ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.23「上場企業経営における不言実行を考える」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.23「上場企業経営における不言実行を考える」

 昨今、企業と株主との積極的な対話の実施が期待されています。建設的な対話を実施するためには、まずはその企業について正しく理解する必要があります。今回は、企業の情報開示であるIRInvestor Relations:インベスター・リレーションズ)について考えたいと思います。

 IRとは、企業が投資家に向けて、自社の経営状況や財務状況・中長期的な業績見通しなど、投資を判断する上で必要となる情報を提供する活動を指します。筆者個人が長期投資家として重視しているのは、長期の成長戦略です。また、長期の成長戦略を適切に開示することで、長期投資家の資金が集まるきっかけ作りになるとも考えています。裏を返せば、長期戦略を示さなければ、短期志向の投資家の資金が集まりやすくなるとも考えられます。ここで、日本を代表する外食企業の社長と面談をした際のコメントをご紹介します。

「どのような戦略を実行するかを公表するのでなく、結果で示したい」

まさに不言実行。多くを語らずに、やるべき事をやって結果を出す。武士のような美徳にも感じられます。しかし、筆者の見解として、この外食企業は、堅調な月次情報(既存店の客数・客単価)を開示しているにも関わらず、株式市場からは、株価としては適切な評価を受けきれていないと考えています。株式市場の参加者にとっては、同社の長期戦略が見えないために、月次動向に継続性はあるのか、利益にどのように効いてくるのか、さらには中長期的な業績見通しにどのように影響するのか、確信が持てないのだと思います。長期戦略が見えない中では、月次情報などの短期業績の内容に一喜一憂した株価形成がなされる場合があります。海外投資家からは最近の日本株のボラティリティ(変動率)の高さが懸念視されているとの報道もあります。米国経済や金利動向など外部環境の急激な変化に因るところもありますが、企業が長期志向の投資家の資金を確保できていないことも、日本株のボラティリティが高い要因の一つではないかと考えています。本稿では、株価水準を測る指標であるPBR(株価純資産倍率)※1 ROE(株主資本利益率)※2 PER(株価収益率)※3 に分解でき、ROEを改善させることが株価上昇の鍵になると繰り返し述べてきました。投資家が中長期的なROEの改善を予想するためには、その判断材料を企業に提供してもらう必要があります。

 東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請」を皮切りに、日本企業に変化が見え始めています。この要請では、資本コストや資本収益性を意識した経営資源配分の実現に加えて、開示をベースとした投資家との積極的な対話によって取り組みをブラッシュアップしていくことが求められています。企業と投資家とが長期的な企業価値向上について建設的な対話をするためにも、不言実行ではなく、有言実行の事業運営を行っていくことが必要であるように感じます。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

1 : 株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示す指標。
2 : 株主資本に対して企業がどれだけ効率的に利益を稼いだかを表す指標。
3 : 1株あたりの純利益(EPS)に対して株価が何倍になっているかを示す指標。

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。