スパークス・厳選投資ファンド(確定拠出年金向け) | 投資信託 | スパークス・アセット・マネジメント

スパークス・厳選投資ファンド(確定拠出年金向け)

  • 確定拠出年金向け
日経新聞掲載名
DC厳選投資
分類
追加型投信/国内/株式
設定日
決算日
毎年5月25日

基準日:2024.02.22

基準価額
17,147
前日比
+280
+1.66%
純資産総額
64.6億円
分配金情報(税引前)
0

基準価額推移

分配金実績

決算頻度:1回/年

設定来合計
0
直近12期計
0

分配金実績一覧

2023年05月25日
0
2022年05月25日
0
2021年05月25日
0

月次報告書

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

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2024年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年1⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐7.81%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、能登半島地震の影響精査のため⽇銀が利上げを⾒送るとの⾒⽅が⾼まったことや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)⾼官のタカ派な発⾔を受けた⽶⻑期⾦利の上昇を背景に円安が進み、⽉前半は⼤きく上昇しました。また、新NISA制度の開始による個⼈投資家の買い需要や、東京証券取引所の市場改⾰への期待感から海外投資家の資⾦も多く流⼊しました。⽉半ばから後半にかけては、利益確定の売り圧⼒や、⽶国半導体⼤⼿の業績⾒通しが市場予想を下回ったことから半導体関連銘柄を中⼼に⼀時下落基調に転じる場⾯もあったものの、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運⽤状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐8.56%の上昇となり、参考指数の同7.81%の上昇を0.75%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は⽇⽴製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ルネサスエレクトロニクス、信越化学⼯業などでした。
 当ファンドの投資戦略である「魅⼒的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」のうち、「安く買う」というのは当ファンドが投資を⾏う際の株価バリュエーションに関する規律やこだわりを表しています。新規銘柄に関して割安な⽔準をしっかりと⾒極めて投資をすること、株式市場がまだ気づいていないところに⽬をつけ、割安感を⾒出すことなどの意味が込められています。
 そのため新規組⼊銘柄の紹介を⾏う際には、なぜ当ファンドが割安であると考えるのかをできるだけ説明するように⼼がけています。どんなに素晴らしい企業も、割⾼な⽔準で投資をしてしまうと市場平均を上回るリターンを得ることが難しいからです。⼤切なのは、割安な価格で投資できる千載⼀遇のチャンスが来るまで⾟抱強く待ち続けることです。例えば短期的な業績の弱含みなど⼀過性の要因で株価が急落したときや、事業の本質に対する影響が⼩さいと考えられる企業スキャンダルで株式市場が過剰反応したとき、⾦融市場の混乱で相場全体がパニック売りになった時などに魅⼒的な投資機会が訪れると考えます。
 当ファンドでは、原則として組⼊銘柄の短期的な売買は⾏わず、⻑期保有することを基本としています。企業の本源的価値に対して株価が割安と確信が持てれば投資を⾏い、その後順調に株価が上昇して割安⽔準が訂正されたあとも、当該企業の⻑期成⻑性が平均を上回ると判断される限りは保有継続する傾向が多いです。ここでいう「平均」は世界の名⽬GDPの⻑期予想成⻑率を指しています。
 当ファンドの組⼊銘柄の⼤半について⾔えることですが、本源的価値とはビジネスが将来にわたって株主のために⽣み出すであろうキャッシュフローを総合計し、それを⼀定の割引率(投資家の要求利回り)で現在価値に割り戻したものと定義されます。つまり、債券や不動産の価値計算と同じ考え⽅です。
 このため当ファンドが企業の本源的価値を算出し株価が割⾼か割安かを判断する際に使⽤するのは「ディスカウントキャッシュフローモデル(DCFモデル)」を基本としています。株主にとってクーポンともいえる⼀株当たりキャッシュフローを⾒通すのが⼀般的な債券より難しい点はありますが、この⽅法であれば、株式以外の異なるアセットクラスとの⽐較も可能となります。
 将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻すという概念は株式の価値を調べるうえで最も論理的です。他に⼀般的に使われる⽅法として⼀株当たり利益に株価収益率(PER)を掛けて⽬標株価を算定するやり⽅がありますが、概念的には経済的根拠に⽋けていると考えます。
 とはいえ、ある⼀定の条件を与えれば、PERを簡便なDCFモデルとして捉えることは可能です。PERの逆数である1/PERは「株式益利回り」(例えばPER20倍であれば株式益利回り5%、PER15倍なら同6.67%)なので、⼀株当たり利益(円)× PER(倍)=株価(円)という式は、⼀株当たり利益/株式益利回り(%)=株価、と書き換えられます。分⼦は債券でいうクーポン、分⺟は投資家の要求利回り(期待リターン、割引率とも呼ぶ)と⾒なせるので、この数式は永久債価値のDCF計算式である、債券クーポン/要求利回り=永久債の価値、と同じなのです。
 株式益利回りはさらに、(割引率-永久成⻑率)と置き換えることが可能です(※)。⼀株当たり利益/(割引率-永久成⻑率)=株価、は今ある⼀株当たり利益が永久成⻑率でずっと伸びていき、それを現在価値に割り戻していることを意味します。⼀株当たり利益が株主に帰属するキャッシュフローと同程度であるという条件を満たせば、PERを使った⽬標株価(=⾃分が考える企業の本源的価値)の計算が、簡易的なDCFモデルと同じであるという説明が成り⽴つのです。
※定率成⻑配当割引モデル(ゴードンモデル)や不動産価値を算定する際に使うキャップレートでも同様の概念が使われています。

 即ち、PER15倍は「割引率8%、永久成⻑率約1.33%」あるいは「割引率10%、永久成⻑率約3.33%」といった解釈ができますし、PER20倍であれば「割引率8%、永久成⻑率が3%」、12.5倍なら「割引率8%、永久成⻑率0%」あるいは「割引率10%、永久成⻑率2%」と同じこと、といった具合です。あとは割引率と永久成⻑率の前提がそれぞれ妥当かどうかを検証します。
 例えば、割引率8%は現状の⽇本の10年国債利回り、あるいは⽇銀のインフレ⽬標達成後に予想される利回りと⽐べても株式に対する要求利回りとしては適切と思われます。また今の⽶国10年債利回りと⽐べても過度に楽観的な前提ではないと⾔えるでしょう。但し、2023年11⽉の⽉次報告書で⾔及したように、要求利回りはリスクフリーレート(国債⾦利)に左右されるので、今後のインフレ環境、⾦利環境の変化には留意が必要です。⼀⽅、永久成⻑率は⻑期的に予想される名⽬GDP成⻑率を上限として、個別企業に応じて適正な成⻑率を適⽤すべきです。但し名⽬GDP成⻑率を超える前提を置いてしまうと、個別企業のビジネスの将来規模が世の中の経済規模全体を超えてしまうという論理⽭盾が発⽣してしまうので注意が必要です。当ファンドでもPERを使⽤して企業の株価について解説しているのは、前述の理由が背景にあります。
 また⼀般的に⾔われている「現在の株価であれば⼀株当たり利益の〇〇年分で回収できる」というPERの概念は、割安さを直感的に理解するにはむしろ分かりやすいかもしれません。
 2023年12⽉末現在の当ファンド組⼊銘柄の平均PERは約16倍(今期予想、組⼊⽐率を考慮した加重平均ベース)です。東証株価指数(TOPIX)の平均である15.1倍よりわずかに⾼い程度であり、当ファンドの組⼊銘柄が優良企業で占められていることを踏まえると、⾮常に割安であると考えられます。もっと⾔うと、組⼊銘柄の中には、これまでご説明したことがある「実質的な」株価バリュエーションが、財務諸表上から得られる会計上の数値に基づいたバリュエーションに⽐べて⼤幅に割安な企業がいくつか含まれています。組⼊上位ではセブン&アイ・ホールディングス、メガ損保グループなどが挙げられます。
 これらを考慮すると、当ファンドの実態的な平均PERは15倍程度まで下がると考えられ、TOPIXの平均とほぼ同じになります。⾔い換えれば、当ファンドは資本収益性や成⻑性が平均的な⽇本企業を⼤きく上回るにも関わらず、株価⽔準はTOPIXとさほど変わらないということです。⽇本株式市場は好調が続いていますが、当ファンド組⼊銘柄の株価に過熱感はないというのが⾒解です。
 来⽉の⽉次報告書では、当ファンドがいかに株式市場がまだ気づいていないところに⽬をつけ、割安感を⾒出すようにしているかについて説明させていただく予定です。

2023年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年12⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.23%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は⽇銀の植⽥総裁と氷⾒野副総裁両名の発⾔を受けて⾦融政策修正の思惑が⾼まったことや、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)のハト派の内容を受けて⽶⻑期⾦利が低下したことで、円⾼が進み下落しました。⽉後半は、⽇銀⾦融政策決定会合における⾦融緩和維持の決定が好感される場⾯もありましたが、年末の閑散相場もあって円⾼基調が継続する展開が重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.54%の上昇となり、参考指数の同0.23%の下落を0.77%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は信越化学⼯業、リクルートホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、ファーストリテイリングなどでした。
 2023年の運⽤成績を銘柄別寄与度でみると上位銘柄は三菱商事、⽇⽴製作所、ソニーグループ、東京エレクトロン、信越化学⼯業などでした。⼀⽅、下位銘柄はソシオネクスト、オリンパス、花王、メルカリなどでした。当⽉これらの銘柄のうち、⽇⽴製作所と三菱商事についてと、マイナス影響度の⼤きかったソシオネクストについてご説明をさせて頂きます。

日立製作所

 2021年7⽉⽉次報告書で新規投資銘柄としてご紹介した⽇⽴製作所は、その後概ね当ファンドの⾒解通りに状況が進展しています。投資を開始してから速やかにファンドの主要組⼊銘柄に引き上げた同社の株価は2021年末以降63.24%上昇し、これまでのところ順調と⾔えます。
 2016年に始動したLumada事業は当初から社外だけでなく社内でも実態の分かりにくいビジネスというイメージが強かったようです。Lumada事業は特定の技術やソフトウェアに依存したビジネスではありません。当ファンドでは、同社がハード(やシステム)の売り切り型ビジネスから決別し、コンサルから製品販売後のアフターサービスまで⾃社内のあらゆるリソースを駆使・動員してソリューション提案形式で収益を稼いでいくための「事業ブランド」と捉えています。別の⾔い⽅をすれば「⽇⽴がもつ⾊々なプロダクトやサービスを、⽇⽴がもつデジタル技術で横串を通すもの」(同社役員のコメント)とも⾔えるようです。このコンセプトを創り出したのは、惜しくも2021年に急逝した中⻄元社⻑の功績です。
 同社は事業ポートフォリオが広範囲に及びますが、圧倒的なシェアを持つ製品分野は殆ど持ち合わせていません。しかしコングロマリットだからこそ、ITシステムのノウハウや、社会インフラの制御ノウハウ、モノづくりノウハウなど多岐にわたっていることが、Lumada事業を可能にしています。また社内リソースは、過去10年のグループ再編を通じてGlobal Logic社(⽶国)や、⽇⽴エナジー㈱(旧ABB社)など新たなアセットを獲得したことで範囲が広がっていること、そして今後需要が伸びるであろうDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)分野をターゲットにしていることがポイントです。
 最近の総合電機業界では三菱電機㈱も、⾃社コンポーネントを顧客が利⽤することで⽣まれるデータを集め・分析して、製造業などに対して課題解決のためのソリューション提供する事業モデルを謳っています。富⼠通㈱もFujitsu Uvance事業で社会課題を明らかにすることで市場発掘し、⼩売、ヘルスケア、製造業界などを対象にSX(サステナビリティトランスフォーメーション)ソリューションを提供していくなど、似通った戦略が聞かれるようになりました。しかし⽇⽴製作所は電⼒インフラまわり(送電網)や鉄道システム関連など、他社とは差別化された注⼒領域を10年以上前に⾒いだし、すでに重点投資も進めてきたので、⼀⽇の⻑があると考えます。
 財務戦略⾯でも、経営陣のKPIは10年前に⽐べて明らかに変わってきています。「ROIC(投下資本利益率)」、「EPS(⼀株当たり純利益)成⻑率」、「フリーキャッシュフローのコンバージョンレート」など成⻑・資本効率性・キャッシュフローの3つに⼒点をおいた経営管理がなされているのは正しい⽅向と考えます。特にROICはここ数年、⽇本企業がこぞって経営指標として採⽤しています。ROE(株主資本利益率)の場合はどうしてもビジネス⾃⾝がもつ資本収益性だけでなく、当該企業の財務レバレッジ⽅針や、所在国における法⼈税率にも左右されてしまいます。当ファンドもROICやROCE(使⽤資本利益率)のほうが企業ビジネスを評価する上でより適切だという⾒解です。
 2024年3⽉期上期業績に⽬を転じると、売上39,248億円(前年同期⽐12%増)、調整後EBITA(※1)3,596億円(同492億円増)、調整後EBITAマージン9.2%(同0.3ポイント増)と堅調です。売上先⾏指標となる受注残⾼もデジタルシステム&サービスセグメントで約1.5兆円、⽇⽴エナジーセグメントで約3.9兆円と⼤変豊富であり、Lumada事業も2024年3⽉期通期⾒通しで売上全体の約3割、調整後EBITAの約4割を占めるところまで拡⼤しています。

※1:調整後EBITAは同社が重視する利益指標で、調整後営業利益から無形固定資産の償却費を⾜し戻し、持分法損益を加算したもの。調整後営業利益=売上-原価-販売管理費

 同社にとって成⻑に必要な駒は全て揃っていますので、今後は事業環境の追い⾵をうけて受注をどこまで積み上げていけるか、そして受注残をうまく売上・利益につなげられるか、現経営陣の執⾏⼒にかかっています。うまくいけば引き続き利益拡⼤だけでなく株価バリュエーションの切り上がりもありえると考えます。

三菱商事

 当ファンドは総合商社を、世界中に⼈的ネットワークを持つ投資事業会社であると考えています。豪州の資源権益や、東南アジアにおける⾃動⾞製造販売事業、北⽶での再⽣可能エネルギー事業、⽇本でのコンビニエンスストア事業など、今⽇の彼らのバランスシートは⼀般の投資家には⼿の届きにくい、世界的にも珍しい事業資産ポートフォリオを有しており、貴重な投資機会を提供してくれています。
 総合商社の収益源泉は1)⾃らの事業オペレーションによる利益のほか、2)投資先からの配当収⼊、3)関連会社からの持分法損益、4)資産売却や株式売却によるキャピタルゲイン、5)投資有価証券の未実現利益、および6)外貨建て資産の為替含み益など多岐にわたります。このうち、1)〜4)は損益計算書の当期純利益より上の項⽬に記載され、5)と6)はそれより下の包括利益計算書に記載されます。よって当ファンドは総合商社の業績を評価するには「当期純利益」ではなく、「包括利益」をみることが重要であるとの⽴場をとっています。
 また本源的価値の増減を評価する際には、⾃社株買いが積極的に⾏われるようになる以前は、包括利益が反映されている⼀株当たり純資産価値の増減を近似値として(配当などの社外流出を考慮した上で)判断していました。この視点でみると、当ファンドで⻑期保有している三菱商事は⼀貫して年率⼀桁後半〜10%程度のペースで成⻑を続けていたことがわかります。⾔い換えれば、同社は成⻑性の乏しいバリュー株ではなく、割安に放置されたグロース株(「隠れた成⻑銘柄」)であったということです。
 同社の業績は現⾏の「中期経営戦略2024」に対して順調に進捗しており、2023年度第2四半期時点では株主還元(配当と⾃社株買い)後でみたフリーキャッシュフローでも約6,400億円の余剰キャッシュ(累積ベース)が創出されています。近年の資源市況の活況によってもたらされていることに留意する必要はありますが、余剰キャッシュを更なる事業投資や株主還元にまわせるという意味で余裕含みの経営状況にあります。
 同中期経営戦略上の投資計画では再⽣可能エネルギーなどに約1.2兆円、DX・成⻑投資関連で約0.8兆円の資⾦投下を掲げています。これらの事業は垂直に⽴ち上がるものではなく、収益が通年でフル寄与するには時間がかかるでしょう。同社全体でみると、既存事業である資源事業の市況次第ではありますが、新規分野の投下資本に対する期待リターンを10%とすると、巡航速度としての利益成⻑率は⼀桁半ば程度ではないでしょうか。
 ⼀⽅、同社資源事業の中核である原料炭事業の中⻑期⾒通しは良好です。原料炭は鉄鋼原料であり、最も鉄鋼需要が伸びると期待されるインドに注⽬しています。現在の世界の粗鋼⽣産量ランキングで⾸位の中国は約10億トンと世界のおよそ54%を占めていますが、今後は経済発展が⽬覚ましいインドで、2030年までに粗鋼⽣産能⼒が約3億トンへ引き上げられる⾒通しです(2022年の粗鋼⽣産量は約1.25億トン)。とりわけ三菱商事がBHP Group社(豪州)との豪合弁会社BMA社を通じて⼿掛ける⾼品質原料炭(強粘結炭)は、鉄鋼産業による環境負荷を減らすためにますます重要になります。⾼品質原料炭が産出されるのは豪州や北⽶に限られており、BMA社は強粘結炭の海上貿易量の約3割のシェアと世界最⼤です。脱炭素化を考えると新規の鉱区開発は進みづらく、供給タイトな状況が続きそうです。資源事業の割合が⾼い三井物産㈱が⼿掛ける鉄鉱⽯も鉄鋼⽣産には⽋かせませんが、両者の違いは、鉄鉱⽯はインドでの⾃給率が⾼く中国は輸⼊に依存、逆に原料炭は中国での⾃給率が⾼くインドは輸⼊に依存しているところです。⻑期の景気低迷局⾯にある中国に⽐べ、より展望の明るいインドの恩恵を受けやすい原料炭のほうが魅⼒的と考えます。
 総合商社全般に⾔えることですが、各社ともROEを経営指標に掲げています。しかし事業の特性上、これはあまり適切でないと考えます。ROEは財務諸表上の「当期純利益」を「資本合計」で割ることで求められます。株主に帰属する資本に対して、どれくらい⾼い利益を上げているかを測る尺度ですが、問題なのは前述したように当期純利益には投資有価証券の含み益増減(FVTOCI(Financial assets at fair value through other comprehensive income)に指定したその他の投資による損益)や外貨建て海外資産の為替含み益(在外営業活動体の換算差額)増減が含まれていません。⼀⽅で、資本合計にはこれらの損益項⽬を含んでいる包括利益(配当などの社外流出分を差し引いたもの)が反映されているのです。つまり⼀般的なROE計算式では分⼦と分⺟に整合性がなく、当期純利益と包括利益の乖離が⼤きくなりやすい総合商社の場合はあまり有⽤でありません。具体的には、海外通貨⾼によって国外に保有する外貨建て資産の為替含み益が拡⼤した時や、投資有価証券の含み益が値上がりによって増加した時は、⾒た⽬のROEが下がってしまうことになります。しかしこれらは投資エグジット時には実現益になるものです。従って投資事業を⽣業としている総合商社であれば、単年度の経営成績に含めるべきだと考えます(※2)。

※2:⼀⽅、⾃動⾞メーカーのような製造業が保有する海外⼯場の外貨建て資産含み益が増えたとしても、投資エグジットするという経営選択肢は通常ないため、「その他の包括利益」を経営成績の⼀部としてみなすべきでないと考えます。

 なお5⼤総合商社各社のROEを当期純利益/資本合計と当期包括利益合計/資本合計の2通りで計算すると2023年3⽉期の各社ROEは以下の通りでした。

ROE
(当期純利益/資本合計)
ROE
(当期包括利益合計/資本合計)
伊藤忠商事 17.8% 19.4%
丸紅 21.2% 32.3%
三井物産 18.9% 20.5%
住友商事 16.2% 22.2%
三菱商事 15.8% 22.1%

 これをみると、三菱商事の「実質的な」ROEは22.1%とかなり⾼⽔準だったことが分かります。余談ですが、前期、前々期と当期包括利益合計/資本合計で計算したROEが最も⾼かったのは丸紅㈱でした。数年前まで丸紅㈱は総合商社のなかでは財務体⼒⾯(⾃⼰資本⽐率)で競合他社に劣後していると⾔われていましたが、実質的ROE30%超えが続いたので、他社よりも資本が速く積みあがりました。いつのまにか丸紅㈱の⾃⼰資本⽐率は競合他社並みに充実するようになったのは、これで説明できます。
 株主還元強化は2023年に堅調だった総合商社株のドライバのひとつです。累進配当の導⼊だけでなく、積極的な⾃社株買いを⾏ったことは、株価が⼀株当たり純資産価値を下回っていた三菱商事には特にプラスでした。PBR(株価純資産倍率)1倍割れで⾃社株買いすると⼀株当たり純資産が増えるため、結果としてPBRは⾃社株買い以前より下がります。割安感がさらに際⽴つため、投資家の注⽬を集めたという意味で株価に対する好影響は⼤きかったと評価できます。この議論は、当ファンドの損保株への投資と同様です。

