ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.31「グループ経営の再考:親子上場、持分法適用関係」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.31「グループ経営の再考:親子上場、持分法適用関係」

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 2023年3月の東京証券取引所(以下、東証)による資本効率の改善に向けた要請から始まった株式市場改革は3年目を迎えています。株式市場は企業との対話を強化しており、企業のバランスシートの効率化、事業ポートフォリオの再考、IR活動(企業が株主や投資家に対し、自社の業績や経営方針などの情報を提供すること)の積極化など、多様な論点を議論してきました。筆者は、次の重要なテーマは、グループ経営の再考になると考えています。今回のニッポン解剖では、グループ経営において論点となる親子上場と持分法適用関係について考えます。

 グループ経営とは、子会社や関係会社など複数の企業が連携し、ひとつの企業グループとして経営することを指します。その中でも親子上場は、親会社と子会社のそれぞれが株式を上場している状態をいいます。親子上場は、それ自体が否定・制限されているわけではありませんが、グループ経営の視点から、なぜ親子上場が必要なのか、また、子会社における親会社以外の株主である少数株主の保護に関する説明責任が求められます。株式市場との丁寧な対話が求められる中では、この説明責任が果たせない親子上場については、解消へ向かうと考えられます。実際、親子上場数(上場子会社数)は、2014年の324社から2024年には230社まで減少しています。親子上場の解消は、親会社が、子会社の株式売却により親子関係を解消する、もしくは、子会社の株式を買い取って少数株主のいない完全子会社にする、という方法があります。いずれの方法も株価に一定のインパクトを与えるため、株式市場からの関心が高いトピックとなります。東証からも20252月に「親子上場等に関する投資者の目線」が公表されるなど、親子上場に関する議論が活発化しています。

 親子上場のメリット・デメリットを改めて整理します。メリットとしては、親会社と子会社の事業シナジーや、上場することによる子会社のガバナンス体制の強化、子会社独自の資金調達機会の多様化などが挙げられます。デメリットとしては、事業シナジーが投資家に伝わらないことによって株価低迷に陥ってしまうコングロマリット・ディスカウント(多くの事業を抱える複合企業の企業価値が、事業毎の企業価値の合計よりも小さい状態のこと)や、上場子会社が親会社の利益を優先し少数株主の利益が蔑ろにされた経営が行われる懸念があるという利益相反リスクなどが懸念されます。過去は親子上場を当然のものとして、そのメリットばかりが語られることも多かったように感じますが、昨今、筆者の企業との対話においては、「優先順位はそこまで高くないが、親子上場の課題はしっかりと認識している」というコメントをもらうケースも出てきました。

 前述の通り、完全子会社化や子会社株式の売却などにより、親子上場数は減少傾向にあります。一方で、保有比率は引き下げられたものの、なお20%以上50%未満の親会社による保有が続く上場企業の数は増加傾向にあります。これは親子上場の形態が、連結子会社から持分法適用会社にシフトはしたものの親子間の従属関係が依然として継続しているケースもあることを示唆しています。そのため、この持分法適用関係についても見直しが求められると考えられます。保有形態が連結子会社であれ、持分法適用会社であれ、重要なのは「親会社が子会社にとってベストオーナーであると説明できるか」です。この問いに明確に答えられない場合には、親子上場は解消に向かうべきだと考えます

 親子上場は海外では珍しく、海外投資家にとっては理解に苦しむ資本形態の一つと言われています。日本の株式市場がグローバルの投資家から選ばれる市場として機能するためには、親子上場についても丁寧な説明と変革が求められていると考えます

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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