ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「大株主による株式売出しの影響を考える」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「大株主による株式売出しの影響を考える」

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 昨今、株価の上昇要因となり得る自社株買いが増えています。一方で、株式需給の悪化懸念により株価の下落要因となり得る株式の売出しも公表が相次いでいます。今回のニッポン解剖では、短期的にはネガティブに取られがちな、株式売出しについて考えます。

 株式売出しとは、上場企業の大株主などが所有する株式を、不特定多数の投資家に対して売却する手続きをいいます。企業と契約した証券会社が大株主などから株式を買い取り、当該株式を希望する投資家に売り出すという手法です。株式売出しの実施による株式需給への影響を緩和することを狙い、自社株買いとセットで公表することもあります。この株式売出しという手法自体は古くから存在しますが、昨今は、金融機関や事業会社による売出しが増えているように感じます。

 冒頭で記載した通り、株式売出しは、短期的には株式需給の悪化懸念により株価の下落要因となり得ますが、ネガティブな要素しかないのでしょうか。筆者の個人的見解としては、中長期的にはポジティブな影響も十分にあると考えています。

 ポジティブな影響の一点目は、「政策保有株の削減効果」です。上述の金融機関や事業会社による売出しも、政策保有株の売却・持ち合い解消を目指したケースも多分にあったと考えています。政策保有株や株式持ち合いは、株式を持った企業が「物言わぬ安定株主」となることで、経営の規律低下を招くとして機関投資家などからの批判がありました。また、持ち合い株主は、買収者から、適切と考えられる価格を提示されたとしても株式を売却せず、買収防衛策としての役割も担っていると考えられてきました。こういった批判の中で、金融庁や東京証券取引所からの要請を受け、政策保有株を減らす動きが活発になっています。加えて、安定株主比率の低下により、「物言う株主」と言われるアクティビストの投資対象となる可能性が高まり、企業価値や株価を意識した経営がこれまで以上に求められることになります。このように、政策保有株削減による物言わぬ安定株主の減少は、株式市場による経営の監督機能強化(ガバナンス改善)につながると考えられます。

 ポジティブな影響の二点目は、「株式の流動性改善効果」です。投資信託を運用する資産運用会社などの大手機関投資家は、大口の取引を行うため、流動性リスク(株式の売買高が少ないなどにより、買いたいときに買えず、売りたいときに売れないリスク)を避ける傾向にあります。株価上昇が期待できる企業を見つけたとしても、流動性が低い企業だった場合には、投資を見合わせるケースや、そもそもリサーチの対象から外れるケースもあります。そのため、安定株主の売出しにより、株式の流動性が高まることで、機関投資家の投資検討の対象となり得るという効果が期待できます。また、スタンダード市場からプライム市場への上場市場区分を変更するためには、流動性に関する項目を充足する必要もあります。

 このように、株式需給の観点からは、ネガティブに思える大株主による株式売出しも、時間軸や視点を変えてみるとポジティブな影響も考えられます。大株主による株式売出しにより、株価が悲観に包まれる中でも、冷静に状況を判断することが大切です。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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