ソシオネクスト

 2023年にマイナス影響度がもっとも⼤きかったのはソシオネクストでした。前期、今期と続いた⼤幅な増収増益が来期は踊り場になるという会社側の⾒通しが嫌気されたのが要因です。当ファンドが株価急落後に投資してからも下落基調が続きました。
 ソシオネクストは2022年に上場した半導体デザイン企業です。2014年にパナソニックホールディングス㈱と富⼠通㈱のSoC(System on Chip)事業が統合されて誕⽣し、2022年上場当初から、当ファンドが注⽬していた企業です。
 2023年7⽉に⼤株主であった⽇本政策投資銀⾏、パナソニックホールディングス㈱、富⼠通㈱の3社が持株売却を発表し、⽬先の需給悪化懸念から株価急落したタイミングで新規投資を⾏っています。
 ⾃社⽤半導体のデザイン設計を内製化しているApple社(⽶国)などを除けば、同社は業界最⼤⼿の1社です。ロジック半導体市場の中で、顧客メーカーの最終製品に組み込まれるカスタムSoCと呼ばれる半導体を開発・提供しています。
 同社売上には製品量産化前の開発段階において顧客から受け取るNRE売上(Non-Recurring Engineering売上)と、量産過程に⼊ったあとに計上される製品売上の2種類があります。NRE売上はデザイン設計部隊の規模(と⽣産性)に左右されますが、製品売上に移⾏すれば売上増に伴う費⽤増は殆どなく、限界利益率が⾼いのが特徴です。
 同社は2018年頃から組織改⾰と事業のグローバル化に舵を切って以降、顧客構成・獲得商談内容が急速に変化しました。製品売上の先⾏指標ともいえるNRE売上は、海外構成⽐が5年前の約3割から2023年上期は8割程度まで拡⼤しています。ノード別売上構成も最先端である5-7nm向けがほぼゼロでしたが現在は約6割まで上昇していることが確認できます。当ファンドはこれをポジティブとして捉えました。
 現在半導体産業では、半導体製造プロセスの技術⾰新のうち、前⼯程分野で所謂「ムーアの法則」(半導体集積回路の集積率は18ヶ⽉(または24ヶ⽉)で2倍になるという半導体進化の指針を与えた経験則)が限界を迎えつつあり、微細化ペースが緩慢になってきていることです。半導体性能を向上させ続けるにはパッケージ技術などの後⼯程分野や半導体デザイン設計の重要性が増しています。同社はデザイン設計を通じて半導体のPPA(※3)を向上させることができるのです。

※3:Power, Performance, Areaの略で半導体の性能向上にとって⽋かせない、より少ない消費電⼒(power)、より速い演算処理能⼒(performance)、より狭い⾯積への集積(area)を指します。

 最先端半導体を取り扱うカスタムSoCの成⻑性は特に期待されます。これまで携帯電話などアプリケーションに限定して機能を特化させたASSP(Application Specific Standard Product)と呼ばれる半導体が⼤きく伸びてきました。例えば私たちが使っているスマートフォンは多くのメーカーがQualcomm社(⽶国)の通信⽤半導体(モデムチップ)を使っています。しかし消費者の嗜好が多様化していくなかで、差別化されたエレクトロニクス製品を世に出したいハードウェアメーカーはカスタムSoCを選好するようになってきています。これらハードウェアメーカーにはニッチプレーヤーも多く、⾃社で半導体をゼロからデザイン設計するノウハウを持っていないため、ソシオネクストのようなプレーヤーのビジネス機会となっています。
 最先端半導体の採⽤が増えるなか、同社の受注案件が⼤型傾向にあるのもポジティブです。2023年度第2四半期決算説明資料によると、年間商談獲得⾦額が2018年3⽉期頃の約1,000億円から前期は約2,500億円程度と倍以上になっているのは、1件あたり300億円以上の案件が増えているためです。半導体の⾼度化・複雑化で開発費⽤が増えるため、搭載される最終製品の販売計画も⼤型化しているのです。⼀般財団法⼈計量計画研究所の調査によると、ノード別にかかる半導体開発平均コストは7nmでは249百万⽶ドルでしたが、5nmで449百万⽶ドル、3nmで581百万⽶ドル、2nmになると725百万⽶ドルまで増えていることから、業界統計との整合性もとれていることが分かります。このようなトレンドは固定費中⼼の同社ビジネスにとっては収益性の⾯でポジティブです。
 競合他社としては、台湾にGlobal Unichip社、Alchip Technologies社、Faraday Technology社などの上場企業が数社存在します。そのなかでもソシオネクストの差別化ポイントは、デザイン設計の川上から川下(アーキテクチャ設計、論理設計・回路設計、物理設計)まで全てをカバーできることです。このため、後⼯程(主に物理設計、そして論理設計の⼀部)のサービスしか提供できない競合に⽐べて潜在顧客は多いと思われます。また⽇本が地政学的に中⽴であることも優位に働くかもしれません。
 同社の強みは⼈材にあると思われます。⽇本の半導体産業が国際的に強かった時代に活躍していたベテラン半導体技術者などが約2,000名おり、⻑年の実績があります。⽇進⽉歩で⾼度化・複雑化している最先端半導体では、開発途中で⽋陥が⾒つかってしまうと、修正作業が⾮常に⼤変且つコストが⾼くつきます。同社は上場以前、安全⾯・品質⾯で最も厳しい⽔準が求められる⾃動⾞向け半導体で、⽇系メーカーから多くの商談を獲得していました。この分野で実績が豊富であることは競争優位性であると考えられます(※4)。

※4:この点は当ファンドが考える半導体製造装置メーカー(東京エレクトロンなど)の参⼊障壁に似ています。即ち、複雑な⽣産⼯程をもつ半導体産業は、不具合が発⽣したときの機会損失が⾮常に⼤きいため、製造装置の購買・発注担当者は業者選定の際、実績の乏しい新規メーカーへの発注を避け、経験豊富で⻑年取引関係にあるメーカーを優先する傾向があります。

 事実、今期も⽶国や中国EV(電気⾃動⾞)メーカーから⾃動運転機能や⾞内エンターテインメント機能に関するデザイン設計案件が増えています。最近の中国⼈消費者の嗜好性を⾒る限り、EVの選択基準はガソリン⾞と異なりソフトウェアまわりが中⼼です。つまり搭載される半導体(カスタムSoC)が重要な製品差別化ポイントになっているのです。中国景気は低迷していますが、現地EVメーカーは欧州、ASEANへの輸出にも積極的であるため、同社はその恩恵を受けるかもしれません。
 同社の商談獲得残⾼には、他にも通信機器、データセンター、スマートデバイス、産業機器向けがありいずれも成⻑分野です。また現時点では同社に⽬⽴った商談獲得実績はなさそうですが、昨今の⽣成AIブームが⽕付け役となり、AIサーバー向け半導体が脚光を浴びています。いずれ⽣成AIがデータセンター内のサーバーから末端デバイスのエッジコンピューティング⽤にAI専⽤半導体が幅広く採⽤されるようになれば、同社にとって追い⾵となるかもしれません。
 今期は踊り場ですが、同社業績は組織改⾰を経て中⻑期的に利益成⻑率が⾼まる局⾯にあると考えられます。半導体技術者数が台湾競合の倍以上を誇りながらも、⼀⼈当たり売上・利益では未だ低⽔準です。しかし、獲得商談のグローバル化で仕事量の増加と案件⼤型化に加え、技術者の⽣産性向上の取り組みなどにより、営業利益率は15~20%程度を⽬指せるのではないでしょうか。30%を超えるROEも可能かもしれません。
 さらに同社は研究開発型企業ということもあり、「⼀般試験研究費の額に係る税額控除制度」(各事業年度において、試験研究費の額がある場合に、その試験研究費の額に⼀定割合を乗じて計算した⾦額を、その事業年度の法⼈税額から控除することを認める制度)の恩恵を存分に享受しています(2022年3⽉期売上1,928億円に対し研究開発費493億円)。このため2023年3⽉期の実際の法⼈税率(「税効果会計適⽤後の法⼈税等の負担率」)は僅か15.5%でした。これは法⼈実効税率30.6%よりもかなり低いので同社が将来⽣み出すキャッシュフローを考えるうえで無視できないポイントです。
 フリーキャッシュフローについては、前期は案件が急激に増えてマスクブランクス(半導体デバイスを製造する元となるガラス基板)調達などコストが嵩んだこともあり、当期利益に対して低⽔準でしたが、本来はキャッシュを潤沢に⽣むビジネスです。経営陣の株主還元⽅針である連結配当性向40%程度、総還元性向50%程度を前提としてもキャッシュが積みあがっていくことが予想されます。
 当ファンドが投資リスクとして念頭に置いているのは、⼤⼿ハイテク企業(⽶国のApple社、Microsoft社、Alphabet社など)による半導体デザイン設計のさらなる内製化、⽶国のBroadcom社、Marvell Technology Group社(両社ともASSPメーカーであり、部分的にソシオネクストと競合)や台湾勢(前述した企業やMediatek社など)との競争激化、および同社が獲得した案件にキャンセルが発⽣することなどです。また獲得した案件で不具合が⾒つかり、同社のレピュテーションに傷がつくケースなども、評判が広がりやすい狭い業界ということもあり注意が必要と考えます。

2023年11月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年11⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐5.42%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)での政策⾦利の据え置きや、市場予想を下回る⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の低下を背景に上昇しました。⽉半ばは、⽇本企業の良好な決算や、市場予想を下回る⽶国のCPI(消費者物価指数)を受けた⽶追加利上げ観測の後退などから、⽉中⾼値をつけました。⽉後半に⼊ると、中東情勢の地政学リスクの後退や⽶⻑期⾦利低下等を好材料に上昇した後、⼀時1ドル=146円台後半まで進⾏した円⾼が重しとなって下落基調に転じましたが、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐5.73%の上昇となり、参考指数の同5.42%の上昇を0.31%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄はリクルートホールディングス、東京エレクトロンなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、ソシオネクストなどでした。
 2023年も残すところあと⼀か⽉となりました。当⽉は少し気が早いですが2024年を⾒据えて、近年⾏った銘柄⼊れ替えの振り返りと、今後の運⽤⽅針についてお話しようと思います。
 当戦略における株式投資の考え⽅は「魅⼒的なビジネスと卓越した経営陣を併せ持つ企業を安く買う」という⾮常にシンプルなものです。企業は株主から預かった資本でビジネスを運営しています。逆に株主は預けた資本を増やしてもらうことを期待していることになります。企業は利益を通じて富を⽣み出し、株主はその果実を株価上昇や配当として得ているのです。
 この⼤原則のもとに、当戦略では株主として⻑期保有していたいと思えるような企業を厳選し、その実態価値を計算します。そして市場で付けられている株価がその実態価値を下回っているときに投資し、出来るだけ⻑く保有することで資産を増やすことを⽬指しています。現在のポートフォリオには運⽤開始当初から保有を続けている銘柄も少なくありません。
 株式を⾦融資産としてみると、「クーポンが不規則に変動する永久債」であると当戦略では考えています。よって実態価値は多くの場合、債券や不動産の価値を計算するのと同じように、ビジネスが将来にわたって株主のために⽣み出すであろうキャッシュフロー(=クーポン)を予想し、その総合計を現在の価値に割り戻すことで求められます。
 このため当戦略が考える「魅⼒的なビジネス」とは必然的にROE(株主資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)、ROCE(使⽤資本利益率)などの資本収益性が⾼く、平均(世界の名⽬GDP成⻑率)を上回る持続的な利益成⻑性を持ち、キャッシュフローをしっかりと⽣み出しているビジネスが中⼼となります。このような企業を当戦略では「魅⼒的な企業」、「強い企業」などと呼んでいます。
 投資対象を発掘する際には以下の7つの項⽬を重視します。

  • ビジネスモデルがシンプルで理解しやすい
  • 本質的に安全なビジネス
  • 有利⼦負債が少ない強固なバランス・シート
  • ⾼い参⼊障壁に守られたビジネス
  • 持続可能な⾼ROEとそれに⾒合う利益成⻑
  • 景気動向に左右されず潤沢なキャッシュフローを⽣み出している
  • 資本コストを理解し、最適資本配分ができる卓越した経営陣

これまでのポートフォリオの変遷

 ⻑期投資を基本とする当戦略ですが、過去15年を振り返ると組⼊銘柄は少しずつ変化してきました。主に3つのフェーズに分けて説明できます。
 第1フェーズ:2000年代後半から2010年代半ば
 第2フェーズ:2010年代半ばから2021年
 第3フェーズ:2022年以降

 第1フェーズ(2000年代後半から2010年代半ば)におけるポートフォリオの特徴は「⽇本のモノづくり優位性」であったと思います。巨⼤ハイテク企業が君臨する⽶国と異なり、⽇本には世界に通⽤するソフトウェアや消費者ブランドはなかなかありません。しかし「匠の技」、「暗黙知」、「擦り合わせ技術」などの⾔葉に代表されるように愚直なモノづくりで、世界を圧倒する⾼品質製品を輸出することには⻑けています。⽇本企業の競争優位性であり、「⾼い参⼊障壁」にもなりうると考えます。
 当戦略ではこれまで様々なモノづくり銘柄への投資を⾏いました。モノづくりというと、⾃動⾞など耐久消費財や資本財がクローズアップされますが、当戦略では消費財、医療機器、アパレルなどにも業種を広げてこの概念を捉えています。例えば、⽇本製の紙おむつ、ランニングシューズ、⾎管カテーテルなども品質の⾼さが武器となって、ブランドイメージに貢献し、グローバルで活躍できるビジネス群になっていると解釈できます。
 これらの銘柄のなかには、全て売却済みのものもあれば、かつての組⼊⽐率より引き下げて継続保有しているものもあります。
 第2フェーズ(2010年代半ばから2021年)では、無形資産に強みを持つビジネスへの投資を増やしました。
 ⽶GAFAM(Google,Apple,Facebook,Amazon,Microsoft)のようなハイテクプラットフォーマー達が持つ無形資産が、企業の優劣を決定するようになってきているという産業構造変化を受けてのことです。これらの企業にとって最も重要な資産は⼯場や店舗ではなく、⾃社開発したソフトウェア、アルゴリズム、コンテンツ、知的財産、顧客データ、オンラインプラットフォーム上に築き上げたネットワーク効果などです。個⼈や法⼈ユーザーにとってスイッチングコストが⾼く、⻑く使われ続けるサービスを提供しているこれらの企業は、資本収益性と限界利益率の両⽅が⾮常に⾼く、且つ市場規模が膨⼤であるのが特徴です。このように3拍⼦揃ったビジネスはあまり存在しません。またプラットフォーム型のビジネスは、ネットワーク効果によってユーザーにとっての有⽤性が指数関数的に⾼まるため、売上規模が増えても収益逓減の法則が働きにくいのも魅⼒です。
 第3フェーズは2022年からでした。もともと当戦略では数年前から始まった世界的なインフレとそれに伴う⾦利上昇は⼀時的なものと考え、既存組⼊銘柄を継続保有していく⽅針でした。これらの銘柄は所謂「グロース株」と呼ばれ、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの尺度でみた株価バリュエーションが市場平均よりも⾼い銘柄が中⼼でしたが、資本収益性、利益成⻑率とも⼀般的な⽇本企業を⼤きく上回り、財務内容も強固であることから、超低⾦利環境が続く⽇本では株価は理論上、正当化されるとの⾒解でした。
 しかし時間が経つにつれ、インフレ現象や⾦利上昇が⼀時的ではないことがはっきりしてきました。とりわけ、海外投資家の参加⽐率が⾼い⽇本株式市場では、国内⾦利だけでなく、海外⾦利(特に⽶国⾦利)上昇の影響が⼤きいことを重要視しました。現在⽶国のリスクフリー⾦利(⽶国債)は短期、⻑期とも5%弱程度で推移しています。海外勢にしてみれば、将来の不確実性が伴う株式に投資するよりも無リスク債券である⽶国債利回りに魅⼒を感じる投資家は多いはずです(※1)。当戦略では、「⽇本株の投資環境は過去15年間と今後15年間では⼤きく異なってくる可能性がある」と考えを改めました。判断が遅れたため、2022年の運⽤成績が振るわなかったのは反省材料ですが、これがポートフォリオの変更を⾏うきっかけとなりました(※2)。
※1:理論上は⽶ドルベースの投資家が⽇本株への投資する際は、⾦利パリティのメカニズムが働くため、イールドスプレッドは円ベース投資家と同じになるはずですが、現実の世界ではそのようになりません。同じ理由でドル円キャリートレードが盛んに⾏われています。
※2:ポートフォリオ変更を始めたころの⽶国債の⾦利は2年債約2.6%、10年債約2.8%、30年債約3.0%でした。

 2022年以降のポートフォリオ変更としては、まず既存銘柄であった三菱商事の組⼊⽐率を⼤幅に引き上げたことに始まり、その後新規銘柄として東京海上ホールディングスを筆頭とするメガ損保グループ3社、オリックス、三菱UFJフィナンシャル・グループなどを組み⼊れました。これらの銘柄は⼀般的に「バリュー株」と⾔われますが、当戦略では株式市場で広く理解されていないという意味を込めて「隠れた成⻑銘柄」と呼んでいます。
 第1、2フェーズでポートフォリオ⼤半を占めた「純粋な成⻑銘柄」と異なり、これら「隠れた成⻑銘柄」が持つ魅⼒は、

  • 「純粋な成⻑銘柄」に⾒劣りするものの、世界の名⽬GDP成⻑率を上回る事業利益成⻑
  • ⻑期持続可能な⾃社株買い・消却によって上乗せされる⼀株当たり利益成⻑
  • 相対的に⾼い配当利回り

 という3つの株式リターンの源泉を⾜し合わせると年率期待リターンが10%強になるところです。これは当戦略が持つ「純粋な成⻑銘柄」の期待リターンに匹敵するレベルです。「純粋な成⻑銘柄」の場合、事業成⻑性は⾼くても、株価⽔準そのものが⾼いうえ、成⻑資⾦が必要なことも多く、⾃社株買いをする余裕がないか、もしくはしたとしてもインパクトは限定的です。また同じ理由で、配当利回りも市場平均を下回るケースがほとんどです。よって、株式リターンの源泉はほぼ全てが事業利益成⻑のみに依存していることになります。加えて、2010年代の⾦利低下局⾯でみられた継続的なバリュエーション切り上がり(PERの拡⼤)についても、もはや期待しにくい状況です。株式益利回りと無リスク債券利回りとのイールドスプレッドが縮⼩している環境下では、株価バリュエーションが市場平均並みかそれを下回るような投資対象を選好しなくてはなりません。これが「隠れた成⻑銘柄」へシフトした理由です。
 もちろん、この期間に「純粋な成⻑銘柄」に対する投資を全て避けていたわけではありません。例えば、東京エレクトロンは世界を代表する半導体製造装置メーカーです。当戦略は、2022年秋の⽶中半導体貿易摩擦が勃発し、世界的に半導体関連株が⼤幅下落した局⾯で投資しました。同社は、⾃社株買いも少なく、配当利回りは市場平均に及びませんが、実績をもとにした⻑期利益成⻑⾒通しは⽇本の⼤企業のなかではトップレベルだと考えます。
 この第3フェーズにおける重要な時代認識は「インフレの常態化」と「⾦利の正常化」です。当戦略は、向こう12か⽉程度は⼀旦インフレ減速、⾦利の落ち着きがみられたとしても、⻑期的には株式市場および⽇銀が想定しているよりも国内インフレが⾼⽌まり、もしくは上振れする可能性があると考えています。すでに前⽉、前々⽉の⽉次報告書では⾼齢化、⼈⼝減少による労働⼒不⾜を構造的インフレ要因として説明しましたが、他にも将来のインフレを彷彿させる⽇本固有の事象はここかしこに⾒られます。
 例えば、昨今の輸⼊物価⾼がインフレ圧⼒となっていますが、円安が他の経路を通じてインフレを引き起こすこともありそうです。世界最⼤級の半導体受託製造メーカーであるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company社(台湾、以下「TSMC社」)が熊本⼯場建設、メモリ半導体メーカーであるMicron Technology社(⽶国)が広島⼯場の拡張を⾏っていますが、これらは海外から⽇本への対内直接投資における⼤きな潮⽬の変化だと考えます(※3)。
※3:⽇本はGDPに占める対内直接投資残⾼(約40兆円)の⽐率が⼀桁台に留まっており、国際的にかなり低い⽔準です(2021年時点で201か国・地域中198位(出所:国連貿易開発会議(UNCTAD)))。伸びしろは⼤きく、⽇本の輸⼊ペネトレーション(国内総供給に占める輸⼊の割合)を改善するためにも、もっと増えることが望ましいと考えています。

