スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「中東緊迫が映す構造変化-地政学的リスクが試す日本企業のバランスシート改革」
中東情勢の緊迫化を受けて、金融市場にも動揺が広がっています。本稿が公開される頃には、事態が鎮静化に向かっていることを願いたいところですが、事態がどう推移するかにかかわらず、筆者としては、より息の長い構造的な変化が起こっていく可能性に着目しています。こうした変化は、近年進み始めた日本企業のバランスシート改革にも影響を与える可能性があります。今回のニッポン解剖では、中東情勢の緊迫化がもたらし得る構造変化と企業のバランスシート改革に与える影響について考えます。
米国とイスラエルによるイラン攻撃を受けて中東情勢が不安定となる中、原油価格が急騰しています。事態が早期に沈静化し、原油価格が安定化に向かうことが期待されますが、仮に沈静化した後であっても、エネルギー安全保障がこれまで以上に意識されることになるでしょう。歴史を振り返れば、過去の中東情勢の悪化やオイルショックは、日本のエネルギー政策や経済構造に大きな転換をもたらしてきました。以下では、過去の中東情勢の悪化やオイルショックを振り返りつつ、今回の情勢がもたらし得る構造的な変化について考えます。
1970年代の二度のオイルショックに際し、日本は「省エネ技術の導入」、「重厚長大から軽薄短小への産業構造の転換」、「石油備蓄の拡充や代替エネルギーの活用」といった取り組みによって危機を乗り越えてきました。株式投資においては、今回の中東情勢の悪化についても、マーク・トウェインの言葉にあるように「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という視点が重要になります。過去の経験を手掛かりに、今後必要とされる企業を見極めていく姿勢が求められます。その観点から注目されるのが、省エネ技術を持つ企業です。日本は、低燃費車、高効率発電、省エネ家電、高断熱住宅など、多くの省エネ分野で強みを持っています。資源に乏しい国だからこそ磨き上げてきた技術です。原油価格が上昇する局面は経済にとって逆風となりますが、その過程で省エネ技術の重要性は一段と高まります。今回の中東情勢も、日本企業の技術力が改めて評価され、国際競争力の向上につながる契機となる可能性があると考えています。
一方で、外部環境の不確実性が高まる局面では、筆者としては、進み始めた日本企業のバランスシート改革にブレーキがかかる可能性についても危惧しています。地政学的リスクやエネルギー価格の変動など先行きの不透明感が強まるほど、企業は手元資金を厚く保有し、成長投資や株主還元に慎重になる傾向があります。堅牢なバランスシートが重要であるとしても、その結果として投資機会を逃し、資本効率の改善が停滞するのであれば、日本企業の競争力という観点からは必ずしも望ましい姿とは言えません。
日本企業は従来から多額の現預金を保有する傾向が指摘されてきました。不確実性の高まりを理由に、規律や戦略を伴わないまま金融資産を積み上げていく姿勢は避けるべきと考えます。実際、コーポレートガバナンス・コードの次期改訂においても、「現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化」が検討の方向性として示されています。不確実な時代だからこそ、資本の使い方に対する規律がより重要になると考えられます。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
ファンドマネージャー 川部 正隆
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