有しています。これら資産の積み上がりが総合商社の本源的価値の増加につながり、ひいては一株当たり純資産価値の成長に反映されると考えます。例えば、三菱商事の一株当たり純資産価値は過去5年、10年、15年、20年でみても一桁後半から10%前後の年率成長を達成しています。このことから、当ファンドでは三菱商事を成長性のないバリュー株ではなく、割安に放置されたグロース株であるとみています。

運用成績が低迷した要因2

 コロナ禍収束後の経済再開で景気改善への期待が先行するなか、当ファンドの予想に反して、過度なインフレが景気後退リスクを引き起こしたことも災いしました。当ファンド組入銘柄は、日本が誇るグローバル成長企業が中心です。ここには日本のモノづくりの競争優位性を武器とする製造業やインターネットサービス企業などといったビジネスが景気に左右されやすい「景気敏感株」が含まれており、リセッションリスクの高まりがこれら保有銘柄の下落につながりました。但し、景気敏感株は景気後退懸念が台頭すると先行して株価が下落する傾向がありますが、逆に景気回復の兆しがみえてくれば上昇に転じるのが早いのも特徴です。
 景気敏感な側面を持つリクルートホールディングスについて、当ファンドでは世界の構造的な人材不足から生じている労働インフレの恩恵を受ける企業として評価しています。現在の株式市場では、足元の景気後退が同社の人材マッチングビジネスに悪影響を及ぼすという見方が支配的であるものの、同事業におけるリクルートホールディングスの強みは圧倒的であると考えられることから、数年内に労働市場環境が正常化することを見据えて、直近では買い増しを行っています。

運用成績が低迷した要因3

 またコロナ禍での巣ごもり消費には「行き過ぎた」部分があり、経済再開に伴いそこが剥落したことも挙げられます。ソニーグループのゲーム事業や、シマノの自転車部品事業、メルカリのオンラインフリマ事業などは、コロナ禍をきっかけに製品やサービスの良さや利便性に消費者が気づき、それが生活様式の一部として定着したと思われます。しかし当期は一旦反動減に見舞われていると判断します。
 なお、メルカリについては、国内の盤石な収益基盤から生み出されるキャッシュフローを米国事業の育成にまわすことで「意図した赤字」を継続してきましたが、昨今の金利上昇環境下では株式市場から厳しい評価を受けておりました。加えて、当ファンドが継続して行っている会社取材および調査では、米国における同社フリマ事業の成功確率が必ずしも上がっていないことが判明しており、また、国内事業の成長性がやや低下している可能性を示すデータも散見されたため、組入比率を引き下げています。

組入比率を引き下げあるいは完全売却を行った主な銘柄

 2022年は日本電産の組入比率を引き下げました。目下、EV(電気自動車)向けトラクションモーターに注力している同社は、2025年度に400万台の供給を目指しているのは既報のとおりです。しかし、中国の現地EVメーカーの間で日本電産による独占的なモーター供給を牽制する動きが出てきていること、また同社がEVトラクションモーター分野へ傾注するなか、他の事業部門において競合のミネベアミツミ㈱にシェアを奪われている可能性があること、そして金利上昇をうけて、トラクションモーター事業の一定の成功を前提として形成されていた株価に相対的な割高感がでてきたと判断したため一部売却を行いました。また創業者兼会長である永守氏の後継者と目されていた関前社長の突然の退任に伴い後継者問題が難航していることも判明しました。当ファンドでは同問題がいずれは成功裏に解決するとの立場をとっていましたが、永守氏が決算説明会の席上において関前社長在任中に社内文化が劣化したことを名指しで非難している姿をうけ、その非紳士的な対応を懸念しました。また同氏の存在がなければいとも簡単に社内文化が弱体化するという事実が確認されたことも売却に至った要因です。
 また2022年8月ソフトバンクグループの巨額損失のニュースとビジョンファンド事業のリストラが報道されましたが、当ファンドではそれに先んじて春先から同社株の売却を行いました。想定以上に外部環境が悪化したと判断したためです。世界的な金利上昇を受けてベンチャーキャピタル業界全体が苦境に陥っており、回復には相当な期間を有する可能性があること、また投資先企業が業界全体の回復を待たずに事業が行き詰まるリスクなどを考慮し、同社ビジョンファンド事業の将来性を慎重にみることにしました。また同社の主要投資資産であるAlibaba社(中国)に対しても先行きの厳しさを懸念しました。中国のeコマース(電子商取引)業界でこれまで圧倒的なシェアを背景に急成長を遂げてきた同社ですが、近年は中国政府によるインターネット企業に対する厳しい監視・規制の対象になってきたからです。そのほか、上場予定のArm社(英国)についても昨今の金利上昇による評価額の切り下がりリスクなども考慮しました。

ファンドパフォーマンスの貢献銘柄

 一方、ロート製薬や日立製作所などは運用成績に貢献しました。
 ロート製薬は創業時の胃腸薬販売から始まり、20世紀初頭に市販⽬薬事業、1990年代から2000年代にかけてスキンケア事業を加えてきました。⽬薬、スキンケア商品はいずれも今⽇の稼ぎ頭です。2023年3⽉期第1四半期決算は、連結売上が前年同期⽐23.5%増、営業利益が同37.8%増と⼤変好調でした。全体売上の約6割を占める⽇本では、コロナ禍のリモートワークで需要が⾼まっている⾼額⽬薬や、⾏動制限の緩和に伴って外出機会が増加したことから⽇焼け⽌めや、スキンケアシリーズの「メラノCC」などが⼤幅に伸びました。海外も⼤変好調です。全体売上の約4分の1を占めるアジアではコロナ禍が収束に向かうベトナムでV字回復となり、インドネシアも好調です。また売上規模は⼩さいですが⽶国とヨーロッパも増収増益となっておりポジティブです。
 同社の魅⼒は市販⽬薬(アイケア部⾨)や化粧品(スキンケア部⾨)のアジアにおけるニッチなブランド⼒です。インドネシア、ベトナム、カンボジアなどの国々では今後、全⼈⼝に占める⽣産年齢⼈⼝の割合が⾼まっていく、所謂「⼈⼝ボーナス」期への移⾏が予想されます。現段階から同社ブランドの消費者認知度を⾼めるための先⾏投資を⾏うことは、⻑期的にみて正しい戦略であると当ファンドでは考えます。もう⼀点将来楽しみなのは、10年ほど前から国内で取り組み始めた再⽣医療事業と、近年開始した眼科⽤医療⽤医薬品事業です。再⽣医療について同社が進めているのは、脂肪由来の幹細胞を利⽤した再⽣医療⽤製剤で、肝硬変、新型コロナウイルス感染症、肺線維症、重症⼼不全などの適応症向けに治験が進められています。独⾃開発した⾃動培養システムを使って、再⽣医療⽤細胞を受託製造するビジネスも本格展開する予定です。
 日立製作所は、ルマーダ事業を通じてこれまでの単純なハードウェア製造・売り切り型ビジネスから顧客企業の課題解決型ビジネスへの脱皮を目指しています。同事業は2023年3月期売上19,000億円(連結売上構成比約18%)を見込んでおり、利益率も先行投資をこなしながら全社平均を超えている高収益部門です。このため、同事業の利益貢献度は売上の見た目以上に高くなります。
 2010年から2021年まで社長・会長を務めた中西氏によると、同社には1)システムインテグレーターとして培った情報技術(Information technology)、2)社会インフラ(発電所、ビルのエレベータ、鉄道システムなど)や工場の運転操業を行う経験で培った運用・制御技術(Operational technology)、および3)メーカーとして様々な製品技術(プロダクト)を併せ持っていることが他社にない強みとしています。これらを掛け合わせることで、昔のように製品技術と販売力だけで勝負せず、顧客企業と一緒に課題解決していくソリューション事業の展開が可能となるのです。このソリューションを発掘するために顧客の現場データをIoT(Internet of Things、モノのインターネット)経由で収集・分析する同社独自の仕組みを「ルマーダ」と呼んでいます。
 ルマーダ事業の具体的な流れとしては、まず顧客の経営課題・現場課題を、日立製作所と当該企業が協力して明らかにしていきます。次に顧客企業が保有する設備やIoT機器からビジネス現場(工場、店舗、社会インフラなど)でリアルタイムに発生する膨大なデジタルデータ(設備や店舗の稼働データ、従業員の作業データ、商品の販売動向データ、生産工程に使われる原材料データ、生産技術に関するデータなど)をルマーダ上で収集・分析します。そして、そこから導き出されたソリューションを顧客に導入し、付加価値を生み出すことを最終目標としています。ソリューションの中身は、日立製作所の持つハードウェアの販売、ITシステムの納入、オペレーションの請負、メンテナンスやモニタリングサービスの提供など様々で、これらをパッケージ化したものも考えられます。
 同社は、顧客企業に導入した課題解決の成功事例(ユースケース)を標準化して社内に蓄積することで、似たような問題に直面している他の企業・業界に応用していく方針です。また今後全ての事業セグメントは、「ルマーダを通じて顧客の課題解決を助ける」という視点で進められ、かつて同社の中心だったメーカー機能はソリューションビジネスの一環に過ぎなくなります。ユースケースが揃ってきた現在、同社はあまりコストをかけずに業容拡大できる段階に入ってきており、今後は利益率改善および売上成長スピードが上昇することが予想されます。当ファンドではまさにこの点をスケーラブルなアセットライトなビジネスとして注目しており、また顧客の囲い込みもできることから参入障壁が高い、魅力的なビジネスになると考えています。

新規銘柄について

 冒頭で述べたとおり、当ファンドでは銘柄集中度の高いポートフォリオを維持(アクティブシェア80%前後)しつつ、2022年央頃より新規銘柄への投資をやや積極的に進めています。
 従来から当ファンドでは少数の銘柄に投資する集中ポートフォリオであるがゆえに、組入銘柄を事業内容面でできるだけ分散させてきました。このため過去の景気悪化局面では大幅な銘柄変更を行うことなく運用を続けてきました。しかしコロナ禍の株式相場においてグロース株に追い風が吹き、2020年、2021年の2年間でソニーグループ(エンターテインメント)、キーエンス(FAセンサ)、日本電産(EV向けモーター)、ユニチャーム(日用品)、シマノ(自転車部品)、テルモ(医療機器)、リクルートホールディングス(求人広告)、ミスミグループ本社(機械部品)、ダイキン工業(空調)といった特性の異なるはずのビジネス群の株価が一斉に上昇し、とりわけ景気敏感型グロース株(リクルートホールディングス、キーエンス、日本電産など)の組入比率が押し上げられました。後から振り返ると、結果としてポートフォリオ全体に「偏り」が生じていたと思われます。そして長期金利はあらゆる金融資産の価格決定において重要な役割を果たしているため、2022年のように金利が急激に上昇すると必然的に現在の既存組入銘柄の株価バリュエーション再考も必要となったのです。従って、一部の既存銘柄の買い増しを行うだけでなく、新規銘柄への投資も優先しました。
 さて、2022年に新規投資を開始した銘柄として代表的なものは東京海上ホールディングスやセブン&アイ・ホールディングスなどです。損害保険(東京海上ホールディングス)やコンビニエンスストア(セブン&アイ・ホールディングス)などシンプルなビジネスであり、本質的に安全であるという当ファンドの投資戦略に合致しているだけでなく、既存の組入銘柄とは異なるビジネスを有しておりポートフォリオ全体のリスクを引き下げることにも寄与するものと思われます。また株主として期待できる投資リターンについても年率10%前後(配当利回りや自社株買い効果込み)が考えられ、当ファンドで従来から投資している他の銘柄群と遜色はありません。
 また両社のROE(株主資本利益率)は一見低くみえますが、実態はすでに高い、あるいはこれから高くなることが予想されるという意味でも当ファンドが考える高い資本収益性の条件を満たしていると考えます。東京海上ホールディングスについては、損益計算書上の当期純利益でなく、より実態に即した修正純利益でみたROE、セブン&アイ・ホールディングスについてはのれん消却前の当期利益でみたROEで共に10%を超えており、今後も更なる改善が視野に入っています。そして最後にバリュエーションも当ファンドの平均PERと比べて低く、日本株平均と比べても割高感はないと判断されます。
 12月末現在、組入銘柄数は28銘柄に増えておりますが 、アクティブシェアは約80%と引き続き高水準を維持しています。2023年は主にこれらの中から確信度の高い銘柄を見出し、ポートフォリオの絞り込みを進めていくことを念頭に運用に臨んでいく方針です。