 海外メーカーにとっては、⽇本が地政学的に安全であることに加え、円安によって外貨ベースでみた設備投資負担が軽くなり、優秀な⽇本⼈技術者を低コストで採⽤できるなどが背景にあるのは容易に想像できます。とりわけTSMC社は⽶国アリゾナ州でも⼯場を完⼯させようとしていますが、⼯事現場での⼈材問題などを理由に⼤幅遅延となっているのに対し、⽇本では建設業者による綿密な⼯程管理のもと、進捗状況が際⽴って良好と⾔われています。このため、第1⼯場完⼯が間近ななか、すでに⽇本で第3⼯場まで建設する⻘写真を描いているようです。TSMC社の台湾本社社員にとっても⽇本のほうが⽶国よりも距離が近いことから、⽇本への誘致は様々な⾯で引き続き有利に働きそうです。さらに北海道では最先端の国産半導体を⽬指すRapidus㈱による新⼯場建設も進んでいるのは周知のとおりです。
 これら半導体新⼯場の周辺には通常、部材メーカーや製造装置メーカーなども集積してきます。すでに多くの関連メーカーが新たな進出・拡張を決めており、半導体産業全体の投資規模は10兆円近く(⽇本の名⽬GDPの2%弱)に及ぶのではないかと推察されます。TSMC社が進出した熊本県菊陽町では交通渋滞が⽇常化し、地価の⼤幅な上昇もみられ、インフレ要因になっているのは明らかです。⼯場投資は雇⽤を⽣み出し、地元経済に波及効果をもたらすので、実質賃⾦の上昇を伴った「良いインフレ」となるモデルケースになるかもしれません。
 また以前にも触れたとおり、東証による上場企業のPBR1倍割れ解消の取り組みに関しては、労働⽣産性の改善が、ROE改善につながり、それが株価上昇につながると指摘しました。そして労働⽣産性の改善には、⽇本企業の場合は、国際的にみて低位に留まる国内のモノやサービスの値段について本来の価値に⾒合った値上げをし、適正な利幅を確保することが重要と述べました(※4)。つまり今回の株式市場改⾰は副次的にインフレをもたらすものであると⾔えるでしょう。これらは数年前までは誰も想定していなかったインフレ要因です。
※4:⽇本製鉄㈱、JFEホールディングス㈱など⽇本の鉄鋼メーカーは2020年代にはいって業績が⼤幅に改善しましたが、最⼤の要因は圧倒的な⾼品質にも関わらず、国際的にみて割安であった⾃動⾞⽤鋼板などの国内価格(所謂、ひも付き価格)を「不退転の決意」で底上げしたことでした。

2024年に向けた投資戦略

 以上のような時代認識を踏まえた、現在のポートフォリオの特徴は次のとおりです。
 まず2022年以降に進めた銘柄⼊れ替えの結果、業種としては⾦融業関連の組み⼊れが増えています。これらの銘柄は事業内容がそれぞれ異なり、幅広く分散されていると考えます。具体的には、

  • メガ損保グループ3社:景気動向よりも⾃然災害などに業績の相関性が⾼く、ポートフォリオ分散効果ももたらしてくれる
  • オリックス:関⻄国際空港運営や国内ホテル旅館事業を通じて訪⽇観光客増の恩恵を受け、不動産や再⽣可能エネルギー事業での含み益も併せ持つ
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ:国内⾦利正常化の恩恵を受ける
  • ⽇本取引所グループ:東京証券取引所、⼤阪取引所、東京商品取引所の運営を独占的に⼿掛ける

 などが含まれます。
 アクティブウェイト(東証株価指数(TOPIX)における時価総額ウェイトと⽐較した相対的な組⼊⽐率)に⽬を転じると、現在の最⼤組⼊銘柄はメガ損保グループ3社(合算ベース)となっており、次いで個別銘柄として⽇⽴製作所、セブン&アイホールディングス、三菱商事、ソニーグループ、オリックスなどとなっています。また東京エレクトロン、信越化学⼯業、ルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト、HOYAなどを⼀括りでみれば、半導体関連がアクティブウェイトで最⼤になっているという⾒⽅もできます。今後も差別化されたポートフォリオを意識し、運⽤を継続していく⽅針です。
 当戦略はこれら全ての企業が魅⼒的なビジネスを有していると考えます。したがって、参⼊障壁が維持され、株価バリュエーションが妥当であれば、2024年も保有を続ける⽅針です。⼀⽅、外部環境が⼤きく変化し、組⼊銘柄のビジネス参⼊障壁にほころびがみられる場合や株価バリュエーションに極端な過熱感がみられる場合、或いは新たな投資機会が発掘された際には、躊躇せずに銘柄⼊れ替えを⾏う可能性もあります。
 2024年の⽇本株を取り巻く外部環境は海外と⽐較して良好な⾒通しであると考えます。例えば、

  • 2019年のピーク時にGDPの約1%を占めていたインバウンド関連業界の復活、そして成⻑軌道へ回帰
  • コーポレートガバナンス改⾰を通じた資本収益性の向上によって⽇本企業が再評価(⽇本株全体のPER切り上がり)される可能性
  • 諸外国では敬遠されるインフレ深刻化が⽇本ではデフレからの脱却としてポジティブに捉えられること

 などはいずれも⽇本株だけにしかない独⾃の追い⾵です。
 これらに加えて、来年も企業による積極的な賃上げが⾏われれば実質賃⾦成⻑率がプラスに転じ、ゾンビ企業淘汰という痛みを伴う可能性がある「⾦融政策の正常化」に⽇銀が踏み切ることができれば、かなりポジティブだと考えます。

最後に

 当⽉は⽇本株が再び1989年バブル崩壊前の史上最⾼値に近づいていることが話題になりました。現在の⽇本株市場は、1989年12⽉に記録したTOPIXの史上最⾼値より17%ほど低い⽔準にあります。これをみて、⽇本株がいまだにバブル崩壊前を超えられていないというのは若⼲正しくありません。実は配当込み指数でみれば、史上最⾼値をすでに3割ほど上回っているのです。
 またバブル崩壊前との⽐較の際には、新聞などの報道で⼤抵、⽇経平均株価が使⽤されますが、当戦略ではTOPIXが参考指標として相応しいとの⽴場です。前者は定期的な採⽤銘柄⼊れ替えがあり連続性にやや⽋けることや、225銘柄のみしか反映しておらず、且つ株価単純平均型の指数であるからです。TOPIXはより網羅性が⾼く、時価総額加重平均型の指数となっています。
 実質的に史上最⾼値にある⽇本株といえども、欧⽶との株価パフォーマンス格差が歴然であるのは変わりません。1989年末から当⽉末にかけて欧州の株価指数(FTSE All Shares Index)は約3倍、⽶国(S&P500)にいたっては約13倍にもなっています。海外との⽐較では、⽇本株の潜在的な⻑期上昇余地はまだまだ⼤きいと⾔えるかもしれません。
 ⽇本株市場の中味も、1989年当時に⽐べると⼤分様相は異なります。かつては時価総額上位20社のうち半分以上が都銀や⻑信銀でしたが、今ではトヨタ⾃動⾞㈱、ソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、東京エレクトロンなどの国際優良株が中⼼です。万が⼀、⽇本経済が衰退傾向に陥ったとしても過度な⼼配は不要と考えています。
 さらに当時は、「バブル」と⾔われていたことからも分かるように、株価の裏付けとなる企業利益が乏しく、PERが今よりかなり割⾼でした。⼀⽅、今⽇はPER15倍程度と「より地に⾜の着いた」バリュエーションであると⾔えます。これも2024年以降の⽇本株に対して当戦略が「慎重ながらも楽観的(cautiously optimistic)」な⾒⽅をしている理由となります。

 来⽉は2023年暦年の組⼊銘柄のパフォーマンス振り返りを⾏う予定です。

2023年10月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年10⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐2.99%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は堅調な⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の変動や、中東情勢の緊迫化などを受け乱⾼下の展開となりました。⽉後半に⼊ると、中国の景気刺激策が好感される場⾯があったものの、⽇銀の政策再修正への思惑や⽶テクノロジー企業の低調な決算への失望が株式市場の重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐2.07%の下落となり、参考指数の同2.99%の下落を0.92%上回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は信越化学⼯業、⽇⽴製作所などでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。
 当ファンドでは2022年末ごろからメガバンク株への投資を開始しました。2021年6⽉の⽉次報告書では、⽇本の銀⾏株について投資魅⼒に⽋けると述べたことがありますが、それ以降、株式市場と⽇本の銀⾏業をとりまく環境が⼤きく変わりました。およそ40年ぶりの世界的な⾼インフレとそれに伴う⾦利上昇によって、ゼロ⾦利政策が続く⽇本にも「⾦利がある世界」がやって来るというシナリオの現実味が増してきたのです。過去数年、超低⾦利が続く中でも最⾼益を達成できるほど筋⾁質になった邦銀は、今後の⾦利上昇次第で、利益⽔準が格段にあがる可能性が出てきたと考えます。
 どれくらいの利益拡⼤を期待し得るのか議論する前に、そもそも当ファンドが銀⾏業をビジネスとしてどのように⾒ているかをお話します。
 銀⾏が基幹業務として⼿掛ける預⾦・貸出・決済業務などは、⼀般消費者の⽇常⽣活、企業の⽇常業務にとってなくてはならないものです。先進国であれば、顧客の裾野はほぼ例外なく全ての消費者、企業に広がっており、市場規模が膨⼤です。
 これらの事業を円滑に運営するために、銀⾏は⾮常に多くの⼈的資源、⽀店網などの有形固定資産、ITシステムなどの無形資産を必要とするため、銀⾏ビジネスは装置産業ともいえます。また⼀国の経済中枢にかかわる役割を担っているため、銀⾏を営むには免許制などで認可されなくてはなりません。このことから、新規参⼊者が銀⾏業をいきなり始めるのは難しく、業種としての参⼊障壁は⾮常に⾼いと⾔えます。
 ⼀⽅、既存銀⾏同⼠においては競争が激しいという負の側⾯があります。なぜなら預⾦や貸出サービスは他⾏との差別化が難しいからです。従って、⼀般的に投下資本から得られる銀⾏業の収益性は他の産業に⽐べて低くなります。このような事業で⾼いROE(株主資本利益率)を実現するためには、レバレッジをかけることが求められます。これが、銀⾏業の⾃⼰資本⽐率が他の産業よりも低く、ひとたび経営判断を誤ると、利益へのマイナスインパクトが増⼤化されてしまう理由です。
 当ファンドが考える、株主として魅⼒的な銀⾏を選ぶ基準は次のとおりです。
 ⼈々が安⼼して預⾦を預けられるブランド⼒があるか
 安全性、利便性に裏打ちされたブランド⼒があれば、銀⾏は低コストで資⾦調達することができます。
 健全な貸出業務を⾏っているか
 貸出実⾏後すぐに貸出⾦が不良債権化することはまずありません。⼀⽅で、利息収⼊は貸出実⾏後に直ちに発⽣します。このため融資担当者は⽬先の利益を増やす誘惑にかられて、リスクを度外視した貸出に⾛ってしまうことが多々あります。規律のきいた貸出を⾏っているか、与信先の信⽤リスクに⾒合った⾦利を適⽤しているかを重要視します。
 コスト管理能⼒に優れているか
 既存プレーヤー同⼠の激しい競争によって収益性が必ずしも⾼くない銀⾏業では、低コスト経営を徹底することが求められます。

 前述の基準に合致する銀⾏として、当ファンドでは三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)を組み⼊れています。同⾏は、国内最⼤規模を誇る3⼤メガバンクのひとつです。2022年度末時点で預⾦量約214兆円、貸出資産約110兆円、従業員約12万⼈、個⼈顧客約3,400万⼈、法⼈顧客約110万社、国内拠点436か所、海外拠点約1,600か所を誇ります。
 過去の⽉次報告書では、銀⾏はローカル⾊が強いビジネスであり、グローバルで活躍できる企業とは⾔いにくいと述べました。しかし、地銀に⽐べてMUFGは海外のプレゼンスが⾼いのが特徴です。歴史上、外資系銀⾏のグローバル展開は苦戦が⽬⽴ちますが、MUFGは海外利益がすでに全体の半分弱を占めていること、⽶国の名⾨投資銀⾏であるMorgan Stanley社を持分法適⽤会社として傘下に抱えていることなどは特筆すべき点です。
 Morgan Stanley社については、2007年頃にサブプライムローン危機で⽶⼤⼿⾦融機関が軒並み経営危機に⽴たされたとき、MUFGが⽣き⾺の⽬を抜くように出資に踏み切ったという経緯があります。邦銀のM&A史上最も成功した取引とも評価されており、2022年度も持分(簿価)に対して12%相当の持分法利益を計上し、MUFG全社平均ROEを上回る収益性を誇っています。本案件は、MUFG経営陣の先⾒性および執⾏⼒の⾼さが表れているとも⾔え、当ファンドが重視する「卓越した経営陣」の条件を満たしていると考えます。

国内⾦利の正常化

 当ファンドにとって理想の投資対象は、あくまでマクロ経済に左右されないビジネスですが、今回の銀⾏株投資では、⾦利⾒通しを前提に、利益成⻑性を議論することが避けて通れません。なぜなら、現状の低⾦利環境のままでは、邦銀の収益⼒は低すぎると考えるからです。
 MUFGの資産規模は⽇本の銀⾏として最⼤です。2023年3⽉末時点の総資産は約387兆円あり、グローバル銀⾏として有名なHSBC Holdings社(英国)に匹敵、時価総額が世界最⼤の銀⾏であるJPMorgan Chase & Co.社(⽶国)のおよそ8割程度と世界的にみても有数のスケールを持ちます。⼀⽅、資本収益性の⾯では、HSBC Holdings社とJPMorgan Chase & Co.社は総資産に対して約1%程度に相当する純利益をあげているのに対し、MUFGのそれは約0.3%しかありません。
 邦銀のROA(総資産利益率)が低い理由のひとつは、⽇銀への預け⾦(⽇銀当座預⾦)が巨額に上っているためです。これらにはほとんど利息が付かないため(⼀部は付利がマイナス)、邦銀バランスシート上の資産としては「死⾦」といえます。MUFGの場合、総資産に占める⽇銀当預(⽇本銀⾏が取引先の⾦融機関等から受け⼊れている当座預⾦)は約75兆円、総資産の約2割を占めています。
 しかし、およそ20年ぶりともいえる国内の物価⾼現象をきっかけに、ようやく⾦利上昇の兆しがみえてきました。マイナス⾦利が続いてきた⽇本ではむしろ⾦利環境が「正常化に向かう」というのが正しいかもしれません。今までが「異常」であって、「正常」な状況に戻ることは妥当なことと⾔えます。これは今後の銀⾏ビジネスにとってポジティブと考えます。ROAでみたMUFGとHSBC Holdings社の違いはわずかにみえますが、巨⼤な総資産(うち9割程度は⾦利上昇の恩恵を受ける資産と想定)の規模を考えると、わずかな⾦利上昇でも⼤きな利益を⽣み出せることを忘れてはなりません。
 例えばMUFGの⽇銀当預が収益を⽣む「働くお⾦」として、仮に40兆円(⽇銀当預の約半分)が国債への投資あるいは貸出にまわり、保守的に0.5%の利ザヤが得られるという前提を置けば、同⾏の税引後連結純利益に対する増益効果は1,400億円(40兆円x0.5% x70%)となります。また⽇銀当預全額が1%程度の利ザヤを得るとすれば、5,000~6,000億円程度の利益上乗せとなります。これは2023年3⽉期の連結純利益からから5割前後の増益を意味します。
 また「⾦利がある世界」では、既存の貸出資産の利ザヤ改善も⾒込まれます。例えば、同⾏の国内貸出⾦残⾼約67兆円に対して、利ザヤが0.5%改善すれば約2,300億円の増益、1.0%程度の改善なら5,000億円近い増益となります。⽇銀当預のシフト効果とあわせて最⼤1兆円超、連結純利益が増える計算になります。即ち、現在の利益⽔準がほぼ倍になるということです。
 なお⾦利には、名⽬⾦利と実質⾦利がありますが、銀⾏業績を予測するうえで重要なのはあくまで名⽬⾦利です。名⽬⾦利は実質⾦利にインフレ率を加えたものなので、インフレ率が想定以上に⾼くなれば、実質⾦利が低下することで国内の緩和的⾦融環境は維持され、名⽬上の⾦利は引き上げられる余地がでてきます。⽇本が不況に陥ることなく⾼い名⽬⾦利が許容されれば、銀⾏業績は1%の利ザヤ改善を⼤幅に上振れるシナリオも考えられます。
 「⾦利がある世界」では銀⾏の⾮⾦利収⼊にも副次的な恩恵をもたらすでしょう。例えば、⾦利の先⾼観からデリバティブビジネスでは⾦利スワップによる借⼊⾦利の固定化ニーズの増加が考えられます。証券⼦会社では企業の起債ニーズが増えるかもしれません。⾦利が正常化することで事業環境が変化し、M&Aなどの動きが活発になれば投資銀⾏関連の⼿数料増加も期待できます。
 以上を総合的にみれば、MUFGを始めとする国内メガバンクの収益改善は⾮常に⼤きなものになる可能性があります。

⽇本経済の中⽴⾦利

 前述の⾦利上昇(利ザヤ改善)前提は妥当でしょうか。
 近年の⽇本経済のトレンドにおいて

  • 実績インフレ率(コアCPI)が3%超で推移していること
  • ⽇銀のインフレ⽬標が2%であること
  • ⽇本経済の需給ギャップがゼロ近辺にまで改善していること
  • 物価連動10年国債からみる⽇本の期待インフレ率が1.2%を超えてきており、2014年以来の⾼⽔準にあること
  • 前⽉の⽉次報告書で述べたように⼈件費などの国内インフレ要因は⼀過性でなく構造的であること
  • ⽇本経済の潜在成⻑率が最低でも0.5%程度と推定されること

 などを勘案すると、⽇本の中⽴⾦利(理論上、経済を過度に冷やさず且つ過熱させない均衡のとれた⾦利⽔準)が2%程度に上昇しても不思議ではないと考えます。よって、前述の1%利ザヤ改善シナリオはさほど⾮現実的とは⾔えないのではないでしょうか。
 とりわけ国内インフレに関して確実に⾔えることは、⽇本が⼈⼿不⾜の時代に突⼊したということです。2011年ごろから総⼈⼝の減少が始まったことで、働き⼿の減少が危惧されましたが、過去10年は⾼齢者の雇⽤期間延⻑※や⼥性の労働参加率上昇が⽳を埋めたため、労働⼈⼝全体として横這いを維持できました。しかし、この効果もいよいよ限界に達しつつあります。抜本的な海外移⺠受け⼊れ政策が議論されていない以上、恒常的な労働⼒不⾜になるのはほぼ間違いないでしょう。これからは⼈⼿を確保するために企業は賃⾦を上げていかざるを得ません。また⼈間の働き⼿が⾜りない以上、⾃動化などを通じた⽣産性改善も不可⽋です。これは⽇本国内における設備投資動向の底上げを意味し、資⾦需要の増加につながると思われます。これらの理由から、⾦利が上昇する蓋然性はかつてないほど⾼まっています。

※当ファンドでは、⽇本の労働⼒不⾜問題を解決するために、定年退職という慣⾏は廃⽌すべきであるとの⽴場です。英国では労働⼈⼝の下⽀えやGDP成⻑率への寄与を⽬的に、2011年から定年退職制度は廃⽌されています。

リスク

 ⾦利上昇による⽇本経済への弊害、あるいは⾦利上昇を押さえつける潜在的要因については何が考えられるでしょうか。
 まず企業部⾨の⽀払利息への影響からみていきます。⽇本において資本⾦10億円以上の⼤企業では、2022年度営業利益合計約37.7兆円に対し⽀払利息は3.7兆円(推定借⼊⾦利約1%)ですので、⾦利上昇による借⼊コスト増の吸収は⼗分可能と思われます。しかし、資本⾦50百万円未満の零細企業は営業利益合計7.7兆円に対し、⽀払利息は2.3兆円にも上ります。よって、⾦利が上昇すれば⾮効率な経営を続ける零細企業の経営は厳しくなるかもしれません。経済にとって少なくとも短期的にはマイナス要因になり得ます。当ファンドはいわゆる「ゾンビ企業」が淘汰されることはデフレ脱却を確実なものにするために必要不可⽋との⾒解です。痛みを伴うかもしれませんが、政策対応と企業の⾃助努⼒によって⽇本が乗り越えなくてはいけないハードルでしょう。なお、2023年3⽉期末のMUFGの与信関係費⽤⽐率(与信関係費⽤総額/期末貸出⾦残⾼)は0.62%、不良債権⽐率1.26%と極めて健全です。
 家計部⾨では住宅ローンが懸念材料です。⽇本は⽶国などに⽐べて変動⾦利型の割合が7割以上と⾼いので、⾦利が本格的に上昇し始めれば、家計は苦しくなる恐れがあります。しかし、⽇本の新規住宅ローンの平均⾦額は30百万円前後ですので、現在返済が進んでいる⼀般的な住宅ローンの平均残⾼は20百万円以下と推察されます。仮に1%⾦利が上昇した場合、毎⽉の利払い増加額は15,000円程度です。継続的な企業による賃上げが実現できれば、家計にとって吸収可能なレベルです。加えて⽇本では、変動⾦利型住宅ローンの⾦利が上昇しても、5年間は毎⽉返済額が変わらないというルールがあります(毎⽉の返済額トータルは⼀定なまま、利息部分が増加・元本部分が減少。減額調整された元本はローン期限までには完済される)。さらに、6年⽬からの返済額はそれまでの返済額に対して125%が上限になるというルールもあります。以上のことから、家計が急激に悪化することはなく、こうした時間の猶予のなかで、家計は新たな⾦利環境に適応していけると考えます。
 国債市場にもリスクがあります。⺠間銀⾏からの⽇銀当座預⾦は総額500兆円を超えるので、需要サイドとして国債を買う待機資⾦は巨額です。⼀⽅供給サイドは、財政⾚字に伴う新規国債発⾏額が年35兆円程度、さらに⽇銀が保有国債のうち、満期到来分を再購⼊しないと仮定すれば年65兆円程度、合計で100兆円程度が⺠間銀⾏が1年間で買える⾦額となります。即ち、国債需給の観点からすると、買い需要が供給を⼤きく上回る状況が想定され、⻑期⾦利の頭を抑える要因になるかもしれません。そうなると銀⾏の収益は期待したより改善しないことも考えられます。
 ⺠間銀⾏にとっては、購⼊した国債が⾦利の更なる上昇で含み損を抱えることを懸念する向きもあります。しかし、MUFGの国債残⾼(総額37兆円、うち満期保有区分は13.5兆円)のデュレーションは2023年3⽉末で1.5年とかなり短期化しているので、デュレーションをやや⻑めにし、満期保有⽬的の残⾼を増やすことも含めて少しずつ国債の買いを積極化させる動きがあってもいいと当ファンドでは考えます。満期保有⽬的債券の含み損拡⼤懸念というと、今年3⽉に発⽣したSilicon Valley Bank社(⽶国)での取り付け騒ぎが想起されますが、邦銀の預⾦属性(⼩⼝預⾦を幅広く集めており、⽇常的に必要な⽣活必需品的な側⾯が強い)や、現時点の保有債券デュレーションの短さを考えると、取り付け騒ぎによる流動性危機や、過⼩資本に陥るリスクは低いと考えられます。
 銀⾏の預⾦調達サイドのリスクとしては、世の中の⾦利が上昇すれば、預⾦⾦利引き上げを余儀なくされることが挙げられます。最近ではネット銀⾏のように低コストを武器に⾼利率の預⾦商品を掲げる新興勢⼒の台頭もあります。しかし、邦銀では貸出需要を遥かに上回る預⾦量があるので、メガバンクが資⾦を確保するために、預⾦⾦利を⼤幅に引き上げるリスクは⼩さいと考えます。とりわけ⼤半の⼈々にとって銀⾏⼝座は⽇々の⽀払いや、給与受け取りをするための⽣活必需サービスであることから、預⾦⾦利の違いで他⾏に移すことは起こりにくいでしょう。当ファンドではこのような「スイッチングコスト」が⾼い点も銀⾏業の魅⼒として評価しています。
 この他にも、⽇銀当預に対する付利引き上げによる収⽀悪化や、⻑期⾦利上昇によって⽇銀が保有する国債が含み損を抱えることで、中央銀⾏としての財務内容が債務超過になるなどの副作⽤も考えられます。極端なシナリオとしては、円通貨の暴落や、ハイパーインフレ、国⺠負担の増加などが想定されますが、⽇本は⾃国通貨で通貨を発⾏できることや、国全体としては純債権国であること、⽇銀の信認が即座に失われる可能性は低いことから、⼤きな問題に発展する確率は極めて⼩さいと考えられます。

