スパークス・ジャパン・オープン | 投資信託 | スパークス・アセット・マネジメント

スパークス・ジャパン・オープン
(愛称:キョウソウの架け橋)

  • NISA成長投資枠対象ファンド
日経新聞掲載名
ジャパン
分類
追加型投信/国内/株式
設定日
決算日
毎年5月19日

基準日:2024.03.28

基準価額
36,716
前日比
-218
-0.59%
純資産総額
24.4億円
分配金情報(税引前)
320
  • 当ファンドは、NISAの「成長投資枠(特定非課税管理勘定)」の対象ですが、販売会社により取扱いが異なる場合があります。詳しくは、販売会社にお問い合わせください。

基準価額推移

分配金実績

決算頻度:1回/年

設定来合計
3,470
直近12期計
2,420

分配金実績一覧

2023年05月19日
320
2022年05月19日
300
2021年05月19日
300
2020年05月19日
300
2019年05月20日
300
2018年05月21日
300
2017年05月19日
300
2016年05月19日
0
2015年05月19日
300
2014年05月19日
0
2013年05月20日
0
2012年05月21日
0
2011年05月19日
0
2010年05月19日
0
2009年05月19日
0
2008年05月19日
0
2007年05月21日
0
2006年05月19日
1,000
2005年05月19日
50

月次報告書

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

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2024年2月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.93%上昇し、日経平均株価は前月末比7.94%の大幅上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)の内容を受け早期の米利下げ期待が後退し一進一退の動きで推移しましたが、月半ばから後半にかけては内田日銀副総裁がマイナス金利解除後も日銀は緩和的な金融環境を維持するとの認識を示したことや、生成AI(人工知能)向け半導体需要の増加が期待される米国で半導体関連企業の株価上昇が続き、日本の半導体関連企業にも資金が集中したことから、続伸しました。22日には日経平均株価は39,098.68円で終え、約34年ぶりに最高値を更新しました。その後の日本株式市場の推移は緩やかだったものの、月末まで日経平均株価は39,000円台を維持したまま当月の取引を終えました。

ファンドの運⽤状況

 当月、当ファンドのパフォーマンスは、前⽉末⽐3.12%の上昇となり、参考指数であるTOPIX(配当込み)の同4.93%の上昇を1.81%下回りました。
 当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与した企業は、東洋炭素、MARUWA、東京エレクトロンなどでした。⼀⽅、マイナスに影響した企業は、ライフドリンク カンパニー、ソニーグループ、メルカリなどでした。

 当月は当ファンドで保有する「ファーストリテイリング」について、投資の理由・魅力をコメントしたいと思います。ファーストリテイリングは、「ユニクロ」を主⼒ブランドとして国内外で展開するアパレル企業です。同社は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という企業理念のもと、世界中のあらゆる人々に良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供し、社会の持続的な発展に貢献することを目標としています。
 終戦直後の1949年、柳井等氏が宇部中央銀天街商店街で紳士服店「メンズショップ小郡商事」を開業したことが同社のルーツとなります。柳井等氏の息子にあたる柳井正氏(現代表取締役会長兼社長)は1972年に同社へ入社しています。その後も同社は紳士服店として経営されていましたが、商店街の衰退という時代の変化に直面し、柳井正氏は経営改革に着手します。柳井正氏が代表取締役社長に就任した1984年、同社はカジュアルウェアのユニクロを新規出店し、多店舗展開を開始します。1988年には、品質の良いカジュアルウェアを安価で確保するため「SPA(製造小売業)」の方針へ転換し、今日における同社のビジネスモデルの基盤を確立しました。2001年には英国ロンドンにユニクロ初の海外店舗を出店し、展開地域を拡大しながら成長を続けてきました。
 当ファンドでは、欧米におけるユニクロ事業の成長が加速することに期待をして投資をしています。国内ユニクロが成熟期を迎えつつある一方、海外ユニクロは同社の成長の柱となっています。海外店舗数は2013年の446店舗に対して2023年には1,634店舗まで拡大し、営業利益の約6割を海外が占めるようになりました。欧米ではユニクロ既存店の成長が続くなか、同社は出店を加速させる方針を打ち出しています。
 次の二つの理由から、欧米の成長加速には期待できると当ファンドでは考えています。第一には、同社のMDMerchandising、商品計画・商品化計画)の向上を背景とした顧客層の拡大が挙げられます。欧米の消費者のニーズを捉えたグローバル視点の商品開発にシフトした結果、例えば欧州では若年層の女性を中心に新規顧客層が拡大しています。欧米全体で品質・機能性・デザイン性を重視する同社の「LifeWear(究極の普段着)」への支持が高まりつつあるようです。同時に、MDの精度が向上したことで欧米事業の粗利率・販管費率はいずれも改善傾向にあります。第二には、経営チームの確立が挙げられます。現地のマネジメント人材が育ち、機動的な判断を行うことができる経営チームが確立したことで、海外ユニクロの事業展開力が向上していると考えられます。
 同社は様々な社会貢献活動に取り組んでいますが、LifeWearというブランドコンセプトが同社のサステナビリティへの姿勢を象徴していると当ファンドでは考えています。LifeWearのコンセプトは、機能性や耐久性が高くシンプルなデザインの製品群として具現化されています。その特徴から製品は長期にわたり使用可能となるため、シーズンごとにトレンドに合わせて衣類を買い替えるファッションアイテムと比較すると、省資源につながる消費行動を促すことにつながります。また、⾼品質でリーズナブルな価格という特徴によって、所得や資産の多寡に関わらず誰もが⾝に着けることができる⾐服という独⾃のポジショニングを確⽴していると考えます。古くから⼈類は⾐服によって権⼒や経済⼒を表現してきましたが、LifeWearはそれとは対極にある概念と⾔えます。LifeWearのコンセプトを実現するため、同社はこれまで年⽉をかけて培ってきた開発⼒・⽣産⼒を活かしつつ、⾐服の基本機能の強化に絶え間のない投資を行っています。積み上げられたノウハウや規模の経済が高い参入障壁として機能することから、同社の優位性は維持可能と当ファンドでは考えています。引き続き同社の成長に期待しています。

今後の運⽤⽅針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。 調査活動においては社会の大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。中長期的な観点から運用パフォーマンス向上を目指し、非財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する一助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として支えて行く所存です。

2024年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2024年1⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐7.81%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、能登半島地震の影響精査のため⽇銀が利上げを⾒送るとの⾒⽅が⾼まったことや、⽶連邦準備制度理事会(FRB)⾼官のタカ派な発⾔を受けた⽶⻑期⾦利の上昇を背景に円安が進み、⽉前半は⼤きく上昇しました。また、新NISA制度の開始による個⼈投資家の買い需要や、東京証券取引所の市場改⾰への期待感から海外投資家の資⾦も多く流⼊しました。⽉半ばから後半にかけては、利益確定の売り圧⼒や、⽶国半導体⼤⼿の業績⾒通しが市場予想を下回ったことから半導体関連銘柄を中⼼に⼀時下落基調に転じる場⾯もあったものの、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運⽤状況

 当ファンドの基準価額にプラスに貢献した企業は、低価格のドリンクを製造販売するライフドリンクカンパニー、総合電機企業の⽇⽴製作所などです。
 ライフドリンクカンパニーは、会社からのニュースはありませんでしたが、⽶系⼤⼿資産運⽤会社が⼤量保有報告書を出したことを好感したと思われます。⽇⽴製作所も会社からのニュースはありませんでしたが、⽇経平均株価が上昇するなか、⽇本を代表する総合電機企業として注⽬され買いが⼊ったと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、総合コンサルティングファームのベイカレント・コンサルティングなどです。ベイカレント・コンサルティングは当⽉発表された2024年2⽉期第3四半期決算において、利益成⻑率の鈍化が嫌気されたと思われます。
 当⽉は当ファンドで保有する「トーセイ」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 トーセイは1950年設⽴の総合不動産会社です。「あらゆる不動産シーンにおいて新たな価値と感動を創造する」ことを企業理念に据え業容を拡⼤してきました。現在は⾸都圏を中⼼に、不動産関連事業を展開しています。事業内容は、マンション・⼾建・オフィス・物流施設の開発、中古物件の転売、不動産賃貸、ホテル運営、不動産ファンド運営など、中堅規模の不動産会社でありながらも扱う物件のタイプ・事業が⾮常に幅広いことに特徴があります。
 当ファンドでは、各事業の安定成⻑が継続することに加えて、海外投資家による⽇本への不動産投資積極化の恩恵を受け不動産ファンドビジネスが拡⼤することに期待して投資をしています。同社の不動産ファンドの残⾼は2023年11⽉時点で2兆3,524億円まで拡⼤していますが、残⾼増加の多くは海外投資家によるものです。2023年から始まった国際的な⾦融引締めの流れとは対照的に、⽇本は⼤規模な⾦融緩和が継続しています。その結果⽇本の不動産のイールドギャップは主要国の中では⾼位を維持しており、引き続き投資妙味が⾼いといえます。また、円安も海外投資家にとって⽇本の不動産を割安に感じさせる要因となっており、同社の不動産ファンドの投資家は欧⽶系に加えアジア系にも広がりつつあるようです。
 同社の従来の収益構造は、不動産売買を通じたフロー収益が中⼼となっていました。しかし、その後不動産賃貸やホテル運営、不動産ファンドビジネスを中⼼とするストック型収益が拡⼤してきたことで、同社の収益構造は過去とは⼤きく変化しています。ストック型収益の⽐率が向上して収益の安定性が⾼まれば、より低いリスクで将来の利益を稼ぎ出すことが可能となるため、同社が株式市場から再評価される可能性は⾼まると当ファンドでは考えています。
 また、同社は脱炭素の観点からも社会に貢献できる⽴ち位置にあると当ファンドでは考えています。⽇本国内には約6,200万⼾の住宅ストック(2018年時点)と約10,500棟のオフィスビルストック(2023年時点)があり、対策を打たなければやがては⼤量の建物ストックが滅失を迎えることになります。同社は住宅やオフィスビルを購⼊して⾃社保有し、リノベーションを経て売却する売買事業を⼿掛けていますが、結果として建物の耐⽤年数を伸ばすことにつながるため、⼀般的な建て替えと⽐べるとCO2排出量の⼤幅な削減が可能となります。同社の試算によれば、例えば新築オフィスビルについて修繕⼯事を経て100年使い続けた場合、30〜40年に⼀度オフィスビルを建て替える従来型の⽅式と⽐べて、⼯事で発⽣するCO2の総排出量を約54%削減できるとのことです。⽇本の社会課題を解決することに貢献できる総合不動産会社として、国内不動産市場における同社の存在感はこれまで以上に⾼まっていくと当ファンドでは考えており、引き続き同社の成⻑に期待しています。

今後の運⽤⽅針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の⾼い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。 調査活動においては社会の⼤きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と⽇々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を⽣み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。中⻑期的な観点から運⽤パフォーマンス向上を⽬指し、⾮財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する⼀助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として⽀えて⾏く所存です。