2022年11月の運用コメント

株式市場の状況

 202211月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.95%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、国内主要企業の堅調な決算が好感され、上昇して始まりました。その後はFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見でFRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル議長が金融引き締めの長期化を示唆したことを受け、一進一退で推移しました。また、米国の中間選挙において市場の予想に反して民主党が健闘したことから、金融引き締めが継続するとの思惑も重荷となりました。月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、今後の利上げペース減速への期待から株価は大幅に上昇しました。また、FOMC議事要旨の内容がハト派と受け止められたことも株価の上昇に拍車をかけました。月後半には、中国における新型コロナウイルス感染拡大を受けて上げ幅を縮小する展開となったものの、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比3.15%の上昇となり、参考指数の同2.95%の上昇を0.20%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、三菱商事、ソニーグループなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、テルモ、リクルートホールディングスなどでした。

 20229月の月次報告書において、当ファンドでは、企業が実際にビジネスを運営する際に使用している資本に対してどれくらいの利益を生み出しているかをみる指標としてROE(株主資本利益率)よりもROCE(使用資本利益率)が有効であるとお伝えしました。なぜなら高いROEは、株主資本を意図的に過小にすることで比較的容易に達成できてしまうからです(過小資本の企業は財務リスクが高くなるので必ずしも望ましいと言えません)。しかし、なかには株主資本が非常に分厚くても高いROEを実現している企業も存在します。その一社が、当ファンドが最近新規投資したHOYAです。
 光学ガラス部品メーカーである同社は、日本のなかでも極めて収益性の高い製造業です。手掛けている製品は半導体製造に欠かせないマスクブランクスやハードディスク用ガラス基板といったハイテク部材、メガネレンズ、コンタクトレンズといった生活必需品、および眼内レンズや内視鏡といった医療用製品など多岐にわたります。
 同社が素晴らしいのは過去5年平均ROE19.9%、同10年平均17.9%、同15年平均16.4%、同20年平均17.6%と、どの時間軸でみても日本企業の平均を大幅に上回る高い資本収益性を誇るところです。同社は自己資本比率が平均78割という分厚い資本構造にも拘わらずこれを達成しています。また営業利益は2008年金融危機以前のピークから20223月期にかけて約2倍に成長、過去10年の一株当たり利益成長率は年率16%です。
 ではどのように経営陣はこれを達成しているのでしょうか?
  一つ目は、手掛けている製品の利益率が非常に高いということです。最先端の半導体製造に使われるEUVマスクブランクスは世界シェア7割程度、ハードディスク用ガラス基板に至ってはシェア100%と言われています。このため同社は価格決定権が強く、これら製品の営業利益率は5割を超え、大きな超過利潤を得ることができていると考えます。同社の基本的な事業戦略に「小さな池の大きな魚」という考え方があります。これはニッチ市場において圧倒的なシェアを獲得すれば、高い利益率を確保できるという意味です。実際、マスクブランクス、ハードディスク用ガラス基板などは世界市場規模が1000億円~1500億円程度の「小粒」な分野です。しかし、これらの市場は成熟産業ではありません。今後市場拡大が続くことで同社の売上成長が期待されます。
 二つ目は、生産設備などの資産効率が高いということです。同社のキャッシュフロー計算書を時系列で見ていくと、多くの年度において設備投資額が減価償却を下回っています。このため20083月期時点で1,522億円あった有形固定資産(純額ベース)は、20223月期においても1,697億円と微増に留まっています。それにも拘わらず、同社の連結売上は4,816億円から6,614億円へと約4割増えているのです。これは同期間にかなり効率的あるいは価格競争力のある経営が行われていたことを意味します。実際、同社は設備投資の経営判断を行う際、確度の高い顧客企業の短中期的な需要見通しのみを前提に生産能力増強を行うように心掛けています。このため、生産設備の稼働率は常に8割程度とフル稼働に近い状況が維持されています。
 三つ目は、時代を通じて事業ポートフォリオの取捨選択を行っている点です。同社は1941年の創業です。当初はクリスタル食器製造を行い、その後1960年代にメガネレンズ、1970年代にコンタクトレンズ、半導体マスクブランクス、1980年代に眼内レンズ、1990年代にハードディスク用ガラス基板、2007年には内視鏡(ペンタックス㈱を買収)など、それぞれ有望市場と思われる分野に参入しています。一方で、2009年には祖業ともいえるクリスタル事業から撤退、2010年にはHDDガラスディスクのメディア事業から撤退(現在は基板事業に特化)、2011年にはペンタックス㈱買収時に取得したデジタルカメラ事業を売却するなどをしています。これによって常に収益性が高く、将来の展望が明るい製品群を維持し続けていると考えられます。
 四つ目は、余剰資金を活用した自社株買い・消却によって株主資本の過度な膨張を防いでいるという点です。高い競争力からこれまで継続的に高水準の利益を生み出し、例えば同社の自己資本比率は20083月期の57%から20153月期に81%へと上昇しましたが、それ以降は自社株買いを定期的に行うようになっており、同比率は80%前後で安定推移しています。自己資本比率8割というのは同社の潜在的な事業リスクに対して過剰だとも言えますが、少なくとも高いROE維持の妨げともなりうる、必要以上の自己資本の積みあがりは抑えられていることがわかります。また自社株買いを行うようになって以降、一株当たり利益の成長率は当期利益全体の成長率を約1%強上回る状況が続いています。これは定期的に買い入れた自社株の消却を行なっているためです。
 最後に同社はガバナンス面でも先進的な会社であることが広く知られています。社外取締役を置くようになったのは1995年と早く、また2000年代初頭には半数以上が社外取締役となるよう定款に定められています。経営の執行と監督の分離がしっかりと行われている模範のような会社と考えます。

2022年10月の運用コメント

株式市場の状況

 202210月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比5.10%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、英国政府が9月末に発表した減税案の一部を撤回し、英国の財政悪化懸念が縮小したことから上昇して始まりました。月半ばには米国労働省が発表した失業率が市場予測を下回る結果となり、金利上昇に対する警戒感が強まった場面もありましたが、米国大手銀行の決算内容が市場の期待より良好だったことから、株価は底堅く推移しました。月後半には、米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデイリー総裁が「利上げ幅の縮小を計画し始める時期に来ている」とコメントを発表したことに加え、国内主要企業の堅調な業績発表を受け、株価は最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比4.69%の上昇となり、参考指数の同5.10%の上昇を0.41%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、日立製作所、キーエンスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、セブン&アイ・ホールディングス、花王などでした。

