ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「日本企業への成長期待:企業価値を高めるインセンティブ設計」 | レポート | スパークス・アセット・マネジメント

スペシャルレポート ニッポン解剖~日本再興へのメカニズム~「日本企業への成長期待:企業価値を高めるインセンティブ設計」

レポートのダウンロード(242.5 KB)

 海外投資家による日本株への見直し姿勢が強まってきました。東京証券取引所が発表する投資部門別売買状況でも海外投資家による日本株の買い越しを確認することができます。日本株への見直し姿勢が強まっている背景として、日本企業の資本効率改善への期待があります。実際に、上場企業による資本効率改善に向けた取り組みとしての自社株買いが急増しています。資本効率改善への期待は強まる一方で、筆者としては日本企業の成長への期待感については醸成されているとは言い難いと感じています。投資家の企業への成長期待を反映するPER(株価収益率)についても、概ねここ数年のレンジ内に収まっています。日本企業の成長力を高めるために、本連載では、社外取締役の役割や、事業ポートフォリオ改革などの重要性を提言してきました。今回のニッポン解剖では、企業の成長力を高めるためのインセンティブ設計、すなわち報酬制度の改革について考えます。

 インセンティブ設計の一つである役員報酬については、業績連動報酬や株式報酬の導入が進んできました。中長期的な会社の業績やリスクの報酬への反映は、経営陣の健全な企業家精神の発揮に資する取り組みであり、特に株式報酬は経営陣に株主目線での経営を促す効果があると考えられています。

 役員報酬のインセンティブ設計は進んできましたが、筆者は従業員のインセンティブ強化もまた必要であると考えています。近年、賃上げに向けた動きが加速しています。賃上げとは、賃金水準を一律に引き上げるベースアップ(ベア)と、個人の勤続年数や能力などに基づいて上げる定期昇給から構成されます。ベアを実施する企業は増えていますが、筆者としては、日本企業の成長力を高めるためには、賃金水準の「一律の」引き上げだけではなく、従業員の企業成長への貢献を促進するインセンティブ設計の強化が必要と考えています。日本は新卒一括採用・終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系を採用する企業がいまだ多く、一律に賃金水準を引き上げるベアは、年齢や勤続年数による賃金の差は埋まらないため実施しやすいという側面があります。一方で、企業業績が悪化したときに人件費を削減しづらいという懸念もあります。筆者は企業経営者との面談機会が多くありますが、保守的と思われるような業種においても、一律の賃上げに留まらず、実力重視の人事制度への移行が増加傾向にあると感じます。特に、業績貢献度に応じた株式報酬制度の導入を検討する動きが広がっています。

 上場企業による自社株買いなどの株主還元が増える中で、利益配分が過度な株主偏重ではないかという批判があります。株式報酬制度の導入により、従業員が株主になることができれば、企業価値向上による株価上昇や株主還元の恩恵を従業員も受けることが可能となります。また、株主としての意識を持つことで、個人業績だけでなく、企業価値向上への貢献意欲が強まることで、企業全体の成長力を高めることにつながります。結果として、冒頭で述べたような日本企業への成長期待が醸成されていく可能性を秘めていると考えます

 現在、賃上げに関する有価証券報告書への記載義務が検討されているとの報道もあります。企業の持続的成長には、賃上げによる人材投資が必要との認識が株式市場で広がっていると感じます。ぜひ、一律の賃上げにとどまらず、企業の成長を促すようなインセンティブを持った賃上げが広がっていくことを期待しています

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆

当レポートは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

レポートのダウンロード(242.5 KB)