株価バリュエーション

 年初から株価が上昇しているMUFGを含む邦銀株ですが、世界的にみて株価は未だに割安と⾔えます。このことを総資産に対する時価総額の⽐率を使って説明すると、前述の銀⾏ではJPMorgan Chase & Co.社で約10%、HSBC Holdings社で約5%に対して、MUFGは3%しかありません。つまり、MUFGは、HSBC Holdings社並みに評価されるだけで時価総額は5割以上のアップサイドがあります。⾔うまでもなく、⾦利上昇による業績拡⼤も株価上昇要因になります。
 MUFGを始めとする邦銀の利ザヤおよびROAは今後、低い⽔準から改善する⽅向にあります。⼀⽅、JPMorgan Chase & Co.社などの⽶銀はすでに利ザヤが⾼い⽔準にあることから、伸びしろは限定的と判断されます。むしろ、⽶景気が減速傾向にあることを考えると、ROAには下⽅圧⼒がかかっていると当ファンドでは考えます。
 MUFGと同等か若しくはより割安な海外銀⾏株としては、中国のIndustrial and Commercial Bank of China社(時価総額/総資産=約4%)や韓国のKB Financial Group社(同約3%)が挙げられます。しかし、中国では⺠間銀⾏が政府コントロール下にあるという⾊彩が強く、経済も構造的に悪化傾向にあること、すでにROAがMUFGよりだいぶ⾼い⽔準(Industrialand Commercial Bank of China社0.9%、China Construction Bank社1.0%)にあり、改善期待が乏しいことを考えるとMUFGのほうが魅⼒的に映ります。
 韓国は⽇本と同様に銀⾏は成熟産業であり、株価は割安に放置されていますが、コロナ禍以降、家計部⾨に対する貸出が増えており、とりわけ過熱している不動産市況がピークアウトすることで、不良債権が急増する懸念があります。MUFGに⽐べてROAは⾼い(KB Financial Group社0.6%、Shinhan Financial Group社(韓国)0.7%)ですが、今後下押し圧⼒がかかるかもしれません。逆に⽇本では家計部⾨の負債⽐率は⾼くなく、企業部⾨も健全です。向こう数年は訪⽇客の回復効果(当ファンドでは訪⽇客関連の中⻑期的な経済効果について⾮常にポジティブにみています)もあり景気が底堅く推移することが予想されます。

株価のダウンサイドリスク

 最後に、⾦利上昇の前提が外れたとしてもMUFG株主は⾼い配当性向と継続的な⾃社株買いによって、相応の総還元利回りが期待できるため、ダウンサイドリスクは⼩さいと判断します。
 かねてからMUFGは、安定的に1兆円以上の親会社株主純利益を稼げる⾦融グループになることを⽬指していました。過去2期の業績でこれを超えるようになり、⻲澤社⻑はその体制がほぼ整ってきたとコメントしています。配当性向については、4割へ向けて累進的に引き上げることを⽅針(2023年3⽉期実績35.3%、2024年3⽉期計画37.9%)としています。つまり配当総額は最低でも4,000億円は⾒えていることになります。加えて、MUFGはCET1⽐率(銀⾏会計上の⾃⼰資本⽐率)が9.5%から10.0%のターゲットレンジ内(2023年3⽉期末実績10.3%)であれば、⾃社株買いも機動的に⾏い、発⾏済株数5%を上限とした株式消却を⾏うとしています。同⾏はすでに、競合メガバンクである㈱三井住友フィナンシャルグループや㈱みずほフィナンシャルグループと⽐べても海外拠点を⼗分に確保しており、⼤規模な資⾦ニーズを伴う買収をする可能性が低いことを考えると、実現可能な還元⽅針であり、資産規模(リスクアセット)と⾃⼰資本の⽔準を⼀定に保てれば、年間5,000億円前後の⾃社株買いは可能と推定できます。以上のことから、MUFG株主は毎年の株主還元額として合計1兆円近くを期待できます。現在の時価総額に対して約6%という総還元利回りが株価の下値を⽀えてくれると考えます。
 政策保有株が多いのも強⼒な「武器」となります。この点は、当ファンドで組み⼊れているメガ損保グループと同じです。例えばMUFGは、2023年3⽉期末時点で時価2.5兆円相当の株式を保有しており、株式市場での売却を通じて資⾦化することで、⾃社株買いや増配に使うことができます。メガ損保に⽐べるとメガバンクの政策保有株含み益は少ないと⾔われていますが、削減に本格着⼿したのはここ最近なので、これからどのように有効活⽤されるか楽しみです。とりわけ銀⾏の会計ルール上(バーゼルIII)、保有株式のリスクウェイトが250%まで引き上げられることになっており、政策保有株を削減するのはもはや待ったなしと⾔えます。
 MUFGを含む3メガバンクは全て「PBR(純資産価値)1倍割れ」銘柄です。今年8⽉の⽉次報告書でもコメントしたとおり、株価が割安な状況下で⾏われる持続的な増配や⾃社株買いは株主にとって⼤変有利です。⼀株当たり配当⾦が同じでも、株価⽔準が低ければ、そうでない場合に⽐べて、配当利回りは⾼くなりますし、増配したときのインパクトも⼤きくなるからです。⾃社株買いであれば、株価が割安であるほどより多くの株を買い⼊れることができ、結果として株主に帰属する⼀株当たり利益が多くなります。特にPBR1倍を割れている時に、⾃社株買いをすれば⼀株当たり純資産額が増えていくことになります。つまり株価⽔準が変わらなければ、割安感が益々際⽴っていくのです。

2023年9月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年9⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.51%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の改善により中国の景気後退不安が⼀時的に後退したほか、国内では早期衆院解散・総選挙への期待感が⾼まったことを受け、上昇基調となりました。⼀⽅⽉後半は、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)で⾦融引き締めの⻑期化が⽰唆されたことや、⽶議会の予算協議が難航し政府機関閉鎖への警戒感が⾼まったことから、市場⼼理が悪化し値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を若⼲上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐1.03%の下落となり、参考指数の同0.51%の上昇を1.54%下回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄は三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京海上ホールディングスなどでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、リクルートホールディングス、ソシオネクストなどでした。
 当⽉は、当ファンドが現在の⽇本経済の状況についてどのように考えているかをご説明します。
 1989年のバブル崩壊以降、⽇本は⻑い間デフレに苦しみました。これまでの経験から、デフレやそれに伴う超低⾦利・マイナス⾦利環境は様々な弊害を⽣み出すことがわかっています。まず、モノやサービスの価格が下がり続けると、消費者は更なる価格下落を期待して購⼊を控えてしまいます。消費者が購⼊を控えれば企業収益は悪化しますので、労働者の賃⾦は上がらず、それが消費⾏動のさらなる抑制につながり、悪循環となります。
 また超低⾦利環境では、消費者による住宅や⾞の購⼊といった⾼額品消費が後押しされるものの、企業において採算性の乏しい投資計画が実⾏されたり、競争⼒のない企業(いわゆるゾンビ企業)が存続することで、経済システムにおける資本の最適配分がうまく機能しなくなります。企業淘汰が進まなければ、不⽑な価格競争がいつまでも終わらず、デフレの⻑期化につながってしまいます。
 これらを考えると、近年国内でインフレの兆候や⾦利上昇観測が出てきたことは、⽇本経済にとってプラス条件が揃ってきたと⾔えます。
 ここではっきりと「プラスである」とまだ⾔い切れないのは、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるからです。良いインフレとは、適度なインフレが定着し、⺠間消費が刺激されることで好循環が⽣まれることです。これに対し、悪いインフレとは、物価⾼が⼈々の⽣活を苦しめてしまう、いわゆるスタグフレーションです。最近の状況を⾒る限り、今の⽇本はこのどちらになるかの岐路に⽴たされていると考えます。
 物価⾼で景気が悪くなれば、デフレに逆戻りするという意⾒もありますが、当ファンドでは⽇本でも想定外にインフレが⾼⽌まりする可能性があると考えています。⽇本の消費がいくら弱くなっても、海外のインフレ要因が、⽇本に波及することが明らかになっているためです。例えば、⽶国でインフレの⾼まりによって⾦利が上昇すると、ドル⾼をもたらします。これが⽇本において輸⼊物価の⾼騰を通じたインフレを引き起こしているのは昨年来、周知の事実です。
 以下に挙げるように、昨今の世界的なインフレには構造的要因が多くあります。

  • 半導体産業に象徴されるように⽶中の貿易摩擦によって、過去20年以上続いたグローバリゼーション(技術の⾰新によって物事が地球規模で進⾏すること)が転換期を迎えました。経済規模で世界1位の⽶国と同2位の中国の分断が進むことで、企業は世界的なサプライチェーンを分散して構築することを余儀なくされています。また、ウクライナ紛争をきっかけとした脱ロシアの動きもこれに拍⾞をかけています。これらは企業にとってビジネスを展開するコストが嵩むことを意味します。
  • 2008年の世界⾦融危機以降、天然資源開発が低⽔準に留まっていることで、資源価格が⾼⽌まりし、原材料コストやエネルギーコストが増加しています。かつては燃料価格が⾼騰すれば、油⽥の新規開発が進み、供給増・価格下落が誘発されました。しかし世界的な脱炭素化によって、従来のように価格上昇がストレートに供給増に結び付かず、当⾯は⾼価格が常態化する可能性(※1)があります。
  • ⼈⼿不⾜が深刻になっています(※2)。⽶国では、労働⼈⼝の⾼齢化により働き⼿がピークアウトしていること、移⺠政策が厳しくなったため、新たな労働⼒の流⼊が細っていること、⼈々のライフスタイルの変化に伴い、早期退職を選ぶ労働者が増えたことなどがみられます。⽇本では過去10年、⼈⼝減少による労働⼒縮⼩を⼥性の就業率増加や⾼齢者の再雇⽤が補ってきましたが、これが近年頭打ちになってきていること、また外国⼈労働者の流⼊も⽇本の労働⼈⼝全体に⽐べると⼩規模に留まっていることなどが労働⼒供給の減少・⼈件費上昇の原因になっています。
  • ESG投資はもはや世界的なトレンドです。企業が環境⾯で⾃社が与えるインパクトをモニタリングし、規制対応するための⼈件費や設備投資額などが増加しています。これも企業がビジネスを営むために必要な経費の増加と⾔えます。

※1,2:当ファンドでは三菱商事やリクルートホールディングスなどが恩恵を受ける企業と考えます

 これらはいずれも、最終的に消費者に価格転嫁されることで消費者物価の上昇をもたらすものです。
 さて、⽇本がスタグフレーションに陥らず、「良いインフレ」を実現するには何が必要でしょうか。まず、インフレ圧⼒があるなか、過去2年で⽇本⼈がモノやサービスの値上げを受け⼊れ始めているというのは朗報です。東京⼤学の渡辺努教授が⾏っているアンケート調査によると、2021年8⽉実施時には⽇本の消費者6割近くが値上げされた商品の購⼊を避け、4割の⼈たちが値上げを受け⼊れる傾向がありました。2022年5⽉になるとこの⽐率が逆転し、6割近い消費者が値上げを受け⼊れる傾向にあることが明らかになっています。これはインフレ環境が⻑年⽇常となっている⽶国、英国やドイツとほぼ同じ⽔準です。
 ⼈々が物価上昇を予想し始めるなか、賃⾦伸び率がインフレ率を下回ってしまうと、所得が増えたという実感が湧きません。よって次に待ち望まれるのは、⻑年横ばいで推移してきた⽇本の実質賃⾦伸び率が、企業による持続的な賃上げを通じてプラスに転じることです。なぜなら、将来の所得の伸びがインフレ率を上回っていくという⾃信を⼈々が持てれば、消費意欲が刺激されるからです。
 本来賃⾦の伸びは、労働⽣産性の伸びによってもたらされるべきものです。別の⽅法として最も⼿っ取り早いのは、労働分配率を上げることですが、それでは企業の収益性は低下してしまいますし、ローンを組んでモノを買う⼈が借⾦を永遠に増やし続けられないように、家計債務の増加を伴う消費拡⼤にも危うさが伴います。⽇本のバブル崩壊時や、2008年⾦融危機時の世界経済にみられたように、過剰債務が⼤きな反動リスクにつながることは歴史が⽰している通りです。
 ⼀⽅、2021年の⽇本の労働⽣産性は経済協⼒開発機構(OECD)加盟国の中でも下位グループ(38か国中27位)、とりわけ主要先進7か国(G7)では最下位という結果に終わっています。
 ⽣産性が万年低迷しているということは改善余地も⼤きいということです。具体的に⽇本企業が取り組めることとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)の積極推進(※3)や、売上収益に必ずしも結びつかない過剰な顧客サービスや、不⽑なサービス残業などから決別すること、徹底した能⼒・成果主義の給与制度を導⼊することなどが挙げられます。
※3:当ファンドでは⽇⽴製作所が関連銘柄といえます

 これらのうち、能⼒・成果主義型の給与制度の拡充は、従業員や経営陣のモチベーション向上を通じて労働⽣産性改善に貢献します。残念ながら、この⾯において⽇本企業は海外に⽐べて⼤幅に遅れていると⾔わざるを得ません。例えば、⼤企業の役員報酬のあり⽅は、経営陣の意欲を削ぐような構造のままです。⽇本経済新聞によると、2022年の⽇本の⼤企業の経営トップの報酬⽔準は英国の約4分の1、⽶国の13分の1以下に留まります。
 このような格差には合理的な理由が⾒当たりません。さらに憂慮されるのは、同⼀の⽇系企業内でも、外国籍の取締役と⽇本国籍の取締役との間で報酬に⼤きな差がつけられているケースが散⾒されることです(※4)。当ファンドは、格差を是正しより公平な報酬制度が確⽴されるべきとの⽴場です。
※4:当ファンドの組⼊銘柄のなかでは、セブン&アイ・ホールディングスなどにこの傾向が認められます

 労働⽣産性改善に寄与するのは、少ない労⼒でどれだけの⽣産量を⽣み出せるかという物的労働⽣産性(⽣産量/単位当たり労働)が重要視されがちですが、付加価値額をベースとした労働⽣産性の改善も重要です(付加価値額/単位当たり労働)。
 この指標は、物量ではなく⾦額に着⽬したもので、適正な値付けによる利幅を確保することで改善されます。⽇本のモノやサービスの値段は国際的にみて、かなりの低⽔準にあります。つまり⽇本企業はより能動的に価格戦略を⾒直し、商品価値に⾒合った値上げを進める必要があるのです。これが実現できれば、企業の賃上げ余地が⽣まれ新たな消費需要を⽣みだすという好循環が出来上がるはずです。これが「良いインフレ」です。
 加えて、良いインフレを⽣み出すための労働⽣産性改善や能⼒・成果主義型の給与制度導⼊などは東証が要請している「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正」の⾯でも効果を発揮すると考えます。労働⽣産性の改善と資本収益性の向上は表裏⼀体の関係にあるからです。
 PBR1倍割れの最⼤の問題は株価が企業の理論上の解散価値を下回っているということです。多くの場合、株主から預かっている資本に対して経営者が株式資本コストを上回る⼗分なリターンを⽣み出せていない、即ちROE(株主資本利益率)を代表とする資本収益性が低すぎるということを意味します。PBRはPER(株価収益率)とROEの掛け算で求められるので、上場企業である以上、経営陣がROEを⾼める努⼒をするのは責務であると考えます(※5)。
※5:当ファンドのなかでは三菱UFGフィナンシャル・グループ、東京海上ホールディングスなどの損保会社が⾼い⽬的意識をもって取り組んでいます

 ⽇本ではつい最近まで資本収益性の意識が希薄でした。これは⽇本株が⻑年低迷した要因でもあります。しかしここに来て、2015年頃からアベノミクス下で始まったコーポレートガバナンス改⾰をきっかけに、ようやく企業の意識変化が芽⽣えてきたように思います。具体的には、経営層レベルにおいて、利益の絶対額を増やすだけでなく資本効率性を上げることの重要性がようやく認識されるようになってきました。これは近年、企業のIR資料やアニュアルレポートなどで、ROEやROIC(投下資本利益率)などの経営指標が頻繁に登場するようになった(※6)ことからもみてとれます。2023年3⽉の東証による要請以降は、⾃社の株価がPBR1倍割れであることが、経営者にとって「恥ずかしい」という雰囲気すらでてきているように感じます。
※6:⽇⽴製作所やソニーグループなどが挙げられます

 PBR1倍割れを脱するために、企業経営者は資本収益性の概念を従業員にも浸透させなくてはなりません。組織の全員がしっかりと理解することで初めて成果がでるためです。当ファンドの企業調査でも、全社で資本収益性を重視している企業ほど、ROEが⾼く、且つ株式市場において⾼く評価されていることが分かっています(※7)。そのためにも、売上や利益⽬標だけでなく、ROICなどの指標も⼈事評価体系に連動させ、定量的成果に応じて従業員に報いていく必要があると考えます。
※7:キーエンスが良い例です

 当ファンドは⽇本企業の能動的な変化が良いインフレをもたらし、株式市場を活性化させるとのスタンスです。そのため、引き続き株主として魅⼒的と考えられるビジネスへの投資を継続してまいります。

2023年8月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年8⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.43%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⼤⼿格付け会社フィッチ・レーティングス社(⽶国)による⽶国債の格下げを背景とした⽶国株安の流れを受け、下落から始まりました。⽉半ばは、中国の軟調な経済指標(消費者物価指数など)や、中国不動産開発⼤⼿の⽶国破産法の申請が嫌気され、下げ幅を広げました。⽉後半は、中国の追加利下げが好感されたほか、ジャクソンホール会議においてさらなる利上げへの懸念が後退したことで値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐0.08%の下落となり、参考指数の同0.43%の上昇を0.51%下回りました。
 当⽉のプラス貢献銘柄はロート製薬、⽇⽴製作所などでした。⼀⽅、マイナス影響銘柄は、ソニーグループ、オリンパスなどでした。
 当ファンドでは、⽇本のメガ損保グループ3社全てに投資をしています。そこで、投資理由を改めて説明する前に、最近マスコミを賑わせている1)企業向け⽕災保険(共同保険(複数の損害保険会社が共同して1つの保険契約を引き受ける⽅式))の価格調整疑惑と、2)㈱ビッグモーターの保険不正請求問題について当ファンドの考えを簡単に述べようと思います。
 1)については、そもそも企業向け⽕災保険は業界全体で⾚字が続いており、近年は保険料値上げで採算改善に努めているという事実があります。談合によって共同保険の価格を吊り上げ、⼤きな利益を⽣み出していれば話は別ですが、⾚字解消という経営課題を踏まえると、本件によって収益改善努⼒がストップすることはないと考えます。保険ビジネスは、加⼊者が単独では負担しきれない損害リスクを、保険事業者が不特定多数の顧客の保険料を貯めておくことで、いざというときに経済的な補償をする役割を担っています。もし会社が⿊字体質へ転換できなければ、損保業界全体のリスク引き受け能⼒の低下につながり、保険ビジネスがもつ社会的な存在意義が損なわれてしまいます。当ファンドでは⽕災保険料値上げの流れは⼤きく崩れないと考えています。
 2)については、損保会社が㈱ビッグモーターと共謀して組織的な悪事を働いていたという可能性は低いと思われます。また、この問題が間接的に⾃動⾞保険全体の保険料を不当に吊り上げていたという疑念については、不正対象となった⾞両数が僅少であると考えられることから杞憂に終わるとみています。
 前述の件を受けて、損保会社の代理店に対するガバナンスや、疑惑発覚後の対応ぶり、および社内ガバナンス体制全般の不備を問う声が多いのは事実です。しかし、今後はより⼀層のガバナンス強化を進めるきっかけになればポジティブに捉えることができます。⼀時的な損保会社のイメージ低下はあるかも知れませんが、業績が⼤きく揺らぐことはないと考えます。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒①:銀⾏業、資産運⽤会社との⽐較