 当月は当ファンドで保有している日用品3社(ロート製薬、花王、ユニ・チャーム)の近況についてご説明します。これら3社は当ファンドで2008年頃から投資を行っています。消費財・日用品企業の特徴は、本来景気に左右されにくい安定したビジネスである点です。当ファンドが着目している市販目薬、スキンケア化粧品、紙おむつ、その他家庭用品などは比較的安価な商品であるうえ、生活必需品に近いため、不景気時においてもそれほど需要は落ち込まないと考えられます。とりわけ日本発の高品質、高付加価値を武器に、各社ともグローバル市場で着実に成長を続けられることが期待されます。
 ロート製薬は創業時の胃腸薬販売から始まり、20世紀初頭に市販目薬事業、1990年代から2000年代にかけてスキンケア事業を加えてきました。目薬、スキンケア商品はいずれも今日の稼ぎ頭です。20233月期第1四半期決算は、連結売上が前年同期比23.5%増、営業利益が同37.8%増と大変好調でした。全体売上の約6割を占める日本では、コロナ禍のリモートワークで需要が高まっている高額目薬や、行動制限の緩和に伴って外出機会が増加したことから日焼け止めや、スキンケアシリーズの「メラノCC」などが大幅に伸びました。海外も大変好調です。全体売上の約4分の1を占めるアジアではコロナ禍が収束に向かうベトナムでV字回復となり、インドネシアも好調です。また売上規模は小さいですが米国とヨーロッパも増収増益となっておりポジティブです。
 同社の魅力は市販目薬(アイケア部門)や化粧品(スキンケア部門)のアジアにおけるニッチなブランド力です。インドネシア、ベトナム、カンボジアなどの国々では今後、全人口に占める生産年齢人口の割合が高まっていく、所謂「人口ボーナス」期への移行が予想されます。現段階から同社ブランドの消費者認知度を高めるため先行投資を行うことは、長期的にみて正しい戦略であると当ファンドでは考えます。もう一点将来楽しみなのは、10年ほど前から国内で取り組み始めた再生医療事業と、近年開始した眼科用医療用医薬品事業です。再生医療について同社が進めているのは、脂肪由来の幹細胞を利用した再生医療用製剤で、肝硬変、新型コロナ肺炎、肺線維症、重症心不全などの適応症向けに治験が進められています。独自開発した自動培養システムを使って、再生医療用細胞を受託製造するビジネスも本格展開する予定です。
 このような新規分野への進出について、当ファンドでは1)同社が100年を越える歴史のなかで、これまでも事業ポートフォリオを多角化させる事に成功している点、2)現会長が創業家出身の四代目であり、長期的な視点で新規ビジネスの育成を進めていること(なお現社長は武田コンシューマーヘルスケア出身の杉本氏が2019年に就任)、そして3)再生医療には、目薬とスキンケア事業で培った「細胞を扱う技術」と「無菌製剤技術」の応用が可能(一見関連性の低いと思われる再生医療事業への進出理由はここにあると考えられます)なことから、引き続き今後の展開を興味深く見守っていく方針です。
 最後に、企業買収面では2020年に㈱日本点眼薬研究所(現ロートニッテン㈱)を、2021年には痔の薬「ボラギノール®」で有名な天藤製薬㈱を買収しており、商品ポートフォリオの拡充も進めています。
 花王は、201810月に株価のピークをつけて以降、業績の悪化が続き株価が調整しました。当ファンドでは数年前より同社の日用品ブランドのアジア(特に中国)における強みに陰りがでてきたことを理由に一旦保有比率を下げてきましたが、その後もコロナ禍による訪日客の減少や、国内でも洗剤等日用品分野での競合激化や原材料価格の上昇など、逆風が続いています。202212月期第2四半期決算は、連結売上が前年同期比8.7%増、営業利益が同23.9%減と苦戦したため、会社側は今期通期営業利益見通しを期初時点に比べて若干の下方修正をしています。同社が短期的に業績回復を遂げるかは不透明です。しかし、社内における意識改革は進んでおり、社員が危機感をもって現在収益性の改善に取り組んでいると考えます。とりわけ改革が先行していた化粧品事業においてはかつて49あったブランドを19にまで絞り込み、広告宣伝費のメリハリをつけることで少しずつヒット商品も登場するようになっています。現在は他の日用品分野においても集中と選択をすすめています。原材料価格の高騰を受けて値上げも実施し、またコスト合理化策も実施することで目下、連結業績の底入れを目指しています。同社は当期純利益がピークをつけた2018年度まで過去20年の一株当たり増益率が年率11%、平均ROE13%、そして今期を含めて33期連続の増配記録を更新中の優良かつ実績のある企業です。同社の2030年までの長期ビジョンでは売上高2.5兆円、営業利益率17%ROE20%を超える水準を目標としています。
 一方、ユニ・チャームは、201912月期に中国における乳幼児用おむつ事業の減損損失計上に踏み切って以降、生理用品と大人用紙おむつ事業への収益構造シフトを鮮明にしています。このため、アジア中東(中国、タイ、インドネシア、ベトナム、インド、サウジアラビア)では生理用品が、日本では生理用品および大人用紙おむつが収益の柱となっています。とりわけアジアの生理用品市場における同社の市場シェアは平均3-4割と首位にあります。北米では近年ペットケア事業が成長しているのが注目です。長期的にはアジアの人口高齢化で大人用紙おむつの成長、中国などにおいてはペット人口が増えることでペットケア事業などが成長ドライバとして上乗せされることが期待されます。同社は海外売上比率が6割を超えており、2007年当時の3割から大幅に拡大しました。同社の経営指標のひとつであるコア営業利益率も安定して10%台前半を維持しており、上述2社に比べて収益性が高いのが特徴です。202212月期第2四半期決算は、連結売上が前年同期比11.8%増、コア営業利益が同10.3%減と売上は堅調だったものの、原材料コストや物流費の上昇により花王同様に減益を余儀なくされました。下期以降は値上げや、生産性改善などで吸収し、通期業績で3%増益を達成する意気込みです。
 最後に、事業が一部重複しているロート製薬、花王、ユニ・チャームの3社について、長期的には当ファンドはそれぞれの企業に対して異なる投資魅力があると考えております。ロート製薬は規模が他の2社に比べて小さく、小回りのきく経営が可能です。ニッチな分野で新商品を発売することで業績を伸ばすことが比較的容易であると考えられます。また現時点で評価は難しいですが、再生医療事業も楽しみな分野です。原料コスト面も石油化学品を使用する割合が低いことから、相対的に影響が少ないのが特徴です。
 花王に期待されるのは、同社が持つ幅広い日用品ラインアップのアジア全地域での展開が本格化していくことです。足元の業績こそ低迷していますが、同社の製品群は家庭用清掃品、衣料用洗剤、化粧品など多岐にわたっており、得意とする高付加価値を武器に長期的にはアジアでシェアを伸ばしていくことを期待しています。
 一方、ユニ・チャームは大人用オムツ、生理用品、ペット用トイレシートなど吸収体をベースとしたパーソナルケア製品に強みを持っています。専業プレーヤーとして花王に比べ世界展開が進んでおり、東南アジアだけでなく、インドや中東、北中南米などにも広がりをみせているのが特徴です。
 3社とも数十年にわたり有能な経営陣によって経営されていると当ファンドでは考えます。過去10年、20年間における各社の一株当たり利益成長率は、それぞれロート製薬が年率10.2%と11.4%、花王が同10.2%と4.4%、ユニ・チャームは同7.4%と10.8%です。長期の安定した売上成長に加え、花王の場合は継続的な自社株買いが成長の下支えとなっています。さらに直近期におけるROE(株主資本利益率)はロート製薬が12.6%、花王が11.6%、ユニ・チャームが13.8%と日本企業平均を上回る水準です。
 一方、経営体制は3社で異なります。ロート製薬では再生医療事業のような新規分野を創業家出身の山田会長が手掛け、既存事業一般を外部採用した杉本社長が担当しています。花王は二代目社長までは創業家出身でしたが、それ以降は国内の一般大企業と同様に生え抜き社員から選ばれた社長(現在は長谷部佳宏社長)が経営にあたっており、ユニ・チャームは創業者の息子にあたる高原豪久社長が今日率いています。統計上はオーナー系企業が長期的に株主価値を生み出す力が強く、ひいては株価パフォーマンスもサラリーマン社長が経営する会社を上回る傾向があると考えます。一方、そのようなカリスマ社長の場合は後継者問題が常につきまとうものです。当ファンドでは、異なる経営体制の企業をバランスよく保有することで、リスクの分散を図っています。

2022年9月の運用コメント

株式市場の状況

 20229月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比5.49%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は下落から始まりました。欧米で高いインフレ率が継続していたことに加え、半導体分野における米中対立の先鋭化懸念を受けて、ハイテク株を中心に株価が下落しました。また、ブレイナードFRB(米国連邦準備制度理事会)副議長の発言が今後の利上げに関して慎重な姿勢と受け止められ、株価が反発に転じる局面も見られました。しかし、月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が予想以上の上昇となり、FRBが大幅な利上げに動くとの見方から株価は下落基調に転じました。月後半には、FOMC(連邦公開市場委員会)において市場の想定よりも強い金融引き締めを継続する姿勢が示され、株価の下落に拍車がかかり、最終的に前月末を下回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比7.61%の下落となり、参考指数の同5.49%の下落を2.12%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、日立製作所、ソニーグループなどでした。

 ROE(株主資本利益率)とは、株主の持ち分である純資産価値に対して企業が稼ぐ利益水準の高さを示すものであり、この指標が高いことはビジネスの魅力を評価するうえで非常に重要です。しかし高いROEは、総資産に対する株主資本を意図的に過小にすることで比較的容易に達成できてしまいます。株主資本が少ないと、想定外の事業損失が発生した際に債務超過に陥る可能性が高くなってしまいハイリスクなビジネスとなるため、必ずしも質の高いROEとは言えません。ではROE以外に有用な指標はないのでしょうか?
 当ファンドではROCE(使用資本利益率)が参考になると考えています。ROCEというのは企業が実際にビジネスを運営する際に使用している資本に対して、どれくらい高い営業利益を生み出しているかをみる指標です。ROEがバランスシート右側の株主資本を分母にしているのに対し、ROCEはバランスシート左側の資産項目を分母にしているところに違いがあります。ここでいう使用資本とはいくつか定義がありますが、当ファンドでは固定資産と運転資本を合計したものを使用しています。使用資本額に対して稼いでいる営業利益が大きいほど魅力的なビジネスといえるでしょう。逆に不稼働資産や低収益資産をたくさん抱えている企業は分母が大きくなってしまうので、同指標が低くなります。
 ROEが高いだけでなく、ROCEも高い企業はしっかりとした参入障壁があり、いわゆる「価値のある」ビジネスを展開しているケースが多いと当ファンドでは考えます。下記に示すように当ファンドの組入銘柄ではキーエンス、リクルートホールディングス、ミスミグループ本社、シマノ、ユニ・チャームなどが挙げられます。いずれも高い参入障壁に守られているゆえに、高い利益率を誇っている企業です。

過去5年平均ROE

過去5年平均ROCE

キーエンス

13.8%

37.3%

リクルートホールディングス

18.8%

17.5%

ミスミグループ本社

11.5%

18.9%

シマノ

13.1%

33.0%

ユニ・チャーム

12.8%

20.0%

各企業の決算期ベース。

 例えばリクルートホールディングスの競争優位性は、媒体ビジネス特有の情報プラットフォーム効果にあると考えられます。即ち、情報が多いところに多くの消費者が集まり、そこにまた多くの情報が集まることで、強者がより強者になるという好循環が生まれます。こういった優位性は高い参入障壁になりうるというのが当ファンドの見方です。また同社は自社でクライアントを獲得し、自社で保有するメディアに掲載し、自社で消費者を惹きつけているという点が強みです。自ら取り込める付加価値が多く、結果として収益性が非常に高くなります。さらにオンラインの媒体ビジネスは固定資産に対して継続的に多額の投資を必要としないビジネスであり、これもROCEが高くなる要因となります。
 ミスミグループ本社、シマノ、ユニ・チャームのような高い市場シェアを持ち、差別化された製品を手掛ける製造業は、低市場シェア且つコモディティ化した製品を生産する企業に比べて大きな付加価値を生み出しています。結果的に生産設備など固定資産に対して売上・利益規模が高くなり、資産効率が良くなります。なかでもシマノは高級スポーツ自転車用部品メーカーとして、長年一貫して78割とも言われる高い世界市場シェアを誇っているのが魅力です。同社の過去の財務諸表をみてみると、興味深い点がみてとれます。1998年通期で437億円あった有形固定資産(純額ベース)は、2011年通期においても468億円と微増に留まっていました(当ファンドがシマノに投資を開始したのは)。しかし同社の売上と利益はともに5割程度増加したのです。これは同期間に生産設備を膨らまさず、かつ為替水準も円高に進んだこと(輸出企業の業績にとっては逆風)を勘案すると、かなり効率的な生産あるいは値上げを武器とした価格競争力のある経営が行われていたことを意味すると考えられます。シマノが持つ優れた消費者ブランド認知度と、製造業としての圧倒的なスケールメリットが可能にしたと推察されます。
 キャッシュリッチで有名なキーエンスは固定資産にも本業で必要としない多額の投資有価証券が計上されているため、本来であれば非効率なバランスシートです。しかし、同社は営業利益率50%超と驚異的な収益性を持ち、「水ぶくれ」した固定資産に比べても高い資本収益性を堅持しているところは特筆すべき点です。仮に投資有価証券を除いたベースで同社のROCEを計算すると、過去5年平均ROCE130%となります。これは同社営業マンがコンサル営業を通じて、製造業顧客がまだ気づいていないような生産性改善案をファクトリーオートメーションセンサーの形で提供するという独自のビジネスモデルに起因します。付加価値の大部分が提案営業から生み出され、センサー自体は大型の生産設備を必要としないため、実質的には少数精鋭の人的資本中心ビジネスで、固定資産という意味ではアセットライトなビジネスであるといえます。
 またROCEがそれほど高くなくとも、キーエンスのように過剰な資産を抱えず、株主資本が適正な規模であるからこそ平均を上回るROEを維持している企業も当ファンドのポートフォリオにはあり、ダイキン工業や日本電産などが当てはまると考えます。これらの企業は売上を持続的に増やすために多額の設備投資を必要とする製造業であるため、資産効率こそ目立って高くはありません。しかし、優れたモノづくりのノウハウと、コスト競争力、また危機対応力に優れた経営陣の存在によって平均的な日本企業を上回るROEを実現していると考えます。