2023年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年12⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.23%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は⽇銀の植⽥総裁と氷⾒野副総裁両名の発⾔を受けて⾦融政策修正の思惑が⾼まったことや、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)のハト派の内容を受けて⽶⻑期⾦利が低下したことで、円⾼が進み下落しました。⽉後半は、⽇銀⾦融政策決定会合における⾦融緩和維持の決定が好感される場⾯もありましたが、年末の閑散相場もあって円⾼基調が継続する展開が重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに貢献した企業は、低価格のドリンクを製造販売するライフドリンクカンパニー、オフィス機器や鉄筋結束機を製造販売するマックスなどです。
 ライフドリンクカンパニーは、会社からのニュースはありませんでしたが、⽇系⼤⼿資産運⽤会社が⼤量保有報告書を提出したことを好感した動きと思われます。マックスは、発⾏済株式数の1.1%相当の⾃社株買いを発表し、株式市場に好感されたと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、低価格イタリアンを直営展開するサイゼリヤなどです。サイゼリヤに関する⼤きなニュースはありませんでしたが、前⽉の株価上昇からの反動であると考えます。
 当⽉は当ファンドが保有する「⽇⽴製作所」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 ⽇⽴製作所は⽇本を代表する世界有数の総合電機企業です。1910年に茨城県の久原鉱業所⽇⽴鉱⼭付属の修理⼯場として発⾜し、1920年に⽇⽴製作所として独⽴しました。鉱⼭向けの電動機、変圧器、⽔⾞等の技術を基に鉄道、産業⽤機器、家電、半導体、ITなどへ事業領域を拡⼤し、世界でも有数の総合電機企業へと躍進しました。
 同社は創業者である⼩平浪平⽒の強い信念「優れた⾃主技術・製品の開発を通じて、社会に貢献する」を企業理念として継承し、100年の歴史を築き上げてきました。同社は⾃社の技術・製品を通じて社会を⽀え、安⼼で快適な世の中を実現することに尽⼒してきました。同社の企業理念は⼀貫していますが、どのような付加価値を通じて社会に貢献するのかというその形は変化を続けています。転機となったのは2009年3⽉期、リーマンショックの影響で8,000億円近くの最終⾚字を計上したことでした。その後はM&Aを活⽤しながらIT関連事業に注⼒する⼀⽅でITとの関連性が⼩さいグループ企業の売却を⾏い、事業構造の改⾰を進めてきました。
 当ファンドでは、国際的なDX(デジタルトランスフォーメーション)化や脱炭素の潮流を追い⾵に、構造改⾰を成し遂げた同社の成⻑⼒が加速すると考え、投資を⾏っています。従来、同社のビジネスモデルは製品の売り切りが中⼼でしたが、近年では社会インフラ全体をデジタル化・スマート化するニーズが⾼まっており、同社にとってのマネタイズポイントが拡⼤しています。その結果、既存顧客向けのストック収益を確保することで事業の安定性が⾼まるとともに、案件の⼤型化・⾼付加価値化が進み、収益性の改善を期待できると考えています。株式市場では⽇⽴製作所の事業のうち、特にLumada(⽇⽴製作所の独⾃IoT基盤)が注⽬されていますが、当ファンドではそれに加えてインフラ関連の事業も⾼い成⻑を期待できると考えています。
 代表例としては、再⽣可能エネルギーの送配電網のスマート化が挙げられます。近年、世界中の電⼒会社がHVDC(HighVoltage Direct Current:⾼圧直流送電)送電網への投資を強化しています。HVDC技術はきわめて⾼い効率性と制御性を備えていることから⻑距離送電に適しており、電⼒系統が抱える多くの課題を解決し、カーボンニュートラルの実現につながるものと期待されているためです。HVDC送配電システムの「頭脳」と呼ばれる制御・保護システムはHVDC技術の根幹に当たる部分であり、⽇⽴製作所が技術的な強みを発揮する領域です。⽇⽴製作所の最新の制御システムであるMACHは⾼い計算能⼒を備え、HVDCの制御・保護機能に対して⾼度な統合と処理を可能とします。カーボンニュートラルの要請から引き続き電⼒会社の設備投資は拡⼤を⾒込んでおり、送配電網事業について世界シェアトップの同社はその恩恵を受けられる⽴ち位置だと当ファンドでは考えています。
 また、鉄道のデジタル化も⼤きな事業機会です。地球温暖化や都市への⼈⼝集中といった社会課題を解決するため、世界的に鉄道への期待が⾼まっています。鉄道路線の新設や既存設備のリニューアルが進むと同時に、鉄道の分野でもデジタル技術を活⽤した顧客サービスの向上や業務効率化の波が押し寄せています。⽇⽴製作所は⾞両、駆動⽤制御装置をはじめ列⾞運⾏管理システムや電⼒管理システム、情報サービスなどのフルラインサービスを提供することで事業領域を拡⼤してきました。今⽇では⽇本だけでなく欧州・アジアをはじめとした海外での鉄道事業を積極的に展開しており、引き続きシェア拡⼤を期待できると当ファンドでは考えています。
 これらは環境負荷の低減と経済的価値の創出を両⽴するソリューションであり、同社は持続可能な社会の発展に貢献していると当ファンドでは評価しています。引き続き同社の成⻑に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の⾼い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。 調査活動においては社会の⼤きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と⽇々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を⽣み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。中⻑期的な観点から運⽤パフォーマンス向上を⽬指し、⾮財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する⼀助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として⽀えて⾏く所存です。

2023年11月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年11⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐5.42%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半はFOMC(⽶連邦公開市場委員会)での政策⾦利の据え置きや、市場予想を下回る⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の低下を背景に上昇しました。⽉半ばは、⽇本企業の良好な決算や、市場予想を下回る⽶国のCPI(消費者物価指数)を受けた⽶追加利上げ観測の後退などから、⽉中⾼値をつけました。⽉後半に⼊ると、中東情勢の地政学リスクの後退や⽶⻑期⾦利低下等を好材料に上昇した後、⼀時1ドル=146円台後半まで進⾏した円⾼が重しとなって下落基調に転じましたが、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに貢献した企業は、放熱⽤セラミック部品の製造販売を⼿掛けるMARUWA、総合コンサルティングファームのベイカレント・コンサルティングなどです。
 MARUWAに関する⼤きなニュースはありませんでしたが、引き続き下期以降の業績回復を期待した買いが⼊り、株価が上昇したと考えます。ベイカレント・コンサルティングに関しても⼤きなニュースはありませんでしたが、前⽉の株価下落からの反動であると考えます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、特殊⿊鉛製品の製造販売を⼿掛ける東洋炭素などです。東洋炭素は2023年12⽉期第3四半期決算を発表しました。シリコン半導体関連製品の減速が株式市場に嫌気されたと考えます。
 当⽉は当ファンドが保有する「ライフドリンクカンパニー」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 ライフドリンクカンパニーはペットボトル飲料の⼤⼿メーカーです。1950年に緑⾹園を創業し、茶卸業を開始したことが祖業にあたります。1972年に法⼈化され、以降、清涼飲料、乾麺やチョコレート製品などの⾷品、ソースなどの調味料、太陽光発電事業などに事業を拡⼤してきました。2015年、事業承継のためにPE(プライベートエクイティ)ファンドに買収され、その後はドリンク事業への集中を進め、2021年に上場を果たしました。
 同社は「おいしさの中⼼、安⼼の先頭へ。」を企業理念に掲げ、ペットボトル飲料業界のトップを⽬指して事業を拡⼤してきました。同社は⼩売店向けのPB(プライベートブランド)飲料製造が売上の60%程度を占めますが、今⽇ではミネラルウォーター市場における同社シェアは販売箱数ベースで第2位の規模に達していると当ファンドでは推測しています。
 同社の強みは、徹底した低コスト戦略にあります。同社は無糖系の4飲料(ミネラルウォーター、無糖炭酸⽔、緑茶、烏⿓茶)の製造に絞り、容器はペットボトルの形状を統⼀して500mlと2Lの2サイズのみを展開しています。競合他社の採⽔権を持つ⼯場を居抜きで買収し、同社の製造プロセスを導⼊することで⽣産性を改善し、⽣産能⼒を拡⼤してきました。競合他社が広告投資やペットボトルの形状を⼯夫するための設備の増強に費⽤を投じているのとは対照的に、同社は広告を打たずシンプルな⽣産体制の構築と各⼯程の内製化によってコストを削減し、販売価格を低価格に抑えることで差別化しています。また、結果としてサステナビリティへの貢献にもつながっています。同社はシンプルなペットボトルの形状を採⽤しているため、デザイン重視でペットボトルの表⾯に⽂字や模様を表現する競合他社と⽐べ素材を薄くでき、表⾯積も⼩さくなることから、資源の使⽤量を抑制することができています。
 当ファンドでは、同社が注⼒するミネラルウォーター市場が構造的に成⻑し、そのなかで同社がシェアを拡⼤すると考え投資をしています。ミネラルウォーター市場が成⻑すると考えられる理由は主に3つあります。第⼀に、⽔道⽔からミネラルウォーターへのシフトが進んでいることが挙げられます。特に若年層ほど⽔道⽔を飲むことに抵抗感を⽰しているようです。第⼆に、健康志向の⾼まりが挙げられます。飲料市場では加糖飲料が伸び悩む⼀⽅、無糖飲料は成⻑を続けています。第三に、昨今のインフレ環境で節約志向が進んでいることが挙げられます。可処分所得が増えにくい状況下で消費者は価格に敏感になっており、⾃販機やNB(ナショナルブランド)商品から割安なPB商品へと需要がシフトしているようです。このような事業環境は同社にとって追い⾵であり、シェア拡⼤が続くと思われます。インフレによって消費者が⽣活防衛意識を強める傾向があり、同社の低価格商品はより選好されやすくなると考えられます。
 ⼀⽅、同社はM&Aを通じた⽣産能⼒の拡⼤を続けてきたことから、案件が減少する可能性など、成⻑の持続性に懸念を持つ⾒⽅も存在します。しかしながら、2つの理由から引き続き同社は⽣産能⼒を拡⼤し、成⻑を続けることができると当ファンドでは考えています。第⼀に、来期は新⼯場が⽴ち上がり、⽣産能⼒が⼤幅に増強される⾒通しです。今後も⾃社⼯場の新設が続く可能性があります。第⼆に、依然として⽇本各地に飲料の製造⼯場は数多く存在すると思われます。競争が激化するなか多くの⼯場は採算⾯に課題があり、また⾼齢化で事業の承継者が不⾜する状況であることから、同社にとっての買収案件は豊富であり、⽣産能⼒の拡⼤を継続できると当ファンドでは考えています。引き続き同社の成⻑に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の⾼い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。 調査活動においては社会の⼤きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と⽇々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を⽣み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。中⻑期的な観点から運⽤パフォーマンス向上を⽬指し、⾮財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する⼀助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として⽀えて⾏く所存です。

2023年10月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年10⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐2.99%の下落となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は堅調な⽶雇⽤統計を受けての⽶⻑期⾦利の変動や、中東情勢の緊迫化などを受け乱⾼下の展開となりました。⽉後半に⼊ると、中国の景気刺激策が好感される場⾯があったものの、⽇銀の政策再修正への思惑や⽶テクノロジー企業の低調な決算への失望が株式市場の重しとなり、最終的に前⽉末を下回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した企業は、放熱⽤セラミック部品の製造販売を⼿掛けるMARUWA、低価格イタリアンを直営展開するサイゼリヤなどです。
 MARUWAは2024年3⽉期第2四半期決算を発表しました。減収減益の着地でしたが、同社が下期以降の業績回復を⽰唆したことが株式市場に好感され、株価が上昇したと考えます。サイゼリヤは2023年8⽉期通期決算を発表しました。会社計画を上回る好調な業績が株式市場に好感されたと考えます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、総合コンサル会社のベイカレント・コンサルティングなどです。ベイカレント・コンサルティングは2024年2⽉期第2四半期決算を発表しました。新卒や未経験者の採⽤が増加し、請負単価が横ばいで推移したことが株式市場に嫌気されたと考えます。
 当⽉は当ファンドが保有する「東洋炭素」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 東洋炭素は特殊⿊鉛製品で世界シェア約3割を誇るトップメーカーで、シリコンウェハ製造設備や半導体製造装置向けなど、⾼機能分野に特化した製品を⼿掛けています。製造⼯程を内製化していることから、⾼品質な製品を安定的に供給できる点に強みがあります。
 同社は「Inspiration for Innovation」をコーポレートスローガンに掲げ、画期的な製品開発により社会の変⾰に貢献できる企業を⽬指しています。1941年の創業来、専業メーカーとして理想の品質をひたすらに追求し、研究開発を重ねてきました。同社は業界に先駆けて「等⽅性⿊鉛(特殊⿊鉛製品)」の開発に成功し、従来の⿊鉛の問題点を⼤きく改善する新素材として注⽬を集めました。近年も⿊鉛製品表⾯にコーティングを施した機能性複合材料など次々と新製品を開発しており、⿊鉛製品のパイオニア企業として業界をリードしています。
 ⿊鉛とは、整った結晶構造を持ち、導電性や耐熱性、潤滑性を兼ね備えた素材です。⾝近なところでは鉛筆の芯にも使われています。⿊鉛は様々な産業分野の製品素材に採⽤されており、時代とともにより⾼品質な製品が開発されてきました。
 そのなかでも同社が扱う等⽅性⿊鉛は微粒⼦構造が異なり、材料のばらつきが少なく⾼い耐熱性や導電性、耐化学薬品性などを兼ね備えており、⾼い信頼性を誇ります。例えば近年需要が⾼まっているSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体の製造⼯程においては不純物を含まず超⾼温にも耐えうる素材が必要となりますが、ヒーターやサセプターと呼ばれる同社の特殊⿊鉛製品はそのような基準を満たす貴重な素材です。
 当ファンドでは、SiCパワー半導体市場の成⻑をドライバーとする同社の業績拡⼤に期待しています。
 世界的にEV(電気⾃動⾞)の⽣産台数が拡⼤すれば、部品として使⽤されるSiCパワー半導体の数量が連動して増加することが期待できます。その際、SiCパワー半導体の材料となるウエハの製造⼯程において特殊⿊鉛製品が必要となるため、当該製品の世界シェアが⾼い同社の受注は構造的に伸びていくと考えられます。
 以上のことから、当ファンドでは東洋炭素がEV業界の成⻑から恩恵を受ける良い⽴ち位置にいると考えています。
 ⼀⽅、同社のビジネスモデルの特性上、需要が減退した際に業績が⼤きく落ち込む可能性があることを懸念する⾒⽅が存在します。たしかに特殊⿊鉛製品の性質上、同社は受注から販売までのリードタイムが⻑いことから資産回転率が低く、また⽐較的設備投資負担が重い事業構造であると考えられることから、売上が減少する局⾯においては⼤きく利益が減少する可能性があります。
 しかしながら、⾜元ではむしろ⽣産能⼒がボトルネックとなるほどに需要が強い状況が継続しており、EV業界の構造的な成⻑が需要を⼒強く牽引すると考えられることから、過度な懸念は不要と当ファンドでは考えています。引き続き同社の成⻑に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の⾼い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。 調査活動においては社会の⼤きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と⽇々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を⽣み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。中⻑期的な観点から運⽤パフォーマンス向上を⽬指し、⾮財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する⼀助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として⽀えて⾏く所存です。

