ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.33「株主総会に向けて:アクティビストは敵か」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~ Vol.33「株主総会に向けて:アクティビストは敵か」

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 3月期決算企業の多い日本株式市場において、6月は株主総会シーズンとなります。株主総会は、会社の重要事項を決議する場ですが、「シャンシャン総会」と揶揄されるように、形式的なセレモニーに留まっていると思われるものも数多くあります。しかし、昨今の株主総会は、これまでの会社側の議案を淡々と可決するものから変化しつつあります。その火付け役の一人が、アクティビストです。今回のニッポン解剖では、アクティビストの日本での動向について考えます。

 アクティビストの日本での活動が、近年ますます活発化しています。株主提案を行う主体が必ずしもアクティビストとは限りませんが、20253月に行われた202412月期決算企業の株式総会では、株主提案数が過去最多を更新したとの報道もありました。株主提案は否決されるケースが大半を占めるものの、可決とならなかった場合でも賛成率は上昇傾向にあります。6月に本格化する株主総会シーズンでは、更なる株主提案の増加と賛成率の上昇が見込まれます。筆者の見解としては、近年の株主提案は、短期的な株主利益のみを狙ったものから、中長期的な企業価値向上を企図した提案が増えているように感じます。さらに、多くの株式を保有する機関投資家の行動も変容が見られます。過去は株主提案に対して反対票を投じることが多かった日本の一般的な機関投資家も、企業価値向上に資する株主提案については、その賛否について是々非々で判断するようになってきました。こうした背景を踏まえれば、今後も株主提案数とその賛成率は拡大していくと考えられます。

 株主提案に対する企業からの意見表明としては、「短期的な視点に基づく提案であるため、当社取締役会は、本議案に反対する」といったものがあります。短期志向の株主提案であれば、長期的視点から企業経営を行っている取締役会が反対表明を行うことは合理的だと考えます。一方で、本当に株主提案が短期志向のハゲタカ的なものかどうかは個々に吟味する必要があります。株主還元の強化を要求する提案について、企業側は、財務健全性の棄損や成長投資の機会損失を理由に反対表明することがあります。しかし、財務健全性や今後の投資機会を考慮したとしても、過剰な金融資産を抱えているケースも散見されます。そういった場合には、肥大化したバランスシートを最適化し、資本効率を改善させる観点から、株主還元の強化は長期的な視点に立ったものとして正当化されるケースもあると考えられます。

 一方で、アクティビストからの株主提案の中には、短期的な株主利益のみを狙ったものや、アクティビストの運用資金獲得のためのマーケティング活動が主な狙いと思われるケースも一部に見受けられます。こういった提案については、中長期的な企業価値向上の観点から会社側が反対の意見表明を出すことは極めて合理的であると考えます。会社の財務状況や今後の投資計画を無視した過度な株主還元の要求や、適性があると考えられる経営陣も含めた全取締役の解任提案などは、企業価値に大きな影響を与えることになります。株式市場は、様々な時間軸で投資判断を行う投資家によって構成されており、一概に短期志向を否定するものではありませんが、長期投資の観点からは、株主提案の意図することをしっかりと分析し、見定めていく必要があるように思います

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

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