ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「アクティビズム優位の市場で、重要性を増すエンゲージメント」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「アクティビズム優位の市場で、重要性を増すエンゲージメント」

レポートのダウンロード(247.5 KB)

 昨今、日本においてアクティビスト・ファンドの台頭が目立つ一方で、日本株を主要投資対象とするいくつかの老舗エンゲージメント・ファンドが運用体制を縮小しているという報道を目にします。今回のニッポン解剖では、長期的な企業価値向上に資するエンゲージメント・ファンドの重要性が増しているにも関わらず、アクティビスト・ファンドに押されている現状について整理します。

 まずはここまでの企業統治改革について振り返ります。2012年に発足した第2次安倍政権のアベノミクスのもとで、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが導入されました。さらに2014年には、ROE8%以上という目標を通じて日本企業の意識改革を促した伊藤レポートが公表されています。

 もっとも、これらの取り組みが日本企業の抜本的なバリュエーション改善につながったかというと、筆者は必ずしもそうではなかったとみています。そうした問題意識の延長上に位置づけられるのが、20233月から始まった東証市場改革(「東証要請」)です。当初は海外投資家から「本当に"This time is different"なのか」と皮肉交じりに受け止められた面もあったように思います。

 2024年1月以降、東証は要請に基づく開示を行っている企業の一覧表の公表を開始しました。この一覧に掲載されない企業は、市場から「改革に後ろ向きな企業」として可視化されることになります。この仕組みは海外メディアでは "Name and shame regime"(「名指しと恥さらし制度」)と表現されました。加えて、政策保有株の売却による安定株主の縮小、経済産業省による企業買収に関する行動指針の公表、さらには急速な円安といった要因が重なり、日本企業の被買収リスクは急速に高まりました。その結果、企業価値向上や株価を強く意識した経営が、ここ数年で一気に進展したと筆者は認識しています。

 本来であれば、企業価値の持続的な向上に寄り添う存在として、エンゲージメント・ファンドの重要性は一段と高まっている局面です。しかし現実には、老舗のエンゲージメント・ファンドの中には、運用体制を縮小する動きも見られます。その背景の一つとして考えられるのが、アクティビスト・ファンドの台頭です

 一般に、エンゲージメント・ファンドはその活動実態が見えにくいという指摘があります。株主提案やパブリック・キャンペーンを通じて主張を前面に打ち出すアクティビスト・ファンドに比べ、エンゲージメント・ファンドは企業と非公開で個別に対話を行うことが多く、その結果、外部からは活動内容や成果を把握しにくい傾向があります。とりわけ、企業の自発的な変化を促すタイプのエンゲージメントは、短期的な成果として数値化しにくく、その効果測定が難しいとの指摘もあります

 もっとも、だからといってエンゲージメント・ファンドの価値が低いわけではありません。むしろ、経営陣の問題意識や意思決定の質そのものに働きかけ、企業の内側から変革を促すアプローチこそが、長期的な企業価値向上にとって不可欠です。表面的な指標の改善だけでは持続的な価値創造にはつながりません。経営陣と時間をかけて議論を重ねられるのは、エンゲージメント・ファンドならではの役割です。短期の成果が称賛されやすい市場環境の中で、長期的な価値創造に最も深く関与している存在として、エンゲージメント・ファンドの重要性を評価し直す必要があると考えます。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
ファンドマネージャー 川部 正隆

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

レポートのダウンロード(247.5 KB)