ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「株主還元は、本当に成長投資を阻害しているのか?」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「株主還元は、本当に成長投資を阻害しているのか?」

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 株主還元の強化が、企業の成長投資を阻害しているのではないかという論調が見られます。以前、本稿では、株主還元の拡大を一概に問題視するのではなく、企業の成熟度や成長ステージなどを踏まえ、その企業のライフサイクルに応じて評価すべきだと述べてきました。しかし、その後も株主還元の拡大を一律に否定的に捉える論調は続いており、むしろその勢いを増しているようにも感じられます。そこで本稿では、改めて株主還元の拡大に対する考え方を整理したいと思います。

 筆者も、成長機会が存在するにもかかわらず、株主還元の拡大によって成長投資が妨げられるような状況は決して望ましいものではなく、問題視されるべきだと考えています。一方で、企業が株主に対して明確な成長戦略を示さないまま、「将来の投資機会に備える」という名目で規律なく現預金を積み上げているのであれば、株主還元の拡大を検討すべき場合もあります。また、筆者の把握する限り、アクティビストを含む多くの投資家が適切な成長投資を犠牲にしてまで株主還元の強化を求めるケースは決して多くはないと感じています。むしろ、多くの場合において問題視されているのは、成長戦略や資本配分の方針が十分に示されないまま、過剰な現預金を保有し続けている企業です。そのような企業に対して、株主還元の強化を求める声が上がっているのです

 数字から状況を確認してみましょう。経済産業省の資料()によると、増配と自社株買いの拡大により、株主還元額は大幅に増加しています。増配と自社株買いを合わせた総還元額は、2013年の約11兆円から2024年には42兆円に拡大しました。一方で、同期間におけるTOPIX500企業の現預金残高も55兆円から118兆円に増加しています。こうした数字を見る限り、株主還元の拡大によって企業の現預金が減少し、成長投資に回す余力が失われているとは言い難いと考えます。もちろん、個別企業によって事情は異なりますが、少なくとも日本企業全体でみると、投資に活用できる現預金に余裕がないという状況にはありません。また、企業の総資産に占める現預金の比率を見ると、日本企業(TOPIX500)は過去10年間で約1.8ポイント上昇し、2023年度には10.7%となっています。一方、米国企業(SP500)は6.6%、欧州企業(BE500)は7.7%であり、いずれも日本企業よりも低い水準です。

 適切な成長投資を実現する上で鍵となるのは、社外取締役によるアニマルスピリットの喚起と、IR活動を通じた株式市場との適切なコミュニケーションにあると考えています。社外取締役は、社内出身の取締役とは異なり経営陣や特定の事業部門にとらわれない立場から意見を述べることができます。事業運営が過度に保守的になっている場合には、成長に向けた適切なリスクテイクを促す「攻めのガバナンス」が重要な役割を果たします。また、成長投資を優先するために一時的に株主還元を抑制するのであれば、その必要性や期待される成果について投資家へ丁寧に説明することが欠かせません。なぜ今は株主還元よりも投資を優先するのか、その投資によってどのような成果が期待できるのかを十分に共有できれば、投資家の理解を得ながら、より機動的な経営判断を行うことができるでしょう。

 株主還元拡大の是非を議論する前に、その企業にとって最適な資本配分とは何かを考えることが重要です。投資家が求めているのは必ずしも株主還元そのものではなく、資本の有効活用にあると思います。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
ファンドマネージャー 川部 正隆

※ 経済産業省 成長投資ガイダンス エグゼクティブサマリー データ集

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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