ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「株主還元拡大と成長投資-日本企業の現預金活用を考える」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「株主還元拡大と成長投資-日本企業の現預金活用を考える」

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 上場企業による株主還元が急拡大しています。企業に対して資本効率改善への要請が強まる中で、余剰資金を株主に還元する動きが活発になっています。その一方で、株主還元を拡大させるために、人件費や設備投資など必要な投資を抑制させているのではないか、という論調が見られます。今回のニッポン解剖では、この急拡大する株主還元について考えます。

 株主還元は、企業が事業活動を通じて得た利益や、これまで蓄積してきた利益の一部を出資者である株主に配分・返還することをいいます。配分手段としては、配当金の支払いや自社株買いなどがあります。特に自社株買いについては、自社株取得枠の設定総額が2024年は前年比9割増の約18兆円まで増加し、2025年についても高い水準を維持しています。自社株買いには、上場企業が株式市場から自社の株式を買い戻し、その株式を消却(※1)することで、1株当たりの利益や資産価値を増やす効果があります。そのため、企業に対して資本効率改善への要請が強まる中で、自社株買いによって余剰資金を株主に還元する動きが活発になっています。

 では、この株主還元強化を優先するあまり、企業は人件費や設備投資などの必要な投資を抑制してきているのでしょうか。確かに、日本は他の先進国と比較して、売上高に占める研究開発費や設備投資の比率、人材に対する教育投資の比率が低いという指摘があります。配当や自社株買いといった株主還元は、人件費などの必要な費用を支払った後の最終利益(当期純利益)をもとに行われるのが一般的です。そのため、株主還元の絶対額を引き上げるために、各種費用が削られているのではないかという指摘につながっているのだと考えられます。この指摘に対して、筆者として考えを提示したいと思います。

 まず前提として、日本企業はこれまで現預金を着々と蓄積してきました。2010年度には約190兆円だった現預金水準は2024年度には350兆円超まで拡大しています。この積み上がってきた現預金については、如何に再投資先を見つけて、次の投資に繋げられるかが肝要です。コーポレート・ガバナンスコードの次期改訂においても、その検討の方向性として、「現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化」が挙げられています。現状は、この蓄積してきた利益の一部を出資者である株主に返還していると見ることができます。

 株主にとって、株主還元を強化するよりも、高い利益を生む事業に再投資してもらった方が望ましいケースがあります。そうすることで、企業の事業価値成長による株価上昇(キャピタルゲイン)が期待できることもあるからです。しかしながら、企業のライフサイクルが成熟期や衰退期に入り、高い利益を生む再投資先が限られてきた場合には、株主還元を強化することも選択肢になると考えます。日本全体として株主還元が強化されているのは、成熟期に入った企業が増えてきたという側面もあると思います

 一方で、日本が成長軌道に戻るためには、株主還元の強化ではなく、利益を生む事業への再投資を優先する姿勢が求められると言えます。ただし、株主還元の拡大を一概に問題視するのではなく、企業がライフサイクルのどの段階にあり、どのような資金使途を優先すべきかを見極める視点が重要です。とりわけ成熟期の企業には株主還元の強化により、出資者である株主に報いていく必要もあると考えます。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

1:取得した自己株式は純資産のマイナス勘定として会計処理されるため、消却しなくても会計上は同様の効果を得られます。しかし、再度市場へ売り出させる希薄化リスクが意識されるため、消却するか、今後の保有方針を丁寧に説明することが大切だといえます。

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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