2022年8月の運用コメント

株式市場の状況

 20228月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.21%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は欧米の金融政策に左右されましたが、良好な企業業績を受け底堅い動きとなりました。月前半は、ペロシ米下院議長の訪台を受け米中情勢の悪化懸念が浮上したものの、堅調な国内決算と米国経済指標に支えられ横ばい圏で推移しました。月半ばは、米国でCPI(消費者物価指数)の上昇鈍化を受け大幅利上げ観測が後退し、株式市場は上昇しました。月後半になると、欧州のエネルギー価格高騰による景気悪化懸念や、FRB(米国連邦準備制度理事会)が金融引き締めに積極的な「タカ派」姿勢を再度強調したことで株式市場は下落に転じましたが、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比1.75%の上昇となり、参考指数の同1.21%を0.54%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、三菱商事、日立製作所などでした。一方、マイナス影響銘柄は、リクルートホールディングス、ソニーグループなどでした。

 7~8月は四半期決算発表のシーズンでした。当ファンド組入銘柄については当四半期だけみれば、好調なスタートを切った会社、低調であった会社などバラつきがありましたが、各社とも消費者ブランドや製造業としてのスケールメリット、インターネットのプラットフォーム効果、映画・音楽コンテンツといった知的財産、業界再編による寡占化、世界に張り巡らされた人員ネットワークなどの競争優位性・参入障壁を持ち、高い資本収益性と平均を上回る成長性を持つ魅力的な企業群です。ファンド内では常に好業績銘柄と業績不調銘柄が混在していますが、以下、いくつかの保有上位銘柄の決算概要についてコメントします。

<当四半期決算は順調かつ通期でも好調持続が見込まれる企業>

キーエンス
 20233月期第1四半期決算では、売上高は前年同期比13.0%増、営業利益は同10.1%増と四半期として過去最高となり、引き続き他の資本財企業を上回る成長力を見せつけた決算でした。営業利益率は53.5%と圧倒的な高収益性に陰りはありません。同社が手がけるファクトリーオートメーション用センサーは中国のロックダウンの影響を除けば、世界各地域で売上が前年同期比1520%のペースで増加しました。資本財各社が部品の手当などに苦労するなか、同社は強みである直販体制を通じていち早くニーズを察知したうえで調達に目途をつけ、また注文を受けた製品の当日出荷体制も維持されており競争力も盤石です。経営陣は通期見通しを発表しませんが、20233月期第1四半期決算の実績は同社の長期業績トレンドと概ね遜色なく、また円安効果も手伝って通期においても堅調な業績が予想されます。同社の過去10年、20年の営業利益伸び率は年率平均でそれぞれ16.5%と13.5%です。過去5年の平均ROE13.8%です。

日本電産
 20233月期第1四半期決算では、売上高は前年同期比20.8%増、営業利益はほぼ横ばいでしたが、税引前利益は円安の恩恵をうけて同30.3%増益と過去最高益を更新しています。注力している電気自動車向けトラクションモーターの受注台数は2025年度までに400万台と、前回に発表された360万台から上方修正されておりポジティブです。いまだ立ち上げ途上にある同事業は現時点では200~300億円程度の単年度赤字であると推測されますが、経営陣によると来年度にも単年度黒字化が視野に入っているとのことです。このことから向こう数年間の損益改善額は、同要因だけでも小さくなく(20223月期の税引前利益実績は1,711億円)、他部門の増益貢献も勘案すれば力強い利益成長が予想されます。同社の過去10年、20年の税引前利益伸び率は年率平均でそれぞれ9.2%と14.3%、過去5年の平均ROE11.1%です。なお、関社長の退任・退社の発表がありました。当ファンドでは創業者である永守氏の後継者として時間をかけて関氏へのバトンタッチが行われると考えていましたが、今回のニュースを受けて新たな後継者が誰になるのかを注視していきたいと思います。

ロート製薬
 20233月期第1四半期決算では、売上高は前年同期比23.5%増、営業利益は同37.8%増と大幅増収増益となりました。国内ではコロナ禍によるリモートワーク増加の影響で目の疲れを訴える消費者の支持を受けた高価格帯目薬や、経済活動再開で外出機会が増えたことによる日焼け止めの売上増や、シミ防止用スキンローションなどが好調でした。同社は消費者が気づいていないような潜在ニーズをとらえて、既存のパーソナルケア商品に新たな付加価値として反映させ、それらをドラッグストアなどで販売するのを得意としています。同社のコントロールカラー入り日焼け止めなどはその代表例です。またアジアではコロナ禍が終息したベトナムでV字回復が見られたうえ、インドネシアも大幅増収となりました。同社は新規事業分野への進出も先行投資をコントロールしながら積極的です。まだ将来の収益予想に織り込む段階ではありませんが、再生医療や医療用眼科治療薬の開発などが注目される分野です。同社の過去10年、20年の営業利益伸び率は年率平均でそれぞれ8.0%と9.8%です。過去5年の平均ROE10.1%ですが、前期実績は12.6%まで上昇しており、今後も改善するものと思われます。

三菱商事
 20233月期第1四半期決算では、一過性要因を除いたコア純利益が4,420億円と前年同期比で倍以上となり、通期利益計画に対する進捗率も52%と堅調です。金属資源グループが豪州石炭価格上昇(*)の恩恵を受けたうえ、自動車・モビリティグループ(東南アジアにおける自動車組み立て、販売など)や電力ソリューショングループ(発電事業)などが牽引役となりました。当ファンドでは三菱商事を筆頭とした日本の総合商社を、単なる商社ビジネスではなく、世界に持つ人的ネットワークを駆使して運営される投資事業会社であると考えております。今日の彼らのバランスシートは世界的にも珍しい事業資産ポートフォリオを有しており、収益の源泉も自らの事業オペレーションによる利益のほか、投資先からの配当収入、関連会社からの持ち分法損益、資産売却や株式売却によるキャピタルゲイン、および投資有価証券などに計上される未実現利益など多岐に亘ります。同社の一株当たり純資産の伸び率は年率平均で過去10年、20年それぞれ8.1%と10.1%です。
*なお同社は2030年度までに脱炭素関連に2兆円を投資する計画を発表しており、再⽣可能エネルギーや電化(動⼒源や熱源・光源などに、化⽯燃料 の代替として電⼒を利⽤すること)に必要な銅、次世代燃料の⽔素・アンモニアに重点投資する、脱炭素に最優先で取り組む姿勢を鮮明にしています。

<当四半期決算はやや軟調だったが、通期では堅調な推移が予想される企業>

日立製作所
 20233月期第1四半期決算では、売上収益は前年同期比8.5%増と円安の恩恵もあり増収でしたが、調整後EBITA*は同63億円の微減となりました。要因は半導体不足と中国のロックダウンによって自動車関連事業と家電関連事業が減益を余儀なくされたためです。しかし、当ファンドが注目しているルマーダ事業は売上が前年同期比58%増となり、全体売上に占める割合も約16%まで上昇しています。大幅な増収は前年度に買収したGlobalLogic社(米国)自身が前年同期比47%増収を達成していることによるものです。日立製作所は旧来型のハードウェア製造・販売事業から顧客企業の課題解決型ビジネスモデルに脱皮するためルマーダ事業に注力しており、引き続き同事業の構成比が高まるにつれてより安定した利益成長、利益率の上昇、資本収益性の改善、キャッシュフローの増加などが期待されると当ファンドでは考えます。同社の過去5年平均ROE10.2%ですが、前年度は14.8%まで上昇しており、今後もルマーダ事業の貢献度が高まるにつれて更なる改善が見込まれます。
*調整後EBITAは同社が重視する利益指標で調整後営業利益から無形固定資産の償却費を足し戻し、持分法損益を加算したもの。調整後営業利益=売上-原価-販売管理費

ダイキン工業
 20233月期第1四半期決算では、売上は前年同期比21%増となりましたが、原材料費、物流費の高騰や中国のロックダウンを主因に営業利益は微減となりました。しかし、通期については、価格の引き上げ、販売力強化やコストダウンなどで前年同期比11%増と期初に比べて上方修正しておりポジティブです。世界的に需要が伸びている空調機器で最大手の同社は、北米やアジアで売上を伸ばしており、欧州でもヒートポンプ式温水暖房機器などが好調です。過去10年、20年の営業利益伸び率が年率平均でそれぞれ14.6%と10.6%となっています。過去5年の平均ROE12.7%です。

ミスミグループ本社
 20233月期第1四半期決算では、売上高は中国におけるロックダウンや原材料費高騰を理由に前年同期比2.4%増、営業利益は同1.6%減となりましたが、通期見通しは前期比10.2%増収、9.7%増益を据え置いています。同社の精密機械部品・FA部品は豊富な品揃えと、例え部品1点からでも短期納入(平均2日以内)できることから、顧客製造業の圧倒的な支持を受けています。工場にとって生産ラインの故障によって製造停止することは大きな損失につながりかねないため、生産ラインを構成するこれらの機械部品が必要なときにすぐ入手できる同社サービスは高い付加価値があると考えられます。また、同社はMeviy(メビー)と呼ばれる特注の機械部品に関する即時見積もり、即時加工・出荷する独自のサービスにも注力しており今後が楽しみです。過去10年、20年の営業利益伸び率が年率平均でそれぞれ12.1%と12.5%、過去5年の平均ROE11.6%です(前期実績ROE14.3%)。

テルモ
 20233月期第1四半期決算では、売上収益は前年同期比14.9%増とコロナ後の症例数の回復に伴い主力の医療用カテーテル売上を中心に増収となりましたが、営業利益は同16.0%減と原材料コスト上昇と研究開発費の増加を理由に減益となりました。しかし、経営陣はすでに製品価格引き上げの手をうっており、通期を通じて減益要因は縮小していく見込みです。このため、通期計画は期初発表どおり13.8%増益に据え置かれています。同社主力の心臓血管カンパニー以外の部門では、様々な新しいビジネスモデルの取り組みが行われています。例えば血液・細胞テクノロジーカンパニーでは従来から輸血成分を採取するビジネスなどを手掛けていましたが、最近は血漿採取装置といった新たなハードウェアの売上やそれに伴う消耗品ビジネスなども立ち上がりつつあります。メディカルケアソリューションズカンパニーでは、以前のように医療現場で使われる消耗品を売るビジネスだけでなく、病院や製薬会社に対してソリューションを提供するサービスも展開しています。例えば、製薬企業から受託する薬剤充填済み注射器の生産などはその一環です。同社の過去10年、20年の営業利益伸び率が年率平均でそれぞれ6.3%と7.4%、過去5年の平均ROE12.2%です。

