スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.17「株主提案は短期志向なのか」
6月は上場企業の株主総会が多く行われる時期ですが、ここ数年、株主提案の数が増えています。スチュワードシップ・コードの導入以降、日本の一般的な機関投資家も企業価値向上に資する株主提案については、その賛否について是々非々で判断するようになってきました。その結果として、日本市場に参加するアクティビストの数が増えており、株主提案数の増加につながっているとも考えられます。今回のニッポン解剖では、この増加する株主提案について考えたいと思います。
まずは株主提案を行う権利である株主提案権について簡単に解説します。株式会社における最高意思決定機関である株主総会では、取締役の選任や剰余金の処分、定款の変更など会社経営に関わる重要事項について、様々な議案が決議されます。この議案は会社だけでなく、株主も提案することができます。これは株主提案権と呼ばれ、株主が経営に参加する権利であり、共益権(権利行使の結果が株主全体の利益に影響する権利)の一つです。最終的なリスクの担い手である株主にとって重要な権利であると考えられています。
ここで、とある株主提案に対する企業の意見表明をご紹介します。
「中長期的な企業価値の向上に資するものではないため、当社取締役会は、本議案に反対」
「短期的な視点に基づく提案であるため、当社取締役会は、本議案に反対」
(*本稿では、個別の株主提案の内容について議論することは趣旨ではないため、上記は筆者が一部要約して記載したもの)
短期志向の株主提案であったのであれば、それに対する中長期的な企業経営に基づいた反対表明であり、合理的な判断とも捉えられます(※)。一方で、株主提案は短期的な株主利益のみを追求したものばかりではありません。特に近年は、中長期的な企業価値向上を企図した資本効率の改善を促す株主提案が増えてきているように感じます。例えば、企業がバランスシートに抱える有価証券などの金融資産について、有効活用されていない場合があります。それが資本効率を悪化させる要因となっている場合には、金融資産の有効活用による株主還元強化を求めることは、短期志向の提案ではなく、企業価値向上に資する提案であると考えられます。過度な株主還元の強化によって財務健全性が大きく損なわれるような株主提案と、肥大化したバランスシートを適正な水準に戻すための株主提案は、分けて考えられるべきです。同じような株主還元の強化を求めた株主提案も、その意図するところをしっかりと理解し、本当に中長期的な企業価値向上に資する提案なのか、会社の意見表明の通り短期的な視点に基づく提案なのか、しっかりと見定めていく必要があると思います。
※株式市場は、様々な時間軸で考える投資家で構成されており、一概に短期志向を否定するものではありませんが、本稿は長期投資家の視点で執筆しています。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。