スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「バランスシートが動き出す時 -JAPAN is BACKへの挑戦」
日本でコーポレートガバナンス・コードが制定されてから10年が経過し、社外取締役の拡充や株式持ち合いの解消など、企業統治改革に向けた多様な取り組みが行われてきました。現在、5年ぶりのコード改訂に向けた議論が始まっており、検討の方向性として、「現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化」が挙げられています。今回のニッポン解剖では、日本企業が持つ現預金の有効活用について考えます。
コーポレートガバナンス・コードは、安倍政権が進めたアベノミクスの中の「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」で打ち出されたものです。「企業経営者に大胆な新陳代謝や新たな起業を促し、それを後押しするため、設備投資促進策や新事業の創出を従来の発想を超えたスピードと規模感で大胆かつ強力に推進する」ための施策の一つが、コーポレートガバナンス・コードであると理解しています。同コードによって、攻めの会社経営を後押しすることを期待されて社外取締役の拡充が図られ、経営の規律低下が懸念される株式持ち合いも解消の方向に向かっています。しかし、当初の目論見通りに、設備投資や新規事業の創出が大胆かつ強力に推進されているかといえば、筆者としては疑問が残ります。
マクロ的な観点から見てみましょう。日本は長らくデフレの状態にありました。そのため、企業が商品開発に創意工夫を凝らしても値段を上げることが難しく、日本企業全体の売上高は低迷が継続していました。しかしながらそういった中でも、企業は利益水準を着々と向上させてきました。売上高が伸びない中で、利益水準を向上させるためには、人件費や設備投資、研究開発費などの各種費用を抑制する必要があります。必要な投資を抑えた利益水準の向上は持続性に懸念がありますが、少なくとも、日本企業は現預金(※1)を着々と積み上げてきました。2010年度には約190兆円だった現預金水準は2024年度には350兆円超まで拡大してきています。この積み上がってきた現預金をいかに次の投資に繋げられるかが、アベノミクスの積み残しであり、高市政権のサナエノミクスに求められることだと思います。
今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、前述の通り、この現預金の有効活用が主要な論点の一つとなっています。高市首相が内閣発足にあたり閣僚に出した指示書においても「企業統治の強化」が記載されており、同コードの改訂は、注目に値するものになると予想されます。筆者としては、現預金の有効活用に向けた取り組みとして、「キャピタルアロケーションの開示」と「機動的な自社株買いの実施」が有力な選択肢となり得るのではないかと考えます。キャピタルアロケーションとは、現預金を含む保有資産(これから獲得できると期待するものを含む)をどのような領域で活用する(アロケーションする)かの計画です。まずは成長に向けた投資として保有資産を活用し、もし使い切れない状態であれば、残った資金で機動的に自社株買いを実施することで、企業の持続的な成長を優先した現預金の活用と資本効率の改善を実現できる可能性があります。
日本企業が保有する強固なバランスシートを成長の原動力として積極的に活用することで、「JAPAN is BACK」の実現が期待されます。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
※1:対象は日本銀行公表の「資金循環統計」における民間非金融法人企業
当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。