<当四半期決算内容を踏まえて、当通期はやや厳しい業績が想定されるが、長期展望は明るい企業>

リクルートホールディングス
 20233月期第1四半期決算では、売上収益は前年同期比26.8%増、調整後EBITDAは同15.9%増と当四半期は好調な決算が続きました。しかし、経営陣は主力のオンライン求人広告事業(HRテクノロジー部門)について、金利上昇に伴う景気減速感の台頭で7月以降に売上伸び率にも減速の兆しがでてきていることを認めており、通期の見通しは慎重に見たほうが良さそうです。とはいえ、同分野における同社の市場シェア・競争力ともに圧倒的と言われており(同社の20223月期決算説明会によると2021年の人材マッチング市場は前年比64%成長に対し、同社の売上増加率は100%以上)、労働市場環境が正常化すれば力強い成長力が戻ってくる可能性は高いと思われます。また国内で販促メディアを手掛けるマッチング&ソリューション部門では、コロナ終息後の経済再開に伴い成長軌道への回帰が見込めます。加えて、近年は顧客企業(飲食店、ヘアサロン、小売店など主に零細のパパママストア)の業務効率化を支援するためのSaaS(Software as a Service、ソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス)ベースのソリューション「Airビジネスツールズ」に注力しており、今後の牽引役になることも期待されます。同社の利益水準は過去5年でほぼ倍になっているうえ、同期間の平均ROE18.8%と日本の上場大企業のなかでは屈指の水準です。

ソニーグループ
 20233月期第1四半期決算では、売上高は前年同期比2.4%増、営業利益は同9.6%増と過去最高益を更新しましたが、通期見通しについては巣ごもり需要のピークアウトを理由にプレイステーション事業の利益予想を期初比で下方修正しています。経営陣は、ゲーム機プレイステーション5の生産拡大といくつかの大型人気ゲームソフトの投入により、テコ入れを行う方針です。同社の強みはビジネスが音楽事業、映画事業、半導体事業、AV機器事業、金融サービス事業など多岐にわたっており、一部門における不調を他部門で補うことで安定した収益構造を誇っているところです。さらに、映画のキャラクターなど多くの知的財産を抱えており、映画上映だけでなく音楽化やゲーム化することにより収益の最大化を図ることができます。毎年、工場などに多額の設備投資を必要とする一般的な製造業と異なり、版権を活用したビジネスは少ない資本で参入障壁を維持しながら業容拡大することが可能という意味で魅力的なビジネスと言えます。過去5年の平均ROE19.2%と一過性要因もあり高水準ですが、平常時だった前期においても13.9%と日本企業の平均を大きく上回っています。

東京海上ホールディングス
 20233月期第1四半期決算では、正味収入保険料は前年同期比11.2%増と北米を中心とする海外事業を牽引役に好調ですが、修正純利益は国内における季節はずれの自然災害発生(雹害)などにより通期計画に対して進捗率は25%と例年に比べてスローな出だしとなりました。近年、日本では異常気象などで頻発する自然災害を理由に、積極的な保険料の引き上げが可能となっています。長年かけて進んだ国内の業界再編により3社のメガ損保に集約されたことから保険料率決定権が強化されたのが主因と思われます。よって同社を始めとする損保会社の中長期的な見通しは明るいと、当ファンドは考えます。また同社は北米のスペシャリティ保険事業を中心に海外比率が連結全体の半分近くを占め、保険リスクのグローバル分散が図られているのも魅力です。通期純利益見通しについては、この北米事業の計画を上回る好調もあるため期初見通しを据え置いています。同社の修正純利益を前提としたROEは過去5年平均で9.6%ですが、近年の利益水準の上昇、継続的な自社株買い・消却により前期実績は14.4%と高い水準にあります。また当年度の一株当たり配当金は300円と前期比約18%増です(配当利回り約4%)です。同社の配当原資は過去5年の平均修正純利益がベースとなっており、同水準が切り上がっていくことで継続的な増配も期待されます。

花王
 202212月期の第2四半期累計(16月)の売上高は前年同期比8.7%増となりましたが、営業利益は同23.9%減と苦戦しています。201810月に株価がピークをつけて以降、同社は業績の低迷が続いています。2018年ごろより日用品ブランドのアジア(特に中国)における強みに陰りがでてきただけでなく、その後も国内で新型コロナウイルス感染拡大による訪日客の減少、いくつかの製品分野での競争激化や原材料価格の上昇など逆風が続いています。現在は、既存製品の高付加価値化やマーケティング手法の改善、原材料コスト高騰に対応した製品値上げ、コスト構造改革などで成長軌道への回帰を模索している段階にあります。同社が短期的に業績回復を遂げるかは不透明ですが、当上期の決算内容を見る限り、国内において衣料用洗剤や生理用品などにおいてわずかながら市場シェア拡大の兆しが見えています。またアジアではインドネシアが比較的好調を維持しています。同社は2018年度のピークまで過去20年の一株当たり増益率が年率10.8%、平均ROE13.2%、そして今期を含めて33期連続の増配記録を更新する見通しの優良かつ実績のある企業です。同社の2030年までの長期ビジョンでは売上高2.5兆円、営業利益率17%ROE20%を超える水準を目標としています。

オリックス
 20233月期第1四半期決算では、営業収益は前年同期比8.0%増となりましたが、当期利益は同5.1%減と増収減益となりました。不定期で発生する投資案件のエグジットが当期は一件もなかったことが主因です。また国内における新型コロナウイルス感染拡大に伴い傘下のオリックス生命において疾病入院給付金の支払いが嵩んだことや、米国における不動産ローン組成事業が前年同期比で弱かったことも挙げられます。同社のビジネスは巡航速度では一桁後半台での成長率が長期で見込まれますが、向こう3年程度でみれば253月期までに当期純利益が3,121億円から4,400億円へと年率12%の早いペースでの成長が計画されています。これは、コロナ禍で赤字に陥っていたホテル運営、航空機リース、空港運営事業などが正常化することでコロナ以前の利益水準を取り戻すことを織り込んでいるためであり、比較的達成が容易な目標と言えるかもしれません。また同期間中に、他の事業分野における業容拡大、あるいは良質な投資案件を積み上げることができれば、超過達成も十分にありそうです。一方、新規案件がそれほど見つからない場合は、自社株買いが行われると考えています。

2022年7月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.72%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、米国短期金利が長期金利を上回ったことから景気後退への懸念が高まり、下落して始まりました。その後、FOMC(米国連邦公開市場委員会)の議事要旨の内容が想定通りだったことや、中国政府による景気対策への期待などから一進一退で推移しました。月半ばは、参院選で自民党が単独過半数を獲得したことや約24年振りの大幅な円安進行に加え、米国での過度なインフレ懸念の後退などから、株式市場は上昇しました。一方、中国での新型コロナウイルス感染拡大が重荷となりました。
 月後半は、FRB(米国連邦準備制度理事会)が今後の利上げペースを緩める可能性を示唆したことや、日銀金融政策決定会合で金融緩和政策の現状維持が決定されたことが追い風となり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比5.68%の上昇となり、参考指数の同3.72%を1.96%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、リクルートホールディングス、キーエンスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、三菱商事、東京海上ホールディングスなどでした。

 当ファンドでは従来から保有を続けている銘柄群に加え、成長性に対して株価のバリュエーションが魅力的で尚且つ既存銘柄と異なる業種の新規銘柄を増やしています。直近では従来から調査を継続して行っていたセブン&アイ・ホールディングスやオリックスなどへ新規投資を行いました。

セブン&アイ・ホールディングス
 セブン&アイ・ホールディングスは日本人なら誰もが知るコンビニエンスストアであるセブンイレブンを筆頭に、百貨店やGMS(General Merchandise Store、総合スーパー等を指す)を展開する日本最大級の小売企業グループです。しかし、2023年2月期は連結営業利益4,450億円を見込んでいるうち約半分が米国のセブンイレブン事業が占めており、実はグローバルな企業でもあります。当ファンドが注目しているのは、この海外事業の成長ポテンシャルです。
 興味深いことに、日本発の小売業態であるコンビニは、もともとは米国において誕生したSouthland Ice Company社に起源があり、1970年代に(株)イトーヨーカドー堂(現在はセブン&アイの傘下)と国内ライセンス契約を結んだことから、主に日本においてビジネスモデルが発展しました。同社の米国事業は2006年以降になって、主にM&Aによって業容を少しずつ拡大してきました。そして今般、買収によって連結化されたSpeedway社(米国)が加わったことで、店舗数が現地で圧倒的最大手となったのです。本案件は実質的な取得価額が133億ドルであり、EBITDA倍率13.7倍で買収したことに相当しますが、同社が統合効果として6億ドル程度のシナジーによる増益効果を3年以内で見込んでいるため、実際には6~7倍のEBITDA倍率となります。日本で長年培われてきたセブンイレブン事業の様々なノウハウ(商品ラインアップ、店舗運営ノウハウおよび物流効率化など)を移植していくことで実現可能と思われることから、妥当な買収案件であると当ファンドは考えます。
 同社は日本の会計基準を採用しているため、本件買収に伴いのれんの償却費が年間10億ドル程度計上されます。このため、損益計算書上では、通常のEPS(一株当たり利益)(同社今期予想279.68円)とのれん償却前EPS(401.63円)とでは4割程度の開きがあります。後者のEPSを前提とすれば現在の株価は13倍台とTOPIXの平均PERとほぼ同水準であり、割高感はないと判断されます(また当ファンドの平均PER水準も下回っています)。のれん償却費とは現金の流出を伴わない費用項目であることから、当ファンドでは減損リスクがない限りにおいて、のれん償却前EPSを使用すべきと考えます。
 資本収益性についてはどうでしょう。同社は長年、連結ベースのROE(株主資本利益率)が10%に届かない状況が続いており、経営陣も問題意識として持っていることが決算説明会などにおいて確認されています。しかし2023年2月期以降はSpeedway社の連結が利益押し上げ要因となるため、のれん償却前ベースで10%を超えてくることが予想されます。加えて、1)国内コンビニ事業が低位ながらも成長が続くこと、2)米国での上述シナジー効果の発現と更なる業容拡大、そして3)同社が抱えるいくつかの低採算事業の撤退の可能性などを考慮すれば、更なるROEの改善も十分にありえると考えられます。
 一点目の国内コンビニ事業では、絶え間ない既存店のレイアウト改善や、ネットコンビニ分野でのデリバリーサービスの拡充などに取り組んでいます。また数年内に海外からの訪日客が回復すれば、同社への売上寄与も期待できるでしょう。足元の円安は同社の米国事業の収益拡大をもたらすだけでなく、国内への訪日客増を誘引するきっかけにもなると考えられます。
 二点目の米国コンビニ事業で注目すべき点は、まだまだ伸びしろが大きいと考えられることです。同社の開示資料によると、米国でのコンビニ総店舗数は2020年12月末時点で150,274店ですが、このうち買収前の同社が9,519店(市場シェア6.3%で1位)、今回買収したSpeedway社が同シェア2.6%で3位に位置しており、店舗数は3,854店です。即ち、今回の買収によって同社は合計約13,000店を抱える圧倒的なプレーヤになったのです。また、日本のコンビニ業界はセブンイレブン、(株)ファミリーマート、(株)ローソンの3社で既に寡占化状態にありますが、米国では上位10社でも占有率はまだ2割程度しかありません。追加的な買収による業容拡大余地が多く残されているのが魅力です。
 なお、米国コンビニ事業はガソリンスタンド併設店が多いことから、今期の売上と利益は年初からのガソリン市況高騰の恩恵を受けていますが、株式市場では来期以降の反動減要因として懸念されているようです。当ファンドは、ガソリン価格が下落すれば、むしろ人々が車で外出する機会が増え、コンビニでの物販消費にまわるおカネも増えるため、一概にマイナス要因とは言えないとの立場です。一方、ガソリン価格が高止まりすることも考えられます。かつてはエネルギー価格が高騰すれば、油田などの新規開発が進み、供給増・価格下落が誘発されました。しかし世界的な脱炭素化によって、従来のように価格上昇が供給増になかなか結び付かず、高価格が常態化する可能性があります(同社はガソリン価格高騰によってEV(電気自動車)普及が加速することを見据えてEV充電設備の設置拡大も進めています)。
 三点目の低採算事業については、百貨店事業とGMS事業の存在が挙げられます。既に報道されているとおり、同社が運営するそごう・西武百貨店については、海外投資ファンドへ売却する方向で交渉が進んでいます。また友好的アクティビストファンドとして有名なValue Act社(米国)が同社株を保有しており、今後も同社の資本収益性や株主還元策の改善に向けた取り組みが注目されます。

