スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「増える対話型投資:エンゲージメント・ウォッシュを考える」
日本においてアクティビスト・ファンドやエンゲージメント・ファンドの存在が目立ち始めています。両者ともに企業に対して変革を促していく点は似ていますが、その中心的な手法が異なります。筆者の理解では、アクティビスト・ファンドは、「株主権の活用」による企業経営への直接的な介入を中心的な手法としています。一方で、エンゲージメント・ファンドは、「企業との対話」によって、企業の自発的な変化を促します。
エンゲージメント・ファンドは、その活動実態が見えにくいという指摘があります。アクティビスト・ファンドは株主提案やパブリック・キャンペーンなど、その具体的な活動が目立ちやすいのに対して、エンゲージメント・ファンドは、企業と非公開で個別に対話を行うことが多く、そのため活動の実態を外部から把握しにくい場合があります。
現在、エンゲージメントを行っていると表明するファンドが増えてきたように感じます。その背景には、多くの機関投資家が受け入れを表明しているスチュワードシップ・コードの存在があります。このコードは、投資家に対して「目的を持った対話(エンゲージメント)」を求めており、単なる投資先企業のモニタリングにとどまらない主体的な企業への関与姿勢を重視しているとも理解できます。一方で、筆者の見方では、ファンドによってこのエンゲージメント活動の濃淡に差があるように感じられます。極端な表現をすれば、企業と表面的な対話をしただけで、エンゲージメントを行っていると表明するようなケースです。筆者はこれを「エンゲージメント・ウォッシュ」と呼んでいます。以前、名称や投資戦略にESGを掲げるファンドが増加した際、実態が伴っていないのではないかという懸念が指摘されました。いわゆるグリーン・ウォッシング問題やESGウォッシュ問題です。筆者は同様に、エンゲージメントの実態が十分でないにもかかわらず、あたかも行っているかのように表明する「エンゲージメント・ウォッシュ」が今後増加するのではないか、と懸念しています。
エンゲージメント・ウォッシュを見抜くことは容易ではありません。しかし、エンゲージメント・ファンドは、日本企業の価値向上に貢献するだけでなく、伝統的なアクティブ・ファンドとは異なる投資機会を提供する可能性を持っています。エンゲージメント・ウォッシュを見抜くためには、企業とファンドが、どれだけ具体的なテーマで対話が行われているかをチェックする必要があります。よくある論点としては、①企業の「バランスシート(貸借対照表)の効率化」や、②「事業ポートフォリオの効率化」、③「IR活動の積極化」などが挙げられます(※詳細は、Vol.27 「エンゲージメント・ファンドの対話論点」(https://www.sparx.co.jp/report/detail/2312.html)をご参照ください)。論点はこれらに留まりませんが、企業のビジネス特性や成長フェーズ、その事業環境等に関する深い理解に基づいたエンゲージメントであるか否かがカギになります。公募投資信託であれば、月次報告書等が公開されていますので、企業とファンドとの間でどのような対話が行われているのかを確認することが肝要です。
エンゲージメント・ウォッシュに陥らず、企業と投資家との建設的な対話(エンゲージメント)によって、企業価値の向上と投資リターンの拡大が図られることが期待されます。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
※ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.27は以下のサイト
https://www.sparx.co.jp/report/detail/2312.htmlでご覧いただけます。
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