スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「企業価値向上に向けた5つの施策」
本連載では、日本企業の価値向上に向けた5つの施策を提言してきました。①社外取締役によるアニマルスピリット喚起、②株式報酬の導入によるインセンティブ強化、③資本コストを意識した事業ポートフォリオ改革、④取締役のスキルの多様性、そして、⑤責任ある投資家の重要性です。今回のニッポン解剖では、この5つの施策を振り返ります。
1つ目は、社外取締役によるアニマルスピリット喚起です。取締役会において社外取締役が3分の1以上を占める企業の割合は、2024年にはプライム市場上場企業の98.1%にまで拡大しています。社外取締役は、社内昇進によって就任した取締役とは異なり、経営陣や特定の事業部へ忖度なく発言・行動ができる立場にあります。稼ぐ力を強化するためには、不採算となっている事業の整理を含めた聖域なき構造改革を、社外取締役がバックアップすることが大切です。また、事業運営が過度に保守的になっている場合には、適切なリスクテイクを促していく「攻めのガバナンス」も重要な要素となってきます。
2つ目は、株式報酬の導入によるインセンティブ強化です。日本企業においても役員報酬のインセンティブ設計は進んできましたが、従業員のインセンティブ強化も必要であると考えています。近年、賃上げの動きが加速していますが、日本企業の成長力を高めるためには、賃金水準の「一律の」引き上げだけでなく、従業員の企業成長への貢献を後押しするインセンティブ設計の強化が必要です。株式報酬制度の導入によって、従業員が株主になることができれば、インセンティブ強化に留まらず、企業価値向上による株価上昇や株主還元の恩恵を従業員も直接享受することが可能となります。
3つ目は、事業ポートフォリオ改革です。高収益事業を有していながら、全社ベースの収益性が低水準に留まるケースがあります。特に事業の多角化を進めた企業が、役割を終えた事業や花開かなかった事業を保有し続けている場合があります。結果として、高収益事業が生み出した利益を低収益事業や赤字事業が打ち消してしまい、全社ベースとしての収益性が低水準に留まるというケースです。資本コストへの意識が強まる中で、事業売却を含めた事業ポートフォリオの再構築が求められます。
4つ目は、取締役のスキルの多様性についてです。企業価値を高めるためには、ジェンダーなどの「属性」だけでなく、取締役会の「スキル」の多様性が企業業績に影響を与えると考えます。コーポレートガバナンス・コードでは、スキル・マトリックスの策定が要請されています。スキル・マトリックスとは、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したものです。ジェンダーや国際性といった属性による多様性だけでなく、企業の事業特性に応じたスキルの多様性についても求められています。一方で形式的な導入に留まっている企業もあるように思われますので、スキル・マトリックスの本質的な活用が必要です。
5つ目は、責任ある投資家の重要性です。株式投資とは、企業に出資することで、その企業の一部を所有する部分所有者(オーナー)になることを意味します。企業のオーナーとしての意識を持ち、長期的な視点から、企業経営をモニタリングし、必要に応じて変化を促していくという「責任ある投資家」の重要性が高まっていると思います。日本版スチュワードシップ・コードにおいても、投資先企業の企業価値向上や持続的成長を促すことの機関投資家としての責任が金融庁によりまとめられており、機関投資家に留まらず、多くの投資家にとって一読の価値がある指針となっています。
以上、企業価値を高めるための5つの施策を振り返ってきました。多くの日本企業が今変革の時を迎え、実際に変化しつつある企業も増えています。局所的な変化で終わることなく、多くの企業が変革し、日本が成熟国から再度成長軌道に乗っていく未来につながっていくことを願ってやみません。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。