スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.24「100年前の投資が行われる日本」
昨今、日本においてアクティビストの活動が活発化しています。アクティビストとは、株主としての権利を積極的に行使することで、経営改善など、企業活動に対して株主の考えを反映させようとする投資家のことです。スチュワードシップ・コードの導入以降、日本の一般的な機関投資家も企業価値向上に資するアクティビストによる株主提案については、その賛否について是々非々で判断するようになってきました。アクティビストが投資先企業に対して投げかける論点は多岐にわたりますが、企業のバランスシートの非効率性に着目することがあります。歴史を振り返ると、1920年代にバリュー投資の父と呼ばれるベンジャミン・グレアム氏が、パイプライン会社のバランスシートにある金融資産に着目して投資を行い、株主還元を要求したと言われています。まさに現代のアクティビストによる要求と同じです。この100年前から行われている投資活動が、今日本において活発化しているように感じます。
なぜこのような投資活動が行われるのか、その要因を探るカギは、日本企業が抱える現預金の水準と強固な財務基盤にあります。日本企業(民間非金融法人企業)の抱える現預金の規模は拡大を続け、2024年6月末時点では、約350兆円まで増加しています。また、企業の自己資本比率(金融業、保険業を除く)も1990年代の約20%から、2024年6月末時点で約44%まで高まっています。バランスシートに金融資産を多く抱えるキャッシュリッチ企業が多く存在しているのが日本の特徴となっており、グレアム氏が100年前に行った投資が行いやすい環境にあると言えます。東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請」で、バランスシートを意識した企業経営並びに、経営資源の最適配分の実践が求められたことも金融資産に着目した投資活動が行われやすくなった要因になっていると思います。
バランスシートにある金融資産に着目し、積極的な活用を促す投資スタイルは、プロのアクティビストに留まらず、個人投資家にも広がっているように感じます。私が出席したある企業の株主総会で、個人株主から「バランスシートにある現預金の使い道は?」という質問がありました。以前の同社の株主総会は、製品への要望やエールが飛ぶような優しい株主総会でしたので、その様相は大きく変わった印象を受けました。
金融資産に着目した投資スタイルは、会社にお金を吐き出せて短期利益を狙うハゲタカのように感じられる方もいると思います。確かに、その企業に成長意欲と機会があるにも関わらず、必要な投資資金を吐き出させるような行為は、ハゲタカだと批判されても仕方がない面もあると思います。しかし、企業のライフサイクルが成長期を越え、成熟期や衰退期に入った場合には、バランスシートに持つ資金の使途が限られてくる場合もあります。その際には、株主に適切に還元し、肥大化したバランスシートを適切なサイズに改善させることも必要になってくると思います。企業が必要以上に金融資産をため込むのではなく、株主に対して適切に還元を行えば、株主はその還元された資金を成長が期待できる企業に再投資することが可能になります。この企業による還元と株主による再投資により、日本全体が活力を取り戻すことを願ってやみません。
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆
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