2023年9月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年9⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.51%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⽉前半は中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の改善により中国の景気後退不安が⼀時的に後退したほか、国内では早期衆院解散・総選挙への期待感が⾼まったことを受け、上昇基調となりました。⼀⽅⽉後半は、FOMC(⽶連邦公開市場委員会)で⾦融引き締めの⻑期化が⽰唆されたことや、⽶議会の予算協議が難航し政府機関閉鎖への警戒感が⾼まったことから、市場⼼理が悪化し値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を若⼲上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した企業は、保険会社の東京海上ホールディングス、総合ディスカウントストアのドン・キホーテを中⼼に事業展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどです。
 東京海上ホールディングスに関する⼤きなニュースはありませんでしたが、世界的な⻑期⾦利の上昇により資産運⽤益の拡⼤が期待され、株価が上昇したと考えます。パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは2023年8⽉度⽉次販売動向を発表し、既存店売上⾼がプラスを維持したことが株式市場に好感されたと考えます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、放熱⽤セラミック部品の製造販売を⼿掛けるMARUWAなどです。MARUWAに関する⼤きなニュースはありませんでしたが、前⽉の急騰からの反落と考えます。
 当⽉は当ファンドが保有する「積⽔ハウス」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 積⽔ハウスは賃貸住宅「シャーメゾン」を中⼼とする建築請負ビジネスや、強固な顧客基盤を活かした賃貸住宅のサブリース管理・リフォームから構成されるストック型ビジネス、⽶国など海外での⼾建販売ビジネスを展開する企業です。
 同社のルーツは、積⽔化学⼯業㈱において1960年に設⽴された⼯業化住宅の⽣産販売を⼿掛けるハウス事業部にあります。住宅業界で初めて⼾建住宅にユニットバスを採⽤し、⽊造住宅の⼯業化(シャーウッド)など商品⾯で業界をリードしてきました。賃貸住宅も商品開発を積極化するとともに、M&Aを通じて国際事業の事業規模を拡⼤してきました。誤解されやすい点ですが、今⽇の積⽔化学⼯業㈱が⼿掛ける「セキスイハイム」は、積⽔ハウスとは異なるブランドです。積⽔化学⼯業㈱はハウス事業部(現・積⽔ハウス)を分社化したものの、その後の住宅ブームを受けて1970年代に再度住宅事業に進出した経緯があります。
 同社はグローバルビジョンとして「わが家を世界⼀幸せな場所にする」ことを掲げ、⾼い技術⼒を背景に省エネに貢献できるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を商品の軸として成⻑を続けており、⼾建住宅や賃貸住宅のZEH⽐率向上に注⼒しています。
 当ファンドでは、特に賃貸住宅の建築請負と海外⼾建販売の事業拡⼤に期待しています。ZEH化は賃貸住宅の⼊居率の上昇につながるため、施主はそれを選択するインセンティブがあります。具体的には、ZEH化により快適性や経済的付加価値がもたらされることで、施主は賃料や⼊居率の引き上げが期待できます。施主がZEH化を選択することで請負単価の上昇が続いており、同社の成⻑ドライバーとなっていると考えます。
 昨今の電気料⾦の⾼騰、建築物省エネ法改正により2025年4⽉から新築建造物は省エネ基準への適合が義務化されることに加え、気候変動を背景とした⾃然災害増加による⾮常電源確保、賃貸住宅⼊居者のESG意識の⾼まりなども追い⾵になると考えます。また、海外においても、ZEHの導⼊により単価の引き上げが進み、収益性の改善につながる期待を持てると考えます。とりわけ、⽶国においてはZEH性能に強みを持つ同社の独⾃ブランドであるシャーウッドの展開が始まっており、将来的には量産⼯場建設を視野に本格展開を⽬指しています。
 ⼀⽅、国内の⼈⼝減少や⾜元の資材・エネルギー価格の上昇を受け、ハウスメーカーの業績悪化を懸念する⾒⽅も存在しますが、同社は⼈⼝流⼊が⾒込める都市部を中⼼に事業を展開しており、⼈⼝減少の影響は相対的に軽微と考えられます。また、住宅と賃貸いずれも富裕層向けで⾼価格帯であることから、顧客の価格許容度が⾼く、ハウスメーカーの中では相対的に値上げを進めやすい状況であると当ファンドでは考えており、実際に請負単価は⼾建と賃貸いずれも上昇が続いております。コスト上昇を価格転嫁したうえで、ZEHを軸にそれ以上の単価上昇を期待できることから持続的な成⻑が可能であると考えており、引き続き同社の成⻑に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の⾼い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。
 調査活動においては社会の⼤きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と⽇々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を⽣み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。
 中⻑期的な観点から運⽤パフォーマンス向上を⽬指し、⾮財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する⼀助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として⽀えて⾏く所存です。

2023年8月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年8⽉、⽇本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前⽉末⽐0.43%の上昇となりました。
 当⽉の⽇本株式市場は、⼤⼿格付け会社フィッチ・レーティングス社(⽶国)による⽶国債の格下げを背景とした⽶国株安の流れを受け、下落から始まりました。⽉半ばは、中国の軟調な経済指標(消費者物価指数など)や、中国不動産開発⼤⼿の⽶国破産法の申請が嫌気され、下げ幅を広げました。⽉後半は、中国の追加利下げが好感されたほか、ジャクソンホール会議においてさらなる利上げへの懸念が後退したことで値を戻す展開となり、最終的に前⽉末を上回る⽔準で⽉を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した企業は、放熱⽤セラミック部品の製造販売を⼿掛けるMARUWA、低価格のドリンクを製造販売するライフドリンク カンパニーなどです。
 MARUWAに関する⼤きなニュースはありませんでしたが、前⽉末に発表された2024年3⽉期第1四半期決算が引き続き株式市場に好感され買いが続いていると考えます。
 ライフドリンク カンパニーは2024年3⽉期第1四半期決算を発表しました。⽣産数量が⼤きく拡⼤したことが株式市場に好感されたと考えます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、トレーディングカードゲームを中⼼に事業展開しているブシロードなどです。
 ブシロードは、2024年6⽉期の業績予想で営業利益が前年同四半期⽐40.9%の減益となることが⽰され、株式市場に嫌気されたと考えます。
 当⽉は新規に投資を開始した「メルカリ」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 メルカリは⽇⽶でのフリマアプリや、キャッシュレス決済、クレジットカードサービスを運営する企業です。「あらゆる価値を循環させ、あらゆる⼈の可能性を広げる」ことを会社のミッションとして掲げています。現CEOである⼭⽥進太郎⽒が「限りある資源を循環させ、より豊かな社会をつくりたい」との思いから、㈱コウゾウとして2013年に設⽴されました。同年に国内オンラインマーケットプレイス「メルカリ」の提供を開始、同年11⽉に社名をメルカリに変更しました。2014年には⽶国での「Mercari」サービスの提供を開始しています。その後2019年にはフィンテック領域に参⼊し、事業を拡⼤しています。
 消費者の関⼼がリサイクルやリユースに向かいつつあるなか、当ファンドではメルカリの⽴ち位置は⾮常に良いと考えています。同社が実施した「2021年版 ⽇本の家庭に眠る“かくれ資産”調査」によれば、家庭の“かくれ資産”(1年以上利⽤していない不要品)は総額で約44兆円あり、うち毎年約6兆円が捨てられています。メルカリの流通総額には本来捨てられるはずだったものが多く含まれていると考えられ、社会全体のごみの減量化に貢献しています。また、官⺠を挙げて循環型社会の実現を⽬指すなかで“かくれ資産”の総額は年々伸び続けていることから、メルカリは成⻑市場に属しているといえます。
 現在、同社は国内のオンラインマーケットプレイス(フリマアプリ)のなかでトップシェアとなっていますが、事業拡⼤の機会は依然として豊富に残っており、⼤きく2つの要因から国内での成⻑加速が期待できると当ファンドでは考えています。
 ひとつは、ユーザー層の拡⼤です。これまで若年層を中⼼にユーザーを獲得してきた国内「メルカリ」については、ユーザー数の成⻑率が鈍化するのではないかという⾒⽅もあります。しかしながら、同社はイベント開催などを通じて中⾼年層ユーザーの開拓に注⼒しているほか、若年層ユーザーのさらなる獲得にも⾃信を⽰しています。市場規模の⼤きさに鑑みれば、中⾼年層向けは⾼い成⻑を継続できると当ファンドでは考えています。また、20〜30代もまだ「メルカリ」を使⽤していない層が多く、開拓余地は豊富に残されています。同社はユーザーエクスペリエンス(製品・サービスを利⽤することで得られる体験のこと)・ユーザーインターフェース(利⽤者と製品・サービスをつなぐ接点のこと)の改良や配送の効率化など、絶え間ない改善を続けてきました。環境保護への関⼼の⾼まりが追い⾵となるなか、ユーザー層拡⼤が続くと当ファンドでは期待しています。
 もうひとつは、周辺領域の拡⼤です。国内のマーケットプレイスである「メルカリ」のユーザーを基盤として、同社はスマホ決済サービスの「メルペイ」やクレジットサービスの「メルカード」に代表されるフィンテック領域へと事業を広げています。特に「メルカード」を「メルカリ」で使⽤すると還元率が⾼⽔準となることや、決済総額に応じてリアルタイムに還元率が上昇するゲーム性がユーザーの⽀持を集めています。フィンテック事業について、2023年6⽉期末時点の本⼈確認済ユーザーは約1,400万⼈、メルカード発⾏枚数は125万枚超と順調に伸ばしています。マーケットプレイスとフィンテックで相互利⽤が促進されれば、ユーザーあたりの売上増加による流通総額のさらなる拡⼤や、外部に⽀払っている決済⼿数料の削減、クレジットサービスの収⼊拡⼤が進み、国内事業全体の利益成⻑へつながると当ファンドでは考えています。
 当⽉半ば以降、同社の株価は下落しました。2023年6⽉期通期の決算において、同社が成⻑投資の再開を⽰唆したことが原因ではないかと当ファンドでは考えています。特に⾚字が続いている⽶国事業への投資を拡⼤するのではないかと懸念されたようです。しかしながら、当ファンドでは同社との⾯談を通じ、同社が規律ある投資を⾏っていく⽅針を維持すると判断しています。⽶国事業の低迷からの脱却には時間がかかると思われますが、⾚字拡⼤への過度な懸念は不要と当ファンドでは考えます。引き続き同社の国内事業を中⼼とした成⻑に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の⾼い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。
 調査活動においては社会の⼤きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と⽇々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を⽣み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。
 中⻑期的な観点から運⽤パフォーマンス向上を⽬指し、⾮財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する⼀助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として⽀えて⾏く所存です。

2023年7月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年7月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.49%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨にて年内2回以上の利上げが示唆されたことや、米国の雇用統計の結果を受け、利上げ継続への懸念が強まり下落して始まりました。一方で月半ばには、米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、利上げ停止が近いとの期待から堅調に推移しました。月後半は、日銀によるYCC(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化が発表され、一時的に値動きの激しい展開となりましたが、現行の緩和姿勢を維持するとの受け止めから市場に安心感が広がり、最終的に期初を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した企業は、低価格イタリアンを直営展開するサイゼリヤ、放熱用セラミック部品の製造販売を手掛けるMARUWAなどです。サイゼリヤは2023年8月期第3四半期決算を発表しました。海外事業の業績拡大と国内の収益性改善が株式市場に評価されたと考えます。
 MARUWAは2024年3月期第1四半期決算を発表しました。在庫調整が続く懸念があった情報通信向けの受注の底打ちを会社が示唆し、株式市場に好感されたと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、総合コンサルティング会社のベイカレント・コンサルティングなどです。ベイカレント・コンサルティングは、2024年2月期第1四半期決算を発表しました。若手コンサルタントの増員などにより単価の伸びが鈍化したことが株式市場に嫌気されたと考えます。
 当月は新規に投資を開始した「MARUWA」について、投資の理由・魅力をコメントしたいと思います。MARUWAは放熱用セラミック部品の製造販売を手掛ける世界的大手企業です。ルーツは江戸時代から続く陶芸家の家系にあります。大正時代に和食器の製造を始め、戦後には陶磁器に事業を拡大しました。高度成長期の1960年には、急速に需要が拡大していた電子部品(通信機器向け特殊磁器、固定抵抗器用セラミック)の分野へ進出し、今日につながる事業の基盤を築きました。その後、M&Aなどにより自社にない技術・製品を取り入れながらも成長を続けてきました。
 セラミックとは、窯で無機物を焼結して製造される素材です。タイルや窓ガラス、電子部品など、様々な製品に使用されています。同社は高度な製造ノウハウを必要とする「ファインセラミック」の製造を得意としており、世界シェアは窒化アルミニウム製品では60%以上、アルミナジルコニアでは70%以上を保持していると当ファンドでは推測しています。
 当ファンドでは、今後の同社の成長ドライバーはEV(電気自動車)向け、およびデータセンター等の情報通信向けの放熱セラミックだと考えています。EVは従来のガソリン車と比べて高電圧の電気でモーターを動かすため、適切に放熱がなされなければ、パワーデバイスが発熱、膨張し、電子回路が破壊される恐れがあります。また、データセンターは大量の電気を必要とし、結果として発熱が避けられないため寒冷地を選んで設置されることがあると言われるほどなので、放熱部品の重要性は高まっていると思われます。放熱部品として他の素材が使われることもありますが、EV向けやデータセンター向けなどの重要な分野においては信頼性が高いセラミック部品が好まれています。以上の理由から、当ファンドでは同社がEVやデータセンター業界の成長から恩恵を受ける立場にあると考えています。また、同社は競争上の理由などから情報開示については消極的なため、株式市場からの認知度や理解度はまだ向上の余地もあると思われます。
 一方、一部の株式市場参加者には、情報通信や半導体関連の減速による同社業績への影響を懸念する見方もあるようです。しかしながら、いずれも過度な懸念は不要だと当ファンドでは考えています。情報通信向けについては、前期末から中国を中心に在庫調整の影響を受けたものの、足元では受注は底打ちにあると当ファンドでは推測しています。今後は生成AI向けの需要が立ち上がってくると思われ、主に高速通信分野向けの受注拡大を期待できると考えます。半導体関連向けについては、同社の売上の約50%は消耗品であると思われ、半導体関連向けの業績が安定している要因になっていると考えます。特に、摩耗しない性質を持つ石英部品については、同社のシェアが上昇している可能性に当ファンドでは期待しています。更に、同社はEV向けの需要拡大に対応するため、工場の新棟建設を発表しています。EV向けの世界シェアが高い同社のセラミック部品がなければ世界的な電動化・電装化の実現が遠のくと言っても過言ではありません。構造的に拡大する需要に対応して生産能力を増強していくことで業績拡大が進むと考えます。引き続き同社の成長に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築しています。 
 調査活動においては社会の大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。
 中長期的な観点から運用パフォーマンス向上を目指し、非財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する一助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として支えて行く所存です。