 当ファンドでは保険業を魅⼒的なビジネスとして捉えています。損保事業の本質はリスクの引き受けです。保険会社は保険料を受け取る対価として、⾃動⾞事故や⽕災が起きたときに修理代などの損害費⽤を保険契約者に代わって負担します。契約時に保険料を受け取ってから、保険⾦を⽀払うまでの間、保険会社は保険料を運⽤することで収益を獲得します。また損害が発⽣しなかった場合や、実際に⽀払われる保険⾦が受け取った保険料を下回った場合、その差額は(事業経費を控除したうえで)保険会社の利益となります。このように保険業の収益源は主に運⽤収益と引受収益から成っています。
 広義の⾦融業には保険業の以外に、銀⾏業、資産運⽤業がありますが、いずれも外部資⾦を活⽤して収益をあげるビジネスモデルです。しかし、それぞれは異なる特徴をもっています。例えば銀⾏は、預⾦を集め、それを貸し出しにまわすことで利ざやを得ています。預⾦元本は預⾦者に帰属するので、銀⾏からみると預⾦を「借りている」ことになります。預⾦者に⽀払う利息は銀⾏業の「資⾦調達コスト」です。⼀⽅、保険会社は払い出す保険⾦が、受け取った保険料よりも多ければ、その差額が「資⾦調達コスト」に相当します。保険引受事業が⿊字なら、それは資⾦調達コストがかかっていないどころか、「お⾦をもらって」保険契約者から資⾦調達していることになります。つまり銀⾏業と⽐較すると、⿊字の引受事業を持つ保険会社のほうが魅⼒的だと考えます。
 資産運⽤会社は顧客から資⾦を預かり、運⽤サービスの対価として⼿数料をもらうという意味では⿊字の保険引受事業と似ています。しかし、資産運⽤会社が⽣み出す運⽤益は顧客に帰属するので、運⽤で獲得したリターンが保険会社のものになるのと⼤きく異なります。この点も、保険会社のほうが魅⼒的と考えます。即ち、保険引受において⿊字計上をし、運⽤⾯で⾼いリターンを獲得できる保険会社は「いいビジネス」なのです。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒②:⽣保ビジネスとの⽐較

 損保ビジネスと⽣保ビジネスの違いについてはどうでしょうか。⽣保ビジネスの魅⼒としては、引受事業から⽣み出される利益が損保に⽐べて安定している点が挙げられます。この利益の源泉は、⽣命保険料を算出する際に使⽤される想定死亡率と実際の死亡率の差分から発⽣するもので、損保ビジネスの損害発⽣率に⽐べて変動は⼩さく、また⼀般的に⽣命保険は契約期間が数⼗年に及び、想定される保険⾦額は契約当初に固定されているため、インフレが進んだ場合でも保険会社の負担が増すことはありません。これに対して、損害保険はインフレによる⾃動⾞修理コストの上昇などが⽀払保険⾦を押し上げてしまいます。
 ⼀⽅、⽣保ビジネスの難点としては⻑期⾦利が低迷している事業環境では⾼い資本収益性を享受しにくい点が挙げられます。この点、損害保険は保険契約期間が短期であるため、⾦利上昇局⾯では早いタイミングで運⽤収益の改善を⾒込めます。また後述するように、損保ビジネスは海外展開によって事業リスクの低減が図れるため、ひいては株式リスクプレミアムの低下が⾒込まれるというのも、当ファンドが⽣保ビジネスよりも損保ビジネスを選好する理由です。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒③:銀⾏、⽣保会社よりも海外展開するメリットが⼤きい

 ⽇本では⼈⼝減少が続いていることから、銀⾏、損保会社、⽣保会社各社とも海外進出に積極的です。なかでも損保会社はビジネスの特性上、海外展開が⾮常に理にかなっていると考えます。
 ⽇本の損保会社の国内引受事業は⾃動⾞保険と⽕災保険が⼤半を占めており、⾃然災害リスクは台⾵や地震に集中しています。ところが、海外は必ずしもこのような国ばかりではありません。特に世界最⼤市場の⽶国は保険分野も多岐にわたっており、⾃然災害向け保険だけでなく、D&O保険(役員等賠償責任保険)や、労働者災害補償保険、団体医療保険、サイバー保険などの特殊保険市場も⼤きく、⽇本の損保会社が現地進出や現地企業を買収することで引受リスクの分散が可能となります。株式投資の観点からいうと、ビジネスリスク分散・低減によって、株式リスクプレミアムの縮⼩が⾒込めるので、理論上は株価上昇要因になるのです。
 これに対して、⽇本のメガバンクも⽶国やアジアなどに注⼒していますが、貸出業務に⼤きな影響を与える⾦利動向はグローバルで連動する傾向があります。例えば、⽶国でインフレの⾼まりによって⾦利が上昇すると、ドル⾼をもたらします。これが他国において輸⼊物価の⾼騰を通じたインフレを引き起こすので、現地の⾦利にも上昇圧⼒がかかります。つまり海外展開をしても⾦利リスクの分散にはあまり寄与しないということです。
 また⽣保ビジネスの場合は、最初から不特定多数の個⼈との契約が多いので、⾃国市場だけで⼗分なリスク分散が図れます。海外進出しても、想定死亡率は⽇本とあまり変わらないのでリスク分散にはなりません。
 このように銀⾏も⽣保会社も、規模拡⼤を⽬的とした海外展開には意味がありますが、事業リスクの分散には損保ほどのメリットは享受できないと考えます。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒④:世界的にみても珍しい競争優位性がある

 次に、なぜ⽇本の損保会社がグローバルのなかで稀有なポジションにあるのかについて説明します。2022年6⽉の⽉次報告書でご説明したように、⽇本の損保業界がもつ競争優位性として、
1)寡占状態にある国内市場で⽣み出される⾼い収益性と潤沢な利益
2)未だ多額な含み益を持つ政策保有株の存在
の2点が挙げられます。
 前者については、1990年代の⾦融ビッグバン以降の保険⾃由化によって再編が進み、今⽇の国内損保業界は東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングスの3グループにほぼ集約され、この3社の市場シェアは合計で9割ほどを占めています。世界の主要地域において、これほど寡占化が進んでいる損保業界はありません。例えば⽶国では2020年時点で⾃動⾞保険だけで50社以上存在し、最⼤⼿のState Farm社でも16%の市場シェアしかありません。このため競合環境も激しいと⾔われています。
 後者については、1960年代に企業向け保険ビジネスにおける顧客関係構築・維持を⽬的に購⼊された政策保有株は、2023年3⽉末時点で各社とも時価ベースでおよそ1.2〜2.4兆円程あります。今⽇において、政策保有株は⾮効率な⾦融資産としてみなされていることから、各社において毎年数百〜数千億円程度売却され資⾦化しており、それが戦略的に活⽤されています。海外損保業界ではこのような豊富な含み資産を持つ事例はみられません。

投資対象としての損保ビジネスの魅⼒⑤:模範的なキャピタルアロケーションを実践している

 当ファンドではメガ損保グループ3社とも、お⼿本となるようなキャピタルアロケーションを実践しているという意味で、経営陣は優れていると考えます。即ち、各社とも国内の潤沢な利益と政策保有株の売却資⾦を、株主価値の増⼤のため様々な⽅法で活⽤しているということです。
 その⼀つが海外M&Aです。例えば東京海上ホールディングスは過去20年近くにわたって、海外保険事業を拡⼤してきたという経緯があります。特に2008年以降、企業買収を積極化しており、2023年3⽉期実績では利益構成割合の42%が海外事業によってもたらされています。
 良いM&A候補が⾒つからない場合、株主還元を積極的に⾏っています。株価が割安な状況下で⾏われる持続的な⾃社株買いや増配は株主にとって重要と考えます。⾃社株買いでは株価が割安であるほどより多くの株を買い⼊れることができ、結果として株主に帰属する⼀株当たり利益が多くなります。とりわけMS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスの場合は、株価が純資産価値1倍を割れている、いわゆる「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄」なので、⾃社株買いをすればするほど⼀株当たり純資産額が増えていきます。つまり、株価⽔準が変わらなければ、割安感がどんどん強まっていくことを意味します。また別の観点からみると、経営陣は株主還元を通じて不要な株主資本の増加を抑え、ROE(株主資本利益率)を⾼めることができる⽴場にあるとも⾔えます。

株価のバリュエーション

 最後に損保各社の株価バリュエーションについてコメントします。
 東京海上ホールディングスの2023年度通期予想は修正純利益6,700億円、修正純資産は同39,260億円となっており、⽬下計画通りに進捗しています。⽇本の損保会社が使っている修正純利益とは、異常危険準備⾦、価格変動準備⾦などを⾜し戻した利益数値であり、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、IFRS)採⽤の海外損保会社と⽐較するうえで妥当な利益概念です。これを前提とすると、現在の株価バリュエーションは今期予想PER約12倍、PBR約1.6倍、予想配当利回り約3.7%です。同社は過去10年でChubb社(スイス)、Allianz社(ドイツ)、AXA社(フランス)などを凌ぐ成⻑を遂げており、修正ROEは17%に近づこうとしています。利益規模と収益性でグローバルトップクラスの損害保険会社になる可能性を秘めていることを鑑みれば、魅⼒的といえるのではないでしょうか。
 MS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスはともに「PBR1倍割れ」銘柄ですが、両社とも過去7年の株価の伸びが、⼀株当たり修正純利益の伸びを下回っており、⼗分に評価されているとは⾔えないと考えています。例えば、MS&ADインシュアランスグループホールディングスの2017年3⽉期実績から2024年3⽉期会社計画までの⼀株当たり修正純利益の累計成⻑率は約82%増加していますが、株価は同期間で約44%しか上昇していません。SOMPOホールディングスは、同期間の⼀株当たり修正純利益が81%増加しているのに対して同株価は約52%の上昇に留まっています※。予想PERはMS&ADインシュアランスホールディングスで9.5倍、SOMPOホールディングスで9.2倍と東証平均を⼤きく下回り、かつ予想配当利回りは両社とも4〜5%程度と同平均を⼤幅に上回っており、割安感が際⽴っていると当ファンドでは考えます。
 3社とも業績拡⼤に伴う株価上昇(持続可能な年平均利益成⻑率5〜7%)に加え、⾃社株買いによる⼀株当たり利益増効果(年平均1〜2%)と、配当利回り(年平均4〜5%)を合計すれば、株主の期待リターンが10%以上となる計算になると当ファンドでは考えており、投資対象として魅⼒的です。
 また割安なPER⽔準の切り上がりにも期待が持てます。とりわけ今年4⽉にウォーレン・バフェット⽒が来⽇し、彼の投資先である総合商社株に対してポジティブな⾒⽅を披露したことをきっかけに同セクターのバリュエーションが軒並み上昇したことは記憶に新しいです。このようなPER拡⼤の可能性があることも損保会社に投資する楽しみのひとつであると当ファンドでは考えます。

※MS&ADインシュアランスホールディングス、SOMPOホールディングスともに2017年3⽉期決算説明資料もしくは統合レポート掲載の修正純利益と発⾏済株数を使⽤。2024年3⽉期修正純利益は会社予想、発⾏済株数は2023年3⽉末現在で⾃⼰株を除いたものを使⽤。株価は2017年3⽉末の株価と2023年8⽉末現在の株価を使用

2023年7月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.49%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨にて年内2回以上の利上げが示唆されたことや、米国の雇用統計の結果を受け、利上げ継続への懸念が強まり下落して始まりました。一方で月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、利上げ停止が近いとの期待から堅調に推移しました。月後半は、日銀によるYCC(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化が発表され、一時的に値動きの激しい展開となりましたが、現行の緩和姿勢を維持するとの受け止めから市場に安心感が広がり、最終的に期初を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比0.52%の上昇となり、参考指数の同1.49%の上昇を0.97%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は日立製作所、三菱商事などでした。一方、マイナス影響銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。
 当ファンドの組入銘柄であるファーストリテイリングが当月2023年8月期第3四半期決算を発表しました。同決算によると、9か月累計の売上は前年同期比約21%増、営業利益は同約22%増と好調が続いています。
 同社は、ユニクロブランドを展開し、ベーシックアイテム中心に手ごろな価格で高品質な衣料を製造販売するだけでなく、「ヒートテック」や「エアリズム」といった機能性を前面に出した商品戦略も特徴のひとつです。前月の月次報告書ではセブン&アイ・ホールディングスの株価バリュエーションの割安さについてコメントをしましたが、ファーストリテイリングの株価は同社に比べるとPER(株価収益率)の面などでは割高です。
 セブン&アイ・ホールディングスに比べてファーストリテイリングの株価が市場で高く評価されているのは、経営陣による実行力の違いにあると思われます。両社とも日本発のグローバル小売業ですが、ファーストリテイリングのほうが売上および利益成長率やROE(株主資本利益率)などの資本収益性の面で大きく上回っているからです。
 ただ、目先のバリュエーションが高くても、長期的な成長ポテンシャルを勘案すれば投資魅力があると言えます。例えば、グローバル優良成長株への長期投資を得意とする運用会社Fundsmith社(英国)が行った分析によると、グローバル化粧品メーカーL'Oreal社(フランス)の株式に、1973年1月に当時の一株当たり利益の281倍に相当する株価で投資したとしても、2019年9月30日までの長期リターンは年率7%と同期間のMSCIワールド・インデックス指数をアウトパフォームしたことが検証されています。つまり、長期展望の明るいビジネスであれば短期的に割高にみえる株式でも魅力的な投資対象になりえると考えます。
 ファーストリテイリングの業績を着実に拡大させているのは海外ユニクロ事業です。わずか15年ほど前には国内事業の10分の1程度の規模しかありませんでしたが、2023年8月期第3四半期では9か月累計海外ユニクロ事業売上が同国内売上を50%以上上回っており、営業利益では海外が国内の2倍弱の規模に成長しています。
 同社は2027年8月期までに欧州事業で売上5,000億円、北米事業で売上3,000億円を目標値として掲げています。これまでの10年間は主に中国の売上成長が海外の牽引役でしたが、近年は同社が打ち出している「LifeWear(究極の普段着)」コンセプトが欧米において浸透していることに経営陣が手ごたえを感じているためです。全世界においてプレゼンスを築きつつある同社は衣料品ブランドのグローバル企業として評価が益々相応しいと考えます。
 同社の潜在的なグローバル売上拡大余地はどれくらいあるのでしょうか。よくあるアプローチとして、対象市場の何%シェアをとれるかという考え方があります。しかし、顧客ニーズが細分化され、嗜好も多岐にわたる業界は妥当な市場シェアを仮定するのが難しいと思われます。例えば、ハンバーガーチェーン店は外食産業に属していますが、人々が1日3食、365日ハンバーガーを食べ続けることはありえないため、業界全体が潜在市場になることはまずありえません。よって「市場シェアが僅か数%だから膨大なシェア拡大余地がある」という議論には説得力に欠けてしまいます。衣料品も同じだと考えられます。例えば、世界中の消費者が冬物衣料を1年中着ることはありませんので、衣料品市場全体に対する市場シェアの多寡を議論するのはあまり意味をなさないでしょう。
 当ファンドでは、海外で先行している同業他社の売上を参考にしており、具体的にはNIKE社(米国)やZARA(ザラ)ブランドを展開しているInditex社(スペイン)などとの比較を行っています。理由は、近年athleisure(athletic(アスレチック)+leisure(レジャー)からの造語、普段着として着る運動着、またはそのスタイルのこと)トレンドによってスポーツアパレルを普段着として着る人が増えているため、ユニクロブランドとNIKEブランドの対象市場が重なってきていること、またベーシックデザインが中心であるユニクロはファッション性を取り入れた製品にも注力しているため、ZARAブランドとターゲット層が被っていると考えられるためです。
 NIKE社、Inditex社、ファーストリテイリング各社の自国・自地域市場における売上規模と人口から当ファンドが算出した一消費者当たりの売上高は各社とも同水準になることから、自国・自地域市場における各社の浸透度合いはほぼ同程度であると考えています。
 一方、アウェイともいえる海外市場はどうでしょう。例えばNIKE社の直近の地域別売上高は、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)は約134億米ドル、グレーターチャイナ(大中華圏)が約72億米ドル、アジア太平洋・ラテンアメリカが約64億米ドルです。Inditex社の直近の地域別売上高は南北アメリカが約71億米ドル、アジアおよびその他地域が約64億米ドルです。また規模がやや劣るAdidas社(ドイツ)の北米セグメント売上高は約70億米ドル、H&MブランドのHennes&Mauritz社(スウェーデン)の南北アメリカセグメント売上高は約47億米ドルとなっています。地域別売上高を比較してみると、各社とも主要欧米地域で1兆円程度、まだ購買力の低いアジアや南米などのその他地域でも5,000億円を超える売上規模を誇っていることがわかります。つまりファーストリテイリングが目指している欧州5,000億円、北米3,000億円という売上目標はさほど高いハードルではないように感じられるのです。
 ファーストリテイリングの過去5年平均ROEは約17%と、NIKE社の同約41%やInditex社の同約21%に対して見劣りしますが、日本企業の平均は大幅に上回っているという意味で優良企業であると言えます。また、過去5年平均粗利率は約50%と、NIKE社の約44%やInditex社の約56%の中間に位置しており、Adidas社やHennes&Mauritz社などと比べても同水準であることから、今後グローバル勢に対して資本収益性の面で劣らないポテンシャルは十分にあると考えます。また、同社の売上、利益規模はNIKE社やInditex社に比べてまだ半分以下であり、伸びしろは大きく、時価総額の拡大にも期待したいところです。

2023年6月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比7.55%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半は米連邦債務の上限停止による米国株高の流れを受け、大幅に上昇いたしました。月半ばには、FRB(連邦準備制度理事会)による追加利上げの示唆を受けた軟調な米国株の影響や、衆院解散への期待剥落が嫌気された一方、日銀の金融緩和の維持、米著名投資家の日本株追加投資の発表が好感され、一進一退の動きで推移しました。月後半は、株価上昇の反発と見られる下落の局面もありましたが、米景気悪化懸念の後退と円安進行が下支えをし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比8.04%の上昇となり、参考指数の同7.55%の上昇を0.49%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は三菱商事、日立製作所などでした。一方、マイナス影響銘柄は、ソニーグループ、ミスミグループ本社などでした。

 5月下旬に当ファンドの組入銘柄の1社において、経営陣と米国アクティビストファンドによるプロキシーファイト(委任状争奪戦)が繰り広げられました。同アクティビストファンドは経営陣と友好的な関係を築くことで有名ですが、会社側の理解が得られず株主総会で票を争うことになり、株式市場でも注目を集めました。
 標的となったのは「セブン&アイ・ホールディングス」です。アクティビストの中でも穏健派であるValueAct Capital社(米国、以下「ValueAct社」)は今回、グループ全体の収益性改善が遅々として進んでいないとして、現社長を含む取締役4名の入れ替えを求めました。ValueAct社はセブン&アイ・ホールディングスの発行済株式数2%近くを保有する大株主の1社です。
 当ファンドでは、日本人なら誰もが知るコンビニエンスストアである「セブン-イレブン」を成長させてきた同社経営陣を高く評価しています。この点において、当ファンド投資哲学のひとつである「卓越した経営陣」に合致していますが、一方で改善余地が大きいのも事実だと考えています。以下、当ファンドが考える経営陣の改善余地を挙げてみます。

1)2005年に持株会社制に移行して以降、長らくスーパーストア事業が足を引っ張っており、リストラが遅いのは周知のとおりです。百貨店事業の売却も、当初予定から遅れが生じており、先行きの不透明感が漂っています。持株会社を発足した当初に謳われていたグループのシナジー効果ははっきりと認められないまま20年近くが過ぎようとしており、より迅速な取り組みが必要だと考えられます。

2)ValueAct社が4月2日にリリースした「Shareholder Questions for Seven & I Board of Directors」のなかには、全部で9つの株主質問が記載されています。しかし、同社はいまだ具体的な説明をしていません。なかでも同社が2020年に海外の小売企業から買収提案を受けたという話は当ファンドにとっても関心の高い出来事です。本件は報道記事がインターネット上から削除されているため真相ははっきりしていませんが、もし事実であるなら、当時の株主は高い株価で同社が買収されるチャンスについて賛否を表明する機会が与えられなかったことになります。経営陣は受託者責任(Fiduciary Duty)を怠った可能性があり、真偽について説明を行う必要があると考えます。

