ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.19「株主優待廃止から考える株主構成変化」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.19「株主優待廃止から考える株主構成変化」

 昨今、事業成長と株主還元のバランスがとれた資本効率の改善を志向する企業が増えつつあるように感じます。株主還元の手法は、配当金の支払いや自社株買いに加えて、日本では株主優待で還元している企業も多く見られます。今回はこの株主優待制度について考えたいと思います。

 株主優待とは、自社の株主に対して、自社製品や飲食券・割引券、金券などの優待品を送る制度のことで、任意の制度ではありますが、日本では多くの企業で導入されています。日本での株主優待の歴史は古く、筆者が確認できた範囲では、明治32年(1899年)に東武鉄道が優待制度を導入しています。株主優待によって、自社の製品やサービスを利用してもらうことで、企業へのロイヤリティ向上につながり、長期保有を促す効果があると考えられています。一方で、株主優待制度を廃止する企業も増えてきています。ここで、株主優待制度の廃止を発表した企業の廃止理由をご紹介します。

「この度、株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から、慎重に協議した結果、配当による利益還元に集約することが適切であると判断し、株主優待制度を廃止することといたしました」

(*本稿では、個別の開示内容について議論することは趣旨ではないため、上記は筆者が抜粋して記載したもの)

「株主への公平な利益還元」が廃止の理由として挙げられていますが、どういった点が問題となるのでしょうか。株主優待には「株主平等の原則に反している」との批判があります。会社法1091項では、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めています。一方で、株主優待は、優待内容に上限が設けられていることから、小口で投資をする投資家に有利な還元率となることが一般的であり、大口投資家にとっては魅力に乏しい制度となっています。加えて、投資信託の運用をしている日本の機関投資家は、受託会社である信託銀行が株主優待を受け取って、可能な限り換金した上でファンドへの繰り入れを行いますが、食品などの換金性の低いものについては、そのような対応が困難な場合もあります。また、海外投資家にとっても魅力に乏しい制度となっています。優待品の発送が国内のみに限定されている場合や、そもそも海外では換金が難しい場合も多いからです。このように「株主への公平な利益還元」を理由に、株主優待の廃止に踏み切る企業が増えていると考えられます。

 株主優待は、個人投資家に対して長期保有を促す効果が期待できる一方で、機関投資家や海外投資家などは直接的な恩恵を受けることができない場合もあることから、賛否の分かれる制度となっています。別の見方をすると、優待制度の変更は、その企業の目指す株主構成の変化と捉えることもできるかもしれません。株主優待の廃止は、優待を期待した投資家にとっては魅力の低下につながると考えられますが、機関投資家や海外投資家などより広い投資家層へアピールしたいという姿勢の表れと捉えることもできると思います。優待制度の変更や廃止を一律にネガティブ視するのではなく、その背景をしっかりと考える必要があります。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。