2023年6月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年6月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比7.55%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半は米連邦債務の上限停止による米国株高の流れを受け、大幅に上昇いたしました。月半ばには、FRB(連邦準備制度理事会)による追加利上げの示唆を受けた軟調な米国株の影響や、衆院解散への期待剥落が嫌気された一方、日銀の金融緩和の維持、米著名投資家の日本株追加投資の発表が好感され、一進一退の動きで推移しました。月後半は、株価上昇の反発と見られる下落の局面もありましたが、米景気悪化懸念の後退と円安進行が下支えをし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに貢献した企業は、アパレル製造小売業のファーストリテイリング、総合電機・重電メーカーの日立製作所、総合空調メーカーのダイキン工業などです。
 ファーストリテイリングは2023年5月の月次報告を発表し、既存店と直営店いずれも売上が好調であったことから、これを株式市場が好感したと思われます。日立製作所に関しては会社からのニュースはありませんでしたが、事業ポートフォリオの転換などが株式市場に好感されていると当ファンドでは考えます。ダイキン工業は中期経営計画の目標値を上方修正したことが株式市場に好感されたと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した企業は、ペンタブレット等を製造販売するワコム、産業用太陽光発電所の開発・建設・保守を営むウエストホールディングスなどです。
 ワコムについては会社からのニュースはありませんでした。引き続き過剰流通在庫の問題を株式市場が嫌気していると思われます。ウエストホールディングスは、業績の進捗が株式市場の期待に届いていないことが嫌気されていると当ファンドでは考えています。
 当⽉は当ファンドが保有する「ダイキン工業」について、投資の理由・魅⼒をコメントしたいと思います。
 ダイキン工業は世界で唯一、空調機と冷媒の両方を開発・生産している世界的大手の総合空調メーカーです。同社は1924年に「大阪金属工業所」として創業し、当初は飛行機用ラジエーターチューブを製作していました。その後、1935年に日本初のフルオロカーボンガスの生産、1951年に日本初のパッケージエアコンなどを開発して収益基盤を築きました。同社の海外事業展開は1972年から始まり、積極的なM&Aや技術開発を背景に高成長を継続してきました。
 当ファンドでは、海外事業のなかでも特に欧米における構造的なシェア拡大に期待しています。例えば、欧州では冬の寒さが厳しい地域が多いことから、燃焼ボイラーで温めた温水で室内の暖房や給湯をまかなう燃焼式暖房が主流でした。しかしながら、世界的に脱炭素の動きが加速するなか、燃焼式暖房はCO2排出量の多さが問題視されるようになってきました。この問題に対して、同社は2006年に画期的な解決策を提示しました。同社が開発したヒートポンプ式冷暖房・給湯機は、1台で冷房・暖房・給湯をまかなうことができ、電力消費の抑制に寄与します。ヒートポンプは、空気中の熱をポンプのように汲み上げて空調や給湯のために必要な場所へ移動させる技術です。熱を「つくる」のではなく、すでに存在する熱を「集めて運ぶ」ことで省エネを実現しています。2008年には欧州議会で「再生可能エネルギー利用機器」に認定されました。脱炭素の潮流を追い風にヒートポンプ方式へと市場がシフトするなかで、同社はその恩恵を享受できる立ち位置にいると当ファンドでは考えています。
 一方、欧米の金融引締めとマクロ経済の減速を背景に、短期業績の悪化を懸念する見方もあるようです。一般的に、金融引締めの継続は住宅の購買意欲を減退させ、新築住宅着工数に対して下落圧力となることから、同社の販売に影響を及ぼす可能性は否定できません。
 しかしながら、そのような環境下でもヒートポンプ方式のシェア拡大による業績拡大の継続を当ファンドでは期待しています。ロシアによるウクライナ侵攻等に起因する世界的なエネルギー危機を受け、ヒートポンプ方式は一躍脚光を浴びています。特に光熱費高騰の影響を大きく受けた欧州については、各国政府のグリーンディール政策(環境保全・再生可能エネルギーなどの産業分野に大規模な投資を行い、新たな雇用を創出し、経済活性化を目指す政策)を背景とした補助金や税制優遇も追い風になると考えます。同社によれば、欧州におけるヒートポンプ暖房機の販売台数は2030年には2020年対比で10倍以上へ増加し、欧州暖房市場の50%以上のシェアを獲得すると考えられるとのことです。このような需要の拡大に対応するために、同社はポーランドにヒートポンプ暖房機の新工場の建設を進めています。急成長する市場に製品を安定して供給できる体制を構築することで、さらなる販売の拡大に繋がると考えられることから、引き続き同社の成長に期待しています。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業の調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。 
 調査活動においては社会の大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生み出し、個別企業への調査を繰り返すことで具体的な投資アイデアに結び付けていきます。
 中長期的な観点から運用パフォーマンス向上を目指し、非財務情報についての分析と、企業との対話を進めていきます。当ファンドは、良質な投資パフォーマンスと同時に、よりよい社会を構築する一助となるべく、良い投資先企業を選別した上で、株主として支えて行く所存です。

2023年5月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年5月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比3.62%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に開催された米国FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受け、一時円高ドル安が進んだことで一進一退の動きで推移しました。月半ばには海外投資家による資金流入が続き、TOPIXと日経平均株価ともに約33年ぶりの高値を更新しました。東京証券取引所の市場改革への期待や、日銀の金融緩和継続姿勢もサポート材料となりました。一方で、月後半には中国の低調なPMI(製造業購買担当者景気指数)や、市場予想を下回る国内の4月の鉱工業生産指数の結果が懸念され、弱含みで推移しましたが、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した銘柄は、保険会社の東京海上ホールディングス、半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン、光学製品メーカーのHOYAなどです。東京海上ホールディングスは2024年3月期の通期連結業績予想にて連結純利益が前年比40.8%増と発表し、これを市場が好感したと思われます。また、当月は半導体関連銘柄が急伸し、東京エレクトロンやHOYAなどの株価が好調に推移しました。
 基準価額にマイナスに影響した銘柄は、広告業を営む電通グループ、太陽光発電関連事業のウエストホールディングス、総合ディスカウントストアを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどです。
 電通グループは2023年12月期第1四半期決算を発表し、営業利益が前年同期比36.7%減となったことを市場が嫌気したと思われます。ウエストホールディングスに関する大きなニュースはなかったと思われます。パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは2023年6月期通期業績予想を上方修正しましたが、市場予想の範囲内だったことから株価は軟調に推移したと考えます。
 投資行動としては、引き続きボトムアップ・リサーチを通じて得られた確信度に基づいた売買を行いました。
 ウエイトを引き上げたのは株主還元策の強化が期待される三菱地所や、前月に投資を開始した日本取引所グループなどです。
 一方で、事業多角化により経営の方向感が見えにくくなったと判断したSBIホールディングスや、株価が堅調でアップサイドが限定的となったと考えられる日清食品ホールディングスなどのウエイトを引き下げました。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。
 調査活動においては世の中の大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動から得られる「気づき」を掛け合わせることで投資仮説を生みだし、個別企業の調査を繰り返すことで投資アイデアに結びつけます。
 日本では多くの企業が6月に株主総会を開催します。昨今、株主提案が増加しており、国内の機関投資家が賛同する比率も高まってきている状況について注視しています。株主から合理的な提案が増えることは、企業経営の規律を高めることにポジティブな影響をもたらすことが期待されます。株主提案が可決されれば直接的な影響がありますが、否決されたとしても賛成率が高ければ経営者の意識に大きな影響を与えます。当ファンドとしても、各企業の議案について精査して、議決権行使の判断を行う所存です。

中期的の活動方針と活動紹介

 当月は投資先である「エスプール」についての概要と、同社が運営する障がい者雇用支援施設見学の様子について紹介します。

エスプールの概要

 エスプールは人材関連のサービスを提供する企業です。かつては短期人材派遣を主力とする事業を営んでいましたが、リーマンショックや人材関連の法改正を受けて業績が悪化しました。2010年11月期決算で債務超過に陥ったことをきっかけに、経営方針を根本から見直しました。その中で、社会性の高い事業を営むことを柱に据えることを掲げ、2011年から障がい者雇用支援事業を開始しました。この事業は現在、同社の成長を牽引しており、2022年11月期決算では売上高は前年比約26%増加して全社売上の約2割強、営業利益は非開示ながら3~4割を占めていると推測されます(それ以外は人材派遣や環境コンサルティングなど)。
 同社が行っている障がい者雇用支援事業とは、企業の採用活動や採用後の労働環境整備のサポートサービスです。労働環境整備とは、具体的には農業用の設備を企業に貸し出すことで、顧客企業は雇った従業員に対して安定した環境で農作業の業務を行ってもらうことができるようになっています。

障がい者雇用支援事業の概要

 エスプールは企業が障がい者を雇用する活動のサポートを行っていますが、その必要性は何故生じるのでしょうか。
 最新の「障害者白書」によると、日本の18〜64歳の障がい者数(精神障がい者数は20~64歳で算出)は約388万人で、そのうち民間企業で働いている割合は15%程度です。より詳しく見てみると、身体障がい者(約101万人)の就業率は35%、知的障がい者(約58万人)は24%、精神障がい者(約228万人)は4%となっており、障がいの種類によって民間企業の就業率に大きな差が見られます。
 政府は民間企業に対して、全従業員に占める障がい者の比率を定め、雇用を義務付けています。この法定雇用率を達成できない場合、罰金や社名の公表などのペナルティが課せられます。しかし、現在法定雇用率を達成している企業の割合は全体のおよそ半分程度であり、さらに2024年には2.5%、2026年には2.7%への引き上げが予定されていることから達成度を向上させるためには雇用を増やし続ける必要があります。
 特に知的障がい者や精神障がい者の雇用率が低いため、その雇用を増やすことが期待されています。そのため、障がい者の雇用に関するソリューションを提供することは、社会へのポジティブな影響が大きい活動と考えられています。雇用する側とされる側の両方にとって有益な形で促進するためには、雇用する人に適した業務環境を整え、長期的な雇用を実現する工夫が必要です。ただし、通常の業務フローに参加することが雇用者や被雇用者にとって困難である場合や、雇用者側の業務効率に悪影響を与える可能性があるため、雇用率を容易に高めることはできません。
 同社は自社での障がい者雇用を進める中で、モチベーションを高めて働き続けられる業務を模索し、農作業にたどり着いたとのことです。広々とした自然に触れる職場環境を提供することで、長期的な雇用の実現につながり、定着率は92%と高い水準になっています。

社会性についての賛否

 障がい者が安定的に就労することは社会的にポジティブなインパクトを生み出します。収入面では、多くの障がい者が勤務している福祉作業所の平均的な収入が月およそ1.5万円程度であり、経済的な自立は難しい状況です。一方、エスプールのサービスを通じて雇用される障がい者は月13万円程度の収入を得ることができます。障がい者年金と合わせると月の収入が20万円程度となり、経済的に自立することが可能になります。収入の増加により、障がい者自身の自己肯定感が高まり、また親族の将来への不安も軽減されるでしょう。さらに、同社のサービスは完全に民間資金によって運営されているため、政府の補助金支出が減少し、財政面にもポジティブな影響をもたらします。
 一方で、当サービスに対して否定的な意見も存在します。就労者が本業に関わっていないため「お金を払って雇用率を買っている」という批難が主な議論となっています。2023年1月に共同通信がこの問題を取り上げ、政府が事業を規制する可能性が懸念されたことから同社の株価にも大きなマイナスの影響がありました。その後、厚生労働省がこの事実について実態調査を行い、同社を含まない一部の事業者のコンプライアンス体制について指摘はあったものの、事業自体を禁止する結果にはならなかったため、事業は継続される見通しです。
 なお、コンプライアンス体制への指摘などに対応するため、業界自体の健全化が必要であるとの認識から業界団体の設立が検討されており、同社も積極的に関与する方針を示しています。

施設見学

 エスプールが運営する農園について、当ファンドが現地を訪問し見学した際の所見をお伝えします。
 訪問した場所は千葉県市川市にある「わーくはぴねす農園市川」で、東京駅から約1時間の場所に位置しています。農園にはビニールハウスと休憩部屋が整備されており、スペースには十分な余裕があります。設備も安全性や快適性に配慮されており、環境面は充実しています。また、同社は土地利用に関する行政への手続きが煩雑な場合でも、丁寧に対応しています。このような環境整備は、障がい者雇用のメリットとしてだけでなく、大手企業を主な顧客としている同社にとっても優れたコンプライアンス体制を構築する上で強みとなっているでしょう。
 農園での作業に関しては、利用企業が全ての責任を持つ体制が取られています。利用企業は、障がい者3名に対して一人のサポートスタッフを雇用し、常駐させます。また、本社の人事部門などのメンバーも定期的に訪問し、現場の状況を確認します。企業によって異なりますが、週に一回人事部の担当者が訪問するケースや、ダイバーシティ研修や新入社員研修などで経営陣や多くの従業員が訪れるケースなど、様々な関わり方があります。利用企業によって差はありますが、作物の育成計画についての話し合いや、障がいのある就労者が訪問者に対して業務の説明を行うなど、単純な作業だけでなく、多様な経験を積むことができる環境も整備されているようです。このような取り組みにより、ノーマライゼーション(障がいのある人と社会の一員としての共生)に貢献していることを感じることができました。

