スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.20「株主の意識変化で変わる日本企業」
株主提案を受ける企業が増えており、6月に株主総会を行った企業に対する株主提案数は、2024年は過去最多となったという報道もありました。日本企業には経営の監督者が不在であるという批判もある中で、株主提案の増加は、日本企業の新しいガバナンス体制への転換の兆しに感じます。
日本企業の株式所有構造を振り返ると、1980年代までは銀行(メインバンク)が、融資先である顧客企業の株式を所有し、その企業を監督するというメインバンク体制が機能してきました。その後、バブル崩壊による不良債権問題の深刻化により銀行自身が危機的状況に陥る中で、企業経営における規律付けとしての銀行への期待は低下していきました。メインバンク体制の解体につながり、日本において企業経営の監督者が不在になったとの指摘もあります。現在は海外投資家をはじめ多様な株主による所有構造となり、本来的には、この多様な株主による企業経営への健全な規律付けが期待されるところですが、現状を見るに、筆者としてはあまり有効に機能しているとは思えません。
また、日本は相対的に上場企業数が多いという特徴があります。米国市場に上場する米国企業数は約4,300社、一方で日本市場に上場する日本企業数は約3,900社であり、両国の市場規模の差を考慮すると、日本の上場企業数が相対的に多いことが分かります。上場企業数が多いことに加えて流動性(市場での株式の取引量)の低い企業が多いことから、日本は、証券会社のアナリストによるカバレッジ(証券会社などのアナリストが、ある企業について継続的に調査分析し投資家に対して推奨等を行う対象にすること)が少ないという特徴があります。その結果として、企業と投資家との間の情報の非対称性(情報の発信側である企業と受信側である投資家とで、情報の量や質に差があること)が解消できず、適切なモニタリングが困難な場合があることも、株式市場を通じたガバナンスが弱い要因の一つであると考えられます。
一方で、冒頭で述べた通り、株主提案数が過去最多となっています。特に近年は、中長期的な企業価値向上を企図した株主提案が増えてきているように感じます。さらに、スチュワードシップ・コードの導入以降、日本の一般的な機関投資家も企業価値向上に資する株主提案については、その賛否について是々非々で判断するようになってきました。これらは、これまで弱いとされてきた株式市場からの企業へのガバナンスについての変化の兆しであるように感じます。企業のオーナーである株主が、中長期的な視点から企業経営をモニタリングし、適切に株主の権利である議決権行使や株主提案を行い、企業と共に企業価値向上を目指すという株主本来の役割によって、日本企業の魅力が高まっていくように感じます。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
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