3)経営陣はイトーヨーカ堂のノウハウがコンビニエンスストア事業のフレッシュフード開発に欠かせないと強調しています。しかし、それだけの為に果たして多額の資本を投下して低採算の店舗資産(セグメント収益約14,000億円に対して約100億円の利益しか生み出していません)を維持する必要があるのか、システム投資や仕入をグループ共同で行うスケールメリットが重要であるなら、株主が納得する定量的な説明が求められます。

4)経営陣は4月18日にリリースしたValueAct社に反論するプレゼンテーション資料のなかで、Speedway社(米国)を買収したことによって、同社株のEV/EBITDAマルチプル(簡易買収倍率、買収にかかるコストを何年で回収できるかを⽰す値)が4.3倍から7.5倍に拡大したと主張し、あたかも株式市場からの評価が上がったかのような主張をしています。EV(Enterprise Value)は企業価値と呼ばれ、株式時価総額とネット有利子負債の合計であり、EBITDAは税引前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を加えて算出される利益を表します。当ファンドの見解では、マルチプル拡大は同社がSpeedway社の買収のために多額の借入金を調達したことで、分子であるEVが大きく増えたことに起因しています。つまり買収によってEBITDAは増えたものの、EV増加率が上回ったためにマルチプルが押し上げられたに過ぎないと考えます。むしろ同社に対する株式市場の評価を株価収益率(PER)でみると、2005~2019年度の平均20倍以上から、現在は実質13.8倍程度(のれん償却前当期利益を前提としたPER)へと切り下がっていると考えられます。

5)同社はこれまで発展途上国の経済成長に伴うコンビニ普及の恩恵を受けていません。現在、米国と日本を除くセブン-イレブンはアジアを中心に4万店舗以上ありますが、利益貢献はわずかしかないのです。これはアジアでの店舗運営の大半がマスターフランチャイズモデルではなく、ライセンス契約によって成り立っているためです。ライセンス契約では本社(フランチャイズオーナー)が店舗ブランドの利用権を付与しますが、店内レイアウトや運営面の詳細は現地エリアフランチャイジーの裁量に委ねられています。セブン&アイ・ホールディングスはフランチャイズオーナーとして限定的な関与しかしないため、わずかな収益しか得ていないのです。台湾(President Chain Store社)やタイ(CP All社)に上場しているエリアフランチャイジー企業がそれぞれ1.3兆円、2.3兆円程度の時価総額に育っていることを考えると、この機会損失は大変残念です。

6)このことを反省してか、同社は今般、米国・日本以外の地域における店舗網拡大に意欲を示しています。しかし2022年度決算説明資料では、手始めにベトナム市場でエリアフランチャイジーへの経営関与を深めることで、2028年度までに500店舗体制(2022年度実績79店舗)を築くという目標しか言及しておらず、やや迫力不足なのは否めません。元来、フランチャイズ型ビジネスモデルのメリットは、完成された店舗オペレーションと豊富な販売実績を持つ商品群、そして高い消費者認知度を武器に、少額投資で迅速に出店することを可能にするものです。米国のマクドナルド、バーガーキング、ケンタッキーフライドチキンなどはこの方式を駆使して、多数の国で同時並行してスピード感ある出店を行っています。ValueAct社のノウハウなどを活用して米国チェーン店に負けないような業容拡大を期待したいところです。

 以上のように課題・問題点はありますが、今後が期待できる部分も数多くあります。
 まず注目すべきは米国コンビニ事業です。同社開示資料によると、米国でのコンビニ総店舗数は2020年12月末時点で15万店程度ですが、Speedway社の買収によって同社は合計約1.3万店を抱える圧倒的なプレーヤー(市場シェア約10%)になりました。日本のコンビニ業界はセブン-イレブン、㈱ファミリーマート、㈱ローソンの3社で既に寡占状態にありますが、米国では上位10社でも占有率はまだ2割程度しかありません。米国コンビニ市場の潜在規模は非常に大きいと考えられるため、同社が市場シェアを引き上げることで多くの利益をもたらすことが考えられます。長期的にはEV(電気自動車)の普及に伴いコンビニに併設されているガソリンスタンド事業の先行きが懸念されますが、店舗におけるオリジナルのフレッシュフード商品やプライベートブランド商品の売上拡充により十分カバーできると考えられます。また米国における2022年のEVの新車販売割合は6.7%に留まり、ガソリン需要は当分の間なくならないでしょう。需要が構造的な減少トレンドに入ったとしても、新たなガソリン事業者の参入やガソリンスタンドの新規設置もみられないことから、同社のような業界大手は残存者メリットを享受することも見込まれます。そして、ガソリン事業が業界全体として衰退傾向になれば、ガソリンスタンド併設型コンビニエンスストア事業者の6割強を占める零細プレーヤーが立ち行かなくなり、身売りするオーナーが続出することが想定されます。同社にとってはそのような事業者を買収し、業界再編・コンビニ事業拡大を加速させる絶好のチャンスとなるでしょう。
 一方、国内コンビニ事業は成長の頭打ちが心配材料ですが、同社は絶え間ない既存店のレイアウト改善や、ネットコンビニ分野でのデリバリーサービスの拡充などに取り組んでいます。海外からの訪日客が回復すれば、同社売上にも寄与するでしょう。足元の円安は米国事業の拡大をもたらすだけでなく、訪日客増加を誘引するきっかけにもなると考えられます。さらに上述のように海外コンビニ事業拡大のアクセルを踏むことで、国内利益は相対的に小さくなっていくことが予想されるため、懸念も少しずつ和らぐと考えます。だからこそ、コンビニ事業に経営資源を集中し、今以上に海外出店ペースをあげていくことが望まれます。
 同社株価バリュエーションに話を移すと、現在の株価は割安な水準にあると考えます。例えば日本の会計基準を採用している同社では、Speedway社買収に伴うのれん償却費が年間1,000億円以上に上るため、通常EPS(1株当たり純利益)(同社2023年度予想322.68円)とのれん償却前EPS(同450.06円)の間には4割程度の開きがあります。のれん償却は現金支出を伴わない費用項目であることから当ファンドでは後者のEPSを使用すべきと考えており、実質的なPERは13.8倍程度と東証株価指数の平均を下回っています。
 EV/EBITDAでみるとどうでしょう。前述のとおり、買収による借入金が増えたことで、現在のEV/EBITDAは約8倍弱になりましたが、それでも同業他社で米国2番手プレーヤであるAlimentation Couche-Tard社(カナダ)と比較すると割安な水準にあります。なおセブン&アイ・ホールディングスは2023年2月期より在外子会社の会計基準を変更しており、オペレーティングリース債務はバランスシート上に負債計上されるようになりました。これに伴い、全額費用計上されていたオペレーティングリース料が、支払利息と減価償却にわけて損益計算書上に反映されることになり、2023年2月期実績EBITDAは新たに追加された減価償却費分の推定800億円程度が前年度に比べて「かさ上げ」されていると考えられます。しかし、このような会計要因を排除しても、同社が同業他社よりディスカウントされているのは変わらないと考えられます。
 フリーキャッシュフローでみた場合は、2022年度の営業キャッシュフローは9,284億円、投資活動に伴う支出は4,132億円、よってフリーキャッシュフローは5,152億円となり、フリーキャッシュフロー利回りは9.4%程度(フリーキャッシュフロー/時価総額)です。これは国内リスクフリーレートを大幅に上回る水準です。また仮に、営業キャッシュフローから㈱セブン銀行に関わる預金やコールマネーなどの資金流入を営業キャッシュフローから差し引いたとしても、フリーキャッシュフローは4,000億円を優に超えており、控えめにみても同社株価に割高感は認められないと考えます。なお、同社が開示している2025年度のフリーキャッシュフロー目標(除く金融)は5,000億円以上であり、十分に達成可能な水準と考えます。
 最後に、冒頭のプロキシーファイトは会社側の勝利で終わりましたが、取締役の再任議案に関しては昨年までの90%以上の賛成比率が今回は約65%~約76%まで低下しました。現経営陣は今回の件をきっかけに、株式市場から従来にも増して厳しい目で業績が評価されることになるでしょう。ValueAct社にしてみれば、プロキシーファイトで敗れはしたものの、一定の成果は残したと言えそうです。

2023年5月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.62%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に開催された米国FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受け、一時円高ドル安が進んだことで一進一退の動きで推移しました。月半ばには海外投資家による資金流入が続き、TOPIXと日経平均株価ともに約33年ぶりの高値を更新しました。東京証券取引所の市場改革への期待や、日銀の金融緩和継続姿勢もサポート材料となりました。一方で、月後半には中国の低調なPMI(製造業購買担当者景気指数)や、市場予想を下回る国内の4月の鉱工業生産指数の結果が懸念され、弱含みで推移しましたが、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比6.08%の上昇となり、参考指数の同3.62%の上昇を2.46%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は三菱商事、東京エレクトロンなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、オリンパス、ミスミグループ本社などでした。
 当月は東証株価指数(TOPIX)が約33年振りの高値となりました。世界景気の減速が懸念されるなか、日本株式が選好されている理由について考えてみたいと思います。

継続的なコーポレートガバナンス改革と株式市場改革:

 今年3月、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る上場企業に対し、東証が具体的な改善策を提示するように求めました。日本で前例のない今回の発表は、2014年から政府主導で進められている一連のコーポレートガバナンス改革、および東証が近年取り組んでいる株式市場の構造改革の流れを受け継ぐものと考えられます。ROE(株主資本利益率)は株主の持ち分である企業の純資産価値の増加スピードを示す重要な指標です。過少資本や一時的な要因によってROEが改善した場合を除けば、高いROEを持つ企業は株主にとって魅力的な投資先だと考えられることから、一般的にPBRとROEには正の相関関係があります。これまで日本の上場企業の多くは株主価値を積極的に創造するという視点に乏しく、ROEの低い企業は特に海外投資家から長年敬遠されてきました。アベノミクスの一環であるコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードの導入に伴い、日本の上場企業のROEは一定の改善を見せましたが、それでもなお上場企業全体の半分以上はROEが低位に留まり、PBRが1倍を下回っている状態が続いています。理論上の解散価値を下回っているのは、当該企業によって株主資本から生み出される利益水準が、投資家が求めるリターン(資本コスト)を満たしていないことの表れです。今回の東証の狙いは、PBRが1倍を下回っている上場企業の株価をROEの改善を通じて底上げすることにあると考えます。

継続的な日銀の金融緩和:

 日本の景気は欧米や中国に比べて底堅く推移すると当ファンドは見ています。要因のひとつとして挙げられるのは、日銀による量的緩和の継続です。これは前年来インフレを抑えるために利上げを行っている海外の中央銀行とは正反対の動きです。低金利の環境が続くことは景気にとってプラスであり、とりわけデフレに苦しんできた日本にとっては持続的なインフレ2%が達成されるまでは現状の金融政策を維持する必要があることを日銀は強調しています。

春闘における賃上げ:

 今年の春闘で大幅な賃上げが達成されたことも今後の日本の景気にポジティブです。デフレ環境下の消費者は、将来の値下がりを予想して消費を控えてしまう傾向があるため、企業収益の拡大に結び付きません。今回、賃上げ率が物価上昇率を上回ったことにより、実質賃金成長率がプラスに転じることが予想されます。物価上昇が生活を圧迫してしまう「悪いインフレ」とは異なり、財・サービスへの需要増加が引き起こす「良いインフレ」は、消費意欲をさらに刺激し、民間消費を盛り上げます。GDPの半分以上を占める民間消費が増えることは企業収益の拡大を意味し、さらなる賃上げが実施され、それが新たな消費に回るという好循環を生み出します。また、高齢者層は賃上げの恩恵こそ受けられませんが、日本株式を保有している個人投資家の約4割は70歳以上の高齢者層であり、昨今の株式市場上昇による資産効果が彼らの消費意欲を刺激することが期待されます。

訪日客需要:

 2022年10月に新型コロナウイルスの水際対策が緩和されたことによって、訪日客数が回復傾向にあることも好材料です。年間訪日客がおよそ3,000万人を超えた2019年の訪日客一人当たりの平均支出額は約16万円程度でした。当時のインバウンド関連経済効果が日本のGDP全体の1%弱に相当したことを考えると、今後の観光業および関連業界の復活が景気に与えるプラス影響は小さくないと考えます。さらに、過去3年で円安が進んだことにより日本の物価が海外に比べて相対的に安くなったことを受けて、訪日客がこれまで以上に支出を増やせば日本の経済成長にとってさらにプラスになると考えます。

緩やかな円安:

 インフレに対応すべく米国では利上げが続いていることで日米の金利差が拡大しています。これは米ドルに対する円安要因です。輸出企業が多い日本では円安は企業収益を増加させます。2022年のように急激に円安が進行すれば輸入物価の高騰など副作用が生じますが、緩やかな通貨の切り下がりであれば、むしろプラス要因が上回ると思われます。また輸出企業が潤えば、来年以降更なるベースアップが行いやすくなり、インフレ好循環の牽引役にもなると考えます。

バフェット氏の来日と日本の地政学的リスク:

 米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏が4月に日本を訪問したことで、海外投資家の日本株式を見る目が変わったことも追い風です。同氏はこれまで日本企業の資本収益性の低さを理由に投資をしてこなかったと推察されます。今回、バフェット氏は投資先である総合商社の魅力として世界で事業展開していること、株価が際立って割安であり、加えて自社株買いや増配などの株主還元が充実していることを指摘しました。世界中の投資家が尊敬する投資の賢者の見る目は確かだといっても差し支えないでしょう。また同氏は当月のBerkshire Hathaway社(米国)の株主総会で、株式投資の観点から日本が地政学的リスク面において安全であることを述べています。日本が国際関係上、西側諸国や中国などからみて中立的な立場にあることは日本企業が海外展開を進めるうえで有利となります。反対に、海外企業が日本を有望な事業投資先として位置付けていることも昨今のニュースから読み取れます。半導体メーカーであるMicron Technology社(米国)が広島県の工場などで最大5,000億円におよぶ生産拡張計画を発表したことや、Taiwan Semiconductor Manufacturing社(台湾)が日本国内で新たな半導体工場を建設していることなどが象徴的です。

考えられるリスク要因:

 日本株式の上昇相場が腰折れするリスクには何が考えられるでしょうか。
 日銀による拙速な利上げ判断は、日本経済の回復基調を弱めてしまい、デフレへ逆戻りさせてしまう可能性があります。また、より現実的なリスクシナリオとして、日銀が満を持して利上げ(金融政策の正常化)を行うタイミングと、米国が景気テコ入れのために利下げに転じるタイミングが重なった場合は、少なくとも短期的には急激に円高になることが考えられます。これは、国内輸出企業にとってはネガティブであり、ひいては国内景気に波及するかもしれません。春闘における持続的な賃上げの勢いもストップしてしまうことが懸念されます。さらには、金融史上前例のない量的緩和の出口政策についても、実行手順を誤れば日本経済に思わぬ弊害が生じるかもしれません。緩やかな円安は輸出企業の収益を拡大させるため、今の日本経済にとってはプラスですが、急激な円安進行は輸入物価高騰を通じた「悪いインフレ」を加速させます。2022年頃の1ドル150円の為替水準に再び戻れば、低所得者層を中心に生活が苦しくなることが予想され、インフレの好循環などとは言っていられないでしょう。
 今年の春闘に限らず、継続的な賃上げは日本がデフレを完全脱却するために欠かせませんが、これは容易なことではありません。終身雇用という考え方が過去のものに成りつつあるとはいえ、企業の報酬体系はまだ米国のような完全実力主義からは程遠い状況です。このため、一旦ベースアップを決断すれば、企業にとっては全従業員に対する人件費が一律で増加することを意味し、その負担は小さくありません。来年以降も賃上げを継続するには企業収益が持続的に成長していくことが必要不可欠と考えます。

現在の当ファンドのポジショニング:

 日本では株主にとって重要な指標であるROEの高い企業が少なく、ROEの低い上場企業は長らく市場から割安に放置されてきました。一方、当ファンドではROEの高い希少な成長企業としてソニーグループやファーストリテイリング、東京エレクトロン、キーエンス、ダイキン工業などの少数銘柄に投資をしています。また前年は「隠れた成長銘柄」として事業成長力だけでなく、株主還元についても非常に大きな余力を持つ企業への投資も増やしました。
 過小評価されがちですが、自社株買いや配当などの株主還元は重要な株式リターンの源泉です。例えば自社株買いによって毎年2%ずつ発行済株数を減らしている企業は、一株当たり利益の成長率がそれだけ上乗せになり、複利効果を考えれば10年後には自社株買いをしていないケースに比べて大きな差がつきます。また配当利回り4%の企業は、利益成長がみられない年においても4%のリターンが享受できます。そして重要なのは、これらの株主還元策は企業のROEを高めるうえで大切な働きをするということです。
 過去数年、日本企業に対してROEなどの資本収益性に関する意識改革を迫る動きが続いています。政府によるコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入に始まり、東証による市場改革、アクティビスト投資家や一般株主による株主価値向上の要求など日に日に高まっています。日本の株式市場の半分以上に及ぶROEの低い「劣等生」銘柄が上述のような株主還元や収益性改善を通じたROE向上に一斉に取り組めば、裾野の広い株式買いにつながるかもしれません。日本株式全体の評価が上がり、米国より大幅に低いPER(株価収益率)が改善され、ひいてはPBRが1倍以上となれば、日本株式市場全体の底上げとなるでしょう。一部の成長株が突出して評価されていたこれまでの日本株式相場に比べてスケールの大きいトレンドになると期待したいところです。
 当ファンドで考える「隠れた成長銘柄」とは、事業の成長性だけでなく、株価に対してインパクトの大きい自社株買いや増配を持続的に行うことが可能な銘柄群です。その一例として東京海上ホールディングスを筆頭とする損保会社を以前の月次報告書で紹介いたしました。事業利益の成長率、自社株買いによってもたらされる追加的な一株当たり利益成長、3%後半台の高水準の配当利回りを合計すれば10%を超える期待リターンとなり、当ファンドの他の成長銘柄と遜色ありません。そして日本の損保会社は寡占市場による潤沢な利益創出力と、多額の含み益を抱える政策保有株が長期的な株主価値創造を可能にするという意味で世界的にも稀有なポジションにあり、「魅力的なビジネス」といえます。また当ファンドの上位組入銘柄である三菱商事も世界展開余地が大きく、株主還元余力も豊富、かつバリュエーションが低水準に留まる魅力的な企業の代表格だと考えます。

2023年4月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に軟調な米国経済指標(ADP雇用統計、ISM非製造業景況感指数)が相次ぎ、景気後退懸念が高まったことから下落して始まりました。しかし月半ばには植田日銀総裁の金融緩和維持を支持する発言や、米著名投資家の日本株追加投資を巡る思惑から上昇に転じました。月後半は米地方銀行の巨額預金流出による警戒感から下落する局面もありましたが、日銀が金融緩和維持を決定したことで株式市場に安心感が広がり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比3.06%の上昇となり、参考指数の同2.70%の上昇を0.36%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄はソニーグループ、三菱商事などでした。一方、マイナス影響銘柄は、信越化学工業、キーエンスなどでした。
 当月は著名な投資家として知られる米国のウォーレン・バフェット氏が来日を果たし、日本株を有望な投資先として考えているということがニュースとなりました。
 2020年にバフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社が日本の5大総合商社の株に純投資目的で投資し、大株主となったことは周知の通りです。今回の来日でバフェット氏は、㈱日本経済新聞社や米CNBCの取材に対し、総合商社のビジネスがバークシャー・ハサウェイ社の投資事業に非常に似ているため理解しやすいと説明。「日本や世界で展開している」との評価も示しました。(2023年4月11日 日経新聞記事より)また彼の目には投資開始時の総合商社各社の株価が信じられないほど割安に映ったとも言っています。具体的には株式益利回りが14%(2023年4月12日 米CNBC取材記事より)もあり、且つ配当も大幅に増加したことが、総合商社株を購入する重要な決め手であったとのことです。
 当ファンドでは5大総合商社の1社である三菱商事を組み入れていますが、その理由として、しっかりとした利益の成長実績があり、今後の展望も明るく、なおかつバリュエーションが非常に割安であることを過去の月次報告書で説明してまいりました。
 さて、日本のメディアは次なる「バフェット銘柄」探しに躍起になっています。勿論、当の本人はどの株を買おうと考えているのかを明かすはずがありませんが、「商社以外の投資先、考えている会社は常に数社ある」と日本株の更なる投資を真剣に検討していることをほのめかしています。
 株式益利回りが高く、増配が続き、理解しやすく且つ世界で展開しているビジネスとしては、当ファンドで組み入れている日本のメガ損保グループが挙げられます。2022年6月の月次報告書でご説明したとおり、日本の損保ビジネスは魅力的なビジネスです。まず、国内の損保市場はメガ損保3社でシェア約9割という寡占市場だということです。これは長年の業界再編によってもたらされたものであり、損保各社は国内で潤沢な利益を上げています。値上げ力もあることから、昨今のインフレに対する抵抗力も備えていると考えます。また世界的にもユニークなのは、各社が豊富な含み益を持つ多額の政策保有株を有している点です。1960年代に保険事業における顧客関係の維持を目的に購入されたこれらの株は現在では非効率な金融資産としてみなされており、現在は毎年500億円から1,000億円強の規模で売却が行われ資金を手に入れています。これも日本のメガ損保独自の競争優位性と当ファンドでは考えています。
 国内の潤沢な利益と政策保有株の売却資金は株主価値の増大のために活用されています。その一つが海外M&Aです。例えば、東京海上ホールディングスは過去20年近くにわたって、海外保険事業を拡大してきたという経緯があります。特に2008年以降、企業買収を積極化しており、2022年度第3四半期実績では連結正味保険料収入の半分近くが海外事業によってもたらされています。これは事業規模の拡大だけでなく、日本特有の自然災害リスクと相関の低い海外保険事業を獲得することで保険引受リスクをグローバルで分散することも目的となっています。このような事業戦略は、ビジネスに安定をもたらし、ひいては株式リスクプレミアムの縮小につながるため株価にとってもポジティブです。
 魅力的なM&A候補が見つからない場合、損保各社は株主還元を積極的に行います。バフェット氏が「配当や自社株買いのために多くの資金を生み出している」と言っているように、当ファンドでも持続的な自社株買いや増配は株主にとって重要なポイントだと考えます。そして、株価が割安であることは、これら株主還元策にとって重要な意味を持ちます。自社株買いでは株価が割安であるほどより多くの株を買い入れることができ、結果として株主に帰属する一株当たり利益が多くなります。一株当たり配当金は、株価が安ければ安いほど、配当利回りが高くなります。
 バフェット氏が総合商社株を割安であったとして指摘した株式益利回りというのは、PER(株価収益率)の逆数のことです。現在の損保各社の株価は一桁台PER(2022年3月期修正純利益実績※ベース)です。即ち、株式益利回りは総合商社並みの10%越えの水準であることを意味し、割安と判断が可能です。配当利回りも3%台後半~4%台と、こちらも総合商社並みの数値となります。