おわりに

 以上、投資先であるエスプールの概要と同社が取り組んでいる障がい者雇用支援事業について紹介しました。社会貢献性のある事業であるため今後も注目し続ける方針です。また、今の状態が完璧ではないと考えるため、同社及び同業者が継続的に改善を進めていくことを期待しています。
 当ファンドは日本版スチュワードシップ・コード、国連が支援するPRI(責任投資原則)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の考え方に準拠し、企業との対話を通じて相互理解を深め、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となることを目指してまいります。

2023年4月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年4月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比2.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、月前半に軟調な米国経済指標(ADP雇用統計、ISM非製造業景況感指数)が相次ぎ、景気後退懸念が高まったことから下落して始まりました。しかし月半ばには植田日銀総裁の金融緩和維持を支持する発言や、米著名投資家の日本株追加投資を巡る思惑から上昇に転じました。月後半は米地方銀行の巨額預金流出による警戒感から下落する局面もありましたが、日銀が金融緩和維持を決定したことで株式市場に安心感が広がり、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した銘柄は、アパレル製造小売業のファーストリテイリング、ホームエンターテインメントを提供する任天堂、電機・娯楽・金融を営むソニーグループなどです。
 ファーストリテイリングは2023年8月期第2四半期決算を発表し、海外ユニクロ事業が業績をけん引し、累計の営業利益が前年同期比で16.4%増となったことを好感したと思われます。
 任天堂は北米で映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」のオープニング興行が好調と報じられ、今後の業績貢献への期待値が高まったと考えられます。ソニーグループに関する大きなニュースはなかったと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した銘柄は、総合水処理大手の栗田工業、電線メーカーのSWCC(旧昭和電線ホールディングス㈱)、計測機器メーカーの堀場製作所などです。
 栗田工業は2023年3月期の業績予想を下方修正したことから失望売りされたと思われます。SWCC、堀場製作所に関する大きなニュースはなかったと思われます。
 投資行動としては、引き続きボトムアップ・リサーチを通じて得られた確信度に基づいた売買を行いました。
 当月新規で投資を開始したのは日本取引所グループです。同社は東京証券取引所や大阪取引所などを運営しており、日本の金融インフラの中心的存在と言えます。最近、東京証券取引所はPBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている企業に対して状況の改善に向けた取り組みの開示要請を進めています。これにより市場が活性化すれば証券取引量が拡大し、同グループの業績拡大に寄与する可能性があります。
 また、ウエイトを引き上げたのは海外戦略に期待できる積水ハウスや訪日客の増加から恩恵を受けると考えられるパン・パシフィック・インターナショナルなどです。
 一方で、家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」のハードウェア販売のピークアウトが懸念される任天堂や事業多角化に回帰したSBIホールディングスのウエイトを引き下げました。
 また、エネルギーなど市況連動関連の売上比率が上昇し、収益安定性が低下したと思われる兼松を全売却しました。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。
 調査活動においては世の中の大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動からえられる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生みだし、個別企業の調査を繰り返すことで投資アイデアに結びつけます。
 具体的には日本企業のガバナンス改善に向けた動きに注目します。当月下旬に金融庁から「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」が発表されました。企業価値向上に向けた施策として、コーポレートガバナンスの実質面の強化を促すためのプログラムで、事業ポートフォリオの見直し、サステナビリティ開示、指名・報酬委員会の機能強化などの具体的な施策が掲げられています。
 すでに東京証券取引所から株価が純資産価値以下の水準にある企業に対して資本コストやROE(株主資本利益率)を考慮するように要請が出ていることから、今回の金融庁の発表はそれらの企業に対して更なる経営改善のプレッシャーを与える内容となります。
 企業の経営改革が本格的に進む過程においては、経営体制の見直しが必要になる場合があります。特に経営トップの交代は経営方針変化のきっかけになることが多いため、重要なイベントとして注視してまいります。

中期的の活動方針と活動紹介

 当月は情報収集活動における昨今の環境変化とそれについての当ファンドの取り組み方針について紹介します。

情報収集に関する当ファンドの課題認識

 当ファンドでは投資判断に必要な情報を日々ボトムアップで収集しています。活動においては、企業の公表を主たる情報源とすることは一貫して変わらないのですが、情報の内容、発表方法、伝達経路など環境は日々変化しているため、変化に合わせて自らの活動内容を進化させ続ける必要があります。
 ここでは当ファンドが投資判断のために収集する情報を大きく二種類に分けて考えます。一つは企業がIR情報として文書化して公開している情報、もう一つは文書化されていない定性的な情報です。ここでは前者を文書情報、後者を非文書情報と呼びます。
 文書情報、非文書情報の有り様は時間の流れとともに常に変化していますが、最も顕著な傾向は文書情報が急増していることでしょう。その要因の一つは開示制度の整備にあります。会計制度の進化や、コーポレートガバナンス・コードのようなソフトロー(民間で自主的に定められているガイドラインのほか、行政府が示す法解釈等)の充実によって、財務、非財務ともに企業が開示を充実する流れが生じています。特に昨今は非財務情報の開示が急増しています。一例として日本で統合報告書を発行している企業数を見ると、2022年は872社となり10年で14倍に増加しています。日経平均株価に採用されている225社に関して言えば、そのおよそ9割が統合報告書を発行しています。
 また、IT技術の進化も情報量の増加を促しています。過去20年程を振り返れば、企業が自社のウェブサイトを作り、そこに決算説明資料を掲載し、最近では説明動画も公開するようになりました。つまりこれは非文書情報が文書情報に置き換わって、誰でもアクセスできるようになったということを意味しています。また、文書情報の伝達経路も変化しています。20年前は財務分析をする際にまず製本された有価証券報告書を購入して手入力する必要がありましたが、今では簡単にデジタルデータとして入手できるようになりました。
 従来、証券アナリストは企業とミーティングをし、財務データを収集することによって付加価値を生み出していましたが、その状況は大きく変化していると見ることができます。

状況変化に対する対応方針

 文書情報の増加により、企業から発信される情報が全ての市場参加者に公平に行き渡ることは健全な市場環境を作る上でポジティブな流れと言えるでしょう。一方で、それは投資家が差別化を図るために従来とは違うアプローチに取り組むことが求められるようになっていることを意味しています。この点について、当ファンドが進めている対応は大きく二つあります。
 一つ目は、文書情報の取り扱いの効率化です。情報を選別し、分析のシステム化を進めることで文書情報の急増に対応しています。主要企業の9割が統合報告書を発行している状況においては24時間365日を費やしたとしても、その全てを読み切ることはできませんので、まず深掘りする企業を選別する必要があります。また、企業の状況に合わせて調査の焦点を変えることも限られた時間の中で企業の情報を把握する上で有効な手段になります。また、昨今は財務のみならず非財務情報もESGデータとして定型化が進んでいるため、これらを有効に活用するために分析システムを日々改良し続けています。
 もう一つの方針は非文書情報について、情報ソースを多様化しています。従来であれば調査ミーティングの相手先の殆どが上場企業もしくは証券会社のアナリストでしたが、今では意識的にそれら以外とのミーティングを行うようにしています。例えばESG評価機関、IRコンサルタント、未上場企業、NPO/NGOなどがそれにあたります。これらの主体と対話を行うことは、単なる情報収集にとどまらず、活動の質を高めるためのアイデア創出にもつながると考えます。
 参考として、以下にそれぞれの主体とのミーティングの概要と狙いについて記述します。

  • ESG評価機関は、非財務情報のデータ化について日々新しい手法を開発しているため、その最新動向を把握のためにミーティングを行っています。また、データ利用者の立場から正確性や妥当性についてフィードバックを伝えることも、より健全な市場形成に貢献するために重要な活動と考えています。
  • IRコンサルタント、もしくはSR(株主対応)コンサルタントとのミーティングは、企業が投資家との対話に求めるニーズを把握するために有効です。一方で、投資家の立場から企業側に改善を求める点を伝えることによって、コンサルタントを通じて企業の行動変容につながることが期待されます。
  • 未上場企業は上場すれば投資候補になるため、将来の投資機会のための調査活動と言えます。また、スタートアップ企業の多くは、新しい社会構造を先取りしたビジネスを営んでいるため、経済構造の先行きについてのヒントを得ることができます。具体例の一つとして、3月にB Corporation(公益性の高い事業を行う企業へ与えられる民間認証制度)の認定企業が一堂に会するイベントに参加しました。日本のB Corporationの認定企業は現時点で20社程度ですが、急速に増加し始めており未上場企業においてもサステナビリティの意識が浸透し始めていることが確認できました。
  • NPO/NGOの中には環境や社会の課題についてそれぞれの立場から調査活動や問題提起を行っており、その内容は情報源として参考になります。また、近年、日本においてもNPO/NGOが株主提案をするケースが増えてきたため、議決権行使の場面でもその動きに注目する必要があると考えます。

おわりに

 以上、情報収集活動における昨今の環境変化とそれについての当ファンドの取り組み方針について紹介しました。
 当ファンドは日本版スチュワードシップ・コード、国連が支援するPRI(責任投資原則)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の考え方に準拠し、企業との対話を通じて相互理解を深め、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となることを目指してまいります。

2023年3月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年3月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比1.70%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の利上げ再加速の思惑を受けて米国株式市場が軟調に推移する中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した欧米金融不安の急拡大を受け、リスク回避姿勢が強まったことから大幅な下落に転じました。しかし月後半になると、スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループ買収や米当局による預金保護などの対応で金融システムへの不安が和らぎ、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した銘柄は、アパレル製造小売業のファーストリテイリング、電機・娯楽・金融を営むソニーグループ、総合電機メーカーの日立製作所などです。
 ファーストリテイリングは国内ユニクロの既存店売上が好調だったことを好感し株価が上昇したと思われます。ソニーグループ、日立製作所については大きなニュースはなかったと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した銘柄は、保険会社の東京海上ホールディングス、金融持ち株会社のみずほフィナンシャルグループ、インターネットを基盤とした金融サービスを提供するSBIホールディングスなどです。いずれも金融業を営む企業で、米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した欧米金融不安の拡大を市場が懸念したことが株価の下落要因だと考えられます。
 投資行動としては、引き続きボトムアップ・リサーチを通じて得られた確信度に基づいた売買を行いました。
 当月新規で投資を開始したのは日置電機です。同社は電気計測器の開発、生産、販売・サービスを社業としています。特に今後は電気自動車の普及で市場の急拡大が見込まれる、バッテリー関連の計測器に期待しています。また、パン・パシフィック・インターナショナルや積水ハウスなどのウエイトを引き上げました。一方で、兼松や富士電機のウエイトを引き下げ、伊藤忠商事を全売却しました。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。
 調査活動においては世のなかの大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動からえられる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生みだし、個別企業の調査を繰り返すことで投資アイデアに結びつけます。
 具体的には東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の低い企業に対して状況の改善に向けた取り組みの開示要請を進めていることに注視していきます。東京証券取引所は2022年4月に行った上場市場再編の実効性を高めるためにフォローアップ会議を実施していますが、その中でPBRが1倍を割れている企業の経営陣に対して、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その状況や株価・時価総額の評価を議論のうえ、必要に応じて改善に向けた方針や具体的な取組、その進捗状況などを開示することを要請すると明確に述べています。2022年7月1日時点で東証プライム市場上場企業の50%、スタンダード市場上場企業の64%がPBR1倍割れの状況であるため、対象企業数は相当数に上ります。2023年春が実施時期とされており、今後、対象となる企業の行動に変化が出てくることが予想されます。市場の過半を占めている低PBR企業が株価評価の改善に取り組むのであれば、日本の株式市場全体の魅力が高まることにつながります。また、その過程においては、企業から当ファンドに投資家の意見を求める要請が増えることが予想されるため、これに適切に対応していく方針です。

中期的の活動方針と活動紹介

 当ファンドでは中長期的な運用力向上のため、非財務情報についての分析手法の高度化やコーチング手法の活用による対話力の強化を進めています。
 当月は当ファンドの投資先であるKDDIについて紹介します。

KDDIの概要

 KDDIは通信サービスを総合的に提供する企業です。1953年設立のKDD(国際電信電話㈱)、1985年発足のDDI(第二電電㈱)、1987年設立のIDO(日本移動通信㈱)の三社が2000年に合併し発足しました。
 合併したKDDIの経営方針はDDIの設立を主導した故稲盛和夫氏(京セラ㈱創業者)の経営哲学の影響を強く受けています。稲盛氏はDDIを設立する際に、新規参入によって競争をもたらすことが業界全体のサービス品質を向上させ、それを通じて日本経済の活性化に資するというビジョンを描き、繰り返し「動機善なりや、私心なかりしか」と自問自答しながら事業を推進したそうです。この考え方はKDDIの社是に反映され、今でも同社の経営指針の中心をなしています。それは堅実経営で株主に報いる姿勢を通じて、20年間増配を続けてきたという株主還元実績にも表れています。