オリックス
 オリックスは国内最大級のノンバンク・金融サービス会社です。1964年設立時のリース事業を皮切りに「金融」と「モノ」の専門性を高めながら、船舶リース、レンタカー、航空機リース、融資、不動産開発、アセットマネジメント、銀行業、生命保険業、プライベートエクイティ投資、事業再生、ベンチャーキャピタル、再生可能エネルギー、空港運営など多角化を進めてきました。また同社は欧米やアジアでのビジネスも展開しています。2022年3月期ではこれらの海外事業がベース利益全体の半分程度を占めており、グローバル企業と言えます。設立から57年間、バブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、サブプライムローン危機、コロナショックなど様々な逆風がありましたが、毎期黒字の計上を続けています。2010年3月期にサブプライムローン危機の余波で公募増資を余儀なくされたというややネガティブなイベントはありましたが、業績のトラックレコードとしては問題ないと当ファンドは考えます。
 当ファンドが、同社の本源的価値増加率の近似値としてみている一株当たり純資産伸び率は過去5年、10年でみて年率7%程度の成長が続いていることに加え、経営陣は配当性向33%を掲げており、現在の株価水準では配当利回りが4%近くになります。加えて、同社は優良な投資案件が見つからない場合、自社株買いを通じて余剰株主資本を株主に還元することを標榜しており、近年これが実行に移されています。自己株消却により、過去3年で年率2%から3%程度のペースで発行済株数が減少する傾向にあり、結果として一株当たり利益及び純資産が引き上げられています。前月の月次報告書において、東京海上ホールディングスの期待リターンでご説明したように、利益成長率、自社株買い、配当利回りを合計すれば同社株への投資で得られる予想リターンは年率10%程度が見込まれ、当ファンドで組み入れている高成長銘柄群の期待リターンと同等レベルです。またPBR(0.8倍)、PER(8倍)などでみた株価指標も現在の日本の株式市場平均に比べ安く、バリュエーションの切り下がりリスクも小さいと判断されます。
 同社のビジネスは巡航速度では一桁後半台での成長率が長期で見込まれますが、向こう3年程度でみれば2025年3月期までに当期純利益が3,121億円から4,400億円へと年率12%の早いペースでの成長が計画されています。これは、コロナ禍で赤字に陥っていたホテル運営、航空機リース、空港運営事業などが正常化することでコロナ禍以前の利益水準を取り戻すことを織り込んでいるためであり、比較的達成が容易な目標と言えるかもしれません。また同期間中に、他の事業分野における業容拡大、あるいは良質な投資案件を積み上げることができれば、超過達成も十分にありそうです。一方、新規案件がそれほど見つからない場合は、自社株買いが行われるでしょう。ROEも2022年3月期実績の9.9%から11.7%への改善が計画されており、現在低位に留まる株価のバリュエーション(PBR0.8倍、今期予想PER8倍)の拡大余地もありそうです。即ち、向こう3年で当期純利益が今から4割程度増え、ROEの改善を反映してPBRが上昇すれば、現状の株価水準から市場平均を上回るリターンが期待できると考えられます。

2022年6月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.05%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は、国内では新型コロナウイルスに対する水際対策の緩和、海外では中国上海市の都市封鎖の解除に伴う部品供給や物流の改善期待から、上昇して始まりました。
 月半ばには、FRB(米国連邦準備制度理事会)のおよそ28年振りとなる0.75%の利上げ実施や、スイス国立銀行がおよそ15年振りの利上げを決めたことから、世界的な金融引き締めによる景気減速の懸念が高まり、株式市場は大幅に下落しました。
 月後半には、米長期金利の上昇一服で日本株式市場の下落幅も縮小されましたが、最終的には期初を下回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは前⽉末⽐3.10%の下落となり、参考指数の同2.05%の下落を1.05%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ロート製薬、東京海上ホールディングスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、リクルートホールディングス、三菱商事などでした。

 当ファンドでは最近、東京海上ホールディングスへの新規投資を行いました。新規銘柄の組み入れは、昨年の日立製作所以来となります。
 東京海上ホールディングスは、1879年に日本初の損害保険会社として創業しました。同社は国内のメガ損保グループ3社のなかでも最大手であり、保険引受事業の収益性を示すコンバインドレシオも安定して業界トップ水準にあります。
 当ファンドでは、同社への投資によって株主が得られるリターンとして年率一桁後半から10%前後が長期間にわたって期待できると考え、投資を行いました。この「年率一桁後半から10%前後」の期待リターンは、当ファンドで組み入れている高成長銘柄群の期待リターンと遜色ない水準ですが、両者のリターンの源泉には大きな違いがあると考えています。高成長銘柄群の株価押し上げ要因は、年率一桁後半から10%前後が見込まれるビジネスそのものの利益成長率に主に依存しています。例えば、毎年事業利益が10%成長すると株価が10%上昇する、といった具合です。そして配当利回りは相対的に低く、自社株買い・消却による一株当たり利益の押し上げ要因は小さいのが特徴です。
 一方、東京海上ホールディングスは、ビジネス全体の利益成長率見通しこそ年率一桁前半から半ばとやや低めですが、相対的に配当利回りが高く、継続的な自社株買い・消却による一株当たり利益の押し上げ要因が大きいのが特徴です。後述するように、これら3つの要因(利益成長率、自社株買い、配当利回り)を合計すると「一桁後半から10%前後」が年率期待リターンとなります。PER(株価収益率)などでみた株価指標も現在の日本の株式市場平均に比べ安く、バリュエーションの切り下がりリスクも小さいと判断しています*1
*1 会計上の当期純利益をベースとしたPERでみても13倍程度、同社が経営指標としている修正純利益*2をベースとするとPER10倍程度と割安にとどまります。
*2 修正純利益とは当期純利益に、保険ビジネス特有の異常危険準備金、危険準備金、価格変動準備金などの年度繰入額を足し戻したうえ、企業買収に伴って発生する無形固定資産の定期償却額やその他評価性引当金を足し戻すことで計算されるキャッシュフロー利益に近い概念です。損保各社が使っている同利益指標は、より適正な資本効率(修正ROE)を示したり、配当原資を計算する根拠になっています。

(長期で魅力的なビジネス)
 同社が展開する損保ビジネスは、海外での成長余地が膨大にあること、また成熟化している日本国内では高水準で安定した利益が生み出されていることから、「魅力的なビジネス」であると当ファンドでは考えております。同社が経営指標として重視する修正ROEは12.7%(2022年3月期実績。会計上のROEでみても10.9%)と、資本収益性も日本企業の平均を上回っています。
 日本国内における損保産業は自動車保険、火災保険ともに広く普及している結果成熟化が進んでおり、高い成長性を求めるのは難しい環境にあると考えます。しかし同社は海外の保険会社買収により、平均して年率一桁半ばの利益成長率をこれまで実現しています。
 この買収戦略を可能にしているのが、過去20年でメガ損保3グループを中心に進んだ国内業界再編による市場寡占化(=高い参入障壁)と、豊富な含み益を持つ政策保有株の存在です。寡占化によって国内市場で潤沢な利益が生み出されるようになったことに加え、以前は非効率な金融資産と見なされていた政策保有株も、今日では売却資金化によって戦略的活用が可能となりました。政策保有株は、世界的にも珍しい日本のメガ損保独自の競争優位性となっています。同社の政策保有株の規模は、今日現在でも時価2.4兆円程度に上ります。このうち、毎年の売却資金額は年1,000億円規模です。
 生み出されたこれらの資金は、海外企業の買収だけでなく、継続的な自社株買いにも活用されます。会計上、政策保有株の未実現利益の変動は貸借対照表の純資産の部(その他有価証券評価差額金)に反映されますが、日本の株式市場が好調な場合、未実現利益の拡大によって当期純利益の増大を伴わずに純資産が膨れ上がることを意味します。同社は政策保有株の売却資金を自社株買いにまわすことで、分母である資本面からもROEを高めることが可能なポジションにあると考えます。
 自社株買い・消却によるメリットは、一株当たり利益の引き上げにもつながります。同社の中期経営計画の主要な目標は「修正純利益CAGR(年平均成長率)+3~7%」ですが、継続的に自社株買い・消却を進めることで、「一株当たりの分け前」が増えることになります。過去の実績を鑑みると、今後も一株当たり利益の伸び率は、当期純利益全体の成長率よりも1.5~2.5%程度高くなることが予想されます。従って、持続性のある一株当たりの利益成長率見通しは保守的に見ても一桁半ばから後半とみなすことができると考えます。同社の自社株買いは20173月期以降、少ない時でも年500億円、多い時で年1,500億円実施しています。
 このように同社は、会社の利益全体を引き上げる効果がある海外買収案件が見つかればM&Aに、なければ一株当たり利益を引き上げる効果がある自社株買いに資金を活用することで、最適な資本配分を行っているのです。当然、自社株買いも自社の株価水準が割安であるかどうかが実施の判断基準となります。
 さらに同社は成長投資に資金を振り向けてもなお、潤沢なキャッシュフローが手元に残るため、配当性向の継続的な引上げも行っています(2017年3月期実績:配当性向36%、一株当たり配当金140円、2023年3月期計画:同50%弱程度、同300円)。現在の中期経営計画における2024年3月期の配当性向目標は50%です。2022年6月末時点の株価だと配当利回りは4%前後になるため、同社株を保有することによる期待リターンは下記の通り年率一桁後半から10%前後となると考えます。

