ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「企業価値向上と責任ある投資家」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「企業価値向上と責任ある投資家」

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 本連載では、日本企業の価値向上施策として、社外取締役によるアニマルスピリット喚起や、資本コストを意識した事業ポートフォリオ改革、株式報酬制度の導入によるインセンティブ強化、そしてスキル・マトリックスを活用した取締役のスキルの多様性について提言してきました。今回は、5つ目の施策として、「責任ある投資家の役割」について考えます。

 最初に、日本企業の株式所有構造を振り返りたいと思います。1980年代までの日本企業は、銀行などの金融機関による株式所有が大きいという特徴がありました。銀行(メインバンク)は、融資先である顧客企業の株式を所有し、その経営を監督するというメインバンクシステムが機能していました。企業業績が悪化すると、銀行が経営に介入し、経営者を更迭することもあるなど、銀行は、企業経営の監督を一手に担ってきたとも言えます。しかし、1990年代以降は、金融機関による株式所有は減少し、日本において企業経営の監督者が不在になったとの指摘があります。現在は、海外投資家をはじめ機関投資家や個人投資家までさまざまな株主による所有構造へと変化しており、メインバンクに代わって、多様な株主による企業統治の重要性が高まっています。

 株式投資とは、企業に出資することで、その企業の一部を所有する部分所有者(オーナー)になることを意味します。筆者の見解では、企業価値向上に貢献する投資家とは、企業のオーナーとしての意識を持った投資家です。中長期的な視点から企業経営をモニタリングし、株主の権利である議決権を適切に行使し、企業とともに企業価値の向上を目指すことが求められます。それは、企業を単なる銘柄コードとして捉え、企業のファンダメンタルズに関心を払わず、短期的な株価の上げ下げにのみ興味を持つような投資スタイルとは異なります。株式市場は、多様な投資スタイルを持った投資家によって構成されており、一概にオーナー意識を持たない株式投資を否定するものではありませんが、企業価値向上の観点からは、オーナー意識を持つことが重要だと考えます。

 日本版スチュワードシップ・コードには、投資先企業の価値向上や持続的成長を促すことの投資家としての責任が、金融庁によりまとめられています。2025年6月には第三次改訂が行われており、機関投資家にとって重要なガイドラインとなっています。機関投資家向けではありますが、多くの投資家にとって一読の価値があるものです。機関投資家以外の方にとっては少し専門的な内容になりますが、今回の第三次改訂では、実質株主の透明性向上に向けた見直しが大きなテーマの一つとなっています。機関投資家が保有する株式の管理は信託銀行に委託することが一般的であり、その場合、企業の株主名簿にはこの信託銀行の名前が記載されることになります。そのため、実質的な株主が誰なのか、企業側からは不明瞭であるとの課題がありました。この実質的な株主を把握しやすくする取り組みが、今回の第三次改訂のテーマの一つとなりました。議決権を行使して企業に影響を及ぼす存在である実質株主との対話の必要性が高まっていることが背景にあると考えられます

 日本企業の価値向上に向けて、企業自らの変革に留まらず、株主が中長期的な視点から、企業経営をモニタリングし、必要に応じて変化を促していくという「責任ある投資家」の重要性が高まっていると思います

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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