KDDIとの対話

 当ファンドはKDDIの経営層やIR部門と定期的にミーティングを行っています。
 KDDIはこれまで携帯電話の普及を追い風としながら、堅実経営を続けて利益を増加させてきました。しかし、2018年頃から日本政府が通信料金に対する引き下げ圧力を強めたことでここ数年は全社ベースの成長率が鈍化しており、それが企業に閉塞感をもたらす懸念があります。そのような状況が改善するように働きかけることも投資家の役割であると考え、対話を続けています。当ファンドから要望やフィードバックを行っていますので、以下にその内容の一部を記します。
①通信障害の再発防止
 2022年7月にKDDIの通信網で大規模な障害が発生し、3,000万人以上に影響が及びました。近年、通信網は生活インフラを支える存在となっています。また今後は自動運転にも使われるようになることから、1分1秒止まるだけでも人命に影響を及ぼしかねません。当ファンドからは再発防止に向けての対応策強化と、その実効性を高めるための組織風土改善を進めることを要請しました。その後、障害発生時に他社回線を利用することができるサービスを開始するなど、対応策が進められています。
②統合報告書
 KDDIは統合報告書についての投資家フィードバックを重視しており、自社の事業やサステナビリティ活動の改善に活用する姿勢を示しています。当ファンドからは、具体的な取り組みを開示することや価値創造プロセスの図において循環(生み出したアウトカム(業績や社会に与えた影響など)が次のインプットにつながること)を意識してほしいという改善アイデアを伝えました。同社はこれらの投資家からのフィードバックを反映し、毎年少しずつ統合報告書を改善しています。今後も続けていく方針とのことで、当ファンドでは引き続きアイデアを提供していく予定です。
③再生可能エネルギー
 当ファンドではKDDIに対して再生可能エネルギー発電に取り組むことを要望しておりました。同社は通信網の運営において多大な電力を消費していることに加え、電力小売りサービスにおいても多くの電力を調達しています。日本は電源構成において化石燃料の比率が高いことから、電力調達が増えることによる温室効果ガス排出量の増加は重大な経営課題であり、その対策のために再生可能エネルギー発電を行うことは状況の緩和に有効だと考えます。同社からは2023年1月に再生可能エネルギー発電の事業化を目指すことが発表され、これはサステナビリティの観点で前向きな動きであると当ファンドは評価しています。
④生物多様性
 最新のミーティングでは生物多様性への対応策を確認しました。同社からは自社の活動が悪影響を及ぼさないために通信網敷設における設計や部材利用において取り組みを行っているという説明がなされました。また、それに加えて衛星通信、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、ドローンなどの通信技術を使ったモニタリングのソリューションによって生物多様性保全に貢献することが目指されていると紹介されました。

今後の見通し

 通信料金に対する値下げ圧力がひと段落したことで、KDDIの業績見通しに改善の兆しが見えてきました。とはいえ、携帯電話は普及段階を過ぎたことから大きな成長を期待する段階にはないと考えます。そこで、同社は今後の方針として通信サービスの周辺領域を拡大することによる成長を志向しています。成長領域として位置づけられているのは個人向けの決済手数料や電力サービスである「付加価値ARPU(1契約あたりの平均売上金額)収入」と法人向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)支援や事業基盤サービスである「NEXTコア事業」です。直近決算(2023年3月期第3四半期累計)において連結売上高は前年同期比で4.2%増ですが、上記2事業のみを取り出すと前年対比で約20%の成長を遂げています。全社売上に占める割合も20%を占める規模に達しており、今後全体を牽引する存在になることが期待されます。周辺領域については再生可能エネルギーや生物多様性などのソリューションと絡めることで、地球環境の課題解決につながる可能性を持っていることから、業績面からもサステナビリティの観点でも注目に値します。

おわりに

 以上、当ファンドの投資先であるKDDIについて紹介しました。当ファンドでは、投資家の意見に対して積極的に耳を傾ける同社の姿勢をポジティブに評価しており、今後も対話を続ける方針です。

 当ファンドは日本版スチュワードシップ・コード、国連が支援するPRI(責任投資原則)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の考え方に準拠し、企業との対話を通じて相互理解を深め、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となることを目指してまいります。

2023年2月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年2月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比0.95%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は、米長期金利上昇などを受け米国株式市場が軟調となる中、円安が日本株を支える展開で始まりました。月半ばにかけては、市場予想を上回る米国のCPI(消費者物価指数)やPMI(総合購買担当者景気指数)を受けて利上げの長期化懸念が再燃し、日本株も下落に転じましたが、月後半にかけては、植田次期日銀総裁候補が所信聴取で金融緩和継続を明言したことや円安の進行が日本株相場を下支えし、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した銘柄は、計測機器メーカーの堀場製作所、保険会社の東京海上ホールディングス、タイヤメーカーのブリヂストンなどです。
 堀場製作所は2022年12月期通期の決算を発表し、半導体関連事業が好調で営業利益が前年同期比43.1%の増益となり、市場想定以上の業績だったことが好感され株価が急伸したと思われます。
 東京海上ホールディングスは2023年3月期第3四半期決算を発表。第3四半期の経常利益が前年同期比78.8%の増加となり、これを市場が好感したと考えます。
 ブリヂストンは2022年12月期通期の決算を発表し、継続事業の調整後営業利益が前年同期比22.4%の増益となり、好調な業績が維持されていることを好感し株価が上昇したと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した銘柄は、ホームエンターテインメントを提供する任天堂、太陽光発電関連事業を営むウエストホールディングス、小売・金融を営む丸井グループなどです。
 任天堂は2023年3月期通期業績予想を下方修正したことが嫌気され、株価は下落したと思われます。
 ウエストホールディングスについては大きなニュースはなかったと思われます。
 丸井グループは2023年3月期第3四半期決算を発表、第3四半期の経常利益が前年同期比6.7%の減益となり、これを市場が嫌気したと考えます。
 投資行動としては、引き続きボトムアップ・リサーチを通じて得られた確信度に基づいた売買を行いました。
 当⽉新規で投資を開始したのは三菱地所です。また、積水ハウスなどのウエイトを引き上げました。一方で、伊藤忠商事やワコムなどのウエイトを引き下げました。また、豊田自動織機を全売却しました。
 当ファンド ではESGの開示強化の一環としてESGリスクスコア(※1)と温室効果ガス排出量(※2)を自社で算出し開示しています。当ファンドのESGリスクスコアは20.8で、ファンドの参考指数であるTOPIXの23.7に比較して相対的にESGに関するリスクが低位であるという結果になっています。温室効果ガスの排出量については、売上100万ドルあたりスコープ1(⾃社設備からの排出量)と2(電⼒使⽤からの排出量)の合計が40.1トン、スコープ3(材料⽣産や製品使⽤などその他の活動全般からの排出量)が144.3トンであり、それぞれTOPIXの101.4トン、179.3トンに比較して低く、当ファンドが地球環境へあたえている負荷は相対的に低位となっています。

※1:サステナリティクス社のデータをもとに算出
※2:S&Pグローバル社の「Trucost」データをもとに算出した二酸化炭素換算の数値
※月次報告書作成時点で外部ベンダーから提供を受けたデータを掲載しております。本データは外部ベンダーより修正が⾏われる場合があります。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。
 調査活動においては世のなかの大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動からえられる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生みだし、個別企業の調査を繰り返すことで投資アイデアに結びつけます。
 具体的には国内の消費動向の変化について調査を進めます。特に注視するポイントは物価上昇の影響です。日本の1月のCPI(消費者物価指数、生鮮食品を除く)は前年同月比4.2%上昇と、41年4ヶ月ぶりの上昇率となっています。水準は世界的に見て低水準ではあるものの、上昇率は右肩上がりが続いており、欧米諸国がピークアウトしていることとは方向性が異なる点に注意が必要だと考えます。個別企業調査においては、各社が短期的な消費者センチメントの悪化リスクを回避できるか、デフレマインドの転換による事業機会を捉えられるか、という点を見極めていきます。
 また、日本国内においても新型コロナウイルスによる行動制限がほぼ完全になくなる状況が見えてきたことから、その状況について確認を進めていきます。例えば日本政府は中国での新型コロナウイルス感染者の急増に対処して強化していた水際対策を3月1日から緩和しました。2019年段階では訪日外国人の3分の1を中国が占めていたことから、中国からの観光客が本格的に回復することはインバウンド需要全体に大きなインパクトを与えると考えます。また、新型コロナウイルスが5月8日から季節性インフルエンザと同等の扱いになることが決まったため、今後は外出自粛が不要となり行動の自由度が高まります。人の流れの変化は消費動向に影響を与えることから、動向の把握に努めます。

中期的の活動方針と活動紹介

 当ファンドでは中長期的な運用力向上のため、非財務情報についての分析手法の高度化やコーチング手法の活用による対話力の強化を進めています。
 当月は「ESGデータを取り巻く環境の変化」と、それに対する当ファンドの対応状況を記述します。

非財務情報の増加がもたらす課題

 世界的にサステナビリティ意識が高まる中で、企業による非財務情報の開示が一般化し始めています。企業活動の透明性が高まるのは歓迎すべきトレンドですが、市場関係者はそのトレードオフ(両立できない関係性)で発生する問題を見過ごさないように注意が必要です。
 情報を開示する企業からすると、開示にかかるコスト負担が重くなることが問題です。特に規模が小さい企業にとっては相対的な負担が大きくなるため、企業間格差を助長する要因になりかねません。
 情報を利用する投資家側にとっても様々な課題が散見しています。その一つは調査時間の増加です。非財務情報は企業ごとに掲載場所が異なり、点在している場合もあるため情報を探し出すだけでもかなりの時間を要します。また、開示内容や様式も各社各様であるため、それらを理解して消化するのはかなりの労力を要します。
 データの正確性についても課題があります。開示基準や監査制度などが整備途上にあるため、企業が誤った情報を開示してしまう可能性もありますし、投資家が情報の解釈を誤る可能性もあります。
 比較的ルールが整備されている温室効果ガスの排出量であっても、計測範囲や計測方法によってその数値は大きく異なります。例えば一見すると「グループ全体での排出量」が開示されているように見えても実は「国内事業のみの排出量」ということもあり得ます。またスコープ3を含むかどうかでも状況は大きく異なります。計測の範囲や方法を見直すことで排出量が数倍になるということも珍しくありません。
 更に、比較可能性という点でも課題があります。投資判断をする際には企業を比較選別することが必要ですが、属性の異なる企業の非財務情報を比較するのは難易度が高い作業です。例えば人権対応の優劣を比較するとして、製造業とサービス業、グローバル企業とローカル企業など、属性の異なる企業の情報はどのように比較するのが適切でしょうか。

ESGデータの進化

 これらの問題に対する解決策の一つが、金融情報プロバイダーが提供しているESGデータの活用です。MSCI社、S&Pグローバル社、FTSE社、サステナリティクス社などの情報プロバイダーは近年急速にESGデータを拡充してきました。各プロバイダーは開示情報もしくはアンケート調査などを元に企業の非財務情報を整理し、一覧性の高い形でデータを提供しています。その上で、収集したデータに採点ロジックを掛け合わせることで独自の評価スコアを作り、企業のESG対応を比較しやすい形で提供しています。
 急速な進化を続けてきたESGデータですが、まだ改善の余地は大いにあり、関係者の努力が続いています。そのような中、足元で起きている新たな動きによって業界構造の変化が加速する可能性が出てきました。
 新たな動きはデータへのアクセスのしやすさという点において見られます。従来、ESGデータは上記のような情報プロバイダーから有料サービスとして提供されてきました。その結果、データにアクセスできる人は有料契約をしている企業の中にいる、一部の主にESGを専門とする人に限られるという図式となっていました。
 この構図に変化が起きています。例えばESG Book社が提供しているサービスは、ウェブサイト(https://www.esgbook.com/)から登録すれば誰でも無料で同社の発表しているESGスコアを見ることができます(有料契約をすると追加機能や詳細データを使える、いわゆるフリーミアムモデル)。
 また、金融業界にとって極めて影響が大きいと考えられるのはBloomberg社がESG関連サービスを加速的に進化させている点です。同社のサービスは基本的に有料ですが、すでに金融業界や企業のファイナンス部門などに多くいる既存ユーザーからしてみれば追加料金なしに使い慣れた情報端末を用いてESGデータにアクセスすることができます。同社はすでに以前からESGデータを提供していましたが、昨今データの質・量ともに目覚ましいスピードで整備を進めています。創業者のマイケル・ブルームバーク氏はSASB(Sustainability Accounting Standards Board、サステナビリティ 会計基準審議会)やTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)において議長を歴任するなどESG情報開示における中心的な存在であり、その知見も同社の機能開発には活かされていることが推察されます。

データが普及する中で人間が行うべきこと

 ESGデータがアクセスしやすくなればなるほど、データは広く普及するようになるでしょう。それはつまり、もしデータに誤りがあると今までより多くの誤解が生まれるリスクが高まっていることも意味します。
 例えばある企業が「人権方針」を開示していたとしても、情報プロバイダーがそれを見つけられなければ「No」と表示されてしまうことが起こり得ます。「No」の表記を見た人はその企業が「人権方針を制定していない」と解釈をするでしょうし、極端な人は「人権保護に消極的である」もしくは「人権侵害を容認している」と解釈するかもしれません。
 更にリスクが高いのは、本来は行われていないのに「人権侵害があった」という評価になるケースです。例えばメディアの誤報や、情報プロバイダーによる手違いなどによって、「人権侵害有り」のところに「Yes」という評価がついてしまうと、その企業は人権侵害をしているという目で見られることになります。もし投資先や取引先の選定プロセスにこのデータが使われると、「Yes」となった企業はデータスクリーニングの時点で対象から除外されてしまいます。IR活動においても事業活動においても大きなリスク要素であると言えるでしょう。
 なお、当ファンドではエンゲージメント活動の一環として、投資先企業や情報プロバイダーに対してESGデータの正否確認や誤データの修正依頼を行っています。その際、企業側がデータの誤りに気付いていることは稀であり、大半はそのようなリスク自体を認識できていません。急速なESGデータの発展に企業側の対応が追い付いていないという様子が感じ取れます。
 将来的には非財務情報開示の基準が制定され、監査やモニタリングの仕組みが作られることでデータ精度は高まるでしょう。しかし、求められる非財務情報の種類は今後も増えていくことが予想されるため、最前線では常に人間が関与する必要が出てくるでしょう。特にESGデータが普及することの恩恵を受ける立場にある投資家は、データ精度向上を通じて健全な市場形成に貢献する責任があると考えられます。このことは2022年12月に金融庁が公表した「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」(※3)の中でも投資家向けの提言として以下のように言及されています。
 「投資家は、自らが投資判断等に用いているESG評価・データについて、評価の目的、手法、制約を精査・理解し、評価結果に課題があると考え得る場合等には、ESG評価・データ提供機関や企業と対話を行うべきである。また、投資家自身が投資判断においてどのようにESG評価・データを利用するかについての基本的考え方を、一般に明らかにすべきである。」