 修正当期純利益の年間成長率長期見通し 3.0%~7.0%*3
 自社株買い・消却による一株当たり利益の押し上げ効果 1.5%~2.5%
 配当利回り 3.5%~4.5%*4
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 株主としての期待リターン合計 8.0%~10.0%超
 *3,4 株主への配当は当期純利益から支払われますが、当期純利益の伸び率はビジネスの本源的価値(将来ビジネスから生み出されるキャッシュフローの総合計を現在価値に割り戻したもの)の伸び率として捉えられます。

 なお、この年率期待リターンは毎年確実に得られるものではありません。損保ビジネスは、予期しなかった自然災害などの発生により単年度の業績は大きく変動するためです。しかし、長期的には上記理由により、息の長い成長が可能であるというのが当ファンドの見解です。
 以下、同社の国内事業と海外事業についての概要を説明します。

(国内事業)
 国内の損保市場はメガ損保3社でシェア約9割という寡占市場です。国内市場は先細りと言われながらも、損害保険料は主力の自動車保険での安定した増収に加え、近年の多様化・複雑化する企業のリスクに対応する新種保険が牽引し、増加を続けています。
 損保会社にとって最も構成比が大きい自動車保険は安定して黒字基調にありますが、火災保険は業界全体として近年赤字が続いているため、現在は保険料引き上げによる収益性改善を業界全体で取り組んでいます。同社の2012年度から2021年度の10年平均のコンバインドレシオは90%台前半と、高い収益性を誇っています。

(海外事業)
 同社は過去20年近くにわたって、保険事業のリスクをグローバルで分散することを目的に、日本の自然災害リスクと相関の低い海外保険事業を拡大してきた経緯があります。特に2008年以降企業買収を積極化しており、2022年3月期実績では修正純利益の4割程度が海外事業によってもたらされています。

<東京海上ホールディングスの主な買収案件>
 Kiln社(英国):2008年3月買収(約1,060億円)
 Philadelphia Insurance Companies社(米国):2008年12月買収(約4,987億円)
 Delphi社(米国):2012年5月買収(約2,050億円)
 HCC社(米国):2015年10月買収(約9,400億円)
 Pure社(米国):2020年2月買収(約3,255億円)

 同社海外事業の事業別利益のうち、およそ8割は世界最大の保険市場である米国です。同社のM&Aにおける基本戦略は一般的な自動車保険や火災保険ではなく、賠償責任保険、医療保険といったニッチな市場に特化し高収益をあげているスペシャルティ保険の分野(既存事業との顧客層や商品の重複が少ない会社)、また新興国では市場拡大黎明期で成長率の高い個人向け保険を対象としています。米国の損害保険市場規模は2019年で約201兆円と日本の10倍以上あり、同社を含む日本勢によるM&Aでの成長余地は大きいと言えるでしょう。また同社は海外経営の特徴として、買収先の現地経営陣に自主性を持たせる「連邦型経営」を標榜しています。

2022年5月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.78%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は下落から始まりました。FRB(米国連邦準備制度理事会)が0.5%の利上げと保有資産の圧縮を決めたことを受け、米国株式市場が下落基調となったことが主な要因と見られます。
 月半ば以降は、米国消費者物価指数の伸び率が弱まったことで、FRBの利上げペースが鈍化するとの見通しから米長期金利が低下し、株式市場は反発に転じました。
 月後半には、中国の景気浮揚策や新型コロナウイルス規制の緩和報道のほか、岸田政権の「新しい資本主義」実行計画原案における成長戦略も好感され、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは前月末比1.71%の上昇となり、参考指数の同0.78%の上昇を0.92%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、日立製作所、ソニーグループなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、ミスミグループ本社、ロート製薬などでした。

 当ファンドの投資スタイルであるグロース株投資で陥りがちなワナは、将来の利益成長を楽観視し過ぎて、本源的価値に対して大幅に割高な株価で買ってしまうことです。これは後々痛手を被ることになります。多くの株式市場参加者が将来見通しを大きく読み誤った事例としては、2000年ごろに発生したインターネットバブル崩壊があげられます。しかし、グロース株投資の象徴ともいえる高PER銘柄に投資することは本当にハイリスクなのでしょうか?昨今のような長期金利上昇局面で高PER銘柄の保有を続けることは本当にハイリスクなのでしょうか?当ファンドでは市場平均PER(株価収益率)を上回る銘柄でも、ビジネスが参入障壁に守られていることによって今後も平均を上回る利益成長を続ける銘柄は、現在の株価水準がその成長性に対して大幅に割高でない限りは魅力的な投資対象だと考えます。これは、成長性は乏しくとも極端に割安な株価であれば魅力的な投資対象(バリュー株投資)になりうるのと同じ理屈です。株価の割高・割安感は市場平均に対しての比較もありますが、あくまで当該企業の成長性に対して比較されるべきだと、当ファンドは考えます。
 2021年9月の月次報告書で触れたとおり、株式市場は将来予想の精度において、あらゆる個人の能力をも上回るとされる「集合知」の典型例です。即ち、株式市場は時として大きく間違うことはあるものの、大抵の場合は将来の見通しを的確に言い当てているということです。従って成長株に対して付けられる株価についても、将来の高成長を見越して市場が適正な高PERを付けているケースは少なくないと思われます。
 米国では、1970年代初頭までNifty Fifty(ニフティ・フィフティ)という当時の優良銘柄群の株価が高騰した相場がありましたが、その後1972年末を境に1年半で大幅下落したという時期がありました。当時の時代背景として高インフレ、高金利時代に突入したというのは今日の相場環境とよく似ています。Nifty Fifty銘柄とは、機関投資家がこぞってファンドに組み入れていた約50社のグロース株です。例えば、Avon Products社、 Disney社、 McDonald’s社、Polaroid社、Xerox社は各業界においてそれぞれ市場トップクラスのポジションにあり、強固なバランスシート、高い利益率、高い利益成長実績などを理由に、「どんなに高い株価でも買っても必ず儲かる」ともてはやされていました。これらの銘柄の平均PERは42倍とS&P500指数の19倍を大幅に上回るものでした。果たして、市場は間違っていたのでしょうか?これらの銘柄は永遠に株価が低迷したのでしょうか?
 1998年に発表されたJeremy Siegel氏による研究論文「Valuing Growth Stocks: Revisiting the Nifty Fifty」をもとに見てみましょう。
 この論文は、高成長・高PER銘柄は昨今のような相場環境(高インフレ、高金利)では半永久的に株価が崩れると警鐘を鳴らしているのではありません。むしろ高利益成長に裏付けられた高PER銘柄は、あとで振り返ってみれば合理的な株価形成であったことが判明しており、長期で見れば投資対象としての魅力は損なわれていませんでした。その証左として、これらNifty Fifty銘柄を仮に1972年末の最高値で全50銘柄を等分ウェイトで投資していたとしても、1998年までの長期運用成績はS&P500指数と大差はなかったのです。

<1972年12月~1998年8月>
 S&P500指数:年平均騰落率 12.7%の上昇
 Nifty Fifty銘柄ポートフォリオ(定期的リバランス型):同 12.5%の上昇
 Nifty Fifty銘柄ポートフォリオ(単純保有型):同 12.2%の上昇

 また、今日誰もが知っている下記の銘柄は1972年末の相場ピークでS&P500指数に対して割高なPERがつけられていましたが、最終的には利益成長率がS&P500指数を超え、株価上昇率もS&P500指数を上回ったのです。株式投資で成功するためには時としてかなり長期的な忍耐力が試されますが、なかなか興味深い事実です。
出所:AII Journal /October 1998 「Valuing Growth Stocks : Revisiting The Nifty Fifty」

 この検証結果から分かるのは、株式市場がこれらの銘柄に対して高いPERをつけていたのは、将来的にS&P500指数を上回る利益成長が期待できることを的確に予想していたとも言えることです。一部の銘柄は当時割高と思われていたPERが、むしろ割安であったケースもあります。例えば、Coca-Cola社は当時PER46倍と、S&P500指数に比べてとても割高にみえましたが、1998年時点で振り返ってみると、同社株を1972年当時に仮にPER80倍程度で購入したとしても、その後S&P500指数並みのリターンが得られたということです。これらの優良企業の株価が相場全体につられて大幅に下落したあと、そこからの回復による株価上昇余地が非常に大きかったのは言うまでもありません。
 当ファンドでは日本株投資についても、昨今のグロース株からバリュー株へのトレンド変化にあわてることなく、正しい成長株を選択することで今後も長期的に良好な運用成績が期待できると考えています。

2022年4月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.40%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は、堅調な米雇用統計や新年度入りに伴う新規の資金流入期待から上昇で始まりました。しかしその後、金融引き締めに慎重なハト派で知られるFRB(米国連邦準備制度理事会)のブレイナード理事が強い金融引き締め姿勢を見せたことで、米長期金利が大幅に上昇し、半導体株など中心に下落しました。
 月半ばには、円安ドル高が進行したことで、輸出関連株中心に株価は堅調に推移したものの、FRBの更なる金融引き締めスタンスや、中国都市封鎖の長期化が嫌気され、上値は限られました。
 月後半には、米長期金利上昇の一服感や好決算を発表した銘柄への物色が支えとなり、株価が上昇する局面もありました。しかし、引き続き米中経済の不透明感を懸念する売りも出て一進一退の展開となり、最終的に前月末を下回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは前月末比8.19%の下落となり、参考指数の同2.40%の下落を5.79%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、テルモ、花王などでした。一方、マイナス影響銘柄は、メルカリ、ソニーグループなどでした。

 当ファンドのなかで年初より下落率が大きい銘柄に、メルカリがあります。
 オンラインマーケットプレイス(フリマアプリ)として知名度の高い同社は、盤石な国内メルカリ事業から生まれるキャッシュフローをメルペイや米国メルカリ事業などの成長投資にまわしていることから、連結損益計算書上は黒字・赤字を行ったり来たりする状況が続いています。しかし、当ファンドではこれをさほど問題視していません。メルカリの赤字は意図的なものであり、負け組企業が競争激化によって売上単価を引き下げたり、経費増加を余儀なくされるのとは全く意味合いが異なると考えるからです。
 インターネットビジネスのようなあまり有形固定資産を必要としない企業が成長投資を行う場合、会計上は損益計算書上の費用として全額当期中に認識されます。これが、一般的な製造業が将来の成長のために工場を新設する場合、会計上は資産計上されるのと大きく違うところです。換言すれば、意図的な赤字の原因である新規事業への投資を中止すれば(*)、国内メルカリ事業の利益がそのまま連結損益計算書上に現れることになります。同社の株価が安いかどうかを判断するのは、ここをみるのが一つのアプローチといえると考えます。
*メルカリには様々な挑戦を続けるスタートアップ企業文化がありますが、同時に長期的に有望でないとされれば、数々の新規事業からの迅速な撤退をこれまでも行っています