※ 当期純利益に、保険ビジネス特有の異常危険準備金、危険準備金、価格変動準備金などの年度繰入額を足し戻した上、企業買収に伴って発生する無形固定資産の定期償却額やその他評価性引当金を足し戻すことで計算されるキャッシュフロー利益に近い概念。

2023年3月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の利上げ再加速の思惑を受けて米国株式市場が軟調に推移する中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した欧米金融不安の急拡大を受け、リスク回避姿勢が強まったことから大幅な下落に転じました。しかし月後半になると、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループ買収や米当局による預金保護などの対応で金融システムへの不安が和らぎ、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比2.18%の上昇となり、参考指数の同1.70%の上昇を0.48%上回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ロート製薬、信越化学工業などでした。一方、マイナス影響銘柄は、東京海上ホールディングス、オリックスなどでした。
 2022年12月の月次報告書でご説明したとおり、当ファンドでは昨年半ばごろから組入銘柄数が一時的に増加しましたが、2023年に入ってからは少しずつ絞り込みを進めています。その過程でいくつかの銘柄は短期的な保有に留まった一方、当ファンドの主要組入銘柄に至ったものもあります。例えば、東京海上ホールディングスやセブン&アイ・ホールディングスなどは上位保有になっています。当月末現在の保有銘柄数は25銘柄です。
 引き続き長期投資に耐えうるビジネスを展開すると判断した企業のなかで、以下の事由に合致するものが見出されれば、銘柄の入れ替えを行い、当ファンドの特徴である集中型ポートフォリオとして運用していく方針です。
 1.ポートフォリオの期待リターンを上回ると思われるビジネス
 2.ポートフォリオのリスク分散に寄与すると思われるビジネス

 さて、当ファンドでは銘柄数は少数ながら、「魅力的なビジネス」と考えられる資本財、日用品関連など様々な企業に投資を行っています。そのなかで、昨年来投資を開始した新たな業種として「半導体(東京エレクトロン、信越化学工業など)」と「金融(オリックス、東京海上ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループなど)」が挙げられます。これらの業種は以前の月次報告において過去に組み入れてこなかった理由を解説しましたが、昨今の外部環境の劇的な変化によって、明るい業績展望が描けるようになってきました。またバリュエーション面からみても魅力的であると判断しました。
 まず半導体については、シリコンサイクルと言われる需要増減が激しい業界であることに変わりはありませんが、昨今の米国と中国の同業界を巡る対立・競争激化に象徴されるように、多額の投資が政府主導で中長期的に行われるようになったことはポジティブといえます。例えば、半導体受託製造で世界最大手のTaiwan Semiconductor Manufacturing社(台湾)が、米国や熊本県において新たな工場を建設しているのは周知のとおりです。日本の半導体関連企業にはモノづくりの競争優位性をいかんなく発揮して業界をリードしているプレーヤーが多く、注目に値します。
 半導体産業が国際関係を左右するほどの影響力を持つのは何故でしょうか?一言でいうと半導体が一国の経済発展にとって過去も未来もとてつもなく重要なものだと考えられるためです。これまで私どもの生活を劇的に便利にしたパソコンや携帯電話だけでなく、自動車や家電製品などの高度化や、今後はデーターセンターやAIなどの分野で膨大な半導体が必要とされます。例えば、自動車一台当たりの半導体平均収益を見ると、電気自動車はガソリン車に比べて2倍以上と言われています。また携帯電話も通信システムが4Gから5G、そして6Gに切り替わっていくことでも、一台当たりの半導体搭載金額が増えていきます。景気変動によって需要の振れ幅は大きくても、これほど数量が大幅に伸びることが確実視される業界は他にあまりなく成長株投資にとっては無視できない分野と考えます。とりわけ日本には世界有数の業界リーダーが存在します。半導体産業の技術発展とともに成長してきたこれらの企業には長期のトラックレコードがあり、利益率・資本収益性・キャッシュフロー創出力の面で当ファンドの投資基準に合致している企業が少なくありません。そして何よりも、昨年の半導体関連銘柄の株価下落によって、当ファンドの既保有銘柄に比べて投資妙味が増してきたと判断したことも投資を開始した大きな理由です。
 金融分野についても、当ファンドでは日本の金融業は成長性が低いと判断しこれまで投資を見送ってきましたが、40年振りともいえる国内の物価高現象をきっかけに、本格的な金利上昇の兆しがみえてきたことは大きな変化だと考えます。マイナス金利が続いてきた日本ではむしろ金利環境が「正常化に向かう」というほうが正しいかもしれません。即ち今までが「異常」であって、「正常」な状況に戻ることを前提として組入銘柄を選択することは妥当なことと言えます。金利が正常化することでビジネスが魅力的なものとなりうる業種としては銀行、ノンバンク、保険などが挙げられます。銀行やノンバンクは本業の貸出業務やリース事業で本来あるべき利ザヤを確保できるようになり、保険は保険料の運用面においてプラス効果があります。これらの国内企業は歴史も古く、しっかりとした長期のトラックレコードがあります。また、株価バリュエーションが比較的低い水準にあること、新規参入が少ないことも魅力です。また国内損保大手は、寡占化による潤沢な利益と、多額にある政策保有株の資金化によって海外への成長投資を積極的に行えるポジションにあると考えます。
 当月は昨年来の世界的な金利の大幅上昇で突如、海外の金融システム不安が顕在化しました。これによって国内マイナス金利の撤廃はなくなった(或いは遠のいた)という見方もありますが、当ファンドでは構造的なインフレが続く可能性を注視しています。景気減速が起きたとしても、1)労働人口の高齢化、2)移民流入の制約、3)労働よりも余暇を優先する人々のライフスタイルの変化などによる構造的な労働力の供給不足は変わらないと考えます。労働者はインフレによって実質賃金が目減りすると、継続して賃金引上げを求めます。これが企業による価格転嫁を引き起こし、ひいては物価高につながり、それが再び実質賃金の目減りを引き起こし、更なる賃金上昇圧力を生み出すという悪循環を生み出します。さらに近年の世界的なESG投資(環境:Environment、社会:Social、コーポレートガバナンス:Governanceなどを考慮した投資)のトレンドや環境関連の取り組みも、長期的には企業のビジネスコストを押し上げるため、潜在的なインフレ要因になりうるとみています。
 現在の経済環境は金利上昇が続くと、一部の海外金融機関が経営危機に陥ってしまう、かといって金利引き上げを止めればインフレが加速してしまうという微妙な時期にあると言えます。翻って日本では今回の春闘でこれまでにない賃金引き上げが実現し始めており、インフレ経済復活の可能性はゼロではないと考えられます。当ファンドではインフレに関する詳細な予想は行っておりません。しかし、インフレ環境下でいざ国内金利が正常化(上昇)した場合に、ビジネスが大きく改善することで株価に割安感が出てくる魅力的な企業があると考えられます。当ファンドでは日本国内における構造変化を視野に入れつつ、引き続きグローバルな視点で魅力的な企業への投資を行っていく方針です。

2023年2月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.95%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、米長期金利上昇などを受け米国株式市場が軟調となる中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、市場予想を上回る米国のCPI(消費者物価指数)やPMI(総合購買担当者景気指数)を受けて利上げの長期化懸念が再燃し、日本株も下落に転じましたが、月後半にかけては、植田次期日銀総裁候補が所信聴取で金融緩和継続を明言したことや円安の進行が日本株相場を下支えし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは、前月末比0.73%の上昇となり、参考指数の同0.95%の上昇を0.22%下回りました 。
 当月のプラス貢献銘柄は、三菱商事、オリックスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、リクルートホールディングス、オリンパスなどでした。
 当月は決算シーズンでしたが、当ファンド投資銘柄のなかで好決算を発表した企業としてオリックスが挙げられます。同社は2023年3月期連結中間業績で、新型コロナウイルスに伴う病院給付金の急増や米国事業の成長鈍化によって前年同期比で大幅な減益決算を余儀なくされましたが、当第3四半期では前年同四半期比および前四半期比で増益に転じており、業績の改善の兆しが見え始めています。
 オリックスは国内最大のノンバンク・金融サービス会社です。1964年設立時のリース事業を皮切りに「金融」と「モノ」の専門性を高めながら、船舶リース、レンタカー、航空機リース、融資、不動産開発、アセットマネジメント、銀行業、生命保険業、プライベートエクイティ投資、事業再生、ベンチャーキャピタル、再生可能エネルギー、空港運営など多角化を進めてきました。また同社は欧米やアジアでのビジネスも展開しています。2022年3月期ではこれらの海外事業がベース利益全体の半分程度を占めており、グローバル企業と言えます。設立から58年間、バブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、サブプライムローン危機、コロナショックなど様々な逆風がありましたが、毎期黒字の計上を続けています。2010年3月期にサブプライムローン危機の余波で公募増資を余儀なくされたというややネガティブなイベントはありましたが、業績のトラックレコードとしては問題ないと当ファンドは考えます。
 当ファンドが、同社の本源的価値増加率の近似値としてみている一株当たり純資産伸び率は過去5年、10年でみて年率7%から10%成長が続いていることに加え、経営陣は配当方針としては配当性向33%若しくは前年配当実績のどちらか高いほうを還元することを掲げており、現在の株価水準では配当利回りが3%台半ばになります。加えて、同社は優良な投資案件が見つからない場合、自社株買いを通じて余剰株主資本を株主に還元することを標榜しており、近年これが実行に移されています。自己株消却により、過去3年で年率2%から3%程度のペースで発行済株数が減少する傾向にあり、結果として一株当たり利益及び純資産が引き上げられています。利益成長率、自社株買い、配当利回りを合計すれば同社株への投資で得られる予想リターンは年率10%程度が見込まれ、当ファンドで組み入れている高成長銘柄群の期待リターンと同等レベルです。またPBR(株価純資産倍率、0.8倍)、PER(株価収益率、8倍)などでみた株価指標も現在の日本の株式市場平均に比べ安く、バリュエーションの切り下がりリスクも小さいと判断されます。
 同社はノンバンク・金融サービス会社ではありますが、じつは「リオープニング・インバウンド関連銘柄」でもあります。これは、同社のホテル・旅館運営、航空機リース、空港コンセッションの3事業がコロナ禍で大打撃を受けたものの、足元では急速に回復傾向にあることと関連しています。まずホテル・旅館運営事業は不動産セグメントに含まれており、「クロスホテル」や「佳ら久」などのブランドで全国各地に展開しています。コロナ禍だった2022年3月期にはおよそ90億円の赤字を計上していますが、足元では稼働率が回復しつつあります。コロナ禍前の利益水準は60億円程度です。また今後は高級価格帯を中心に新規ホテル・旅館を開業していく計画であり、継続的な成長が見込まれます。
 空港コンセッション事業は事業投資・コンセッションセグメントに含まれます。同社は関西国際空港、大阪国際(伊丹)空港、神戸空港を運営している関西エアポート㈱を持分法適用会社として所有しており、売上収益の4割を得ています。具体的には飛行機の離発着料とターミナル内の店舗売上が主な収益源です。特に国際空港は、関西地域において関西国際空港以外の競合先が存在しませんので、独占的であり魅力的なビジネスといえます。コロナ禍において同事業は2022年3月期に約100億円程度の赤字を余儀なくされましたが、昨年10月の訪日客の入国規制緩和により2022年12月現在はすでに2019年同月の4割程度まで国際線旅客数が回復しているのは朗報です。2020年3月期には200億円近い利益を稼いでおり、同水準に近い利益額は2025年3月期までに達成可能だと考えられます。なお同空港は今後の拡張工事により収容能力が3,000万人から4,000万人とへと約3割拡大することが決まっていますので、利益が中長期的に200億円を大きく上回ることも期待できるでしょう。
 最後に航空機リース事業は輸送機器セグメントに含まれており、グループ会社のOrix Aviation Systems社(アイルランド)と持分法適用会社であるAvolon Holdings社(アイルランド、同社3割所有)が担っています。コロナ禍前の同事業からもたらされる利益規模は450億円でした。国内ホテル・旅館運営事業および空港コンセッション事業が国内依存のビジネスに対して、航空機リース事業はグローバルに展開されています。海外では旅客需要の回復が日本よりも早く始まったことから、すでに黒字基調で推移しています。懸念されていたロシア向けに貸し出されている航空機が回収不能になったケースもほとんどなく、減損損失も限定的でした。なお同事業は短期的には金利上昇による資金調達コストの増加が懸念材料となりますが、長期的にはリース料への価格転嫁が可能であるというのが当ファンドの見方です。
 以上、3事業は2022年3月期において合計赤字額が約220億円に上りましたが、経営陣は2025年3月期までにコロナ禍前の利益水準をやや下回る600億円までの回復を見込んでおります。即ち、利益改善額は800億円強となり、同社の2022年3月期当期純利益実績3,121億円から2025年3月期にかけての利益増加見込み額1,279億円(同期末の当期純利益計画4,400億円)のうち6割程度がこれら3事業の回復によって達成されることを意味します。さらに同期間中に、他の事業分野における業容拡大、あるいは良質な投資案件を積み上げることができれば、超過達成も十分に考えられます。一方、新規案件がそれほど見つからない場合は、自社株買いが行われるでしょう。
 最後に金利上昇の影響についてですが、同社の場合は事業が多岐にわたっているため、金利上昇がプラスに働く事業と、マイナスに影響する事業があると推察されます。例えば、リース事業にとっては資金調達コストが上昇するため金利上昇直後は利幅が縮小しますが、長期的にみれば低金利環境時よりも利ザヤを得やすくなりますのでプラスといえます。また保険事業では国内長期金利の上昇によって運用損益の改善が見込まれるほか、保険債務のデュレーション(投資の平均回収期間を表す指標)が資産サイドに比べて長いことから純資産価値(エンべディットバリュー)の拡大につながります。他方、不動産事業では金利上昇を通じて割引率が上昇するため、物件価値の下落につながるかもしれません。以上のことから、金利上昇インパクトを推計するのは容易ではありませんが、同社の分析によると海外金利の上昇は同社業績全体にとって若干のプラス、国内金利の上昇はほぼニュートラルとしています。同社のROE(株主資本利益率)は2022年3月期実績の9.9%から2025年3月期には11.7%への改善が計画されており、現在低位に留まる株価のバリュエーション(PBR0.8倍、今期予想PER8倍)の拡大余地もありそうです。即ち、向こう3年で当期純利益が今から4割程度増え、ROEの改善を反映してPBRが上昇すれば、現状の株価水準から市場平均を上回るリターンが期待できると考えられます。

2023年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年1月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.42%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は下落から始まりました。月前半に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した2022年12月の米製造業景況感指数が2年7カ月ぶりの低水準だったことや、中国製造業購買担当者景気指数(PMI)も低迷が続いたことから、景気後退への懸念が高まったのが主な要因と見られます。月半ばには、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持すると発表したことを受け、株式市場は上昇に転じました。月後半には、米国連邦準備制度理事会(FRB)の理事が利上げ幅緩和の支持を表明したことや、米有力紙による早期利上げ停止の観測報道を受け、日本でも成長株を中心に株価が堅調に推移した結果、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンスは 、前月末比4.30%の上昇となり、参考指数の同4.42%の上昇を0.12%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ソニーグループ、キーエンスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、東京海上ホールディングス、ユニ・チャームなどでした。
 当月は、昨年新規投資を行ったセブン&アイ・ホールディングスが2023年2月期第3四半期決算を発表しました。営業収益は8.82兆円(前年同期比43.5%増)、営業利益3,948億円(同30.4%増)と買収したSpeedway社(米国)が加わった米国事業を中心に大幅増益となりました。
 同社は日本人なら誰もが知るコンビニエンスストアであるセブンイレブンを筆頭に、百貨店やGMS(General Merchandise Store、総合スーパー等を指す)を展開する日本最大の小売企業グループです。しかし、利益構成比でみると米国のセブンイレブン事業が半分以上を占めており、実はグローバルな企業でもあります。興味深いことに、日本発の小売業態であるコンビニは、もともとは米国において誕生したSouthland Ice Company社に起源があり、1970年代に㈱イトーヨーカ堂(現在は同社の傘下)と国内ライセンス契約を結んだことから、主に日本においてビジネスモデルが発展しました。同社の米国事業は2006年以降になって、主にM&Aによって業容を少しずつ拡大してきました。そして今般、買収によって連結化されたSpeedway社が加わったことで、店舗数が現地で圧倒的最大手となったのです。本案件は実質的な取得価額が133億ドルであり、EV/EBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)13.7倍で買収したことに相当しますが、同社が統合効果として6億ドル程度のシナジーによる増益効果を見込んでいるため、実際には6~7倍のEV/EBITDA倍率となります。日本で長年培われてきたセブンイレブン事業の様々なノウハウ(商品ラインアップ、店舗運営ノウハウおよび物流効率化など)を移植していくことで実現可能と思われることから、妥当な買収案件であると当ファンドは考えます。
 同社は日本の会計基準を採用しているため、本件買収に伴いのれんの償却費が年間10億ドル程度計上されます。このため、損益計算書上では、通常のEPS(一株当たり利益)(同社今期予想317.03円)とのれん償却前EPS(同444.07円)とでは4割程度の開きがあります。後者のEPSを前提とすれば現在の株価は13倍台とTOPIXの平均PER(株価収益率)とほぼ同水準であり、割高感はないと判断されます(また当ファンドの平均PER水準も下回っています)。のれん償却費とは現金の流出を伴わない費用項目であることから、当ファンドでは減損リスクがない限りにおいて、のれん償却前EPSを使用すべきと考えます。
 株価のバリュエーションについてもうひとつ言えることは、同社株は2010年前後と比べてPERが切り下がっており、割安感が強まっていると考えられます。2006年2月期~2015年2月期の同社の平均PERは約25倍でした。バリュエーション切り下がりの要因として考えられるのは、国内で小売業界自体が成熟化しているため今後の成長性が乏しいと思われていること、同社はGMS事業などの低採算事業を抱えており、グループ全体の価値を毀損していること、また株式市場が同社の米国コンビニエンスストア事業の成長性にいまだ確信を持てないことなどが考えられます。当ファンドでは、後述するようにこれらの点については、過度な懸念は必要ないとの見解を持っています。
 資本収益性についてはどうでしょう。同社は長年、連結ベースのROE(株主資本利益率)が10%に届かない状況が続いており、経営陣も問題意識として持っていることが決算説明会などにおいて確認されています。しかし2023年2月期以降はSpeedway社の連結が利益押し上げ要因となるため、のれん償却前ベースで10%を超えてくることが予想されます。加えて、1)国内コンビニ事業が低位ながらも成長が続くこと、2)米国での上述シナジー効果の発現と更なる業容拡大、そして3)同社が抱えるいくつかの低採算事業の撤退の可能性などを考慮すれば、更なるROEの改善も十分にありえると考えられます。
 一点目の国内コンビニ事業では、絶え間ない既存店のレイアウト改善や、ネットコンビニ分野でのデリバリーサービスの拡充などに取り組んでいます。2023年2月期は既存店売上伸び率が第3四半期時点で4.9%増と好調であり、コロナ禍前の2019年比でみてもプラスに転じています。成熟化が言われて久しい日本のコンビニ業界ですが、工夫次第でまだ伸びる余地は残されていると考えます。例えば、同社のプライベートブランド(自社企画商品)である「セブンプレミアム」には現在追い風が吹いていると考えます。国内における物価高によってナショナルブランド(製造メーカーブランドの商品)が値上げを余儀なくされていますが、この結果として品質が同等で価格が相対的に割安な同社プライベートブランドの優位性が増しているためです。同社決算資料によると、2021年11月月間のカップラーメンカテゴリーにおける単品売上ベスト10には、セブンプレミアム製品が3品のみのランクインでしたが、2022年の同時期比較では上位8品を独占しています。
 二点目の米国コンビニ事業で注目すべき点は、まだまだ伸びしろが大きいと考えられることです。同社の開示資料によると、米国でのコンビニ総店舗数は2020年12月末時点で150,274店ですが、このうち買収前の同社が9,519店(市場シェア6.3%で1位)、今回買収したSpeedway社が同シェア2.6%で3位に位置しており、店舗数は3,854店です。即ち、今回の買収によって同社は合計約13,000店を抱える圧倒的なプレーヤーになったのです。また、日本のコンビニ業界はセブンイレブン、㈱ファミリーマート、㈱ローソンの3社で既に寡占化状態にありますが、米国では上位10社でも占有率はまだ2割程度しかありません。追加的な買収による業容拡大余地が多く残されているのが魅力です。
 なお、米国コンビニ事業はガソリン併設店が多いことから、今期の売上と利益は年初からのガソリン市況高騰の恩恵を受けていますが、株式市場では来期以降の持続性が懸念されているようです。当ファンドは、ガソリン価格が下落すれば、むしろ人々が車で外出する機会が増え、コンビニでの物販消費にまわるおカネも増えるため、一概にマイナス要因とは言えないとの立場です。一方、ガソリン価格が高止まりすることも考えられます。かつてはエネルギー価格が高騰すれば、油田などの新規開発が進み、供給増・価格下落が誘発されました。しかし世界的な脱炭素化によって、従来のように価格上昇が供給増になかなか結び付かず、高価格が常態化する可能性があります(同社はガソリン価格高騰によってEV(電気自動車)普及が加速することを見据えてEV充電設備の設置拡大も進めています)。
 米国におけるコンビニエンスストアのガソリンスタンドビジネスは、ガソリン販売量にCPG(セントパーガロン:1ガロンあたりの荒利額)を掛けあわせたものが売上となります。このCPGはガソリンスタンド業界によって決定され、その水準は常時変動しますが、近年は継続的な上昇傾向にあります。これはガソリンスタンド店舗内のコンビニ部分の物品販売が、インフレによるコスト高や売上の伸び悩みによって厳しい環境となるなか、零細店舗オーナーがガソリンスタンド業において収益を確保しようとしているため、業界全体としてマージンを高く維持するインセンティブが働いていると考えられます。このため仮にガソリン販売数量の減少やガソリン単価の下落があったとしても、CPGの引き上げによって収益を補うことがある程度可能となっており、同社など大手資本はこの流れに追随しているとみることができます。過去に石油会社がガソリンスタンドを経営していた頃は、CPGの引き下げによるシェア争いが散見されましたが、近年では事業の取捨選択によって石油会社はコンビニ・ガソリンスタンド事業から撤退しているケースが多く、競争環境が非常に緩やかであるのが特徴です。またガソリンスタンド事業に新規参入しようと考えるプレーヤーもまず考えられませんので、同社を含む既存事業者にとって魅力的なビジネスとして位置づけられるのではないでしょうか。以上の理由から、同社のガソリンスタンド事業は来期以降も底堅く推移するものと思われます。
 そして三点目の低採算事業については、百貨店事業とGMS事業の存在が挙げられます。既に報道されているとおり、同社が運営するそごう・西武百貨店については、海外投資ファンドへ売却することが決定しています。今後も同社の資本収益性や株主還元策の改善に向けた取り組みが注目されます。同社は2022年4月7日に経営メッセージを公表後、新たな取締役会の下、事業ごとの効率性・成長性を踏まえ新しい成長戦略を現在策定中です。「キャピタル・リアロケーションプラン」と呼ばれる同プランは、その名の通り今後の資本配分方針の枠組み決定する重要なものとなりそうです。最適な資本配分は株主価値の増加には欠かせない点で、企業経営者は毎年創出する利益をどのように活用するかを考えるのが唯一の仕事といっても過言ではないと当ファンドは考えています。例えば、いくらを設備投資にまわすのか、あるいは買収戦略に充てるのか、はたまた借入金の返済に充当するのかなどが考えられます。また株主還元の視点も重要です。いくらを配当として払うのか、そして自社株買いをするのか、などといった点です。基本的には資本コストを上回る再投資機会が本業に存在するのなら、経営陣は積極的に内部留保を行うべきです。一方、再投資機会が乏しいなら株主に配当や自社株を通じて還元するのが正しいアプローチといえるでしょう。なお自社株買いを行う場合、自社が考える適正な株価よりも市場で取引されている株価が割安な時のみ行うべきであるのは言うまでもありません。なお、定量面を含む具体的なプランの概要は改めて情報公開予定となっており、引き続き注目です。
 最後に、当月は米国の著名な友好的アクティビストファンドとして知られるValue Act社(米国)が、同社経営陣に対し書簡を送り、改めて同社のコンビニエンスストア事業の株主価値を最大化するためのスピンオフなどを求めたとロイターが報じました。Value Act社は2021年より同社の株主となっており、これまで幾度となく、同社の株主価値を最大化するための抜本的なグループ再編を求めてきました。具体的には、成長性の高いコンビニエンスストア事業を他の不採算事業であるGMS事業から切り離すことなどを提案しているようです。これまでのところ同社経営陣は、本提案に対し難色を示していると推測されますが、これまで多くの投資成功事例を持つValue Act社の友好的かつ粘り強いアプローチが実を結べば、当ファンドも株主として大きな恩恵を受ける可能性があります。また当ファンドとしても、同社とのIRミーティングの際に同様の提案を働きかけていくことも視野にいれて今後の調査を継続していく方針です。