※3:
https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20221215/01.pdf(和文)
https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20221215/02.pdf(英文)

おわりに

 以上、ESGデータを巡る昨今の環境の変化がもたらし得る課題とリスク及び、それに対する当ファンドの対応状況を記述しました。

 当ファンドは日本版スチュワードシップ・コード、国連が支援するPRI(責任投資原則)、TCFDの考え方に準拠し、企業との対話を通じて相互理解を深め、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となることを目指してまいります。

2023年1月の運用コメント

株式市場の状況

 2023年1月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.42%の上昇となりました。
 当月の日本株式市場は下落から始まりました。月前半に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した2022年12月の米製造業景況感指数が2年7カ月ぶりの低水準だったことや、中国製造業購買担当者景気指数(PMI)も低迷が続いたことから、景気後退への懸念が高まったのが主な要因と見られます。月半ばには、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持すると発表したことを受け、株式市場は上昇に転じました。月後半には、米国連邦準備制度理事会(FRB)の理事が利上げ幅緩和の支持を表明したことや、米有力紙による早期利上げ停止の観測報道を受け、日本でも成長株を中心に株価が堅調に推移した結果、最終的に前月末を上回る水準で月を終えました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した銘柄は、電機・娯楽・金融を営むソニーグループ、空調機器メーカーのダイキン工業、半導体製造装置メーカーの東京エレクトロンなどです。
 いずれの会社も大きなニュースはなく、株式市場全体の上昇基調の恩恵を受けたものと思われます。
 基準価額にマイナスに影響した銘柄は、太陽光発電関連事業を営むウエストホールディングス、保険会社の東京海上ホールディングス、障がい者雇用や地域活性化など特徴のある人材サービス企業のエスプールなどです。
 ウエストホールディングスは2023年8月期の第1四半期決算を発表し、経常利益が前年同期比で38.3%減となったことが嫌気され、株価が下落したと考えます。
 東京海上ホールディングスについては大きなニュースはなかったと思われます。
 エスプールについては、同社が展開する障がい者の雇用支援サービスに対し、一部で否定的な報道がなされたことが株価の急落を引き起こしたと考えられます。記事の内容は同社の認識と相違があることから、会社側は自社の見解を開示し、サービスの正当性を主張しています。なお、当ファンドでは報道後に同社とミーティングを行い、事実関係と今後の方針について確認を行っています。
 投資行動としては、引き続きボトムアップ・リサーチを通じて得られた確信度に基づいた売買を行いました。
 当月新規で投資を開始したのは三菱UFJフィナンシャル・グループです。金利上昇の恩恵を受けることが期待されるほか、株主還元の拡充を進めていることも魅力です。海外展開も邦銀の中では進んでおり、東南アジアで過去に買収した地場の銀行が将来的には成長ドライバーとなり得ると考えています。
 また、ネクソンやセイコーグループ、みずほフィナンシャルグループなどのウエイトを引き上げました。
 一方で、スマートフォンを含む電子機器市場の減速懸念から、太陽誘電を全売却しました。また、豊田自動織機や伊藤忠商事、ブリヂストンなどのウエイトを引き下げました。
 当ファンドではESGの開示強化の一環としてESGリスクスコア(※1)と温室効果ガス排出量(※2)を自社で算出し開示しています。当ファンドのESGリスクスコアは20.9で、ファンドの参考指数であるTOPIXの23.7に比較して相対的にESGに関するリスクが低位であるという結果になっています。温室効果ガスの排出量については、売上100万ドルあたりスコープ1(⾃社設備からの排出量)と2(電⼒使⽤からの排出量)の合計が40.2トン、スコープ3(材料⽣産や製品使⽤などその他の活動全般からの排出量)が148.7トンであり、それぞれTOPIXの100.9トン、177.1トンに比較して低く、当ファンドが地球環境へあたえている負荷は相対的に低位となっています。

※1:サステナリティクス社のデータをもとに算出
※2:S&Pグローバル社の「Trucost」データをもとに算出した二酸化炭素換算の数値
※月次報告書作成時点で外部ベンダーから提供を受けたデータを掲載しております。本データは外部ベンダーより修正が⾏われる場合があります。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。
 調査活動においては世のなかの大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動から得られる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生みだし、個別企業の調査を繰り返すことで投資アイデアに結びつけます。
 具体的には日本の物価動向について注視します。日本においては長らくデフレ状態が続いていましたが足元は物価が約40年ぶりの上昇率となっています。物価上昇は資源高や円安が主要因と思われますが、賃上げを発表する企業も増えていることから構造的に物価が上昇し始めるシナリオも考えられます。物価上昇を追い風にできる企業の調査をするとともに、物価上昇のリスクについても今一度精査します。また、物価上昇期待が高まると、一部の日本企業においては過剰に保有している現金の量を減らすという動きが起こる可能性があります。バランスシートが非効率な企業が財務戦略を修正するきっかけとなる可能性もあるため、関心を払ってまいります。

中期的な活動方針と活動紹介

 当ファンドでは中長期的な運用力向上のため、非財務情報についての分析手法の高度化やコーチング手法の活用による対話力の強化を進めています。
 当月は当ファンドが2021年に投資を開始した日清食品ホールディングスについて、同社の概要やサステナビリティ対応について記述します。

日清食品ホールディングスの概要

 日清食品ホールディングスは安藤百福氏が1958年に即席麺事業を開始したことを受けて実質的なスタートを切った企業です。企業体としては1948年に設立された中交総社が1958年に社名変更して日清食品となりました。その後、2008年に持株会社化によって「日清食品ホールディングス」となり、即席麺を主とした食品の製造販売を行う企業グループを形成しています。
 同社は新規性に富んだ商品開発や、巧みなマーケティング戦略によって国内即席麺市場でトップの地位を確立し、海外にも事業展開をしています。主力商品であるカップヌードルは持ち運びしやすい容器や、容器に適した麺の成型など数多くの製品的なイノベーションによって開発されました。1971年の発売当時はカップに入った即席麺は他になく、発売直後は小売店での販売が芳しくありませんでした。そこで、官公庁や警察など小売店以外に販売することで活路を模索していたところ、翌1972年に犯罪対策で張り込む機動隊がカップヌードルを食べる場面がテレビニュースで流れ、それをきっかけに販売が軌道に乗りその後のロングセラー化の礎を築くこととなりました。商品開発のイノベーション、販売ルートの開拓、話題性の高さなど、同社の強みを象徴するストーリーであると言えます。

地球の健康

 日清食品ホールディングスは「EARTH FOOD CREATER」というスローガンを掲げ、新しい食文化を創造することで環境・社会課題を解決することを目指しています。
 環境問題については「地球の健康(Planetary Health)」というキーワードのもと、気候変動対策、資源有効活用、持続可能なサプライチェーンの構築などに取り組んでいます。
 そのうちの一つ、気候変動対策については2050年におけるカーボンニュートラルを目指し、温室効果ガスの削減に向けた活動を推進しています。同社の排出する温室効果ガスの9割近くをスコープ3が占めており、その内訳は原材料調達など生産面が70%となっています。つまり目標達成には全体の半分以上を占めている原材料調達関連の排出削減策がカギを握ります。
 その原材料調達におけるユニークな取り組みは動物性に比べて環境負荷が低いとされる植物性食品の活用(※3)です。具体的事例として、カップヌードルの主要具材の一つに「ダイスミンチ」というサイコロ型ミートがありますが、こちらは原料に大豆を使うことで環境負荷を抑える工夫がなされています。興味深い点は、同社の消費者とのコミュニケーションの取り方です。環境負荷低減を前面に押し出すことで意識の高い人からの支持を高めるという方法もありますが、同社はそのようなメッセージの出し方をしていません。むしろ、ダイスミンチは「原材料に肉以外の何かが含まれているけど何だかわからない」ということで消費者から「謎肉」と呼ばれていますが、そのことを肯定する態度をとっていました(※4)。結果として、多くの人が同社商品に親しみを持って食べ続けることとなり、環境問題への関心が薄い人も巻き込む形で植物性食品の比率を高めることに成功しています(※5)。
 現在、ヴィーガン対応や培養肉などの研究開発が進められており、技術力とマーケティング力で今後更に環境負荷低減に貢献することが期待されます。

※3:タンパク質100グラムを生産するのに発生するCO2は牛肉で35グラム、エンドウ豆で0.4グラム(出所:Our World in Data)
※4:2017年に豚肉と大豆由来の原料に野菜などを混ぜて味付けしたミンチであると公表
※5:カップヌードルは発売から50年以上経過したが今でも販売量は増加基調にあり、2021年には500億食の販売を達成した

人間の健康

 地球の健康に加え、同社は人間の健康(Human Well-being)にも貢献しています。
 その一つの事例が完全栄養食の事業です。これは現代人が摂取するカロリーや栄養素の偏りという課題を解決することを目指して、栄養バランスが良く、手軽に食べられる食品を製造販売する取り組みです。2021年から企業の社員食堂にて完全栄養食の提供を始め、2022年にはパッケージ商品「完全メシ」を発売しました。事業としてはまだ立ち上げ段階ですが、すでに商品ラインアップはカレーライス、麺類、パン、スムージー、グラノーラなど複数にわたっており、4ヶ月で累計400万食販売するなど出足は好調です。
 商品パッケージに書かれた「栄養バランスを考えるのが、めんどくせぇヤツらに」という刺激的なメッセージから読み取れるのは、完全メシが健康意識の高くない人をターゲットにしているということです。健康意識が高い人は既に栄養バランスを考慮しているでしょう。よって人間の健康への貢献という観点からは、健康意識の高くない人をターゲットにするということの方がインパクトは大きいと思われます。
 しかし、健康意識が高くない人に健康的な食事を摂取してもらうのは簡単ではありません。その点において、同社は味を犠牲にせず、リーズナブルな価格で、入手しやすい販売ルートを構築し、興味をそそるメッセージ発信を行うことで、販売を推進しています。始まって間もない取り組みですが、同社が長年培ってきた独自の技術開発力、生産力、マーケティング力などの強みを総動員することで課題解決を目指す活動であり、その将来性は注目に値します。

情報開示における独自性

 日清食品ホールディングスは事業活動だけでなく、情報開示においても独自の取り組みを行っています。その一つがESG活動と企業価値の相関性分析で、「社会課題貢献型の食品数」や「水使用量」などの項目と株価評価との相関性を具体的な数字として計測しています。例えば「社会課題貢献型の食品数1%の増加はその年のPBRを1%上昇させる」、「水使用量を1%削減すると10年後のPBRが1.8%上昇する」、というような分析結果です。分析対象となる項目数は実に270にも及んでおり、単体項目の分析に加えて、複数項目の関係性についても分析が進められています。
 これらの分析の一部は試行錯誤の段階であることから、社内では開示することに対して慎重な意見もあったそうですが、外部のフィードバックを受けることでPDCAサイクルを回すことを重視して開示に至ったとのことです。企業がステークホルダーのフィードバックを経営改善の推進力につなげる姿勢を示せば、投資家も株主として関わることの意義を感じることから、長期投資の対象としやすくなると言えます。
 なお、同社CEOの安藤宏基氏は2010年から日本における国連WFP(World Food Programme:WFP国連世界食糧計画)の公式支援窓口である国連WFP協会の会長を務めるなど、サステナビリティ分野での経験が豊富です。そのような背景が、同社の開示や対話の姿勢に影響を及ぼしていると推察されます。

今後に向けての対話

 当ファンドが日清食品ホールディングスと行った最新のミーティングにおいては、上述したESG活動の詳細や開示の方針を確認したことに加え、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)における開示内容」についての意見交換などを行いました。
 TNFDは生物多様性など「自然」が財務に与える影響を開示するためのフレームワークです。生物多様性の開示についてはまだ共通の指標は固まっていませんが、今後開示が求められるようになると思われる項目としては、「生物多様性に関する方針」、「環境保護区域での事業活動状況」、「生態系破壊の有無」「森林等の管理方法の持続可能性」などがあげられます。これらの項目については投資家が各企業の状況を横比較できるツールの開発も進んでおり、今後開示要求が高まることが予想されるため、当ファンドからは同社に関連情報の提供を行いました。
 生物多様性の開示について、日本ではまだほとんどの企業が未着手の状態ですが、同社はこの点に高い関心を持っています。すでに次の一手として自然資本を増やす「ネイチャーポジティブ」という考えのもと、サプライヤーと協力して再生型農業、再生型養殖の普及を進めるための活動にも着手しており、その進展に期待が持てます。

