スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「量から質へ-日本株式市場改革が描く未来」
2025年末の東京証券取引所(TOKYO PRO Market除く)の上場企業数は2024年末の3842社から50社以上減少しました。既に当レポートで触れている通り、2024年から減少に転じており、2年連続で上場企業は減少することとなります。2000年以降、米国、英国、ドイツなど先進国の主要取引所が上場企業数を減少させる中で、日本は唯一、上場企業数を増加させてきた市場だったことから、大きな転換点であると考えられます。今回のニッポン解剖では、上場企業数を通じて、日本の東証市場改革の取り組みについて振り返ります。
まず、参考事例として、米国市場(ニューヨーク証券取引所とNasdaq)の1976年から2016年にかけての上場企業数の長期トレンドを見てみましょう。米国市場では事業会社同士による戦略的なM&AやPEファンドによる買収などを通じて、毎年100社を超える企業が上場廃止となってきました。米国では上場を維持し続けるために、多大な経営努力が必要となる厳しい市場であることが伺えます。その甲斐もあってか、米国市場の上場企業数は減少しつつも、市場全体の時価総額は上昇することで、一社当たりの平均時価総額は増加しています。
日本においても、これまで当レポートでも取り上げてきたMBO(経営陣が参加する買収)、親子上場の解消を目的とした組織再編の増加に伴い、上場企業数の減少が本格的に始まっています。東証は上場企業に対して、コーポレート・ガバナンスや企業価値の向上を求める姿勢を強めて来ました。2022年の取引市場再編を発端に、2023年には資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請や、上場子会社に関する情報開示の充実など、様々な施策を打ち出しています。中長期的な戦略遂行のために経営の自由度を向上させることや、情報開示義務の拡大による上場維持コストの増加を動機として、上場廃止を選択する企業が増えることは、市場の健全性という観点で望ましいことだと思います。一方で、MBOや支配株主による完全子会社化は、出来るだけ安い価格で取得したい買収者と、適正価格で売りたい少数株主の間で、利益相反のリスクが潜んでいます。この問題に対処すべく、2025年7月に東証はM&Aの対象会社の特別委員会に対して、取引条件や手続きが公正に検討されたものであることの説明を求めるべく、上場規定の改正を行いました。この改正の中で、上場会社はIR体制の整備をしなければならない旨も新たに規定されており、株主との関係構築が持続的な企業価値向上において、重要な要素であるとの認識を強めるものとなりました。
上場企業の数そのものではなく、質にこだわるという、市場改革の取り組みによって、高いガバナンス水準を備え、中長期的な企業価値の向上にコミットする、選りすぐりの企業が集う市場となり、グローバルな投資家から見た日本の株式市場の魅力は着実に向上していくことが期待されます。
ただし、GDPあたりの上場企業数という指標では、日本は他の先進国市場と比較した際に、依然として上場企業数が多いというのも事実です。市場改革の進展によって、日本市場はまだまだ良くなる余地があると捉えています。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
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