2022年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年12月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.57%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は、11月30日にFRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル議長が12月のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げ減速を示唆したことを受け、上昇して始まりましたが、その後は米国景気悪化懸念の高まりなどから下落基調をたどりました。月半ばには、欧米中銀の金融引き締め継続による景気悪化懸念や、日銀が長期金利の許容変動幅を修正したことなどを受け、金融政策の転換懸念から株式市場は大幅に下落しました。月後半にかけては、中国が事実上「ゼロコロナ政策」を終了したことでインバウンドや中国経済再開期待が生じる一方、米国の半導体株安や円高の進行を受けて、一進一退で推移しました。

ファンドの運用状況

 当ファンドのパフォーマンス は、前月末比6.07%の下落となり、参考指数の同4.57%の下落を1.50%下回りました。
 当月のプラス貢献銘柄は、ロート製薬、セブン&アイ・ホールディングスなどでした。一方、マイナス影響銘柄は、ソニーグループ、日立製作所などでした。
 2022年の当ファンドの運用成績は、絶対リターンはマイナス、また相対リターンも参考指数であるTOPIX(配当込み)に大きく劣後するという大変不本意な1年となりました。運用成績が低迷した理由については後述しますが、2022年初の外部環境とその後の現状認識の最大の違いは世界的なリセッションおよびスタグフレーションの現実味が増したことです。2022年初時点ではあくまでコロナ禍の収束によって経済が成長軌道に戻り、それに伴う健全なインフレと正常な金利上昇を前提としていましたが、その後の想定を大幅に越えるインフレ率の悪化と金利の大幅上昇により、経済・金利環境が急速に悪化しました。一方、日本ではようやくデフレ環境から脱却する兆しがみえてきました。
 約40年ぶりの本格的なインフレと、それに伴う世界的な金利の高止まりが1970年代のように長期間継続する可能性を鑑み、既存組入銘柄の保有を続ける一方、2022年央頃より新規銘柄を従来より多く組み入れました。なお当ファンドのアクティブシェアは80%程度で推移しており、引き続き差別化されたポートフォリオである点に変わりないと考えています。

運用成績が低迷した要因1

 運用成績が振るわなかった要因はいくつかありますが、最大の理由は当ファンドで組み入れているグロース株が、金利上昇により株価バリュエーションの切り下がりに見舞われたことです。この点については、2022年2月の月次報告書でキーエンスなどの事例をあげてご説明しました。
 グロース株の場合、長期金利の上昇局面では将来見込まれるキャッシュフローの現在価値が目減りするため、株価の下押し要因となります。しかし、当ファンドではグローバルで成長が期待できる企業に投資し続けることが、人口減少が続く日本で最も有効なアプローチだと考えています。世界を舞台に成長できる企業であれば内需型企業に比べて潜在市場規模が遥かに大きいため、息の長い業績拡大が期待できます。キーエンスの現在の株価は2021年の過去最高値から3割程度調整した水準にありますが、同社の中長期的な成長見通しは大きく変わっていないと考えられます。これまでの年率10%超の利益成長が継続すれば、3~4年程度で下落分を取り戻せる計算になりますが、それまでは辛抱が求められると考えます。
 一方でPER(株価収益率)切り下がりリスクがあまりなく、ファンドの絶対リターンを牽引してくれるであろう銘柄も存在します。今後バリュー株からグロース株への変貌を遂げると期待される日立製作所などです。当ファンドでは2021年に会社業績予想を前提にPER10倍程度の局面で同社に新規投資を行い、現在でも割安であると考えています。未だ製造業主体の企業として、原材料コスト上昇、半導体不足、中国におけるロックダウンなどの影響で短期業績の大きな成長は期待しにくい状況ですが、ルマーダ事業を通じてビジネスモデルの構造変化が進むことで、中長期で利益の継続成長とバリュエーションの切り上がりの可能性があると当ファンドでは予想しています。
 三菱商事も、2022年末時点のPERは一桁台、PBR(株価純資産倍率)は1倍割れと長らくバリュー株としてレッテルを貼られていますが、当ファンドでは総合商社を世界中に人的ネットワークを持つ投資事業会社であると考えております。今日の彼らのバランスシートは世界的にも珍しい事業資産ポートフォリオを有しています。これら資産の積み上がりが総合商社の本源的価値の増加につながり、ひいては一株当たり純資産価値の成長に反映されると考えます。例えば、三菱商事の一株当たり純資産価値は過去5年、10年、15年、20年でみても一桁後半から10%前後の年率成長を達成しています。このことから、当ファンドでは三菱商事を成長性のないバリュー株ではなく、割安に放置されたグロース株であるとみています。

運用成績が低迷した要因2

 コロナ禍収束後の経済再開で景気改善への期待が先行するなか、当ファンドの予想に反して、過度なインフレが景気後退リスクを引き起こしたことも災いしました。当ファンド組入銘柄は、日本が誇るグローバル成長企業が中心です。ここには日本のモノづくりの競争優位性を武器とする製造業やインターネットサービス企業などといったビジネスが景気に左右されやすい「景気敏感株」が含まれており、リセッションリスクの高まりがこれら保有銘柄の下落につながりました。但し、景気敏感株は景気後退懸念が台頭すると先行して株価が下落する傾向がありますが、逆に景気回復の兆しがみえてくれば上昇に転じるのが早いのも特徴です。
 景気敏感な側面を持つリクルートホールディングスについて、当ファンドでは世界の構造的な人材不足から生じている労働インフレの恩恵を受ける企業として評価しています。現在の株式市場では、足元の景気後退が同社の人材マッチングビジネスに悪影響を及ぼすという見方が支配的であるものの、同事業におけるリクルートホールディングスの強みは圧倒的であると考えられることから、数年内に労働市場環境が正常化することを見据えて、直近では買い増しを行っています。

運用成績が低迷した要因3

 またコロナ禍での巣ごもり消費には「行き過ぎた」部分があり、経済再開に伴いそこが剥落したことも挙げられます。ソニーグループのゲーム事業や、シマノの自転車部品事業、メルカリのオンラインフリマ事業などは、コロナ禍をきっかけに製品やサービスの良さや利便性に消費者が気づき、それが生活様式の一部として定着したと思われます。しかし当期は一旦反動減に見舞われていると判断します。
 なお、メルカリについては、国内の盤石な収益基盤から生み出されるキャッシュフローを米国事業の育成にまわすことで「意図した赤字」を継続してきましたが、昨今の金利上昇環境下では株式市場から厳しい評価を受けておりました。加えて、当ファンドが継続して行っている会社取材および調査では、米国における同社フリマ事業の成功確率が必ずしも上がっていないことが判明しており、また、国内事業の成長性がやや低下している可能性を示すデータも散見されたため、組入比率を引き下げています。

組入比率を引き下げあるいは完全売却を行った主な銘柄

 2022年は日本電産の組入比率を引き下げました。目下、EV(電気自動車)向けトラクションモーターに注力している同社は、2025年度に400万台の供給を目指しているのは既報のとおりです。しかし、中国の現地EVメーカーの間で日本電産による独占的なモーター供給を牽制する動きが出てきていること、また同社がEVトラクションモーター分野へ傾注するなか、他の事業部門において競合のミネベアミツミ㈱にシェアを奪われている可能性があること、そして金利上昇をうけて、トラクションモーター事業の一定の成功を前提として形成されていた株価に相対的な割高感がでてきたと判断したため一部売却を行いました。また創業者兼会長である永守氏の後継者と目されていた関前社長の突然の退任に伴い後継者問題が難航していることも判明しました。当ファンドでは同問題がいずれは成功裏に解決するとの立場をとっていましたが、永守氏が決算説明会の席上において関前社長在任中に社内文化が劣化したことを名指しで非難している姿をうけ、その非紳士的な対応を懸念しました。また同氏の存在がなければいとも簡単に社内文化が弱体化するという事実が確認されたことも売却に至った要因です。
 また2022年8月ソフトバンクグループの巨額損失のニュースとビジョンファンド事業のリストラが報道されましたが、当ファンドではそれに先んじて春先から同社株の売却を行いました。想定以上に外部環境が悪化したと判断したためです。世界的な金利上昇を受けてベンチャーキャピタル業界全体が苦境に陥っており、回復には相当な期間を有する可能性があること、また投資先企業が業界全体の回復を待たずに事業が行き詰まるリスクなどを考慮し、同社ビジョンファンド事業の将来性を慎重にみることにしました。また同社の主要投資資産であるAlibaba社(中国)に対しても先行きの厳しさを懸念しました。中国のeコマース(電子商取引)業界でこれまで圧倒的なシェアを背景に急成長を遂げてきた同社ですが、近年は中国政府によるインターネット企業に対する厳しい監視・規制の対象になってきたからです。そのほか、上場予定のArm社(英国)についても昨今の金利上昇による評価額の切り下がりリスクなども考慮しました。

ファンドパフォーマンスの貢献銘柄

 一方、ロート製薬や日立製作所などは運用成績に貢献しました。
 ロート製薬は創業時の胃腸薬販売から始まり、20世紀初頭に市販目薬事業、1990年代から2000年代にかけてスキンケア事業を加えてきました。目薬、スキンケア商品はいずれも今日の稼ぎ頭です。2023年3月期第1四半期決算は、連結売上が前年同期比23.5%増、営業利益が同37.8%増と大変好調でした。全体売上の約6割を占める日本では、コロナ禍のリモートワークで需要が高まっている高額目薬や、行動制限の緩和に伴って外出機会が増加したことから日焼け止めや、スキンケアシリーズの「メラノCC」などが大幅に伸びました。海外も大変好調です。全体売上の約4分の1を占めるアジアではコロナ禍が収束に向かうベトナムでV字回復となり、インドネシアも好調です。また売上規模は小さいですが米国とヨーロッパも増収増益となっておりポジティブです。
 同社の魅力は市販目薬(アイケア部門)や化粧品(スキンケア部門)のアジアにおけるニッチなブランド力です。インドネシア、ベトナム、カンボジアなどの国々では今後、全人口に占める生産年齢人口の割合が高まっていく、所謂「人口ボーナス」期への移行が予想されます。現段階から同社ブランドの消費者認知度を高めるための先行投資を行うことは、長期的にみて正しい戦略であると当ファンドでは考えます。もう一点将来楽しみなのは、10年ほど前から国内で取り組み始めた再生医療事業と、近年開始した眼科用医療用医薬品事業です。再生医療について同社が進めているのは、脂肪由来の幹細胞を利用した再生医療用製剤で、肝硬変、新型コロナウイルス感染症、肺線維症、重症心不全などの適応症向けに治験が進められています。独自開発した自動培養システムを使って、再生医療用細胞を受託製造するビジネスも本格展開する予定です。
 日立製作所は、ルマーダ事業を通じてこれまでの単純なハードウェア製造・売り切り型ビジネスから顧客企業の課題解決型ビジネスへの脱皮を目指しています。同事業は2023年3月期売上19,000億円(連結売上構成比約18%)を見込んでおり、利益率も先行投資をこなしながら全社平均を超えている高収益部門です。このため、同事業の利益貢献度は売上の見た目以上に高くなります。
 2010年から2021年まで社長・会長を務めた中西氏によると、同社には1)システムインテグレーターとして培った情報技術(Information technology)、2)社会インフラ(発電所、ビルのエレベータ、鉄道システムなど)や工場の運転操業を行う経験で培った運用・制御技術(Operational technology)、および3)メーカーとして様々な製品技術(プロダクト)を併せ持っていることが他社にない強みとしています。これらを掛け合わせることで、昔のように製品技術と販売力だけで勝負せず、顧客企業と一緒に課題解決していくソリューション事業の展開が可能となるのです。このソリューションを発掘するために顧客の現場データをIoT(Internet of Things、モノのインターネット)経由で収集・分析する同社独自の仕組みを「ルマーダ」と呼んでいます。
 ルマーダ事業の具体的な流れとしては、まず顧客の経営課題・現場課題を、日立製作所と当該企業が協力して明らかにしていきます。次に顧客企業が保有する設備やIoT機器からビジネス現場(工場、店舗、社会インフラなど)でリアルタイムに発生する膨大なデジタルデータ(設備や店舗の稼働データ、従業員の作業データ、商品の販売動向データ、生産工程に使われる原材料データ、生産技術に関するデータなど)をルマーダ上で収集・分析します。そして、そこから導き出されたソリューションを顧客に導入し、付加価値を生み出すことを最終目標としています。ソリューションの中身は、日立製作所の持つハードウェアの販売、ITシステムの納入、オペレーションの請負、メンテナンスやモニタリングサービスの提供など様々で、これらをパッケージ化したものも考えられます。
 同社は、顧客企業に導入した課題解決の成功事例(ユースケース)を標準化して社内に蓄積することで、似たような問題に直面している他の企業・業界に応用していく方針です。また今後全ての事業セグメントは、「ルマーダを通じて顧客の課題解決を助ける」という視点で進められ、かつて同社の中心だったメーカー機能はソリューションビジネスの一環に過ぎなくなります。ユースケースが揃ってきた現在、同社はあまりコストをかけずに業容拡大できる段階に入ってきており、今後は利益率改善および売上成長スピードが上昇することが予想されます。当ファンドではまさにこの点をスケーラブルなアセットライトなビジネスとして注目しており、また顧客の囲い込みもできることから参入障壁が高い、魅力的なビジネスになると考えています。

新規銘柄について

 冒頭で述べたとおり、当ファンドでは銘柄集中度の高いポートフォリオを維持(アクティブシェア80%前後)しつつ、2022年央頃より新規銘柄への投資をやや積極的に進めています。
 従来から当ファンドでは少数の銘柄に投資する集中ポートフォリオであるがゆえに、組入銘柄を事業内容面でできるだけ分散させてきました。このため過去の景気悪化局面では大幅な銘柄変更を行うことなく運用を続けてきました。しかしコロナ禍の株式相場においてグロース株に追い風が吹き、2020年、2021年の2年間でソニーグループ(エンターテインメント)、キーエンス(FAセンサ)、日本電産(EV向けモーター)、ユニチャーム(日用品)、シマノ(自転車部品)、テルモ(医療機器)、リクルートホールディングス(求人広告)、ミスミグループ本社(機械部品)、ダイキン工業(空調)といった特性の異なるはずのビジネス群の株価が一斉に上昇し、とりわけ景気敏感型グロース株(リクルートホールディングス、キーエンス、日本電産など)の組入比率が押し上げられました。後から振り返ると、結果としてポートフォリオ全体に「偏り」が生じていたと思われます。そして長期金利はあらゆる金融資産の価格決定において重要な役割を果たしているため、2022年のように金利が急激に上昇すると必然的に現在の既存組入銘柄の株価バリュエーション再考も必要となったのです。従って、一部の既存銘柄の買い増しを行うだけでなく、新規銘柄への投資も優先しました。
 さて、2022年に新規投資を開始した銘柄として代表的なものは東京海上ホールディングスやセブン&アイ・ホールディングスなどです。損害保険(東京海上ホールディングス)やコンビニエンスストア(セブン&アイ・ホールディングス)などシンプルなビジネスであり、本質的に安全であるという当ファンドの投資哲学に合致しているだけでなく、既存の組入銘柄とは異なるビジネスを有しておりポートフォリオ全体のリスクを引き下げることにも寄与するものと思われます。また株主として期待できる投資リターンについても年率10%前後(配当利回りや自社株買い効果込み)が考えられ、当ファンドで従来から投資している他の銘柄群と遜色はありません。
 また両社のROE(株主資本利益率)は一見低くみえますが、実態はすでに高い、あるいはこれから高くなることが予想されるという意味でも当ファンドが考える高い資本収益性の条件を満たしていると考えます。東京海上ホールディングスについては、損益計算書上の当期純利益でなく、より実態に即した修正純利益でみたROE、セブン&アイ・ホールディングスについてはのれん消却前の当期利益でみたROEで共に10%を超えており、今後も更なる改善が視野に入っています。そして最後にバリュエーションも当ファンドの平均PERと比べて低く、日本株平均と比べても割高感はないと判断されます。
 12月末現在、組入銘柄数は29銘柄に増えておりますが 、アクティブシェアは約80%と引き続き高水準を維持しています。2023年は主にこれらの中から確信度の高い銘柄を見出し、ポートフォリオの絞り込みを進めていくことを念頭に運用に臨んでいく方針です。

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