 同社は日本のオンラインフリマ業界でナンバーワンの地位を築いており、2022年6月期の取扱流通取引総額は9,000億円程度、2023年6月期は同1兆円に達すると考えます。同社マーケットプレイスの利用手数料は売買金額の10%ですので、国内メルカリ事業単独の売上は1,000億円程度が見込まれます。経営陣が中期的に掲げている同事業単独の営業利益率は40%です。これまでも四半期決算ベースではすでに40%を超える数値(調整後営業利益率)を叩き出していること、またすでに軌道に乗っている収益性の高い他社のインターネットビジネス(リクルートホールディングス傘下のIndeed社(米国)や、エムスリー㈱のメディカルプラットフォーム事業、Meta社(旧Facebook社 米国)などはいずれも4割近い営業利益率を実現)の事例を鑑みれば実現可能な水準と考えます。
 もうひとつ重要なのは、国内メルカリ事業はいまだ成長途上にあるということです。その理由の一点目に、同社がまとめた「2021年版 日本の家庭に眠る“かくれ資産”調査」によると、フリマアプリに出品されうる家庭の「不用品」総額は国内で約44兆円(2018年比約7兆円増)あり、そのうち毎年の大掃除で捨てられるのは約5.8兆円に上ります。即ち、メルカリにとっては市場シェアに大きな拡大余地があり、なおかつ市場自体も拡大しているということを意味します。二点目に、不用品の所持金額が大きいのは高齢者層であることも判明しています。メルカリの月間利用者数(MAU)は過去3年間で1,400万人から2,000万人超へ増えており、最近では60代以上のユーザーによる利用が増えています。三点目に、近年はオンライン中古品市場での売却可能額を前提として、新品の購入に踏み切る消費者が増えていることが挙げられます。特にアパレルなどにこのような傾向が顕著に表れており、将来の売却を前提とした新しい消費スタイルとして注目できます。メルカリ経営陣は、今後の成長戦略上、中古品売買のデータを蓄積することの重要性を理解しているように見受けられます。同一商品であれば品質に差がでない新品と異なり、中古品は旧所有者の使用頻度や使い方によって後の品質にばらつきが大きくでるためです。以上のことから、国内メルカリ事業だけでも、まだまだ今後が楽しみな状況にあると考えます。
 株価が大きく下落しているのは残念ですが、一般的に高成長が見込まれるインターネット企業株は、ダウンサイドリスクを定量的にイメージしたうえで投資を行うことは非常に難しいものです。これは解散価値の目安といわれる純資産価値や、高い配当利回り、あるいは市場平均を大きく下回る株価収益率(PER)といった定量的に割安な指標を見出すことが期待にしくいためです。多くの場合、株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)でみると他業種企業に比べ割高にみえるため、どんなに本源的価値が現状の時価総額を上回っていたとしても、株式市場は一時的なネガティブ材料に敏感に反応し、株価変動が激しい傾向があります。
 年初からの株価下落要因は世界的な金利上昇に対する警戒感から成長株が売られていることと、当月に発表された同社の2022年6月期第3四半期決算で流通取引総額(GMV)の伸びが市場の期待値をやや下回ったことがあると推測されます。しかし、一時的な成長鈍化はあったとしても、オンラインフリマのリーダーとしてまだ市場拡大期にある同事業が、平均を上回る成長を続けるのは難しくないことだと考えます。コロナ禍がようやく収束に向かう気配がみられるなか、人々の外出頻度が増えていることでメルカリのようなフリマアプリを使用する機会が短期的に減っている可能性があります。しかし、インフレによるモノの値段が上がるなか、割安な中古品が入手できるという理由で使用頻度が増すことは十分に考えられます。
 同社経営陣が今後も成長投資のアクセルを踏み、「意志ある赤字」を続ける可能性が常にあることは既報のとおりです。しかし、ビジネスの本源的価値はあくまで「将来にわたって株主のために生み出されるであろうキャッシュフロー総和の現在価値」と定義されます。長年、Amazon社(米国)が短期収益を犠牲にし(*)、長期的利益を最大化させることで世界最大級の時価総額企業になったとおり、意志ある赤字を継続することにより競争優位性を強化し、本源的価値を成長させることができるのであれば当ファンドは経営陣の方針を支持する方針です。
(*)今では世界最大の時価総額企業の一社となったAmazon社(米国)がITバブル時の1999年高値からバブル崩壊後の2001年底値まで株価が10分の一以下(1999年12月10日株価106.7ドル、2001年9月28日同5.97ドル)になったものの、長期保有をした投資家が最終的に大きく報われた(2021年12月末株価3,334ドル)のは有名な話です

 本月次報告書の執筆時点で、日立製作所、キーエンス、日本電産などの当ファンド主要銘柄が2022年3月期決算を発表済みです。

(日立製作所)
 同社には昨年新規投資を行ったばかりですが、現在当ファンドの最大保有銘柄となっています。年初から株式市場においてグロース株からバリュー株へ物色の矛先が大きく変わるなか、同社は「あたかもバリュー株のように割安な成長株」として当ファンドはこの相場環境下でも健闘してくれることを期待しています。
 当月発表された2022年3月期通期実績は増収増益となり、会社側予想も上回る堅調な内容でした。当期利益5,834億円は同社過去最高益です。世界的なインフレやウクライナ情勢など外部環境の不透明感にも拘わらず、直近の第4四半期も底堅く推移したうえ、将来の業績を左右する受注残も各部門で着実に積みあがっています。当ファンドが中長期で注目しているルマーダ事業も大幅増収が続いており、連結売上に占める割合も16%と5年前の10%から大きく上昇し、全体業績に対する貢献度が高まってきているのもポジティブです。ROEも14.8%と、ルマーダ事業の本格貢献はまだこれからという段階にもかかわらず、すでに日本企業平均を大きく上回っています。
 今回、同社は中期経営計画もあわせて発表しました。来たる3年間で一株当たり利益を年率10-14%で成長させることを計画しており、経営指標である調整後EBITA(法人税、ネット支払利息、および買収に伴う無形固定資産償却費用控除前の利益)で2025年3月期に1.2兆円を目標としています。また同3年間に本業で稼ぐフリーキャッシュフロー累計1.4兆円、更なる資産売却で0.9兆円、合計2.3兆円相当のキャッシュ創出を見込んでおり、このうち7,000億円は配当と自己株式取得にまわすことも決定しています。
 当ファンドでは今回の計画内容について、同社がこれまで続いた事業再編のステージから、成長ステージにいよいよ入ったことが明確に伝わる内容だと実感しています。そして現在の割安な同社株価水準を鑑みると、利益成長を通じた株主還元策コミットメントにも高い評価ができます。同社は世界金融危機時の2009年3月期に巨額赤字を記録しており、増資による資本増強を余儀なくされた苦い経験があります。同社経営陣は当時調達した資本を「返済」することを目指しています。同社株のPER10倍という低いバリュエーションを考えると、当ファンドは積極的な自己株式取得に賛成です。
 今後、同社株価に対して望まれる最良シナリオは、一株当たり利益の継続的成長からくる上昇と、株式市場の同社に対する評価の高まりを意味するバリュエーションの切り上がりによる上昇です。当ファンドが、バリュエーションが切り上がると考える理由は以下のとおりです。

 1) 既存事業にまだ残されている利益率改善余地が今後具現化してくる
 2) 業績変動の激しい製造業主体のビジネスモデルから、より安定した収益が見込まれるルマーダ事業に比重が移っていくことで利益水準が高位で安定してくる
 3) ルマーダ事業において先行投資を伴うユースケースの積み上げ局面がピークを過ぎ、業容拡大スピードが上がってくる。また一部ではソリューション提供後に実際のオペレーションを同社が請け負ったり、保守サービスなどの継続によってリカーリングレベニュー型の収益も生まれてくる
 4) 結果として、全社の利益率が継続的に上昇、資本収益性の改善が続き、フリーキャッシュフローも拡大トレンドに入る

 これらを通じて、利益の質と将来の確実性が高まるため株式リスクプレミアム(*)が下がる(=PERが切りあがる)ことを期待しています。
*リスクプレミアムとは損失リスクに対して株式投資家が要求する上乗せリターンのこと

(キーエンス)
 2022年3月期通期実績は連結売上が前期比4割増、営業利益は同5割増という圧巻の内容でした。当期利益は3,000億円を突破し過去最高更新、世界金融危機前2008年3月期のピーク利益から約5倍に拡大、これは換算すると年率12%成長です(米中貿易摩擦が勃発する前の2019年3月期の過去最高益からみても、3割強上回っています)。同社株は昨年記録した上場来高値から3割程度下落していますが、同社株に対するPERがこのまま一定で推移すると仮定すれば、これまで通りの利益成長が続くことで約2年半で株価は下落分をとりもどせる計算になります(12%利益成長が2年半続けば利益は3割強増加)。2008年以降、同社の海外売上は大幅に拡大し、真のグローバル優良企業となったと考えます。しかし、経営陣によるとまだ海外開拓余地がたくさん残されているとのことです。同社の海外顧客1社あたりの売上規模が国内顧客に比べて低水準にあること、海外展開の歴史が長い他の日系グローバル企業に比べて同社海外売上比率は6割弱に留まることなどを考えると妥当な見解であると思われます。そして成熟市場とみられがちな国内売上においても過去10年以上にわたって年率5%成長が継続している点も忘れてはなりません。

(日本電産)
 2022年3月期通期実績は連結売上が前期比19%増、税引前利益が同12%増と、株式市場の期待は下回ったものの、同社も過去最高益を更新しています。会社側は今2023年3月期も2割強の増益を見込んでおり、過去最高益を更新する見通しです。当ファンドは引き続き電気自動車向けトラクションモータで覇権を握ろうとしている同社の戦略を支持しています。ガソリン車から電気自動車に需要がシフトするなか、伝統的な自動車産業は生産体制の構造転換に苦戦すると考えます。ガソリン車向け生産設備や雇用を温存しつつ、電気自動車事業の拡大をにらんだ設備投資の増強は、資本収益性の低下を招く可能性があるためです。一方、同社にとってトラクションモータ事業は、ブラシレスDCモータで世界ナンバーワンシェアのスケールメリットを生かすことができます。原材料の調達や、金属加工工程などで相乗効果を生み出すことができるからです。また同事業の差別化ポイントがコスト競争力に置かれていることも、電気自動車はいずれ早晩コモディティ化(自動車をブランド品や嗜好品でなく、単なる移動手段としてとらえる消費者が大半を占めること)する可能性を考えると方向性として正しいと判断します。足元の原材料コスト上昇、半導体不足、コロナ禍に伴う中国の経済活動減速など厳しい外部環境が続きますが、電気自動車産業の潜在的な市場規模の大きさを考えると、今は辛抱強く保有を続ける時期と考えます。また永守社長の後継者問題については、従来どおり「いずれは成功裡に経営体制を移行できる」との性善説にたって進捗を見守る方針です。

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