スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「金利が上がるのに株価も上がる?」
最近、金利をめぐる報道が増えています。2024年3月に日本銀行はマイナス金利政策を解除し、約17年ぶりに「金利のある世界」へと転換し、そして足元は、政策金利の更なる引き上げにより「金利の上がる世界」へと突入しています。今回のニッポン解剖では、「金利の上がる世界」における株式投資について考えます。
2016年から始まった日本のマイナス金利政策は、2024年3月の金融政策決定会合で解除が決定され、「金利のある世界」へと回帰しました。そして、2025年12月には、政策金利が0.75%程度まで引き上げられ、約30年ぶりの水準となりました。長期金利についても、2026年1月20日には新発10年国債の利回りが一時2.38%まで上昇し、約27年ぶりの水準となりました。財政拡張的な政策による財政懸念が高まったことで、超長期債の利回りが急上昇し、日本版トラス・ショック(※1)を彷彿とさせる場面もありました。
金利上昇は、資金調達コストが上がることにより、企業の事業活動に影響があるだけでなく、株価そのものへも影響を与えます。企業価値(株価)の算定方法に、DCF法(割引キャッシュフロー法)があります。これは、企業が将来生み出すと期待されるフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値(株価)を求める手法です。フリーキャッシュフローとは、企業が事業活動によって稼いだ資金から、事業の維持・成長に必要な設備投資などの費用を差し引いて残った資金を指します。このフリーキャッシュフローを現在価値に割り引く際に使う割引率には、構成要素として、長期国債利回りが用いられることが多くあります。政策金利の引き上げにより、長期国債利回りも上昇すると、それに伴って割引率も高くなります。割引率が上がるということは、企業の稼ぐ力であるフリーキャッシュフローが変わらなくても、その「現在価値」が小さく計算されます。つまり、政策金利の引き上げはDCF法で算出される企業価値(株価)の低下につながることになります。このような仕組みから、一般に金利が下がると株価は上がり、金利が上がると株価は下がると言われています(もっとも、金利と株価の関係は単純な一方向の因果ではなく、景気局面やインフレ期待によっても左右されます。)。
では、金利上昇局面にある今、株価は下落傾向にあるのでしょうか。日経平均株価は5万円を超えた水準で推移しており、上述の考えとは矛盾する動きとなっています。その背景には、インフレによるフリーキャッシュフローの拡大という重要な要因が考えられます。インフレ下では、企業は原材料費や人件費などのコスト上昇に直面する一方で、同時に製品・サービスの販売価格を引き上げやすい状況が生まれます。その結果、仮に数量が横ばいであっても、売上高自体は増加し、営業利益の押し上げ要因となり、ひいては、フリーキャッシュフローの拡大につながる傾向にあります。つまり、金利が上がっても、インフレによって企業が稼ぐキャッシュがそれ以上に大きく増えていれば、DCF法で計算される企業価値(株価)は上昇することになります。現在の株価上昇は、まさにこの構図を反映していると考えることが出来ます。
一方で、全ての企業が製品・サービス価格を継続的に上げられるとは限らず、今後は企業間の優勝劣敗が一段と進むと思われます。「金利の上がる世界」においては、売上やフリーキャッシュフロー拡大への市場からの要請はさらに強まります。金利の上昇が企業をふるいにかける中で、真にキャッシュを生み続けられる企業が評価される時代に突入しています。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
※1:2022年に英国のトラス首相が財源なき大規模減税を打ち出して、国債急落・英ポンド安・株安が進んだ結果、首相が就任44日で退陣に追い込まれた出来事
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