おわりに

 以上、当ファンドの投資先である日清食品ホールディングスについて、同社のサステナビリティに関する状況を紹介しました。独自性を重視した同社の取り組みは注目に値します。当ファンドでは同社の活動が更に進化することを期待しつつ、今後も対話を継続する方針です。

 当ファンドは日本版スチュワードシップ・コード、国連が支援するPRI(責任投資原則)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の考え方に準拠し、企業との対話を通じて相互理解を深め、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となることを目指してまいります。

2022年12月の運用コメント

株式市場の状況

 2022年12月、日本株式市場の代表指数であるTOPIX(配当込み)は前月末比4.57%の下落となりました。
 当月の日本株式市場は、11月30日にFRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル議長が12月のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げ減速を示唆したことを受け、上昇して始まりましたが、その後は米国景気悪化懸念の高まりなどから下落基調をたどりました。月半ばには、欧米中銀の金融引き締め継続による景気悪化懸念や、日銀が長期金利の許容変動幅を修正したことなどを受け、金融政策の転換懸念から株式市場は大幅に下落しました。月後半にかけては、中国が事実上「ゼロコロナ政策」を終了したことでインバウンドや中国経済再開期待が生じる一方、米国の半導体株安や円高の進行を受けて、一進一退で推移しました。

ファンドの運用状況

 当ファンドの基準価額にプラスに寄与した銘柄は、駐車場やリゾート施設を運営する日本駐車場開発、総合ディスカウントストアを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどです。
 日本駐車場開発は2023年7月期第1四半期決算を発表し、営業利益が前年同期比88.7%増と大幅な増益になったことが好感されたと思われます。パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、中国の新型コロナウイルス感染症対策が緩和され、日本を訪れる外国人の増加を見込んで株価が強含んだと考えます。
 基準価額にマイナスに影響した銘柄は、電機・娯楽・金融を営むソニーグループ、タイヤメーカーのブリヂストン、空調機器メーカーのダイキン工業などです。
 ソニーグループ、ブリヂストン、ダイキン工業はいずれも大きなニュースはなく、為替相場で進んだ円高による業績への悪影響を懸念した売りが出ていると考えます。
 投資行動としては、引き続きボトムアップ・リサーチを通じて得られた確信度に基づいた売買を行いました。
 当月は4銘柄に新規投資を開始しました。
 1つ目は住宅メーカーの積水ハウスです。国内では環境負荷が低いZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を推進しており、同社が手掛ける新築住宅の9割に達しています。また、海外展開が順調に進んでおり、特に米国での住宅販売事業が高い成長を遂げています。これらの成長ドライバーに対して株価は割安に取引されていると当ファンドでは考えます。
 2つ目はゲーム会社のネクソンです。バーチャルワールドの運営力が高く、質の高い新作ゲームの開発に期待するほか、規模の大きい中国市場での展開が見込まれます。それにもかかわらず株価は割安に取引されていると考えます。
 3つ目は時計メーカーのセイコーグループです。経営陣が改革を進めた結果、同社のブランド力が向上していると思われます。特に、「グランドセイコー」ブランドは海外での評価が高まっており、今後増加が見込まれる訪日外国人の需要をとらえる可能性が出てきていると考えています。
 4つ目は銀行業を営むみずほフィナンシャルグループです。2022年2月、前年の大規模システム障害の引責で経営陣が交代し、木原社長を中心とした新しい経営陣による企業風土改革が進められています。最近実施したミーティングでは投資家との対話姿勢が以前より前向きになっており、変化の兆しが感じられました。同社は歴史的に重厚長大産業との関係が深く、中長期的に脱炭素トランジション(カーボンニュートラル実現に向けた着実なCO2削減の取組)を金融面からサポートする役割が期待されます。足元の金利上昇による採算性の改善期待と合わせて、今後の業績が上向く可能性を鑑み、投資を開始しました。
 一方で日本電産とジンズホールディングスを全売却、太陽誘電などのウエイトを引き下げました。日本電産は競合のシェア上昇リスクや後継者不在リスクを懸念しました。太陽誘電はスマートフォンの需要が減退していることが懸念材料です。
 当ファンドではESGの開示強化の一環としてESGリスクスコア(※1)と温室効果ガス排出量(※2)を自社で算出し開示しています。当ファンドのESGリスクスコアは21.1で、ファンドの参考指数であるTOPIXの23.7に比較して相対的にESGに関するリスクが低位であるという結果になっています。温室効果ガスの排出量については、売上100万ドルあたりスコープ1(⾃社設備からの排出量)と2(電⼒使⽤からの排出量)の合計が42.4トン、スコープ3(材料⽣産や製品使⽤などその他の活動全般からの排出量)が148.0トンであり、それぞれTOPIXの99.0トン、171.6トンに比較して低く、当ファンドが地球環境へあたえている負荷は相対的に低位となっています。

※1:サステナリティクス社のデータをもとに算出
※2:S&Pグローバル社の「Trucost」データをもとに算出した二酸化炭素換算の数値
※⽉次報告書作成時点で外部ベンダーから提供を受けたデータを掲載しております。本データは外部ベンダーより修正が⾏われる場合があります。

今後の運用方針

 当ファンドは個別企業調査を通じて選び抜いた持続可能性の高い企業に投資をし、確信度を基準に積み上げ型でポートフォリオを構築することを運用の基本方針としています。
 調査活動においては世のなかの大きな潮流を念頭に、過去の調査の蓄積と日々の活動からえられる「気付き」を掛け合わせることで投資仮説を生みだし、個別企業の調査を繰り返すことで投資アイデアに結びつけます。
 具体的には、状況の変化が激しい中国の動向について注視しつつ、日本企業への影響を考察します。中国がゼロコロナ政策を改めたことにより、感染が急拡大している模様です。また、中国国内で変異したウイルスが中国国外にも広がる懸念があり、その影響も気になるところです。
 一方で、少し目線を先に向けると、感染が落ち着きを見せた後には中国の消費回復が見込まれます。2023年1月から中国の入国制限が緩和されることで中国人は海外に渡航しやすくなるため、日本を含む海外に訪れる人の増加が見込まれます。2019年には訪日外国人の3分の1を中国が占めていたことから、中国の人流回復は日本の観光産業に大きな影響を及ぼすことが見込まれます。来日する人が増えれば消費のみならず、不動産などへの投資が活発化するかもしれません。
 日本では11月の消費者物価指数は前年比3.7%上昇と40年ぶりの物価上昇水準となっています。ここで更に需要が拡大すれば長らく続いていた日本のディスインフレ状態(デフレは抜けたがインフレになっていない状態)が本質的に変化することも考えられるため動向把握に努めます。
 なお、当ファンドではボトムアップ・アプローチをとっているため、マクロ経済の予測のみをもって投資判断を行うことはしていません。経済動向については高い関心を払っていますが、それらは企業の業績予想やリスク分析などファンダメンタルズ評価の参考情報として活用することとしています。

中期的の活動方針と活動紹介

 当ファンドでは中長期的な運用力向上のため、非財務情報についての分析手法の高度化やコーチング手法の活用による対話力の強化を進めています。
 当月は投資先企業であるコクヨを取り上げ、同社の経営改善の過程と今後の期待について記述します。

コクヨの概要

 コクヨは文具とオフィス家具の製造販売を主力とする企業です。
 1905年に商人が使う帳簿の表紙を作る「黒田表紙店」として創業した同社は、時代を経る中で便箋やノートに製品を拡大し、現在は文具全般を展開しています。祖業の流れをくむノートは国内トップシェアを誇っており、その代表格である「Campus」ブランドのノートは長きにわたって日本の学びと仕事を支えてきました。
 また、1960年に文書キャビネットの製造を開始したことをきっかけに、オフィス家具にも事業の幅を広げた同社は、現在オフィス設計の提案から関わることで内装についてのトータルソリューションへとビジネスを進化させています。

投資家との対話姿勢

 当ファンドではコクヨに2015年に投資を開始しました。同年に就任した黒田英邦社長による経営方針への期待に加え、IR活動に積極化の兆しが見え始めたことが投資を検討し始めたきっかけです。
 その後、当ファンドでは同社の経営陣やIR部門と継続的に対話を続けてきていますが、同社のIR体制は年々改善を続けており、昨今は創意工夫による独自の取り組みが目立つようになってきました。
 最新のミーティング(2022年12月開催)においては、コクヨ自らが投資家と議論したいポイントを「中長期戦略にかかるディスカッションペーパー」という形でまとめて、フィードバックを求めるという形態で進められました。このディスカッションペーパーは経済産業省作成の「価値協創ガイダンス」をベースに作成されています。
 価値協創ガイダンスは企業に対して開示内容を5つの項目(①価値観、②長期戦略、③実行戦略、④成果と重要な成果指標(KPI)、⑤ガバナンス)とそれぞれの詳細項目という形でまとめることを推奨しており、コクヨはそれに従いディスカッションペーパーをまとめています。
 このアプローチは企業が定性情報について外部フィードバックを受けるという観点において大変有効だと感じます。
 価値観や戦略などの定性情報についての開示は、会計基準のようなフォーマットがなく標準化がされていないことから、企業が内容を恣意的に選択する余地があります。企業側に選択権があるのであれば当然ながらその内容は自社の強みをアピールする形でまとめられがちです。すると、本当はしっかりと検討した方がよい「弱み」や「課題」の部分に盲点が生じてしまうことになります。
 そこで、価値協創ガイダンスのようなフォーマットに従って開示を行うことによって、盲点の発生を防ぐことができます。実際にコクヨはこのアプローチによって「競争優位性」、「KPI」、「役員報酬」についての開示が足りていないということに自ら気付き、投資家との対話においてはその点についてフィードバックを求めるという進め方に至っています。

コクヨの競争優位性

 当ファンドでは上記の様な対話を通じてコクヨのオフィス家具事業についての優位性について理解を深めました。それらは隠れた先行投資による効果と言えるもので、二つの事例によって具体的に見ることができます。
 一つ目の事例は「ライブオフィス」です。ライブオフィスとはショールームとして外部に開放している自社オフィスのことです。オフィスは多くの人が活動する場であるため、設計図だけでは使いやすさを把握することに限界があります。コクヨは自社オフィスで最新の働き方を試し、それを顧客に見てもらうというアプローチによって、事前イメージと完成形にギャップが生まれにくい仕組みを構築しています。
 同業他社も同様の取り組みを行っていますが、コクヨは1969年に初めてのライブオフィスをつくり、現在は全国に20ヶ所以上のライブオフィスを有するなど、歴史的にも規模的にも他社を凌駕しています。自らコスト負担、リスク負担を行って実証実験することが提案力の強化につながっていると考えられます。
 もう一つの事例はコミュニケーションスペースの拡大です。同社のオフィス家具事業は、2008年の金融危機後の苦戦を受けてビジネスモデルを販売中心型から提案型へと転換することで立て直しを図りました。その際に取り組んだのが、顧客オフィスに占めるコミュニケーションスペースの面積を従来の15%から30%へ広げるという提案です。この提案は顧客企業にとっては労働環境の改善や偶発的な出会いによるイノベーション促進などの効果という価値につながります。一方のコクヨにとっては執務スペースを減らすとオフィス家具の販売量が減るリスクがあるため簡単な決断ではなかったそうですが、最終的にコミュニケーションスペース拡大を提案する方針を取るに至りました。
 そのような顧客重視姿勢が功を奏したことが提案力の強化となり、設計から関与する現在のビジネスモデルの強みになっているということが推察されます。

更なる評価改善に向けて

 最後に、コクヨの評価が更に改善するための施策について、最新のミーティングにおいて当ファンドから同社に伝えた意見を紹介します。
 一つは財務的な観点として、ROE(株主資本利益率)の改善継続を期待するという意見です。同社のROEは2000年から15年間にわたり3%台以下の水準が続いていました。その後、利益率の改善や株主還元強化によってROEは上昇傾向となり当期末には7%台後半に達する見込みです。上昇傾向にある点はポジティブですが、現状水準だと日本の平均的な株主資本コストと言われている8%に及ばない状況です。同社は財務内容が非常に健全であり(それ自体は良いことですが)、結果として事業規模に比して株主資本が大きすぎることとなりROEの水準を引き下げる要因となっています。もう一段の株主還元強化によって株主資本の規模が適正化されれば、株価評価が大きく改善する可能性があると思われます。
 もう一つの意見は非財務的な観点として、社会的インパクトの創出を期待する旨を伝えました。その点に関しては、コクヨ側からはインクルーシブデザイン(※3)の比率を高める活動に注目してほしいという返答がなされました。コクヨはチャレンジ目標として新商品に占めるインクルーシブデザインの比率について2024年に20%、2030年に50%という目標値を発表しています。目標の達成に向けて、障がいをもった従業員も参加する形での商品開発の取り組みが始められたとのことです。
 インクルーシブデザインを採用することの直接的な収益インパクトは大きくないかもしれませんが、このような姿勢に共感する人が強い支持層になれば、事業推進にも株価評価にもプラスの影響が及ぶと期待されます。

※3:従来、顧客対象から置き去りにされがちだった人々、例えば、高齢である、障がいがある、その地の言語を母語としないといった人たちと一緒に、商品やサービスのデザインプロセスの上流から開発を進める手法

おわりに

 以上、当ファンドの投資先であるコクヨについて、経営改善の過程と今後の期待について紹介しました。当ファンドとしては引き続き対話を通じて同社の価値創造を側面から支援していく方針です。

 当ファンドは日本版スチュワードシップ・コード、国連が支援するPRI(責任投資原則)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の考え方に準拠し、企業との対話を通じて相互理解を深め、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となることを目指してまいります。

主な投資リスク、費用等

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