ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.21「買収防衛策としての株価上昇策」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.21「買収防衛策としての株価上昇策」

 先般、カナダ小売大手から、日本の流通大手であるセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)へ買収提案がありました。セブン&アイは特別委員会を組成し、この買収提案について検討をしています。今回のニッポン解剖では、日本企業への買収提案とその対応策としての株価上昇策について考えたいと思います。

 筆者の見解として、日本企業への買収提案は今後増加していくと考えています。その背景を整理すると、①政策保有株の削減による持ち合い構造の解消、②20238月に経済産業省から公表された「企業買収における行動指針」が挙げられます。

 ①政策保有株や株式持ち合いは、株式を持った企業が「物言わぬ安定株主」となることで、経営の規律低下といったコーポレートガバナンス上の問題を招くとして機関投資家などからの批判がありました。また、持ち合い株主は、買収者から、どのような価格を提示されたとしても株式を売却せず、買収防衛策としての役割も担っていると考えられてきました。こういった批判の中で、これまで緩やかに持ち合い構造の解消が進んでいましたが、20233月の東京証券取引所による資本効率の改善に向けた要請を受け、政策保有株を減らす動きに弾みがついています。

 ②20238月に、経済産業省から「企業買収における行動指針」が公表されました。企業価値を向上させ、株主の利益になるM&Aの活性化を目指して策定されたもので、買収提案を受けた取締役会の行動規範がまとめられています。この中で、企業価値の向上につながる買収を妨げないために「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」をすることが求められています。これまでは買収の提案を受けても、経営陣が取締役会での検討を経ずに提案を拒否することもあったと推察されます。冒頭で紹介したセブン&アイへの買収提案についても、同社から「株主の皆様をはじめとする当社ステークホルダーの利益の最大化を図る義務を果たすべく、特別委員会は、当該提案を当社のスタンドアローン計画及び当社の企業価値を向上させる他の選択肢とともに、慎重かつ網羅的に、しかし速やかに検討」するとのリリースが出されています。

 今後、日本企業への買収提案が増えていくとすると、企業としてどのような対応策が想定されるのでしょうか。一つは、前述の通り、買収提案に対して真摯に検討することが求められます。また、買収提案を受ける可能性そのものを減らすためには、株価が割安になった状態を放置しないことが肝要だと考えます。株価の割安性を測る指標であるPBR(株価純資産倍率)はROE(株主資本利益率)とPER(株価収益率)に分解できますが、特に経営効率の指標であるROEを改善することで、PBRを引き上げることこそが、買収防衛策になると考えます。つまり、買収されるリスクを下げたい企業は、株価を改善させるインセンティブが働きやすくなると言えます。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


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