スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「日本企業は本当に変わったのか:資本コスト経営に向けた現在地」
日経平均株価の史上最高値更新の報道が増える中、この株高の持続性に関心が集まっています。株高の背景として、米国関税政策に関する不確実性の後退や、日本の積極的な財政政策への期待といったマクロ的な要因に加え、日本企業の資本効率改善への期待が挙げられます。2023年3月の東京証券取引所(以下、東証)による資本効率の改善に向けた要請から始まった株式市場改革は、現在3年目を迎えていますが、日本企業は本当に変化してきているのでしょうか。変化への単なる「期待」で終わってしまうのでしょうか。今回のニッポン解剖では、日本企業の資本効率改善に向けた「変化」の「進捗」を考えます。
東証は、企業による資本コストや株価を意識した経営(以下、資本コスト経営)への取組状況について調査しています。その調査によると、企業の取組状況は、企業群①「自律的に取組みを進める企業」、企業群②「今後の改善が期待される企業」、企業群③「(資本コスト経営に関する)開示に至っていない企業」の3つのグループに大別されています。プライム市場については、企業群①と②のグループが全体の約9割を占めており、日本企業の変化は着実に進展しています。企業群①の具体的な比率については開示されていませんが、概ね1割程度にとどまっていると推察されます。それでも、日本企業が資本コスト経営の実現に向けて進み始めていると理解できます。プライム市場上場企業の多くは、今後に期待が持てる企業群②に分類されており、資本コスト経営に対して前向きな姿勢を示していると考えられます。こうした企業が資本市場との対話を重ねていくことで、長期的にはプライム市場全体において、資本効率を意識した経営が一層進展していくことが期待できます。
一方で、気になる企業からのコメントも見受けられます。「PBR(株価純資産倍率)は1倍を超えている」、「ROE(株主資本利益率)は資本コストを上回っている」といった開示です。筆者の見解としては、PBR1倍や資本コスト以上のROEという水準は、「赤点ではない」というレベルであり、決して満足すべき水準ではないと考えています。投資家が期待するのは、単に基準を満たすことではなく、持続的な企業価値の向上です。「最低限の水準を満たした」状態を維持するのではなく、より良い企業を目指し続ける姿勢が求められます。東証も本要請に関する事例集において、「『PBR1倍』はあくまで1つの目安であり、PBRが1倍を超えていればよいというものではなく、投資者の視点を踏まえた多面的な分析・評価、積極的な取組みが期待されます」と指摘しています。
約1,600社が上場するスタンダード市場においては、約半数の企業が、本要請への理解促進が必要となる企業群③に分類されています。資本コストへの意識が高まる中、今後は非公開化という経営判断を行う企業が増加する可能性もあると思われます。過去に強い意識を持って行った上場を所与のものとせず、なぜ今上場している必要があるのかを常に考えながら、資本市場に向き合う必要性が増してきていると思います。
上場する多くの企業が、資本コストを意識した企業価値向上に取り組む一方で、上場を維持することが単なるコストとなった企業が非公開を選択することで、日本の株式市場の新陳代謝が進み、魅力向上につながっていくことが期待されます。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
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