スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.22「マーケットクラッシュを考える」
2024年8月5日の日経平均株価の暴落も、喉元過ぎれば熱さを忘れる中、株式市場は冷静さを取り戻しつつあります。このタイミングで今回の暴落を改めて振り返りたいと思います。8月5日のような暴落時に、どのように考えれば狼狽売りをせずに済むのか、むしろ絶好の買い場と捉えることができるのか、企業業績を重視するファンダメンタルズ投資の視点からお伝えします。
8月5日は、日経平均株価が1日で4,451円下落し、過去最大の下げ幅を記録しました。1987年10月19日にニューヨーク株式市場で発生した暴落はブラックマンデーと言われていますが、今回が奇しくも同じ月曜日だったこともあり、日本版ブラックマンデーとも称されました。米国経済がノーランディング(景気減速しない)とさえ言われていた中で、景気減速を示唆する経済指標が公表されたことや、日本銀行による政策金利の引き上げと急速な円高などが下落の要因として考えられています。
しかし、筆者の個人的見解としては、「ミスター・マーケット」が理性を失った影響が大きいと考えています。ミスター・マーケットとは、バリュー投資の父と呼ばれるベンジャミン・グレアム氏が生み出した架空の人物であり、毎日現れては市場を値付けすると言われています。ミスター・マーケットの価値評価が、適切なものに見えるときもありますが、時に理性を失い、常軌を逸した価格を提示することもあります。本稿では、株価水準を測る指標であるPBR(株価純資産倍率)※1 はROE(株主資本利益率)※2 とPER(株価収益率)※3 に分解でき、ROEを改善させることが株価上昇の鍵になると繰り返し述べてきました。筆者としては、ミスター・マーケットが、企業の財務状況をきちんと反映せずに情緒不安定な価格を提示するときには、PERにその影響が表れると理解しています。一方で、ミスター・マーケットにはROEを動かす力はありません。つまり、株価が大きく下落したときには、企業のROEが悪化しているのか、それともミスター・マーケットの値付けが極端に低くなっているのかを冷静に分析する必要があります。ミスター・マーケットの機嫌がいつ直るのかを予測することは困難な場合が多いです。しかし、ROEの維持や改善が期待できる企業に対して、ミスター・マーケットが理性を失ったタイミングで投資を行うことが、ファンダメンタルズ投資の視点からは重要であると考えます。
リーマンショックやチャイナショック、コロナショックなど過去の下落局面を振り返ってみても、長期的には株価は上昇してきました。もちろん全ての企業の株価が長期で保有すれば上昇するということはありません。株価下落の背景には、企業業績の悪化が懸念される場合や、そもそも割高な価格で取引されていた株価が是正される場合などもあります。バリュー・トラップ(PERやPBRなど特定の指標では割安だと考えられるが、適正な株価への是正が行われず、安価なまま放置されている状態。安価な株式には何かしらの理由がある場合があるので、多面的な分析が必要です)など、その他にも考慮するべきことはありますが、大きな下落があったときには、冷静な目で、その企業のROEやファンダメンタルズに変化がないかをまずは分析することが大切です。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
※1 : 株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示す指標。
※2 : 株主資本に対して企業がどれだけ効率的に利益を稼いだかを表す指標。
※3 : 1株あたりの純利益(EPS)に対して株価が何倍になっているかを示す指標。